原子力 表1-4 修 05206 Ⅰ.原子力発電プラントの現況...

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原子力発電プラントにおける 品質保証 2011 一般社団法人 原5701

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原子力発電プラントにおける品質保証

2011

一般社団法人

原5701

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ⓒ 禁無断転載

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ま え が き

一般社団法人 日本電機工業会の原子力品質保証特別委員会は、原

子力発電プラントの品質保証に関する諸課題を把握し、メーカの立場

から原子力発電プラントの安全性・信頼性を高める取り組みについて

検討・協議し、会員企業はもとより、関係組織・団体に提案や調整等

の活動をしております。

「原子力発電プラントにおける品質保証」パンフレットは、日本電

機工業会の会員企業の方々の原子力発電プラントに対する理解促進を

図るとともに、原子力に係わる事業に新たに参入をお考えの企業や、

他産業の企業で原子力の品質保証に興味をお持ちの方々に参考資料と

してお使い頂けるように纏めたものです。

この「原子力発電プラントにおける品質保証」パンフレットは、

1994年4月に初版を発行後、2001年3月と 2006年3月に改訂版を発

行してきましたが、昨今の原子力発電を取り巻く新しい状況を反映す

るとともに、メーカの立場から JEAG4101に基づく品質保証体系か

ら ISO9001をベースにした品質保証体系へと見直しを行い、3回目

の改訂版として発行したものです。

【このパンフレットの用語について】

・特に区別する必要がある場合を除き、「メーカ」は原子力プラントメーカを指す場合と、原子力プラントメーカとポンプ、弁、計装等専門メーカを合わせて一纏めにして指す場合を区別せずに使っています。

・原子力発電所の事業者に対する表記に関して、法規(規制)との対比が重要である場合は「電気事業者」と表記していますが、それ以外では「事業者」を使っています。

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目 次

I.原子力発電プラントの現況……………………………………3

1.我が国の原子力発電プラント建設の歴史…………………3

2.現在の発電設備状況…………………………………………6

3.設備利用率、運転実績………………………………………7

4.原子力発電プラント建設の法体系…………………………8

5.原子力発電プラントの安全性・信頼性向上活動の流れ ……9

6.新型炉、原子燃料サイクル諸施設の現状…………………10

7.今後の原子力への取り組み…………………………………11

Ⅱ.原子力発電プラントの品質保証………………………………12

1.原子力の品質保証の特徴……………………………………12

2.品質保証規格の変遷…………………………………………14

Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴 ……18

1.品質マネジメントシステム一般要求事項…………………18

2.文書管理・記録の管理………………………………………19

3.品質方針・品質目標・マネジメントレビュー……………22

4.責任、権限及びコミュニケーション………………………24

5.力量、教育・訓練及び認識…………………………………25

6.顧客関連プロセス……………………………………………26

7.設計・開発……………………………………………………27

8.調 達 管 理……………………………………………………29

9.製造及びサービス提供………………………………………30

10.監視機器及び測定機器の管理 ………………………………34

11.内 部 監 査 ……………………………………………………35

12.製品の監視及び測定 …………………………………………36

13.不適合製品の管理 ……………………………………………37

14.是正処置・予防処置 …………………………………………39

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1.我が国の原子力発電プラント建設の歴史

我が国の原子力発電は総発電電力の約 30%を占め、主幹電源としての役割を果たしている。

原子力発電プラントの主流は軽水炉型であり、 米国からの技術導入時代に実用技術の習得

がなされ、その後、導入技術の消化・国産化の時代を経ている。この間、建設・運転経験を

踏まえ、自主技術による軽水炉の安全性・信頼性の一層の向上、稼働率向上、作業員の受け

る被ばく線量低減を目的として、 官民一体となった軽水炉改良標準化計画が実施され、この

成果を反映した改良が行われた。その後も、技術の高度化により安全性・信頼性の向上を図

るとともに、 運転 ・保守技術の向上と相まって計画外停止が少なく設備利用率の高い原子力

発電プラントを目指してきた。

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Ⅰ.原子力発電 プラントの現況

図Ⅰ- 1 - 1:我が国の原子力発電プラント建設の歴史

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5(2011年 2月現在)

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Ⅰ.原子力発電プラントの現況

2.現在の発電設備状況

我が国の 2009年度の総発電電力量(約 9,547億 kWh)に占める原子力の割合は 29.3%、

設備容量は 20.2%であり、石油代替エネルギーの中核としての地位を確立している。特に最

近はエネルギーセキュリティの問題、地球規模での温暖化などの環境問題の有効な解決手段

として原子力の利用が見直されつつある。

2009年度末現在、我が国の原子力発電プラントの大半を占める軽水炉型の内、BWR型は、

30基が運転中、2基が建設中、9基が計画中、中部電力㈱浜岡原子力発電所1号機及び2

号機が 2009年1月に運転終了という状況にある。また、PWR型は 24基が運転中、3基が

計画中という状況にある。これらの原子力発電プラントの立地点は、北海道から九州までほ

ぼ全国にわたっている。

(注) グラフの数値の合計は、四捨五入の   関係で 100%にならない場合がある。

図Ⅰ- 2 - 1:設備容量と発電電力量(2009年度)

出典:独立行政法人 原子力安全基盤機構『原子力施設運転管理年報』(平成 22年版(平成 21年度実績)より作成)

図Ⅰ- 2 - 2: 我が国の原子力発電所の 運転 建設状況(2011年 2月現在)

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Ⅰ.原子力発電プラントの現況

3.設備利用率、運転実績

我が国における運転中の原子力発電プラントの計画外停止頻度は、 ここ数年 0.2~ 0.4回

/炉年程度のレベルに維持されている。これは、諸外国と比較して一桁程度低いレベルにある。

また、設備利用率は、1995年度に 80%を超えて以来、継続して 70~80%台で推移してき

たが、2002年 8月に発生した自主点検記録の問題を受けて、2003~ 2004年度は 50~ 60%

台に落ち込んでいる。また、2007~ 2008年度は、新潟県中越沖地震による発電所の停止、

定期検査停止期間の増加、トラブル等が原因で約 60%に落ち込んだ。

2009年度の運転実績の内訳を図Ⅰ‒ 3 ‒ 2に示す。

図Ⅰ- 3 - 1:設備利用率と計画外停止頻度の推移出典:独立行政法人 原子力安全基盤機構 『原子力施設運転管理年報』

(平成 22年度版(平成 21年度実績)より作成)

定期検査には、地震による発電所停止、改良工事等の停止を含む。

(注) グラフの数値の合計は、四捨五入の関係で 100%   にならない。

出典:独立行政法人 原子力安全基盤機構   『原子力施設運転管理年報』   (平成 22年度版(平成 21年度実績)より作成)

図Ⅰ- 3 - 2:軽水炉の運転実績(2009年度)

年   度 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

設備利用率(%) 76 75.7 77.1 71.4 70 72.7 73.8 74.2 75.4 76.6 80.2 80.8 81.3 84.2 80.1 81.7 80.5 73.4 59.7 68.9 71.9 69.9 60.7 60 65.7

計画外停止頻度(回 /炉年)

0.6 0.4 0.6 0.5 0.4 0.6 0.4 0.5 0.3 0.3 0.2 0.3 0.3 0.2 0.3 0.4 0.2 0.2 0.3 0.5 0.6 0.4 0.2 0.3 0.2

