東北日本弧における中新世中期~後期の精密対比に...

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i,一一I・・・・-j- 東北日本弧における中新世中期~後期の精密対比に基づく 広域テフラ層序の構築 1。はじめに 平中宏典1*・柳沢幸夫2・黒川勝己1 テフラは火山噴火によって生産され,地質学的時間スケールにおいて一瞬のうちに堆積する. この性質から,テフラ層の対比を行うことにより地層中で精度の高い同一時間面が認定でき,地 質学の時間精度の向上が期待できる.日本におけるテフラ層序は,第四紀~鮮新世についてはす でに十分なデータの蓄積によりカタログが整備され(町田・新井,2003など),地層の広域対比 やさまざまな地質現象の年代決定などに広く活用されている(里口ほか,1999;黒川,1999aな ど).‥‥‥‥- しかし,それよりも古い中新世中期~後期のテフラ層序は,鮮新世~第四紀のテフラ層序に比 べてデータ蓄積はいまだ進んでいるとはいえない.その理由としては,新しい時代から研究が進 んできたことはもちろんあげられるが,火山ガラスの変質によりその化学組成を用いた検討が難 しいと考えられてきたことや,他の方法による年代の絞り込みが難しいことも,これまで充分な 検討が行われてこなかった理由としてあげられる. 上記の問題点については,検討手法の工夫にが進められ,徐々にではあるが中新世中期~後期 のテフラ層序の構築は進展しつつある.火山ガラスの化学組成を用いた検討・対比については, 中新世のテフラ層であっても堆積盆周辺部などを中心とした火山ガラスが新鮮に保たれている 地域のテフラを対象にすることで,鮮新世や更新世のテフラと同様の方法で精密に行うことが可 能となった.黒川・大海(2000),平中ほか(2002)は,この手法により新潟県津川地域の野村 層と新発田市~胎内市の内須川層中に挟在する4層の指標テフラ層の対比に成功している.また, 年代の絞り込みについても,中新世で高い分解能をもつ珪藻化石層序と連携することにより,年 代幅を絞り込んで精密対比の確実性を高めることが可能となった.柳沢ほか(2003a,2003b)で は,テフラ層の上下の層準から採取した試料により,珪藻化石層序とテフラ層序の直接の関係を 明らかにし,上記の4層のテフラ層の対比を珪藻化石層序の面から確証している.さらに平中ほ か(2004)では,珪藻化石層序との関係によりテフラ層の堆積年代を絞り込み,精密な対比を効 率よく行うことにも成功している. そこで本研究は,火山学的にもテクトニクス的にもデータの少ない空白の時代となっており, 精度の高い時間面の設定が重要と考えられる巾新世中期~後期を対象に,まず広域対比の基礎と なる地域テフラ層序のデータを充実させ,それらの対比を精密に検討することによって広域テフ ラ層序を構築し,編年的研究の年代的基礎を提供することを目的とした.また,火山ガラスの化 学組成や珪藻化石層序との関係など,分析により得られたデータを電子化しデータベース化する ことによって,データ検索や統計的処理を容易にし,精密な対比検討を行う上で必要となる定型 的な検討の効率化をはかるため,新しい手法の検討も進めた.なお,ここで構築したシステムは, テフラの研究者とテフラを地層対比のためなどの道具として利用する研究者が,オンラインの情 1新潟大学教育人間科学部・2産業技術総合研究所地質調査センター(*平成18年度「深田研究助 成」採択者)

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i,一一I・・・・-j-

東北日本弧における中新世中期~後期の精密対比に基づく広域テフラ層序の構築

1。はじめに

平 中 宏 典 1 * ・ 柳 沢 幸 夫 2 ・ 黒 川 勝 己 1

テフラは火山噴火によって生産され,地質学的時間スケールにおいて一瞬のうちに堆積する.

この性質から,テフラ層の対比を行うことにより地層中で精度の高い同一時間面が認定でき,地

質学の時間精度の向上が期待できる.日本におけるテフラ層序は,第四紀~鮮新世についてはす

でに十分なデータの蓄積によりカタログが整備され(町田・新井,2003など),地層の広域対比

やさまざまな地質現象の年代決定などに広く活用されている(里口ほか,1999;黒川,1999aな

ど ) . ‥ ‥ ‥ ‥ -

しかし,それよりも古い中新世中期~後期のテフラ層序は,鮮新世~第四紀のテフラ層序に比べてデータ蓄積はいまだ進んでいるとはいえない.その理由としては,新しい時代から研究が進

んできたことはもちろんあげられるが,火山ガラスの変質によりその化学組成を用いた検討が難

しいと考えられてきたことや,他の方法による年代の絞り込みが難しいことも,これまで充分な

検討が行われてこなかった理由としてあげられる.

