複素解析 - 北海道大学 宇宙理学専攻webkeikei/lecture/math-note.pdf物理数学i 演習...
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物理数学 I演習 0
複素解析解析学は微分と積分を主題にした数学のことである.学部 1年までは実数関数
についての微分積分学を学んできた. 実数関数を複素数上で定義された複素数値をもつ関数に拡張したものが複素関数である. 複素関数を利用した微分と積分からなる数学を複素解析と呼ぶ. 複素関数論とも言葉もよく用いられる. これは複素解析と同義と思ってよい.ある複素数 z は 2つの実数 x, y により z = x + iy とあらわされる (i は虚数単
位). したがって 1つの複素数は 2次元のベクトル (x, y)とみなすことができる. そのため複素解析と 2次元のベクトル解析とは密接な関連がある. 実際に,複素積分の定義には線積分の概念を使うし,複素解析の根幹をなす定理群はストークスの定理の応用として導くことができる.複素解析,複素関数を導入するご利益は,「種々の積分を非常に簡単に求められ
る」ということに尽きる. その応用先は特殊関数論 (あらゆる物理分野をカバー),流体力学 (特に 2次元流問題),弾性体力学等,物理学と数学の広い範囲に及んでいる. 進んだ応用については後期の物理数学 II (演習)で学ぶことになる.
1.1 複素関数の導入複素関数とは複素数 z を変数とする関数のことで, w = f(z)等として表す. z の
動く範囲を f(z)の定義域,そのときの wの動く範囲を値域と呼ぶ.z = x + iyとおけば, f(z)は 2つの実変数 x, yの関数となる. f(z)の実部および
虚部を表す実関数を u(x, y), v(x, y)とおくと,
w = f(x + iy) = u(x, y) + iv(x, y)
と表される.複素関数の場合,定義域も値域も複素平面上のある領域を示す. そのため複素関
数を幾何学的に表すためには 2つの複素平面が必要となる. z の動く複素平面を z
平面, w動く複素平面を w平面と呼ぶ. 一般に定義域を表す記号としてD,値域を表す記号として D′ を用いる.
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1.2 複素数の性質複素数 z は任意の実数 x, yと虚数単位 iを用いて z = x + iyと定義される. x, y
はそれぞれ z の実部 (real part),虚部 (imaginary part)と呼び, x = Re(z), y = Im(z)
と表す.
(1) −iの平方根を求めよ.
(2) 2つの複素数 z1 = x1 + iy1, z2 = x2 + iy2 の和,差,積は
z1 ± z2 = (x1 ± x2) + i(y1 ± y2), z1 · z2 = (x1x2 − y1y2) + i(x1y2 + x2y1),
と表される. このとき z1/z2 の実部,虚部を x1, y1, x2, y2 を用いて表せ.
(3) 複素数 z = x+iyの虚部の符号を変えたもの x−iyを zの共役複素数 (complexconjugate)と呼び, z と表す. このとき以下の関係が成り立つことを示せ.
(z1 · z2) = z1 · z2, z1/z2 = z1/z2 (z2 6= 0).
(4) 複素数 z = x + iyの絶対値 |z|は√
x2 + y2と定義される. このとき任意の 2つの複素数 z1, z2 に対し,以下の式が成り立つことを示せ.
|z1 + z2| ≤ |z1| + |z2| (三角不等式)
(5) 一般に n個の複素数 z1, z2, · · ·, zn に対し,以下の式が成り立つことを示せ.
|z1 + z2 + · · · + zn| ≤ |z1| + |z2| + · · · + |zn| (1.1)
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1.3 複素数の指数関数a, tは実数とする. このとき指数関数 eat は
eat =∞∑
n=0
(at)n
n!= 1 +
at
1!+
(at)2
2!+ · · ·
と無限級数を用いて表される. ただし 0! = 1とする. さらに eat は次の微分方程式の初期値問題,
df(t)
dy= af(t), f(0) = 1,
の解である.以下では aを複素数に拡張可能であるとする.
(1) オイラーの公式eiy = cos y + i sin y (1.2)
が成り立つことを示せ. ここで yは実数である.
(2) 任意の 2つの複素数 z1, z2 に対し, ez1ez2 = ez1+z2 となることを示せ (ヒント:eat が上記の微分方程式の解であることを利用する).
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1.4 複素数の極形式複素数 z = x + iy (x, y は実数) は横軸に実数, 縦軸に虚数にとった 複素平面
(complex plane)上のある 1点として表現される. このとき
z = r(cos θ + i sin θ) = reiθ (1.3)
と表される. これを複素数の 極形式という. 最後の等号関係はオイラーの公式を用いた. ここで r = |z| =
√x2 + y2, θは zの偏角 (argument)と呼ばれ, θ = argzと
表される.物理では偏角 θは位相 (phase)と呼ばれることが多い.累乗根 z1/n
• 定義: wn = z に対するwの解
• z = reiθ とおくと,定義より
z1/n = n√
r exp[i
n(θ + 2πk)] (k = 0, 1, . . . n − 1)
(注意)累乗根 z1/nは n個の値をとる.
• 例:81/3 = 2, 2e2π3
i, 2e4π3
i
(1) z が実数の場合および純虚数の場合, argz はそれぞれどうなるか.
(2) 次の複素数を極形式で表し複素平面上に図示せよ.
i, −i, 1 − i, 1 +√
3i
(3) ド・モアブルの公式
(cos θ + i sin θ)n = cos nθ + i sin nθ, (1.4)
が成り立つことを示せ.
(4) z3 = 1の根を全て求め,それを複素平面上に図示せよ.
(5) 任意の自然数 nに対し zn = 1の根は複素平面上でどのような幾何学的位置にあるか.
(6) 次の値を求めよ.値は1つとは限らない.
11/4, i2/3, ii
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[7 ] |z| < 1ならば,∞∑
n=0
zn =1
1 − zである.これを用いて,|r| < 1のとき次式
が成り立つことを示せ.
∞∑n=0
rn cos nθ =1 − r cos θ
1 − 2r cos θ + r2
∞∑n=0
rn sin nθ =r sin θ
1 − 2r cos θ + r2
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1.5 オイラーの公式の利用オイラーの公式 (1.2),ド・モアブルの公式 (1.3)を用いて以下の公式が成り立つ
ことを示せ.
(1) cos(θ1 ± θ2) = cos θ1 cos θ2 ∓ sin θ1 sin θ2
(2) sin(θ1 ± θ2) = cos θ1 sin θ2 ± sin θ1 cos θ2
(3) cos 2θ = cos2 θ − sin2 θ
(4) sin 2θ = 2 sin θ cos θ
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1.6 振動の記述ばね定数 kのばねに質量mの物体を結びつけ x軸上で振動させる.物体mの運
動方程式はm
d2x
dx2= −kx (1.5)
あるいはd2x
dx2= −ω2x, ω2 =
√k
m(1.6)
で与えられる.指数関数を微分しても変わらない性質を利用1して,この方程式の解を
x = aebt (1.7)
と予想して a, bを決定する.これをもとの方程式に代入すると
b2aebt = −ω2aebt
を得る.これからb = ±ω
と決定できる.よって一般解は
x = a1eiωt + a2e
−iωt (1.8)
となる.時刻 t = 0で x = Aから初速度 0で出発したとする:
x(0) = A, x(0) = 0.
これを満たすように a1, a2は
x = iω(a1eiωt − a2e
−iωt)
よりa1 = a2 = A/2
であるからx =
1
2A(eiωt + e−iωt) = A cos(ωt) (1.9)
となる.
(1) 速度に比例する摩擦がある場合の運動方程式
mx + 2λx + mω2x = 0
の解について論じよ.ここで λは摩擦の大きさの目安を与える定数である.また上で論じた例と同じ初期条件のときの解を求めよ.λ → 0で上で求めた解 (1.9)に近づくことを確認することをお忘れなく.
1指数関数の変数はいまの場合,複素数になるかも知れないが気にしない.とりあえずこれで進み困ったときにあらためて考え直せばよい.これが物理数学のやり方.
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2.1 複素関数の極限と連続複素数平面の領域 D で定義された複素関数 w = f(z)を考える. z が D 内を移
動してある点 z0 に近づくとき, w がある値 w0 に近づくとき, f(z)は z = z0 で極限値 w0 を持つという. 数式では
limz→z0
f(z) = w0 (2.1)
と表す. このとき z0にどの方向から近づいても wは w0 (|w0| < ∞)に近づく (すなわち偏角によらない)ことが必要である. すなわち
z − z0 = reiθ
とおくとき,r → 0で θによらずw = f(z)が一定値w0に近づくときf(z)は z → z0
で極限値w0をもつ.
例 2.1 w = (z − 1)2において z → 1の極限値は z − 1 = reiθとおき r → 0とすると,w = r2e2iθは θの値によらずゼロに近づく.すなわち
limz→1
(z − 1)2 = 0
である.
例 2.2w =
z∗
z
において z → 0の極限値.z = reiθとおくと
w =r−iθ
reiθ= e−2iθ.
rは消えて r → 0としてもwは e−2iθに留まる.実軸の正の方向 θ = 0から近づくとw → 1である.一方.虚軸の正の方向 θ = π/2から近づくとw → e−iπ = −1である.よってこの極限値は存在しない.
複素関数 w = f(z)が次の 3つの条件
1. z = z0 で f(z0)が存在する,
2. limz→z0 f(z) = w0 が存在する.
3. w0 = f(z0)が成り立つ.
を同時に満たすとき, f(z)は z = z0 で連続であるという
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2.2 複素関数の微分複素数 zを 2つの実数 x, yを用いて z = x + iyと表すとき.複素関数 f(z)は実
変数 x, yの 2変数関数とみることができる.たとえば f(z) = z2 = x2 − y2 + 2ixy,f(z) = |z|2 = x2 + y2. あるいは 2実変数 x, y の関数とみるかわりに,zとその共役な z∗ = x− iyとの 2変数関数とみることもできる.z, z∗で上記の f = |z|2を表すと f(z) = z∗ · z.両変数ペアの間の関係は
z = x + iy, z∗ = x − iy. (2.2)
あるいはx =
1
2(z + z∗), y =
1
2i(z − z∗). (2.3)
複素関数 f は (x, y)または (z, z∗)のどちらの変数ペアの関数とも見なすことができる.いま f(x, y)は z = z0 = x0 + iy0において xでも yでも微分可能とすると,f を
(z, z∗)の関数と見なし,z = z0付近で
f(z) = f(z0) +
(∂f
∂z
)z0
(z − z0) +
(∂f
∂z∗
)z0
(z∗ − z∗0) + O(|z − z0|2) (2.4)
と展開する.これから
f(z) − f(z0)
z − z0
=
(∂f
∂z
)z0
+
(∂f
∂z∗
)z0
(z − z0)∗
z − z0
+ O(|z − z0|) (2.5)
ここで z → z0の極限をとる.z − z0 = reiθとおき r → 0とすればよい.このとき
f(z) − f(z0)
z − z0
=
(∂f
∂z
)z0
+
(∂f
∂z∗
)z0
e−2iθ (2.6)
となる.(∂f/∂z∗)z0 = 0でないかぎり極限値は z0へ近づく方向 θによる.θによらずどの方向から z0に近づいても左辺が (その絶対値が有限な)一定値をとるとき,f(z)は z = z0で微分可能と言い,f ′(z0)や df
dz(z0)等と記す.f ′(z0)が存在するた
めの必要十分条件は z = z0において
∂f
∂z∗= 0 (2.7)
である.(2.7)をコーシー-リーマン (Cauchy-Rieman)の方程式という.要するにある複素関数が(z∗を用いずに)zのみで表せるとき,その関数は点
zで微分可能である.実変数の意味での微分は関数がなめらかである,という定性的意味にすぎなかったが,複素変数ではコーシー-リーマンの方程式を満たさねばならない,というきつい条件がかかる.その結果,微分可能な関数の範囲はずっと狭まる.たとえば
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• z2は複素平面上でのあらゆる点で微分可能,であるが
• |z|2は原点を除くあらゆる点で微分不可能
である.複素平面上のある領域Dの各点で f(z)が微分可能なとき f(z)はD上で解析的
(あるいは正則という言葉も使われる)であるという.
