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核兵器 のない 世界にむ けて 緊急に新たな行動を キッ シンジャ 元国務長官など米政界の 長老政治家 4氏 がアメリカのリ ーシ ップによる 核兵器のない 世界」実現を呼びかける論説をウォ ールス トリー ト ナル 1月 4日 付 に発 表 した。 いま世界は、北朝鮮 核兵器保有宣言やテ 集団の大量破壊兵器入手の 懸念など に直面 している。米 ソ 超大国が 核抑 止の もとで均衡 した状況 とは異な り、事態は戦 略 的 に冷 戦 期 よ りも危 か しく、経 済 的 に よ り高価 な もの とな りつつ あ る、 と論 説 は 危機意識を強調する。 このような状況下、核兵器 依存を地球的規模で逆転 させて、 核兵器が世界 脅威であることを最終的に止めさせる」ために、 ア メ リカ の 指導性が必要 と され る」 ―一 論説は米支配層 指導者たちにこ う訴 えか けた。 執筆者は次 通 り。 ジ ョー ジ シ ュル ツ :国 務長官、 1982-89年 。 ウィ リ アム・ペ :国 防長官、 1994-97年 リー キ ッシンジ :国 務長 官、 1973-77年 。サ ム・ ナン :元 上院軍事委員会委員長。 シ ュル ツ とキ ッシ ンジ ャ 両氏は共和党政権、 ー氏は民主党政権 閣僚であ つた。ナン氏は民主党上 院議員であった。米政界長老の 超党派 の共同作業であるこ とに注 目 したい リー 氏 は 非核の 政 府 を求 め る会 ニュース 06年 7-8月 (核 兵器をめぐる世界 動き)欄 で紹介 した ブ リクス 報告 Jの 執筆者の 1人 でも あ る。 以下、 この 論説の冒頭部分 のほか 、当面の 具体策についての 勧告を抄訳で紹介す る。原題 :A Wond Free of Nudear Weapons。 (藤 俊彦) * * * 核 兵 器 は今 日、われ われ に途 方 もな く大 きな危 険 を突 き付 けてい る と同時 に、歴 史的な好機を与えている。世界を ぎの段階 と導 くために、具体的には地球的規 核 兵 器 依 存 を逆 転 させ る堅 固 な ンセ ンサ と導 くた め に、 ア メ リカ の 指導 性 が必 要 と され るで あ ろ う。 この ンセ ンサ は、核兵器が潜在的に危険な主体の 手中に落ちることを防止 し、また、核兵器が世界 脅威であることを究極的に終 らせ る うえで、決 定 的 な貢 献 とな るで あ ろ う。 核兵器は、かつての 冷戦期において、抑 止の 手段であるがゆえに国際安全保障の 維持のため必要であつた。冷戦終焉にともない 、米 ソ 相互 止の ドク トリンは時代 遅れになった。 しか し 、抑 止 は 、 多 くの 国にとって、 いまなお他の 国 か らの 脅威 と の関連で考慮 対象 となっている。だが、 この よ うな 目的 の 核兵器依存はその危険 性をますます強めつつ あ り、またその 有効性をますます弱めつつ ある。 北朝鮮は最近、核実験を行 つた。イランは潜在的に兵器級までの ウラン 濃縮 画 を停 止 す る こ とを拒 否 した。 これ らの 出来事は世界がいまや新 しい 危険な核時代

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Page 1: Created Date: 11/8/2013 2:34:32 PM

ユOι′ク

核兵器のない世界にむけて緊急に新たな行動を

キッシンジャー元国務長官など米政界の長老政治家 4氏がアメリカの リーダーシ

ップによる 「核兵器のない世界」実現を呼びかける論説をウォールス トリー ト・ジ

ャーナル紙 1月 4日 付に発表 した。

いま世界は、北朝鮮の核兵器保有宣言やテロ集団の大量破壊兵器入手の懸念など

に直面 している。米 ソ超大国が核抑止のもとで均衡 した状況とは異な り、事態は戦

略的に冷戦期よりも危か しく、経済的により高価なものとな りつつある、と論説は

危機意識を強調する。

このような状況下、核兵器への依存を地球的規模で逆転 させて、「核兵器が世界への脅威であることを最終的に止めさせる」ために、「アメリカの指導性が必要 と

される」―一 論説は米支配層の指導者たちにこう訴えかけた。

執筆者は次の通 り。ジョージ・シュルツ :国務長官、 1982-89年 。 ウィリアム・ペ リー :国防長官、 1994-97年 。ヘンリー 。キッシンジャー :国務長

