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超臨界水を利用した重質油の水熱分解・改質技術の開発 (基盤技術研究グループ)京都大学 三浦 孝一、蘆田 隆一 1.研究開発の目的 本研究では、重質炭化水素の熱分解、ガス化反応系での知見をベースとして、超臨界水 中における重質油の熱分解機構、ならびに脱硫・脱窒素・脱メタル反応機構を解明するこ とを目的としている。しかし、様々な成分の混合物である重質油の熱分解挙動は非常に複 雑であり、重質油そのものの熱分解挙動を調べてもその熱分解機構を詳細に把握するのは 困難である。そこで、重質油を性状の異なるいくつかの成分に分離して、それぞれの成分 の超臨界水中での熱分解挙動を追うことで、重質油そのものの熱分解機構を速度論的に解 明することを最終目標とする。また、解明した熱分解機構の知見に基づいて、単純な熱分 解に限らず触媒を利用するなど新たな超臨界技術応用プロセスの開発を目指す。 2.研究開発の内容 2.1 回分反応器を用いた超臨界水中でのビチューメン熱分解実験 2.1.1 検討内容 本研究では、重質油および重質油を分離した成分の超臨界水中での熱分解実験を実施し、 生成物を詳細にキャラクタリゼーションすることで、超臨界水中での重質油の熱分解挙動 を速度論的に明らかにすることを最終目標としている。本年度は、第一段階として、重質 油そのものの超臨界水中での熱分解挙動に及ぼす温度、ビチューメン/水比の影響を検討 した。超臨界水中での熱分解の対照実験として、窒素雰囲気中での熱分解実験も実施した。 また、分離方法の一つとして今年度は溶剤分別を採用し、分離された成分の超臨界水中で の熱分解挙動を調べた。 2.1.2 熱分解実験の方法 超臨界水中、窒素中、いずれの熱分解実験 にも、図2.1に示す回分反応器を用いた。 実験条件の詳細は、3.2で述べるが、操作 の概略は以下のとおりである。まず、SUS316 製の反応器 (外径 12.7 mm、肉厚 2 mm) に、 所定量の試料および水を投入し、その前後の 反応器重量から、投入した試料と水の重量を 測定した。圧力計やバルブを反応器に接続し た。バルブを介し反応器内に窒素を導入し、 加圧状態でリークチェックを行った。その後、 反応器内を十分窒素でパージした後、反応器内を 常圧の窒素雰囲気にしてバルブを閉じた。反応器 を 300°C に保たれた流動砂浴に入れ、流動砂浴の温度を 10 K/min で所定温度まで昇温した。 所定温度に達してから 30 分保持した後、反応器を流動砂浴から取り出し水で急冷した。生 成ガスはガスバッグに回収しガスクロマトグラフにより分析した。ガスを回収後、反応器 Stop valve Temperature controller Furnace Reactor Stop valve Temperature controller Furnace Reactor Stop valve Temperature controller Furnace Reactor Stop valve Temperature controller Furnace Reactor O.D. 12.7 mm Length 100 mm Thick 2.0 mm Amplifier 図2.1 回分反応器の概略図

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超臨界水を利用した重質油の水熱分解・改質技術の開発 (基盤技術研究グループ)京都大学 三浦 孝一、蘆田 隆一

1.研究開発の目的

本研究では、重質炭化水素の熱分解、ガス化反応系での知見をベースとして、超臨界水

中における重質油の熱分解機構、ならびに脱硫・脱窒素・脱メタル反応機構を解明するこ

とを目的としている。しかし、様々な成分の混合物である重質油の熱分解挙動は非常に複

雑であり、重質油そのものの熱分解挙動を調べてもその熱分解機構を詳細に把握するのは

困難である。そこで、重質油を性状の異なるいくつかの成分に分離して、それぞれの成分

の超臨界水中での熱分解挙動を追うことで、重質油そのものの熱分解機構を速度論的に解

明することを最終目標とする。また、解明した熱分解機構の知見に基づいて、単純な熱分

解に限らず触媒を利用するなど新たな超臨界技術応用プロセスの開発を目指す。

2.研究開発の内容

2.1 回分反応器を用いた超臨界水中でのビチューメン熱分解実験

2.1.1 検討内容

本研究では、重質油および重質油を分離した成分の超臨界水中での熱分解実験を実施し、

生成物を詳細にキャラクタリゼーションすることで、超臨界水中での重質油の熱分解挙動

を速度論的に明らかにすることを最終目標としている。本年度は、第一段階として、重質

油そのものの超臨界水中での熱分解挙動に及ぼす温度、ビチューメン/水比の影響を検討

した。超臨界水中での熱分解の対照実験として、窒素雰囲気中での熱分解実験も実施した。

また、分離方法の一つとして今年度は溶剤分別を採用し、分離された成分の超臨界水中で

の熱分解挙動を調べた。

2.1.2 熱分解実験の方法

超臨界水中、窒素中、いずれの熱分解実験

にも、図2.1に示す回分反応器を用いた。

実験条件の詳細は、3.2で述べるが、操作

の概略は以下のとおりである。まず、SUS316

製の反応器 (外径 12.7 mm、肉厚 2 mm) に、

所定量の試料および水を投入し、その前後の

反応器重量から、投入した試料と水の重量を

測定した。圧力計やバルブを反応器に接続し

た。バルブを介し反応器内に窒素を導入し、

加圧状態でリークチェックを行った。その後、

反応器内を十分窒素でパージした後、反応器内を

常圧の窒素雰囲気にしてバルブを閉じた。反応器

を 300°Cに保たれた流動砂浴に入れ、流動砂浴の温度を 10 K/minで所定温度まで昇温した。

所定温度に達してから 30 分保持した後、反応器を流動砂浴から取り出し水で急冷した。生

成ガスはガスバッグに回収しガスクロマトグラフにより分析した。ガスを回収後、反応器

Stop valve

Temperaturecontroller

Furnace

ReactorO.D. 12.7 mmLength 150 mmThick 2.0 mm

Amplifier

Stop valve

Temperaturecontroller

Furnace

ReactorO.D. 12.7 mmLength 150 mmThick 2.0 mm

O.D. 12.7 mmLength 100 mmThick 2.0 mm

Amplifier

Stop valve

Temperaturecontroller

Furnace

ReactorO.D. 12.7 mmLength 150 mmThick 2.0 mm

O.D. 12.7 mmLength 150 mmThick 2.0 mm

Amplifier

Stop valve

Temperaturecontroller

Furnace

ReactorO.D. 12.7 mmLength 150 mmThick 2.0 mm

O.D. 12.7 mmLength 100 mmThick 2.0 mm

Amplifier

図2.1 回分反応器の概略図

Page 2: 01 京都大 三浦 - JPEC 石油エネルギー技術センター®重量を量ることで物質収支を確認した。熱分解残渣を回収し、水と分離後、各種分析に

の重量を量ることで物質収支を確認した。熱分解残渣を回収し、水と分離後、各種分析に

供した。

2.1.3 ビチューメンの分離方法

重質油の分離方法として、本年度は溶剤分別を採用した。まず、室温においてビチュー

メンをペンタンで抽出し、ペンタン可溶分 (PS) とペンタン不溶分 (PI) を得た。ペンタ

ン不溶分 (PI) をさらにトルエンで室温において抽出し、ペンタン不溶トルエン可溶分

(TS) とトルエン不溶分 (TI) に分別した。得られた各成分は、室温で真空乾燥し溶剤を除

去後、重量を測定し、収率を決定した。

2.1.4 ビチューメンおよび熱分解生成物のキャラクタリゼーション

ビチューメンおよび熱分解残渣のキャラクタリゼーションとして、元素分析装置

(Yanako, CHN コーダ MT-6) および塩素硫黄分析計 (三菱化学株式会社, TOX-100) により

元素組成を、GPC (カラム: Shodex, KF-803L、フォトダイオードアレイ紫外可視検出器:

Shimadzu, SPD-M10AVP)、Vapor Pressure Osmometer (KNAUER, K-7000) により分子量を、1H NMR (Varian, 400-MR) を用いて水素形態分布を調べた。また、熱分解時に生成したガ

スはガスクロマトグラフ (Shimadzu, GC-12A) により定量した。

2.2 褐炭を利用した超臨界水中でのビチューメン改質の可能性検討

超臨界水中での重質油の熱分解による軽質化技術の開発に加え、超臨界水中での重質油

の他の高効率な改質方法を模索すべく、ここでは、重質油と褐炭の超臨界水中での共熱分

解の可能性を検討した。褐炭は、石炭の中で最も低品位の部類に属し、豊富な埋蔵量にも

かかわらず、ほぼ未利用である。安価で、かつ、しばしば低灰分、低硫黄分のクリーンな

資源であるため、将来的に利用拡大が見込まれる。褐炭は、石炭の中では比較的低温から

熱分解することが知られており、熱的に高活性であるため共熱分解による重質油成分との

大きな相互作用が期待できる。その相乗効果により、重質油のみならず褐炭の改質効果を

期待し、検討を行うこととした。ちなみに、褐炭の最大の欠点は、高酸素含有率であると

いう点である。これにより、褐炭は親水性が高く高含水率となってしまう。しかし、超臨

界水処理においては、褐炭が含む多くの水を除くことなくそのまま用いることができる点

が、プロセスの効率化に寄与するものと考えられる。熱分解実験は、2.1で述べた回分

反応器を用いて同様に行った。

2.3 触媒を利用した超臨界水中でのビチューメン

改質の可能性検討

超臨界水中での重質油の熱分解による軽質化技術の

他の、超臨界水中での重質油の高効率改質方法の一つ

として、当研究室で開発した Ni 担持炭素触媒 1)を用い

た重質油のガス化改質の可能性を検討した。用

いた Ni 担持炭素触媒の TEM 写真(図2.2)か

50 mm50 mm

図2.2 イオン交換樹脂から調製し

た Ni/炭素触媒の TEM 写真

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ら、金属 Ni の粒子径は 3~4 nm で均一で、かつ大量の粒子が高分散して存在していること

がわかる。また、BET 表面積も 180 m2/g と大きい。この Ni 担持炭素触媒は水熱ガス化に

対して高活性を示すことが示されており、ここでは、ビチューメンそのものと、2.1.

