訪問看護ステーション管理者による 新人訪問看護師への...

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5 日看管会誌 Vol. 13, No. 1, 2009 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 13, No. 1, PP 5-13, 2009 原著 訪問看護ステーション管理者による 新人訪問看護師への関わり ―安心して訪問を任せられるようになるまで― A Study on How the Visiting Nursing Station Managers are involved in Novice Nurses to be Competent 中村順子 Yoriko Nakamura Key words : Yuragi, Visiting nursing station, Novice visiting nurse, Manager’s involvement, Grounded theory approach キーワード : ゆらぎ,訪問看護ステーション管理者,訪問看護師育成,管理者の関わり,グラ ンデッドセオリーアプローチ Abstract The purpose of this research is to identify what visiting nursing station managers are doing to help visiting novice nurses develop competence and to clarify the process of their involvement. This research has shown the existence of five different categories of involvement such as the core category-“ to support nurses in gaining confidence and making themselves overcome their own feelings of “Yuragi”. “Yuragi” is a new concept of this research with the meaning of confused state of mind which novice nurses feel in their practice as a visiting nurse, that is different from the role of hospital based one. In this research, it was found that managers were very supportive in helping novice nurses develop their own skills needed for their nursing practice. 本研究の目的は訪問看護ステーション管理者が,新人訪問看護師に安心して訪問を任せら れるようになるまでの関わりを探索し,構造を示すことである.Grounded Theory Approach を参考にして継続比較分析を行い,10 人の熟練訪問看護ステーション管理者の関わりを分析 した.その結果,管理者が安心して訪問を任せられるようになるまでの関わりとして【ゆら ぎを乗り越え訪問看護師としての自信の回復を促す】【訪問看護師としての適性を探る】【看 護師の個性を活かし訪問看護師としての能力の充実を図る】【ゆらぎを越えた先にある訪問看 護のおもしろさへと導く】【事業所の力を維持するための働きかけにより看護師の成長を促す】 の 5 つのカテゴリーが抽出され,【ゆらぎを乗り越え訪問看護師としての自信の回復を促す】 を中核カテゴリーとした.病棟から在宅に移行してきた看護師の“ゆらぎ”を捉え,“ゆらぎ” に気づき乗り越えさせる管理者の支持的な関わりが示され,管理者は人を育てるスキルを効 果的に用いていることが明らかになった.在宅看護における対象の文化を理解したケアの重 要性と人材育成における OJT 特に同行訪問の重要性が示唆された. 受付日:2008 年 8 月 7 日  受理日:2009 年 3 月 19 日 日本赤十字秋田短期大学看護学科 The Japanese Red Cross Junior College of Akita

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5日看管会誌 Vol. 13, No. 1, 2009

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 13, No. 1, PP 5-13, 2009

原著

訪問看護ステーション管理者による新人訪問看護師への関わり

―安心して訪問を任せられるようになるまで―A Study on How the Visiting Nursing Station Managers are involved

in Novice Nurses to be Competent

中村順子Yoriko Nakamura

Key words : Yuragi, Visiting nursing station, Novice visiting nurse, Manager’s involvement, Grounded theory approach

キーワード : ゆらぎ,訪問看護ステーション管理者,訪問看護師育成,管理者の関わり,グランデッドセオリーアプローチ

AbstractThe purpose of this research is to identify what visiting nursing station managers are doing to help

visiting novice nurses develop competence and to clarify the process of their involvement. This research has shown the existence of five different categories of involvement such as the core category-“ to support nurses in gaining confidence and making themselves overcome their own feelings of “Yuragi”. “Yuragi” is a new concept of this research with the meaning of confused state of mind which novice nurses feel in their practice as a visiting nurse, that is different from the role of hospital based one. In this research, it was found that managers were very supportive in helping novice nurses develop their own skills needed for their nursing practice.

要  旨

本研究の目的は訪問看護ステーション管理者が,新人訪問看護師に安心して訪問を任せられるようになるまでの関わりを探索し,構造を示すことである.Grounded Theory Approachを参考にして継続比較分析を行い,10 人の熟練訪問看護ステーション管理者の関わりを分析した.その結果,管理者が安心して訪問を任せられるようになるまでの関わりとして【ゆらぎを乗り越え訪問看護師としての自信の回復を促す】【訪問看護師としての適性を探る】【看護師の個性を活かし訪問看護師としての能力の充実を図る】【ゆらぎを越えた先にある訪問看護のおもしろさへと導く】【事業所の力を維持するための働きかけにより看護師の成長を促す】の 5 つのカテゴリーが抽出され,【ゆらぎを乗り越え訪問看護師としての自信の回復を促す】を中核カテゴリーとした.病棟から在宅に移行してきた看護師の“ゆらぎ”を捉え,“ゆらぎ”に気づき乗り越えさせる管理者の支持的な関わりが示され,管理者は人を育てるスキルを効果的に用いていることが明らかになった.在宅看護における対象の文化を理解したケアの重要性と人材育成における OJT 特に同行訪問の重要性が示唆された.