50

60

70

80

90%

設備利用率

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Ⅰ.原子力発電プラントの現況

4.原子力発電プラント建設の法体系

電気事業者が原子力発電所を建設する際は、 原子炉設置許可申請及び電気工作物変更許可

申請を国に提出し、 安全審査を経て許可を受けなければならない。 原子炉の設置許可及び電

気工作物変更許可を受けたあと、 電気事業者は設計と工事の実施方法について国の認可を受

ける必要がある。 認可後は、 工事の工程ごとに実施される各種検査を受検すると共に国の監

督とチェックを受ける。さらに、電気事業者は運転開始に当り、発電所の運転・管理、巡視

点検、放射線管理、 放射性廃棄物の管理等の安全運転上重要な事項や品質保証に関する事項

を記載した保安規定について、 国の認可を受ける必要がある。このように国の厳しい審査

を受けて営業運転を開始した後も定期的(施行規則改正(第 91条)により 13ヶ月または、

18ヶ月以内となっている)に国及び原子力安全基盤機構の検査を受けて安全上の機能が維

持できていることを確認している。また、年4回、国の保安検査を受けて保安規定が遵守さ

れていることを確認している。

さらに、 2003年 10月より電気事業者による自主点検を定期事業者検査として法律上明確

に位置付け、その実施体制について、原子力安全基盤機構が定期安全管理審査により確認し、

国が評定を行っている。なお、溶接検査については、2000年7月より電気事業者の溶接事

業者検査によることとなっており、 その実施状況を原子力安全基盤機構が溶接安全管理審査

により確認し、国が評定を行っている。

このように国が実施する審査、許認可、及び各種検査は「原子炉等規制法(核原料物質、

核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律 )」及び「電気事業法」の二つの法律に基づき、

図Ⅰ‒ 4 ‒ 1に示すように実施されている。

図Ⅰ- 4 - 1:原子力発電プラント建設の法体系

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Ⅰ.原子力発電プラントの現況

5.原子力発電プラントの安全性・信頼性向上活動の流れ

国が実施する安全審査においては、 基本設計及び基本的設計方針に関して十分な審査が行

われ、原子力発電プラントに安全性・信頼性が織り込まれる。

後続の設計段階では、電気事業者とプラントメーカ(ポンプ、弁、計装等専門メーカを含

む)が共同して設備・システムの検討を行うとともに、国の認可を受ける。なお、この過程

で FMEA(故障モード影響解析)や FTA(故障の木解析)等の各種信頼性解析手法を原子

力発電プラントの品質保証を支える技術として適用している。

さらに、製造・据付及び試運転段階では、設備の重要度区分に応じた電気事業者による品

質確認(溶接検査を含む)及び国による使用前検査、溶接安全管理審査等の品質確認が行わ

れ、官民一体となった安全性・信頼性の作り込みが行われる。

建設が完了し、運転の段階では、電気事業者の運転経験がプラントメーカにもフィードバッ

クされる。また、故障・トラブルが発生した場合は、原因究明と再発防止対策及び水平展開

が図られ、定期事業者検査や設備保全、設備改善に反映されて高信頼化が図られる。

なお、電気事業者のこれらの品質保証活動の実施状況は、中立性・公正性を保つために、

国及び原子力安全基盤機構により、溶接安全管理審査、 使用前検査、定期安全管理審査等を

通して確認され、更なる安全性・信頼性の向上が図られている。

図Ⅰ- 5 - 1:信頼性向上活動の流れ

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Ⅰ.原子力発電プラントの現況

6.新型炉、原子燃料サイクル諸施設の現状

エネルギー天然資源の乏しい我が国では、化石燃料に代わる主要な代替エネルギー源とし

て、またエネルギー自給率向上のために、原子力開発は極めて重要な課題となっている。

軽水炉は、 発電用原子炉として世界で最も広く利用され、また我が国においても既に十分

な実績を持った炉型であり、今後とも我が国の原子力発電の主流となる炉型である。

高速増殖炉(FBR)は、ウラン資源の有効利用、我が国のエネルギー供給基盤の強化、国

際社会のエネルギーの確保という観点から、実用化を目指して開発が進められている。

原子燃料をウラン鉱石から、転換、濃縮、再転換、成型加工を経て、燃料集合体にする工

程及び使用済燃料を再処理して得られるプルトニウムとウランを再び原子燃料として利用す

る一連の流れは「原子燃料サイクル」と呼ばれており、このサイクルの確立は原子燃料を有

効に利用し、安定に供給する上で是非とも必要である。

我が国においてもこの「原子燃料サイクル」の早期の実現を目指して、使用済燃料の再処

理施設の建設が進められている。また、FBRは、原型炉「もんじゅ」の運転開始を目指し

て性能試験が進められていると共に、2050年頃の実用化を目標に実用炉・実証炉の開発が

進められている。

原子燃料サイクルを構成している諸施設の現状及び将来計画は図Ⅰ‒ 6 ‒ 1に示すとおりで

ある。

図Ⅰ- 6 - 1:原子燃料サイクル施設の稼働開始時期

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Ⅰ.原子力発電プラントの現況

7.今後の原子力への取り組み

今後の原子力への取り組みに関しては、いうまでもなく、原子力基本法でうたわれている

「原子力の研究、開発及び利用を推進することによって、 将来におけるエネルギー資源を確

保し、 学術の進歩と産業の振興とを図り、 もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに

寄与する」 ことが基本である。

このような基本を守り、時代の要請に応え、 かつ原子力施設が社会に広く容認されるよう、

メーカの立場で軽水炉原子力発電プラントの「高度化」、「長寿命化」、「稼働率向上」、「長サ

イクル運転」、「出力向上」、「廃炉」といった技術的な課題に挑戦すると共に、 原子力施設の

立地から廃止までの全ての段階において、高い安全性及び信頼性を確保し維持するために、

品質保証活動を幅広く展開し確立していく必要がある。

メーカにおける品質保証活動の目的は、ひとことで言えば、「適用される法令、基準、規

格及びお客様の品質要求事項を満足し、かつ安全性と信頼性の高い製品及び役務をお客様に

供給することにより最優先している原子力安全を達成、維持、向上すること」であり、原子

力プラントなどの巨大システムを対象に、この目的をより高いレベルで達成するには、社会

の変化に迅速・柔軟に対応可能な品質マネジメントシステムを確立・強化し、社会的責任を

認識した一貫性のある品質保証活動を通じて、その有効性を継続的に改善していく必要があ

る。

その基盤となる「コンプライアンス重視」と「安全文化の醸成」に関しては、原子力安全

を達成、維持、向上させるために、誠実を旨として法令・基準・規格及び社会規範の遵守を

徹底すると共に、メーカとしての社会的責任を意識して原子力安全を最優先させる文化を醸

成し、説明責任を果たすことへの社会への要請に応え、社会から信頼される存在であり続け

ることが肝要である。

原子力に携わる者の安全及び遵法意識の高揚、 モラルの向上及び安全文化の共有を図り、

更なる原子力安全の確保と維持につなげていくと共に、 地域住民及び国民に原子力に対する

信頼と理解を得るための情報の公開、PA活動(Public Acceptance activtiy)等を継続して

進めていく。

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1.原子力の品質保証の特徴

ISO9000シリーズでいう「Quality Assurance」とは、「品質要求事項が満たされていると

いう信頼感を提供することに焦点を当てた品質マネジメントの一部」。信頼感を与えるため

には「実証」が必要であるとされている。分かり易く言えば「約束したものを提供できる能

力があるという信頼感を、証拠をもって示すことによって与えること。」と定義されている。

また、原子力事業においては、その特徴から、『原子力安全』の達成が強く要求されている。

原子力安全とは「適切な運転状態を確保すること、事故の発生を防止すること、あるいは

事故の影響を緩和することにより、業務に従事するもの、公衆及び環境を、放射線による過

度の危険性から守ること」である。原子力安全の達成のためには、日常の業務における個々

の判断において、その業務の重要性にふさわしい原子力安全の配慮が最優先で払われる必要

があるが、この個々の判断を行う組織や個人における姿勢、ありよう(「安全文化」の概念)

