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卒 業 論 文 小型 MPD スラスタに関する基礎研究 湯上 尚之 所属教育分野 プラズマ理工学 中島 秀紀 教授 山本 直嗣 准教 九州大学工学部エネルギー科学科 提出年月 平成25年2月

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卒 業 論 文

題 目

小型 MPD スラスタに関する基礎研究

氏 名 湯上 尚之

所属教育分野 プラズマ理工学

指 導 教 員 中島 秀紀 教授

山本 直嗣 准教

九州大学工学部エネルギー科学科

提出年月 平成25年2月

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目次

1 章 序論 .............................................................................................................................................................. 1

1.1 背景............................................................................................................................................................. 1

1.2 研究目的 ..................................................................................................................................................... 4

第 2 章 原理 .......................................................................................................................................................... 5

2.1 MPD スラスタ ............................................................................................................................................ 5

2.2 基礎電磁加速理論[4][6] ................................................................................................................................ 6

2.3 矩形外部磁場印加型.................................................................................................................................. 11

2.4 イオン液体を用いる利点 .......................................................................................................................... 14

3.1 予備実験 ..................................................................................................................................................... 15

3.2 実験装置 ................................................................................................................................................... 17

3.2.1 推進剤の加速に用いる器具 ............................................................................................................... 17

3.2.2 回路中の機器類................................................................................................................................... 21

3.2.3 計測器類 .............................................................................................................................................. 23

3. 3 実験方法 .................................................................................................................................................... 26

第 4 章 実験結果及び考察................................................................................................................................... 29

4.1 BN 電極ホルダ ............................................................................................................................................ 29

4.2 SiC 電極ホルダ ........................................................................................................................................... 39

第 5 章 結論 ........................................................................................................................................................ 42

参考文献 ............................................................................................................................................................... 43

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第 1 章 序論

1.1 背景

現在, 月や火星の有人探査や, 宇宙空間での大型建造物の建設など, 大きな推進力を必

要とされる場面が増えている. このようなミッションを達成する為に数十 kW 級の強い

推力をもつ大型電気推進機の開発が求められている. 電気推進機には様々な種類があり,

それぞれ特性が異なる. 例えばイオンエンジンは, 非常に高い比推力を持ち長期間のミ

ッションに耐えうるが, 推力密度は低いため小型の人工衛星の主推進器や, 宇宙探査機

の姿勢制御用スラスタなどに用いられる場合が多い. 比推力とは, 単位重量の推進剤で

単位推力を発生させ続けられる秒数を表し, これはガソリンエンジンの燃費にあたるパ

ラメータである. また推力密度とは, 噴射口の単位面積あたりに得られる推力を表す. 有

人探査や大量輸送といった用途の電気推進器は, 高い推力密度を有し比推力もある程度

の水準を満たしている必要がある.

この条件に見合う大型電気推進器の候補として, 海外では大型のホールスラスタと呼

ば れ る 種 類 の 物 が 有 力 視 さ れ て い る が , 我 が 国 か ら は 大 型 MPD

(Magneto-Plasma-Dynamic)スラスタ (Fig1.1)が提案されている [1]. その理由として ,

10000N/m2以上の高い推力密度と 1000-6000 秒の高い比推力を有すること, 出力に対する

スラスタ本体の重量(比重量)が 小さいことなどが挙げられる. 主な電気推進器の比推

力と推力密度を Fig1.2 に示す. ホールスラスタと MPD スラスタは, 比推力と推力密度に

関してはイオンエンジンとアークジェットスラスタの中間の性能を持っているが, 比重

量については MPD スラスタがホールスラスタよりも勝っている. 数年前までは, 宇宙空

間航行中にスラスタに電力を供給するための太陽電池の比重量が 20kg/kWe程度であった

のに対し, 電気推進器の比重量は大きなものでも 6kg/kWe程度であったため, スラスタ本

体の比重量はあまり問題にならなかった. しかし, 現在では太陽電池の軽量化が進めら

れ, 2-3kg/kWe 以下の軽量な宇宙用電源が開発されつつあり, スラスタ比重量が宇宙船全

体の比重量を左右する重要なスペックの一つとなっている[2].

各種電気推進機は比重量低下を目標とした要素開発が進められているが, 推力を維持

しつつ軽量化を行うにはそれぞれの推進原理に起因する限界がある. イオンエンジンの

場合, 空間電荷制限則により電流密度に上限があるため, 推力を強化しようとするとス

ラスタサイズが必然的に大きくなる. また, 高電圧で使用する場合にはスラスタ内部の

絶縁材の質量を増加させる必要がある. ホールスラスタの場合, 大型化に伴ってスラス

タ中央に大きな空洞ができてしまう. 両機ともにこれらの問題を解決するために様々な

工夫が考案されているが, 達成可能なのは 2kg/kWe程度であると考えられている. 一方で,

MPD スラスタは構造が簡素であり容易に比重量を小さくすることができるため, 上述し

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たミッションを達成する為の非常に有力な候補であると云える.

MPD スラスタの欠点として, 電極の損耗と推進効率の低さが挙げられる. 放電によっ

て陰極が著しく損耗するため MPD の定常作動時間は約 1000 時間程度と短い. 主な電気

推進機の推進効率を表 1に示す. 推進効率とは, スラスタに投入した電力が推進剤の運動

エネルギーに変換された割合を示す値である. MPD の推進効率の値に大きな幅があるの

は, 推進剤の種類に依るものである. 貯蔵の容易な希ガスを推進剤として用いると, 電流

パスが電極下流に集中しなくなるため,効率は 10-20%まで落ちてしまう. 一方, 水素を

推進剤として用いた場合他の推進器と遜色のない効率が得られるが, 水素は宇宙空間で

の長期貯蔵に適していない.

電気推進機の最終的な性能評価は, 推進効率ηではなく Stuhlingerの特性速度[3](νch)と

呼ばれるものが用いられる. これは推進効率をスラスタに電力を供給するユニットの比

重量(αEP)とスラスタ本体の比重量(αPow)の和(システム比重量)で除した値に依るもので,

次式で与えられる.

PowEP

ch

t

αα

ην

2 (1)

式中の t は推力作動時間を表しており, スラスタの性能に依らない値である. 即ち上式

は, MPDスラスタの比重量を低下させ, 軽量な電源を使用することで MPD スラスタの推

進効率が低いという欠点を補えることを示唆している. しかし, 米国の提示する大型ホ

ールスラスタと性能で肩を並べる為には, スラスタ比重量を 1kg/kWe まで低下させても

推進効率は 40%程度必要である. 宇宙空間での安定した貯蔵が可能であり, かつ比較的

高い推進効率を得ることのできる推進剤が求められる.

Fig1.1 MPDスラスタ作動外観[4]

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表 1. 主な電気推進機の推進効率©JAXA

電気推進器 推進効率(%)

イオンエンジン 75

ホールスラスタ 60

MPDスラスタ 10-50

Fig.1.2 宇宙用推進機の比推力と推力密度[4]

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1.2 研究目的

これらの問題を解決するために, MPD スラスタの形式は矩形外部磁場印加型(後述)と

し, 磁場の印加には永久磁石を用いる. また, MPD スラスタの推進剤として, 試験的に

イオン液体である EMI-BF4(1-ethyl-3-methyl imidazolium tetrafluoroborate)を用いる. イ

オン液体とは, 以下の特徴を持つものの総称である.

