『人事の定量分析』(林 明文)のエッセンス
TRANSCRIPT
『人事の定量分析』(林 明文)のエッセンス
このパワーポイントについて
『人事の定量分析』(林 明文)が面白かったので、各章のポイントをまとめてみました。
本の目的と人事管理の目的
本の目的(まえがき) 人事を定量的に分析するための代表的な手法を紹介
経営と連動した人事管理が満たしている 3 つ (P5 ) 量の合理性:適正な人材配置 システムの合理性:期待される目標を高く達成できる仕組み・状態 継続の合理性:中長期の経営計画と連動した人事の仕組み構築
分析に必要なデータ( P10 )
過去の損益情報 売上 売上総利益 付加価値額 人件費関連データ 営業利益額
現在の社員一覧 社員の基本的な属性情報 給与関連情報 評価情報
定量的な人事分析の種類( P11 )
人件費に関する分析 人員数に関する分析 人件費単価に関する分析 人材流動性に関する分析 将来予測分析
具体的な分析の方法は 2 章から!
人件費関連分析とは?
過去の企業業績データと人件費データから総額の人件費の適正さ・伸縮性を定量的に把握するための分析手法( P13 )
3 つの分析領域 (P14 )
1. 現在の人件費の過不足を分析
2. 業績と人件費の連動性、人件費の伸縮性を分析
3. 人件費構造の適正さの分析
労働分配率ベース適正人件費分析( P15 ~) / 人件費連動性分析( P22 ~)
労働分配率ベース適正人件費分析( P15 ~) 現在や将来の人件費の過剰 / 不足を分析
→ 労働分配率を用いる
※ 労働分配率 = 総人件費 / 付加価値
人件費連動性分析( P22 ~) 経営全体の動きと人件費がどの程度連動しているのかを分析する手法
→ 経営と人件費の連動が人数か人件費の単価いずれかでコントロールされているかを分析
売上高と①人件費総額、②正社員人件費総額、③非正社員人件費総額との連動性を比較
賞与連動性分析( P32 ~) / 適正人件費モデル比較分析( P39 ~)
賞与連動性分析( P32~) 賞与が業績と連動しているのか判断
→ 賞与と利益額の連動性を分析
→ 賞与を支払う前の営業利益と賞与の間の一定の関連があるかを検証 適正人件費モデル比較分析( P39 ~)
現在の社員数が適正であることを前提とした場合に、適正と考えられる等級・グレード別の必要人数構造での人件費と現在の等級・グレード別人員構成での人件費を比較する
分析の前提となる適正人員の算出方法は 3 章へ!
人員数に関する分析とは?
適正な人員数を実現すること (P47) 企業の運営を効率的かつ短期長期に円滑に運営するために重
要 人員数について合理的・科学的なアプローチで管理している
企業が非常に少ない
3 つの分析
1. 現在の人員の構成が(処遇の観点で)妥当であるか(簡易適正人員構成分析)
2. 社員の年齢構成が適正であるか(適正年齢別人員構成分析)
3. 人員数そのものが適正な人数であるか(適正人員数分析)
簡易適正人員構成分析( P48)
企業の経営に必要な社員数が過不足なく揃っているかを分析 社員 1 人 1 人の能力を分析するのではなく、人事制度で定められ
ている等級/グレード/資格という観点で企業経営に必要な人材の過不足を分析
(人事制度は経営の計画、目標に応じてメンテナンスをしなければならない)
企業に必要な人材タイプ 管理職、専門職、総合職、一般職、技術職
→ それぞれが何人必要かを算出する
社歴の長い日本企業
→ 管理職の数が多く、人材タイプによる人員構成がいびつ
簡易適正人員構成分析( P48) の方法
適正管理職等級人数から他の人材タイプの適正人数に落としていく
→滞留年数・昇格率によって適正人数を決めていく
※ 組織構造が適正でないと適正管理職等級人数を算出できない
余剰と不足 管理職余剰:高い等級の社員が余剰し、低い等級の社員が不
足 管理職不足:管理職社員が必要数に足りていない
適正年齢別人員構成分析 (P57)
社員データ+自己都合退職率(年齢別)から適正な人員構成モデルを作成し、現状との差異を分析する 成熟企業型
→ 社歴の長い日本企業に多い。 40歳前後が多い
(理想よりも平均年齢が高齢) ベンチャー型・高離職率型
→ 高い年齢の社員が極端に少ない
→会社全体だけでなく、組織別の分析も重要
年齢別適性人員を実現するための施策 (P68) 中長期的な新陳代謝 年齢に依存しない人事管理
+ 60歳から 65歳までの社員の戦力化
適正人員数分析 (P71)