3で述べたペンタンで抽出分別した試料の Ni 担持炭素触媒を用いた水熱ガス化の可能性

を検討した。

3.研究開発の結果

3.1 ビチューメンのキャラクタリゼーション

本研究で注目している重質油

の分離は、重質油の詳細なキャ

ラクタリゼーションのためにも

有効であると考えられる。ここ

では、ビチューメンと、ビチュ

ーメンを溶剤分別により分離し

た成分の分析を行った。まず、

図3.1に溶剤分別のスキーム

と各成分の収率を示す。この結

果より、主要な成分であるペン

タン可溶分 (PS) とペンタン不

溶分 (PI) について分析を行う

こととした。

表3.1に、ビチューメンおよびペンタン可溶分 (PS)、ペンタン不溶分 (PI) の元素

分析値を示す。PS のほうが PI よりも水素含有率が大きく、PS のほうが脂肪族に富んでい

る可能性が示唆される。また、硫黄(酸素を含む)の含有率は PS で 4.3%であるのに対し

て、PI にはその倍近い 8.2%であった。硫黄や酸素は PI に多いと考えられる芳香環中に多

く含まれていると考えられる。ちなみに、表には、PS と PI の元素分析値と収率からビチ

ューメンの元素組成を再計算した値を示している。ビチューメンの元素組成と再計算値元

素組成が良好な一致を示していることから、この実験の精度の良さが伺える。このように、

ビチューメンを元素組成の異なる成分に分離することができた。

表3.1 ビチューメンおよびビチューメン溶剤分別物の元素分析値

次に、ビチューメン、およびペンタン可溶分 (PS)、ペンタン不溶分 (PI) の GPC 測定

を実施した。GPC の結果から得られた分子量分布を図3.2に示す。図において、クロマ

トグラムを積分した総面積がそれぞれの収率に対応するように強度が調整されている。図

より、ビチューメンの分子量は 100 程度から数万に分布し、分子量 380 付近に分布のピー

Bitumen

Pentane soluble (PS) Pentane insoluble (PI)

Toluene soluble (TS) Toluene insoluble (TI)

78% 22%

Pentane

Toluene

20.5% 1.5%

Bitumen

Pentane soluble (PS) Pentane insoluble (PI)

Toluene soluble (TS) Toluene insoluble (TI)

78% 22%

Pentane

Toluene

20.5% 1.5%

C H N O+S [diff]

bitumen 84.0 10.3 0.8 4.9pentane soluble (PS) 84.1 10.8 0.8 4.3pentane insoluble (PI) 81.9 8.5 1.4 8.2PS+PI (calculated) 83.6 10.3 0.9 5.2

SampleUltimate analyses [wt%, d.a.f.]

図3.1 ビチューメン溶剤分別のスキームと各成

分の収率

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クを持った。PS の分子量分布では、ビ

チューメンの分子量分布の高分子量側

の強度が小さくなっていた。一方、PI

は高分子量側の成分を相対的に多く持

つ分布であった。図に、PS+PI で示さ

れている曲線は、PS と PI の強度を足

して求めた計算値である。PS+PI の分

布とビチューメンの分布はよく一致し

ており、実験の妥当性を示している。

Vapor Pressure Osmometer を用いて測

定されたビチューメン、PS、PI の数平

均分子量は、それぞれ、596.5、555、

1322.6 であった。これは、GPC 測定結

果の傾向と矛盾しない。PS、PI の収率

を考慮して、元のビチューメンの数平

均分子量を計算すると、631 となり、測定値 596.5 とよい一致を示している。このように、

溶剤分別によって、数平均分子量で、約 770 も異なる成分に分離できたことがわかる。

表3.2 ビチューメン、PS、PI の水素形態分布および構造パラメータ

ビチューメン、PS、PI の 1H NMR スペクトルより求めた水素形態分布および構造パラメ

ータを表3.2に示す。水素形態は、芳香族水素、芳香環に対してα位の炭素に付いた水

素、芳香環に対してβ位以上の炭素に付いた水素、末端メチル基に付いた水素の 4 種に分

類され、各々の相対量を Har、 Hα、 Hβ、 Hγで表す。表より、PS よりも PI のほうが芳香

族水素に富んでいることがわかる。

3.2 回分反応器を用いた超臨界水中でのビチューメン熱分解実験

試料には、ビチューメン、およびビチューメンを溶剤分別して得られたペンタン可溶分

(PS)、ペンタン不溶分 (PI) を用いた。表3.3に各実験条件を示す。表中、T、P、t は

それぞれ最終温度、最終温度における圧力、最終温度における保持時間を示している。Run

1 から Run 3 はビチューメンを試料とし、異なる温度の超臨界水中で熱分解した実験、Run

4 から Run 6 は、Run 1 から Run 3 の対照実験として、ビチューメンを同じ回分反応器を用

いて窒素中で熱分解した実験である。Run 7、8、2 は、異なるビチューメン/水比で、420°C

の超臨界水中熱分解した実験で、Run 9、10 はペンタン可溶分(PS) を試料として用い、420°C

の超臨界水中で熱分解した実験である。

Abs

orba

nce

[a.u

.]101 102 103 104 105

Mw

λ = 240 nm

bitumen

PS

PI

PS+PI

H ar H α H β H γ f a H au/C ar σ

Bitumen 7.3 13.0 50.4 29.2 0.39 0.70 0.61

Pentane soluble (PS) 7.3 5.8 41.9 45.0 0.40 0.62 0.55

Pentane insoluble (PI) 10.5 12.3 39.1 38.2 0.52 0.74 0.66

PS+PI (calc.) 8.0 7.2 41.3 43.5 0.43 0.40 0.58

Hydrogen distribution [%] Structural parameter [-]

図3.2 GPC により測定したビチューメン、

PS、PI の分子量分布

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表3.3 回分反応器を用いた超臨界水中でのビチューメン、ペンタン可溶分 (PS) の熱

分解実験条件

3.2.1 熱分解温度の影響

ビチューメンを超臨界水中および窒素中で異なる温度で熱分解したときの生成物の収

率を図3.3に示す。熱分解温度が 400°C のときは、超臨界水中、窒素中ともに、ガスの

収率は数%程度であり、それほど熱分解が進行していないと考えられる。熱分解温度が

420°C になると、400°C のときに比べ、超臨界水中、窒素中ともにガスの生成量が増え、熱

分解残渣の収率が減った。420°C では、

窒素中で熱分解した場合と比較して、

超臨界水中で熱分解した場合には生成

ガス収率が 2 倍近くもあった。熱分解

温度が 420°C になると、さらに生成ガ

ス収率が増え、熱分解残渣の収率が減

った。420°C のときと同様に、450°C で

も、窒素中で熱分解した場合と比較し

て、超臨界水中で熱分解した場合には

生成ガス収率が 2 倍近くもあった。生

成ガスはそのほとんどが炭化水素ガス

であり、CO2などの無機ガス収率は無視

小であった。これらのガスは、脂肪鎖

の炭素間の結合の解裂により生成した

ものと推察され、超臨界水中のほうが、

脂肪鎖の熱分解が進行している可能性が

示唆される。

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.0

Yie

ld [k

g/kg

]

400 C 420 C 450C

N2SCW

residue

gas

Run # Abbreviation Sample Sample weight [g] H2O weight[g] T [°C] P [MPa] t [min]

1 SCW-400 Bitumen 2.0 2.5 400 30.2 30

2 SCW-420 Bitumen 2.0 2.5 420 33.6 30

3 SCW-450 Bitumen 2.0 1.5 450 40.0 30

4 N2-400 Bitumen 2.0 - 400 0.7 30

5 N2-420 Bitumen 2.0 - 420 1.9 30

6 N2-450 Bitumen 2.0 - 450 4.8 30

7 SCW-420-0.2/2.5 Bitumen 0.2 2.5 420 30.5 30

8 SCW-420-0.5/2.5 Bitumen 0.5 2.5 420 32.2 30

(2) SCW-420-2.0/2.5 Bitumen 2.0 2.5 420 33.6 30

9 PS-SCW-400 Pentane soluble 2.0 2.5 400 33.5 30

10 PS-SCW-420 Pentane soluble 2.0 2.5 420 43.3 30

図3.3 ビチューメンを超臨界水中および窒

素中で熱分解したときの熱分解温

度が生成物収率に及ぼす影響(Run

1 から Run 6)

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表3.4 ビチューメンを超臨界水中および窒素中で異なる温度で熱分解したときの熱分

解残渣の元素分析値(Run 1 から Run 6)