① イオンのみからなる液体である.

② 常温域あるいは幅広い温度域で液体状態である.

③ 不揮発性である.

④ 不(難)燃性である.

⑤ 耐熱性が高く, 熱分解温度が高い.

⑥ 分解電圧が大きく, 化学的または電気化学的に安定である.

⑦ 導電率が高い.

⑧ 比熱が大きい.

⑨ ある程度の極性を持つ.

EMI-BF4の構造式を Fig1.3 に, 物性を表 2 に示す.

EMI-BF4 は, 塩の状態で存在するため電離にエネルギーを使う必要がない. また蒸気圧

がほぼ 0 である, ある程度の粘性を持つなどの特徴をもつ. 貯蔵性がよく常温で液体で

あるため, 電磁加速のための外部磁場印加に高温に弱いが強力なネオジム磁石が使用で

きる. 意図的に力を加えない限り運動しないため推進器にバルブや流量制御器が不要と

なり小型化に寄与する. 機械部分を排すことでロバストの向上も見込める. 大型の

MPDスラスタの開発の足掛かりとして, この EMI-BF4を用いた小型の MPDスラスタを

試作し, EMI-BF4の基礎データを取得することを本研究の目的とする.

Fig.1.3 EMI-BF4の構造式

融点 13 ℃

粘度 37 mPa・s

密度 1.28 g/cm3

電気伝導率 14 mS/cm at25℃

N N

BF4

表 2 EMI-BF4の物性

Fig1.3 EMI-BF4の構造式

Yu
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第 2 章 原理

2.1 MPD スラスタ

MPD スラスタには大きく四種類に大別することができる. 形状が同軸型か矩形型か,

磁場を自己誘起させるか外部から印加させるかの違いによって分類する.

現在 MPD スラスタの研究で主流となっているのは, 同軸自己誘起磁場型と呼ばれる

タイプのものである(Fig2.1). このタイプのスラスタの利点として, 推進剤の放電室への

閉じ込めが容易であることや, 磁場を自己誘起するため, 重いコイル等を積む必要がな

く軽量であることなどが挙げられる[5]. 円筒形の陽極に陰極を挿入し, 半径方向に電流

を流す. 電極間の電流と, 陰極を流れる電流から誘起された磁場によるローレンツ力で

推進剤を電磁加速させる. その構造はアークジェットスラスタと似ているが, 設計指針

は異なる[4]. アークジェットスラスタは推進剤の電離などの化学反応に費やされるエネ

ルギー損失を抑えることで推進効率の向上を目指しているが, MPDスラスタは主加速力

であるローレンツ力の仕事率を高めることを目的に研究開発が行われている. これは

MPD スラスタではプラズマ生成の為の電力消費が少なく生成に使われたエネルギーを

回収することも困難であるためである. 電極間のアーク放電によって推進剤を電離させ

プラズマを生成し, 電磁気力によって加速させ推力を得るのが MPD スラスタの基本原

理である.

Fig2.1 同軸自己誘起磁場型 MPDスラスタ©JAXA

Fig2.2 同軸自己誘起磁場型の概念図©JAXA

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2.2 基礎電磁加速理論[4][6]

MPD スラスタの加速機構には, 気体力学的加速と電磁力学的加速がある. 気体力学的

加速機構では, 電離された推進剤が陽極ノズルを通して熱膨張加速を受ける. この気体

力学的加速力 Faは次式で表される.

𝐹𝑎 = 𝐶𝐹𝑃𝐶𝐴𝑡 (2.1)

CF: 推力係数

PC: 放電室圧力

At: ノズルスロートの断面積

この式はラバーノズルを備えたスラスタに適用されるものであり, MPDスラスタの場

合はその電極構造に依る変形が必要となる.

電磁力学的な加速機構はいくつか考えられる. まずは軸方向に外部磁場が印加されて

いない場合を考える. 放電室内の典型的な電流と磁場の分布とそれらの相互作用による

ローレンツ力を Fig2.2 に示す. 座標系は円筒座標系とし, 中心軸流れ方向に z軸をとる.

陰極を流れる電流により周方向の磁場が誘起される. この自己誘起磁場 BΘと, 直交する

半径方向の電極間電流 jrにより, 軸方向に電磁力 jrBΘが発生する. これを放電領域で積

分した力はブローイング力(Blowing Force)とよばれる推進力である. さらに, 周方向自

己誘起磁場 BΘと軸方向放電電流 jzにより, 半径方向の圧縮力 jzBΘが生じ, この力によっ

てスラスタの中心軸上の圧力が高まり, 陰極面にかかる圧力の反力によりプラズマが加

速される. この加速力はポンピング力(Pumping Force)と呼ばれる.

これらの力によって得られる推力がどの程度の大きさになるのかを概算するための

式を導出する. ブローイング力は電極表面の電流分布には関係しているが, 電極間の空

間電流分布には依存していない. そこで, Fig2.3に示すような円柱状の陰極に, 幅 z0に渡

って, 周方向と軸方向に一様な電流が, 半径方向だけに流れているモデルを考える. ま

ず陰極を軸方向に流れる電流により周方向磁場 BΘが誘起される. これはアンペールの

法則により半径方向距離 rに反比例し, 軸方向距離 zと共に単調減少する.

𝐵𝜃(𝑟, 𝑧) =

𝜇𝐽

2𝜋𝑟(1 −

𝑧

𝑧0)

(2.2)

ここで, 全電流は J=2πrz0jrとなり, μは真空中の透磁率, jrは半径方向電流密度を表

す. よって, 単位体積あたりの力 fzは次式で表される.

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𝑓𝑧(𝑟, 𝑧) = 𝑗𝑟𝐵𝜃 =

𝜇𝐽2

4𝜋2𝑟2𝑧02

(𝑧0 − 𝑧) (2.3)

この fz を電極間の全体積にわたって積分すると, ブローイング力 Fz が以下のように

求まる.

𝐹𝑧 =

𝜇𝐽2

4𝜋2𝑧02 ∫ ∫ ∫

𝑧0 − 𝑧

𝑟2

𝑟𝑎

𝑟𝑐

𝑟𝑑𝑟 𝑑𝜃 𝑑𝑧 =𝜇𝐽2

4𝜋

2𝜋

0

𝑧0

0

ln𝑟𝑎

𝑟𝑐

(2.4)

ra: 陽極半径

rc: 陰極半径

この式より, ブローイング力は放電電流の二乗に比例することがわかる . また, 式

(2.2)-式(2.4)より, 周方向の対称性が保たれていればブローイング力が z 軸に沿った電流

密度分布に依存しないことが類推される. これらの式は陰極が円柱状であると仮定した

ものである. 実際のスラスタでは半径方向電流が陰極の側面からだけでなく端からも流

入する場合があるため, 実際のスラスタにより近い, 陰極の先端が円錐状になっている

場合に関しても考えなければならない(Fig2.4). 式(2.2), (2.3)に関してはこの場合でも変

化はないが, 式(2.4)の半径方向の積分開始点が rc(1-z/z0)となる. その結果式(2. 4)は次式

のように変化する.

