ハラスメント(資料版) 130214
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ハラスメント 再発予防のための気づき
2013 年 2 月 14 日沖縄協同病院 心療内科・精神科小松知己
本日の内容
Ⅰ ハラスメントの基礎知識 パワハラ・セクハラとは何か? その定義・本質 ハラスメントになる時 ならない時 判断基準Ⅱ 管理者・使用者の責任 職場環境配慮義務 (ハラスメント一般) 事業主のセクハラ対策義務 (措置義務)Ⅲ 対策の実際 セクハラを中心に
参考文献『パワーハラスメント なぜ起こる? どう防ぐ?』 金子 雅臣・岩波書店 (岩波ブックレット No.769) ・’ 09 年刊 (以下 パワハラ)『新版 パワハラなんでも相談』 金子 雅臣 & 加城 千波・日本評論社・’ 12 年刊『疑問スッキリ! セクハラ相談の基本と実際 改訂版』 周藤 由美子・新水社・’ 07 年刊 (以下 相談)『弁護士が教える セクハラ対策ルールブック』 山田 秀雄 & 菅谷 貴子・日本経済新聞出版社・’ 08 年刊 (以下 ルール)
パワハラの定義
「職場において、
地位や人間関係で弱い立場の相手に対して、
繰り返し精神的又は身体的苦痛を与えることにより、
結果として働く人たちの権利を侵害し、
職場環境を悪化させる行為」
(金子雅臣:職場のハラスメント研究所による 『パワハラ』 より引用)
セクハラの定義「職場において行なわれる
性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、
→ 対価型 ex :上司が部下に対して性的関係を求めたが、応じ なかったために降格する 等
又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」
→ 環境型 ex: 従業員の肩・腰にたびたび触れる スクリーンセーバーに女性のヌード写真を使う 等 (男女雇用機会均等法による 『相談』より引用)
セクハラの定義
•職場(業務を遂行する場所)で
•相手が不快に感じる• 性的な言動
(相談 14p )
パワハラの本質
・相手のキャラクターが KY であっても
そこにパワハラが起こるのは、 パワーが働くからである。
・たとえ相手が KY であっても、上司であったり、立場の強い人で あれば、その人に対してパワハラは起きない。 KY な上司がいたとしても、(略)せいぜい陰口をたたかれるか 嘲笑の対象になるに過ぎない。(略)
・相手が弱い立場であるからこそ、 その人に向けてパワハラは起きるのである。 (パワハラ 44p )
パワハラになる時 ならない時•肝心なのはコミュニケーション それに基づく関係性• 労働相談や裁判に現れるパワハラタイプの特徴 ①プレーヤーとしては優秀 ②自分の実績への自負がある ③しかし、プライドが高く、 周囲のアドバイスを受け入れない ( パワハラ 41p )• 相手を認め、相手に認められ、理解されるコミュニケーションを大切にしていれば、熱血指導に躊躇はいらない。 (パワハラ 42p )
セクハラになる時 ならない時①された側がどう感じるかで セクハラかどうか決まります②必ずしも嫌だと言えない場合もあります③時間外やキャンパス以外でも セクハラになり得ます④正社員だけでなく、 非正規、パート、男性も対象です。⑤強姦や強制わいせつもセクハラです。 (相談 16-18p)
セクハラの判断基準①’ 「自分の親しい関係者(妻や恋人、娘など)が その行為をされたら、自分がどう考えるか」 をイメージする (ルール 58p )① 「社長や学長の妻や娘に対して同じことができるか どうか」をイメージする (相談 26p )② 自分がしようとする行為が写真に撮られて、 社内報に掲載されたとき、その状況を堂々と説明 できるか否かで判断する (ルール 59p ) ←”密室”に光を入れる思考実験 (シミュレーション ) をしてみる
セクハラに対するよくある疑問Q1 : 今まで当たり前のように話していたことが セクハラだと言われてしまったら、 何を話していいのか分からないし、女性とは話せないと思ってしまう。
A1 : 職場でコミュニケーションをはかるのに、プライベートな話や性的 な話題を持ち出さなければ、打ち解けることはできないのでしょうか?
