航空機用 デー タバスとその役割*1 - jst

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航 空機用 データバス とその役割(滝 沢 実) 31

― 特 集 ―

航 空 機 用 デ ー タ バ ス と そ の 役 割*1

滝 沢 実*2

Key words: Time-division multiplexed data bus; digital avionics

1. ま え が き

最近の航空機は,よ り安全に,快 適 に,か つ省燃料

費で飛行で きるように,自 動飛行制御装 置,パ イロッ

ト操作・ 表示装 置,情 報 収 集・処 理 装 置,監 視 ・記

著 者 紹 介

滝沢 実(正 会員)

昭和17年 生.東 京都 出身.昭 和

37年 航 空宇宙技術研 究 所 入所.昭

和49年 東京理科大学理学部物理学

科卒業.誘 導制御用慣性 センサ,航

空機用光デー タバス,レ ーザ ージャ

イロなどの研究に従事.航 空宇宙技術研究所計測部主

任研究官.精 機学会,計 測自動制御学会,レ ーザ学会

各会員.

録 ・警報装 置等のサブシステムを飛行管理 コン ピュー

タによって総合 的に管理 ・運用する飛行管理シ ステム

FMS (Flight Management System)を 搭載する傾 向

にある(第1図 参照)1).ま たL-1011の 改良型機で は

省燃料費性 を実現するた めにACT (Active Control

Technology)の 適用 による揚力分 布制御が行われ2),

B-767で はスポイラ制御系統にFBW (Fly-By-Wire)

技術が全面的に適用 され,機 体の操縦性 向上 と軽量化

が図 られている1).最 近の航空電子 システ ムは上述の

ように航空機の高性能化を実現す る上で主 役を果たす

存在にな りつつ あり,そ の高信頼性や容易な保守性 が

強 く要求 され,デ ィジタル電子技術の進歩とあいま っ

て,ア ナ ログ式 システ ム構成 か らデ ィジタル式 システ

ム構成へと移行 して いる3,4).航空機用 デ ー タ・バ ス

MUX (Time-Division Multiplexed Data Bus)は 高

信頼性デ ィジタル航空電子 シ ス テ ムを 構成 するため

に,各 サブシステム間のデー タ伝送装 置として導入 さ

れ るす う勢にある5).現 在,運 用 段階にあ るMUXと

して は,民 間航空機を対 象としたARINC-429 DITS

*1 昭和57年11月10日 ,第20回 飛行機 シンポ ジウムにて

講演.昭 和58年10月27日 原稿受理 Multiplexed

Data Bus for Aircraft and Its Role

*2 航 空宇 宙技術研究所 Minoru TAKIZAWA

(573)

32 日本航空宇宙学会誌 第32巻 第369号(1984年10月)

第1図 B-767飛 行管理 システムの構成

第1表 MUX研 究開発の経緯

(Mark 33 Digital Information Transfer System)

が あ り6),一 方 軍用 機 を 対 象 と した 米 軍 標 準 規 格MIL-

STD-1553 A/B (Aircraft Internal Time Division

Command/Response Multiplex Data Bus)が あ る7).

本 解 説 で は,MUX研 究開 発 の 経 緯,そ の 役 割 と有 益

性,二 つ の 代 表 的 なMUXの 概 要 お よびMUXの 航

空 機 への 適 用 例 と 将 来 動 向 につ い て 概 説 し た い.

2. MUX研 究 開 発 の経 緯 と そ の役 割

2.1 MUX研 究 開発 の経 緯 現 在 運用 段 階に あ る

代 表 的MUXの 研 究 開発 経 緯 の 概 要 を 第1表 に 示 す.

表 に示 され る よ う に,ARINC-429 DITS(以 下429

MUXと 略 す)は,1975年 に,ARINC (Aeronautical

Radio Inc.)が スポンサと な って い る航空電子委員

会AEEC (Airlines Electronic Engineering Com.

mittee)に より,デ ィジタル 航 空電子装置の国際標準

規格を策定す る作業の一 環として従来のARINC-419

DDSC (Digital Data System Compendium)の 近代化

を主眼に検討が開始 された.そ して約2年 後,AEEC

はデ ィジタル 自動飛行制御シ ス テ ムDAFCSの ため

のデータ伝送方式の検討結果 か ら得たDITS二 次案

をARINC-429と して制定 した.

