店舗間のクーポンプロモーション戦略 201307

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1 抄録 店舗間のクーポン・プロモーション戦略に関する一考察 概要: アナリティックスとマーケティング施策の展開とを結びつけたものを考察しものである. 本研究ではセールス・プロモーションの手法のうち,クーポン・プロモーションに着目し, 店舗内購買行動の把握をするとともに,動線パターンの抽出を行う.動線パターンの分析は 佐藤(2010)の既存研究を参考にまとめた.また年齢や性別などの顧客属性の傾向も把握す ることもデータ活用に向けて重視した.さらに,クーポンの対象商品が 1 品の時, 2 品の時, 3 品の時による動線の変化に着目し,次回以降のクーポン対象商品の候補を検討するもので ある.レコメンデーションに近いものでもある.動線長の延長が客単価向上につながるとい った従来の発想からクーポン・プロモーションを起点にしたインタラクティブな発想に切り 替えることで客単価向上を狙ったものである. 2011 46 月:研究助成申請(日本プロモーション・マーケティング学会) 2013 7 月追記 三(@otanet

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1

抄録

店舗間のクーポン・プロモーション戦略に関する一考察

概要:

アナリティックスとマーケティング施策の展開とを結びつけたものを考察しものである.

本研究ではセールス・プロモーションの手法のうち,クーポン・プロモーションに着目し,

店舗内購買行動の把握をするとともに,動線パターンの抽出を行う.動線パターンの分析は

佐藤(2010)の既存研究を参考にまとめた.また年齢や性別などの顧客属性の傾向も把握す

ることもデータ活用に向けて重視した.さらに,クーポンの対象商品が 1 品の時,2品の時,

3品の時による動線の変化に着目し,次回以降のクーポン対象商品の候補を検討するもので

ある.レコメンデーションに近いものでもある.動線長の延長が客単価向上につながるとい

った従来の発想からクーポン・プロモーションを起点にしたインタラクティブな発想に切り

替えることで客単価向上を狙ったものである.

2011年 4-6 月:研究助成申請(日本プロモーション・マーケティング学会)

2013年 7月追記

太 田 博 三(@otanet)

2

最近,クーポンを活用したビジネスが大きな成長を遂げており注目を集めている.”GROUPON”のネッ

トでのクーポン券の共同購入や”Hot pepper”など広告型折り込みフリーペーパーなどである.しかし課題

も見え隠れしている.大幅な価格引き下げによる影響や割引に見合うかなどである.また小売業のクー

ポンの課題はこれまでの Frequent Shoppers Program(FSP)など顧客購買履歴とクーポンの発行とをいかに

結びつけるかである.一般的に日本では新聞のクーポン券付き新聞折り込み広告チラシの償還率は 2%か

3%であると言われている.つまり 1996年に米国でクーポン廃止の試みがあった.またユニバーサル・ク

ーポンの発行や有効期限の短縮化など一連の動きは,クーポンへの支出を抑えターゲットの絞り込みに

よる効率化を図ったものであると言われている.同様に日本でも,顧客にとって興味のないクーポン券

が多いと感じる時があるのは少数派ではないと思われる.ここで既存のクーポンの発行の土台となる FSP

によるセグメンテーションから一度、離れた新たな土台での顧客別のクーポン・プロモーション戦略を

検討してみる必要がある.

次世代クーポンは従来の新聞の折り込みに挟まっているクーポンとは大きく異なるものである.その

要因として,次の 3つの要因が寄与していると考えられる.1つは消費者相互間の購買後の意見(口コミ)

によって購買の意思決定がなされていること.2つはクーポンの共同購入により半額になるなど大幅な値

下げが可能となり新規顧客も手の度どかない商品まで購入することができること.3 つ目は mixi, twitter

そして facebookに至るまでの SNS(Social Network Service)が店舗などの販売者と消費者との距離を身近な

ものとし,One To Oneのサービスが提供されていることがあげられる.スマートフォンの需要も大きく

見込まれており、iPadなどのタブレット端末の新製品も差別化を図る製品が市場を凌駕すると思われる.

スマートフォンもタブレット端末も SNSを後押しするものと思われる.

そこで本稿ではこれまでのクーポン・プロモーション戦略の問題点を見出し,今後の SNS を用いた戦

略やスマートフォンやタブレット型の端末の普及により,どのような戦略が選べるかを検討する.論文

の構成は大きく基礎編と応用編から構成されている.

基礎編では,理論的な考察を主に取り上げる.主に日米のクーポン券やクーポン機能などを取り上げ

る.クーポンは米国に端を発するものであるから,まず,これまでのクーポンの歴史を顧みることにす

る.消費者の生活の一部となりえたのかを見出すことができる.次に,日本でのクーポンの事情を概観

する.「ミスリデンプション」などクーポンの専門用語も取り上げる.

応用編では,具体的な事例から演繹的に成功要因を考察する.次の 4 つの事例からクーポン・プロモ

ーション戦略を考察する.1つ目はカタリナ・マーケティングのレジクーポンの事例テスコやドンキホー

テなどを身近な事例として参考にする.2つ目はマクドナルドの携帯クーポンの事例を民間の調査データ

を用いて考察する.ここでは iPad や Xperia などを使用している消費者に限定されており,20 代から 30

代が大半を占めているのではないかと思われる.課題として高齢者をいかに取り込むかなどを考察する.