受付日:2008 年 8 月 7 日  受理日:2009 年 3 月 19 日日本赤十字秋田短期大学看護学科 The Japanese Red Cross Junior College of Akita

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Ⅰ.緒言

わが国では近年特に在宅医療の充実が期待され,それを担う重要な役割を持つ訪問看護師の人材育成が大きな関心事となっている(岩下ら , 2003).在宅における看護に求められるものは病棟看護とは異なり,訪問看護の経験のないものはすぐに実践を行うことに不安があると言われ,現場に出てからの継続教育の必要性が指摘されている(Murray, 1998).わが国では訪問看護事業所の規模は小さく,教育担当者を専任で置くことができないことが多いため,訪問看護ステーション管理者(以下管理者)がスタッフ教育を担うことが多い(赤沼ら,2003).管理者は,経営者として,また 1 人のスタッフとしての役割を取るなど多忙なことが知られている(藤原 , 2003)が,管理者はまた,人材育成を丁寧におこなうことが看護師の勤務継続につながり経営の安定が期待できるので,細やかな人材育成の必要性があると考えている(片倉ら,2004).しかし,多くの管理者は多忙であり,多忙さを理由に人材育成に対する意識の低さが指摘されており(赤沼ら , 2003),経営上も人材育成上も成果を上げている熟練管理者の実践からその方法を学ぶことが示唆されている(片倉ら , 2004).これらから,新たに在宅看護の領域に入ってきた看護師が継続して訪問看護を行うことができ,更にそれにより事業所の経営的な安定を図るために,管理者,特に熟練管理者の新人訪問看護師(以下看護師)に対する関わり方の実態を明らかにすることが必要であると考えたが,それに関する研究はない.また新人訪問看護師に意図的に関わる期間に言及している論文はないが,「1 年ぐらい新人教育には神経を使っている」という報告があることや(日本訪問看護振興財団 , 2002),研究者が本研究に先立って行った予備研究では,一定期間管理者が自分なりの理念や評価尺度をもちながら看護師に関わっていることが伺われたことから,この期間を

“管理者が安心して新人訪問看護師に訪問を任せられるまで”として,そこに至るまで管理者がどのように関わっているか,その方法や内容,意図を明らかにして関わりの構造を示すことを本研究の目的とした.熟練管理者の看護師への関わりの実践が明らかになることは,管理者の人材育成に関する管理能力の一端が明らかになり,今後の管理者育成にまつ

わる手がかりとなると考えられる.

Ⅱ.用語の定義

管理者が安心して訪問を任せられるまでの期間:管理者が自分なりの理念や評価尺度を持ちながら新人看護師に意図的に関わっている期間,とした.

熟練管理者:訪問看護師または法人の上司からの“よく看護師を育てている”という推薦がある管理者とし,管理者経験年数は問わないこととした.

関わり:管理者が新人看護師に対して“安心して訪問看護を任せられるようになるまで”に行う働きかけのすべてで,管理者の働きかけを導く思い ・ 判断なども含む,とした.

Ⅲ.研究方法

1.研究デザイン本研究は Grounded Theory Approach の手法を

参考にした因子探索型質的研究である.この方法はシンボリック相互作用論を理論基盤とする研究方法で,人間の行動や社会を説明する理論を生み出す系統的方法とされ,継続比較分析と理論的サンプリングを特徴とする(Chenitz & Swanson, 1986).管理者の看護師への関わりという人間の相互作用とそのプロセスを明らかにする本研究の目的を達成するのに適切な方法と考えた.

2.研究協力者本研究の協力者の条件は熟練管理者であり,かつ

①訪問看護ステーションの管理者の経験があること②自分自身も訪問看護の経験があること,③初めて訪問看護を行う看護師を受けいれた経験があること④研究協力に関して文書による同意が得られること,とし,以上の条件を満たした訪問看護ステーションの管理経験者 10 名を協力者とした.研究協力者の基本的属性は,全員女性で年齢 39 歳~ 60 歳,管理者歴は 1 年~ 12 年,訪問看護師歴は 8 年~ 18 年であった.