次に、ビチューメンを超臨界水中および窒素中で異なる温度で熱分解したときの生成物

のキャラクタリゼーションを行った。表3.4に、ビチューメンを超臨界水中および窒素

中で異なる温度で熱分解したときの熱分解残渣の元素分析値を示す。超臨界水中、窒素中

いずれの場合も、熱分解温度が高いほど熱分解残渣の炭素、酸素含有率が大きく、水素、

硫黄含有率が小さくなった。これは、脂肪族炭化水素ガスの生成にともない比較的水素リ

ッチなガスが生成し、含酸素ガスの生成が認められなかったことと矛盾しない。また、硫

黄を含んだガスが生成している可能性を示している。超臨界水中で熱分解した場合の方が、

窒素中で熱分解した場合よりも、熱分解残渣の水素、硫黄含有率が小さく、酸素含有率が

大きい傾向が見られた。まず、水素については、超臨界水中のほうが窒素中よりも熱分解

が進行し炭化水素ガスが多く生成した傾向と一致する。また、硫黄含有率の違いについて

は、超臨界水中のほうが窒素中より脱硫黄反応が促進されている可能性が示唆される。酸

素の含有率が超臨界水中の熱分解残渣のほうが大きい理由としては、超臨界水中の熱分解

においては、熱分解中に水からの酸素が移行した、すなわち水分子が熱分解反応に関与し

ている可能性が示唆される。

図3.4 ビチューメンを超臨界水中(左図)および窒素中(右図)で熱分解したときの

熱分解温度が熱分解残渣の分子量分布に及ぼす影響(Run 1~Run 6)

ビチューメンを超臨界水中および窒素中で異なる温度で熱分解したとき熱分解残渣の

分子量分布を図3.4にそれぞれ示す。図は、クロマトグラムの面積が各熱分解残渣の収

率に相当するようにプロットされている。超臨界水中、窒素中いずれの場合も、熱分解温

度の高いほど分子量分布が明らかに低分子量側にシフトした。400°C において、分子量

C H N S O [diff]bitumen 84.0 10.3 0.8 3.9 1.0SCW-400 83.6 9.5 0.8 3.5 2.6SCW-420 83.5 9.0 0.8 3.4 3.3SCW-450 85.0 5.7 1.1 3.4 4.8N2-400 83.5 10.0 0.8 3.7 2.0N2-420 82.8 9.6 0.8 3.6 3.2N2-450 85.3 6.9 1.1 3.5 3.2

SampleUltimate analyses [wt%, d.a.f.]

Run 1Run 2Run 3Run 4Run 5

Run 6

C H N S O [diff]bitumen 84.0 10.3 0.8 3.9 1.0SCW-400 83.6 9.5 0.8 3.5 2.6SCW-420 83.5 9.0 0.8 3.4 3.3SCW-450 85.0 5.7 1.1 3.4 4.8N2-400 83.5 10.0 0.8 3.7 2.0N2-420 82.8 9.6 0.8 3.6 3.2N2-450 85.3 6.9 1.1 3.5 3.2

SampleUltimate analyses [wt%, d.a.f.]

Run 1Run 2Run 3Run 4Run 5

Run 6

Abs

orba

nce

[a.u

.]

101 102 103 104 105

Mw

bitumen

N2-400

N2-420

N2-450

λ = 240 nm

Abs

orba

nce

[a.u

.]

101 102 103 104 105

Mw

bitumen

SCW-400

SCW-420

SCW-450

λ = 240 nm

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10000 を越える成分はなくなり、分子量数百の成分が増加している。熱分解温度が 420°C、

450°C となるにつれ、この傾向はさらに顕著になった。このように、超臨界水中、窒素中

いずれの場合も、熱分解による軽質化が確認されたが、450°C の熱分解残渣においては、

試料が移動相 THF 溶媒に完全に溶解したとは言いがたく、この GPC による分析では検出で

きなかった高分子量成分、すなわち重質化した成分も存在する可能性がある。超臨界水中

で熱分解した場合と、窒素中で熱分解した場合を比較すると、まず、大きな違いとして、

ビチューメンに存在した分子量約 380 の鋭いピークが超臨界水中の熱分解残渣ではどの熱

分解温度でも存在するものの、窒素中の熱分解ではどの熱分解温度でも消失していたこと

が挙げられる。明らかに、両者で熱分解挙動が異なることを示唆している。分子量約 380

の鋭いピーク以外の分布で、超臨界水中の熱分解残渣と、窒素中の熱分解残渣を比較する

と、400°C ではさほど大きな違いは見られないが、420°C では、超臨界水中の熱分解残渣の

ほうが窒素中の熱分解残渣よりも高分子量成分が少なく低分子量成分が多かった。420°C

において、超臨界水中のほうが窒素中よりも軽質化が進行していると言える。450°C では、

やや窒素中の熱分解残渣のほうが低分子量成分が多いように見えるが、THF に溶解してい

ない部分を考慮に入れる必要があり、この点については今後の課題である。

ビチューメンを超臨界水中および窒素中で異なる温度で熱分解したときの熱分解残渣

の 1H NMR 測定より求めた水素形態分布を、ビチューメンの水素基準で、図3.5に示す。

400°C では、超臨界水中、窒素中いずれの熱分解残渣も、ほぼ同じ水素の分布が見られた。

芳香族水素の量はビチューメンとほぼ変わらず、脂肪族水素のみが減少した。これは、脂

肪族部位の熱分解に伴って、脂肪族炭化水素ガスが生成したことによるものと考えられる。

420°C では、超臨界水中、窒素中いずれの熱分解残渣も脂肪族水素が 400°C の熱分解残渣

より減少したが、超臨界水中の熱分解のほうが、より脂肪族水素が減少した。芳香族水素

については若干の増加にとどまってお

り、この温度においても脂肪族部位の

分解が支配的に起こっていることを示

唆している。一方、450°C では、超臨

界水中、窒素中いずれの熱分解残渣に

おいても、大きく水素量が減少した。

超臨界水中、窒素中の熱分解残渣間で

比較すると、芳香族水素の量はほぼ同

じであったが、脂肪族水素の量が、超

臨界水中の熱分解残渣のほうが大きく

減少していることがわかる。以上のこ

とから、420°C 以上において、超臨界

水中の熱分解と窒素中の熱分解の挙動

に違いが見られ、脂肪族部位分解の

反応性が超臨界水中のほうが窒素中

よりも大きいというのが主な違いで

あることが明らかとなった。

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.0

Hyd

roge

n di

strib

utio

n [k

g/kg

-H in

bitu

men

]

Bitu

men

SCW

-400

SCW

-420

SCW

-450

N2-

400

N2-

420

N2-

450

Har

図3.5 ビチューメンを超臨界水中および窒素

中で異なる温度で熱分解したときの熱

分解残渣のビチューメン基準の水素形

態分布(Run 1~Run 6)

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3.2.2 ビチューメン/水比の影響

ビチューメンの回分反応器を用いた超臨界水中での熱分解実験において、ビチューメン

/水比の影響を検討したところ(Run 7、8、2)、生成ガス、熱分解残渣収率は、投入した

ビチューメン/水比によらず、ほぼ一定であり、生成ガス、熱分解残渣収率にビチューメ

ン/水比は影響を与えないことがわかった。しかし、ビチューメン/水比が大きいほど、

すなわち超臨界水中のビチューメン濃度が高いほど、熱分解残渣が軽質化しており、超臨

界水中における熱分解速度がビチューメン濃度に大きく依存することが明らかとなった。

3.2.3 溶剤分別したビチューメンの熱分解挙動

ビチューメンを溶剤分別して得られたペ

ンタン可溶分 (PS) の超臨界水中での熱分解

挙動を調べた。ペンタン可溶分 (PS) を

400°C、420°C の超臨界水中で熱分解すると、

生成ガスの収率は、いずれも数%とわずかであ

った。このことから、ビチューメンそのもの

の超臨界水中熱分解において生成した炭化水

素ガスの多くは、ペンタン不溶分 (PS) から

来るものであることがわかった。

図3.6にペンタン可溶分 (PS) を超臨界

水中で熱分解したときの熱分解残渣の分子量

分布とビチューメンを超臨界水中で熱分解し

たときの熱分解残渣の分子量分布を比較する。

ペンタン可溶分 (PS) の超臨界水中の熱分解

残渣にはなくなっていた分子量約 380 の鋭い

ピークが、ビチューメンの超臨界水中の熱分

解残渣には依然として存在した。これは、ペ

ンタン可溶分 (PS) に含まれる分子量約 380 の成分が、ペンタン不溶分 (PI) に含まれる

分子量約 380 の成分よりも分解しやすいことを示している。また、熱分解温度が 400°C の

ときには、分子量 300 以下の成分の分布はペンタン可溶分 (PS) の熱分解残渣とビチュー

メンの熱分解残渣でほぼ同じであったことから、この温度では最も軽質になる成分はペン

タン可溶分 (PS) から来るものであることがわかる。一方、熱分解温度が 420°C のときに

は、分子量 300 以下の成分はペンタン可溶分 (PS) の熱分解残渣よりもビチューメンの熱

分解残渣に多かった。このことから、この 420°C では、ペンタン不溶分 (PI) においても

かなりの軽質化が進んでいることがわかる。このように、分離された成分の熱分解挙動を

追うことで、ビチューメン全体の熱分解挙動を詳細に把握することができる。

3.3 超臨界水中でのビチューメンと褐炭の共熱分解実験

重質油と褐炭の超臨界水中での共熱分解を実施したところ、420°C において、わずかで

はあるが分解率が向上することが明らかとなった。

Abs

orba

nce

[a.u

.]

