伝熱解析と熱流体解析の違い - ソフトエンジニアリン...

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Mechanical CAE NEWS Vol.20 http://www.cybernet.co.jp/mcae/ 1 伝熱解析と熱流体解析の違い 解析講座 はじめに 素子の小型化により熱問題がより重要になってきていま す。今後更なる小型化にともない、ますます重要な項目と なることが予測されます。ANSYS Workbench環境では 構造解析と同様に伝熱解析についても使いやすいGUIによ り解析が可能ではありますが、伝熱解析は固体内部の熱流 れを見る熱伝導が主とした機能であり、流体の流れ場を解 くことは出来ませんので、固体-流体の境界における熱伝 達については実測等により求められた既知の熱伝達係数を 利用する必要があります。つまり流体挙動による影響が大 きい現象において熱伝達係数が不明な場合には精度よく解 析することが出来ません。 一例を挙げますと、発熱素子を含む筐体では、熱逃げ経 路としては熱伝導だけではなく熱伝達の影響度合いも大き いため、精度良く解析するには熱伝達による熱移動を正確 に解析する必要があります。このため、伝熱による解析で はなく周囲の流体挙動も解くことが可能な熱流体解析が必 要となります。 ただし、熱流体解析では伝熱解析と比較して必要な物性 値、モデル化の方法と範囲、境界条件の設定方法、そして 解析コストと多くの条件が異なります。 本稿では、伝熱と熱流体の違い、熱流体解析の必要性、 そして熱流体解析を実施するにあたり考慮すべき内容につ いてご紹介致します。 伝熱解析で出来る事、出来ないこと 熱流体解析の必要性について説明する前に、まずは ANSYS Workbench環境での伝熱解析で出来る事・出来 ないことを伝導・伝達の各熱経路毎に説明いたします。 2.1. 熱伝導 固体内部の熱伝導に関しては、伝熱解析で問題なく解く ことが可能です。熱伝達と比較して熱伝導による寄与度が 十分に大きい場合であれば伝熱解析で精度良く解くことが 可能です。 2.2. 熱伝達 周囲の流体温度および熱伝達係数が既知という条件のも と使用することが可能となります。周囲流体の対流を解い ているわけではありませんので、基本的には実験式や実測 ベースとなります。 これらの情報がない場合には使用することが出来ませ ん。単純平板等であれば既存の実験式から推定することも 可能でありますが、実際の製品形状ではこのような単純平 板に置き換えられることは稀です。そのような複雑形状の 場合には事前の実測試験が必要となります。当然形状変更 があった場合には再測定が必要となってしまいます。また、 実測を行なった場合、平均的な熱伝達率や流体温度は分か りますが、局所的な値を予測することは困難であり精度低 下の一因となります。 また、実際の流れ場ではある部品から流体の対流を介し て別の部品へ熱が伝わることも考えられますが、伝熱解析 ではこの状態を解析することは出来ません。このような流 体を介して他部品へ熱が伝わる状況としては、発熱体のあ る筺体を例に挙げますと『発熱体⇒筺体内の空気の対流⇒ 筺体⇒周辺領域』と行った経路での放熱が考えられますが、 これらを精度よく解析するためには熱流体解析が必要とな ります。 伝熱解析と熱流体解析の比較 前章では伝熱解析と熱流体解析では違いがあることを 解説しました。実際に2つの解析を比較すると、どの程度 の差が生じるのかその具体例を図1に示します。ANSYS Workbench Mechanical(伝熱解析)とANSYS CFX(熱 Mechanical CAE NEWS Vol.20 http://www.cybernet.co.jp/mcae/ 2 解析講座 流体解析)による大気中に垂直に配置された複数の加熱平 板の熱伝達係数および温度比較を実施しています。伝熱解 析での平板表面熱伝達係数は(1)の推算式より算出された 6.06[W/ (m・℃) ]を使用しています。 ( ) )] /( [ 06 . 6 ) 1 ( 2 K m W h Ra C k hL Nu n = = = <CASE1:単純形状> 図1に示すように単純形状であれば、熱伝達係数の分布 はあるが各平板毎の差は小さく、平均的な熱伝達係数は伝 熱解析で使用した値と同等(2.7%程度の差)と精度は良い 事が確認できます。 <CASE2:複雑形状> 図2に示すように加熱平板の下部に追加の平板を配置す る。若干の形状変更を加えただけで熱伝達係数、温度とも に大きく変化します。下部の平板により対流が変化し、平 板毎の熱伝達係数および温度分布が変化します。 熱流体解析の必要性 CASE1により推算式が利用可能な理想的な条件であれ ば、平均的な熱伝達係数や温度については伝熱解析にて精 度よく予測することが可能であることが確認できます。 しかし、実際の設計形状では単純形状ということはほとん どありません。CASE2のように平板を下部に配置しただ けの小さな変更においても、熱伝達係数や温度が大きく変 化することからも、基本的に推算式による熱伝達係数の予 測は困難であり、熱流体解析が必要となります。また、推 算式が成立するような場合でも実際には温度分布があるた め、局所的な結果を確認する場合にも熱流体解析が必要で あることが確認できます。 熱流体解析実施において考慮すべき内容 ここまでの説明で伝熱と熱流体解析の違い、熱流体解 析の必要性について説明いたしました。次に熱流体解析を 実施するにあたり考慮すべき内容についてご紹介いたしま す。項目としては下記に挙げる[材料物性]、 [解析モデル化]、 [境界条件]、[解析コスト]の4項目となります。それぞれ の項目に対し、伝熱解析と比較してどのような違いがある かという観点からご説明いたします。 5.1. 材料物性について まずは必要となる材料物性値について説明します。 <伝熱解析> 定常:熱伝導率λ[W/(mK) ] 非定常:熱伝導率λ[W/(mK) ]、比熱c[J/(kgK) ]、密度 ρ[kg/m 3 ] <熱流体解析> 定常・非定常共に:伝熱解析の材料特性に加えて、粘性 係数μ[Pa・s] 、体膨張係数β[1/K](自然対流解析時に必 要)の2つが必要となります。粘性係数μについては動粘 性係数ν=μ/ρ[m 2 /s 2 ]でも構いません。両者は等価に変 図1 単純形状における熱流体解析 6.23[W/(m 2 K)] 0.1[m] 50 25 図2 複雑形状における熱流体解析