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3.データ収集方法データ収集は 2007 年 6 月から 9 月の期間に,半

構成的インタビューを行って実施した.研究者の予備研究に基づいて作成したインタビューガイド(「あなたが新人訪問看護師に安心して訪問を任せられるのは看護師がどうなったときですか」「特定の看護師が安心して訪問を任せられるようになるまでにあなたが実際に行ったことを教えてください」)を用い自由に語ってもらった.協力者のリクルートは,看護系大学院上級実践コース(CNS コース)修了後,現在訪問看護師として活動している看護師からの推薦をきっかけにして始め,その後は分析過程に沿いながら,データの比較を目的として協力者の条件を変えて,可能な限り理論的サンプリング(Straus &Corbin,1998)によって行った.インタビュー時間は1 回平均 72 分であった.インタビュー内容は承諾を得て IC レコーダーに録音し,インタビューの間に気づいたことはメモとして記録した.

4.分析方法本研究は Grounded Theory Approach の手法を参

考にして継続比較分析を行った.手順は以下のとおりである.録音した内容を逐語記録(生データ)に書き起こし,データを十分に読み込んで,語り手が話している事を把握した.分析テーマに沿って意味のある文節あるいは段落ごとに区切り,この部分の内容を適切に表現できる簡潔な名前(ラベル)をつけた.意味内容の類似性,相違点を,その協力者のラベルの中と生データの中や他協力者のラベルと比較しながら分類しカテゴリーを生成して行き,データを収集するたびにラベルとカテゴリーを比較して,カテゴリーの生成・分解を繰り返して行った.10 名全て終了してから,分析のテーマ・目的にあった概念の抽出のために更に抽象度を上げ,軸足コーディング,選択コーディング(Straus & Corbin, 1998)の作業を行った.軸足コーディングを行う際には何度も生データや,サブカテゴリー内に集められたラベルに戻り,帰納的に集めたものと演繹的に考えられるものとの間を行きつ戻りつして進めた.分析過程全てにおいて,生データにおける関連性に留意し常に生データ上での確認を行った.最終的に抽出された5つのカテゴリーの中から,カテゴリー全体との関連性が強く,全てのカテゴリーを説明で

きるものに着目して中核となるカテゴリーを決定し,最後にカテゴリー間の関連性を検討した.

5.研究の信頼性と妥当性の確保本研究の信頼性と妥当性を確保するため,全研究

過程を通じて社会学の質的研究の経験のある研究者 1 名と,看護学の在宅看護領域における実践経験の豊富な研究者 1 名からスーパーバイズを受けた.データの分析,結果の抽出は前記の 2 名の研究者と面接し話し合いながら進めていった.事前に予備調査を行いインタビュー内容の洗練,回答のしやすさの検討を行った.またインタビューで不明瞭なところは電話,電子メールなどで確認を行った.データを収集してからできるだけ早い段階で逐語に起こし,その際考えたこと,気付いたことをメモにしたり,カテゴリー抽出のプロセスを記述したりして自分自身の思考のプロセスを振り返った.

6.倫理的配慮本研究は聖路加看護大学研究倫理審査委員会の承

認を受けて実施した.研究協力者に研究の主旨・方法について書面と口頭にて説明し,本人から書面による同意を得た.説明内容は,研究への参加は自由意志であること,同意しない場合であっても不利益にはならないこと,一旦同意された場合でも途中で参加を辞退できること,インタビューのデータは匿名性を保持できるように記号化し研究の目的以外には使用しないこと,終了後はデータを破棄することであった.

Ⅳ.結果

新人訪問看護師に“安心して訪問を任せられるようになるまで”の管理者の関わりのカテゴリーは看護師の入職後の関わりのプロセスの順に【訪問看護師としての適性を探る】【看護師の個性を活かし訪問看護師としての能力の充実を図る】【ゆらぎを乗り越え訪問看護師としての自信の回復を促す】【ゆらぎを超えた先にある在宅看護のおもしろさへと導く】【事業所の力を維持するための働きかけにより看護師の成長を促す】の5つであった.管理者は看護師が入職すると,自らの訪問看護経験から導きだ

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された2つの課題に焦点を当てて情報を収集し,情報から得られた看護師の状況に対して様々な働きかけを行い,看護師の変化に気づくというプロセスで関わっていた.2 つの課題はカテゴリーの説明の中で詳しく述べる.

抽出された 5 つのカテゴリーの中で【ゆらぎを乗り越え訪問看護師としての自信の回復を促す】を中核カテゴリーとし,その他の 4 つを副次的カテゴリーとした.【ゆらぎを乗り越え訪問看護師としての自信の回復を促す】を中核カテゴリーとしたのは,

“ゆらぎ”という概念とそれに対する管理者の関わりが全てのカテゴリーを説明でき,全てのカテゴリーに深く関与していると考えたからである.以下に内容の詳細とカテゴリー間の関連について述べ,表 1に抽出されたカテゴリーを示す.本文中では中核・副次カテゴリーを【 】,カテゴリーを〈 〉,サブカテゴリーを《 》で示し,研究協力者が実際に語った内容を「」で示しながら説明する.また,管理者の関わりについての説明は,新人看護師が入職したときからの管理者の関わりのプロセスに沿って説明する.