3つ目はフラッシュ・マーケティングの事例である.4つ目は 2015年に向けた IDビジネスと One To One

マーケティングの展望を述べる.

最後に総括として店舗間のクーポン・プロモーション戦略の展望とする.

3

目次

Ⅰ 基礎編

1.1 初期のクーポン史とセールス・プロモーション

1.1.1 クーポンの初期

1.1.2 クーポンと他のセールス・プロモーション・ツール

1.1.3 クーポンとスイープステークス

1.2 クーポンの流通

1.2.1 クーポンの流通プロセス

1.3 ミスリデンプション

1.3.1 ミスリデンプションの定義

1.3.2 ミスリデンプションの種類と近況

1.4 日本のクーポン事情

1.4.1 日本におけるクーポン・プロモーションの可能性

1.4.2 クーポンの日本における定着条件

1.4.3 メーカーにとってのメリット

1.4.4 小売業のクーポン

1.4.5 クーポン券付き新聞折込広告の業種別出稿状況

Ⅱ 応用編

1.1 レジクーポンの事例

1.2 マクドナルドの携帯クーポンの事例

1.2.1 2つの価格差別化と需要の価格弾力性

1.2.2 マクドナルドのケータイクーポンの戦略

1.2.3 マクドナルドのケータイクーポンの種類と情報収集

1.2.4 Tポイントカードによる顧客情報の共有の事例

1.2.5 ケータイクーポンの課題

1.3 グルーポンなどフラッシュ・マーケティングの事例

1.3.1 フラッシュ・マーケティング

1.4 2015年に向けた IDビジネスと One To Oneマーケティングの展望

総括

参考文献

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Ⅰ 基礎編

日米のクーポン事情を考察する.クーポンは米国に端を発するものであるから,まず,これまでのク

ーポンの歴史を顧みることにする.米国ではクーポンと日常生活との結びつきが強く,クーポンの歴史

を紐解くことは意義があると言える.前半ではクーポンの米国事情について,後半では日本のクーポン

活用の実態について考察する. 1.1 節では初期のクーポン史とセールス・プロモーションについて,1.2

節ではクーポンの流通について,1.3 節ではミスリデンプションについて,1.4 節では日本のクーポン事

情について考察する.

1.1 初期のクーポン史とセールス・プロモーション

1.1.1 クーポンの初期

最初のクーポンはミシガン州のバトルクリークの有名なシリアルメーカーである C. W .Post社(ゼ

ネラル・フーズの前身)が発行した.1895年に社長のポスト氏が新製品である「グレープ・ナッツ」

を市場に導入する際,グローサリー・ストアで値引券として 1 セントのクーポンを消費者に提供し

たのがクーポンの始まりである.1920-30年代のクーポンはときどき新聞媒体や雑誌媒体に掲載され,

マーケティングがメーカーの様々な活動の中でも主要な役割を果たすようになった.GMのリーダー

でアルフレッド・スローンのようなマーケティング・オリエンティドの経営者も出現し始めた頃で

ある.セールス・プロモーションも脚光をこの頃,脚光を浴び始めた先進的な企業では,プリント

媒体を利用したセールス・プロモーションを展開した.その中の 1つの手法がクーポニングである.

そして 1950年代,1960年代初期(初期のクーポン期)に市場に多くの新製品が導入され,トライア

ル促進のためクーポンが利用され,効果をあげた.プロクターアンドギャンブルやゼネラフーズ,

コルゲートやスコット・ペーパー,そして A. C. ニールセンなどがクーポニングに積極的に参加して

いる.また 1950 年代はコンテストやプレミアムが流行し TVも全盛期となり,広告代理店は「ライ

フ」や「ルック」の雑誌に見開きの広告に注力した.同様にクーポン広告が利用され始めたのであ

る.

1.1.2 クーポンと他のセールス・プロモーション・ツール

クーポンとサンプリングはマーケティング・ツールの中ではトライアル促進の目的の点で似通っ

ている.ポップコーンやミニッツ・メイドなどがサンプリングの例である.また,セールス・プロ

モーションの中でクーポンが注目されてきたのは最近のことだとすると,プレミアム・プロモーシ

ョンは過去 10 年間増減を繰り返して,ようやく 1980 年代になって定着した.消費者のレスポンス

を高める手段として自社の商品と関連させて利用されている.

1.1.3 クーポンとスイープステークス

1950 年代はトレーディング・スタンプ(トレイド・スタンプやグリーン・スタンプなど)が人気

を博したのに対し,1960 年代はスイープステークス(懸賞)やゲームのプロモーションが著しく増

加した.その後,規制等の影響もあり減少した.それにとつて変わったのが,価格プロモーション

としてのクーポンであった.1982年と 1983年に「オートマチック・エントリー・スイープス」とい

うプロモーションがあり,スイープステークス(懸賞)にエントリーするためのクーポンを利用す

5

るものである.消費者は新聞や雑誌から配布されるクーポンを受け取り,スイープステークスに参

加するために住所,氏名を記入する.クーポンが回収・処理されメーカーに戻る.有効期限が過ぎ

た後,回収されたクーポンの中から当選者を選ぶものである.

