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1 少年淫夢譚 少年淫夢譚 少年淫夢譚 少年淫夢譚 その1

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少年淫夢譚少年淫夢譚少年淫夢譚少年淫夢譚

その1

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2

もう少ししたら、あの人がパチンコから帰ってきます。

勝っていようが、負けていようが、必ず時間通りに帰ってきます。

パチンコなんかよりも、はるかに稼ぎのいい仕事が待っているのですから、ま

ちがいなく帰ってくるのです。

いつもならボクがお店に出る準備を済ませているかチェックし、送り出すのが

仕事です。ボクよりも二時間か三時間遅れて、あの人もお店に向かいます。

ボクが働くお店のマネージャーですからね。同時に、ボクの教育係と監視役も

兼ねているので絶対に出てきます。

でも今日は、お店が休みの日です。

それでも帰ってくるのは、お店に出るよりももっと稼ぎのいい仕事が待ってい

るからです。休日のほうが稼げるのです。

ボクをホステスとして働かせるよりも稼ぎのいい仕事。

それはボクを売ることです。ボクの身体を、時間刻みでお客さんに売るのです。

たいていは一晩に一人ですが、たまに二人の客をとらされることもあります。

そう。あの人はボクのヒモなのです。

< 1 > 姦計のはじまり

話は半年前にさかのぼる。

新宿の西口ちかくのビルに、Y企画という映像製作会社がある。

W大1年生の幸彦は、その会社でアルバイトを始めたばかりだった。

バイトの中身は臨時雇いのアシスタント・ディレクター、つまりADである。

映像製作の技術も知識も持ち合わせていない少年でも簡単にできる仕事。

ADと言えば聞こえはいいが、とどのつまりは使い走りの小僧にすぎない。

それでも、将来はメディア関係の仕事につきたいと思っている幸彦にすれば、

願ったり叶ったりのアルバイトだった。

ここで基礎的な知識や技術を少しでも習得できれば、将来必ず役に立つはず。

くわえて、できるだけ多くの業界人と顔見知りになっておけば、それも将来

の人脈になる。

バイト代を貰いながらそれができるわけだから、こんなうまい話はない。

W大のほかに他大学からの応募もあって、たった一人の採用枠に6人もの学生

が食らいついた。それを押しのけて採用されたのだから喜びもひとしおだ。

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3

「あんまり期待しすぎると、がっかりすることになるぜ。」

早崎は幸彦にそう言った。

早崎と言うのはY企画のディレクターの中でも最古参の男だ。

彼についていたADが家庭の事情で郷里に帰ってしまったので、その穴を埋

めるために幸彦が採用されたのである。

幸彦は聞いている。採用面接で幸彦を強く推してくれたのは早崎だ。

いま幸彦はその早崎の下で働いている。

働きはじめてすぐに、大ガード下の赤のれんに誘われた。

そこで、早崎からそんなことを言われたのだ。

「ここはあくまでも、腰掛けくらいに割りきって、自分本位に働くがいいさ。」

「どういうことですか?」

「今に分かるさ。

ひとつだけ言っておくが、この会社に大手から回ってくる仕事は年に数件だ。

それも、取り組み甲斐のある仕事かどうか、見てりゃ分かってくる。」

「じゃあ、会社を支えているのは、どんな仕事なんです?」

「言ってるだろ。見てりゃ分かるって。」

そう応える早崎は、すでに酔っていた。

たしかに早崎の言う通りだった。

この会社にテレビ局から回ってくる

仕事は年に数件、それも局OBである社

長のコネでとった雑件ばかり。まともな

下請け仕事は数年に一度というのが現

状だった。

それでは、会社はどういう仕事で存続

しているのか。

会社を支えているのはプロモーショ

ンビデオ製作。と言えば聞こえはいいが、

ほとんどが風俗関係の宣伝映像ばかり

だ。近年では商業用のホームページ製作

も請け負っているが、これも風俗関係ば

かり。

早崎に言わせれば、それでもアダルト

ビデオづくりにシフトしないだけはま

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だマシというところらしい。

赤のれんの安酒をふるまって貰いながら聞いた大先輩の話はショックだった

が、希望がないわけではない。

なによりの希望は社長の輝かしい経歴と理想にあった。

社長はその名の頭に『ドキュメンタリーの』という接頭辞がつくほどの人物

で、そもそもテレビ局を辞めた原因もそこにある。

視聴率優先の時代だ。どの局も横並びで個性のないバラエティやクイズ番組

ばかりを並べ、その結果、片隅に追いやられていくドキュメンタリーなどの硬

派な番組づくり。

社長はそんなテレビ界の現状にあきたらずに会社を興したのだ。経営のため

に風俗関係の仕事をやらざるをえないが、この会社にはそういった前向きな理

想がある。

ここにいれば、ドキュメンタリー作りの基本も学べるはずだし、社長の人脈

を将来のコネに利用する道だって開ける。

早崎に言われたことはショックだったが、幸彦はそう考えることで自分を奮

いたたせていた。

