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18 SIMULIA Realistic Simulation News 2011 年 5 月 / 6 月 www.simulia.com カスタマケーススタディ その情報を溶接工のトレーニングならびにロボット 溶接機のプログラミングの改善策に組み入れるこ とも可能になります。 リアリスティックシミュレーションが 溶接プロセスの知識を深める 有限要素解析(FEA)によるリアリスティックシミュ レーションは、Rolls-Royce 社マリン事業部門の 設計エンジニアにとって重要なツールであり、彼 らは現在、船舶の動力推進装置に用いられる 溶接に関連したさまざまなパラメータを定量化し 検証しています。Rolls-Royce 社(英国・ダー ビー)で基本コンポーネントを担当する応力解 析エンジニアの David Hodgson 氏は次のよう に語っています。「溶接は、熱と構造の両方の 属を互いに接合するアイデアは青銅器時 代まで遡ります。圧力を加えて接合する鍛 接の技術は中世に発達しました。村の鍛冶屋 が熱した金属をハンマーで叩いて接合させてい た時代です。19 世紀の電気アークの発見は、 今日用いられている多くの溶接技術の誕生の引 き金となりました。そしてそれが、ここ数十年さら に磨きがかかった電子ビームやレーザー技術の 進歩へとつながりました。 造船、航空宇宙、防衛、海洋エネルギー、自動 車、原子力など多くの産業で、その主力製品の組 み立てに溶接はなくてはならない存在です(1 台 の自動車には 5,000 ~ 10,000 箇所もの溶接部 があります)。しかし、その実務は今もなお「科 学」というより「技」に近いものであって、個々の 溶接工の技能やロボット溶接機のプログラミング 品質に大きく依存しているのが現状です。 急激な温度変化、材料の相変態、材料の蓄積 などの複雑な過程を伴うため、毎回完璧な溶接 部に仕上げるのは至難の業です。そのためエ ンジニアは、さまざまな溶接法が溶融金属の挙 動に与える影響を研究・予測するための方法 を模索しています。こうした知識は、設計時の 当て推量の防止、製品開発プロセスの加速、そ して最終製品の高品質化に貢献します。さらに また、最良の施工法を突き止めることによって、 ソリューションを必要とする複雑なモデリング問 題を含んでいます。我々は、製造時のコンポー ネントの変形、ピーク残留応力の発生位置と大 きさ、溶接プロセスが金属に与える影響などを 予測しようとしています」 Hodgson 氏のグループは、マンチェスター大学 材料科学センターと Serco Assurance 社との 間で継続的な研究協力体制を構築しています。 Rolls-Royce 社は長年にわたりSYSWELD、 YFT、そしてAbaqus FEAなどさまざまな FEA パッケージを評価してきました。彼らは最 近、溶接解析の精度向上に向けた方策の一 環として、Abaqus Welding Interface(AWI) を導入しました。Abaqus/CAE の拡張機能で ある同製品は、溶接ビード、溶接パス、熱伝達、 熱放射など、溶接モデルのあらゆる定義が可能 なグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI) を備え、2 次元溶接シミュレーションの効率的な 実施をサポートします。Hodgson 氏は次のよう に話しています。「この溶接シミュレーションツー ルは、Abaqus の統合 FEA 環境内で熱解析 と構造解析の両モデルの解析をスムーズに行 えるので、とても便利です。これによって、データ 変換の手間が軽減され、トレーニングの時間や コストも削減されます」 海洋分野の加圧配管封入用ボルト 締めフランジに対するパイプスタ ブの金属アーク溶接(手棒溶接) 自生溶接プレートの資料 さらに踏み込んだ 溶接プロセスの研究 Rolls-Royce 社は Abaqus 2 次元溶接シミュレーション ツールを用いて複雑な溶接 プロセスをモデル化

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18 SIMULIA Realistic Simulation News 2011 年 5 月 / 6 月 www.simulia.com

