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Page 1: はじめに第1 章ストアオペレーションの基本的役割 94 第1節 ストアオペレーションの重要性 94 第2節 開店準備の業務 95 第3節 発注の基本知識
Page 2: はじめに第1 章ストアオペレーションの基本的役割 94 第1節 ストアオペレーションの重要性 94 第2節 開店準備の業務 95 第3節 発注の基本知識

もくじ  3

はじめに

 販売士検定試験は、日本商工会議所・全国商工会連合会が実施する、流通業界で唯一の公的な資格・検定試験です。この試験では、商品知識・接客技術・仕入れ・在庫管理・マーケティングなど、小売り・流通業務に携わるのに必要・有益な知識・技術が出題され、合格者には「販売士」という称号が付与されます。

 今日の日本の社会では、少子高齢化、核家族化、国際化、IT化などが急速に進展し、それに伴って消費者のニーズも多様化、高度化するとともに、激しく変化しています。日本の経済全体にとっても、その中で存続・発展を目指す個別の企業にとっても、こうした消費者のニーズとその変化を的確にとらえ、それを販売、流通、生産のそれぞれの活動に迅速に反映することが、極めて重要な課題になっています。 小売業は、生産と消費の間に立ち、日々消費者に接してそのニーズに応えるとともに、その変化を、直接とらえることができる立場にあります。小売業の活動の中で得られた消費者の動向に関する情報は、その販売活動だけではなく、扱う商品の流通プロセスや生産システムを、より合理的に、より効率的に変革するための原動力になっています。

 こうした小売業の社会的役割を果たすために、消費者のニーズにより適切に対応し、それを業務の改善に結びつけることができる「販売のプロフェッショナル」を養成・認定することが、販売士検定試験の目的です。 この試験は、3つの級に分かれており、それぞれ級の想定する対象者は、次のとおりです。  3級:�小売店舗経営の基本的な仕組みを理解し、販売員としての基礎的な知識と技術を身につけ

ている。売場の担当者などが対象。  2級:�小売業について、主として販売に関する専門的な知識を身につけ、ある程度の管理業務を

遂行し、かつ部下を指導することができる。売場主任、部課長など中堅幹部クラスが対象。  1級:�小売業経営に関する高度の専門的な知識を身につけ、経営計画を立案し、総合的な管理業

務を遂行できる。大規模小売店の店長や部長クラス、中小小売業の経営者クラスが対象。

 本書は、このうち 3級の出題範囲を簡潔にまとめた受験用テキストです。身につけた知識の確認・定着のために問題も豊富に記載し、その解答・解説もわかりやすく、ていねいに記述しています。 「販売士」資格の取得は、単に販売のための知識や技術を身につけるためだけのものではありません。自ら目標を立て、それに向かって努力し、困難に打ち勝って目標を達成することができる、あなたの資質と能力の証明でもあります。いま、社会が求めているのはそうした人材です。 本書を利用して、1人でも多くのみなさんが「3級販売士」となり、さらに上位の級へ挑戦されることを執筆者一同願っています。

� 執筆者一同

1・小売業の類型 5

流通における小売業の基本的役割 6第1章

第 1節 小売業とは何か� 6第 2節 日本の小売業の構造と変化� 7第 3節 流通機構における小売業の役割� 8第 4節 小売業と国際化� 10

❖ 模擬問題� 11

業界別流通経路の基本的役割 13第2章

第 1節 主要業界別流通経路の基本知識� 13第 2節 流通経路における卸売業のポジショニング� 19第 3節 製造業(メーカー)の流通経路政策の基本知識� 22

❖ 模擬問題� 23

形態別小売業の基本的役割 25第3章

第 1節 組織小売業の種類と特徴� 25第 2節 販売形態の種類と特徴� 28

❖ 模擬問題� 31

店舗形態別小売業の基本的役割 32第4章

第 1節 小売業態の基本知識� 32第 2節 店舗形態別小売業の基本知識� 33

❖ 模擬問題� 40

チェーンストアの基本的役割 42第5章

第 1節 チェーンストアとは何か� 42第 2節 チェーンオペレーションの基本知識� 43第 3節 チェーンストア組織の基本知識� 44

❖ 模擬問題� 44

商業集積の基本的役割と仕組み� 46第6章

第 1節 中小小売業の現状と役割� 46第 2節 商業集積の変遷� 47第 3節 商業集積の種類と特徴� 49第 4節 商業集積の課題と方向� 51

❖ 模擬問題� 51

2・マーチャンダイジング 53

商品の基本知識� 54第1章

第 1節 商品とは何か� 54第 2節 商品の品質3要素� 54第 3節 商品コンセプト� 55第 4節 商品の分類� 55第 5節 商品の本体要素� 56

❖ 模擬問題� 57

マーチャンダイジングの基本� 58第2章

第 1節 マーチャンダイジングの基本的考え方� 58第 2節 コンビニエンスストア・チェーンにみる

マーチャンダイジングの主な機能� 61 ❖ 模擬問題� 64

商品計画の基本� 66第3章

第 1節 商品計画の基本知識� 66第 2節 店舗形態別にみた商品構成の特徴� 67第 3節 棚割とディスプレイの基本知識� 68

❖ 模擬問題� 69

販売計画および仕入計画の基本的役割� 71第4章

第 1節 販売計画の基本知識� 71第 2節 仕入計画の基本知識� 72第 3節 仕入先企業の選定と仕入方法� 72第 4節 発注の基本知識� 73第 5節 物流の基本知識� 74

❖ 模擬問題� 75

在庫管理の基本的役割� 76第5章

第 1節 在庫管理の基本知識� 76第 2節 データによる在庫管理� 77第 3節 商品ロスの基本的原因� 78

❖ 模擬問題� 78

販売管理の基本的役割� 80第6章

第 1節 販売管理の基本知識� 80第 2節 POSシステムによる販売データの活用� 81第 3節 バーコードの基本知識� 82

❖ 模擬問題� 84

価格設定の基本的考え方� 85第7章

第 1節 価格の設定要因と価格政策� 85第 2節 売価設定の基本知識� 87

❖ 模擬問題� 88

利益追求の基本知識� 90第8章

第 1節 利益の構造� 90第 2節 値入と粗利益の関係� 90

❖ 模擬問題� 92

3・ストアオペレーション� 93

ストアオペレーションの基本的役割� 94第1章

第 1節 ストアオペレーションの重要性� 94第 2節 開店準備の業務� 95第 3節 発注の基本知識� 97

もくじ

Page 3: はじめに第1 章ストアオペレーションの基本的役割 94 第1節 ストアオペレーションの重要性 94 第2節 開店準備の業務 95 第3節 発注の基本知識

もくじ  3

はじめに

 販売士検定試験は、日本商工会議所・全国商工会連合会が実施する、流通業界で唯一の公的な資格・検定試験です。この試験では、商品知識・接客技術・仕入れ・在庫管理・マーケティングなど、小売り・流通業務に携わるのに必要・有益な知識・技術が出題され、合格者には「販売士」という称号が付与されます。

 今日の日本の社会では、少子高齢化、核家族化、国際化、IT化などが急速に進展し、それに伴って消費者のニーズも多様化、高度化するとともに、激しく変化しています。日本の経済全体にとっても、その中で存続・発展を目指す個別の企業にとっても、こうした消費者のニーズとその変化を的確にとらえ、それを販売、流通、生産のそれぞれの活動に迅速に反映することが、極めて重要な課題になっています。 小売業は、生産と消費の間に立ち、日々消費者に接してそのニーズに応えるとともに、その変化を、直接とらえることができる立場にあります。小売業の活動の中で得られた消費者の動向に関する情報は、その販売活動だけではなく、扱う商品の流通プロセスや生産システムを、より合理的に、より効率的に変革するための原動力になっています。

 こうした小売業の社会的役割を果たすために、消費者のニーズにより適切に対応し、それを業務の改善に結びつけることができる「販売のプロフェッショナル」を養成・認定することが、販売士検定試験の目的です。 この試験は、3つの級に分かれており、それぞれ級の想定する対象者は、次のとおりです。  3級:�小売店舗経営の基本的な仕組みを理解し、販売員としての基礎的な知識と技術を身につけ

