ベトナムƒ™トナム 国道5 号線改良事業 評価者:2007...

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ベトナム 国道 5 号線改良事業 評価者:2007 年ベトナム・日本合同評価チーム 1 現地調査:2007 12 1. 事業の概要と円借款による協力 事業対象地 国道 5 号線 1.1 背景 国道 5 号線は首都ハノイとその東方にある国際貿易港ハイフォンを直結する、全長 106km の国道である。この国道は 2 つの都市を結ぶ社会経済的動脈として、ベトナム北 部の道路輸送体制に最も重要な役割を果たしている。1990 年代に改革開放政策の成果 として始まった経済成長にともない、国道 5 号線における交通量は貨物、旅客ともに近 い将来大幅に増加すると見込まれていた。 他方、ベトナムでは地方道や農道の劣化は深刻な問題であった。北部地域の道路は大部 分が 1954 年以前に建設されたもので、ベトナム戦争で大きく損傷していた。こうした 状況のもと、ベトナム北部の大動脈たる国道 5 号線の改良が必要となった。 1.2 目的 本事業の目的は、首都ハノイとベトナム北部最大の国際貿易港ハイフォンを直結する国 5 号線を整備することにより、増大する貨物・旅客への対応および円滑で効率的な物 流・人流の実現をはかり、もって北部地域の貿易・産業の復興、生活水準の向上に貢献 することであった。 1 2007 年ベトナム・日本合同評価チームは三つの作業部会で構成され、各部会が異なる事業を評 価した。本事業は国道 5 号線部会により評価され、参加メンバーは以下のとおり:ド・ドゥク・ チン(運輸省第 5 国道事業管理局(PMU5)、グエン・タン・フエン(PMU5)、グエン・カン・ トアン(運輸省道路管理局)、グエン・ベト・ズン(運輸省運輸安全PMU)、グエン・クオク・ ファム(運輸安全PMU)、フィ・クアン・トラン(運輸安全PMU)、カオ・タン・プー(計画投 資省)、レ・ラム・ドン(運輸開発・戦略研究所)、グエン・ソン・アン(独立コンサルタント)、 原口孝子((株)国際開発アソシエイツ)。 1

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ベトナム

国道 5 号線改良事業

評価者:2007 年ベトナム・日本合同評価チーム1

現地調査:2007 年 12 月 1. 事業の概要と円借款による協力

事業対象地 国道 5 号線 1.1 背景 国道 5 号線は首都ハノイとその東方にある国際貿易港ハイフォンを直結する、全長

106km の国道である。この国道は 2 つの都市を結ぶ社会経済的動脈として、ベトナム北

部の道路輸送体制に最も重要な役割を果たしている。1990 年代に改革開放政策の成果

として始まった経済成長にともない、国道 5 号線における交通量は貨物、旅客ともに近

い将来大幅に増加すると見込まれていた。 他方、ベトナムでは地方道や農道の劣化は深刻な問題であった。北部地域の道路は大部

分が 1954 年以前に建設されたもので、ベトナム戦争で大きく損傷していた。こうした

状況のもと、ベトナム北部の大動脈たる国道 5 号線の改良が必要となった。 1.2 目的 本事業の目的は、首都ハノイとベトナム北部最大の国際貿易港ハイフォンを直結する国

道 5 号線を整備することにより、増大する貨物・旅客への対応および円滑で効率的な物

流・人流の実現をはかり、もって北部地域の貿易・産業の復興、生活水準の向上に貢献

することであった。

1 2007 年ベトナム・日本合同評価チームは三つの作業部会で構成され、各部会が異なる事業を評

価した。本事業は国道 5 号線部会により評価され、参加メンバーは以下のとおり:ド・ドゥク・

チン(運輸省第 5 国道事業管理局(PMU5)、グエン・タン・フエン(PMU5)、グエン・カン・

トアン(運輸省道路管理局)、グエン・ベト・ズン(運輸省運輸安全PMU)、グエン・クオク・

ファム(運輸安全PMU)、フィ・クアン・トラン(運輸安全PMU)、カオ・タン・プー(計画投

資省)、レ・ラム・ドン(運輸開発・戦略研究所)、グエン・ソン・アン(独立コンサルタント)、

原口孝子((株)国際開発アソシエイツ)。

1

Page 2: ベトナムƒ™トナム 国道5 号線改良事業 評価者:2007 年ベトナム・日本合同評価チーム1 現地調査:2007 年12 月 1. 事業の概要と円借款による協力

事後評価に適用されたロジカルフレームワーク 上位目標 1.北部地域の貿易・産業の復興

2.北部地域の生活水準の向上 事業目的 増大する貨物・旅客に対応するとともに、円滑で効率的な物流・人流を

実現すること アウトカ

ム 1.交通量の増加 2.所要時間の短縮 3.走行速度の向上 4.渋滞の低減

アウトプ

ット 1.国道 5号線の 0km~47km地点と 62km~106km地点の各区間をベトナム

基準における第一級道路として改良 2.コンサルティング・サービス(エンジニアリングおよびマネージメント)

インプッ

ト 期間:1994 年 1 月~1998 年 6 月(計画) 事業費:総事業費 273 億 7900 万円(計画)

1.3 借入人/実施機関 ベトナム社会主義共和国政府/運輸省(MOT)、第 5 国道事業管理局(PMU5) 1.4 借款契約概要

第 1 期 第 2 期 第 3 期 円借款承諾額/ 実行額

87 億 8200 万円/ 81 億 6800 万円

54 億 7000 万円/ 52 億 8100 万円

67 億 900 万円/ 52 億 7300 万円

交換公文締結日/ 借款契約調印日

1994 年 1 月 28 日/ 1994 年 1 月 28 日

1995 年 4 月 18 日/

1995 年 4 月 18 日 1996 年 3 月 29 日/

1996 年 3 月 29 日

借款契約条件 金利 - 返済 (据置)

- 調達

年利 1.0%

30 年 (10 年)

一般アンタイド

年利 1.8%

30 年 (10 年)

一般アンタイド

年利 2.3%

30 年 (10 年)

一般アンタイド

貸付完了

2000 年 2 月 7 日 2003 年 3 月 14 日 2004 年 7 月 16 日

本体契約 (10 億円以上のみ

記載)