1.2 クーポンの流通

1.2.1 クーポンの流通プロセス

図 1.2.1は,メーカーが発行したクーポンが小売店で償還され,メーカーが承認したクリアリング・

ハウスを通じて回収されたクーポンの流通を表している.

1.2.2 クーポンの基本的な流通

メーカーがクーポン発行を決める.この時,クーポン発行は 4カ月から 6カ月前に計画される.

クーポンの効果はクーポンの有効期限終了後,3カ月後でないとわからないとされている.まず,ク

ーポンがプリント・メディア,パッケージ,ハンド・アウト等の手段で消費者に配布される.消費

者はクーポンを小売店に持って行きクーポン対象商品を購入し,チェックアウト・カウンターに渡

す(クーポンの償還).小売店はクーポンを回収し店ごとあるいは地域ごとに仕分けする.一定期間

(通常1週間)ごとにチェーン本部やディビジョンの本部,クリアリング・ハウスに送る.クリア

リング・ハウスはクーポンを仕分けし報告書を作成し(クーポンの枚数やクーポンの出所等が記入

され),クーポンをメーカーのリデンプション・センターに送る.そして小売店に手数料を請求する.

1.3 ミスリデンプション

1.3.1 ミスリデンプションの定義

ミスリデンプションとは「クーポン対象商品を購入しない人,あるいは消費者との通常の取引以

外の方法でクーポンを回収する小売業によって回収されるクーポンのこと」と PMAA(The Promotion

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Marketing Association of America)は定義している.クーポンのミスリデンプションは回収されるクー

ポン全体の 10-25%と推計されている.クーポンの回収には消費者,小売業,クリアリングハウス,

メーカーの 4 者がかかわっている.それぞれミスリデンプションの可能性は考えられるが,特に消

費者や小売業の段階で発生されやすいと言われている.

1.3.2 ミスリデンプションの種類と近況

大きく消費者のミスリデンプションと組織的ミスリデンプションとの 2 通りにわかれる.さらに

意図しないと意図的なものにそれぞれ分かれる.まず,消費者の意図しないミスリデンプションと

は,消費者がクーポンをまちがえて回収するケースである.例えばクーポン対象商品と購入商品と

んぽサイズ違いやスタイルの違いなどである.このケースはクーポン対象商品が店頭で品切れをお

こしていると発生しやすいと考えられる.また期限切れのクーポンが回収されるケースもある.ク

ーポンの有効期限は消費者も小売業も見過ごしがちである.この種のミスリデンプションの責任は

クーポンを受け取る小売業にある.小売業はキャッシャーを教育するなど適切な管理を行えば最小

限にすることができる.また消費者がクーポンを利用して購入しようと思っていた商品が店頭にな

い時に発生する.メーカーと小売業は協力してクーポンの期間中は店頭に適切な在庫があるように

管理することが必要である.次に,消費者の意図的なミスリデンプションとは,消費者が買い物金

額を減らすために,意図的に対象商品を購入しないでクーポンを利用するケースである.この種の

ミスリデンプションは一般的に,クーポンをチェックせず,すべて受け入れてしまう店舗で発生し

やすい.一方,組織的ミスリデンプションには小売業のミスリデンプションと小売業以外のミスリ

デンプションとがある.通常,小売業が自分の店で購入されていない商品のクーポンをクリアリン

グ・ハウスに送り,クーポンの額面金額を受け取ろうとする.規模の大きいミスリデンプションに

なると,印刷業者や新聞販売店または古紙収集業者と小売業が組んでクーポンを偽造するケースが

ある.また存在しない小売店から回収されたクーポンの請求もある.ここで,クリアリング・ハウ

スはメーカーが承認した小売業のリストを持っており存在しない小売店について発見できる.また,

小売業以外のミスリデンプションでは,ミスリデンプションはクリアリング・ハウスでも発生する.

通常,クリアリング・ハウスは数百のメーカーのクーポンを取り扱っている.心ないクリアリング・

ハウスが自社の手数料を増加させようとして,偽造のクーポンを受け取る場合がある.多くのリデ

ンプションセンターは承認されたクリアリング・ハウスや回収されるクーポン対象商品のリストを

持ち合わせており,昔と比べて少なくなった.クーポンに通し番号を割り当てるなどミスリデンプ

ションの疑いのあるクーポンを発見しやすくし,発見したらクーポンの配布地域や配布時期をその

クーポン番号によって明らかにするといった防衛策である.

1.4 日本のクーポン事情

1.4.1 日本におけるクーポン・プロモーションの可能性

米国の急成長の背景として,次の 3点があげられる.

① チェーン・ストアの成長とそれに付随する小売業の価格支配権の確立

② 新製品の増加とそれに付随するプロダクトサイクルの短縮化

③ メーカーのプロダクトマネジャーの短期に新製品を立ち上げ市場に根付かせる必要

7

一方,日本市場は米国市場と類似しており,小売業は POS を中心とした情報化が進展しチェー

ン・オペレーションの発達に伴いバイイング・パワーは増大している.今後もこの傾向は続き量販

店のパワーはまずます拡大してゆくと予想される.また市場の成熟化・多様化に伴い新製品の増加

やシェアの奪い合いは年々激しくなると考えられる.ここで,作り手と使い手の接点である店頭を

中心としたインストア・マーチャンダイジング活動やセールス・プロモーション活動が重要視され

ている.このような状況で即効性のあるプロモーション手法の一つにクーポン・プロモーションが

ある.クーポンはバリエーションや柔軟性に富んでいると言える.ブランド・スイッチや製品トラ

イアルを起こさせる強力なプロモーション手法である.

