ファッションは更新できるのか?会議 vol.1...
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〈「ファッションは更新できるのか?会議」とは〉NPO法人ドリフターズ・インターナショナルの金森香、Arts and Lawの永井幸輔・岩倉悠子、有限会社オープンクローズの幸田康利が企画・制作し、批評誌『fashionista』の責任編集を勤める水野大二郎氏をモデレーターに、2012年9月から約半年、全7回にわたり、「ファッションは更新できるのか?」について議論するセミクローズド会議です。〈会議の概要〉消費者のソーシャル化、知的財産権への意識の高まり、といった社会状況の変化は、現在のファッション産業に避け難い変容をもたらすと同時に、新しい創造性を獲得する契機をもたらしています。この会議では、他分野における現状とファッション界の状況を対比し、社会の「設計」や「構造」=アーキテクチャと向きあって試行錯誤を行っている実践者(デザイナー/メゾン関係者)、販売店、批評家、メディア関係者、ウェブデザイナー、研究者、法律家などを招き、ファッションの更新の可能性について議論します。日時:2012.9.17 13:30-15:00 場所:DESIGNEAST03(名村造船所跡地/クリエイティブセンター大阪)ゲスト登壇者:田中浩也(FabLab Japan)、成実弘至(京都造形芸術大学准教授)、水野祐(NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン 事務局/弁護士)、武内昭(THEATRE PRODUCTS デザイナー)登壇者:水野大二郎(慶應義塾大学環境情報学部専任講師/『fashionista』編集委員/FabLab Japanメンバー)、永井幸輔(Arts and Law/弁護士)、金森香(NPO法人ドリフターズ・インターナショナル)常任委員:幸田康利(有限会社オープンクローズ)、岩倉悠子(Arts and Law)、山本さくら(NPO 法人ドリフターズ・インターナショナル)、小原和也(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)、小林嶺(早稲田大学繊維研究会)TRANSCRIPT
DIY(Do It Yourself)的なものづくりとファッションデザイン
ファッションデザインの領域まで広がりつつある、DIY(Do It Yourself)的な
ものづくりの現状を整理するところから今回の会議は始まった。
水野大──ファッションデザインの領域で、パーソナル・ファブリケーション(=個人的なものづくり)、またはデジタル・ファブリケーション(=デジタル機器を通したものづくり)の可能性にどういうものがあるのか、まず僕が簡単に紹介したいと思います。 最初に紹介したいのが、ロンドンのコベントガーデンというブティック街にある「COPYRIGHT-FREE IMAGES」という本屋です。ここは、版権が切れた日本の着物・アラビア布・ヨーロッパのArts and Craftsなどのテキスタイル柄を自由に使ってもらうために、そういう柄のフリー素材集本ばかりを集めて販売している、変わった本屋です。こんな風に柄のデータが誰でも利用できる形で広く公開されると、そのデザインソースを用いて、例えばファッションブランドのANREALAGEも使っているセーレンの〈ビスコテックス〉というプリントサービスを利用すれば、誰でも自分の好きな柄をプリントしたテキスタイルを生み出せるわけです。ちなみに日本では、データさえあればどんな柄でもテキスタイル上に印刷できる技術が、すでに工業用の規模で存在しています。また、職業用では、ミマキエンジニアリングの昇華転写ファブリックプリンタは200万円くらいで買えるので、頑張れば中小企業でも購入できる。昇華転写印刷は生地に直接印刷するのではなく、紙に一度印刷して、それを生地に熱転写することが出来ます。最近では、家庭
用の昇華転写プリンタも出てきています。 こうして見ていくと、工業用のものづくりの方法論がそのまま小規模の、あるいは個人のものづくりと接続しつつあり、デザインソースもこれからさらに多くの人に開かれていくと思います。つまり、もはやデザイナーだけがデザインを考えていけばよいわけではないのです。一般市民の手で作ることの可能性が大きくなってきていることを、僕自身は強く感じています。ファッションデザインの中ではどうしても〈消費者〉というタームが頻出しますが、〈消費者〉から〈生産消費者〉への移行が本当に可能なのか。そして、それが可能なのだとすればどういうときなのか。人生における特別なイベントのときなのか、それとも何か問題解決したり、だれかを助けるようなときなのか。そういったところから、ファッションを取り巻くものづくりの環境が、デジタル・ファブリケーション、あるいはパーソナル・ファブリケーションの最近の盛り上がりの中でどのように変化していけるのか、考えていけたらいいなと思っています。
“THEATRE, yours”の取り組みについて
ものづくりの現状を整理したあと、今回の DESIGNEAST03 で THEATRE
PRODUCTSが行った“THEATRE, yours”の取り組みについての話題に。
また、近い例としてニコニ・コモンズの事例をもとに、ものづくりへの参加
を促す仕組みについて議論された。
金森── “THEATRE , yours”は、既製服との橋渡しをしながら、〈yours〉と
いう言葉で示されるように、THEATRE PRODUCTSのデザインが同一のデザインに限定されないものづくりを実験していきたいと思って始めました。今回はワークショップの形式をとっていますが、必ずしもその形式には拘っていません。今回は“THEATRE, yours” 00 workshopというネーミングがついています。00には、まずはスターティングポイントという思いがあります。今回のために型紙を13種類ほど、全て新作で製作して販売しています。イベントの会場ではワークショップへの参加も受け付けていて、参加者は生地もあわせて購入し、奥のミシンでその場で縫って持って帰れるという仕組みになっています。“THEATRE, yours”は、あなたのものであり、わたしたちのものである、作るという行為や、商品の周りに産まれるコミュニケーションがもっと多様であってほしい、という考えのもとスタートした実験です。
水野大──今回提案されている“THEATRE, yours”には、体験、参加、学習といったようなユーザーの能動的な関わりがデザインの価値として含まれているのではないかと思います。ユーザーが自由に布を選び、型紙を改変することから、新しいデザインを生み出す事もできる。しかも、ユーザー同士で助け合うことも今日の情報環境下では可能ですよね。さらに今回、型紙にクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)が付いています。まずはこのライセンスが意味するものについて詳しく説明して頂けますか。
水野祐──CCライセンスは、作品の作者、例えばTHEATRE PRODUCTSが、この条件を守れば私の作品を自由に使っていいですよ、と意思表示するためのツールです。どういう条件かというと、今回の“THEATRE, yours”では「表示」と「非営利」の2つです。つまり、THEATRE PRODUCTSという名前を表示して、且つ、非営利目的であれば、型紙を使って作品を作ったり、改変したり、インターネットにアップしたりしてもいい、という利用条件になります。
田中──最近は、ウェブ上でユニークなユーザーコミュニティを作れるようになりました。例えば、ニコニコ動画では「ニコニ・コモンズ」というライセンスを媒介にしたコミュニティがあります。ニコニコ動画がニコニ・コモンズのようなライセンスを提案するのは、これから一緒に映像投稿の文化を創っていきたいというメッセージでもある。つまり、二次創作を奨励し、他人の作ったもの同士がどう相関しあっていけるか、その過程を皆で見守っていこうというような意思表明がされているのだと思います。ライセンスを自分たちで創るということは、どんなユーザーコミュニティを作っていきたいかに関係しているのだと。僕が考えているファブコモンズというライセンスは、僕の作品を使いたければどこかを改変してください、というライセンスです。
水野大──逆に参加を強制するという。
田中──あなたも改変をしなければ駄目です、というライセンスなんです。それはむしろ、こういうコミュニティを創りたいからどんどん作品を改変していこう、という提案でもある。単にライセンスを創るだけではなくて、どんな人々とどんなカルチャーを作っていくか、という所に全てはかかっていると思っています。
水野大──一人でやろう(DIY, Do It Yourself)という個人レベルの姿勢から、ウェブの登場によって不特定多数と何かをやろう(DIWO, Do It With Others)という社会レベルの姿勢へ、そしてだれか/何かのために顔の見える多数でやろう(DIFO, Do It For Others)というコミュニティレベルの姿
勢がもたらす新しい可能性を、私たちは第1回目の会議のタイトルに掲げています。 それをふまえて先ほどのファブコモンズの例から考えると、「特定の誰かのために」というDo It For Othersの「For」の部分は、ユーザーの能動的なものづくりの参加を要求する仕組みになっていると解釈できる。顔の見える多くの人たちと特定の目的を持って、ものづくりを通してカルチャーを作っていく姿勢は、“THEATRE, yours”の〈yours〉に込めた想いとも非常に近いものを感じます。
ファッションにとってのDIFO(Do It For Others)
続いて、ものづくりへの参加を促す仕組みづくりとしての DIFO をファッ
ションデザインにおいてどのように捉えることができるのか議論された。料
理とファッションデザインの比較から、レシピ=型紙や材料=テキスタイル
のシェア、レトルト=ものづくりへの参加の敷居が低い半プロダクト、ワー
クショップによるものづくりの体験の共有など、ファッションデザインに
とってのDIFOの多様な可能性が議論された。
田中──ファッションの人たちにとっての根本問題って一体なんでしょうか。ファッションが引き受けている宿命みたいなものがあるなら、やはりそこに刺さらないとその人たちに届かない。
水野大──それはおそらく、「ファッションは更新できるのか?会議」の「ファッション」ってなんですか、みたいな話だと思います。ファッションって多分、自分を作るってことだと思うんですよね。ファッションは、名詞では「流行」とか「慣習」とかいう意味がありますが、動詞にすると「形作る」という意味もあります。その形作るって部分を引き出して考えてみると、自分を自分らしく形作るということなんじゃないかと。そういった行為には、例えば自分の趣味に合わせるとか、流行に合わせるとか、様々な内的・外的要因があるでしょう。でも今、この「形作る」ための方法がすごく少ないのではないでしょうか。その点はデザイナーも同じです。新しい自分を作りたいなと思ってもなかなかできない。色々な問題がある。それは産業の問題でもある。 成実──ファッション業界の話で言えば、これまでがあまりにもフリーだったってことでしょうね。どうしてオートクチュール組合ができたかというと、おそらく当時アメリカで、オートクチュールで作ったものがものすごい勢いでコピーされて大変安く売られてしまったという事態に起因している。今でもそうだと思いますが、ちょっと話題になったデザインができるとそれをパッととってパクるというのは、ファッション業界の慣行みたいになっていますよね。 水野大──僕は、共感を中心に作るコミュニティを維持していくためには、ある程度パクりはあってもいいのではないかと思っています。作り手とパクり側が理解しあって、例えばTHEATRE PRODUCTSの服を作って楽しもうよ、という状況はあってもいいと思うんですね。究極のところ、支援/エンパワメントの話が重要だと思っています。問題は、ファッションは楽しいものでしかないんだから考えるのはめんどくさいという状況が少なからずある、ということではないかと。なので、まずはものづくりの一端を知る/学ぶというところから始めてもらえたらいいと思っています。今回で言えば、THEATRE PRODUCTSのところで実際にミシンを踏めちゃうぞと、その後にたまには自分の家でも踏んでみようかな、というようになればいいなとい
うことです。
金森──THEATRE PRODUCTSのデザイナー武内が(イベントのワークショップ会場から)降りてきたので、開催中のワークショップについて少し聞いてみたいと思います。
