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■図1.1――拡張現実感の例 (©杉本 麻樹) a]実写画像 b]実写画像にCGで仮想的な物体を重ね合わせた例 1 拡張現実感(複合 現実感(MR))は,拡張現 実(複合現実)ともよぶ。 2 具体的には,写 真を撮る際のカメラの 位置や照明の具合と CGにおける仮想的な カメラの位置や照明と を一致させる。詳しくは 112で説明する。 1 -1- 1 ビジュアル情報処理 コンピュータグラフィックス CG コンピュータ仮想的形状などの環境(シーン設定そのシーンの画像生成技術である。一方, 画像処理カメラやスキャナなどの入力装置世界画像をコンピュータに,別画像変換したり,画像内 情報技術であるCG画像処理,以前目的にする2 つの分野として発展してき しかし,最近では両者技術的密接関係があるとえるように なってきているその1 つに拡張現実感 *1 (AR) があるたとえば図1.1 では,同図 a 実写画像CG作成した仮想的物体同図 b のようにわせ,物体があたかもそこに存在するかのようにせているこのわせを自然せるには,実写条件一致するようにしてCG画像生成させる *2 必要があるこのように,CG画像処理,両者 関連付けることで,理解用途げることができるそこででは,CG画像処理別々うのではなくともに視覚する報処理うことすなわちビジュアル情報処理として統合的うこ とにする1-1 ビジュアル情報処理と ディジタルカメラモデル ここでは,CGと画像処理を別々に扱うのではなく,視覚に関わるビジュアル情 報処理として,統合的に扱う意義を解説する。また,ディジタルカメラで撮影 し,その画像を加工する場合と対比させて,ビジュアル情報処理の原理とその 重要な要素について解説する。 1- 1 chapter 1 008

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Page 1: -1...図1.1――拡張現実感の例(©杉本 麻樹) [a]実写画像 [b]実写画像にCGで仮想的な物体を重ね合わせた例 *1 拡張現実感(複合 現実感(MR))は,拡張現

■図1.1――拡張現実感の例(©杉本 麻樹)

[a]実写画像 [b]実写画像にCGで仮想的な物体を重ね合わせた例

*1 拡張現実感(複合現実感(MR))は,拡張現実(複合現実)ともよぶ。

*2 具体的には,写真を撮る際のカメラの位置や照明の具合とCGにおける仮想的なカメラの位置や照明とを一致させる。詳しくは1–1–2で説明する。

1-1-1 ビジュアル情報処理

コンピュータグラフィックス(CG)は,コンピュータ内に仮想的な物体の形状や光などの環境(シーン)を設定し,そのシーンの画像を生成する技術である。一方,画像処理は,カメラやスキャナなどの入力装置で実世界の画像をコンピュータに取り込み,別の画像に変換したり,画像内の情報を取り出す技術である。CGと画像処理は,以前は目的を異にする2つの分野として発展してき

た。しかし,最近では両者は技術的に密接な関係があると考えるようになってきている。その例の1つに拡張現実感

*1

(AR)がある。たとえば図1.1では,同図[a]の実写画像にCGで作成した仮想的な物体を同図[b]のように重ね合わせ,物体があたかもそこに存在するかのように見せている。この重ね合わせを自然に見せるには,実写の条件に一致するようにしてCGで物体の画像を生成させる

*2

必要がある。このように,CGと画像処理は,両者を関連付けることで,理解を深め用途を広げることができる。そこで本書では,CGと画像処理を別々に扱うのではなく,ともに視覚に関する情報処理を行うこと,すなわちビジュアル情報処理として統合的に扱うことにする。

1-1ビジュアル情報処理とディジタルカメラモデルここでは,CGと画像処理を別々に扱うのではなく,視覚に関わるビジュアル情報処理として,統合的に扱う意義を解説する。また,ディジタルカメラで撮影し,その画像を加工する場合と対比させて,ビジュアル情報処理の原理とその重要な要素について解説する。