1.4.2 クーポンの日本における定着条件

次の 4つの条件を満たせば,クーポン・プロモーションは定着すると思われる.

① クーポン券回収システムの充実

② 新聞媒体によるクーポン配布

③ クーポンの処理システム

④ 消費者の教育

① は日本には米国の A. C. ニールセンのような大規模なクリアリング・ハウスが育っていない.ク

ーポン券の流通を円滑にするためにはクリアリングハウスの機能の充実が不可欠である.

② は米国で最も盛んな FSI(フリースタンディング・インサート)は新聞折り込みによるクーポン配

布システムである.日本では既に雑誌にはクーポンの掲載は業界の自主規制でオープンになっ

ていない.

③はクーポン・プロモーションの成功には小売業の協力が必要であり,店頭でクーポンの処理が

スムーズに行われるように,クーポン券のスキャニングの自動化が必要である.これはミス・

リデンプションの防止にもつながる.

④は消費者がクーポンを使うことに慣れていないことやクーポンを使うことに拒否反応がみられ

る.クーポンを利用することに対して恥

ずかしさを感じる消費者が少なくない.

クーポン定着のためには消費者側の慣れ

も必要と考えられる.

1.4.3 メーカーにとってのメリット

主に 5つの点があげられる.

① ブランド・スイッチやトライアル購買の促

進,

② 買いだめが発生しにくいこと,

③ 消費者の価格に対する値ごろ感を低下させ

ない,

④ プロモーション戦略の多様性と柔軟性ガあ

ること,

2235.7

59

48.1

19 16.2

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

クーポン5 クーポン6

トライアル ブランド・スイッチ リピート

図 1.4.3.1 クーポンの回収パターン別構成比率(%)

8

⑤ 費用対効果の把握が可能であること

①は今日の成熟市場でシェアを高めるためには

ブランド・スイッチを促進させる必要がある.そ

のためには非価格プロモーションより,価格プロ

モーションが有効であると考えられる.クーポ

ン・プロモーションはリピート購入よりブランド

スイッチをより多く発生させる.

②は価格プロモーションの代表に特売がある.

特売の特性として特売期間中は売上が増加し,特

売終了後にその売上の水準が特売期間より低下

することがよくある.これは特売の際,消費者の

買いだめや購入の前倒しが発生するためである.

買いだめは家庭内の在庫を増加させるため,その在

庫がなくなるまで購入を控えることになる.また、

購入の前倒しは家庭内に在庫があるにもかかわら

ず,特売がったために購入し,家庭内の在庫を増加

させる.買いだめと同様に特売後の購入期間は長く

なる.つまり特売では売上が増加したが,特売後に

売上が通常期よりも減少するために,特売による売

上増加分が相殺され,利益も減少する可能性も考え

られる.

③ はクーポンは特売ほど認知価格を下げないと考

えられる.通常,特別陳列と特売の数が多いアイ

テムほど消費者の認知価格は特売価格に近くなる.

つまり,通常価格での売上は減少する.それは特

売では特売価格が強調され,「特売価格=消費者の

通常認知価格となると考えられるからである.そ

の一方でクーポンは通常,割引額のみが表示され,

価格そのものは表示されない.そのため,特売ほ

ど消費者の認知価格を下げないと考えられる.店

頭価格の値崩れを防止する効果であるといえる.

④ はクーポン・プロモーションのその種類の多さ

と使い勝手の良いプロモーション手段である.

クーポンの種類を使い分け,的確にターゲッ

トに届き回収率を高めることができる.

⑤はセールス・プロモーションの効果測定は容易

ではない.スキャン・パネルデータ等により費用

対効果の測定はしやすくなったものの,曖昧なものとなりやすい.しかし,クーポンの場合は発

図 1.4.3.2 買いだめ

図 1.4.3.3 購入の前倒し

時間通常期 特売

通常の購入間隔

買いだめと購入の前倒しによる売上の落ち込み

売上 特売による

売上増

通常

図 1.4.3.4 買いだめと購入の前倒しによる売上の変化

9

行枚数と回収枚数が確実に把握できるので,クーポンに投じたコストとその投資によってどの程

度,リターンが得られたかが明確に把握できる.これは他のプロモーション・ツールにない長所

である.

1.4.4 小売業のクーポン

小売業のクーポンは自店に対する固定客づくりに利用できる.小売業の主な販促手法にはチラ

シがある.チラシは固定客の来店回数を増やすが購入点数は増加しない.またチラシ掲載商品の

売上高は単価の高い商品カテゴリーについて増加するが,それ以外の商品についてはあまり効果

が見られないという可能性も考えられる.つまり,チラシは競合上の理由から発行したり,店全

体のイメージの形成や維持が主な目的である.ここで,チラシの効果に比べて,インストア・ク

ーポン(店独自のクーポン)は店の差別化(価格の差別化)手段として固定客づくりに貢献する

可能性が十分あると言える.むしろチラシにクーポン提供の告知をしたりするなどチラシの機能

を活用することが好ましいと言える.

