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インドネシアにおける大気質の変化と社会的能力: AQMS (Air Quality Monitoring System) 評価・分析から 山下 哲平 広島大学大学院国際協力研究科 [email protected] 2007年7月24日 はじめに インドネシアの政治的レジームの変貌 1997年のスハルト政権崩壊 1999年の地方自治法 2001年地方分権化二法施行 地方分権化にともなう権限主体の喪失,または 新権限主体の能力不足

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  • インドネシアにおける大気質の変化と社会的能力:AQMS (Air Quality Monitoring System)

    評価・分析から

    山下 哲平広島大学大学院国際協力研究科

    [email protected]年7月24日

    はじめに

    インドネシアの政治的レジームの変貌

    – 1997年のスハルト政権崩壊– 1999年の地方自治法– 2001年地方分権化二法施行

    地方分権化にともなう権限主体の喪失,または新権限主体の能力不足

  • 環境管理主体の移行

    2002年BAPEDAL(環境管理局)の環境省への統合(新環境省:KLH)– KLHは,BAPEDALを吸収したものの,従来どおり環境に

    関わる省令の立案・作成を主たる業務にしており,環境管理の実施・指導に関わる実行力が小さい

    – 中央における環境管理政策実施イニシアティブが事実上消失

    環境管理政策イニシアティブが,州政府をまたいで,県・市のBapedalda(地方環境管理部門)へ移行– 具体的な政策立案能力,予算,人材,機器・設備等の不

    備といった諸問題が複雑に絡み,混乱している.

    研究の目的

    • インドネシアの環境管理システムの現状分析および評価から,より効果的な環境管理政策立案のモデルを提案し,その有用性を提示

    DPSIR+Cモデルの検討

    • 現地のニーズやシーズ,文化や慣習的な背景を踏まえ,持続的な環境管理システムの構築にむけた提言

    社会条件とインセンティブに関する考察

  • 仮説

    • 環境モニタリング活動は,環境管理政策のインセンティブ向上に資する

    • 環境管理政策の持続性は,当該国のインセンティブに依拠する

    環境モニタリング

    DPSIRモデルの検討

    Pressure State Impact

    ResponseDriving force

    市場機能

    外部経済

    政府機能

    公共財

    認識・ニーズ・シーズ

    環境質指標

  • ミッシングリンクとCの位置づけ

    ミッシングリンクの要因

    – Stateの認知– 環境質向上へのニーズ– モニタリング技術の水準(シーズ)

    Cの位置づけ

    – 先進国の経験を踏まえ,演繹的に,環境管理政策の必要性を,『認識』する能力

    – 外部不経済の増大と,それにともなう公共財の劣化・現象について,長期的視野と戦略的政策立案能力

    DPSIRモデルにおけるCの効用

    人、経済、生態系への影響

    都市大気の質(基準の達成状況)

    自動車による環境排出ガス量の増加

    人口増加経済成長ライフスタイルの変化

    走行台キロ

    Impact

    Pressures

    State

    DrivingForces

    Responses法・制度

    法・制度

    経済手段

    経済手段

    啓 蒙啓 蒙

    発生抑制(総量削減)政策

    e.g., 社会システム全体の見直し

    環境負荷の低減政策e.g., 法制度の整備と施行(政府)

    法律の遵守,参加(市民)

    技術開発,参加(企業)

    汚染物吸収政策e.g., 緑地の整備(政府)

    自主的植林(市民)

    Capacity

    市民 企業

    政府

    環境問題への関心

    能力の能力の形成形成

    能力の能力の影響影響

    DPSIRCDPSIDPSIRRCC

  • DPSIR+Cモデルの限界

    • Sが潜在的状態の場合,当該モデルではCACによる環境政策を示唆している

    トップダウンによる強いイニシアティブがある一方で,環境質に対するニーズが埋没している

    • ニーズの潜在的状態は,長期的にはインセンティブが逓減する

    環境管理政策の持続性において課題がある

    環境モニタリングの位置づけと意義

    • Sの明示化による,P-Iの関連付け環境質の指標化

    ニーズの顕在化

    • 環境質指標にもとづいて,環境管理政策の社会的必要性を担保する機能

    環境管理政策実施インセンティブの付与

  • 環境モニタリングの現状と課題

    • 1次データと2次データとの齟齬(大気質)– 濃度測定と排出量との整合性– 排出量は,エネルギー消費量から推計された2次

    的データ

    – 濃度測定は,技術・費用面で困難性が高い

    確実性,信頼性において課題が多い

    NOx排出量(t/year)