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2.3 コーシー・リーマンいろいろコーシー・リーマンの方程式 (2.7)はいろいろな形で表すことができる.その準備として (2.7)における ∂/∂z∗を x, yでの微分で表しておこう.まず (2.3)
より∂x
∂z=
1
2,
∂y
∂z=
1
2i
である.ここで zでの偏微分は z∗を固定した偏微分である.同様に
∂x
∂z∗=
1
2,
∂y
∂z∗ = − 1
2i
今度は zを固定して微分した.これから
∂
∂z=
∂x
∂z
∂
∂x+
∂y
∂z
∂
∂y=
1
2
(∂
∂x+
1
i
∂
∂y
)(2.8)
を得る.これで微分変数が x, yに変換できた.同様に
∂
∂z∗=
1
2
(∂
∂x− 1
i
∂
∂y
). (2.9)
複素関数 f(z)を実部 uと虚部 vにわけて
f(z) = u(x, y) + iv(x, y) (2.10)
と表し,(2.9)を用いてコーシー-リーマンの方程式 (2.7)を表すと
0 =∂
∂x(u + iv) − 1
i
∂
∂y(u + iv) =
(∂u
∂x− ∂v
∂y
)− 1
i
(∂u
∂y+
∂v
∂x
)と書ける.よって
∂u
∂x=
∂v
∂y,
∂v
∂x= −∂u
∂y(2.11)
を得る.これはコーシー-リーマンの方程式の別の表現である.さらに (2.8). (2.9)から
∂2
∂z∂z∗ =1
4
(∂
∂x− 1
i
∂
∂y
)(∂
∂x+
1
i
∂
∂y
)=
1
4
(∂2
∂x2+
∂2
∂y2
)=
1
4∆. (2.12)
ここで∆はラプラシアンである.(2.7)を満たす関数 f に対して
∆f(z) = ∆u(x, y) + i∆v(x, y) = 0
である.よって∆u(x, y) = ∆v(x, y) = 0. (2.13)
よって解析関数の実部と虚部はラプラス方程式を満たす.すなわち調和関数である.
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2.4 いくつかの初等関数とその微分2.4.1 指数関数と 3角関数
zを複素数とする. このとき指数関数 ez,三角関数 cos z, sin z は次の無限級数で定義される.ただし 0! = 1とする.
ez = 1 +z
1!+
z2
2!+ · · · =
∞∑n=0
zn
n!, (2.14)
cos z = 1 − z2
2!+
z4
4!+ · · · =
∞∑n=0
(−1)nz2n
(2n)!, (2.15)
sin z = z − z3
3!+
z5
5!+ · · · =
∞∑n=0
(−1)nz2n+1
(2n + 1)!(2.16)
この定義からオイラーの公式
eiz = cos z + i sin z, e−iz = cos z − i sin z (2.17)
が成り立ち,これから 3角関数を指数関数で表す公式
cos z =eiz + e−iz
2, sin z =
eiz − e−iz
2i(2.18)
が得られる.また加法定理やその他多くの公式はそのまま成り立つ.たとえばピタゴラスの定理
cos2 z + sin2 z = 1
など.実際
cos2 z + sin2 z =
(eiz + e−iz
2
)2
+
(eiz − e−iz
2i
)= 1
である.これらの関数は複素平面の全領域で解析であり,定義からその微分は
d
dzez = ez,
d
dzcos z = − sin z,
d
dzsin z = cos z (2.19)
となることがわかる.要するに実関数のときの微分公式がそのまま成り立つ.
2.4.2 双曲線関数
双曲線関数は以下のように定義される:
cosh z =ez + e−z
2, sinh z =
ez − e−z
2, tanh z =
sinh z
cosh z(2.20)
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zは実数であっても複素数であってもよい.双曲線関数における「ピタゴラスの定理」は
cosh2 z − sinh2 z = 1 (2.21)
となる.cosh z, sinh zの定義 (2.20)から,これらは複素平面の全域 (|z| < ∞)で解析であ
ることがわかる.ただし tanh zは z = ±πiで微分可能ではない.(2.20)の両辺をzで微分すると
d
dzcosh z = sinh z,
d
dzsinh z = cosh z,
d
dztanh z =
1
cosh2 z(2.22)
となることがすぐわかる.ただし z = ±πi/2で cosh z = 0となることから tanh z
は z = ±πi/2で微分不可能である.これまた 3角関数の微分公式とほぼ同じだがcosh zの微分のみ符号が異なる.
2.4.3 対数関数
複素数 zの対数関数はどう定義できるだろうか?いま zを極形式で表し z = reiθ
とし,両辺の自然対数をとる.実関数とのアナロジーで
ln z = ln r + iθ
となる.右辺第 1項は zの絶対値の lnを,第 2項は zの偏角 (argument)の i倍となっている.これから複素数 zの対数関数は
ln z = ln |z| + i arg z (2.23)
と定義できる.実数の z > 0では arg z = 0であるから ln z = ln |z|であり,これまでの対数の定義と一致する.負の実数や複素数ではこれまで対数は計算できなかったが,いまやその値を求めることができる.たとえば
ln(−2) = ln(2eiπ) = ln 2 + iπ, ln i =π
2i, ln(1 + i) =
1
2ln 2 + i
π
4,
等々.(2.23)で定義された対数関数は z = 0(と z = ∞)を除いて複素平面上で解析的
である(問題 2.7で証明せよ).したがって点 z にどの方向から近づいても zにおける微係数は等しい.θ = arg z = 0の方向から近づくとき,(2.23)右辺第 2項はゼロであるから落としてよい.よって ln zの微分は実関数 ln |z|の微分と同じである.すなわち
d
dzln z =
1
z. (2.24)
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指数関数,3角関数,双曲線関数と比べて,対数関数では実は次のようなやっかいな?問題がある.与えられた複素数 z = |z|eiθを極形式での表現はこれ以外にも実は無数にある.すなわち nを任意の整数として
z = |z|ei(θ+2nπ) = |z|eiθ · e2nπi.
なぜならば任意の整数 nに対して e2nπi = 1であるからである.この結果,両辺のlnをとった
ln z = ln |z| + i(θ + 2nπ), n = 0,±1,±2, · · · (2.25)
は無数個の値をとる.ln zのように複素平面上の点 zを与えても関数値が一意的に決まらない関数は多価関数と呼ばれる.これは同じ点であるにもかかわらず,zを一意的に表せないことによる.無数の値を相手にするのは面倒なので,zの偏角 θ
の範囲を 0 ≤ θ < 2πに限り 1価関数として扱うことがある.このときの ln zの値を主値という.
2.4.4 無理関数
z = rei(θ+2nπ), (n = 0,±1,±2, · · · )は複素平面上で同じ点を表している.いま複素関数
f(z) =√
z = z1/2 (2.26)
を考えると,たとえば z = reiθ と z = rei(θ+2π) は同じ点であるにもかかわらず,f(z) = z1/2の値は
f(reiθ) = r1/2eiθ/2, f(rei(θ+2πi)) = r1/2eiθ/2eiπ = −r1/2eiθ/2
という異なる値をとる.一方,
f(rei(θ+4π)) = r1/2eiθ/2e2πi = r1/2eiθ/2 = f(reiθ)
すなわち複素平面上で zが原点を中心とする半径 rの円周上で 2回転 (4π回転)するごとにz1/2はもとの値に戻る.つまりz1/2は2価関数である.zの偏角を0 ≤ z < 2π
の限る,すなわち主値をとると,z1/2は 1価関数となり,その偏角は 0 ≤ θ < πで変化する.
z1/2は z = 0以外で解析的であり,その微分は
d
dzz1/2 =
1
2z1/2(2.27)
である.つまり実関数の場合と同じように微分すればよい.一般に zα(αは複素数)の微分は
d
dzzα = αzα−1 (2.28)
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である.解析関数では実数での微分がそのまま複素数まで拡張できる.よって「これまでどおり」計算すればよい.以上から,解析関数の微分では実関数の微分に新たな規則を付け加えることな
く.実関数の知識をそのまま活かして自然に世界を複素関数まで拡張できた.なんという快適さ!
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問題問題 2.1 次の関数 f(z)の解析性を調べよ.ただし x = (z + z∗)/2, y = (z − z∗)/2i
である.
1. f(z) = z − z∗
2. f(z) = z + 1/z
3. f(z) = x2 + y2 + 2ixy, f(z) = x2 + y2 − 2ixy
4. f(z) = e−y (cos x + i sin x), f(z) = e−y (cos x − i sin x)
問題 2.2 2次元渦なし流体の流れは複素ポテンシャル
f(z) = u(x, y) + iv(x, y)
によって記述するのが便利である.実部 u(x, y)は速度ポテンシャル,虚部 v(x, y)
を流れ関数とよぶ.流体の速度V は
V = ∇u
によって与えられる.f(z)が解析的だとして以下を示せ.
1. df/dz = Vx − iVy
2. ∇ · V = 0(湧き出し,吸い込みない).
3. ∇× V = 0(渦なし,層流).
問題 2.3 双曲線関数の「ピタゴラスの定理」を証明せよ.
問題 2.4 zが実数のとき cosh z, sinh z, tanh zのグラフの概略を描け.
問題 2.5 以下の公式を証明せよ.
cosh z = cos iz, sinh z = −i sin iz, tanh z = −i tan iz
問題 2.6 加法定理
cosh(z1 + z2) = cosh z1 cosh z2 + sinh z1 sinh z2,
sinh(z1 + z2) = sinh z1 cosh z2 + cosh z1 sinh z2,
tanh(z1 + z2) =tanh z1 + tanh z2
1 + tanh z1 tanh z2
を証明せよ.3角関数の加法定理とたいへんよく似ているが符号が微妙に異なる.どの部分の符号が違うか?
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問題 2.7 対数関数は z = 0(と z = ∞)を除いて複素平面上で解析的であることを以下の 2とおりの計算によって示せ.すなわち (2.25)において
1. その実虚部をそれぞれ
u(x, y) = ln |z|, v(x, y) = arg z
とおき,u, vがコーシー-リーマン方程式 (2.11)を満たすことを示す.
2. ln zをzとz∗で表しコーシー-リーマン方程式の等価な別の表式∂ ln z/∂z∗ = 0
(2.7)を満たすことを示す.
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物理数学 I演習 17
3.1 複素関数の積分関数の定積分を考える.実変数のときは積分径路は一意的であった.たとえば∫ 1
0
dx x
は x軸にそって 0から 1まで xを積分するという意味である.これに対して,複素変数の積分 ∫ 1+i
0
dz z
では複素平面において 0から 1 + iに至る径路は無数にある.このため積分値が一意的にきまるかどうかが問題となる.たとえば上の例では,(1)原点から実軸に沿って z = 1まで行き次に虚軸に平行
に z = 1から z = 1 + iまで行く径路に沿った積分と,(2) 原点から虚軸に沿ってz = iまで行き次に実軸に平行に z = iから z = 1 + iまで行く径路に沿った積分とは同じ値になるだろうか?実際に径路 (1)と径路 (2)に沿った積分を計算して両者の結果を比較してみよう.
z = x + iy (3.1)
とおき,よく知っている実変数 x, yの積分に焼き直して計算しよう.このとき
dz = dx + idy (3.2)
であるから ∫ 1+i
0
dz z =
∫ 1+i
0
(dx + idy)(x + iy) (3.3)
と書ける.径路 (1)の 0から 1までの積分においては y = 0よって dy = 0,1から1 + iまでの積分では x = 1よって dx = 0であるから∫
(1)
dz z =
∫ 1
0
dx x +
∫ 1
0
idy (1 + iy) =
∫ 1
0
dx x + i
∫ 1
0
dy + i2∫ 1
0
dy y
=1
2+ i + i2
1
2= i
(3.4)
となる.径路 (2)の 0から iまでの積分においてはx = 0よって dx = 0,iから 1+ i
までの積分では y = 1よって dy = 0であるから∫(2)
dz z =
∫ 1
0
idy iy +
∫ 1
0
dx (x + i) = i2∫ 1
0
dy y +
∫ 1
0
dx x + i
∫ 1
0
dx
= i21
2+
1
2+ i = i
(3.5)
となって径路 (1)の結果と一致する.