1.4.5 クーポン券付き新聞折込広告の業種別出稿状況

図 1.4.5は株式会社オリコミサービスの HP(URL:

http://www.orikomi.co.jp/Marketing_Information/Delivery_Statistics/ (2010年 12月時点)より,クー

ポン券付き新聞折込広告の業種別出稿状況(2009年度実績)を引用したものである.クーポン券

付き折込広告の 1世帯あたりの業種別年間平均枚数は 81.1枚で、前年比 0.4%の減少となっている.

また使用枚数が最も多いのは「サービス・娯楽」で,1世帯あたり 238.1枚となり,前年比では 5.8%

の減少となっている.次いで「一般小売店」 (161.6枚・5.1%増),「その他」(45.4枚・4.9%減)

となっている. クーポン券の内容別構成比から、「割引券」の構成比が最も高く全体の 77.8%を占

めるに至っている.さらに業種別では「スーパー」,「百貨店」,「一般小売店」,「サービス・娯楽」

で 6割以上を「割引券」が占めている.

図 1.4.5 クーポン券付き新聞折込広告の業種別平均枚数(年間 1世帯当たり)

あたり>

10

Ⅱ 応用編

応用編では具体的な事例から演繹的に成功要因を考察する.次の 4 つの事例からクーポン・プロモー

ション戦略を考察する.1つ目はカタリナ・マーケティングの「レジクーポン」の事例やドンキホーテな

どを身近な事例を参考にする.2つ目はマクドナルドの携帯クーポンの事例を考察する.携帯を使いこな

すという意味では,ターゲットにしている年齢層も携帯好きな 20 代から 40 代の比較的若い消費者と限

定されると思われる.ここで,iPad などのタブレット型端末や Xperia などのスマートフォンの需要は高

いといわれており,今後,クーポン・プロモーション戦略を考える上で重要となる.課題としては,高

齢者をいかに取り込むかなどを考察する.3つ目はグルーポンなどフラッシュ・マーケティングの事例で

ある.4つ目は 2015年に向けた IDビジネスと One To Oneマーケティングの展望を述べる.

1.5 レジクーポンの事例

米国カタリナ マーケティング コーポレーションは,マーケティング,流通,そして POS スキャナ

ー技術にかかわる 5 人の友人が米国カリフォルニア州のカタリナ諸島に向かうクルーズ中で画期的な

アイデアを思いついたことをきっかけに,1983 年に設立された.彼らはテレビやラジオの広告や新聞

折り込みクーポン FSI(フリー・スタンディング・インサート)よりも効果的かつ効率的な方法で消費

者と消費者とより深いコミュニケーションが取れる方法があるのではないかと考えていた.それは,

店頭の POS スキャナーを利用して,消費者購買行動に直接アクセスし,消費者と個々に濃密なコミュ

ニケーションをはかる方法である.このシステムはカタリナ・マーケティング・ネットワークと呼ば

れている.1984年に米国での最初の店舗導入以来,急速に成長をし続けている.1999年にはカタリナ

マーケティング ジャパンを設立し,イギリス,フランス,イタリア,ドイツ,スイス,オランダ,

ベルギーなど世界中のスーパーマーケットで 4万 7000店舗で展開している.日本全国の「カタリナ・

ターゲット・メディア」導入店舗は,主要 23小売店の約 7割をカバーする予定である(2009年 7月時

点).2012年には主要小売店の約 7割をカバーする予定である.米国でのスーパーマーケットの全売上

高の 75%を占めると言われている.「カタリナ・ターゲット・メディア」は全国から毎日送信される POS

レジデータは,週間 4800万人,月間 2億回以上の購買行動のデータにのぼる.これを米国フロリダ州

のタンパにリアルタイムでデータを送受信し,米国のカタリナのサーバーで蓄積・保管されデータマ

イニングにかけられる.このサーバーは世界第 5位の 1.3ペタバイト(1331.2テラバイト)の大規模な

データ管理能力を持っており,全世界レベルでの統合管理を行っている.

「レジクーポン」は米国カタリナ マーケティング コーポレーションの商標である.今ではドンキ

ホーテから CVS(コンビニエンスストア)などでもレシートの裏側にクーポンが印字されているのを

見かけるようになった.しかしそのほとんどはあまり興味や関係のない内容であることが多い.たし

かに広告という面では,一度は手に取るレシートの裏面を目にするため,周知度は低くはない.しか

し,その購買時でのバスケットの内容に関係した商品のクーポンであるか否かでレシートの裏のクー

ポンの意味が大きく異なってくる.カタリナ社のレジクーポンはリアルタイムでマーケット・バスケ

ットのような分析を行い,瞬時にレシートに反映されていると思われる.これに対して,他の大半の

レシートの裏側はその顧客に対応していないことも考えられる.消費者側も店頭で何が今日は安いか

など調べる手間暇が省け,効率的な購買行動を望んでいる.例えば,クーポンに今晩のおかずの食材

に 2 品でもあれば,その買い物は経済的になり,あれこれ迷う時間も少なくなると思われる.消費者

11

は計画購買をしようとするが,店頭での定価で買うことを嫌うため,その日の献立は店頭での商品の

値段やクーポンによって影響を受けることが少なくない.計画購買から非計画購買に変えさせられる

という売り手の訴求だけの意味ではなくなってきていると思われる.