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Page 1: 伝熱解析と熱流体解析の違い - ソフトエンジニアリン …softengineering-n.com/file/ANSYS Mechanical CAE NEWS Vol...なることが予測されます。ANSYS Workbench環境では

Mechanical CAE NEWS Vol.20 http://www.cybernet.co.jp/mcae/1

伝熱解析と熱流体解析の違い

解析講座

� はじめに素子の小型化により熱問題がより重要になってきていま

す。今後更なる小型化にともない、ますます重要な項目と

なることが予測されます。ANSYS Workbench環境では

構造解析と同様に伝熱解析についても使いやすいGUIによ

り解析が可能ではありますが、伝熱解析は固体内部の熱流

れを見る熱伝導が主とした機能であり、流体の流れ場を解

くことは出来ませんので、固体-流体の境界における熱伝

達については実測等により求められた既知の熱伝達係数を

利用する必要があります。つまり流体挙動による影響が大

きい現象において熱伝達係数が不明な場合には精度よく解

析することが出来ません。

一例を挙げますと、発熱素子を含む筐体では、熱逃げ経

路としては熱伝導だけではなく熱伝達の影響度合いも大き

いため、精度良く解析するには熱伝達による熱移動を正確

に解析する必要があります。このため、伝熱による解析で

はなく周囲の流体挙動も解くことが可能な熱流体解析が必

要となります。

ただし、熱流体解析では伝熱解析と比較して必要な物性

値、モデル化の方法と範囲、境界条件の設定方法、そして

解析コストと多くの条件が異なります。

本稿では、伝熱と熱流体の違い、熱流体解析の必要性、

そして熱流体解析を実施するにあたり考慮すべき内容につ

いてご紹介致します。

� 伝熱解析で出来る事、出来ないこと熱流体解析の必要性について説明する前に、まずは

ANSYS Workbench環境での伝熱解析で出来る事・出来

ないことを伝導・伝達の各熱経路毎に説明いたします。

2.1. 熱伝導

固体内部の熱伝導に関しては、伝熱解析で問題なく解く

ことが可能です。熱伝達と比較して熱伝導による寄与度が

十分に大きい場合であれば伝熱解析で精度良く解くことが

可能です。

2.2. 熱伝達

周囲の流体温度および熱伝達係数が既知という条件のも

と使用することが可能となります。周囲流体の対流を解い

ているわけではありませんので、基本的には実験式や実測

ベースとなります。

これらの情報がない場合には使用することが出来ませ

ん。単純平板等であれば既存の実験式から推定することも

可能でありますが、実際の製品形状ではこのような単純平

板に置き換えられることは稀です。そのような複雑形状の

場合には事前の実測試験が必要となります。当然形状変更

があった場合には再測定が必要となってしまいます。また、

実測を行なった場合、平均的な熱伝達率や流体温度は分か

りますが、局所的な値を予測することは困難であり精度低

下の一因となります。

また、実際の流れ場ではある部品から流体の対流を介し

て別の部品へ熱が伝わることも考えられますが、伝熱解析

ではこの状態を解析することは出来ません。このような流

体を介して他部品へ熱が伝わる状況としては、発熱体のあ

る筺体を例に挙げますと『発熱体⇒筺体内の空気の対流⇒

筺体⇒周辺領域』と行った経路での放熱が考えられますが、

これらを精度よく解析するためには熱流体解析が必要とな

ります。

� 伝熱解析と熱流体解析の比較前章では伝熱解析と熱流体解析では違いがあることを

解説しました。実際に2つの解析を比較すると、どの程度

の差が生じるのかその具体例を図1に示します。ANSYS

Workbench Mechanical(伝熱解析)とANSYS CFX(熱

