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OGASAWARA Laboratory 資料 作成:2005/9/28 最終改訂:2006/2/19 1 因子分析および主成分分析について 1.多変量解析(multivariate analysis1)多変量解析 各個体について複数の特性の測定値からなる多変量データの分析のための統計的手法の 総称 各方法に共通しているのは,複数の変数を同時に分析に用いることにより, 1 変数ずつの 分析では得られない情報を得ようとすること 2)多変量解析の種類 多変量解析の手法は,さまざまな観点から分類することができる.たとえば,分析の目 的によっては,他の変数と役割の異なる外的基準とよばれる変数が存在する→各手法を外 的基準の有無により,便宜的に分類することが可能 外的基準がある場合には,残りの変数を説明変数とよんで区別する 多変量解析を用いて実際のデータを解析する場合には,分析の目的と,分析に用いる変 数の尺度の水準,すなわち,それらが連続的(比尺度または間隔尺度),順序尺度,名義尺 度のいずれであるかによって適切な手法を選択しなければならない 名称 外的規準 目的 重回帰分析 あり(連続的) 従属関係の分析,予測 数量化Ⅰ類 あり(連続的) 従属関係の分析,予測 判別分析 あり(名義尺度) 個体の分類 数量化Ⅱ類 あり(名義尺度) 個体の分類 数量化Ⅲ類 なし 次元の縮小 正準相関分析 あり 変数群間の関係の分析 主成分分析 なし 次元の縮小 因子分析 なし 構造の探索,変数のグループ分け 共分散構造分析 なし 構造の探索と検証 クラスター分析 なし 個体の分類 多次元尺度構成法 なし 構造の探索 3)多次元尺度構成法の分類と使い分け(次ページ図 01 参照) ある目的のための手法が一つに限定されるわけではない たとえば,個体の分類はクラスター分析によって行うこともできるし,主成分分析を適 用して各個体について主成分得点を計算し,その値によって分類することもできる

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OGASAWARA Laboratory 資料 作成:2005/9/28 最終改訂:2006/2/19

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因子分析および主成分分析について 1.多変量解析(multivariate analysis) 1)多変量解析 各個体について複数の特性の測定値からなる多変量データの分析のための統計的手法の

総称 各方法に共通しているのは,複数の変数を同時に分析に用いることにより,1 変数ずつの

分析では得られない情報を得ようとすること 2)多変量解析の種類 多変量解析の手法は,さまざまな観点から分類することができる.たとえば,分析の目

的によっては,他の変数と役割の異なる外的基準とよばれる変数が存在する→各手法を外

的基準の有無により,便宜的に分類することが可能 外的基準がある場合には,残りの変数を説明変数とよんで区別する

多変量解析を用いて実際のデータを解析する場合には,分析の目的と,分析に用いる変

数の尺度の水準,すなわち,それらが連続的(比尺度または間隔尺度),順序尺度,名義尺

度のいずれであるかによって適切な手法を選択しなければならない

名称 外的規準 目的 重回帰分析 あり(連続的) 従属関係の分析,予測 数量化Ⅰ類 あり(連続的) 従属関係の分析,予測 判別分析 あり(名義尺度) 個体の分類 数量化Ⅱ類 あり(名義尺度) 個体の分類 数量化Ⅲ類 なし 次元の縮小 正準相関分析 あり 変数群間の関係の分析 主成分分析 なし 次元の縮小 因子分析 なし 構造の探索,変数のグループ分け 共分散構造分析 なし 構造の探索と検証 クラスター分析 なし 個体の分類 多次元尺度構成法 なし 構造の探索 3)多次元尺度構成法の分類と使い分け(次ページ図 0-1 参照) ある目的のための手法が一つに限定されるわけではない たとえば,個体の分類はクラスター分析によって行うこともできるし,主成分分析を適

用して各個体について主成分得点を計算し,その値によって分類することもできる

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4)参考資料:尺度の分類(次ページ表 0-1 参照)

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2.因子分析(factor analysis) 1)因子分析のねらい 観察される各種の変量(テスト,調査,測定等の値)の変動をより少ない数の仮想的変

数(因子とよばれる潜在変数)を用いて説明すること 2)因子分析の計算手続き……詳細を理解する必要はない 心理学においては,測定の単位が任意であることが多いため,相関行列を分析の対象に