武内──僕からは“THEATRE, yours”の考え方をお話ししたいと思います。 「ファッション」っていうとわかりにくいですけれど、 食べ物に置き換えてみるとすごくわかりやすい。料理はもともと家で作るものでしたが、今の時代は外食が整備されて、外で食べることが当たり前になっています。そこで、自分で作って食べる楽しみを感じられるようになるために、レシピ集や材料を売ってみようと考えました。服を作ろうとするとき、料理で例えれば、作り方も、包丁の使い方や火の入れ方もわからないとしても、レシピ(型紙)や材料(テキスタイル)が買えるようになれば、すごく簡単になって、自分で作る楽しみが広がります。型紙をシェアして、ちょっとアレンジしたりしながら、料理で言うところの餃子パーティーをするように、スカートパーティーができるようになるかもしれない。さらに、材料とレシピだけで作ることが難しい人には、〈足して炒めるだけ〉みたいな半レトルトのようなものもあると、そこから入ってもっと色んなことが試せるようになる。すると、その後でレストランに行ったときに、自分では作れないものにびっくりしたり。それでも時々はファストフードの美味しさも味わいつつ、という感じでファストファッションの価値観も理解していく。こんな風にファッションがどんどん楽しいものになっていくといいな、という夢のある世界を考えています。それを実現するための制度や仕組みがあると、閉鎖的なファッションが広がっていくこともできるんじゃないかと。今の技術を使って、新しいフードカッターを使えばプロしかできなかった桂剥きもできるようになりますよ、といったようにその技術を使ったレシピ集をデザイナーが出していけば、バリエーションも増えて楽しみも増えていく。“THEATRE, yours”はそういうことを考えてその第一歩の実験をやっていると思ってもらえればと思います。
水野大──ちょうど今回でいえば、レシピができてそれを共有してみました、というところですね。これからカット野菜とか混ぜるだけのソースのような可能性に展開して、そこから作ることの楽しさや実際に使ってみることの楽しさや難しさを知ることで、すでにあるファッションデザインの価値に改めて気づいていくことが可能なのかもしれないですね。
永井──今回はワークショップがセットになっているのも特徴かなと思っています。料理サイトでいうとクックパッドに載っているのはデジタルなデータだけじゃないですか。でも今回のワークショップは、作ったもののシェアだけでなくて、作るという過程を共有することで楽しむという方向も考えていらっしゃるのかなと思います。
CCライセンスによる作品のシェアと保護
質疑応答では、CC ライセンスの下で自由利用を認めた作品に関し、CCライ
センスの利用条件の違反からどのように作品を守ることができるかについ
て、自己責任による法的な対応の必要性と、ユーザーコミュニティの発展に
よる新しい手段の可能性について議論された。
会場からの質問──CCライセンスについて、ライセンス契約というと、企業対企業の契約というイメージがあるのですが、今回のお話はどう違うので
すか?
水野祐──ファッション業界における、いわゆるライセンス契約とは随分違います。インターネットやオープンソースの議論における「ライセンス」は、コンテンツを提供する側とユーザーとの間の利用規約のような利用条件の契約と考えた方がいいと思います。
田中──便乗して質問ですが、CCライセンスに違反して使っている人をみつけた場合にはどうしたらいいですか?
水野祐──クリエイターの方が、違反して使っている人を直接訴えるという形になります。訴える費用は自己負担です。でもそれは、CCライセンスを使っても使わなくても同じことなんです。CCライセンスへの批判として指摘されることもありますが、みなさんがインターネットのサイトを利用するときと同じです。何か問題が起きても誰も助けてくれない。利用規約に同意したのであれば、その利用規約の条件もふまえて、自分の意見を主張して争わなければならない。つまり、すべて自分の責任と費用でやるということです。
田中──そこに一工夫できないですか? 違反がみつかったらみんなで応援してくれるとか。CCライセンスを使っている人たちは、そのライセンスが正しく使われていることに貢献するべきであるという立場から、ユーザー同士が、あれはギリギリだとか指摘しあえないかなと思って。
永井──それに近い例として、アイドル文化があると思います。似たような音楽がつくられるとファンが糾弾してくれるので、何もしなくても守れるという。
田中──なるほど。ではCCライセンスを使う人が、正しく使われていくように声を上げればいいということでしょうか。利用規約の条件と使い方が間違っているよ、と誰かが言ったら、間違ってる!間違ってる!とみんなが言っていけば……。
永井──それはユーザーが参加してくれれば可能かもしれないですね。
水野大──議論は尽きませんが……。今回は、DIFO(Do It For Others)の可能性やデジタル・ファブリケーションをどう実装するかということから考えて、ものづくりが自分達の手に返ってくるという未来をみんなで考える回だったと思います。答えをだすことではなく、みんなで考えを共有することがこの会議の目的だと思っています。ファッションは更新できるのか?会議、第1回をここで終了したいと思います。
会議を終えて──水野大二郎
第1回の会議は、「DIY→DIWO→DIFOへ、という時代に」と題して社会学者の成実弘至(京都造形芸術大学准教授)、デザインエンジニアの田中浩也(FabLab Japan)、弁護士の水野祐(NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン事務局)をゲストに迎え、デジタル工作機械と共に変容する共創のあり方について討議された。 ここで先に整理しておくと、DIY(Do It Yourself)とは、自分でやろう、という意味であり、そこには商業主義批判のニュアンスも含まれる。他方、DIWO(Do It WIth Others)とは、不特定多数とやろう、という意味であり、Web2.0におけるWikipediaに代表されるような巨大なコラボレーションの輪によって実現しうる運動である。ところが、昨今のWikipediaにも見られるように、このようなコラボレーションではユーザーのソーシャルネットワークが維持できないのではないか、という懸念もまた見られるようになってきた。 今回の会議は以上の流れをふまえ、DIFO(Do It For Others=だれか、何かのために顔の見える多数でやろう)として、不特定多数から特定多数の恊働によるイノベーションの可能性について討議された。今回の会議は大阪・北加賀屋にあるデザインイベント、DESIGNEASTにおいて開催された。DESIGNEASTが今年度掲げたテーマは「状況との対話」と題され、コミュニティ/コレクティブと創造性、新しい公共と建築、問題解決/問題発見とデザインなど、多様な切り口からデザイナー、建築家、あるいは全ての一般市民が置かれる今日の社会状況に対しての多様な意見の交換が展開されていた。「ファッションは更新できるのか?会議」第1回もまた、ファッションデザインにおける「状況との対話」として、デジタル・ファブリケーション、あるいはパーソナル・ファブリケーションのあり方についての可能性を探った。
今回の会議は変則的な方法で構成されていた。それは今回、DESIGNEASTが来場者の自生的秩序に基づく討議の場の試行としてロンドン・ハイドパークにある「スピーカーズ・コーナー」のような同時多発的トークイベントを小規模で、来場者と共に、密に議論を共有するのがその目的であった。ファッションは更新できるのか?会議もまた、「Arts and Law」「ドリフターズ・インターナショナル×成実弘至」「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」「田中浩也」と4つに分散された前座的意味合いをもつセッションと、メインセッションとなる会議が1時間と構成され、メインセッションの途中から水野祐が参加する、という展開であった。DESIGNEASTではTHEATRE PRODUCTSの新プロジェクトである“THEATRE, yours”(yoursはoursの部分に下線が引いてあり、あなたのものでもあり、みんなのものでもある、という二重の意味がそこに隠されている)が会場4Fにおいて発表され、その作品が示唆するものづくりの未来によって議論の輪郭が明確に描かれていった。CCライセンスをつけた型紙でだれもが参画できるというアーキテクチャに、ファッションデザインにおける自分をつくることの愉しみが実装されることで初めて機能すること。そこに今日におけるものづくりのソーシャルな部分があるだろう。Craft、つまりファッションや食のような女性的で工芸的(男性的で工学的なMakeの対比として)なものづくりの領域においてもDIY(Do It Yourself)は当然存在している。そこにはクックパッドのようなDIWO(Do It With Others)によるレシピの共有、公開をするコミュニティがあるが、DIFO(Do It For Others)として何かの目的を共有する、顔の見える特定多数の存在があるとも言える。
田中浩也は食とファッションにおけるセルフデザインの文脈の存在を指摘した上でMaker Movementにおける〈ギーク〉を浮かび上がらせていた。それはソーシャルデザインにおいても注目される〈主婦層〉の力のように、こ
れまで可視化されきれなかった新しい創造的クラスタに再び光をあてることになるだろう。そして、彼女らを駆り立てる(ものづくりを欲望させる)のが、アーキテクチャの上に実装される〈愉しみ〉ではなかろうか。討議が共感をつくりだすアーキテクチャとパーソナル・ファブリケーションに及んだ際、THEATRE PRODUCTSの武内昭から、食事を例にしたコメントがあった。ファストフードを食べるときもあれば、高級レストランにいくときもあること。自分で食べたいものを、食べたいように、食べたい分だけ自炊をするときもあること。そしていろいろ自炊をすることで材料を知り、加工法を知り、味を知ること。そして初めて食べ物に敬意を払うことができ、また食べ物を作ってくれた人にも敬意を払うことができること。自分で作れないものはは人に作ってもらい対価を払ったり、または作り方を教わったりすることでつながりを生み出すこと。また、自炊する人に併せてレシピだけではなく、プレカットされた野菜や混ぜられたタレなど、色々な支援も可能なこと。これらは全て食の話であるが、ファッションの話にそのまま接続させることが可能であろう。
ファッションデザインにおいて我々の手からものづくりが離れていってまだ50年程度である。デジタル工作機械によって可視化される新しい創造性とは、ファッションデザインを〈自分ごと〉としてどこまで何を引き受けられるか、その課題を明らかにしていくことに他ならない。今回の会議は、武内の指摘を受けて創成期にあるファッションにおける近代のバージョンアップに必要な愉しみ、そして自分ごととして問題を想像することとしてのDIFO(Do It For Others)が明らかとなったといえるだろうか。
日時:2012.9.17 13:30-15:00場所:DESIGNEAST03(名村造船所跡地 /クリエイティブセンター大阪)
ゲスト登壇者:田中浩也(FabLab Japan)、成実弘至(京都造形芸術大学准教授)、水野祐(NPO 法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン 事務局/弁護士)、武内昭(THEATRE PRODUCTS デザイナー)
登壇者:水野大二郎(慶應義塾大学環境情報学部専任講師/『fashionista』編集委員/ FabLab Japan メンバー)、永井幸輔(Arts and Law /弁護士)、金森香(NPO法人ドリフターズ・インターナショナル)
常任委員:幸田康利(有限会社オープンクローズ)、岩倉悠子(Arts and Law)、山本さくら(NPO 法人ドリフターズ・インターナショナル)、小原和也(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)、小林嶺(早稲田大学繊維研究会)
NPO法人ドリフターズ・インターナショナルの金森香、Arts and Lawの永井幸輔・岩倉悠子、有限会社オープンクローズの幸田康利が企画・制作し、批評誌『fashionista』の責任編集を務める水野大二郎氏をモデレーターに、2012年9月から約半年、全7回にわたり、「ファッションは更新できるのか?」について議論するセミクローズド会議です。
〈「ファッションは更新できるのか?会議」とは〉
消費者のソーシャル化、知的財産権への意識の高まりといった社会状況の変化は、現在のファッション産業に避け難い変容をもたらすと同時に、新しい創造性を獲得する契機をもたらしています。この会議では、他分野における現状とファッション界の状況を対比し、社会の「設計」や「構造」=アーキテクチャと向きあって試行錯誤を行っている実践者(デザイナー/メゾン関係者)、販売店、批評家、メディア関係者、ウェブデザイナー、研究者、法律家などを招き、ファッションの更新の可能性について議論します。
〈会議の概要〉
vol.1 『DIY→DIWO→DIFOへ、という時代に』
※1
※2
※3
※4
※5 ※6
議 事 録
No.
