シールドペアケーブルのクロストーク解析 · computer simulation technology...
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シールドペアケーブルのクロストーク解析
CST CABLE STUDIOによるシールドツイストペアケーブル(STPケーブル)のモデリングとシミュレーショ
ンをご紹介します。ソリッドシールドを基準としてブレードケーブルの品質を計測し、シールド無し、弱い
シールド、高品質シールドの三種類のツイストペアケーブルについてそれぞれクロストークを計算します。
さらに、測定結果との比較検証が可能となるようなシミュレーションのリアリスティックなセットアップに
ついて説明します。
ケーブルの遮蔽効果
シールドケーブルは近接ワイヤ間のクロストークを抑制するために産業界で広く使用されています。同軸ケ
ーブルはその代表例で、ワイヤの外側を被覆材質で覆った同軸構造をしています。
被覆材質として厚みのある導体ソリッドを使用すると理想的な遮蔽が得られます。周波数が高くなるにつれ
電界の浸透はシールドの厚さの半分以下にまで浅くなります。さらに周波数を高くすると、電流はほぼ導体
表面を流れ(表皮効果)、被覆の内部導体と外部導体の結合は完全に無くなります。したがって導体ソリッド
被覆では周波数が高いほど被覆性能が増大します。
現状ではコスト面と技術面に課題があり、ソリッド被覆は限定的な利用にとどまっています。その代替とし
て、製造が比較的容易でフレキシブルで軽いブレードシールドが多用されています。とはいえ両者の性能の
差は歴然としています。ブレードシールドには小さい孔があり、そこから電界が浸透するため、周波数が高
くなるにつれて遮蔽効率が低下します。コストと遮蔽効率の均衡をはかることが重要です。
シールドケーブルの遮蔽効果は、伝達インピーダンスで測ることができます。伝達インピーダンスはシール
ドの一方の面から他方の面へと伝搬する電気信号の、周波数依存の伝搬の仕方を表します。ブレードの密度
が高いほど、またはブレードシートの枚数が多いほど、遮蔽効果が増大します。
図 1: 管状ブレードの伝達インピーダンス
シート数を変えてシミュレーションを行った結果のブレードの伝達インピーダンスを図 1 に示します。図の
上からブレード 1枚、2枚、3枚の結果カーブです。なお、この図のカーブとは対照的に、ソリッドシールド
の伝達インピーダンスは周波数と反比例し、右肩下がりのプロットとなります。
上図では、ブレードを 3枚重ねた場合が最良の遮蔽性を示しています。その特性は 50kHzまではソリッドシ
ールドとほぼ同等、50kHz で最小となった後は周波数が高くなるにつれ上昇する傾向を示します。つまり
50kHz がこのシールドの限界周波数です:50kHz 以下では完全な遮蔽効果を示し、以上では品質が劣化しま
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す。シールド 1枚と 2枚の結果はそれよりも劣り、低い周波数でも伝達インピーダンスの値は高いままです。
伝達インピーダンスが最小となるのは、ここに示す周波数帯よりもさらに低い周波数か、または最小点が無
い可能性もあります。
次に、同一のケーブル構成に対し 3 種類の異なる遮蔽構造を構成してそれぞれシミュレーションを行い、ク
ロストークにどのような影響を及ぼすのかを観測します。
ケーブル設定とシミュレーションタスク
シミュレーションに使用するケーブル構成を図 2 に示します。4 本のシールドツイストペアを 1 つの被覆で
覆った構造です。ツイストペアは製造が容易で比較的安価、クロストーク特性もそれほど悪くないために広
く用いられています。ただ、非対称な負荷に敏感に反応してクロストーク効果を起こす可能性があり、した
がってシールドが多用されます。
以下では 4 つの S パラメータシミュレーションを行います。1 つめは完全負荷条件でのクロストークシミュ
レーション、2 つめはシールドの無いツイストペアのシミュレーション、後の 2 つはシールドを変えたシミ
ュレーションです。
図 2: STP(シールドツイストペア)ケーブルの断面
完全負荷条件
均質なツイストペアに対し、対称な負荷をかけるミュレーションです。シミュレーションの設定を図 3 に示
します。
図 3: 完全対称のケーブルシミュレーションのセットアップ
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4 本のツイストペアの被覆は両側を 0 電位に接地し、入出力口にそれぞれポートを定義します。シミュレー