することがほとんど 実際の計算手法は,多数存在する;もっとも良く用いられているのは,主因子法(principal

factor analysis) 主因子法:因子の寄与が大となる順に因子負荷量行列を求める方法……第 1 因子がもっ

とも負荷量が大きく,第 2 因子以降は順次負荷量が小さくなる計算法 因子の回転(rotation):因子を求めただけでは,因子の解釈が困難であるので,通常は,

因子を求めたあとに,回転を行う 回転の方法には,varimax 回転(直交回転),promax 回転(斜交回転)などがある

3)因子分析理解に必要な概念・用語 次ページの表 1.1.1 に示された因子分析表を例に,因子分析の理解に必要な概念・用語を

取り上げる

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因子の命名(naming):得られた因子の名称は,各研究者が命名する;その際,因子が

含まれた質問項目とどのような関連があるかにより,「主観的に」命名する←統計パッケー

ジでは,関連の度合いまでしか計算しない(表 1.1.1 では,拘束感,限界感などが因子の名

称) 因子負荷量(eigen value):因子と各質問項目(厳密に言うと,質問項目の回答)との関

連の度合いを因子負荷(因子負荷量)という(表 1.1.1 では,表の中の数値……“.72”な

ど(小数点以下を示す 0 は,書かないことが多い));つまり,「趣味や学習をしたり,くつ

ろいだりする時間がない」という質問項目は,因子 1(拘束感)に対して,0.72 の因子負

荷量をもつ,という;通常,因子負荷量は,-1.0~+1.0 の値をとり,相関係数と同じく,

±1.0 に近い方が,その因子との関連性が高いことを示す;ただし,ある質問項目は,因子

負荷量の高い因子以外にも,若干の因子負荷を示すことが普通であるが(先の「趣味や学

習……」は,因子 2 には.07,因子 3 には.18,因子 4 には.10),もっとも負荷量の高い因子

に含まれるとみなす(図 1.2.1 参照);どれに含まれると見なすかは,0.4 あるいは 0.3 以上

の負荷量がある因子のうち,最大の負荷量を示す因子に含まれるとみなすことが多い 共通因子(communal factor):質問項目の回答に共通して影響する因子(この例の場合,

拘束感,限界感,対人葛藤,経済的負担)……普通は,共通因子を因子という 独自因子(unique factor):ある項目だけに独自に関わる因子

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因子寄与(contribution of factor),因子寄与率,累積寄与率:因子が見つかることは,

因子と項目との関係が成立していることを意味し,その関連性は,因子負荷で表された→

因子負荷が高いものがたくさんあれば,その因子はうまく見つかったということになる;

これをいいかえると,因子が項目を説明するのに寄与しているという(因子寄与) 因子寄与は,表 1.1.1 でいえば,第 1 因子の因子負荷を縦に見れば分かるが,1 つの数値

で代表させるため,因子負荷量を 2 乗して合計したもの(因子負荷量 2 乗和)を求め,因

子寄与を表す 因子寄与率は,各因子の寄与を,寄与の理論上の最大値(=質問項目数,例では 16)で

割ってパーセントで表したもの;抽出された因子全体のうち,各因子がどのくらい寄与し

ているかの比率→寄与率を第 1 因子から順に加算したものが累積寄与率(cumulative

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contribution)……抽出された因子全体としてどの程度寄与しているかを示す 共通性(communality):質問項目に着目してみた場合,各質問項目が抽出された共通因

子全体でどの程度説明されているかを示す指標;計算は,因子負荷(因子寄与)と同じ考

え方で,横に因子負荷を 2 乗して加算した数値が共通性となる;最大値は 1 で,各質問項

目について,共通因子によって説明される部分がどの程度あるかを示す 4)各因子の尺度ごとの点数 因子が見つかった場合,それを点数で表すことが行われる 尺度得点:因子に関連がある項目の点数を単純に合計する(平均する場合も含む);表 1.1.1でいえば,「趣味や学習……」~「介護のために家事,買い物……」の 5 項目に回答された

