香港ストーンカッターズ橋の製作 ·...

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特集論文

Hitz技報 Vol.70 No.2 2010.3

あ ら ま し ストーンカッターズ橋は、香港の九龍半島と青衣島の間のランブラー海峡をまたぐ、中央径間1,018 m、総幅員53.3 mの世界最大級の複合斜張橋(鋼、コンクリートで構成)である。本橋は、2000年に開催されたデザインコンペティションにおいて、最優秀賞に選定された斜張橋である。主桁は、耐風安定性と景観の面から中央部で分離した2主箱桁と、18 mごとに配置された横梁(中央径間部)で構成されている。主桁の現場継手は、リブも含め全断面溶接、溶接施工の面からTMCP鋼材が用いられている。 主塔は、円形(基部は長円形)コンクリート断面、175 mから上には20 mm厚の二相系ステンレス材が巻かれた合成構造となっている。ケーブルは2面、28段に配置され、PWSタイプが用いられている。 工事は、2004年4月27日に始まり、2009年11月12日に完了した。製作に関しては、中国で行った鋼構造の施工を中心に述べる。

Abstract  Stonecutters Bridge, which crosses the Rambler Channel between Kowloon Peninsular and Tsing Yi Island in Hong Kong, is one of the largest cable-stayed bridges (which is made of steel, concrete) in the world having a center span of 1,018 meters with an overall width of 53.3 meters. The concept of this bridge was entered in the International Bridge Design Competition in 2000, and was selected as the winning concept of the competition. The main deck has two separate box sections with a curved soffit which is separated at the center and has cross beams spaced every 18 meters (in the main-span) in order to get higher aerodynamic stability and aesthetic impression. Site welding was applied to all site joints including ribs/stiffeners, and TMCP steel was used to maintain the quality of the site welding. The main tower is, in principle, a concrete structure having a circular shape (oval to circle). From 175 meters to the top, duplex stainless steel with a thickness of 20mm is used with the concrete to form the composite structure of the tower. As for the stay cable system, PWS-system was employed with 28 steps in two surfaces. The construction was started on 27 April 2004, and was completed on 12 November 2009.  Regarding the fabrication, this paper mainly describes the fabrication works of the steel structure which was carried out in Mainland China.

Stonecutters Bridge(Fabrication of Steel Structures in China)香港ストーンカッターズ橋の製作

福 本 和 弘 Kazuhiro Fukumoto

山 口 実 浩 Jitsuhiro Yamaguchi

細 川 賢 慈 Kenji Hosokawa

東 谷   修 Osamu Azumaya

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2

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大 垣 信 二 Shinji Ogaki

大 崎 洋一郎 Yoichiro Osaki

古 堅 光 夫 Mitsuo Furukata

梅 津 基 義 Motoyoshi Umezu

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2 Hitz日立造船㈱ 機械・インフラ本部 鉄構事業部 生産統括部

1 Hitz日立造船㈱ 機械・インフラ本部 鉄構事業部 技術統括部

4 Hitz日立造船㈱ 機械・インフラ本部 産業機械事業部 シールド営業部

Hitz日立造船㈱ 機械・インフラ本部 産業機械事業部 海洋・水門プロジェクト部3

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Hitz技報 Vol.70 No.2 2010.3

図1.1 架設位置図

表1.1 全体工程

      中央径間 1,018 m� � 側径間 289 m(69.25+70+70+79.75)� � 鋼桁部 1,118 m総幅員� :�53.3 m� � 2@(3車線+路側帯+フェアリング)+開口部主 桁� :�2箱桁側径間� :�PC構造(場所打ち。圧縮強度60MPa)中央径間�:�鋼箱桁� � 65セグメント(500~600 t/セグメント)主 塔� :�一本柱、塔高298 m(構造高 293 m)、基部断面�:�24×18 m(長円形)頂部断面�:�7 m(円形)175m以下�:�RC構造(圧縮強度60 MPa)175m以上�:�ステンレス・コンクリート合成構造ケーブル�:�ファン型(2面、28段)� � PWSタイプ、7,000トン� � (素線7 mm、引張強度1,770 MPa)基 礎� :�場所打ち杭(圧縮強度45 MPa)主 桁� :�33,500トン(8mm~200 mm)� � (BS EN 10113-3 S420 M/ML)塔ステンレス:1,600トン(5 mm~25 mm)� � (BS EN 10088-1 Grade 1.4462)塔アンカーボックス:800トン(6 mm~100 mm)�      材質は主桁と同じ付属関係�:�1,300トン(BS EN 10113-1 S355)