ている。売場の担当者などが対象。  2級:�小売業について、主として販売に関する専門的な知識を身につけ、ある程度の管理業務を

遂行し、かつ部下を指導することができる。売場主任、部課長など中堅幹部クラスが対象。  1級:�小売業経営に関する高度の専門的な知識を身につけ、経営計画を立案し、総合的な管理業

務を遂行できる。大規模小売店の店長や部長クラス、中小小売業の経営者クラスが対象。

 本書は、このうち 3級の出題範囲を簡潔にまとめた受験用テキストです。身につけた知識の確認・定着のために問題も豊富に記載し、その解答・解説もわかりやすく、ていねいに記述しています。 「販売士」資格の取得は、単に販売のための知識や技術を身につけるためだけのものではありません。自ら目標を立て、それに向かって努力し、困難に打ち勝って目標を達成することができる、あなたの資質と能力の証明でもあります。いま、社会が求めているのはそうした人材です。 本書を利用して、1人でも多くのみなさんが「3級販売士」となり、さらに上位の級へ挑戦されることを執筆者一同願っています。

� 執筆者一同

1・小売業の類型 5

流通における小売業の基本的役割 6第1章

第 1節 小売業とは何か� 6第 2節 日本の小売業の構造と変化� 7第 3節 流通機構における小売業の役割� 8第 4節 小売業と国際化� 10

❖ 模擬問題� 11

業界別流通経路の基本的役割 13第2章

第 1節 主要業界別流通経路の基本知識� 13第 2節 流通経路における卸売業のポジショニング� 19第 3節 製造業(メーカー)の流通経路政策の基本知識� 22

❖ 模擬問題� 23

形態別小売業の基本的役割 25第3章

第 1節 組織小売業の種類と特徴� 25第 2節 販売形態の種類と特徴� 28

❖ 模擬問題� 31

店舗形態別小売業の基本的役割 32第4章

第 1節 小売業態の基本知識� 32第 2節 店舗形態別小売業の基本知識� 33

❖ 模擬問題� 40

チェーンストアの基本的役割 42第5章

第 1節 チェーンストアとは何か� 42第 2節 チェーンオペレーションの基本知識� 43第 3節 チェーンストア組織の基本知識� 44

❖ 模擬問題� 44

商業集積の基本的役割と仕組み� 46第6章

第 1節 中小小売業の現状と役割� 46第 2節 商業集積の変遷� 47第 3節 商業集積の種類と特徴� 49第 4節 商業集積の課題と方向� 51

❖ 模擬問題� 51

2・マーチャンダイジング 53

商品の基本知識� 54第1章

第 1節 商品とは何か� 54第 2節 商品の品質3要素� 54第 3節 商品コンセプト� 55第 4節 商品の分類� 55第 5節 商品の本体要素� 56

❖ 模擬問題� 57

マーチャンダイジングの基本� 58第2章

第 1節 マーチャンダイジングの基本的考え方� 58第 2節 コンビニエンスストア・チェーンにみる

マーチャンダイジングの主な機能� 61 ❖ 模擬問題� 64

商品計画の基本� 66第3章

第 1節 商品計画の基本知識� 66第 2節 店舗形態別にみた商品構成の特徴� 67第 3節 棚割とディスプレイの基本知識� 68

❖ 模擬問題� 69

販売計画および仕入計画の基本的役割� 71第4章

第 1節 販売計画の基本知識� 71第 2節 仕入計画の基本知識� 72第 3節 仕入先企業の選定と仕入方法� 72第 4節 発注の基本知識� 73第 5節 物流の基本知識� 74

❖ 模擬問題� 75

在庫管理の基本的役割� 76第5章

第 1節 在庫管理の基本知識� 76第 2節 データによる在庫管理� 77第 3節 商品ロスの基本的原因� 78

❖ 模擬問題� 78

販売管理の基本的役割� 80第6章

第 1節 販売管理の基本知識� 80第 2節 POSシステムによる販売データの活用� 81第 3節 バーコードの基本知識� 82

❖ 模擬問題� 84

価格設定の基本的考え方� 85第7章

第 1節 価格の設定要因と価格政策� 85第 2節 売価設定の基本知識� 87

❖ 模擬問題� 88

利益追求の基本知識� 90第8章

第 1節 利益の構造� 90第 2節 値入と粗利益の関係� 90

❖ 模擬問題� 92

3・ストアオペレーション� 93

ストアオペレーションの基本的役割� 94第1章

第 1節 ストアオペレーションの重要性� 94第 2節 開店準備の業務� 95第 3節 発注の基本知識� 97

もくじ

Page 4: はじめに第1 章ストアオペレーションの基本的役割 94 第1節 ストアオペレーションの重要性 94 第2節 開店準備の業務 95 第3節 発注の基本知識

4  もくじ

第 4節 荷受・検収の基本知識� 99第 5節 商品への値づけ� 99第 6節 補充(リセット)の基本知識� 100第 7節 POP広告のメインテナンス� 100第 8節 棚ラベルの管理� 101第 9節 売場チェックの基本知識� 101第10節� ミーティングの種類と特徴� 102第11節 レジでの業務� 103第12節 包装技術の基本知識� 104

❖ 模擬問題� 108

ディスプレイの基本的役割� 110第2章

第 1節 ディスプレイの目的と基本的役割� 110第 2節 ディスプレイの基本的パターン� 112第 3節 ファッション衣料品業界のディスプレイ技術� 117

❖ 模擬問題� 119

作業割当の基本的役割� 121第3章

第 1節 ワークスケジューリングの基本知識� 121第 2節 パートタイマー・アルバイトの活用方法� 122

❖ 模擬問題� 123

人的販売の基本的考え方� 124第4章

第 1節 顧客の購買心理過程� 124第 2節 顧客心理と接客販売技術� 124第 3節 推奨販売の基本� 127

❖ 模擬問題� 127

4・マーケティング� 129

小売業のマーケティングの基本的考え方� 130第1章

第 1節 小売業のマーケティングの基本知識� 130第 2節 マーケティングリサーチの基本知識� 132

❖ 模擬問題� 133

顧客管理の基本的役割� 134第2章

第 1節 顧客満足経営の基本知識� 134第 2節 顧客管理の基本知識� 135第 3節 フリークエント・ショッパーズ・プログラムの基本知識� 136

❖ 模擬問題� 137

販売促進の基本的役割� 139第3章

第 1節 販売促進の基本知識� 139第 2節 販売促進策の特徴� 139

❖ 模擬問題� 141

商圏の設定と出店の基本的考え方� 142第4章

第 1節 市場の変化� 142第 2節 商圏の基本知識� 143

第 3節 立地条件の基本知識� 144第 4節 競争店調査の基本知識� 145第 5節 出店の基本知識� 146

❖ 模擬問題� 147

売場づくりの基本的考え方� 149第5章

第 1節 売場づくりの基本知識� 149第 2節 売場づくりの手順� 150第 3節 小売業の照明の基本� 152第 4節 光源の種類と特徴� 155第 5節 ディスプレイ効果を高める色彩の活用� 156

❖ 模擬問題� 157

5・販売・経営管理� 159

販売員の基本業務� 160第1章

第 1節 販売員の目的と役割� 160第 2節 接客マナー� 161第 3節 クレームや返品への対応� 162

❖ 模擬問題� 163

販売員の法令知識� 165第2章

第 1節 小売業に関する主な法規� 165第 2節 消費者基本法と個人情報保護法� 170第 3節 環境問題と消費生活� 172

❖ 模擬問題� 173

販売事務と計数管理の基本的知識� 176第3章

第 1節 販売事務の基本� 176第 2節 計数管理の基本� 177第 3節 販売に求められる決算データ� 177

❖ 模擬問題� 178

売場の人間関係� 180第4章

第 1節 売場の人間関係のあり方� 180第 2節 コミュニケーションの基本� 181第 3節 人間関係向上のための能力開発� 181

❖ 模擬問題� 182

店舗管理の基本的役割� 184第5章

第 1節 金券類の扱いと金銭管理の基本知識� 184第 2節 万引き防止対策の基本知識� 185第 3節 衛生管理の基本知識� 186第 4節 店舗施設の保守・管理� 187

