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目次
はじめに
分析の対象
分析の枠組
株価プレミアム問題
標準的でない効用関数の例
厚生経済学の第一定理
まとめ
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 2 / 58
はじめに
この章の構成はじめに
分析の対象
分析の枠組
株価プレミアム問題
標準的でない効用関数の例曖昧さ回避的な効用関数双曲的割引率を持つ効用関数帰納的効用関数
厚生経済学の第一定理第一定理の主張完備市場と第一定理の定式化代表的消費者の定式化
まとめ
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 3 / 58
はじめに
概要と目的
金融市場(資産市場)は,リスクを配分したり,資金を融通したりする場である.株価や金利は,すべて,価格という一般的概念の特殊形であり,経済の現状を表す指標である.
しかし,資産市場というと,株価の変動が大きいとか,金利上昇局面が続くなどといった,値動きの側面のみが強調されるきらいがある.
本講義では,資産市場が実需を正しく反映するということの意味を明らかにし,経済全体の中で持つ役割を論ずる.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 4 / 58
分析の対象
この章の構成はじめに
分析の対象
分析の枠組
株価プレミアム問題
標準的でない効用関数の例曖昧さ回避的な効用関数双曲的割引率を持つ効用関数帰納的効用関数
厚生経済学の第一定理第一定理の主張完備市場と第一定理の定式化代表的消費者の定式化
まとめ
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 5 / 58
分析の対象
メーラとプレスコットによる株価プレミアム問題1989年から 1978年までの S&P500(株価指数)の実質年次リターンの変動
平均 = 6.98%
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 6 / 58
分析の対象
メーラとプレスコットによる株価プレミアム問題1989年から 1978年までの米国債の実質利回りの変動
平均= 0.80%
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 7 / 58
分析の対象
メーラとプレスコットによる株価プレミアム問題1989年から 1978年までの国民一人当たりの実質年間消費成長率の変動
平均= 1.80%
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 8 / 58
分析の対象
株価プレミアム問題の所在
株価プレミアム:6.98− 0.80 = 6.18%
株価プレミアムはリスクをとる対価なので,正であるのは当然. しかし,その大きさ(6.18%)は妥当であるか? メーラとプレスコットは,経済学の標準モデルからはこのように大きな株価プレミアムは得られないことを示した.
ワイルは,高い株価プレミアムが得られるモデルでは,低い実質金利(0.80%)が高い経済成長率(1.80%)と矛盾することを示した.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 9 / 58
分析の枠組
この章の構成はじめに
分析の対象
分析の枠組
株価プレミアム問題
標準的でない効用関数の例曖昧さ回避的な効用関数双曲的割引率を持つ効用関数帰納的効用関数
厚生経済学の第一定理第一定理の主張完備市場と第一定理の定式化代表的消費者の定式化
まとめ
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 10 / 58
分析の枠組
設定
各年 t = 0, 1, 2, . . . での取引の対象 消費財(1種類のみ) リスク資産(S&P500).消費財 dt の配当を支払い,次年でも取引 安全資産(短期国債).次年で満期を迎える割引債で,額面は消費財
1単位.
各年 t = 0, 1, 2, . . . での価格 消費財は価値基準財(価格は 1) リスク資産の価格は pt(消費財に対する相対価格) 安全資産の価格は qt(利回りは 1/qt − 1)
各年 t = 0, 1, 2, . . . での,資産資産以外からの所得(労働所得など)が et単位あるものとする.これはあまり「滑らか」ではないと想定
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 11 / 58
分析の枠組
消費と投資 前年から yt−1枚のリスク資産と zt−1枚の安全資産を持ち越したとすると,可処分所得は
元々の所得+リスク資産配当+リスク資産の市場価値+安全資産の額面
= et + dtyt−1 + ptyt−1 + zt−1.
ct単位の万能財を消費し,yt枚のリスク資産と zt枚の安全資産を購入するのに必要な費用は
消費+購入する資産の代金 = ct + ptyt + qtzt.
t年での予算制約は「支出 ≤収入」,つまりct + ptyt + qtzt ≤ et + (dt + pt)yt−1 + zt−1.
リスク資産のリターンは(dt + pt)− pt−1
pt−1=
dtpt−1
+pt − pt−1
pt−1
=インカムゲイン+キャピタルゲイン.
超過リターン =リスク資産のリターン− (1/qt−1 − 1).原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 12 / 58
分析の枠組
消費者の効用最大化問題
消費水準の確率過程 (c0, c1, c2, . . . )の集合上で,効用関数 U が定義されているものとする.
資産の当初保有量 y−1と z−1はゼロと仮定する.毎年の予算制約
ct + ptyt + qtzt ≤ et + (dt + pt)yt−1 + zt−1
を満たす消費・資産取引計画
((c0, y0, z0), (c1, y1, z1), (c2, y2, z2), . . . )
のうち,効用水準 U(c0, c1, c2, . . . )を最大にするものを選ぶ.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 13 / 58
分析の枠組
効用関数 δは 0と 1の間の主観的時間割引因子,uは消費水準に対して((0,∞)上で)定義された関数で,
U(c0, c1, c2, . . . ) = u(c0) + δE[u(c1)] + δ2E[u(c2)] + · · ·
= E
[ ∞∑t=0
δtu(ct)
]が成立すると仮定する.
