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経済産業省委託 平成28年度製造基盤技術実態等調査 (ものづくりベンチャーと製造業の連携等に関する調査) 日本における 「ものづくりベンチャー」発展の 可能性と政策的課題 ロボット・IoT機器・家電 ベンチャー企業があらゆるハードウェアにイノベーションを起こす時代 20173

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経済産業省委託平成28年度製造基盤技術実態等調査(ものづくりベンチャーと製造業の連携等に関する調査)

日本における「ものづくりベンチャー」発展の可能性と政策的課題

ロボット・IoT機器・家電 ベンチャー企業があらゆるハードウェアにイノベーションを起こす時代2017年3月

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写真:株式会社ロビットの開発現場 (東京都板橋区)

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内容

はじめに:ベンチャー企業によるハードウェア分野進出の本格化 .......................................2

1.ものづくりベンチャーとはどういうものか ....................................................................4

2.ものづくりベンチャーの事例と特徴 ...............................................................................6

①ものづくりベンチャーの特徴として「製造業との接点」に着目 ....................................6

②ものづくりベンチャーと製造業の接点で起きていること・起ころうとしていること 10

3.ものづくりベンチャーの支援者 .................................................................................... 13

①ものづくりベンチャーを支援対象とする「スタートアップ・アクセラレータ」 ....... 13

②ものづくりベンチャーの「ものづくり」を支える製造業企業 .................................... 16

4.ものづくりベンチャー発展の方向性と政策的課題....................................................... 20

①整理の枠組み ................................................................................................................. 20

②ものづくりベンチャーの担い手を増やすには (0→0.1) ........................................ 20

③事業化の環境を整えるには (0.1→1) ..................................................................... 26

④世界的な企業を輩出するには (1→N) .................................................................... 29

5.おわりに ........................................................................................................................ 33

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全自動衣類折りたたみ機 laundroid (ランドロイド)

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社

ランダムに投入された衣類を全自動で折りたたむことができる製品laundroid(ランドロイド)を開発。

一生のうち一般的な家庭で洗濯物を洗濯、乾燥、折りたたみ、仕分けをするのに18,000時間、そのうちに折りたたみ・仕分けに9,000時間を費やすと言われる。

人工知能、画像認識、ロボティクスの技術を組み合わせて、人々を洗濯物にかかる時間と手間から完全に開放することを目指す。

シンプル動作のピッキング用協働ロボット CORO

ライフロボティクス株式会社

狭小空間で安全に人と一緒に働くことを目的とした、世界で唯一、肘の無い協働ロボット「CORO」を開発した、産業技術総合研究所発のベンチャー企業。

人口減少による労働力不足が深刻化する日本において、あらゆる産業部門での生産性向上に役立つ技術だとして注目を集める。既に、トヨタ自動車やオムロン等の製造業大手や、吉野家等の外食産業大手での導入が進んでいる。

乾燥地域におけるソーラー発電の効率化を実現する清掃ロボット

株式会社未来機械

太陽光発電用のソーラーパネルを自動で清掃するロボットを開発する、香川大学発のベンチャー企業。

中東やインドなどの雨が降らずにほこりが多い土地では、ソーラーパネルを放置すると表面が汚れ、発電量が低下する。多くの太陽光発電所では、これを人力で清掃しており、コスト高の原因となるとともに、人手不足の問題も生じている。

同社のロボットを活用すれば、清掃コストが約5分の1に削減される。水を使わずブラシで砂塵を清掃する方式で、ひとりで持ち運びできるほど軽量。

ラクに起きる。健康に起きる めざましカーテンmornin’

株式会社ロビット

スマートフォンでカーテンの開閉を制御できる後付け型の機器 「めざましカーテン mornin’ 」を開発。

中央大学の電気電子情報通信工学科の学生4名が、2014年に立ち上げたベンチャー企業。

めざまし時計の代わりに、カーテンが開き太陽の光が入ることで気持ちよく起きられる、というコンセプトを打ち出したこの製品は、発売後約半年間で出荷数2万個を超えるヒット商品となった。

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はじめに:ベンチャー企業によるハードウェア分野進出の本格化 平成 29年2月、社会的インパクトのある新事業を創出したベンチャー企業を表彰する「第

3回 日本ベンチャー大賞」(事務局:経済産業省)の受賞企業が発表された。受賞した7

社のうち、内閣総理大臣賞には、ロボットスーツ HAL を開発する CYBERDYNE が、技術

革新賞には、全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」等を開発するセブン・ドリーマー

ズ・ラボラトリーズが選ばれている。

これまで、ベンチャー企業が手がける事業は、インターネット関連サービスやソフトウ

ェアに代表されるように、情報技術を核として、パソコンやスマートフォン等の「既存の

ハードウェア」を通してサービスを提供する、というものが中心だった。しかし近年、様々

な分野で活躍するベンチャー企業のなかに、この2社のように、(既存のハードウェアを使

うのではなく)独自の「ハードウェア」を開発するベンチャー企業が登場してきている。

一般的に、ベンチャー企業は、何らかの社会的な課題や人々のニーズを出発点に、様々

な技術を開発・活用しながら事業を構築する。しかし、社会的課題やニーズの中には、既

存のハードウェアを使うだけでは十分な価値を生み出せず、専用のハードウェアを必要と

するものも多い。セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズの全自動衣類折りたたみ機はま

さにそれに該当する。既存のどんなハードウェアを使っても、「自動で衣類をたたむ」こと

はできず、独自開発した「ランドロイド」というハードウェアを通してはじめてそれが実

現した。

従来であれば、このような独自のハードウェアが必要な事業領域は、資金と設備と技術

を持つ大企業の得意とするところであって、ベンチャー企業が手を出せるものではないと

思われていた。しかし近年では、大企業が「イノベーションのジレンマ」に陥り革新的な

事業を生み出せない問題が顕在化していることに加え、ベンチャー企業であっても独自の

ハードウェアを開発し事業化できる環境が少しずつ整いつつあり、上記のようなベンチャ

ー企業が登場してきている。

つまり、ベンチャー企業が「事業」を構想する際、これまでは「(情報技術によって)既

存のハードウェアを活用する」のが中心だったところに、「独自のハードウェアを作る」と

いう選択肢が登場し、ベンチャー企業の手がける事業の幅が広がっていると言える。事業

の幅が広がれば、対応できる社会的課題やニーズも広がり、そこに大きなビジネスチャン

スが生まれる。

このことを考えると、これから先、「独自のハードウェア」を開発するベンチャー企業の

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手によって、画期的な新規事業が生み出されていく可能性は高い。これは、わが国の経済・

産業にとって大きなインパクトをもたらす変化であり、この状況に対応したベンチャー企

業政策、イノベーション政策のあり方を検討していく必要がある。

本調査では、このような「独自のハードウェア」を開発し、それを用いて事業を行うベ

ンチャー企業を「ものづくりベンチャー」と位置付け、その発展の可能性と政策的な課題

について検討した。

図表 1

ものづくりベンチャーへの投資額・件数が世界的に拡大している

VCによるものづくりベンチャーへの投資額及び投資件数の推移

注:2016 年のデータは 2016 年 7 月 1 日時点のもの。ものづくりベンチャーによる 1 件あたり 100 万ドル

以上の資金調達(公開されているもののみ)のうち、シャオミ等の巨大企業のものを除いて集計

<出所>BOLT「Who invests in hardware 2016」

https://blog.bolt.io/who-invests-in-hardware-2016-3b8149769924

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1.ものづくりベンチャーとはどういうものか ①本調査における「ものづくりベンチャー」の捉え方

ものづくりベンチャーの活性化についての議論に進む前に、ここで言う「ものづくりベ

ンチャー」とはどういう存在なのか、もう少し明確にしておく必要がある。実は現在のと

ころ、「ものづくりベンチャー」について明確な定義は存在しない。一般的なイメージとし

ては、ロボットや IoT 機器など、「自社で何らかのハードウェアを開発して事業を行うベン

チャー企業」というところだろうか。(こうしたベンチャー企業は、ハードウェア・スター

トアップとも言われている)

しかし、実際にはベンチャー企業の出自やビジネスモデルは様々で、どこからどこまで

が「ものづくりベンチャー」と言えるのか、その境目はかなり曖昧である。例えば、ハー

ドウェアに関する要素技術の研究開発のみを行い、他社にライセンスすることを事業とし

ているベンチャー企業は、ものづくりベンチャーと言えるのか?また、自社で開発したハ

ードウェアを他社のブランドで販売していくようなケースはどうなのか?

結論から言えば、これらはいずれも「広い意味でのものづくりベンチャー」に含まれる

可能性はあるが、今回の調査では検討の対象とはしていない。というのも、本調査の目的

は「ものづくりベンチャーの活性化に係る課題の整理」にある。そのためには「ものづく

りベンチャー」の、他のベンチャーとは異なる特徴を踏まえて議論していく必要があり、

その特徴が最も際立つ形態のベンチャー企業を議論の中心に据えたいと考えた。

そのため本調査では、曖昧な概念である「(広義の)ものづくりベンチャー」のうち、以

下の4つの要件を満たすものを「本調査におけるものづくりベンチャー」として定義した。

ビジネスモデル:ハードウェアを通じたサービス提供、あるいはハードウェアの販売

開発体制:独自のハードウェアの一部または全部を自社で開発

事業推進主体:自らが主体となって事業を推進

成長についての考え方:革新的な事業によって大きな成長を目指す

図表 2

本調査の対象とする「ものづくりベンチャー」の定義

本調査の対象

広義のものづくりベンチャー

以下の4要件を満たすもの ビジネスモデル:ハードウェアを通じたサービス提供、あるいはハードウェアの販売 開発体制:最終製品の一部または全部を自社で企画・開発 事業推進主体:自らが主体となって事業を推進している 成長についての考え方:革新的な事業によって大きな成長を目指す

自社で何らかのハードウェアを開発して事業を行うベンチャー企業

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②ものづくりベンチャーは、ものづくり「だけをしている」ベンチャーではない