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物理数学 I演習 18
積分 ∫ 1+i
0
dz z∗ (3.6)
ではどうだろうか?z∗ = x − iy (3.7)
であるからこの積分は∫ 1+i
0
dz z =
∫ 1+i
0
(dx + idy)(x − iy) (3.8)
と書ける.径路 (1)に沿って積分すると∫(1)
dz z∗ =
∫ 1
0
dx x +
∫ 1
0
idy (1 − iy) =
∫ 1
0
dx x + i
∫ 1
0
dy + i(−i)
∫ 1
0
dy y
=1
2+ i +
1
2= 1 + i
(3.9)
となる.径路 (2)では∫(2)
dz z =
∫ 1
0
idy (−iy) +
∫ 1
0
dx (x − i) = i(−i)
∫ 1
0
dy y +
∫ 1
0
dx x − i
∫ 1
0
dx
=1
2+
1
2− i = 1 − i
(3.10)
となって径路 (1)に沿った結果とは一致しない.
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物理数学 I演習 19
3.2 コーシーの積分定理複素平面上での z = aから z = bまでの定積分∫ b
a
dz f(z) (3.11)
の値が径路によらず一意的にきまる条件を考察しよう.積分値が径路によらないことを示すには,z = aから bに至る径路Aと z = bから aに至る径路Bを合わせた閉じた径路Cを考え,径路Cに沿った周回積分∮
C
dz f(z) (3.12)
がCの形によらずゼロになることを示せばよい.複素関数 f(z)において z = x + iyである.f(z)を x, yの関数と見なして,まず
複素平面上の大きさが無限小の径路
x + iy→(1)
(x + dx) + iy→(2)
(x + dx) + i(y + dy)→(3)
+i(y + dy)→(4)
x + iy
に沿った周回積分を考える.それぞれの径路での積分値は
1. f(x, y)dx
2. f(x + dx, y)(idy) = if(x + dx, y)dy
3. f(x, y + dy)(−dx) = −f(x, y + dy)dx
4. f(x, y)(−idy) = −if(x, y)dy
これらを加え合わせると∫(1)+(2)+(3)+(4)
dz f(z) = [f(x, y) − f(x, y + dy)]dx + i[f(x + dx, y) − f(x, y)]dy
=
(−∂f
∂y+ i
∂f
∂x
)dxdy = i
(∂f
∂x+ i
∂f
∂y
)dxdy
(3.13)
となる.径路Cで囲まれた有限な領域Dでの積分にするには,Dをこのような無限小の領域に分割し,各無限小領域での積分を加え合わせればよい.このとき各無限小領域での周回積分の和は有限領域Dの周囲Cに沿った積分となる.よって∮
C
dz f(z) = i
∫∫D
dxdy
(∂f
∂x+ i
∂f
∂y
)(3.14)
(2.3)の関係x =
1
2(z + z∗), y =
1
2i(z − z∗)
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物理数学 I演習 20
を用いて積分変数を x, yから z, z∗に変換すると
idxdy = i∂(x, y)
∂(z, z∗)dzdz∗ = i
∣∣∣∣∣12
12i
12
− 12i
∣∣∣∣∣ dzdz∗ = −1
2dzdz∗. (3.15)
また (2.9)の関係∂
∂x+ i
∂
∂y= 2
∂
∂z∗(3.16)
を用いると結局 ∮C
dz f(z) = −∫∫
D
dzdz∗∂f
∂z∗(3.17)
を得る.よって∂f
∂z∗= 0 (3.18)
のときは ∮C
dz f(z) = 0 (3.19)
となる.この事実はコーシーの積分定理と呼ばれる.(3.18)は微分可能条件(コーシー-リーマンの方程式)であることに注意せよ.f(z)が領域Dで微分可能(解析的)であるならばD内で f(z)が積分可能,つまり f(z)の定積分は径路によらずその両端の値のみによってきまる.よって解析関数の積分では径路を気にせず,「これまでどおり」積分すればよい.たとえば∫ 1+i
0
dz z =
[z2
2
]1+i
0
=(1 + i)2
2= i
のように.
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物理数学 I演習 21
3.3 コーシーの積分表示いま領域Dの内部に点 z0があり f(z)はDで微分可能とすると
f(z)
z − z0
は z = z0以外で微分可能である.ここで z0を中心とする半径 rの円 Sr を考えると f(z)/(z − z0)はDからSrより内側をDから除いた領域で微分可能であるから,∮
C
dzf(z)
z − z0
=
∮Sr
dzf(z)
z − z0
(3.20)
が成り立つ.右辺の積分は次のように計算できる.Sr上の点は
z = z0 + reiθ (r = const, 0 ≤ θ < 2π) (3.21)
と表せる.これからdz = ireiθdθ (3.22)
である.よって∮Sr
dzf(z)
z − z0
=
∫ 2π
0
ireiθdθf(z0 + reiθ)
reiθ= i
∫ 2π
0
dθ f(z0 + reiθ).
ここで r → 0とすると右辺の integrandは f(z0) = const となり,右辺は 2πif(z0)
となる.よって
f(z0) =1
2πi
∮C
dzf(z)
z − z0
. (3.23)
これは f(z0)の積分表示とよばれる.とくに f(z) = constのとき∮C
dz
z − z0
= 2πi (3.24)
となる.
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物理数学 I演習 22
3.4 導関数の積分表示f(z)を領域Dで微分可能な関数,閉曲線 C をD内の閉曲線とすると,D内の
点 z0での f(z0)はコーシーの積分表示 (3.23)から
f(z0) =1
2πi
∮C
dzf(z)
z − z0
(3.25)
と表される.両辺を z0で微分すると導関数
f ′(z0) =1
2πi
∮C
dzf(z)
(z − z0)2(3.26)
が得られる.もう一回微分すると
f ′′(z0) =2
2πi
∮C
dzf(z)
(z − z0)3(3.27)
さらに微分するとf ′′′(z0) =
3 · 22πi
∮C
dzf(z)
(z − z0)4. (3.28)
よって一般に
f (n)(z0) =n!
2πi
∮C
dzf(z)
(z − z0)n+1(3.29)
(3.29)はグルサーの公式と呼ばれる. グルサーの公式は微分可能な関数f(z)のz = z0
における微係数 f (n)(z0)を f(z)の積分で表す式である.
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物理数学 I演習 23
3.5 解析接続グルサーの公式から z = z0で 1回微分可能な関数は何回でも微分可能であるこ
とがわかる.すなわち,複素関数の微分可能性は z = z0近傍における関数の局所的振舞を規定するだけでなく,大域的振舞まで規定していることを意味する.このことは,f(z)は別の点 aでも解析的であること,すなわち f(z)は aのまわりで整級数に展開できる可能性を開く.これを以下で具現化しよう.積分径路上の任意の点 zに対して |z − a| > |z0 − a|
となるように径路を選ぶ.そうすると 1/(z − z0)を z = aのまわりで
1
z − z0
=1
z − a· 1
1 − z0 − a
z − a
=∞∑
k=0
(z0 − a)k
(z − a)k+1
(∣∣∣∣z0 − a
z − a
∣∣∣∣ < 1
)(3.30)
と展開できるから,これを (3.25)に代入すると
f(z0) =1
2πi
∮C
dz f(z)∞∑
k=0
(z0 − a)k
(z − a)k+1
=∞∑
k=0
ak(z0 − a)k. (3.31)
となり,z = aのまわりでの展開が得られた2.ここで
ak =1
2πi
∮C
dzf(z)
(z − a)k+1(3.32)
である.この級数は z = aのまわりのある範囲で収束する.この範囲の端の辺の点 bを
とり,点 bのまわりで f(z)を展開すると,級数は bのまわりのある範囲で収束する.この手続きを繰り返しすと,(うまく行けば)解析関数 f(z)の定義域を拡げてゆくことができる.この領域拡張手続きを解析接続という.上での導き方からわかるように,展開中心 aにおける f(z)の微分可能性は用いていないことに注意しよう.z0での微分可能性のみを使っている.
2どの範囲で級数が収束するか(収束半径)の問題はさておき.
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物理数学 I演習 24
3.6 まとめ微分可能条件
∂f
∂z∗= 0 (3.33)
からすべてが導かれた.すなわち,この条件を満たす関数は解析関数とよばれ,
• f ′(z)の存在 −→ f (n)の存在とその積分表示−→整級数展開可能
が導かれ,さらに
• 積分可能:定積分の値が一意的にきまる,
も導かれた.コーシー-リーマン方程式はえらい!しかし数学的美しさはともかく,物理数学的な御利益を得るためにはもう少しがまんしてローラン展開や留数定理(これは強力!)まで進まねばならない.ここまでゆくと数学的美しさにも磨きがかかる.
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物理数学 I演習 25
問題問題 3.1 原点と 1 + iをむすぶ直線に沿った径路で積分 (3.1)を実行し,§3.1での結果と同じ結果 iが得られることを示せ.(ヒント:この場合は z を z = reπi/4
(0 ≤ r ≤√
2)と表せば計算が簡単である.)
問題 3.2 (3.20)を示せ.
問題 3.3 nを整数として∮C
dz (z − z0)n =
{2πi (n = −1)
0 (n 6= −1)
であることを示せ.積分径路Cは点 z0を反時計回りに 1周する.
問題 3.4 以下の周回積分を求めよ.Cは原点を中心とする |z| = 2の円
1
2πi
∮C
dz
z2 − 1
問題 3.5 f(z)が閉じた径路Cおよびその内部で解析的であると仮定して∮C
dzf ′(z)
z − z0
=
∮C
dzf(z)
(z − z0)2
を示せ.
問題 3.6 n階導関数に対するコーシーの積分表示を使って次の関数の積分表示を求めよ.
1. ルジャンドル多項式
Pn(x) =1
2nn!
dn
dxn(1 − x2)n
答Pn(x) =
1
2n
1
2πi
∮dz
(1 − z2)n
(z − x)n+1
最初のいくつかを書き下すと
P0(x) = 1, P1(x) = x, P2(x) =3
2x2 − 1
2, · · ·
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物理数学 I演習 26
2. エルミート多項式Hn(x) = (−1)nex2 dn
dzne−x2
答
Hn(x) = (−1)nex2 n!
2πi
∮dz
e−z2
(z − x)n+1=
n!
2πi
∮dz z−n−1e−z2+2zx
右辺の導出は中辺において z → −z + xの変数変換をすればよい.
H0(x) = 1, H1(x) = 2x, H2(x) = 4x2 − 2, H3(x) = 8x3 − 12x, · · ·
である.
3. ラゲール多項式Ln(x) =
ex
n!
dn
dzn(xne−x)
答
Ln(x) =ex
2πi
∮dz
zne−z
(z − x)n+1=
1
2πi
∮ds
e−xs
1−s
(1 − s)sn+1
右辺の導出は中辺において z = x/(1 − s)の変数変換をすればよい.
L0(x) = 1, L1(x) = −x + 1, L2(x) =1
2!(x2 − 4x + 2), · · ·
である.
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物理数学 I演習 27
4.1 特異点前回の講義で f(z)がDで微分可能なとき,|z0 − a| < |z − a|として f(z)は aの
まわりで
f(z0) =1
2πi
∮C
dzf(z)
z − z0
=∞∑
k=0
ak(z0−a)k, ak =1
2πi
∮C
dzf(z)
(z − a)k+1=
f (k)(a)
k!