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解析講座

流体解析)による大気中に垂直に配置された複数の加熱平

板の熱伝達係数および温度比較を実施しています。伝熱解

析での平板表面熱伝達係数は(1)の推算式より算出された

6.06[W/(m・℃)]を使用しています。

( )

)]/([06.6

)1(

2KmWh

RaCkhLNu n

=

==

<CASE1:単純形状>

図1に示すように単純形状であれば、熱伝達係数の分布

はあるが各平板毎の差は小さく、平均的な熱伝達係数は伝

熱解析で使用した値と同等(2.7%程度の差)と精度は良い

事が確認できます。

<CASE2:複雑形状>

図2に示すように加熱平板の下部に追加の平板を配置す

る。若干の形状変更を加えただけで熱伝達係数、温度とも

に大きく変化します。下部の平板により対流が変化し、平

板毎の熱伝達係数および温度分布が変化します。

� 熱流体解析の必要性CASE1により推算式が利用可能な理想的な条件であれ

ば、平均的な熱伝達係数や温度については伝熱解析にて精

度よく予測することが可能であることが確認できます。

しかし、実際の設計形状では単純形状ということはほとん

どありません。CASE2のように平板を下部に配置しただ

けの小さな変更においても、熱伝達係数や温度が大きく変

化することからも、基本的に推算式による熱伝達係数の予

測は困難であり、熱流体解析が必要となります。また、推

算式が成立するような場合でも実際には温度分布があるた

め、局所的な結果を確認する場合にも熱流体解析が必要で

あることが確認できます。

� 熱流体解析実施において考慮すべき内容ここまでの説明で伝熱と熱流体解析の違い、熱流体解

析の必要性について説明いたしました。次に熱流体解析を

実施するにあたり考慮すべき内容についてご紹介いたしま

す。項目としては下記に挙げる[材料物性]、[解析モデル化]、

[境界条件]、[解析コスト]の4項目となります。それぞれ

の項目に対し、伝熱解析と比較してどのような違いがある

かという観点からご説明いたします。

5.1. 材料物性について

まずは必要となる材料物性値について説明します。

<伝熱解析>

定常:熱伝導率λ[W/(mK)]

非定常:熱伝導率λ[W/(mK)]、比熱c[J/(kgK)]、密度

ρ[kg/m3]

<熱流体解析>

定常・非定常共に:伝熱解析の材料特性に加えて、粘性

係数μ[Pa・s]、体膨張係数β[1/K](自然対流解析時に必

要)の2つが必要となります。粘性係数μについては動粘

性係数ν=μ/ρ[m2/s2]でも構いません。両者は等価に変図1 単純形状における熱流体解析

6.23[W/(m2K)]

0.1[m] 50

25

図2 複雑形状における熱流体解析

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換することが可能です。

粘性係数μは流体を特徴づける性質である、粘性の大き

さを表す定数であり、粘性とは流体領域を変形させる際に

変形速度に応じた力が必要とされる性質を表すものです。

具体例として大気中と水中で手を動かす場合を挙げます

と、空気と比較して粘性係数が大きい水では、実際に水中

では非常に動かし難いことからも確認できます。この動か

し難さが粘性の大きさを表し、粘性が大きいということは

流体を変形させ難いということも表します。この関係を示

したものが図3となります。間が流体で満たされた平板を

考え、この平板を移動させる力、つまり間の流体を変形さ

せるのに必要な力Fを考えると平板速度が小さい場合には

多くの流体においてU(平板速度)/H(間隔)に比例し、この

ときの比例定数を粘性係数μと定義しています。この力は

せん断方向の力であるため、せん断応力τで表現すると(2)