大成建設(日本)・大成ロテック(日本)の共同企業体、フジタ

(日本)・NECCO(ベトナム)・CIENCO 1(ベトナム)の共同企

業体、住友建設(日本)・Civil Engineering Construction Corporation No.8 (ベトナム)の共同企業体

コンサルタント契

約(1 億円以上のみ

記載)

エンジニアリング:片平エンジニアリングインターナショナル

(日本)・De Leuw Cather International(米国)・Tien Phat Co. Ltd.(ベトナム)の共同企業体 マネージメント:ユニコインターナショナル(日本)・CH2M Hill- UNICO Environmental Services Inc. (ベトナム)・CH2M Hill International Ltd. (米国)・Foreign Industrial Investment Consultants(ベトナム)・KPMG Peat Marwick(日本)の共同企業体

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事業化調査 1993 年 ベトナム政府 2. 評価結果(レーティング:B) 2.1 妥当性(レーティング:a) 図 1:ベトナム北部紅河デルタ地域の国道網 本事業の実施は審査時および事後

評価時ともに、ベトナムの開発政策

/施策およびニーズと合致してお

り、事業実施の妥当性はきわめて高

い。 2.1.1 ベトナムの開発政策との整

合性 本事業の目的はベトナムの社会経

済開発計画、事業審査期間および事

後評価期間の双方における道路開

発戦略2のほか、包括的貧困削減・成

長戦略(2003 年)と方向性を同じくしている。これらの計画/戦略全体を通じ、国の

幹線道路網の開発は貧困削減および経済開発へ向けた最優先事項とされている。 2.1.2 ニーズとの整合性

図 2:ベトナムにおける輸送量

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1994

2000

2001

2002

2003

2004

2005

Milli

on p

asse

nger

0

50

100

150

200

250

Milli

on to

n

PassengerCargo

出典:GSO

国道 5 号線の開発に対する高い需要は、審査時および

事後評価時の双方における交通需要の増大に見てと

れる。 第一に、ベトナムにおける道路輸送需要は総じて高ま

っている。国道の総延長は 1 万 800km(1992 年)か

ら 41%増加し、15,202km(2004 年)となった。全国

の道路輸送量の年間成長率は、旅客・貨物ともに着実

に高まっている(図 1)。 第二に、国道 5 号線の交通量も増加しており3、交通量は 5 年以内に現在の許容能力を

超える可能性もあると予測されている。そのため、ハノイとハイフォンを結ぶ高速道路

の新設(国道 5 号線B)が計画中である4。 第三に、地域経済開発の観点から、国道 5 号線沿線の省市(ハノイ、フンイエン、ハイ

ズン、ハイフォン)はすべて工業化を促進しており、沿線の工業団地は数・投資額とも

に大幅に増加している5。

2 社会経済開発 5 カ年計画(2006 年‐2010 年)、2020 年までのベトナム運輸開発戦略における

道路輸送戦略の方向性(2004 年)。 3 国道 5 号線の実際の交通量の数値については「2.3 有効性」参照。 4 国道 5 号線B事業は 2007 年 12 月時点ではまだ事業化調査前の段階であった。同事業はBOTにて実施・運用を行う予定である。 5 工業投資に関する実際の数値については、「2.4 インパクト」参照。

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またハイフォン港およびカイラン港は貨物の増加に対応すべく、別途 JBIC の融資によ

る開発も進められている。そうした状況のもと、ベトナム北部における物流の生命線と

しての国道 5 号線の役割は、ますます重要になってきている。 2.2 効率性(レーティング:b) 本事業は、事業費については計画より低かったものの、当初計画のアウトプットに要し

た期間は計画を大幅に上回ったため、効率性についての評価は中程度と判断される。

2.2.1 アウトプット 当初計画のアウトプットは以下のとおりで、これらは計画どおり完了した。 実際に完了した当初アウトプット

- パッケージ 1(0km – 47km) – オーバーレイおよび 2車線から 6車線(0km – 6km)6または 4 車線(6km – 47km)への拡張、ならびに計 4kmのバイパス建設。

- パッケージ 2(62km – 93km) – 4 車線への拡張および計 7.5km のバイパス建設。 - パッケージ 3(93km – 106km) – 舗装および 6 車線への拡張、ならびに計 5km

のバイパス建設。 - リハビリ工事:5 カ所の中規模橋梁(30m 以上)、11 カ所の小規模橋梁、2 カ所

の鉄道交差橋および 5.84km の取付道路(上記 3 パッケージのいずれかに含まれ

る) 上記に加え、本事業では借款の未使用残を利用して下記の追加アウトプットを計画・完

了した。

当初アウトプット(ハノイ近郊の 6 車線区間およびハイフォン近郊のバイパス)

追加アウトプット(側道および歩道橋)

実際に完了した追加アウトプット

- ハイフォン市内の既存道路の改良・アップグレード(国道 5 号線からハイフォ

ン港へのコネクティビティ改善のため)。 - JBIC 調査(1999 年)からの提言を受けた補完事業例:(i) 側道/省道の建設お

よびアップグレード(100km)、(ii) 3 カ所の中規模橋梁を含む 27 カ所の橋梁建

設、(iii) 維持管理事務所の建設および道路維持管理機器の調達、(iv) 交通安全

6 第 3 期審査時、車道幅は当初の 4 車線から 6 車線へ修正された。

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施設の設置(交通信号灯など)。

本事業に含まれない区間(3 カ所の橋梁を含む 47kmから 62kmまでの合計 15km)は台

湾からの借款を利用して改良された7。 2.2.2 期間 本事業の実施計画期間は、1994 年 1 月から 1998 年 6 月までの 53 カ月であった8。しかし、

当初計画のアウトプットの完了に要した実際の期間は、1994 年 1 月から 2002 年 1 月までの

85 カ月、すなわち計画の 160%であった9。追加アウトプットを実現するための補完事業は

2005 年に完了した。 遅延はおもに、用地取得プロセスの遅れが原因であった。3 つの建設パッケージにおけ

る用地取得の遅延期間は、それぞれ 27 カ月、15 カ月、38 カ月であった。本事業はベト

ナムにとって初の、大規模な用地取得をともなう事業であったため、PMU5 や地方政府

など先導する組織の能力を考えると、当初計画は現実的でなかった。結果的に、建設作

業と用地取得が一部の区間で同時進行する形で実施された。これで工期は短縮されたが、

マネージメント面で混乱が生じた。エンジニアリング・コンサルタントは PMU(プロ

ジェクト管理体制)と省(地方政府)に提言し、工程を取り戻すべく一部の区間で技術

面の修正を行った。 用地取得の他に、次に挙げる事業マネージメント関連要因が実施期間に影響した。 ①PMU は、入札書類の記載内容と異なる人員/機器を配属/調達した一部のコントラ

