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田 有 上智大学大学院 グローバル・スタディーズ研究科 リサーチ・アシスタント 1 日本海洋政策学会 4回年次大会@明治大学 和泉キャンパス

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原 田 有

上智大学大学院 グローバル・スタディーズ研究科

リサーチ・アシスタント

1

日本海洋政策学会 第4回年次大会@明治大学 和泉キャンパス

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◆本発表の狙い

国連海洋法条約(UNCLOS)を中心とした法秩序の下での海洋権益を巡る対立メカニズムをマクロな視点から示す。

◆法秩序と関連付けた対立メカニズムの説明

①抑制要因 「海洋の特性」が実力行使に制約を課すため。 ※法を利用して権益を獲得する合理性の存在。

②エスカレーション要因 法の利用に既成事実の形成が求められるため。

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1960年代 1970年代 1980年代 1990年代 2000年代ジュネーブ4条約発効 国連海洋法会議開催 UNCLOS採択(1982年) UNCLOS発効(1994年) 大陸棚延伸申請〆(2009年)

1960年代 1970年代

資源埋蔵の可能性(1969年)

中国、尖閣諸島領有の公式声明(1971年)

中国、資源開発の活発化日本、海洋基本法制定

(2007年)日本、大陸棚延伸手続き

(2008年)

中国、大陸棚延伸手続き(2009年)

中国漁船、海保巡視船に衝突(2010年)

日本、尖閣諸島国有化(2012年)

2000年代

1950年代~1960年代 1970年代 1980年代 1990年代 2000年代

南シナ海での軋轢の高まり資源埋蔵の可能性

(1969年)

中越対立@パラセル(1974年)

中越対立@スプラトリー(1988年)

資源開発の活発化ミスチーフ環礁問題

(1995年)

南シナ海行動宣言(2002年)

各国の大陸棚延伸手続き(2009年)

中比対立@スカボロー礁(2012年)

◆第2次世界大戦後の法秩序の変遷

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◆南シナ海を巡る対立

◆東シナ海を巡る対立

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•領土の性質上、同等の主権行使が認められる

(12海里)。 領海

•海中・海底資源の調査、開発、人工物の設置、洋

上発電といった経済的活動が可能(200海里)。

排他的経済水域

(EEZ)

•領海の外側の海底で大陸棚辺縁部外縁までの斜

面、あるいは外縁が200海里を超えない場合は

200海里までの海底とその下で資源開発が可能。 大陸棚

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出所)海上保安庁ホームページページ http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KAIYO/tairiku/tairiku.test.html

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◆強制的紛争解決メカニズム

利害調整が難しい場合、以下を利用した問題解決を義務付け。

・国際海洋法裁判所(ITLOS)

・国際司法裁判所(ICJ)

・UNCLOSが定める仲裁裁判所か特別仲裁裁判所

※一方の係争国による要請のみで司法手続きを開始可。

※下された決定を受け入れる義務もある(=強制的)。

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◆未完成な法秩序:法を利用して権益を拡大する誘因が存在。

◆主な2つの争点

①EEZと大陸棚の境界画定

・境界を画定させるルールが存在しない。 ・両者の境界線が一致しない可能性もある。

②EEZにおける軍事的活動(演習や調査など)の是非

・国連憲章に違反しない活動であれば認められると解釈可能。 ・UNCLOSの規定上で明文化されていない。一部の国は軍事

的活動の事前許可を要求。

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◆強制的紛争解決メカニズムの限界

・EEZや大陸棚の境界線に関わる問題は強制的解決 の対象外にできる(298条)。

・その場合でも、いずれかの係争国の要請によって強制調停に付すことも規定上はできるが、大陸または島の領土に関する紛争が伴っている時には不可(298条)。

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◆近年、東アジア海域(南シナ海、東シナ海)を事例に対立メカニズムの研究が活発。

①対立のエスカレーション要因

資源の渇望、ナショナリズムの高揚、パワーバランス流動化

※尊重が謳われる法秩序と対立とを関連付ける視点の欠如。

②対立の抑制要因

資源開発の優先と領域問題の棚上げ、経済的関係の深化

※そもそもなぜこれら政策が選択されるのか?経済的関係は紛争を回避させる強い根拠にはなるのか?