上記の問題点については,検討手法の工夫にが進められ,徐々にではあるが中新世中期~後期

のテフラ層序の構築は進展しつつある.火山ガラスの化学組成を用いた検討・対比については,

中新世のテフラ層であっても堆積盆周辺部などを中心とした火山ガラスが新鮮に保たれている

地域のテフラを対象にすることで,鮮新世や更新世のテフラと同様の方法で精密に行うことが可

能となった.黒川・大海(2000),平中ほか(2002)は,この手法により新潟県津川地域の野村

層と新発田市~胎内市の内須川層中に挟在する4層の指標テフラ層の対比に成功している.また,

年代の絞り込みについても,中新世で高い分解能をもつ珪藻化石層序と連携することにより,年

代幅を絞り込んで精密対比の確実性を高めることが可能となった.柳沢ほか(2003a,2003b)で

は,テフラ層の上下の層準から採取した試料により,珪藻化石層序とテフラ層序の直接の関係を

明らかにし,上記の4層のテフラ層の対比を珪藻化石層序の面から確証している.さらに平中ほ

か(2004)では,珪藻化石層序との関係によりテフラ層の堆積年代を絞り込み,精密な対比を効

率よく行うことにも成功している.

そこで本研究は,火山学的にもテクトニクス的にもデータの少ない空白の時代となっており,

精度の高い時間面の設定が重要と考えられる巾新世中期~後期を対象に,まず広域対比の基礎と

なる地域テフラ層序のデータを充実させ,それらの対比を精密に検討することによって広域テフ

ラ層序を構築し,編年的研究の年代的基礎を提供することを目的とした.また,火山ガラスの化

学組成や珪藻化石層序との関係など,分析により得られたデータを電子化しデータベース化する

ことによって,データ検索や統計的処理を容易にし,精密な対比検討を行う上で必要となる定型

的な検討の効率化をはかるため,新しい手法の検討も進めた.なお,ここで構築したシステムは,

テフラの研究者とテフラを地層対比のためなどの道具として利用する研究者が,オンラインの情

1新潟大学教育人間科学部・2産業技術総合研究所地質調査センター(*平成18年度「深田研究助成」採択者)

「平成18年度深田研究助成」研究報告

報源として活用できるようにすることを目的とし,日本テフラデータベース(J- ’rc,phra)として

web上(http://www.-1Jephra.jp/)で2007年9月より広く一般公開する予定である.

2。調査地域

調査地域は.中新世中期~後期

のテフラの記載・検討が比較的行

われ,かつ年代学的研究も蓄積の

ある東北口本弧南部を中心に設定

した(Fig.1).この地域内で,

中~上部中新統の堆積岩が露出し,

さらに火山ガラスの変質が進んで

いない地域を調査対象とした.

日本海側の新潟地域では,黒川

ほか(1999),黒川・大海(2000),

平中ほか(2002)などのテフラ層

序や広域対比の報告かおり,柳沢

39

38°

37 °

ほか(2003a,b)により珪藻化石36

層 序 と テ フ ラ 層 序 の 関 係 も 明 ら か

と な っ て い る こ と か ら , 広 域 テ フ F i g . 1 調 査 地 域 の 位 置 図 . 黒 丸 ( ● ) で 示 し た 地

ラ層序の基盤として津川地域を主

たる対象とし,新発田~胎内地域,

点が調査および対比検討を行った地域.

加茂地域,守門地域についても検討を行った.

太平洋側の北関東・南東北地域では,年代学的研究が数多く行われており,その中でも連携を

はかる珪藻化石層序が明らかとなっている地域を対象とした.とくに,栃木県烏山地域に分布す

る荒川層群上部(柳沢ほか,2003)と,茨城県日立地域に分布する多賀層群(柳沢,2000;柳沢

ほか,2004)を主たる対象とし,その他,茨城県高萩地域・北茨城地域,福島県棚倉地域につい

ても検討を行った.

3。各調査地域におけるテフラ層序

3.2新潟地域‘

津川地域の中新統は,下位より津川層,天満層,野村層および常浪層からなる(小林・立石,2000

など).今回は珪藻質泥岩中に多数のテフラ層を挟在する野村層のテフラ層を対象とした.野村

層のテフラ層は,黒川・大海(2000)によって上部のものを中心に15層が記載され,そのうち

天満沢川含高温型石英ガラス質テフラ層(Tmhq)が,新潟県新発田~胎内地域に分布する内須川

層巾の坂井含高温型石英テフラ層(Skhq)と対比されている.また,平中ほか(2002)では,野

村層中の3層について記載および内須川層中のテフラとの対比検討を行い,品沢川奥テフラ層

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平中宏典他:東北日本弧における中新世中期~後期の精密対比に基づ<広域テフラ層序の構築

(Sng)が熊出川ガラス質テフラ層(Kdg)と,品沢川上流テフラ層(Stm)が五斗蒔テフラ層(Gtm)

と品沢川ガラス質粗粒テフラ層(snsg)が寺内川テフラ層(Jng)とそれぞれ対比した.

この他,野村層中のテフラ層については,柳沢ほか(2003)においてSn010~Sn640までの55

層のテフラ層が報告され,珪藻化石層序との直接の関係からそれぞれのテフラ層の堆積年代が算

定されている.しかし,産状・記載岩石学的特徴・火山ガラスの化学組成の詳細については報告

されていないため本研究にて調査・検討を行った.その結果,22層のテフラ層を新たに見いだし,

柳沢ほか(2003)で報告されたうちの52層とあわせて74層について記載を行った.これらの詳

細については平中ほか(2007投稿巾)にて報告する.