式となります。

)2(,HUA

HUF μτμ ==

一般的な流れ場では物体表面付近の速度分布は曲線とな

り、図4および(3)式に示すようにせん断応力τは速度勾

配に比例した式で表されます。これをニュートンの粘性法

則と呼びます。

表すため浮力が発生し、浮力差により対流が生じます。こ

のように密度変化を体膨張係数を利用した温度変化により

近似する方法をブジネスク近似と言い、(4)式で表されます。

( ) ( )( ) ( ) ( )

(4)1eTT

p

see

T

TTgTgTT

=|⎠⎞|

⎝⎛∂∂

−=

−=−

ρρ

β

βρρρ

なお、より高精度に計算するために、体積膨張係数を利

用した方法ではなく、流体の圧縮性を考慮した方法が利用

されることもあります。

5.2. 解析モデル化について

解析モデルの違いについて、解析領域、メッシュ分割、

乱流モデルの3つに分けて説明いたします。

5.2.1. 解析領域

<伝熱解析>

固体領域のみモデル化します。固体‐流体間の境界部分

には、実測や理論式等から算出された既知の熱伝達係数を

使用した熱伝達条件を定義します。

<熱流体解析>

伝熱解析同様に固体領域をモデル化+周囲の流体領域に

ついてもモデル化を行います。モデル化に含める流体領域

の範囲は解析結果への影響が十分小さくなるような大きさ

にする必要があります。具体的には温度・流れ場の変化度図3 低流速での流速と粘性の関係

図4 一般的な流速と粘性の関係

)3(dyduμτ =

次に体膨張係数βは熱流体解析時に必須の物性値ではな

く、自然対流解析に必要となる物性値です。体膨張係数は

温度差による密度変化を表現するための係数であり、自然

対流時に発生する浮力の計算に必要な値です。

流体の圧縮性を無視した自然対流状態では、温度差によ

り流体が膨張・収縮します。この体積の変化は密度変化を

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合が十分小さくなるように計算領域を広めにとります。

5.2.2. メッシュ分割

双方のモデル化領域である固体部分に関しては同等の

メッシュ分割で構いません。熱流体解析のメッシュ分割に

おいて注意すべき領域は固体‐流体間の境界部分となりま

す。通常、固体の壁面近傍における流体領域では図5のよ

うな速度境界層、温度境界層と呼ばれる勾配をもった領域

が存在します。

熱流体解析ではこの勾配を表現する精度確保のため、固

体壁面近傍の流体領域に図6のようにレイヤーメッシュと

呼ばれる層状のメッシュが必要となります。

5.2.3. 乱流モデル

乱流モデルは流体解析において、特に重要となるモデル

化手法です。乱流モデルの説明の前に関連するいくつかの

項目について説明いたします。流れ場には層流と乱流の2

つの状態が存在します。層流とは整然として規則性のある

流れの状態であり(図7左)、乱流は流れが乱れており流速

が絶えず変動する非定常性のある流れです。

また乱流では大小様々な大きさの渦が空間・時間的にラ

ンダムに現れては消えていく状態でもあります(図7右)。

層流から乱流へは段階的に変化していくものであり、明

確な境目はありませんが、目安としてはレイノルズ数の値

により分けることが可能です。レイノルズ数は密度ρ、流

速u、代表長さL、粘性係数により定義される慣性力と粘

性力の比を表す無次元数です。一般的にレイノルズ数が0

~数千程度であれば層流で1万以上あれば乱流と見なすこ

とが可能です。

(5)ReμρUL

=

(5)式より、流速が速い、または粘性係数が小さいほど

レイノルズ数が大きくなり乱流に状態になりやすい事が分

かります。実際の流れ場では一部の自然対流を除き、解析

対象のほとんどが乱流状態であるため、乱流の影響を考慮

することは解析上非常に重要と言えます。

ただし、乱流状態の流れ場を精度よく解析するにあたり、

前述の通り大小様々な渦が発生と消失をランダムに繰り返

すという現象が問題となります。このような渦を全て再現

するためには膨大なメッシュ数が必要であり、一部の基礎

研究を除き、開発現場においては実現不可能と言えます。

この代案として乱流モデルが存在します。

乱流モデルでは、渦を含む流れ場を精度よく解析する

のではなく、平均化処理を施すことで、設計上必要となる

熱の伝達や流路全体の大まかな流れや、それに伴う圧力損