と整級数に展開できることを示した.ではD内に特異点αがあるとき f(z)はαのまわりでどのように展開できるだろうか?特異点とは,平たくいえば f(z)が発散する点のことである.たとえば
• f(z) = 1/z2は z → 0で |1/z2| → ∞となる.つまり 1/z2は z = 0に特異点をもつ.
• 特異点は実数とは限らない.
f(z) =1
z2 + 1
は z = ±iに特異点をもつ.この場合は特異点が 2個ある.
• 特異点が無数個ある関数も考えられる.たとえば
f(z) =1
sin z
は実軸上に z = nπ (n = 0,±1,±2, · · · )というように無数個の特異点をもつ.
• 見かけだおしの特異点もある.たとえば
f(z) =sin z
z
は z = 0で分母がゼロとなるので z = 0が特異点のようにみえるが z → 0で
sin z
z=
1
z
(z − z3
3!+ · · ·
)→ 1
なので z = 0で発散しない.このような特異点は「除き得る特異点」という.
これらの特異点は「たちの良い」特異点である.すなわち αを f(z)の特異点とするとき,f(z)に (z −α)k(k:正整数)をかけて極限をとることによって有限におさえることができる.つまり
limz→α
(z − α)kf(z) = a (0 < |a| < ∞). (4.1)
たとえばlimz→i
(z − i)1
z2 + 1= lim
z→i(z − i)
1
(z + i)(z − i)=
1
2i
2009-0106 2009年 1月 6日 (山本哲生)
物理数学 I演習 28
となり有限値におさえられる.(z − α)kf(z)が z → αでゼロでない有限値 aになるとき,特異点αは f(z)の k位の極 (pole)とよばれる.z = iは 1/(z2 + 1)の 1位の極である.これに対して
f(z) = exp
(1
z
)=
∞∑k=0
1
k!
(1
z
)k
は z = 0に特異点をもつが,どんな大きい正整数 nをもってしても z → 0で zne1/z
を有限におさえることはできない.このような「たちの悪い」特異点を真性特異点という.正確には,特異点とは f(z)が発散する点のことではなく,微分不可能な点のこ
とである.発散する点では微分不可能であるが,発散しなくても微分不可能なこともある.その一例は
f(z) = exp
(−1
z
)である.z → 0で f(z) → 0に収束するが,z = 0では微分不可能である.
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物理数学 I演習 29
4.2 ローラン展開もとの問題に戻ろう.
もとの問題 f(z)が微分可能な領域D内で微分可能なとき,|z0 − a| < |z − a|として f(z)は aのまわりで
f(z0) =1
2πi
∮C
dzf(z)
z − z0
=∞∑
k=0
ak(z0 − a)k, (4.2)
ak =1
2πi
∮C
dzf(z)
(z − a)k+1=
f (k)(a)
k!(4.3)
と整級数に展開できることを示した.では f(z)が微分可能な領域D内に孤立特異点 αがあるとき f(z)は特異点 αのまわりでどのように展開できるだろうか?
αは f(z)の特異点であるから z = αのまわりで f(z)は整級数には展開できない.なぜならば整級数だと z → αで f(z)は有限値に収束するからである.したがって展開は
1
(z − α)k
のような z − αの逆冪の項を含むことが予想される.この展開の具体形を求めることが問題である.
f(z)はDから点αを除く領域で解析的であることから,点αを囲む微小領域をDから取り除いた領域D′では解析的である.D′として図のような領域をとりその周囲をC ′とすると,D′における f(z)の解析性から,コーシーの積分定理を使って f(z)は
f(z0) =1
2πi
∮C′
dzf(z)
z − z0
=1
2πi
∮C2
dzf(z)
z − z0
− 1
2πi
∮C1
dzf(z)
z − z0
(4.4)
と表せる.z0はD′内の点である.径路C2, C1は反時計回りにとる.径路 C2上の任意の点 zに対して |z0 − α| < |z − α|となるように C2をとると,
前節と同様に
1
z − z0
=1
z − α· 1
1 − z0 − α
z − α
=∞∑
k=0
(z0 − α)k
(z − α)k+1(4.5)
と展開できる.よって (4.4)の右辺第 1項は
1
2πi
∮C2
dzf(z)
z − z0
=∞∑
k=0
ak(z0 − α)k (4.6)
2009-0106 2009年 1月 6日 (山本哲生)
物理数学 I演習 30
と展開できる.ここでak =
1
2πi
∮C2
dzf(z)
(z − α)k+1(4.7)
である.あとの積分については径路上の点 zに対して |z − α| < |z0 − α|であることから,今度は
− 1
z − z0
=1
z0 − α· 1
1 − z − α
z0 − α
=∞∑
k=1
(z − α)k−1
(z0 − α)k(4.8)
と展開できる.よって (4.4)の右辺第 2項は
− 1
2πi
∮C1
dzf(z)
z − z0
=∞∑
k=1
a−k
(z0 − α)k(4.9)
と展開できる.ここで
a−k =1
2πi
∮dz f(z)(z − α)k−1. (4.10)
これらの結果はまとまって結局,ローラン展開の公式
f(z) =∞∑
k=−∞
ak(z − α)k (4.11)
ak =1
2πi
∮C
dzf(z)
(z − α)k+1(k = 0,±1,±2, · · · ) (4.12)
が得られる.径路 Cは特異点 αを囲む領域D内の任意の閉じた径路である3.いま f(z)はD内で正則ではなく特異点 z = αでは f (k)(α)は存在しないため
ak =f (k)(α)
k!
とは書けないことに注意しよう.しかしもし D内で f(z)が解析的で点 αが特異点ではないとしよう.このときは (4.12)において k ≤ −1で integrandはDで解析的である.よって ak = 0 (k = −1,−2,−3, · · · )となり,k = 0, 1, 2, · · · ..に対して(4.2)が成り立つ.すなわち f(z)は z = αのまわりで整級数に帰着する(テーラー展開).これは前回の講義で行ったとおりである.関数の「本性」は特異点に現れる.つまりローラン展開したとき分数の項 (k ≤ −1)
が重要である.これらの項はローラン展開の主要部とよばれることがある.これに対して整級数の部分は解析部とよばれる.k < 0での展開が有限項 k = −n (n > 0)
で切れるとき,z = αは n位の極 (pole)とよばれる.ローラン展開においてとくに k = −1の項は重要で,その係数 a−1は z = αにおける f(z)の留数 (residue)とよばれる.
3径路 C1を十分小さくとっておけば領域DとD′の差異は点 αを含むか含まないかの差異にすぎない.
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物理数学 I演習 31
4.3 留数の計算方法関数 f(z)の特異点 z = αが真性特異点ではなく n位の極の場合には留数を簡単
に計算することができる.このとき f(z)は
f(z) =a−n
(z − α)n+
a−n+1
(z − α)n−1+
a−n+2
(z − α)n−2+ · · · + a−1
z − α+ a0 + a1(z − α) + · · ·
と展開される.両辺に (z − α)nをかけると
(z−α)nf(z) = a−n+a−n+1(z−α)+a−n+2(z−α)2+· · ·+a−1(z−α)n−1+a0(z−α)n+· · · .
両辺を n − 1回 zで微分すると係数が a−n, · · · , a−2の項は落ちてdn−1
dxn−1[(z − α)nf(z)] = (n − 1)!a−1 +
n!
1!a0(z − α) +
(n + 1)!
2!a1(z − α)2 + · · · .
z → αの極限をとると a−1の項のみが残り4
Res f(α) ≡ a−1 =1
(n − 1)!
[dn−1
dxn−1{(z − α)nf(z)}
]z→α
(4.13)
が得られる.これが f(z)が z = αに n位の極をもつときの留数を求める公式である.とくに z0が 1位の極の場合には,留数は単に
Res f(z0) = [(z − α)f(z)]z→α (4.14)
から求まる.
例 4.1 関数f(z) =
1
(z − 1)(z + 2)(4.15)
は z = 1と z = −2に 1位の極をもつ.(4.14)から
Res f(1) =1
3, Res f(−1) = −1
3.
例 4.2 関数f(z) =
cos z
z3
は z = 0に 3位の極をもつ.z = 0における留数は
Res(cos z
z3
)z=0
=1
2!
[d2
dz2
(z3 · cos z
z3
)]z=0
=1
2[− cos z]z=0 = −1
2.
実際,cos z
z3=
1
z3
(1 − 1
2!z2 +
1
4!z4 − · · ·
)=
1
z3− 1
2z+
1
4!z − · · ·
であることからもわかる.
4留数 = residue =残滓と呼ぶ理由はここから来ている.
2009-0106 2009年 1月 6日 (山本哲生)
物理数学 I演習 32
問題問題 4.1 z = 0以外では微分可能な関数
f(z) = exp
(−1
z
)を形式的に zで微分し,z = 0のまわりで
f(z) =∞∑
k=0
f (k)(0)
k!zk (z 6= 0)
のように展開せよ.ただし f (k)(0) = limz→0 f (k)(z)とする.何が起るか?
問題 4.2 関数f(z) =
1
(z − 1)(z + 2)(4.16)
を特異点 z = 1のまわりにローラン展開せよ.(ヒント:公式 (4.12)を導く際に使った方法を用いる.w = z − 1とおき 1/(z + 2)を wの冪に展開せよ.|w|の大きさに応じて異なる展開となることに注意.)
問題 4.3 関数f(z) =
1
(z − 1)(z + 2)(4.17)
を z = 0のまわりにローラン展開せよ.
問題 4.4 z = π/2におけるf(z) = tan z
のローラン展開の主要部(分数部分)を求めよ.
問題 4.5 関数f(z) =
1
sin z
の各特異点における留数を求めよ.
2009-0106 2009年 1月 6日 (山本哲生)
物理数学 I演習 33
5.1 留数定理関数 f(z)が領域Dでつぎのようにローラン展開
f(z) =∞∑
k=−∞
ak(z − α)k = · · · + a−2
(z − α)2+
a−1
z − α+ a0 + a1(z − α) + · · · (5.1)
できるとする.z = αを囲む閉曲線Cに沿って両辺を積分すると∮C
dz f(z) =∞∑
k=−∞
ak
∮dz (z − α)k. (5.2)
ここで右辺の積分はk = −1を除いてすべてゼロである(問題3.3を見よ).k = −1
については 2πiに等しい.a−1 = Res f(α)であるから,この周回積分は∮dz f(z) = 2πi Res f(α) (5.3)
となる.Cで囲まれた領域内に特異点が多数あるとき,特異点を αk (k = 1, 2, · · · )とす
る.特異点αkを囲む小さい閉じた径路Ck をとる.Ckは互いに重ならず,またD
からはみ出ることもないように,その大きさを十分小さくとる(図参照).C とCkとではさまれる領域で f(z)は解析的であるから∮
C
dz f(z) =
∮C1
dz f(z) +
∮C2
dz f(z) + · · · (5.4)
Ckで囲まれる領域で特異点はひとつしかないから∮Ck
dz f(z) = 2πi Res f(αk) (5.5)
である.よってCに沿った周回積分は∮dz f(z) = 2πi
∑k
Res f(αk) (5.6)
となる.周回積分を求めるには径路Cで囲まれた領域内にある特異点における留数をを計算し,それらの和をとればよい.この和の 2πi倍が求める積分値である.これを留数定理とよぶ.留数定理は定積分を計算する強力な手段を与える.すなわち定積分計算は代数計算に帰着する5.留数定理は多様な積分変換,とくにラプラス逆変換6においてその本領を発揮する.ラプラス変換は本講義では触れる時間がないため今後のお楽しみとしておいておこう.本講義では留数定理に習熟することを目的として,いくつかの初等的積分を扱う.これだけでもいままではできなかったいくつかの定積分ができるようになる.積分計算を数多くこなすことによって留数定理を使いこなし,計算腕力をつけてもらいたい.
5コーシーの研究目的の一つは定積分計算にあったといわれる.6ラプラス変換は古典物理においては,拡散方程式(熱伝導方程式)や波動方程式を解く強力な
手法の一つである.
