アンテナの近傍界測定システムの開発とその応用 平 … chujo, shigeru okubo,...

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Vol.34 No.172 通信総合研究所季報 September 1988 pp.117-129 研究 アンテナの近傍界測定システムの開発とその応用 平面近傍界測定システムの構成 伊藤猛男*',手代木扶*',掘 義明ペ小室英雄*I ,中僚 渉*I 大久保茂*I ,川期成一郎門田中正人制 (昭和63 3 30 日受理) DEVELOP IBNTANDAPPLICATIONSOFNEAR-FIELD ANTENNAMEASUREMENTSYSTEM 3. CRL'SPLANARNEAR-FIELDANTENNA MEASUREMENTSYSTEM By TakeoITO,TasukuTESHIROGI,YoshiakiHORI, HideoKOMURO, WataruCHUJO,ShigeruOKUBO,Seiichirou KA WASE, andMasatoTANAKA Muchattentionhasbeenpaidtonear.fieldmeasurementbecauseitenables performance evalu- ationoflargeclassesofantennasthroughmeasurementsatgreatly reduced distances.Thismeans thataradioanechoicchambercanbeusedevenfor measurements of large aperture antennas, suchassatelliteantennas.Thus,wecanavoidgroundreflectionsandthe effects of meteorology andotherradiolinkswhichaffectexactantennameasurementinaconventionaloutdoorfar-field testrange,enablingustoperformaccurateantennameasurements. TheCommunicationsResearchLaboratoryrecentlycompleteddevelopment,begunin1984, ofa planarnear-fieldsystemwitha 4 m × 4 m scanarea.Thescannerisof a tower-type,and the meas- uredflatnessofthescanningplaneovera 4 m x 4 m squareislessthan0. 12 mm. Thispaperdescribestheconfigurationandperformanceofthe developed near-field measurement system. 1. はじめに アンテナ近傍界測定法ui(NFM )は,比較的せまい 電波無反射室でも大口径アンテナを精度良く測定できる 方法であ ,0. 特に,わが国の場合,都市近郊に理想的な 野外試験場を確保するのが容易でないため, NFMは, 大きな効果を発揮すると考えられる. NFMの中でも平 面近傍界測定法は,特に衛星搭載アンテナ等大口径アン *1 通信技術部通信装置研究室 時鹿島支所管制課 時宇宙開発事業団 117 テナの測定に適した方法である.当所では現在,衛星間 データ中継実験用 S パンドミッション機器の開発を進め ているが,乙とで用いられるフェーズドアレーアンテナ の試験・解析に平面 NFM システムは特に適している. とのため,システム開発は,とのアンテナの測定を第 一目標としながら,さらに応用範囲を広げるために,次 の事柄を基本として行った. (1 )アンテナは,小型アンテナから大口径アンテナ (3.5m程度)まで広範囲のアンテナが測定できるよう にする. (2 )使用周波数帯は 300MHz 以上 60GHz までとす

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Vol.34 No.172 通信総合研究所季報 September 1988 pp.117-129

研究

アンテナの近傍界測定システムの開発とその応用

& 平面近傍界測定システムの構成

伊藤猛男*',手代木扶*',掘 義明ペ小室英雄*I,中僚 渉*I

大 久保 茂*I,川期成一郎門田中正人制

(昭和63年3月30日受理)

DEVELOP島IBNTAND APPLICATIONS OF NEAR-FIELD

ANTENNA MEASUREMENT SYSTEM

3. CRL'S PLANAR NEAR-FIELD ANTENNA

MEASUREMENT SYSTEM

By

Takeo ITO, Tasuku TESHIROGI, Yoshiaki HORI, Hideo KOMURO,

Wataru CHUJO, Shigeru OKUBO, Seiichirou KA WASE,

and Masato TANAKA

Much attention has been paid to near.field measurement because it enables performance evalu-

ation of large classes of antennas through measurements at greatly reduced distances. This means

that a radio anechoic chamber can be used even for measurements of large aperture antennas,

such as satellite antennas. Thus, we can avoid ground reflections and the effects of meteorology

and other radio links which affect exact antenna measurement in a conventional outdoor far-field

test range, enabling us to perform accurate antenna measurements.

The Communications Research Laboratory recently completed development, begun in 1984, of a

planar near-field system with a 4 m×4 m scan area. The scanner is of a tower-type, and the meas-

ured flatness of the scanning plane over a 4 m x 4 m square is less than 0. 12 mm.