DIY(Do It Yourself)的なものづくりとファッションデザイン
ファッションデザインの領域まで広がりつつある、DIY(Do It Yourself)的な
ものづくりの現状を整理するところから今回の会議は始まった。
水野大──ファッションデザインの領域で、パーソナル・ファブリケーション(=個人的なものづくり)、またはデジタル・ファブリケーション(=デジタル機器を通したものづくり)の可能性にどういうものがあるのか、まず僕が簡単に紹介したいと思います。 最初に紹介したいのが、ロンドンのコベントガーデンというブティック街にある「COPYRIGHT-FREE IMAGES」という本屋です。ここは、版権が切れた日本の着物・アラビア布・ヨーロッパのArts and Craftsなどのテキスタイル柄を自由に使ってもらうために、そういう柄のフリー素材集本ばかりを集めて販売している、変わった本屋です。こんな風に柄のデータが誰でも利用できる形で広く公開されると、そのデザインソースを用いて、例えばファッションブランドのANREALAGEも使っているセーレンの〈ビスコテックス〉というプリントサービスを利用すれば、誰でも自分の好きな柄をプリントしたテキスタイルを生み出せるわけです。ちなみに日本では、データさえあればどんな柄でもテキスタイル上に印刷できる技術が、すでに工業用の規模で存在しています。また、職業用では、ミマキエンジニアリングの昇華転写ファブリックプリンタは200万円くらいで買えるので、頑張れば中小企業でも購入できる。昇華転写印刷は生地に直接印刷するのではなく、紙に一度印刷して、それを生地に熱転写することが出来ます。最近では、家庭
用の昇華転写プリンタも出てきています。 こうして見ていくと、工業用のものづくりの方法論がそのまま小規模の、あるいは個人のものづくりと接続しつつあり、デザインソースもこれからさらに多くの人に開かれていくと思います。つまり、もはやデザイナーだけがデザインを考えていけばよいわけではないのです。一般市民の手で作ることの可能性が大きくなってきていることを、僕自身は強く感じています。ファッションデザインの中ではどうしても〈消費者〉というタームが頻出しますが、〈消費者〉から〈生産消費者〉への移行が本当に可能なのか。そして、それが可能なのだとすればどういうときなのか。人生における特別なイベントのときなのか、それとも何か問題解決したり、だれかを助けるようなときなのか。そういったところから、ファッションを取り巻くものづくりの環境が、デジタル・ファブリケーション、あるいはパーソナル・ファブリケーションの最近の盛り上がりの中でどのように変化していけるのか、考えていけたらいいなと思っています。
“THEATRE, yours”の取り組みについて
ものづくりの現状を整理したあと、今回の DESIGNEAST03 で THEATRE
PRODUCTSが行った“THEATRE, yours”の取り組みについての話題に。
また、近い例としてニコニ・コモンズの事例をもとに、ものづくりへの参加
を促す仕組みについて議論された。
金森── “THEATRE , yours”は、既製服との橋渡しをしながら、〈yours〉と
いう言葉で示されるように、THEATRE PRODUCTSのデザインが同一のデザインに限定されないものづくりを実験していきたいと思って始めました。今回はワークショップの形式をとっていますが、必ずしもその形式には拘っていません。今回は“THEATRE, yours” 00 workshopというネーミングがついています。00には、まずはスターティングポイントという思いがあります。今回のために型紙を13種類ほど、全て新作で製作して販売しています。イベントの会場ではワークショップへの参加も受け付けていて、参加者は生地もあわせて購入し、奥のミシンでその場で縫って持って帰れるという仕組みになっています。“THEATRE, yours”は、あなたのものであり、わたしたちのものである、作るという行為や、商品の周りに産まれるコミュニケーションがもっと多様であってほしい、という考えのもとスタートした実験です。
水野大──今回提案されている“THEATRE, yours”には、体験、参加、学習といったようなユーザーの能動的な関わりがデザインの価値として含まれているのではないかと思います。ユーザーが自由に布を選び、型紙を改変することから、新しいデザインを生み出す事もできる。しかも、ユーザー同士で助け合うことも今日の情報環境下では可能ですよね。さらに今回、型紙にクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)が付いています。まずはこのライセンスが意味するものについて詳しく説明して頂けますか。
水野祐──CCライセンスは、作品の作者、例えばTHEATRE PRODUCTSが、この条件を守れば私の作品を自由に使っていいですよ、と意思表示するためのツールです。どういう条件かというと、今回の“THEATRE, yours”では「表示」と「非営利」の2つです。つまり、THEATRE PRODUCTSという名前を表示して、且つ、非営利目的であれば、型紙を使って作品を作ったり、改変したり、インターネットにアップしたりしてもいい、という利用条件になります。
田中──最近は、ウェブ上でユニークなユーザーコミュニティを作れるようになりました。例えば、ニコニコ動画では「ニコニ・コモンズ」というライセンスを媒介にしたコミュニティがあります。ニコニコ動画がニコニ・コモンズのようなライセンスを提案するのは、これから一緒に映像投稿の文化を創っていきたいというメッセージでもある。つまり、二次創作を奨励し、他人の作ったもの同士がどう相関しあっていけるか、その過程を皆で見守っていこうというような意思表明がされているのだと思います。ライセンスを自分たちで創るということは、どんなユーザーコミュニティを作っていきたいかに関係しているのだと。僕が考えているファブコモンズというライセンスは、僕の作品を使いたければどこかを改変してください、というライセンスです。
水野大──逆に参加を強制するという。
田中──あなたも改変をしなければ駄目です、というライセンスなんです。それはむしろ、こういうコミュニティを創りたいからどんどん作品を改変していこう、という提案でもある。単にライセンスを創るだけではなくて、どんな人々とどんなカルチャーを作っていくか、という所に全てはかかっていると思っています。
水野大──一人でやろう(DIY, Do It Yourself)という個人レベルの姿勢から、ウェブの登場によって不特定多数と何かをやろう(DIWO, Do It With Others)という社会レベルの姿勢へ、そしてだれか/何かのために顔の見える多数でやろう(DIFO, Do It For Others)というコミュニティレベルの姿
勢がもたらす新しい可能性を、私たちは第1回目の会議のタイトルに掲げています。 それをふまえて先ほどのファブコモンズの例から考えると、「特定の誰かのために」というDo It For Othersの「For」の部分は、ユーザーの能動的なものづくりの参加を要求する仕組みになっていると解釈できる。顔の見える多くの人たちと特定の目的を持って、ものづくりを通してカルチャーを作っていく姿勢は、“THEATRE, yours”の〈yours〉に込めた想いとも非常に近いものを感じます。
ファッションにとってのDIFO(Do It For Others)
続いて、ものづくりへの参加を促す仕組みづくりとしての DIFO をファッ
ションデザインにおいてどのように捉えることができるのか議論された。料
理とファッションデザインの比較から、レシピ=型紙や材料=テキスタイル
のシェア、レトルト=ものづくりへの参加の敷居が低い半プロダクト、ワー
クショップによるものづくりの体験の共有など、ファッションデザインに
とってのDIFOの多様な可能性が議論された。
田中──ファッションの人たちにとっての根本問題って一体なんでしょうか。ファッションが引き受けている宿命みたいなものがあるなら、やはりそこに刺さらないとその人たちに届かない。
水野大──それはおそらく、「ファッションは更新できるのか?会議」の「ファッション」ってなんですか、みたいな話だと思います。ファッションって多分、自分を作るってことだと思うんですよね。ファッションは、名詞では「流行」とか「慣習」とかいう意味がありますが、動詞にすると「形作る」という意味もあります。その形作るって部分を引き出して考えてみると、自分を自分らしく形作るということなんじゃないかと。そういった行為には、例えば自分の趣味に合わせるとか、流行に合わせるとか、様々な内的・外的要因があるでしょう。でも今、この「形作る」ための方法がすごく少ないのではないでしょうか。その点はデザイナーも同じです。新しい自分を作りたいなと思ってもなかなかできない。色々な問題がある。それは産業の問題でもある。 成実──ファッション業界の話で言えば、これまでがあまりにもフリーだったってことでしょうね。どうしてオートクチュール組合ができたかというと、おそらく当時アメリカで、オートクチュールで作ったものがものすごい勢いでコピーされて大変安く売られてしまったという事態に起因している。今でもそうだと思いますが、ちょっと話題になったデザインができるとそれをパッととってパクるというのは、ファッション業界の慣行みたいになっていますよね。 水野大──僕は、共感を中心に作るコミュニティを維持していくためには、ある程度パクりはあってもいいのではないかと思っています。作り手とパクり側が理解しあって、例えばTHEATRE PRODUCTSの服を作って楽しもうよ、という状況はあってもいいと思うんですね。究極のところ、支援/エンパワメントの話が重要だと思っています。問題は、ファッションは楽しいものでしかないんだから考えるのはめんどくさいという状況が少なからずある、ということではないかと。なので、まずはものづくりの一端を知る/学ぶというところから始めてもらえたらいいと思っています。今回で言えば、THEATRE PRODUCTSのところで実際にミシンを踏めちゃうぞと、その後にたまには自分の家でも踏んでみようかな、というようになればいいなとい
うことです。
金森──THEATRE PRODUCTSのデザイナー武内が(イベントのワークショップ会場から)降りてきたので、開催中のワークショップについて少し聞いてみたいと思います。
武内──僕からは“THEATRE, yours”の考え方をお話ししたいと思います。 「ファッション」っていうとわかりにくいですけれど、 食べ物に置き換えてみるとすごくわかりやすい。料理はもともと家で作るものでしたが、今の時代は外食が整備されて、外で食べることが当たり前になっています。そこで、自分で作って食べる楽しみを感じられるようになるために、レシピ集や材料を売ってみようと考えました。服を作ろうとするとき、料理で例えれば、作り方も、包丁の使い方や火の入れ方もわからないとしても、レシピ(型紙)や材料(テキスタイル)が買えるようになれば、すごく簡単になって、自分で作る楽しみが広がります。型紙をシェアして、ちょっとアレンジしたりしながら、料理で言うところの餃子パーティーをするように、スカートパーティーができるようになるかもしれない。さらに、材料とレシピだけで作ることが難しい人には、〈足して炒めるだけ〉みたいな半レトルトのようなものもあると、そこから入ってもっと色んなことが試せるようになる。すると、その後でレストランに行ったときに、自分では作れないものにびっくりしたり。それでも時々はファストフードの美味しさも味わいつつ、という感じでファストファッションの価値観も理解していく。こんな風にファッションがどんどん楽しいものになっていくといいな、という夢のある世界を考えています。それを実現するための制度や仕組みがあると、閉鎖的なファッションが広がっていくこともできるんじゃないかと。今の技術を使って、新しいフードカッターを使えばプロしかできなかった桂剥きもできるようになりますよ、といったようにその技術を使ったレシピ集をデザイナーが出していけば、バリエーションも増えて楽しみも増えていく。“THEATRE, yours”はそういうことを考えてその第一歩の実験をやっていると思ってもらえればと思います。