1-1

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te

r

1ビジュアル情報処理とディジタルカメラモデル

008

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P2

P1

P0

P4

P3

P5

■図2.16――Bスプライン曲線

*15たとえば,原点を中心とする半径1の球面上の点の座標値は,以下の式で表すことができる。

=

=

=

cos cossin cossin

x u vy u vz v

Z

[

\

]]

]

,u

v2 2

E E

E E

r r

r r

-

-

^

k

このとき,uは経度,vは緯度に相当する角度である。

*16このような曲面領域のことを曲面パッチとよぶ。

*13異なる曲線部分を接続する際の滑らかさの度合いには,いくつかのレベルがある。たとえば,端点が一致する(C 0連続),接線(1次微分)が連続(C 1連続),曲率(2次微分)が連続(C 2連続)などあり,高次微分が連続なほどより滑らかな接続となる。また,曲率は,曲線の曲がりの度合いを表す機能的な側面のみならず,曲線の意匠的な側面において重要な役割を演じることが知られている。

*14本章の傍注12で説明した「混合比」に,さらに別の「重み」を掛け合わせることになる。その結果,曲線は多項式では表現できず,多項式を多項式で割った有理式で表現することになる。

[2]Bスプライン曲線ベジエ曲線は,1つの制御点の位置を移動すると,その影響が移動した制御点から離れた部分も含め,曲線全体におよんでしまうという問題点がある。この問題を解決するため導入されたのが, Bスプライン曲線である。Bスプライン曲線は,多項式で表される複数のパラメトリック曲線部分を滑らかに接続

*13

したものと考えることができ,各制御点の曲線に及ぼす影響範囲が局所的になるという利点がある。図2.16に示すとおり,Bスプライン曲線はベジエ曲線と同じように凸包性をもち,曲線は必ず制御点が構成するポリゴンのなかに含まれる。たとえば,この図の場合,Bスプライン曲線は3つのパラメトリック曲線部分から構成され,それぞれの部分が , , ,P P P P0 1 2 3により構成される凸包, , , ,P P P P1 2 3 4により構成される凸包, , , ,P P P P2 3 4 5により構成される凸包にそれぞれ含まれることになる。さらに,Bスプライン曲線もまた制御ポリゴンの形に追随するため,ユーザは直感的な形状操作が行える。Bスプライン曲線は,制御点ごとに重みを割り当てることで

*14

, NURBS

曲線とよばれる曲線に拡張することができる。NURBS曲線は,円錐曲線を近似ではなく正確に表現できるため,ほとんどの3次元モデリングソフトウェアが,NURBS曲線をサポートしている。

2-3-4 パラメトリック曲面

曲面も曲線と同様に,代数曲面とパラメトリック曲面の両方が存在する。 パラメトリック曲面は,3次元空間内の曲面上の点の座標値x, y , zのそれぞれを,2つの独立したパラメータu , vの関数として表すものである

*15

。パラメトリック曲面についても,曲線と同様に制御点を用いた表現方法

があり,直感的な形状設計ができることから広く使われている。

[1]ベジエ曲面ここでは,最もよく用いられる双3次 ベジエ曲面について説明する。双3次ベジエ曲面は,# =4 4 16個の制御点 ,i jP 0 3 0 3ij E E E E^ hによって定義され,図2.17のように4つの曲線で囲まれた曲面領域

*16

となる。双3次ベジエ曲面は,3次ベジエ曲線と同様に,2-3-3で述べた①~④

に準じた性質をもつ。まず,曲面の端点は4隅の制御点に一致する。曲面は端点P00において三角形P P P00 01 10で定義される平面に接する。ほかの端点においても同様である。そして,曲面は制御点の形状を反映した,滑らかな形状となる。さらに,凸包性を保持している。