「ものづくりベンチャー」という言葉を使うと、「ものづくり」という言葉のイメージに

引っ張られるためか、どうしても一般的な製造業的ビジネスモデルを思い浮かべてしまい

がちである。つまり、何らかのハードウェアを開発して、大量に生産して、顧客に販売し

ていくことで利益を得る、という、「ものづくり」自体が事業の中心にあるタイプのビジネ

スモデルである。しかし、こうした理解は、「ものづくりベンチャー」の持つ意味や可能性

を矮小化してしまう可能性がある。実際に、全てのものづくりベンチャーが「ものづくり」

を事業の中心に置いている訳ではない。例えば、IoT 機器を開発するものづくりベンチャー

企業の中には、ハードウェアをあくまで「データ収集のためのツール」と位置づけ、デー

タの分析・活用・流通の部分で付加価値を生み出しているケースも多い。

つまり、ものづくりベンチャーは、ものづくり「だけを行っている」ベンチャーではな

く、ものづくりの「要素を持つ」ベンチャーと理解するべきだと考えられる。

この視点に立つと、ベンチャー企業全体における「ものづくりベンチャー」の位置づけ

についても見方が変わってくる。これまでは、例えば「IT ベンチャー」や「ヘルスケアベ

ンチャー」のような既存のカテゴリとは別に、新たに「ものづくりベンチャー」というカ

テゴリが出来てきている、というように理解されることも多かった。しかし、ものづくり

ベンチャーが、ものづくりの「要素を持つ」ベンチャー企業だという理解のもとでは、他

のベンチャー企業のカテゴリの内側に、ものづくりベンチャーが登場してきているという

ほうがしっくりくる。そうだとすると、「ものづくりベンチャーの活性化」というテーマは、

製造業のような特定の業種・業界だけでなく、ベンチャー企業政策や産業政策に関わる全

ての主体が、分野をまたいで議論を進めていくべきものだと考えられる。

図表 3

本調査におけるものづくりベンチャーの位置づけ

ものづくりベンチャーに関する誤ったイメージ 正確なイメージ

ヘルスケア系ベンチャー

農業系ベンチャー

IT系ベンチャー

バイオ系ベンチャー

ものづくりベンチャー

ヘルスケア系ベンチャー

農業系ベンチャー

IT、IoT系ベンチャー

バイオ系ベンチャー

ものづくり

ベンチャー

ヘルスケアや農業、バイオといった、ベンチャー企業の事業分野と横並びの一分野として「ものづくりベンチャー」があるわけではなく

様々な事業分野のなかで、ものづくりの要素を持つものづくりベンチャーが育ってきている。

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2.ものづくりベンチャーの事例と特徴 ①ものづくりベンチャーの特徴として「製造業との接点」に着目

本調査では、ものづくりベンチャーの「特徴」を明らかにしたうえで、その発展に向け

た可能性と政策的課題について検討していく。ものづくりベンチャーの特徴については、

いくつかの切り口があり得るが、本調査では特に「製造業との接点」に着目し、そこを起

点として議論を進めていくこととした。

既に述べたとおり、ものづくりベンチャーか否かは、ベンチャー企業が持つ多くの要素

のうちの 1 つであり、それぞれのベンチャー企業の出自や事業分野、ビジネスモデルは多

岐にわたる。そのため、「ものづくりベンチャーの特徴」をひとまとめに議論することは一

見すると難しいようにも思われる。しかし、ものづくりベンチャーは、その定義から、事

業のプロセスの中に必ず「独自のハードウェアを作る」という工程を含んでおり、この一

点において共通している。そして、ものづくりベンチャーは、「独自のハードウェアを作る」

ために、社外の様々な資源を活用する必要があり、その連携先として重要な役割を果たし

ているのが、「製造業」の企業や人材である。

以下では、実際のものづくりベンチャーの事例から、ものづくりベンチャーと製造業の

接点で起こっていること、これから起ころうとしていることを整理していく。なお、登場

する事例については以下の通り。

○ものづくりベンチャーの事例

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(株) 全自動衣類折りたたみ機 laundroid (ランドロイド)

ライフロボティクス(株) シンプル動作のピッキング 協働ロボット CORO

(株)未来機械 乾燥地域におけるソーラー発電の効率化を実現するロボット

(株)SenSprout 世界の水利用を最適化する農業ソリューション

(株)ミラ ロボットを使ったリアルタイム戦略ボードゲーム CODE HORIZON

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図表 4

全自動衣類折りたたみ機 laundroid (ランドロイド)

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社

構想・立ち上げ

研究開発・

機能試作

量産試作・量産

成長

創業者は、ものづくり企業経営者の子息で、米国の大学でのPh.D.取得者 創業者の阪根信一氏は、1999年に米国デラウェア大学化学・生物化学科、博士課程修了(Ph.D.) 帰国後、実父の経営する機能性材料・部材メーカーの㈱I.S.Tに入社し、2002年には同社のCEOに就任。阪根氏は同社で新規事業の立ち上げに成功し、そこで生まれた利益を、継続的に研究開発投資に振り向けることを決断。

ものづくり企業の社内プロジェクトとして開発がスタート 開発テーマとして選んだのが、「家庭での洗濯物を洗う・乾燥する・たたむ・仕分ける・収納するという一連の行為から、人々を解放する」というもの。そのために、「全自動衣類折りたたみ機」を開発し、事業化することを構想した。

開発は2005年にスタートし、その後6年あまりはI.S.Tの社内プロジェクトとして開発を続けた。 2011年、阪根氏はBtoCビジネスに主眼を置いた、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズを創業。以降は「全自動衣類折りたたみ機」を含め、いくつかのプロジェクトの開発に専念することとなった。

プロジェクト開始から10年かけて試作機が完成 「全自動衣類折りたたみ機」は、画像認識・人工知能・ロボティクスという、幅広い技術が必要となる。

当時の開発チームは4~5名程度の体制で、メン

バーは各分野の専門家ではなかったが、必要な技術をその都度習得し、開発を進めた。

I.S.Tでの開発プロジェクトのスタートから10年経った2015年、ランドロイドの試作機が完成。

開発費の合計額は10年で6億円以上にのぼった。

大手メーカー等との共同開発・資金調達 試作機までは自社で製作できたが、製品として販売できるものにするまでには、機能や品質、デザインなど、あらゆる面で課題が残されていた。

2015年、パナソニックと大和ハウス工業との提携を開始。10月の展示会にて、両社とlaundroidの

共同開発を行うことを発表。パナソニックが量産試作・量産の本格的なサポートを開始。

2016年4月には、両社からの大型の資金調達を実施し、合弁会社を設立。

大手メーカー出身の技術者数十名が開発に参画 量産試作段階に入ったころから開発チームの人材を拡充。多様な大手メーカー出身の経験豊富な技術者数十名を雇用。

多様な主体との連携

【現状】2017年5月末の予約販売開始を計画 2017年3月、ランドロイドの実機を体験できるカフェ「ランドロイド・カフェ」をオープン

2017年5月末、予約販売開始(予定)

産学連携

大手部品メーカー

大手最終製品メーカー(パナソニック)

大手メーカーの技術との融合、更なるイノベーションへ 「全自動衣類折りたたみ機」は、同社が実現を目指すビジョンの第1歩という位置づけである。長期的に

は、衣類を「洗い、乾燥し、たたみ、仕分けをして、クローゼットにしまう」というプロセス全てを自動化することを目指している。

これを実現するためには、洗濯機や乾燥機、ロボット等に関する技術や知的財産を持つ大手メーカーや、製品の導入先である住宅を作るハウスメーカーと、「構想・立ち上げ」の段階から深く連携して開発を進めていく必要がある。

技術開発にあたり多方の大学と連携。

衣類という柔軟物を扱う技術に特化した基礎研究開発。

パナソニックは、セブンドリーマーズに対して大型の出資を行うとともに、量産試作・量産において協力している。

パナソニックが持つ多様な製造業企業とのネットワークを駆使し、部品の製造・調達や、ランドロイドの組み立ての支援を行っている。

また、ランドロイドの販売面での協力も行うほか、長期的には自社技術とセブンドリーマーズの技術を融合させた新事業の立ち上げも視野に入れている。

日本には、精密小型モーターの開発・製造において世界一のシェアを持つ企業がある。

ランドロイドに内蔵されているロボットアームには、日本企業が開発した多数の小型モーターが使われている。

事業化

事業概要 ランダムに投入された衣類を全自動で折りたたむことができる製品laundroidを開発。 一生のうち一般的な家庭で洗濯物を洗濯、乾燥、折りたたみ、仕分けをするのに18,000時間、そのうち折りたたみ・仕分けに9,000時間を費やすと言われる。人工知能、画像認識、ロボティ

クスの技術を組み合わせて、人々を洗濯物にかかる時間と手間から完全に開放することを目指す。

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図表 5

構想・立ち上げ

研究開発・機能試作

量産試作・量産

事業化

成長

シンプル動作のピッキング用協働ロボット COROライフロボティクス株式会社

事業概要 狭小空間で安全に人と一緒に働くことを目的とした、世界で唯一、肘の無い協働ロボット「CORO」を開発した、産業技術総合研究所発のベンチャー企業。

人口減少による労働力不足が深刻化する日本において、あらゆる産業部門での生産性向上に役立つ技術だとして注目を集める。既に、トヨタ自動車やオムロン等の製造業大手や、吉野家等の外食産業大手での導入が進んでいる。

産業技術総合研究所のロボット研究者が創業 創業者の尹(ユン)氏は、2001年以降、産業技術総合研究所の研究員として、ロボットの研究に従事。

人口減少時代に突入する日本では、人と協働するロボットの実用化が切実な課題になると考え、2007年にライフロボティクスを立ち上げ。

投資家から理解を得られるまでの8年間 立ち上げ当初から、早期の実用化・事業化を目指していたものの、「人と協働するロボット」というコンセプト自体が投資家から理解されず、事業化に必要な資金確保ができない期間が長く続いた。その間は、産総研の研究員を勤めながら、少人数で開発を続けた。

2015年、国際ロボット展の出展直前にVCのグローバルブレインと出

会い、資金調達に成功。事業化に向けたスタート地点に立つ。(既に海外では協働ロボット市場が立ち上がっており、まさにぎりぎりのタイミングだったと尹社長は後に語っている)

国内の製造業との連携・活用により高速で試作開発を繰り返し、量産準備を整える 資金調達後、開発の体制を拡充。大手から中小企業まで、国内の製造業企業の技術や部品をフルに活用しながら高速で試作開発を繰り返し品質を高め、量産準備を整える。

多様な大手企業での導入が決定 グローバルブレイン等の協力を得ながら、大企業のトップ層との交渉を進め、製造業や外食等、多様な業種のトップ企業でのCOROの導入が決定。