水野大──ちょうど今回でいえば、レシピができてそれを共有してみました、というところですね。これからカット野菜とか混ぜるだけのソースのような可能性に展開して、そこから作ることの楽しさや実際に使ってみることの楽しさや難しさを知ることで、すでにあるファッションデザインの価値に改めて気づいていくことが可能なのかもしれないですね。
永井──今回はワークショップがセットになっているのも特徴かなと思っています。料理サイトでいうとクックパッドに載っているのはデジタルなデータだけじゃないですか。でも今回のワークショップは、作ったもののシェアだけでなくて、作るという過程を共有することで楽しむという方向も考えていらっしゃるのかなと思います。
CCライセンスによる作品のシェアと保護
質疑応答では、CC ライセンスの下で自由利用を認めた作品に関し、CCライ
センスの利用条件の違反からどのように作品を守ることができるかについ
て、自己責任による法的な対応の必要性と、ユーザーコミュニティの発展に
よる新しい手段の可能性について議論された。
会場からの質問──CCライセンスについて、ライセンス契約というと、企業対企業の契約というイメージがあるのですが、今回のお話はどう違うので
すか?
水野祐──ファッション業界における、いわゆるライセンス契約とは随分違います。インターネットやオープンソースの議論における「ライセンス」は、コンテンツを提供する側とユーザーとの間の利用規約のような利用条件の契約と考えた方がいいと思います。
田中──便乗して質問ですが、CCライセンスに違反して使っている人をみつけた場合にはどうしたらいいですか?
水野祐──クリエイターの方が、違反して使っている人を直接訴えるという形になります。訴える費用は自己負担です。でもそれは、CCライセンスを使っても使わなくても同じことなんです。CCライセンスへの批判として指摘されることもありますが、みなさんがインターネットのサイトを利用するときと同じです。何か問題が起きても誰も助けてくれない。利用規約に同意したのであれば、その利用規約の条件もふまえて、自分の意見を主張して争わなければならない。つまり、すべて自分の責任と費用でやるということです。
田中──そこに一工夫できないですか? 違反がみつかったらみんなで応援してくれるとか。CCライセンスを使っている人たちは、そのライセンスが正しく使われていることに貢献するべきであるという立場から、ユーザー同士が、あれはギリギリだとか指摘しあえないかなと思って。
永井──それに近い例として、アイドル文化があると思います。似たような音楽がつくられるとファンが糾弾してくれるので、何もしなくても守れるという。
田中──なるほど。ではCCライセンスを使う人が、正しく使われていくように声を上げればいいということでしょうか。利用規約の条件と使い方が間違っているよ、と誰かが言ったら、間違ってる!間違ってる!とみんなが言っていけば……。
永井──それはユーザーが参加してくれれば可能かもしれないですね。
水野大──議論は尽きませんが……。今回は、DIFO(Do It For Others)の可能性やデジタル・ファブリケーションをどう実装するかということから考えて、ものづくりが自分達の手に返ってくるという未来をみんなで考える回だったと思います。答えをだすことではなく、みんなで考えを共有することがこの会議の目的だと思っています。ファッションは更新できるのか?会議、第1回をここで終了したいと思います。
会議を終えて──水野大二郎
第1回の会議は、「DIY→DIWO→DIFOへ、という時代に」と題して社会学者の成実弘至(京都造形芸術大学准教授)、デザインエンジニアの田中浩也(FabLab Japan)、弁護士の水野祐(NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン事務局)をゲストに迎え、デジタル工作機械と共に変容する共創のあり方について討議された。 ここで先に整理しておくと、DIY(Do It Yourself)とは、自分でやろう、という意味であり、そこには商業主義批判のニュアンスも含まれる。他方、DIWO(Do It WIth Others)とは、不特定多数とやろう、という意味であり、Web2.0におけるWikipediaに代表されるような巨大なコラボレーションの輪によって実現しうる運動である。ところが、昨今のWikipediaにも見られるように、このようなコラボレーションではユーザーのソーシャルネットワークが維持できないのではないか、という懸念もまた見られるようになってきた。 今回の会議は以上の流れをふまえ、DIFO(Do It For Others=だれか、何かのために顔の見える多数でやろう)として、不特定多数から特定多数の恊働によるイノベーションの可能性について討議された。今回の会議は大阪・北加賀屋にあるデザインイベント、DESIGNEASTにおいて開催された。DESIGNEASTが今年度掲げたテーマは「状況との対話」と題され、コミュニティ/コレクティブと創造性、新しい公共と建築、問題解決/問題発見とデザインなど、多様な切り口からデザイナー、建築家、あるいは全ての一般市民が置かれる今日の社会状況に対しての多様な意見の交換が展開されていた。「ファッションは更新できるのか?会議」第1回もまた、ファッションデザインにおける「状況との対話」として、デジタル・ファブリケーション、あるいはパーソナル・ファブリケーションのあり方についての可能性を探った。
今回の会議は変則的な方法で構成されていた。それは今回、DESIGNEASTが来場者の自生的秩序に基づく討議の場の試行としてロンドン・ハイドパークにある「スピーカーズ・コーナー」のような同時多発的トークイベントを小規模で、来場者と共に、密に議論を共有するのがその目的であった。ファッションは更新できるのか?会議もまた、「Arts and Law」「ドリフターズ・インターナショナル×成実弘至」「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」「田中浩也」と4つに分散された前座的意味合いをもつセッションと、メインセッションとなる会議が1時間と構成され、メインセッションの途中から水野祐が参加する、という展開であった。DESIGNEASTではTHEATRE PRODUCTSの新プロジェクトである“THEATRE, yours”(yoursはoursの部分に下線が引いてあり、あなたのものでもあり、みんなのものでもある、という二重の意味がそこに隠されている)が会場4Fにおいて発表され、その作品が示唆するものづくりの未来によって議論の輪郭が明確に描かれていった。CCライセンスをつけた型紙でだれもが参画できるというアーキテクチャに、ファッションデザインにおける自分をつくることの愉しみが実装されることで初めて機能すること。そこに今日におけるものづくりのソーシャルな部分があるだろう。Craft、つまりファッションや食のような女性的で工芸的(男性的で工学的なMakeの対比として)なものづくりの領域においてもDIY(Do It Yourself)は当然存在している。そこにはクックパッドのようなDIWO(Do It With Others)によるレシピの共有、公開をするコミュニティがあるが、DIFO(Do It For Others)として何かの目的を共有する、顔の見える特定多数の存在があるとも言える。
田中浩也は食とファッションにおけるセルフデザインの文脈の存在を指摘した上でMaker Movementにおける〈ギーク〉を浮かび上がらせていた。それはソーシャルデザインにおいても注目される〈主婦層〉の力のように、こ
れまで可視化されきれなかった新しい創造的クラスタに再び光をあてることになるだろう。そして、彼女らを駆り立てる(ものづくりを欲望させる)のが、アーキテクチャの上に実装される〈愉しみ〉ではなかろうか。討議が共感をつくりだすアーキテクチャとパーソナル・ファブリケーションに及んだ際、THEATRE PRODUCTSの武内昭から、食事を例にしたコメントがあった。ファストフードを食べるときもあれば、高級レストランにいくときもあること。自分で食べたいものを、食べたいように、食べたい分だけ自炊をするときもあること。そしていろいろ自炊をすることで材料を知り、加工法を知り、味を知ること。そして初めて食べ物に敬意を払うことができ、また食べ物を作ってくれた人にも敬意を払うことができること。自分で作れないものはは人に作ってもらい対価を払ったり、または作り方を教わったりすることでつながりを生み出すこと。また、自炊する人に併せてレシピだけではなく、プレカットされた野菜や混ぜられたタレなど、色々な支援も可能なこと。これらは全て食の話であるが、ファッションの話にそのまま接続させることが可能であろう。
ファッションデザインにおいて我々の手からものづくりが離れていってまだ50年程度である。デジタル工作機械によって可視化される新しい創造性とは、ファッションデザインを〈自分ごと〉としてどこまで何を引き受けられるか、その課題を明らかにしていくことに他ならない。今回の会議は、武内の指摘を受けて創成期にあるファッションにおける近代のバージョンアップに必要な愉しみ、そして自分ごととして問題を想像することとしてのDIFO(Do It For Others)が明らかとなったといえるだろうか。
※7
※8
※9
No.vol.1 『DIY→DIWO→DIFOへ、という時代に』
DIY(Do It Yourself)的なものづくりとファッションデザイン
ファッションデザインの領域まで広がりつつある、DIY(Do It Yourself)的な
ものづくりの現状を整理するところから今回の会議は始まった。
水野大──ファッションデザインの領域で、パーソナル・ファブリケーション(=個人的なものづくり)、またはデジタル・ファブリケーション(=デジタル機器を通したものづくり)の可能性にどういうものがあるのか、まず僕が簡単に紹介したいと思います。 最初に紹介したいのが、ロンドンのコベントガーデンというブティック街にある「COPYRIGHT-FREE IMAGES」という本屋です。ここは、版権が切れた日本の着物・アラビア布・ヨーロッパのArts and Craftsなどのテキスタイル柄を自由に使ってもらうために、そういう柄のフリー素材集本ばかりを集めて販売している、変わった本屋です。こんな風に柄のデータが誰でも利用できる形で広く公開されると、そのデザインソースを用いて、例えばファッションブランドのANREALAGEも使っているセーレンの〈ビスコテックス〉というプリントサービスを利用すれば、誰でも自分の好きな柄をプリントしたテキスタイルを生み出せるわけです。ちなみに日本では、データさえあればどんな柄でもテキスタイル上に印刷できる技術が、すでに工業用の規模で存在しています。また、職業用では、ミマキエンジニアリングの昇華転写ファブリックプリンタは200万円くらいで買えるので、頑張れば中小企業でも購入できる。昇華転写印刷は生地に直接印刷するのではなく、紙に一度印刷して、それを生地に熱転写することが出来ます。最近では、家庭