❖ 模擬問題� 187

解答と解説� 189参考文献・図表出典一覧� 201さくいん&チェックリスト� 204

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流通における小売業の基本的役割第1 章

第 1 節 小売業とは何か第 2 節 日本の小売業の構造と変化第 3 節 流通機構における小売業の役割第 4 節 小売業と国際化

業界別流通経路の基本的役割第2 章

第 1 節 主要業界別流通経路の基本知識第 2 節 流通経路における卸売業のポジショニング第 3 節 製造業(メーカー)の流通経路政策の基本知識

形態別小売業の基本的役割第3 章

第 1 節 組織小売業の種類と特徴第 2 節 販売形態の種類と特徴

店舗形態別小売業の基本的役割第4 章

第 1 節 小売業態の基本知識第 2 節 店舗形態別小売業の基本知識

チェーンストアの基本的役割第5 章

第 1 節 チェーンストアとは何か第 2 節 チェーンオペレーションの基本知識第 3 節 チェーンストア組織の基本知識

商業集積の基本的役割と仕組み第6 章

第 1 節 中小小売業の現状と役割第 2 節 商業集積の変遷第 3 節 商業集積の種類と特徴第 4 節 商業集積の課題と方向

小売業の類型1

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6  1 ◦小売業の類型 第 1 章 流通における小売業の基本的役割  7

第 節1 小売業とは何か

ねらい 小売業の定義と流通段階における役割、小売業が扱う商品領域について学ぶ。

1小売業の定義~流通機構における小売業の位置づけ(1)販売対象は最終消費者

流通機構は、メーカー(製造業)→卸売業→小売業→消費者というように、商品が移転していく仕組みである。小売業は、主として最終消費者(一般消費者)を直接対象とする販売業である。一方、卸売業は、産業用使用者*1や小売業者のような再販売購入者を対象とする販売業である。

(2)卸売業を兼業するケース小売業務と卸売業務を兼ねる小売業は少なくない。家電専門店がエアコンを一般消費者に販売し、一方で、産業用使用者である企業に販売する場合、この家電専門店は卸売業を兼業していることになる。

(3)商業統計調査による小売業の定義商業統計調査*2では、年間販売額の半分以上が最終消費者に対する販売であれば、小売業に分類している。

2流通段階における小売業の役割(1)生産者と最終消費者との間の橋渡し

一般消費者は、産業用使用者に比べて、地域的に散在しており、購買間隔は不規則で、購買量は少ない。したがって、メーカーが卸売業や小売業を介さず、直接消費者に商品を供給することは、社会全体でコストがかかり非効率となる(「取引総数最小化の原理」(p.20 図表 1- 6参照))。しかし、近年、インターネットを利用した通信販売のように、一般消費者に直接、商品を販売するメーカーも増えつつある。IT(情報技術)の発達により、顧客情報の管理や物流を外部の専門業者に委託するアウトソーシングが容易になることで、メーカーが小売機能を担うケースも増えている。

(2)販売代理と購買代理小売業は、メーカーに代わって消費者への販売代理をしていると同時に、消費者に代わって購買代理も行っている。近年、消費者ニーズが多様化、個性化したため、消費者に対する購買代理機能が重要になってきた。小売業は直接、最終消費者を相手にしていることで消費者のニーズをつかみやすいため、これをメーカーに伝える役割を担う。特にPOSデータ*3によりどのような顧客が、何を、いつ、どれくらい買ったのかリアルタイムで把握できる。メーカーは、このPOSデータを通常は入手できないため、小売業と共同して商品開発に役立てているケースもある。

3小売業が扱う商品(1)有形財と無形財

小売業の業務には通常、有形の消費財の販売だけではなく、その販売に付随する無形のサービス(商品の配送や据え付け、修理、保守、クレジットなど)の提供も含まれる。一方、クリーニング業、宅配便、ホテルなどのサービス業の業務は、物品(有形財)の提供ではなく、サービス(無形財)の提供である。

(2)サービス経済化と小売業「モノを所有することから、モノを利用することへ」と消費に対する価値観が変化する傾向をサービス経済化という。サービス経済化が進行すると、物品を取り扱うのが小売業で、サービスを取り扱うのがサービス業という分類では、小売業の現状を理解できなくなる。欲求が多様化、個性化してきた消費者には、物品とサービスを適

*3 POSデータ POSとは PointOfSales の略で、販売時点における商品管理のシステムのことであり、商品別の販売数量や金額などをリアルタイムでとらえた販売データのことである。

切に組み合わせて満足感を提供することが小売業に求められてきている。たとえば、コンビニエンスストアでは、物品だけでなく、宅配便や公共料金の収納代行、ATMなどのサービスも提供している。

第 節2 日本の小売業の構造と変化

ねらい 欧米と比較した日本の流通構造の特徴は、零細性、過多性、多段階性である。商業統計調査にもとづく小売業の構造変化のポイントは、零細店舗数の減少と大型店への集中傾向、業種店から業態への移行である。ここでは、流通の構造と変化の日本的な特徴について学ぶ。

1構造上の特徴日本の流通構造*4は、欧米諸国と比較して、零細、過多、多段階という特徴がある。(1)零細性

就業者 4人以下の零細小売店(生業的な家族経営のいわゆるパパママストアを指す)は店舗数で全体の 68%であるが、売上高では 15%にすぎない。

(2)過多性日本では、国土面積 1km2 当たり 3.0 店、人口 1,000 人当たり 8.9 店の小売店がある。欧米と比較して、店舗密度は非常に高い。

(3)多段階性中間流通の多段階性のことであり、日本の小売業に対する卸売業の売上高の比率(W/R比率*5)は、欧米と比べて高い。

2小売業の構造変化(1)店舗数と規模

商業統計調査によると、2007 年の全小売商店数は 113 万8千店で、1982 年の 172 万1千店をピークに減少している。特に就業者 4人以下の零細小売店が大幅に減少しているが、依然として零細性の特徴は残っている。年間販売額の大型店への集中度は急速に高まっている。就業者 50 人以上の店舗数は 0.9%であるが、年間販売額では 25.3%を占めている。

(2)業種構造2007 年調査で「他に分類されない小売業」以外は、すべての業種で商店数は減少している。菓子・パンや酒、野菜、鮮魚、食肉店などの従来型の業種店*6が減少している。その主な原因として、大型スーパーやコンビニエンスストアなどの業態*7との競争や商店主の高齢化や後継者不足などが考えられる。

3多頻度小口の購買習慣消費者は、自宅の周辺に存在する店舗で多頻度小口購買をする傾向にあることから、小売業も零細であった。(1)消費者の購買習慣

購買習慣は、購買頻度、購買量、利用可能な交通機関、時間に対する意識、食習慣、家族構成などによって影響を受ける。

(2)購買特性と小売構造との関係日本人は魚の消費量が多く、鮮度を重視する傾向にあるために、毎日少量仕入れる小売店が必要になる。さらに商品を少量ずつ供給する卸売業が必要となり、流通は多段階となる。

*4 流 通 構 造 商品がメーカーから消費者の手に渡るまでの仕組みのこと。

*5 W/R 比 率  W は、Wholesale で卸売りを意味し、Rは、Retail で小売りを意味する。W/R とは、一国の卸売りの売上高全体を小売りの売上高全体で除した数値である。

*1 産業用使用者 業務用として商品を仕入れる業者のこと。メーカー、飲食店、学校、ホテルなど。

*2 商業統計調査 全国すべての商店(小売業、卸売業)を調査対象に実施される国の基本的な統計調査である。5年ごとに行われる精緻調査と、その 2年後の簡易調査がある。

1第 章 流通における小売業の基本的役割

要 点 の 解 説

*6 業種店 魚、靴など、取扱商品でとらえた小売店のタイプ。

*7 業態 「すぐに消費したい商品」を中心に販売するコンビニエンスストアなど、売り方の特徴でとらえた小売店のタイプ。

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6  1 ◦小売業の類型 第 1 章 流通における小売業の基本的役割  7

第 節1 小売業とは何か

ねらい 小売業の定義と流通段階における役割、小売業が扱う商品領域について学ぶ。

1小売業の定義~流通機構における小売業の位置づけ(1)販売対象は最終消費者

流通機構は、メーカー(製造業)→卸売業→小売業→消費者というように、商品が移転していく仕組みである。小売業は、主として最終消費者(一般消費者)を直接対象とする販売業である。一方、卸売業は、産業用使用者*1や小売業者のような再販売購入者を対象とする販売業である。

