関節周囲カクテル注射関節手術後の疼痛コントロール

関節周囲カクテル注射

関節手術後の痛みのコントロール

塚田幸行（つかだ・さちゆき）

北水会記念病院人工膝関節センター

オピオイド, 多量の局所麻酔薬, ステロイド


術野の見えるところに注射するだけ

プラセボコントロール RCT ①

Busch et al. JBJS Am 2006

オピオイド, 局所麻酔薬, NSAIDs

Pain during activity

＊

＊

＊ p < 0.05

オピオイド, 局所麻酔薬, ステロイド, NSAIDｓ

プラセボコントロール RCT ② Pain at rest

＊＊

＊＊

Fu et al. Knee 2009

＊ p < 0.05

？どのくらい効く？なぜ効く？どの薬が効く？

論より証拠 → 臨床試験

プラセボコントロール試験→ 除痛効果はある

TKA 関節周囲カクテル注射

① どのくらい効く？

① どのくらい効く？

他の鎮痛プロトコルとの比較

a. 硬膜外麻酔

b. 大腿神経ブロック

c. 大腿神経ブロック＋坐骨神経ブロック

硬膜外麻酔との比較

アナペイン 300 mg 塩酸モルヒネ 10 mg ボスミン 300 μg ソルメドロール 40 mg カピステン 50 mg 生食 20 mL 合計約 65 mL

洲鎌らのカクテル 2011日本人工関節学会誌

他の研究グループ ①菊地ら（会津坂下病院）モルヒネを男性10mg・女性5mg ②涌井ら（猫山宮尾病院）モルヒネを8mg

0

10

20

30

40

50

Epi群

カクテル群

痛み（VAS）の経時的変化

VA

S f

or

pain

硬膜外麻酔との比較

洲鎌ら 2011日本人工関節学会誌

硬膜外麻酔 versus


Randomized Controlled Trial

硬膜外麻酔（オピオイド有り）との比較

Tsukada et al. JBJS Am 2014

両群で同量のモルヒネを使用

Total 111 knees

硬膜外麻酔 61 knees

関節周囲カクテル注射 50 knees


硬膜外麻酔（オピオイド有り）との比較

＊＊

＊＊＊＊

＊＊

＊＊

VAS at rest ◆ 持続硬膜外麻酔 ■ 関節周囲カクテル注射


＊ p < 0.05

0

20

40

60

80

100

120

140

160

1d 2d 3d 4d 5d 6d 7d 8d 9d 10d 11d 12d 13d 14d 1M 2M 3M 6M 1Y

Flexion angle

＊＊

◆ 持続硬膜外麻酔 ■ 関節周囲カクテル注射

＊ p < 0.05

0

10

20

30

40

50

60

嘔気当日嘔気 1日掻痒感呼吸抑制創治癒遅延腓骨神経麻痺

合併症

＊

オピオイド使用硬膜外麻酔で嘔気・嘔吐が多く関節周囲カクテル注射で一過性腓骨神経麻痺が多い


＊

(％)

＊ p < 0.05

硬膜外麻酔よりも関節周囲カクテル注射が除痛効果に優れる

#1

硬膜外カテーテル留置も不要

大腿神経ブロック（ワンショット）との比較

Ashraf et al. Knee 2013

0

2

4

6

8

術後2時間術後4時間術後1日

■ 大腿神経ブロック ■ 関節周囲カクテル注射

Pain scores

＊

＊ p < 0.05

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

4h 1d 2d 3d 7d 14d 21d

VA

S p

ain

sco

res

(0 -

10

0 m

m)

Postoperative time

◆ 持続大腿神経ブロック ■ 関節周囲カクテル注射

大腿神経ブロック（持続）との比較

Kurosaka, Tsukada et al. J Arthroplasty 2016

＊＊

＊ p < 0.05

大腿神経ブロックよりも関節周囲カクテル注射が除痛効果に優れる

#2

膝の後方の痛みが遺残？

坐骨神経ブロックを併用すると？

大腿神経ブロック +坐骨神経ブロックとの比較

Uesugi, Kitano, Kikuchi et al. Knee 2014

3, 6 時間 → 大腿＋坐骨神経ブロックが優れる 24, 30 時間 → 関節周囲カクテル注射が優れる

＊

＊

＊＊


大腿＋坐骨神経ブロック

＊ p < 0.05

大腿神経ブロック＋坐骨神経ブロックで関節周囲カクテル注射と除痛効果はほぼ同等

#3

まとめ１

① 硬膜外麻酔よりも優れる

② 大腿神経ブロックよりも優れる

③ 大腿・坐骨神経ブロックの併用と同等

関節周囲カクテル注射の除痛効果

② なぜ効く？

Maheshwari et al. CORR 2009

モルヒネ → 関節内のオピオイドレセプターに作用全身性の合併症を低減ステロイド → 局所の炎症を抑制エピネフリン → 吸収を遷延させ作用時間を延長（α-adrenergic effect）