3-4

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2曲線・曲面

058

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透視投影 効果付加隠面消去ラスタ化 シェーディング

■図3.1――レンダリングを構成する処理過程*4

*3 投影面に基づいて隠面消去を行う方法では,隠面消去とラスタ化には強い関連性がある。ラスタ化については,1–5–5を参照のこと。

3-1-1 レンダリングを構成する処理

描画のための処理をレンダリングとよぶ。ディジタルカメラモデルにおいて写実的な表現

*1

を行うためのレンダリングの処理は,透視投影*2

,隠面消去,シェーディング,そしてテクスチャマッピングなど,効果を付加する処理から構成される。これらの処理過程を図3.1に示す。透視投影では,3次元空間で定義された形状モデルを投影面(2次元の

画像空間)に投影する。隠面消去では,手前にある面によって隠されて見えない面,あるいは面の一部の領域を消去する。ここで物体の各頂点をつないだ線分で表現されていた図形が,画素の集まりとしての表現に変換(ラスタ化)される

*3

。シェーディングでは,光の物理的な性質に基づいて表示対象物の輝度(画素のR,G,B値)を計算する。最後に,物体表面にさまざまな効果を付加するマッピング処理を必要に応じて行う。

3-1レンダリングの処理過程ここでは,モデリングを終えたあとのステップとして,3次元物体データを2次元の画像として描画するレンダリングの基本的な手法について解説する。

*4 図3.1はレンダリングの処理概念を示している。実際の処理の流れは,隠面消去法やシェーディングモデルなどによって変わってくる。

*1 写真で撮影したときのように現実を正確に表現することを意味する。

*2 透視投影については,1–3–4を参照のこと。

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3レンダリングの処理過程

074

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4-5-1 剛体の物理シミュレーション

制約のない剛体は,位置と姿勢(回転)の自由度をもつ。図4.34に示すように,位置に対する運動を並進運動(平行移動),姿勢に対する運動を回転運動とよび,互いに独立に記述できる。移動する剛体は,剛体に力が作用しない場合,速度は変化せず等速度運動を続ける。一方,一定の力が剛体に微小時間かかると,ニュートンの運動方程式に従う加速度が生じる。

剛体の並進運動は,1つ前の時間ステップにおける位置と速度から,つぎの時間ステップの位置と速度を求める離散的な数値計算

*49

を繰り返し行う。

■図4.34――剛体の運動

並進運動

回転運動

回転運動に関しては*50

,並進運動における剛体の位置に対応するものが剛体の角度(姿勢)となり,角速度および角加速度が力の作用により変化する。力の作用線が剛体の重心からずれた場合,トルクとよばれる回転力が生じる。また,回転において質量に対応するものが慣性モーメントである。並進運動では,同じ力が作用する場合,質量が重いほうが動きにくく,速度の変化は小さい。同様に,回転運動では,慣性モーメントが大きいほうが回りにくく,回転の変化は小さい。

剛体に作用する力は,風や重力などの外力以外に,別な剛体との衝突により受ける撃力がある。たとえば,はじかれたビリヤードの球は,別の球などに衝突することで,移動方向や速度が変化する。剛体の物理シミュレーションでは,運動方程式による並進・回転運動ばかりでなく,エネルギー保存則を考慮した衝突後の剛体の振る舞いも求める必要がある。

4-5物理ベースアニメーションモーションキャプチャやモーションデザインによる動きの定義よりも,物理法則に基づいて算出したほうが自然なアニメーションを生成できる場合がある。ここでは,剛体と弾性体に対する物理ベースアニメーションの基本手法を解説するとともに,物理ベースアニメーションに欠かせない衝突判定の手法について述べる。

5-1

*49たとえば,オイラー法やベルレ(Ver le t)積分法など。

*50紙面の都合上,回転運動についての詳細は省く。参考図書22などを参照のこと。

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4物理ベCスCCCCCCC

124

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領域に基づく濃淡変換(空間フィルタリング)

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入力画像 出力画像

[a]画素ごとの濃淡変換

入力画像 出力画像

[b]領域に基づく濃淡変換(空間フィルタリング)