用の昇華転写プリンタも出てきています。 こうして見ていくと、工業用のものづくりの方法論がそのまま小規模の、あるいは個人のものづくりと接続しつつあり、デザインソースもこれからさらに多くの人に開かれていくと思います。つまり、もはやデザイナーだけがデザインを考えていけばよいわけではないのです。一般市民の手で作ることの可能性が大きくなってきていることを、僕自身は強く感じています。ファッションデザインの中ではどうしても〈消費者〉というタームが頻出しますが、〈消費者〉から〈生産消費者〉への移行が本当に可能なのか。そして、それが可能なのだとすればどういうときなのか。人生における特別なイベントのときなのか、それとも何か問題解決したり、だれかを助けるようなときなのか。そういったところから、ファッションを取り巻くものづくりの環境が、デジタル・ファブリケーション、あるいはパーソナル・ファブリケーションの最近の盛り上がりの中でどのように変化していけるのか、考えていけたらいいなと思っています。
“THEATRE, yours”の取り組みについて
ものづくりの現状を整理したあと、今回の DESIGNEAST03 で THEATRE
PRODUCTSが行った“THEATRE, yours”の取り組みについての話題に。
また、近い例としてニコニ・コモンズの事例をもとに、ものづくりへの参加
を促す仕組みについて議論された。
金森── “THEATRE , yours”は、既製服との橋渡しをしながら、〈yours〉と
いう言葉で示されるように、THEATRE PRODUCTSのデザインが同一のデザインに限定されないものづくりを実験していきたいと思って始めました。今回はワークショップの形式をとっていますが、必ずしもその形式には拘っていません。今回は“THEATRE, yours” 00 workshopというネーミングがついています。00には、まずはスターティングポイントという思いがあります。今回のために型紙を13種類ほど、全て新作で製作して販売しています。イベントの会場ではワークショップへの参加も受け付けていて、参加者は生地もあわせて購入し、奥のミシンでその場で縫って持って帰れるという仕組みになっています。“THEATRE, yours”は、あなたのものであり、わたしたちのものである、作るという行為や、商品の周りに産まれるコミュニケーションがもっと多様であってほしい、という考えのもとスタートした実験です。
水野大──今回提案されている“THEATRE, yours”には、体験、参加、学習といったようなユーザーの能動的な関わりがデザインの価値として含まれているのではないかと思います。ユーザーが自由に布を選び、型紙を改変することから、新しいデザインを生み出す事もできる。しかも、ユーザー同士で助け合うことも今日の情報環境下では可能ですよね。さらに今回、型紙にクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)が付いています。まずはこのライセンスが意味するものについて詳しく説明して頂けますか。
水野祐──CCライセンスは、作品の作者、例えばTHEATRE PRODUCTSが、この条件を守れば私の作品を自由に使っていいですよ、と意思表示するためのツールです。どういう条件かというと、今回の“THEATRE, yours”では「表示」と「非営利」の2つです。つまり、THEATRE PRODUCTSという名前を表示して、且つ、非営利目的であれば、型紙を使って作品を作ったり、改変したり、インターネットにアップしたりしてもいい、という利用条件になります。
田中──最近は、ウェブ上でユニークなユーザーコミュニティを作れるようになりました。例えば、ニコニコ動画では「ニコニ・コモンズ」というライセンスを媒介にしたコミュニティがあります。ニコニコ動画がニコニ・コモンズのようなライセンスを提案するのは、これから一緒に映像投稿の文化を創っていきたいというメッセージでもある。つまり、二次創作を奨励し、他人の作ったもの同士がどう相関しあっていけるか、その過程を皆で見守っていこうというような意思表明がされているのだと思います。ライセンスを自分たちで創るということは、どんなユーザーコミュニティを作っていきたいかに関係しているのだと。僕が考えているファブコモンズというライセンスは、僕の作品を使いたければどこかを改変してください、というライセンスです。
水野大──逆に参加を強制するという。
田中──あなたも改変をしなければ駄目です、というライセンスなんです。それはむしろ、こういうコミュニティを創りたいからどんどん作品を改変していこう、という提案でもある。単にライセンスを創るだけではなくて、どんな人々とどんなカルチャーを作っていくか、という所に全てはかかっていると思っています。
水野大──一人でやろう(DIY, Do It Yourself)という個人レベルの姿勢から、ウェブの登場によって不特定多数と何かをやろう(DIWO, Do It With Others)という社会レベルの姿勢へ、そしてだれか/何かのために顔の見える多数でやろう(DIFO, Do It For Others)というコミュニティレベルの姿
勢がもたらす新しい可能性を、私たちは第1回目の会議のタイトルに掲げています。 それをふまえて先ほどのファブコモンズの例から考えると、「特定の誰かのために」というDo It For Othersの「For」の部分は、ユーザーの能動的なものづくりの参加を要求する仕組みになっていると解釈できる。顔の見える多くの人たちと特定の目的を持って、ものづくりを通してカルチャーを作っていく姿勢は、“THEATRE, yours”の〈yours〉に込めた想いとも非常に近いものを感じます。
ファッションにとってのDIFO(Do It For Others)
続いて、ものづくりへの参加を促す仕組みづくりとしての DIFO をファッ
ションデザインにおいてどのように捉えることができるのか議論された。料
理とファッションデザインの比較から、レシピ=型紙や材料=テキスタイル
のシェア、レトルト=ものづくりへの参加の敷居が低い半プロダクト、ワー
クショップによるものづくりの体験の共有など、ファッションデザインに
とってのDIFOの多様な可能性が議論された。
田中──ファッションの人たちにとっての根本問題って一体なんでしょうか。ファッションが引き受けている宿命みたいなものがあるなら、やはりそこに刺さらないとその人たちに届かない。
水野大──それはおそらく、「ファッションは更新できるのか?会議」の「ファッション」ってなんですか、みたいな話だと思います。ファッションって多分、自分を作るってことだと思うんですよね。ファッションは、名詞では「流行」とか「慣習」とかいう意味がありますが、動詞にすると「形作る」という意味もあります。その形作るって部分を引き出して考えてみると、自分を自分らしく形作るということなんじゃないかと。そういった行為には、例えば自分の趣味に合わせるとか、流行に合わせるとか、様々な内的・外的要因があるでしょう。でも今、この「形作る」ための方法がすごく少ないのではないでしょうか。その点はデザイナーも同じです。新しい自分を作りたいなと思ってもなかなかできない。色々な問題がある。それは産業の問題でもある。 成実──ファッション業界の話で言えば、これまでがあまりにもフリーだったってことでしょうね。どうしてオートクチュール組合ができたかというと、おそらく当時アメリカで、オートクチュールで作ったものがものすごい勢いでコピーされて大変安く売られてしまったという事態に起因している。今でもそうだと思いますが、ちょっと話題になったデザインができるとそれをパッととってパクるというのは、ファッション業界の慣行みたいになっていますよね。 水野大──僕は、共感を中心に作るコミュニティを維持していくためには、ある程度パクりはあってもいいのではないかと思っています。作り手とパクり側が理解しあって、例えばTHEATRE PRODUCTSの服を作って楽しもうよ、という状況はあってもいいと思うんですね。究極のところ、支援/エンパワメントの話が重要だと思っています。問題は、ファッションは楽しいものでしかないんだから考えるのはめんどくさいという状況が少なからずある、ということではないかと。なので、まずはものづくりの一端を知る/学ぶというところから始めてもらえたらいいと思っています。今回で言えば、THEATRE PRODUCTSのところで実際にミシンを踏めちゃうぞと、その後にたまには自分の家でも踏んでみようかな、というようになればいいなとい
うことです。
金森──THEATRE PRODUCTSのデザイナー武内が(イベントのワークショップ会場から)降りてきたので、開催中のワークショップについて少し聞いてみたいと思います。
武内──僕からは“THEATRE, yours”の考え方をお話ししたいと思います。 「ファッション」っていうとわかりにくいですけれど、 食べ物に置き換えてみるとすごくわかりやすい。料理はもともと家で作るものでしたが、今の時代は外食が整備されて、外で食べることが当たり前になっています。そこで、自分で作って食べる楽しみを感じられるようになるために、レシピ集や材料を売ってみようと考えました。服を作ろうとするとき、料理で例えれば、作り方も、包丁の使い方や火の入れ方もわからないとしても、レシピ(型紙)や材料(テキスタイル)が買えるようになれば、すごく簡単になって、自分で作る楽しみが広がります。型紙をシェアして、ちょっとアレンジしたりしながら、料理で言うところの餃子パーティーをするように、スカートパーティーができるようになるかもしれない。さらに、材料とレシピだけで作ることが難しい人には、〈足して炒めるだけ〉みたいな半レトルトのようなものもあると、そこから入ってもっと色んなことが試せるようになる。すると、その後でレストランに行ったときに、自分では作れないものにびっくりしたり。それでも時々はファストフードの美味しさも味わいつつ、という感じでファストファッションの価値観も理解していく。こんな風にファッションがどんどん楽しいものになっていくといいな、という夢のある世界を考えています。それを実現するための制度や仕組みがあると、閉鎖的なファッションが広がっていくこともできるんじゃないかと。今の技術を使って、新しいフードカッターを使えばプロしかできなかった桂剥きもできるようになりますよ、といったようにその技術を使ったレシピ集をデザイナーが出していけば、バリエーションも増えて楽しみも増えていく。“THEATRE, yours”はそういうことを考えてその第一歩の実験をやっていると思ってもらえればと思います。
水野大──ちょうど今回でいえば、レシピができてそれを共有してみました、というところですね。これからカット野菜とか混ぜるだけのソースのような可能性に展開して、そこから作ることの楽しさや実際に使ってみることの楽しさや難しさを知ることで、すでにあるファッションデザインの価値に改めて気づいていくことが可能なのかもしれないですね。
永井──今回はワークショップがセットになっているのも特徴かなと思っています。料理サイトでいうとクックパッドに載っているのはデジタルなデータだけじゃないですか。でも今回のワークショップは、作ったもののシェアだけでなくて、作るという過程を共有することで楽しむという方向も考えていらっしゃるのかなと思います。
CCライセンスによる作品のシェアと保護
質疑応答では、CC ライセンスの下で自由利用を認めた作品に関し、CCライ
センスの利用条件の違反からどのように作品を守ることができるかについ
て、自己責任による法的な対応の必要性と、ユーザーコミュニティの発展に
よる新しい手段の可能性について議論された。
会場からの質問──CCライセンスについて、ライセンス契約というと、企業対企業の契約というイメージがあるのですが、今回のお話はどう違うので
すか?