1.【訪問看護師としての適性を探る】管理者は看護師が入職してきた直後から,訪問看

護師としての適性と看護師の弱み,強み,個性を探るために情報収集を行う.管理者は看護師の第一印象すなわち挨拶の仕方,服装などから〈入職直後に看護師の全体像を把握する〉.また履歴書や面接を通して〈経歴から弱みと強みを推測する〉.さらに看護師を活かす方策を考えていくための情報収集として〈看護師の個性を捉え理解しようとする〉ことと,以下に述べる“ゆらぎ”の強さやそれを乗り越える可能性の予測のためにも〈動機や期待を把握する〉.

2.【看護師の個性を活かし訪問看護師としての能力の充実を図る】

訪問看護師と管理者としての自身の経験から導き出された,管理者が焦点を当てる課題の一つ目として,訪問看護師としての実践能力を管理者は挙げ,その把握と,それらの充実のための働きかけを行っていた.管理者は,「訪問看護師としてやっていくならこれらの実践能力が必要」と繰り返し語った.一方で看護師の持つ弱みや強み,個性をできるだけ

中核カテゴリー・副次的カテゴリー カテゴリー

訪問看護師としての適性を探る 入職直後に看護師の全体像を把握する

経歴から弱みと強みを推測する

看護師の個性を捉え理解しようとする

動機や期待を把握する

看護師の個性を活かし訪問看護師としての能力の充実を図る 管理者が考える訪問看護師としての基本的能力を測る

管理者が考える訪問看護師の働きを伝える

管理者が考える訪問看護師に求められる力の把握を行なう

看護師の個性を活かし訪問看護師として求められる力を高めようと働きかける

訪問看護師として向かない看護師への対応を行なう

�ゆらぎを乗り越え訪問看護師としての自信の��を促す� 在宅と病棟の違いにより看護師に起きているゆらぎを見極める

ゆらぎによって看護師に起きている困難な状況をつかむ

看護師が自らゆらぎに気づけるような促しと乗り越えられるような働きかけを行なう

管理者の信念のもとに看護師を支え励ます

看護師がゆらぎを乗り越え訪問看護師として自信を取り戻したことをつかむ

ゆらぎを越えた先にある訪問看護のおもしろさへと導く ゆらぎは訪問看護のおもしろさに通じる

訪問看護のおもしろさを共有できる仲間へと導く

看護師が訪問看護のおもしろさに気づいたことを把握する

事業所の力を維持するための働きかけにより看護師の成長を 利用者に不利益が生じないよう配慮する

促す チームのまとまりへの影響を配慮する

トラブルに対する対応をする

チーム全体の成長を目指し、事業所としての力を維持する

表1 訪問看護ステーション管理者による、新人訪問看護師に“安心して訪問を任せられるようになるまで”の関わり

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活かそうとしていた.〈管理者が考える訪問看護師としての基本的能力を測る〉こととして《利用者目線のコミュニケーションができるかつかむ》,《人間関係構築能力の程度をつかむ》《最低限の病状判断能力の程度をつかむ》《安全で基本的な技術を持っているかつかむ》の4つが抽出された.また管理者は,看護師が入職してきた当初から様々な機会を使って〈管理者が考える訪問看護師の働きを伝える〉ことをしていた.これらの働きは管理者自身の経験から導き出されたものであり,《訪問看護がサービス業であること》の意識を持つことや,《困難な家族の受け止め方》,《予測的に関わること》の重要性などであった.その中で管理者は,訪問看護師は《利用者が主役であると知って生活を支える》視点で看護を展開することが必要であると強く考えていた.更に管理者は〈管理者が考える訪問看護師に求められる力の把握を行う〉ことを,同行訪問やカンファレンス,記録物や他の同僚 ・ 関係者などからの情報により把握していた.そしてこれらの手段で把握した看護師の能力に応じて管理者は,〈看護師の個性を活かし訪問看護師として求められる力を高めようと働きかける〉.具体的な働きかけとして,《同行訪問で看護をみせる》,看護師の経歴により医療処置など《得意な分野は任せる》などとともに,看護師の判断や行動に応じて看護師に《行動の振り返りを促す》,《待つ,見守る》《気づきの促しを行う》《評価を返す》ことが中心的な関わり方であった.看護師は在宅では新人であるが,今までに十分なキャリアを持っているものも多い.管理者は《看護師のキャリアと専門職としての基礎的能力を信頼している》という基本的信頼感を持って関わろうとしていた.「看護師の得意なところを伸ばしたいと思っていて.技術がちゃんとできるのが彼女のいいところだなと思い,それを前面に押し出すと言うか」「どうしてあのときパニックになったか,自分の中できちんと振り返って文章にしてみたらいいんじゃない?って言いました」

