がん化学療法に伴う 悪心・嘔吐対策について 24 48 72 96 (%) 時 間 80 60 40...

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がん化学療法に伴う 悪心・嘔吐対策について 薬剤部 がん専門薬剤師 村上通康

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Page 1: がん化学療法に伴う 悪心・嘔吐対策について 24 48 72 96 (%) 時 間 80 60 40 20 120 100 アロキシ 0.75mg グラニセトロン 40μg/kg オンダンセトロン

がん化学療法に伴う 悪心・嘔吐対策について

薬剤部 がん専門薬剤師 村上通康

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目次

• 抗がん剤誘発悪心・嘔吐の機序

• 各種制吐薬の特徴

• 制吐薬適正使用ガイドライン

• 当院の制吐療法の現状

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抗がん剤の副作用に関する大規模調査

H25.3.国立がん研究センター調査 n=854

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悪心・嘔吐を制御する意義

• 患者にとって最も辛い副作用である

• 持続すると脱水、電解質異常、低栄養を引き起こす

• 抗がん剤の減量が必要となり治療効果が低下する

• 患者の治療意欲が減退する

• QOLおよび全身状態を維持し、治療を継続するためには悪心・嘔吐のコントロールが必須である

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抗がん剤誘発悪心・嘔吐(CINV)

• CINV (Chemotherapy-induced nausea and vomiting)

• 抗がん剤が消化管の粘膜や脳の嘔吐中枢を刺激することによっておこる

• 抗がん剤の種類によって、発現リスクが異なり、制吐療法も異なる

• 個人差が大きい(若年・女性・アルコール非飲者・嘔吐経験あり・不安が強い)

• 嘔気の種類(急性・遅発性・予測性)によって有効な制吐剤が違う

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種類 伝達経路 制吐剤

急性 投与24時間以内

消化管⇒嘔吐中枢 血液⇒CTZ⇒嘔吐中枢

セロトニン5HT3受容体拮抗剤 グラニセトロン注、ゾフラン錠、アロキシ注

遅発性 投与24時間後~数日

消化管⇒嘔吐中枢

ステロイド(DEX) デキサート注、デカドロン錠 NK1受容体拮抗剤 イメンドCap、プロイメンド注

予測性 投与前 感覚・情動⇒大脳

抗不安薬 ワイパックス錠、etc

悪心・嘔吐の種類と制吐剤

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抗がん剤の嘔吐に関与する神経伝達物質

サブスタンスP

アセチルコリン

ヒスタミン

エンドルフィン ドパミン

セロトニン

GABA

嘔吐反射

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嘔吐のメカニズムと制吐剤の作用部位

NK1受容体

中枢 サブスタンスP

5HT3受容体

セロトニン

迷走神経

嘔吐中枢

CTZ

消 化 管

①抗がん剤

②抗がん剤

末梢

× 5HT3受容体拮抗剤

× NK1受容体拮抗剤

ステロイド ?

CTZ:chemoreceptor trigger zone (化学受容体引き金帯)

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セロトニン

0 1 2 3 4 5

抗がん剤投与後の時間 (日)

急性

遅発性

サブスタンスP

嘔吐の程度

嘔吐パターンと神経伝達物質の関与(CDDP)

セロトニン5HT3受容体拮抗剤

ステロイド・NK1受容体拮抗剤

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セロトニン5HT3受容体拮抗剤

• 日本では7薬剤が保険承認されている 当院採用 第1世代:グラニセトロン注、ゾフラン錠 第2世代:アロキシ注

• 第1世代は急性期の悪心・嘔吐の予防に有効だが 遅発期に関しては効果が乏しい⇒急性期(Day1)に使用、連日投与のエビデンスなし

• 第2世代は急性期および遅発期の悪心・嘔吐に対する有効性が証明されている

• 便秘・頭痛・過敏症等の有害作用あり

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ステロイド

• 急性および遅発期の悪心・嘔吐に有効で、しかも安価であり、ベース薬として不可欠

• 制吐作用機序については解明されていない

• 抗がん剤の制吐剤として、デキサメタゾン(デキサート注・デカドロン錠)が保険承認されている

• 十分量を使用する!⇒適正量についての明確なエビデンスはないが、CDDP使用時の比較試験・メタ解析あり

• 高血糖・易感染・吃逆等の有害事象有り

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デキサメサゾンの至適投与量の検討(CDDP)