U(c0, c1, c2, . . . ) = (1− δ)E
[ ∞∑t=0
δtu(ct)
]とおいても同値である.この効用関数は
期待効用 各期の効用は,効用水準の実現値 u(ct)の期待値加法分離的 計画全体からの効用は,毎年の割引期待効用の総和で,
割引因子は一定
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 14 / 58
分析の枠組
効用最大化と動学的一貫性
反復期待値の法則により
U(c0, c1, c2, . . . ) = E
[t−1∑s=0
δsu(cs) + δtEt
[ ∞∑s=0
δsu(ct+s)
]]
0年において選ばれた計画
((ct, yt, zt), (ct+1, yt+1, zt+1), (ct+2, yt+2, zt+2), . . . )
は,実は,t年において,
Et
[ ∞∑s=0
δsu(ct+s)
]
を最大にする.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 15 / 58
分析の枠組
効用最大化の 1階の必要条件 安全資産の購入量 ztを 1枚増やしても効用水準は上げられないので,
−qtu′(ct) + Et
[δu′(ct+1)
]= 0, つまり, Et
[1
qtδu′(ct+1)
u′(ct)
]= 1.
(1)
リスク資産の購入量 ytを 1枚増やし,それを必ず翌年 t+ 1で売却するしたとしても効用水準は上げられないので
−ptu′(ct) + Et
[(dt+1 + pt+1)δu
′(ct+1)]= 0,
つまり, Et
[dt+1 + pt+1
ptδu′(ct+1)
u′(ct)
]= 1,
よって, Et
[(dt+1 + pt+1
pt− 1
qt
)u′(ct+1)
u′(ct)
]= 0. (2)
δu′(ct+1)/u′(ct)は state price density, pricing kernel, stochastic
discount factorなどと呼ばれ,Consumption-Based Capital AssetPricing Modelの価格付け公式が得られる.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 16 / 58
分析の枠組
相対的リスク回避度一定の効用関数
任意の γ > 0に対して,
uγ(x) =
x1−γ − 1
1− γ(γ = 1)
lnx (γ = 1)
と定義する. 相対的リスク回避度は
−u′′γ(x)x
u′γ(x)= γ.
なので,一定.γの値が大きいほど,消費者はリスク回避的.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 17 / 58
分析の枠組
相対的リスク回避度一定の効用関数
u = uγ なる γ > 0が存在すると仮定すると
u′(ct+1)
u′(ct)=
(ct+1
ct
)−γ
(1)と (2)に反復期待値の法則を適用すれば,
E
[(dt+1 + pt+1
pt− 1
qt
)(ct+1
ct
)−γ]= 0, (3)
E
[1
qtδ
(ct+1
ct
)−γ]= 1. (4)
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 18 / 58
株価プレミアム問題
この章の構成はじめに
分析の対象
分析の枠組
株価プレミアム問題
標準的でない効用関数の例曖昧さ回避的な効用関数双曲的割引率を持つ効用関数帰納的効用関数
厚生経済学の第一定理第一定理の主張完備市場と第一定理の定式化代表的消費者の定式化
まとめ
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 19 / 58
株価プレミアム問題
モデルをパラメターを特定
ここで U は代表的個人の効用関数,(c0, c1, c2, . . . )は国民一人当たりの消費水準とし,
S&P500の実質年次リターン 国債の実質利回り 国民一人当たりの消費量の実質年次成長率
を使って,時間割引因子 δと相対的リスク回避度 γをどのような値に定めれば,(3)と (4)の左辺の標本平均が 0および 1に一致するかを求めよう.
2本の等式を 2変数で解く問題であるが,特に,γをどの程度大きくすれば,(3)を解くか,すなわち株価プレミアム 6.18%が得られるかを考える
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 20 / 58
株価プレミアム問題
相対的リスク回避度 γの値の設定受講生の皆さんへの質問
「50%の確率で自分の資産の半分を失うリスクを回避するために,資産の何%までを保険料として支払う用意があるか?」
唯一の正解がある訳ではないが, 損失割合の期待値は 50%× 50% = 25%なので,リスク回避的ならば,資産の 25%なら支払ってもよいはず.
損失が起こるとしても,失うのは資産の 50%だから,それ以上支払っても構わないとするのは常軌を逸している.
よって,25%と 50%の間の割合まで支払うつもりと考えるのが妥当.
保険料の割合の上限は相対的リスク回避度の値による
相対的リスク回避度 γ 0.2 1 3 10 20 30
保険料割合の上限 25.4 29.3 36.6 46.0 48.1 48.8
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 21 / 58
株価プレミアム問題
相対的リスク回避度 γの値の設定受講生の皆さんへの質問
「50%の確率で自分の資産の半分を失うリスクを回避するために,資産の何%までを保険料として支払う用意があるか?」
唯一の正解がある訳ではないが, 損失割合の期待値は 50%× 50% = 25%なので,リスク回避的ならば,資産の 25%なら支払ってもよいはず.
損失が起こるとしても,失うのは資産の 50%だから,それ以上支払っても構わないとするのは常軌を逸している.
よって,25%と 50%の間の割合まで支払うつもりと考えるのが妥当.
保険料の割合の上限は相対的リスク回避度の値による
相対的リスク回避度 γ 0.2 1 3 10 20 30
保険料割合の上限 25.4 29.3 36.6 46.0 48.1 48.8
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 21 / 58
株価プレミアム問題
相対的リスク回避度 γの値の設定受講生の皆さんへの質問
「50%の確率で自分の資産の半分を失うリスクを回避するために,資産の何%までを保険料として支払う用意があるか?」
唯一の正解がある訳ではないが, 損失割合の期待値は 50%× 50% = 25%なので,リスク回避的ならば,資産の 25%なら支払ってもよいはず.
損失が起こるとしても,失うのは資産の 50%だから,それ以上支払っても構わないとするのは常軌を逸している.
よって,25%と 50%の間の割合まで支払うつもりと考えるのが妥当.