This paper describes the configuration and performance of the developed near-field measurement

system.

1. はじめに

アンテナ近傍界測定法ui(NFM)は,比較的せまい

電波無反射室でも大口径アンテナを精度良く測定できる

方法であ,0.特に,わが国の場合,都市近郊に理想的な

野外試験場を確保するのが容易でないため, NFMは,

大きな効果を発揮すると考えられる.NFMの中でも平

面近傍界測定法は,特に衛星搭載アンテナ等大口径アン

*1 通信技術部通信装置研究室

時鹿島支所管制課

時宇宙開発事業団

117

テナの測定に適した方法である.当所では現在,衛星間

データ中継実験用Sパンドミッション機器の開発を進め

ているが,乙とで用いられるフェーズドアレーアンテナ

の試験・解析に平面NFMシステムは特に適している.

とのため,システム開発は,とのアンテナの測定を第

一目標としながら,さらに応用範囲を広げるために,次

の事柄を基本として行った.

(1)アンテナは,小型アンテナから大口径アンテナ

(3.5m程度)まで広範囲のアンテナが測定できるよう

にする.

(2)使用周波数帯は 300MHz以上60GHzまでとす

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118

る.

(3) NFMの技術基準の確立に寄与する.

(4) システムは,アンテナ測定だけでなく,ホログラ

フィ,散乱, EMC,無線機器の試験など多様な電波の

実験研究に利用できるようにする.

(5)施設開発自体が研究としての価値を持つようにす

ると共に,さらに本施設を基に新しい研究ができるよう

にする.

(6)長期にわたって使用でき,又使いやすい設備にす

る.

以上の基本的な考え方を踏まえて開発を行った本シス

テムは, XYスキャナの走査範囲が 4m×4mあり,

平面近傍界測定システムとしては現時点では園内におい

て最大のものである.

乙ζでは,この測定システムについて紹介し,特に,

測定システムで開発要素の高いスキャナについては,詳

しく,検討の経過も含めて紹介する(21.

2. 施設の概要

本システムは,当所敷地の最南端にある約 !Om四方

の専用実験庁舎内に設置されている.この庁舎は,第1

測定室

通信総合研究所季報

図IC示すようにA, B両室からなるT字形の電波無反射

室ととれの両隅にある測定室,空調機室から構成されて

いる.

電波無反射室のうちA室は, x,yスキャナ及びζの

装置を駆動するための NC装置(プロープ駆動制御装

置の一部)が設置された近傍界測定専用室である.B室

は,プロープ等の小口径アンテナの遠方界測定を行う ζ

とを目的とした室であるが,大口径アンテナの搬入路と

しても使われる. このため, A室と反対側の壁には幅

3m,高さ 3.5mの大扉がある.さらに,アンテナ移動

用にレールが床に敷かれ,台車も用意されている.

測定室lとは,システム制御及び近傍界測定データから

遠方界データへの変換等を行うための計算機(以下「シ

ステム計算機」という),受信機, プロープ駆動制御装

置のインタフェース部,データ記憶装置,ポジショナコ

ントローラ等が置かれ,ととで全システムの制御と監視

を行っている.また,乙の測定室には,電波無反射室内

に出入りできるドアとB室を監視するためのガラス窓

(60×120センチ)がある.測定室と屋外との出入口は,

二重のドアで屋外から,直接ほζ り等が入らないように

してあり,測定室の南側には,光取りのための窓があ

空調級室

L.>'、\」 1 大扉パ\ : \、ト’ノ、、 a

' --”-、\;第 1図 アンテナ測定実験庁舎平面図

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Vol. 34 No.172 September 1988 119

第2図電波無反射室垂直断而関

る.乙の他,実験庁舎には,空調機室があり,電波無反

射室の温度制御を行うための空冷型空調機(能力は,冷

房時 22000Kcal/h,暖房時 29700Kcal/hである.)が

一台設置されている.空調は,空調機室とA室聞の壁の

ダクトを通して行い,天井の高いA室では混度分布を一

様にするため,室内の両壁IC6機のサーキュレータを取

り付けて行っている.換気は, B室の大扉側の壁iζ取り

付けた2個の換気扇で行っている.

3. 電波無反射室

電波無反射室は,第 1図及び第2図で示すように A

(奥 5.9m,幅 10.3m,高 6.0m), B (奥 4.5m,

幅 4.lm,高 4.5m)室の二つの部屋からなる.図中,

三角形で表されているのは電波吸収材であり,電波無反

射室の電気的性能は,乙の電波吸収材の特性によってほ

とんど決定される.