R

NSCLC

PS 0-2

(n=530)

OND 8mg DEX 4mg

DEX 16mg

MET 80mg

DEX 8mg

MET 80mg

DEX 16mg

MET 80mg OND 8mg DEX 8mg

OND 8mg DEX 12mg

OND 8mg DEX 20mg

CDDP >50mg/m2

day 1 day 2 day 3 day 4

0

20

40

60

80

4 mg 8 mg 12 mg 20 mg

Complete protection rate on day 1 (%)

Vomiting p<0.02

Nausea n.s.

Italian Group for Antiemetic Research

JCO 16:2937-2942, 1998

Total dose of DEX = 44 ~ 60mg

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Dose effect of DEX in acute phase in a meta-analysis

Favor DEX Favor control Favor DEX Favor control

Total dose

on day 1

Odds ratios (95%C.I.) Odds ratios (95%C.I.)

Ioannidis JPA. JCO18:3409-3422, 2000

acute phase

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Dose effect of DEX in delayed phase in a meta-analysis

Favor DEX Favor control Favor DEX Favor control

Total dose

days 1-7

Odds ratios (95%C.I.) Odds ratios (95%C.I.)

Ioannidis JPA. JCO18:3409-3422, 2000

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アプレピタント「イメンドカプセル」

• 選択的NK1受容体拮抗剤(サブスタンスP結合阻害)

• 強い悪心・嘔吐が生じる抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)に限り、他の制吐剤と併用(5HT3RA+DEX)

• 1日目125mg、2日目以降80mgを1日1回経口

• 1日目は抗悪性腫瘍剤の投与1時間以上前に、2日目以降は午前中に服用

• 3日間投与を目安とし、5日間を超えて使用しない

• 薬物相互作用に注意!(併用ステロイド減量)

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-脳内NK1受容体占有率の評価(PET試験)-

イメンドの薬力学的試験

PETトレーサー分布

低 高

イメンド 投与前

イメンド 投与後

Bergstrom M et al. Biol Psychiatry, 55 : 1007–1012, 2004

イメンド投与前のNK1受容体の発現は線条体で最も高かった。最終投与終了後24時間後の血漿中濃度と線条体中のNK1受容体占有率の間に相関が見られた。線条体中のNK1受容体の50%および90%占有する時のイメンドの血漿中濃度は約10ng/mLおよび約100ng/mLと推定された。

PETトレーサーはNK1受容体と結合した(イメンド投与前)。

イメンドは血液脳関門を通過し、NK1受容体を占有した。

イメンド100mg以上を経口投与することによって90%以上のNK1受容体占有率を示した。

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申請時評価資料

0

20

40

60

80

100 χ2検定

患者割合(%)

全期間 (1~5日目)

急性期 (1日目)

遅発期 (2~5日目)

-国内臨床試験-

69%

56%

90% 88%

73%

56%

p<0.05 p<0.05

イメンド群(146例)

標準治療群(150例)

有意な悪心なし: 最大悪心が軽度以下 悪心の評価は4段階カテゴリー尺度(なし・軽度・中等度・高度)を用いた

シスプラチン(≧70mg/m2)を含むがん化学療法を受ける患者を対象とし,イメンド群(1日目125mg,2~5日目80mg),または標準治療群のいずれかに割り付けた。本試験ではすべての患者に1日目にグラニセトロンを,1~3日目にリン酸デキサメタゾンを投与した。