3.3栃木・茨城地域

栃木県烏山地域の荒川層群は,下位より小塙層,大金層,田野倉層および入江野層からなり,

多数のテフラ層を挟在している(酒井,1986).今回は珪藻化石層序が明らかとなっている大金

層の中部から田野倉層の最上部までを対壽ミと七た.大金層にはOg1~Og61,田野倉層にはTn5~

Tn45のテフラ層および凝灰質砂岩層が多数挟在し,酒井(1986)によりテフラ層序が明らかにさ

れている.このうちOμ5については,群馬県富岡層群の馬場凝灰岩層と対比されている(石綿・

黒川,2001).本研究では,田野倉層巾のテフラ層を中心に,産状記載および試料採取を行った.

茨城県常磐地域に分布する多賀層群は,日立地域においては国分層と呼ばれ,Kob1~Kob121の

テフラ層および凝灰質砂岩層が多数挟在しており,珪藻化石層序との直接の関係が明らかにされ

ている(柳沢,2000;柳沢ほか,2004).本研究では,国分層中のテフラ層の中~上部のものに

ついて産状記載および試料採取を行った.

4。テフラの分析および対比検討方法

テ フ ラ の 分 析 は , 野 外 に お け る 産 状 と , 採 取 試 料 の 岩 石 学 的 検 討 お よ び 火 山 ガ ラ ス の 化 学 組 成

検 討 に よ っ た . テ フ ラ 層 の 産 状 は , 層 厚 , 粒 度 , 色 調 , 内 部 堆 積 構 造 ( 級 化 , ラ ミ ナ, パ ミ ス ,

異 質 粒 子 の 有 無 な ど ) , ユ ニ ッ ト 区 分 の 有 無 , 上 下 位 層 と の 境 界 面 の 記 載 を 行 っ た . 試 料 は , テ

フ ラ 層 の 下 部 を 中 心 に で き る だ け 鉄 分 な ど の 付 着 が 少 な い 新 鮮 な も の を 採 取 し た . ュ ニ ッ ト 区 分

さ れ る も の や, 内 部 の 堆 積 構 造 に 違 い が 認 め ら れ る も の は , 複 数 の 試 料 を 採 取 し た . 採 取 試 料 は ,

黒川(1999b)に準じて,水洗,脱鉄,乾燥,箭別の各処理を行った.なお,固結が進んでいる

試料は,前処理として水洗前に粉砕した.鏡下観察は,箭別されたOハS25mm~0.(呈三mmの粒子を

用いて,特に有色鉱物の含有率が低い試料については,is()(jynamicsel)aratorで有色鉱物を分離

して用いた.

岩 石 学 的 検 討 に つ いて は , 黒 川 ( 1 9 9 9 b ) に 準 じ て , 構 成 粒 子 比 , 火 山 ガ ラス 形 状 比 , 有 色 鉱

物量比について検討を行った.なお,火山ガラスの形状については,吉川(1976)および黒川(1999)

に基づき,扁平型(Ha型,Hb型),中間型(Ca型,Cb型),多孔質型(Ta型,Tb型),小さな気

泡 を 内 包 す る も の を 不 発 型 ( F 型 ) に 分 類 し た . ま た , 気 泡 の 接 合 部 が Y 字 型 の も の を b u b b l e

,jtlnction型として,褐色ガラスを含むものはそれぞれ特徴として記載した.

火 山 ガ ラス の 主 成 分 化 学 組 成 検 討 は , 坂 井 ・ 黒 川 ( 2 0 0 2 ) の 方 法 に 基 づ き , 新 潟 大 学 自 然 科 学

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’`呵,i

「平成18年度深田研究助成」研究報告

研究科のWDS型電子線マイクロアナライザ(EPMA)JXA-8600SX型を用いて加速電圧15kv,試料

電流13nA,ビーム径20μmの条件で測定し,oxideZAF補正を行った.1試料に付き20~25片の

火山ガラスを測定した.火山ガラスはおおむね5~8%程度の含水率であることも考慮し,得られ

たデータは総計を100%に規格化して議論し,規格化前の酸化物総計が89%未満のものは,変質な

どの影響により正確性が低いと考えられるので議論の対象外とした,なお,フーキングメタンダードとして姶良Tnテフラ(AT)を用いた測定値の検証を行い,町田・新井(2003)に示された

組成範囲内に測定値がおさまることを確認した.

テフラ層の対比は,産状,層序(テフラ層序,珪藻化石帯),岩石学的特徴,火山ガラスの主

成分化学組成の検討結果をもとに総合して行った.特に火山ガラスの化学組成については,精密

な対比とするため慎重な検討を行った.測定結果はすべてデータベースに蓄積し,各酸化物の平

均値と標準偏差を用いた統計的手法により,対比可能性のあるテフラの絞り込みを行った.