失などを求めるためのモデル化手法です。乱流モデルには

大きく分けてLES(Large Eddy Simulation) とRANS

図5 速度・温度境界層

図6 固体壁面近傍のレイヤーメッシュ 図7 層流と乱流

速度境界層 温度境界層

Van Dyke An Album of Fluid Motion The Paraboric Press

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(Reynolds-Averaged Navier-Stokes)の2つがありま

す。LESは解析のRANSに比べ精度は高くなりますが実

用計算には大規模な計算環境が必要ということもあり、製

品開発における流体解析ではRANSが多く使用されます。

RANSは時間・空間的に平均化処理を施すことで平均的な

流れ場を解くことが可能であり、LESと比較して低コスト

であることが挙げられます。

なお乱流モデルのさらに細かい説明に関しては、下記

ページにも記述がありますのでご参照下さい。

構造解析技術者のための流体解析入門(2)

~レイノルズ数と乱流~

http://www.cybernet.co.jp/ansys/case/lesson/004.html

5.3. 境界条件について

次に伝熱と熱流体解析における境界条件の違いと、熱流

体用の境界条件使用における注意点を説明致します。

<伝熱解析>

伝熱解析での条件は固体領域に対する、[熱荷重]、[温度

固定]、[熱伝達]の3つとなります。

<熱流体解析>

熱流体解析では上記に加えて、流体領域に対する各種境

界条件が必要です。

例えば流体が流れ込んできる面領域には流入境界条件を

設定します。流入境界条件は、流速や温度を定義すること

になりますが、必要に応じて、速度分布を定義して、より

高精度な解析を行う場合もあります。

また流出部には流出境界条件を定義します。例えば、大

気開放を行っている事を想定するのであれば、ゲージ圧(大

気圧との差圧)を0Paに設定します。

なお境界条件は流れの特性に応じて、より広めにとるこ

とが推奨されます。例えば、流れを遮る障害物後方に出力

境界条件を定義する際は、障害物後方に逆流が生じる事が

あるため、障害物直後に圧力境界条件を設定することは推

奨されません。正確に障害物後方の逆流を評価するために

は、逆流が解消される程度の後方領域に圧力境界条件を定

義する必要があります。

5.4. 解析コストについて

伝熱解析と比較して、熱流体解析では解析コストが高く

なるという特徴があります。解くべき方程式の観点から申

しますと、伝熱解析ではエネルギ方程式を解きますが、熱

流体解析ではエネルギ方程式に加えて、流れ場を解くため

に少なくとも連続の式(質量保存の式)、運動方程式(ナビ

エストークス方程式)の2つ、合計3つの方程式を解く必要

があります。この3つは最小の数であり、解析によっては

更に追加の式が必要となります(例えば、乱流モデル/化学

種モデル/混相流モデルとモデル化手法を追加するごとに

解くべき方程式の数が増えます)。このように熱流体解析

では解くべき式の増加、解析領域の拡大に伴うメッシュの

増加等から、解析コストが高くなることが予想されるため、

ジオメトリの簡略化によるメッシュ数の削減や、メッシュ

品質の向上、並びに並列計算の活用などによる解析コスト

の低減が重要になります。

-エネルギ式

{ } qqTvtTCp =⋅∇+|⎦

⎤|⎣⎡ ∇⋅+

∂∂ρ &&& (6)

-連続の式(質量保存則)

( ) 0vt

=⋅∇+∂∂ ρρ (7)

-運動方程式(ナビエストークス方程式)

(8)Spvvtv

+⋅∇+−∇=|⎦⎤

|⎣⎡ ∇⋅+∂∂ τρ

{ }qqtTv

Cp

&&&

ρ

Sτpv

� おわりに本稿では伝熱解析と熱流体解析の計算手法における違い

や、そのメリット/デメリットをご紹介させて頂きました。

お客様の期待する解析目的や精度に応じて、適切な解析手

法を選択するための基準として頂ければ幸いです。

メカニカルCAE事業部 営業部E-mail: [email protected]://www.cybernet.co.jp/ansys/

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