𝐹𝑧 =

𝜇𝐽2

4𝜋2𝑧02 ∫ ∫ ∫

𝑧0 − 𝑧

𝑟2

𝑟𝑎

𝑟𝑐(1−𝑧

𝑧0)

𝑟𝑑𝑟 𝑑𝜃 𝑑𝑧 =𝜇𝐽2

4𝜋

2𝜋

0

𝑧0

0

ln (𝑟𝑎

𝑟𝑐+

1

2)

(2.5)

括弧内第二項の値は陰極表面付近の電流密度分布に大きく依存する. 陰極表面付近で

電流密度が一様であるとき, 陰極の先端が円錐状であることによる効果は減少し, 以下

の式のようになる.

𝐹𝑧 =

𝜇𝐽2

4𝜋ln (

𝑟𝑎

𝑟𝑐+

1

4)

(2.6)

ポンピング力も同様に計算することができる. Fig2.5のように, 軸方向電流が一様に円

柱状陰極の端から流入するモデルを考える. 磁場はいままでと同様に周方向に誘起され

るが, その大きさは rに比例し次のように表される.

𝐵𝜃(𝑟, 𝑧) =

𝜇𝐽𝑟

2𝜋𝑟𝑐2

(2.7)

このため, 半径方向内向きの力 fr が発生する. この力は半径方向の圧力勾配と釣り合

うため, 次式がなりたつ.

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𝑓𝑟 = 𝑗𝑟𝐵𝜃 =

𝜇𝐽2𝑟

2𝜋2𝑟𝑐4

= −𝑑𝑝

𝑑𝑟

(2.8)

ここで, p は放電室内の圧力である. frを積分することで陰極表面付近の圧力分布が次

式のように求められ, 放物線状になることがわかる.

𝑝(𝑟) = 𝑝0 +

𝜇𝐽2

4𝜋2𝑟𝑐2

[1 − (𝑟

𝑟𝑐)

2

] (2.9)

p0は rcの外側の圧力である. ポンピング力 Fcは, 陰極表面にわたって p-p0を積分する

ことで求められる.

𝐹𝑐 = 2𝜋 ∫ (𝑝 − 𝑝0)𝑟𝑑𝑟 =

𝜇𝐽2

8𝜋

𝑟𝑐

0

(2.10)

これにより, ポンピング力もブローイング力と同様に放電電流の二乗に比例すること

が示された.

ブローイング力とポンピング力は互いに独立であるため, (2.6)式と(2.10)式を足し合わ

せることで, 全電磁力学加速力 F が求まる.

𝐹 = 𝐹𝑧 + 𝐹𝑐 =

𝜇𝐽2

4𝜋(ln

𝑟𝑎

𝑟𝑐+

3

4 )

(2.11)

ただし, この式では全放電電流が陰極先端円錐部に等電流密度で流入すると仮定して

いる. このことを考慮すると, 同軸自己誘起磁場型 MPD スラスタの電磁力学的推力 Fth

は,

𝐹𝑡ℎ =

𝜇𝐽2

4𝜋(ln

𝑟𝑎

𝑟𝑐+ 𝛼) = 𝑎𝐽2

(2.12)

と表される. ここで a は電磁推力係数であり, 陰極円錐部に流れ込む電流の割合によ

って決定される. αは電極形状係数であり, 陽極と陰極の半径の比に依存する. 例えば,

全放電電流が陰極側面円筒部に流れ込む場合は, 電磁気力はブローイング力のみとなる

ので, α=0 となる. 一方, 円錐部に全電流が等密度で流入する場合, ブローイング力お

よびポンピング力は最大となり, α=3/4 となる. この値は陽極と陰極の間の電流経路に

直接は依存しない.

式(2.12)は, 一見すると発生する推力は放電電流の二乗に比例し, 推進剤の種類や流量

には関係しないように見える. しかし, 推力は陰極近傍の電流密度分布(α値)や放電室

全域の電流分布によって変化するため, 作動条件によって電流分布がどのように変化す

るのかを把握する必要がある.

式(2.12)に推力を表す式が示されたが, 式の係数μ/4πは, SI 単位系では 10-7オーダー

の非常に小さい値である. このため同軸自己誘起磁場型 MPD スラスタが充分な推力を

得るためには, kAオーダーの非常に強い電流が必要となる. 放電電圧を考慮すると電力

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レベルは数百kWにのぼる. すなわち, 大電力電気推進器として有力な候補であるが, 裏

を返せば大電力でしか使い物にならないということである. 第 1 章で述べたとおり,

MPD スラスタの利点は高い推力密度と比推力である. この利点を生かすことのできる

ミッションは多数あるが, 大電力を発生させることのできる電源ユニットを積み込むと,

必然的にスラスタのサイズは大きくなり, 小型衛星などに搭載することは不可能になる.

また, 自己誘起磁場はアンペールの法則により中心軸の陰極から離れるほど小さくなる

ため, 放電室の径を大きくしても推力を効率よく増大させることはできず, 一定以上の

大型化にも障害がある. 幅広いミッションにMPDスラスタを用いるためには, 小型化の

可能な電磁加速方式を選択しなければならない.

Fig2.2 MPDスラスタのプラズマ加速機構

Fig2.3 陰極を単純化したモデル

jr 陽極

陰極

推進剤

fz=jrBΘ

(ブローイング力)

fr=jzBΘ

(ポンピング力)

fz=jrBΘ

jr

陰極

陽極

z0

Jz

jz

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Fig2.4 陰極を理想化したモデル

Fig2.5 ポンピング力発生モデル

fz

jr

z0

陽極 陰極

fz=jzBΘ BΘ

jz 陰極

jz

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2.3 矩形外部磁場印加型

そこで本研究では, 矩形外部磁場印加型(Fig2.1右下)と呼ばれる方式を採用した. 矩形

外部磁場印加型の原理を Fig2.5 に示す. 放電室の形状を直方体とし, 平行する二面を電

極としてある. 磁場はコイルまたは永久磁石で印加させる. .

矩形外部磁場印加型は, 1960 年代に”Crossed-Field Accelerator”の通称で広く実験研究

が行われていた[7,8]. 当時の実験器具では放電室圧力を低下させることができず, 実用化

は困難であったようである. 1970 年代からは大規模な実験的研究は行われていない. し

かし, 原理上の致命的な欠陥が見つかり研究がなされなくなったという事実はなく, 実

用化を阻む問題は推進剤の横方向の閉じ込めを考えなければならない, といった程度の

ものである. また, 1960 年代に障害となった放電室圧力の問題も, 現在の技術では簡単

に解決することができる.

同軸自己誘起磁場型と比較すると, 矩形外部磁場印加型は次のような利点がある. ま

ず, ローレンツ力が直接排気方向を向くような外部磁場印加が可能である. また, 磁場

形状の自由度が高く, 電磁加速のための最適な磁場形状をもたらすことが容易である.