1.6 マクドナルドの携帯クーポンの事例

1.6.1 2つの価格差別化と需要の価格弾力性

携帯を使いこなすという意味では,ターゲットになる年齢層は 20代になり比較的若い消費者に限

定されてしまうのではないかと考えられる.ここで,携帯クーポンを自己選択型の価格差別と捉え

ると企業の戦略が推測される.顧客によってどのくらいの値段なら購入するかなどの顧客情報を収

集することが完全な価格差別化の成否を決めることにつながると考えられる.期間限定の割引を行

うことでいくらなら購入するかなどの情報収集を行っている.

またグループ別の価格差別を行う際には,グループごとの「需要の価格弾力性」を把握しようとし

ているのである.企業側は今は誰に対しても同じ価格で販売している商品について,値下げによっ

て需要が増える効果は男性のほうが大きいのか,女性の方が大きいのかを把握し,需要の価格弾力

性が大きいグループに対しては安く販売し,需要の価格弾力性が小さいグループには高く売るとい

うのがグループ別の価格差別である.

飲食店などサービス産業は稼働率が経営に影響を及ぼすとされているのであれば,マクドナルドの

早朝やランチタイムはプレミアム・コーヒーを無料にし,集客力を上げ稼働率も上げる狙いがある

と考えられる.

1.6.2 マクドナルドのケータイクーポンの戦略

ケータイクーポンとは商品の割引をするクーポンを携帯電話に配信するものである.マクドナル

ドの他にロッテリア,モスバーガー,ケンタッキーフライドチキン,ファーストキッチンなど多く

のファーストフードで導入されている.いわゆる IT(情報通信技術)を活用した電子クーポンのひ

とつである.企業側は顧客情報を集めたいため,会員登録する際に年齢や住所など登録するように

なっている.マクドナルドの「トクするケータイサイト」では,日本全体での登録者数は 2010年度

前半に 1850万人を超えているとのことである.また「かざすクーポン」のアプリケーションをダウ

ンロードしている人数は,2010 年前半で 850 人を超えているとのことである.マクドナルドのケー

タイクーポンはお店で携帯電話のクーポン画面を提示するだけで割引価格で商品を購入できる.お

金がある大人はケータイクーポンは苦手であるが,お金がない子供はケータイクーポンを使うため,

グループ別の価格差別化としては有効であると考えられる.クーポン券での割引を自己選択型の価

格差別として活用する企業は,クーポン券をわざと使いにくくして手間をかけてでも安く買おうと

する消費者を「消費者能力テスト」として用いてきたが,マクドナルドの最終的な戦略や狙いは完

全な価格差別に近いことである.具体的には個別にクーポンを発行し,状況に応じて機動的に顧客

を誘導しお店の稼働率を上げ,時間帯別に顧客別の価格設定を行うことである.

1.6.3 マクドナルドのケータイクーポンの種類と情報収集

マクドナルドのケータイクーポンには2つある.1つはお店で携帯の画面をみせるものと,もう

12

一つはおサイフケータイの機能がついている携帯電話を持っている人が「トクするアプリ(かざす

会員証)」という専用アプリをダウンロードしておき,お店の専用端末に携帯電話をかざすだけで割

引が受けられ,各種のスタンプを集めることができる.この「かざすクーポン」は企業側に 2 つの

メリットをもたらすと考えられる.1つ目は顧客の個別情報が取れること.2つ目は収集した顧客情

報を使って,それぞれの消費者ごとに完全に個別のクーポンを配信することが可能になることであ

る.つまり,個別クーポンによる完全な価格設定をするための状態になったと言える.ケータイク

ーポンによる値引き効果は次の 2 点で大きいと言える.1 つ目はマクドナルドは 2006 年以来,えび

フィレオやメガマック,テキサスバーガーなど主力商品を比較的高い価格で投入し,全体的な価格

体系も値上げしたことである.2つ目はマクドナルドはサービス業であり,稼働率が重要となる.あ

るマクドナルドのお店で本当はたくさんの来店があって混雑するピーク時のはずがある 1,2時間は

来客数が落ち込み,稼働率が下がった場合があるとする.これはライバル店のキャンペーンの影響

か雨の影響かもしれない.このような時に,過去の個別の購入履歴から,その時間帯に近くにいる

確率の高い人たちにターゲットを絞ってクーポンを配信するなどで稼働率の対策を講じることがで

きる.さらに顧客によって対象商品を変えたり,値引き幅や値引き率を変えることもできる.クー

ポンにつられて過度の来客がないように,適切な人数になるようにクーポンの配信数を管理するこ

とも可能である.

1.6.4 Tポイントカードによる顧客情報の共有の事例

ポイントカードによる顧客情報の共有の点では,ファミリーマートは先進的である.レンタル DVD

店の TSUTAYAとの連携により,ランダムではなく過去の顧客購買理的から個別に異なるクーポンが

配信されたことがある.他社はランダムに選ばれた商品であった.これらからファミリーマートは

一歩進んでいると言える.例えば,女性 Aと女性 Bが同じ時にファミリーマートで Tポイントカー

ドを提示しながら買い物をしていた.女性 A はファミリーマートの缶コーヒーのクーポンであった

のに対し,女性 B は特定のジャンルに限定した TSUTAYA のクーポンであった.女性 B は過去に一

度だけ,そのジャンルの DVDを TSUTAYAで借りたことがある.女性 Aも TSUTAYAはよく利用す

るがそのジャンルの DVDは借りたことがなかった.ファミリーマートのレジで Tポイントカードに

ポイントが加算される瞬間に顧客別に過去の購買履歴が読み込まれ,その情報に応じてクーポン券

が発行されたと推測される.またこの事例から蓄積された顧客購買履歴を共同で活用して,TSUTAYA

とファミリーマートなどが相互送客を行っている.