保険料の割合の上限は相対的リスク回避度の値による
相対的リスク回避度 γ 0.2 1 3 10 20 30
保険料割合の上限 25.4 29.3 36.6 46.0 48.1 48.8
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 21 / 58
株価プレミアム問題
相対的リスク回避度 γの値の設定受講生の皆さんへの質問
「50%の確率で自分の資産の半分を失うリスクを回避するために,資産の何%までを保険料として支払う用意があるか?」
唯一の正解がある訳ではないが, 損失割合の期待値は 50%× 50% = 25%なので,リスク回避的ならば,資産の 25%なら支払ってもよいはず.
損失が起こるとしても,失うのは資産の 50%だから,それ以上支払っても構わないとするのは常軌を逸している.
よって,25%と 50%の間の割合まで支払うつもりと考えるのが妥当.
保険料の割合の上限は相対的リスク回避度の値による
相対的リスク回避度 γ 0.2 1 3 10 20 30
保険料割合の上限 25.4 29.3 36.6 46.0 48.1 48.8
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 21 / 58
株価プレミアム問題
相対的リスク回避度 γの値の設定受講生の皆さんへの質問
「50%の確率で自分の資産の半分を失うリスクを回避するために,資産の何%までを保険料として支払う用意があるか?」
唯一の正解がある訳ではないが, 損失割合の期待値は 50%× 50% = 25%なので,リスク回避的ならば,資産の 25%なら支払ってもよいはず.
損失が起こるとしても,失うのは資産の 50%だから,それ以上支払っても構わないとするのは常軌を逸している.
よって,25%と 50%の間の割合まで支払うつもりと考えるのが妥当.
保険料の割合の上限は相対的リスク回避度の値による
相対的リスク回避度 γ 0.2 1 3 10 20 30
保険料割合の上限 25.4 29.3 36.6 46.0 48.1 48.8
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 21 / 58
株価プレミアム問題
株価プレミアムと相対的リスク回避度カリブレーションの意味
推定誤差を考慮すれば,γ ≤ 8.5のとき,(3)の左辺の標本平均は正.よって,γ > 8.5が推定される.
推定誤差を考慮しなければ,δ = 1.08かつ γ = 17.95とすれば,(3)と (4)の左辺の標本平均は右辺に一致する.
メーラとプレスコットは,γ ≥ 10を示した.
シーゲルとセイラーは,γ ≥ 30と主張.
受講生の皆さんの回答の多くは,おそらく,γ ≤ 10を示すだろう.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 22 / 58
株価プレミアム問題
安全利子率問題高い株価プレミアムと低い安全利子率は両立不可能
ここまで,相対的リスク回避度 γが「妥当な」値をとるとき,(2)は解けないことを示した.
では,δ < 1かつ δ ≈ 1なる δを固定しつつ,γがとても高い値をとって (2)を解くとき,(1)が成立するかを考えよう.
実は,γがとても高い値をとるとき,推定誤差を考慮しても,(1)の左辺の標本平均は 1未満である.
これが安全利子率問題である.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 23 / 58
株価プレミアム問題
株価プレミアム問題の背後の仮定と解決法
1. 期待効用関数・加法分離性・一定の時間割引因子U(c0, c1, c2 . . . ) = E
[∑δtu(ct)
]なので.
2. 取引費用はゼロ・空売り制約なし効用最大化の 1階の条件を使っているので.
3. 完備市場(complete markets)代表的個人が国民一人当たりの年間消費量を消費するので.
1. 代表的個人の効用関数の変更
期待効用関数と一定の時間割引因子の仮定を外すことを考える.
2. 取引費用や空売り制約の導入売買価格差や貸借金利差,流動性制約を課すことを考える.
3. 不完備(incomplete)な資産市場を想定
厚生経済学の第一定理と関連する.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 24 / 58
標準的でない効用関数の例
この章の構成はじめに
分析の対象
分析の枠組
株価プレミアム問題
標準的でない効用関数の例曖昧さ回避的な効用関数双曲的割引率を持つ効用関数帰納的効用関数
厚生経済学の第一定理第一定理の主張完備市場と第一定理の定式化代表的消費者の定式化
まとめ
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 25 / 58
標準的でない効用関数の例 曖昧さ回避的な効用関数
曖昧さ(ambiguity)の取り扱いエルスバーグの例
2つの壷 Aと Bが置かれているAには赤いボールと白いボールが 50個ずつある.Bにも赤いボールと白いボールが合計 100個あるが,内訳は不明.壷から取り出したボールの色で賞金が決まるくじ引きを考えよう.
質問 1 以下の 2つのくじ引きのどちらを選ぶか?
LAR Aから赤いボールを取り出せば,10万円LBR Bから赤いボールを取り出せば,10万円
質問 2 以下の 2つのくじ引きのどちらを選ぶか?
LAW Aから白いボールを取り出せば,10万円LBW Bから白いボールを取り出せば,10万円
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 26 / 58
標準的でない効用関数の例 曖昧さ回避的な効用関数
曖昧さ(ambiguity)の取り扱いエルスバーグの例
2つの壷 Aと Bが置かれているAには赤いボールと白いボールが 50個ずつある.Bにも赤いボールと白いボールが合計 100個あるが,内訳は不明.壷から取り出したボールの色で賞金が決まるくじ引きを考えよう.
質問 1 以下の 2つのくじ引きのどちらを選ぶか?
LAR Aから赤いボールを取り出せば,10万円LBR Bから赤いボールを取り出せば,10万円
質問 2 以下の 2つのくじ引きのどちらを選ぶか?