■図5.24――画素ごとの濃淡変換と領域に基づく濃淡変換

5-3-1 空間フィルタリング

入力画像のある領域内の画素の値を用いて,出力画像の画素値を求めるような処理のことを空間フィルタリング,またそこで用いられるフィルタを空間フィルタとよぶ(図5.24[b])。さらに空間フィルタは,大別すると線形フィルタと非線形フィルタに分けることができる。一般に,線形フィルタによるフィルタリングは,以下の手順で計算され

る。フィルタの係数が,図5.25の左上に示すように与えられているとする。ここで,フィルタ中の青い四角は,これから求める画像中の画素位置に合わせるための位置(以後,これをフィルタの原点とよぶ)を表す。いま,出力画像の ,i j^ hの位置の画素値を求める場合を考える。まず,フィルタの原点を,入力画像の ,i j^ hの画素(赤い四角。以後,これを注目画素とよぶ)に合わせる。このとき,重なった位置どうしで,フィルタの係数と入力画素値を掛け算し,さらにその結果をすべて足し合わせる(積和演算)。すなわち,図の例ではつぎのようになる。

+ + + +

+ + + +

# # # # #

# # # #

- - - -

- - - - =

50 1 50 1 50 1 50 1 100 9100 1 120 1 120 1 120 1 240^ ^ ^ ^

^ ^ ^ ^

h h h h

h h h h ――――(5.5)

この値が出力画像の ,i j^ hの位置の画素値となる*10

。そして,同様の 処理を, ,i j^ hの位置を順番にずらしながら画像全体にわたって行う

*11

。さらに,カラー画像の場合には,R,G,B各色の画像に対し,同様の 処理を行う。一方,積和演算以外の処理をともなうフィルタのことを,

5-3領域に基づく濃淡変換(空間フィルタリング)

5-2で説明した変換は,入力画像のある1つの画素の値を用いて,出力画像の1つの画素値が求められるものであった(図5.24[a])。それに対し,ここでは,出力画像のある1つの画素の値を求めるために,図5.24[b]に示すように,入力画像のある領域内の画素値を用いる濃淡変換の処理について解説する。

3-1*10 場合によっては,結果の値が,画像が保持できる範囲(8ビット画像の場合0~255)を超えてしまうことがある。その場合は,範囲内に収まるように値を制限したり,何らかの正規化を行ったりする。

*11 フィルタリング処理を画像全体に行うのではなく,ペイント系ソフトウェアのブラシ処理のように,マウスの通過した位置にのみ適用する場合もある。なお,画像の外周部については,入力画像中で対応する近傍領域がはみ出すため,例外処理が必要である。

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■図6.17――領域分割(©Kondo Kunio, 2003)

[b]処理結果

[a]原画像

2-1

6-2-1 隣接画素の統合による領域分割処理

画像の領域分割とは,画素または小領域の特徴量に基づいて,画像を隣接画素の集合,すなわち領域に分割する処理である。代表的な領域分割手法

*9

として,領域統合法がある。以下にその処理手順と処理結果を示す。①  [ラベル付け

*10

]   ラスタスキャン

*11

によって画素を探索し,ラベルの付いていない画素があれば,それを注目画素とし,新しくラベルを付ける。

②  注目画素の4近傍(または8近傍)の画素を調べ,同じ画素値であれば注目画素と同じラベルを付ける。

③  新しくラベルを付けた画素を注目画素として②の処理を行う。

④  ②の操作で新しくラベルを付ける画素がなければ,①の処理に戻る。

⑤  すべての画素にラベルが付いたところで処理を終了する。ここまでの処理で,同じ画素値をもった隣接する画素の集合(領域)が求められる。続けて,ラベル付けされた画素を用いて以下の操作を行う。⑥  同じラベルをもつ画素(画素の集合(領域))の画素値の,平均値をすべて求める

*12

。⑦  [画素の集合(領域)の統合と,新たなラベル付け]   すべての未処理のラベルをもつ画素の集合(領域)および,統合されていない画素の集合(領域)に対して,隣接する画素の集合(領域)のなかで,上記平均値の差分が最小の画素の集合(領域)と統合し,新しいラベルを統合された領域のすべての画素に付ける。