構想・立ち上げ

研究開発・機能試作

量産試作・量産

事業化

成長

乾燥地域におけるソーラー発電の効率化を実現する清掃ロボット株式会社未来機械

事業概要

太陽光発電用のソーラーパネルを自動で清掃するロボットを開発する、香川大学発のベンチャー企業。中東やインドなどの雨が降らずにほこりが多い土地では、ソーラーパネルを放置すると表面が汚れ、発電量が低下する。多くの太陽光発電所では、これを人力で清掃しており、コスト高の原因となるとともに、人手不足の問題も生じている。

同社のロボットを活用すれば、清掃コストが約5分の1に削減される。水を使わずブラシで砂塵を清掃する方式で、ひとりで持ち運びできるほど軽量。

香川大発ベンチャー、地元建機メーカーOBが技術アドバイザー 創業者の三宅徹氏は、香川大工学部卒業後、2004年に未来機

械を立ち上げた。屋外で人と協働するロボットの開発を事業として手掛けるかたわら、香川大学でのロボット研究もつづけ、2009年には博士号(工学)を取得。

立ち上げ時から、地元の大手建機メーカー「タダノ」のOBが技術

アドバイザーとして参画。(現在は同社の取締役)

7年間にわたる開発期間 2007年に、「ソーラーパネル清掃用ロボット」の開発に着手。

企業や公的機関からの受託案件で資金を確保しながら少人数で開発を続け、2015年時点で、実用にも耐えられるレベル

の試作機が完成。樹脂筺体

機械要素部品

金属部品プロダクト・デザイン

墨田加工(墨田区)

浜野製作所(墨田区)等

デザイン会社地場の中小企業等

墨田区の中小企業の協力を得てサプライチェーンを構築 VC(リアルテックファンド)からの資金調達を実施し、それを機に体制を拡充。量産に向けた準備を進める。

ベンチャー企業の支援を行う「リバネス」を通じて、墨田区の中小ものづくり企業「浜野製作所」及び「墨田加工」と出会い、樹脂筺体や金属部品等、量産試作と量産の体制を構築。

2017年3月時点で、最初の量産に取り掛かっており、中東やインドへの販路開拓を目指している。

多様なものづくり企業との連携のもと試作・量産を行う

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図表 6

構想・立ち上げ

研究開発・機能試作

量産試作・量産

事業化

成長

世界の水利用を最適化する農業ソリューション株式会社SenSprout

事業概要 昨今、新興国の経済発展・人口増加による水利用量の増加や、気候変動による干ばつリスクの高まりなど、世界的な水不足のリスクが高まっていると言われる。特に大量の水を必要とする農業分野では、水利用の効率化が大きな課題となっている。センスプラウトでは、東京大学発の技術により、農業における水利用の最適化を実現する低価格のセンサーと、そのセンサーを活用するためのシステムを開発。国内外での実証実験を繰り返しながら、本格的な事業化に向けて取り組んでいる。

東京大学発の技術とハードウェアでの起業経験者の組合せ センスプラウトは、東京大学工学系研究科の准教授で、

IoT分野の研究者である川原圭博氏が開発した特許技術

をコア技術として事業を構築している。従来は多数の工程を踏まなければ作成できなかった電子回路が、インクジェットプリンタで印刷するだけで作成できるという技術で、従来品に比べて大幅なコストダウンが見込める。

創業者は、IT系及びハードウェア系のベンチャー企業の起業経験者でもあり、豊富なノウハウとネットワークを持つ。

大手メーカーの現役エンジニア等を交えた開発会議 センスプラウトでは、開発・機能試作段階において、外部のメンバーが多数参加する開発会議を定期的に開催している。

ハードウェアの開発には、様々な分野の技術が必要となるが、ベンチャー企業ではその全てを社内でカバーすることは難しい。そこで同社では、大手メーカーの現役エンジニアや、大学の研究者等、豊富な知見を持つ外部の人材からのフィードバックを受ける機会を積極的に作っている。

構想・立ち上げ

研究開発・機能試作

量産試作・量産

事業化

成長

ロボットを使った リアルタイム戦略ボードゲーム CODE HORIZON株式会社ミラ

事業概要 自立走行型ロボットを、専用のボード上でスマートフォンで指示を出しながら対戦を行うハイテクトイ「Code Horizon」を開発。プレイヤーは、テーブル上のリアルな3体のロボット「VRO(ヴァルキリーローバーの略)」と、専用アプリ上のバー

チャルな歩兵部隊「マーシナリー」を戦略的に配備し、敵の情報を収集、相手の動きを予測して、策を企て、敵を倒すことを目標とする。

経済産業省コンテンツ技術イノベーション促進事業「Innovative Technologies 2016」採択企業

ソフトウェアエンジニアによる創業 創業者の松井氏は、もともとソフトウェアのエンジニアであり、自分の手でハードウェアを作りたいと考えて2011年にミラを立ち上げた。その後、IoT機器等

のハードウェアの受託開発を多数経験。技術とのネットワークを蓄積。

2014年にCODE HORIZONを構想し、開発に着手。

受託開発事業と並行して自社製品を開発 2015年の1年間をかけて機能試作を行う。外部からの資金調達は行わず、受託開発案件の利益を投資。

香港のプロジェクトマネージャー、中国での量産試作と量産 2016年初頭から、量産試作。国内では良いパート

ナーが見つからず、香港在住のプロダクト・マネージャーを通じて中国(深セン、東莞)の工場で量産試作を行う。

2016年末に、中国での量産開始。最初のロットは450セット。ここまでの開発・量産に人件費を除き3000万円程度のコストがかかっている。

海外市場への展開を視野に販路開拓 2017年、国内のネットショップ等で販売開始。ドイツや米国等のボードゲーム大国での販売を想定。

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②ものづくりベンチャーと製造業の接点で起きていること・起ころうとしていること

これらの事例を踏まえると、ものづくりベンチャーと製造業の接点で起こっていること、

これから起ころうとしていることは、以下の3点に集約される。

製造業から「ものづくりベンチャー」が輩出されている

製造業がものづくりベンチャーの「製品づくり」を支えている

ものづくりベンチャーと製造業の連携による新規事業創出が行われている

図表 7

ものづくりベンチャーの事業プロセスと製造業の関わり

製造業から「ものづくりベンチャー」が輩出されている

ものづくりベンチャーの創業者には、大手メーカーの出身者や大学の工学系研

究室の出身者など、製造業のバックグラウンドを持つ人物が多い。そうでない場

合にも、創業メンバーのなかにこうした人物が含まれているケースがほとんどで

ある。ここで紹介した事例以外にも、例えば、パーソナルモビリティの生産・販

売を行うベンチャー企業「WHILL株式会社」の CEO、CDO、CTOはそれぞれ、日産自

動車、ソニー、オリンパスの出身者であるし、多様な家電等を手掛けるベンチャ

ー企業「株式会社 Cerevo」の創業者はパナソニックの出身者である。

また、ものづくりベンチャーのなかには、企業が社内プロジェクトとして開発

を始めたものがベースになっているものも少なくない。中堅・中小企業が第二創

業的にものづくりベンチャーを立ち上げるケースや、大手メーカー等が自社で事

業化できない技術やプロジェクトを社外に切り出す(カーブアウト)形で、もの

づくりベンチャーが生まれるということも起こっている。

このことは、わが国のものづくりベンチャーの活性化を実現するうえで、もの

づくりベンチャーの担い手を「製造業」の中から育てていくことが重要であるこ

とを示唆している。

ものづくりベンチャー

立ち上げ・構想

研究開発・試作・量産・事業化

成長

ものづくりベンチャーを輩出・育成

ものづくりのサポート・技術提供

オープンイノベーション・共同事業化

製造業

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製造業がものづくりベンチャーの「製品づくり」を支えている

ものづくりベンチャーは、独自のハードウェアを開発し、試作し、量産する必

要があるが、それらを全て自社で行うことはほとんどない。近年では、3D プリン

タの普及に象徴されるように、大がかりな設備がなくてもハードウェアを「開発」

できる環境が整ってきており、ある程度の「試作品」までは小規模なベンチャー

企業でも自力で製作する場合が多い。一方で、その試作品を、顧客に提供できる

レベルまで完成度を高めていく工程や、それを量産に向けて試作を重ねていく工

程、そして実際に量産していく工程では、ベンチャー企業がそれを自社で対応す

ることはできず、様々なものづくり基盤技術や設備、ノウハウを持つ製造業の企

業との連携が必要不可欠である。

例えば、ソーラーパネル清掃用ロボットを開発する未来機械の事例では、200

を超える部品の設計や試作・量産と、それらの組立にあたり、中小企業から大企

業まで、多様な製造業企業が関わっている。なお、このものづくりベンチャーと

製造業企業の関わりは、一般的な「発注-受注」の関係を超えるものになること

も少なくない。ものづくりベンチャーは、連携先の製造業企業に、「ものづくりの

専門家としての立場からの助言や提案」を求めており、製造業企業側は、通常の

企業間の取引よりもかなり踏み込んだ関わりを行っているケースが多い。

ものづくりベンチャーと製造業の連携による新規事業創出

製造業とものづくりベンチャーの連携が高じると、ときに「共同での新規事業創

出」が起り得る。この点については、現時点ではまだ実現している事例は少ないが、

今後本格化する兆しは見えはじめている。

例えば、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズの事例では、現在のところ、同

社の開発した全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」をパナソニックが量産試作・

量産面で支援する、という形での連携が進んでいる。しかし、セブン・ドリーマー

ズ・ラボラトリーズによれば、これはあくまで「第一段階」であると言う。そして、

その次の段階として構想されているのが、パナソニックが多くの技術を持つ洗濯

機・乾燥機とランドロイドを統合するなど、共同で新しい事業を創造する、という

ものである。

このプロジェクトがこの先どのように進むのか、本当に実現するか否かは現時点

ではわからない。しかし、ものづくりベンチャーと製造業の連携が深化・進化した

先には、このような新しい事業が生まれる可能性がある。

つまり、ものづくりベンチャー企業と製造業企業が対等な形で連携し、両者が固

有の強みを差し出し、共同で新しい事業を作っていく、という将来像である。現在、

多くの製造業企業が、ものづくりベンチャーとの連携に積極的な姿勢を取り始めて

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いるが、長期的にはこのような形でのオープンイノベーションを目指しているもの

と推察される。

これらのことは、わが国のものづくりベンチャーの活性化を実現するうえで、製

造業とものづくりベンチャーの連携を促進していくことが重要であることを示唆し

ている。

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3.ものづくりベンチャーの支援者 本節では、「ものづくりベンチャー発展の可能性と政策的課題」についての示唆を得るこ