5。中新世中期~後期のテフラ層序と珪藻化石層序の調和性

中新世におけるテフラ層の対比を検討する上で,高い分解能を持つ珪藻化石層序(YanE11;isawa

andAkiba,1998;14yEII;anabeandYanal弓沁awa,2005など)との連携は,年代値を絞り込む点,テ

フ ラ 層 の 堆 積 年 代 を 推 定 す る 点 に お い て 重 要 で あ る . テ フ ラ 層 序 と 珪 藻 化 石 層 序 の 調 和 性 に つ い

ては,新潟県津川地域と胎内地域を例にその検討が行われている(柳沢,2003b).両地域間で対

比される5SI;nl・Gtmテフラ層は,各地域においてYarlagisawaandAkiba(1998)による珪藻生層

準D57(9.5Ma)とD58(9.4Ma)の間に挟在することが明らかとなっておりきわめて調和的である.

この結果より両地域での年代誤差はほぼ ± 0.05m.y.以内に収束し年代値は高精度に算定される

と考えられる.

数値年代については,CandeandKent(1995)の地磁気極性年代尺度(GTPS)をベースとする

YanagisawaandAkiba(1998)と万加圧nabeandΥεlrlagisawEI(12005)に従う.なお,中新世のGPTS

は 年 代 算 定 ポ イ ン ト の 選 定 に 関 し て 現 在 も 論 争 が つ づ い て お り , そ の 年 代 値 に は 不 確 定 性 が 残 さ

れて い る . 本 研 究 で 算 定 し た 数 値 年 代 値 に つ いて は , 採 用 す る G T P S モ デル の 違 い に よ り 最 大 で

0.4Ma程度の年代差を生じる可能性がある.

6。中新世中期~後期テフラ層の精密対比

6.1新潟地域において対比されるテフラ層

新 潟 地 域 に お い て , こ れ ま で 対 比 さ れ て い る テ フ ラ 層 は 前 述 の 4 層 で あ る . こ れ 以 外 に 新 た に

対 比 さ れ た も の に つ い て , 下 位 の も の よ り 産 状 , 岩 石 学 的 特 徴 , 火 山 ガ ラ ス の 化 学 組 成 な ど を 示

す.

0tbt一Wrp-Dtbt一lsbtテフラ層(約9.9Ma)

津川地域のOtbtテフラ層(黒川・大海,2000;Fig.2)は,野村層に挟在する層厚40cmの白

色ガラス質テフラ層で,中粒砂サイズから極細粒砂サイズに正級化する(Fig.3 -A).佐渡地域の

Wrp(黒川・富田,1995)は中新統中山層巾に挟在する層厚2cmの灰白色ガラス質テフラ層で,

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yj 平 中 宏 典 他 : 東 北 日 本 弧 に お ける 中 新 世 中 期 ~ 後 期 の 精 密 対 比 に 基 づ く 広 域 テ フ ラ 層 序 の 構 築

j-

Fig.2新潟県津川地域音無川セクションのルートマップ

下 部 1 c m は 中 粒 砂 サ イ ズ で 最 大 径 5 n の パ ミ ス 片 を 含 み , 上 部 1 c m は 極 細 粒 砂 サ イ ズ な い し シ

ルトサイズからなる(Fig.3-B).加茂地域のDtbtテフラ層(新称)は,中新統南五百川層に挟

在する層厚f50 -7ocmの白色ガラス質テフラ層で,中粒砂サイズないし細粒砂サイズからシルトサ

イズヘ正級化する(Fig.3-C).守門地域のlsbtテフラ層(新称)は,中新統貫木層中に挟在す

る層厚55cmの白色ガラス質テフラ層で,下部12(3mは中粒砂サイズ,上部は中粒砂サイズから細

粒砂サイズヘ正級化する(Fig.3-D).

構 成 粒 子 は ほ と ん ど が 火 山 ガ ラス で 有 色 鉱 物 は わ ず か で あ る . 有 色 鉱 物 で は 黒 雲 母 を 多 く 含 み ,

わ ず か に ホ ル ン ブ レ ン ド , ジ ル コ ン, 不 透 明 鉱 物 , ご く わ ず か に ザ ク ロ 石 を 共 通 し て 含 む . 火 山

ガラスの形状はbubble,junction型や,Ha型のものが多く,パミス由来のTa型,Tb型のガラ

スも見られる(Fig.3a-d).火山ガラスの化学組成は,すべてのテフラにおいてMgOが0.00-

OM2wt.%,CaOも0.2-0.4wt.%と特徴的に低い値を示すほか,FeO*も0.7-1.1wt.%とやや低い

値を示す.

珪藻化石帯は,すべての地点においてZ励錯九❹印がタ直y,J加zone(NPD5D)下部と調和的・-で,津川地域における推定堆積年代は約9.9Maである.

以 上 の よ う に , 火 山 ガ ラ ス の 形 状 お よ び 化 学 組 成 に 特 徴 を 持 ち , 層 準 に も 矛 盾 点 が と く に 見 ら

れないことから,0tbt,Wrp,Dtbt,lsbtの各テフラ層は対比される.