官、 1973-77年 。サム・ナン :元上院軍事委員会委員長。

シュルツとキッシンジャー両氏は共和党政権、ペ リー氏は民主党政権の閣僚であつた。ナン氏は民主党上院議員であった。米政界長老の超党派の共同作業であるこ

とに注 目したい。ペ リー氏は 「非核の政府を求める会ニュース」 06年 7-8月 号の

(核兵器をめぐる世界の動き)欄で紹介 した 「ブ リクス報告Jの執筆者の 1人 でも

ある。

以下、この論説の冒頭部分のほか、当面の具体策についての勧告を抄訳で紹介す

る。原題 :A Wond Free of Nudear Weapons。 (藤 田 俊彦 )

* * *

核兵器は今 日、われわれに途方 もなく大きな危険を突き付けていると同時に、歴

史的な好機を与えている。世界をつぎの段階へ と導 くために、具体的には地球的規

模の核兵器依存を逆転 させる堅固なコンセンサスヘ と導 くために、アメリカの指導

性が必要 とされるであろ う。 このコンセンサスは、核兵器が潜在的に危険な主体の

手中に落ちることを防止 し、また、核兵器が世界への脅威であることを究極的に終

らせるうえで、決定的な貢献 となるであろう。

核兵器は、かつての冷戦期において、抑止の手段であるがゆえに国際安全保障の

維持のため必要であつた。冷戦終焉にともない、米 ソ相互抑止の ドク トリンは時代

遅れになった。 しか し、抑止は、多くの国にとって、いまなお他の国からの脅威 と

の関連で考慮の対象 となっている。だが、このような目的の核兵器依存はその危険

性をますます強めつつあり、またその有効性をますます弱めつつある。

北朝鮮は最近、核実験を行つた。イランは潜在的に兵器級までのウラン濃縮の計

画を停止することを拒否 した。 これ らの出来事は世界がいまや新 しい危険な核時代

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の崖っぶちに立っていることを浮き彫 りにした。その うえ、きわめて憂慮すべきこ

ととして、非国家テロリス トが核兵器を手にする可能性が強ま りつつある。核兵器

をもつ非国家テロリス トは、概念的には、抑止戦略の枠外にあ り、また新たな安全

保障上の難問を提起 している。

このテロリス トの脅威を別 として、緊急に新 しい行動を起こさないかぎり、アメ

リカはまもなく新たな核時代 ―一 かつての冷戦期の抑止よりもさらに危なか しい

うえに、心理的に方向感覚を失わせ、経済的にさらに高価 となる新たな核時代 ――に突入することを余儀なくされるであろ う。われわれが、世界的規模で増加 しつつ

ある潜在的な核兵器保有敵との間で、核兵器使用 リスクを顕著に高めることなくかつての米 ソ間 「相互確証破壊」を複製することに成功できるか否かは、きわめて不

確かである。

新 しい核兵器国は、冷戦期を通 じて核兵器にかかわる事故や誤算、無許可発射の

防止のため実施 された、長い年月をかけて積み上げられた保障措置の恩恵に与って

いない。アメリカとソ連は致命的には至 らなかった多くの誤 りか ら学習 した。米ソ

両国は、冷戦期を通 じて、意図的にせよ偶発的にせよ核兵器が使われないよう保証

するために、一生懸命努力 した。新 しい核兵器国および世界は、今後の半世紀において、冷戦期のわれわれほどに幸運でいられるであろうか。

* * *

まず、核兵器保有国の指導者 との間で、核兵器のない世界 とい う目標を共同の事

業にするための集中的な作業が欠かせない。こうした共同作業は核武装 した北朝鮮

やイランの出現を回避するためすでに始められている努力にあらたな影響力を及ぼ

すであろう。

核の脅威のない世界にむけての合意の地ならしとなる一連の緊急な措置として、

以下の項 目があげられる。

(1)核兵器の緊急発進体制の解除など旧冷戦体制の変更。

(2)すべての核兵器国による核軍備の実質的削減の続行。

(3)前進配備むけ短距離核兵器の廃棄。

(4)包括的核実験禁止条約 (CTBT)#ヒ准にむけて上院における超党派協議の

開政台。

(5)核兵器および兵器級プル トニウム/濃縮 ウランの世界的規模の安全確保。

(6)核供給国グループ と国際原子力機関の活用を通 じてのウラン濃縮の管理およ

び原子炉用 ウランの安定供給。

(7)兵器用核分裂性物質の世界的生産禁止。高濃縮 ウランの民生用使用の段階的

廃止。

(8)新たな核兵器国の出現につながる地域的対決/紛争を解決する努力の強化。「核兵器のない世界のビジョンおよびこの目標の達成にむけての実際的な諸措置

をふたたび主張することは、アメリカの道徳的遺産 と合致する大胆なイニシアティ

ブである」「われわれは核兵器のない世界 とい う目標の設定およびその目標を達成

するため必要 とされ る行動への精力的取 り組みを支持する」。 □