水野祐──ファッション業界における、いわゆるライセンス契約とは随分違います。インターネットやオープンソースの議論における「ライセンス」は、コンテンツを提供する側とユーザーとの間の利用規約のような利用条件の契約と考えた方がいいと思います。
田中──便乗して質問ですが、CCライセンスに違反して使っている人をみつけた場合にはどうしたらいいですか?
水野祐──クリエイターの方が、違反して使っている人を直接訴えるという形になります。訴える費用は自己負担です。でもそれは、CCライセンスを使っても使わなくても同じことなんです。CCライセンスへの批判として指摘されることもありますが、みなさんがインターネットのサイトを利用するときと同じです。何か問題が起きても誰も助けてくれない。利用規約に同意したのであれば、その利用規約の条件もふまえて、自分の意見を主張して争わなければならない。つまり、すべて自分の責任と費用でやるということです。
田中──そこに一工夫できないですか? 違反がみつかったらみんなで応援してくれるとか。CCライセンスを使っている人たちは、そのライセンスが正しく使われていることに貢献するべきであるという立場から、ユーザー同士が、あれはギリギリだとか指摘しあえないかなと思って。
永井──それに近い例として、アイドル文化があると思います。似たような音楽がつくられるとファンが糾弾してくれるので、何もしなくても守れるという。
田中──なるほど。ではCCライセンスを使う人が、正しく使われていくように声を上げればいいということでしょうか。利用規約の条件と使い方が間違っているよ、と誰かが言ったら、間違ってる!間違ってる!とみんなが言っていけば……。
永井──それはユーザーが参加してくれれば可能かもしれないですね。
水野大──議論は尽きませんが……。今回は、DIFO(Do It For Others)の可能性やデジタル・ファブリケーションをどう実装するかということから考えて、ものづくりが自分達の手に返ってくるという未来をみんなで考える回だったと思います。答えをだすことではなく、みんなで考えを共有することがこの会議の目的だと思っています。ファッションは更新できるのか?会議、第1回をここで終了したいと思います。
会議を終えて──水野大二郎
第1回の会議は、「DIY→DIWO→DIFOへ、という時代に」と題して社会学者の成実弘至(京都造形芸術大学准教授)、デザインエンジニアの田中浩也(FabLab Japan)、弁護士の水野祐(NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン事務局)をゲストに迎え、デジタル工作機械と共に変容する共創のあり方について討議された。 ここで先に整理しておくと、DIY(Do It Yourself)とは、自分でやろう、という意味であり、そこには商業主義批判のニュアンスも含まれる。他方、DIWO(Do It WIth Others)とは、不特定多数とやろう、という意味であり、Web2.0におけるWikipediaに代表されるような巨大なコラボレーションの輪によって実現しうる運動である。ところが、昨今のWikipediaにも見られるように、このようなコラボレーションではユーザーのソーシャルネットワークが維持できないのではないか、という懸念もまた見られるようになってきた。 今回の会議は以上の流れをふまえ、DIFO(Do It For Others=だれか、何かのために顔の見える多数でやろう)として、不特定多数から特定多数の恊働によるイノベーションの可能性について討議された。今回の会議は大阪・北加賀屋にあるデザインイベント、DESIGNEASTにおいて開催された。DESIGNEASTが今年度掲げたテーマは「状況との対話」と題され、コミュニティ/コレクティブと創造性、新しい公共と建築、問題解決/問題発見とデザインなど、多様な切り口からデザイナー、建築家、あるいは全ての一般市民が置かれる今日の社会状況に対しての多様な意見の交換が展開されていた。「ファッションは更新できるのか?会議」第1回もまた、ファッションデザインにおける「状況との対話」として、デジタル・ファブリケーション、あるいはパーソナル・ファブリケーションのあり方についての可能性を探った。
今回の会議は変則的な方法で構成されていた。それは今回、DESIGNEASTが来場者の自生的秩序に基づく討議の場の試行としてロンドン・ハイドパークにある「スピーカーズ・コーナー」のような同時多発的トークイベントを小規模で、来場者と共に、密に議論を共有するのがその目的であった。ファッションは更新できるのか?会議もまた、「Arts and Law」「ドリフターズ・インターナショナル×成実弘至」「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」「田中浩也」と4つに分散された前座的意味合いをもつセッションと、メインセッションとなる会議が1時間と構成され、メインセッションの途中から水野祐が参加する、という展開であった。DESIGNEASTではTHEATRE PRODUCTSの新プロジェクトである“THEATRE, yours”(yoursはoursの部分に下線が引いてあり、あなたのものでもあり、みんなのものでもある、という二重の意味がそこに隠されている)が会場4Fにおいて発表され、その作品が示唆するものづくりの未来によって議論の輪郭が明確に描かれていった。CCライセンスをつけた型紙でだれもが参画できるというアーキテクチャに、ファッションデザインにおける自分をつくることの愉しみが実装されることで初めて機能すること。そこに今日におけるものづくりのソーシャルな部分があるだろう。Craft、つまりファッションや食のような女性的で工芸的(男性的で工学的なMakeの対比として)なものづくりの領域においてもDIY(Do It Yourself)は当然存在している。そこにはクックパッドのようなDIWO(Do It With Others)によるレシピの共有、公開をするコミュニティがあるが、DIFO(Do It For Others)として何かの目的を共有する、顔の見える特定多数の存在があるとも言える。
田中浩也は食とファッションにおけるセルフデザインの文脈の存在を指摘した上でMaker Movementにおける〈ギーク〉を浮かび上がらせていた。それはソーシャルデザインにおいても注目される〈主婦層〉の力のように、こ
れまで可視化されきれなかった新しい創造的クラスタに再び光をあてることになるだろう。そして、彼女らを駆り立てる(ものづくりを欲望させる)のが、アーキテクチャの上に実装される〈愉しみ〉ではなかろうか。討議が共感をつくりだすアーキテクチャとパーソナル・ファブリケーションに及んだ際、THEATRE PRODUCTSの武内昭から、食事を例にしたコメントがあった。ファストフードを食べるときもあれば、高級レストランにいくときもあること。自分で食べたいものを、食べたいように、食べたい分だけ自炊をするときもあること。そしていろいろ自炊をすることで材料を知り、加工法を知り、味を知ること。そして初めて食べ物に敬意を払うことができ、また食べ物を作ってくれた人にも敬意を払うことができること。自分で作れないものはは人に作ってもらい対価を払ったり、または作り方を教わったりすることでつながりを生み出すこと。また、自炊する人に併せてレシピだけではなく、プレカットされた野菜や混ぜられたタレなど、色々な支援も可能なこと。これらは全て食の話であるが、ファッションの話にそのまま接続させることが可能であろう。
ファッションデザインにおいて我々の手からものづくりが離れていってまだ50年程度である。デジタル工作機械によって可視化される新しい創造性とは、ファッションデザインを〈自分ごと〉としてどこまで何を引き受けられるか、その課題を明らかにしていくことに他ならない。今回の会議は、武内の指摘を受けて創成期にあるファッションにおける近代のバージョンアップに必要な愉しみ、そして自分ごととして問題を想像することとしてのDIFO(Do It For Others)が明らかとなったといえるだろうか。
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No.vol.1 『DIY→DIWO→DIFOへ、という時代に』
DIY(Do It Yourself)的なものづくりとファッションデザイン
ファッションデザインの領域まで広がりつつある、DIY(Do It Yourself)的な
ものづくりの現状を整理するところから今回の会議は始まった。
水野大──ファッションデザインの領域で、パーソナル・ファブリケーション(=個人的なものづくり)、またはデジタル・ファブリケーション(=デジタル機器を通したものづくり)の可能性にどういうものがあるのか、まず僕が簡単に紹介したいと思います。 最初に紹介したいのが、ロンドンのコベントガーデンというブティック街にある「COPYRIGHT-FREE IMAGES」という本屋です。ここは、版権が切れた日本の着物・アラビア布・ヨーロッパのArts and Craftsなどのテキスタイル柄を自由に使ってもらうために、そういう柄のフリー素材集本ばかりを集めて販売している、変わった本屋です。こんな風に柄のデータが誰でも利用できる形で広く公開されると、そのデザインソースを用いて、例えばファッションブランドのANREALAGEも使っているセーレンの〈ビスコテックス〉というプリントサービスを利用すれば、誰でも自分の好きな柄をプリントしたテキスタイルを生み出せるわけです。ちなみに日本では、データさえあればどんな柄でもテキスタイル上に印刷できる技術が、すでに工業用の規模で存在しています。また、職業用では、ミマキエンジニアリングの昇華転写ファブリックプリンタは200万円くらいで買えるので、頑張れば中小企業でも購入できる。昇華転写印刷は生地に直接印刷するのではなく、紙に一度印刷して、それを生地に熱転写することが出来ます。最近では、家庭
用の昇華転写プリンタも出てきています。 こうして見ていくと、工業用のものづくりの方法論がそのまま小規模の、あるいは個人のものづくりと接続しつつあり、デザインソースもこれからさらに多くの人に開かれていくと思います。つまり、もはやデザイナーだけがデザインを考えていけばよいわけではないのです。一般市民の手で作ることの可能性が大きくなってきていることを、僕自身は強く感じています。ファッションデザインの中ではどうしても〈消費者〉というタームが頻出しますが、〈消費者〉から〈生産消費者〉への移行が本当に可能なのか。そして、それが可能なのだとすればどういうときなのか。人生における特別なイベントのときなのか、それとも何か問題解決したり、だれかを助けるようなときなのか。そういったところから、ファッションを取り巻くものづくりの環境が、デジタル・ファブリケーション、あるいはパーソナル・ファブリケーションの最近の盛り上がりの中でどのように変化していけるのか、考えていけたらいいなと思っています。
