ポルフィリン代謝 - huhs.ac.jph990002t/resources/downloard/15/15biochem3/10... ·...

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1. ヘムとポルフィリンとは 4個のピロールが4個のメチン橋(-C=)により閉環した構造をポルフィンという。 ポルフィリンは、側鎖に結合したメチル、ビニル、プロピルなどの配列により多数の 異性体が存在する。 ヘムは、プロトポルフィリンIXの二価鉄錯体を指す。 ポルフィリンの構造 環状テトラピロールで、4つの ピロール環がメチレン橋(-C-) で環状につながったものをポル フィリノーゲン、酸化されメテニ ル橋(-C=)となったものをポル フィリンンという。ポルフィリン 環の水素が様々な側鎖に置換さ れており、側鎖の種類と並び方 で名称が決まる。 側鎖が2種類のものは4通り の異性体があり、対称配置を Ⅰ型、1カ所だけ配置が逆の ものをⅢ型という。 ヘムタンパク質 ヘムは、様々なヘムタンパク質の補欠分子族である。 酸素と運搬と貯蔵:ヘモグロビンとミオグロビン 電子伝達:シトクロムC、シトクロムb560など。 酸化還元酵素:シトクロムP450、カタラーゼ、一酸化窒素合成酵素ほか多数。 ポルフィリン代謝と病気 ヘムの構成成分として鉄代謝と密接に関わる。 ポルフィリン合成の異常はポルフィリン症(まれな遺伝性疾患)の原因となる。 ヘムは分解されビリルビンを生ずる。血中ビリルビンの増加で黄疸になる。 生物化学3(11月16日) ポルフィリン代謝 1. ポルフィリンンの生合成 肝臓と赤芽球で合成される。 5-アミノレブリン酸合成酵素(EC:2.3.1.37) ポルフィリン合成の律速酵素で、ミトコンドリアマトリックスに局在する。 ピリドキサルリン酸を補酵素としてスクシニルCoAとグリシンから5-アミノレブリン酸 を合成する転移反応を触媒する。 赤芽球型と非特異型があり、赤芽球型は5’非翻訳領域の鉄応答エレメントによる翻訳調 節を受ける。非特異型は主に肝臓に発現しヘムによるネガティブフィードバックを受け ることでヘム合成の中間体の過剰蓄積を防いでいる。 伴性遺伝性鉄芽球性貧血の原因遺伝子。 ポルフォビリノーゲンシンターゼ(EC:4.2.1.24) 細胞質に運び出された2分子の5-ALAを縮合する。亜鉛を含み鉛で阻害されるため、鉛 中毒で5-アミノレブリン酸の尿中排泄が増加する。 ポルフォビリノゲンデアミナーゼ(EC:4.3.1.8) ポルフォビリノーゲン4分子を結合させヒドロキシメチルビランを生ずる。非酵素的に 閉環すると対称配置の1型ポルフィリンンを生ずるため、ウロポルフィリノーゲンIシ ンターゼ(別名)とも呼ばれる。急性間歇性ポルフィリン症の原因遺伝子。 ウロポルフィリノーゲンシンターゼ(EC:4.2.1.75) ヒドロキシメチルびらんを非対称なⅢ型ポルフィリノーゲンとして閉環する。ウロポル フィリノーゲンⅢは水溶性である。(先天性骨髄性ポルフィリン症の原因) ウロポルフィリノーゲンデカルボキシラーゼ(EC:4.1.1.37) 酢酸基から二酸化炭素を外しメチル基とする。コプロポルフィリノーゲンⅢはミトコン ドリアに入る。水溶性が低下し、糞便中に排泄される。 コプロポルフィリノーゲンオキシダーゼ(EC:1.3.3.3) プロピオン酸基を酸化的に脱炭酸してビニル基とする。 プロトポルフィリノーゲンオキシダーゼ(EC:1.3.3.4) 脱水素によりポルフィリン環を生じる フェロキラターゼ(EC:4.99.1.1) ミトコンドリア内膜に局在する。2価鉄イオンと錯体を作りヘムが完成する。一酸化窒 素により強力に阻害される。 ポルフィリンの名称 ウロ・・:側鎖がプロピオン酸基と酢酸基4つずつ。(水溶性) コプロ・・:側鎖がメチルとプロピル4つずつ。 プロト・・:側鎖がメチル4つとビニル、プロピオン酸基2つずつ 71

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Page 1: ポルフィリン代謝 - huhs.ac.jph990002t/resources/downloard/15/15biochem3/10... · ポルフィリン代謝と病気 •ヘムの構成成分として鉄代謝と密接に関わる。