(2)卸売業を兼業するケース小売業務と卸売業務を兼ねる小売業は少なくない。家電専門店がエアコンを一般消費者に販売し、一方で、産業用使用者である企業に販売する場合、この家電専門店は卸売業を兼業していることになる。

(3)商業統計調査による小売業の定義商業統計調査*2では、年間販売額の半分以上が最終消費者に対する販売であれば、小売業に分類している。

2流通段階における小売業の役割(1)生産者と最終消費者との間の橋渡し

一般消費者は、産業用使用者に比べて、地域的に散在しており、購買間隔は不規則で、購買量は少ない。したがって、メーカーが卸売業や小売業を介さず、直接消費者に商品を供給することは、社会全体でコストがかかり非効率となる(「取引総数最小化の原理」(p.20 図表 1- 6参照))。しかし、近年、インターネットを利用した通信販売のように、一般消費者に直接、商品を販売するメーカーも増えつつある。IT(情報技術)の発達により、顧客情報の管理や物流を外部の専門業者に委託するアウトソーシングが容易になることで、メーカーが小売機能を担うケースも増えている。

(2)販売代理と購買代理小売業は、メーカーに代わって消費者への販売代理をしていると同時に、消費者に代わって購買代理も行っている。近年、消費者ニーズが多様化、個性化したため、消費者に対する購買代理機能が重要になってきた。小売業は直接、最終消費者を相手にしていることで消費者のニーズをつかみやすいため、これをメーカーに伝える役割を担う。特にPOSデータ*3によりどのような顧客が、何を、いつ、どれくらい買ったのかリアルタイムで把握できる。メーカーは、このPOSデータを通常は入手できないため、小売業と共同して商品開発に役立てているケースもある。

3小売業が扱う商品(1)有形財と無形財

小売業の業務には通常、有形の消費財の販売だけではなく、その販売に付随する無形のサービス(商品の配送や据え付け、修理、保守、クレジットなど)の提供も含まれる。一方、クリーニング業、宅配便、ホテルなどのサービス業の業務は、物品(有形財)の提供ではなく、サービス(無形財)の提供である。

(2)サービス経済化と小売業「モノを所有することから、モノを利用することへ」と消費に対する価値観が変化する傾向をサービス経済化という。サービス経済化が進行すると、物品を取り扱うのが小売業で、サービスを取り扱うのがサービス業という分類では、小売業の現状を理解できなくなる。欲求が多様化、個性化してきた消費者には、物品とサービスを適

*3 POSデータ POSとは PointOfSales の略で、販売時点における商品管理のシステムのことであり、商品別の販売数量や金額などをリアルタイムでとらえた販売データのことである。

切に組み合わせて満足感を提供することが小売業に求められてきている。たとえば、コンビニエンスストアでは、物品だけでなく、宅配便や公共料金の収納代行、ATMなどのサービスも提供している。

第 節2 日本の小売業の構造と変化

ねらい 欧米と比較した日本の流通構造の特徴は、零細性、過多性、多段階性である。商業統計調査にもとづく小売業の構造変化のポイントは、零細店舗数の減少と大型店への集中傾向、業種店から業態への移行である。ここでは、流通の構造と変化の日本的な特徴について学ぶ。

1構造上の特徴日本の流通構造*4は、欧米諸国と比較して、零細、過多、多段階という特徴がある。(1)零細性

就業者 4人以下の零細小売店(生業的な家族経営のいわゆるパパママストアを指す)は店舗数で全体の 68%であるが、売上高では 15%にすぎない。

(2)過多性日本では、国土面積 1km2 当たり 3.0 店、人口 1,000 人当たり 8.9 店の小売店がある。欧米と比較して、店舗密度は非常に高い。

(3)多段階性中間流通の多段階性のことであり、日本の小売業に対する卸売業の売上高の比率(W/R比率*5)は、欧米と比べて高い。

2小売業の構造変化(1)店舗数と規模

商業統計調査によると、2007 年の全小売商店数は 113 万8千店で、1982 年の 172 万1千店をピークに減少している。特に就業者 4人以下の零細小売店が大幅に減少しているが、依然として零細性の特徴は残っている。年間販売額の大型店への集中度は急速に高まっている。就業者 50 人以上の店舗数は 0.9%であるが、年間販売額では 25.3%を占めている。

(2)業種構造2007 年調査で「他に分類されない小売業」以外は、すべての業種で商店数は減少している。菓子・パンや酒、野菜、鮮魚、食肉店などの従来型の業種店*6が減少している。その主な原因として、大型スーパーやコンビニエンスストアなどの業態*7との競争や商店主の高齢化や後継者不足などが考えられる。

3多頻度小口の購買習慣消費者は、自宅の周辺に存在する店舗で多頻度小口購買をする傾向にあることから、小売業も零細であった。(1)消費者の購買習慣

購買習慣は、購買頻度、購買量、利用可能な交通機関、時間に対する意識、食習慣、家族構成などによって影響を受ける。

(2)購買特性と小売構造との関係日本人は魚の消費量が多く、鮮度を重視する傾向にあるために、毎日少量仕入れる小売店が必要になる。さらに商品を少量ずつ供給する卸売業が必要となり、流通は多段階となる。

*4 流 通 構 造 商品がメーカーから消費者の手に渡るまでの仕組みのこと。

*5 W/R 比 率  W は、Wholesale で卸売りを意味し、Rは、Retail で小売りを意味する。W/R とは、一国の卸売りの売上高全体を小売りの売上高全体で除した数値である。

*1 産業用使用者 業務用として商品を仕入れる業者のこと。メーカー、飲食店、学校、ホテルなど。

*2 商業統計調査 全国すべての商店(小売業、卸売業)を調査対象に実施される国の基本的な統計調査である。5年ごとに行われる精緻調査と、その 2年後の簡易調査がある。

1第 章 流通における小売業の基本的役割

要 点 の 解 説

*6 業種店 魚、靴など、取扱商品でとらえた小売店のタイプ。

*7 業態 「すぐに消費したい商品」を中心に販売するコンビニエンスストアなど、売り方の特徴でとらえた小売店のタイプ。

Page 8: はじめに第1 章ストアオペレーションの基本的役割 94 第1節 ストアオペレーションの重要性 94 第2節 開店準備の業務 95 第3節 発注の基本知識

8  1 ◦小売業の類型 第 1 章 流通における小売業の基本的役割  9

第 節3 流通機構における小売業の役割

*8 流通 生産者から消費者への商品の流れ。

ねらい 生産と消費が分化したことで流通*8 が生まれた。ここでは、この分化によって生じた生産と消費間のギャップとそのギャップを架橋する流通の機能、流通機構の中での小売業の役割について学ぶ。

1流通とは流通経路の始点である生産と終点の消費の間には、次のような懸隔(ギャップ)がある。(1)所有権のギャップ

商品の生産者とその商品を求める消費者が異なるため、商品の所有権が消費者に移転されるまでギャップが存在する。

(2)空間のギャップ一般的に生産される地点は特定の地域に集中し、消費される地点は地理的に分散する傾向にある。この生産地点と消費地点が異なることから生じるギャップである。

(3)情報のギャップ消費者は自分の欲する商品やその生産者、卸売業者、小売業者をよく知らない。一方、生産者は自己の商品を欲する顧客についてよく知らないというギャップがある。また、生産者が消費者に知らせたい情報と消費者が知りたい情報の間にもギャップがある。

(4)品ぞろえのギャップそれぞれの生産者は限られた種類の商品を生産している。しかし、消費者はさまざまな種類の商品を必要としているためギャップがある。

(5)価値のギャップ同一商品に対して生産者と消費者が認識する価値にはギャップがある。生産者は製造・販売のコストを回収できる価格を設定するだろうし、消費者は自分の求める商品を購入する際、金銭的側面で検討する。

(6)時間のギャップ商品が生産される時間(時期)と消費される時間(時期)のギャップがある。

2流通の機能流通機能とは、生産と消費間のギャップを架橋する働きである。(1)取引機能(仕入機能と販売機能)

取引機能は所有権のギャップと価値のギャップを架橋する機能であり、仕入活動と販売活動から構成される。所有的効用を生む。

(2)輸送機能輸送機能は空間のギャップを架橋する機能であり、輸送活動から構成される。場所的効用を生む。

(3)情報伝達機能情報伝達機能とは売り手と買い手の知覚的ギャップを架橋する機能であり、プロモーション活動と市場情報の収集活動から構成される。情報伝達機能が遂行されることで、取引機能、輸送機能、保管機能が円滑に機能する。

