スペクトル線 - astron.s.u-tokyo.ac.jpmasa/lecture_20110530.pdf · 11.05.16 3 co...

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11.05.16 1 主な星間分子の スペクトル線 星間分子 生成=衝突 ⇔ 破壊=光解離 (紫外線) HI雲の密度が n(H)~10 2 cm -3 になると、十部内部 (Av1) ではダストによる減 光が効き、一度できた分子は星間紫外線で解離せずに存在できるようになる 分子の生成 三体衝突 (A+B+C!AB+C) は、希薄なためにほとんど起こらない 放射性結合 (A+B!AB+h!) は起こりにくい (A ul ~10 -4 s -1 で数時間) 中性-中性反応 (A+B!C+D) も進まない: 活性化エネギー/k ~ 100 K > 10 K (cf. 衝撃波加熱領域) イオン"分子反応 (A + +B!C + +D) (Langevin rate=10 -9 cm 3 s -1 ) 解離性再結合 (A + +e - B+C) (10 -7 cm 3 s -1 ) [=> 分子雲の電離度は?] 放射性再結合 (A + +e - !A+h!) は遅い (10 -11 cm 3 s -1 ) H 2 はダスト上で生成 パイオニア的研究: Herbst & Klemperer (1973) 2

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Page 1: スペクトル線 - astron.s.u-tokyo.ac.jpmasa/lecture_20110530.pdf · 11.05.16 3 co (回転遷移) 5 結合エネルギー ~11.1 ev t ~ 4000 k まで分子として存在 星間ガス中のガス反応で形成

11.05.16

1

主な星間分子の

スペクトル線

星間分子 生成=衝突 ⇔ 破壊=光解離 (紫外線)

HI雲の密度が n(H)~102 cm-3 になると、十部内部 (Av≳1) ではダストによる減光が効き、一度できた分子は星間紫外線で解離せずに存在できるようになる 分子の生成

三体衝突 (A+B+C!AB+C) は、希薄なためにほとんど起こらない 放射性結合 (A+B!AB+h!) は起こりにくい (Aul~10-4 s-1で数時間) 中性-中性反応 (A+B!C+D) も進まない: 活性化エネギー/k ~ 100 K > 10 K (cf. 衝撃波加熱領域)

◎ イオン"分子反応 (A++B!C++D) (Langevin rate=10-9 cm3 s-1) ◎ 解離性再結合 (A++e-→B+C) (10-7 cm3 s-1) [=> 分子雲の電離度は?]

放射性再結合 (A++e-!A+h!) は遅い (10-11 cm3 s-1) ◎ H2はダスト上で生成 パイオニア的研究: Herbst & Klemperer (1973)

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Townes & Schawlow (1955)

主な星間分子のスペクトル線 4

(Stahler & Palla 2004)

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CO (回転遷移) 5

結合エネルギー ~11.1 eV T ~ 4000 K まで分子として存在

星間ガス中のガス反応で形成

ガス密度が 102 cm-3 以上の領域 (組成は主としてH2) で存在 => 分子雲

1970ApJ...161L..43W

1970ApJ...161L..43W

CO (回転遷移) 6

2原子分子 (直線分子) 分子ガスの最も基本的なトレーサー 同位体分子 (isotopologue) 13C16O, 12C18O などもよく観測される 回転は分子軸に垂直なものだけが可能 ひとつの量子数 J (=0, 1, 2, ...) で表される Erot=hBJ (J+1) B=h/(8"2I ): rotational constant [s‒1] ν(J=1–0) = 2B = 115.271 GHz (2.6 mm) 双極子モーメントは小さい (0.1 debye) 存在度が大きい (XCO~10-4) ために強いスペクトル線となる

(hBをBと表す回転定数の定義(E=BJ(J+1))も使われる)

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CO (振動回転遷移) 7

(González-Alfonso et al. 2002)

永久双極子モーメントを持つCOの選択則 #J=±1, #v=1 (調和振動子) + #v=2, 3, … (倍音) v′>v″のとき P枝:(v′, J) → (v″, J+1) / R枝:(v′, J) → (v″, J‒1) 各スペクトル線は v′-v″ R(J), すなわち1-0 R(0)・・・などと表す

CO (振動回転遷移) 8

E(v, J)=h!0(v+1/2) + hBvJ(J+1) (!0は振動量子数vに弱く依存) #E(v′, J → v″, J‒1) = h!0(v′‒v″) + (Bv′+Bv″)hJ + (Bv′‒Bv″)hJ2 (v′>v″ => Bv′<Bv″)

(Scoville et al. 1979) (Carr & Tokunaga 1992)

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H2 (振動回転遷移) µ=0 => 双極子遷移は禁止 四重極子遷移(#J=0, ±2)が観測される (S枝: #J=-2, Q枝 #J=-0, O枝: #J=+2)

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(Gautier et al. 1976)

H2 (電子遷移と蛍光) 10

(Stahler & Palla 2004)

~2000 Kのガスによる熱励起 (衝撃波加熱領域) 紫外線による電子励起を経た蛍光 (光解離領域: PDR)

X1$g+

B1$u+

C1%u

Lyman bands: X1$g+!1$u

+

Werner bands: X1$g+!1%u

Ortho: odd J (triplet) Para: even J (singlet)

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IA ! K

NH3 (回転遷移) 対称こま分子 (Symmetric Top) IA < IB=IC (prolate)

回転状態は二つの量子数(J, K)で決ま Erot=hBJ(J+1)+h(A-B)K2

永久双極子モーメントが分子軸に平行なため、Kが変わる遷移は禁制 => J=K (>0) の状態は準安定(metastable) !(JK=10-00)=572 GHz 2種類のアンモニア(入れ替わらない) orth-NH3 (K=0, 3, 6, ...) (Hの核スピン平行) para-NH3 (K=1, 2, 4, 5, ...)