電波吸収材は,広い周波数帯域を持つものではウレタ

ンにカーボンを含浸したタイプと発砲スチロールにカー

ボンを含浸させたタイプの二つに分けられるが,当所で

は,コスト,もろさ,重さなどの点からウレタンタイプ

のものを使用した この電波吸収材の形と寸法を第3図

に示す.乙のピラミッド状形をした電波吸収材は,一個

の底の大きさ(24インチ×24インチ)はすべて詞じであ

るが,高さは使用する最低周波数により決まる.乙乙で

I 8イシチヲイプ 24インチヲイプ

〈単位インチ〉

第3図使用した電波吸収材

は,高さの違った2種類のものを使用した.高い(24イ

ンチ)電波吸収材は, 300MHzで 30dBの反射減衰量

が得られ,もう一方(18インチ)は約 25dBの反射減

衰量が得られる. 乙れらの使い分けは NFM測定で一

番強く電波が照射される供試アンテナに対向する壁面及

びタワー部に24インチのものを使用し,その他には18イ

ンチものを使用した.

電波無反射室は,一般的に,部屋の内側全体lζ電波吸

収材を取り付ける.しかし,当所ではコストを下げるた

め, A室においては第1図で示すように,天井から見て

「ハ」の字形をした床から天井まで届く衝立を立て,そ

とに電波吸収材を取り付けた.また, A室と測定室の閣

のドアの反射を防ぐためドアの前には,とれと同じ程度

の大きさの電波吸収材を取り付けた移動できる衝立を置

いた.天井は, 「ハJの字形をした衝立の後ろを除くほ

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120 通信総合研究所季報

・・ν

w”FL

V

A

口〆

lllL

-仲

-制-

b

ロ’hr ンコナヨシジポ

IF 信号

基単信号

受信機へ〈近傍界パヲーン〉

第4図測定システムの構成

ぽ全面iと吸収材を取り付け,床は必要に応じて吸収材を

並べて使用している.

B室の壁,天井は,吸収材を全面取り付け,大扉の部

分については,アンテナ又は機器の出し入れのため扉の

内側に,天井から吸収材付きの板が釣り下げている.と

の板は, 10個iζ分割ができ,大扉から出し入れするアン

テナ等の大きさに応じて,吸収材をつけたままそれぞれ

取り外しができるようになっている.また, B室と測定

室の聞の監視窓及び天井の屋根裏点検口には,マジック

テープをつけて吸収材が取り外せるような構造にしてあ

る.床についてはA室と同じく必要に応じて吸収材を並

べて使用する.

4. 測定系の構成

測定系の構成は,第4図lζ示し,装置名については第

1表IC示す.とれは大きく分けると次のようになる.

oXYスキャナ及ひ、プローブ駆動制御装置

o受信機

0システム計算機及び周辺装置

。被測定アンテナマウント等

o信号発生器

第 1表 システムの主要諸元

1. スキャナの形式 タワー型2. 走査方式 平面(X-Y)走査3. 有効走査範閉 4m×4m

4. 走査平面皮誤差 0.12 mm (p--p)

仕様値(0.3mm) 5. XY軸の送り精度 ±0. 065 mm (p--p)

仕様値(±0.lmm)6. 走査速皮 lOcm/secまでの任意の速度

を指定可能7. 受信機 S/A 1771

振幅ディスプレイ SIA 1883A 位相ディスプレイ SIA 1823A

8. システム制御計算機 HP 9000-320 9. データ記録装置 TEAC MT-IOOOGP2

IO. アンテナポジショナー S/A 53150A

11. 信号発生器 HP 8660C

ウイノレトロン 6753A

(2-26. 5 GHz) 12. 使用可能周波数 300 MHz-60 GHz 13. 電波吸収材 ランテック宇土ERP24 (60 cm)

EHPIS (45 cm) 14. /lfil皮制御 設定温度(20℃から外気温

-5。'C)±I。'C)

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ととによりアジ‘マスとエレベーションを任意に設定でき

る.また,乙のコントローラは,計算機でプログラム制

御するととも可能である.一方,台車はポジショナーを

戦せ,スキャナと直角方向にA室からB室まで延びたレ

ーノレ上を手動で移動できるもので,台車の四隅にはアジ

ャスター(ストッパ兼用)が付けてあり台車の水平調整

もできるようになっている.垂直荷重は約1トンであ

る.