さらに, 非常に簡素な構造であるため小型化や軽量化を行いやすく, 推力 F の理論式も

非常に単純なものとなる.

𝐹 = 𝐼𝐵𝐿 (2.13)

I: 放電室内の全電流

B: 印加磁場の強度

L: 電極間距離

Fig2.5 矩形外部磁場印加型 MPDスラスタの原理

電場

磁場

ローレンツ力

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同軸型と同様に, 矩形型も放電室の形状によって推進剤の加速の効率化を図ることがで

きる. 推進剤の噴出の反力が推力となるため, 放電室出口付近に電流パスが集中して

いるのが理想的な加速機構といえる. そこで, 電極間距離が推進剤加速方向に向けて狭

まっている場合を考える(Fig2.6). 推進剤の加速方向に x 軸を, 電流の流れる方向に y 軸

をとる. 放電室の z方向と x方向の幅は z0, x0で一定とする. 電極間距離が+x方向に単調

に減少しているとすると, y方向幅は次式で表される.

𝑦𝑥 = (1 − 𝛼

𝑥

𝑥0) 𝑦0

(2.14)

ここで, y0 は放電室入口の電極間距離, αは電極の傾斜に依る係数である. 傾斜が大き

いほどαの値も大きくなり, 電極が平行の時α=0, 放電室出口で電極が接している時α

=1となる.

電極間電圧が V で一定とすると, 電界 E は V/yxとなるため, 電極間の電流密度 jyは次

式で表せられる.

𝑗𝑦 = 𝜎𝐸 =𝜎𝑉

(1 − 𝛼𝑥𝑥0

) 𝑦0

(2.15)

σは推進剤の電気伝導率を表す. これを放電室全域にわたって積分すると, 全電流 J が

求まる.

𝐽 =𝜎𝑉

𝑦0∫ ∫

1

(1 − 𝛼𝑥𝑥0

)𝑑𝑥𝑑𝑧

𝑥0

0

= −𝜎𝑉𝑥0

𝛼𝑦0ln(1 − 𝛼) (0 < 𝛼 < 1)

𝑧0

0

(2.16)

α=1 の時の全電流を 1 としたときの, αの値による全電流の大きさの比を表したグ

ラフを Fig2.7に示す. 数式上では全電流はα=1に漸近するように無限大まで大きくなっ

ていくが, 当然一定以上の電極間距離が保たれていなければ, この式は適用されない.

しかし, 放電室出口の電極間距離はできるだけ短い方が全電流量は増加し, また流体力

学的にも推進剤がよく加速されることは明らかである. 本研究ではスラスタ形状を現

在主流の方法から変更することに加え, 推進剤に液体を用いパルス加速を行う. 質量 m

の推進剤が速度 v で噴出されたとき, その力積は推力を時間積分することで求められる.

𝑚𝑣 = ∫ 𝐽(𝑡)𝐵𝐿𝑑𝑡

(2.17)

J(t): 全電流の時間分布

B: 印加されている磁場強度

L: 電極間距離

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Fig2.6 電極形状の理想化

Fig2.7 電極形状の違いによる電流比

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2.4 イオン液体を用いる利点

本節では, 1.2節で述べたイオン液体を推進剤として用いる利点についてさらに詳しく

述べる.

磁場の印加にはコイルを用いる方法と永久磁石を用いる方法があるが, 今回は電力消費

量を抑えるため, 永久磁石を選択する. 本研究では推進剤に液体導電体である EMI-BF4

を用いる. 推進剤に気体を用いた場合, 推進剤を電離・プラズマ化させるためにエネル

ギーを消費し, その過程で放電室は高温になる. 永久磁石は高温下では性能が著しく低

下するため, 通常は高温下でも比較的強い磁場を持たせることのできるサマリウムコバ

ルト磁石を用いるが, EMI-BF4 は最初から電離しているため電離にエネルギーを費やす

必要がなく, 常温のまま電磁加速させることができる. すなわち, 磁場の印加に永久磁

石の中では最も強力なネオジム磁石を用いることができる. EMI-BF4 は蒸気圧がほぼ 0

であり常温ではほとんど気化しないため, 貯蔵が容易である. 宇宙空間では気体は通常

液化して貯蔵するが, そのためには貯蔵室の圧力を高める, 冷却するなどの工夫が必要

である. また, ある程度の粘度を持ち, 液体の為密度も気体に比べるとはるかに高い.

そのため意図的に力を加えない限り推進剤が運動しないことから, スラスタにバルブと

流量制御器が不要になる. 気体を推進剤に用いた場合はこれらの機器は必要不可欠なも

のとなるが, 機械部分を増やすことで故障のリスクが高まってしまう. 故障のリスクの

少ない信頼性の高い機器を使用すると, たとえばバルブの場合は数百万円という高額な

ものになり, 開発コストが高くなってしまう. これらは宇宙空間での長期ミッションを

達成するための大きな障害であり , 機械部分を排すことは非常に有用である .

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第 3 章 実験装置及び実験方法

3.1 予備実験

イオン液体の推進剤としての性能を評価するために, 射出した推進剤の速度を測定す

る方法を選択した. 測定精度を決定するために, イオン液体を射出する予備実験を行っ

た. 矩形外部磁場印加型MPDスラスタを模した電極ホルダと電極を作製し, 電極間にネ

オジム磁石によって磁場を印加した. 電極間に注入した推進剤に電流を流し, 推進剤を

加速・噴出させた. 電極ホルダの素材にはテフロンを, 電極の素材には銅を選択した

(Fig3.1). 電極ホルダの大きさは 30×10×40 mm3程度, 電極の大きさは 25×4×4 mm3

程度であった. 推進剤流路の大きさは 25×4×4 mm3 であった. 推進剤の加速方向は 25

mm 方向であり, まずは流路の端にイオン液体を滴下し, 反対側の端まで推進剤を充分

に加速させ排出する方式をとった. しかし, 電流を流すと推進剤は滴の形を維持できな

くなり,射出もなされなかった.

Fig3.1 予備実験で用いた推進剤流路

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そこで, 推進剤の形状を維持しパルス流として射出を行うために, 電極間距離を狭め

た. また, 長い距離を加速させると推進剤が流路中で分離する可能性が高いと判断し,

推進剤の滴下位置を噴出口付近に変更した(Fig3.2).

この改良により, 推進剤の射出に成功した. 射出実験は水槽中の台に流路を乗せて行

い, 噴出口の高さと推進剤の飛距離から, 空気抵抗を無視した場合の推進剤の速度を算

出した. この実験では推進剤の速度は 0.8 m/s程度であった.

テフロンの電極ホルダおよび銅の電極は共にイオン液体による浸食を受けていた. ま

た, 電流を流すことにより推進剤および流路が高温になり, テフロンに融解がみられた

(Fig3.3). 予備実験によって, 推進剤のおおよその速度が求められ, また電極および電極

ホルダに使用する素材の選択に貢献した.