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「平成18年度深田研究助成」研究報告

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Fig.3新潟地域と栃木烏山地域で対比されるテフラ層.(A)Otbtテフラ層(新潟県阿賀町音無川)の産状,(a)Otb-Lテフラの構成粒子,(B)Wrpテフラ層(新潟県佐渡市中山)の産状,(b)Wrpテフラの構成粒子,(C)Dtbtテフラ層(新潟県加茂市出戸)の産状,(c)Dtbtテフラの構成粒子,(D)lsbtテフラ層(新潟県魚沼市大宿)の産状,(d)lsbtテフラの構成粒子.

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y平中宏典他:東北日本弧における中新世中期~後期の精密対比に基づく広域テフラ層序の構築

StiTI(Sn120)・Gtm-Wrd(約9.4Ma)

津川地域のStm(平中ほか,2002;Sn120)は層厚60cmの白色ガラス質テフラ層で,大きく上

下2つのunitから構成される.下部のunitTは15cmで基底の3cmは細粒砂サイズ,その上位

は極細粒砂サイズからシルトサイズに正級化する.u❹tIIは層厚45cmで,最下部の1cmは細粒

砂 サイ ズ な い し 極 細 粒 砂 サイ ズ で ガ ー ネ ッ ト が 密 集 す る . そ の 上 位 の 3 c m は 褐 色 で 細 粒 砂 サイ ズ ,

さ ら に 上 位 2 c m は 暗 褐 色 で 極 細 粒 砂 サ イ ズ か ら シル トサ イ ズヘ 正 級 化 す る . そ の 上 位 か ら 最 上 部

へかけては,白色で極細粒砂サイズからシルトサイズに正級化する.なお,平中ほか(2002)では

層厚17cmとしているが,先に述べた白色正級化部の存在が明らかとなったため,全層厚を60cm

とした.新発田地域のGtm(平中ほか,2002)は,層厚115-17cmの白色ガラス質テフラ層で,Stm

と同様に2つのunitから構成される,下位のunitlは層厚10-11cmで中粒砂サイズから極細粒

砂サイズに正級化する.unitIIは層厚6 -8cmで中粒砂サイズないし細粒砂サイズから極細粒砂

サイズでないしシルトサイズヘ級化する.佐渡地域のWrd{黒川・富田,15}95)は,層厚2cmの白

色 ガ ラ ス 質 テ フ ラ 層 で , 極 細 粒 砂 サ イ ズ か ら シ ル ト サ イ ズヘ 正 級 化 す る . 構 成 粒 子 は 火 山 ガ ラ ス

が 多 く , 有 色 鉱 物 は 黒 雲 母 , ホ ル ン ブ レ ン ド , 不 透 明 鉱 物 , 特 徴 的 に 赤 根 色 の ザ ク ロ 石 を 共 通 し

て含んでいる.火山ガラスの形状は扁平型(Ha型,Hb型)と多孔型(Ta型,Tb型)のものがほ

ぼ同じ割合で混在している.

珪藻化石帯は,すべての地点においてZかハ九❹卯タムと7U・即加zone(NPD5D)中部の珪藻生層

準I)57’(9.f5Ma)とD58(9.4Ma)の間にあり極めて調和的である.

構 成 粒 子 に ザ ク ロ 石 を 特 徴 的 に 含 み , 火 山 ガ ラ ス の 形 状 , 層 準 に も 矛 盾 点 が と く に 見 ら れ な い

ことから,Strl1(Sn120)・Gtm-Wrdは対比される.

Ot185-Ttj05(約9.2Ma)

津川地域の音無川セクションで野村層に挟在するOt185テフラ層(新称)は,層厚1 - 4cmの

灰色ガラス質で細粒砂サイズ.0t187の2m下位,Tmhqの約6m下位に挟在する.一方,胎内地域

のTtj05テフラ層(平中ほか,2004)は,層厚3cmの灰色ガラス質の極細粒砂サイズで’rtj06の3m

下位,Ttj09の11m下位に挟在する.両テフラともガラス質で,有色鉱物はごくわずかに黒雲母

と不透明鉱物を含む.火山ガラスの形状は扁平型(Ha型,Hb型)のものが多く,多孔型(Ta型,

T b 型 ) の も の を わ ず か に 含 む . 火 山 ガ ラス の 化 学 組 成 は , 各 酸 化 物 量 に 際 だ っ た 特 徴 は な い が,

両 テ フ ラ の 組 成 範 囲 は すべ ての 酸 化 物 で ほ ぼ 同 一 範 囲 を とる .

構 成 粒 子 割 合 , 火 山 ガ ラス の 形 状 , 化 学 組 成 範 囲 が ほ ぼ 一 致 して お り , 上 位 に 挟 在 す る T m h q- Ttj09との層序関係においても矛盾はないので,両テフラ層は対比されると考えられる.