(4)保管機能保管機能とは時間のギャップを架橋する機能であり、保管活動から構成される。時間的効用を生む。

3消費の最先端に位置する小売業の役割小売業の基本的役割は、卸売業やメーカーなど、供給先企業(サプライヤー)から主要購買層(メインターゲット)の求める商品を選んで仕入れ、それらを適切に組み合わせて魅力的な売場をつくることである。こうした役割をアソートメント*9という。アソートメントは、消費者の購買を代理する重要な役割であり、その実現には、次のようなことが求められる。①小分け販売・・・消費者が1回に消費できる商品量、1回当たりの購買量は限られているので、来店客の需要

に見合った商品量を提供する。②分散立地型販売・・・広域に点在する消費者に商品を提供するために、店舗を分散して出店する。

*9 ア ソ ー ト メ ン ト assortment。商品の取りそろえ、組み合わせのこと。

③非計画購買への対応・・・消費者は、ライフスタイルや感性などによって、衝動買いすることも少なくないため、このような購買行動に対応した売場づくりや商品政策などを行う。

④参加(体験)型購買の促進・・・特に、毎日の買い物が苦痛になりつつある最寄品*10販売では、気楽に商品に触れられる売場、商品を使って実際に体験できるような消費者が快適に楽しめる買い物空間をつくり出すことが重要になっている。

4小売業の機能と基本的役割小売業の果たすべき機能は、3つの視点からとらえることができる。

①消費者に対して・・・安全で安心して使える商品の情報提供②供給先企業に対して・・・消費者ニーズの情報提供③地域社会に対して・・・暮らしの向上に関する情報提供

(1)消費者に対する小売業の役割①品ぞろえの提供機能・・・主要購買層に合わせて多種多様な商品を厳選し、売場

で効果的に編集するアソートメントが小売業の最も基本的な機能である。

②在庫の調整機能・・・小売業は生産と消費の量的調整機能の役割を担っており、売れ筋商品*11ほど品切れを起こさないように、安全在庫*12を持つ必要がある。

③価格の調整機能・・・ローコストオペレーション*13による競争を行いながら、地域の求める適正価格を設定し、消費者の生活を支援する役割がある。

④情報の提供機能・・・取扱商品に関する幅広い専門知識が不可欠であり、主要購買層のライフスタイルに合わせた商品選択のポイントや用途の提案といった生活情報の提供も必要である。

⑤品質のチェック機能・・・仕入れでは、商品の品質などを専門的な知識にもとづき総合的に吟味し、安全性や安心性を消費者に代わってチェックすることが必要である。

⑥便利性の提供機能・・・時間的便利性や買い物の便利性といったあらゆる便利性に応え、消費者の生活に不便をかけないことが大きな役割である。

⑦顧客サービスの提供機能・・・クレジット機能や各種特典付きのプログラムの提供など、商品の販売に付随するきめ細かな顧客サービスを提供することが必要である。

⑧快適性の提供機能・・・生産工程を基本とした業種別の商品構成、売場づくりではなく、生活様式や使い方といったライフスタイル型*14の売場構成が必要とされている。楽しめる買い物空間の演出や賑わいを出す売場づくりがストアロイヤルティ*15の形成にもつながる。

(2)供給先企業に対する小売業の役割①生産支援機能・・・小売業は卸売業を介し、またはメーカーと直接取引すること

で、商品の販路を確保することを使命としている。これによって、メーカーは商品を大量に、安定して、生産することができる。

②流通主権者機能・・・小売業者がプライベートブランド(PB)商品*16を開発し、販売に至るすべての流通を主権者としてコントロールすることである。PB商品の開発には、次のような方法がある。

・仕様書発注企画──主に大規模小売業が作成した仕様書を中小のメーカーに発注し、生産委託する方法(主に衣料品、食品業界)。

   ・ダブルチョップ──ナショナルブランド(NB)商品*17を製造する有力メーカーと交渉し、製造元企業名のほかに、販売元として小売業(またはそのグループ)の名称を連名記載(ダブルブランド)する方法(主に医薬品業界)。

*10 最寄品 商品購入時に商品の価格や品質などを他の類似品と比較しないで、近隣の店舗で購入する商品。

*11 売れ筋商品 よく売れている品目。

*12 安全在庫 どのようなことがあっても品切れしないように用意しておくべき絶対必要量を考えた店頭在庫。

*13 ローコストオペレーション 店舗運営に必要な経費を低く抑え効率的な運営で利益を出す方法。

*15 ストアロイヤルティ 小売店に対する消費者の愛顧、忠誠心の度合いが高いこと。

*14 ライフスタイル型 商品の陳列をメーカーの“モノ”の基準ではなく、消費者の生活様式や使い方の基準により商品分類や売場づくりを行うこと。

*16 プライベートブランド(PB)商品 小売業やボランタリーチェーン名をつけて販売する商品。

*17 ナショナルブランド(NB)商品 全国的に消費者に普及しているメーカーのブランド商品。

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8  1 ◦小売業の類型 第 1 章 流通における小売業の基本的役割  9

第 節3 流通機構における小売業の役割

*8 流通 生産者から消費者への商品の流れ。

ねらい 生産と消費が分化したことで流通*8 が生まれた。ここでは、この分化によって生じた生産と消費間のギャップとそのギャップを架橋する流通の機能、流通機構の中での小売業の役割について学ぶ。

1流通とは流通経路の始点である生産と終点の消費の間には、次のような懸隔(ギャップ)がある。(1)所有権のギャップ

商品の生産者とその商品を求める消費者が異なるため、商品の所有権が消費者に移転されるまでギャップが存在する。

(2)空間のギャップ一般的に生産される地点は特定の地域に集中し、消費される地点は地理的に分散する傾向にある。この生産地点と消費地点が異なることから生じるギャップである。

(3)情報のギャップ消費者は自分の欲する商品やその生産者、卸売業者、小売業者をよく知らない。一方、生産者は自己の商品を欲する顧客についてよく知らないというギャップがある。また、生産者が消費者に知らせたい情報と消費者が知りたい情報の間にもギャップがある。

(4)品ぞろえのギャップそれぞれの生産者は限られた種類の商品を生産している。しかし、消費者はさまざまな種類の商品を必要としているためギャップがある。

(5)価値のギャップ同一商品に対して生産者と消費者が認識する価値にはギャップがある。生産者は製造・販売のコストを回収できる価格を設定するだろうし、消費者は自分の求める商品を購入する際、金銭的側面で検討する。

(6)時間のギャップ商品が生産される時間(時期)と消費される時間(時期)のギャップがある。

2流通の機能流通機能とは、生産と消費間のギャップを架橋する働きである。(1)取引機能(仕入機能と販売機能)

取引機能は所有権のギャップと価値のギャップを架橋する機能であり、仕入活動と販売活動から構成される。所有的効用を生む。

(2)輸送機能輸送機能は空間のギャップを架橋する機能であり、輸送活動から構成される。場所的効用を生む。

(3)情報伝達機能情報伝達機能とは売り手と買い手の知覚的ギャップを架橋する機能であり、プロモーション活動と市場情報の収集活動から構成される。情報伝達機能が遂行されることで、取引機能、輸送機能、保管機能が円滑に機能する。

(4)保管機能保管機能とは時間のギャップを架橋する機能であり、保管活動から構成される。時間的効用を生む。

3消費の最先端に位置する小売業の役割小売業の基本的役割は、卸売業やメーカーなど、供給先企業(サプライヤー)から主要購買層(メインターゲット)の求める商品を選んで仕入れ、それらを適切に組み合わせて魅力的な売場をつくることである。こうした役割をアソートメント*9という。アソートメントは、消費者の購買を代理する重要な役割であり、その実現には、次のようなことが求められる。①小分け販売・・・消費者が1回に消費できる商品量、1回当たりの購買量は限られているので、来店客の需要

に見合った商品量を提供する。②分散立地型販売・・・広域に点在する消費者に商品を提供するために、店舗を分散して出店する。

*9 ア ソ ー ト メ ン ト assortment。商品の取りそろえ、組み合わせのこと。

③非計画購買への対応・・・消費者は、ライフスタイルや感性などによって、衝動買いすることも少なくないため、このような購買行動に対応した売場づくりや商品政策などを行う。