101 102 103 104 105

Mw

bitumen

PSPS-SCW-400

PS-SCW-420

SCW-420

SCW-400

図3.6 ペンタン可溶分 (PS) およびビチュー

メンを 400°C、420°C の超臨界水中で

熱分解したときの熱分解残渣の分子

量分布(Run 9、10、1、2)

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3.4 超臨界水中でのニッケル担持炭素触媒を用いたビチューメンガス化改質

試料には、ビチューメン (BT)、およ

びビチューメンを溶剤分別して得られ

たペンタン可溶分 (PS)、ペンタン不溶

分 (PI) を用いた。図3.7に各実験

で得られた生成ガスの炭素基準での収

率を示す。ビチューメンは、350°C に

おいても 18%程度ガス化され、400°C

においては 46%もガス化され、CH4、CO2

と H2 へ転換された。ペンタン可溶分

(PS) は、400°C において 49%もがガス

化された。ペンタン不溶分 (PI) も、

400°C において 39%がガス化された。ビ

チューメンを超臨界水で処理した後には、

見た目はビチューメンに近い残渣が得ら

れるが、触媒を用いて水熱ガス化を行った後には、ビチューメンのような残渣は得られず、

ワックス状の残渣が観察された。このことから、本触媒を用いてより低温でビチューメン

を改質できる可能性が示唆された。

4.まとめ

回分反応器を用いてビチューメンの超臨界水中での熱分解挙動を検討した。窒素中の熱

分解と比較すると、400°C までは熱分解挙動にあまり差はなかったが、420°C 以上では、超

臨界水中のほうが脂肪族部分の熱分解速度が速いことが示された。また、ビチューメン/

水比が大きいほど軽質化がより進行することがわかった。

本研究開発で柱となっている、熱分解の前処理としてのビチューメン分離方法の一つと

して溶剤分別を採用し、ビチューメンのペンタン可溶分の超臨界水中熱分解挙動を検討し

たところ、同成分は 400°C までは軽質化が大きく進行するものの 400°C から 420°C におい

てはあまり変化が起こらないことが明らかとなった。これは、ビチューメン全体の熱分解

挙動とは異なっており、分離した成分ごとに熱分解挙動を追うことで、ビチューメン全体

の熱分解挙動を詳しく把握できる可能性が示唆された。

超臨界水中での重質油の熱分解による軽質化技術の開発に加え、他の超臨界水中での高

効率な重質油の改質方法を模索すべく、重質油と褐炭との超臨界水中での共熱分解の可能

性を検討した。共熱分解によって、わずかではあるが分解率が向上することが明らかとな

った。また、我々が開発した Ni 担持炭素触媒を用いて、ビチューメンの超臨界水中でのガ

ス化を試みたところ、400°C においてビチューメンが 46%もガス化され、CH4、CO2と H2へ転

換された。ガス化されなかった残渣の部分がかなり軽質化しているように見られ、本触媒

を用いてより低温でビチューメンを改質できる可能性が示唆された。

参考文献

1) Nakagawa et al., Fuel 83, 719–725 (2004)

0.6

0.5

0.4

0.3

0.2

0.1

0.0G

as y

ield

[mol

-C/m

ol-C

]BT-350 BT-400 PS-400 PI-400

CO2

CH4

H2

HCG

図3.7 ビチューメン、ならびにペンタン

分別物の水熱ガス化実験結果

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超臨界水を利用した重質油の水熱分解・改質技術の開発 (基盤技術研究グループ)東北大学 渡邉 賢

1.研究開発の目的

現在、私達の生活は石油などの化石燃料に大きく依存している。しかし、化石燃料は

有限な資源であり、2006 年時点での石油の可採年数は約 40 年 1)と言われている。これは

採算に合わない油田は「採掘可能な埋蔵量」から除外されているため、原油価格の上昇に

加え、新たな油田の発見や、オイルサンドの超重質油の利用、原油回収技術の向上により

増加することが予想され、絶対的な数字ではない。しかしながら、将来的には必ず枯渇す

るということは確かである。

また、石油は炭化水素であるため、燃焼により CO2 と H2O が発生する。CO2 は他の温室

効果ガスに比べても温室効果係数が低いにもかかわらず、その排出量の急激な増加により

影響は も大きいとされており、化石燃料の使用は地球温暖化の主要因であることは言う

までもない。さらに、石油中には硫黄や窒素が不純物として含まれており燃焼によって

SOX や NOX を生成する。これらは大気汚染物質であるために、石油精製には脱硫、脱窒素

などの工程が必須である。

また、近年の石油情勢は、中国やインドなどの発展途上国の目覚しい経済成長により石

油需要が拡大する一方で、イラク戦争などを背景とする中東情勢の悪化により供給が減少

し需給が逼迫したことに加え、2007 年のアメリカ合衆国のサブプライムローン問題に起

因する石油市場の投機対象化が起こり、ますます原油価格の高騰が加速化した。

このような現状から、石油資源に代替する新エネルギーに関する研究が世界中で盛んに

行われている。主なものとしては、成長過程に光合成により CO2 を取り込んだ植物は燃焼

させて CO2 を生成しても、系全体としては増減がないというカーボンニュートラルの考え

が適用できるバイオマスエネルギー、燃焼によって生成するのは水のみというクリーンな

燃料である水素エネルギー、無尽蔵でクリーンである太陽エネルギーなどが挙げられる。

しかし、現状としてこれらは石油に取って代わるほどの実用性を有しておらず、もう一つ

の視点として、有限な石油資源をいかに有効活用して、将来的な脱石油依存社会へソフト

ランディングしていくかが重要である。

石油資源の有効活用法の一つとして、重質油のアップグレーディングプロセスが挙げ

られる。成分別に見た世界の石油消費量の変遷によれば石油製品の中でも、軽質成分の需

要が増加する一方、重質成分の需要はほぼ横ばいか、もしくは減少している 1)。さらに、

年々供給される原油は重質化傾向にある。このため、重質成分を軽質化して需要の低い油

を有効活用する技術に注目が集まっており、重質油を高効率にアップグレーディングする

技術の開発は急務である。

既存の重質油アップグレーディングプロセスは大別して炭素除去型と水素添加型の2種

類に分けられる 2)。多くの石油精製プラントにおいて稼動している炭素除去型プロセスと

してはコーキングプロセス、水素添加型プロセスとしては HDS (Hydrodesulfurization)

プロセスなどがそれぞれ挙げられる。また、前者が熱分解による軽質化を、後者は水素化

による脱硫などの不純物除去を主な目的としている。これらのアップグレーディングプロ

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セスにおける現状の問題点は、いずれも cokes 生成が関与している。例えば、コーキン