信号発生器は, 3GHzまでのシンセサイザースイーパ

と40GHzまでのユニット交換方式のスイーパがある.

信号発生器の条件としては,周波数が安定で,出力が大

きいζとである.周波数の安定度は,位相誤差を少なく

でき,大きい出力は,受信機のダイナミックレンジを広

く利用することができると共IC:,受信信号の SINを良

くする乙とができる.

次IC:,信号の流れと動作について述べる.

信号発生器からの単一周波数の信号は,方向性結合器

で 20dBの減衰信号とスルー(減衰の殆どない信号)

の信号の二つに分配される.20dBの減衰信号は受信機

の基準信号として受信機の一つのチャンネルlζ入り,ス

Jレーの信号は被測定アンテナに入る.被測定アンテナに

入力された信号は,アンテナ関口面からプローフーのスキ

ャン面に放射され,スキャン面では,プローブが第5図

iζ示すような走査を行い,予め設定された点での電界

(文は磁界)を測定する.この信号は周波数が高いため

プローフ’の後ろに付けたハーモニックミキサで,すぐに

45MHzの IF周波数へと変換される. この IF信号

は, 2チャンネJレ受信機の測定信号入力チャンネJレに同

軸ケーブJレで入る.受信機の中では,乙の信号と基準信

号の比をとり,位相データと安定な振幅データを作って

いる.

プローブの位置検出には,スキャナiζ取り付けられた

マグネスケール(ソニーマグネスケール K.KMSS-

101)を用いている.乙のデータを基i乙プロープ駆動制

1988

XYスキャナは,次の 5.で述べるが経済性iとすぐれ

且つ走査面積対スキャナ占有面積比の大きいタワー形式

のものとした.また,とれを駆動させるプロープ駆動制

御装置は,数値制御装置(NC装置)とインタフェース

部から成り, NC装置は,汎用の FANAC3MCであ

る.インタフェース部は, NC装置とシステム計算機を

接続させるためのもので, 16ビットの CPUIとより,イ

ンターフェース制御を行っている.

受信機は, NFMでは,位相測定が必要なため, 2チ

ャンネル方式でチャンネル聞の比がとれるタイプのもの

を使用している.乙の受信機では振幅測定においてもチ

ャンネル聞の比がとれるために,信号源、のレベル変動を

キャンセルでき振幅の安定した測定もできる.また,ダ

イナミックレンジは,アンテナ関口の外側まで測定する

ために 60dB(単一チャンネルで使用の場合は 80dB)

と広い.リニアリティの校正データを第2表iζ示す.測

定分解能は,位相が ±0.1°,振幅は, ±0.1 dBであ

る.

システム計算機は,システム制御及び近傍界測定デー

タから遠方界データへの変換等を行っているが,測定中

はリアルタイム制御のため,システム制御だけに占有さ

れる.このため,データ処理は通常,測定後行ってい

る.また,データの保存・データの処理結果表示などの

ための周辺装置はすべて GPIBによって動作する.

周辺装置は,磁気テープ装置,ハードディスク装置,

3.5インチフロッピーディスク装置等のデータ記憶装置

の他,プリンター,プロッターなどのデータ出力表示装

置がある.磁気テープ装置は10インチの 1600BPIの磁

気テープまで入出力ができるものである.

アンテナマウント関係では,被測定アンテナ面をスキ

ャン面と平行に設定するためのアンテナポジショナー

(以下「ポジショナー」という.)と, 乙の閣の距離を

変えるための台車がある.このうちポジショナーは,

Az/El形式で,測定室のコントローラに直接入力する

September No.172 Vol. 34

L1x

-ごヨ」き二一一一一ーマ仇, y,)終点

一一ーーーー」

y 受信機のリニアリティ校正データ第2表

\ 測定点

lLr-

VJ

バU

受信機の読み(dB)

0

-10 -20

-30

-40

-50

-60 -70 -80

0.0

- 9.8

-19.7

-29. 7

-39.6

49. 6

-59.6

-69.5

-79. 5

カ信機入(dB〕

;<SI. .:><.

~ •• y,)始点

x

プロープ走査商座標第5図

(O, 0〕原点

*1. 5GHz において

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122

御装置ではトリガ信号を発生させ,とれをシステム計算

機と受信機に入力し,受信機出力の読込みを行ってい

る.