仕事を始めてから一ヶ月目のある日、幸彦は早崎に連れられて新宿歌舞伎町

の風俗店に入った。そこは一見なんの変哲もないラウンジバーのような造りだ

が、そこで働くホステスは女装した男たちばかり。古い表現だとオカマバーと

呼ばれる店だった。もっとも、昨今ではオカマなどとは言わず、ニューハーフ

とかレディボーイなどといった言葉が使われる。ごく最近では男の娘といった

表現も広まってきている。

「あら、今度のADちゃん、むちゃくちゃ可愛い子じゃないの。」

店のオーナーママは、幸彦を見るなりそう言った。

「だろ。とびきりの上玉だ。」

早崎はママの言葉に応じてそんなことを言う。

幸彦としては喜んでいいのかどうか。

「うちの店に来てくれたら、すぐにナンバーワンになれるわよ。」

「おいおい、これでも歴としたW大生なんだぜ。へんな勧誘しないでくれよ。」

「そう。もったいないわねえ。あたしは本気でほめてるのよ。」

早崎に咎められても平然とした口調でそう言う。遠慮するどころか、値踏み

するような目で幸彦の顔をしげしげと見つめる。顔だけではない。身体全体を

くまなく見つめまわす。

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幸彦は不愉快だったが、相手が上得意のクライアントだと聞かされていたか

ら、感情を表に出すことはできなかった。

「いい子ね。上玉中の上玉。掘り出し物よ。早ちゃんの目はたしかだわ。」

「ずっと目を光らせてきたんだ。ぬかりはないさ。」

幸彦を先に帰社させて店に残った早崎は、ママとそんな会話をかわしていた。

「あいつを無事に落とせたら、借金は帳消しだよな。」

「もちろんよ。約束はきちんと守るわ。」

「それで、獲物を見つけてきたのはいいが、これから先はどうするんだ。」

「あはは。そこまで早ちゃんに苦労はかけないわよ。」

「そうか。それならいいんだ。」

「そうよ。蛇の道はヘビ。あとはあたしにまかせておきなさい。」

幸彦は自分が後にした店の中でそんな会話がかわされていることなど知る由

もなかった。

これから先も、あんな人達を相手にしていかなきゃいけないのか。

そう思うと憂鬱になってしまうが、あれが上得意なんだから仕方がないと諦

めるしかない。

*****************

あの人が帰ってくるまで、もう10分

もないと思います。ボクはちゃんと準備

を終えて待っています。

いつものように濃い目の化粧をすま

せて、マニキュアやぺディキュアの剥げ

落ちを手当てし、あの人の帰りを待って

います。

衣装はまだ着ていません。下着だけの

姿でガウンをはおっています。あの人は

出勤前に必ずボクを犯します。どうせ脱

がされるのだから、ドレスはあとから着

ればいいのです。

化粧もどうせ手直しすることになる

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わけですが、あの人に抱かれるためにすませておく必要があります。あの人は

赤が好きです。それも真紅が。だから口紅も爪も真紅に染めてあの人の帰りを

待つのです。

あの人はコンドームを使ってくれません。

いつもボクの中に生で射精します。ボクはあの人の精液を身体の中に入れた

ままお店に出なければなりません。

お店で酔った客に媚を売り、身体をまさぐられたりしているボクを、あの人

はカウンターの奥から見つめています。そいつはオレの女だよ。そんな目で、

ボクたちを見つめています。そう思うことで、酔った客にたいして優越感を感

じているのだと思います。

ケモノのマーキングのような感覚でしょうか。ケモノの場合は尿だけれど、

あの人の場合は精液ということです。

男のボクが、同じ男であるあの人に犯される。

そんな行為には、抵抗を感じていました。最初はあの人の暴力が恐ろしくて、

折檻されるのが嫌で服従していました。すすんで身体をまかせるのではなく、

怖くて従っていただけです。あの人の並外れて太い性器で身体を突き破られる。

それはいつも痛みを伴っていたし、精神的にも屈辱的で苦痛を伴う行為でしか

ありませんでした。

ボクは自分がゲイであると思ったことなんか一度もありません。こうなって

しまった今も、自分がゲイになったとは考えていません。ボクは普通の男の子

だったのです。

こうなったのは、ただあの人の暴力に屈しただけの結果にすぎません。

最初は文字通りの力づく。つまりレイプから始まった関係です。無理やりに

犯されたボクは、当初は錯乱と絶望であの人の言いなりになり、あの人の女に

なることを承諾してしまいました。本気で自分が女になったと錯覚したことも

ありましたが、一度はその錯覚に気づいて逃げ出そうとしたことも。逃げきれ

ずに連れ戻されてしまいましたが・・・・・

だから抵抗を感じるのは当たり前のことだし、あの人の暴力から逃れさえす

ればボクはいつでも元の自分を取り戻せる。ボクはずっとそう思いながら暮ら

してきたのです。。

それがいつの間にか、ただそれだけとは言えなくなってしまいました。今の

ボクは自分で自分が分からなくなっています。頭でどう考えていても身体は別

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物です。もうずいぶん前から、ボクの身体はあの人に抱かれることを自分から