3.構造概要

 本橋は、設計コンペティションの最優秀作品を、COWI社がSub-consultantとして、Ove Arup & Partners HK Ltd.(以下、Arupと称す)が照査、詳細設計を行ったものである。(1)主桁概要;・景観上また耐風安定上から、中央部で分離させた2箱桁からなり、鋼桁部では18 m間隔、PC桁部では20m間隔で、横桁が配置されている。図3.1に鋼桁(塔周り)の透視図を示す。

・主桁は塔位置において、橋軸方向に油圧緩衝装置で、橋軸直角方向には水平支承で、それぞれ支持されている。鉛直方向の支持はない。側径間のPC桁は橋と剛結されている。

1.緒 言

 香港ストーンカッターズ橋は、増加する都心部・空港間の交通緩和と、新界東側地区から空港へのアクセス向上を図るため、また世界有数の葵涌コンテナターミナルのシンボルマークとして、ランブラー海峡を跨ぐ地域に建設中の中央径間1,018 m(橋長1,596 m)、総幅員53.3 mの世界最大級の複合斜張橋である(図1.1参照)。 本橋は、2000年に香港特別行政区路政署主催で行われた設計コンペティションの最優秀作品として応募27件の中から選出され、その後、構造見直し/詳細設計を経て、2003年8月に入札図書として発行された。入札は、その年の12月に行われ、2004年4月、当社を含む4社JV、すなわち前田建設工業㈱・日立造船㈱・㈱横河ブリッジ・新昌営造廠有限公司-JV(以下、JVと呼ぶ)が受注した。 工事は、同年4月27日に着工し、現在各種設備の据付/試運転、舗装、塗装等外装工事の最終段階にあり、竣工は2009年末頃の予定である(実工程は表1.1参照)。

2.工事概要

 以下に工事および橋梁の概要を示す。(図2.1参照)工事名� :�Contract No. HY/2002/26� � Stonecutters Bridge発注者� :�香港特別行政区路政署Engineer�:�Ove Arup & Partners HK Ltd.橋梁形式�:�複合斜張橋(道路橋)橋 長� :�1,596 m� � ��

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図3.1 鋼桁透視図(側径間)

図3.2 塔上部透視図

図2.1 一般図および断面図

(3)ケーブル概要;・PWSタイプ(新日鉄)とマルチストランドタイプ

(VSL、Fressinet)を比較検討の結果、品質および耐久性へのリスクが少ないと考えられたPWSタイプを採用した。

・素線φ7 mm、引張強度1,770 MPa、ソケットはHiAmタイプである。PE被覆は黒色、白色の2層被覆であり、被覆表面にはレインバイブレーション対策としてディンプルが施されている。

・最大断面は、PWS499(図3.3)で、最長は540 m、最大重量77 tである。

・各ケーブルには制振対策として、桁側に油圧ダンパー、主塔側に高減衰弾性シール材を用いている(図3.4)。また、その他の制振対策として、ケーブル間を結ぶクロス-タイケーブルの設置にも配慮している。

・鋼桁の現場継手は、U-リブ、T-リブを含め、全断面溶接であり、溶接性を考慮してS420M/ML(BS EN 10113-3、TMCP仕様)が適用されている

(2)主塔概要;・主塔はコンクリート材を中心とした1本柱で、基部

は24 m×18 mの長円形、桁位置で円形となり、塔頂部では直径7 mの円形である。

・高さ175 mまでRC構造(コンクリート強度60 MPa)、175 mから上(ケーブルアンカー部)は、剛性、景観および防錆の面から20 mmの二相系ステンレスをコンクリートで巻きたてた合成構造(図3.2参照)としている。