“THEATRE, yours”の取り組みについて
ものづくりの現状を整理したあと、今回の DESIGNEAST03 で THEATRE
PRODUCTSが行った“THEATRE, yours”の取り組みについての話題に。
また、近い例としてニコニ・コモンズの事例をもとに、ものづくりへの参加
を促す仕組みについて議論された。
金森── “THEATRE , yours”は、既製服との橋渡しをしながら、〈yours〉と
いう言葉で示されるように、THEATRE PRODUCTSのデザインが同一のデザインに限定されないものづくりを実験していきたいと思って始めました。今回はワークショップの形式をとっていますが、必ずしもその形式には拘っていません。今回は“THEATRE, yours” 00 workshopというネーミングがついています。00には、まずはスターティングポイントという思いがあります。今回のために型紙を13種類ほど、全て新作で製作して販売しています。イベントの会場ではワークショップへの参加も受け付けていて、参加者は生地もあわせて購入し、奥のミシンでその場で縫って持って帰れるという仕組みになっています。“THEATRE, yours”は、あなたのものであり、わたしたちのものである、作るという行為や、商品の周りに産まれるコミュニケーションがもっと多様であってほしい、という考えのもとスタートした実験です。
水野大──今回提案されている“THEATRE, yours”には、体験、参加、学習といったようなユーザーの能動的な関わりがデザインの価値として含まれているのではないかと思います。ユーザーが自由に布を選び、型紙を改変することから、新しいデザインを生み出す事もできる。しかも、ユーザー同士で助け合うことも今日の情報環境下では可能ですよね。さらに今回、型紙にクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)が付いています。まずはこのライセンスが意味するものについて詳しく説明して頂けますか。
水野祐──CCライセンスは、作品の作者、例えばTHEATRE PRODUCTSが、この条件を守れば私の作品を自由に使っていいですよ、と意思表示するためのツールです。どういう条件かというと、今回の“THEATRE, yours”では「表示」と「非営利」の2つです。つまり、THEATRE PRODUCTSという名前を表示して、且つ、非営利目的であれば、型紙を使って作品を作ったり、改変したり、インターネットにアップしたりしてもいい、という利用条件になります。
田中──最近は、ウェブ上でユニークなユーザーコミュニティを作れるようになりました。例えば、ニコニコ動画では「ニコニ・コモンズ」というライセンスを媒介にしたコミュニティがあります。ニコニコ動画がニコニ・コモンズのようなライセンスを提案するのは、これから一緒に映像投稿の文化を創っていきたいというメッセージでもある。つまり、二次創作を奨励し、他人の作ったもの同士がどう相関しあっていけるか、その過程を皆で見守っていこうというような意思表明がされているのだと思います。ライセンスを自分たちで創るということは、どんなユーザーコミュニティを作っていきたいかに関係しているのだと。僕が考えているファブコモンズというライセンスは、僕の作品を使いたければどこかを改変してください、というライセンスです。
水野大──逆に参加を強制するという。
田中──あなたも改変をしなければ駄目です、というライセンスなんです。それはむしろ、こういうコミュニティを創りたいからどんどん作品を改変していこう、という提案でもある。単にライセンスを創るだけではなくて、どんな人々とどんなカルチャーを作っていくか、という所に全てはかかっていると思っています。
水野大──一人でやろう(DIY, Do It Yourself)という個人レベルの姿勢から、ウェブの登場によって不特定多数と何かをやろう(DIWO, Do It With Others)という社会レベルの姿勢へ、そしてだれか/何かのために顔の見える多数でやろう(DIFO, Do It For Others)というコミュニティレベルの姿
勢がもたらす新しい可能性を、私たちは第1回目の会議のタイトルに掲げています。 それをふまえて先ほどのファブコモンズの例から考えると、「特定の誰かのために」というDo It For Othersの「For」の部分は、ユーザーの能動的なものづくりの参加を要求する仕組みになっていると解釈できる。顔の見える多くの人たちと特定の目的を持って、ものづくりを通してカルチャーを作っていく姿勢は、“THEATRE, yours”の〈yours〉に込めた想いとも非常に近いものを感じます。
ファッションにとってのDIFO(Do It For Others)
続いて、ものづくりへの参加を促す仕組みづくりとしての DIFO をファッ
ションデザインにおいてどのように捉えることができるのか議論された。料
理とファッションデザインの比較から、レシピ=型紙や材料=テキスタイル
のシェア、レトルト=ものづくりへの参加の敷居が低い半プロダクト、ワー
クショップによるものづくりの体験の共有など、ファッションデザインに
とってのDIFOの多様な可能性が議論された。
田中──ファッションの人たちにとっての根本問題って一体なんでしょうか。ファッションが引き受けている宿命みたいなものがあるなら、やはりそこに刺さらないとその人たちに届かない。
水野大──それはおそらく、「ファッションは更新できるのか?会議」の「ファッション」ってなんですか、みたいな話だと思います。ファッションって多分、自分を作るってことだと思うんですよね。ファッションは、名詞では「流行」とか「慣習」とかいう意味がありますが、動詞にすると「形作る」という意味もあります。その形作るって部分を引き出して考えてみると、自分を自分らしく形作るということなんじゃないかと。そういった行為には、例えば自分の趣味に合わせるとか、流行に合わせるとか、様々な内的・外的要因があるでしょう。でも今、この「形作る」ための方法がすごく少ないのではないでしょうか。その点はデザイナーも同じです。新しい自分を作りたいなと思ってもなかなかできない。色々な問題がある。それは産業の問題でもある。 成実──ファッション業界の話で言えば、これまでがあまりにもフリーだったってことでしょうね。どうしてオートクチュール組合ができたかというと、おそらく当時アメリカで、オートクチュールで作ったものがものすごい勢いでコピーされて大変安く売られてしまったという事態に起因している。今でもそうだと思いますが、ちょっと話題になったデザインができるとそれをパッととってパクるというのは、ファッション業界の慣行みたいになっていますよね。 水野大──僕は、共感を中心に作るコミュニティを維持していくためには、ある程度パクりはあってもいいのではないかと思っています。作り手とパクり側が理解しあって、例えばTHEATRE PRODUCTSの服を作って楽しもうよ、という状況はあってもいいと思うんですね。究極のところ、支援/エンパワメントの話が重要だと思っています。問題は、ファッションは楽しいものでしかないんだから考えるのはめんどくさいという状況が少なからずある、ということではないかと。なので、まずはものづくりの一端を知る/学ぶというところから始めてもらえたらいいと思っています。今回で言えば、THEATRE PRODUCTSのところで実際にミシンを踏めちゃうぞと、その後にたまには自分の家でも踏んでみようかな、というようになればいいなとい
うことです。
金森──THEATRE PRODUCTSのデザイナー武内が(イベントのワークショップ会場から)降りてきたので、開催中のワークショップについて少し聞いてみたいと思います。
武内──僕からは“THEATRE, yours”の考え方をお話ししたいと思います。 「ファッション」っていうとわかりにくいですけれど、 食べ物に置き換えてみるとすごくわかりやすい。料理はもともと家で作るものでしたが、今の時代は外食が整備されて、外で食べることが当たり前になっています。そこで、自分で作って食べる楽しみを感じられるようになるために、レシピ集や材料を売ってみようと考えました。服を作ろうとするとき、料理で例えれば、作り方も、包丁の使い方や火の入れ方もわからないとしても、レシピ(型紙)や材料(テキスタイル)が買えるようになれば、すごく簡単になって、自分で作る楽しみが広がります。型紙をシェアして、ちょっとアレンジしたりしながら、料理で言うところの餃子パーティーをするように、スカートパーティーができるようになるかもしれない。さらに、材料とレシピだけで作ることが難しい人には、〈足して炒めるだけ〉みたいな半レトルトのようなものもあると、そこから入ってもっと色んなことが試せるようになる。すると、その後でレストランに行ったときに、自分では作れないものにびっくりしたり。それでも時々はファストフードの美味しさも味わいつつ、という感じでファストファッションの価値観も理解していく。こんな風にファッションがどんどん楽しいものになっていくといいな、という夢のある世界を考えています。それを実現するための制度や仕組みがあると、閉鎖的なファッションが広がっていくこともできるんじゃないかと。今の技術を使って、新しいフードカッターを使えばプロしかできなかった桂剥きもできるようになりますよ、といったようにその技術を使ったレシピ集をデザイナーが出していけば、バリエーションも増えて楽しみも増えていく。“THEATRE, yours”はそういうことを考えてその第一歩の実験をやっていると思ってもらえればと思います。
水野大──ちょうど今回でいえば、レシピができてそれを共有してみました、というところですね。これからカット野菜とか混ぜるだけのソースのような可能性に展開して、そこから作ることの楽しさや実際に使ってみることの楽しさや難しさを知ることで、すでにあるファッションデザインの価値に改めて気づいていくことが可能なのかもしれないですね。
永井──今回はワークショップがセットになっているのも特徴かなと思っています。料理サイトでいうとクックパッドに載っているのはデジタルなデータだけじゃないですか。でも今回のワークショップは、作ったもののシェアだけでなくて、作るという過程を共有することで楽しむという方向も考えていらっしゃるのかなと思います。
CCライセンスによる作品のシェアと保護
質疑応答では、CC ライセンスの下で自由利用を認めた作品に関し、CCライ
センスの利用条件の違反からどのように作品を守ることができるかについ
て、自己責任による法的な対応の必要性と、ユーザーコミュニティの発展に
よる新しい手段の可能性について議論された。
会場からの質問──CCライセンスについて、ライセンス契約というと、企業対企業の契約というイメージがあるのですが、今回のお話はどう違うので
すか?
