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トキ類における精子採取法の検討 新潟大学農学部 瀧野 祥生 菅野 有晃 岩島 玲奈 柳沼 日佳里

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トキ類における精子採取法の検討

新潟大学農学部

瀧野 祥生

菅野 有晃

岩島 玲奈

柳沼 日佳里

背景

2003年、ただ1羽残された日本産最後のトキ「キン」は36歳齢で死亡。

その後、佐渡のトキ集団は中国産のトキ5羽から自然繁殖が

成功し、現在飼育下で約200羽までに至っている。

5羽の個体から派生した集団のため近親交配による繁殖障害の可能性や、

ツガイとなって繁殖する習性があるため、自然繁殖のみで遺伝的多様性をふまえての増殖をさせるには限界があるなどの問題や雄始祖個体の寿命による死が懸念されている。

雄始祖個体が生存している間に精子を採取し保存する方法や、 トキの遺伝的多様性をふまえた人工授精技術の開発が必要である。

樋浦ら(トキ保護の記録,2000)によると

【トキ(ミドリ)】 ※年齢・採取時期は不明

・マッサージ法…1984年に5回、1985年に1回→失敗。

1989年に7回→5回少量の精子採取。

・剥製の擬雌台を用いた射精の誘発…1993年、失敗。

・精管乳頭部からの吸引法…1993年、極少量の精子採取。

【クロトキ】

・マッサージ法…1984~1988年、6回→3回排出した尿中から少量の精子を採取。

・電気射精法…1989~1993年→失敗。

・剥製の擬雌台を用いた射精の誘発…1990年→失敗。

・精管乳頭部からの吸引法…1993年→尿中に少量の精子採取。

うまくいかなかった原因として… • ヒトへの警戒感や触れられる事へのストレス • 繁殖期以外での精子採取 • 年齢の問題(老齢化) などがあり、望ましい精液量を採取する事は極めて困難。

まず第一に精子採取方法の確立が必要である。

目的

本研究は、第一に鳥類の実験動物

であるニワトリ(とうまる)を用いて

精子採取法の検討を行う。

次に悠久山のクロトキ・ムギワラトキへ

それら方法の応用を試み、

精子採取法の確立を目的とする。

実験1 ~材料・方法~ ≪とうまるの採精(マッサージ法/電気刺激射精法)≫

・供試動物

とうまる(H24生・1歳齢)の2羽

〈とうまる〉 ・国の天然記念物に指定された 新潟県の鶏で三大長鳴き鳥。 ・名古屋コーチンと掛け合わせたものが 新潟地鶏と呼ばれる。

〈とうまるに用いる電圧の判定〉 ①総排泄腔に電極の先端を差し込む。 ②10V,20V,30Vの異なる電圧を流す。 ③3つの電圧の中でどれが最も 適しているのかを判定する。

①希釈液の作成 希釈液 Hiroshima Dilution(以下HD) 0.25ml作製

②マッサージ法で射精を促す (9/24~10/10) 3回ずつ繰り返す

③精液採取(HDで希釈)

④スライド作成し、精子の運動性 (0h,1h,3h,6h,24h)の評価、観察

⑤精子の濃度測定 (Toma血球計算盤)

⑥FITC-PNA,DAPIで 精子核と先体を染色し、 蛍光顕微鏡で観察

≪精液採取(マッサージ法・電気刺激射精法)・精子染色≫

②電気刺激射精法で射精を促す 10V(10/22~11/1)、20V(11/9~11/15) 30V(12/3~12/7) 各3回ずつ繰り返す

実験1

精子運動性の評価方法

精子運動性の6段階評価基準 0・・・0% 1・・・30%以下の生存率で前進運動無し 2・・・30~50%の弱い前進運動 3・・・50~70%の活発運動と緩慢な前進運動 4・・・70~80%の活発前進運動と旋風運動 5・・・80%以上の非常に活発な前進運動と旋風運動

先体

A B

先体

核:受精卵の核の一部となる部位

先体:卵子との接着部位 図0. A.ブタの精子及び、B.ムギワラトキの精子の形態的比較

精子の核と先体の染色方法

①スライドガラスに精子を20~30μl伸展する。 ②10分間エタノールに浸し固定する。 ③顕微鏡でスライドを観察し、精子が均一に見える箇所にマークする。 ④FITC-PNAを25μl滴下する。 ⑤暗所で30分間置く。 ⑥PBSで3~4回洗浄する。 ⑦DAPI 8μlを滴下し、カバーガラスを乗せマニキュアで封入する。 ⑧蛍光顕微鏡で観察する。

実験1結果(1)

0

1

2

3

4

5

massage 10V 20V

精子運動性 評価

培養時間 ( h ) 0 1 3 6 24

図1.マッサージ法、電気刺激射精法10V、20Vで採取した場合のニワトリ精子の運動性の経時的変化

Values are the mean percentages±SEM (chicken×2, n=3) a-b P<0.05

※chiken1は30V区で採取不可。chiken2はすべての区で採取不可。

a

ab

a

ab

a

ab

a

ab

b b

b b b

b

a

(0−5)

0

1

2

3

4

5

6

7

マッサージ法 10V 20V

×106

×106

×106

×106

×106

×106

×106

精液中の精子濃度(精子数/m

l

図2.マッサージ法、電気刺激射精法10V、20Vで採取した精液中の精子濃度の比較

実験1結果(2) A

D

図3.FITC-PNA、DAPIにてニワトリ精子の核および先体を蛍光染色した像

A .精子の実像 B .DAPIによる精子の核の染色 C .(FITC-PNAによるアクロゾームの染色 D .DAPI+FITC-PNA両方の染色画像の統合画像

実験1結果(3)

