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ひがし布施クリニック 阿部 哲也 Tetsuya Abe 今回はこのような執筆の機会をいただき感謝申し上げ ます。私は大学病院精神科と単科精神科病院での勤務を 経験した後,現在は大阪のひがし布施クリニック(常勤) にて依存症専門外来を,同じく新生会病院(非常勤)に てアルコール依存症専門入院・外来を担当しておりま す。辻本士郎先生,和気浩三先生のお二人に師事し,同 一患者さんの入院から外来までを一貫して主治医として 診させていただくことも多く,アルコール依存症の回復 過程を,イメージをもって理解していける喜びを感じま す。また,クリニックは2016年6月より従来のアルコー ル依存症専門から依存症専門クリニックに生まれ変わ り,多様な患者層を受け入れる体制としております。 私は医学部時代に新生会病院で実習し,そこで約150 人が参加する院内例会に圧倒され,アルコール依存症臨 床に興味を抱くきっかけとなりました。その際「断酒の ための3本柱」を耳にし,医師となり精神科を選択した 後も,アルコール依存症=3本柱という言葉を思い出す 機会が多くありました。診察室内で診療する力を高めよ うと考えていた当時,断酒のための柱の一つが,自助グ 広場 広場 2 はじめに 日々感じていること,気を付けていること 日常診療のなかで Impression from daily practice 62(62)Frontiers in Alcoholism Vol.6 No.1 2018 ループという診察室外のしかも自身の指示も通らない時 間・空間であることを知り,大いにとまどいを感じまし た。依存症臨床で勤務する現在でも,医師の発言として 自助グループ出席を勧める際,上記のとまどいや,自助 グループの治療力を私がどこまで理解できているかとい うことへの自信の無さが,心をよぎります。 アルコール依存症臨床へ移り感じたことは,ソーシャ ルワーカー(PSW)の業務量の多さでした。この分野 の歴史は当事者と支援者との歴史でもあり,医療が登場 するのは最近であることを学んだ今では理解もできます が,当時の支援者の熱意と支援の量がそのまま現在の PSWの業務量・範囲に反映されており,医師の出番が 相対的に少ないこともなるほどと思われます。これは当 事者側の姿勢にも反映されているようで,「先生は何も しないでください。してもらうと断酒会は弱くなります から」という言葉からも感じられます。当事者の自助と 支援者の熱意,これが医療が登場する以前から存在した 伝統なのだと肌で感じます。 これからは医療が加わり新たな時代を迎えていくと考 えますが,少しの不安もよぎります。それは,医療が整 う以前の支援者の熱意が現在でも存在しているという頼 もしいことと表裏一体のもので,医療機関の職員がとる SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.

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ひがし布施クリニック 阿部 哲也 Tetsuya Abe

 今回はこのような執筆の機会をいただき感謝申し上げます。私は大学病院精神科と単科精神科病院での勤務を経験した後,現在は大阪のひがし布施クリニック(常勤)にて依存症専門外来を,同じく新生会病院(非常勤)にてアルコール依存症専門入院・外来を担当しております。辻本士郎先生,和気浩三先生のお二人に師事し,同一患者さんの入院から外来までを一貫して主治医として診させていただくことも多く,アルコール依存症の回復過程を,イメージをもって理解していける喜びを感じます。また,クリニックは2016年6月より従来のアルコール依存症専門から依存症専門クリニックに生まれ変わり,多様な患者層を受け入れる体制としております。

 私は医学部時代に新生会病院で実習し,そこで約150人が参加する院内例会に圧倒され,アルコール依存症臨床に興味を抱くきっかけとなりました。その際「断酒のための3本柱」を耳にし,医師となり精神科を選択した後も,アルコール依存症=3本柱という言葉を思い出す機会が多くありました。診察室内で診療する力を高めようと考えていた当時,断酒のための柱の一つが,自助グ

行動は基本的に医療行為として当事者・家族・社会に受け止められる以上,医療行為として求められる範囲を前述の熱意が超えてしまうことがありうる,という不安です。飲みつぶれた当事者の自宅へ断酒会仲間や支援者が様子を見に行くという伝統も,医療機関の職員がすると,営利目的の行為だと思われたり,実は家族は自宅に乗り込んでくるような行為までは医療機関に求めていなかったり,という具合です。このように医療機関からの行為となるとやや事情が異なってくることに,現場で走り回って下さるPSWは医師以上にもどかしい気持ちを抱いておられると思います。 次に,依存症を含め精神医学用語がさまざまな立場の人にも使われる現状において,例えば,診断学の水準としての「依存症」,症候学の水準としての「常用量依存