クターに対し、是正措置をとらねばならなかった。②PMU はこのような大事業の実施

経験がなかったため、事業を進める一方で事業マネージメントも学ばなければならなか

った。 2.2.3 事業費 総事業費の当初見積りは 273 億 7900 万円10であったが、実際の事業費は 223 億 4300 万

円、すなわち当初見積りの 82%であった。事業費が予定を下回った理由として、次の

点が挙げられる。①競争入札による効率的な発注②本事業はベトナムでは初のJBIC大規

模インフラ事業の一つであったため、建設単価の見積りが比較的高かったこと③現地通

貨の減価。

7 台湾の事業の情報については、「2.3 有効性」の脚注 12 も参照のこと。 8 ここでの「計画期間」は、第 1 期審査時ではなく第 3 期審査時に修正されたスケジュールに基

づくが、それはベトナム側評価チームが第 1 期~第 3 期までをあわせてひとつのプロジェクト

と考えているためである。第 3 期の審査は詳細設計段階の直後に実施され、実際の工期の遅れ

は考慮していない。したがって、計画期間についてのこの考え方は、事業期間に対するレーテ

ィングを歪曲するものではない。 9 貸付実行期限は次の通り延長された。

第 1 期 (VNI-4): 1999 年 2 月 1 日から 2000 年 2 月 7 日まで 1 年間延長 第 2 期 (VNII-4): 2000 年 9 月 14 日から 2003 年 3 月 14 日まで 2 年 6 カ月延長 第 3 期 (VNIII-4): 2001 年 7 月 26 日から 2004 年 7 月 26 日まで 3 年間延長

10 第 3 期審査時の費用見積り。

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2.3 有効性(レーティング:a) 本事業の実施により、おおむね計画どおりの効果発現が得られ、有効性は高い。 2.3.1 交通量の増加

図 3:国道 5 号線における交通量

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

Baseline1993

Actual2006

PC

U/d

ay

TruckBusVanCar

Target for 2008

出典:VRA

図 3 および表 1 では、国道 5 号線における交通

量の基準値、計画値および実測値を示している。

2006年の実際の交通量は 1日あたり 1万 920台、

すなわち 1 日あたり 1 万 9781 PCU11で、これは

1993 年の交通量(2,912 PCU)の 6 倍を超え、

2008 年の目標(1 万 9204 PCU)の 103%に相当

する。注意すべき点として、これらの数値は自

動車のみの数値である。これに加え、2006 年に

は 1 日あたり 5 万 9486 台のオートバイ(1 日あ

たり 1 万 7846 PCUに相当)がカウントされた。

表 1:国道 5 号線における交通量(単位:PCU/day) 乗用車 バン バス トラック 車両合計 基準値(1993 年)(28km) 1,034 291 281 1,306 2,912 計画値(2008 年)(28km) 4,319 1,215 1,381 12,289 19,204 実測値(2006 年)(9km) 4,788 1,499 4,539 8,955 19,781 計画年間増加率 10% 10% 11% 16% 13% 実際の年間増加率 13% 13% 24% 16% 16%

出典:基準値および計画値は TEDI より、実測値は VRA より。 注 : 基準値および計画値(28km)と同じ場所での実測値を入手できなかったため、最も近い場所(9km)について入

手できた実測値を用いた。いずれの場所もハノイからフンイエン省中心部へ向かう途中にある。

2.3.2 所要時間の短縮

国道 5 号線の旧道(左)とバイパス(右)

実施機関によると、ハノイとハイフォン間の所要

時間は本事業前の 5 時間から、本事業後は 2 時間

に短縮され、平均走行速度は本事業前の 24~30km/h から、本事業後は 50~60km/h へと向上し

た。事後評価についてインタビューした数社の貨

物・旅客輸送業者も同様の意見であった。評価者

も事後評価のため国道 5 号線を通過してみたと

ころ、ハノイ市内の起点とハイフォン港付近の区

間以外では交通が円滑であることを確認した。実

際、本事業(すなわち自動車道の拡幅、自動車と

軽車両の分離、他の幹線道路との交差点の改良)により、かつては 1 車線か 2 車線の道

路に車両、自転車、歩行者が混在していた国道 5 号線の交通効率性が大幅に向上したこ

とはきわめて明白である。 本事業のほかにも交通の円滑化に寄与した要因として①台湾の借款による道路橋の新

設12、②他のドナーの支援による省道網の開発、などが挙げられる。

11 次に挙げる係数を適用して乗用車換算台数(PCU)を算出した:乗用車 = 1.00、小型トラッ

ク = 1.25、中型トラック = 2.25、大型トラック(3 車軸) = 3.00、大型トラック(4 車軸以上) = 4.00、ミニバス = 1.50、バス = 3.00、三輪簡易トラック = 1.25。 12 台湾の事業では 47km~62km地点の区間を拡幅し、同区間に 3 カ所の道路橋を建設した。同事

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図 4:国道 5 号線沿線住民の満足度

(単位:%)

44%

80%

46%

13%

10%

7%

Male(n=63)

Female(n=15)

Very satisfied Somehow satisfied Not much satisfied

出典:受益者調査

2.3.3 受益者の満足度 満足度調査によると、国道 5 号線沿線住

民は概して本事業に満足しており、調査

対象者 78 名中、女性回答者の 93%およ

び男性回答者の 80%が、改良された国道

5 号線に「非常に満足」または「満足」

していると答えた(図 4)。一方、彼らか

ら多数のマイナスの事項も指摘されたが、

それらについては「2.4 インパクト」で提

示する。 2.3.4 経済的内部収益率(EIRR) 審査の際、本事業のEIRRは 16.2%と計算された。費用は事業費および維持管理(O&M)