Fig3.2 流路の改良

Fig3.3 イオン液体による浸食

イオン液体

による浸食

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3.2 実験装置

3.2.1 推進剤の加速に用いる器具

(1)電極ホルダ

Fig3.4 に示すような電極ホルダを二つ作製した. 素材は SiC と BN の二種類を選択し

た. SiC と BNの物性を表 3に示す.

SiC, BN は共に耐熱衝撃性と電気抵抗率に優れており, 電極の保持に適した素材であ

る. また, 熱電導度が比較的高いため, 推進剤の過度の温度上昇を防ぐことができると

考えられる. 電極ホルダの大きさは 15×18×20 mm3程度とした. 電極ホルダ上部の二

つの穴は電極をネジで固定するためのものであり, 下部の溝は, 後述する磁石を挿入す

るためのものである.

表 3 SiC, BNの物性

BN SiC

最高使用温度(酸素雰囲気下) 950(℃) >1400(℃)

耐熱衝撃性 1500(ΔT) 450(ΔT)

熱電導度(at20℃) 63(W/m・K) 150(W/m・K)

電気抵抗率 (at20℃) 1016 (Ω・cm) >106(Ω・cm)

誘電率(1MHz) 4. 5 9. 6

10mm 10mm

Fig3.4 電極ホルダ(左:BN 右:SiC)

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(2)電極

電極ホルダに電極と導線を装着し, 電極間を推進剤流路とした(Fig3.5). 流路の長さと

深さは共に 3 mm とした. 推進剤を効率よく加速するために, 流路幅が出口にむけて細

くなるよう電極に勾配を持たせた. 流路入口の幅は 1 mm とし出口の幅が 0.8 mm, 0.5

mm, 0.2 mmとなるような 3種の電極と, 勾配のない電極 1種の計 4種の電極を使用した

(Fig3.6).

今回の実験では, 電極には高電圧を科すため電極の急激な温度上昇が予想された. その

ため, 電極の素材には電力許容量が大きく耐熱衝撃性に優れたカーボンを選択した.

Fig3.5 推進剤流路

Fig3.6 電極

(3)磁石

磁場を電極間流路に印加するため, ネオジム磁石を用いた. 磁石の大きさは 30×10×

10 mm3であり, 磁化方向は 10 mm 方向, 表面磁束密度は 472 mT であった. このネオジ

ム磁石五つと鉄板を用いて磁石を固定・保持し, 磁石二つの間に 10 mm の幅を持たせた

(Fig3.7). Fig3.7 の左側の三つの磁石の磁化方向は鉛直下向き, 右側の二つの磁石の磁化

方向は鉛直下向きとし, 磁石間に磁場を持たせた. 中央の円柱は非磁性体のアルミ製で

あり, 右側の二つの磁石が接触するのを防ぐための支えとして設置した.

推進剤滴下位置

推進剤噴出口

1 mm 0. 8 mm

0. 5 mm 0. 2 mm

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保持した磁石間に上述した電極ホルダを置き , 推進剤流路に磁場を印加させた

(Fig3.8). 流路に印加される磁場の強さを磁場計算ソフトAmazeで計算したところ, 計算

上は流路には 0.71 T 程度の磁場が印加されることがもとめられた. 推進剤加速方向を x

軸, 磁場の方向を y軸とした場合の, x 方向の磁場強度のグラフを Fig3.9 に, xy平面と xz

平面の磁場形状を Fig3.10 と Fig3.11 に示す. これらにより電極間の磁場がほぼ一様であ

ることがしめされた. また, 磁場の実測値は 0.65 T であった.

Fig3.7 矩形ネオジム磁石 Fig3.8 流路への磁場の印加

Fig3.9 x 方向の磁場強度分布(縦軸の単位はテスラ)

ネオジム磁石

電極ホルダ

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Fig3.10 xy平面の磁場形状

Fig3.11 xz平面の磁場形状

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3.2.2 回路中の機器類

(1)電源

本研究ではPAD250-4.5L(Fig3.12)を用いた. この電源で最大250 Vまで電圧をかけるこ

とができる. この電源を使用してカーボン電極間に電圧を印加した.

Fig3.12 PAD250-4.5L

(2)ディレイジェネレータ

ディレイジェネレータは, 遅延及びパルスを発生させることのできる機器である. 本

研究では Stanford research system社製の DG645を使用した(Fig3.13). DG645の仕様を表 4

に示す. この機器と後述する MOSFET とを組み合わせて, 電流を流す時間の調節を行う

スイッチとして使用した.

Fig3.13 ディレイジェネレータ

表 4 DG645 の仕様

出力 独立 4 ch パルス (最大 8 ch)

設定範囲 0~2000 Sec

最大発生レート 10 MHz

最小分解能 5 pSec

精度 1 nSec+(タイムベースエラー×ディレイ)

ジッタ性能 <25 pSec (RMS)

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(3)MOSFET 及びフォトカプラ

Fig3.14 に本研究で使用した MOSFET 及びフォトカプラを示す. MOSFET とは, トラ

ンジスタの一種である. 一般的な NPN型トランジスタと異なり, 電界によって電流を制

御する. 電極と電源の間に MOSFET とディレイジェネレータを接続し, ディレイジェネ

レータから電位差信号を送信することで電極間に流れる電流時間を調整した. MOSFET

は富士電機社製の 2sk3697-1 を用いた. MOSFET を駆動させるための MOSFSET Driver

には UCC27321P[9]を用いた.

フォトカプラとは, LEDと受光素子との組み合わせにより信号を伝達する回路である.

回路図を Fig3.15に示す. 光を媒体とすることで, 電圧の異なる回路同士でも正しく信号

を伝えることができるという利点がある. また, 遮光することで絶縁することも可能で

ある. 本研究ではノイズ削減の目的で使用した. 本研究で用いた器具全体の回路図を

Fig3.16 に示す.

Fig3.14 MOSFET 及びフォトカプラ

Fig3.15 フォトカプラの回路図

フォトカプラ

MOSFET MOSFET Driver

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Fig3.16 全体の回路図

3.2.3 計測器類

(1)CMOSカメラ

加速・噴出された推進剤の速度を測定するために, CMOS カメラを用いた(Fig3.17).

CMOS とは Complementary Metal-Oxide Semiconductor の略であり, 日本語では相補型金

属酸化膜半導体を意味する. 消費電力が少なく, 高速な動作を得ることができる. 本研

究では, THORLABS株式会社のCMOSカメラであるDCC1545Mを用いた. DCC1545Mの

仕様を表 5に示す.

Fig3.17 CMOSカメラ

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今回の実験ではカメラの設定は Pixel Clock を 48 MHz, フレームレートを 250 枚/s, 露光

時間を 0.2 mSec に設定した. カメラにはピントやしぼりなどを調節するためのレンズを

取り付けた.