(例:BZ系薬物)」,二者の関係性への視点である「共依存」など,これら異なる水準・視点の「依存」を,私自身が当事者・家族や他職種職員にあたかも横並びの関係であるかのように伝えていないか,という心配があります。さらにDSM-5以降の現場では,依存,乱用,使用障害,嗜癖,有害な使用,慢性中毒等々,ICD-10や歴史的用語までもが入り乱れ,その用語が何を指し,何と区別され,用いたわれわれは何処を目指すべきなのか,といった本質部分までもが曖昧になっていないか。用語はきっちり整理して使用することが重要であると自身に言い聞かせています。 次に,依存症専門クリニックとして感じることについてです。薬物再犯者やギャンブル負債者を依存症の視点で捉える際,どこまでアルコール依存症の臨床経験でやっていいものか,という不安があります。精神科では,診断がはっきりしないこと,そもそも診断を置き去りにしたまま治療的接近や支援を行うことはいくらでもあります。ですので,薬物やギャンブルの分野であっても,当事者を全体として捉え直して生活支援や精神療法的アドバイス,薬物療法の配慮などがある程度はできてしまいます。しかし,ある程度できてしまうというだけ

に留まらず,より専門性を高めていけるよう研修と実践に励みたいと考えています。 診断に関しては,ギャンブルや検討課題としてインターネットゲーム障害をも物質依存と同じカテゴリーに入れるDSM-5の姿勢は,臨床感覚からは抵抗なく受け入れられるのですが,現時点ではいまだICD-10が注意書きするように,記述上の類似性に基づく群にすぎないという捉え方から大きくは抜け出せていないとも思われ,研究面での今後の動向に注視していこうと思います。 自助グループに定着されている当事者にとっては,同じアルコール問題だからこそ,あるいは同じ薬物問題だからこそ,その時間・空間が共感,安心,安全の元で掘り起こし合える場として機能してきたとも考えられ,DSM-5のこの包括的に捉える態度に合わせて早速医療機関で行う集団治療までも依存対象の区別を取り去ってしまっては,現場の混乱を招くのではないか。医療機関での集団治療は自助グループにつなぐためのステップでもあり,この導入時点で対象の違いから違和感を生じさせることは,好ましくないと考えます。クリニックの箱としてのサイズ,マンパワー問題は,当然あるでしょうが。

 今回,日々感じていることを中心に,という原稿依頼でしたので,感じていることをそのまま書かせていただきました。「クリニックの批判でもいいから,自由に書いて」とおっしゃった編集委員でもある辻本先生はこの原稿に限らず,日頃の臨床でもそのように見守って下さり,感謝してもしきれない思いでおります。また,大阪の地域ネットワークのなかで私は仕事をさせてもらっており,お世話になっている関係者の皆様や,勉強会でお会いさせていただく先輩・先生方に支えられて今の自分がいることを忘れず,感謝の気持ちをもって今後も臨床に励んでいく決意でおります。

若手ドクターの広場若手ドクターの広場 2

まとめ

はじめに

日々感じていること,気を付けていること

日常診療のなかでImpression from daily practice

62(62)Frontiers in Alcoholism Vol.6 No.1 2018 Frontiers in Alcoholism Vol.6 No.1 2018 63(63)

ループという診察室外のしかも自身の指示も通らない時間・空間であることを知り,大いにとまどいを感じました。依存症臨床で勤務する現在でも,医師の発言として自助グループ出席を勧める際,上記のとまどいや,自助グループの治療力を私がどこまで理解できているかということへの自信の無さが,心をよぎります。 アルコール依存症臨床へ移り感じたことは,ソーシャルワーカー(PSW)の業務量の多さでした。この分野の歴史は当事者と支援者との歴史でもあり,医療が登場するのは最近であることを学んだ今では理解もできますが,当時の支援者の熱意と支援の量がそのまま現在のPSWの業務量・範囲に反映されており,医師の出番が相対的に少ないこともなるほどと思われます。これは当事者側の姿勢にも反映されているようで,「先生は何もしないでください。してもらうと断酒会は弱くなりますから」という言葉からも感じられます。当事者の自助と支援者の熱意,これが医療が登場する以前から存在した伝統なのだと肌で感じます。 これからは医療が加わり新たな時代を迎えていくと考えますが,少しの不安もよぎります。それは,医療が整う以前の支援者の熱意が現在でも存在しているという頼もしいことと表裏一体のもので,医療機関の職員がとる

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