② なぜ効く？

実際に患者さんの痛みをとれるのは？

末梢の組織にオピオイド？

Stein N Engl J Med 1995

組織に炎症 → Peripheral Opioid Receptor

0

5

10

15

20

25

30

35

40

1時 2時 3時 4時 6時 24時

モルヒネ関節腔注

モルヒネ静注

プラセボ

膝関節鏡手術後のVAS Stein et al. N Engl J Med 1991

Peripheral Opioid Receptorの存在を支持

VA

S p

ain

sco

res

(0 -

10

0 m

m)

＊＊

＊

＊＊

＊ p < 0.05

② なぜ効く？

片膝にカクテル・片膝にプラセボを注射

→ カクテルを注射した膝の方が痛くない

両側一期的 TKA

Andersen LØ Acta Anaesthesiol Scand 2008

Koh IJ KSSTA 2010

Mullaji A J Arthroplasty 2010

Joo JH J Arthroplasty 2011

→ 両膝で痛みに差はない

両側TKAを受ける患者さんに対して

n = 286 Pain during activity

Joo et al. J Arthroplasty 2011

局所ではなく全身性に作用？

キャダバー・スタディ

180mLの注射でどこまで薬液が届く？ Quinn et al. Knee 2013

局所で作用している、という前提私見：局所麻酔薬は局所で作用／他の薬剤は不明

② なぜ効く？

まとめ 2

本当の機序は未解明

カクテル注射はなぜ効くか？

③ どの薬が効く？


NSAIDs

0

10

20

30

40

50

2-6h 6-24h 24-48h 48-72h 72-96h

Andersen et al. Br J Anaesth 2013

VA

S p

ain

score

s (0

- 1

00 m

m)

◆ Ketrolac 有 ■ Ketrolac 無

＊

＊

＊

＊ p < 0.05


エピネフリン

すべて n. s.

Schotanus et al. KSSTA, in press

エピネフリン無し

エピネフリン有り


副腎皮質ステロイド Ikeuchi et al. KSSTA, 2014


Christensen JBJS Am 2009

Chia JoA 2013

無効

VS Seah Singapore Med J 2011

Ikeuchi KSSTA 2014

有効

副腎皮質ステロイド

副腎皮質ステロイドは必要 ?

Previous RCTs


ステロイド有り versus

ステロイド無し


Tsukada et al. Bone Joint J 2016

安静時VAS

＊＊

＊ p < 0.05

＊


■ ステロイド有り ■ ステロイド無し

屈曲可動域

＊＊

＊ p < 0.05 ■ ステロイド有り ■ ステロイド無し

0

5

10

嘔気当日嘔気 1日掻痒感創治癒遅延深部感染

■ ステロイド有り ■ ステロイド無し

合併症

すべて n.s.

(%)


合併症の発現率

→ Underpowered

Limitation

Meta-analysis Zhao et al. JOSR 2015

Including 6 RCTs

567 patients (Corticosteroid 305 vs No corticosteroid 262)