・175 mより下のRC部分には、海洋の厳しい腐食環境に配慮して、最外側にステンレス鉄筋(二相系)を用いている。

・主塔頂部には、景観照明設備とともに、塔外面およびケーブル維持管理のための設備(Tower Top Maintenance Unit)が、ガラス張りの建屋内に据えられている。

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図3.3 最大ケーブル断面

図3.4 ケーブル制振ダンパー

/穴あけ等の施工情報を盛り込んだWDD(Workshop Development Drawings。施工用基本図)を作成、これをさらに、目的別の図面に展開した。すなわち鋼桁で は 、 パ ネ ル 製 作 用 と し て W F D ( W o r k s h o p Fabrication Drawings。パネル寸法図。)、組立用にはWAD(Workshop Assembly Drawings)、現地溶接用にはWED(Workshop Erection Drawings)を作成し、膨大な施工情報の分散化を図った。また、溶接のトレーサビリティーへの要求から、溶接部位、溶接要領および検査要領が特定できるNDT図(Non-Destructive Tests図)を施工ヤードごと(パネル製作、パネル組立および現場溶接)に作成した。 なお、塔関係(ステンレススキンとアンカーボックス)は、パネルや現地溶接がないことから、WDDとNDTのみとした。

5.製 作

 5.1 製作概要   製作は、中国本土の製作ヤードを中心に行った。パネル製作は、CRSBG社(China Railway Shanhaiguan Bridge Group Co.,Ltd. 河北省 秦皇島市 山海関)、パネル組立/塗装/付帯設備搭載は、CRSBG社/CMIIC社(CMIIC社はCRSBG社の下請け。広東省 東莞市)、塔ステンレススキン/アンカーボックスの製作は、GDSF社(Guangdong Shanfeng Chemical Machinery Co., Ltd.広東省 中山市)である。塗料については、維持管理の面から、鋼桁、アンカーボックス、付属物(一部)とも、同一メーカーを採用した(Hempel社)。 鋼材は、約38,000トン(ロス含む)の三分の二を日本ミルから、残り三分の一をヨーロッパミルから調達した。塔のステンレス材約1,800トンはスウェーデンのメーカーから調達している。 以下に、課題であった事項の概要を述べる。 5.2 使用鋼材   主桁および塔アンカーボックスの鋼材は、BS EN 10113-3 S420MもしくはS420 ML材で、基準降伏応力度420 N/mm2(16 mm以下)のTMCP鋼、強度的にはJIS規格のSM490YとSM570の中間の鋼材である。また、シャルピー衝撃吸収エネルギーは-20 ℃で40 Jが要求されており、靭性に富む材料である。 横梁部ダイヤフラムなど十字継手となる主要部材には+Z25S相当の耐ラメラテア仕様材が、トラフリブには冷間曲げ用に延性に富む材料が、それぞれ用いられている。なお、冷間曲げの際の最小曲げ半径rは、圧延方向にr=4t(t;板厚)、圧延直角方向にr=5tが用いられている。 主塔のスキンプレートに使用された材料は、BS EN 10088-2規格の1.4462で、オーステナイト相とフェライト相の混合組織からなる二相系ステンレス鋼である。耐応力腐食割れ性が高く、耐海水性に優れ、汎用的なオーステナイト系ステンレスに比べ高強度な鋼材である。

(4)付帯設備 本橋梁の代表的な設備には、以下のものがある。・橋梁健全度モニタリングシステム・鋼桁内除湿設備(桁内防食用。桁内部はプライマー

のみ)・自走式桁内検査車・検査車(PC桁用および鋼桁用)・塔内エレベーター・塔外面点検設備(塔頂部に設置)・ケーブル検査車・LEDライトアップ設備、等

4.設計責任と図面

(1)設計責任 完成系橋梁本体の設計責任は発注者側(Arup)にあるが、架設系構造の安全照査はJV側の責任にて行う(JV側コンサルタント〔Maunsell社〕が実施。)。仮設材(仮設備、足場、吊ピース等)の設計はJV側にて行い、ICE(Independent Checking Engineer)のチェックを受ける。 また、付帯設備(橋梁健全度モニタリングシステム、桁内除湿システム、塔内エレベーター等)の設計についてもJV側の責任である(JV発注の専門業者が設計、照査をICEが行う。)。(2)施工用図面 鋼構造(鋼桁、塔およびアンカーボックス)については、発注者側で作成した契約図(WD:Working Drawings)に施工都合による変更、E&M用部材溶接