費の推定額、便益は車両運用費用(VOC)および走行時間費用(TTC)の節約額であっ

た13。事後評価では同じ費用・便益項目を用い、実績値を適用してEIRRを再計算したと

ころ、再計算値は 20.45%となった14。 EIRRが計画より高くなった理由として次の点が挙げられる。すなわち、①情報不足の

ため、VOCおよびTTC単価の計算方法が審査時と異なったこと15、②審査時の推定より

交通量の増加ペースが速かったこと、③事業費が計画を下回ったこと、である。 2.4 インパクト 本事業は国道 5 号線沿線の省の工業化を支え、その結果、北部地域の経済発展や貧困削

減に貢献した一方、周辺住民にとっての不便や交通事故などマイナスの変化も生じてい

る。 2.4.1 北部地域の産業・貿易の復興 現在、ベトナムの経済成長は 1990 年代前半の「ドイモイ(刷新)」政策後の第 1 次ブー

ムに続く第 2 次ブームにある。2000 年代における国道 5 号線沿線の省の経済の上昇傾

向は、次に挙げる数値に見てとれる。

① GDP 成長率が全国水準より高く、特に工業セクターでは顕著である。

(表 2) ② 企業数が倍以上に増えた。(表 3) ③ 既存の 4 工業団地(ハノイに 1 カ所、ハイフォンに 3 カ所)に加え、あ

らたな工業団地が国道5号線沿線に誕生した。(フンイエン省に3カ所、

業以前は古い橋梁を車両と鉄道が共用しており、国道 5 号線における最も激しい渋滞の原因と

なっていた。同事業は 1997 年に完了し、通行が開始された。 13 プロジェクトライフは 20 年間と想定された。 14 この計算には、道路面の耐用年限にあたる事業完了後 11 年目の再投資費用を含む。審査時の

計算と同様に再投資費用を除くと、再計算値は 21.16%となる。 15 単位費用節約率は、JBIC/IDCJによる北部交通インフラ事業インパクト評価(2003 年)から適

用した。

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ハイズン省に 5 カ所)16 ④ 工業団地の開発と連動して、外国直接投資(FDI)が増加した(図 5) ⑤ 結果、企業から省への税収も大幅に増加した。

改良された国道 5 号線は交通の増加や円滑化を可能にすることで、そうした傾向を支え

てきた17。このことは省人民委員会、民間企業、商工会議所、受益者調査でインタビュ

ーした周辺住民など、さまざまなステークホルダーにも指摘されている。たとえば、本

事業後に国道 5 号線沿線で事業を開始した回答企業はすべて(新設工業団地の運営者も

含め)、現在の場所を選んだ最大の理由は国道 5 号線を経由する良好なアクセシビリテ

ィにあると答えた(受益者調査の概要については囲み 1 参照)。

表 2:2003 年~2006 年の年間 GDP 成長率(1994 年は固定価格) 全国 ハノイ フンイエン省 ハイズン省 ハイフォン 合計 7.9% 11.3% 12.27% 11.7% 11.3% 工業 10.4% 18.3% 20.45% 13.3% 15.8% 農業 3.9% 2.2% 4.49% 4.4% 3.2% サービス業 7.6% 7.4% 15.17% 12.3% 8.7%

出典:省統計年鑑 注 :フンイエン省の数値は 2001 年~2005 年の平均年間成長率。ハノイの数値は 2003 年の年間成長率。

表 3:企業数の推移 図 5:FDI の登記資本金

2000年 2004年 伸び率ベトナム 42,288 91,755 117%ハノイ 4,691 15,068 221%フンイエン省 224 552 146%ハイズン省 507 1,123 121%ハイフォン 1,089 2,625 141%

出典:GSO

0

200

400

600

800

millio

n U

SD

2000 2002 2004 2006

Hung Yen Hai Duong Hai Phong

出典:省統計年鑑

国道 5 号線沿線の既存の工業団地

(ハイフォン市) 国道 5 号線沿線に新設された工業

団地(ハイズン省) 農地を工業用地向けに収用された人々のために衣類工場を設立した地元住民

16 建設中のものも含む。工業団地(Industrial Park)の他にも多数の工場群(Industrial Cluster)が国道 5 号線沿線に出現した。工業団地や工業集団内の企業の大部分が衣類、食品加工、小型

機械、電子部品といった軽工業企業である。 17 国道 5 号線以外に工業の発展を促進した要因として、2000 年の外国投資法改正、2001 年のベ

トナム・米国貿易協定の施行、2002 年の企業法制定など、法的枠組みの発展も挙げられる。

8

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フンイエン省やハイズン省の産物を販売するハイフォン市内の市場

日本の FDIは 1988年以降の累積資本に関して言え

ば、2006 年時点で第 3 位の規模である。近年の日

本の FDI は、ベトナムの中部や南部地域より北部

地域向けのものが多い。JETRO によると、北部地

域における近年のインフラ開発は、国道 5 号線を

含め、そうした傾向にかなり貢献してきた。現在

およそ 120社の日本企業がハノイ、フンイエン省、

ハイズン省、ハイフォンで操業している。 本事業が地域経済にもたらしたプラスのインパク

トは、他の幹線道路、地方道、ハイフォン港など

の国道 5 号線に接続する輸送インフラの開発によって強化された。ハイフォン港におけ

る貨物取扱量は急増しており、特に輸出向け貨物が顕著である(表 4)。また、本事業

前は村落であったハイフォン市内の国道 5 号線新設区間に、あらたな市街地が誕生した18。ハイフォン市は、これらの区間にあらたな連絡道路を開設した。

表 4:ハイフォン港の貨物取扱量 (単位:千トンおよび前年比%)

全主要港 1995 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 合計 14,488 84,556 (484%) 95,060 (12%) 105,093 (11%) 119,874 (14%)輸出 3,737 20,313 (444%) 27,510 (35%) 33,042 (20%) 39,965 (21%)

ハイフォン港 1995 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 合計 4,515 12,733 (182%) 13,207 (4%) 14,043 (6%) 17,207 (23%)輸出 493 1,399 (184%) 1,543 (10%) 1,993 (29%) 2,698 (35%)