表 5 DCC1545Mの仕様

Item # DCC1545M

Sensor Type CMOS

Exposure Mode Electronic Rolling Shutter

Read Out Mode Progressive Scan

Resolution 1280 x 1024 Pixels

Optical Sensor Class 1/2"

Pixel Clock Range* 5 - 40 MHz

Frame Rate, Freerun Mode** 25 fps

Trigger Input none

Mode Monochrome

Housing Threads CS-Mount (1.00"-32, 6.3 mm Deep)

Dimensions (H x W x D) (1.88" x 1.68" x 1" )

48.6 mm x 44 mm x 25.7 mm

Weight 0.07 lbs (32 g)

*Depends on the PC hardware used.

**Requires maximum pixel clock frequency.

Optical Sensor Class 1/2"

Exact Sensitive Area 6.66 mm x 5.32 mm

Exact Optical Sensor Dimension (Diagonal) 8.5 mm (1/1.9 ")

Pixel Size 5.2 µm, Square

Minimum Opt. Power Required e 2 nW / mm²

Sensor Name Micron MT9M001

Bit Depth 8 bits (10 bits ADC)

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(2)オシロスコープ

本研究で使用したオシロスコープを Fig3.18 に示す. 後述する電流プローブ及び高圧差

動プローブにより得られた値を記録する為に用いた.

Fig3.18 オシロスコープ

(3)電流プローブ及び高圧差動プローブ

電極間の電流値と電圧値を測定するため, 九州計測器株式会社様から電流プローブ

「TCP2020 型」と高圧差動プローブ「P5210A」を賃借させていただいた. TCP2020 型は

最大 100 A, P5210Aは±5600 Vまで計測を行うことができる.

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3. 3 実験方法

CMOSカメラで噴出した推進剤を撮影し, その映像を解析することで推進剤の速度を

測定した. 推進剤の噴出方向は水平方向とし, CMOSカメラを三脚で固定し流路の真上

から撮影を行った. 推進剤撮影前に, 噴出口の高さに合わせて水平に保った定規を撮影

し, 画像のピクセル数を実際の距離に変換できるようにした. その後カメラの位置を変

えずに推進剤の噴出の様子を撮影した. 撮影した動画を JPEG画像に変換し, 推進剤の x

方向, y方向の移動ピクセル数を記録し, 実際の距離に変換した. フレームレートが 250

枚/sであったため、画像一枚を 0.004 秒として推進剤の移動時間を算出した. 撮影した

動画を JPEG画像に変換したものを Fig3.19 に示す.フリーソフト「GraphCel」によって

画像に移った推進剤の位置の xピクセルと yピクセルを出力し, エクセルを用いて移動

距離と時間のグラフを作成した. このグラフの傾きを推進剤速度とした. 四種の電極そ

れぞれで電源の電圧を 150 V, 175 V, 200 Vに設定して電流を流し推進剤を射出させた.

また, 電流プローブにより推進剤に流れた電流を, 高圧差動プローブにより電極間の電

圧をオシロスコープに記録した. プローブにより得られた電流電圧のデータを数値積分

し, 投入電力を算出しエネルギー変換効率を求めた(式 3.1, 3.2). プローブデータのグラ

フの例を Fig3.20 に示す. 実験結果の妥当性を検証する為, 計測した推進剤の速度と, 流

路の全体積を満たした時の推進剤の質量から力積を算出し, 電流値を数値積分した値と

磁場強度及び電極間距離から算出した力積の理論値(式 2.17)と比較を行った.

𝜂 =

0.5 × 𝑚 × 𝑣2

𝐸

(3.1)

η=変換効率

m=推進剤質量

v=推進剤速度

E=投入エネルギー

B: 印加されている磁場強度

L: 電極間距離

𝐸 = ∫ 𝐽(𝑡)𝑉(𝑡)𝑑𝑡

(3.2)

J(t): 全電流の時間分布

V(t): 電圧の時間分布

𝑚𝑣 = ∫ 𝐽(𝑡)𝐵𝐿𝑑𝑡

(2.5)

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Fig3.19 動画の JPEG変換

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Fig3.20 プローブデータのグラフ

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第 4 章 実験結果及び考察

4.1 BN 電極ホルダ

電極形状, 電源電圧, 電極ホルダの素材を変更しながら EMI-BF4の射出実験を行った.

BN の電極ホルダでの, 実験条件ごとの推進剤噴出速度, 投入電力, エネルギー変換効率,

速度の理論値を表 8に示す.

速度の理論値は流路の体積すべてを推進剤が満たし, その全てが一度に噴出されたと

仮定した場合の値である. 実際には推進剤はいくつかの滴に分離して, 電極内に残って

いたイオン液体もあった. 理論値よりも速度が大きくなった場合があるのはこのためで

あると考えられる.

第二章の原理式(2.14)で示したαは, 電極 1-1mm で=0, 電極が 0.8-1 mm で=0.2,

0.5-1 mm で=0.5, 0.2-1 mm で=0.2 である. 速度の理論値と実際の速度を, αの値ごと

にまとめたグラフを Fig4.1~4.3 に示す.

V=150 V, α=0.2,0 では理論値と測定速度はかなりの一致をみせている. また, Fig4.2,

4.3 に見られるように, 電圧を上げると理論値はαに依らずほぼ一定の値となっている.

α=0よりもα=0.2の方が速度が大きいという結果は理論と定性的に一致している. しか

し, α=0.5 については速度をほとんど測定することができず, α=0.8 では速度が下がる

という結果になった. 速度理論値を計算する際に推進剤の質量を一定とし, 推進剤の分

離が考慮されていないため, 速度と理論値のばらつきが大きいという結果となった. 分

離された推進剤の体積を測定する方法を考案しなければならない. しかし, 速度理論値

と測定した速度の差が最も大きかったα=0,電極間電圧 175 V の場合でもその差は

0.811m/s であり, 理論値が 1.88m/s であったので, 値のオーダーは一致しており, 理論通

りの加速が確認されたと云える.

また, エネルギー変換効率は最高でも 0.0011%と非常に低かった. これは投入したエ

ネルギーのほとんどがジュール熱として放出された結果である. 推進剤にリチウムなど

の液体金属を用いることで, 推進効率を改善することができると考えられる.

Yu
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表 8 実験結果(BN)

電極 1-1mm 投入熱量(J) 速度の理論値(m/s) 噴出速度(m/s) 変換効率(%)

150V 0 1.84 0.803 1.41 0.00062

175V 0 3.48 1.88 1.07 0.00019

200V 0 3.40 1.42 1.46 0.00035

電極 0.8-1mm

150V 0.2 2.55 1.41 1.53 0.00056

175V 0.2 2.92 1.18 1.98 0.00078

200V 0.2 3.11 1.32 2.43 0.0011

電極 0.5-1mm

150V 0.5 1.61 0.713 0 0

175V 0.5 2.92 1.62 0 0

200V 0.5 2.98 1.32 0.742 0.00011

電 極

0.2-1mm

150V 0.8 2.81 1.94 1.36 0.00038

175V 0.8 2.54 1.26 0.783 0.00014

200V 0.8 2.82 1.16 0.956 0.00019

Fig4.1 BN, 150 Vでの速度と理論値の比較

0

0.5

1

1.5

2

2.5

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

速度

,m/s

電極形状係数α

速度の理論値

測定した速度

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Fig4.2 BN, 175 Vでの速度と理論値の比較

Fig4.3 BN, 200 Vでの速度と理論値の比較

電源電圧 150 Vでの電流電圧値及び電力の時間推移のグラフを Fig4.4~4.6に, 電流ピー

0

0.5

1

1.5

2

2.5

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

速度

, m

/s

電極形状係数α

速度の理論値

測定した速度

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

速度

, m

/s

電極形状係数α

V=200 V

速度の理論値

測定した速度

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ク値とαの関係を表したグラフを Fig4.7に示す.αの値が増加するのに伴って, 電流の立

ち上がりが鋭くなっていき, 電流がピークに達するまでの時間が 2 mSec, 2 mSec, 1 mSec,

0.5 mSec と早くなっていった. これは加速される推進剤がαの増加に伴い電極間から

排出される時間が短くなっていっていることに対応し, 理論的にαの増加に伴い推力は

大きくなり, 推進剤の重量は減少していくことと矛盾しない.