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図5.1 Uリブ溶接の要求品質

表5.1 主要鋼材の機械的性質

表5.2 工場溶接部の非破壊検査方法と検査抜取率

図5.2 パネル溶接架台

 5.3 溶接の品質管理   すべての溶接線には、BS EN 288-2,3に準拠し、第三者検査機関に承認された溶接施工要領書(WPS)の作成が求められた。そのため、実施工開始までに膨大な数の溶接施工試験の実施が必要であった。 工場溶接部の非破壊検査は、全溶接線に対して100 %外観検査、開先溶接(部分溶込み溶接含む)に対して20 %超音波探傷検査(うち5 %を放射線透過検査で再検査、超音波探傷検査の信頼性を確認した)、隅肉溶接に対して5%磁粉探傷検査(もしくは、浸透探傷検査)を実施した。さらに、溶接部の機械的性質を確認するため、応力直角方向の突合せ継手は、5継手に1継手、その他の突合せ継手は、10継手に1継手の割合で、溶接エンドタブから機械試験片を採取し、引張試験、曲げ試験、衝撃試験を実施した。

 二相系ステンレス鋼は、2相組織であるため、溶接熱サイクルのような高温加熱下では組織変化が単相系に比べて複雑で、フェライト相は高Cr、Mo組織となるためσ脆化あるいは475脆化を生じやすい。これを防止するために、溶接入熱量を0.5~1.5 kJ/mmに、溶接パス間温度を150 ℃以下に管理した。溶接方法は、TIG溶接(シールドガス:99.99 %Ar)とFCW溶接(シールドガス:80 %Ar+20 %CO2)を採用し、溶接部の非破壊検査は、遅れ割れ発生を考慮して溶接完了後48時間以降に行った。 5.4 パネル製作   鋼床版パネル製作では、Uリブ溶接に厳しい品質が要求された。主な要求品質を図5.1に示す。 デッキとUリブの肌隙を0.5 mm以下とするために、Uリブは外形切断後に機械切削した。

 また、板厚80 %の溶込みを確保するために、Uリブには開先を設けた。開先は、ルートフェイスが小さすぎると溶着金属が裏に抜け、大きすぎると溶込み不足を生じる。このため開先加工はまず機械切削で荒削りし、その後、グラインダー掛けして、ルートフェイスが0.5 mm~1.0 mmとなるようにした。なお、溶込み量の確認には、超音波探傷検査(UT)を適用した。UT検査は、その施工に先立ってマクロ試験との対比を行い、精度の確認を行った。 中国内での鋼床版Uリブ溶接は、一般的に図5.2の様な回転架台を用い、CO2半自動溶接で行われている。この架台上で下向溶接を行うこととで凹形(Concave)の溶接ビードを得るよう試みた。また、架台はパネル幅方向に逆歪を与えられるようになっており、溶接後の歪矯正の作業量低減を図っている。

 なお、仮付け溶接も本溶接の品質や外観に影響を与えることから、仮付け溶接のビードをグラインダー仕上げするなど、注意を払った。 山海関では、冬季に-15 ℃を下回ることもあったが、工場内は温水ヒーターが備えられており、溶接時の施工環境は何とか維持できた。 5.5 組立 5.5.1 準備工   パネル組立は、香港から約80 kmの東莞市沙田で行ったが、組立に先立ち多くの大型設備を導入した。すなわち、可動式の対雨シェルターとガントリークレーンを備えた2本の組立ライン、換気・除湿設備を有する2棟の塗装設備、セグメント浜出し用の岸壁と台船停留河床およびセグメント横持ち用の320トン移動台車2台等である。組立完成後のセグメント重量は500~600トンとなるため、それぞれの設備および仮置きヤードには基礎補強を行った。 5.5.2 セグメント組立   製作されたパネルからは、主桁65セグメントを組み立てる。南北に設置した2ラインの組立架台上で、1ラウンドあたり6~8セグメントを組み立てた。図5.3にセグメント組立状況を示す。最後尾のセグメントは次ラウンドで基準セグメントとして先頭に据え、重複組立を行っている(図5.4参照)。 組立架台は、組立ラウンドごとに、セグメント支持点が組立キャンバー値となるよう高さ調整されている