0

20

40

60

80

100

図4.マッサージ法、電気刺激射精法10V、20Vで採精した直後の先体の正常性

Values are the mean percentages±SEM (chicken×2,massage;n=2, 10V,20V;n=3)

マッサージ法 10V 20V

※chiken1は30V区で採取不可。chiken2はすべての区で採取不可。

a

b b

先体の正常率(%)

実験2 ~材料・方法~ ≪クロトキ・ムギワラトキの雌雄判別≫

供試動物:長岡悠久山小動物園のクロトキ11羽・ムギワラトキ4羽

クロトキ・ムギワラトキのなかで、性別が 判明しているものと判明していないものがいた。

採精を行う前にクロトキ・ムギワラトキの

血液を採取し、PCR法にて 雌雄判別を行った。

≪クロトキ・ムギワラトキの雌雄判別≫

1 ♀ 1988.9.3 12 2010.5.11

2 ♂ 1994.5.4 13 2010.5.18

3 ♂ 2001.6.234 ♀ 2003.5.55 2009.5.17 (2009.7.21死亡)6 2009.5.17

7 2009.5.19 (2009.5.25死亡) 1 ♂ 2001.7.6

8 2009.5.28 2 ♀ 2004.9.189 2009.5.31 3 ♂ 2005.10.1210 2010.5.9 4        (2012.1.25死亡)11 2010.5.10 5 2009.6.17

ムギワラトキ

個体番号 性別 孵化年月日

クロトキ

個体番号 性別 孵化年月日個体番号 性別 孵化年月日

トキ類は形態的特徴からの雌雄の判別は難しい!!

(推定24歳) (推定18歳) (推定11歳)

(推定11歳) (推定10歳)

(推定9歳)

(推定3歳)

(推定2歳)

(推定3歳)

(推定2歳) (推定3歳)

(推定2歳)

(推定2歳)

(推定7歳)

(推定3歳)

実験2

(孵化日数 約28日)

クロトキ ♂5羽 ♀6羽 計11羽 ムギワラトキ ♂2羽 ♀2羽 計 4羽

実験2結果≪PCR法によるクロトキ・ムギワラトキの雌雄判別≫

Primer Sequences . NNsexF 5′-TCATCCACACTGGATCAGATAAAA-3′ NNsexR 5′-TTTGAATTAGTTTCATTTAGGAACTACTCT-3

1 2 3 4 6 8 9 10 11 12 13 1 2 3 4 クロトキ ムギワラトキ

L=ladder, M=male, F=female, W= W chromosome linked EE0.6

~190bp

W

F M M F F M F M F F M M F M F L

≪クロトキ・ムギワラトキの採精と染色 (3月、8月、10月、12月)≫

①希釈液 1次希釈液 Hiroshima Dilution (以下HD) 0.25ml作製

②マッサージ法、電気刺激射精法

(5~20V)で射精を促す ③精液採取(HDで希釈)

④スライド作成し、 精子の有無(精子の運動性)、観察

⑤FITC-PNA,DAPIで 精子の核と先体を染色

⑥蛍光顕微鏡で観察

実験3 ~材料・方法~

供試動物:長岡悠久山小動物園のクロトキ♂5羽・ムギワラトキ♂2羽

実験3結果(1)

3月9日 8月8日 10月9日 12月25日(マッサージ法のみ) (マッサージ法・5~15V) (マッサージ法・15V) (マッサージ法・15~20V)

クロトキ    2 × × (電気3回) ×(電気3回) ×(電気3回)

3 × × (電気3回) ×(電気3回) ×(電気2回)

8 × × (電気3回) ×(電気3回) ×(電気1回)

10 × × (電気3回) ×(電気3回) ×(電気3回)

13 × × (電気3回) ×(電気3回) ×(電気1回)

ムギワラトキ 1 × × (電気3回) ×(電気3回) ×(電気2回)

3 ○ × (電気3回) ×(電気3回) ×(電気2回)

表1.クロトキ・ムギワラトキの採精結果

※12/25採精分は電圧が強かったため電気を流す回数が少ない。

A

A .Phase-contrast image B .4’,6’-diamino-2’-phenylindole (DAPI)

C .Fluorescein isothiocyanate (FITC-PNA) D .DAPI+FITC-PNA

図5.FITC-PNA、DAPIにてムギワラトキ精子の核および先体を蛍光染色した像

C D

実験3結果(2)

まとめ

経時的運動性と先体の正常性から見て、マッサージ法による採精が 最も効果的である。 また、マッサージ法での採取が出来ない場合は電気刺激射精法 10Vが有効。

3月に採精に成功。 クロトキ・ムギワラトキは4〜5月が一番交尾を行う可能性が高い 時期で、採精には2月~5月が適している。

今後の課題として…

繁殖期に採精することや採精法に慣れさせることが必要。 繁殖期に入る前から定期的にマッサージ法・電気刺激射精法を行うことが精子採取に効果的である。

• 安定的に精子を採取する。 • 人工授精を試みる。 • 精子の凍結保存法を開発する。

トキへの 応用実験

謝辞 • 佐渡市役所 生物多様性学術研究等奨励補助金 • 長岡悠久山小動物公園 実験動物等 • 佐渡市民の皆様

ご清聴ありがとうございました