150 Vの実験結果ではαの増加とピーク値の間に相関性は見られず, 原理式通りの指数

関数的な増加はしていなかった. また, 200 Vの場合では相関性は見られたが, 増加の仕

方は線形であった(Fig4.8). 電流値の大きさには流路内の推進剤の量や分離のしかたに

違いがあり, また加速に伴う電極接触面積の減少もあるため, 理論通りの結果にならな

かったと考えられる.

推進剤がどのタイミングで射出されているのかを確認するため, プローブデータか

ら j=σE の式を用いて電気伝導率を算出した. 本研究の理論値は, 全て推進剤の電気伝

導率が一定であるとして計算を行った. しかし, 実際には Fig4.9 に示すようにイオン液

体「EMI-BF4」の電気伝導率は, 印加する電圧の強さによって変化する. 厳密な理論値の

計算を行うと計算が非常に煩雑になるため一定であると仮定したが, 理論値と実験結果

のばらつきが大きくなったため, 次回以降はより精度の高い理論値の算出を行うべきで

ある. 150 V, 0.8 mm の場合の電気伝導率のグラフを Fig4.10 に示す. 電流の増加に伴って

電圧の降下がみられ, 電流値はピークに達してから急激に降下した. この特徴は電極や

電極ホルダの種類に依らずあらわれた. これは電流の大部分を担っていた推進剤が射出

されたためと考えられる. よってこの後の電流は推力発生にほとんど寄与していないと

考えられる. 算出した電気伝導度は第一章に示したイオン液体のカタログに記載されて

いる物性値と同程度であり, 高電圧を印加したことに伴う電気伝導度の低下は見られな

いことが確認できた. 最も大きな推力がかかっている電流ピークの位置は電圧印加から

およそ 1mSecまでにあらわれるため, 電圧パルスの幅を今回の実験で設定した 5mSecか

ら 1mSec まで短くしても, 噴出速度に影響はないと考えられる.

0.2 mm 電極では電流のグラフに乱れが見られた. これは噴出口の幅が狭く推進剤が

詰まり, 流路に長く留まったためであると考えられる. これにより流路内の圧力が高ま

ったためか, 150 V, 0.2 mm の速度は同じ電極の実験の中では最も速度が高くなった. し

かし電圧を高めた場合には電流の乱れが起こらなかったため, 電流の乱れが起こった原

因についてはさらにデータを取得し検証する必要がある.

理論上は 0.2 mm 電極で高電圧をかけた場合が最も推力が得られると考えられたが,

実際に最も噴出速度の大きかったのは 0.8 mm の電極であった. 0.5 mm の電極では低電

圧では推進剤が噴出されず, また 0.2 mmの電極の場合も 1 mmの電極よりも速度が小さ

かった. 0.2 mm 電極では非常に大きな電流が計測されており, 理論的にも計測値的にも

Yu
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最も大きな速度が観測されているはずである. これには噴出口が細いために推進剤が塊

ではなく噴流として飛び, カメラでは観測がうまくできていなかった可能性がある. よ

り精度の高い速度の測定方法を考える必要がある.

Fig4.4 150 V, 1 mm 電極での結果

-2.00E+01

0.00E+00

2.00E+01

4.00E+01

6.00E+01

8.00E+01

1.00E+02

1.20E+02

1.40E+02

1.60E+02

-1

0

1

2

3

4

5

6

7

8

0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01 0.012

Volt

age,V

Cu

rren

t,A

Time,Sec

BN 1-1 150V 5mSec 2

電流

電圧

-200

0

200

400

600

800

1000

0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01 0.012

Pow

er,

W

Time,sec

BN 1-1 150V

電力

Yu
ハイライト表示
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34

Fig4.5 150 V, 0.8 mm 電極での結果

-2.00E+01

0.00E+00

2.00E+01

4.00E+01

6.00E+01

8.00E+01

1.00E+02

1.20E+02

1.40E+02

1.60E+02

-2

0

2

4

6

8

10

12

0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01 0.012

Volt

age,V

Cu

rren

t,A

Time,Sec

BN 0.8 mm 150 V

電流

電圧

-200

0

200

400

600

800

1000

1200

0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01 0.012

Pow

er,

W

Time,sec

BN 0.8mm 150 V

電力

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35

Fig4.6 150 V, 0.5 mm 電極での結果

-2.00E+01

0.00E+00

2.00E+01

4.00E+01

6.00E+01

8.00E+01

1.00E+02

1.20E+02

1.40E+02

1.60E+02

1.80E+02

-1

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01 0.012

Volt

age,V

Cu

rren

t,A

Time,Sec

BN 0.5 mm 150 V

電流

電圧

-200

0

200

400

600

800

1000

1200

0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01 0.012

Pow

er,

W

Time,sec

BN 0.5mm 150 V

電力

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36

Fig4.6 150 V, 0.2 mm 電極での結果

-2.00E+01

0.00E+00

2.00E+01

4.00E+01

6.00E+01

8.00E+01

1.00E+02

1.20E+02

-2

0

2

4

6

8

10

12

14

16

0 0.005 0.01 0.015

Volt

age,V

Cu

rren

t,A

Time,Sec

BN 0.2 mm 150 V

電流

電圧

-200

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01 0.012

Pow

er,

W

Time,sec

BN 0.2mm 150 V

電力

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37

Fig4.7 150 Vのαと電流ピークの関係

Fig4.8 200 Vのαと電流ピーク値の関係

0

2

4

6

8

10

12

14

16

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

Cu

rren

t P

ea

k,A

電極形状係数α

電流ピーク値 (150 V)

電流ピーク値

0

5

10

15

20

25

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

Cu

rren

t P

ea

k,A

Time,Sec

電流ピーク値(200V)

電流ピーク値

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38

Fig4.9 EMI-BF4の電位窓[10]

Fig4.10 電気伝導率の例

-20

0

20

40

60

80

100

120

140

160

0

20

40

60

80

100

120

140

160

0.00E+00 5.00E-03 1.00E-02 1.50E-02

Volt

age,V

Ele

ctri

cal C

on

du

ctiv

ity, m

S/c

m

BN 0.8 mm 150 V

電気伝導率

電圧

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39

4.2 SiC 電極ホルダ

BNの電極ホルダでの実験の後, SiC 電極でも実験を行った. BNの電極ホルダでの実

験では 0.2 mm の電極では大きな速度が得られなかったため, SiC 電極では 0.8 mm と 0.5

mm の電極でのみ実験を行った. SiC の電極ホルダでの実験結果を表 9に示す.