グプロセスにおいては不要な cokes を大量に生成してしまい、HDS プロセスにおいては触

媒表面上における cokes 生成が高価な触媒を失活させてしまう。以上より重質油のアッ

プグレーディングを高効率に行うためには、いずれのプロセスにおいても cokes 生成を

抑制することが重要となる。

Towfighi らは、cokes の生成メカニズムとして(1)触媒表面上での吸着、(2)重

質油中のさらに重質な成分である asphaltene に含まれる多環芳香族が、π-π相互作用な

どによってスタッキングすることによって凝集し、cokes 前駆体となることによる更なる

多環化、(3)asphaltene(cokes 前駆体)への高活性な radical や alkene の付加重合

の 3 種類があると報告 3)している。また、Sato は cokes 生成には asphaltene が密接に関

連していると報告 4), 5)し、quinoline などの極性溶媒によって asphaltene の凝集を緩和

した状態で熱処理を行うことで cokes 生成の抑制が可能であると推測している。ここ

で、Kumagai らは溶媒による asphaltene の凝集緩和の度合いが、溶解度パラメーターと

相関すると報告 6)しており、それらを操作する事によって asphaltene の凝集緩和を制御

できる可能性がある。

ここで、重質油を高効率で軽質化させる反応場として超臨界水の適用を検討する。超臨

界水とは、水の臨界点(Pc = 22.1 MPa, Tc = 374.1℃, ρc = 0.322 g/cm3)以上の水の

総称である。超臨界水は、温度、圧力の操作によって物性を制御可能 7)であるため、様々

な有機反応や廃棄物の分解プロセスに関する研究 7), 8)が行われてきた。しかし、重質炭

化水素については、水が炭化水素のラジカル反応に関与しないという推測から長らく研究

の対象系とされてこなかった。しかし、近年の研究により、水自体が反応機構に関与する

ことはないものの、水の存在によって相を制御でき、その結果軽質化反応の進行が促進さ

れる可能性 9), 10)が示唆された。さらに、水のかご効果によって炭化水素のラジカル反応

における重合反応を抑制できる可能性 10)も示唆された。この事は、超臨界水を反応場と

した重質油の軽質化プロセスが cokes 生成を抑制しつつ、軽質化を促進できる可能性が

ある高効率な軽質化プロセスとなりうることを示唆している。

そこで当研究開発において Towfighi らの報告にある 3 つの cokes 生成メカニズムのう

ち、研究は僅少である cokes 前駆体への高活性な軽質分の関与に関する検討を行うこと

とした。具体的には、高活性な軽質分として n-alkylbenzene を選択し、その熱分解にお

よぼす鎖長の影響と超臨界水の影響について実験を行った。続いて、超臨界水中での熱分

解による重質油の軽質化実験について、実験的に検討を行った。それらの結果を考慮しな

がら、続いて超臨界水水中での熱分解による asphaltene の軽質化実験について、高活性

な軽質分が cokes 生成に及ぼす影響という観点から実験的事実を元に考察した。

2.研究開発の内容

2.1 試薬

2.1.1 n-alkylbenzene の熱分解

本実験には、試料として Wako および Aldrich 製の n-alkylbenzenes を使用した。また

使用する超純水は全て超純水製造装置(ADVANTEC 製、CPW-100、18 MΩ・cm)で製造した

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ものを使用した。

2.1.2 重質油の軽質化反応

重質油としてカナダ産のオイルサンドビチュメンを使用した。超純水などは上述の n-

alkylbenzene の熱分解と同じものを用いた。

2.1.3 asphaltene の軽質化反応

試料として、上述の重質油の軽質化反応で用いたオイルサンドビチュメンの

asphaltene を使用した。この asphaltene は、約 10 g のビチュメンに対し、約 300 mL の

n-hexane (Wako, HPLC grade)を加え、membrane filter (Millipore, pore size 0.45

μm, diameter φ 90)を用いて減圧濾過することによって精製した。ここで、原料油中に

含まれる cokes は十分に無視できるほど少ないと仮定した。また、軽質分のモデルとし

ては dodecylbenzene (Aldrich)を選択した。これは、熱分解によって反応性の高い

radical や alkene を生成する可能性があること、比較的分子量が大きく、また芳香環の

π−π相互作用によって asphaltene へのスタッキング効果が狙えるという理由によるもの

である。

2.2 反応器

いずれの実験においても反応器として Tube bomb reactor (SUS316, inner volume 6

cm3)を使用した。本反応器は長さ 105.5 mm、外径 1/2 inch(12.7 mm)、肉厚 2.1 mm

(内径 8.5 mm)の SUS316 製 1/2 inch チューブの両端に、SUS316 製 1/16-1/2 inch 径違

いユニオン(Swagelok 社製、SS-810-6-1ZV)、SUS316 製 1/2 inch キャップ(Swagelok

社製、SS-810-C)をそれぞれ装着することにより製作した。また、試料を仕込んだ後

に、SUS316 製 1/16 inch プラグ(Swagelok 社製、SS-110-P)を径違いユニオンに接続し

た。反応器の材質として用いた SUS316 は Fe、Cr、Ni、Mo などの金属元素を含んでい

る。このため、本反応器をそのまま用いて実験を行った場合、反応器内表面の金属元素が

触媒作用によって反応に関与し、実験結果に誤差が生じる可能性が考えられる。このた

め、本研究では反応器内表面に酸化被覆を施すことで、触媒作用による実験誤差を低減で

きると仮定して反応器を使用した。酸化処理は反応器に 10 wt%過酸化水素水(Wako、30

wt%過酸化水素水を超純水で 3 倍に希釈)を約 3 g 仕込み、673 K で 30 min 以上反応させ

ることで行った。

2.3 実験手順

2.3.1

n-alkylbenzene の熱分解

Fig.2.1 に実験手順の概略

図および実験条件を示す。

まず、反応器に所定量の

試料、超純水を仕込み、気相

を反応に不活性な Ar ガスで

置換した。試料仕込み量を

0.6 g、水仕込み量を

Tube bomb reactor(SUS316, inner volume 6 cm3) Molten salt bath Water bath

at room temp.

n-Alkylbenzene 0.6~1.2 gWater 0~1.2 gAr gas 0.1 MPa

Experimental conditionsTemperature : 723 KReaction time : 30 minWater density : 0~200 kg/m3

Fig. 3.2 Experimental procedure for tube bomb reactor and experimental conditions

Tube bomb reactor(SUS316, inner volume 6 cm3) Molten salt bath Water bath

at room temp.

n-Alkylbenzene 0.6~1.2 gWater 0~1.2 gAr gas 0.1 MPa

Experimental conditionsTemperature : 723 KReaction time : 30 minWater density : 0~200 kg/m3

Fig. 3.2 Experimental procedure for tube bomb reactor and experimental conditionsFig.2.1

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0~1.2 g、Ar ガス圧力は大気圧とした。反応は 723 K の溶融塩に反応器を投入するこ

とで開始とし、常温で水浴を行うことで停止させた。また、反応初期の約 1 分間は、目

的温度までの速やかな昇温、反応物の攪拌を目的とし、反応器を縦に振蕩させた。

2.3.2 重質油および asphaltene の軽質化反応

実験は、まず

反応器に所定量の

試料、超純水、攪

拌球(SUS304

製、φ 3.17)5 個

を仕込み、気相を

反応に不活性な

Ar ガスで置換し

た。ここで、攪拌

球は反応器内の重

質油相と水相を十

分に混合する役割

があると考える。

試料仕込み量を

0.6 g、水仕込み量を 0~1.2 g、Ar ガス圧力は大気圧とした。Fig.2.2 に反応の概略図お

よび実験条件を示す。

反応は 723 K の溶融塩に、両端に針金を巻きつけた反応器を横向きに投入することで

反応開始とし、常温で水浴を行うことで停止させた。またその間、目的温度までの速やか

な昇温、反応物の攪拌を目的とし、反応器を振蕩させた。実験条件は温度 723 K、水密度

0~200 kg/m3、反応時間 7~30 min とした。

2.4 回収および分析方法

2.4.1 n-alkylbenzene の熱分解

反応後、生成物を約 40 mL の THF (tetrahydrofuran, with no stabilizer)によって

全回収した。回収した溶液は、万が一 cokes のような固形物が生成した場合に備えて

membrane filter (Millipore, pore size 0.45 μm, diameter φ 47)を用いて減圧濾過し

た。

濾液は、GC-FID(Hewlett Packard 社製、HP6890)によって構造分析を行った。さらに

GC-FID では定性できなかった分子量の大きい生成物を分析するために MALDI-TOFMS(㈱

島津製作所製、AXIMA-CFR Plus)によって分子量分布を測定し、TLC-FID(㈱三菱化学ヤ

トロン製、イアトロスキャン MK-6)によって構造分析を行った。TLC-FID による分析は

SARA 分析法に基づくものであり、GC-FID と比べて詳細な分析が可能である 11)。GC-FID

による分析では n-alkylbenzene の熱分解による主生成物と報告 12)されている濃度既知の

toluene と styrene の THF 溶液を用いて検量線を作成することで定性および定量を行っ

た。

Tube bomb reactor(SUS316, inner volume 6 cm3) Molten salt bath Water bath

at room temp.

Oilsand bitumen 0.6 gWater 0~1.2 g5 stirrer ballsAr gas 0.1 MPa

Experimental conditionsTemperature : 723 KReaction time : 7~30 minWater density : 0~200 kg/m3

Fig. 4.1 Reaction procedure for tube bomb reactor and experimental conditions

Tube bomb reactor(SUS316, inner volume 6 cm3) Molten salt bath Water bath

at room temp.

Oilsand bitumen 0.6 gWater 0~1.2 g5 stirrer ballsAr gas 0.1 MPa

Experimental conditionsTemperature : 723 KReaction time : 7~30 minWater density : 0~200 kg/m3

Fig. 4.1 Reaction procedure for tube bomb reactor and experimental conditionsFig.2.2

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2.4.2 重質油および asphaltene の軽質化反応

本実験では溶剤を用いて液体・固体生成物を maltene、asphaltene、cokes の 3 つのフ

ラクションに分別して回収した。また n-alkane として n-hexane を使用した。これは n-

pentane では揮発性が高いため回収後の溶液保存が困難であること、n-heptane では

asphaltene に近い構造を持つものが maltene として回収される懸念があるという理由に

よるものである。

Fig.2.3 に回収および分析方法の概略図を示す。反応後、液体生成物は membrane

filter (Millipore, pore size 0.45 μm, diameter φ 90)を用いて溶剤分別した。ま

ず、水相を water-soluble として分離した。その後、n-hexane (Wako, HPLC grade)によ

って反応管内を洗浄し、回収溶液を減圧濾過した。濾液を、n-hexane 可溶分として

maltene-hexane 溶液とした。次に toluene (Wako, HPLC grade)によって再度反応管内を

洗浄し、回収溶液を濾紙上に残っていた生成物の上から再度減圧濾過した。濾液を n-

hexane 不溶かつ toluene 可溶分として asphaltene-toluene 溶液とした。また、toluene

不溶分として濾紙上に残った固体生成物を cokes とした。回収後、asphaltene はロータ

リーエバポレーターによって、cokes は濾紙を恒温槽で乾燥させる事によってそれぞれ溶

剤を除去し、重量を測定した。

また、asphaltene は重量測定後、再度約 100 mL の toluene によって再回収し、MALDI-

TOFMS(㈱島津製作所製、AXIMA-CFR Plus)によって分子量分布を、TLC-FID(㈱三菱化

Fig. 4.2 Recovery diagram and methods of analysis(Definition of maltenes, asphaltenes and cokes)

Cokes

Product

n-hexane

Maltenes-hexane solution

toluene

Asphaltenes

soluble

insoluble

evaporation

Asphaltenes-toluene solution

Weight measurementMALDI-TOFMSTLC-FID

GC-FIDMALDI-TOFMSTLC-FID

aqueous layerWater-solubles

oil layer

solubleinsoluble

Weight measurement

Filter

Fig. 4.2 Recovery diagram and methods of analysis(Definition of maltenes, asphaltenes and cokes)