が重要である。

「安全」とは、技術的な意味で原子力施設を運転しても、放射能漏れなどの事故を引起こ

す危険がないことをいう。原子力施設の「安全」は、施設の設備の健全性と、施設の運転管

理をする人間の「安全文化」の徹底によって実現されるものである。そして、このような努

力により「安全」を積み重ね、また、事業者や規制機関が情報公開を行っていくことで、地

元の人々に「安心」を提供することができる。

一方で、原子力発電所における自主点検記録の不正などの問題に対し、2002年に総合エ

ネルギー調査会原子力安全・保安部会の下「検査のあり方に関する検討会」が発足し、品質

保証を安全規制に導入すべきことが提言された。これを受けて、2003年に原子炉等規制法

に基づく省令が改正され、原子力安全のための品質保証要求事項が国の規制として事業者に

課された。

事業者は、この規制に適合する民間規格として制定された「原子力発電所における安全の

ための品質保証規程:JEAC4111」に従って品質マネジメントシステムを構築し、『原子力

安全』の達成を目指している。

原子力事業における品質マネジメントシステムは、基本を国際的な品質保証規格である

ISO9001に置くが、安全文化を基礎として、原子力安全の達成を目的とすること、グレード

分け(製品に要求される安全性、重要性に応じた管理)、検査員の独立性(設計、製造に携わっ

たもの以外のもの、又は部署による厳正な検査)、設計管理における原設計者以外のものに

よる検証(実際に設計を行なった設計者以外のものによる検証)を要求していることを特徴

とする。

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Ⅱ.原子力発電プラントの品質保証

13

この規程は、直接的には事業者への要求であってメーカへの要求ではないが、メーカは事業

者からの要求事項を反映した品質保証システムを確立し、品質保証活動を行っている。

メーカの品質保証システムでは、顧客は事業者であり、製品はあくまで製品であり、サー

ビスであるが、事業者を通じた原子力安全の達成が目的であることを念頭に置くこと、すな

わち、目先の顧客の利益だけでなく、原子力安全の達成こそが、真の顧客の利益に通じるこ

とを意識して品質保証活動を行うことが重要である。  

また、メーカは海外の原子力プラントへの取り組みも進めており、米国の NRC安全規制

体系に代表される必要な品質マネジメントシステムを整備している。

NRC: US-NUCLEAR REGULATORY COMMISSION

図Ⅱ- 1 - 1: 原子力発電所の安全確保のための品質マネジメントシステムのモデル出典:社団法人日本電気協会                       「原子力発電所における安全のための品質保証規程 JEAC4111-2009」

ISO9001モデルを原子力安全に適用したモデル       

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Ⅱ.原子力発電プラントの品質保証

2.品質保証規格の変遷

原子力発電所の品質保証に係わる指針は、米国連邦規則(10CFR50 Appendix B)を参考

に、日本電気協会より 1972年に「原子力発電所の品質保証手引」(JEAG4101-1972)が制

定された。その後、この指針は、IAEA(国際原子力機関)が定めた「原子力プラントにお

ける安全のための品質保証の実施基準」(50-C-QA)を参考に、「原子力発電所の品質保証方

針」(JEAG4101-1981)として発行され、順次見直しを重ね 1993年までに 4回の改訂がな

された。また、1996年に IAEAの 50-C-QAが「原子力発電所と他の原子力施設における安

全のための品質保証」(50-C/SG-Q)として改訂されたのに伴い、これを参考にするととも

に、今までの我が国の知見・経験及び実績を加味し、さらに運用状況・実績を反映して見直

しを行い JEAG4101-2000として発行された。この指針は、原子力産業界において、民間指

針として、原子力品質保証の規範として広く利用され、品質保証システムの確立と品質保

証の展開に貢献した。(図Ⅱ - 2 - 1「品質保証規格体系図」参照)2003年 10月に原子炉等

規制法に基づく省令が改正され、原子力安全のための品質保証要求事項が具体的に規制さ

れた。この品質保証に関する規制要求事項を具現化するものとして「原子力発電所におけ

る安全のための品質保証規程」(JEAC4111-2003)が制定され、その後の ISO9001の改正等

を取り込み、JEAC4111-2009が発行されている。JEAC4111-2009の特徴は以下のとおりで、

ISO9001:2008の要求にある「製品」、「顧客」、「品質」に対して、原子力発電所での適用が

図れるよう考え方が整理されている。

a) ISO9001:2008を基本とし、原子力発電所での使いやすさを考慮した修正が施され

ている。

b) ISO9001:2008を基本とするばかりでなく、従来から準拠してきた IAEAの品質保

証に関する安全基準 50-C/SG-Q(1996)の内容も取り込んで従来の指針との整合を

図るとともに、IAEAの安全基準シリーズ(GS-R-3、GS-G-3.1、GS-G-3.5)の内容

も取り込んでいる。

c) ISO9001:2008で要求するトップマネジメントに対して、法令を受けて限定をする

など、ISO9001:2008とは、異なる固有の用語に対しての定義がなされた。

上述の事業者に対する品質保証に関する規制を踏まえ、事業者の調達先やさらにその調達

先等が規範とする品質保証仕様として、JEAG4121の附属書 - 1「品質マネジメントシステ

ムに関する標準品質保証仕様書」が発行されている。これは、近年 ISO9001の第三者認証

が一般的になっていることを踏まえて ISO9001を基本とし、JEAG4101や不適合事象の再

発防止策等からの要求事項が追加されている。また、この「品質マネジメントシステムに関

する標準品質保証仕様書」は、事業者が調達先に対して品質マネジメントシステムを要求す

る場合の調達仕様書の基本になっている。

メーカは供給者(事業者の調達先)の立場で、事業者の調達仕様に応じて、この「品質マ

ネジメントシステムに関する標準品質保証仕様書」に基づいた品質マネジメントシステムを

構築し、供給製品を製造している。

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Ⅱ.原子力発電プラントの品質保証

表Ⅱ- 2 - 1に「品質マネジメントシステムに関する標準品質保証仕様書」の概要を示す。

なお、これらの動きを受け、2008年度に JEAG4101-2000「原子力発電所の品質保証指針」

について、廃止措置(“日本電気協会として今後の維持管理を行なわない”とする措置)が

とられた。

図Ⅱ- 2 - 1: 品質保証規格体系図

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Ⅱ.原子力発電プラントの品質保証

表Ⅱ- 2 - 1: 「品質マネジメントシステムに関する標準品質保証仕様書」の概要出典:社団法人日本電気協会

「原子力発電所における安全のための品質保証規程(JEAC4111-2009)の適用指針 JEAG4121-2009」附属書-1の斜体太文字箇所の抜粋

JEAG4121附属書-1の項 ISO9001 に追加した原子力特有の要求事項

4. 品質マネジメントシステム4.1 一般要求事項

4.2 文書化に関する要求事項4.2.1 一   般

組織は、品質マネジメントシステムの運用において、製品の原子力安全に対する重要度に応じて、品質マネジメントシステム要求事項の適用の程度についてグレード分けを行わなければならない。 また、グレード分けの決定に際しては、製品の原子力安全に対する重要性に加えて以下の事項を考慮することができる。a) プロセス及び製品の複雑性、独自性、又は斬新性の程度b) プロセス及び製品の標準化の程度や記録のトレーサビリティの程度c) プロセス及び製品の要求事項への適合性に対する検査又は試験による検証可能性の程度

d) 作業又は製造プロセス、要員、要領、及び装置等に対する特別な管理や検査の必要性の程度

e) 据付後の製品に対する保守、供用期間中検査及び取替えの難易度

品質マネジメントシステムの文書体系における、品質保証計画書の位置付けを明確にしなければならない。

6. 資源の運用管理6.2.2 力量、教育・訓練及び認識

組織は、製品要求事項への適合に影響がある仕事に従事する要員に対し、職種や要員の経験等に応じて、原子力安全の重要性を認識させるための方法を定め、教育しなければならない。

7. 製 品 実 現7.2.3 顧客とのコミュニケーション

7.3.1 設計・開発の計画

7.3.5 設計・開発の検証

7.3.7 設計・開発の変更管理

組織は、製品要求事項への適合に影響を与えるような無理な工程となっていないかなど、顧客との連絡調整をより円滑に行わなければならない。

公的規格が定められていない特殊な材料又は新技術を採用する場合には、組織は材料仕様等の意味や重要性、技術内容等が十分理解されるよう、十分な検討を行うとともに、必要に応じ、関係者(顧客、供給者等)間で一層の情報交換を行わなければならない。