Ot187-“T` tj06(約9.1Ma)

津川地域のOt187テフラ層(新称)は,層厚3-5cmの明灰色ガラス質テフラ層で,Tmhqの約

4m下位,0t185の2m上位に挟在する.一方,胎内地域のTtj06テフラ層(平中ほか,2004)は,

層厚3cmの明灰色の極細粒砂サイズで,Ttj09の8m下位,Ttj05の3m上位に挟在する.両テフ

ラ と も 細 粒 砂 サ イ ズ な い し 極 細 粒 砂 サ イ ズ の ガ ラ ス 質 で , 有 色 鉱 物 は ご く わ ず か に 黒 雲 母 と 不 透

明鉱物,特徴的に色の濃い褐簾石を含む.火山ガラスの形状は,扁平型やbubblejjunction型の

133

「平成18年度深田研究助成」研究報告

も の が 多 く , T b 型 の も の を わず か に 含 む . 火 山 ガ ラス の 化 学 組 成 は , すべ ての 酸 化 物 で 両 テ フ ラ

はほぼ同一の化学組成範囲にある.

構 成 粒 子 割 合 , 火 山 ガ ラス の 形 状 , 化 学 組 成 範 囲 が ほ ぼ 一 致 して お り , 上 位 に 挟 在 す る T m h q- Ttj09との層序関係においても矛盾はないので,両テフラ層は対比されると考えられる,

6.2.栃木・茨城地域において対比されるテフラ層

Og52a-l(ob66(L)(約10.1Ma)

烏山地域大金層に挟在するOg52a(酒井,1986)は,層厚9mの厚い白色ガラス質テフラ層で,

基 底 部 の h は 極 細 粒 砂 サイ ズ か ら 極 粗 粒 砂 サイ ズヘ 逆 級 化 し , 最 大 径 3 c m 程 度 の パ ミ ス を 含 む .

そ の 上 位 5 m は 極 粗 粒 砂 サ イ ズ で パ ミ ス 混 じ り と な っ て い る . そ の 上 位 2 m は 細 粒 砂 サ イ ズ な い し

中粒砂サイズ,その上位1E50cmはシルトサイズからなり,ところどころに極細粒砂サイズの層を

挟む.Kob(56(L)は,Kob66(柳沢,2000)の下部60cmで白色の細粒砂サイズないし中粒砂サイズ

のガラス質である.ともに火山ガラスが97 - 9 8%を占め,長石を3 - 2 %,有色鉱物をごくわずか

に 含 む 丿 火 山 ガ ラズ め 形 状 は t a 型 , T b 型 の も の が 多 く 見 ら れ る . 有 色 鉱 物 は 黒 雲 母 が 多 く , わ

ず か に ジル コ ン を 含 む . 火 山 ガ ラス の 化 学 組 成 は すべ て の 酸 化 物 で 同 一 組 成 範 囲 内 に あ る .

構 成 粒 子 , 火 山 ガ ラ ス の 形 状 , 化 学 組 成 範 囲 が 一 致 し て お り , 同 層 準 の 中 で は 顕 著 に 厚 い テ フ

ラ の 一 部 で あ る こ と か ら 両 テ フ ラ は 対 比 さ れ る と 考 え ら れ る . 珪 藻 化 石 帯 に つ い て は , 両 テ フ ラ

とも乃❹agyQsy217月Z,Eyzone(NPD5C)中部に挟在している.また,ともに71加眉7az一丿の初

産出層準から下位10m程度に挟在していることからも調和的である.

1くob66(M)-Koh03-lzOト(約10.1Ma)

Iくot)66(M)は,Kob66の基底より60cm上位からのクロスラミナと平行ラミナが交互に認められる

部分で3m程度.白色のガラス結晶質で粗粒砂サイズないし細粒砂サイズからなる,Koh03テフラ

層(柳沢,2000)は層厚290cm以上の,白色結晶ガラス質テフラ層で中粒砂サイズないし粗粒砂

サ イ ズ で あ る . 変 質 して 金 色 に な っ た 黒 雲 母 を 多 く 含 む . 上 部 は 泥 へ 漸 移 し 境 界 は 明 瞭 で は な い .

lz01テフラ層(柳沢,2000)は層厚290cmの明灰色結晶質テフラ層で粗粒砂サイズである.最大

径 1 c m 程 度 の パ ミ ス を 含 み , 全 体 的 に 斜 交 ラ ミ ナ が 発 達 す る が, 中 部 で は 弱 い 平 行 ラ ミ ナ が 認 め

ら れ る . 火 山 ガ ラ ス と 長 石 の 量 比 に つ い て は 地 点 に よ り や や ば ら つ き が あ る が , い ず れ も 長 石 が

や や 多 い . 有 色 鉱 物 を 1 割 程 度 含 み , わ ず か に 高 温 型 石 英 を 含 む . 火 山 ガ ラス の 形 状 は , T a 型 ,

T b 型 が 多 くそ の 他 , C a 型 の も の も 見 ら れ る . 有 色 鉱 物 は 黒 雲 母 , ホ ル ン ブ レン ド が 多 く , ご く

わ ず か に 斜 方 輝 石 , ジ ル コ ン を 含 む , 火 山 ガ ラ ス の 化 学 組 成 は い ず れ の テ フ ラ も , すべ て の 酸 化

物で同一組成範囲内にある.