求めるようになってしまったのです。

いつでも元の自分に戻れる。ボクのそんな自信はぐらついてしまっています。

現に今も、ボクはあの人が帰ってくることに怯えています。あの人に犯され

ることを嫌がっているボクがいます。

その反面、あの人が帰ってくるのを心待ちにしている、もう一人のボクがい

ます。あの人の太い性器で突き破られることを求めているボクがいます。ボク

の中には、そんな二人のボクがいるのです。

もうあの人がドアを開けて入ってくる時間です。

無言で部屋に入ってくるあの人を、ボクは出迎えなければなりません。膝を

ついて、あの人のズボンのファスナーをおろし、今から自分を犯すことになる

黒々とした男根を自分の手で取り出して、しゃぶらなければなりません。

男性器特有の臭気にむせながら、さからえば髪をつかまれ頬を張られる暴力

に怯えて、それを舌で愛撫し、口に含まなければなりません。

口だけで果ててしまえば身体は犯されずに済みますが、口の中に出されたも

のは飲み干さなければなりません。どちらにしても、身体にマーキングをほど

こされて出勤しなければなりません。

屈辱に打ちひしがれ、今にも泣き出しそうになってしまうボクがいます。

そんなボクのうしろには、あの人の男根の饐えた匂いに発情し、その巨大で

グロテスクな肉の凶器を愛おしいと感じるボクがいます。自分からそれを求め

ていこうとするもう一人のボクがいます。

ボクはそんな二人の自分にひき裂かれたまま、唾液に濡れたあの人の男根を

迎えいれるために足を開かなければなりません。

その1 終わり

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少年淫夢譚少年淫夢譚少年淫夢譚少年淫夢譚

その2

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< 2 > 忍び寄る姦計

それから後も、早崎に言いつけられて何度かその店に立ち寄った。

訪れるたびに全身にからみついてくるオーナーママの視線はおぞましかった

が、それでも会社の大切なクライアントだ。笑顔を絶やすことはできない。

二度目の訪問のときに黒田と名乗る男を紹介された。店のマネージャーとい

う肩書きだが、精悍な顔立ちと屈強な体つきの奥に、なんとなく陰湿で凶悪な

ものを秘めた感じがする男だ。幸彦からすれば、仕事以外では接触したくない

タイプの男だった。

オーナーママの仕事は接客に限定されていて、それ以外は全て黒田がしきっ

ているという。もちろん店の宣伝、プロモーションの類も黒田の管轄というこ

とになる。とすれば、幸彦の会社にとっては、ママと同じくらいに大切な相手

だということだ。

「お前、男にしては可愛すぎるな。もったいない話だ。」

ママが席をはずした時、黒田はいきなりそんなことを口にした。

「うちの店にきたら、今のバイトの給料の数十倍は稼げるのになあ。」

そう言って、ケタケタと笑い始める。笑ってはいるのだが、その目には笑い

の色は浮かばない。あくまでも冷酷な、爬虫類を思わせる目つきのままだ。

幸彦の背筋に悪寒が走る。

「鞍替えしたくなったら、いつでも来い。相談に乗るぜ。

なんの心配もいらねえよ。オレがみっちり仕込んで、稼ぎ頭に育ててやる。」

早崎は何度も用事を言いつけて、幸彦をその店に通わせるようになった。

そんなある日、珍しく弾んだ口調で幸彦に語りかけてきた。

場所はいつもの赤提灯。大ガードにほど近い粗末な居酒屋だ。

「やっとオレの企画に社長が興味をもってくれた。」

唐突な話題だった。

「どこかから持ち込まれた話じゃねえ。独自企画でつくる話だからなあ。

どこも買ってくれなかったら、まるまる経費倒れになっちまう。

社長が慎重になるのも無理はねえが、かと言っていつまでも他人の企画ばか

りやってたんじゃウダツはあがらねえ。Y 企画ここにありという目玉は、独自

企画でしか作れねえからなあ。」

早崎の企画というのは、オカマからニューハーフ、レディボーイと変遷して

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きて、今は男の娘という表現が市民権を得はじめた女装者がテーマだ。