設計 ・開発の検証は、原設計者以外の者又はグループが実施しなければならない。注記1 設計検証は、原設計者以外であれば、上司を含め、同一部門内の

ものが行ってもよい。注記2 検証方法は、設計レビュー、代替計算、手計算、実証試験及び類

似設計との比較、あるいは設計図書の確認等の何れか又はその組み合わせであるが、これに限られない。

設計変更は、原設計に適用された方法と同じ設計管理の方法により実施しなければならない。設計変更の審査及び承認は、原則として原設計の審査及び承認を実施した

グループ又は組織が実施しなければならない。注記2 以下のような場合には、設計変更プロセスが適用される。a) 製品の仕様を変更する場合b) 設計図書を正式に発行した後に、仕様変更として当該設計図書を改訂する場合

c) 審査済の原子炉設置許可申請用図書、工事計画認可申請用図書等に影響を及ぼす場合

注記3 設計図書を正式に発行する前の変更や、設計レビューの結果生じた変更で仕様変更には該当しない修正程度のもの等、設計変更プロセスを適用しない場合がある。

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Ⅱ.原子力発電プラントの品質保証

JEAG4121附属書-1の項 ISO9001 に追加した原子力特有の要求事項

7.4 調   達

7.4.1 調達プロセス

7.4.2 調 達 情 報

7.4.3 調達製品の検証

7.5 製造及びサービス提供7.5.1 製造及びサービス提供の管理

組織は、社内(部門間)で調達を行う場合についても、本項の調達管理要求事項を適用しなければならない。

組織は、製品要求事項への適合に影響を与えるような無理な工程となっていないかなど、供給者との連絡調整をより円滑に行わなければならない。

要求事項には、組織と供給者の責任範囲を明確にしなければならない。調達要求事項の適用を供給者の調達先まで及ぼすための事項を明確にしなけ

ればならない。

調達製品が調達文書の要求事項に適合していることを証明する記録は、調達製品の使用に先立って利用できるようにしなければならない。組織は、公的規格が定められていない特殊な材料については、材料メーカが

発行する材料証明書を受理する際、材料メーカの発行責任者が明確であること、及び品質管理部門等の確認を受けたものであることを、確認しなければならない。 また、公的規格が定められていない材料で直接性能確認ができないものについては、必要に応じ、元データを確認しなければならない。

注記1 管理された状態の中には、安全確保も含まれる。この安全確保の実施例として、製作及び工事の施工着手前に事前検討会やツールボックスミーティング等の機会を通じた、作業者に対する作業工程の調整 ・確認、手順の検討 ・確認、危険予知等がある。

7.5.2 製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認

7.5.3 識別及びトレーサビリティ

7.5.4 顧客の所有物

7.6 監視機器及び測定機器の管理

注記2 適切な設備(装置及び治工具を含む)には、所要の機能及び精度を有するものが含まれる。

製造及び据付を新しい工法(新工法)により実施する場合には、組織は、その工法の妥当性を適切な方法により確認しなければならない。新工法を実際の作業に適用する際に、必要な管理の方法を定めなければならない。溶接、熱処理、洗浄、表面処理、その他の特殊工程作業等に係わる要員に対

する資格を明確にしなければならない。

注記2 識別では以下の点に留意することが望ましい。a) 明確で他と区別しやすいこと。b) 消えにくいこと。 表面処置、塗装によって消えないような配慮を含む。c) 製品要求事項への適合に影響を及ぼさないこと。注記3 要求されるトレーサビリティの程度に応じて、次のようなものが含まれる。a) 製品耐用期間を通じた識別の維持b) 組立品については、その材料、部品及び機器の履歴の追跡c) 製品についての一連の製造記録の追跡

注記 顧客の所有物には、技術、知識、情報等の知的財産及び個人情報を含めることができる。

注記2 顧客が個々の契約において、検査及び試験の判定のために使用するリース品の測定機器について、返却時の健全性確認を個別要求する場合がある。 その場合には、組織は、当該測定機器について返却時の校正記録を入手し確認する必要がある。

8. 測定、分析及び改善8.2.4 製品の監視及び測定

8.3 不適合製品の管理

8.5.2 是 正 処 置

8.5.3 予 防 処 置

製品の検査及び試験を実施する要員の独立の程度を定めなければならない。注記 ここでいう 「検査及び試験」 とは、ホールドポイントにおけるリリー

スを伴う適合性評価(合否判定)を指す。

顧客への報告を必要とする不適合の範囲を定めなければならない。

注記2 “文書化された手順”には原因及びとった処置の関係部門への伝達が含まれる。

注記2 “文書化された手順”には原因及びとった処置の関係部門への伝達が含まれる。

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原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

ここでは、ISO9001:2008、JEAG4121-2009の附属書-1「品質マネジメントシステムに関

する標準品質保証仕様書」に基づき、メーカが実施している活動の特徴を示す。

1. 品質マネジメントシステム一般要求事項

品質マネジメントシステムは、JIS Q 9000の“3.2.3品質マネジメントシステム”で“品

質に関して組織を指揮し、管理するためのマネジメントシステム”と定義され、また、マネ

ジメントシステムは、JIS Q 9000の“3.2.2マネジメントシステム”で、“方針及び目標を定め、

その目標を達成するためのシステム”と定義されている。この二つを統合すると、品質マネ

ジメントシステムは、“品質方針及び品質目標を設定するため、並びにその目標を達成する

ため、組織を指揮し、管理するためのシステム”と言える。言い換えると、方針を決め、目

標を立て、その実現のために各種活動を行い、品質マネジメントシステムの有効性を継続的

に改善することが基本のシステムといえる。

メーカは、品質マネジメントシステムを以下の事項に示すように、確立し、文書化し、実

施し、維持するとともに、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを回し、その品質マネジ

メントシステムの有効性を継続的に改善している。

a) 品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織への適用を明確にす

る。(品質マネジメントシステム体系図)

b) これらのプロセスの順序及び相互関係を明確にする。(品質マネジメントシステム

体系図)

c) これらプロセスを効果的に運用し管理するために必要な判断基準及び方法を明確にする。

d) これらプロセスを運用し監視するために必要な資源及び情報を利用する。

e) これらプロセスを監視し、測定し、分析する。(内部監査、試験検査等)