Cokes

Product

n-hexane

Maltenes-hexane solution

toluene

Asphaltenes

soluble

insoluble

evaporation

Asphaltenes-toluene solution

Weight measurementMALDI-TOFMSTLC-FID

GC-FIDMALDI-TOFMSTLC-FID

aqueous layerWater-solubles

oil layer

solubleinsoluble

Weight measurement

Filter

Fig.2.3

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学ヤトロン製、イアトロスキャン MK-6)によって構造分析を行った。展開溶媒は n-

hexane、toluene、dichloromethane : methanol = 57 : 3 の混合溶液の 3 種類を用い、

展開時間を調節して saturates、aromatics、resins、asphaltenes の 4 つのフラクショ

ンに分離し、FID で検出した。

ところで、本来ならば maltene に関してもエバポレーションにより溶剤を除去し重量

測定する事が望ましいと考える。しかし、反応後の maltene に含まれる化合物は揮発性

のものも多く標準沸点が 342 K 程度である n-hexane のみを除去することは困難である。

このため、maltene はエバポレーションにおいて軽質分が損失するために定量性を大きく

欠くと考える。よって maltene に関しては重量測定を行わず、GC-FID、MALDI-TOFMS、

TLC-FID によって分析を行った。

asphaltene、cokes の収率は eq. (1)、maltene の収率は eq. (2)によりそれぞれ算出

した。

3.研究開発の結果

3.1 n-alkylbenzenes の熱分解

本実験では均一相を形成するモデル化合物である n-alkylbenzenes の熱分解に及ぼす

水の影響を検討する目的で行ったが、いずれの実験においても水の有無による転化率や生

成物分布への影響はほとんど認められなかった。また、本実験条件では cokes は生成し

なかった。

しかしながら、n-alkylbenzenes の転化率がいずれの場合においても約 70~90 %であ

ったのに対し、n-alkylbenzenes の熱分解の主生成物であると考えられていた toluene で

も 大収率約 13 %と、GC-FID の結果はマスバランスがとれていなかった。これは、GC-

FID では分析できない分子量の大きい生成物の存在を示唆している。そこで、MALDI-

TOFMS によって分子量分布を測定した。その結果、いずれの実験においても原料の n-

alkylbenzenes の分子量よりも大きい領域に生成物の分布が存在し、炭化水素の多環化が

生成した可能性があり、水の有無に関わらず n-alkylbenzenes が cokes 前駆体のような

ものの生成に関与する可能性が示唆された。

THF 可溶成分中に含まれる化合物の素性をさらに調査するため、TLC-FID により

saturates、aromatics、resins、asphaltenes の 4 種に分けて分析する SARA 分析を実施

した。本分析より、いずれの条件においても反応後に大量の resins の生成が見られた。

Resins は縮合した芳香環構造で構成されているという報告 13)から、n-alkylbenzenes の

熱分解によって cokes 前駆体が生成したことが確認できた。また、本分析において、水

が反応に与える影響として saturates の増加が見られた。

(4.2) [wt%]) yield(Cokes - [wt%]) yielde(Asphalten - 100 [wt%]) yield(Maltene

(4.1) 100[g]) materials (loaded

[g])amount (Cokes) e(Asphalten ) [wt%] yield(Cokes) e(Asphalten

L

L

 =

×= (1)

(2)

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3.2 重質油の軽質化反応

Fig.3.1 に各水密度における asphaltene、cokes および maltene 収率の経時変化を示

す。

Fig.3.1-(a) より、asphaltene 収率はいずれの水密度においても反応時間の経過と共に

減少し、その減少速度は水密度増加に伴い増加した。

また、Fig.3.1-(b) より cokes

収率は、asphaltene 収率の減

少に呼応するように、反応時間

の経過と共に増加した。一方、

Fig.3.1-(c)より maltene 収率

は水密度が低いほど減少した。

また、GC/FID から maltene の

構造分布は若干であるが、水密

度増加に伴い軽質成分へシフト

した。

既往の研究によれば、重質油

の熱分解における水の添加は、

フリーラジカル反応におけるラ

ジカル同士の重合反応を抑制す

ることによって、cokes の生成

を抑制できると報告 13), 14)され

ている。しかし、本研究におけ

る実験結果はこれらとは異なる

傾向を示している。これは

Watanabe らが報告した PE 相と

超臨界水相での炭化水素濃度が

反応に 適な濃度へ近づいたこ

とによって、総括反応速度が増

大するといった考察 9)によって

説明することができる。つま

り、水の添加により総括反応速

度が増大したことによって

asphaltene が急激に分解し、

比較的重質な炭化水素ラジカル

が増大する。そのため cokes 生成反応が急激に進行し、結果として、初期に cokes 生成

が促進されたと考える。

また、asphaltene 収率の減少と cokes 収率の増加が同様の傾向を示していることか

ら、asphaltene は cokes 前駆体であることが確認できた。ここで、Towfighi ら 3)によれ

ば、coke の生成メカニズムの一つとして cokes 前駆体もしくは cokes そのものに反応性

の高い化学種、例えば radical や alkene が付加重合する事が報告されている。本実験に

Fig. 4.3 Variation of yields with reaction time and water density at 723 K for (a) asphaltene, (b) cokes, (c) maltene

0 10 20 300

5

10

Yie

ld [w

t%]

Reaction time [min]

0 kg/m3

100 kg/m3

200 kg/m3

(a) asphaltene

0 10 20 300

5

10

Yie

ld [w

t%]

Reaction time [min]

0 kg/m3

100 kg/m3

200 kg/m3

(a) asphaltene

0 10 20 300

5

10

Yie

ld [w

t%]

Reaction time [min]

0 kg/m3

100 kg/m3

200 kg/m3

(b) cokes

0 10 20 300

5

10

Yie

ld [w

t%]

Reaction time [min]

0 kg/m3

100 kg/m3

200 kg/m3

(b) cokes

0 10 20 30

85

90

Yie

ld [w

t%]

Reaction time [min]

0 kg/m3

100 kg/m3

200 kg/m3 (c) maltene0 10 20 30

85

90

Yie

ld [w

t%]

Reaction time [min]

0 kg/m3

100 kg/m3

200 kg/m3 (c) maltene

Fig.3.1

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よる結果は、asphaltene が cokes 前駆体であり、それに反応性の高い maltene の一部が

付加重合することによって cokes が生成していることを示唆している。つまり、水密度 0

kg/m3においては、反応時間 30 min においても asphaltene が依然として 4 wt%程度存在

するため、さらなる反応によって maltene が関与することで maltene 自身も減少し、

cokes が増加し続けていくことを示唆している。一方、水密度 200 kg/m3においては、反

応時間 30 min において asphaltene がほぼ完全に消失したために、これ以上 cokes が生

成することはなく maltene の減少を抑制できると考える。

以上より、maltene が cokes 成長反応に寄与している可能性が示唆されたため、さらな

る検討のために maltene を除去した原料についての軽質化実験が有効であると考える。

また、asphaltene に対する maltene の反応に、超臨界水がどのように影響しているか本

実験では検討できず、今後さらなる詳細な実験が必要であると考える。

3.3 asphaltene の軽質化反応

本実験で使用した試料は、軽質分の影響を見るために、sample 1 は asphaltene のみ、

sample 2 は asphaltene に軽質分モデルである n-dodecylbenzene を 20 %を添加したもの

である。

Fig.3.2 に各試料における maltene、asphaltene、cokes 収率の水密度依存性を示す。

Fig.3.2-(a) より、asphaltene が 100 wt%の状態を熱分解させると、本実験条件におい

ては asphaltene がほとんど反応して、maltene へ軽質化するか cokes へ重質化するかの

いずれかに進行した。また、水の添加によって maltene 収率が増加し cokes 収率は減少

した。これは前述のビチュメ

ンの反応とは異なる傾向であ

る。

まずビチュメンの反応で

は原料油であるビチュメンに

は約 10 wt%程度の

asphaltene しか含まれてい

ないにもかかわらず、熱分解

によって cokes が約 10 wt%

程度生成した。このとき、水

密度 0 kg/m3においては

cokes が約 10 wt%程度生成

した後でも、依然

asphaltene は約 4 wt%程度

存在していた。これは、

asphaltene から cokes への

重質化反応に maltene が関

与することを示唆している。

それに対しここでは、

asphaltene が 100 wt%の状

0

20

40

60

80

200 kg/m30 kg/m3

Yie

ld [w

t%] maltene

asphaltene cokes

0

20

40

60

80

200 kg/m30 kg/m3

Yie

ld [w

t%] maltene

asphaltene cokes

(a) Sample 1

(b) Sample 2

Fig. 5.1 Dependence of water density on product yields at 723 K for 15 min((a) sample 1, (b) sample 2)

0

20

40

60

80

200 kg/m30 kg/m3

Yie

ld [w

t%] maltene

asphaltene cokes

0

20

40

60

80

200 kg/m30 kg/m3

Yie

ld [w

t%] maltene

asphaltene cokes

(a) Sample 1

(b) Sample 2

Fig. 5.1 Dependence of water density on product yields at 723 K for 15 min((a) sample 1, (b) sample 2)

Fig.3.2

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態から熱分解しても cokes は 大で約 50 wt%しか生成しなかった。これは原料油から

maltene 分が除去されていたために、反応初期において高活性な軽質分(maltene)が生

成しなかったためであると考える。

また、本実験においては水の添加によって cokes 生成が抑制された。これは Watanabe

らが報告した、反応器内の PE と超臨界水の相状態 9), 15)と同様のことが起きていると仮定

することで説明できる。本実験で用いた重質油は、PE と同様に平均分子量が高く、本実

験条件下では水と均一相にはならずに二相となると仮定する。水密度 0 kg/m3では、気相

と重質油相があり、軽質な maltene は気相に移動しさらに分解するか、重質油相にも分

配して asphaltene に関与し cokes を生成すると考える。一方、水密度 200 kg/m3では、

先述したように超臨界水相と重質油相に分かれている。超臨界水は重質油相に溶け出して

おり、超臨界水相では炭化水素濃度が増大し、一方、重質油相では炭化水素濃度が低下す

ることでそれぞれの相が分解反応に 適な濃度に近づいたことによって cokes の生成が

抑制され、かつ maltene の軽質化が高効率に促進されたと考える。

また、Fig.3.2-(b)より水密度 0 kg/m3において n-dodecylbenzene の添加によって

asphaltene 収率が増加した。これは、asphaltene が cokes へ重質化する反応を抑制した

ことを示唆している。またこのとき、水の添加によって asphaltene はほぼ完全に反応し

た。本実験前の予想は、高活性な maltene のモデルである n-dodecylbenzene を添加する

と、asphaltene に干渉することで cokes 収率が増加するということであった。しかし、

結果は逆に cokes 生成が抑制され、asphaltene が残存する結果となった。

Fig.3.3 に n-dodecylbenzene の熱分解による主な生成物 12) を示す。当初は、この熱

分解のラジカル反応の過程において高活性な alkene や radical が生成すると考えていた

が、n-dodecylbenzene は芳香環を持つために、asphaltene の凝集緩和に関与した可能性

がある。つまり、n-dodecylbenzene の添加によって asphaltene の凝集が緩和したこと

で、cokes の生成が抑制されたと考える。一方、水を添加すると超臨界水相が存在すると

仮定するが、その場合、n-dodecylbenzene は本実験条件において水と均一相になると考

えられ、重質油相への分配が減少したことによって asphaltene に作用する確率が減少し

た、もしくは総括反応速度の増大によって asphaltene がほぼ完全に反応したと考える。

+

+

Fig. 5.2 Primary pyrolysis paths for n-dodecylbenzene14)