数値を点数として,合計する;非常に単純で分かりやすい方法 因子得点(factor score):各因子に対する各項目の関わりの程度の違いを考慮し,得点を

求める方法;「趣味や学習……」は,.72 の因子負荷があったのに対し,「介護のために家事,

買い物……」は,.59 の因子負荷であるので,これらを反映した得点を求めるものが,因子

得点の算出;得られた因子負荷をもとに,各因子の重み付けを算出し項目の合計を求める

際に,その重み付けをかけて合計する クロンバックのα係数(Cronbach’s α coeffcient):例えば,「趣味や学習……」~「介

護のために家事,買い物……」の 5 項目が,第 1 因子の「拘束感」に含まれたが,これら 5項目が拘束感について尋ねているという信頼性を示す指標:同じ尺度内の質問項目で一貫

性があるかどうかをみるもので,内的整合性の指標ともいわれる;因子分析に必ず必要な

指標ではなく,質問紙(尺度)を作る場合には,因子分析を実施したあとに求めるという

流れになっているもの 5)因子分析結果の確認 因子分析の結果を確認するには,以下の 4 点について検討する 因子の名称 質問項目に偏りがないか 質問項目は妥当か 分析手法は正しいか 6)その他,関連する概念・用語 因子数の決定:因子数をいくつにするかの完全に客観的な基準は存在しない;理論上は,

質問項目の数だけ因子を求めることができるが,なるべく少ない因子で,多くを説明する

ことが目的である点を忘れない;実際には,数学的な規準を用いるか,研究者の都合で決

めるか,の 2 つの方法がある 固有値で決定する方法:固有値は,第 1 因子で最も大きく,以下順次小さくなっていく;

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因子数を決定するには,この固有値がどこまでの値のところまで因子として認めるかとい

うことになる;その場合,まずは,固有値の最小値を決める方法がある(例えば,多くの

統計パッケージソフトでは,何も設定しなければ,固有値>1.0 に指定されている);もし,

この固有値>1.0 でさしつかえなければ,この基準を採用する スクリープロット基準:最小値ではなく,落差が大きいところで決める方法;固有値は,

先に述べたように,徐々に小さくなる;最初は急に小さくなるが,次第にその減少の量は

ちいさくなる;グラフに描いて,なだらかになってしまったら,それは因子として認めな

いという方法 強制的基準:最初から因子数をいくつにしたいという場合,因子数を強制的に決めるこ

とになる;この場合,解釈の可能性がもっとも重要となる;つまり,どれが因子分析の答

かは,自分のデータをいかにうまく解釈できるかで決めるという方法;忠司,この方法で

は,回転まで実施しないと,事実上,因子数は決められない 単純構造(simple structure):特定の因子だけに因子負荷が高い因子パターンを示した

場合をいう;回転は,この単純構造を求めて実施される 3.主成分分析(principal component analysis) 1)主成分分析 外的基準のない場合に,観測変数に共通な成分を取りだして合成変数を作り出す多変量

解析の一手法 2)因子分析との異同 因子分析:多変量データに共通な,潜在的因子を探る→複数の因子で説明しようとする 主成分分析:多変量データに共通な成分を探って,合成変数を作り出す→できるだけ少

ない因子(主成分)に集約する 心理学における応用を考えると,因子分析の近似,あるいは代用として用いられること

も多く,実際,主成分分析を広義の因子分析のカテゴリーに含める場合もあるが,本来の

違いを区別しておくこと

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5.一致性係数(coefficient of congruence) 因子分析において 2組の因子パターンの一致の程度を評価する係数(タッカー(Tucker, L. R.)の coefficient of congruence)

1 組目の p 番目の因子の j 番目のテストに対する重みをλ1jp,2 組目の q 番目の因子

のそれをλ2jq で表すとタッカーの一致係数は,次式によって与えられる:

なお,一致性係数は,2 つの因子が似ているほど,1 に近くなる.また,この一致性係数

は,-1~+1 の範囲の数値を取るが,-1 と+1 は等価となり,-1 に近い場合は 2 つの因

子がまったく似ていないことを示すものではない(柳井・繁桝他,1990). 6.文 献 松尾太加志・中村知靖(2002):誰も教えてくれなかった因子分析.北大路書房. 芝・渡部・石塚(編)(1984):統計用語辞典.新曜社. 渡部洋(編)(1988):心理・教育のための多変量解析法入門―基礎編―.福村出版. 渡部洋(編)(1992):心理・教育のための多変量解析法入門―事例編―.福村出版. 柳井晴夫・繁桝算男・前川眞一・市川雅教(1990):因子分析―その理論と方法―.朝倉書

店.