LAW Aから白いボールを取り出せば,10万円LBW Bから白いボールを取り出せば,10万円
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 26 / 58
標準的でない効用関数の例 曖昧さ回避的な効用関数
曖昧さ(ambiguity)の取り扱いエルスバーグの例
2つの壷 Aと Bが置かれているAには赤いボールと白いボールが 50個ずつある.Bにも赤いボールと白いボールが合計 100個あるが,内訳は不明.壷から取り出したボールの色で賞金が決まるくじ引きを考えよう.
質問 1 以下の 2つのくじ引きのどちらを選ぶか?
LAR Aから赤いボールを取り出せば,10万円LBR Bから赤いボールを取り出せば,10万円
質問 2 以下の 2つのくじ引きのどちらを選ぶか?
LAW Aから白いボールを取り出せば,10万円LBW Bから白いボールを取り出せば,10万円
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 26 / 58
標準的でない効用関数の例 曖昧さ回避的な効用関数
期待効用関数とエルスバーグの例両方の回答を説明し得る期待効用関数は存在しない
消費者が,壺 BにはN 個の赤いボールがある,つまり,壺 Bから赤いボールを取り出す確率 πはN/100である考えるとする.u(0) = 0を仮定.
質問 1での期待効用の比較
U(LAR) =50
100u(10) +
50
100u(0) =
1
2u(10),
U(LBR) =N
100u(10) +
100−N
100u(0) = πu(10).
U(LAR) > U(LBR)ならば,π < 0.5つまりN < 50. 質問 2での期待効用の比較
U(LAW) =50
100u(10) +
50
100u(0) =
1
2u(10),
U(LBW) =100−N
100u(10) +
N
100u(0) = (1− π)u(10).
U(LAW) > U(LBW)ならば,π > 0.5つまりN > 50.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 27 / 58
標準的でない効用関数の例 曖昧さ回避的な効用関数
期待効用関数とエルスバーグの例両方の回答を説明し得る期待効用関数は存在しない
消費者が,壺 BにはN 個の赤いボールがある,つまり,壺 Bから赤いボールを取り出す確率 πはN/100である考えるとする.u(0) = 0を仮定.
質問 1での期待効用の比較
U(LAR) =50
100u(10) +
50
100u(0) =
1
2u(10),
U(LBR) =N
100u(10) +
100−N
100u(0) = πu(10).
U(LAR) > U(LBR)ならば,π < 0.5つまりN < 50. 質問 2での期待効用の比較
U(LAW) =50
100u(10) +
50
100u(0) =
1
2u(10),
U(LBW) =100−N
100u(10) +
N
100u(0) = (1− π)u(10).
U(LAW) > U(LBW)ならば,π > 0.5つまりN > 50.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 27 / 58
標準的でない効用関数の例 曖昧さ回避的な効用関数
期待効用関数とエルスバーグの例両方の回答を説明し得る期待効用関数は存在しない
消費者が,壺 BにはN 個の赤いボールがある,つまり,壺 Bから赤いボールを取り出す確率 πはN/100である考えるとする.u(0) = 0を仮定.
質問 1での期待効用の比較
U(LAR) =50
100u(10) +
50
100u(0) =
1
2u(10),
U(LBR) =N
100u(10) +
100−N
100u(0) = πu(10).
U(LAR) > U(LBR)ならば,π < 0.5つまりN < 50. 質問 2での期待効用の比較
U(LAW) =50
100u(10) +
50
100u(0) =
1
2u(10),
U(LBW) =100−N
100u(10) +
N
100u(0) = (1− π)u(10).
U(LAW) > U(LBW)ならば,π > 0.5つまりN > 50.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 27 / 58
標準的でない効用関数の例 曖昧さ回避的な効用関数
上記の選択をする意思決定者の効用関数ギルボアとシュマイドラーによる定式化
期待効用関数では,U(LBR) = πu(10). つまり,πが壷 Bにある赤いボールの個数に関する,唯一の確率的信念.
消費者は悲観的で複数の確率的信念を持つとする.例えば,
U(LBR) = minπ=0.49, 0.50, 0.51
πu(10)
= (N = 49, 50, 51のときの期待効用の最小値),
U(LBW) = minπ=0.49, 0.50, 0.51
(1− π)u(10)
= (N = 49, 50, 51のときの期待効用の最小値),
と定義すると,
U(LBR) = U(LBW) =49
100u(10) <
50
100u(10) = U(LAR) = U(LAW).
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 28 / 58
標準的でない効用関数の例 曖昧さ回避的な効用関数
ライファによる反論
くじ LAR, LBR, LAW, LBWを賞品とする複合くじを考えよう.
CLA コインを投げて表が出たら LAR,裏が出たら LAW
CLB コインを投げて表が出たら LBR,裏が出たら LBW
上記 2つの複合くじのどちらを選ぶか? 質問 1で LARを,質問 2で LAWを選んだなら,CLAを選ぶはず. ところが,10万円を獲得する確率は
CLA1
2× 1
2+
1
2× 1
2=
1
2,
CLB1
2× π +
1
2× (1− π) =
1
2.
よって,質問 1で LARを,質問 2で LAWを選ぶのは不合理.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 29 / 58
標準的でない効用関数の例 曖昧さ回避的な効用関数
ライファによる反論
くじ LAR, LBR, LAW, LBWを賞品とする複合くじを考えよう.
CLA コインを投げて表が出たら LAR,裏が出たら LAW
CLB コインを投げて表が出たら LBR,裏が出たら LBW
上記 2つの複合くじのどちらを選ぶか? 質問 1で LARを,質問 2で LAWを選んだなら,CLAを選ぶはず. ところが,10万円を獲得する確率は
CLA1
2× 1
2+
1
2× 1
2=
1
2,
CLB1
2× π +
1
2× (1− π) =
1
2.