2009-0113 2009年 1月 13日 (山本哲生)
物理数学 I演習 34
5.2 積分∫ ∞
−∞dx f(x)の計算
実関数の定積分I =
∫ ∞
−∞
dx
x2 + 1(5.7)
を計算しよう.この積分は実は
d
dxtan−1 x =
1
x2 + 1(5.8)
であることを知っていれば∫ ∞
−∞
dx
x2 + 1=
[tan−1 x
]∞−∞ =
π
2−
(−π
2
)= π (5.9)
と直ちに求まる.しかしこれを知らなくても留数定理を使って以下のように計算できる.まず積
分を複素周回積分 ∮C
dz
z2 + 1(5.10)
に置き換え,integrandの特異点に着目する.特異点は
α = ±i (5.11)
にある.特異点の位置を眺めつつ積分径路Cを決定する,うまい径路を見つけるところにもっとも工夫(勘!)がいる.いまの場合はCとして
1. 実軸上の z = −Rから実軸にそって z = R(Rは十分大きい正の実数)に至る径路C1 と,
2. 原点を中心とした半径Rの上半円C2
を合わせた閉径路を C とする.C で囲まれた領域内にある integrandの特異点はα = iのみである.よって留数定理から∮
C
dz
z2 + 1= 2πi Res
(1
z2 + 1
)z=i
= 2πi limz→i
[(z − i) · 1
z2 + 1
]= π (5.12)
である.径路C2に沿った積分を次のように評価する.z = ReiθとおくとC2上でR = const, 0 < θ < πである.また dz = iReiθdθである.よって∣∣∣∣∮
C
dz
z2 + 1
∣∣∣∣ ≤ ∫ π
0
dθ
∣∣∣∣ R
R2e2iθ + 1
∣∣∣∣ =1
R
∫ π
0
dθ∣∣∣∣1 +1
R2e2iθ
∣∣∣∣ =π
R+ O
(1
R3
)(5.13)
2009-0113 2009年 1月 13日 (山本哲生)
物理数学 I演習 35
すなわちR → ∞で径路 C1に沿った積分はゼロに近づく.一方,径路 C1に沿った積分は求める積分 Iにかぎりなく近づく.よってR → ∞で∮
C
dz
z2 + 1=
∫ ∞
−∞
dx
x2 + 1= π. (5.14)
一般に f(z)が条件
1. 有限個の特異点を除いて上半面で解析的である,
2. 0 ≤ arg z ≤ πにおいて |z| → ∞のとき,f(z)は 1/z2と同程度またはそれよりはやくゼロに近づく (f(z) = O(1/z2) for |z| → ∞)
を満たすとき ∫ ∞
−∞dx f(x) = 2πi
∑(上半面の留数) (5.15)
から計算できる.
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物理数学 I演習 36
5.3 フーリエ積分∫ ∞
−∞dx f(x)eiaxの計算
実関数の定積分 ∫ ∞
0
dxsin x
x(5.16)
を計算しよう.変数を複素数 zに拡張し次の径路に沿った周回積分∮
dzeiz
z(5.17)
を計算する.R > r > 0とし
1. 実軸に沿った−R < z < −rの範囲
2. Cr:原点を中心とする半径 rの上半円 (π > θ > 0)
3. 実軸に沿った r < z < Rの範囲
4. CR:原点を中心とする半径Rの上半円 (0 < θ < π)
これらの径路で囲まれる領域内に integrandの特異点はない.よって∮dz
eiz
z= 0 =
∫ −r
−R
dxeix
x+
∫Cr
dzeiz
z+
∫ R
r
dxeix
x+
∫CR
dzeiz
z(5.18)
である.CRに沿った積分において
z = Reiθ = R(cos θ + i sin θ), dz = iReiθdθ (0 < θ < π) (5.19)
であるから∫CR
dzeiz
z= i
∫ π
0
dθ eR(i cos θ−sin θ) = i
∫ π
0
dθ e−R sin θ · eiR cos θ (5.20)
となる.0 < θ < π であるから sin θ > 0である.よって Rを増やすと右辺のintegrandはいくらでも小さくでき,R → ∞で∫
CR
dzeiz
z→ 0 (R → ∞) (5.21)
となる.一方,Crに沿った積分は∫Cr
dzeiz
z= i
∫ 0
π
dθ er(i cos θ−sin θ) (5.22)
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物理数学 I演習 37
である.r → 0で er(i cos θ−sin θ) → 1である.よって∫Cr
dzeiz
z→ −iπ (r → 0). (5.23)
また∫ R
r
dxeix
x+
∫ −r
−R
dxeix
x=
∫ R
r
dxeix
x+
∫ r
R
dxe−ix
x= 2i
∫ R
r
dxsin x
x. (5.24)
以上をまとめると r → 0, R → ∞で∫ ∞
0
dxsin x
x=
π
2(5.25)
を得る.
一般に f(z)が条件
1. 有限個の特異点を除いて上半面で解析的である,
2. |z| → ∞(0 ≤ arg z ≤ πで)のとき f(z)はゼロに近づく:
lim|z|→∞
f(z) = 0 (0 ≤ arg z ≤ π) (5.26)
を満たすとき ∫ ∞
−∞dx f(x)eiax = 2πi
∑(上半面の留数) (a > 0) (5.27)
から計算できる.
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物理数学 I演習 38
5.4 積分∫ 2π
0dθ f(cos θ, sin θ)の計算
定積分 ∫ 2π
0
dθ
a + b cos θ(a > b > 0) (5.28)
を計算しよう.z = eiθとおくと求める積分は∫ 2π
0
dθ
a + b cos θ=
2
i
∮dz
bz2 + 2az + b(5.29)
と変形される.積分路は原点を中心とする単位円である.Integrandは
z =1
b(−a ±
√a2 − b2) =
{z+
z−(5.30)
に 1位の極をもつ.このうち z+のみが単位円内にある.z = z+における留数は
Res(
1
bz2 + 2az + b
)z=z+
= Res(
1
b(z − z+)(z − z−)
)z=z+
=1
b(z+ − z−)=
1
2√
a2 − b2.
(5.31)
よって∮dz
bz2 + 2az + b= 2πi Res
(1
bz2 + 2az + b
)z=z+
=πi√
a2 − b2. (5.32)
よって結局 ∫ 2π
0
dθ
a + b cos θ=
2π√a2 − b2
(a > b > 0). (5.33)
一般に ∫ 2π
0
dθ f(cos θ, sin θ) (5.34)
の形の積分を計算するには z = eiθと変数変換をし
dθ =1
i
dz
z, cos θ =
1
2(z + z−1), sin θ =
1
2i(z − z−1) (5.35)
を用いて∫ 2π
0
dθ f(cos θ, sin θ) =1
i
∮dz
zf
(1
2(z + z−1),
1
2i(z − z−1)
)(5.36)
2009-0113 2009年 1月 13日 (山本哲生)
物理数学 I演習 39
と変形する.積分路は単位円である.単位円内のf(z)/zの特異点をzn (n = 1, 2, · · · )とすると求める積分は∫ 2π
0
dθ f(cos θ, sin θ) = 2π∑
n
Res(
f(z)
z
)zm
(5.37)
から計算できる.単位円内に f(z)/zの特異点がないときは積分値はゼロである.
2009-0113 2009年 1月 13日 (山本哲生)
物理数学 I演習 40
問題問題 5.1 §5.2で扱った実関数の定積分∫ ∞
−∞
dx
x2 + 1
において径路C2として下半円をとっても同じ結果を得ることを確かめよ.
問題 5.2 ∫ ∞
0
dx
x4 + 1
を求めよ.
問題 5.3 ∫ ∞
0
dxx2
x4 + 1
を求めよ.
問題 5.4 ∫ ∞
0
dx
(x2 + a2)2=
π
4a3(a > 0)
を示せ.
問題 5.5 §5.3で扱った実関数の定積分∫ ∞
0
dxsin x
x
において径路 Crを原点を中心とする半径 rの下半円 (π < θ < 2π)にとって積分を計算せよ.
問題 5.6 aを複素数とするガウス積分
I(a) =
∫ ∞
0
dx e−ax2
について
1. I(a)が収束するための aの条件を求めよ.
2. aが正の実数であるときと同じ公式∫ ∞
0
dx e−ax2
=1
2
√π
a(5.38)
が成り立つことを示せ.
2009-0113 2009年 1月 13日 (山本哲生)
物理数学 I演習 41
問題 5.7 フレネル (Fresnel)積分∫ ∞
0
dx cos x2,
∫ ∞
0
dx sin x2
を求めよ.ヒント:前問の結果を用いると簡単.
問題 5.8
I =
∫ 2π
0
dθ
1 + t2 − 2t cos θ=
2π
1 − t2(|t| < 1)
であることを示せ.また
• |t| > 1であるとどうなるか?
• |t| = 1であるとどうなるか?
物理的意味:平面上の定点 P の位置ベクトルを r,原点を中心する半径 r′の円周上の点 P ′の位置ベクトルを r′ (r′ < r)とするとき,P と P ′の距離 lは
l2 = (r − r′)2 = r2(1 + t2 − 2t cos θ)
に等しい.ここで t = r′/r, θは rと r′のなす角である.積分 Iは r′を半径 r′の円周上で 1周させたときの P と P ′の距離 lの 2乗の逆数の平均値を表している.すなわち ⟨
1
l2
⟩=
1
r2 − r′2
幾何学的には,右辺の分母は P から円に引いた接線の長さの平方である.
問題 5.9 次の式が成り立つことを示せ.ただし a > 0とする.
(a)
∫ ∞
−∞dx
cos x
x2 + a2=
π
ae−a.
cos xの代わりに cos kxとすると右辺はどうなるか?
(b)
∫ ∞
−∞dx
x sin x
x2 + a2= πe−a.
sin xの代わりに sin kxとすると右辺はどうなるか?
問題 5.10 z = z0のまわりにおける関数 f(z)のローラン展開は
f(z) =∞∑
k=−∞
ak(z − z0)k, ak =
1
2πi
∮dz
f(z)
(z − z0)k+1
で与えられる((4.12)を見よ).
f(z) =1
(z − 1)(z + 2)
を z = 1のまわり (|z − 1| < 3)でのローラン展開の係数 akを計算し,(??)と同じ結果を与えることを確認せよ.
2009-0113 2009年 1月 13日 (山本哲生)
物理数学 I演習 42
問題 5.11f(z) =
1
(z − 1)(z + 2)
を |z − 1| > 3なる zについて z = 1のまわりのローラン展開係数を計算し,(??)と同じ結果を与えることを確認せよ.
2009-0113 2009年 1月 13日 (山本哲生)
物理数学 I演習 43
6.1 特異積分
孤立した 1位の特異点がちょうど積分路上にあることが往々にしてある.たとえば実軸上での積分 ∫ ∞
−∞dx
f(x)
x − x0
.
f(x0) 6= 0のときこのような積分は通常の意味では積分不可能である.しかし物理の問題では往々にして,このような場合でもともかく強引に?結果を得たい場合が多々ある.次の 2とおりの対処方法がある:
1. 積分路の変形:x0を中心とする無限小の半径 δをもつ半円の迂回路を積分径路に含めることによって,特異点 x0を囲い込むなり,締め出すなりして積分路を変形する.
2. 特異点をずらす:x0のかわりに εを無限小量としてx0をx0 + iεまたはx0− iε
に置き換える (ε ↘ 0).
6.1.1 コーシーの主値
この節では対処法 1について議論する.対処法 2については次節で論じる.
f(z)は複素平面の上半面で解析的かつ |z| → ∞のとき十分はやくゼロに近づく関数とする.