高度催吐性がん化学療法を受ける

患者を対象とした二重盲検比較試験

CDDP ≧70mg/m2

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ホスアプレピタント「プロイメンド注」

• アプレピタントのプロドラッグ注射剤

• 抗悪性腫瘍剤投与1日目に1回点滴静注で、イメンド3日間内服と同等の効果

• 1時間前に30分間かけて投与⇒点滴時間の延長

• 3日目に併用ステロイドの血中濃度が低下(イメンドと比較)⇒3日目のステロイド増量が必要

• イメンドカプセルと併用不可(保険上)⇒4日目以降の追加投与ができない

• 注射部位障害(血管痛・静脈炎)の報告が多い

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パロノセトロン「アロキシ注」

• 第2世代のセロトニン5HT3受容体拮抗剤

• 急性及び遅発期の悪心・嘔吐に有効

• 5HT3受容体に高い結合親和性と選択性を有する

• ヒトでの血漿中消失半減期は約40時間と長い (第1世代グラニセトロン約3時間)

• アロステリック受容体効果(受容体内在化)

• 抗悪性腫瘍剤投与前の1回投与で持続的な制吐効果(約5日間有効)を示す

• 副作用:便秘、高額

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20

各5HT3受容体拮抗剤の受容体結合占有率

:各5-HT3受容体拮抗剤について報告されている血漿中未変化体濃度推移より、血漿蛋白結合率を用いて非結合型薬物濃度推移を算出した。さらに、ヒト5-HT3受容体の強制発現蛋白を用いた同一実験にて算出されたKi値を用い、受容体結合占有率の時間推移を算出した。

方法

受 容 体 結 合 占 有 率

0 24 48 72 96

(%)

時 間

80

60

40

20

120

100 アロキシ 0.75mg グラニセトロン 40μg/kg

オンダンセトロン 4mg

ラモセトロン 0.3mg

アザセトロン 10mg

社内資料, 研究報告書 No.337, 2010

:受容体結合占有率(%)

:非結合型血漿中薬物濃度

:ヒト5-HT3受容体に対するKi値

φB(%)= Cpf

Ki+Cpf ×100

φB(%)

Cpf

Ki

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Saito.M. et al : Lancet Oncol.,10 115 (2009)

100

80

60

40

20

0

(%)

急性期

(0~24時間)

遅発期

(24~120時間) 全体

(0~120時間)

CR率

40.4

51.5 44.5

56.8

73.3 75.3

*** *** アロキシ群(555例)

グラニセトロン群(559例) ***p<0.001

†:アロキシのグラニセトロンに対する急性期の非劣性が示された。

*:アロキシのグラニセトロンに対する遅発期の優越性が示された。

(有意水準:両側確率0.05未満)。

嘔吐性事象 完全抑制率(CR率)

(嘔吐/空嘔吐なし・レスキュー追加制吐治療なし)

PROTECT (PAL vs GRA in HEC)

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薬価

• グラニセトロンバッグ: 2,756円

• デキサート注(6.6mg) :203円

• デカドロン錠(0.5mg) :5.9円×16T ×3日間= 283円

• アロキシ注 :14,632円

• イメンド:125mg 4,946円×1日目 +80mg 3,380円×2日間= 11,706円

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制吐療法ガイドライン(海外)

MASCC NCCN

ASCO

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従来の制吐療法の問題点

1. 海外の標準治療薬(アプレピタント・パロノセトロン)が国内で未承認であった

2. 国内に制吐療法のガイドラインがなく、医療機関・医師によってやり方が様々であった

3. ステロイドの適正使用(未使用・投与量不足)ができていなかった

4. 5HT3受容体拮抗剤の適正使用(不必要な投与)ができていなかった

5. 海外で推奨される標準的な制吐療法が実施できず、多くの患者が悪心・嘔吐に苦しんでいた

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制吐薬適正使用ガイドライン(日本)

MASCC NCCN

ASCO

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制吐療法の原則

1. 悪心・嘔吐の発症予防が治療目標である

2. 催吐リスクに応じ適切な制吐薬を使用する

3. 発症リスクのある間、最善の治療を行う (高度催吐性4日間、中等度催吐性3日間)

4. 過去の制吐療法の効果や患者背景因子を考慮する

5. 抗がん剤に直接起因しないものも考慮する

6. 各制吐薬特有の有害事象を考慮する

日本癌治療学会 制吐剤適正使用ガイドライン

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催吐リスク分類

• 高度催吐性薬剤 (HEC: high emetogenic chemotherapeutic agents) 急性・遅発性ともに90%以上の発現率

• 中等度催吐性薬剤 (MEC: moderate・・・) 急性が30~90%で遅発性も問題となる

• 軽度催吐性薬剤 (LEC: low・・) 急性が10~30%で遅発性は問題なし

• 最小度催吐性薬剤(Minimal) 急性が10%以下で遅発性は問題なし

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催吐性 薬剤名

高度 (>90%)