一方看護判断に甘さが見られたり,看護師になかなか気づきが見られないときは《管理者が気づいたことをはっきり伝え》ていたが,時には〈訪問看護師として向かない看護師への対応を行う〉必要もあり,《訪問看護師として向かないと判断》し《異動や退職の勧告を行う》こともあった.

3.【ゆらぎを乗り越え訪問看護師としての自信の回復を促す】

管理者は自分たちの関わりを語る中で,「病院と在宅の看護は違うから」と何度も語った.「病院と在宅のギャップ」「看護師は病院と在宅の違いに苦しむ」という発言が繰り返され,“その違い”によって起こる看護師の不安感・困難感や提供する看護の不適切さを捉え,管理者がそれらに対して丁寧に関わっている状況が浮かび上がった.これらを分析した結果,“病棟から在宅に移行したときに,その違いやギャップから看護師に生じた不安や,困難感,看護提供上の空回り,戸惑いなど看護師におきる現象”が,管理者が焦点を当てる 2 つ目の課題であることが明らかになり,これを“ゆらぎ”と命名した.看護師が入職し一人で訪問し始めると,この“ゆらぎ”が徐々に生じ始め,“自分は訪問看護に向いているのか,自分は看護師として間違っていたのではないか”という疑問を持ち,看護師としてのアイデンティティがゆらぎ,自信を失いかける.管理者はそれまでの管理者としての経験から,“ゆらぎ”は誰でも通る道だと認識し,新人訪問看護師が“ゆらぎ”を乗り越えられるような関わりを行っていた.管理者が経験的に“ゆらぎ”と捉えている〈在宅と病棟の違いにより看護師に起きているゆらぎを見極める〉には,以下の 4 つがあった.この 4 つは“ゆらぎ”という現象を示しつつ,どの“ゆらぎ”と管理者が見極めたのかという関わりを同時に表す.その 4 つは,利用者一人ひとりにまつわる情報,提供する看護内容の多様さに,看護師が慣れずに困難感を覚える《利用者によって提供することが違う個別性の強さへの不慣れ》,一人で看護の全てを完結することに看護師が不安や困難感を覚える《ひとりで訪問し看護をやり終えることの不安》,利用者家族との関係形成において,看護師が適切な距離を取れずうまく関われなかったり,のめりこみすぎたりする《利用者家族との適切な距離のとり方における混乱》,看護師が病棟で行っていた看護を基準にして在宅で看護を提供したとき,思うように結果が出ないで戸惑うことや,在宅における利用者や家族のニーズを考慮するより自分の看護計画の展開に必死になってしまう《利用者中心の看護の提供にシフトすることで起こる戸惑いや空回り》であった.「たぶん訪問するとまず最初に感じるのが,この

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まま帰っていいのかしらってことだと思います.このまま明日の朝までとか次の日まで誰も来ない.病棟だったら次の勤務帯に誰かが来る.自分がやったことに対して大丈夫かしら,病棟ではあまり考えることがない.そこがたぶん病棟を経験していても不安になるところ」「ちょっと空回りしているんじゃないかな,と思うところがあったんですよ.私がこんなにやってるのに患者さんは良くならない.自分では病棟の経験から,これやったらこうなってこれだけ良くなるんじゃないかっていう理想があったんじゃないかな」

これらの“ゆらぎ”によって看護師の自信が失われたり,困難感が非常に強かったり,心身の安定が図れなかったりすること,つまり看護師としての今までのアイデンティティをもゆらいでしまうことを〈ゆらぎによって看護師に起きている困難な状況をつかむ〉によって管理者は把握し,適切な働きかけを行っていく.把握は《日常的な観察や声かけ》,《面接》や《カンファレンス・報告》の状況などから行うが《利用者の反応》や,《連携する医師・ケアマネジャーなどの関係他者から情報を得る》ことからも行っていた.特に管理者は,看護師の不安な状況が強くパニックになっているときなどは《自ら看護師に同行》し,何が起きているかの把握に努めていた.これらの手段で“ゆらぎ”を把握した管理者は,まず看護師が《不安で困難な状況にあることを受け止め》,それから様々な働きかけを行っていく.それは〈看護師が自らゆらぎに気づけるような促しと乗り越えられるような働きかけを行う〉であった.