5. スキャナ

5. 1 スキャナの方式検討

平面走査方式の近傍界測定法実用化のためには,走査

精度の高い大型スキャナを低コストで実現する乙とが特

に重要である.通常,平面スキャナとして枠形やタワー

形のものがよく知られているが,スキャナが大型化した

場合には従来,プロープの走査精度に問題があるとして

余りタワー形は顧みられなかった.しかし,タワー形ス

キャナは,主にコストの面から魅力的であるため,とこ

では,走査精度向上の可能性も含め,改めて両者につい

J ’¥J -Ji ), y-1 -ム

庁- 7” 1ioO

上1年

(a)枠形

通信総合研究所季報

て比較検討した(3).

第6図(乱), (b)には,それぞれ枠形,及びタワー形スキ

ャナの構造を示す.枠形スキャナはX方向に移動するキ

ャリッジを上下枠により 2点で支持するのに対し,タワ

ー形は片持ち支持である.想定しているスキャナは走査

範囲 4m×4m,プローブ位置誤差(.dx,L1y, L1z) 0. 1

mm以下を目標lとしている.

第3表iζ両形式のスキャナの比較を示す.枠形は部品

点数や設計・組立工数が多く,構造もタワー形iζ比べ複

雑となるほか,スキャナが大型化した場合,キャリッジ

のX方向移動を上下両側で同期駆動する必要があるなど

コスト高の原因が増える.また,上枠のたわみを抑える

ため剛性の強い材料を用いて枠構造を大きくしなければ

ならないことと,枠面積に対する有効走査面積が比較的

。ONゆ

-P

J 4

HT ’A

A

wa ,4,

J H

。。泊町

第6図平面スキャナ

(b) タワー形

第3表平面スキャナの方式比較

形 タワ 形

構 造 Ix納ガイド部が上下lζ分れるため構成が複雑

占有空間大(体積比タワー形の45%増)

重量大(タワー形の 40%増)

X軸ガイド部がベッドiζ集約されるためシンプJレ

走査商能率大

部品数|多いのJ均九舛) |少ない

工作・組立|上下のXガイド部の調整が複雑 |構成がシンプルであるため精度が出しやすい。

l上枠のたわみが問題 I

スキャン精度|キャリッジは上下両側軸受け支持で両側同期駆動lとすれ|片持支持なのでY上部になる程剛性が弱い。タワー胞の

| ばX方向のたわみは理論上タワー形の 1/10 I 寸法を増す必要がある。

コ ス トIx軸上部ガイド部,駆動系の部品が増し,工程も増加 |構成部品点数が少なし設計工数・組立工数も少ない。

(タワー形IC比べ設計工数 20%増,加工・組立工数|コストも安い。

40%増)

コスト高である。

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Vol. 34 No.172 September 1988

狭いという問題がある. ζれに対してタワー形は構造の

シンプJレさによってコスト面でははるかに有利である.

唯一の問題は片持ち支持であるためY軸上部では剛性が

弱くなり,とれによってプロープ位置精度が劣化する心

配がある.特に,第6図(b)で示すように,スキャナに

は,プロープから受信機までの信号ケープルを保持する

ためのケープルガイドアーム(以下「CGA」という)

が必要となり,とれに伴って以下に述べるようなタワー

への荷重が問題となる同.

5.2 CGAのタワーへの荷重

CGAは,プロープの移動でケープルの変形から生じ

る信号の位相変化を生じさせないようにケーブルを保持

するためのものである.

第7図は従来の CGAにおいて,プロープに加わる負

荷荷重を説明したものである. CGAの構成としては,

第7図(叫に示すように支点0とプロープの聞にアーム

A, B及び間接SからなるアームA, Bは共iζ重さw.関節Sは重さ Oであるとする.アームA, Bの重さは,

各アームの両端lζW/2ずつ集中分布していると考える

ととができる.従ってPK加わる荷重を求めるにはAと

Bのジョイント部(関節S)にWの荷重が,また PIC

W/2の荷重が,それぞれ鉛直方向に加わり, A, B は

A (b)

s

Fa

123

重さを持たないアームと考えて計算できる.カのベクト

Jレ図を第7図(b),(c)に示す. と乙で P点iζFb, -Fb

が,負荷荷重として加わる.第8図は, P点、に及ぼす

CGAの負荷荷重を歩査面内におけるカの分布で表した

もので,四角い枠は,プロープの走査範囲を示してい

る.第8図(a)は,プロープが支点、0から一番遠い点、にお

いてアームの長さ(A+B=6.6m)が最小ときの CGA

のプローブ1C働くカの分布であり,第8図(紛は実際のア

ームの長さに近い(A+B=8m〕 ときの力の分布であ

る.図(乱),(ゅのそれぞれ上下の図は,支点を上下iζ変え

たものである.これらの図から, CGAのプロープに働

く力は,プロープの位置によって大きさと方向が大きく

異なっているととがわかる.このため,タワー上部の関1]

性が弱いタワー形スキャナでは,乙の影響を特に大きく

受けることが予想され,乙れに対する検討と対策が必要

である.