とを目的に、ものづくりベンチャーの事業に深くかかわる外部の主体について見ていくこ

とにしたい。一般的に、ベンチャー企業の活性化のためには、ベンチャー企業に関わる多

様な主体を含めた生態系、「ベンチャー・エコシステム」の形成・発展が重要であるといわ

れる1。政府が 2016 年 4 月に発表したベンチャー企業政策の指針『ベンチャーチャレンジ

2020』のなかでも、シリコンバレー等の世界のベンチャー・エコシステムと密接に繋がり

ながら、2020 年に向けて日本のベンチャー・エコシステムの構築を目指すことが示されて

いる。このことは、ものづくりベンチャーにおいても同様で、ものづくりベンチャーの発

展のためには、ベンチャー企業、既存企業、大学、研究機関、金融機関、公的機関等の多

様な主体が関わりあうエコシステムを構築していくことが必要不可欠である。今回は、そ

のようなエコシステムを構成する主体の中でも特に、ものづくりベンチャーのエコシステ

ムの特徴である、「既存の製造業」、そして、ものづくり分野の「アクセラレータ(投資家

の一形態)」の活動に着目することにした。

① ものづくりベンチャーを支援対象とする「スタートアップ・アクセラレータ」

ここでは、ものづくりベンチャーの重要な支援者の一つ、「スタートアップ・アクセラレ

ータ」に着目し、その活動の内容と役割を整理する。

「スタートアップ・アクセラレータ」とは、ベンチャーキャピタルの業態の一つで、立

ち上げて間もない(あるいは会社設立もしていない)ベンチャー企業に対して、小額の出

資と、事業化支援のための短期集中型のプログラムを提供する機関を指す。もともとは、

インターネット関連サービス等の分野を支援の対象とするアクセラレータが多かったが、

ここ数年で、ものづくりベンチャーを重点的に支援するアクセラレータが登場しており、

今回取り上げるのもそうしたアクセラレータである。

○本調査で取り上げる国内外のスタートアップ・アクセラレータ

メイカーズ・ブートキャンプ(京都) ものづくりベンチャーの量産試作、プロジェクト・マネジメントを重点的に支援

リバネス (東京) 科学技術の社会実装を目指す研究者等を支援

HAX(深圳) 深圳の「エコシステム」の強みを活かし、世界からものづくりベンチャーを引き寄せる

1 ベンチャー・エコシステムとは、起業家、既存企業、大学、研究機関、金融機関、公的機関等の構成主

体が共存共栄し、企業の創出、成長、成熟、再生の過程が循環する仕組み(生態系)のこと。

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図表 8

世界的なものづくり企業が集積する京都をベースにものづくりベンチャーの量産化設計を支援

メイカーズ・ブートキャンプ/京都試作ネット

メイカーズ・ブート・キャンプは、株式会社Darma Tech Labs(京都市)が主催する、ものづくりベンチャー支援プログラム。

主に「機能試作」を終えた段階のベンチャー企業を支援対象とし、「量産試作」の以降の工程を支援領域としている。プログラムの運営には、試作を強みとする京都の中小企業で構成されるネットワーク組織「京都試作ネット」が全面的に協力しており、工場とのマッチングだけでなく、量産化までのプロジェクトマネジメント全体を支援できる点が特徴。

発掘

量産試作・量産支援

事業化支援

成長支援

高精度な製品を開発する国内及び海外のものづくりベンチャーが支援対象 ハードウェアを開発する国内外のベンチャー企業が支援対象。特に、京都のものづくり企業の強みを活かせる、高精度なものづくり技術を必要とするベンチャー企業を重点的に支援。

また、海外のパートナーと連携し、海外のベンチャー企業を京都に呼び込む取組を展開。

試作資金の出資、京都の試作企業ネットワークによる量産試作支援・プロジェクトマネジメント支援・

海外のパートナーと連携した事業化・成長支援 国内外の主要なハードウェア支援機関との連携体制を構築しており、プログラム終了後も、これらのパートナーと連携した事業化・成長支援を行う。受けられる支援は、クラウドファンディングへの出展、投資家との面談、海外での販路開拓など。

A社デザイン

B社基板/回路

C社加工

D社組立

ベンチャー企業

メイカーズ・ブート・キャンプ

京都試作ネット企業・関西地域の大企業(量産化試作の支援)

(プロジェクトマネジメント支援)

ものづくりベンチャーに対して、量産試作に必要な資金を出資。(Shisaku Fund)

京都試作ネットのメンバー企業が中心となり、ものづくりベンチャーの量産試作をサポート。地域内の製造業ネットワークを活用し、ワンストップでの対応が可能。

工場とのマッチングだけでなく、量産試作の納期・コスト・品質の見える化とマネジメントの支援を行う。

量産試作後の「量産」段階では、国内及び海外の量産工場とのマッチングを行う。

研究開発・機能試作支援

科学技術の社会実装を目指す研究者・ベンチャー企業の支援を行うプラットフォーム「テックプランター」

株式会社リバネス

株式会社リバネスは、「科学技術の発展と地球貢献を実現する」ことを経営理念に掲げ、子供向けの科学教室や大学等の研究者支援、企業向けの人材開発支援など、様々な事業を展開する2001年創業の企業。

同社は、「技術の種をビジネスに成長させる(科学技術を社会実装する)」ため、研究者・ベンチャー企業向けの発掘育成プログラム「テック・プランター」を2013年から実施している。

科学技術の社会実装を目指す研究者(主に起業前)が支援対象 「テックプランター」は、「科学技術(テック)の種を発芽させて大きな土地へと移植するためのプランター」という意味を持ち、科学技術を活かした事業創造を目指す研究者の発掘・育成を行うプログラム。

ビジョンを共有する3人以上の仲間作り 科学技術を活用して創造したい世界を共有できる仲間を集め、チームで事業を推進する体制作りを支援する。

長期的な視点での支援・育成 「社会を大きく変える科学技術の種は、発芽させて社会に根付かせるには長い時間がかかる」との認識のもと、長期間にわたる研究開発や事業化のプロセスを切れ目なく支援。プログラムに参加する研究者は、リバネスやリバネスの協力企業等から、事業計画の立案支援や、研究体制構築支援、会社設立支援など、多様な支援を受けられる。

墨田区等の中小企業と連携した開発・試作支援 試作品の開発や量産のサプライチェーンの構築に向けて、リバネスがネットワークを有する墨田区等の中小企業を紹介。次世代風力発電の「チャレナジー」のケースでは、墨田区の板金加工企業「浜野製作所」が中心となって試作機の開発を支援した。

テックプランター出身のベンチャー「チャレナジー」が手掛ける次世代風力発電機

発掘・

チームビルディング

研究開発・機能試作支援

量産試作・量産支援

事業化支援

成長支援

大企業との連携・投資家との連携を促進 テックプランターには、12社の大企業が「ダイヤモンドパートナー」として運営に参画している。定期的に開催

されるデモ・デイに参加すれば、これらの大企業や投資家等へのプレゼンテーションの機会を得られ、大企業との提携・協業や資金獲得への道が拓ける。(チャレナジーのケースでは、リバネスが仲介することで、機械要素部品メーカー大手のTHKや、日本ユニシスとの共同開発が実現。ベンチャー企業単独では難しい大型試作機の開発とフィールドでの実証テストを成功させた。)

有望な案件には、リバネス自身が運営に参画するVC「リアルテックファンド」による出資も行う。

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図表 9

中国、深圳の「エコシステム」の強みを活かし、世界中からものづくりベンチャーを引き寄せるアクセラレータ

HAX

HAXは、ベンチャーキャピタルSOSVの一部門として2011年に設立された、ハードウェア分野専門のアクセラレータ。世界中からシード期のものづくりベンチャーを定期的に募集し、少額の出資を行ったうえで、111日間の支援プログラムを提供している。HAXでは、中国の深圳市とシリコンバレーに拠点を有しており、プログラムに参加するベンチャー企業

は、世界有数の電子機器産業の集積地である深圳(珠江デルタ地域)の環境を活かしながら製品開発・試作を行うとともに、プログラムの終盤にはシリコンバレーで開催される大企業や投資家向けのDEMO DAYに参加し、成長の機会を得る。

発掘

研究開発・機能試作支援

量産試作・量産支援

事業化支援

成長支援

イノベーティブな事業を目指すチームを支援 HAXのアクセラレータ・プログラムには、欧米を中心として、毎回数百社のものづくりベンチャーからの応募

があり、採択者は全体の5%以下。選定基準は一様ではないが、「イノベーティブな事業」を目指すチームであることが必須。つまり、社会課題やニーズに対して、全く新しい方法でソリューションを提供しようとしている、あるいは、既存の事業に比べて10倍以上の価値(安さや性能等)の提供を目指すチームを選定。

深圳の「エコシステム」を基盤とした、全方位的な支援プログラム HAXのプログラムは、事業の構想段階から試作・量産・事業化まで、ステージごとに緻密に設計された全方位的な支援プログラムとなっている。

プログラム序盤において、参加するベンチャー企業は、 HAX内外の多様な専

門家等からのアドバイスを受けながら、深圳の発達した材料・部品の流通網を活かして「試作→検証→再設計」のプロセスを高速で繰り返し、事業プランや製品の完成度を高めていく。

量産試作や量産の段階に入れば、HAXがネットワークを有する工場とのマッチング、サプライチェーン構築の支援を受けられる。

また、プログラムの終盤には、事業化に向けて、マーケティングや資金調達(クラウドファンディングを含む)に向けた支援を受けられる。(プログラムの最後の2週間は、DEMO DAYに向けて、シリコンバレーでピッチのトレーニングを行う)

シリコンバレーでのDEMO DAY開催・その後の成長支援 プログラムの最終日には、シリコンバレーにて、大企業や投資家向けに事業を披露するイベント(DEMO DAY)が開催される。