現在の人員数が適正であるかを分析する 一人当たり売上高が適正な期を選択し、基準とする
→環境変化が少なく、ビジネスモデルが変わらない企業で大切な観点
人件費単価分析とは?( P77 )
自社の給与水準を自社の社員が該当する労働市場の給与水準と比較する( P78)
労働市場の発達(転職が容易に)による影響( P77) プラス面
即戦力の社員を採用できるマイナス面
自己都合退職者の増加
人件費単価ベンチマーク分析( P78)
自社の給与水準 2 つの妥当性基準
1. 採用競争力(優秀な人材を採用できる給与水準)
2. コスト競争力(適切なコストとなっている給与水準)
定量的な把握 どれくらい高い(低い)のか、どれくらい外部水準から離れているのかを把握する必要がある
→「範囲内個数率」と「乖離率」を用いて判断
今後の給与制度( P85)
今後の給与制度は 3 つの要因で大きく変化することが予想されるため、外部の労働市場と自社の年収の比較は人事管理上非常に重要 労働市場の発達
→社員一律の人事・賃金制度から合理的な人事・賃金制度へ景気の低迷
→人事・賃金制度に対してより成果・実力主義を要求 定年後雇用の義務化
→人事・給与制度を根幹から見直す必要がある(戦力化のための給与)
その他の人件費単価関連分析( P86 )
等級別給与分布重複分析 等級ごとの給与額が、異なる等級間で重複していないかどうかを検
証
「低い等級の社員の給与より高い等級の社員の給与のほうが低い」状態
1. そもそも人事制度上の給与レンジが等級間で重複している
2. 人事制度上の給与レンジは重複していないが、実態の給与額が給与レンジから逸脱しており、結果として等級間で重複している場合
残業逆転分析( P88 ) 非管理職の残業込みの年収が、管理職の年収を上回る原因
1. 時間外労働が多すぎる
2. 給与レンジの設計が構造的におかしい
人材流動性分析とは?( P91 )
人材の流動性が高くなった現状における労働市場給与の差による流出リスクを分析
人材流動性分析の限界( P92 ) 自己都合退職の理由
1. 会社・ブランド
2. 職場・人間関係
3. 人事・処遇(→給与は退職理由の1つでしかない)
年収配分妥当性分析とは? 労働市場的な年収のメリハリが十分についているか(実力・成果主義が機能しているかを定量的に分析)
人材流動性分析( P93 )
給与レベルの妥当性を個人別に分析 社内年収と社外年収を比較
社内年収>社外年収 : コスト高になっていないか見直し 社内年収<社外年収 :低すぎることに対する見直し
外部年収の決め方( P96 ) 「自社の人材が転職するとしたら、どの労働市場なのか」を考えて外部年収を選択する
年齢や評価によって調整を行う
人材流動性分析の留意点( P98 ) あくまで給与の側面だけ(他にも転職の理由はある) 中高年社員の転職年収は下がることが一般的 評価で外部水準を調整する必要がある(優秀な人材の外部水準は高い)
人件費配分妥当性分析( P100 )
それぞれの社員に対する配分妥当性を分析 HP (ハイパフォーマー) : 高い業績や能力の社員 AP (アベレージパフォーマー) : 標準的な業績や能力の社員 LP (ローパフォーマー):低い業績や能力の社員
→ 評価と昇進スピードを参考に AP以上が流出しないことを目指す
現状の日本企業では LP の給与レベルが高く、 HP と LP の給与があまり変わらない現状がある
※ 賞与配分妥当性分析( P105 ) 賞与と成果の連動性を分析
「評価結果や賞与配分状況を公開しないで、多少の差をつける程度の賞与配分しか行っていない企業があるとすれば、効果的効率的な人事管理を行っているとはいえない」
将来予測分析とは?( P109 )
「現在の年齢別・等級別人員構成」+「将来にわたる一定の人事運用」
→ 将来の年齢別・等級別人員構成、人件費総額をシュミレーションする
人員構成×
人件費単価↓
人件費
現在
人員構成×
人件費単価↓
人件費
将来
昇格率
定年年数
自己都合退職率
採用
人事運用
65歳継続雇用( P118 )
戦力として扱う+定年そのものの年齢を見直す検討の必要性 特定の事業部、特定の職種、特定の地域に偏在しない対策が必要
その他分析( P121)
生産性に関する分析 売上(売上沢入駅)生産性分析 :1 人当たりの売上の分析 労働生産性分析 :1 人当たりの付加価値 賃金生産性分析 : 付加価値を賃金総額で割る
評価に関する分析 社員ごとに能力評価と業績評価のプロットをする
(連動していない場合は分析が必要 : 評価の甘辛?育成の問題?)