構 成 粒 子 , 火 山 ガ ラ ス の 形 状 , 化 学 組 成 範 囲 が 一 致 し て お り , 同 層 準 の 中 で は 顕 著 に 厚 い テ フ

ラ層である.また,珪藻化石層序からも整合的に対比される(柳沢,2000)ため,3層のテフラ

層 は 対 比 さ れ る も の と 考 え ら れ る .

134

1=-・------↓

平中宏典他:東北日本弧における中新世中期~後期の精密対比に基づ<広域テフラ層序の構築

6.3.0tbt-Tn38テフラ層による両地域の対比(約9.9Ma)

栃木烏山地域のTn38テフラ層(酒井,1986)は田野倉層に挟在する層厚35cmの白色ガラス質

テフラ層で,中粒砂サイズから細粒砂サイズに正級化する(Fig.4).構成粒子は,火山ガラスが

7 割 以 上 を 占 め , 長 石 を 2 害 り 程 度 , 有 色 鉱 物 を 3 % 程 度 含 む . 有 色 鉱 物 は 黒 雲 母 が 多 く , そ の 他 ホ

ル ン ブ レ ン ド , 不 透 明 鉱 物 を 含 み , ご く わ ず か に ジ ル コ ン, ザ ク ロ 石 を 含 む . 火 山 ガ ラ ス の 形 状

は,bubble,jullction型,Ha型のものが多く,その他,Ca型,Ta型のものも見られる.これら

の 特 徴 は 先 に 述 べ た O t b t の 特 徴 と 良 く 一 致 す る . ま た , 火 山 ガ ラス の 化 学 組 成 に つ いて も , 異

粒 子 の 混 入 な ど に よ り 一 部 ば ら つ い た 測 定 値 を 示 す 点 が あ る も の の , ほ と ん ど の 測 定 点 に お い て

MgOが0.00-0.01wt.%,CaOも0.2-0.4twt.%と特徴的に低い値を示すほか,FeO*も0.7-1.1wt.%

とやや低い値を示し,すべての酸化物においてほぼOtbtと同じ値を示す.

珪 藻 化 石 帯 に つ い て は , 珪 藻 化 石 が 産 出 し な い 層 準 に あ た る た め 直 接 は 不 明 で あ る が , 上 下 の

層準における産出状況からかj7.Zぉ,タ.,‘とンタy2.タベj7Z,海zone(NPD5C)上部-j・印Z一九❹砂丿タaりjQ即加

zone(NPD5D)下部にあたる(柳沢,2003).このことからOtbtと同様にNPD5D帯下部の層準に

あ たる と も 考 え ら れ 特 に 矛 盾 は 生 じ な い .

以 上 よ り , 火 山 ガ ラ ス の 形 状 お よ び 化 学 組 成 が 特 徴 的 で あ り , 珪 藻 化 石 層 序 と も 調 和 的 で あ る

ことから,0tbt-Dtbt-]:sbt-Tn38の各テフラ層は対比され,新潟,栃木烏山地域のテフラ層序

は約9.9Maの同一時間面によって統合される.

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…………7……………S幹

Fig.4(左)Tn38テフラ層(栃木県那須鳥山市荒川)の産状,(右)Tn38テフラの構成粒子

7。東北日本弧南部の中新世中期~後期広域テフラ層序

以上のテフラ層対比より,東北日本弧南部の中新世中期~後期にかけて構築した広域テフラ層

序をFig.5に示した.年代値については珪藻化石層序が連続して得られている新潟津川地域と茨

城日立地域の結果を用いて算出した.0tbt-Tn38をはじめとした精密なテフラ層の対比により,

各地域で共通した時間面を設定することができ,視覚的に有効な時間面としてもその活用が期待

される.

本研究では,珪藻化石層序と連携することにより複合年代層序を構築したが,今後は他の微化

石層序や古地磁気層序との直接比較・検討を行っていくことにより,より確度の高い複合年代層

135

「平成18年度深田研究助成」研究報告

序としていくことができると考えられる.また,テフラ層序に数値年代が導入されたメリットを

生かし,微化石が産出しない地域においても,テフラ層の精密対比を検討することによりその堆

積年代を推定することが可能となりその活用が期待される.

Fig.5東北日本弧南部の中新世中期~後期にかけての広域テフラ層序,太 線 で つ な い だ テ フ ラ 層 は 広 域 対 比 さ れ る . 細 線 はそ の 他 の テ フラ層を示す.

136

平中宏典他:東北日本弧における中新世中期~後期の精密対比に基づく広域テフラ層序の構築

8。検討したテフラ層の年代別特徴

新潟津川地域,栃木烏山地域,茨城日立地域は,調査対象の中で層準が広く多数のテフラ層が

挟在するが,広域複合年代層序よりその挟在頻度について検討すると,テフラ層が集中して挟在

する期間とほどんど挟在しない期間が見られることがわかる.ここでは12~7.5Maのテフラ層に

ついてその挟在頻度により期間を分けてそれぞれの特徴について議論する.