よって,質問 1で LARを,質問 2で LAWを選ぶのは不合理.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 29 / 58
標準的でない効用関数の例 曖昧さ回避的な効用関数
ライファによる反論
くじ LAR, LBR, LAW, LBWを賞品とする複合くじを考えよう.
CLA コインを投げて表が出たら LAR,裏が出たら LAW
CLB コインを投げて表が出たら LBR,裏が出たら LBW
上記 2つの複合くじのどちらを選ぶか? 質問 1で LARを,質問 2で LAWを選んだなら,CLAを選ぶはず. ところが,10万円を獲得する確率は
CLA1
2× 1
2+
1
2× 1
2=
1
2,
CLB1
2× π +
1
2× (1− π) =
1
2.
よって,質問 1で LARを,質問 2で LAWを選ぶのは不合理.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 29 / 58
標準的でない効用関数の例 曖昧さ回避的な効用関数
ライファによる反論
くじ LAR, LBR, LAW, LBWを賞品とする複合くじを考えよう.
CLA コインを投げて表が出たら LAR,裏が出たら LAW
CLB コインを投げて表が出たら LBR,裏が出たら LBW
上記 2つの複合くじのどちらを選ぶか? 質問 1で LARを,質問 2で LAWを選んだなら,CLAを選ぶはず. ところが,10万円を獲得する確率は
CLA1
2× 1
2+
1
2× 1
2=
1
2,
CLB1
2× π +
1
2× (1− π) =
1
2.
よって,質問 1で LARを,質問 2で LAWを選ぶのは不合理.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 29 / 58
標準的でない効用関数の例 曖昧さ回避的な効用関数
ライファによる反論
くじ LAR, LBR, LAW, LBWを賞品とする複合くじを考えよう.
CLA コインを投げて表が出たら LAR,裏が出たら LAW
CLB コインを投げて表が出たら LBR,裏が出たら LBW
上記 2つの複合くじのどちらを選ぶか? 質問 1で LARを,質問 2で LAWを選んだなら,CLAを選ぶはず. ところが,10万円を獲得する確率は
CLA1
2× 1
2+
1
2× 1
2=
1
2,
CLB1
2× π +
1
2× (1− π) =
1
2.
よって,質問 1で LARを,質問 2で LAWを選ぶのは不合理.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 29 / 58
標準的でない効用関数の例 双曲的割引率を持つ効用関数
異年での消費の選択の例
異なるタイミングでの消費の間の選択を考えよう.
質問 1 どちらの消費経路を選ぶか?C0 今年 20万円消費するC1 来年 21万円消費する
質問 2 どちらの消費経路を選ぶか?C10 10年後に 20万円消費するC11 11年後に 21万円消費する
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 30 / 58
標準的でない効用関数の例 双曲的割引率を持つ効用関数
異年での消費の選択の例
異なるタイミングでの消費の間の選択を考えよう.
質問 1 どちらの消費経路を選ぶか?C0 今年 20万円消費するC1 来年 21万円消費する
質問 2 どちらの消費経路を選ぶか?C10 10年後に 20万円消費するC11 11年後に 21万円消費する
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 30 / 58
標準的でない効用関数の例 双曲的割引率を持つ効用関数
異年での消費の選択の例
異なるタイミングでの消費の間の選択を考えよう.
質問 1 どちらの消費経路を選ぶか?C0 今年 20万円消費するC1 来年 21万円消費する
質問 2 どちらの消費経路を選ぶか?C10 10年後に 20万円消費するC11 11年後に 21万円消費する
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 30 / 58
標準的でない効用関数の例 双曲的割引率を持つ効用関数
消費者の効用関数 U は
U(c0, c1, c2, . . . ) = u(c0) + δu(c1) + δ2u(c2) + · · ·
と定義されているものとする.u(0) = 0を仮定.
質問 1では
U(C0) = u(20),
U(C1) = δu(21).
U(C0) > U(C1)ならば,δ < u(20)/u(21).
質問 2では
U(C10) = δ10u(20),
U(C11) = δ11u(21).
U(C10) < U(C11)ならば,δ > u(20)/u(21).
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 31 / 58
標準的でない効用関数の例 双曲的割引率を持つ効用関数
消費者の効用関数 U は
U(c0, c1, c2, . . . ) = u(c0) + δu(c1) + δ2u(c2) + · · ·
と定義されているものとする.u(0) = 0を仮定.
質問 1では
U(C0) = u(20),
U(C1) = δu(21).
U(C0) > U(C1)ならば,δ < u(20)/u(21).
質問 2では
U(C10) = δ10u(20),
U(C11) = δ11u(21).
U(C10) < U(C11)ならば,δ > u(20)/u(21).
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 31 / 58
標準的でない効用関数の例 双曲的割引率を持つ効用関数
消費者の効用関数 U は
U(c0, c1, c2, . . . ) = u(c0) + δu(c1) + δ2u(c2) + · · ·
と定義されているものとする.u(0) = 0を仮定.
質問 1では
U(C0) = u(20),
U(C1) = δu(21).
U(C0) > U(C1)ならば,δ < u(20)/u(21).
質問 2では
U(C10) = δ10u(20),
U(C11) = δ11u(21).
U(C10) < U(C11)ならば,δ > u(20)/u(21).
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 31 / 58
標準的でない効用関数の例 双曲的割引率を持つ効用関数
双曲的割引率
効用関数 U(c0, c1, c2, . . . ) = u(c0) + δu(c1) + δ2u(c2) + · · · では,主観的時間割引因子 δは一定.
時間割引率は一定でないとする.例えば,
U(c0, c1, c2, . . . ) = u(c0) + βδu(c1) + βδ2u(c2) + · · ·
と定義すると,U(C0) = u(20), U(C1) = βδu(21), U(C10) =βδ10u(20), U(C11) = βδ11u(21).δが 1に近く,βが 0に近いなら,
βδ <u(20)
u(21)< δ
なので,U(C0) > U(C1)かつ U(C10) < U(C11).