1. ヘムとポルフィリンとは4個のピロールが4個のメチン橋(-C=)により閉環した構造をポルフィンという。

ポルフィリンは、側鎖に結合したメチル、ビニル、プロピルなどの配列により多数の異性体が存在する。

ヘムは、プロトポルフィリンIXの二価鉄錯体を指す。

ポルフィリンの構造環状テトラピロールで、4つのピロール環がメチレン橋(-C-)で環状につながったものをポルフィリノーゲン、酸化されメテニル橋(-C=)となったものをポルフィリンンという。ポルフィリン環の水素が様々な側鎖に置換されており、側鎖の種類と並び方で名称が決まる。

• 側鎖が2種類のものは4通りの異性体があり、対称配置をⅠ型、1カ所だけ配置が逆のものをⅢ型という。

ヘムタンパク質ヘムは、様々なヘムタンパク質の補欠分子族である。

• 酸素と運搬と貯蔵:ヘモグロビンとミオグロビン• 電子伝達:シトクロムC、シトクロムb560など。• 酸化還元酵素:シトクロムP450、カタラーゼ、一酸化窒素合成酵素ほか多数。

ポルフィリン代謝と病気• ヘムの構成成分として鉄代謝と密接に関わる。• ポルフィリン合成の異常はポルフィリン症(まれな遺伝性疾患)の原因となる。• ヘムは分解されビリルビンを生ずる。血中ビリルビンの増加で黄疸になる。

生物化学3(11月16日)

ポルフィリン代謝1. ポルフィリンンの生合成肝臓と赤芽球で合成される。

5-アミノレブリン酸合成酵素(EC:2.3.1.37)ポルフィリン合成の律速酵素で、ミトコンドリアマトリックスに局在する。

ピリドキサルリン酸を補酵素としてスクシニルCoAとグリシンから5-アミノレブリン酸を合成する転移反応を触媒する。

赤芽球型と非特異型があり、赤芽球型は5’非翻訳領域の鉄応答エレメントによる翻訳調節を受ける。非特異型は主に肝臓に発現しヘムによるネガティブフィードバックを受けることでヘム合成の中間体の過剰蓄積を防いでいる。

伴性遺伝性鉄芽球性貧血の原因遺伝子。

ポルフォビリノーゲンシンターゼ(EC:4.2.1.24)細胞質に運び出された2分子の5-ALAを縮合する。亜鉛を含み鉛で阻害されるため、鉛中毒で5-アミノレブリン酸の尿中排泄が増加する。

ポルフォビリノゲンデアミナーゼ(EC:4.3.1.8)ポルフォビリノーゲン4分子を結合させヒドロキシメチルビランを生ずる。非酵素的に閉環すると対称配置の1型ポルフィリンンを生ずるため、ウロポルフィリノーゲンIシンターゼ(別名)とも呼ばれる。急性間歇性ポルフィリン症の原因遺伝子。

ウロポルフィリノーゲンシンターゼ(EC:4.2.1.75)ヒドロキシメチルびらんを非対称なⅢ型ポルフィリノーゲンとして閉環する。ウロポルフィリノーゲンⅢは水溶性である。(先天性骨髄性ポルフィリン症の原因)

ウロポルフィリノーゲンデカルボキシラーゼ(EC:4.1.1.37)酢酸基から二酸化炭素を外しメチル基とする。コプロポルフィリノーゲンⅢはミトコンドリアに入る。水溶性が低下し、糞便中に排泄される。

コプロポルフィリノーゲンオキシダーゼ(EC:1.3.3.3)プロピオン酸基を酸化的に脱炭酸してビニル基とする。

プロトポルフィリノーゲンオキシダーゼ(EC:1.3.3.4)脱水素によりポルフィリン環を生じる

フェロキラターゼ(EC:4.99.1.1)ミトコンドリア内膜に局在する。2価鉄イオンと錯体を作りヘムが完成する。一酸化窒素により強力に阻害される。

ポルフィリンの名称• ウロ・・:側鎖がプロピオン酸基と酢酸基4つずつ。(水溶性)• コプロ・・:側鎖がメチルとプロピル4つずつ。• プロト・・:側鎖がメチル4つとビニル、プロピオン酸基2つずつ

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ヘム合成の調節肝臓:5-アミノレブリン酸合成酵素がヘムによるネガティブフィードバックを受ける。

赤芽球:ヘムにより抑制されず、5-アミノレブリン酸合成酵素の転写と翻訳、およびフェロキラターゼによる鉄の取り込みが律速となる。

ポルフィリン合成の異常(ポルフィリン症)ポルフィリン合成経路の酵素欠損によりヘムが不足し、合成中間体が蓄積する。多くは常染色体優性遺伝となる。肝性と骨髄性に区別される