“ゆらぎ”に気づき,自信の回復を促す働きかけとは,《困っていることを表出するよう促し》,《今までの訪問経過を伝える》ことから看護師に安心感を提供することと,看護師の不十分な点を指摘したり指示的な関わりをすることよりも,《同行訪問で看護を見せ》たり,夜間の緊急連絡を受ける当番などで,いつでも連絡が取れるような態勢を取って《共に判断を行い》,看護師に寄り沿って看護師の判断を支持・保証すること,などであった.「自分の携帯当番と彼女の携帯当番のときはずっと連絡が取れるようにして.夜中でもいいから,悩んだり苦しかったりしたら連絡頂戴って.一緒に携帯当番をやりました.一人で行って見てくるからそれも不安だったんですよね」

また看護師が利用者家族に自分の看護計画を押し付け,看護師が空回りをしていると思われるときは看護師に《行動の振り返りを促す》.同様に別の考え方や見方を提示して《視野を広げる助言をする》.一方看護師がなかなか周囲の意見を受けいれられなかったり,のめりこみが強く立場を超えた行動を取ってしまうときは《看護師が頑ななときははっきり伝える》.しかし基本的には,“ゆらぎ”の中にある看護師に何か教えようとか指摘しようというのではなく《看護師が気づくまで待ち・見守る》.そして《看護師の気づきを感じたら評価を返す》ことをしていた.以上のように管理者の働きかけは,基本的には看護師の気づきを促す支持的な関わりであった.「私が同行したころは,まだ自分の看護計画で引っ張ってるとは看護師は気づいてなかったと思うんですよね.でも(あなたが引っ張っていると)言葉には出しませんでした.言葉じゃなく彼女自身が振り返ってそう思ったんでしょうね」

以上のような管理者の働きかけの基盤となり管理者の基本となる看護師への思いは〈管理者の信念のもとに看護師を支え励ます〉である.看護師はゆらぎによって,今までの看護師としての自分に対する自信が失われたり,訪問看護師としての適性があるのか,など悩むが,管理者は《誰でも通る道なのだ》という意識でそれを受け止め不安感を軽減させ,更に《看護師としては大丈夫》なのだというメッセージと,《チームにとって大切な存在である》,というメッセージを伝えながら支えることで,看護師が看護師としてもチームのメンバーとしても存在感と自己効力感が得られるように関わっていた.「だから,あなたは大丈夫よ,っていうか,そういうところを大切にしています.そしていつでも後ろについているわ,でもひとりで行ってらっしゃい,っていうか.ひとりで行くんだけどひとりじゃないよ,周りはついているよ.そういう安心感じゃないかと思うんですけど.いつまでも信頼されないで,頼りないわねーなんてずっと思ってたら育たないんじゃないかしらね」

4.【ゆらぎを越えた先にある訪問看護のおもしろさへと導く】

管理者たちは語りの中で「訪問看護はおもしろい」

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と繰り返し語った.分析の結果,《看護師が人間として深い体験ができ》,それがおもしろさにつながると管理者は考えていることがわかった.更に不安の原因でもあった《一人での判断が,やりがいに変化する》,ということもあった.〈ゆらぎは訪問看護のおもしろさに通じる〉とは,管理者が訪問看護はおもしろいと思う事柄は,看護師にとっては“ゆらぎ”の原因となっていた利用者との関係性と,訪問看護独自のはたらきに起因するものであるということである.このことから,“ゆらぎ”とは越えた後捨て去るものではなく,“ゆらぎ”の正体に気づくとそれはその後看護師にとっての意味が変化し,やがては管理者が考える訪問看護のおもしろさにつながるものであると考えられた.看護師が“ゆらぎ”の中にあっても,これを越えれば看護師が訪問看護のおもしろさに気づくと確信している管理者は,“ゆらぎ”を越えさせる関わりと共に,〈訪問看護のおもしろさを共有できる仲間へと導く〉という気持ちを抱きつつ関わる.《訪問看護のおもしろさを共有したいと願い》,《楽しんでもらうためのサポートを考え》,利用者や家族にとっての看護師の重要性や,看護師の看護による利用者の状態の変化という肯定的評価-《看護師をほめる》―を返していた.「彼女が看取れた,やっぱり楽しそうだったわよ.楽しくなるように私もフォローしたしね.孫娘のようにあなたのこと思ってて早く来てくれって言ってたわよって.家族も満足してたから自分のやったことは間違いなかったって.よくやったね,がんばったねって,こう彼女を持ち上げてきた」