•(

中等度 (30-90%)

シスプラチン

ダカルバジン

シクロホスファミド

AC(EC)療法

ネダプラチン エピルビシン

インターロイキン2

テモゾロミド

ブスルファン

亜ヒ酸

>1500mg/m2

オキサリプラチン

アクチノマイシン-D

シクロホスファミド ≦1500mg/m2

シタラビン >200mg/m2

メルファラン ≧50mg/m2

250~1000mg/m2 >4mg/day

ドキソルビシン

インターフェロンα ≧10000 units/m2

抗がん剤の催吐性リスク分類

ダウノルビシン エノシタビン

テラルビシン

アムルビシン

カルボプラチン

イホスファミド

メトトレキサート

イリノテカン

FEC療法

イダルビシン

>12~15 million units/m2

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催吐性 薬剤名

軽度 (10-30%)

最小度 (10%<)

パクリタキセル

マイトマイシンC

ゲムシタビン

リポソーマルドキソルビシン

シタラビン

50~250mg/m2

抗がん剤の催吐性リスク分類

ドセタキセル

エトポシド

メトトレキサート

5FU 100~200mg/m2

ペントスタチン ミトキサントロン

ペメトレキセド

パクリタキセルーアルブミン

セツキシマブ

ベバシズマブ

ボルテゾミブ

ビノレルビン

ビンクリスチン

ビンブラシチン L-アスパラギナーゼ

ブレオマイシン

クラドリビン

リツキシマブ

トラスツズマブ シタラビン <100mg/m2

<50/m2 メトトレキサート ビンデシン

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急性 遅発性

5-HT3受容体拮抗薬

1(抗がん薬投与前)

アプレピタント(mg)

デキサメタゾン(mg)

2 3 5 4 (日)

注) アプレピタントを使用しない場合は、1日目のデキサメタゾン注射薬は13.2-16.5mgとする。 デキサメタゾンの投与日数について、点線で囲ってある場合は状況に応じて投与の可否を選択できるものとする。

125 80 80

9.9 8 8 8 8

制吐剤 適正使用ガイドライン 一般社団法人 日本癌治療学会

高度催吐性リスク群(HEC)

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オプション

急性 遅発性

5-HT3受容体拮抗薬

デキサメタゾン(mg)

5-HT3受容体拮抗薬

アプレピタント(mg)

デキサメタゾン(mg)

カルボプラチン、イホスファミド、イリノテカン、メトトレキサートなど使用時

(6.6) 9.9

4.95

8 8

4 4 4

8

125 80 80

(3.3)

* カッコ内は代替用量

*

*

1(抗がん薬投与前) 2 3 5 4 (日)

制吐剤 適正使用ガイドライン 一般社団法人 日本癌治療学会

中等度催吐性リスク群(MEC)

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急性 遅発性

1(抗がん薬投与前)

デキサメタゾン(mg)

2 3 5 4 (日)

6.6

制吐剤 適正使用ガイドライン 一般社団法人 日本癌治療学会

軽度催吐性リスク群(LEC)

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当院の制吐療法の問題点(当時)

1. HEC : Day1のステロイド投与量不足(iv)

2. HEC・MEC : Day2~経口ステロイド無し、 投与量不足

3. LEC:5HT3受容体拮抗剤のルーチン使用

4. HEC : アプレピタント未使用

HEC:high emetogenic chemotherapeutic agents(高度催吐性薬剤)

MEC:moderate…(中等度催吐性薬剤) LEC:low…(軽度催吐性薬剤)

ガイドライン準拠の制吐療法を!

⇒ No!