出典:GSO、Vinamarine 注 :2003 年の%は 1995 年~2003 年の成長率。

経済的インパクトは、①投資に対する法律・行政環境や②国道 5 号線の交通マネージメ

ント、この 2 点について開発がさらに進めば最大限に高められる。1 点目に関し、省別

競争力指数(PCI)ランキング19では、輸送インフラが比較的良好に整備されているに

もかかわらず、ハノイ、フンイエン省、ハイズン省、ハイフォンは上位に格付けされて

はいない。 2 点目に関し、受益者調査から明らかになったのは、事業施設の設計や人々の利用法が

他の利用者にとっては適切でない場合があるということである。この問題については、

「2.4.4 本事業によってもたらされたマイナスの変化」および【囲み 1】で詳しく説明す

る。

2.4.2 農産物の流通改善 すでにふれたように、国道 5 号線沿線の省は工業化を促進し、またその結果、農地も農

業人口も減少している。とはいえ、上記の表 2 は 2000 年代に農業生産高が適度に増加

していることを示している。

18 チョーハン・フライオーバー周辺‐ドンハイ・インターチェンジおよびディンボー港湾区域。 19 PCIはUSAID支援事業によって始められた。すべての省/市を、参入コスト、土地アクセス、

借地借家権の安定、透明性や情報へのアクセス、規制遵守の時間コスト、インフォーマルな負

担、国・セクターによる偏りなどの項目別指数をもとに毎年指数化するものである。

9

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受益者調査では、農業従事者と省人民委員会の回答者がいずれも農産物の流通が強化・

拡大していると指摘しており、それはたとえば村落を訪れる中間業者が現在増加してい

ること、あらたに操業を開始した食品加工会社への農産物販売の開始/増加や、陸路(中

国向け)や海路での農産物輸出の増加等に見てとれる。 2.4.3 北部地域の生活水準の向上 国道 5 号線沿線の省が属する紅河デルタ地域の貧困率は、全国水準と同様に低下してい

る(図 6)。またこれらの省の 1 人あたりGDPは、全国平均を上回るペースで増加して

いる(表 5)20。 そうした貧困削減効果は、この地域の経済発展によるものと考えられる。本事業後、国

道 5 号線沿線であらたに開設された工場は、かつては農業従事者あるいはベトナム中心

部への移民労働者であった多数の地元住民を雇用した。2006 年にはフンイエン省の製

造業セクターで合計 8 万 3453 名、ハイズン省で 13 万 4846 名が雇用された21。

図 6:一般貧困率 (単位:%)

表 5:1 人あたり GDP (単位:千 VND、%)

0

10

20

30

40

2002 2004

Wholecountry

Red RiverDelta

出典:GSO

全国 紅河デルタ

ハノイ フンイエン省

ハイズン省

ハイフォン

2006 年 5,051 6,220 11,600 5,284 5,440 8,716

2000 年-2006 年の年間平均成長率

8.7% 15.2% 11.8% 18.4% 16.0% 15.5%

出典:省統計年鑑

国道 5 号線はベトナムの主要幹線道路のひとつであるため、本事業の受益者数の推定は

困難である。しかし、2006 年のフンイエン省、ハイズン省、ハイフォン市の合計人口

に相当する 467 万 8000 人を超える人々が、ハノイやハイフォンへのアクセスが向上し

たことの恩恵にあずかったのではないかといえる22。 2.4.4 本事業によってもたらされたマイナスの変化 受益者調査では、交通事故、道路を横断しづらいこと、排水不良といったマイナスの変

化が住民、企業、人民委員会から頻繁に指摘された。 交通事故の問題に関し、JBICは事業実施期間中に調査を行い、その調査に基づく提言の

多くを、本事業の追加アウトプットとして具体化した23(「2.2 効率性」参照)。にもかか

20 2003 年にJBICが行ったインパクト調査によると、フンイエン省およびハイズン省では国道 5号線沿線地区の貧困率減少が他の地区より速かった。また紅河デルタ地域の省でも、1 人あたり

GDPの増加は他の省より国道 5 号線沿線の省の方が速かった。 21 彼らはフンイエン省およびハイズン省それぞれにおいて、労働人口の 14%および 19%を占め

る。 22 紅河デルタ地域の総人口は 1828 万 6000 人(2006 年)、全国人口は 8415 万 6000 人である。 23 JBICの調査は 1999 年に実施され、目的は国道 5 号線の安全状況に関する問題点を特定・分析

し、本事業の持続性を強化するための対策を提言することであった。この調査に基づく提言と

して次の事項が挙げられる:①マネージメント体制の改善、②交通安全施設の設置、③側道や

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わらず、受益者調査回答者の大部分は、本事業後にスピード超過、無理な横断、道路設

計のまずさ(例:不適切なフェンス、狭すぎる自転車通行帯、不便な歩道橋など)が原

因で事故が増えていると述べた。表 6 を見ても、国道 5 号線での事故発生頻度が他の幹

線道路より高いことがわかる。国道の維持管理を担当する運輸省道路管理局(VRA)に

よると、スピード超過が国道 5 号線での事故原因の 93%を占めている一方、他の幹線

道路では 60%~70%であった24。国道 5 号線での事故が今なお増加している原因のひと

つに、本事業の前後での国道 5 号線における交通の変化はきわめて大きかったが、住民

がその変化に対し自らの行動を十分適応しきれずにいることが考えられる。

表 6:交通事故件数全国での事故件数

1994 年 2000 年 2001 年 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年

ベトナム 13,118 22,486 25,040 27,134 19,852 16,911 14,141

道路 1km あたり事故件数 1999 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年

NH-3 該当なし 2.4 2.1 1.8 1.8 国道 5 号線 2.4 3.4 3.6 4.2 4.2

NH-10 該当なし 1.0 1.5 1.2 1.2 NH-18 該当なし 1.0 1.2 0.9 0.9

出典:JBIC インパクト調査(2003 年)および NTSC

近年、国家交通安全委員会(NTSC)は幹線道路での交通安全を推

まな対策を講じており、たとえばすべてのオートバイに対するヘル

に関する法制(2007 年 12 月から)や、外部の支援によるさまざま

げられる25。

交差点の施設の改善、④交通法規の流布、⑤安全教育および啓蒙運動、24 国道 5 号線以外の幹線道路では、無謀運転が事故原因の 14%~20%を25 現在進行中の交通安全事業の例として、世界銀行・ベトナム交通安全