SiCでの実験では投入熱量が BNでの実験よりも大きくなったが, 噴出速度は小さく, .

エネルギー変換効率のオーダーは一桁小さくなった. 電流ピークの幅は SiC の方が二倍

ほど開いていた. また電圧を印加した瞬間の電流値は小さく, 電流の立ち上がりも緩や

かであった. BNと同様に, 0.8 mm電極, 150 Vでの電気伝導率のグラフを Fig4.11に, また

BN, SiC それぞれの電気伝導率と電圧を示したグラフを Fig.4.12 に示す. SiC は半導体で

あるため, 高電圧を印加したことや, 流路の温度の上昇によって, 電極ホルダに電流が

流れた可能性があったが, Fig4.11では Fig4.10と同様に, 電圧印加中に電気伝導率が急激

に降下しているため, その可能性は否定された. SiC と BNでは電気伝導率のグラフ波系

が異なり, ピーク値も BNが約 140 mS/cmであったのに対し, SiCは約 120 mS/cm程度に

とどまった. これは電極ホルダの違いによるものではなく, 印加電圧の大きさや推進剤

の電極接触面積の違いによるものと思われる. また, 150 V, 0.5 mm 電極での実験では電

流の乱れがみられた(Fig4.12). また, 予備実験で見られた電極や電極ホルダの浸食はみ

られなかった.

表 9 実験結果(SiC)

電極 0.8 mm α 投入熱量(J) 噴出速度(m/s) 速度の理論値

(m/s)

変換効率(%)

150V 0.2 3.74 0.629 1.88 0.000061

175V 0.2 3.80 0.425 1.58 0.000027

200V 0.2 3.95 0.579 1.37 0.000049

電極 0.5 mm

150V 0.5 3.37 0.848 1.76 0.00012

175V 0.5 2.93 0 1.12 0

200V 0.5 3.19 0.516 1.05 0.000048

Yu
ハイライト表示
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40

Fig4.11 電気伝導率

Fig4.12 SiC と BNの電気伝導率の比較

-40

-20

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

0

20

40

60

80

100

120

-2.00E-030.00E+00 2.00E-03 4.00E-03 6.00E-03 8.00E-03 1.00E-02

Volt

age,V

Ele

ctri

cal C

on

du

ctiv

ity,m

S/c

m

Time,Sec

SiC 0.8 mm 150 V

電気伝導率

電圧

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41

Fig4.13 SiC 0.5 mm 電極 150 Vでの電流の乱れ

-20

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

-2

0

2

4

6

8

10

12

-2.00E-03 0.00E+00 2.00E-03 4.00E-03 6.00E-03 8.00E-03 1.00E-02

Volt

age,V

Cu

rren

t,A

Time,sec

SiC 0.5 mm 150 V

電流

電圧

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第 5章 結論

イオン液体MPDスラスタの開発の足掛かりとして, EMI-BF4の加速度合, エネルギー

変換効率, 電気伝導率, 電極の損耗度合を測定した. 測定された EMI-BF4 の速度は最大

で2.429 m/sであり, その他も概ね 1.2 m/s以上の速度が測定され, 理論通りの加速が確認

された. エネルギー変換効率(%)は 10-4オーダーであり, イオン液体を推進剤に用いた場

合, 投入電力のほとんどがジュール熱となっていることがわかった.

変換効率向上には, 推進剤を液体金属などの電気伝導率の高い物質を推進剤として採

用する必要がある.

また, 本研究では電圧のパルス幅を 5mSec に設定して実験を行ったが, 電流プローブ

及び高圧差動プローブによって得られたデータから, 流路中の推進剤のほとんどが 2

msec 以内に射出されてしまっていることがわかった. このことから, 電圧パルスの幅を

1~2 msec に変更すべきであると云える.

流路が入口から出口に向けて細くなるように電極の設計を行ったが, 最も大きい速度

が出たのは流路入口が 1 mm, 出口が 0.8 mm のものであった. しかし, 流路出口が細い

場合は推進剤が塊で噴出されずに噴流となり, 滴が細かいためにカメラでは推進剤が捉

えられなかった為である可能性がある. より精度の高い速度の測定方法を考案するべき

である.

また, 電極間電圧は電流の増加と共に減少し, 電源の電圧を高めても電極間に高い電

圧を維持することはできなかった. 電圧の降下を防ぐために, 回路中のコンデンサの容

量を増やす必要がある.

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参考文献

[1] M. Martinez-Sanchez,“Spacecraft Electric Propulsion – An Overview“

Journal of Propulsion and Power, Vol.14 No.5, pp688-699, 1998

[2] 中田 大将, 岩川 輝, 國中 均

直交外部磁場型二次元アークジェット pp.1,3

[3] E. Stuhlinger, Ion Propulsion for Space Flight, McGraw-Hill, New York, 1964

[4] 栗木恭一, 荒川義弘

電気推進ロケット入門 pp.21,119 - 120 , 2003

[5] 宇宙航空研究開発機構 HP

http://www.ep.isas.jaxa.jp/eplab/%E7%A0%94%E7%A9%B6/MPD%E3%82%B9%E3%83

%A9%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC/

[6] Jahn, R. G., Physics of Electric Propulsion, McGraw-Hill, New York, Chap.8, 1962

[7] V. H. Blackman, et. al. “Experimental Performance of a Crossed-Field Accelerator”AIAA

Journal, Vol.1, No.9, pp.2047-2052, 1963

[8] M. Richard, et. al. ,“Investigation of the Phenomena in Crossed-Field Plasma Accelerators”,

AIAA Paper pp.63-378, 1963

[9] モスフェットドライバー仕様書

http://www.tij.co.jp/jp/lit/ds/symlink/ucc27321.pdf

[10]イオン液体の電位窓

https://www.jstage.jst.go.jp/article/fiber/61/3/61_3_P_75/_pdf

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謝辞

本研究において、あらゆることを御指導頂いた中島秀紀教授に深く感謝致します。

研究室生活において身近で御指導して頂いた山本直嗣准教授に深く感謝致します。快

適な研究環境を提供して下さった大神めぐみ事務補佐員と馬渡隆子事務補佐員に深く

感謝致します。

研究についての助言を頂いた諸先輩方, 中村祐輔氏, 秀平靖磨氏, 日永智之氏, 平野

賢治氏, 廣池匠哉氏, 笹川裕太郎氏, 富永宙志氏, 豊田裕司氏に深く感謝致します. 特に

平野賢治氏には実験で使用する器具の取り扱い方や, 工作室の加工用機器の使用法につ

いて丁寧に教えていただく等, 多くの助言や指導を頂き深く感謝しております.

最後にこれまで支えて下さった家族に深く感謝致します.