一切プライベートなことには触れずに、スポーツや趣味の話などで盛り 上がって和気あいあいと仕事をしている実例もあります。 一度、先入観を捨てて、 職場での話題の可能性を見直してみたらどうでしょうか? ( 相談 26-27p)•
セクハラに対するよくある疑問(続)
Q2 : お酒の席で起こったことは、ある程度目をつぶるしかないので は? やった方も酔っぱらっていて、覚えていないと言っている。 いつもそういう人だから、今さらどうしようもない。
A2 : 「酔っぱらって覚えていない」と言いながら、よく聞いてみると、 都合の悪いところだけ忘れているなど、 つじつまが合わないこともしばしばあります。 (略)もし、飲むと必ずそうなるのなら、お酒の上での問題行動 として、 医師などに相談するべきでしょう。 ( 相談 27-28p )
セクハラ加害者のプロフィール
対価型セクハラの場合 ①自分の権力・地位を認識・利用している ②計画的である ③常習性がある (相談 41p )環境型セクハラの場合 ①女性に対する差別意識 ②女性を排除する手段としてのセクハラ ③加害者のコンプレックスや自尊心の低さ (相談 43p)
セクハラ直後の被害者の対応*身体的接触に対して 相手をひっぱたいたりどなったりした 7.6% 何もできなかった 28.0% はっきりイヤだと言った 26.8% イヤだということをそれとなく分からせようとした 26.1%*性関係の強要に対して 相手をどなったりひっぱたいたりした 11.1% はっきりとイヤだと言った 66.7% やめないと他の人に話すと言った 5.6% イヤだということをそれとなく分からせようとした 5.6% (『セクハラ神話はもういらない』 教育史料出版会 2000年刊 より)• No ! とはっきり意志表示することが なかなかできない・・・
セクハラ被害者はなぜ動けないのか?
「まさか自分にこんなことが起こるとは」 「これは現実ではない。なかったことにしよう」 (否認) 「まるで、被害を受けているのは自分ではないよう に感じる」 (解離) という心理状態になるから (相談 29-30p )
セクハラのよくある対応と二次被害①たいしたことないのではないか
「強姦されたのなら大変なことだけれど、そこまでの被害
では ないのなら、不幸中の幸いではないか」などと、実
際に性行為があったかどうかで被害の深刻さを判断して
しまうことがあります。
たとえ直接身体に攻撃が加えられなかったとしても、被
害者の受ける打撃が深刻な場合も多いのです。
( 相談 52p)
セクハラのよくある対応と二次被害②興味本位の関心
誰が被害者なのか、どんなことをされたのかなど、
ゴシップ的な噂が流されてしまうことは、被害者にとっ
て大きな打撃です。
加害行為そのものではなく、周囲の噂によって、職場に
いづらくなった被害者が結局は仕事を辞めざるを得ない
こともあるのです。
(相談 52p )
セクハラのよくある対応と二次被害③加害者への同情 職場で、加害者の方が地位も上だったり、人望が厚かっ たりすることも多く「加害者はそんな人ではない。誤解されているのではない か」などと加害者に同情的な反応をされることもしば しばあります。 加害者は周囲の人間に見せている顔とは全く別の顔を、 被害者にだけ見せていることを忘れてはなりません。 ( 相談 52-53p)
セクハラのよくある対応と二次被害④被害者の行動を責める セクハラにあった時に被害者がどのような気持ちになり、 どのような行動をとるのか、一般的にはまだまだよく知ら れていません。 そのため「なぜきっぱり断らなかったのか」「なぜ逃げな かったのか」など被害者を責める言葉を投げかけてしまい ます。その言葉は被害者を追い詰め、苦しめます。 (相談 52-53p)
セクハラのよくある対応と二次被害⑤解決を急ぐ 周囲の人々がセクハラを告発することを被害者に期待し、 決断できない被害者にプレッシャーをかけてしまうこと もあります。 また、当初は被害者に同情的だった周囲の人々も、時間 が経つにつれて「いつまでも過去にこだわるな」と被害 者に早く立ち直るように求めることもあります。 被害者は理解してもらえない周囲の人々に不信感を抱い たり、なかなか立ち直れない自分自身を責めてしまいま す。 (相談 53p )
管理者・使用者の責任
職場環境配慮義務 雇用契約によって、企業は労働者が最大限に能力を発揮できる働き