f) これらプロセスについて、計画どおりの結果が得られるように、かつ、継続的な改

善を達成するために必要な処置をとる。

メーカは、一部のプロセスをアウトソースする場合、アウトソースしたプロセスが正しく

管理されていることを確実にするため、アウトソースしたプロセスに適用される管理の方式

及び程度を品質マネジメントシステムの中に定めている。

また、品質マネジメントシステムの運用において、製品の原子力安全に対する重要性に応

じて、品質マネジメントシステム要求事項の適用の程度についてグレード分けを行っている。

製品の原子力安全に対する重要性に応じたグレード分けの考え方の基本となるものの例とし

て、「発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針」がある。また、「安

全機能を有する計測制御装置の設計指針(JEAG4611)」、「安全機能を有する電気・機械装

置の重要度分類指針(JEAG4612)」も参考としている。

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

19

2.文書管理・記録の管理

(1) 文 書 管 理

品質マネジメントシステムで必要とされる文書、つまり、業務をしていく上で必要な

文書の管理方法を定めて運用している。

メーカでは、組織の意思として何をどのように管理するかを組織が自らの必要性と責

任において必要となる文書をリストアップして、実務の変化に柔軟に対応できる管理方

法を定めている。

具体的には、以下の点を考慮した文書管理の実務遂行ルールを定めて、それを文書化

し運用して文書管理を行っている。

a) 文書を作成したら、文書ごとに審査、承認する責任者を決めて、文書が必要かつ

十分な内容であるかの観点から文書を承認する。

b) 文書は、ルールを決めて定期的に点検【レビュー】する。文書の内容が実態と合

わなくなった場合や不要になったら、必要に応じて改訂や廃止する【更新】。また、

外部から入手した文書は、必要に応じて最新版に取り替える。そして、文書を改

訂する際は、最初に作成したときと同じ組織、又は責任者が内容を吟味し再承認

する。【再承認】

c) 文書を変更するときは、使う人が、何処が変更されたのか分かるようにしておく。

【文書変更の識別】改訂番号や改訂の日付をつけ、改訂版の識別を確実にする。【改

訂版の識別】

d) 文書を使用する人が、該当する文書の最新版が、必要なときに、必要なところで

見られる状態にしておく。(旧版の誤用を防ぐことを含む)文書は、原則として

最新版を使う(旧版を誤って使用しないように管理する)。また、顧客の要求等

により、旧版を使用するケースでは、その使用について管理を確実に実施する。【適

切な文書の使用】

e) 文書は、見やすい状態に保つように管理する。したがってその文書の取扱いには

注意が必要である。文書は、タイトルや管理番号をつけ、容易に識別できる状態

にする。【判読可能及び識別可能な状態】

f) 外部から入手した文書(調達先メーカとの契約書、図面、仕様書、適用される法

律、規格等)は、どれが管理すべき文書であるかを明確にし、その配付並びに最

新版の管理が確実になるようにする。【外部文書の使用】

g) 廃止文書(旧版、廃止した文書)は、誤って使用されないように、文書を使用す

る場所から撤去する。また、これらを何らかの目的で保持する場合は、最新版

の保管場所と異なる場所に置き、「旧版」、「廃止」、「使用禁止」等の表示をして、

誤用されないように識別管理する。【廃止文書の誤用防止】

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

(2) 記録の管理

ISO9001:2008では、“記録は、要求事項への適合及び品質マネジメントシステムの効

果的運用の証拠を示すために作成し、維持すること”として定義している。記録の管理

は組織の業務の仕組みが機能した結果、計画とおり実施されていることを証拠として示

すことできる様、作成、維持することが目的である。メーカでは、組織にとって適切な

管理のルールを定めて、文書化して記録の管理をしている。

a) 記録の作成範囲を定めるに当り、品質保証の定義にある『信頼感を与えるための

「実証」』という側面に力点を置き、記録が過剰とならぬように留意している。し

たがって、設計仕様書、調達文書、試験・検査要領書、運転要領書などであらか

じめ定めておくのがよい。記録は、正確で読みやすく作成し、何の記録か(内容、

場所、日時など)容易に識別可能であり、保管してある記録が、すぐに探し出せ

るよう、管理方法を定めている。なお、保存期間中の劣化や損傷に耐えられるよ

うに保管の環境条件を考慮し、記録媒体を選定している。

b) 記録の取扱いについても、記録の提出・受領、修正・追加、検索・閲覧等の取扱

いについて管理するルールを定めている。記録を取扱う者は、その重要性を認識

して記録の提出及び受領に際し、紛失、損傷しないようにしている。

c) 記録の保管

記録の種類、及びその保管期間を明確にして、保管についての管理方法を定め

る必要がある。ここでいう「保管期間」とは、要求事項への適合及び品質マネジ

メントシステムの効果的運用の証拠が求められている期間を指す。保管期間につ

いては、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則に基づく保管期間やこれ

に加え、記録が原子力安全の達成状況の立証に使用される最終時期を考慮した期

間とする等のグレード分けを適宜適用して保管期間を定めている。

(参考1)

記録の保管には一般的に原紙を保管管理する方法と、原紙を何らかの格好で電子化して

保管管理する方法または、両者を併用して保管管理する方法がある。

以下に、原紙を電子化し、原紙と併用して保管管理する一般的な手順について述べる。

管理の対象となる記録の原紙を、スキャナー等の装置により電子データ化し登録する。

電子化されたデータは、原紙と比較し、ページ抜け、傾き、汚れ、かすれ等が無く、正

しく判読できることを確認する。

原紙は、永久保管 /非永久保管の管理区分に従って、参照時に速やかに抽出できるよう

にインデックス等の識別を行い、記録の劣化を防ぐための温度・湿度等の環境が適した保

管場所に保管管理する。

電子登録された電子データへ再度アクセスして、データが正しく登録されていることを

確認する。

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

災害、事故等による記録の損失を防止する観点から、前述の原紙を保管する場所と、電

子データが保管されている場所を地理的に十分に離れたところに設置するか、電子データ

を地理的に十分に離れた別々の2箇所で保管するなどの記録の二重保管管理体制の構築を

図っている。

(参考2)

原子力発電プラントにかかわる品質記録の管理については、従来から関連する法規や

JEAG等の規格・基準類で決められている共通的な考え方の下、メーカ各社において運用

されてきている。

 

(参考3)

記録の修正について、改ざんとみなされないよう十分な注意が必要である。例えば修正

液、切り貼りによる修正は不可である。記録の修正においては記録の体裁に拘ることなく

見え消しで行い、余白等に修正理由、修正者のサインを施す等の配慮をしている。

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

3.品質方針・品質目標・マネジメントレビュー

(1) 品 質 方 針

品質に関する組織の目的、方向付けを示すものが「品質方針」である。メーカでは、

原子力分野のトップマネジメントが、メーカとしての企業理念に基づき、また『原子力

安全』の達成、その基礎となる安全文化の醸成のための指針等を反映し、コミットメン

トとして「品質方針」を表明している。 参考:JEMA原子力安全行動指針* 1

「品質方針」は、品質要求事項への適合及び品質マネジメントシステムの有効性の継

続的改善に対するトップマネジメントの意思を表明するものであり、その設定に際して

は、 「品質マネジメントの8原則」* 2を参考にしている。

 

(2) 品 質 目 標

メーカでは、「品質目標」を品質方針やマネジメントレビューの評価結果等を反映し

て設定し、さらに活動がより効果的になるよう、必要な下部組織、階層でも目標の具体

化を行っている。組織の要員に対しては、組織全体の活動目標の中での「品質目標」の

位置付けを明確にすることによって目標への理解を深めさせ、活動しやすい環境を整え

ている。

組織として、目標の達成状況を把握するための指標を定めており、目標値としては、

できるだけ定量化する等、達成度が判定可能な指標となる様、配慮している。また、達

成状況を評価する際には、結果の評価だけではなく、それに向けて実施した努力度、注

力度も合わせて評価することによってモチベーションの確保に繋げている。

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

(3) マネジメントレビュー

マネジメントレビューは、ビジネス環境の変化への対応のため、及び「品質方針」、「品

質目標」の必要な変更を行うため、並びに品質マネジメントシステムの改善の機会とす

るため、トップマネジメントが品質マネジメントシステムの有効性を評価する場である。

メーカのトップマネジメントはマネジメントレビューを通じて原子力安全の達成と品質

保証への強い関与と意思表示を行っている。

 