ションの結果を図 4に示します。
図 4: 完全対称のシミュレーション結果。反射と伝達以外は認められず、
クロストークの値は-200dB以下。
予想通り、入力端に反射が観測されます。出力端への伝達は良好で、図ではクロストークは認められません。
なお、実際の計算結果ではクロストークは-200dB未満でしたが、上図では見易さを考慮してこの値としてい
ます。
なお、上記の結果となった理由は実際にクロストークが存在しないためであって、シミュレーション手法が
不十分なためではありません。ツイストペアは対称に配置され、単位長あたりのツイスト数は等しく、まっ
たく等価な負荷を同等に印加しています。
対照的に、測定は常にばらつきとクロストークを示します。理想的なシミュレーションの結果と比較すると
食い違いが生じるので不確実性はありますが、測定では「完全な」セットアップは無理だがシミュレーショ
ンでは完全なセットアップが可能だ、という点は理解する必要があるでしょう。シミュレーションによって
測定と同じ結果を得るには、測定のばらつきの要因をすべて考慮に入れなくてはなりませんが、その手法は
実際にはほとんど知られておらず、実行は困難です。
この問題は、現実性を追求するよりも傾向を掴むことによって克服する必要があります。ここでは非対称な
終端によるクロストークを調べ、さらに、異なる遮蔽によりどのようにクロストークが改善されるかを観測
します。
シールドの無いツイストペア
シールドの無いツイストペアに対し、非対称な終端を設定してクロストークを調べます。図 5はケーブル断
面、図 6はスケマティック、図 7はシミュレーションの結果です。終端は 50 Ohmのレジスタを実装します
が、レジスタンスを 45 Ohmや 55 Ohmとしおよそ 10%の製造のばらつきを織り込んでいます。
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図 5: シールドの無いツイストペアの断面
図 6: 非対称な負荷を設定したシミュレーションセットアップ
図 7: シールドの無いツイストペア、非対称負荷によるクロストーク。
隣接線への伝達係数は、-60dB~-15dB(1GHz以下)。
シールドツイストペア:低遮蔽効果
シールドのあるツイストペアに話を戻し、次に遮蔽の質を変えてシミュレーションを行います。ここでも伝
達インピーダンスが、遮蔽やクロストークの効果を測る目安となります。伝達インピーダンスの値が高いほ
ど、表面電流により生じる被覆内の誘導電圧が高くなり、したがってクロストークの値が大きくなり遮蔽効
果が低下します。
伝達インピーダンスを指定したケーブル設定によるシミュレーション結果を図 8 に示します。それぞれ
Rt=0.09 Ohm、Lt=1e-9 H、Ct=1e-14Fに設定しています。
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図 8: 低遮蔽効果の(高伝達インピーダンスの)シミュレーション結果。
隣接線への伝達係数は、-200dB~-90dB(1GHz以下)。
シールドツイストペア:高遮蔽効果
伝達インピーダンスを低くすると、誘導電圧が低下し、遮蔽効果は高まります。図 9は、Rt=0.001 Ohm、Lt=1e-10
H、Ct=1e-15Fと設定したシミュレーションの結果を示します。予想の通り、クロストーク効果は著しく小さ
くなっています。
図 9: 高遮蔽効果の(低伝達インピーダンスの)シミュレーション結果。
隣接線への伝達係数は、-200dB以下~-120dB(1GHz以下)。
まとめ:
CST CABLE STUDIOではさまざまなシールドケーブルのシミュレーションが可能です。伝達インピーダンス
をひとつの目安として遮蔽効果を測ることができ、さらに伝達インピーダンスは伝達レジスタンス(Rt)、伝達
インダクタンス(Lt)、伝達キャパシタンス(Ct)の 3つのパラメータによって決定されます。測定とシミュレー
ションは、両者のセットアップを全く同じにしない限り、結果を直接比較することはできません。製造のば
らつきなどの寄生効果も明らかになっていないものがあるため、シミュレーションでは測定結果の再現に努
めるよりも傾向を掴むようにすることをおすすめします。本事例では上記の趣旨に沿った考察の進め方を説
明し、シミュレーションを利用してさまざまなパラメータ間の基本的な関係を理解し最善のソリューション
を導き出す方法を明らかにしています。
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