+

+

+

+

Fig. 5.2 Primary pyrolysis paths for n-dodecylbenzene14)Fig. Fig.3.3 12)

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4.まとめ

炭化水素の熱分解反応は、均一開裂、ラジカル不均化、ベータ開裂、異性化、水素引き

抜きの各反応と、結合解離エネルギーによって概ね整理可能である。これらを基に、原料

濃度、反応物構造等の修正を加えた数学モデルも提案されている。超臨界水中では、水が

反応機構と相状態に影響を及ぼしている。特に、二分子反応が反応物間の水により抑制さ

れたり、油相の出現により促進されたりする可能性がある。 一方、多種の成分が含まれる重質油の熱分解については、等価な成分のグルーピングに

よる反応モデリングが行われている。超臨界水中の分解については、気相と比べて反応に

よりアスファルテン量が減少し、軽量成分の生成が促進しコーク生成が抑制される傾向に

ある。しかし、450℃程度の高温では、コーク生成も生じる。触媒が存在しない場合に

は、水素化はあまり進行しない。コーキングのメカニズムも提唱されており、アスファル

テンをターゲットとした場合、その中でも反応器表面における多環芳香族の凝集によるコ

ーキングが重要である。さらに、アスファルテンの分解においては、凝集緩和剤の添加に

よりコーク生成が抑制されることも指摘されている。 超臨界水中での重質油改質には、部分酸化(合成ガスや水素存在下)による触媒水素

化、アルカリによる改質、酸による改質、触媒を添加しない部分酸化反応がある。触媒水

素化反応は脱硫触媒で生成し、軽質な炭化水素共存下では部分酸化反応による水素化脱硫

も進行する。アルカリについては、高濃度で共存させることで分解が進行する。触媒が存

在しない場合には、水素化はあまり進行しなかった。重質油の改質には、触媒が重要であ

ると考える。 参考文献

1) BP Statistical Review of World Energy 2007, BP p.l.c (2007). 2) 石油学会,石油精製プロセス,講談社サイエンティフィク (1999).

3) J. Towfighi, M. Sadrameli, A. Niaei, J.Chem. Eng. Jpn., 35(10), 923 (2002) 4) S. Sato, J. Jpn. Inst. Energy, 85(4), 286 (2006) 5) S. Sato, J. Jpn. Inst. Energy, 86(10), 770 (2007) 6) H. Kumagai, T. Takanohashi, J. Jpn. Inst. Energy, 86(10), 778 (2007) 7) 荒井康彦,超臨界流体のすべて Fundamentals and Application of Supercritical

Fluids,株式会社テクノシステム (2002)

8) A. Kruse, E. Dinjus, J. Supercrit. Fluids, 39, 362 (2007) 9) M. Watanabe, M. Adschiri, K. Arai, Kobunshi Ronbunshu, 58(12), 631 (2001) 10) S. C. Paspek, M. T. Klein, Fuel Sci. Tech. Int., 8(6), 673 (1990) 11) L. Q. Zhao, Z. M. Cheng, Y. Ding, P. Q. Yuan, S. X. Lu, W. K. Yuan, Energy

& Fuels, 20, 2067 (2006)

12) P. E. Savage, J. Anal. Appl. Pyrolysis, 54, 109 (2000) . 13) Asphalt, Vol.32, 163, p71 (1990). 14) T. Takanohashi, J. Jpn. Inst. Energy, 86(10), 786, (2007) 15) http://www.che.tohoku.ac.jp/~scf/meijin/meijin_Reform1.html

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超臨界水を利用した重質油の水熱分解・改質技術の開発

(基盤技術研究グループ)熊本大学 後藤 元信、佐々木 満 1.研究開発の目的

1.1 背景

石油は現代社会が消費する最も重要な資源である。石油は地球の地殻の幾つかのエリア

の地層上層中の多孔性の岩中から得られる。Petroleum の名前の由来はラテン語の petra と

oleum であり、その意味は文字通り岩油を表し、広く堆積岩の中に気体、液体、半固体、

もしくは固体として存在している。地球の岩石構造の中に引火性の液体として存在してい

る化石燃料は、様々な分子量の有機物と複雑な炭化水素の混合体である。混合物中の炭水

化物の割合は種々の値を有し、例えば軽質油の最大 97 %から重油、ビチューメンの 50 %である。石油は工業、加熱、そして輸送にエネルギーとして利用され、石油由来の燃料は

世界のエネルギー総供給量の半分以上である。ガソリン、ケロシン、そしてディーゼル油

は自動車、トラック、エアークラフト、そして船の燃料として用いられている。化学的立

場から石油をミクロ的に見てみると、石油は極めて複雑な炭化水素の混合物であり、大部

分が少量の窒素、酸素、そして含硫黄金属(鉄、ニッケル、銅そしてバナジウム)である。

一般的に、各物質の割合は Fig.1.1 に示したとおり、炭素 83~87 %、水素 10~14 %、窒素

0.1~2 %、酸素 0.1~1.5 %、硫黄 0.5~6 %そして 1000 ppm 以下の金属である。 石油はその種類によって揮発性、比重、および粘度のばらつきが大きい。その理由は主

成分が炭化水素であり、種々の化合物の構成のほとんどがアルカン類、シクロヘキサン類、

そして種々の芳香族炭化水素のような水素と炭素の化合物であるからである。その一方で

石油由来の種々の炭化水素からは合成繊維の製造そしてプラスチック、塗料、肥料、殺虫

剤、石鹸、そして合成ゴムを生産することができる。種々の化学工業で原料としての石油

の利用は現代工業を機能させる上で必須であるといえる。

Carbon (83-87%)

Hydrogen (10-14%)Nitrogen (0.1-2%)

Oxygen (0.1-1.5%)

Sulphur (0.5-6%)

Metal (<1000 ppm)Carbon (83-87%)

Hydrogen (10-14%)Nitrogen (0.1-2%)

Oxygen (0.1-1.5%)

Sulphur (0.5-6%)

Metal (<1000 ppm)

Fig.1.1 General proportion of chemical elements in petrpleum

1.2 精製生産物

Fig.1.2 に示すように、化石燃料の精製過程で得られる最も重要な生産物はガソリン、

ディーゼル燃料、軽及び重油、液体ガス、航空燃料、基油とビチューメンである。一般的

にガソリンは自家用車や船舶、スノーモービル等の電気発火システムを有するエンジンの

燃料として使用される。脱硫黄処理された改質ガソリンの組成は遥かに従来のものに比べ

て綺麗であり、完全燃焼しやすい。ディーゼル燃料はディーゼルエンジンの燃料として用

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いられ、一般的に高出力動力車やディーゼル駆動の乗用車に使われる。軽質油は家やビル

などの暖房設備の燃料、産業、農業、船のための燃料に使用することができる便利な燃料

である。また軽質油は工業や発電所で電気エネルギーの発生源として用いられる他、備蓄

や非常時の典型的な燃料として作られている。重油は産業と暖房設備のためのエネルギー

源であり、船の貯蓄燃料としても使われる。液化ガスはクルード油の中で最も揮発性の高

い成分であり、蒸留過程に於いてクルード油から早期に分離される。通常、金属工業、製

紙工業は液化ガスの使用頻度の高い工業の一つである。また液化ガスは個人ユーザーの為

にもボトル化されており、自宅、ボート、ハウストレーラー用の照明や調理時の加熱に使

われる。航空燃料は航空機のジェットタービンに燃料として使用されており、その品質と

取扱いは国際標準の厳格な準拠で厳格に定義されている。基油は油と化学工業のために極

めて精錬された油であり、潤滑油は基油と性能を強化するための添加物の混合物である。

基油はクルード油と合成品または合成化学プロセスにより生産された完全合成品から生産

される典型的な鉱油である。

Refinery gas

bp. 40 oC; number of carbon ~8; Fuel for cars.

bp. 110 oC; number of carbon ~10; Raw material for chemical and plastics.

bp. 180 oC; number of carbon ~15; Fuel for Aeroplanes.

bp. 250 oC; number of carbon ~20; Fuel for cars and lorries.

bp. 340 oC; number of carbon ~35; Fuel for Power Stations, Lubricants and grease.

bp. >400oC; number of carbon >40; Road surfacing.

Petrol;

Naptha;

Kerosene;

Diesel;

Oil;

Bitumen;

Refinery gas

bp. 40 oC; number of carbon ~8; Fuel for cars.

bp. 110 oC; number of carbon ~10; Raw material for chemical and plastics.

bp. 180 oC; number of carbon ~15; Fuel for Aeroplanes.

bp. 250 oC; number of carbon ~20; Fuel for cars and lorries.

bp. 340 oC; number of carbon ~35; Fuel for Power Stations, Lubricants and grease.

bp. >400oC; number of carbon >40; Road surfacing.