    0

    50000

    100000

    150000

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    1993

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    1995

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    1997

    1998

    1999

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    2001

    2002

    2003

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    200000

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    600000

    800000

    1000000

    1200000

    Sumatera Utara

    DKI Jakarta

    Jawa Timur

    Kalimantan Barat

    Sulawesi Selatan

    Total

    NOx濃度(ジャカルタ)

    0

    0.005

    0.01

    0.015

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    0.025

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    0.04

    1991-1993 1994-1996 1997-1999 2000-2002 2003-2004

    (ppm

    )

  • 国際環境協力によるAQMS

    • オーストリア政府がドナー,BAPEDALが現地カウンターパート

    • 1999年10月ジャカルタにおけるメインセンターの建設を皮切りに,2001年6月メダンへの機器の導入まで,全10都市を対象に構築

    • 大気質測定機器導入,人材育成プログラムによる専門家の養成,大気質データの公開

    • AQMSに関わる活動は,インドネシア環境省令によって保護

    データ捕集率に着目した背景

    年次変動が異常に大きい

    – 最高20%強の濃度低下数値自体の信頼性

    – 日本の2004年NO2濃度の全国平均は,16ug/m3(ppb)

    2001 NO2(ug/m3) 2002 NO2(ug/m3) 2003 NO2(ug/m3) 2004 NO2(ug/m3) 2005 NO2(ug/m3)01.02.2001 40.90 01.02.2002 26.46 01.02.2003 4.76 01.02.2004 8.24 01.02.2005 23.7402.02.2001 48.48 02.02.2002 27.00 02.02.2003 5.61 02.02.2004 5.52 02.02.2005 24.0703.02.2001 33.15 03.02.2002 26.61 03.02.2003 7.08 03.02.2004 6.99 03.02.2005 22.0004.02.2001 22.07 04.02.2002 39.23 04.02.2003 6.85 04.02.2004 15.33 04.02.2005 22.5005.02.2001 22.24 05.02.2002 38.75 05.02.2003 4.52 05.02.2004 15.87 05.02.2005 15.3906.02.2001 24.63 06.02.2002 36.14 06.02.2003 5.09 06.02.2004 10.15 06.02.2005 13.3507.02.2001 25.40 07.02.2002 33.38 07.02.2003 5.55 07.02.2004 8.92 07.02.2005 21.8908.02.2001 29.91 08.02.2002 34.47 08.02.2003 5.45 08.02.2004 8.15 08.02.2005 14.3509.02.2001 22.72 09.02.2002 28.74 09.02.2003 3.92 09.02.2004 9.85 09.02.2005 21.0810.02.2001 25.79 10.02.2002 18.84 10.02.2003 7.33 10.02.2004 11.87 10.02.2005 18.99Source: EMC, AQMS Data

  • データ捕集率

    0

    5

    10

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    3.9月

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    4.7月

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    5.1月

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    5.9月

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    .11月

    SEF3

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    DEF3

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    BF5

    BF4

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    BF1

    AQMSの問題点

    • 2002年を境に,活動実績が急激に低下• ジャカルタに設置されている10の電光掲示板

    のすべてが故障し,放置されている

    • 各モニタリングステーションにおいて,観測項目の欠落・データ信頼性が明らかに低下

    • そもそも10都市中2都市が稼動せず

    活動実績の長期的低下傾向と短期的低下

  • 問題の背景

    • 現地カウンターパートBAPEDALの解体イニシアティブの喪失

    • OM(Operation & Maintenance)の不備技術・費用の不足

    • アクティビティの逓減政治的背景と文化的背景

    文化的背景

    ラマダン(Ramadan)月(イスラム暦9月)におけるプアサ(Puasa)とレバラン(Lebaran)