タワー形スキャナは,第6図(b)で示すように片持ち支

持であるため,タワーの部分を第9図のような単純化し

たモデルで考えるととができる.固定端0は, X軸で支

持され, 0からタワーに沿ってLの位置にMの力が作用

したとき, P位置でのタワーのたわみを考える.

P位置でのたわみは,次式で求められる.

(a)

w/2

(c) p

一Fb

第7図 ケープルガイドアームのプロープへの負荷荷重

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通信総合研究所季報

B

A

目寸

B

A

124

w w

A=B=4m (b)

E 叶

(a)

A

タワーのたわみ第4表

プロープに働くカの走査面内の分布第8図

M (kg) 20 10 5 。

Ix〔cm4〕:タワーの断面二次モーメント

(=5. 39×104)

第4表は,タワーとして最も単純なタワーモデルにつ

いてのたわみの計算例である.モデルは,角柱の中をく

り抜いた厚さ 30mmの鉄材のタワーで, Lが最大の位

置にした場合のMの作用力に対するP点のタワーのたわ

みを表している.

ζの結果, lx=5.39×104 cm4の断面2次モーメント

のタワーでは,高さLの位置に M=20kgの力が作用

すると,タワーのたわみはゐ=0.05mmとなり,プロ

ープ位置精度 0.1mmの 50%を占める.とれは,単

純構造の一例であったが,実際のタワーは,軽量化のた

めステー等を用いたトラス構造lとしている. ζのため,

プロープ位置精度 O.lmmを得るためには次の選択を

する必要がある.

高さLを一定とし, oxを小さくするには,

(1) M (タワーへの水平荷重)を小さくする.

(2) Ix (タワーの断面二次モーメント)の大きなタワ

ーを作る.

等の方法が考えられるが,(2)のんの大きなタワーを作

るにはタワーが大型化するだけでなく,駆動系へも影響

o. 050 o. 025 o. 013 。ゐ(mm)

・・・・(1)

M 〔kg〕:プロープの作用力

L 〔cm〕:プロープの位置(最大 440)

E〔kg/cm2〕:タワー材料のヤング率

(=2.1×106)

M

タワーのたわみ

l I l l i -

lll l

l l

0 MD - x-3EJ;

第9図

L

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Vol. 34 No.172 September 19邸 ロ5

ヨモ丹ニ

W1

p

W1

万平三

(a) (b.)

p 元三重主三 1iff

(c)

第10図プロープlζ負荷を与えない CGAの構成

するので,コスト増加となる.とのためタワーのたわみ

を無くすには,(1)の方法が最も有効である.

5.3 タワーに荷重を与えない CGA

第10図は,プロープに負荷荷重を与えない CGAの構

成原理を示している.

P点へのアームBの集中分布荷重 W/2は,アームD

とカウンターウエイト W2によって打ち消し,また,支

点Oよりプロープ側のWを含めた全荷重は,アームCと

カウンターウエイト Wlによって打ち消している. ζ乙

で第 10図(a)は,天井に支点を固定した場合,第 10図(b)

は,床IC::支点を固定した場合である.第10図(c)は,実用

的な案を示しているが,取扱上の面から支点を床lζ固定

した方式にしている..a上の乙とから,カウンターウエ

イト WlとW2によりプロープの CGAによる負荷荷

重は,打ち消される乙とがわかる.

第11図は, 1つのカウンターウエイトを用いた場合を

示すが,二重カウンターウエイト方式から W2を除いた

ものである.このため, P点へのアームBの集中分布荷

p

W1

王寺三

第11図一つのカウンターウエイトを用いたCGAの構成

重 W/2は,カウンターウエイトによって打ち消されず

残る.しかし,乙の荷重は,常に一定な垂直荷重である

ため,乙の荷重が,タワーの重心位置にかかるならば,

タワーの水平方向のたわみには影響を与えないことにな

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126

る.