事業化後には、HAXが別途運営する、成長段階のベンチャー企業向けの支援プログラムに参加することも可能。

1.中国

2.プログラムのコンテンツ

3.応募者の質と数

4.コミュニティ

5.コネクション

深圳の製造業が持つ力の活用

スピード/技術力/低コスト/柔軟な量産対応

2011年の立ち上げ以降、プログラム

を開催する度に改良し続け、洗練されたプログラムを実現

数百の応募者の中から、厳選されたベンチャー企業のみを採択

20名のフルタイムの専門家/100名の起業家/600名の同窓生・卒業生からなるコミュニティ

大企業、サプライヤー、小売事業者等とのネットワーク

HAXの強みの源泉

01/ 深センは製造の現場に近い。深センにいれば、製品がど

うやって作られているか、その開発と製造のプロセスを最初のところから理解することができる。そして、このことはハードウェアを作るうえでは極めて重要なことだ。

02/ 深センのエンジニアは余所とは違う。深センのエンジニア

は、コストの制約ありきで設計することに慣れている。これは、他の国のエンジニアが機能優先でコストを考慮しない傾向があるのと対象的だ。

03/ 深センには山寨(Shanzhai)の文化がある。華強北の電

気街で売っているような安っぽいソーラーランプやニセモノのiPhoneのなかには、しばしば面白い技術や便利な部品が入っ

ていて、それらは近くの工場に行けばすぐ手に入る。それらをあなたが開発している製品に組み込んだっていい。そんな体験は他の国ではまずできない。

04/ 深センでは開発コストが安い。そして、深センにいること

で中国市場についての理解を深めることができ、将来的にそこであなたの製品を売る際に役立つ。

ベンチャー企業が中国で開発を行うべき理由

HAXの第5期生で、バイオ分野

の汎用的な実験装置を開発する「Opentrons」の製品。

<出所> HAXのホームページ及び、HAXへのヒアリング結果よりMURC作成

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② ものづくりベンチャーの「ものづくり」を支える製造業企業

ここでは、ものづくりベンチャーの重要な支援者の一つ、「既存の製造業」に着目し、

その活動の内容と役割を整理する。ものづくりベンチャーによる既存の製造業との連

携事例に関しては、第 2 節「ものづくりベンチャーの事例と特徴」でも詳しく述べた

が、ここでは第 2 節とは逆に、既存の製造業側からの視点で、ものづくりベンチャー

との連携を見ていく。

○ものづくりベンチャーと連携する製造業の事例

株式会社 ユカイ工学 ものづくりベンチャーの試作開発支援を行う ものづくりベンチャー

株式会社ジェネシスホールディングス 深圳のサプライチェーンをフル活用した ものづくりベンチャー支援

オムロン株式会社 大企業の保有技術の ものづくりベンチャーによる活用

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図表 10

ものづくりベンチャーの試作開発支援を行う ものづくりベンチャー株式会社ユカイ工学

構想・立ち上げ

研究開発・機能試作

量産試作・量産

事業化

成長

ものづくりベンチャーとして、コミュニケーションロボットの開発・製造・販売を行う ユカイ工学は、ピクシブやチームラボといった著名な企業の立ち上げに関わった起業家の青木氏が、2007年に立ち上げた。

「ロボティクスで世の中をユカイにする」をテーマに、ロボットやIoT機器の開発・製造・販売を行っており、2015年には自社開発した留守番中の子どもの見守りを助けるコミュニケーションロボット「BOCCO」の販売を開始した。

ハードウェア開発ノウハウに乏しいものづくりベンチャーの製品開発を支援 ユカイ工学は、自身が「ものづくりベンチャー」だが、他のものづくりベンチャーの製品開発支援も、事業として行っている。ものづくりベンチャーの中でも、情報技術に重点を置くベンチャー企業等では、ハードウェアの開発ノウハウに乏しい場合が少なくない。そうした場合、ユカイ工学が「機能試作」の部分を支援することで、スムーズにその後の量産試作・量産の工程に進むことが可能になる。(同社では、必要に応じて、量産試作・量産を行う工場の紹介も行っている)

例えば、自動車の走行データ等の活用を実現するサービスを展開する「株式会社スマートドライブ」では、ユカイ工学と連携して、データ収集用のデバイスを開発した。

コミュニケーションロボット「BOCCO」

深圳のサプライチェーンをフル活用したものづくりベンチャー支援株式会社ジェネシスホールディングス

構想・立ち上げ

研究開発・機能試作

量産試作・量産

事業化

成長

日本の起業家が中国で立ち上げた電子デバイス製造受託企業 ジェネシスは、電子機器の製造受託企業として、藤岡淳一氏が2011年に香港・中国で創業。ファブレスの形態でスタートし、2013年には深センに自社生

産拠点(組立と検査)を設けた。主に日本企業を顧客として、高品質と小ロット対応を強みとして事業を行っている。

製品の企画・仕様検討の段階から、設計後の量産・サポートまで、ワンストップで対応できる点も強みであり、非製造業の企業が自社で使う専用のハードウェアを開発するケースなど、ハードウェア開発に関するノウハウに乏しい顧客からの引き合いも多い。

深圳の強みを活かし、ものづくりベンチャーの製品開発を支援

同社は近年、日本のものづくりベンチャーの製品開発・量産への協力も積極的に行っている。深センやその周辺地域では、電子機器の部品・モジュール等が大量に流通しており、また、金型製作や部品加工を行う企業も多く、こうした深センの製造業サプライチェーンを活用することで、ものづくりベンチャーは低コストでの製品開発・量産を行うことが可能になる。同社では、この深センのサプライチェーンと日本のものづくりベンチャーとを結びつけるハブとしての役割を果たしている。

深センの自社生産拠点

同社がベンチャーと共同で開発したVR接客端末

大企業の保有技術の ものづくりベンチャーによる活用オムロン株式会社

構想・立ち上げ

研究開発・機能試作

量産試作・量産

事業化

成長

オープンソース・ハードウェア化のプロジェクト「SENSING EGG PROJECT」 オムロンでは、同社の「人理解画像センシング技術」(画像から自動で顔認証や性別・年齢推定等を行える技術)を、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせでパッケージ化し、それを、ものづくりベンチャー等の外部のエンジニア向けに公開・提供する「SENSING EGG PROJECT」を2014年から実施している。

この技術は、同社が2000年頃から培ってきたもので、従来は主に、デジタルカメラや携帯電話向けに技術をライセンスするという形で事業展開を行ってきた。「SENSING EGG PROJECT」は、このパッケージ化した製品をオープン化することで用途とユーザーを広げ、様々な場面での課題解決に役立てるべく始まった。

現在は、カメラセンサーと小型コンピュータで構成される組み込み型のコンポーネント「ヒューマンビジョンコンポ(HVC-P2)」及び、ネットワークカメラ「家族目線(HVC-C2W)」を、1個単位から販売している。

オープン化された技術をベンチャー企業が活用

これまでに、これらの部品・製品をベンチャー企業が活用することで、実際に多くのビジネスが生まれている。例えば、北九州市のYKSTORES株式会社では、ヒューマンビジョンコンポを活用して、IoT表情センシング装置『lattice-egg』を開発、得られた情報を、蓄積し解析する事で、ストレスの少ない環境に導くサービスの実証実験を開始、実用化を目指している。

「ヒューマンビジョンコンポ(HVC-P2)」

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なお、昨年度の経産省の調査事業「我が国ものづくりベンチャーの動向等調査2」の

報告書では、製造業のなかでも特に、試作や小ロット量産を得意とする中小企業が、

ものづくりベンチャーの「量産試作」や「量産」において重要な役割を担っているこ

とが述べられている。一方で、今回改めて調査を実施したところ、ものづくりベンチ

ャーとの連携は、中小企業に限らず大手メーカー等も積極的に行っていること、そし

て、製造業の果たす役割も「試作」や「量産」にとどまるものではないことが明らか

になってきた。

大手メーカーがものづくりベンチャーに対して技術・資源を提供

例えば、オムロンでは自社の技術をベンチャー企業等に使いやすい形で提供し、

活用を促進するプロジェクト「SENSING EGG PROJECT」を実施しており(図表

10)、電子部品メーカー大手のアルプス電気も、ウェアラブル機器等を開発するベン

チャー企業に対して、自社の小型化技術を提供・協力する取組を行っている3。また、

シャープでは、ものづくりベンチャーに対して量産化の支援を行うプログラム

「SHARP IoT. make Bootcamp」を行っている。このように、現在では中小企業だ

けでなく、大手企業もものづくりベンチャーとの連携に対して積極的な姿勢を見せ

ている。

ものづくりベンチャーへの「試作以前」の工程を支援

ものづくりベンチャーが製造業との接点を持つのは、「量産試作」及び「量産」の

工程であることが多い。つまり、自社内で研究開発を行い試作品(機能試作、プロ

トタイプ)を製作したベンチャー企業が、それを量産するために、量産技術や設備

を持つ製造業と連携をする、というパターンである。

一方で、開発するハードウェア自体が複雑で難易度が高いケースや、(IT ベンチ

ャーが IoT 機器を開発するケースなど)ものづくりベンチャー側にハードウェア開

発のノウハウが乏しい場合などは、研究開発や機能試作の段階から製造業が関わる

ことも少なくない。例えば、オムロンの「SENSING EGG PROJECT」では、自社

の技術をベンチャー企業が使いこなせるよう、機能試作段階から技術的な支援を行

っている。また、ユカイ工学では、自身がものづくりベンチャーであると同時に、

他のものづくりベンチャーに対する支援も行っており、ハードウェアの開発経験の

乏しいベンチャー企業に対し、設計や機能試作などの上流工程を支援している。

海外の「エコシステム」との接続を支援

世界的な潮流として、ものづくりベンチャーが製品開発や試作・量産を中国で行

うケースが増加していると言われる。深圳を中心とする珠江デルタ地域には、電子

2 経済産業省(2016)「平成27年度製造基盤技術実態等調査(我が国ものづくりベンチャーの動向等調査)

報告書」http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000413.pdf 3 経済産業省「2016 年版ものづくり白書」には、アルプス電気がウェアラブル機器を開発するベンチャー

企業「16lab」に対して技術協力を行った事例が掲載されている。

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デバイス関連の製造業の巨大な産業集積と材料・部品の流通網、そして技術者や起

業家等のコミュニティ、多数の VC・個人投資家などが存在しており、一つの「ベ

ンチャー・エコシステム」を形成している。このエコシステムと上手く繋がること

ができれば、ものづくりベンチャーは高速かつ安価に製品開発・量産を行うことが

可能になる。一方で、海外のものづくりベンチャーが、単体でこのエコシステムの

強みを使いこなすことは難しく、その間をつなぐ企業や人材が大きな役割を果たし

ている。例えば、深圳に電子機器の生産拠点を持つジェネシスホールディングスで

は、日本のものづくりベンチャーの製品開発・サプライチェーン構築の支援を深圳

で行っている。(中国国内で調達した材料・部品を自社工場で組み立て、検査し、出

荷し、アフターサポートまで行っている)