    10月04日~11月02日2005

    10月15日~11月13日2004

    10月27日~11月24日2003

    11月06日~12月04日2002

    11月16日~12月15日2001

    イスラム暦9月に相当する西暦

  • 短期的低下の一要因

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    AQMSの評価・分析結果

    • 5ヵ年の全サンプル捕集率平均は,41.6%• 日本の環境省の規定では,90%以上が有効

    環境測定局としての基準

    全期間を通して,日本の基準では有効データとして満足な基準に達していない

    まずは,継続的で日常的なモニタリング活動

  • モニタリング活動に関する考察

    データ捕集率という切り口からの分析

    一般的に指摘されている原因:低予算や技術不足による試薬の補充や機器のメンテナンスの困難性(現地インタビュー調査からも最頻出の課題)

    環境モニタリング活動そのものへのインセンティブの低さ

    1. 民間企業(PT.SUCOFIND)や一部の環境研究所では,委託業務形態に基づき精度の高い

    2. マーケットを通じることで,社会的ニーズに適合

    3. 継続的活動を通じて,PDCAサイクルを実践

    大気質管理への国際協力(AQMS)

    • AQMSのような国際環境協力によるモニタリングシステムの導入は,インパクトは高いものの,持続性が低く,アクティビティの逓減がみられた

    • 大気質管理に対する世界的な関心は高まっており,マクロ的なインセンティブは高い

    • 技術的,予算的不足は,データ精度の決定要因として有力だが,アクティビティに関しては,慣習・文化やニーズ,つまりミクロでのインセンティブの低さが窺われる

    インセンティブ形成における,ミクロ・マクロパラドクス

  • 協調行動とインセンティブの向上

    環境管理政策に関わる協調的システム• 環境質モニタリングの,民間企業への委託

    – ISO9001/14001や,インドネシア独自の環境基準であるKANの取得にむけたマーケットベースでの各企業の自主努力を評価

    • 監査および評価に関して,特にNGOを中心とした市民社会の参加– 国際的なネットワークの構築– 知識・意欲の面で高い水準– オブザーバーとしての機能

    • 環境管理システムの改善や向上の検討に関して,政府・企業・市民社会の協調– 計画立案主体としての政府– モニタリング主体としての民間企業– 査察および評価の第3者機関となる市民社会

    それぞれのステークホルダーが集まり,現状と課題をつきあわせることで,包括的なアクションプランおよびフィードバックが期待される

    人、経済、生態系への影響

    都市大気の質(基準の達成状況)

    自動車による環境排出ガス量の増加

    人口増加経済成長ライフスタイルの変化

    走行台キロ

    Impact

    Pressures

    State

    DrivingForces

    Responses法・制度

    法・制度

    経済手段

    経済手段

    啓 蒙啓 蒙

    発生抑制(総量削減)政策

    e.g., 社会システム全体の見直し

    環境負荷の低減政策e.g., 法制度の整備と施行(政府)

    法律の遵守,参加(市民)

    技術開発,参加(企業)

    汚染物吸収政策e.g., 緑地の整備(政府)

    自主的植林(市民)

    Capacity

    市民 企業

    政府

    環境問題への関心

    能力の能力の形成形成

    能力の能力の影響影響

    DPSIRCDPSIDPSIRRCC

  • インセンティブと社会的能力

    技術移転において,持続性を担保することは最重要の課題

    • 環境問題に対する現地のニーズの顕在化,およびアクセス可能なシーズ(技術水準)の把握

    • 社会経済条件,環境条件,能力水準等を踏まえた技術選択

    • 環境問題は,非可逆的である為,早期の対策の方が,費用が小さい

    割引率と不確実性が大きい為,環境問題対策の優先度が低い

    長期的な視点,戦略的展望を構築しうる能力の形成・向上

    帰納的アプローチ

    演繹的アプローチ

    ありがとうございました