早崎はそれを社会派のルポとして取り上げたいという。

彼は言う。

元々そういった性的倒錯はいつの時代にもあったものだ。

しかし、それが社会的に公然化するのは、日本の場合で言えば戦国期から江

戸時代までのわずかな期間だけだ。それも社会の片隅でひっそりと咲く陰花植

物のようなもので、堂々と社会の表面にまかり出てくることはなかった。

それが今では、まるで競いあうかのように多くの若者が公然と女装し始めて、

アキバ系の文化だとまで言われるような現象が起きている。

メディアの世界を見ても、オネエと呼ばれるタレントが大手をふって活躍し

ている。昔のようなキワモノ扱いではなく、堂々とバラエティの一翼を担うよ

うになっている。

こうした現象は、歴史的にどういう意味をもつものなのか。

どう解釈すればいいのか。

それを追求してみたいというのが早崎の企画のテーマだった。

「男と女のセックスとちがって、男同士の

セックスは生殖とは言えねえ。

つまりは子孫の断絶につながるセックス

だ。だから世界中の宗教の大半が、戒律で

同性愛を禁じているわけだ。

宗教戒律なんてものは部族や種族の都合

で作られたものだから、繁殖の妨げになる

セックスなんて許すわけがねえ。

かなりの宗教がこの戒律破りには極刑を

課している。そりゃそうだ。部族の滅亡に

繋がる行為ってわけだからな。わかるか」

「わかります。」

「ところがどうだい。世界中で、とりわけ

先進国で、女装文化みてぇなものが大流行

し始めている。

中でも、アキバだの男の娘だのとか言って、この日本がそんな文化の発信基

地みてぇになってきてやがる。」

酔いのせいか、早崎はいつも以上に饒舌だった。

「地球の真ん中に神さまみてぇなものがいて、人間がちょいと増えすぎたって、

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ソイツが腹を立ててるんじゃねえかなあ。

そこでまあ、ちょっと数を減らしてやろうとしてるんじゃねぇか。

そんな気がしてくるよ。まあ、漫画みてぇな解釈だけどな。

神だ仏だとゴチャゴチャいるようで、日本てのは結局のところ無宗教の国だ。

その無宗教の国が、人類絶滅の旗振り役になってるわけだ。」

かなり酔いがまわっている様子の早崎は、そう言って大笑いした。

男の娘になりたいという若者の追跡ルポ。

すでに男の娘になりきっている者は対象にならない。これからなろうとして

いる若者がターゲットだ。

その若者がどういうふうに変貌していくかを追跡することで、女装文化蔓延

のメカニズムを解析していく。それが企画のメインテーマだという。

それは分かるとして、そんな若者をどこで、どういうふうに見つけ出すのか。

「簡単じゃねぇか。ママに協力してもらうんだ。

オレがあの店に入り浸ってるのは、いったいなんの為だと思ってるんだ。

こういう時のための人脈づくり、ルートづくりなんだ」

そうなのか?

幸彦にはただ遊び呆けて入り浸っているとしか見えないのだが。

「あんな店にも、年に二人や三人の入店希望者ってのがやって来る。

まあ、若いのばかりとは限らねえ。いや、この世界の泥水をしこたま飲んだ

古狸がほとんどだとも言える。

けどな、ちらほらとバージンも混ざっているのさ。

家出してきた奴とか、親元を離れて自由になった大学生とか、女になりたい

と本気で思ってる奴もいるし、ただなんとなく女装に興味があるだけの奴とか、

そんな興味もなく、ただ金目当てだけの奴もいる。動機は色々だがな」

早崎の企画は、そういう若者を入店の段階から追跡し、彼がどんなふうに変

貌していくのかを取材するというものだった。

「性同一性障害とかなんとかで、はなっから女になりてえって奴は対象外だ。

オレが追いかけたいのは、ごく普通の男だ。そうだな、お前みたいに男同士

のセックスなんか興味ないって顔をしてる、普通の男の子だ。

動機はなんだっていい。ただの気まぐれや好奇心、あるいは単純に金目当て

でもいいのさ。ごく普通の男の子が、この世界の水を飲むうちにどう変わって

いくのか、それを追いかけるのがオレの企画のメインテーマだ」

幸彦は唐突に自分を引き合いに出されてドキッとした。もちろん、そういう

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世界に興味もなければ好奇心もない。金目当てでも入ろうなんて思わない。

「評論家とか学者とか、何も分かっていない連中はな、こういう現象をすぐに

性同一性障害がどうの、遺伝的資質がどうのと解釈したがる。

本当になんにもわかっちゃいねえ。

問題は障害とか資質とかじゃねえ、快楽の問題なのさ。

もちろん障害とか資質とかで語られるべき連中もいるだろう。けどな、全部

が全部そういうわけじゃねえ。

そういう連中がいきなり増えたというわけじゃねえんだ。増えたのは、そう

いう快楽にはまりこむ、普通の連中が増えたってことだ。

いったんその快楽にはまり込んだ奴が、そこからすんなりと抜け出せるか、

溺れ込むのかというだけの問題だ。

人権なんて概念が幅をきかせるまでは、それを戒律だの法律だので縛りつけて

いただけのことだ。

その縛りが解けると、とたんにこうなってしまうというだけのことだ。

自分をごく普通の男だと思っている奴が、この世界に足を踏み込んだらどう

なるか、どう変わっていくか。それををルポすることで、オレは分かった風な

ことを並べ立てている学者や評論家どもの鼻をあかしてやりたいのさ」

社長の承認は得たものの、早崎の企画

はすんなりとは前に進まなかった。

簡単に協力してくれるはずのママが、

取材に難色を示したからだ。

店は慢性的に人手不足なのだと言う。

昨今のブームのおかげで客足は上々。

今が稼ぎ時。でも、こんなブームはいつ

まで続くか分からない。だからこそもっ

と客足を伸ばしたいところだが、客を呼

べるだけの質のいいホステスが少なす

ぎる。

ママに言わせれば飛び込みで応募し

てくる男の子は金の卵なのだそうだ。

この世界の水に染まりきっていない子

ほど、客を呼べる金の卵に育つと言う。

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早崎がターゲットにしたいのは、そんな金の卵たちということになる。