⑧  すべての画素の集合(領域)を未処理のラベルとして,⑥~⑧の処理を繰り返す。この処理を繰り返すとやがて全体が1つの領域になるため,統合を許す条件として,平均値の差分の最小の値の上限を決めておく。処理を終了させたときの領域の状態が分割の結果となる。図6.17に処理例を示す。

6-2領域分割処理ここでは,画像を,類似した特徴をもつ隣接した画素の集合(領域)に分割する領域処理や,少しの教示情報から対象と背景に分割する処理について解説する。このような処理は,画像のセグメンテーションともよばれ,画像の領域ごとに意味付けをする前処理としてよく用いられる。

*9 分割される領域どうしの境界には,特徴の急峻な変化からエッジがしばしば現れる。領域分割処理に,このエッジ情報を積極的に用いるスネーク法がある。詳細は,『ディジタル画像処理』を参照のこと。

*10 画素に同じ番号(ラベル)を付けることで同じ集合(領域)であることを示す処理。

*11 ラスタスキャンについては,7-3-1を参照のこと。

*12 1回目は,画素値と平均値は同じとなる。

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領域分割処理

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パターン認識

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74-1

*18 この“識別”を,多変量解析では“判別”または“判別分析”という⽤語を⽤いる場合がある。多変量解析では,“判別分析”を未知サンプルがどのクラスに属するかを判定する方法の総称としていることが多い。

*19 図7.14中の破線の矢印は,画像処理で特徴抽出をせず,個々の画素値をそのまま特徴量として扱う場合の処理の流れを示している。

7-4-1 パターン認識の流れ

画像処理におけるパターン認識とは,観測された画像の特徴を用いて,あらかじめ定められたクラスにその画像を識別する処理である。パターンとは一般に模様を意味するが,ビジュアル情報処理では,同じ種類の画像が共通にもつ視覚的特徴をパターンと定義する。クラス

*16

とは,同じ画像が属する集合のことで,学習のためにはクラスをあらかじめ定める必要がある。たとえば,アルファベットを26のクラスに分け,印刷された文字が26のどのクラスに属するかを識別する処理が,よく知られている文字認識である。

一般に,パターン認識の処理の流れは,図7.14のようになる。はじめに学習過程では,クラスごとに分類された学習用の入力画像から特徴抽出を行い,そこからパターンを学習して,クラスごとの辞書

*17

を作成する。つぎに識別過程により,テスト画像(未知画像)から特徴抽出を行い,学習により作成したクラス辞書を用いて,テスト画像をクラスに分類する。クラス辞書を用いて分類する機械を識別器とよび,近年では,多くの学習用画像を収集し,機械学習を用いて識別器を作成することが多い。

7-4パターン認識パターン認識は,画像処理だけでなく,言葉を認識する音声処理などでも⽤いられる。ここでは,画像処理においてどのようにパターン認識処理を行うかについて解説する。

クラス辞書学習用

入力画像群

テスト画像(未知画像) クラス

パターン学習特徴抽出

クラス辞書

パターン識別特徴抽出

学習

識別

■図7.14――パターン認識のための学習と識別*18の処理の流れ

*19

7-4-2 画像からの特徴抽出

特徴抽出とは,入力画像からパターン認識に役立つ特徴量を取り出す

*16 カテゴリともよぶ。

*17 辞書とはクラスに属する画像の特徴を記録したもの。

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1-1

8-1-1 画像上の位置と空間の位置

1-3-4で説明したように,カメラによる透視投影は,図8.1に示すようにモデル化することができる。このとき,空間の位置 , ,X Y Z^ hと画像上の位置 ,x y^ hの間には,つぎの式で表される関係が成り立つ

*1

=

=

x f ZX

y f ZY

Z

[

\

]]

]] ――――(8.1)

