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梅毒について 東北大学病院総合感染症科 東北大学大学院医学系研究科総合感染症学分野 芳明 2017/2/14 2回仙台市エイズ・性感染症対策推進協議会 Photo: CDC

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梅毒について

東北大学病院総合感染症科

東北大学大学院医学系研究科総合感染症学分野

具 芳明

2017/2/14 第2回仙台市エイズ・性感染症対策推進協議会

Photo: CDC

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2017年1月18日 毎日新聞http://mainichi.jp/articles/20170118/k00/00e/040/219000c

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梅毒の特徴

• Treponema pallidumによる慢性で多彩な臨床像をとる

性感染症

•感染後急速に全身に播種

• 3つの臨床段階と長い潜伏期

•特に感染後1年以内にさまざまな症状の原因となる

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なぜ「梅」「毒」

•かつては「楊梅瘡」と呼ば

れた

•瘡がヤマモモ(楊梅)の実

に似ているから

•それが転じて「梅毒」に?

http://www.globalrph.com/antibiotic/syphilis.htm

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梅毒の登場

• 1495年 シャルル8世(フランス)が

ナポリ(当時スペイン領)を包囲

•陥落直後にフランス軍兵士が謎の

水痘病に…

• その後、ヨーロッパで流行

デューラー「梅毒の男」

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Alexander Fleming (1881-1955)

ペニシリンの発見 1928年

ペニシリンGの実用化 1941年

http://www.time.com/time/specials/2007/article/0,28804,1677329_1677708_1677828,00.html

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梅毒は激減した

http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/742-disease-based/ha/syphilis/idsc/iasr-topic/5404-tpc420-j.html

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http://www.nih.go.jp/niid/images/iasr/36/420/graph/f4203j.gif

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梅毒の症状は多彩

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第1期梅毒

•感染後3週間(10 – 90日間)で発症

•侵入局所に初期硬結→ 硬く盛り上がって中心に無痛

性潰瘍を形成(硬性下疳)

• 3 – 6週で瘢痕を残さず消失する

•無痛性・両側性リンパ節腫脹

•病変には大量のスピロヘータ(らせん菌)• 暗視野顕微鏡や直接蛍光抗体法で確認

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硬性下疳

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第2期梅毒

•感染後3ヶ月 – 3年で発症

•菌量がもっとも多く、免疫応答から強い症状をきたす

• 多彩な皮膚病変、粘膜病変

• 咽頭痛、筋肉痛、全身のリンパ節腫脹、発熱

• 糸球体腎炎、肝炎、腹膜炎、関節炎など

•血清反応が陽性となる

•数週から数ヶ月で潜伏期へ

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バラ疹

扁平コンジローマ

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潜伏梅毒

•血清反応陽性だが臨床症状がない

• 25%が第2期梅毒に移行:とくに感染後1年以内

• 皮疹、粘膜疹で再発することが多い

•第3期梅毒に移行するのは30%のみ

•感染力は時間経過とともに衰える

•自然治癒はおそらくしない

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晩期梅毒(第3, 4期梅毒)

•緩徐な炎症によって臓器破壊が進む

•心血管梅毒

• 大動脈弁閉鎖不全、上行大動脈瘤など

• ゴム腫(ガマ腫)

• あらゆる臓器に壊死性肉芽腫性病変をきたす

•神経梅毒

• 古典的には進行麻痺や脊髄癆が知られる

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神経梅毒

•早期神経梅毒(第1期梅毒から数週~数年後)

• 第1,2期梅毒から進展し、髄液、脳血管、髄膜を主に侵襲

• 症候性では髄膜炎、脳血管障害、脳神経障害など

• 無症候性のことも多い

•後期神経梅毒(第1期梅毒から数十年)

• 脳、脊髄実質を主に侵襲

• 全身の麻痺、進行性の認知症、脊髄瘻、感覚失調など

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神経梅毒診断時の症状と年齢

J Neurol Neuro Psych 2004;75:1727-30

症状 頻度(%) 平均年齢

精神神経症状 50.9 41

脳血管症状 14.9 36

眼症状 11.9 37.2

ミエロパチー 9.3 35.9

痙攣 8.7 42.6

脳幹・脳神経症状 5.0 40.9

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梅毒の感染

•第1期~第2期~早期潜伏梅毒(感染後1年以内)

• 性的接触に伴う感染+母胎感染

• 第1期梅毒感染者からの伝播リスクは約30%/性行為

•後期潜伏梅毒(感染後1年以降)

• 母胎感染

•第3期

• 感染性なし

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早期神経梅毒

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梅毒の検査は意外に難しい

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梅毒の血清学的検査

•特異的:FTA-ABS, TPPA, TPLA, TPHAなど

• T. pallidum 特有の抗原に対する抗体をみている

•陽性=梅毒の存在、過去の梅毒罹患

•非特異的:ガラス板法、RPR法、VDRL法など

• cardiolipin-cholesterol-lecithin抗原に対する抗体をみている

•治療によって低下する(=活動性の指標)

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血清学的検査の組み合わせ

非特異的検査陽性 非特異的検査陰性

特異的検査陽性

真の陽性(活動性感染)先天梅毒

(例外:レプトスピラ症、回帰熱、鼠咬症、SLEなど)

ごく初期の感染後期の感染治療後

(例外:ライム病)

特異的検査陰性 生物学的偽陽性感染なし感染の直後

非特異的検査:ガラス板法、RPR法、VDRL法など

特異的検査:FTA-ABS, TPPA, TPLA, TPHAなど

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梅毒の治療

• ペニシリンが基本

• 投与量・期間は病期によって変わってくる

• 日本には世界標準のペニシリン製剤なし

• 代替薬:テトラサイクリン系(効果が落ちる可能性)

•治療効果判定:非特異的血清反応を用いる

• 治療してもすぐには低下しない

• 「6ヶ月で1/4以下に低下」が目安

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2017年1月23日 医療介護CBnews

http://www.cabrain.net/news/article/newsId/50432.html

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妊婦梅毒のマネジメント

と先天梅毒

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妊婦梅毒と胎児への影響

•妊娠中の初感染

→ 40%が胎児死亡・周産期死亡

•妊娠前4年間の梅毒罹患→ 80%が胎内感染

•妊娠16週から20週以前に治療すれば、胎児

への感染は予防できる

日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会産婦人科診療ガイドライン 産科編2011より

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日本では報告増加傾向

http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/741-disease-based/ha/syphilis/idsc/idwr-topic/5228-idwrc-1447.html

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先天梅毒

•早期先天梅毒:Ⅱ期梅毒疹、骨軟骨炎など

•晩期先天梅毒:学童期移行にHutchinson三徴候(実質

性角膜炎、内耳性難聴、Hutchinson歯)など

•母体と児の血清抗体価の組み合わせで診断

•先天梅毒と診断したらペニシリンで治療

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Hutchinson歯

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国立感染症研究所FETP 堀成美氏提供スライド(現国立国際医療研究センター)

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国立感染症研究所FETP 堀成美氏提供スライド(現国立国際医療研究センター)

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https://medical-tribune.co.jp/news/2016/1018505017/

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Take Home Message

• 梅毒がここ数年急増している

• 梅毒の病態は複雑=診断が遅れやすい

• 検査の解釈に慣れが必要でしばしば難しい

• 今後、世界的な標準薬が使えるようになるかも

• 母子感染を防ぐための対策はきわめて重要