人材配置に関する分析 最適人員配置分析 : 社員をポストに配置するベストな組み合わせ
を計算
分析の実施とその先( P129 )
分析を実施する際には継続して行うとともに、全ての分析を行うのではなく、限定して行うことになる(全ての分析を実施することは費用・期間共にコストが大きい)
分析の結果、問題がある場合には解決するための人事施策を検討しなければいけない
例)管理職の余剰に対する施策
1: 現在起きている管理職の余剰人員の削減
2:今後、管理職が余剰しないような仕組みにする
短期的な対処療法にとどまらないよう、合理的な施策を考える必要がある
(役職定年制などは管理職のパフォーマンス低下を考慮していない上、そもそも、管理職が余剰する構造を解決していない短期的な対処療法) 解決手法については人事部門の専任かつ専門的領域であることの社内徹底が必要
(専門外の役員や他部門の影響を抑える)
分析別の対応施策( P135 ~)
<適正人件費分析> 近年の日本企業では人件費過剰となる企業が多い
→大規模な人件費調整 or小規模な人件費調整
<人件費連動性分析> 近年の日本企業では人件費固定化傾向が強い
→ 正社員の給与の変動費化や非正社員および派遣社員の人員数コントロール
<適正人件費モデル比較分析> 人員構成の高等級化、高グレード化が進行している企業が多い
→ 短期的人員削減や年功的人事制度の根本的見直し
分析別の対応施策( P135 ~)
<人員構成分析> 高年齢社員の余剰が多く見られる
→ ローパフォーマーの退職勧奨や早期定年制度の導入など
(不足している年齢層は中途採用を行い、新卒採用も一定人数は続ける必要がある)
<適正人員数分析> 人員過剰 となる場合が多い
→小規模人員削減(退職勧奨、出向、早期定年) or大規模人員削減(希望退職)
<人件費単価ベンチマーク分析> 自己都合退職が多い企業
→退職の“一因”である給与レベルの改善が必要
分析別の対応施策( P135 ~)
<その他の分析> 非管理職において、人事制度の成果主義化が中途半端な場合が多い
→ 賞与も含めた人件費配分を適切に調整する必要がある
まとめと感想
そこそこの武器は揃えてくれているので、この本を使えばそれっぽい数字を使った人事の戦略ペーパーは書けそう
でも、どうやって進めていくのかは別の本にお任せしないといけない(チェンジマネジメント)
「定量的」ってことはもちろん数字が大切で、ちゃんと数字を出す方法をレクチャーしてくれている。人件費総額、人員数、人件費単価、人材流動性などの指標の出し方とどう見るべきなのかがまとまっている
人事が自社の人事が”正しく”運用されているのかを数字から見るのに役立ちそう
再雇用の義務化や労働市場の活性化などが人事、ひいては敬愛に与える影響を知るにも悪くない本
The World Has Many More Virtues and
People Are Forgiving<世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい >
小檜山 歩(こひやま あゆむ)
Kohiyama Ayumu
Facebook/LinkedIn:Kohiyama Ayumu
Twitter:@ayumu_kohiyama
ブログ:http://kohiyama-ayumu.com/blog/
参考文献
• 『人事の定量分析』(林 明文):中央経済社 (2012/1/24)