このように個人の買い物を追いかけて顧客情報を収集しそれを個人別のクーポン発行につなげる

ことでは,コンビニ業界 1 位のセブンイレブンよりも,またローソンよりもファミリーマートの方

が進んでいると考えられる.それは DVDをお店に返却する際に,利用履歴に必ず個人名付きでい録

されることになっているからである.つまり,TSUTAYAと組んだファミリーマートは,セブンイレ

ブンやローソンよりも質の高い情報が利用できるためである.

上記は「レンタル DVD店」と「コンビニ」のポイントカードの共有化による顧客情報の共有化の

事例である.利用履歴から特定の好みに合わせたクーポンを発行するものである.これに対し,

PASUMO など「鉄道カード」の情報を登録し,「スーパ-」で顧客の好みに合わせたクーポンを配信

した例もある.つまり異なる業種の企業が連携して集めた情報を価格差別化に向けたケータイクー

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ポン戦略を行っている.東急ストアと東急電鉄の連携である.2010 年の 5 月から 6 月にかけて,東

急グループの携帯サイト(TOKYUモバイル)の会員のうち,朝の混乱時間を避けて東急電鉄にだけ

乗車した人にだけ,東急ストアが商品のケータイクーポンをメールで送信したとのことです.これ

により,電車の混雑緩和に役立ち,このような行動をとる人は値下げに反応して需要を増しやすい

人である.つまり,需要の価格弾力性の大きい人であり,東急ストアがそれらの人にだけケータイ

クーポンで値引きをするのは価格差別に見合っているからである.他にもニンテンドーDSにゲーム

を配信し,ゲームの結果に応じて電子クーポンの獲得ができるなどや GPS(携帯電話からその人の

位置を把握するシステム)などの機能を活用するなど様々な方法がある.さらに NTTドコモんどの

携帯会社は小規模のお店のケータイクーポンの導入を支援する動きもある.ケータイクーポンを用

いて販売促進すると,宣伝の効果が測れるというメリットもある.またこれらの情報をメーカーに

渡し新製品開発に役立てることも可能である.しかし課題もあり,携帯電話を使いこなし且つ,時

間やお金に余裕のある高齢者は極めて少ないと思われる.

1.6.5 ケータイクーポンの課題

ケータイクーポンを高齢者が取り扱うことを期待することは極めて困難である.時間に融通が利

く点では,年代別に中・高校生及び大学生と高齢者が対象となるが,携帯電話を使いこなすという

条件が入ると,高齢者は除外されてしまう.携帯電話の操作の複雑さや画面の小ささなど物理的な

困難さが多く存在する.ここで確かに高齢者の方が携帯電話を提示したりかざして,クーポン券の

利用をしているのを見たことがない.ここで,今年,より大きな需要が見込まれている市場として,

タッチパネルのタブレット型端末やスマートフォンが見込まれている.現在の携帯電話からキャリ

アチェンジするであろうと有力視されている.タッチパネルは JRなどの鉄道で用いられており,高

齢者には適している.もともとパソコンの機能をインターネットを中心に簡便化したものであるが,

軌道までの時間など利便性が高い.既にお寿司屋さんでの注文時や美容院などで iPad が用いられて

おり,今後も他業種にわたって用いられる見込みである.高齢者にとって大きさと重さが障害にな

ると思われるが,それ以上に付加価値を付け,いかに取り込むかが重要となると思われる.

1.7 グルーポンなどフラッシュ・マーケティングの

事例

1.7.1 フラッシュ・マーケティング

50%以上の割引のクーポン券をウェブ上で時間

と購入者数を限定して販売するサービスをフラッ

シュ・マーケティングと呼ばれている.米国のグ

ルーポン社によるものである.大幅な割引情報を

facebook や twitter などで瞬時に拡散させ,売りつ

くすタイムセールのような手法である.

従来のクーポンは一定の割引率を常時,掲載す

るのに対し,フラッシュ・マーケティング型のク

ーポン券の違いは,消費者へのお得感だけでなく,

・リクルート FOOMO

お得

・サイファ CouponLand

・カカクコム食べログ

・ぐるなび

オールタイムフラッシュ

リピート

・ポンパレ・グルーポン・ピクメディア・食べログ・Twi割(ツイワリ)

・店長 .jp

図 1.3.1 クーポン共同購入型のサイト位置づけ

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店舗側のメリットが大きく 3つ挙げられる.1 つ目は集客効果である.2 つ目はフラッシュ・マーケ

ティング型のクーポン券は,原則として 1 日 1 種類,24 時間限定で販売する.そのため 1 日中は 1

面トップで掲載され続けるため,広告効果が期待できる.また 3つ目はこの手法を用いるコスト負担

は新規顧客獲得の宣伝費と考えれば安いと言える.つまり枚数制限をすることで収支管理もしやすく

なるからである.