だが、そういう取材のせいで彼らが傷つくのは困る。傷つくところまでいか

なくても、不快感をもたれるだけでもマイナスになる。ママはそう言って難色

を示したのだ。

「分かってもらえるわね。営業妨害になるのよ。

そういうリスクを補えるだけの見返りでもあれば、話は別だけどね」

「見返り? 金か? もちろん相応の謝礼は考えてもいいがな・・・・」

「なに言ってんの。あんたが用意できる程度の金なんか、なんの役に立つの」

「じゃあ、どんな見返りがあれば納得してもらえるんだ」

酒を飲みながらの和気藹々とした雰囲気に見えるが、そばにいる幸彦の目に

はまるで二匹のケモノが睨みあっているような緊迫感のある会話に見える。

「簡単なことだわ。早崎ディレクターさんほどの人なら、すぐに分かることよ

「あいにくだが、頭は鈍いほうなんでね。分かるように説明してくれ」

「金の卵をひとつ失いかねないリスクは、別の卵で補えばいいということよ」

「別の卵?」

「そう。別の卵よ」

「早崎さんが喜びそうな子が飛び込んできたら、あたしなりに説得してみるわ。

それを条件に雇うという形にしてもいい。

でも、いま言ったように、リスクはあるわけね。

うちとしては、せめて半年は勤めてもらわないと話しにならない。

そんな条件が気にいらないと入店を断られたり、いったんは承諾してもすぐ

に辞められたりしたら大損こくわけ。

そういう損失を補償してもらうということよ」

「だから、どんな形で補償すればいいんだ」

「ほんとに鈍いわね。人の損失は人で補うべきでしょ」

「人で補うって、どうすればいいんだ」

「じれったいわね。あなたの所で、別の卵を用意するってことじゃない。

わかりやすく言うと、この子を別の卵として差し出してもらうってことよ」

ママはそう言って、傍らにいる幸彦を見た。

「この子を、そうね、半年だけの期間限定で差し出してくれるって言うのなら、

あたしとしては喜んで、無条件で、早崎さんの企画に協力するわよ」

****************************

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思えば、あれがボクの地獄の始まりだったんです。

そう。こうやってあの人に犯され、酔客を相手にするだけでなく、見知らぬ男

たちに身体を売る、悪夢のような毎日につながる地獄の入り口だったんです。

ああ・・・・・ ドアを閉める音が聞こえました。

もう準備はすっかり整っています。

ボクは急いで玄関に向かわないといけません。ぐずぐずしていると、あの人の

機嫌が悪くなってしまいます。そうなると手がつけられません。

あの人に折檻されます。手足や首筋など、衣装で隠せないような場所を痛めつ

けられることはありませんが、隠れる場所には手ひどい折檻を受けます。

あの人の暴力に怯えて、ボクは子犬のように御主人さまのもとに駆けよってい

かなければなりません。

暴力がそれほど恐ろしいのか。

たしかに恐ろしいです。それが怖く

て、ボクは奴隷のように従順に、あ

の人に仕えています。

でも、最近のボクは、それだけで

はなくなってしまっています。

現に今、ドアの音を聞いた瞬間、

ボクの身体の奥の方で何かがキュン

と音を立てたような気がします。

いやらしい何かが身体の中で音を

立て、熱を生み出します。その熱が

疼きとなって駆けめぐりはじめるの

です。

そう、ボクはあの人に怯え、あの

人を求めています。

よしよし、いい子にしていたようだな。

あの人はそう言ってボクの前に立ちはだかります。

ボクはあの人の股間に手を伸ばし、ファスナーを下ろします。

ドス黒く赤みがかった男根。大蛇を思わせるほど巨大な亀頭が、ヌッと顔を

出します。鈴口と呼ばれる割れ目は、まるで縦に裂けた大蛇の口のようです。

とてもボクの小さな口には収まりきらないようなそれを、ボクは精一杯に咥え

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て、しゃぶらなければなりません。

何故か、あの人のそれはいつも以上に大きくなっているような気がします。

髪をつかんで引き寄せられます。

ボクは喉の奥まで貫かれ、犯されます。息苦しくなり、喘いでしまいます。

あの人の匂い。それは悪臭とも言えるほどの臭みをもった匂いです。

でも、その臭く巨大なものが、もうすぐボクの身体を貫いてくれる・・・・

さあ、ケツをこちらに向けて、いつもの

ように自分で開くんだ。

それが、口での奉仕を終わってもいいと

いうあの人の合図です。

ボクはあの人に背中を向け、頭を床につ

けて、お尻を高々と持ち上げます。

そして両手をお尻にあてがい、自分の指

でそこを開いて見せるのです。

ボクのそこは、自分で確認できませんが、

もう完全には閉じていないようです。それ

をあの人は、いい具合にほぐれてきたと言

ってくれます。

ボクの唾液で濡れた大蛇の頭が、ゆっくりとそこに押し当てられます。

さあ、たっぷりと、いつも以上に可愛がってやるぜ。

そう言って、あの人はボクの中に侵入しはじめます。

今夜の客は少し気に入らねえ奴だから、うんと汚してから送り出してやる。

気にいらない奴?