1. 実軸−∞ < x < ∞
2. 原点を中心とする半径R → ∞の上半面の半円
からなる径路 (1) + (2)を想定する.特異点 x0を囲い込む径路Cδ+または締め出す径路Cδ−をとる(図参照)と,δ → 0でこの径路からの積分への寄与はそれぞれ∫
Cδ±
dzf(z)
z − x0
=
{iπf(x0) (Cδ+:反時計回り)−iπf(x0) (Cδ−:時計回り)
(6.1)
となる.ここで図の閉径路Cδ+に沿った次の積分を考える:∮C
dzf(z)
z − x0
=
∫ x0−δ
−∞dx
f(x)
x − x0
+
∫Cδ±
dzf(z)
z − x0
+
∫ ∞
x0+δ
dxf(x)
x − x0
+
∫CR
dzf(z)
z − x0
(δ → 0, R → ∞).
f(z)は半円径路 (2)上でR → ∞のとき十分はやくゼロに近づく関数であるから,径路 (2)に沿った積分はゼロとした.
2009-0120 2009年 1月 20日 (山本哲生)
物理数学 I演習 44
右辺において Cδ+の径路をとるとき,閉径路 C に囲まれた領域で integrand はz = x0 に 1位の極をもつ.そこでの留数は f(x0)に等しいから,左辺の積分値は 2πif(x0)となる.一方,右辺第 2項は (6.1)より iπf(x0)に等しい.これに対して右辺において Cδ−の径路をとるとき,閉径路 C に囲まれた領域で integrand は解析的である.よって左辺はゼロである.一方,右辺第 2項は −iπf(x0)に等しい.したがって,いずれにせよ f(z)が複素平面の上半面で解析的かつ |z| → ∞(0 ≤ arg z ≤ π)のとき十分はやくゼロに近づくとき
P
∫ ∞
−∞dx
f(x)
x − x0
− iπf(x0) = 0 (6.2)
となる.ここで
P
∫ ∞
−∞dx
f(x)
x − x0
= limδ→0
(∫ x0−δ
−∞dx
f(x)
x − x0
+
∫ ∞
x0+δ
dxf(x)
x − x0
)(δ → 0) (6.3)
である.この積分はコーシーの主値 (principal value)と呼ばれる.実軸上の特異点に左右から同じ距離を保ちつつ δ → 0の極限をとることがポイントである.これは微妙な平衡を保つちょうど相殺する方法であることに注意しよう.同様に,f(z)が複素平面の下半面で解析的かつ |z| → ∞ (−π < arg z < 2π)の
とき十分はやくゼロに近づくとき
P
∫ ∞
−∞dx
f(x)
x − x0
+ iπf(x0) = 0 (6.4)
となる.主値積分の区間は−∞ < x < ∞と限る必要はない.例えば積分∫ b
a
dx
x − x0
(a < x0 < b)
では δ, δ′を微小量として(∫ x0−δ′
a
dx +
∫ b
x0+δ
dx
)1
x − x0
= [ln(−δ′) − ln(a − x0)] + [ln(b − x0) − ln δ]
= lnb − x0
a − x0
+ ln−δ′
δ
は δ′と δが勝手な値をとるときはその値が定まらない.しかし主値をとって δ′ = δ
とすると ln(−δ′/δ) = ln(−1) = iπとなって(∫ x0−δ
a
dx +
∫ b
x0+δ
dx
)1
x − x0
= P
∫ b
a
dx
x − x0
= lnb − x0
a − x0
+ iπ
2009-0120 2009年 1月 20日 (山本哲生)
物理数学 I演習 45
となって積分値が一意的に定まる7.同じ極限操作の手法が積分限界±∞に対しても適用される.すなわち
P
∫ ∞
−∞dx f(x) ≡ lim
a→∞
∫ a
−a
dx f(x) (6.5)
である.
7ln zも主値をとった.すなわち 0 ≤ arg z < 2πに限った.
2009-0120 2009年 1月 20日 (山本哲生)
物理数学 I演習 46
6.1.2 ヒルベルトの公式
径路上に特異点を含む積分 ∫dx
f(x)
x − x0
.
に対する前節の対処法として「2.特異点をずらす方法」ではどのような結果が得られるだろうか?前節と同様に,とりあえず f(z)は複素平面の上半面で解析的であり,|z| → ∞のとき十分はやくゼロに近づく関数であると仮定する.積分径路C として,
1. 実軸の−∞ < x < ∞
2. 原点を中心とした半径R → ∞の上半面の半円
からなる径路 (1) + (2)をとる.径路 (2)上での積分はゼロである.よって留数定理 (5.3)から,x0を x0 ± iε (ε ↘ 0)にずらす場合に対応して∮
C
dzf(z)
z − x0 ∓ iε=
∫ ∞
−∞dx
f(x)
x − x0 ∓ iε=
{2πif(x0) (x0 → x0 + iε)
0 (x0 → x0 − iε)(6.6)
となる.これから
1
2
(∫ ∞
−∞dx
f(x)
x − x0 − iε+
∫ ∞
−∞dx
f(x)
x − x0 + iε
)= iπf(z) = P
∫ ∞
−∞dx
f(x)
x − x0
.
(6.7)つまり,主値積分は特異点 x0を x0 + iεにずらした場合と x0 − iεにずらした場合の積分の相加平均である.
(6.2)と (6.6)は∫ ∞
−∞dx
f(x)
x − x0 ∓ iε= P
∫ ∞
−∞dx
f(x)
x − x0
± iπf(x0) (6.8)
とまとめられる.これはヒルベルトの公式と呼ばれることがある.この式は実はf(z)が複素平面の上半面または下半面のどちらかで解析的であり,かつ |z| → ∞のとき十分はやくゼロに近づく関数であるとき成立する.ヒルベルトの公式の簡潔な表現は
1
x − x0 ∓ iε= P
1
x − x0
± iπδ(x − x0) (6.9)
である.ここで δ(x − x0)は∫ b
a
dx f(x)δ(x − x0) = f(x0) (a < x0 < b), (6.10)∫ ∞
−∞dx δ(x − x0) = 1, δ(x) = 0 (x 6= 0) (6.11)
2009-0120 2009年 1月 20日 (山本哲生)
物理数学 I演習 47
で定義されるデルタ関数である.(6.9)は両辺の左から演算子∫ ∞
−∞dx f(x)
を作用させると解釈する.(6.9)から δ関数の表式として
δ(x − x0) =1
2πi
(1
x − x0 − iε− 1
x − x0 + iε
)=
1
π· ε
(x − x0)2 + ε2(6.12)
が得られる.実際,右辺の関数は δ関数の要件
δ(x − x0) = 0 (x 6= x0, ε → 0),∫ ∞
−∞dx δ(x − x0) =
1
π
∫ ∞
−∞dx
ε
(x − x0)2 + ε2=
1
π
∫ ∞
−∞
dy
y2 + 1= 1 (εy = x − x0).
を満たす.ここで ∫ ∞
−∞
dx
x2 + 1= π (5.14)
を使った.
2009-0120 2009年 1月 20日 (山本哲生)
物理数学 I演習 48
6.2 ヒルベルト公式の簡単な応用例ヒルベルト公式を使うと §5.3で計算した定積分∫ ∞
−◦dx
sin x
x
はいまや簡単に計算できる.上の定積分の代わりに次の主値積分
P
∫ ∞
−∞dx
eix
x
を考える.原点を中心とした半円径路のうち,|z| → ∞のとき f(z) = eizが急速にゼロに近づく径路は上半面の半円である.ヒルベルト公式 (6.8)よりこの積分は∮
C
dzeiz
z ∓ iε=
∫ ∞
−∞dx
eix
x ∓ iε= P
∫ ∞
−∞dx
eix
x± iπ (6.13)
と書ける.径路 C は (1) 全実軸 + (2) 原点を中心とする半径 R → ∞の上半円に沿った径路である.左辺の複号のうち+をとると,左辺の積分の integrandの特異点は z = −iεであり,Cで囲まれた領域内に eiz/(z + iε)の特異点はない.よって左辺はゼロに等しい.ゆえに
P
∫ ∞
−∞dx
eix
x− iπ = 0 (6.14)
を得る.この虚部をとると ∫ ∞
−∞dx
sin x
x= π (6.15)
を得る.(6.13)の左辺の複号のうち−をとっても同じ結果が得られる.
2009-0120 2009年 1月 20日 (山本哲生)
物理数学 I演習 49
6.3 散乱問題への応用例光散乱や量子力学の散乱問題では
I(σ) =
∫ ∞
−∞dx
x sin x
x2 − σ2(6.16)
のかたちの積分に出会う.量子力学の散乱問題では xは散乱粒子の運動量ベクトルの大きさ,σは入射粒子の運動量ベクトルの大きさに比例した量である.Iは散乱過程の積分方程式(リップマン-シュウィンガー方程式)の積分核,光散乱ではヘルムホルツ方程式
(∆ + k2)G(r, r′) = δ3(r − r′)
を満たすグリーン関数G(r, r′)に相当する.I(σ)は積分路上の x = σに特異点をもつ.このため §6.1.1で述べた特異点を避
ける方法が使われる.特異点の避け方によって (6.16)は異なる結果となる.このような場合には物理的な状況設定にフィットする結果を導く対処法を選択する.いまの問題では,I(σ)は外向きに広がる球面波を表す
I(σ) ∝ eiσ
の形があらまほしき結果である.
sin z =1
2i(eiz − e−iz)
とおいて (6.16)を複素積分に書き換えると
I(σ) = I1(σ) + I2(σ), (6.17)
ここで
I1(σ) =1
2i
∫ ∞
−∞dz
zeiz
z2 − σ2=
1
2i
∫ ∞
−∞dz
zeiz
(z + σ)(z − σ), (6.18)
I2(σ) = − 1
2i
∫ ∞
−∞dz
ze−iz
z2 − σ2= − 1
2i
∫ ∞
−∞dz
ze−iz
(z + σ)(z − σ)(6.19)
である.I1については上半面の無限大半円,I2については下半面の無限大半円を加えることによって積分路を閉じることができる.どちらの半円も積分には寄与しない.
I1, I2の積分は z = ±σに 1位の極をもつ.そこでの留数は
Res I1(−σ) =e−iσ
2, Res I1(σ) =
eiσ
2,
Res I2(−σ) =eiσ
2, Res I2(σ) =
e−iσ
2
(6.20)
2009-0120 2009年 1月 20日 (山本哲生)
物理数学 I演習 50
である.§6.1.1の対処法 1を使って I1, I2, Iを計算しよう.図に示した径路をとる.特異
点 z = ±σの上を行くか下を行くかによって以下の結果は変わらない.ここでは計算の簡単のため,両特異点を締め出す径路をとる.このとき径路で囲まれた領域内に特異点はない.積分 I1は特異点回りの回転の向きに注意して,留数定理を使うと
PI1 − iπ · 1
2i
(e−iσ
2
)− iπ · 1
2i
(eiσ
2
)= 0. (6.21)
同様に I2については
PI2 + iπ · −1
2i
(eiσ
2
)+ iπ · −1
2i
(e−iσ
2
)= 0. (6.22)
これらを加え合わせると
PI = PI1 + PI2 =π
2(eiσ + e−iσ) = π cos σ (6.23)
を得る.これは外向きの球面波ではなく定在波を表している.よって今の問題においては不適格である.次に特異点をずらす対処法 2を試みよう.
σ → σ + iε (6.24)
とずらして積分を実行する.留数定理より
I+(σ + iε) = 2πi · 1
2i
(ei(σ+iε)
2
)=
π
2eiσ, (ε → 0)
I−(σ + iε) = −2πi · −1
2i
(ei(σ+iε)
2
)=
π
2eiσ (ε → 0)
(6.25)
よってI(σ) = I+ + I− = πeiσ (ε → 0) (6.26)
となり,あらまほしき外向き球面波が得られた.ちなみに
σ → σ − iε (6.27)
とずらすとI(σ) = πe−iσ (6.28)
となり,内向きの球面波となる.定在波 (6.23)は両球面波の相加平均であることがわかる.数学的にはコーシー
の主値 (6.23)は特異点を上下逆方向にずらした場合の相加平均であることに対応する.
2009-0120 2009年 1月 20日 (山本哲生)
物理数学 I演習 51
問題問題 6.1 (6.4)を確かめよ.