カスタマケーススタディ

その情報を溶接工のトレーニングならびにロボット溶接機のプログラミングの改善策に組み入れることも可能になります。

リアリスティックシミュレーションが溶接プロセスの知識を深める有限要素解析(FEA)によるリアリスティックシミュレーションは、Rolls-Royce 社マリン事業部門の設計エンジニアにとって重要なツールであり、彼らは現在、船舶の動力推進装置に用いられる溶接に関連したさまざまなパラメータを定量化し検証しています。Rolls-Royce 社(英国・ダービー)で基本コンポーネントを担当する応力解析エンジニアの David Hodgson 氏は次のように語っています。「溶接は、熱と構造の両方の

金属を互いに接合するアイデアは青銅器時代まで遡ります。圧力を加えて接合する鍛

接の技術は中世に発達しました。村の鍛冶屋が熱した金属をハンマーで叩いて接合させていた時代です。19 世紀の電気アークの発見は、今日用いられている多くの溶接技術の誕生の引き金となりました。そしてそれが、ここ数十年さらに磨きがかかった電子ビームやレーザー技術の進歩へとつながりました。

造船、航空宇宙、防衛、海洋エネルギー、自動車、原子力など多くの産業で、その主力製品の組み立てに溶接はなくてはならない存在です(1 台 の自動車には 5,000 ~ 10,000 箇所もの溶接部があります)。しかし、その実務は今もなお「科学」というより「技」に近いものであって、個々の溶接工の技能やロボット溶接機のプログラミング品質に大きく依存しているのが現状です。

急激な温度変化、材料の相変態、材料の蓄積などの複雑な過程を伴うため、毎回完璧な溶接部に仕上げるのは至難の業です。そのためエンジニアは、さまざまな溶接法が溶融金属の挙動に与える影響を研究・予測するための方法を模索しています。こうした知識は、設計時の当て推量の防止、製品開発プロセスの加速、そして最終製品の高品質化に貢献します。さらにまた、最良の施工法を突き止めることによって、

ソリューションを必要とする複雑なモデリング問題を含んでいます。我々は、製造時のコンポーネントの変形、ピーク残留応力の発生位置と大きさ、溶接プロセスが金属に与える影響などを予測しようとしています」

Hodgson 氏のグループは、マンチェスター大学材料科学センターと Serco Assurance 社との間で継続的な研究協力体制を構築しています。Rolls-Royce 社は長年にわたりSYSWELD、YFT、そしてAbaqus FEAなどさまざまな FEA パッケージを評価してきました。彼らは最近、溶接解析の精度向上に向けた方策の一環として、Abaqus Welding Interface(AWI)を導入しました。Abaqus/CAE の拡張機能である同製品は、溶接ビード、溶接パス、熱伝達、熱放射など、溶接モデルのあらゆる定義が可能なグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)を備え、2 次元溶接シミュレーションの効率的な実施をサポートします。Hodgson 氏は次のように話しています。「この溶接シミュレーションツールは、Abaqus の統合 FEA 環境内で熱解析と構造解析の両モデルの解析をスムーズに行えるので、とても便利です。これによって、データ変換の手間が軽減され、トレーニングの時間やコストも削減されます」

海洋分野の加圧配管封入用ボルト締めフランジに対するパイプスタブの金属アーク溶接(手棒溶接)

自生溶接プレートの資料

さらに踏み込んだ 溶接プロセスの研究Rolls-Royce 社は Abaqus の 2 次元溶接シミュレーション ツールを用いて複雑な溶接 プロセスをモデル化

Page 2: さらに踏み込んだ 溶接プロセスの研究ƒ«は、Abaqus の統合 FEA 環境内で熱解析 と構造解析の両モデルの解析をスムーズに行 えるので、とても便利です。これによって、データ