  上記 ⑴、⑵、⑶ 全体のフローを図Ⅲ - 3 - 1に示す。

図Ⅲ- 3 - 1:品質方針・品質目標・マネージメントレビューの流れ

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

4. 責任、権限及びコミュニケーション

メーカの業務には、多くの部署が係わる多数のプロセスが存在する。

品質マネジメントシステムを有効に機能させるためには、それぞれのプロセスに対する責

任、権限を明確にし、組織全体に周知しておくことが必要であり、品質マニュアルに組織

図を掲載すると共に、QMSプロセスに関係する各部署の責任と権限を記載している。また、

必要に応じて部署(部・課)ごとに組織機能図を作成・維持し、責任と権限のより詳細化・

明確化を図っている。

トップマネジメントは、適任者を品質マネジメントの管理責任者に任命し、顧客満足の向

上や原子力安全の達成に向けて組織を導いている。管理責任者は、トップマネジメントの代

理をすることができる品質保証部門の長などが任命され、次に示す責任と権限を有している。

a) QMSに必要なプロセスの確立、実施及び維持を確実にする。

b) QMSの実施状況及び改善の必要性の有無についてトップマネジメントに報告する。

c) 組織全体にわたって、顧客要求事項・原子力安全に対する認識を高めることを確実

にする。

品質マネジメントシステムの各要素を有効に機能させるために、必要な情報を、必要な部

署に確実に伝達する内部コミュニケーションのプロセスを明確にしている。この内部コミュ

ニケーションは、「プロジェクト推進会議」、「製品企画・開発会議」、「不適合事例の検討会」

などの各種会議で行なわれる場合が多く、これら会議の目的や出席者を明確にすることの他、

資料等の配付方法、コミュニケーションをサポートする情報技術(IT)システムの導入等、

コミュニケーション向上のため、メーカは様々な工夫をしている。

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

5.力量、教育・訓練及び認識

メーカに限らず“人”は経営資源の最も重要な要素である。組織を発展させるためには、個々

人の能力を向上させるための教育訓練体制が整備され、技術の伝承も効率よく行うことが不

可欠である。メーカは、製品品質に影響がある業務に従事する要員の力量管理と教育訓練を

計画的、体系的に行い、業務遂行上必要な知識、経験及び技術力の維持・向上を図っている。

また、設計者、デザインレビュワー、設計検証者、検査員、内部監査員等については、社内

資格を設定し、業務の経験年数、熟練度、知識が一定水準以上である者を認定し、資格者リ

ストに登録し、管理している。

力量評価については、各部署の管理者が所掌業務に必要な要素技術に対する所属要員の習

熟度を数値化したマップ(要素技術マップ)を年度ごとに作成し管理している。管理者は、

技術要素マップにより各要員の強み、弱みを把握したうえで、各要員の年間教育計画を策定

する。一方、各要員は、管理者との面談等を通じて、現在の技術レベルを知ることで、自己

研鑽につなげている。また、管理者は、受講報告書等の教育記録及び日常業務の推進状況か

ら、要員の教育訓練の有効性を評価している。

教育訓練は、階層別教育、品質マネジメント教育、専門教育、資格認定教育、派遣前教育、

モラルアップ教育、再教育・再訓練、OJT(On the Job Training)等に体系化し、実施している。教育の開催形態としては、全社研修、部門研修、社外研修等がある。管理者は、要素技術マッ

プに基づき、各要員の長期・短期の教育訓練計画を立て、その実施状況をフォローするとともに、

要員ごとに教育訓練履歴を記録し維持する。以下に、原子力における特徴的な事例を示す。

原子力分野においては、原子力安全が特に重要であることから、原子力安全教育や法令遵

守・企業倫理の重要性について徹底を図るコンプライアンス教育を実施している。

設計者については、専門教育等により高度な要素技術の習得に加えて、幅広いシステムエ

ンジニアとしての育成を行っている。技能者については、ネジ締め、端子圧着、はんだ付け

等の重要基本作業として教育訓練を受けた者を認定し、溶接、熱処理、非破壊検査等の特殊

工程の技術については、これらの作業者に対して、技量認定と定期的な更新のために教育訓

練に努めている。また、玉掛、危険物取扱等の公的な資格が必要な業務についても資格者リ

ストに登録される。試運転担当者に対しても、プラント全体の理解を深める通常の教育の他

に、トレーニング施設における模擬運転訓練等により技術力の向上を図っている。

現地での据付・改造工事及び定期検査は作業が広範囲に展開されるため、高度な技術を持

つ指導員を育成して派遣するとともに、現地作業従事者全員に対して現地派遣前の原子力一

般教育、業務に応じた専門教育及び放射線安全教育を実施している。さらに、現地において

は、品質管理、放射線管理を含む入所時教育、作業着手前教育及び TBM(ツールボックスミーティング)等での日常教育を行っている。

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

6.顧客関連プロセス

ISO9001:2008における「7.2.1製品に関連する要求事項の明確化」、「7.2.2製品に関連する

要求事項のレビュー」、「7.2.3顧客とのコミュニケーション」及び「8.2.1顧客満足」の各要

求内容を集約し、以下にメーカでの具体的な顧客関連プロセスを整理した。

(1) 計画書の作成

顧客からの要求仕様書に基づき、関連法令・規格・基準、実施体制、実施項目・内

容、納期・工程、見積もり条件等の業務プロセスを明確にした計画書を作成している。

計画書に添付する工程表には、項目ごとに関連実施部門、及び取りまとめ部門が指

定した顧客とのホールドポイント等を明確に記入する。

(2) 顧客とのキックオフミーティング(作業開始前の顧客との実施詳細内容・工程等

の確認・調整)

作業を開始する前に、作業計画に課題がないか、顧客とのホールドポイントを確認・

調整するために計画書等を用いて顧客とのキックオフミーティングを開催している。

(3) 作業要領書の作成

作業を実施するに当り、詳細な作業方法・手順を明確にして実施するための作業要

領書(インプット資料、作業手順・方法、関連部門横通し項目、作業工程、チェック

要領、チェックシート等)の作成を行い、顧客の確認(又は承認)を実施する。

(4) 顧客とのホールドポイントにおける確認

計画書にて計画した顧客とのホールドポイントにて、顧客に承認が必要な事項の整

理を行い、顧客の確認(又は承認)を実施している。

(5) 実施結果のチェック

報告書作成に当たり報告書案作成期間(チェック期間含む)、社内レビュー期間、

報告書案修正期間、報告書提出期限等について明確化している。

実施結果のダブルチェックに当たって作業要領書に定めたチェック要領を再確認し

た上で実施する。又、作成図書は、レビュー期間を十分確保し全体レビューを実施す

る。チェック方法等についてはエビデンスを用いて確認し、チェックプロセスの妥当

性を確認し、顧客へ報告書を提出する。

(6) 顧客の評価について

顧客がどう評価しているかを把握するために、顧客から直接意見を聴取する等の方

法により実施している。

顧客の評価内容は、顧客の意見、要望等の“生の声”を直接聴取する等の方法によ

り収集し、現実に出てきた貴重な意見として真摯に受け止め、今後の活動の改善に役

立てている。

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

7.設計・開発

顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たすために、設計・開発段階で行う

活動であり、基本は、設計・開発の計画策定、設計・開発のインプット/アウトプット管理、

設計・開発のレビュー、検証、妥当性確認、設計・開発の変更管理である。

計画策定では、設計・開発の段階、組織間の設計取り合い、各段階に適したレビュー、検

証、妥当性確認の方法と時期を明確にするが、その際、設計・開発の複雑さ、新規性、機器

の重要性、想定リスクに応じたグレード分けの考えを導入している。

特に、公的規格が定められていない特殊な材料又は新技術を採用する場合には、材料仕様

等の意味や重要性、技術内容等が十分理解されるよう、検討を行うとともに、必要に応じ、

関係者(顧客、調達先等)間で情報交換を行うことが求められており、これを設計・開発の

計画に反映している。(キャスク問題*から得た教訓)