問題 6.2 階段関数 θ(s)は
θ(s) =
{0 (s < 0)
1 (s > 0)
で定義される.ε > 0を無限小として θ(s)は次のように積分表示できることを示せ.
(a) u(s) =1
2πi
∫ ∞
−∞dx
eixs
x − iε
(b) u(s) =1
2+
1
2πiP
∫ ∞
−∞dx
eixs
x
問題 6.3 特異積分I =
∫ ∞
−∞
dx
x2 − σ2
を計算せよ.
(a) σ → σ + iεとせよ.(b) σ → σ − iεとせよ.(c) コーシーの主値をとれ.
2009-0120 2009年 1月 20日 (山本哲生)
物理数学 I演習 52
7.1 鞍点法ここまで複素関数を用いた定積分の計算例をやってきたが,現実の物理の問題で
は厳密な積分が可能な問題ばかりとは限らない.このため問題の本質を捉えた近似計算が重要になる.定積分の近似計算法の一つとして鞍点法 (saddle point method)がある.鞍点法は最速降下法 (method of steepest decent)とも呼ばれる.鞍点法は関数の漸近形 –変数の大きな値に対する関数の振舞 –を知る有力な方法でもある.鞍点法は積分
I(s) =
∫C
dz g(z)esf(z) (7.1)
と表すとき,その漸近的な挙動(|s|が大きいときの I(s)の振舞)を決定する方法である.当面 sは正の実数と仮定する.積分径路Cは次のどちらかを満たすようにとる:
• Cの両端で f(z)の実部が−∞に近づく.すなわちCの両端で
esf(z) → 0. (7.2)
• または閉じた径路.
また,興味ある領域で g(z)は esf(z)と比べてゆっくり変化すると仮定する.
2009-0127 2009年 1月 27日 (山本哲生)
物理数学 I演習 53
7.2 階乗関数の漸近形例をあげよう.統計力学では nが大きいときの階乗関数 n!の精度のよい近似が
必要となる.とりあえず sを正の実数として階乗関数 s!を
s! =
∫ ∞
0
dx xse−x (7.3)
で定義する8.sが正整数 s = nのときは上の積分は通常の階乗 n!を与える.(7.3)は整数の階乗を正の実数まで拡張したものである.たとえば(
1
2
)! =
∫ ∞
0
dx x1/2e−x.
y = x1/2,すなわち x = y2, dx = 2ydyとおいて,この積分を実行すると(1
2
)! = 2
∫ ∞
0
dy y2e−y2
= −2
(d
da
∫ ∞
0
dy e−ay2
)a=1
= −2
[d
da
(1
2
√π
a
)]a=1
=
√π
2
である.ここでガウス積分の公式∫ ∞
0
dy e−ay2
=1
2
√π
a(5.38)
を用いた.s À 1に対する I(s)の漸近形を求めるため (7.3)を (7.1)の形に変形する.この
ためx = sz, dx = sdz
とおき (7.3)を書き換えると
s! = ss+1
∫ ∞
0C
dz zse−s = ss+1
∫ ∞
0C
dz esf(z) (7.4)
となって.(7.1)の形になった.ここで
f(z) = ln z − z, g(z) = 1 (7.5)
である.積分径路の両端で f(z)の実部が−∞となり integrandが両端でゼロとなっていることに注意しよう.
f ′(z) =1
z− 1, f ′′(z) = − 1
z2
8s!はふつうはガンマ関数として定義され
Γ(s + 1) = s!
と書く.たとえば (1/2)! = Γ(3/2)である.
2009-0127 2009年 1月 27日 (山本哲生)
物理数学 I演習 54
より z = 1が鞍点であることがわかる.実際,z = 1で f(z)を展開し z − 1 = reiθ
とおくと
f(z) = f(1) +1
2!f ′′(1)(z − 1)2 + · · · = −1 − 1
2(z − 1)2 + · · · = −1 − r2
2e2iθ + · · · ,
であるからesf(z) = e−s · exp
[−s
2r2e2iθ
]· · ·
となり,z = 1 (r = 0)で,esf(z)は θ = 0方向には極大となり θ = π/2方向には極小となっていることがわかる.すなわち z = 1は鞍点である.θ = 0または π方向が最速降下の方向である.
sが大きいほど θ = 0方向の極大は鋭くなる.その結果 θ = 0, π方向に rが増すにつれて integrand esf(z)は急速にゼロに近づき,(7.4)の積分にきくのは r = 0付近の領域に限られる.それより外側からの積分への寄与はほとんどなくなる.よって積分の下限を r = −∞としても実際上,積分値は変わらない.したがって (7.4)は,θ = 0として
s! ' ss+1e−s
∫ ∞
−∞dr exp
(−s
2r2
)= ss+1e−s
√2π
s
と近似できる.ここでもガウス積分の公式∫ ∞
−∞dx e−ax2
=
√π
a(5.38)
を使った.よってs! '
√2πssse−s (7.6)
を得る.sが大きいほどこの近似はよくなる.(7.6)はスターリング (Stiring)の公式と呼ばれる.sse−sが重要な因子である.統計力学では粒子数をN としてこのlnをとった公式
ln N ! ' N ln N − N (7.7)
がよく使われる.ここでN À 1では ln N ¿ N なので ln N の項を落とした.s!は esより「強い」ことに注意しよう.すなわち s → ∞で esよりはやく∞に
発散する (es/s! → 0 for s → ∞).
2009-0127 2009年 1月 27日 (山本哲生)
物理数学 I演習 55
7.3 ハンケル関数H(1)ν (s)の漸近形
腕力養成問題をひとつやっておこう.数式の見かけ上のいかめしさやえらそうな名称にビビらぬこと.計算の各ステップではけっしてむつかしいことをやっている訳ではない.計算における全体の流れをつかむことが肝要である.ベッセル方程式の解であるハンケル関数は次式で定義できる:
H(1)ν (s) =
1
iπ
∫ −∞
0C1
dze
s2(z− 1
z )
zν+1, (7.8)
H(2)ν (s) =
1
iπ
∫ 0
−∞C2
dze
s2(z− 1
z )
zν+1. (7.9)
積分径路C1は図の上半面にある曲線である.C1は原点から出発して正実軸に接しつつ離れ,z = +iを通過しながら向きを変え,−∞に至る.C2はC1と対称的で,下半面から−∞ → −i → 0に至る径路である.ハンケル関数は同じくベッセル方程式の解であるベッセル関数 Jν(s)やノイマン関数Nν(s)の仲間である.Jν(s)とNν(s)
H(1)ν (s) = Jν(s) + iNν(s), (7.10)
H(2)ν (s) = Jν(s) − iNν(s), (7.11)
の関係にある.H(1)ν (s), H
(2)ν (s)はそれぞれ第 1種,第 2種のハンケル関数と呼ば
れる.ハンケル関数には電磁波の散乱や量子力学で出会う9.H(1)ν (s)は散乱体で散
乱され外向きに伝わる球面波に相当する.このとき sは散乱体から十分離れた観測点までの距離を表す.物理はともかくとして,ここでは sが十分大きいときのH
(1)ν (s)の漸近形を計算
してみよう.ここでも sは正実数と仮定する.(7.8)において
f(z) =1
2
(z − 1
z
), g(z) =
1
zν+1
とおくとH(1)ν (s)はちょうど (7.1)の形をしていることがわかる.積分の両端 z = 0
と z = −∞で<f(z) = −∞となっていることから,f(z)は要求される条件を満たしている.
f ′(z) = 0になる点を求め,その点のまわりで f(z)を展開する.
f ′(z) =1
2
(1 +
1
z2
), f ′′(z) = − 1
z3
であるから f ′(z)は z = ±iでゼロとなる.径路C1は上半面であるから z = +iだけを考えればよい.z = i近傍における f(z)の展開は
f(z) = f(i) +1
2f ′′(i)(z − i)2 + · · · ' i − i
2r2e2iθ
9出会うのは ν が半整数の球ベッセル関数と呼ばれる関数である.
2009-0127 2009年 1月 27日 (山本哲生)
物理数学 I演習 56
となる.ここでz − i = reiθ
とおいた.よって
es2(z− 1
z ) = esf(z) ' ei exp
(− is
2r2e2iθ
).
z = i (r = 0)付近での積分径路の方向 θをうまく選ぶことがポイントである.つまり r = 0で
exp
(−is
2r2e2iθ
)が極大となるように θをとる.いまの場合 θ = 3π/4(または θ = −π/4)ととれば
exp
(−is
2r2e2iθ
)= exp
(−1
2sr2
)となり r = 0で極大となる10.極大は sが大きくなればなるほどほど鋭くなる.したがって sが十分大きいとき積分に寄与するのは r = 0付近の狭い範囲に限られる.この範囲では g(z)は大きく変化しないので,その代表値 g(z) ' g(i) = 1/iν+1
で置き換えて積分の外に出しても大きな誤差は生まない.
dz = dr eiθ ' dr e3πi/4
に注意し,rでの積分の下限を−∞まで拡げると
H(1)ν (s) ' 1
iπ· e3πi/4 · eis
iν+1
∫ ∞
−∞dr exp
(−1
2sr2
)=
1
iπ· e3πi/4 · eis
iν+1
√2π
s
を得る.ここでもガウス積分の公式∫ ∞
−∞dx e−ax2
=
√π
a(5.38)
を使った.上のH(1)ν (s)を整理すると第 1種ハンケル関数の漸近形として
H(1)ν (s) '
√2
πsexp
[i(s − (2ν + 1)
π
4
)](7.12)
が得られる.
10ちなみに θ = π/4ととると,exp(−isr2e2iθ/2)は r = 0で極小となる.つまり r = 0 (i.e. z = i)は exp(−isr2e2iθ/2)の鞍点である.
2009-0127 2009年 1月 27日 (山本哲生)
物理数学 I演習 57
7.4 鞍点法のまとめ|s| À 1のとき積分
I(s) =
∫C
dz g(z)esf(z)
を鞍点法で近似する流れをまとめておこう.積分径路Cの両端で
esf(z) → 0
とする.手順は次のようにまとめられる:
1. f ′(z) = 0を解くことによって鞍点 z0を求める:f ′(z0) = 0.
2. z − z0 = reiθとして,z0のまわりで f(z)を
sf(z) = s
[f(z0) +
1
2f ′′(z0)(z − z0)
2
]= sf(z0) +
1
2r2sf ′′(z0)e
2iθ
と展開する.
3. sf ′′(z0)e2iθ = −|sf ′′(z0)|となる θを選ぶ.
4. この θの方向に積分する.|sf ′′(z0)|が十分大きいとき積分にきく zの範囲はz = z0付近のみであるから,g(z) ' g(z0)として積分の外に出してよい.積分の下限を r = −∞まで拡げ,ガウス積分の公式∫ ∞
−∞dr exp
(−1
2|sf ′′(z0)|r2
)=
√2π
|sf ′′(z0)|
を用いる.
5. その結果,
I(s) '
√2π
|sf ′′(z0)|g(z0)e
sf(z0)eiθ (|sf ′′(z0)| À 1) (7.13)
を得る.
この導き方からわかるように sが複素数であっても (7.13)は成り立つ.積分方向 θ
が変更を受けるだけである.
2009-0127 2009年 1月 27日 (山本哲生)
物理数学 I演習 58
問題問題 7.1 1 ≤ s ≤ 10において s!を計算し,スターリングの公式 (7.6)と (7.7)から計算される s!とN !と比較せよ.sまたはN が大きくなるにつれてスターリングの公式の精度はたいへん良くなることを確かめよ.
問題 7.2 sが複素数のとき
s! '
√2π
|s|ss+1e−s (|s| À 1)
であることを示せ.
問題 7.3s! =
∫ ∞
0
dx xse−x (7.3)
においてs! =
∫ ∞
0
dx es ln x−x
と変形しf(z) = s ln z − z
とおいて鞍点法を適用すると失敗する.この原因を考察せよ.
問題 7.4 第 2種ハンケル関数の漸近形は
H(2)ν (s) '
√2
πsexp
[−i
(s − (2ν + 1)
π
4
)](7.14)
で与えられることを示せ.