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4.ものづくりベンチャー発展の方向性と政策的課題 ① 整理の枠組み

本節では、これまでの議論を踏まえて、日本におけるものづくりベンチャー発展の方向

性と政策的課題について探っていきたい。なお、本調査では目指すべき「ものづくりベン

チャーが発展した状態」について、次のように認識している。

有望なものづくりベンチャーが多く生まれ

それが国内外のベンチャー・エコシステムに育まれてスムーズに事業化を達成でき

その一部が世界的な企業へと成長していく(あるいは既存企業に買われることで既

存企業の付加価値が向上する)

これを、ものづくりベンチャーの事業プロセスに対応させて論点を整理したものが以下

の図である。つまり、「ものづくりベンチャーの担い手を増やす」こと、研究開発や試作・

量産などの「事業化しやすい環境を整える」こと、そして、「ベンチャー企業が世界で活躍

できるように後押しする」ことが主な論点となる。なお、下図の「0→0.1」、「0.1→1」、「1

→N」という表記は、ベンチャー企業の成長プロセスを示すためにしばしば使われる表現で、

何もないところから事業を立ち上げることを「0から1を作る」、立ち上がった事業を成長

軌道に乗せることを「1を N にする」等と表現することが多く、ここでもその意味で使っ

ている。

図表 11

「ものづくりベンチャーの発展」の主な論点

② ものづくりベンチャーの担い手を増やすには (0→0.1)

ものづくりベンチャーの担い手の少なさ

現状では、国内の「ものづくりベンチャー」の実態に関する定量的なデータはほ

とんど存在せず、他国と比べてどのような状況にあるのか、正確に把握することは

ものづくりベンチャーの事業プロセス

立ち上げ・構想

研究開発・試作・量産・事業化

成長

0→0.1 0.1→1 1→N

ものづくりベンチャー活性化の論点

担い手を増やすには?事業化の環境を整えるには?

世界的な企業へ成長するには?

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21

難しい。しかし、今回の調査でインタビューを実施した国内外のアクセラレータ及

び VC の意見を総合すると、「国内のものづくりベンチャーは徐々に増加しているも

のの、欧米や中国に比べて、その増加スピードや個々の企業の成長スピードにおい

て大きく下回っている」可能性が高い。実際に、例えば HAX の投資先について見て

みると、約 200 件の投資先のうち、北米のベンチャー企業が約半数の 100 件程度、

中国が 20 件程度、英国が 10 件、フランスが 6 件、韓国が 4 件、日本が 1 件という

構成になっており、日本のものづくりベンチャーの存在感は決して高いとは言えな

い。もともと、日本のベンチャー企業全体の課題として、担い手の少なさ、開業率

の低さが様々なところで指摘・議論されており、これはものづくりベンチャーだけ

の課題というわけではない。しかし、以下に述べる日本のポテンシャルを考慮する

と、日本のものづくりベンチャーの担い手に関しては大きな「伸び代」があると考

えられる。

ものづくり分野の研究者・技術者がものづくりベンチャーの潜在的な担い手

国内外のアクセラレータ及び VC へのインタビューの結果によれば、「優れたもの

づくりベンチャー」には、創業者や創業チームにいくつかの共通項が見いだせる。

それは、事業の出発点となる「消費者のニーズや社会的課題への感度の良さ」、次に、

そのニーズや社会的課題に対して最適なソリューションを実現する「技術」、そして、

それを事業として成功に導く「経営力・実現力」である。この3つの要素を、創業

者または創業チームが備えている必要がある。

図表 12

イノベーションを実現するものづくりベンチャーの要件

<出所>HAXへのインタビュー結果をもとに MURC作成

イノベーション

技術

経営力・

実現力

消費者ニーズ・

社会的課題への感度

研究者・技術者

デザイナーマーケター

経営者

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22

このとき、日本のものづくりベンチャーの担い手を増やすための方向性としてど

のようなものが考えられるだろうか。この点に関して、国内外の VC・アクセラレー

タからは「ものづくり分野の研究者・技術者」の果たす役割の大きさを指摘するコ

メントが得られた。それらを要約すると以下のようになる。

図表 13

ものづくりベンチャーの担い手としての研究者・技術者の重要性

例えば、インターネット・サービス分野のベンチャー企業が主流であった10年前は、優れたアイデアとMBA的な

経営力があれば、技術を外部から調達するなどして事業を作り上げ、成功をおさめることも可能だった。しかし現

在の、特にものづくりの分野では、技術の「深さ」と「変化の速さ」が急激に高まっており、「技術」を持つ人間自身

が企業の意思決定を行うことが不可欠になっている。そうなると、ものづくりベンチャーの担い手を増やしていくうえ

で最も重要なのは、研究者・技術者自身が、マーケター的な感覚と経営力を身に着け(あるいはそれらがわかる

人材とタッグを組んで)事業を立ち上げられるようにすることだ。

<出所>国内外の VC、アクセラレータへのヒアリング結果より作成

世界有数の「ものづくり分野の研究者・技術者」大国である日本

このように、ものづくりベンチャーの潜在的な担い手として特に重要なのは、も

のづくり分野の研究者・技術者だと考えられる。なお、この「ものづくり分野の研

究者・技術者」人材に関して、日本は世界的に見ても大きなポテンシャルを有して

いる。図表 14 は、製造業と非製造業の「企業内の研究者」の数と割合を、主要国

間で比較したものだが、これによれば日本の「企業内の研究者」の多く(88%)は

製造業の中におり、その比率は主要国の中で最も高いことがわかる。また、研究者

の数で見ると、情報・通信業等が含まれる非製造業の研究者数は 5.9 万人で米国の

2 割以下であるのに対し、製造業の研究者数は 43 万人で、米国の 8 割強にのぼる。

ものづくりベンチャーの潜在的な担い手は「地域」に多く存在

現在、日本の IT ベンチャーのほとんどは、東京圏から生まれている。(図表 16)

この理由については、IT ベンチャーにとって重要な人的ネットワークや情報が東京

に集中しているためと説明されることが多い。しかし、これ以外にも、そもそも担

い手となる情報技術の研究者・技術者が、東京圏に集中していることも原因になっ

ていると考えられる。(国勢調査によれば、情報通信業の研究者・技術者等の6割が、

東京圏(1都3県)に居住している)一方で、製造業の研究者・技術者に関しては、

東京圏への集中の程度が低く、「地域」に多数の研究者・技術者の人材が存在する(図

表 15)。つまり、ものづくりベンチャーは、東京圏以外の「地域」からも多く生ま

れてくる可能性がある。政府は、2016 年 4 月に、わが国のベンチャー・エコシステ

ムの目指す絵姿を示した「ベンチャー・チャレンジ 2020」を公表しており、その中

で「地域」からの「案件発掘(有望なベンチャー企業の発見と育成)」を重視する姿

勢を打ち出しているが、地域における有望なベンチャー企業は、「ものづくりベンチ

ャー」という形で現れてくる可能性がある。

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23

図表 14

日本には、ものづくりベンチャーの潜在的な担い手となる製造業の研究者・技術者が数多く存在

(注)米国の企業部門の研究開発費には、NAICS における「Agriculture, Forestry, Fishing and Hunting」及び 「Public

Administration」は除かれている。よって、他国の非製造業と異なっている

日本のデータは、2013 年~2015 年の3年平均、他国に関しても、2010 年から 2014 年の間での 3 年平均(国によってデー

タの時点は異なる)

<出所>文部科学省科学技術・学術政策研究所(2016)『科学技術指標 2016』

88.0%

62.2%

82.7%

46.3%41.3%

81.1% 79.3%

12.0%

37.8%

17.3%

53.7%58.7%

18.9% 20.7%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

日本 米国 ドイツ フランス 英国 中国 韓国

製造業 非製造業

主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究者割合

0 200,000 400,000 600,000 800,000

中国

米国

日本

韓国

ドイツ

フランス

英国

製造業 非製造業

主要国における企業部門の製造業と非製造業の研究者数(人)

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図表 15

ものづくりベンチャーの潜在的担い手となる「製造業の研究者・技術者」は

東京圏以外の「地域」に数多く存在

「製造業」における専門的・技術的職業従事者の地域分布

「情報通信業」における専門的・技術的職業従事者の地域分布

<出所>平成 27年国勢調査 速報集計 抽出速報集計より MURC 作成

専門的・技術的職業従事者数

構成比

全国 743,600 100%愛知県 98,200 13.21%神奈川県 87,300 11.74%東京都 66,300 8.92%埼玉県 42,900 5.77%大阪府 42,500 5.72%兵庫県 39,000 5.24%静岡県 38,600 5.19%千葉県 24,500 3.29%茨城県 21,200 2.85%広島県 20,500 2.76%長野県 20,200 2.72%栃木県 20,000 2.69%滋賀県 18,500 2.49%群馬県 14,900 2.00%岐阜県 14,100 1.90%福岡県 13,100 1.76%三重県 12,000 1.61%京都府 11,200 1.51%新潟県 10,600 1.43%福島県 10,100 1.36%岡山県 9,000 1.21%富山県 8,800 1.18%奈良県 7,900 1.06%宮城県 6,900 0.93%石川県 6,900 0.93%

20%超

10%超~20%

5%超~10%

3%超~5%

2%超~3%

1%超~2%

20%超

10%超~20%

5%超~10%

3%超~5%

2%超~3%

1%超~2%

専門的・技術的職業従事者数

構成比

全国 1,010,400 100%東京都 267,500 26.47%神奈川県 169,600 16.79%埼玉県 89,000 8.81%千葉県 79,300 7.85%大阪府 61,200 6.06%愛知県 44,700 4.42%兵庫県 30,000 2.97%福岡県 28,100 2.78%北海道 23,200 2.30%茨城県 19,800 1.96%静岡県 19,700 1.95%宮城県 13,000 1.75%京都府 12,900 1.73%広島県 12,600 1.69%長野県 9,300 1.25%岡山県 7,800 1.05%沖縄県 7,800 1.05%岐阜県 7,600 1.02%群馬県 7,300 0.98%栃木県 7,200 0.97%石川県 6,700 0.90%新潟県 6,600 0.89%熊本県 5,400 0.73%奈良県 5,300 0.71%大分県 4,800 0.65%

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図表 16

ベンチャー企業は関東に一極集中している

(注)日本に法人格があるベンチャーキャピタル(VC)等 163社へのアンケート調査(回答数は 121社)