一つのカウンターウエイトを用いた場合の二重カウン

ターウエイトを用いた場合に対する利点、は, W2の関係

する部分のスペースが,要らなくなり空間占有率を小さ

くでき,また, Wlの重さを W/2のバランス分だけ軽

くできるととである.

上記のような検討により,タワー形スキャナは,一つ

のカウンターウエイトでもプロープの位置精度が確保で

き,また,構造的にも簡単になるなどの検討結果を得

た.乙のため,当所では,一つのカウンターウエイトを

用いた方式のスキャナの開発を行った.

5.4 開発したスキャナ

5.4.1 構成

以上の検討を基iζ設計・作成したスキャナの正面図と

側面図を第12図に示す.

スキャナのX軸は,正面図に示すように水平なベット

と平行しており,その原点は走査範囲の左下角にある.

また,側面図からわかるように,ベッドには, 2本のレ

ーJレとその中間のボールネジ,さらにベット前面iζマグ

ネスケールが敷設されている.

レールは,タワーの底の部分に取り付けたリニアベア

リングガイドと呼ばれるガイドに両側から挟み込まれる

形で組み合わされ, タワーをX軸上で数十 μmの精度

で移動させるものである.タワーのX紬駆動にはボール

ネジを使用している.また,マグネスケールは, X軸の

プロープ位置を測定するためのもので, X軸のベット前

面iζ約 4mの長さをもっ,磁気で目盛った直線スケー

ルである.とのスケールは,タワー底部前面~c取り付け

( a )正面図

且且

通信総合研究所季報

られた磁気検出ヘッドでスケールの磁気面をスライドし

プローブ位置を lμmの精度で読み取る. スキャナの

Y軸は,正面図に示すようにタワーの高さ方向であり,

タワーの下部はY軸の原点である.タワーには, X軸と

同様2本のレールとその中間のボールネジ,さらに前面

lとY軸用の7 グネスケールが敷設されている.機能的lと

はX軸と同じである.異なった点は, X軸で移動するタ

ワーのかわりにプロープ取り付け装置がY軸上を移動す

るととである.

プロープ取り付け装置は,プロープを前後2箇所で固

定する構造で,プロープの偏波面を変えるための手動回

転機構(90度ラッチ構造)が付いている.

ケーブルガイドアームの構成は, 2本のアームと 3個

の回転軸,さらにカウンターウエイトから成り, 3個の

回転軸ICは受信信号のケーフ勺レのねじれによる位相・振

幅誤差をなくすためのロータリジョイントをそれぞれ使

用している.ロータリージョイント聞を結ぶ同軸ケーブ

ルは2本のアームに沿って取り付けてある.また,カウ

ンターウエイトは,側面図でわかるようにケーブルガイ

ドアームと支柱の横軸を通して連結されている.

これらのスキャナの構成要素の他iζ,タワーによる反

射を抑圧するため,タワーの前面に電波吸収材を取り付

けるための取付板がある.

第13図は,電波吸収材取付板を付けない状態のスキャ

ナの写真である.写真の下側lζ通丘感をもって見えるの

がベットであり,その両側に長く,黒く見えるのがX軸

のレールで,ベットのまん中に棒のように見えるのはX

軸駆動用のボールネジである. さらに,手前のレール

ジ今小レポ軸v-

-hv J

LV

a

・~Y

ケ司

A,aT

、ゲマ制V

E

( b )側面図

ケーブルガイドアーム

第12図開発したスキャナ

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Vol. 34 No.172 September 1988 127

%il3図吸収材取り付けがjのスキャナ

(スキャナの前面側)の前面iζ沿って黒く細長い箱のよ

うK見えるのがX輸のマクネスケーノレである.また,Y

軸についても,タワーの手前側の高さ方向に同じ配列で

レール,ボーノレネジ,マグネスケーノレがあり,タワーの

まん中より少し下には, CGAが取り付けられたプロー

プ取り付け装置がある. ζのほか,写真左側中程lζ見え

る白い装置は NC装置であり,写真右側の壁は電波吸

収材である.