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H

H

IB

J JA

µ

(Stahler & Palla 2004)

通常の分子雲の条件下で多く占められている状態

N

H

NH3 (反転遷移) 12

1983ARA&A..21..239H

(Ho & Townes 1983) (Townes & Schawlow 1955)

分子軸方向(水素の作る面に垂直)のアンモニア原子の振動を表す波動関数は、ポテンシャルの高い部分が中心面に存在するため、調和振動子の場合と比較して、+のパリティを持つ(v=偶数)ものの確率振幅が中心面で減少する。これに伴ってエネルギー準位が上昇し、ひとつ上の"のパリティを持つ準位に接近、回転準位のエネルギー差よりも小さく分離したふたつのエネルギーレベル(反転二重項; Inversion doublet)を作る。この準位間の遷移は、(基底状態のものは)22 GHz (波長~1.3 cm) 前後の周波数をもつ。

+

– 調和振動子 アンモニア

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NH3 (反転遷移) 13

(Townes & Schawlow 1955)

反転がない場合の対称こま分子の振動準位 (v=0, 1 )、回転準位 (J, K) とパリティ

反転がある場合の対称こま分子 (NH3) の回転準位、反転準位とパリティ

ortho para para

NH3 (超微細構造)

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1983ARA&A..21..239H

1983ARA&A..21..239H

(Ho & Townes 1983)

各反転準位は、窒素の核スピン (IN=1) によって分離し、さらにそのそれぞれの準位が水素の核スピンの影響で分離する

(J, K) = (1, 1) の反転スペクトル線は、窒素の核スピンで5本に分離し、そのそれぞれが水素の各スピンによってさらに分離して、全部で18本の超微細構造(Hyperfine Structure) 線に分かれる

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非対称こま分子 (Asymmetric Top) 15

エネルギー準位は、3つの異なる慣性モーメントに対応する3つの量子数 JK-1,K1で区別 Ray’s asymmetry parameter プロレートまたはオブレートの対称こま分子に近い場合には、それぞれK-1 または K1 が同じ準位は二重項となる(K doublet)

J

J

B=C (prolate)

B=A (oblate)

K"1

K1

E = PA2

2IA+PB2

2IB+PC2

2IC!!!(IA < IB < IC )

A > B >C !!!(A = h8! 2IA

,!etc.)

(Townes & Schawlow 1955)

! =2B! A!CA!C

=1!(B = A)!!1!(B =C)

"#$

%$

! Increasing B

H2O 遠赤外からミリ波にかけて、多くの許容遷移 地球大気の吸収と重なっているため、大半は地上観測不可能 分子雲衝撃波領域の冷却に重要

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(Stahler & Palla 2004)

メーザーで観測される22 GHz (1.3cm) の遷移 JK-1,K1=616-523 分子雲衝撃波領域の冷却に重要 ガス相反応でできる:高温の衝撃波領域では中性-中性反応、通常の分子雲の条件下ではイオンー分子反応

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OH (& doubling)

& (電子の軌道角運動量の分子軸方向成分)と分子の回転Jとの相互作用により、各回転準位がふたつに分裂 (& doublet)

さらに、それぞれの準位が超微細構造で分離 => 18 cm (1.6–1.7 GHz) に4本の遷移

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!O

!!

!J

慣性モーメント小 慣性モーメント大

メーザー

星間分子雲の条件下では、励起温度が負になること(population inversion)が起こりえる このような場合、吸収係数と源泉関数は負となり、 ! (!)がオーバーラップする視線が十分長ければ、放射強度が指数関数的に増大する現象が起こる

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I! ("! ) = I! (0)e–"! +B! (Tex )(1! e

!"! )!"![I! (0)+ | B! (Tex ) |]!exp(|#! | L)

!" =#"L !=!h"4$

n1B12[1! exp(!h"kTex

)]!%(" )!L !<!0

n2 / g2n1 / g1

= exp(! h!kTex

)!>!1 Tex < 0⇒

S! = B! (Tex ) =2h! 3

c2[exp( h!

kTex)!1]!1 !<!0

(RL Eq.1.78)

(RL Eq.1.79)

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メーザー

励起温度を負にするメカニズム (pumping mechanisms) には、衝突や赤外線によるものが考えられている 晩期型星のエンベロープ: OH, H2O SiO (v=1, 2, 3) 大星形成領域: H2O, CH3OH, SiO 巨大ブラックホール周囲の降着円盤: H2O, OH なぜメーザー放射だと分かるか?

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逆メーザー吸収 (Inverse-Maser Absorption)

C13, C23 > C14, C24 の結果、JK-1,K+1=111の準位の占有率が110に比べて増加し、励起温度が2.7 K 以下になる

そのため110!111 (4.83 GHz) の遷移は、宇宙背景放射に対して吸収線を作る

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H2CO

14.5 GHz

150 GHz

Spitzer (1978)

+

+ –

– H2COはプロレートの非対称こま分子、左図では K-1=1 の準位のK二重項が見えている

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HI, CI, CII, OI 21

[H'] 21 cm (1.4 GHz) 超微細構造線 星間水素原子ガス T=~100 – ≲104 K n(H)≲100 cm-3

[CI] 370 µm (809 GHz), [CI] 609 µm / 492 GHz) 微細構造線 それぞれ 3P2–3P1, 3P1–3P0 の遷移に対応 分子雲内にも多量に存在 [CII] 158 µm 微細構造線 2P3/2–2P1/2 光解離領域のトレーサー

[OI] 63 µm 微細構造線 3P1–3P2