一方,MIL-STD-1553 A/B MUX(以 下1553 MUX

と略す)の 研究開発は,1960年 代後半 か ら本 格的 に

開始されたFBW技 術やACT/CCV技 術 研究 開発

に対応 して,従 来のアナログ航空電子 装置に付随する

(574)

航空機用 データバスとその役割(滝 沢 実) 33

複雑な操作性,高 価格性等 の問題を克 服するた めに,

デ ィジタル航空電 子装置研究開 発の主要課題の一つと

して,米 空軍によ って開始 され た.時 分 割多重化デー

タバスMUXのF-15へ の 最初 の適用研究 やB-1

戦略爆撃機等へのMUX適 用 研 究 を通 して,MUX

開発上の諸問題が明 らかに された.米 空軍は上 述の研

究開発の成果 に 基 づ いてMIL-STD-1553 Aを 起案

し,米 海 ・陸軍に提示 した.MIL-STD-1553 Aは,

1975年4月30日,米 海 ・空 ・陸軍 の 三者協定 として

正式に制 定 され た.MIL-STD-1553 Aの 改訂版,

MIL-STD-1553 Bは1977年10月 にBoeing社 か ら

提案された改定案8)に 基づ い て,1978年9月21日 に

制定された.

これ らの開発 年代はDC-10 DGCS (Digital Guid-

ance and Control System)9)やB-767等 の 開発過

程に,ま た 米軍関 係 で はF-8 DFBW (Digital Fly-

By-Wire)やF-18 DFBW等 の 研究開発過程に対応

している.こ の ように,429 MUXお よび1553 MUX

は航空電子 システムのデ ィジタル化を 背景として開発

されたことがわか る.

2.2 MUXの 役割 と有益性 最近の高性能 航空機

がACT技 術の適用 やFMS等 の 飛行制御シ ステム

に依存する傾向にあることにつ いて す で に 述べた.

そのような飛行制御シ ステムは 航空機 の飛行性能範囲

(Aircraft Flight Envelope)の すべて,も し くは飛行

の安全性 に対して重大な影響を与え るものと考 えられ

る.そ れゆえ,飛 行制御 システムの中枢とな る航空電

子システムは高信頼性や容易な保守性,低 価格性等が

強く要求 され る.高 信頼性 飛行制御システムを達成す

る方法としてはシステ ムの多重化(冗 長化)や サブシ

ステムあるいは コンポー ネン トの 高信 頼性化が必要 と

考えられ る3).し か し,冗 長化飛行制御シ ステ ムを従

来のアナログ航空電子装置で構成 すると,そ の配線系

は非常に複雑にな るため,シ ステムの保守性,信 頼性

管理がむずかし くなる等の問題が生 じる.デ ィジタル

航空電子装 置は上記の ような問題を解 決するた めに出

現したもの と考 えられ,そ の有益性 を十分 に得 るため

には飛行制御システムを構成す る各サブシステム間の

インタフェースやデ ータ伝送装置(デ ータバス)の 標

準化を通して,シ ステムの集積化,統 合化が必要 とな

ると考え られ る.シ リアル ・デー タバ スMUXは デ

ィジタル飛行制御システムを集積化す るための重要 な

手段として登場 したものといえる.

MUXの 航空機への適用の有益性はすでに いくつか

の文献4,5)によって具体的に指摘 され て い る が,そ れ

らをまとめ ると第2表 に示 すことがで きる.MUX適

用による配線や コネクタ等の 削減は,そ れが 占める容

第2表 MUX適 用の有益性

積の低減と 重量の軽減に有効であ る.配 線の簡素化は

保守性の向上につ なが る.デ ィジタル式信号伝送は従

来の アナ ログ式に比べて,耐 雑音 ・耐電磁干渉性を向

上 させ る.ま たデ ィジタル信号処理に よる自己診断機

能(BIT: Built-In Test機 能)の 付加 は 自己の故障

判断や信号伝送の誤 り検出が容易 とな り,シ ステム冗

長 系管理機能と合 わせて 有故障作動機能(Fail Oper-

ative機 能)を 実現 し,シ ス テムの信頼性を 向上 させ

る.MUXの 方式 にも よ るが,後 述する1553 MUX

方式ではデータバ ス制御器のデータ伝送制御プログ ラ

ム(ソ フ トウェア)を 変更することに よって,シ ステ

ム形態を容易に変更で き,シ ステ ムの統合化,改 修,

拡張等が容易にで きる.こ のように,MUXの 航空機

への適用は,機 体重量の軽減,航 空電子 システムの高

信 頼性化,保 守性の向上等,高 信頼性飛行制御 ・管理

システムを実現す るために非常 に有益であることがわ

かる.