フラッシュ・マーケティング型の手法の観点からの課題としては,価格の大幅な値下げにより,

値崩れしたり,クーポンの対象となる商品のサービスの質の維持が課題であると考えられる.また

価格の値下げとは比例せずに,顧客の満足度ばかり先行してしまう傾向になりがちであると考えら

れる.店頭側の割引の根拠と顧客側の割引の期待感が乖離しているのである.顧客は twitter を通じ

て批判的なコメントを掲載し口コミで広がっていくという風評被害など負の連鎖も考えられる.フ

ラッシュ・マーケティングはその名のとおり一時的なものになりかねない.ターゲット層も時間に

融通のきく人と限定される.

1.8 2015年に向けた IDビジネスと One To Oneマーケティングの展望

個人の保有している ID には公的証明書となる保険証や免許証から銀行カードやクレジットカード,

コンビニやスーパーマーケットのポイントカード,そして美容院のスタンプカードに至るまで多種多

様に存在している.スーパーマーケットのポイントカードやドラッグストアの発行しているポイント

カードは個々の店舗で異なり,お財布に入らず輪ゴムで束ねるほどに統一されずにいる.これまで公

的セクターと民間企業が,各個人に対して様々なサービスを提供しているが,それぞれ独自に IDを保

有することを前提に構築されている.ID が氾濫する原因には,公的セクターの縦割り行政や民間企業

の囲い込み戦術が背景にある.個々のサービスを提供する公的セクターや民間企業の側からみると,

サービス受領者ごとにその属性に合ったサービスを提供することは当然であるが,サービスを受領す

る側からみるとサービスごとに IDを別々に登録し,内容を記録し,安全に管理していくことの負担は

小さくない.そのような背景から「IDの統合や連携」に関する議論が注目されている.IDを統合し連

携することは,新たなサービス内容の向上や利便性の向上につながる.2015 年に 1 枚のカードで自販

機から公的認証まで可能となる IDビジネスに期待したい.

総括

twitter や facebookなど SNSを活用したしたクーポン・プロモーション戦略は,新たなマーケティング

の可能性を示してくれた.しかし依然として変わらずに必要とされているのは顧客購買履歴である.そ

のためには情報処理システムの再構築または導入と大容量のデータウェアハウスが必要となる.ASP な

どにより,システムの構築に要する費用は減少しているものの,費用対効果が懸念される.小売店でも

チェーン店であれば導入がしやすくなるが,個人の店舗であると安易に導入することはできないとも考

えられる.しかし,twitter や facebook などを活用し,顧客との距離を短くしたマーケティングは可能で

あると思われる.今後は顧客購買履歴だけでなく,SNS を活用したマーケティングの可能性をモデル化

し,実証分析を行いたいと考えている.

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参考文献

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ィングジャーナル」61巻

2. クーポン統計 株式会社オリコミサービス 新聞折込広告チラシ 2010年度

http://www.orikomi.co.jp/Marketing_Information/Delivery_Statistics/

3. ラッセル・D・ボーマン著 田島義博監訳(1989)『クーポン・プロモーション戦略』ビジネス社

4. 守口剛著(2002)『プロモーション効果分析』朝倉書店

5. 株式会社オリコミサービスの HP(URL:

http://www.orikomi.co.jp/Marketing_Information/Delivery_Statistics/ (2010年 12月時点)

6. 若林学(2009)『「買いたい人」を絞り込みリピート購買を増やせ!』ダイヤモンド社

7. 吉本佳生(2010)『マクドナルドはなぜケータイで安売りを始めたのか?』講談社

8. 東洋経済新報社編著(2010)「週刊東洋経済 2010年 10月 9日号」東洋経済新報社

9. 野村総合研究所 IDビジネスプロジェクトチーム『2015年の IDビジネス』東洋経済新報社

10. 守口剛著(2002)『プロモーション効果分析』朝倉書店

11. 清水聰著(2004)『消費者視点の小売戦略』千倉書房

12. 江原淳著(1993)「POSによるプロモーション効果分析」日本マーケティングジャーナル」38巻

13. 亀井昭宏・ルディー和子編著(2009)『新マーケティング・コミュニケーション論』日本経済新聞社

14. 齊藤悦子著(2001)「平成 13年度・第 35次助成研究報告 オンライン・ショッピングにおけるセール

ス・プロモーションの可能性」財団法人 吉田秀雄記念事業財団

15. 庄島・一階・薦田著(2005)「Peer to Peer型電子クーポンシステムにおける仲介者識別のためのキュ

ー型配布履歴記録方式」電学論 C, 125巻 6号

16. 佐藤栄作著(2010)「店舗内購買行動の理解と動線パターンの分析」「流通情報」486号

17. 佐藤栄作著(2008)「棚スペース管理のための実務的ガイドラインに関する考察」「流通情報」5巻

18. 佐藤栄作著(2003)「マーケティング・サイエンスⅢ:顧客ターゲティング分析:データマイニング

手法の活用」「オペレーションズ・リサーチ」48(3)

19. 片山・李他著(1990)「クーポン広告の日本導入への問題点とクーポニング機能の研究」「広告科学」

第 21集

20. 渡辺隆之著(2008)「購買意思決定の実際からみる売り場の課題:Ⅰ」「流通情報」10月

21. 渡辺隆之著(2008)「購買意思決定の実際からみる売り場の課題:Ⅱ」「流通情報」11月