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表5.4 工場塗装仕様

表5.3 主要検査項目と許容差

図5.3 セグメント組立状況

図5.4 セグメント組立・仮組立の概要

(組立キャンバーは、ラウンド毎に縦断勾配を落とした状態へと座標回転して求めている(図5.4参照)。 組立架台上にセットされるパネルは、定盤に設けられた基準線とパネルに設けられた基準線を合わせることで、橋軸方向、橋軸直角方向、および高さ方向に3次元座標で管理される。各セグメントには橋軸方向に25 mmの余長を設け、仮組立の測定後、余長を切除することとなっている。 1ラウンドの組立を終えると、3セグメントごとに出来形計測を行った(仮組立検査)。組立・溶接・歪矯正が完了した3セグメントを1単位として、アンカーパイプを含む主要箇所の3次元座標を夜間計測して出来形を確認した。主要検査項目とその許容差を表5.3に示す。 計測後、セグメントの継手を仕上げ切断し、セグメント長さを調整した。 仮組立が完了した3セグメントのうち側径間側2セグメントは組立架台から解放され、最後尾の1セグメントに続く2セグメント(中央径間側)を加えた3セグメントで次の仮組立が行われた(図5.4参照)。 閉合セグメントは、架設誤差や現場溶接収縮誤差など吸収のため、200 mmの余長を設け、閉合長さを確認後、架設現場にて仕上げ切断した。

 5.6 塗装   主桁及び主塔アンカーボックスに適用された工場塗装の仕様を、表5.4に示す。

 主桁、アンカーボックスの工場とも中国広東省内に位置した。これらの地域は亜熱帯地域に属し、5月から9月にかけて雨が多く湿度が高いことから、除湿設備を設け、相対湿度が85 %以下となるよう管理した。また、塗装はブラスト完了後4時間以内に施工を開始する必要があることから、ブラスト後に舞う粉じんの塗装への影響を考え、除塵設備を増強するなどした。 なお、塗装については、JV(塗装業者のサイン付き)が、発注者に対し保証書を提出することが契約書で義務付けられている。 5.7 主塔ステンレススキンの製作   主塔の鋼構造としては、ステンレススキン(以下、SSと記す。)1,600トンと、アンカーボックス(以下ABと記す。)800トンの製作を、広東省中山市の工場で行った。 ここでは、SSの製作の課題点の概要を記す。 5.7.1 水平フランジ間の隙間管理   主塔上部は、主塔1基当り32セグメントのS.S.(図5.5)と25セグメントのA.Bから構成される。各セグメント間には水平フランジが設けられ、現場で高力ボルト接合さ

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図5.8 3セグメント仮組立状況

図5.5 ステンレススキン構造図

図5.6 フランジ製作状況

図5.7 拘束プレート取付け状況

れる。「その隙間は、全周に渡って1.0 mm以下。且つ、任意の周長1000 mmのうち600 mm以上の範囲で0.25 mm以下。」であることが要求された。 この要求品質実現のため、一対の上下フランジを抱き合わせて固定し、ボルト孔を同時に明けて形状を統一した(図5.6)。また、スキンプレートとフランジの溶接時は、溶接歪による隙間の発生を抑制するため、拘束プレートをフランジ側面に取り付けた(図5.7)。溶接の開先形状が両面開先から片面開先へと移行する付近では、溶接収縮量の違いからスプライスフランジ間の隙間が発生しやすいため、以下の対策を講じた。対策① 高拘束度プレートの使用