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抗がん剤誘発悪心・嘔吐実態調査

HEC

MEC

(人)

(人)

ガイドライン 非準拠

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• HEC・MEC共に制吐療法が不十分である

• ステロイドが適正使用されていない

• HECはステロイドだけでは不十分⇒アプレピタント必要

• MECは十分量のステロイドが有効

• LECは5HT3受容体拮抗剤なしでも同等

抗がん剤誘発悪心・嘔吐実態調査

HEC

MEC

(人)

(人)

ガイドライン 非準拠

ガイドライン準拠の制吐療法を!

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催吐リスク 急性(day1) 遅発性(day2~) 当院採用レジメン

高度催吐性 (HEC)

5-HT3RA + DEX9.9mg + APR125mg ※APR未使用時 DEX13.2~16.5mg

DEX8mg:days2-4 + APR80mg:days2-3

乳:FEC, EC

胃:TS-1/CDDP

CPT-11/CDDP

食道:5FU/CDDP 肺:CDDP含有レジメン 泌:CDDP含有レジメン 頭頸部:CDDP含有レジメン

中等度催吐性 (MEC)

5-HT3RA + DEX9.9mg (6.6mg) 又は 5-HT3RA + DEX4.95mg (3.3mg) + APR125mg

DEX8mg:days2-3 APR80mg:days2-3 ± DEX4mg:days2-3

乳:TC, CMF

胃:CPT-11

大腸:FOLFOX, FOLFIRI,

XELOX, CPT-11

肺:CBDCA含有レジメン

婦:CBDCA含有レジメン 泌:CBDCA含有レジメン 血内:トレアキシン

低度催吐性 (LEC)

DEX6.6mg (3.3mg)

Non

乳:DOC, PTX, GEM, VNR

胃:DOC, WPTX,

肝胆膵:GEM

肺:DOC, GEM, PEM

婦:PTX, DOC,ドキシル, 泌:DOC, GEM

日本癌治療学会制吐薬適正使用ガイドライン(2010.5.第1版)

5-HT3RA=5-HT3受容体拮抗薬, APR=アプレピタント, DEX=デキサメタゾン

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ガイドライン準拠後の効果について調査

<調査対象> 外来化学療法室および外科・呼吸器科病 棟で高度催吐性薬剤(HEC)および中等度催 吐性薬剤(MEC)による治療を受けた患者 <調査方法> 悪心・嘔吐・食欲不振のグレード評価 (CTCAE.v4.0)ができる調査票(MRAT)を用 いて、症状発現を調査

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MRAT (Matsuyama Red Cross Antiemesis Tool)

国際がん支持療法学会(MASCC)が推奨している悪心・嘔吐の調査票

吐き気を数値で評価, 食欲不振に関する

項目がないため悪心・食欲不振についてCTCAEのグレーディングが不可能

MAT (MASCC Antiemesis Tool)

改変

CTCAEのグレーディングが可能

MASCC: Multinational Association of

Supportive Care in Cancer

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有害事象共通用語基準 (CTCAE v4.0)

有害事象 Grade1 Grade2 Grade3 Grade4

嘔吐

24時間に1-2エピソード

24時間に3-5エピソード

24時間に≧6エピソード TPN, 入院必要

生命を 脅かす

悪心

摂食習慣に影響のない食欲低下

顕著な体重減少, 脱水, 栄養失調を伴わない経口摂取量の減少

カロリーや水分の経口摂取が不十分 経管栄養, TPN, 入院必要

生命を 脅かす

食欲不振

食生活の変化を伴わない食欲低下

顕著な体重減少や栄養失調を伴わない摂取量の変化, 経口栄養剤による補充必要

顕著な体重減少や栄養失調を伴う Div, 経管栄養, TPN必要

生命を 脅かす

悪心・嘔吐・食欲不振の重症度分類

CTCAE: Common Terminology Criteria for Adverse Events

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ガイドライン準拠率と遅発性症状の変化

HEC MEC

(%)

n=46 n=14 n=54 n=126

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(人)

SP・XP・FP

G2≦28%

CPT-11/CDDP

G2≦0%

FEC

G2≦53%

レジメン別症状発現状況(HEC)

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(人)

mFOLFOX6

±BV

G2≦36%

TC

(DOC/CPA)