以上のような働きかけを行ううちに管理者は〈看護師がゆらぎを乗り越え訪問看護師として自信を取り戻したことをつかむ〉.管理者がつかむ看護師の気付きは,《利用者を尊重し看護師が誘導しない看護がわかった》り,《看護師としては大丈夫なんだとわかった》,《一人で訪問するけど一人じゃないことがわかった》であり,看護師の看護の展開の仕方や利用者 ・ 家族の理解の仕方が変化したことを実感する.「あ,そうじゃなくていいんだって看護師がわかったんですね.看護師としてやれてないわけじゃないんだって,確信みたいな感じを持つ」

5.【事業所の力を維持するための働きかけにより

看護師の成長を促す】管理者は看護師が入職してくると看護師と関係す

る周囲の人々への配慮や調整といった関わりも同時に行い,事業所としての力の維持を図ることも明らかになった.直接的な看護師への関わりだけでなく,訪問看護ステーションの周辺の人々や事業所のチーム全体へのアプローチを行うことで,看護師が困難な状況に陥るのを防ぎ,結果的に看護師の成長を促しており,このことも安心して訪問を任せられるまでの新人看護師への間接的な関わりとなっていると分析した.それらの関わりは,〈関係他者との関係を維持する〉,〈利用者に不利益が生じないよう配慮する〉,〈チームのまとまりへの影響を配慮する〉,〈トラブルに対する対応をする〉であった.

6.訪問看護ステーション管理者による,新人訪問看護師に“安心して訪問を任せられるようになるまで”の関わりの構造(図1)

訪問看護ステーションの管理者が,新人看護師に安心して訪問を任せられるようになるまでに行っている関わりが,管理者の経験から導き出された課題である訪問看護師としての実践能力と新人訪問看護師の“ゆらぎ”への関わりであることが明らかになった.図 1に示すように管理者は【訪問看護師としての適性を探る】べく看護師の個性を把握しようと努める.それは訪問看護に対する動機や期待は“ゆらぎ”に影響することを管理者はよく知っているからである.そして【看護師の個性を活かし訪問看護師として求められる力を高めようと働きかける】.一方看護師が一人で訪問するようになると,“ゆらぎ”が徐々に出現することを管理者は知っている.そこで看護師の状況を見極め,看護師が“ゆらぎ”に気づき【ゆらぎを乗り越え訪問看護師としての自信の

ゆらぎを越えた先に

ある訪問看護のおも

しろさへと導く

訪問看護師としての

適性を探る

看護師の個性を活かし訪問看護師としての能力の充実を図る

ゆらぎを乗り越え訪問看護師としての自信の回復を促す

事業所の力を維持するための働きかけにより看護師の成長を促す

安心して訪問看護を任せられる

ようになるとき

図1 訪問看護ステーション管理者による新人訪問看護師に安心して訪問を任せられるようになるまでの関わり関連図

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回復を促す】ことを目指した働きかけを行っていく.また,実践能力と“ゆらぎ”は相互に関連しあっており,実践能力が高められるように働きかけることは看護師自身が“ゆらぎ”に気づく働きかけともなっていく.管理者は“ゆらぎ”の正体はおもしろさの正体であることを経験的に知っており,それに気付かせ乗り越えさせて【ゆらぎを越えた先にある在宅看護のおもしろさへと導く】関わりを行う.また,看護師が訪問看護に不慣れであったり“ゆらぎ”により看護提供が不十分な間に事業所としての評価が下がらないように,【事業所の力を維持するための働きかけにより看護師の成長を促す】働きかけを看護師周辺に行う.管理者が安心して訪問を任せられる時は,管理者が焦点を当てた課題に対する関わりの結果,看護師に自分の看護やゆらぎへの気づきが見られ,看護提供上の変化が見られたときということができた.

Ⅴ.考察

1.“ゆらぎ”と療養者の文化の中での看護4つの“ゆらぎ”の中の《ひとりで訪問し看護を

やり終えることの不安》や《利用者家族との適切な距離のとりかたにおける混乱》は訪問看護に特徴的な事柄によって起きる“ゆらぎ”ということができる.富安(2005)は「新人訪問看護師が病院における看護と違うと認知した課題」に,「ひとりで訪問する」を上げており,この課題が“ゆらぎ”の原因になっているものと考えられる.又,家族が看護の対象となるということは病棟看護でも同様ではあるが,在宅においてはお互いの関係性が濃厚であることや,看護師が直接看護を提供するだけでなく,看護師が計画したことを家族にやってもらいたいと考え指導することが特徴的であると言え,そのことが