第14図は,電波吸収材を取り付けた状態のスキャナの

写真である.中央Iζ小さい箱のように見えるのがプロー

ブであり,左側にある腕のような物が CGAであるー

5.4.2 性能

スキャナの性能を第5表IC示す スキャナの走査範囲

は,第12図(a)正面図中の二重枠の正方形ICよって表して

いる.内側の枠は,有効走査範囲を示し 4m×4mあり,

外側の枠は有効走査範囲において定速にするための加速

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128 通信総合研究所季報

•.• ~』一-~ =-

第14図 版収材取り付け後のスキャナ

第 5表 スキャナの性能

1. 寸法 高 さ 傭 奥(m) 5. 6 7. 2 2. 3

2. 走査方式 X-Y平面走査3. 有効走査飽凶 4mX4m 4. 最大移動量 X軌 4.10

(m) y紬 4.13

5. 早送り速度 X車h10 (cm/s〕 y;qh 20

6. 走査速度 X取h0~10 (cm/s) Y軸 0~10

7. 平面皮 0.12 (P-P) (mm〕 (有効走査飽凶内)

8. 送り精度 X車h ±0. 065 (mm)土0.044

9. 位E検出器 マグネスケーノレ事'i!lt(mm) 0. 001 検出取h数 2紬

10. ガイド方式 リニアベアリングガイド

ll. 駆動方式 ボーノレネジ駆動+DCモータ

12. プロープ回転装置 90度設定精度(皮〕 90±0. 5以下

*精度は,周回温皮が20土2。Cで福l度変化が± 1。C/日の場合である。

用の最大走査範囲を示し 4.1m×4.13 m ある.

スキャナの性能のうちで特IC近傍界測定上重要なもの

は,第4表の中にある有効走査範囲内での平面度と送り

精度である.平面度とは, 走査面IC対して垂直な方向の

走査面の凸凹をいい, 送り精度は, X軸あるいはn出を

プローブが移動するとき,その軸上でのプロープの位置

設定精度をいう .ζれらの測定には,オートコリメータ

とレーザー測長器の光学系の測定器を用いて行った.

平面皮の測定結果は, ~H5図!C示す ζれは,Y紬の

Y - Z函内の真直度をX il~l1運動の ローリング値 で傾け,

X紬のx-z商内の真直測定値各点で平行移動 して求め

たものであり, ZJl41J方向の 最大誤差 (P-P)は 0.12

mmであった また,RMS値で表すと 0.03mmで

ある.

送り精度は, X紬が,Y軸下限で ±0.022mm, Y紬

中央で ±0.024mmであった このY軸上限において

は下限値と紬中央値から直線近似によって ±0.065mm

と推定される .Y軸の送り精度は, X ~!出中央で土0.044

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Vol. 34 No.172 September 19回

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129

思飽 Cmml

布平面平のナヤキス図第

mmが得られた.

走査速度は,受信機系の応答速度等の点からX軸, y

軸共に 1秒間で最大 lOcmの移動速度とした.

6. まとめ

以上, 当初で開発した 4mスキャナを持つ平面近傍

界測定システムについて,開発に先立って行ったスキャ

ナ方式の検討,開発したシステムの構成,機能,性能等

について述べた.

本平面近傍界測定システムは,開発に着手して以来満

4年を経過し,ほぽ完成したといえる.

しかし,アンテナ測定法として確立したというには,

まだ不十分であり,今後とも大きさや周波数あるいは放

射特性の異なる様々なアンテナについて測定実績を積み

重ね,測定法の信頼度を高めていくととが重要である.

同時に円筒面走査等平面走査の弱点である側方や後方の

指向性測定もできるシステムの開発も必要であり,現在

との研究も進めているととろである.

また,アンテナ測定だけではなく,アンテナの診断や

解析,更にはホログラフィや物体の電波散乱等本平面近

傍界測定システムの応用についても研究すべき課題カ事

く残されている.

謝 辞

本システムの開発iとど協力いただいた所内の関係各位

及びスキャナの開発に当たられた新日本工機 K.Kの関

係各位iζ感謝いたします.

参考文献

(1)手代木扶;“アンテナ近傍界測定”,信学誌, 62巻12

号,昭和弘年10月.

(2)手代木,掘,大久保, 伊藤,小室;“アンテナ近傍

界システムの開発”,第70回研究発表会, 昭和61:年6

月4日.

(3)手代木,小室, 中傑,伊藤;“平面近傍界測定用大

形スキャナの方式比較”, 昭和60年度信学金大, 昭和

60年3月.

(4)伊藤,川瀬,掘,手代木;“アンテナの平面近傍界

測定用スキャナの構成法”,信学会, A.P85-7, 1985.

6.13.

1111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111 I I