④参加(体験)型購買の促進・・・特に、毎日の買い物が苦痛になりつつある最寄品*10販売では、気楽に商品に触れられる売場、商品を使って実際に体験できるような消費者が快適に楽しめる買い物空間をつくり出すことが重要になっている。

4小売業の機能と基本的役割小売業の果たすべき機能は、3つの視点からとらえることができる。

①消費者に対して・・・安全で安心して使える商品の情報提供②供給先企業に対して・・・消費者ニーズの情報提供③地域社会に対して・・・暮らしの向上に関する情報提供

(1)消費者に対する小売業の役割①品ぞろえの提供機能・・・主要購買層に合わせて多種多様な商品を厳選し、売場

で効果的に編集するアソートメントが小売業の最も基本的な機能である。

②在庫の調整機能・・・小売業は生産と消費の量的調整機能の役割を担っており、売れ筋商品*11ほど品切れを起こさないように、安全在庫*12を持つ必要がある。

③価格の調整機能・・・ローコストオペレーション*13による競争を行いながら、地域の求める適正価格を設定し、消費者の生活を支援する役割がある。

④情報の提供機能・・・取扱商品に関する幅広い専門知識が不可欠であり、主要購買層のライフスタイルに合わせた商品選択のポイントや用途の提案といった生活情報の提供も必要である。

⑤品質のチェック機能・・・仕入れでは、商品の品質などを専門的な知識にもとづき総合的に吟味し、安全性や安心性を消費者に代わってチェックすることが必要である。

⑥便利性の提供機能・・・時間的便利性や買い物の便利性といったあらゆる便利性に応え、消費者の生活に不便をかけないことが大きな役割である。

⑦顧客サービスの提供機能・・・クレジット機能や各種特典付きのプログラムの提供など、商品の販売に付随するきめ細かな顧客サービスを提供することが必要である。

⑧快適性の提供機能・・・生産工程を基本とした業種別の商品構成、売場づくりではなく、生活様式や使い方といったライフスタイル型*14の売場構成が必要とされている。楽しめる買い物空間の演出や賑わいを出す売場づくりがストアロイヤルティ*15の形成にもつながる。

(2)供給先企業に対する小売業の役割①生産支援機能・・・小売業は卸売業を介し、またはメーカーと直接取引すること

で、商品の販路を確保することを使命としている。これによって、メーカーは商品を大量に、安定して、生産することができる。

②流通主権者機能・・・小売業者がプライベートブランド(PB)商品*16を開発し、販売に至るすべての流通を主権者としてコントロールすることである。PB商品の開発には、次のような方法がある。

・仕様書発注企画──主に大規模小売業が作成した仕様書を中小のメーカーに発注し、生産委託する方法(主に衣料品、食品業界)。

   ・ダブルチョップ──ナショナルブランド(NB)商品*17を製造する有力メーカーと交渉し、製造元企業名のほかに、販売元として小売業(またはそのグループ)の名称を連名記載(ダブルブランド)する方法(主に医薬品業界)。

*10 最寄品 商品購入時に商品の価格や品質などを他の類似品と比較しないで、近隣の店舗で購入する商品。

*11 売れ筋商品 よく売れている品目。

*12 安全在庫 どのようなことがあっても品切れしないように用意しておくべき絶対必要量を考えた店頭在庫。

*13 ローコストオペレーション 店舗運営に必要な経費を低く抑え効率的な運営で利益を出す方法。

*15 ストアロイヤルティ 小売店に対する消費者の愛顧、忠誠心の度合いが高いこと。

*14 ライフスタイル型 商品の陳列をメーカーの“モノ”の基準ではなく、消費者の生活様式や使い方の基準により商品分類や売場づくりを行うこと。

*16 プライベートブランド(PB)商品 小売業やボランタリーチェーン名をつけて販売する商品。

*17 ナショナルブランド(NB)商品 全国的に消費者に普及しているメーカーのブランド商品。

Page 10: はじめに第1 章ストアオペレーションの基本的役割 94 第1節 ストアオペレーションの重要性 94 第2節 開店準備の業務 95 第3節 発注の基本知識

10  1 ◦小売業の類型 第 1 章 流通における小売業の基本的役割  11

・OEM──────メーカーが通常販売しているNB商品を、供給を受けた小売業のブランド名で、その小売業が専売*18する方法(主に家電業界)。

③消費者情報伝達機能・・・日々得られる消費者の購買行動や購買目的などの情報を、商品カテゴリー*19別、消費者の特性(年齢、性、職業など)別に分類・整理し、メーカーや卸売業者などに提供する役割がある。

(3)地域社会に対する小売業の役割①暮らしの向上機能・・・店舗内外のクリンリネス*20、配送に伴う騒音への配慮、

配送車両による交通妨害への対応など、地域に暮らす消費者の生活改善に注力することが重要である。

②地域社会への貢献機能・・・地域社会への貢献活動は、今後も大切な機能である。その 1つに地域文化の発信メディアとして、地域独自の商習慣や催事などを伝承していくことが考えられる。

③雇用機会の提供機能・・・小売業全体が抱える雇用者数は多く、産業としても規模の経済性に大きく貢献している。地域社会の雇用創出の場として機能していく必要がある。

第 節4 小売業と国際化

ねらい 経済のグローバル化に伴い、日本の小売業の海外進出、外資の日本市場への参入など小売業を取り巻く状況は激しく変化している。ここでは、こうしたグローバル化に伴う小売業の変化について学ぶ。

1グローバル化する小売業小売業は、地域の顧客ニーズを満たす活動をするため、基本的にドメスティック(自国内の)産業という特性を持つ。しかし、日本国内の人口減少や経済停滞などから将来の消費の大きな伸びが期待できないため、海外に活路を求める大手小売企業もある。一方、欧米の小売企業は、日本を含むアジア市場への展開を積極的に行っている。小売業のグローバル化とは、海外への出店形態だけでなく、海外からの商品調達(輸入)や海外への供給(輸出)といった形態もある。(1)日本の小売業の海外展開と外国資本流通業の日本進出

・日本の有力な百貨店やスーパーマーケットは、かつてアジアを中心に海外展開を行っていたが、バブル経済崩壊後の 1990 年代以降、国内事業の低迷で海外展開が難しくなり、また欧米企業や現地企業との競争が激化するなどして、多くの企業が撤退した。・2000 年代以降は、国内市場の長期的な低迷から、成長の著しい中国をはじめとするアジアの市場に目を向ける総合品ぞろえスーパー、専門店チェーン、コンビニエンスストアなどが現れている。・近年、欧米の有力流通企業が日本市場へ参入している。a.トイザらス・・・玩具・子供用品量販店チェーン(米国)b.コストコ・・・倉庫型店舗のホールセールクラブ(米国)c.メトロ・・・倉庫型店舗で食料品中心のキャッシュ&キャリー(ドイツ)d.ウォルマート・ストアーズ・・・世界最大の小売企業(米国)e.イケア・・・家具・インテリア量販店チェーン(スウェーデン)・アパレル製品を自社で企画・製造し、自店舗で自社ブランドとして販売する SPA(SpecialityStoreRetailerofPrivateLabelApparel)のグローバル展開が注目されている。

   (例:GAP(米国)、H&M(スウェーデン)、ZARA(スペイン))(2)商品調達・供給のグローバル化

・欧米などの高級ブランド品は、日本の商社や百貨店等が中心となり日本市場へ導入された。今日では高級ブランド品だけでなく、カジュアル衣料、家庭用品、日用雑貨などの日常的に消費されるコモディティ商品*21も海外からの商品調達が増えている。

*18 専売 小売業がメーカーとの契約により、そのメーカーの商品を重点的に販売する方法。

*19 商品カテゴリー 商品分類の基準や単位。

*20 クリンリネス 「きれいさ」を意味する。売場の清掃にとどまらず、床を磨き、はみ出し陳列の修正、食品の衛生管理、従業員の服装、身だしなみといったさまざまな清潔さを保つ状態のこと。