ボクの気持ちを察したのでしょう。あの人は言います。

今夜の客は、よりによって、あの早崎の野郎だからな。

その言葉にボクは硬直してしまい、その硬直をお尻の穴の具合で察したので

しょうか、あの人はさらに続けます。

お前もアイツに抱かれるのは、もうこれで何度目になるかな。

手前が売り飛ばしたガキを何度も買いに来るなんて、全くド変態な野郎だぜ。

あああ・・・・・やだ・・・・・やだ・・・・・早崎さんだけは・・・・・

身体の中心に達するまで貫き通されて、ボクの意識は白く濁っていきます。

ああ、いい・・・・・・

その2 終わり

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1

少年淫夢譚少年淫夢譚少年淫夢譚少年淫夢譚

その3

< 3 > 罠に落ちた獲物

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2

早崎はオーナーママの理不尽な要求をはねつけようとはしなかった。

かと言って、応諾したわけでもない。

こいつと、よく相談してから返事するよ。そう答えて、話を打ち切った。

いくらなんでも取材の見返りに半年もゲイバーで働けだなんて、理不尽にも

ほどがある。そんな馬鹿げた条件を早崎が飲むはずがない。幸彦はそう思った

が、即座に断らない早崎の行動も理解できた。

経営が順調とはいえない会社にとって、ママのようなクライアントは一人で

も失うわけにはいかない存在だ。断るにしても、断り方は慎重にしなければな

らない。幸彦は早崎の沈黙をそう理解していた。

店からの帰りに、幸彦はいつもの赤提灯に連れ込まれた。

早崎はすでにママの店でかなりできあがってしまっている。まだ飲む気か。

「おい。お前はどう思っているんだ」

席につくなり、唐突にそう聞かれた。

「どうって?」

「ママが出した条件のことだ。お前、受ける気はないのか」

「そんなあ、無茶ですよ。あの店で半年も働けだなんて」

「なにもタダ働きしろなんて言ってなかったぞ。相応の報酬は出すと言ってた」

「ダメですよ。ボクなんかに勤まるわけはないですよ」

「なに言ってんだ。あのくらいの仕事、どんな馬鹿にだってできる」

「や、ボクなんかだと、お客さんを怒らせて、逆に迷惑をかけてしまいますよ」

「お前、なんだかんだ言って、あの商売を蔑んでいるんじゃねえだろうな」

「そんな・・・・・・」

「それに、本当にドキュメンタリー製作の現場で生きていこうという気構えも

まったく出来ていねえようだ」

「・・・・・・・・・」

「いいか。少々の泥水は飲み干すくらいの気構えがなきゃ、ものにはならねえ」

早崎はそう言って幸彦を睨みつけた。

「この企画をものにできるかどうかは、お前の気構え一つにかかってるんだ」

「・・・・・・・・・」

「ここが正念場だ。今夜ひと晩、よく考えてから答えを出せ。いいな」

幸彦は生まれつき気が弱い。

早崎の要求を無下にはねつける勇気など持ち合わせていない。

その一方で、せっかく手にした映像の世界への切符を手放したくないという

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3

思いもある。迷いぬいたところで、他に選択の余地はなかった。

あんな世界に浸かりきってしまうわけじゃない。わずか半年のことだ。

自分の決断ひとつで早崎の企画がものになるとしたら、彼に大きな恩を売る

ことにもなる。やさぐれた暮らしぶりだが、早崎はこの世界でそれなりに名の

通った男でもある。彼に恩を売って

おけば、このさき必ずプラスになる

はずだ。自分にそう言い聞かせなが

ら、あくる朝、幸彦は早崎が望む通

りの答を告げた。

「そうか。そうかい。よく決断して

くれたな。」

幸彦の答えを聞いた早崎は、満面の

笑みを浮かべてそう言った。

これでよかったのだろうか。そんな

疑問と不安が胸をよぎったが、いっ

たん口にしてしまった言葉は、もう

撤回できなかった。

「なあに、お前の勤めぶりがどうの

とか、そんな苦情なんか絶対に出さ

せねえ。

もともとお前はニューハーフで

も、男の娘でもねえんだからな。酒

を運んで、客の話に相槌うってりゃいいんだ。そうすりゃ、半年なんてあっと

言う間だ。

それにな。ターゲットが入店して来りゃ、お前が店の中にいてターゲットの

身近にいるってことが、大きなメリットにもなる。ただ外から来て取材すると

いうんじゃ、ターゲットの暮らしぶりや考え方、感じ方を本当に把握すること

なんかできゃしねえ。中にいて、身近にいて、それではじめて相手の本当の姿

がつかめる。その意味で、お前の役目は大きい。お前がジャーナリストとして

の腕を磨く絶好のチャンスにもなる。そう考えて、しっかり頑張ってくれ」

幸彦の答えを聞いた早崎は、驚くほど機嫌がよく、饒舌でもあった。

早崎が上機嫌になり、饒舌になるのも当然だ。

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4

幸彦を売り渡すことで、長年の放蕩の結果とも言える借財が消え失せるのだ。

それどころか、今後の成り行きしだいでは、新しい稼ぎの道まで開けるかも

しれない。

早崎の頭の中では、オーナーママが約束した高額な報酬の何割かは、自分が

ピンはねするという構図まで出来上がっていた。

「中途半端な気持ちで入って来られても、現場は困るんですよ」

そう言ったのは、店の番頭役である黒田だった。

「この子が本気でやってくれるって言うのなら別ですが」

「どうなの、貴方?」

黒田の言葉を受けて、オーナーママは幸彦に問いかけてきた。

「いくら取材の条件だからって、おざなりな気持ちじゃ、あたしも困るわ」

そばにいてフォローしてくれるべき早崎は、なぜか同席していない。