<出所> 一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター(2016)「ベンチャー白書 2016」

研究者・技術者の起業、スピンアウト、第二創業の活性化を図ることが重要

ここまで述べてきたように、ものづくりベンチャーの活性化のためには、ものづ

くりに関わる研究者・技術者の人材を、ものづくりベンチャーの潜在的な担い手と

位置付け、そこからの起業(スピンアウトや第二創業も含む)を促進していくこと

が重要である。例えば、製造業の企業内研究者や技術者の中には、一つの製品、一

つの事業を自分の手で作りあげて世の中に役立てたいという意思と情熱を持つ若手

も多い。しかし、多くの大企業では、若手の研究者・技術者が製品や事業全体の開

発に関わる機会は少なく、細分化された部門の中での研究開発に閉じてしまう傾向

があり、情熱を持て余すケースも少なくない。こうした人材が積極的に外へ出て起

業していく流れを作ることができれば、日本のものづくりベンチャーの活性化に大

きく寄与すると考えられる。

なお、現在、政府や公的機関では以下(図表 17)のようなベンチャー育成施策が

実施されている。一方で、これら既存の施策は IT ベンチャーや大学発ベンチャー、

スモールビジネス等を主な支援対象として想定したものが多く、ものづくりベンチ

ャー育成の施策としては十分には機能していない可能性が高い。

また、既に述べた通り、ものづくりベンチャーの育成という観点では、「地域」か

らの案件発掘が重要な要素となるため、国と地方自治体等が連携して、育成施策を

実現していくことが重要である。

東京, 62%関東(東京以

外)16%

北海道・東北2%

中部2%

近畿10%

中国・四国2%

九州・沖縄6%

国内ベンチャーキャピタルによる投資先ベンチャー企業の所在地

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図表 17

国等のベンチャー育成施策の例

・ 独創的な IT 人材によるアイデアの実現を支援(経済産業省 未踏 IT 人材発掘・育成事業、総務省

異能 vation)

・ シリコンバレー派遣を通じたイノベーターの育成 (経済産業省 始動 Next Innovator)

・ 地方の研究開発ベンチャー起業家候補の育成(NEDO)

・ 創業希望者向け創業スクール開催(中小企業庁 地域創業促進支援事業)

<出所>日本経済再生本部(2016)「ベンチャーチャレンジ 2020」

世界中から有望なベンチャー企業を日本に呼び込む

ここまでは、日本からものづくりベンチャーをいかに生み出していくか、という

点についての話だった。一方で、産業政策的な観点からは、「海外のベンチャー企業

の呼び込み」についても、同様に検討していくことが重要である。(海外のベンチャ

ー企業が日本で事業活動を行うことで付加価値がもたらされたり、海外のベンチャ

ーの製品や技術やサービスを活用することで日本企業の生産性が向上する可能性が

ある)

京都を中心に活動するアクセラレータ「メイカーズ・ブートキャンプ」では、欧

米や台湾のパートナーと連携して、海外のものづくりベンチャーを日本に呼び込む

活動を積極的に展開している。海外のものづくりベンチャーの中には、自国やその

周辺に製造業が少ないなどの理由で、製品の試作や量産がスムーズに行えないとい

う課題に直面するケースが少なくない。メイカーズ・ブートキャンプでは、そのよ

うなものづくりベンチャーを日本に呼び込み、日本の充実した製造業サプライチェ

ーンと結びつけることで、事業化に向けた支援を行っている。リバネスでも同様に、

海外のものづくりベンチャーを日本に招き、墨田区のものづくり中小企業とのマッ

チングを行っている。

このように、日本の製造業の産業集積という資源を活かせば、海外のものづくり

ベンチャーを日本に呼び込むことも可能だと考えられる。(これは、「ものづくりベ

ンチャー」だからこそ生まれる交流の形である)

③ 事業化の環境を整えるには (0.1→1)

ものづくりベンチャーは事業化のプロセスが長期化・高コスト化・複雑化しやすい

全てのベンチャー企業にとって、事業をいかに早く立ち上げるかは、大きな課題

である。立ち上げたばかりで収入源がない(あるいは少ない)ベンチャー企業は、

事業化までの期間が長引くと、すぐに資金的に厳しい状況に追い込まれ、また、他

社の追随を許すことにも繋がる。だからこそ、インターネット・サービス系のベン

チャー企業などは、立ち上げから半年程度で開発期間を終え、サービスの提供を開

始するケースも少なくない。しかし、ものづくりベンチャーの場合、このようなス

ピードで事業化に到達できるケースは非常に少ない。

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ものづくりベンチャーがハードウェアを「作る」ためには、「実際に試作品を製作

して、評価試験を行い、その結果を踏まえて設計を変更・修正する」ことを何度も

繰り返す必要がある。このとき、試作に必要な部品の中に、外部の製造業企業に製

作を依頼したり、汎用品であっても海外から取り寄せなければならないものがあれ

ば、部品の調達だけで数週間程度がかかり、試作→評価→設計変更のプロセスを一

回転させるだけで 1 か月以上かかる、ということも起こりうる。このような状況で

は、開発期間の長期化は避けられない。

また、部品の調達や金型の製作、量産にはその都度、外部への支払いが発生する

ため、ものづくりベンチャーは、インターネット・サービス系のベンチャー企業に

比べると事業化までにかかる直接経費も文字通り「ケタ違い」に大きくなる。(比較

的シンプルな IoT 機器でも量産までに人件費を除いて 1,000 万円程度、大型のロボ

ット等では数億円以上が必要になる)

さらに、ロボットのように部品の点数が多いハードウェアでは特に、試作や量産

を行っていくうえで、多数の製造業企業と並行して連携していく必要があり、開発

プロセスが複雑化しやすい。複数の外部企業と連携しながら、品質・コスト・スピ

ードのバランスを取りつつプロジェクトを適切にマネジメントしていくことは、ベ

ンチャー企業にとって容易なことではない。

ものづくりベンチャーは、このように、事業化までのプロセスの長期化・高コス

ト化・複雑化という問題に直面している。これらは、ものづくりベンチャーである

以上、どこまでもつきまとう問題ではあるが、この負担を軽くしていくことが、も

のづくりベンチャーの成長と活性化のためには必要不可欠である。

製造業の集積と、そこへのアクセスの良さがものづくりベンチャーの事業環境に強く影響する

このような問題に対して、いくつかのアクセラレータは、自らがものづくりベン

チャーと製造業の間に立って両者の連携を仲介する役割を果たすことで、解決を試

みている。例えば HAX は、電子部品の卸売店・小売店がいくつものビル内に所せま

しと立ち並ぶ深圳の「華強北」の電気街に拠点を構えており、HAX から支援を受け

るベンチャー企業は毎日のように電気街に出入りして電子部品を物色しながら試作

品の製作を進めている。また、HAX では深圳や周辺地域の工場との強固なネットワ

ークを築いており、ベンチャー企業が専用部品を必要とする場合や、量産試作・量

産に進む場合には、適切な工場とマッチングして、サプライチェーン構築を支援し

ている。

また、日本のリバネスは、墨田区の製造業企業との連携体制をとっており、支援

先のベンチャー企業に対して適切な製造業企業をマッチングして、「図面のない段階

からのものづくり支援」を行っている。さらに、京都の「メイカーズブートキャン

プ」では、試作を専業とする中小企業のネットワーク組織「京都試作ネット」が運

営に参画しており、ベンチャー企業に対して「量産試作」に特化したものづくり支

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援を行っている。

これらのことを踏まえると、「製造業の集積」と、(アクセラレータのような)「そ

の集積にものづくりベンチャーが接続できる仕組みがあること」は、その土地のも

のづくりベンチャーにとって非常に重要な要素だと考えられる。

国内の製造業サプライチェーンと ものづくりベンチャーを繋ぐ機能の充実が課題

日本の状況を見てみると、「製造業の集積」という点では日本は大きなポテンシャ

ルを有している。ものづくりベンチャーに対してきめ細かな対応が可能な、精密で

信頼できるものづくり技術を有する中小企業の集積に加え、ベンチャー企業が手掛

けるロボットや IoT 機器に欠かせない高精度のセンサーやモーターを製造する世界

トップレベルの企業、そして、強いブランド力を持ち最終製品の量産と流通に長け

た大手企業も、日本には数多く存在する。これらの企業とものづくりベンチャーと

の連携がスムーズに進むようになれば、日本のものづくりベンチャーにとって大き

なアドバンテージとなるし、前述した海外のものづくりベンチャーの呼び込みにも

つながり、「世界のものづくりベンチャーを日本の製造業が支えていく」という絵姿

が実現する可能性がある。

現状では国内において、メイカーズ・ブートキャンプやリバネスといったいくつ

かの主体が、ものづくりベンチャーと製造業を繋ぐ「プラットフォーム」としての

役割を果たしている。一方で、例えばメイカーズ・ブートキャンプでは、ものづく

りベンチャーの連携先となる製造業側は、京都試作ネットの中小企業が中心であり、

京都に多数立地する大手部品メーカー等の巻き込みは今後の課題だと述べている。

ものづくりベンチャーの事業を真に支えていくためには、ものづくり基盤技術を有

する中小企業に加え、部品メーカー、最終製品メーカー、部品商社やデザイン会社

といった多様な主体がプラットフォームと繋がり、ワンストップでサポートできる

体制を整えていく必要があり、政策的課題もここに存在すると思われる。

言い換えれば、中小企業から大手企業まで連なる地域の製造業サプライチェーン

を、ものづくりベンチャーが使いこなせるような環境を作ることが重要であり、そ

のためのプラットフォームを整備していく(あるいはそのような民間企業の取組を

支援していく)ことが、政策的な課題だと考えられる。

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図表 18

製造業のサプライチェーンとものづくりベンチャーを繋ぐプラットフォームを整備し、 世界のものづくりベンチャーを日本の製造業が支えていく

自前主義に陥らず、海外の「エコシステム」の活用と連携を促進することが重要

なお、「日本の製造業が世界のものづくりベンチャーを支えていく」という絵姿を

目指すといっても、自前主義にこだわっていては、肝心のものづくりベンチャー側

にはむしろ悪影響となる可能性が高く、海外のエコシステムの活用と連携を促進し

ていくことが重要である。

特に、世界のものづくりベンチャーの開発・量産拠点として選ばれている深圳が

物理的に近いという点は、日本のものづくりベンチャーにとっては大きなメリット

だと考えられる。深圳の中心地には、日本から半日もあれば到着できるし、渡航費

も日本国内の移動と大差ないほどに安い。本調査でインタビューを実施した VC や

アクセラレータからも、日本のものづくりベンチャーの活性化のためには、「深圳の

強みと弱みを把握したうえで上手く活用・連携する」という視点が重要だと指摘を

受けた。

いずれにしろ、日本と深圳という、性質の異なる2つの製造業の産業集積を使い

こなすことができる環境が整えば、日本のものづくりベンチャーにとって大きなア

ドバンテージになると考えられる。日本においてプラットフォームを整備する際に

も、深圳等、他の国・地域との役割分担・差別化を意識する必要がある。

④ 世界的な企業を輩出するには (1→N)