ただし,fは投影中心Oと画像面との距離で,焦点距離とよばれるものである

*2

。ここで,見方を変えて,画像上の位置 ,x y^ hが与えられた(観測された)

とき,空間に関してどのような情報が得られるかについて考えてみる。 図8.2からわかるように,画像上の位置 ,x y^ hに対し,その点と投影中心Oを結ぶ直線が得られることがわかる。つまり,その画像の位置に像を結ぶような,空間中の光線(視線とよぶ)が求まり,式(8.1)はその方程式を与えることになる。これは,いい換えると,画像上の位置がわかったとしても,そこから空間の位置が一意に定まるわけではない,ということを意味している。

8-1画像と空間の幾何学的関係と3 次元復元カメラで画像を撮影するとき,3次元空間の情報が2次元の画像面に投影される。ここでは,その2次元の画像を基にして,逆に3次元の位置情報を復元する方法について説明する。

y

x

^x, yh

^X, Y, Zh

XYO

f

Z

y

xX

YO

Z

視線

?

?

^x, yh

■図8.1――透視投影

*1 ここでは,空間を表す3次元座標系に大文字のX , Y , Z,画像を表す2次元座標系に小文字のx , yを用いることにする。また,Z軸はカメラの光軸に一致し,X軸とx軸,Y軸とy軸は互いに平行であるとする。

*2 1–3–4では,焦点距離は1と仮定していた。焦点距離については,1-7-1も参照のこと。

■図8.2――画像位置から得られる空間の位置情報

198

画像と空間の幾何学的関係と3次元復元

像と空間の幾何学的関係と3次元復元

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■図9.1――イメージベーストレンダリングの例(W. Matusik, H. Pfister, A. Ngan, P. Beardsley, R.Ziegler and L. McMillan, Proceedings of ACM SIGGRAPH 2002 p.435 ©2002 ACM, Inc. Reprinted by permission.)

*1 人間の視覚情報にたとえれば,外界のシーンを取り込んで理解する「目」が画像処理,イラストなどを描いて他者に伝える「手」がCGであり,この両者をうまく連動させることで視覚的な判断やコミュニケーションを行っている。

9-1-1 CGにおける画像処理の利用効果

CGの技術であるモデリングやレンダリングは,画像処理技術を応用すると効率化できるだけでなく,生成される画像の写実性を高めることもできる。そのような,CGと画像処理を組み合わせた代表的な技法は,3-5-2で説明したテクスチャマッピングである。物体のモデルに貼り付ける模様(テクスチャ)には,実写画像に画像処理を施したものが使われることが多い。また,3-9-2で説明した絵画風画像やイラスト画像を生成するNPRでも,2次元画像を入力として操作を簡易にしている。さらに,3-6で説明したイメージベーストレンダリングも3次元物体の詳細な情報なしに,実写画像を処理することによって写実的な画像を高速に生成する技術である。図9.1では,左右の実写画像を補間することで,左右の画像を撮影した方向のちょうど中間の方向から見たときの画像(同図中央)を自動で生成している。このように,画像処理の技術はCGにおいてさまざまに利用されてお

り,両者の結びつきはますます重要になっている。

9-1CGと画像処理の融合本書の冒頭(1-1-1)ですでに説明したように,ビジュアル情報処理は,CGと画像処理にまたがる技術である。両者を組み合わせることで,単独で利用するよりもさらに高度な視覚情報処理の機能が実現される

*1

。ここでは,ビジュアル情報処理システムの詳細を説明する前に,これまで説明してきたCG技法のなかで実際に画像処理と組み合わせることで得られる効果を振り返るとともに,1-1-1で紹介した拡張現実感以外の高度なビジュアル情報処理の技術であるコンピュテーショナルフォトグラフィについて解説する。