2009-0127 2009年 1月 27日 (山本哲生)
物理数学 I演習 59
8.1 有理形関数の極点展開複素平面上で孤立した特異点だけをもち,それ以外では解析的な関数 f(z)を有
理形と呼ぶ.いま f(z)の特異点はすべて 1位の極であるとしよう.極点に番号をつけαn (0 < |α1| < |α2| < · · · )とする.極点αnにおける f(z)の留数を bnとする.
f(z)の級数展開はどのような形になるだろうか?f(z)は z = αn (n = 1, 2, · · · )に留数 bnの 1位の極をもつことから f(z)は
f(z) ∼∞∑
n=1
bn
z − αn
のような形に展開できることが予想される.しかしこのままでは z = 0で与えられた f(0)にはならない11.z = 0で f(0)を与える形にするには
f(z) = f(0) +∞∑
n=1
bn
(1
z − αn
+1
αn
)(8.1)
とすればよい.これが 1位の極のみをもつ有理形関数の極点展開である.以下で (8.1)を証明するとともに,この級数の収束条件を検討しておこう.原点
を中心とする半径Rn同心円の系列Cnを考える.Cnの内部には極点α1, α2, · · · , αn
までを含み αn+1以上の極点は含まないとする.n → ∞でRn → ∞とする.天下り的にCnに沿った周回積分
In =1
2πi
∮Cn
dwf(w)
w(w − z)=
1
2πiz
∮Cn
dw f(w)
(1
w − z− 1
w
)(8.2)
を考える.n À 1ではRnは十分大きく中辺の積分は
|In| <∼1
2πmaxz∈Cn
2πRn
∣∣∣∣ f(z)
Rn(Rn − |z|)
∣∣∣∣ = maxz∈Cn
|f(z)|Rn(Rn − |z|)
. (8.3)
|z| → ∞で |f(z)|/Rnを任意の εより小さくできる(i.e. |f(z)|は zよりおそく∞に近づく.f(z) = o(z) for z → ∞)ならば
|In| <ε
Rn − |z|(8.4)
となる.つまり n → ∞で In → 0となる.一方,(8.2)の右辺第 1項の積分はw = z周りと各極点周りの径路の積分の和で
ある.w = zでは f(z)は解析的であるから,その周りの径路積分は f(z)を与える.また各極点周りの径路積分は f(z)/(w− z)の留数 bk/(αk − z)を与える.すなわち
1
2πi
∮Cn
dwf(w)
w − z= f(z) +
n∑k=1
Res(
f(w)
w − z
)w=αk
= f(z) +∞∑
k=1
bk
αk − z. (8.5)
11z = 0は f(z)の特異点ではないとする.
2009-0203 2009年 2月 3日 (山本哲生)
物理数学 I演習 60
同様に右辺第 2項は
− 1
2πi
∮Cn
dwf(w)
w= −f(0) −
n∑k=1
Res(
f(w)
w
)w=αk
= −f(0) − bk
αk
. (8.6)
よって
In = f(z) − f(0) +n∑
k=1
bk
(1
ak − z− 1
αk
). (8.7)
n → ∞で In → 0より (8.1)が証明される.
例 8.1cot z =
cos z
sin z(8.8)
の極点展開を求めよう.z = 0での特異性を避けるため,
f(z) = z cot z
の極点展開を計算するのがよい.ただし f(0) = limz→0 f(z) = 1とする.f(z)はan = nπ (n = ±1,±2, · · · )に 1位の極をもち,そこでの留数は bn = nπである.よって (8.1)より
f(z) = 1 +
∞∑′
n=−∞
nπ
(1
z − nπ+
1
nπ
).
ここで∑′は n = 0を除く和を表す.|n|の等しい項をまとめると
∞∑′
n=−∞
nπ
(1
z − nπ+
1
nπ
)= 2z2
∞∑n=1
1
z2 − n2π2
である.よって
f(z) = 1 + 2z2
∞∑n=1
1
z2 − n2π2
すなわち
cot z =1
z+ 2z
∞∑n=1
1
z2 − n2π2(8.9)
が得られる.この級数は一様収束する.
2009-0203 2009年 2月 3日 (山本哲生)
物理数学 I演習 61
8.2 整関数の無限積(8.9)において
cot z =d
dzln sin z
であるから (8.9)の両辺を形式的に積分すると
ln sin z = ln z +∞∑
n=1
ln(z2 − n2π2) + C = ln z +∞∑
n=1
ln
(1 − z2
n2π2
)+ C ′
となる12.これからsin z
z= c
∞∏n=1
(1 − z2
n2π2
).
z → 0で (sin z)/z → 1であるから定数 cは c = 1であることがわかる.よって
sin z = z∞∏
n=1
(1 − z2
n2π2
)(8.10)
となり,sin zの「無限因数分解」が得られた.一般に f(z)をすべての z (|z| < ∞)で解析的な関数とし,そのゼロ点を an (n =
±1,±2, · · · )とする.すべての anは単純ゼロ点,すなわち f(z) = (z − an)g(z)と書いたとき g(z)は解析的で g(an) 6= 0である.よって f(z)の対数微分
f ′(z)
f(z)=
1
z − an
+g′(z)
g(z)(8.11)
は z = anに留数 1の 1位の極をもち g′/gは z = anで解析的である.f ′/f が極点展開の条件を満たしているとすると
f ′(z)
f(z)=
f ′(0)
f(0)+
∞∑n=−∞
(1
z − an
+1
an
)(8.12)
と展開できる.両辺を積分すると∫ z
0
dzf ′(z)
f(z)= ln f(z) − ln f(0)
=zf ′(0)
f(0)+
∞∑n=−∞
[ln(z − an) − ln(−an) +
z
an
].
(8.13)
対数を真数に直すと乗積展開
f(z) = f(0) exp
[zf ′(0)
f(0)
] ∞∏n=−∞
(1 − z
an
)exp
(z
an
)(8.14)
を得る.12見かけ上中辺の級数は収束しないように見えるが,ln(z2 − n2π2)に積分定数の項がつくこと
によって右辺に形になり収束する.もとの級数 (8.9)は一様収束するので,その積分も収束するのは当然である.
2009-0203 2009年 2月 3日 (山本哲生)
物理数学 I演習 62
問題問題 8.1
1
sin z
の極点展開は1
sin z=
1
z+ 2z
∞∑n=1
(−)n
z2 − n2π2
となることを示せ.ヒント:z=0での特異性を避けるため f(z) = z/ sin z,f(0) ≡ 1
の極点展開を考えよ.
問題 8.2 cos zの乗積展開は
cos z =∞∏
n=1
[1 − z2
(n − 1/2)π2
]であることを示せ.
2009-0203 2009年 2月 3日 (山本哲生)
物理数学 I演習 63
9.1 級数の和の計算:ζ関数ζ関数は
ζ(s) =∞∑
n=1
1
ns(9.1)
で定義される.とくに ζ(4)は黒体輻射のフラックスの計算で出会う.以下で ζ(4)を計算しよう.積分 ∮
dzcot πz
z4(9.2)
を考える.N を十分大きい正整数として,積分経路は (N + 1/2,−N − 1/2), (N +
1/2, N +1/2), (−N − 1/2, N +1/2), (−N − 1/2,−N − 1/2)の 4点を直線で結ぶ正方形である.N を十分大きくとると経路上では被積分関数が十分小さいため,この積分はゼロに近づく.すなわち
limN→∞
∮dz
cot πz
z4= 0. (9.3)
一方,左辺の積分の特異点は nを整数とするとき z = nである.よって∞∑
n=−∞
Res(
cot πz
z4
)z=n
= 0. (9.4)
留数の値は n 6= 0に対して
Res(
cot πz
z4
)z=n
= limz→n
(z − n) cos πz
z4 sin πz=
1
πn4. (9.5)
よって (9.4)より
0 =∞∑
n=−∞
Res(
cot πz
z4
)z=n
= 2∞∑
n=1
Res(
cot πz
z4
)z=0
=2
π
∞∑n=1
1
n4+ Res
(cot πz
z4
)z=0
すなわち
ζ(4) =∞∑
n=1
1
n4= −π
2Res
(cot πz
z4
)z=0
(9.6)
したがって ζ(4)の値を求める問題は積分 (9.2)の z = 0における留数値を求める問題に帰着する.z = 0は 5位の極であるからその留数は
Res(
cot πz
z4
)z=0
=1
4!
(d4
dz4z5 cot πz
z4
)z→0
=π3
24
(d4
dz4z cot z
)z→0
(9.7)
から計算される.よって
ζ(4) = −π4
48
(d4
dz4z cot z
)z→0
=π4
90. (9.8)
ζ 関数 おまけ (山本哲生)
物理数学 I演習 64
9.1.1 参考
しこしこ計算.
•
d4
dz4(z cot z)
= −4(4 cot2 z cosec 2z + 2cosec 4z) + z(8 cot3 z cosec 2z + 16 cot z cosec 4z).
•limz→0
d4
dz4(z cot z) = − 8
15.
•res 0 = −π3
45.
ζ 関数 おまけ (山本哲生)
物理数学 I演習 65
9.2 偶数のkに対する ζ(k)
前節の方法は一般に ζ(k) (k: even)に対して応用できる.すなわち
1
2πi
∮dz
cot πz
zk= 0 = 2
∞∑n=1
Res(
cot πz
zk
)z=n
+ Res(
cot πz
zk
)z=0
(9.9)
ここで
Res(
cot πz
zk
)z=n
=1
πnk, (9.10)
Res(
cot πz
z4
)z=0
=1
k!
dk
dzk
(zk+1 · cot πz
zk
)∣∣∣∣z→0
=πk−1
k!
dk
dzk(ξ cot ξ)
∣∣∣∣z→0
(9.11)
より
ζ(k) =∞∑
n=1
1
nk= − πk
2k!
dk
dzk(ξ cot ξ)
∣∣∣∣z→0
. (9.12)
これから例えばζ(2) = −π2
4
d2
dz2(ξ cot ξ)
∣∣∣∣z→0
=π2
6. (9.13)
ζ 関数 おまけ (山本哲生)
物理数学 I演習 66
9.3∑∞
n=1(−1)n−1/nk (k: even)の求和法積分
1
2πi
∮dz
zk sin πz(9.14)
を計算する.積分経路はこれまでと同じである.よって
1
2πi
∮dz
zk sin πz= 0 =
∞∑−∞
Res(
dz
zk sin πz
)z=n
. (9.15)
ここで
Res(
dz
zk sin πz
)z=n
=(−1)n
πnk(n 6= 0), (9.16)
Res(
dz
zk sin πz
)z=0
=1
k!
dk
dzk
(zk+1 · 1
zk sin πz
)z→0
=πk−1
k!
dk
dzk
(ξ
sin ξ
)z→0
.
(9.17)
よって∞∑
n=−∞
′ (−1)n−1
nk=
πk
k!
dk
dzk
(ξ
sin ξ
)z→0
. (9.18)
ただし n = 0を除いて和をとる.kが奇数のときは両辺はゼロである.kが偶数のとき右辺は 2
∑∞n=1(−1)n−1/nkに等しい.よって
∞∑n=1
(−1)n−1
nk=
πk
2k!
dk
dξk
(ξ
sin ξ
)z→0
(k = even). (9.19)
例えば k = 2では∞∑
n=1
(−1)n−1
n2=
π2
4
d2
dξ2
(ξ
sin ξ
)z→0
. (9.20)
ξ ∼ 0で
ξ
sin ξ=
ξ
ξ − ξ3/3! + ξ5/5! − · · ·=
(1 − 1
6ξ2 +
ξ4
120− · · ·
)−1
= 1 +1
6ξ2 + O(ξ4).
よってd2
dξ2
(ξ
sin ξ
)z→0
=1
3.
すなわち∞∑
n=1
(−1)n−1
n2=
π4
12. (9.21)
ζ 関数 おまけ (山本哲生)