3. 代 表的なMUXに ついて

3.1 ARINC-429 DITS (429 MUX) 429 MUX

はB-767の 機内データ伝送装置 とし て本格的に適用

され るなど,実 用機に適用 され 始めてい る.研 究開発

の経緯で も述 べ た よ うに,こ の デ ー タバ ス規格は

AEECに よる民間航空機用デ ィ ジタ ル航空電子装置

の国際標準仕様策定作業の一環として制定 され たもの

である(ARINCシ リーズといわれ,た と え ば1979

年3月1日 に制定 され たARINC-704で は慣性基準

装置IRS: Inertial Reference Systemの 標 準仕様が

規定 されて いる)10).こ こでは429MUXの システム

構成,信 号形態,ワ ー ド形態 および伝送方式の特徴等

について述べる.

3.1.1 429 MUXの システム構成 第2図 は429

MUXの システム構成模式図を示す.429 MUXは,

図に示 され るよ うに,送 信装置,受 信装置および信号

伝送線によって基本的に構成 され る.送 信装 置は後述

す るようなワー ド形態(情 報 をパル ス変調した信号)

(575)

34 日本航空宇宙学会誌 第32巻 第369号(1984年10月)

第2図 ARINC-429 "DITS"の システム構成

第3図 ARINC-429の 信号形態

第4図 ARINC-429の 信号波形規格

を用 いてデ ータを送信す る.受 信装置は送信されて く

るワー ドを 復調,解 読し,受 信すべ きデータのみを受

信する機能が与え られて いる.信 号伝送線は耐電磁干

渉性 を得るために1本 のシール ド・ツイス ト・ペアワ

イヤが 使用 され る.そ のシール ドは信号伝送に係 るサ

ブシステムの筐体に接地 され る.

3.1.2 429 MUXの 信号形態 429 MUXで は,

"1", "0"の 信号を表わ す の に,第3図 に示すよう

なBi-Polar, Return to Zeroの 信号形態に符号化さ

れ る.信 号波形は第4図 に示 す よ うに 規定されてい

る.

3.1.3 429 MUXの ワー ド形態 429 MUXに よ

る情報(デ ータ)伝 送は第5図 に示す ような2種 類の

ワー ドを構成 するこ とに よって行 われ る,1ワ ー ドは

32ビ ッ トで作 られ る.そ の内容は,情 報の識別(たと

えば,DME距 離等の情報 であることを示す)を 与え

る"LABEL",受 信先を示す"SDI" (Source/Destina-

tion Identifier Field),情 報の数値 を示す"DATA",

情報 の符号(正/負)や 状態(南/北,東/西,左/

右,上/下 等)を 示す"SSM" (Sign/Status Matrix),

そして情報の誤 りを示 す"P" (Parity)で 構成 される.

"PAD"は"DATA"や"LABEL"等に 使用されな

い空白部分(通 常この部分の ビッ トは ゼロ)である.情

報は その特質によって10進 方式によるBCD (Binary

Coded Decimal Notation)お よ び分 数 方式 による

BNR (Fractional Binary Notation)ワ ー ドに符号化

され る.た とえば,第5図 に示 され るBNR形 態のワ

ー ドはLABELが366で ,北-南 方向対地速度を,ま

たBCD形 態のはLABELが201で,DME距 離を

表わ している.

3.1.4 429 MUXの 伝送方式 429 MUXの 伝送

方式は,第2図 に示 されるシステム形態において,送

信装置によって ワー ド化された情報が単数または複数

の受信装置に 向か って,並 列 に,か つ一方向に反復し

て送 られ,各 受信装置がそれ らの ワー ドを識別し,各

受信装置に必要 なワー ドだけをそれぞれが受信する仕

組にな っている.情報の伝送速度は,高 速100 kbits/sec

と低速12~14.5 kbits/secの2種 類 が あ る.高 速お

よび低 速の情報は同一の伝送線上を送ることができな

いため,そ れ らの伝送のためには別々の伝送線が用意

されなければな らない.

3.1.5 429 MUXの 特徴 上 記 した ように,429

MUXは 多 くの情報を時分割多重化(ワ ー ド化)し,

その情報を必要とするサブシステムに,並 列かつ一方

向に送 る,い わゆるPoint to Points伝 送方式のシリ

アルデータバ スである.そ れ ゆえ,伝 送速度が高速で

も100 kbits/secと 比較的遅 くても十分で あ るとされ

(576)

航空機用デ ータバス とその役割(滝 沢 実) 35

第5図 ARINC-429の ワー ド形態

第6図 MIL-STD-1553 A/B MUXの シス テ ム構 成

ている.429 MUXは シ ステ ム の 拡張や縮小 に対 し

て,サ ブシステムに送/受 信装置を備えた り,新 たに

送/受 信用伝送線を用意する必要があ るなど,伝 送 系

が多少複雑にな るものと思われ る.