19SIMULIA Realistic Simulation News 2011 年 5 月 / 6 月www.simulia.com

詳細は以下をご覧ください www.rolls-royce.com/marine www.simulia.com/products/welding

溶接シミュレーションの実施研究チームは AWI ツールを用いて 3 つの異なる溶接シナリオを調査することにしました。それらは、自生溶接(溶加材なし溶接プレート、8 パスのグルーブ溶接プレート、そして 7 パスのリング溶接ディスクです。自生溶接プレートのモデルでは、溶接トーチの 1 ~ 2 回のパスで溶融する圧力容器用鋼製の 1 枚のプレートをシミュレーションします。もっと複雑な 8 パスおよびリング溶接の鋼材モデルでは、多数のパスとフェライト鋼製の溶加材が加わります。このような溶接は、海底油田設備や原子炉などで用いられるものです。熱解析用のモデルには四角形と三角形の伝熱要素が用いられ、構造解析には一般化平面ひずみモデルが採用されました。

熱的負荷とそれに対する金属の構造応答は、溶接プロセスにおいて密接に絡み合っています。しかしシミュレーションの観点からは、これら異なるパラメータのそれぞれを定義する必要があり、それらの相互作用はマルチフィジックス解析となります。AWI を介して、熱解析モデルで計算された温度履歴が、構造解析モデルへ入力として温度(温度荷重)が渡されます。その結果、構造解析モデルにおいて、材料の機械的特性の変化によって生じる被溶接金属の熱膨張や熱収縮の解析が可能になります。

表面定義の自動化がモデリング 作業を加速このようなモデルを準備するには、AWI が基本のメッシュパート(境界条件、荷重、および相互作用は含まない)と、定義された材料および断面データを読み込んだ後、ユーザが溶接部に沿って溶接ビードを作成します。次に、モデラが自動的に溶接ビードの順序に従って溶接パスを定義し、表面に対して熱伝達と熱放射の特性値を割り当てます。

Hodgson 氏は次のように話しています。「溶接モデリングにおいて最も手間のかかる部分の 1 つは、熱伝達係数を与える表面の定義です。これらの定義は、盛上げ溶接部のモデリングが進行するにつれて、絶えず更新する必要があります。AWI による自動化によって、このプロセスは大幅に加速されています」また、熱解析モデルで熱流束をコントロールするには、溶融境界の設定が問題となります。メッシュ内部の特定の深さにセンサー節点を定義し、それらの平均温度が所定の限界(この事例では 1500 度)に達したとき加熱ステップを終了させるようにします。

実際の溶接部に生じる応力これらのモデルを実測値と比較検証するため、エンジニアリングチームは圧力容器用鋼製の小さな溶接試験片を作成し、機械化ティグ溶接ヘッドが通過した後の残留応力を測定しました。測定には中性子回折法(ND)が用いられました。この方法では(X 線回折法と同様ですが)、中性子ビームを試料に当てて、鋼材の結晶性固体構造の変化によって生じる回折強度パターンを

記録します。このパターンより、鋼材内部の結晶格子間隔が記録され、それを無応力状態の間隔と比較することでひずみ値が決定されます。そして、このひずみ値から材料内部に存在する応力が算出されます。

自生溶接の FEA モデルと ND 試験結果を比較したところ、1 パスの結果が特に良い相関性を示すことが分かりました。溶接にかかわる多くの密接に絡み合うプロセスの正確なシミュレーションに向けて、より複雑なモデルに仕上げていくための努力が続けられています。Hodgson 氏は次のように話しています。「この 2 次元溶接モデリング用インタフェースは、Abaqus/CAE と組み合わせるための便利なツールです。今後は完全な 3 次元の移動熱源に進化することが望まれます。またそれは、高度な溶接材料モデリングツールとの組み合わせにおいてなされる必要があります」

FEA結果(上)と中性子回折法(下)による応力測定データの比較(1パス試験の試料)

自生溶接プレートのFEAモデル

Dep

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Distance from Weld Centerline