「お前が決めたことだ。俺が無理強いしたと変に勘繰られても困るから今日は

お前一人で行って、お前の口でママに返事してこい」

そう言って幸彦を一人で店に向かわせたのだ。早崎は本音が顔にすぐ出てし

まう男だ。しかも、見かけによらず気は小さい。それを知りぬいているママが、

幸彦を一人で来させるように仕向けただけのことだ。

「おざなりな気持ちで来たわけじゃないです。やる以上は一生懸命やります」

せっかく決意したことだ。このままおめおめと帰るわけにはいかない。

幸彦は懇願するような口調で答えた。

「そう。だったら安心ね」

ママはそう言って微笑んだ。いかにも嬉しそうな様子だ。

「どう、黒田さん。この子もこう言ってるんだしさ、引き受けてやってよ」

「まあ、人手不足のおりですから、こっちも助かることは助かります。

ただ、中途半端な気持ちでやられるとかえって迷惑することになりますから、

この子が本気かどうか確かめるためにも、私から一つだけ条件があります」

「条件?」

「ええ。約束の半年間は、住み込みでやってもらいます」

「あら、この子の住む場所まで用意しなきゃいけないの? 経費かかるわね」

ママはそんなことを言う。このオーナーの念頭には損得勘定しかないのだ。

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5

「いや、さいわい私の所に空き部屋がありますから、そこでということで」

幸彦本人の意向など全く無視されたまま、話がどんどん先に進められていく。

「今どういう場所で暮らしているか知りませんが、周囲には同じ学校の人間や

職場の人間がいるはずです。毎晩アルコールの匂いを撒き散らして帰るわけに

もいかないだろうし、第一、出勤のときに化粧を済ませて出てくるわけにもい

かないでしょう」

「そんな瑣末なことはなんとかなるとしても、色々と不都合が出てきます。

心構えも中途半端になります。

すくなくとも、店を手伝う半年の間は、これまでの生活とは全く違う環境の

中で暮らしてもらわないと困ります。この条件だけは譲れません」

「そうね。そう言われれば、たしかにそうね」

「あ、それともうひとつ。

本気で取り組むと言う以上、この仕事についている間は、私の指示や命令に

絶対に逆らわないこと。私への絶対服従を誓ってもらいます。

そう誓えるなら、私は責任をもって指導しますし、お店に貢献できるだけの

立派なホステスに育てあげてみせます」

いっさい口をはさめないままに、幸彦の処遇が勝手に決められていく。

たとえ口をはさめたとしても、異議を唱えることは無理だっただろう。

この話を受け入れた瞬間から、

自分で自分のことを決める自由

など、もうないのも同然の状態

だったと言える。

幸彦の住まいは、会社が一括

借りしているワンルーム、いわ

ば社宅だった。

本来なら正社員やその家族だけ

のものだが、たまたま空きがあ

ったのと、なぜか早崎が熱心に

口ききしてくれたことで、大学

の学生寮から移り住むことがで

きたのだ。

事情が事情だから、半年間部屋を空けることになっても問題はないと思う。

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6

大学には休学届けを出しておいた。好ましいブランクではなかったが、将来

のためのワンステップだと割り切って手続きを済ませた。

問題は黒田という男のマンションに同居するということだ。

爬虫類を思わせる不気味さをもった男。初対面の時から、何故かぞっとする

ような印象を感じたこの人物と同居し、それどころか、その男の言葉には絶対

服従であることを強いられる。

幸彦にとっては、そちらのほうが問題だった。

「苦労させるな。すまん。我慢してくれ。なあに、僅か半年の辛抱だ」

会社に戻って報告すると、早崎はそう言って、珍しく幸彦に頭を下げた。

それから三日後に、黒田の指示を受けたという数名の男たちがやって来て、

引越し作業を手伝ってくれた。早崎も顔を出し、手伝いらしい手伝いもせずに

見守るなか、作業はあっという間に片付いた。

学生生活に必要なものはいっさい荷造りの対象には含まれない。それはひと

まとめにして押入れに突っ込まれ、衣類や日用品、貴重品のたぐいだけの荷造

りだから簡単な引越し作業だ。

早崎に見送られる形で軽トラックの助手席に座った幸彦は、不安を胸にかか

えたまま黒田のマンションに向かった。僅か半年だけのこと。自分で自分にそ

う言い聞かせながら、その不安を心の奥深くにしまい込もうとするのだが、そ

うすればそうするほど、それはどす黒い染みのようになって広がってしまう。

僅か半年だけの異郷暮らし。早崎はそう言った。幸彦もそう思った。しかし、

それは二度と元の世界には戻れない地獄への旅立ちだった。

まだ開店前の店内。照明もカウンターの一部だけで、外の明るさとはうらは

らにそこだけはもう深夜を思わせるような闇の世界。

そのカウンターをはさんで、早崎はママと会話している。

「どうだい、ブツを送り届けてからまだ五日だが、順調に進んでるのかい?」

「それがね・・・・・」

問いかけられたママは、水割りをつくりながら声のトーンを落す。

「おいおい、困ったことになってんじゃないだろうな。ヤバイのは御免だぜ」

慌てる早崎を暫く焦らしたあとで、ママは急に笑い出した。

「そう。困ったことに、順調よ。順調すぎて困るくらいなの」

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7

「驚かせるなよ。順調ならいいんだ」

「ええ。仕込むのに一ヶ月はかかるかと思ってたんだけど、意外に順調だから、

二十日あまりでお店にも出せそうよ」

ママは得意げにそう言う。

「もうこの五日で、すっかり女らしくなったって話よ。