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 32 / 58
標準的でない効用関数の例 双曲的割引率を持つ効用関数
動学的一貫性の欠如
U(C0) > U(C1)かつ U(C10) < U(C11)であったとしても,10年が経過すると,C10は C0に,C11は C1に一致する.
よって,当初は,受け取りを(10年後から)1年遅らせて消費量を 1万円増やすことを好んだが,10年経つと,消費量を減らしてでも直ぐに受け取ることを好むようになる.
動学的一貫性を欠いているので,質問 1でC0を,質問 2でC11を選ぶのは不合理と言える.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 33 / 58
標準的でない効用関数の例 双曲的割引率を持つ効用関数
動学的一貫性の欠如
U(C0) > U(C1)かつ U(C10) < U(C11)であったとしても,10年が経過すると,C10は C0に,C11は C1に一致する.
よって,当初は,受け取りを(10年後から)1年遅らせて消費量を 1万円増やすことを好んだが,10年経つと,消費量を減らしてでも直ぐに受け取ることを好むようになる.
動学的一貫性を欠いているので,質問 1でC0を,質問 2でC11を選ぶのは不合理と言える.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 33 / 58
標準的でない効用関数の例 双曲的割引率を持つ効用関数
動学的一貫性の欠如
U(C0) > U(C1)かつ U(C10) < U(C11)であったとしても,10年が経過すると,C10は C0に,C11は C1に一致する.
よって,当初は,受け取りを(10年後から)1年遅らせて消費量を 1万円増やすことを好んだが,10年経つと,消費量を減らしてでも直ぐに受け取ることを好むようになる.
動学的一貫性を欠いているので,質問 1でC0を,質問 2でC11を選ぶのは不合理と言える.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 33 / 58
標準的でない効用関数の例 帰納的効用関数
不確実性解消の速度が効用水準に及ぼす影響
以下の 2つの,不確実性を伴う消費過程のどちらを好むか?
CS 時点 1でコインを投げ,表が出たら,以後のすべての時点t ≥ 1で 10万円消費する
CG 各時点 t ≥ 1でコインを投げ,表が出たら,その時点 tで 10万円消費する
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 34 / 58
標準的でない効用関数の例 帰納的効用関数
期待効用関数と不確実性解消の速度一方を好む回答を説明し得る加法分離的期待効用関数は存在しない
u(0) = 0を仮定する. どちらの消費過程でも,時点 t ≥ 1で 10万円を消費する確率は 1/2. よって,
U(CS) = U(CG) =
∞∑t=1
δt(1
2u(10) +
1
2u(0)
)=
δ
2(1− δ)u(10).
加法分離的期待効用関数を持つ消費者は,CSと CGの間で無差別.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 35 / 58
標準的でない効用関数の例 帰納的効用関数
帰納的効用関数の構成
安全利子率問題を解くために,帰納的効用関数を定義しよう. これは相対的リスク回避度と異時点間の代替弾力性を分離する. また,不確実性解消の速度にも依存する. 各消費過程 C = (c0, c1, c2, . . . )と各時点について,
Ct = (ct, ct+1, ct+2, . . . )と書く. vと φを関数として,(U0(C0), U1(C1), U2(C2), . . . )を,帰納法で,
U t(Ct) = (1− δ)v(ct) + δφ−1(Et
[φ(U t+1(Ct+1)
)])(5)
と定義する.U0(C0) = U(C)とおく. U t(Ct)はU t+1(Ct+1)を通じてのみCt+1に依存するので,動学的一貫性を持つ.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 36 / 58
標準的でない効用関数の例 帰納的効用関数
帰納的効用関数の解釈加法分離的期待効用関数の場合
φが恒等関数ならば,
U t(Ct) = (1− δ)v(ct) + δEt
[U t+1(Ct+1)
].
これは,加法分離的期待効用関数
U t(Ct) = (1− δ)Et
[ ∞∑s=0
δsv(ct+s)
]
に対して(のみ)成立する.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 37 / 58
標準的でない効用関数の例 帰納的効用関数
帰納的効用関数の解釈通時的確実性等価による表現
u = φ vと定義すると,(5)は
U t(Ct) = (1− δ)v(ct) + δv(u−1
(Et
[u(v−1
(U t+1(Ct+1)
))]))すなわち,U = v−1 U tと定義すれば,
U t(Ct) = v−1((1− δ)v(ct) + δv
(u−1
(Et
[u(U t+1(Ct+1)
)]))) 継続効用 U t+1(Ct+1)の不確実性に対する態度は uで,異時点間の代替に対する態度は vで表される.
特に,もし時点 tで U t+1(Ct+1)の実現値がわかっているなら,
v(U t(Ct)
)= (1− δ)v(ct) + δv
(U t+1(Ct+1)
).
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 38 / 58
標準的でない効用関数の例 帰納的効用関数
帰納的効用関数の state price density
加法分離的効用関数 U(C) = (1− δ)∑
t δtv(ct)の,安全資産につい
ての 1階の条件は
Et
[1
qtδv′(ct+1)
v′(ct)
]= 1
であった. 帰納的効用関数 (5)の,安全資産についての 1階の条件は
Et
[1
qtδv′(ct+1)
v′(ct)
φ′(U t+1(Ct+1))
φ′(φ−1(Et[φ(U t+1(Ct+1))]))
]= 1 (6)
である.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 39 / 58
標準的でない効用関数の例 帰納的効用関数
安全利子率問題の解法
(6)の追加的な項である
φ′(U t+1(Ct+1))
φ′(φ−1(Et[φ(U t+1(Ct+1))]))(7)
は観察不可能である. 消費成長率 ct+1/ctがFtで条件付けた後でも,時間を通じて独立かつ同一に分布していて,かつ,vと φ vが CRRAを持つなら,(7)を ct+1/ctで表すことが可能である.