設計・開発のレビューでは、設計・開発の結果が要求事項を満たしていることの確認をは

じめ、当該分野の専門家が参画して、多角的観点からの評価を行っている。

設計・開発の検証は、設計・開発のレビュー、代替計算、手計算、実証試験、類似設計と

の比較、設計図書の確認等で行われ、原設計者以外のものが実施することが規定されている。

工認照合や許認可申請等に係る解析業務に対しては、適用される計算機プログラムの検証に

加え、第三者による確認照合等、必要な検証要領を明確にした管理を行っている。

設計・開発の妥当性確認は、製品の使用前に完了する必要があり、工場における性能試験、

原子力発電所における据付段階での性能試験、運用前の試運転等で実施する。

設計・開発の変更は、原設計と同等の設計管理の方法で行い、変更点に対するレビュー、

検証、妥当性確認を行うと共に、既に引き渡されている製品に及ぼす影響の評価も合わせて

行っている。

*:使用済燃料輸送容器内部の中性子遮へい材のホウ素濃度に関するデータ改ざん

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

図Ⅲ- 7 - 1:設計管理の流れ

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

8.調 達 管 理

原子力発電プラントに使用される製品を調達する場合、次の 3点の管理が重要である。

・調達文書での品質要求事項の明確化

・調達先の評価と調達先との円滑な協力関係の確立

・調達品の検証方法の確立

また、キャスク問題*で得た教訓を踏まえ、メーカ(発注者)は、品質に影響を与えるよ

うな無理な工程になっていないか等、調達先(受注者)との連絡調整を円滑に行うよう務め

ている。製品調達業務の流れを図Ⅲ- 8 - 1に示す。

原子力発電プラントに使用される製品の調達では、次のような点に注意している。

・安全上重要な製品は、電気事業法に基づいて、国による検査が行われること。

・多くの工程を経て完成する複雑な製品は、最終製品段階の検査だけでは要求事項への

適合性の確認が困難であるため、あらかじめ、製作の手順を計画し、途中に確認が必

要なポイントを定め、検査が行われること。

・製造に先立ち、先行プラントでの改善や変更事例の確認、国内外プラントのトラブル

の反映などについて、調達先と一体となった設計審査・検討が行われること。

・技術開発などにより新設計や新工法を採用する場合には、早い段階から調達先との協

議が開始され、課題の摘出と円滑な導入に向けての検討が行われること。

なお、公的規格が定められていない特殊な材料を調達する場合には、キャスク問題*で得

た教訓を踏まえ、材料証明書の発行管理、元データの確認などに対する要求事項を付加して、

それら特殊な材料の品質確保を図っている。 *:使用済燃料輸送容器内部の中性子遮へい 材のホウ素濃度に関するデータ改ざん 

図Ⅲ- 8 - 1:製品調達業務の流れ

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

9.製造及びサービス提供

(1) 製 造 管 理

製造管理において最も重要なことは、“工程で品質を作り込む”ことにある。 その

ために、先ず設計要求事項を文書、図面等で明らかにし、この設計品質を確保するた

めに、規格、基準、要領書、指示書、図面等に従って作業を実施している。

メーカでは、原子力分野における製造の品質管理を以下のとおり行っている。

a) 計画、準備

製造に当り、計画が重要である。そのために作業標準を策定し、工法及び作業手順

を要領書としてまとめている。これには、ホールドポイントを設定した QC工程図

又は製作手順図が含まれる。特に、新工法を採用する場合には、念入りに検討を行っ

ている。

作業前には、関係者による工法や作業手順を確認するための確認会を行っている。

b) 作 業 環 境

作業環境の整備は、5S運動として広く行われている。その他、労働安全衛生面か

ら照明の確保、騒音の減少、有害物質の除去等を行っている。

原子力製品には、ステンレス鋼が使用されることが多く、ステンレス鋼の腐食を防

止するため、作業区画の設定、清浄度管理、温度・湿度管理、塵俟・異物の混入防

止、副資材(マジックインキ、テープ、養生シート等)に含有されている成分の制

限を行っている。

また、電気部品の劣化防止のため、必要に応じて温度・湿度等の管理を行う。

c) 設備、装置、治工具及び計測器

使用する設備、装置、治工具及び計測器などが品質に大きく影響するため、適切な

ものを使用している。所要の機能及び精度を確保するために、これらの維持管理が

重要であり、始業前点検や定期点検により整備している。

d) 識   別

製造現場では、様々な資材、部品、材料があり、誤使用や混同を避けるため識別管

理を行っている。

識別方法としては、事前に要領書等で決めておき、固有の番号をタグ、刻印などで

表示することが行われる。これらは消えないような配慮を行っている。また、材料

については、分割されるときは、識別の移し替えを行っている。

製品の状態表示については、検査が完了しているかいないかの識別と、検査の結果

が合格か不合格なのかの識別を、さらに不適合品についてはその識別を行っている。

e) トレーサビリティ

製品を顧客に引き渡した後、顧客が使用する段階で問題が発生した場合、製造段階

にさかのぼって原因を探り対策を行うことがあり、製造履歴から不適合がいつどの

工程で発生したかを追跡できるようにしている。特に、法令・規則、顧客要求があ

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

る場合等に、製品の履歴を追跡可能としている。

製造段階では、日時や作業者と使用した製造設備がわかるように、作業日報等で記

録している。部品については、一連の製造記録を残し追跡できるようにしている。

また、材料については、識別マークにより、材料証明書(ミルシート)への追跡が

可能である。

f) 作業員の力量、教育・訓練

作業員への教育・訓練により技能のスキルアップを行っている。クレーン操作、玉

掛作業、有機溶剤の取り扱いなど公的な有資格者作業があり、資格取得者が従事し

ている。

また、ナットやネジの締結作業、圧着作業やはんだ作業は、必要に応じて、重要基

本作業として訓練された社内有資格者に限定した作業としている。

g) 作業の実施

作業者は、要領書や指示書に基づいて作業を行う。日常的にツールボックスミーティ

ング等を実施して、手順の再確認、と危険予知活動による安全確保につとめている。

h) 工 程 調 整

要求品質の確保に影響を与える無理な工程にならないように、定期的な工程会議等

で、調整を行っている。

i) 出   荷

製造段階で決められた作業や試験検査を全て終了させて、出荷している。その製品

の出荷前に最終確認を行い、出荷責任者が確認し、出荷許可書を発行している。

j) プロセスの妥当性確認(特殊工程)

製造段階でのアウトプットが、それ以降の監視や測定で検証できない場合、計画と

おりの結果を出せることを実証することが必要であり、正しい方法で作業している

ことを確認することで要求品質を確保している。特に、溶接、熱処理、洗浄、表面

処理等を特殊工程とし、プロセスの妥当性を確認している。また、新工法を採用す

る場合には、その工法の妥当性を確認している。

これらの特殊工程の信頼性を確保するために、過去のノウハウ等により設備や治工

具の管理方法や作業手順を作業要領書に定め、教育・訓練や経験に基づく技量のあ

る者が従事し、手順とおりに作業を行う。そのため、作業要領書の事前確認、要員

の適格性として資格の確認、使用した設備の確認、施工記録等の確認を行っている。

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

図Ⅲ- 9 - 1:製造管理の流れ

(2) 建設・据付工事の管理

建設 ・据付工事の管理についても、製造管理の方法と同様に活動を実施している。

建設・据付工事は.事業者、プラントメーカ、機器・装置メーカ、建設業者等多数の

組織 ・関係者が作業に従事しており、また膨大かつ多種類の作業が並行して進められる

ため、明確な体制の確立と密接な相互連絡が必要である。これを確実に実施するために、

組織内あるいは組織間にわたって以下の様な活動を行っている。

・QA/ QC会議

・技術連絡会議

・工程調整会議

・QA/ QCパトロール

・据付総点検

・QA監査

また、要求品質及び作業安全確保のため、作業環境の改善並びに作業員の安全及び技

量向上を目的とした教育・訓練が工事期間中を通じて計画的に行っている。

さらに、工期短縮、工費低減、品質確保、作業安全の確保等のために、工事工法の改

良に積極的に取り組み、建設作業の高度化を図っている。

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

図Ⅲ- 9 - 2:据付段階における品質保証活動のポイント

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

10.監視機器及び測定機器の管理

管理の対象とする測定器(ノギス・マイクロメーター等)と監視機器(溶接に使用する電

流計等)を管理マニュアル・要領書等で定めて明確にしている。

また、これらの測定機器あるいは監視機器の精度を維持・確保するため、以下に掲げる具

体的な手順・方法についても、管理の対象とする機器ごとに定め、管理マニュアル・要領書

等で定めて明確にしている。

a) 管理番号等による識別管理

b) 機器校正有効期限及び機器校正インターバル

c) 機器校正時の技術的な要素を含めた具体的な校正方法

d) 機器校正基準からはずれた場合の具体的な処置

e) 保管場所・保管環境

国際又は国家計量標準にトレース可能な計量標準に照らして校正又は検証することが、検

査又は試験の結果の判定に使用する測定機器に求められている。

これらは、検査又は試験の結果の判定に直接使用されなくても、結果の判定上重要である

といった判断により、例えば試験条件を測定する測定機器についても「結果の判定に使用す

る測定機器」として取り扱っている場合がある。

これら測定機器の「トレーサビリティ管理」に関しては、以下に掲げる「トレース可能な

計量標準」までたどり着けることができるまでの繋がりを確認している。

〈国際又は国家計量標準にトレース可能な計量標準*〉

a) 国家計量標準研究所が保有する計量器

b) 計量法基準器検査制度に従った基準器

c) 計量法校正事業者登録(認定)制度(JCSS)による登録(認定)事業者が登録(認

定)範囲で保有する計量器及びこれに連鎖して登録(認定)事業者により登録(認

定)範囲で校正された計量器

d) 国際相互承認(ILAC/APLAC-MRA等)した試験所認定機関により ISO/

IEC17025に準拠して認定された校正事業者が、認定の範囲内で保有する計量器

及びこれに連鎖して認定事業者により認定範囲で校正された計量器

*出典:「原子力発電所における測定機器の校正及びトレーサビリティの確認について」    (平成 19年 5月 21日 経済産業省原子力安全・保安院 NISA-161c-07-01)