3.2 MIL-STD-1553 A/B MUX (1553 MUR)

1553 MUXは コマン ド/レ スポ ン ス 方式の時分割多

重化データバ スのシステム構成,操 作則(protocol),

インタフェース等に関す るす べての要求を網羅し,デ

ータバスの設計基準をシ ステム設計者 に与え るもので

ある.こ こでは,1553 MUXの シ ス テ ム構成,信 号

形態,情 報のワー ド形態 および伝送方式等の概要につ

いて概説す る.

3.2.1 1553 MUXの シ ス テ ム構成 第6図 は

1553 MUXシ ステム構成の模式 図で ある.1553 MUX

は,デ ータバス制御器,信 号伝送線 および端末器 によ

っておもに構成 される.デ ータバ ス制御器は内蔵 した

ディジタルコン ピュータにあ らか じめ記憶 させたデ ー

タバス制御プ ログ ラムを 実行 させ ることに より,伝 送

線上の情報伝送を制御す る機能 が与えられている.端

第7図 MIL-STD-1553 AIBの 信号形態

末 器 は伝 送 線(バ ス)と サ ブシ ス テ ムを 結 合 す る ため

に必 要 な装 置で あ り,情 報 の送/受 信,変/復 調,伝

送 誤 り検 出 お よび入 出 力情 報 の 更 新等 の 機 能 が 与 え ら

れ て い る.端 末 器 はLRU (Line Replaceable Unit)

と し て最 大32台 の 配 置が 許 され る.伝 送 線 は耐 電 磁

干 渉 性 を 得 るた めに1本 の シー ル ド ・ツ イ ス ト ・ペ ア

ワ イ ヤが 使用 され る.伝 送線 と端 末器 との 結 合 は 変圧

器方 式 で行 われ る.デ ー タバ ス シ ステ ムの 冗 長 化 は設

計 者 の 選 択 に まか され て い る.

3.2.2 1553 MUXの 信 号 形 態 1553 MUXの 信

号 形態 は,第7図 に示 す よ うな マ ンチ ェ スタIIバ イ フ

ュ ズ(Manchester II, Bi-Phase)と 呼 ば れ る一 種 の

パ ル ス変 調 信 号 で あ る.信 号(DATA)は,第7図 に

示 され る よ うに,基 準 ク ロ ック信 号の 中 間 の 位 相が ハ

イレベ ル か ら ロ ー に 変化 した と き"1",ロ ー か らハ

イに 変 化 し た と き"0"と 定 め られ て い る.こ の 基準

ク ロ ッ クは1MHzで あ り,そ れ ゆ え1553 MUXの

伝 送 速 度 は1 Mbits/secで あ る.第8図 は1553 MUX

の 信 号 波 形 の 規 格を 示 す.

(577)

36 日本航空宇宙学会誌 第32巻 第369号(1984年10月)

第8図 MIL-STD-1553 A/B MUXの 信号波形規格

3.2.3 1553 MUXの ワー ド形態 1553 MUXで

は,第9図 に示す ような3種 類(コ マン ド,デ ータお

よび ステータス)の ワ ー ドが 使 用 される.1ワ ー ド

は20ビ ッ トで情報を符号化した もの で あ る.20ビ

ッ トの うち,先 頭の3ビ ッ トは同期信号の符号化に割

り当て られている.同 期信号はバ ス制御器 および端末

器が ワー ドの検出とその種 類を識別するた めのもので

ある.第9図 に示 され るように,コ マン ドワー ドとス

テータスワー ドの同期信 号は同 じ形であり,デ ータワ

ー ドのは その位相反転形 になっている.コ マン ドワー

ドはバ ス制御器によ ってのみ発信 されるもので,端 末

器 に対 して送/受 信を指令す るために用 いられ る.ス

テータスワー ドは端末器 によってのみ発信 され るもの

で,端 末器の動作状態をバ ス制御器に知 らせ るた めに

用 いられ る.