やすい職場環境を用意し、労働者はそこで最大限の能力を発揮して
働く義務がある。パワハラやセクハラは、こうした雇用契約を明らか
に阻害するもの。 (パワハラ 53p )
「歩くパワハラ」と陰口をたたかれる人がいても、本人たちが全く無
自覚であることが多い。
本人達の自覚のなさを支えているのは、誰もそれを指摘せず、言い換
ればそれを受容している職場環境があるから。 (要旨)
(パワハラ 54p )
管理者・使用者の責任職場環境配慮義務①良好な職場環境の下で労務に従事できるように施設を整備 すべき義務②労務の提供に関して良好な職場環境の維持確保に配慮 すべき義務③職場環境を侵害する事件が発生した場合、 誠実かつ適切な事後措置をとり、 その事案にかかる事実関係を迅速かつ正確に調査すること 及び事案に誠実かつ適正に対処する義務 (仙台セクハラ事件 仙台地裁判決 '01.3.26. パワハラ 60p )
管理者・使用者の責任管理者・経営者はセクハラ防止のために何をするべきか
2007 年の均等法改正で変った点①男性に対するセクハラも対象とした②事業者のセクハラ対策を配慮義務から措置義務とした③事業主と労働者間の紛争について 調停などの紛争解決援助の対象に追加した④是正指導に応じない場合には企業名を公表する⑤追加徴収に応じない、または虚偽の報告をした場合に おける過料規定の創設をした (ルール 26p )
管理者・使用者の責任義務となった措置の概要 (セクハラ指針によって規定)
①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
②相談(苦情含む)に応じ、適切に対応するために
必要な体制の整備
③事後の迅速かつ適切な対応
④併せて講ずべき措置
相談者・行為者などのプライバシー保持
相談したこと・事実関係の確認に協力したこと等を理由とし
て不利益な取り扱いを行なってはならない旨を定め、周知す
ること (ルール 26-27p )
対策の実際 セクハラ加害者にならないための 7 つのポイント
①上司は部下に性的誘いかけをしない。恋愛感情を 抱いても行動に移さないこと。②性的話題、性的ジョークはメンバーと状況を的確に 熟慮した上で行なうこと。 ←性的話題が職場の雰囲気を和らげると考えるのは すでに幻想③部下との交流を深めるためにスキンシップは × ←ノミニケーションの発想も要注意④食事やデートの誘いは、断られたら潔く引き下がる こと。 (ルール 60p )
対策の実際 セクハラ加害者にならないための 7 つのポイント
⑤ 職場の歓送迎会、昇進祝いなどのお酒のからむイベントは、
私的な色合があっても業務に関連した公の行事と考えること。
セクハラが発生しやすいのは、こうしたお祝いの席やアルコー
ルがからむ、仕事とプライベートの区別がつきにくい行事。
⑥ 社内でよくある行為、たとえばデュエットの際の身体接触につ
いて自分の行動に不安があったら、前述の基準で考え、そ
れでもその行為を望むなら、相手の明確な同意を求めること。
⑦(法的判断でセクハラか否かは別として)不幸にしてセクハラ
をしたと考えたときは「迅速」かつ「誠実」に謝罪をすること。
(ルール 61p )
対策の実際セクハラ加害者への対応
Step1 :加害者に対応する人と被害者に対応する人は 役割分担しましょうStep2 :加害者にも弁明の余地を与える必要がありますStep3 :被害者に接触しないようにさせなければ なりませんStep4 :加害者にもセクハラについて正しい理解を してもらうよう伝えていく必要がありますStep5 :加害者には具体的な指示が必要です (相談 84-85p )
対策の実際事実認定後の対応
Step1 :加害者への処分Step2 :加害者と被害者を引き離す (加害者を異動させるのが原則)Step3 :被害者の救済Step4 :公表をどうするかは被害者の意向を尊重してStep5 :職場への研修Step6 :再発防止 ( 相談 91-92p )
まとめ①ハラスメント(セクハラ・パワハラ)は パワー(権力関係)に基づく人権侵害である
②管理者・使用者は以下のような法的義務を持つ 職場環境配慮義務 セクハラ防止指針に規定された義務措置 ③加害者にならない・加害者を出さないためには 相手を認め、相手に認められ、 理解されるコミュニケーション ハラスメントを許さない環境づくり が重要