合併症：有意差なし

まとめ 3

① 除痛効果は向上

② 感染の発生率は未決着

カクテルに副腎皮質ステロイドは有効？

関節周囲注射の手技


① どこに打つか？

① 術野の見えているところ全てに打つ ② こぼさないように打つ

後方： 20 mL 前方： 40 mL

後方にも打つ → 前方だけよりも疼痛低減

前方＋後方に注射

前方だけに注射

関節包を中心とした後方の組織の注射は重要

Guler et al. J Orthop 2015


② どのように打つか？

① チョコチョコ複数回にわけて打つ

② 関節内に残った薬液は注射後に洗い流す → 低いオピオイド血中濃度が維持するのを防ぐ嘔気・嘔吐などの合併症のリスクを低減


Dalury JBJS Essent Surg Tech 2014



③ いつ打つか？

腰椎麻酔の場合

１．インプラント設置直前に後方２．セメント硬化を待ちながら前方

全身麻酔の場合はより早期の注射が好ましい？

Affas et al. Acta Orthop 2013

皮膚切開直前に皮下に投与（腰椎麻酔）

他の関節外科手術

に対する

関節周囲注射

１．両側一期的 TKA

２．THA

３．人工骨頭置換術

４．HTO

５．ACL再建術

６．鏡視下腱板修復術

カクテル注射：片側 TKA以外の手術


Koh et al. Arthroscopy 2012

Kang et al. JBJS Am 2013

Perdreau et al. OTSR 2015

Busch et al. CORR 2010

Jung, Takeuchi et al. Arthroscopy 2014

Hartog et al. Bone Joint J 2015

Jules-Elysee et al. JBJS Am 2015

後ろ向き比較試験

両側一期的 TKA

Lombardi et al. CORR 2004

関節周囲カクテル注射＋関節内注射

→ 両側一期的TKA後の疼痛が改善

Total 140 knees

硬膜外麻酔 66 knees

関節周囲カクテル注射 74 knees



両側一期的 TKA

モルヒネ 10 mg

ロピバカイン 300 mg

メチルプレドニゾロン 80 mg

ケトプロフェン 50mg

ボスミン 0.6mg + 生食, Total 120ml （片膝60mlずつ）

両側一期的 TKA


安静時VAS

＊

＊

＊＊

＊

＊ p < 0.05


＊


屈曲可動域

＊

＊＊

＊

＊＊ p < 0.05 ◆ 持続硬膜外麻酔 ■ 関節周囲カクテル注射

両TKA術後の疼痛スケールは

関節周囲注射を受けた群で硬膜外麻酔を受けた群よりも良好

Conclusion


THA

Busch et al. CORR 2010

関節周囲注射注射なし

THA

Hartog et al. Bone Joint J 2015

NR

S (M

ost

pai

n t

hat

day

)

0

2

4

6

8

10

Day 0 Day 1 Day 2

カクテル注射

プラセボ

すべて n. s.

THA

Jules-Elysee et al. JBJS Am 2015

0

2

4

6

8

10

POD 1AM

POD 1PM

POD 2AM

POD 2PM

POD 3AM

POD 3PM

N

R

S

■ Patient-controlled epidural analgesia ◆ Periarticular injection

＊

＊ p < 0.05

人工骨頭置換術

Kang et al. JBJS Am 2013

関節周囲注射

注射なし

＊

＊

Open-wedge HTO


MCLと鵞足骨切り部の骨膜

Open-wedge HTO


関節周囲注射

注射なし＊

＊ p < 0.05

ACL再建術 Koh et al. Arthroscopy 2012

コントロール

関節内局麻

関節内カクテル

関節周囲カクテル

関節内局麻関節周囲カクテル

鏡視下腱板修復術 Perdreau et al. OTSR 2015

◆ 関節周囲カクテル注射 ■ プラセボ


今後の展望

Multimodal pain management

Vendittoli et al. JBJS Am 2006


外科医として安全かつ低侵襲な手術の追及を

駆血帯の非使用／使用時間の短縮など

The most significant developments in joint replacement surgery in the past decade have been in the area of multimodal pain management.

関節周囲カクテル注射を中心に、他の除痛法を併用

Berend Bone Joint J 2015

Multimodal Pain Management (Ranawat Orthopaedic Center)

1. Ranawat Orthopaedic Center cocktail モルヒネ（8mg）ブピバカイン(200-400mg) メチルプレドニゾロン (40mg) エピネフリン

2. 術前・先取り鎮痛 Preemptive analgesia セレコックスオキシコドン（＋H2ブロッカー）内服

3. 手術室クロニジン経皮パッチ

4. リカバリールーム Ketrolac 静注

5. 病棟 Ketrolac 静注 6時間おき

セレコックスオキシコドンカロナール（＋H2ブロッカー）内服



Parvataneni et al. J Arthroplasty 2007





カテーテル留置を避ける


① 除痛効果は、硬膜外麻酔よりも優れ大腿・坐骨神経ブロックの併用と同等

② 薬剤の最も適切な用量・組み合わせは未解決

③ Multimodal pain managementが主流

内容の問い合わせは塚田までご連絡ください

[email protected]

TKA

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