改善事業(JBICの借款)、ハノイでのJICAの技術協力事業などがある。

11

ヘルメット着用義務付けに関するポスター

進するためのさまざ

メット着用義務づけ

な交通安全事業が挙

⑥法執行の改善。 占める。 事業、JBICの交通安全

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囲み 1:受益者調査の概要囲み 1:受益者調査の概要 事後評価チームは、下記の形態の受益者調査をフンイエン省、ハイズン省、ハイフォン市で実施した。事後評価チームは、下記の形態の受益者調査をフンイエン省、ハイズン省、ハイフォン市で実施した。 ① 住民フォーカスグループ(FG)。5 回の会合に延べ 94 名の住民が参加した。各回のフォーカスグループの所要時間は 1 時間半から 2 時間ほどとし、下記の 3 つの活動を行った。 ① 住民フォーカスグループ(FG)。5 回の会合に延べ 94 名の住民が参加した。各回のフォーカスグループの所要時間は 1 時間半から 2 時間ほどとし、下記の 3 つの活動を行った。

- 質問「国道 5 号線の改良であなたの生活はどのように変わりましたか」に関する討議。 - 質問「国道 5 号線の改良であなたの生活はどのように変わりましたか」に関する討議。 司会者(補助調査員)は各参加者に、質問に対する回答を用紙に記入し、それについて他のグループメンバーと討議するよう求めた。参加者全員が、プラス・マイナス両面のさまざまな回答を提供した。

司会者(補助調査員)は各参加者に、質問に対する回答を用紙に記入し、それについて他のグループメンバーと討議するよう求めた。参加者全員が、プラス・マイナス両面のさまざまな回答を提供した。

- 最も重要な変化のランキング(投票)。次に司会者は各参加者に、最も重要な「変化」1 つ、2つまたはたは 3 つに対し、1 人 3 票を配分して投票するよう求めた。比較的多くの票を集めた項目として、アクセシビリティ/モビリティの向上、雇用と所得の増加、交通事故の増加、道路を横断しづらいこと、排水不良が挙げられる。

- 最も重要な変化のランキング(投票)。次に司会者は各参加者に、最も重要な「変化」1 つ、2つまたはたは 3 つに対し、1 人 3 票を配分して投票するよう求めた。比較的多くの票を集めた項目として、アクセシビリティ/モビリティの向上、雇用と所得の増加、交通事故の増加、道路を横断しづらいこと、排水不良が挙げられる。

- 満足度調査。司会者は「あなたは新しい国道 5 号線に満足していますか」という質問に 5 段階評価で答える回答用紙を配布した。結果は上記図 4 に示されている。

- 満足度調査。司会者は「あなたは新しい国道 5 号線に満足していますか」という質問に 5 段階評価で答える回答用紙を配布した。結果は上記図 4 に示されている。

② 企業との半構造型インタビュー(SSI) -- 工業団地開発業者 2 社、輸送業者 2 社、製造業者(衣類、電気回路、LPG、プラスチックドア)5 社の計 9 社。すべての新規企業にとって、本事業は現在の場所で創業した最大の理由であった。新規企業も本事業前からの既存企業も、アクセシビリティ/モビリティの向上でコストが削減され収益が増えたと述べた。しかし、すべての回答者が多数のマイナス要因を指摘し、たとえば歩行者、自転車、オートバイの無理な道路横断による交通事故、不十分な側道に起因する工業団地周辺の交通渋滞などが挙げられた。

② 企業との半構造型インタビュー(SSI) -- 工業団地開発業者 2 社、輸送業者 2 社、製造業者(衣類、電気回路、LPG、プラスチックドア)5 社の計 9 社。すべての新規企業にとって、本事業は現在の場所で創業した最大の理由であった。新規企業も本事業前からの既存企業も、アクセシビリティ/モビリティの向上でコストが削減され収益が増えたと述べた。しかし、すべての回答者が多数のマイナス要因を指摘し、たとえば歩行者、自転車、オートバイの無理な道路横断による交通事故、不十分な側道に起因する工業団地周辺の交通渋滞などが挙げられた。 ③ 人民委員会との SSI‐フンイエン省、ハイズン省、ハイフォン市の人民委員会。ベトナム商工会議所(VCCI)ハイフォン支部とのインタビューも行われた。インタビュー対象者は全員、本事業が地元経済や貧困削減に与えたプラスのインパクトを是認した。また、省道網の開発が本事業の便益を増進するであろうという点も強調された。マイナス要因に関しては、交通事故に対し特に懸念が表明された。提言としては高架交差路の建設、中央フェンスの改善、道路利用者の意識喚起などの案が出された。

③ 人民委員会との SSI‐フンイエン省、ハイズン省、ハイフォン市の人民委員会。ベトナム商工会議所(VCCI)ハイフォン支部とのインタビューも行われた。インタビュー対象者は全員、本事業が地元経済や貧困削減に与えたプラスのインパクトを是認した。また、省道網の開発が本事業の便益を増進するであろうという点も強調された。マイナス要因に関しては、交通事故に対し特に懸念が表明された。提言としては高架交差路の建設、中央フェンスの改善、道路利用者の意識喚起などの案が出された。 今回適用した手段は定量的というよりむしろ定性的であるが、個別の回答者に対する調査よりも短い時間で受益者の認識を正確に把握するうえで功を奏したと結論づけられる。 今回適用した手段は定量的というよりむしろ定性的であるが、個別の回答者に対する調査よりも短い時間で受益者の認識を正確に把握するうえで功を奏したと結論づけられる。

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2.4.5 環境インパクト 大きな村落を迂回するバイパスの建設が計画されていたことから、審査時には、騒音な

ど重大な環境インパクトは見込まれていなかった。実施期間中も、環境問題にはあまり

関心が払われなかった。環境インパクト評価(EIA)は本事業については実施されなか

ったが、それは 1995 年に EIA 制度が施行される前に、事業化調査を実施済みだったか

らである。 しかし、事後評価の調査対象となった一部の住民は、本事業によってもたらされた変化

として粉じん、騒音、振動の問題に言及した。省政府から入手した最近の環境モニタリ

ング結果によると、包括的データはなかったものの、浮遊粉じんや騒音の水準が国道 5号線沿線の一部の場所で国家基準を超えていた26。省政府はこれらの問題を認識し、道

路沿いに木を植える、あらたに計画される学校/病院は国道 5 号線から多少離れた場所

に配置するといった措置を講じている。 2.4.6 用地取得・住民移転のインパクト 当初の計画では、6628 世帯が住む約 175 万m2の用地が本事業向けに取得され、2700 世