G2≦33%

CBDCA/

PEM±BV

G2≦30%

CBDCA/

CPT-11

G2≦31%

CBDCA/

GEM

G2≦20%

XELOX

±BV

G2≦30%

FOLFIRI

±BV

G2≦44%

レジメン別症状発現状況(MEC)

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アプレピタント追加効果

追加前 追加後

消化器外科, 乳腺外科のMECレジメン (mFOLFOX6±BV, FOLFIRI, XELOX/BV, TC)13名

著効(G2→G0)7名, 有効(G2→G1)1名, 無効5名

改善率62%

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HEC(CDDP+AC)

MEC

PALO※ + DEX + Aprepitant

± lorazepam ±H2RA or PPI

National Comprehensive Cancer

Network. V1. 2012.

PALO※ + DEX ± Aprepitant※

± lorazepam ±H2RA or PPI

DEX + Aprepitant

± lorazepam ±H2RA or PPI

DEX ± Aprepitant※

± lorazepam ±H2RA or PPI

※preferred ※Select patients: CBDCA, CPA. DXR

5-HT3 + Dex + Aprepitant

ESM0/MASCC 2010

Dex + Aprepitant HEC(CDDP)

MEC(AC)** 5-HT3 + Dex + Aprepitant Aprepitant

MEC(non-AC) Palonosetron + Dex Dex

**If Aprepitant is not available women receiving AC, PALO+DEX is recommended.

HEC(CDDP+AC)

MEC(Select Pat)

MEC(Others)

5-HT3 + DEX + Aprepitant

± lorazepam ±H2RA or PPI

5-HT3 + DEX + Aprepitant

± lorazepam ±H2RA or PPI

DEX + Aprepitant

± lorazepam ±H2RA or PPI

DEX + Aprepitant

± lorazepam ±H2RA or PPI

5-HT3 + Dex

± lorazepam ±H2RA or PPI

Dex

± lorazepam ±H2RA or PPI

日本癌治療学会

2010年5月版

ASCO 2011

5-HT3 + Dex + Aprepitant Dex + Aprepitant HEC(CDDP+AC)

Palonosetron + Dex Dex MEC

第2世代5HT3RA パロノセトロン

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(%)

パロノセトロンの導入

n=11 n=11 n=46 n=46

6/11

5/11

13/46

3/46

乳がん

HEC(FEC) 消化器がん

MEC

G2以上の遅発性悪心の発現率

P<0.01

n.s

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P=0.0539

P=1.0000

P=0.0142

CR率(嘔吐無し・レスキュー無し)

0

TRIPLE (PAL vs GRN in HEC)

Hashimoto et al, ASCO 2013 # 9621

CDDP ≧70mg/m2

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結果・考察 (HEC)

• 制吐療法の院内統一後、ガイドライン準拠率は20%⇒100%

• 遅発性悪心の発現率が減少(G2≦:73%⇒34%)

• レジメンによってリスク差あり

• 乳腺FEC療法ではガイドラインを準拠しても発現頻度が高い(G2≦:53%)⇒アロキシをルーチン使用⇒効果不十分⇒個別対応(抗うつ剤等)

• 高用量CDDPレジメン(G2≦:28%)にアロキシをルーチン使用⇒効果評価中

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結果・考察 (MEC)

• 院内の制吐療法統一後、ガイドライン準拠率は改善したが(20%⇒73%)、遅発性悪心の発現率は変化なし(31%⇒26%)

• レジメンによって催吐リスクに差あり

• 第1世代5HT3受容体拮抗剤とステロイドだけでは不十分

• イメンド追加症例で62%改善⇒個別に追加使用

• MECレジメンに対しアロキシをルーチン使用⇒消化器レジメンで有意に改善、呼吸器レジメンは改善傾向あり

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まとめ

• 治療継続のためにはCINVの制御が必須!

• ガイドライン準拠により、CINVは軽減してきたが、まだまだ不十分で、特に遅発性悪心・食欲不振が軽視されている

• ガイドラインをベースとした上で、レジメン別・個別対応が必要

• 各制吐薬の特徴を理解し、症状を適切にアセスメント した上で、アレンジが必要!