12~11.7Ma

津川地域では,テフラ層の挟在頻度は10万年に約1層程度である.この間の1層は層厚が1m

と比較的厚く平行ラミナが発達していることから流走した可能性があるが,他のテフラ層は層厚

が10cm未満で細粒であるため,降下テフラであると考えられる.岩質はガラス質と結晶質のも

のが混在する.

烏山地域,日立地域ではともに平均10万年に4~5層程度で同時期の津川地域にくらべると多

い.これは,新潟県の更新統である魚沼層群中部累層の下半部や鮮新統椎谷層の上部の挟在頻度

(黒川ほか,2003)に匹敵する.層厚は,酒井(1986)や柳沢(2000)によると,層厚30cm程度まで

の薄いテフラ層が多いが,烏山地域では水底重力流によってもたらされたと考えられる層厚1m

以上のテフラ層もしばしば挟在する.烏山地域に近い地域においては火砕流を噴出するような火

山活動が起こっていたものと推測される.

11.7~10.4Ma

津川地域では一部露出が欠けるため不明な層準もあるが,約130万年間忙わたってテフラ層の

挟在は認められない.鳥山地域,目立地域においても挟在頻度は減少し,平均10万年に1~2層

となる.

堆積場の位置関係も考慮する必要があるが,東北日本弧南部周辺ではテフラをもたらすような

火 山 活 動 が 低 下 し て い た 可 能 性 が あ る . ,

10,4~8.5Ma

津川地域では170万年間に30層以上が挟在し,頻度はおおよそ10万年に2層程度とやや高く

な る . 挟 在 す る テ フ ラ 層 は , ほ と ん ど が ガ ラ ス 質 テ フ ラ 層 で 結 晶 質 の テ フ ラ 層 は 数 層 程 度 に 限 ら

れ る . 層 厚 が 1 0 c m 未 満 で 細 粒 で あ る た め 降 下 テ フ ラ と 考 え ら れ る も の が 多 い . こ の 中 に は ,

55rlg(Sn070)-Kdg,Strl1(Sn120)-Gtm,Tmhq-Skhq-’rtj09のように広域対比されるテフラ層も存

在する.層厚が2m以上となるような厚いパミス質テフラ層については挟在年代が10.0~9.7Ma

に比較的集中している.

烏山・日立地域では対象層の一部が不整合により欠如しているため10.4~9.4Maのものを対象

とした.烏山地域では10万年に平均14~15層,目立地域では10万年に平均10層と挟在頻度は

以前よりも増加する.烏山地域ではOg52やOg61など10.0Maイ寸近で厚いテフラ層が多く見られ

新 潟 地 域 と 同 様 の 傾 向 を 示 す. ・

お そ ら く こ の 時 代 に は テ フ ラ 層 を も た ら し た 給 源 地 域 で は よ り 広 く 陸 化 が 進 み , 火 砕 流 を 伴 う

137

「平成18年度深田研究助成」研究報告

陸域での火山活動が活発に起こるようになり,広域テフラが挟在することからもコールドロンの

生成を伴うような火山活動が行われていたものと推測される.0961テフラ層の直上の泥岩から淡

水種の珪藻が見いだされ,陸水から噴火に伴ってもたらされた可能性が指摘されている(柳沢,

2003)ことからも,支持されると考えられる.また,津川地域と烏山・日立地域を比較すると前

弧側に位置する烏山・日立地域の方が平均して挟在頻度は高い.烏山・日立地域で構成粒子に比

較的結晶質のものが多いことからも,脊梁付近における活動の影響を受けている可能性が示唆さ

れる.

8.5~7.5Ma

こ の 時 代 は 烏 山 ・ 日 立 地 域 で は 対 象 層 が 欠 如 し て い る た め , 津 川 地 域 に つ い て の み 議 論 す る .

津川地域では100万年間に40層弱が挟在し,頻度はおおよそ10万年に3~4層とこれまでの約2

倍となる.層厚も全体的に10cm以上のものが多くなり,8.0Ma前後で層厚の厚いものが多くなる.一方,層厚10cm未満のものもまばらに存在するが7.8~7.e5Maには集中して挟在する.この期間

は 結 晶 質 の テ フ ラ 層 の 割 合 が 増 加 し , 一 部 に は ス コ リ ア 質 の テ フ ラ 層 も 認 め ら れ る よ う に な る こ

と か ら , テ フ ラ を も た ら し た 火 山 活 動 の 様 式 な い し 場 が こ れ ま で と 異 な る 可 能 性 も あ る .

謝 辞

本研究を進めるにあたって,費用の一部に平成18年度「深田研究助成金」を使用した.また,

産業技術研究所地質調査センターの高橋雅紀研究員4こlは烏山地域のテフラをご案内いただいた.

新潟大学の宮下純夫先生,志村俊昭先生にはEPMA分析の際に便宜をはかっていただいた.福島

大学の長橋良隆先生にはjL-’I`ephraのシステム構築に際してご助言を頂いた.ここに記して以上

の方々と深田地質研究所関係者の皆様に謝意を表する.

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2007年10月10日発行

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