帯が本事業で開発される移転地へ引っ越す予定であった。移転地の開発に際し、道路、

上水道、排水、電力供給といった基礎インフラの整備も計画された。省政府およびその

管轄下にある県やコミューンは、PMUの監督のもとで用地取得および住民移転実行計

画の立案と実施に責任を負っていた。しかし、かかる計画に関する包括的な記録はこれ

らの組織から入手できなかった。 すでにふれたように、用地取得および移転プロセスは遅延した。また、建設作業の最終

段階に至るまで、一部の移転地でインフラが不完全であったために、補償や不便さを巡

る争議が起こった。そのような混乱した状況の中、計画のプロセスや結果は適正に記録

されなかった。省政府には過去に同様の経験がないことや、明確な遂行部門のない弱い

組織構成、また本体工事と用地取得・移転プロセスとの調整不足の結果、実行計画の実

践が不十分になり、PMU は建設スケジュールを遵守することができなかった。 しかし、補完事業の実施にあたっては、PMU と省政府は前述した経験から、用地取得・

移転プロセスは時間がかかるものであることや、建設スケジュールとの密接な調整をは

かった慎重な計画立案およびプロセス監視の必要性を含め、さまざまな教訓を学んでい

た。また記録作業も改善し、追加アウトプットの工事に関しては 1 万 60 名の人々と 1378世帯がそれぞれ用地取得や移転による影響を実際に受けたことが報告書に明記されて

いる。プロセス自体も、当初アウトプットの場合より円滑に進行した。 事後評価時、市街地の中心部近くに設けられた移転地を現地視察したところ、特に問題

は見受けられなかった。

26 たとえば、フンイエン省のモニタリングデータは、国道 5 号線の一部のジャンクションで浮

遊粉じん水準が国家基準(TVCN 5937、1995 年)の 1.2 倍~2.3 倍に達し、騒音水準が基準値の

75 dBA(TVCN 5949、1995 年)より高いことを示している。化学物質の指標(CO2、NO2、SO2

など)は基準値より低い(TVCN 593701995)。ハイズン省では、騒音水準は国家基準を満たし

ている。粉じんや化学物質の測定結果は不明である。

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2.4.7 技術者の能力開発 事業実施期間中、延べ 42 名の技術者が海外研修(日本、タイ、マレーシア、シンガポ

ール)を受け、他にも多数がベトナム国内で研修を受けた。彼らは本事業を通じ、数々

の新技術を習得した27。 2.5 持続性(レーティング:b) 維持管理(O&M)への予算配分が必要額より少なく、道路面に多少損傷が見受けられ

るものの、実施機関および維持管理機関の能力に問題はないようである。したがって、

本事業の持続性は中程度と評価される。 2.5.1 実施機関 2.5.1.1 運営・維持管理の体制 国道 5 号線の維持管理のための組織体系には、急を要する問題

は見受けられない。他の道路開発/改良事業同様、国道 5 号線

の道路および関連施設(信号機、照明、フェンス、側道など)

は完成後に運輸省道路管理局(VRA)へ引き継がれた。実際の

維持管理業務は、VRA の地方道路管理局 II(RRMU II)傘下

の地方道路管理会社(RRMC)である Company No. 240 が担当

する。

Company No. 240 の建物 (本事業の追加アウトプットとして建設)

役割分担と意思決定の流れは明確で、政府の規則にそっている。

毎年、Company No. 240 は道路状況調査の結果をもとに、翌年

の保守作業計画案を VRA(RRMU II)に提出する。VRA はこ

の案を再検討し、保守計画を決定する。 しかし、より広い見地からは、投資計画、建設、維持管理を含む総体的な道路管理に責

任を負う道路行政機関が存在しないことは、より効率的かつ効果的な維持管理体制の実

現にとって弱点であるという主張もある28。 2.5.1.2 運営・維持管理における技術 維持管理要員の数および技能水準は十分である。Company No. 240 は 114 名の技術者と

250 名の常勤保守作業者を擁し、国道 5 号線の調査、計画および維持管理を行っている。

同社は Road Technical School(道路技術学校)の卒業生のみ採用することにより、保守

作業者の一定の技術水準を保っている。PMU によると、維持管理要員の数は十分であ

る。 維持管理要員の訓練は十分である。Company No. 240 の技術者は、維持管理機器の操作

27 PMUによると、新技術の例として次のものが挙げられる:①バランスカンチレバー橋による

大スパン・ストレストコンクリート橋の建設、②強化擁壁の建設、③ジオテキスタイル、ウイ

ックドレイン、圧縮沈下への負荷による軟質地盤の処理、④20x20 の強化コンクリート打設、⑤

軟質地盤上の硬質層の形成、⑥処理された高い盛土斜面への多層のテクニカルワイヤーの使用、

⑦強化コンクリート・プレテンションによる箱型梁の建設、⑧ジオコンポジット膜法の応用 28 ベトナム政府計画投資省、運輸省および日本政府外務省(2006 年)。ベトナム社会主義共和国

の紅河デルタ地域運輸交通インフラ開発のための円借款プログラムに関するベトナム・日本合

同評価:最終報告書。

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について、本事業のコントラクターから訓練を受けた。Company No. 240 の保守作業者

は同社から訓練を受け、彼らの技術水準は7段階の職務等級で評価されている。Company No. 240 も、維持管理要員の技術水準に問題は見られないとコメントしている。 特定のメンテナンス・マニュアルはなく、政府規制のみが用いられている。Company No. 240 では運輸省の決定および規則である「道路維持管理に関するガイドライン」のみを

使用しているが、問題があるとは見なされていない。 2.5.1.3 運営・維持管理における財務 維持管理予算は財務省から VRA へ毎年配分される。財源は政府予算と通行料金収入か

らなっており、両者の割合は 2006 年の場合で 7:3 であった。道路維持管理基金の設置

に関し多数の調査や提言がなされているものの、道路の維持管理向けの個別財源はまだ

確保されていない。 維持管理予算の総額は増加しているが、すべての道路をまかなうには不十分である。

VRA によると、維持管理に対する実際の支出は要求の 50%~60%しか満たしていない。

PMU によると、この比率は 70%である。

表 7:国道 5 号線関連の料金収入および O&M 支出 (単位:百万 VND)