φ vの CRRAが大きくても,vの CRRA(異時点間の代替の弾力性の逆数)が 1程度ならば,両方の資産の 1階の条件を満たす.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 40 / 58
厚生経済学の第一定理
この章の構成はじめに
分析の対象
分析の枠組
株価プレミアム問題
標準的でない効用関数の例曖昧さ回避的な効用関数双曲的割引率を持つ効用関数帰納的効用関数
厚生経済学の第一定理第一定理の主張完備市場と第一定理の定式化代表的消費者の定式化
まとめ
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 41 / 58
厚生経済学の第一定理 第一定理の主張
完備な資産市場・均衡・効率性複数の消費者と複数の企業から成る経済
多種多様な資産(資産商品)が取引されているので,将来実現する状態にどんなに複雑に依存するリターンでも適当なポートフォリオで達成できるとき,資産市場は完備(complete)であると言う.
いかなる消費者や企業が消費・生産計画をかえても価格が影響を受けないとき,市場は完全競争的(perfectly competitive)であると言う.
均衡とは以下の 3条件が満たされる状況: 各消費者は,予算制約の下で,自分の効用を最大にするよう消費する 各企業は,技術制約の下で,自社の利潤を最大にするよう生産する 消費セクターの総需要と生産セクターの総供給が一致
技術的制約を満たす他のいかなる消費配分にかえても,すべての消費者の効用水準を高めることは不可能であるとき,その消費配分はパレート効率的であるという.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 42 / 58
厚生経済学の第一定理 第一定理の主張
厚生経済学の第一定理アダム・スミスの「見えざる手の定理」とも呼ばれる
厚生経済学の第一定理: 完備かつ完全競争的な資産市場の均衡で達成される消費配分はパレート効率的である.
その意味:
自由市場経済の理論的支柱を与える. 個々の消費者や企業が利己的に行動しても,経済全体では好ましい配分が実現されることを主張.
配分が衡平(equitable)であるとは主張しない. 価格の高低や変動幅が配分の好ましさの尺度ではない. 道徳や社会的価値観でもない.個々の消費者の効用関数である.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 43 / 58
厚生経済学の第一定理 第一定理の主張
第一定理のとらえ方「市場原理主義」とは一線を画す内容
市場を通じた資源配分の是非を判定することが経済学の主題だが,そのためには必ずしも価格を知る必要はない.
空売り制約の撤廃や新しいデリバティブの導入といった,取引制度の変更に伴う厚生の評価も可能.
不合理な効用関数ですら,配分の好ましさの評価基準である. では,曖昧さ回避・双曲的割引率・合理的中毒(rational addiction)といった要素を持つ効用関数を評価に使うのは,妥当か?
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 44 / 58
厚生経済学の第一定理 完備市場と第一定理の定式化
不確実性と消費者の定式化
0, 1という 2時点のみ存在する不確実性下の交換経済を考える. 時点 0では資産を取引し,時点 1で消費を行う. ありうべき状態の集合 Ωは有限集合. 消費計画は Ω上で定義された確率変数. 経済は I 人の消費者より成り,各消費者 i = 1, 2, . . . , I は,確率変数の集合上で定義された効用関数 U iを持つ.
経済全体の初期保有量は,確率変数 eで表される.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 45 / 58
厚生経済学の第一定理 完備市場と第一定理の定式化
パレート効率的配分の定義
消費計画の配分 (c1, c2, . . . , cI)が
I∑i=1
ci = e
を満たすとき,実行可能(feasible)であると言う. 実行可能配分 (c1, c2, . . . , cI)がパレート効率的であるとは,それをパレート改善する実行可能配分 (c1, c2, . . . , cI):
全ての消費者 iについて U i(ci) ≥ U i(ci),
少なくとも一人の消費者 iについて U i(ci) > U i(ci)
が存在しないこと.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 46 / 58
厚生経済学の第一定理 完備市場と第一定理の定式化
資産市場の定式化
時点 0で J 種類の資産が取引されているとする.各資産 j = 1, 2, . . . ,J は時点 1での支払い額を表す確率変数 dj で定義される.時点 0での価格は pj で表される.p = (p1, p2, . . . , pJ) ∈ RJ と書く.
各消費者 iの初期保有量は ei.∑
i ei = eを仮定.
各消費者 iは,pの下での予算制約付き効用最大化問題
maxyi∈RJ
U i
ei +∑j
yijdj
,
subject to∑j
pjyij ≤ 0.
を解くポートフォリオ yi = (yi1, yi2, . . . , yiJ) ∈ RJ を選ぶ.完全競争の仮定とは,pは yiに依存しないこと.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 47 / 58
厚生経済学の第一定理 完備市場と第一定理の定式化
資産市場均衡
任意の iについて,yiは pの下での予算制約付き効用最大化問題の解であり,かつ,
∑i y
i = 0が成立するとき,pとポートフォリオ配分 (y1, y2, . . . , yI)は資産市場均衡を成すと言う.
均衡での各消費者 iの消費計画 ciは ei +∑
j yijdj に一致するので,
∑i
ci =∑i
ei +∑j
(∑i
yij
)dj = e.