3.2.4 1553 MURの 伝送方式 と伝送 メ ッセ ー ジ

形 態 1553 MUXの 伝送方式 はバ ス制御器に よって

発信され るコマン ドワー ドに対 して,該 当する端末器

がそれ に応答す る方 式,す なわ ちコマン ド/レ スポン

ス方式で ある.伝 送形態は,第10図 に示すよ うに,

10種 類 の伝 送メ ッセージ(3種 類の ワー ドの組合せで

構成 される)に よ っ て10通 りの伝送形態が実現でき

る.た と え ば,第10図 に示 す最初の伝送形態につい

て説明すると次の ようになる.こ の伝送形態はバス制

御器か らデータをあ る端末器 に伝送す るもので,ま ず

バ ス制御器は ある端末器に受信コマ ン ドワ ー ドを送

り,そ の端末器を受信端末器 として指定し,同 時にデ

ー タワー ドを送信す る,受 信端末器 はデ ー タ ワー ド

をすべて受けとると規定 され た 応答時間以内(4~12

μsec以 内)に"受 信完了"の ステー タスワー ドをバ

ス制御器に送 る.こ れで1メ ッセ ー ジの 伝送が終了

す る.次 のコマン ドワー ドは規定の メッセー ジ間時間

(Intermessage Gap: 4μsec)の 後に発信される.

3.2.5 1553 MUXの 特徴 1553 MUXは コマン

ド/レ スポンス方式に よる双方 向伝送がで きるため,

伝送線を1本 用 意すれば よく,配 線を非常 に簡素化す

ることがで きる.ま た1553 MUXは システム形態の

変更に対 して,バ ス制御器に記憶させ るバ ス制御プロ

第9図 MIL-STD-1553 A/B MUXの ワ ー ド形 態

(578)

航空機用デ ータバス とその役割(滝 沢 実) 37

第10図 MIL-STD-1553 A/B MUXの 情報伝送 メッセージ形態

グラム(ソ フ トウェア)を 変 えることに よってその形

態に対応する信号伝送 形態を 容易に実現す ることがで

きる.さ らに,1553 MUXは,信 号の符号化にマン

チェスタII方式を用 いてい るので,正 パル スのみに よ

る変調が可能なた め,現 規格の電気 信号伝送方式を 仮

に光信号伝送方式 に変え ることは比較的容易 に行 うこ

とがで きるもの と考え られ る11~13).

第3表 は429 MUXと1553 MUXの 比 較 をま と

めて示す.

4. MUXの 航空機への適用例と動 向

4.1 ARINC-429 DITSの 適 用 例 と 動 向 429

MUXがB-767に 本格的に 適用された ことにつ いて

述べたが,第11図 はB-767の 慣性基準装置(IRS)系

への429 MUXの 適用例を示す1).IRSと 飛行管理 コ

ン ピュータ,あ るいは電子式姿勢方位指示器(EADI)

等の各サブシステム間は429 MUXに よ って結線さ

れている,429 MUX伝 送線の実際の配線は,各 サブ

システム間の送/受 信関係や サ ブ シ ス テ ム の冗長度

(多重度)お よび高/低 伝送速度な ど の 関係で多少複

(579)

38 日本航 空宇宙学会誌 第32巻 第369号(1984年10月)

第3表 429 MUXと1553 MUXの 比較

第11図 429 MUXのB-7671RS系 への適用

雑になって いる.し かし,B-767に 適 用 され た429

MUXは,機 内情報伝送系を簡素化し,飛 行制御 ・管

理 システムの信頼性,保 守性 等の 向上のために重要な

役割を果たしている.

第12図 は現在航空宇宙技術研究所 が 研 究開発を 進

めているフ ァンジェットSTOL実 験機の 自動飛行制

御システム(SCAS: Stability and Control Augmen-

tation System)の 情報伝送系 の一 部に429 MUXを

適用 した例を示 す16).図 に おいて模式的に示 され てい

る429 MUXの 伝送線の実際の配線 は 上 述のB-767

への適用例と同様に多少複雑に な って い る が,従 来

の配線方式に 比 べ て 格 段 に簡素化 さ れ てい る.429

MUXのSTOL実 験機への適用 は,配 線系の簡素 化

や重量 ・容積の 低 減 と 同 時 に,低 対気速度処理装置

(LASP: Low Air Speed Processor)*,慣 性基準装置

(IRS)お よび ヘッ ドアップデ ィスプ レ イ(HUD)が

ARINC-429の 規格に 基 づ く情報 を入力し,ま たは

出力するため,そ の特性を有効に活用す ることを主眼

としている.

429 MUXは 航空電 子装置のデ ィジタル化に対応し

て,そ の集積化 ・統合化の重要な手段として今後とも

航空機 への適用が促進 され るもの と思われ る.