肝性ポルフィリン症:神経症状が急性発症する。肝臓由来のALA, PBGが増加

• 薬物の摂取で肝臓シトクロムP450の誘導が起こりヘムを消費するとアミノレブリン酸合成酵素の抑制が外れ、ポルフィリンン代謝の中間体が急増し発作を誘発する。

骨髄性ポルフィリン症:赤芽球由来のポルフィリンン類による皮膚症状が主。光線過敏症(皮膚症状)は合成経路の後半に異常がある場合にみられる。

• 光線の曝露により蓄積したポルフィリンン類が励起され、分子状酸素と反応し酸素ラジカルを生じ、細胞障害による皮膚症状をもたらす。

急性間欠性ポルフィリン症ポルホビリノゲンデアミナーゼ欠損(常染色体優性)

発作時に大量のALAとPBGを尿中に排泄する。急性の腹部症状と精神神経障害。腹部症状は炎症によらないため圧痛無く白血球の増多認めない。神経症状として不安感、不眠、抑鬱、見当識障害、幻覚、麻痺、筋力低下、てんかん発作など多様。抗けいれん剤は発作を増悪する。(肝性)

先天性骨髄性ポルフィリン症ウロポルフィリノゲンIIIシンターゼ活性低下(常染色体劣性遺伝)

ウロポルフィリノゲンIとコプロポルフィリノゲンIが蓄積することによる赤い尿。重篤な光線過敏症による皮膚の潰瘍、多毛。溶血性貧血による巨脾症。治療は摘脾をおこなう。また、鉄の過剰負荷に注意しながら輸血する。

鉄芽球性貧血 Sideroblastic anemia赤血球型5-アミノレブリン酸合成酵素の活性低下によるヘム合成障害。 無効造血がみられる。

低色素性、小球性貧血。しかし血清鉄は高値。骨髄塗抹標本の鉄染色によりringed sideroblast (環状鉄芽球)を多数認める。

原因:鉛中毒・ビタミンB6欠乏・白血病、関節リュウマチに続発。クロラムフェニコール、INHAなど薬物性のものに加えて、伴性劣性遺伝形式を示す5-アミノレブリン酸合成酵素欠損が知られている。

2. ヘムの異化と病気概要老化赤血球の破壊やヘムタンパク質の分解、無効造血により脾臓の網内系で数百ミリグラムのヘムがビリルビンに変換される。一日あたり約300ミリグラムのビリルビンが生ずる。

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スクシニルCoA

酢酸基:A(左)プロピオン酸基:P(右)

グリシン

5- アミノレブリン酸(2分子が縮合)

5- アミノレブリン酸合成酵素

ヒドロキシメチルビラン

CoASH + CO2

H2O

NH3

ポルフォビリノーゲンシンターゼ

ポルフォビリノーゲンデアミナーゼ

H2O ウロポルフィリノーゲンシンターゼ

ウロポルフィリノーゲンⅢ ウロポルフィリノーゲンⅠ

非酵素的に閉環

ポルフォビリノーゲン

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ビリルビンはアルブミンと結合し、肝臓に運ばれグルクロン酸抱合を受けたのちに胆汁中に分泌される。

• UDPグルクロン酸はUDPグルコースデヒドロゲナーゼにより生ずる。腸内細菌の酵素(βグルクロニダーゼ)により脱抱合を受けビリルビンに戻る。

腸内細菌により還元され、ウロビリノーゲンとなる。

そのまま糞便中に排泄される。(さらに還元され赤褐色のステルコビリンとなる)

一部はウロビリノーゲンとして小腸で再吸収され、門脈から肝臓に戻るか、体循環から尿中に出る。腎臓で酸化されウロビリン(黄色)となる。(腸肝循環という)

高ビリルビン血症血液中のビリルビン濃度が1mg/dLを越えたものを高ビリルビン血症という。2mg/dLを越えると肉眼的な黄染(黄疸)を認める。

• 成因から、肝前性(ビリルビンの生産量の増加)、肝性(ビリルビン処理能力の低下、排泄能の低下)、肝後性(胆道系の通過障害)に分類される。

肝前性黄疸溶血性貧血、無効造血により、大量のヘモグロビンが破壊され、肝臓の処理能力を超える。非抱合型ビリルビンが増加する。脾腫が見られることがある。

• 赤血球膜の異常(遺伝性球状赤血球症; HS)、糖代謝酵素の異常(G6-PDH, PK)、免疫学的機序(血液型不適合輸血、薬剤によるもの)、多血症、新生児生理的黄疸など。

肝性黄疸肝臓の抱合能が低下すると、非抱合型ビリルビンが増加する。

• 肝不全(肝炎、肝硬変により抱合能が不足する)• 抱合酵素の異常(Crigler Najjar症候群; 抱合酵素欠損)排泄能の異常が原因の場合、抱合型ビリルビンが増加する。

• 急性肝炎(胆汁うっ滞による排泄能低下)• Roter症候群、Dubin-Johnson症候群(いずれも排泄の異常で抱合型ビリルビンが増加する)

肝後性黄疸腫瘍(膵臓、胆嚢などの腫瘍)、胆石、先天性胆道閉鎖による胆汁の通過障害で抱合型ビリルビンが増加する。

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