明日からエステにも通わせるみたいだし、お尻の穴のまわりも綺麗さっぱり

と脱毛させちゃうわけね。

ちょっと気が早いんじゃないかって思ったけど、もう女性ホルモンまで飲ま

せてるって。お店に出す時分には錠剤からお注射に変えるって言うから、あと

三月もしたら、オッパイもけっこう膨らんじゃうはずだわ」

「えれえ早いじゃねえか。

もしかしたら、まさか? もう?」

「ご明察よ。

黒田は手が早いの。お引越しの夜に、もうあの子を女にしちゃったって話よ。

ぐずぐずしても仕方ない話だけど、まさか引越しの当日に犯っちゃうとは、

さすがのあたしも思わなかったわ」

「引越し当日になあ・・・・・ あいつ、女にされちまったのか」

「そうよ。それから今日まで、まる五日間、昼も夜も。

黒田も性欲の塊みたいな男だけど、手下の若いの三人まで使って、男4人で

セックス漬けにしてるって話よ。

あの可愛いボクちゃん、もう男には戻れない身体になってるわね。

きちんと仕上がったら、あんたにも味見させてあげるわね」

その悪夢のような夜。

黒田に挨拶し、指示さ

れた部屋に案内された幸

彦は、持ち込んだ荷物を

解いて、部屋の隅のクロ

ーゼットにしまい込もう

としていた。

「その荷物は?」

「あ、これは、衣類です。下着やなんかもあって、少しかさばりますが」

「服と下着か。じゃあ、その荷物は縛ったままにしておけ」

「え?」

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8

「もう、そんなもの着る必要はないからな」

幸彦は黒田の言葉の意味を理解できなかった。

「男物の服や下着なんか、もう必要ない。

お前がこれから身に着けるものは、全部その中に用意してある」

黒田はそう言って、クローゼットの扉を全開にした。

中にはハンガーに吊るされた派手な女物の衣装がぎっしりと詰まっていた。

それだけではない。

床に置かれた樹脂製のボックスには、色とりどりの艶かしい下着が。

「今夜から、いや、たった今から、お前が着るのは、この中にあるものだけだ。

お前が持ち込んできた男臭い服や下着は、いま着ている物を含めて全部封印

する。わかるな。お前はたった今から、男じゃなくなるんだからな。

わかったら、いま着ている物をさっさと脱げ。そのGパンも、それから中の

トランクスだかブリーフだかも全部脱いで、すぐに着替えるんだ」

「そんな・・・・ いきなり、そんなこと言われても」

あまりに唐突な黒田の言葉に、幸彦は思わず言い返してしまった。

そして、予期せぬことが起きた。

甲高い音が響きわたり、鋭い痛みが幸彦の頬を襲った。

「小僧! オレの命令には絶対服従を誓ったはずだ。

いったい何日前の話だ。三日もたたないうちに、もう誓いを破る気か!」

ドスがきいた声と言うよりは、ひどく冷たく、爬虫類を思わせる風貌によく

似合った不気味な口調だった。

二発、三発と、平手撃ちは続いた。

暴力という言葉が似つかわしくないほどクールに繰り返される平手打ち。

頬が腫れあがるほどの強い力はこめられていない。しかし、それはまぎれも

ない暴力だった。正確なテンポで、立て続けに繰り出される平手打ち。それは

生贄の心に、力まかせの一発よりもはるかに強い恐怖を植えつけていく。

幸彦は暴力を受けた体験がない。友人関係の中ではささやかな言葉の暴力を

体験した記憶はある。しかし、それだけでも泣きだしてしまうほど気弱な少年

だった。

生まれてはじめて体験する物理的な暴力。理不尽に襲いかかる痛み。

信じられないほど大量の涙が両眼から溢れ出した。ひざがガクガクと震え、

しまいには黒田の足にすがりつくようにして叫んでいた。

「ごめんなさい! ごめんなさい! 堪忍して・・・許して、ください」

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9

幸彦は屈服した。たったそれだけの暴力に屈した。

とは言っても、屈服したという自覚はなかった。たしかに自分は、この人に

絶対服従を誓った。その誓いを破って、逆らってしまった。だから自分が悪い。

そう自分に言い聞かせてしまうほど、気弱で人のいい少年だった。

黒田の暴力は幸彦のそんな気質を見抜いたうえでのものだった。ほんの少し

手を出すだけでいい。あとは怒鳴りつけるだけで、いくらでも言いなりになる。

黒田にとっては実に調教しやすい相手だった。

その夜の屈服が、その後の転落の始まりになった。

もう逆らわない。この中の下着や服を身に着けるだけのことだ。もう逆らっ

たりはしない。これから、わずか六ヶ月だけのことだ。

なにも分かっちゃいなかった。

いったん屈服した心は、まるで坂道を転がり落ちる玉のように、幸彦をどん

どん深みに追い込んでいく。息をつく暇もないほどの速さで。

*******************

ああ、どうしよう・・・ 今夜の客が早崎さんだなんて。やだ。いやだ。

ボクを抱き終えてから教えてくれてもよかっただろうに・・・・・

いつもこうだ。

ボクが嫌がることを、知っていながら平気で口にする。

ボクをいたぶって楽しんでいる。

でも、いたぶられながら、ボクもまたいつも以上に燃えてしまっている。

早崎さんは・・・・・この人に比べたら、とても優しい。

言葉は悪いが、けっして暴力をふるったりはしない。

でも、ボクには分かる。

本当に恐ろしいのは、早崎さんのほうだ。

ボクを犯しながら、いつも、男の子だった頃のボクの話を持ち出す。

あの頃のお前はああだった、こうだったと話して、わざと思い出させる。

今の自分との落差を思い知らせることで、ボクがどういう反応を示すのかを、

とても意地悪な目で観察している。

いやだ・・・・・

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10

その3 終わり