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

11.内 部 監 査

内部監査は、品質マネジメントシステムを適合性と有効性の 2つの観点から確認、評価し、

改善の機会を提供するものであって、実施すること自体が目的なのではなく、品質マネジメ

ントシステムをレベルアップさせるためのツールとして活用している。

監査員の選定及び内部監査の実施に当っては、監査プロセスの客観性、公平性を確保する

と共に、監査チームは、監査で検出した不適合に対して、必要な修正及び是正処置すべてが

とられていることを確認している。

監査プログラムの策定に当たっては、「グレード分け」の考え方を適用し、監査対象とな

るプロセス及び領域の状態、重要性、過去の監査結果等を考慮している。また、是正処置の

実施状況を確認するために行われるフォローアップは、不適合の重大性に応じて時期、方法

を定めて実施している。

内部監査を効果的に行うための工夫事例を以下に示す。

a) 監査指摘事項(組織の弱み)の意味及び改善の必要性を監査側と被監査側で確認

し合う。

b) 良好事例を他組織へ展開するための提言を行う。

c) 検出された他組織、複数組織間の問題点にも着目し、改善につなげる。

d) 監査ごとに監査重点項目を明確化し、マンネリ化防止を図る。

e) 監査員の力量向上に繋がる取組み(監査員の教育・訓練の充実)を行う。

f) 監査対象組織の自己アセスメント結果を内部監査のインプットの一つとして活用

する。

(参考)IAEA安全基準 GS-R-3 (2006) では、部門の管理者による「自己アセスメント」と、対象業務から独立した組織による「独立アセスメント」が規定されている。内部監査は「独立アセスメント」の一つとして実施されている。

図Ⅲ- 11 - 1:監査活動の概要

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

12.製品の監視及び測定

原子力発電プラントに納入する製品には、原子力安全を含む品質要求事項への適合を保証

するため、製品の監視及び測定として、要求される検査及び試験を確実に行っている。

製品の設計から製作・据付に至る各段階における検査及び試験は、設計検証のための実証

試験、工場における製作段階での検査及び試験、そして原子力発電プラントにおける据付段

階の検査及び試験並びに試運転に大別される。

このような各段階における検査及び試験の管理は、計画の立案、要領書の作成、検査・試

験員の資格管理、監視・測定機器の校正管理、その取扱・保管・使用の管理等のポイントが

あるが、これらについては他の産業と同様な管理を行っている。ただし、原子力発電プラン

トの場合には、その管理を要求事項に合致するよう厳密に徹底して行っている。例として、

ホールドポイントの設定、監視・測定機器の有効性の確認、検査及び試験の状態の表示がある。

また、原子力発電プラントでの特徴に、合否判定の結果を記録すること、検査及び試験の

信頼性確保のため、合否判定を伴う検査及び試験の担当者と、製造・作業等の担当者との独

立の程度を定めることがある。

このホールドポイントについては、事業者の耐圧・漏えい検査、溶接事業者検査、特性試

験、国や第三者検査機関等による溶接安全管理審査、使用前検査等がある。

図Ⅲ- 12 - 1:検査及び試験管理の流れ

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

13.不適合製品の管理

設計開発から運転 ・保守に至る各段階の品質保証活動では、図面、要領書、指示書等の要

求事項に合致するように活動を実施し、あらかじめ決めた時期に要求とおりであることを検

証したうえで次ステップに移っている。

この中で製品又は役務の成果物等が、要求事項(仕様や指示事項)と差異を生じ、要求事

項を満たしていない状態を不適合としている。

不適合については、以下を定めた手順書に従って管理を行っている。

a) 不適合を検出した場合の報告の方法

b) 不適合の処理方法(識別、除去、特別採用、廃棄等)

c) 不適合製品に修正を施した場合の再検証方法

d) 不適合の発生原因を明確にし、再発防止対策を確立して実施するための管理方法

e) 記 録 方 法

不適合を検出した場合は、作業を中断し速やかに責任者に報告を行っている。また、事業

者との取り決めに従い事業者への報告も行っている。

不適合製品は、誤使用や誤って出荷しないように、一目で不適合状態がわかる識別表示を

行っている。この識別方法としては、製品であればマーキングやタグの取付け等がある。

不適合の処理としては、責任ある組織の責任者や関係者による審議を行い、適切な方法を

採用する。この方法には、以下の例がある。

・不適合の除去:要求事項を満足させるように不適合品を手直し、修理、補修を行う。

・特 別 採 用:状態が許容可能であると判断し、顧客と組織の責任者が許可し特別に

合格にし、処置を行わず、そのまま使用する。

・処    置:本来の意図した使用や適用がされないように、識別し、別の場所に移

動させる等隔離を行い、必要であれば廃棄する。

不適合製品に手直し、修理・補修した場合は、試験・検査をやり直して再検証している。

不適合は、検出状況、応急処置状況、処置方法、再検証結果、是正処置への展開内容等を

記載した不適合報告書として記録している。

また、これらの情報はデータベース化し、予防処置に活用している。

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

図Ⅲ- 13 - 1:不適合製品管理・是正処置・予防処置の流れ

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Ⅲ.原子力発電プラントにおける品質マネジメントシステムの特徴

14.是正処置・予防処置

(1) 是 正 処 置

是正処置は、不適合の再発を防止するため、不適合製品の処置を行うだけでなく、そ

の不適合が発生した原因を究明して取り除く事までが求められる。また、是正処置が検

出された不適合のもつ影響に応じたものであるため、不適合の原因の特定を確実に行う

ため、各種原因分析手法を採用している。

是正処置を適切に行うために、以下の ISO9001要求事項規定した手順を文書化している。

a) 不適合(事業者等の顧客からの苦情を含む。)の内容確認

b) 不適合の原因の特定

c) 不適合の再発防止を確実にするための処置の必要性の評価

d) 必要な処置の決定及び実施

e) とった処置の結果の記録(「記録の管理」参照)

f) とった是正処置の有効性のレビュー

さらに、以下の事項を考慮し手順に反映している。

・是正処置は、必要に応じて関連部門に伝達する。

・不適合処理票、先行プラントの不適合事例等から品質保証上の問題点を抽出し、再

発防止対策を実施する。

・不適合の再発防止対策については、事業者との取決めに従い報告する。

(2) 予 防 処 置

予防処置は、起こり得る不適合が発生する事を防止するために、その原因を取り除く

処置を決めて実施することである。また、予防処置は起こり得る問題の影響に応じたも

のである必要がある。そのため、メーカでは不適合管理・是正処置で得られた知識・経

験・情報により不適合が発生すると予想されるもの、あるいは、社外から得られた各種

情報から類似の不適合が発生する可能性があるものに対して原因分析を行い、その重要

性に応じて予防処置を決定し実施している。

予防処置を適切に実施するために、以下の ISO9001要求事項を規定した手順を文書

化している。

a) 起こり得る不適合及びその原因の特定

b) 不適合の発生を予防するための処置の必要性の評価

c) 必要な処置の決定及び実施

d) とった処置の結果の記録(「記録の管理」参照)

e) とった予防処置の有効性のレビュー

必要に応じて、予防処置を原子力関連部門に伝達する事として手順に反映している。