・総合品ぞろえスーパーは、「開発輸入」によりプライベートブランド(PB)商品を海外のメーカーに製造委託して自社店舗で販売したり、海外の農場などと提携して農畜産加工品を調達している。・アパレル業界では、日本の縫製技術や製造管理技術を発展途上国に持ち込み、現地の安い労働力の向上を利用し、低価格で良質な自社ブランド商品の生産と調達を実現している。・今後は eマーケットプレイスを活用することで、小売業自ら海外に行くことなく、商品調達が可能になる。

2欧米で生まれた店舗形態欧米で生まれた小売形態が日本に輸入され、日本の状況に合うように修正されてきた。(1)スーパーセンター

(第 4章 第 2節 8.スーパーセンターを参照)(2)ハイパーマーケット

(第 4章 第 2節 9(1) ハイパーマーケットを参照)(3)ホールセールクラブ

(第 4章 第 2節 9(7) ホールセールクラブを参照)(4)キャッシュ&キャリー

レストランや小規模食品店などの会員制ユーザーを対象に、業務用の商品を主にケース単位で販売する卸売業。ユーザーは車で来店して現金で精算し、持ち帰る。

(5)ネイバーフッド・マーケットウォルマートがスーパーセンターの隙間を埋めるために開設した小商圏のスーパーマーケット。

(6)ハード・ディスカウンター500m2 〜 1,000m2 程度の小さな店舗に高回転の加工食品を主体に 500 〜 1,000 品目程度に絞り込み、超低価格で販売する。

(7)アウトレットストア何らかの理由から正規の店舗で販売できないブランド品を処分するために、メーカーなどが自ら開設した店舗。

(8)オフプライスストア有名ブランド品や百貨店、専門店の在庫処分品を仕入れ、市価の 3〜 5割引で販売する。店舗の設置運営は、小売業である。

3国際化する日本の小売市場での対応日本の小売市場は国際化が進んでいるが、消費者の購買習慣や嗜好、小売経営の費用構造、流通システムなどはいまだ日本的である。そうした日本市場の特性に合った店舗形態やストアオペレーションをつくらなければ、グローバル・リテーラー*22といえども成功は保証されない。日本の小売業が欧米の店舗形態を日本市場に導入する場合や、日本国内の店舗形態を海外で展開する場合についても同様のことがいえる。

模擬問題

第 1 問 次のア~オについて、正しいものには 1 を、誤っているものには 2 を、解答欄に記入しなさい。ア 商業統計調査で定義する小売業とは、年間販売額の半分以上を最終消費者および産業用使用者に対して販売する者のことをいう。

イ 消費者の欲求が多様化・個性化した今日、小売業が消費者に満足感を提供するためには、有形財(物品)と無形財(サービス)をどのように組み合わせて提供するかということが重要である。

ウ 日本の流通構造の特徴の 1つである「過多性」は、一般的には、W/R比率を使って比較される。エ 小売業は、メーカーに代わって消費者への「販売代理」をしていると同時に、消費者に代わって「購買代理」もしている。

オ クリーニング店や飲食店は、商店街にある場合には、小売業である。ア イ ウ エ オ

*22 グローバル・リテーラー 複数の国にまたがり流通活動を展開している巨大資本の小売企業のこと。

*21 コモディティ商品 基本的な機能や品質が備わっており、消費者の購買時に、メーカー名や品質にこだわらず、より低価格なものが選ばれる商品のこと。紙類や洗剤、食料品など。

Page 11: はじめに第1 章ストアオペレーションの基本的役割 94 第1節 ストアオペレーションの重要性 94 第2節 開店準備の業務 95 第3節 発注の基本知識

10  1 ◦小売業の類型 第 1 章 流通における小売業の基本的役割  11

・OEM──────メーカーが通常販売しているNB商品を、供給を受けた小売業のブランド名で、その小売業が専売*18する方法(主に家電業界)。

③消費者情報伝達機能・・・日々得られる消費者の購買行動や購買目的などの情報を、商品カテゴリー*19別、消費者の特性(年齢、性、職業など)別に分類・整理し、メーカーや卸売業者などに提供する役割がある。

(3)地域社会に対する小売業の役割①暮らしの向上機能・・・店舗内外のクリンリネス*20、配送に伴う騒音への配慮、

配送車両による交通妨害への対応など、地域に暮らす消費者の生活改善に注力することが重要である。

②地域社会への貢献機能・・・地域社会への貢献活動は、今後も大切な機能である。その 1つに地域文化の発信メディアとして、地域独自の商習慣や催事などを伝承していくことが考えられる。

③雇用機会の提供機能・・・小売業全体が抱える雇用者数は多く、産業としても規模の経済性に大きく貢献している。地域社会の雇用創出の場として機能していく必要がある。

第 節4 小売業と国際化

ねらい 経済のグローバル化に伴い、日本の小売業の海外進出、外資の日本市場への参入など小売業を取り巻く状況は激しく変化している。ここでは、こうしたグローバル化に伴う小売業の変化について学ぶ。

1グローバル化する小売業小売業は、地域の顧客ニーズを満たす活動をするため、基本的にドメスティック(自国内の)産業という特性を持つ。しかし、日本国内の人口減少や経済停滞などから将来の消費の大きな伸びが期待できないため、海外に活路を求める大手小売企業もある。一方、欧米の小売企業は、日本を含むアジア市場への展開を積極的に行っている。小売業のグローバル化とは、海外への出店形態だけでなく、海外からの商品調達(輸入)や海外への供給(輸出)といった形態もある。(1)日本の小売業の海外展開と外国資本流通業の日本進出

・日本の有力な百貨店やスーパーマーケットは、かつてアジアを中心に海外展開を行っていたが、バブル経済崩壊後の 1990 年代以降、国内事業の低迷で海外展開が難しくなり、また欧米企業や現地企業との競争が激化するなどして、多くの企業が撤退した。・2000 年代以降は、国内市場の長期的な低迷から、成長の著しい中国をはじめとするアジアの市場に目を向ける総合品ぞろえスーパー、専門店チェーン、コンビニエンスストアなどが現れている。・近年、欧米の有力流通企業が日本市場へ参入している。a.トイザらス・・・玩具・子供用品量販店チェーン(米国)b.コストコ・・・倉庫型店舗のホールセールクラブ(米国)c.メトロ・・・倉庫型店舗で食料品中心のキャッシュ&キャリー(ドイツ)d.ウォルマート・ストアーズ・・・世界最大の小売企業(米国)e.イケア・・・家具・インテリア量販店チェーン(スウェーデン)・アパレル製品を自社で企画・製造し、自店舗で自社ブランドとして販売する SPA(SpecialityStoreRetailerofPrivateLabelApparel)のグローバル展開が注目されている。

   (例:GAP(米国)、H&M(スウェーデン)、ZARA(スペイン))(2)商品調達・供給のグローバル化

・欧米などの高級ブランド品は、日本の商社や百貨店等が中心となり日本市場へ導入された。今日では高級ブランド品だけでなく、カジュアル衣料、家庭用品、日用雑貨などの日常的に消費されるコモディティ商品*21も海外からの商品調達が増えている。

*18 専売 小売業がメーカーとの契約により、そのメーカーの商品を重点的に販売する方法。

*19 商品カテゴリー 商品分類の基準や単位。

*20 クリンリネス 「きれいさ」を意味する。売場の清掃にとどまらず、床を磨き、はみ出し陳列の修正、食品の衛生管理、従業員の服装、身だしなみといったさまざまな清潔さを保つ状態のこと。

・総合品ぞろえスーパーは、「開発輸入」によりプライベートブランド(PB)商品を海外のメーカーに製造委託して自社店舗で販売したり、海外の農場などと提携して農畜産加工品を調達している。・アパレル業界では、日本の縫製技術や製造管理技術を発展途上国に持ち込み、現地の安い労働力の向上を利用し、低価格で良質な自社ブランド商品の生産と調達を実現している。・今後は eマーケットプレイスを活用することで、小売業自ら海外に行くことなく、商品調達が可能になる。