“ゆらぎ”を引き起こすのであろう.しかし《利用者中心の看護の提供にシフトすること》や《利用者によって提供することが違う個別性の強さ》は,患者中心の看護,個別的な看護の提供という,看護に本来求められることである.これらが“ゆらぎ”となる理由を考えてみたい.新人看護師が直面する“ゆらぎ”は,ケアを提供しても相手に届いた実感や達成感が感じられないときに起きる現象と考えられ

た.Leininger(1992)の“文化”の定義によれば,居宅も一つの文化が存在するところと考えられる.そして“看護の本質”であるヒューマンケア・ケアリングは文化を理解し,考慮した文化ケアを提供することで達成できるとしている.病棟の文化で行ってきた看護をそのまま在宅で展開してもケアが利用者家族に到達したことの達成感,相手のニーズに応えられた満足感が得られないのは,この文化ケアが展開できていないせいであり,看護師に文化ケアの理解がない,あるいは浅いために“ゆらぎ”が生じるのだと思われる. Leininger(1992)は看護問題という用語や看護介入という用語について,“看護問題とされるものはその人の問題ではない”“介入と文化の知識の欠如によってクライエントの文化的な生活様式や信念に干渉する”と述べ,それらの用語は文化ケアにおいては用いないとしている.看護問題や看護介入という病棟看護では当然の用語や概念は,利用者の文化の場である在宅で看護を展開するとき利用者主体のケアという基本的な見方の妨げとなり,それに基づいて看護を提供してきた看護師に“ゆらぎ”が生じる.しかし管理者は,利用者家族に対するケアリングはその文化を理解し考慮することによって可能となることを知っており,看護師がそれに気づくように促すのである.

2.管理者が用いる“人を育てるスキル”管理者は OJT(on the job training 現場教育)の

手法を用いて新人教育を行っていた.管理者は管理業務を行いながら訪問看護業務もスタッフ同様に行っているのが現状であり(日本訪問看護振興財団,2002),本研究の協力者も例外ではなく多忙であった.しかしその中で協力者は,“ゆらぎ”への関わりの手段として同行訪問を効果的に用いて OJT を行っていた.同行訪問のタイミングを的確に把握し,機を逸せずに同行訪問を行う.その際誰が同行するのが一番看護師にとってよいのかの判断も行っていた.同行訪問においては看護師の不十分な点や未熟な点を指摘することよりも,看護師に寄り添い,看護師と判断を共に行い,管理者や先輩看護師の看護を見せる,そして看護師自らの気づきを促す,という働きかけを行っていた.“ゆらぎ”の際の同行訪問はそれを通じて訪問看護師に自信を与えるような関わりを含むものとなっていた.新人教育には良く

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使われる同行訪問であるが(日本訪問看護振興財団 , 2007),人材育成上の意味においては重要であることが本研究でも明らかになった.今後も効果的な使い方を検討すべきものと考える.更に,管理者の“ゆらぎ”に対する関わりの基本的スタンスは“待ち,見守り,助言し,気づきを促し,肯定的評価を返す”という行為であった.これらの行為は実践能力への関わりともほぼ共通している.頭ごなしに間違いを指摘したりするという行為を極力抑え,“ゆらぎ”は誰でも通る道であると認識しつつ,まず看護師の感情を受け止める.それから看護師自身の気づきを促すという関わり方を行い看護師の変化を感じる.池田(2004)は人に行動変容を促すポイントとして

“感情に働きかけること”を挙げており,桐村(2005)は“人を理解し育てる技術”としてカウンセリングマインド,アサーションと傾聴をあげている.リーダーとして人を育てる立場にあるときには,相手を受け入れ,気づきを促し,待つ,傾聴を心がけ相手の意見を尊重しつつ自分の意見も述べる,というスキルが求められていることがわかり,これらと比較すると今回の管理者は,人を育てるスキルを効果的に用いていることがわかった.

3.本研究の限界と今後の課題本研究の研究協力者は熟練訪問看護ステーション

管理者 10 名であった.本研究の結果はこの 10 名が行っていることを概念化したものであり,全ての訪問看護ステーション管理者に適用することはできない.今後は更に多くの管理者の実践を調査することや,新人看護師側がどう受け止めたのかの調査も必要であると考える.

謝辞:本研究にご協力いただきました研究協力者の皆

さまに心から感謝申し上げます.また,研究の過程でご

指導いただいた聖路加看護大学看護実践研究センター教

授山田雅子先生,社会学教授伊藤和弘先生に深く感謝申

し上げます.この研究は聖路加看護大学大学院看護学研

究科修士論文の一部を加筆修正したものであり,第 12 回

日本看護管理学会年次大会にて発表した.またこの研究

は平成 19 年度財団法人フランスベッドメディカルホーム

ケア研究 ・ 助成財団の助成を受けて行った.

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