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9CCCCCCCCCC

214

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アプリケーションソフトウェア

アプリケーションソフトウェア

アプリケーションソフトウェア

アプリケーション

ハードウェア

カーネルOS

ユ-ザインタフェース用API

ファイル管理用API

画像入力用API

デバイスドライバ

デバイスドライバ

デバイスドライバ

マウス

ハードディスク

キーボード

ネットワーク

インタフェース

汎用ディジタル

インタフェース

デバイスドライバ

デバイスドライバ

デバイスドライバ

グラフィックス

カード

グラフィックス用API(OpenGLなど)

■図9.10――ソフトウェアの構成とハードウェアとの関係

3-1

9-3-1 ソフトウェアの構成

コンピュータが動作するためには,動作の手順を記述したプログラム,いわゆるソフトウェア(ソフトともよぶ)が必要となる。特定の目的のためにつくられたソフトウェアはアプリケーションソフトウェアとよば

れる。アプリケーションソフトウェアが動作するための基本機能が実装されているのがオペレーティングシステム(OS)である。OSは,複数のアプリケーションソフトウェアを同時に実行させるための処理や,ハードディスクにデータを保存するといったハードウェアと密接に関連して動作する処理を担当している。通常,PCで使用されるOSには,Windows,macOS,Linuxなどがある。図9.10にソフトウェアの構成とハードウェアとの関係を示す。

9-3ビジュアル情報処理用ソフトウェアビジュアル情報処理システムのなかで,コンピュータ上で動くソフトウェアの役割は非常に大きい。ここでは,このようなソフトウェアの構成,とくに,ソフトウェア開発やCGコンテンツ制作に用いられるプログラム記述言語,ビジュアル情報処理アプリケーションやライブラリ,モデル記述言語・フォーマットについて解説する。

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9ビジュアル情報CC用ソフトウェア

224

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保護対象 権利名保護法 保護期間

著作権

産業財産権

その他

著作権

著作隣接権

特許権

育成者権

意匠権

商標権

- -

実用新案権

著作権法(詳細は表a.2

を参照)

特許法

意匠法

商標法

不正競争防止法

半導体集積回路の回路配置に関する法律

回路配置利用権

種苗法

実用新案法

著作物(小説,音楽,舞踊,絵画,建築,地図,映画,写真,プログラムなど)

発明(「物」,「方法」,「物の生産方法」の発明で高度なもの)

考案(物品の形状,構造または組み合わせにかかわる考案で高度性は不要)

営業秘密(ノウハウ,顧客データなど),著名な商品表示,形態など

実演,レコード,放送

意匠(物品のデザイン,画面デザイン)

商標(トレードマーク,サービスマーク)

設定登録日から20年

設定登録日から10年(10年ごとに更新可能)

品種登録日から25年(樹木など永年性植物は30年)

設定登録日から10年

出願日から20年

実演,発売,放送後50年

出願日から10年(無審査)

植物新品種

半導体集積回路

著作者の死後50年(法人は公表後50年,映画は公表後70年)

■表a.1――知的財産権の概要

2-1

a-2-1 知的財産権の概要

知的財産権とは,人間が知的な創造活動によって生み出した成果(知的財産)に対する権利の総称である。知的財産権制度は,成果を生み出した創作者に一定期間権利を与えて法的に保護することで,他人による成果の無断利用を防ぐとともに,創作者の経済的基盤を確保することによってさらなる成果の創造をうながし,もって産業や文化の発展をもたらすことを目的としている。知的財産権には,おもに著作権と産業財産権(特許権,実用新案権,意匠権,商標権)があり,保護対象とする成果により権利や保護法が異なる。概要は表a.1に示すとおりである。

a-2知的財産権と情報セキュリティ情報としてのディジタルコンテンツなど知的財産の重要性が高まっている。また,情報通信技術の発展にともない,情報システムへの不正侵入などハイテク犯罪が多発する傾向にあり,これらを未然に防ぐためには各自の責任ある行動が求められる。ここでは,ディジタルコンテンツ(知的財産)に関わる知的財産権のうち,おもに著作権と情報セキュリティについて解説する。

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知的財産権と情報セキュリティ

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