開先形状移行点の前後500 mmの範囲に、より高い拘束力が得られるよう、拘束プレートを配置した。

対策② 溶接縮み代と溶接順序の設定溶接収縮量の少ない片面開先部分に予め1.5 mmの縮み代を設け、両面溶接部を先行溶接する。その後、片面開先部の組立溶接を外し、両面溶接によって生じた溶接縮みを吸収させた。 5.7.2 主塔の高さ及び倒れの管理   主塔の仮組立検査は、図5.8のようにS.S.とA.Bをそれぞれ3セグメントずつ組立て、高さ、中心位置、ケーブル定着点等の確認を行う。確認後、最上部のセグメントを最下部へ移動させ、次の3セグメントの仮組立を行う。

この時、前最上部のセグメント状態を最下部で正確に再現することにより連続した位置関係を計測することができる。これを各塔につき16回繰り返し32セグメントの累積した高さ、中心位置、ケーブル定着点の位置を確認し、必要な調整を実施した。また、仮組立検査は、温度差による影響を軽減するため、全て屋内にて実施した。

 主塔の高さ及び倒れの調整は、各回の仮組立検査累積データを基に最終形状を推定し、許容値の1/2を超えるような最終計上が推測された場合、調整セグメントのスキンプレート上端部の高さ、もしくは角度を必要量加工することによって調整を行った(図5.9)。 5.7.3 ショットピーニング   S.S.の表面は、太陽光による反射が車両や航空機への影響を及ぼさぬよう、無反射表面処理を施した。研磨材(アルミナとガラスビーズの混合材)をS.S.表面に高速で吹きつけることにより表面に凹凸を形成し、乱反射しやすい表面パターンを形成するピーニング処理が施された。ピーニング前の素地調整として、S.S.外面の溶接ビードをすべてグラインダー仕上げした後、母材部と同程度まで研磨処理(1 K)した。さらに、S.S表面への高圧洗浄後、ピーニングを行った。ピーニング前およびピーニング後のステンレススキンを、それぞれ図5.10および図5.11に示す。

6.結   言

 本プロジェクトは、2004年4月27日の着工から5年半

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図5.10 ピーニング前のステンレススキン

【文責者連絡先】 Hitz日立造船㈱ 機械・インフラ本部 鉄構事業部 技術統括部 福本和弘  Tel : 06-6569-0260  Fax : 06-6569-0257  e-mail : [email protected]

細 川 賢 慈 東 谷   修 大 垣 信 二 大 崎 洋一郎 古 堅 光 夫 梅 津 基 義

福 本 和 弘 山 口 実 浩

図5.9 予想中心線と調整方法の決定要領(西塔第11回仮組立検査終了後)

図5.11 ピーニング後のステンレススキン表面

 幸いにも、優秀な現地スタッフ(香港人、西洋人、中国人)にも恵まれ、彼らと一体となって課題解決に取り組むことができた。 また社内の関係部門からも、有益なコメントや人的な支援などをいただいたが、これらは困難な局面の展開を図る上で大いに有益であった。その他にも、社内外の多くの方々ご支援をいただいた。 ここに、これまでいただいたご支援、助力に対し、心から感謝いたします。 本プロジェクトは国内の橋梁工事とは、当然運営要領は異なるが、品質管理の考え方や、求償フォローの要領などには参考になる点もあるように思われる。 本プロジェクトで経験を積まれた方々が、身につけられた知見を後進の方々に伝承いただくよう、期待いたします。

参考文献(1)K. Falbe-Hansen, T. Vejrum & M. Carter Steve:

Stonecutters Bridge - Design of Stonecutters Bridge, International Conference on Bridge Engineering, 2004, 088/1-19

を越える長期工事となった。この間、工事の運営は必ずしもスムーズではなく、種々の課題に遭遇した。製作関係での問題は、世界的な鋼材調達難、Uリブ溶接を始めとする溶接品質への対応、入手した鋼材の品質問題、中国製作ヤードでの品質管理システム導入、中国企業との契約問題、セグメント間のマッチング、等々であった。