2欧米で生まれた店舗形態欧米で生まれた小売形態が日本に輸入され、日本の状況に合うように修正されてきた。(1)スーパーセンター

(第 4章 第 2節 8.スーパーセンターを参照)(2)ハイパーマーケット

(第 4章 第 2節 9(1) ハイパーマーケットを参照)(3)ホールセールクラブ

(第 4章 第 2節 9(7) ホールセールクラブを参照)(4)キャッシュ&キャリー

レストランや小規模食品店などの会員制ユーザーを対象に、業務用の商品を主にケース単位で販売する卸売業。ユーザーは車で来店して現金で精算し、持ち帰る。

(5)ネイバーフッド・マーケットウォルマートがスーパーセンターの隙間を埋めるために開設した小商圏のスーパーマーケット。

(6)ハード・ディスカウンター500m2 〜 1,000m2 程度の小さな店舗に高回転の加工食品を主体に 500 〜 1,000 品目程度に絞り込み、超低価格で販売する。

(7)アウトレットストア何らかの理由から正規の店舗で販売できないブランド品を処分するために、メーカーなどが自ら開設した店舗。

(8)オフプライスストア有名ブランド品や百貨店、専門店の在庫処分品を仕入れ、市価の 3〜 5割引で販売する。店舗の設置運営は、小売業である。

3国際化する日本の小売市場での対応日本の小売市場は国際化が進んでいるが、消費者の購買習慣や嗜好、小売経営の費用構造、流通システムなどはいまだ日本的である。そうした日本市場の特性に合った店舗形態やストアオペレーションをつくらなければ、グローバル・リテーラー*22といえども成功は保証されない。日本の小売業が欧米の店舗形態を日本市場に導入する場合や、日本国内の店舗形態を海外で展開する場合についても同様のことがいえる。

模擬問題

第 1 問 次のア~オについて、正しいものには 1 を、誤っているものには 2 を、解答欄に記入しなさい。ア 商業統計調査で定義する小売業とは、年間販売額の半分以上を最終消費者および産業用使用者に対して販売する者のことをいう。

イ 消費者の欲求が多様化・個性化した今日、小売業が消費者に満足感を提供するためには、有形財(物品)と無形財(サービス)をどのように組み合わせて提供するかということが重要である。

ウ 日本の流通構造の特徴の 1つである「過多性」は、一般的には、W/R比率を使って比較される。エ 小売業は、メーカーに代わって消費者への「販売代理」をしていると同時に、消費者に代わって「購買代理」もしている。

オ クリーニング店や飲食店は、商店街にある場合には、小売業である。ア イ ウ エ オ

*22 グローバル・リテーラー 複数の国にまたがり流通活動を展開している巨大資本の小売企業のこと。

*21 コモディティ商品 基本的な機能や品質が備わっており、消費者の購買時に、メーカー名や品質にこだわらず、より低価格なものが選ばれる商品のこと。紙類や洗剤、食料品など。

Page 12: はじめに第1 章ストアオペレーションの基本的役割 94 第1節 ストアオペレーションの重要性 94 第2節 開店準備の業務 95 第3節 発注の基本知識

12  1 ◦小売業の類型 第 2 章 業界別流通経路の基本的役割  13

第 2 問 次の文章は、流通機能について述べている。文中の〔 〕の部分に、下記の語群のうち最も適当なものを選んで、解答欄にその番号を記入しなさい。

流通機能とは、生産と消費の間にある多様な〔 ア 〕を架橋する機能である。その1つである情報伝達機能は〔 イ 〕ギャップ(売り手と買い手の〔 ウ 〕のギャップ)を架橋する機能であり、〔 エ 〕活動と市場情報の収集活動から構成される。情報伝達機能が遂行されることにより、〔 オ 〕機能、輸送機能、保管機能が円滑に遂行されることになる。

【語  群】

1.非計画的 5.距離 9.需要変動2.知覚的 6.取引 10.懸隔3.空間的 7.認識4.プロモーション 8.品ぞろえ

ア イ ウ エ オ

第 3 問 次のア~オについて、正しいものには 1 を、誤っているものには 2 を、解答欄に記入しなさい。ア 就業者 4人以下の零細小売店は、店舗数で小売店舗数全体のおよそ 30%を占める。イ W/R比率とは、一国の小売りの売上高全体を卸売りの売上高全体で除した数値である。ウ 日本人は、魚の消費量が多く、鮮度を重視する傾向にあるために、週に一度のまとめ買いをする小売店が必要になる。

エ 商業統計調査によると、小売業の全商店数(店舗数)は、1982 年をピークに一貫して減少している。オ 日本の流通構造は、零細、過多、多段階を特徴としているが、これらは、消費者の購買行動と、それから形成される小売構造によるところが大きいからである。

ア イ ウ エ オ

第 4 問 次のア~オは、小売業の機能や役割について述べている。正しいものには 1 を、誤っているものには 2 を、解答欄に記入しなさい。ア 小売業全体が抱えている雇用者数は、産業的にみても規模の経済性に大きく貢献している。イ 消費者が楽しみながら快適に買い物ができるよう、小売業には、気楽に商品に触れたり、商品を使用した実体験ができるような参加型購買促進を実施することが求められる。

ウ プライベートブランド(PB)商品を開発し、その販売に至るまでのすべての流通プロセスをコントロールしている小売業は、生産支援機能を果たしている。

エ 有名メーカーの製品であればコストがかかるので、どのようなものでも消費者に代わって商品の安全性や安心性などを総合的に吟味して選別までする必要はない。

オ 小売業の基本的機能は、消費者、供給先企業、地域社会の3者に適切な情報を提供することである。ア イ ウ エ オ

第 節1 主要業界別流通経路の基本知識

ねらい 流通の仕組みは個々の商品の特性によって違いがある。ここでは主要な商品を取り上げ、その商品の特徴や業界別の流通の仕組みについて学ぶ。

1総論(1)集配拠点による配分と需給調整

生鮮三品*23に代表される食品は生産者(産地)が各地域に散在するため、商品を集荷し、全国に配送する流通拠点(卸売市場)を設けている。生鮮食品は、天候や季節性などの要因で収穫と流通量、価格が大きく変動するため、需給を調整する流通拠点が必要となる。加工食品や非食品では、主にメーカーが主導権を握り、卸売業の活用、消費者への直接販売といったさまざまな流通経路を形成している。

(2)温度帯別流通システム温度帯別流通システムは、低温と常温に大別できる。低温には冷凍(フローズン、-18℃以下:冷凍食品、アイスクリームなど)、冷蔵(チルド、-5℃〜 5℃:生鮮食品、乳製品など)、定温(10℃〜 20℃:ビール、チョコレートなど)がある。低温流通の仕組みはコールドチェーンと呼ばれ、生鮮食品や冷凍食品などの長期間保存や広域流通を可能としている。常温は、日本工業規格により 20℃±15℃(5℃〜 35℃)と規定されている。

(3)中間業者の介在食品は、生産者の企業規模が比較的小さく、季節性や地域性などから生産量が少ないために、中小規模の食品問屋への依存度が高い流通特性を持つ。

2生鮮食品円滑な流通を確保するための物流拠点として、中央卸売市場と地方卸売市場が開設されている。

図表 1 ⊖ 1 卸売市場の種類と要件

中央卸売市場 地方卸売市場

要件都道府県、人口 20 万人以上の市 中央卸売市場以外の卸売市場で面積が一定規模

以上

開設者 地方公共団体 地方公共団体、株式会社、農協、漁協など

許可 農林水産大臣許可 都道府県知事許可

(1)青果物流通の概要①市場流通(卸売市場を介した流通)・国内で収穫される青果物の多くは農家で生産され、各地の農業協同組合などの出荷団体に運ばれ、品質ランクやサイズごとに選別後、包装される。・包装された青果物は卸売市場に入荷され、市場内で卸売業者が行う競売、または相対取引によって売買価格が決定される。競売に参加できるのは仲卸業者(仲買人)と、買参権を持つ青果店や量販店などの大口需要者(買参人)であり、最も高い価格を提示した買参人と取引が成立する。②市場外流通(卸売市場を介さない流通)・近年では卸売市場を介さない市場外流通によって、青果物を調達する量販店チェーンや外食チェーンなどが多くあり、こうした取り組みは産地直送ともいわれる。

(2)水産品流通の概要①市場流通・卸売市場を介した流通の基本的仕組みは、青果物と同様である。しかし、流通経路の最も川上に位置するのは漁業者であり、漁業協同組合などが出荷団体の役割を果たしている。

②市場外流通

*23 生鮮三品 青果、鮮魚、精肉の 3商品を指す。

2第 章 業界別流通経路の基本的役割

要 点 の 解 説