水野祐──ファッション業界における、いわゆるライセンス契約とは随分違います。インターネットやオープンソースの議論における「ライセンス」は、コンテンツを提供する側とユーザーとの間の利用規約のような利用条件の契約と考えた方がいいと思います。
田中──便乗して質問ですが、CCライセンスに違反して使っている人をみつけた場合にはどうしたらいいですか?
水野祐──クリエイターの方が、違反して使っている人を直接訴えるという形になります。訴える費用は自己負担です。でもそれは、CCライセンスを使っても使わなくても同じことなんです。CCライセンスへの批判として指摘されることもありますが、みなさんがインターネットのサイトを利用するときと同じです。何か問題が起きても誰も助けてくれない。利用規約に同意したのであれば、その利用規約の条件もふまえて、自分の意見を主張して争わなければならない。つまり、すべて自分の責任と費用でやるということです。
田中──そこに一工夫できないですか? 違反がみつかったらみんなで応援してくれるとか。CCライセンスを使っている人たちは、そのライセンスが正しく使われていることに貢献するべきであるという立場から、ユーザー同士が、あれはギリギリだとか指摘しあえないかなと思って。
永井──それに近い例として、アイドル文化があると思います。似たような音楽がつくられるとファンが糾弾してくれるので、何もしなくても守れるという。
田中──なるほど。ではCCライセンスを使う人が、正しく使われていくように声を上げればいいということでしょうか。利用規約の条件と使い方が間違っているよ、と誰かが言ったら、間違ってる!間違ってる!とみんなが言っていけば……。
永井──それはユーザーが参加してくれれば可能かもしれないですね。
水野大──議論は尽きませんが……。今回は、DIFO(Do It For Others)の可能性やデジタル・ファブリケーションをどう実装するかということから考えて、ものづくりが自分達の手に返ってくるという未来をみんなで考える回だったと思います。答えをだすことではなく、みんなで考えを共有することがこの会議の目的だと思っています。ファッションは更新できるのか?会議、第1回をここで終了したいと思います。
会議を終えて──水野大二郎
第1回の会議は、「DIY→DIWO→DIFOへ、という時代に」と題して社会学者の成実弘至(京都造形芸術大学准教授)、デザインエンジニアの田中浩也(FabLab Japan)、弁護士の水野祐(NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン事務局)をゲストに迎え、デジタル工作機械と共に変容する共創のあり方について討議された。 ここで先に整理しておくと、DIY(Do It Yourself)とは、自分でやろう、という意味であり、そこには商業主義批判のニュアンスも含まれる。他方、DIWO(Do It WIth Others)とは、不特定多数とやろう、という意味であり、Web2.0におけるWikipediaに代表されるような巨大なコラボレーションの輪によって実現しうる運動である。ところが、昨今のWikipediaにも見られるように、このようなコラボレーションではユーザーのソーシャルネットワークが維持できないのではないか、という懸念もまた見られるようになってきた。 今回の会議は以上の流れをふまえ、DIFO(Do It For Others=だれか、何かのために顔の見える多数でやろう)として、不特定多数から特定多数の恊働によるイノベーションの可能性について討議された。今回の会議は大阪・北加賀屋にあるデザインイベント、DESIGNEASTにおいて開催された。DESIGNEASTが今年度掲げたテーマは「状況との対話」と題され、コミュニティ/コレクティブと創造性、新しい公共と建築、問題解決/問題発見とデザインなど、多様な切り口からデザイナー、建築家、あるいは全ての一般市民が置かれる今日の社会状況に対しての多様な意見の交換が展開されていた。「ファッションは更新できるのか?会議」第1回もまた、ファッションデザインにおける「状況との対話」として、デジタル・ファブリケーション、あるいはパーソナル・ファブリケーションのあり方についての可能性を探った。
今回の会議は変則的な方法で構成されていた。それは今回、DESIGNEASTが来場者の自生的秩序に基づく討議の場の試行としてロンドン・ハイドパークにある「スピーカーズ・コーナー」のような同時多発的トークイベントを小規模で、来場者と共に、密に議論を共有するのがその目的であった。ファッションは更新できるのか?会議もまた、「Arts and Law」「ドリフターズ・インターナショナル×成実弘至」「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」「田中浩也」と4つに分散された前座的意味合いをもつセッションと、メインセッションとなる会議が1時間と構成され、メインセッションの途中から水野祐が参加する、という展開であった。DESIGNEASTではTHEATRE PRODUCTSの新プロジェクトである“THEATRE, yours”(yoursはoursの部分に下線が引いてあり、あなたのものでもあり、みんなのものでもある、という二重の意味がそこに隠されている)が会場4Fにおいて発表され、その作品が示唆するものづくりの未来によって議論の輪郭が明確に描かれていった。CCライセンスをつけた型紙でだれもが参画できるというアーキテクチャに、ファッションデザインにおける自分をつくることの愉しみが実装されることで初めて機能すること。そこに今日におけるものづくりのソーシャルな部分があるだろう。Craft、つまりファッションや食のような女性的で工芸的(男性的で工学的なMakeの対比として)なものづくりの領域においてもDIY(Do It Yourself)は当然存在している。そこにはクックパッドのようなDIWO(Do It With Others)によるレシピの共有、公開をするコミュニティがあるが、DIFO(Do It For Others)として何かの目的を共有する、顔の見える特定多数の存在があるとも言える。
田中浩也は食とファッションにおけるセルフデザインの文脈の存在を指摘した上でMaker Movementにおける〈ギーク〉を浮かび上がらせていた。それはソーシャルデザインにおいても注目される〈主婦層〉の力のように、こ
れまで可視化されきれなかった新しい創造的クラスタに再び光をあてることになるだろう。そして、彼女らを駆り立てる(ものづくりを欲望させる)のが、アーキテクチャの上に実装される〈愉しみ〉ではなかろうか。討議が共感をつくりだすアーキテクチャとパーソナル・ファブリケーションに及んだ際、THEATRE PRODUCTSの武内昭から、食事を例にしたコメントがあった。ファストフードを食べるときもあれば、高級レストランにいくときもあること。自分で食べたいものを、食べたいように、食べたい分だけ自炊をするときもあること。そしていろいろ自炊をすることで材料を知り、加工法を知り、味を知ること。そして初めて食べ物に敬意を払うことができ、また食べ物を作ってくれた人にも敬意を払うことができること。自分で作れないものはは人に作ってもらい対価を払ったり、または作り方を教わったりすることでつながりを生み出すこと。また、自炊する人に併せてレシピだけではなく、プレカットされた野菜や混ぜられたタレなど、色々な支援も可能なこと。これらは全て食の話であるが、ファッションの話にそのまま接続させることが可能であろう。
ファッションデザインにおいて我々の手からものづくりが離れていってまだ50年程度である。デジタル工作機械によって可視化される新しい創造性とは、ファッションデザインを〈自分ごと〉としてどこまで何を引き受けられるか、その課題を明らかにしていくことに他ならない。今回の会議は、武内の指摘を受けて創成期にあるファッションにおける近代のバージョンアップに必要な愉しみ、そして自分ごととして問題を想像することとしてのDIFO(Do It For Others)が明らかとなったといえるだろうか。
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日本のファッションブランド。2003年、森永邦彦が設立。 http://www.anrealage.com/
セーレン株式会社が提供する、パソコンで作成したデータなどを繊維製品に転写するデジタルプロダクションサービス。 http://www.viscotecs.com/index.html 生産消費者(prosumer)アルビン・トフラー『第三の波』(1980年)で提唱された、生産者(producer)と消費者(consumer)とを組み合わせた造語。社会の脱マス化や製品のカスタマイズ性の向上、小規模または個人での生産を支援するサービスや製品の登場などによって出現するとされる、生産活動を行う消費者のこと。
大阪を拠点に活動する若手デザイナーが発起人となり、大阪に国際水準のデザインが生まれる状況をデザインすることを目的に生まれたプロジェクト、またはその主催するイベント。2009年にスタートし、4回目となる今回は“状況との対話”をテーマに開催された。http://designeast.jp/
「洋服があれば世界は劇場になる」をコンセプトに、デザイナー武内昭と中西妙佳、プロデューサー金森香が2001年設立したファッションブランド。http://www.theretreproducts.jp/
THEATRE PRODUCTSが開始した型紙や、生地、服の作り方、プリントパターンなど、服作りのプロセスを共有しながら、新しい単位で服を楽しむ仕組みの実験。「表示」と「非営利」のCCライセンスがついた型紙を購入することで、購入者は型紙の複製や改変、再配布による共有などを行うことができる。 http://theretreyours.tumblr.com/
クリエイターの創作活動を支援するサイト。利用者が自ら作品を登録し、また作品の利用条件を設定できる素材ライブラリーなどのサービス機能を提供している。http://commons.nicovideo.jp/
オープンソースによるデザインのライセンス体系、法制度、そして社会におけるデザインの在り方を模索するために結成された不定形ユニット、またはそのライセンス。http://fablabjapan.org/projects/fab-commons/
1868年に創設されたパリ・オートクチュール(高級注文服)のデザイナー同業者組合。加入には厳しい条件が定められており、会員だけがオートクチュール(haute couture)と認められている。現在は、「パリ・クチュール組合(The Chambre Syndicale De La Haute Couture)」(通称サンディカ)と呼ばれる。
料理のレシピをユーザーが投稿し、閲覧できるウェブサイト。132万品を超えるレシピがウェブ上で共有されている。http://cookpad.com/
「ファッションは更新できるのか?会議」Vol.1『DIY→DIWO→DIFOへ、という時代に』 議事録
発行 2012年10月26日編集・構成 「ファッションは更新できるのか?会議」実行委員会2012年9月から約半年、全7回にわたり実施される議論するセミクローズド会議公式 Facebook ページ:www.facebook.com/fashion.koushin公式 Twitter アカウント:@fashion_koushin
No.vol.1 『DIY→DIWO→DIFOへ、という時代に』