事業づくりに「10年かかる」ことを前提として、水面下の開発をサポートすることが重要

ものづくりベンチャーが手掛けるハードウェアの中には、高度な技術開発が必要

なものや、ハードウェア自体が複雑で技術的な難易度が高いものが存在する。これ

地域の製造業サプライチェーン

大手メーカー

中小企業

ものづくりベンチャープラットフォーム

プラットフォームの期待役割 ベンチャーと既存の製造業を繋ぐ 両者のギャップを埋める 連携において生じる諸問題の解決

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30

らは、上で述べたような「ものづくり」特有の課題が影響し、数年間以上の開発期

間と、多額の開発費用を必要とするものも少なくない。

ライフロボティクスやセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ、未来機械はそれ

ぞれ 5 年間以上、水面下での開発を続けていた。これらのものづくりベンチャーは、

いずれも現在では大型の資金調達に成功し、世界的な企業として成長していくこと

が期待されている。一方で、これらの経営者は皆、「タイミングと運が悪ければ、表

に出る前に埋もれてしまってもおかしくなかった」とコメントしている。このコメ

ントが事実であれば、これらの「成功事例」の陰に、タイミングと運が悪く埋もれ

ていった有望なベンチャー企業が数多く存在していた可能性が高い。また、今現在

も、多くの有望なベンチャー企業が水面下で開発を続けていると考えられ、こうし

た企業が埋もれないように支援していくことが重要である。

そもそも、ものづくりの分野で全く新しい事業を1つ作るには 10 年以上の時間が

かかるとも言われる。このような長期間の研究開発・事業化準備期間を、ベンチャ

ー企業による自力及び民間の支援だけで乗り越えていくことは容易ではなく、政策

的な支援が必要と考えられる。特に、日本は主要国の中でも企業の研究開発費に対

する政府の負担が小さく、ベンチャー企業の研究開発についても十分な支援がなさ

れていない可能性が高い。(研究開発税制優遇措置により控除された税額は比較的大

きいが、ベンチャー企業はそもそも利益が出ていないため恩恵を受けていない)

なお、政府は「ベンチャーチャレンジ 2020」において、2022 年までに VC 投資額

の対 GDP 比率を倍増することを数値目標として掲げている。しかし、VC のファン

ドの運用期間は通常 10 年以下であり、結果が出るまで 10 年以上かかるような研究

開発を VC 投資によって支えることは難しい。

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31

図表 19

日本は主要国の中でも企業の研究開発費に対する政府の負担が小さく、

ベンチャー企業の研究開発についても十分な支援がなされていない可能性が高い

(注)各国からの推計値 (NESTI が行った研究開発税制優遇調査による)、予備値も含まれる。

<出所>文部科学省科学技術・学術政策研究所(2016)『科学技術指標 2016』

製造業とものづくりベンチャーの「オープンイノベーション」の促進

既に述べた通り、現状では、ものづくりベンチャーと製造業の連携は、主に「試

作」や「量産」の領域で起こっている。この領域での連携は、製造業側にとっては

既存事業の延長線上での関わりとなるため比較的取り組みやすく、また、ベンチャ

ー企業側のニーズも強いため、非常に重要であることは間違いない。一方で、製造

業とものづくりベンチャーの連携によって本当の意味でのオープンイノベーション

を起こしていくためには、より踏み込んだ連携を行っていく必要がある。

0.19

0.18

0.11

0.08

0.08

0.07

0.03

0.00 0.05 0.10 0.15 0.20

米国(2012)

韓国(2013)

フランス(2013)

ドイツ(2013)

英国(2013)

中国(2013)

日本(2013)

政府負担分の企業の研究開発費の対GDP比

(%)

0.26

0.24

0.13

0.08

0.07

0.06

0.02

0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30

フランス(2013)

韓国(2013)

日本(2013)

英国(2013)

米国(2012)

中国(2013)

ロシア(2011)

(%)法人税のうち研究開発税制優遇措置により控除された税額の対GDP比

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例えば、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズとパナソニックは、試作・量産

の領域での連携を経て、将来的には両者の固有の技術を持ち寄った新しい製品・新

しい事業を共同で立ち上げることを目指している。このように、製造業とものづく

りベンチャーが共同で新しい事業を立ち上げたり、大企業の保有する技術をベンチ

ャー企業が活用したり、また、上記の事例とは異なるが、逆にものづくりベンチャ

ーの技術(あるいは会社自体)を大企業が買い取ることで、新しい事業が生まれて

いくような流れを促進していくことが重要だと考えられる。

こうした踏み込んだ連携は、現時点ではまだ事例が少なく、そこにどのようなニ

ーズや課題があるのか、そして、どのような政策的な「打ち手」があるのか、ほと

んど明らかになっておらず、今後重点的に検討していく必要がある。

図表 20

ものづくりベンチャーの事業プロセスにおける「川下」、「川上」での連携を促進し、

オープンイノベーションを実現することが重要

技術開発・機能試作

量産試作 事業化 成長量産

中小ものづくり企業(基盤技術)

部品・モジュールメーカー

最終製品メーカー

量産に向けた設計と試作を支援

販路提供/ブランド力提供

部品・モジュールの供給

自社工場やサプライチェーンを活用してハードウェアを量産化

共同事業化/M&A

技術のライセンス/共同研究

技術のライセンス/共同研究

部品・モジュールの活用支援

部品の製造・組み立て

図面のない状態からの開発支援

共同事業化

ものづくりベンチャーとの連携の形態

:現在の主な連携領域 :今後のものづくりベンチャー発展のために重要な連携領域

【凡例】

ブランド力提供共同事業化/

M&A

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5.おわりに 今回の調査のなかで明らかになった、ものづくりベンチャー発展の可能性と政策的課題

の概要は以下のとおり。

・ 独自のハードウェアを開発し、それを用いて事業を行う「ものづくりベンチャー」は、ここ数年間で世界的に大

きく増加しており、社会的に注目を集める有望な企業も少なからず登場している。

・ ものづくりベンチャーは、ものづくりだけを行っているわけではない。「IT」と「ものづくり」の境界は無くなりつつ

あり、ものづくりベンチャーは、その2つが重なる領域で多く登場している。

・ 日本からも、世界的な活躍が期待されるものづくりベンチャーが少しずつ登場している。一方で、日本の持

つポテンシャルを考慮すると、まだその活動は低調であり、「伸び代」が大きいと考えられる。

・ ものづくりベンチャーの出自や事業の在り方は多種多様だが、すべてのものづくりベンチャーは事業プロセス

の中に「独自のハードウェアを作る」という工程を含んでおり、そのために様々な場面で既存の製造業との

接点が生じている。(既存の製造業が、ものづくりベンチャーの創出・事業化・成長に大きく関与してい

る。)

・ 日本のものづくりベンチャーの発展のためには、「ベンチャー・エコシステム」の構築が不可欠であり、既存の

製造業はそのエコシステムのなかで、重要な役割を担うことになる。

・ 「ものづくりベンチャーの発展」、そして「ベンチャー・エコシステムの構築」には3つの大きな論点がある。1つ

目は、ものづくりベンチャーの担い手をどう育成するか。2つ目は、ものづくりベンチャーが事業化しやすい環

境をどう整えるか。3 つ目は、ものづくりベンチャーが世界的な企業へ成長していくには何が必要か、であ

る。

・ 担い手の育成に関しては、ものづくり分野の研究者・技術者の起業・スピンアウト・第二創業の活発化が

重要である。日本は他の主要国と比べても、多くのものづくり分野の研究者・技術者の人材を抱えてお

り、ポテンシャルは高い。地域に人材が多いことも特徴で、地域でのものづくりベンチャー育成が重要であ

る。

・ 事業化の環境整備に関しては、ものづくりベンチャーと既存の製造業との連携を促進するためのプラットフ

ォームの構築が重要である。中小企業から大手部品メーカー、大手最終製品メーカー、商社、デザイナー

まで、多様な製造業の関係主体が、ものづくりベンチャーの「ものづくり」をサポートする体制を作ることが必

要であり、両者の間に立って連携をマネジメントできるプラットフォームの整備が急がれる。また、ものづくりベ

ンチャーの連携先となる既存の製造業は、地域に多く存在しており、ここでもまた、「地域」の視点が重要

になる。

・ 成長支援に関しては、長期化・高コスト化する研究開発・水面下での事業化準備期間を、国や公的機

関がしっかりと支えていくことが重要である。特に、企業内の研究開発に関しては、既存の政策や民間の

主体では十分なサポートがなされていない可能性が高く、対応が急がれる。また、ものづくりベンチャーが既

存の製造業とより深く連携し、技術協力や共同事業化、M&A により、本当の意味でのオープンイノベー

ションを起こしていくことが重要である。

以上

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【実施体制・協力者】

<事業実施主体>

経済産業省製造産業局

参事官室 総括係長 板橋洋平

ものづくり政策審議室 係長 榊原風慧

<調査・執筆>

三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング

政策研究事業本部 経済政策部 研究員 北洋祐

公共経営・地域政策部 副主任研究員 中田雄介

経済政策部 主任研究員 齋藤禎

経済政策部 研究員 首藤みさき

コンサルティング事業本部 マーケティング戦略部 渡邊睦

<アドバイザー>

独立行政法人日本貿易振興機構 アジア経済研究所 副主任研究員 木村公一朗氏

グローバル・ブレイン株式会社 宇宙・ロボティクス担当パートナー 青木英剛氏

株式会社メイテック fabcross 編集部 プロデューサー 越智岳人氏

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Mitsubishi UFJ Research and Consulting

マスタータイトルの書式設定【お問い合わせ先】三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社経済政策部 北洋祐TEL: 03‐6733‐1021 E-mail: [email protected]