したがって,均衡での消費計画の配分 (c1, c2, . . . , cI)は実行可能. 仮定を追加することなしに,均衡消費配分がパレート効率的であることは期待できない.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 48 / 58
厚生経済学の第一定理 完備市場と第一定理の定式化
状態価格 すべての消費者の効用関数 U iは,厳密に単調増加すると仮定. 任意の ωについて
∑j y
ijdjω ≥ 0を満たし,少なくともひとつの ω
については狭義の不等式で満たすポートフォリオ yiの存在を仮定. 均衡においては,裁定取引,すなわち∑
j
pjyij ≤ 0,
任意の ω について∑j
yijdjω ≥ 0 (つまり∑j
yijdj ≥ 0)
を満たし,これらの広義の不等式のうち少なくともひとつは狭義の不等式として満たすポートフォリオ yiが存在すると仮定する.
よって,均衡資産価格ベクトル pの下での状態価格,すなわち,すべての資産 jについて
pj =∑ω∈Ω
qωdjω
を満たす正値確率変数 qが存在する.原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 49 / 58
厚生経済学の第一定理 完備市場と第一定理の定式化
完備市場
ポートフォリオ yiが予算制約を満たし,消費計画 ciを賄うなら,
∑ω
qω(ciω − eiω) =
∑ω
qω
∑j
yijdjω
=∑j
yij
(∑ω
qωdjω
)=∑j
yijpj ≤ 0,
すなわち∑ω
qωciω ≤
∑ω
qωeiω.
逆は一般には成立しないが,それを保証するのが完備市場の仮定:任意の ciについて,ci = ei +
∑j y
ijdj を満たす yiが存在.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 50 / 58
厚生経済学の第一定理 完備市場と第一定理の定式化
厚生経済学の第一定理とその証明
第一定理:資産市場が完備なら,均衡での消費計画の配分はパレート効率的である.
証明の手順:
1. 均衡価格 pの下での状態価格 qが存在.
2. 完備市場の仮定により,ポートフォリオに関する予算制約∑j p
jyij ≤ 0は,消費計画に関する予算制約∑
ω qωciω ≤
∑ω qωe
iω
に置き換えられる.
3. 均衡配分 (c1, c2, . . . , cI)がパレート効率的ではないとすると,それをパレート改善する実行可能配分 (c1, c2, . . . , cI)が存在する.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 51 / 58
厚生経済学の第一定理 完備市場と第一定理の定式化
第一定理の証明の手順4. U i(ci) > U i(ci)ならば,∑
ω
qωciω >
∑ω
qωeiω
が成立する.単調性により,U i(ci) ≥ U i(ci)ならば,∑ω
qωciω ≥
∑ω
qωeiω
が成立する.5. iに関する総和をとると,∑
i
(∑ω
qωciω
)>∑i
(∑ω
qωeiω
),
すなわち∑ω
qω
(∑i
ciω
)>∑ω
qω
(∑i
eiω
)=∑ω
qωeω
が成立するが,これは実行可能性∑
i ci = eに矛盾.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 52 / 58
厚生経済学の第一定理 代表的消費者の定式化
代表的消費者
資産価格の理論とは,状態価格 qを求めることに他ならない. 一般に,複数の消費者から成る経済の均衡資産価格 pや状態価格 qを求めるのは難しいが,たった一人の代表的消費者から成る経済の均衡資産価格や状態価格を求めるのは簡単.
よって,問題は,代表的消費者がいかなる効用関数を持てば,複数の消費者から成る経済と同じ均衡価格が得られるかである.
以下ではそのような効用関数の構成法を紹介する.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 53 / 58
厚生経済学の第一定理 代表的消費者の定式化
代表的消費者の効用関数
µ = (µi)i ∈ (0,∞)I とする.任意の確率変数 cについて,実行可能性条件下の効用の加重和最大化問題を考える:
max(c1,c2,...,cI)
∑i
µiU i(ci),
subject to∑i
ci = c
最大値を Uµ(c)で表すと,Uµは,総消費を表す確率変数の集合上で定義された効用関数とみなすことができる.
解 (c1, c2, . . . , cI)は,cのパレート効率的配分.つまり,Uµは,完備市場での代表的消費者の効用関数.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 54 / 58
厚生経済学の第一定理 代表的消費者の定式化
代表的消費者の経済の均衡価格
効用関数 Uµと初期保有量 eを持つたった一人の消費者より成る経済の均衡資産価格ベクトルが pならば,最大化問題
maxyµ∈RJ
Uµ
e+∑j
yµjdj
,
subject to∑j
pjyµj ≤ 0.
の解は 0である.
定理:ある µ ∈ (0,∞)I が存在し,効用関数 Uµと初期保有量 eを持つ消費者より成る経済の均衡資産価格ベクトルは,元々の I 人の消費者よりなる経済の均衡資産価格に一致する.
注意:Uµは U iから完備市場を前提に構成されたが,同様の関数形を持つとは限らない.
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 55 / 58
まとめ
この章の構成はじめに
分析の対象
分析の枠組
株価プレミアム問題
標準的でない効用関数の例曖昧さ回避的な効用関数双曲的割引率を持つ効用関数帰納的効用関数
厚生経済学の第一定理第一定理の主張完備市場と第一定理の定式化代表的消費者の定式化
まとめ
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 56 / 58
まとめ
まとめ
1. 経済モデルに基づく資産価格の導出
2. 株価プレミアム問題の紹介
3. 曖昧さ回避的な効用関数や双曲的割引率の説明
4. 厚生経済学の第一定理と代表的消費者の解説
原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 57 / 58
まとめ
参考文献
1. Rajnish Mehra and Edward Prescott “The Equity Premium: APuzzle” Journal of Monetary Economics vol. 15 (1985), pp. 145–161.
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原 千秋 (京都大学経済研究所) 証券市場の一般均衡分析 A 2017 年度後期 58 / 58