2004 年 2005 年 2006 年 国道 5 号線での徴収通行料金 564,867 595,319 618,716 うち、政府予算への拠出分 407,710 432,894 467,674 国道 5 号線向け O&M 支出 10,308 10,549 28,998 うち、マネージメントおよび定期補修 6,431 7,127 10,021 日常保守 3,877 3,422 18,977

出典:VRA 注 : 財務省ガイドラインによると、徴収料金の 5%が近代化基金向け、15%が料金徴収業務向けに VRA で管理され、

80%が財務省へ配分される(すべて維持管理向けに VRA へ払い戻される)。

2.5.2 運営・維持管理状況 維持管理計画の内容や実務には特に重大な問題は見られない。日常保守計画が実施され、

スペアパーツは毎年購入されているが、特に問題は報告されていない。本事業により調

達されたメンテナンス機器は、十分に活用されている29。しかしPMUによると、一部の

欠陥は迅速な修理を受けていないとのことである。

維持管理作業の写真

路面や道路施設の状態はおおむね良好であるが、損傷が

見受けられる箇所もあり、過積載トラックが原因と見ら

れる。本事業区間の設計強度は 60 トントラックが上限

であるが、近年の貨物の大型化傾向に伴い、総重量が

100 トンに達するトラックが国道 5 号線を通過する例す

らある。しかし、通過するトラックの重量を定期的にチ

ェックしているわけではないため、実際の過積載の度合

いに関するデータはない。Company No. 240 によると、

29 Company No. 240 とインタビューを行った日には、評価者はどの機器も見ることができなかっ

たが、これはハイズン省やその他の場所で使用中だったためである。

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ハイフォンからハノイ方面への車線の損傷は反対車線よりひどく、それはハイフォンか

ら来るトラックは荷物を満載していることが多いためである。 ADBが開発しVRAおよび下部機関へ導入された道路管理ソフトウェア30が、調査および

報告の効率性を高めている。このソフトウェアは道路状態に関する調査・報告、維持管

理計画の立案に利用される。Company No. 240 にはこのソフトウェアを扱うオペレータ

ーが 1 名配置されている。別のRRMUに所属するオペレーターによると、データ処理と

報告が以前より迅速化されたとのことである。 3. 結論、教訓および提言 3.1 結論 上記の所見から、本事業の評価は高いと言える。 3.2 教訓 3.2.1 事業計画および設計段階にかかる教訓 国や地域にとって重要な幹線道路を改良する事業の有効性や持続性を増進するには、

F/S および設計段階で輸送に関する予測を徹底的に行う。それにより、改良後の道路が、

沿道のビジネス活動の増大にともなって拡大が予想される交通・輸送需要にも適応でき

るようにすべきである。 同時に、地元住民に対するマイナスのインパクトを避けるため、事業後の幹線道路にお

ける交通状況の変化が周辺地域の地元の輸送に及ぼすインパクトに十分配慮する。そう

したインパクトの緩和策は、当該地域における現在の、また将来予測される地元の輸送

パターンに基づいて立案されるべきである(例:歩道橋の適切な配置、側道、地下道な

ど)。

3.2.2 用地取得および住民移転にかかる教訓 地方政府の能力向上のため、用地取得および移転は、省政府をプロジェクト・オーナー

として権限を付与したサブプロジェクトと位置づけるべきである。それにより、省政府

は適切な実施部門の設置・管理を主導し、経験を積むことができると思われる。また、

主要事業と用地取得・住民移転サブプロジェクトの関係を明確することにより、主要事

業の PMU は体系的かつ一貫性のある方法でプロセスを監視・管理できるようになる。 3.2.3 事業マネージメントにかかる教訓 効率性を高めるため、事業マネージメントにおいては入札書類に記載されたのと同じ質

/仕様を持つ人員および機器が調達されるよう、コントラクターの質や能力(技術面と

財務面)を注視する必要がある。また PMU が類似事業の実施経験をもたない場合、事

業マネージメント面での十分な訓練を幹部スタッフ向けに行うべきである。 3.3 提言 3.3.1 交通安全促進のための提言 30 このソフトウェアの導入にあたっては、国道網改良のための運輸セクター借款に関する 2006年の調査を通じて、JBICも支援を行った。

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交通事故を減少させるため、VRA は立体交差等を整備するとともに、あらゆる種類の

マスメディアを通じて定期的に交通安全推進運動を行うべきである。NTSC や地元当局

に加え VRA がこの任務に適切な理由は、VRA が道路管理の責任を直接負っており、し

たがって交通事故の発生原因をよく理解しているという点にある。また路面の損傷を最

小限に抑えるため、大型車両の計量を行い、重量制限の取り締まりを強化すべきである。 3.3.2 維持管理向上のための教訓 VRA は持続性を確保すべく、適切な幹線道路維持管理作業の継続に尽力すべきである。

加えて、ベトナム政府は道路維持管理のための個別予算(道路維持管理基金など)の設

置を引き続き検討すべきである。

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主要計画/実績比較

項目 計画 実際

アウトプット ① 国道5号線の道

路および橋梁の改良

② コンサルティ

ングサービス

- オーバーレイおよび2車線か

ら6車線(0km – 6kmおよび93km-106km)または4車線

(6km – 47kmおよび62km – 93km)への拡張

- 3カ所のバイパス建設:合計16.5km

- リハビリ工事:5カ所の中規模橋梁(30m以上)、11カ所の小規模橋梁、2カ所の鉄道交差橋および5.84kmの取付道路

エンジニアリング 2,496MM

マネージメント 98MM

計画どおり

計画どおり

計画どおり

追加アウトプット: - ハイフォン市内の既存道路

の改良・アップグレード - 補完事業例:①側道/省道の建設およびアップグレード

(100km)、②3カ所の中規模橋梁を含む27カ所の橋梁建設、③維持管理事務所の建設および道路維持管理機器の調達、④交通安全施設の設置(交通信号灯など)

エンジニアリング 2,813MM

マネージメント 98MM 期間

1994年1月~1998年6月 当初アウトプット: 1994年1月~2002年1月

追加アウトプット: 1994年1月~2005年

事業費 外貨 内貨 総事業費 円借款対象部分 交換レート

90億9200万円

182億8700万円 (1兆8280億 VND)

273億7900万円 209億6100万円 1 VND= 0.01円

(1995年時点)

80億5700万円

142億8600万円 (1兆5870億 VND)

223億4300万円 180億4700万円

1 VND = 0.009円 (1995年~2005年平均)

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