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◆対立の抑制要因

・ なぜ、対立は抑制されるのか?

◆海洋権益の獲得に求められる実力

①軍事的能力

海域監視能力、接近阻止・領域拒否能力

②資源開発能力

漁業、エネルギー、海底鉱物資源の開発能力

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◆「海洋の特性」が実力行使に課す制約

①広大さ、資源開発の困難さ

■必要になる各種能力を増大・高度化。コストも上昇。

・物理的支配の代替として、法的支配を求めるインセンティブ。

・資源開発には情勢の安定化が欠かせない。

⇒技術革新による能力向上で制約の緩和可能。

②海上交通路の安定的利用を確保する必要性

■単独では不可能。他国の政策への影響の懸念。

⇒能力向上でも制約の緩和が難しい。

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◆対立のエスカレーション要因

・尊重が謳われている法秩序の下で対立がエスカレートするのはなぜか?

◆海洋権益の獲得に必要な「既成事実の形成」の2要素

①「権益の設定」:島嶼の領有、資源開発、漁業

②「権益の保護」:管轄権行使

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①権益の設定

■島嶼の領有:最も強力な法的根拠になる既成事実 ・「物理的な拠点」+「EEZや大陸棚の法的基点(121条2項)」 ・2つの要件 ①「水面上に常に存在する自然の陸地(121条1項)」+「生活可能(121

条3項)」 ②実効支配(島嶼領有の権原になり易い「先占」の要件)

■資源開発、漁業 ・島嶼が存在しない場合、対立相手国に領有されている場合に有効。

②権益の保護

■沿岸警備隊といった法執行機関を用いた警戒・監視

・他国の軍艦や政府船舶といった公船に対して、旗国以外の国は退去命令を出すことはできても取り締まることはできない(2部3節C)。

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◆「既成事実」が定まっていない場合、法秩序の尊重が謳われる下でも対立はエスカレートする。

◆法秩序の下での権益の獲得には法執行機関が重要な役割を果たす。

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【和書(50音順)】

◆島田征夫・林司宣編著(2005)『海洋法テキストブック』有信堂。

◆杉原高嶺・水上千之・臼杵知史・吉井淳・加藤信行・高田映共著(2003)『現代国際法講義 第3版』有斐閣。

◆独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)『海の資源・エネルギー 海洋資源のしおり』(JOGMECホームページ)〈http://www.jogmec.go.jp/news/publish/docs/kaiyou_info.pdf#search='海の資源・エネルギー%20海洋資源のしおり'〉[2012年9月25日アクセス])。

◆林司宣(2007)「排他的経済水域の他国による利用と沿岸国の安全保障」『国際安全保障』(第35巻、第1号)、57-80頁。

◆水上千之著(2005)『海洋法 展開と現在』有信堂。

◆村瀬信也・江藤淳一編著(2008)『海洋境界画定の国際法』東信堂。

【洋書(ABC順)】

◆Brilmayer, Lea and Natalie Klein(2001) “Land and Sea: Two Sovereignty Regimes in Search of Common Denominator,” New York University Journal of International Law and Politics(33) pp.703-768.

◆Emmers, Ralf(2010) Geopolitics and Maritime Territorial Dispute in East Asia, London, Routledge.

◆Klein, Natalie(2011) Maritime Security and the Law of the Sea, New York, Oxford University Press.

◆Koo, Min Gyo(2009) Island Disputes and Maritime Regime Building in East Asia: Between a Rock and a Hard Place, New York, Springer.

◆Kraska, James(2011) Maritime Power and the Law of the Sea: Expeditionary Operation in World Politics, New York, Oxford University Press.

◆Till, Geoffrey(2009) Seapower: A Guide for the Twenty-First Century, Second Edition, London, Routledge.

◆Yusin Lee and Sangjoon Kim(2008) “Dividing Seabed Hydrocarbon Resources in East Asia: A Comparative Analysis of the East China Sea and the Caspian Sea,” Asian Survey (48:5) pp.794-815.

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ご静聴ありがとうございました。

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