4.2 MIL-STD-1553 A/B MUXの 適用例 と動向

第13図 は1553 MUXのF-16へ の 適用例を示す5).

F-16はDFBW技 術 を積極的に採用 している戦闘機

として注目されているもので,図 に示 されるように,

パイ ロッ トの操縦や火器操作を助けるヘッ ドアップデ

ィスプ レイ,火 器監制計算器あるいは慣性 航法装置等

のサブシステ ムが2重 の伝送線によって結線 され,航

空電子 システ ムが集積化 されている様子がわかる.

第14図 は現在米国で研究 され て い る高信頼性航空

電 子システムへの1553 MUXの 適用例 を 示す3).図

に示 され るように,航 空電子システムの高信頼性化を

図るた めに ほとんどのサブシステムは2重 化 されてお

り,そ れ に対応して1553 MUXも2重 系を構成して

いる.こ の ような航空電子システムは高信頼性飛行制

御システムの中枢をなす ものと考 えられ,1553 MUX

はその システム構成を実現す るために必要不可欠な手

段 となるものと思われ る.

1553 MUXは,配 線が非常に簡素化 で き る,冗 長

系化が容易,シ ステム形態変更が容易等の特徴を活か

し,今 後 とも戦 闘機等の小型高性能機への適用のみな

らず,高 度の電子技術を駆使 するような軍用機 あるい

は民間航空機への適用が促進 され るものと思われる.

また,1553 MUXは 航空機への適用の ほか に,船 舶

や 宇宙飛行体等 の自動制御システム用データ伝送装置

として適用 され るもの と思われ る.

5. あ と が き

時分 割 多 重 化 方 式 に よ る 航空機用デ ー タバス:

MUXの 研究開発は米国を中心に急速に進展 し,そ れ

は運用段階に至 って いる.本 解 説では,お もに文献調

査に基づいて,MUXの 研究開発の経緯,そ の役割と

有益性,代 表的なMUX (ARINC-429 DITSお よび

MIL-STD-1553 A/B)の 概要お よびそれ らの航空機

への適用例について述べ,今 後の動向について考察し

た,こ こで述べたMUXは 電 気信号伝送方式 に よる

ものであ ったが,最 近各国において急速に進 められて

* DADC(デ ィジタル ・エアデータ ・コンピ ュータ)と 同

様の機能 を有す る.

(580)

航空機用デ ータバス とその役割(滝 沢 実) 39第12図 低騒音STOL実験機自動飛行制御ブロック図

(581)

40 日本航空宇宙学会誌 第32巻 第369号 (1984年10月)

第13図 1553 MUXのF-16航 空電子 システムへの適用

第14図 1553 MUXの 適用によ る高信頼性航空電子 システム

いる光信号伝送方式 に よ るMUXは 耐電磁干渉性,

耐雷害性あ るいは電気絶縁性 に優れた特性を有す るも

の として注 目されて いる14).こ のよ うな光デー タバス

につ いては別稿15)において詳述 されるので,本 稿では

省 略させていただいた.

わが国においても,デ ィジタル航空電子技術確立の

主要課題の一 つとして,MUXの 研究開発(光 信号伝

送方式 も含め て)を 推進す る必 要が あろ う.

最後に,429 MUXのB-767へ の適用に 対 する調

査において有 益なご教示をいただいた全 日本空輸(株)

整備本部技術部の 浅野良穂氏に,ま た1553 MUXを

調査す る際に ご協力をいただいた 日本電気(株)電 波応

用 事 業 部 の 佐 々 木 隆 悦 氏,他 関 係 各 位 に 深 く感 謝 し ま

す.

参 考 文 献

1) Boeing Inc.: 767-200 General Description, July,

1981, pp.6-1~6-36, 4-1~4-12.

2) 舟 津 良 行(訳):こ れ か らの 航 空 技 術 の発 展 方 向,航 空

技 術,No.293 (1979), pp.27-32.

3) Arnold, J.I.: Future Trends in Highly Reliable

Systems, AGARD-AG-No.224, April (1977), pp.

4-1~4-14.

4) 遠 藤 怜:将 来 の 航空 電 子 技 術,航 空 技 術,No.296

(1979), pp.7-11.

5) Gangl, E.C.: Time-Division Multiplexed Data

Bus Integration Techniques, AGARD-AG-No.

224, April (1977), pp.16-1~16-9.

(582)

41

6) Mark 33 Digital Information Transfer System

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