Petrol;

Naptha;

Kerosene;

Diesel;

Oil;

Bitumen;

bp. 40 oC; number of carbon ~8; Fuel for cars.

bp. 110 oC; number of carbon ~10; Raw material for chemical and plastics.

bp. 180 oC; number of carbon ~15; Fuel for Aeroplanes.

bp. 250 oC; number of carbon ~20; Fuel for cars and lorries.

bp. 340 oC; number of carbon ~35; Fuel for Power Stations, Lubricants and grease.

bp. 40 oC; number of carbon ~8; Fuel for cars.

bp. 110 oC; number of carbon ~10; Raw material for chemical and plastics.

bp. 180 oC; number of carbon ~15; Fuel for Aeroplanes.

bp. 250 oC; number of carbon ~20; Fuel for cars and lorries.

bp. 340 oC; number of carbon ~35; Fuel for Power Stations, Lubricants and grease.

bp. >400oC; number of carbon >40; Road surfacing.

Petrol;

Naptha;

Kerosene;

Diesel;

Oil;

Bitumen;

Fig. 1.2 Refinery products of petroleum

クルード油の留分で最も重いものはビチューメンである。ビチューメンは種々の有機物の

混合物として定義することができ、高濃度の芳香族炭化水素の環状ポリマー(炭素数

24~150)を主構成成分とする高粘度(常温で固体もしくは準固体)の黒色物質である。良

好な粘着性と強度を有することからビチューメンは一つの優秀な接着剤としての使用する

ことができる。ビチューメンはアスファルトと油砂利の一部として道路の舗装剤として、

屋根葺き、絶縁材等として利用される一方、その独特な性質から化学工業の分野からの注

目も高い。詳細な化学的構成は低分子量の飽和・芳香族炭化水素から成る油相中(マルテ

ン)に分散している高分子量の有機分子(アスファルテン)のミセル中のコロイド系であ

ると考えられている。ビチューメンの一般的性質はアスファルテンとマルテンの各々の濃

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度と種々の化学的性質に依存しており、ビチューメンからの化学原料を得るためのプロセ

ス開発が行われてきた。最近の技術として亜臨界・超臨界水を溶媒として用い、無触媒条

件下での改質に注目が集まっている。

1.3 亜臨界水と超臨界水

Fig.1.3 に示すように、水の臨界点は 647.3 K, 22.1 MPa であり、臨界温度・圧力を超え

た状態の水は超臨界水と呼ばれている。超臨界水はそれ自身が高い反応性を有する反応溶

媒であるため、無触媒反応場として有利であるといえる。

vapor pressure curve

P=Pc

T=Tc

Temperature, T

Pre

ssur

e, P

supercritical region

647.3 K, 22.12 MPa

vapor pressure curve

P=Pc

T=Tc

Temperature, T

Pre

ssur

e, P

supercritical region

647.3 K, 22.12 MPa

Fig.1.3 P-T phase diagram of water (one-component fluid), with the vapor pressure curve and critical point.

水は臨界温度と圧力より高くなると、通常の水や大気圧下の蒸気からかけ離れた性質を

示す。例えば超臨界状態の水には有機物も完全に溶解する。また種々の物質の水への溶解

性は超臨界領域で大きく変化する。比誘電率も温度と共に変化する。通常状態の水の比誘

電率は水の強い水素結合の影響から約 78 である。液体の比誘電率は水の密度が徐々に小さ

くなっていくにも関わらず、温度の上昇と共に減少する。このステージにおける比誘電率

値の変化に対する主な寄与は空隙容量が増加することで段階的に減少する分子間力(双極

子-双極子間相互作用から生じる分子間力)によるものである。臨界点近傍の水の解離定数

(以下イオン積)は、通常の水と比較すると三桁も高い値となる。すなわちある一定条件

の液体より、より高い H+と OH‐のイオン濃度を持つことも可能である。従って、亜臨界

水または超臨界水は有機物に対して優れた溶解性を示す。当然のことながら、超臨界水は

有機化合物の酸や塩基触媒反応の効果的な溶媒である。事実、水の解離はそれ自身臨界点

付近でいかなる酸を加えなくとも酸触媒的有機反応が進行するほどに十分な H+ 濃度を有

している。超臨界水と常温常圧の液体の水との性質の相違(例えば、粘度、比誘電率、イ

オン積)としては反応媒体の性質を圧力と温度を使って与えられた化学変化の最適値に調

整することを可能であるという点である。

1.4 研究の目的

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本研究グループでは、既述の超臨界水の有する特長を活かした超重質油の改質(軽質化)、

特にコーク形成の要因解明も念頭に入れた「超臨界水無触媒下でのビチューメン処理試験」

を実施し、生成物分布に与える諸反応因子の効果を評価した。具体的には、超臨界水中で

の超重質油の分解反応における軽質化が良好に進行し、かつコーク形成が生じない温度、

仕込み水/油比率、反応時間の策定を目指し、温度 673 K、仕込み水/油比=1 または 2、反応時間 1~2 時間での回分式反応装置(内容積 5.0 cm3)を用いた検討を行った。生成物

及び残渣に関しては、ガスクロマトグラフィー法を利用して生成物に関するデータ収集も

試み、ビチューメンの超臨界水中での分解・凝集メカニズム解明のための知見取得を目指

した。その際、酸素含有率は大きく異なるものの、軽質化という共通目的で本研究グルー

プが実施したリグニンの超臨界水処理に関する実施例も整理した(後述)。これらの情報を

総合して反応メカニズムの推定を試みた。 2.研究開発の内容

2.1 ビチューメンの改質実験

2.1.1 原料

実験で出発原料として用いたビチューメンは工業的な油の蒸留プロセス(カナダ)で得

られたものを使用した。クルード油を大気圧下で蒸留すると重質成分から揮発性の成分を

分離することができる。さらに重質生成物を減圧蒸留にかけると留分として回収すること

ができ、これをビチューメンと呼ぶ。室温においてビチューメンはメタノールと水に不溶

である。ビチューメンの特徴と構成要素について、Table 2.1 に示す。

Table 2.1 Properties of bitumen

実験に用いた試薬として 2,5-dihydroxybenzoic acid (DHB)(純度 98.0 %以上)を和光純薬工

業株式会社(日本、大阪)より入手した。分析用の試薬としてペンタン(98.0%), n-ヘキサ

ン(96.0%), ヘプタン(99.0%), ドデカン(99.0%), およびトルエン(99.5%)をいずれも和光純

薬工業株式会社(日本、大阪)より入手した。

Viscosity at 15.6 oC 3,000-300,000 poiseCarbon/Hydrogen ratio 8.1Components (%):

Asphaltenes 20.0Resins 25.0Oils 55.0

Ultimate analysis (%):carbon 83.6hydrogen 10.3sulfur 5.5nitrogen 0.4oxygen 0.2

Heavy metals (ppm):nickel 100vanadium 250copper 5

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2.1.2 アスファルテンとマルテンの測定 低沸点液化炭化水素を有するビチューメンを分離処理すると、アスファルテンとして知

られている茶から黒色の粉末状の物質が得られる。この分離を行うための効果的な試薬と

して n-ペンタンと n-ヘプタン等の低分子量液化炭化水素が一般的である。他にビチューメ

ンはベンゼン、二硫化炭素、クロロホルム、トルエン、または塩化炭化水素溶媒に容易に

溶解しアスファルテンを分離可能である。ベンゼン若しくはトルエンに不溶な物質はまと

めてコークスと呼ばれている。また n-ペンタン、n-ヘプタンに溶解するビチューメンの一

部はマルテンと呼ばれている。この留分は界面活性剤を用いたろ過によって芳香族分、飽

和分、そして樹脂分等に詳細に分けられる。 本研究ではビチューメンの芳香族または脂肪族溶媒への溶解性を理解するために n-ヘキ

サン、クロロホルム、テトラヒドロフラン(THF)、そしてトルエン等の溶媒を使用して溶

解性の観察を行った。ビチューメンの量は約 0.10924~0.11034 g で溶媒の量はビチューメン

の 40 倍を使用し、混合した後攪拌を行った。6 時間後、振とう器から取外し、一晩放置し

た。その後遠心分離機を用いて分離した。この結果、ビチューメンはクロロホルム、THFおよびトルエン可溶であり、n-ヘキサン中では固体沈殿物として析出することを確認した。 ビチューメン中のアスファルテンの量を測定するため、石油由来の脂肪族溶媒(アルカ

ン類)である n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタンを溶媒として用いた。ビチューメンか

らアスファルテンを分離するための基本的な手法に沿って、各々の溶媒の体積は試料のビ

チューメンの体積の 40 倍を使用した。実験は室温で行った。各サンプルにそれぞれ 0、5、10 および 15 分、超音波照射を行った。その後振とう器で約 6 時間振とうし、一晩放置し

た。回収した溶液(ビチューメンと溶媒)は細孔径 0.45 μm の使い捨てろ紙を用いてろ過

した。不溶生成物はアスファルテンとしてデシケーターで1日室温放置した後、秤量した。

ビチューメン中のコークスの量を理解するために、アスファルテンの重さの 40 倍量の溶媒

を各々の乾燥したアスファルテンに加え、同様の工程を行った。アスファルテンの重さは

ろ紙の重量を全体の重量からの差分として求めた。アスファルテンの量は次式により算出

した:

100(g)bitumen ofWeight

(g) asphaltene dried ofWeight Asphaltene % ×=

2.1.3 ビチューメンの組成評価

Fig.2.1 に結果を示す。超音波照射を適用したにもかかわらず、ビチューメンは各々の溶

媒に完全に溶解できなかった。n-ドデカン溶媒を用いて 15 分間超音波照射を行った閣下チ

ューメンの溶解性は 88.40(ビチューメンの重さ/溶媒 40 g)に漸近した。n-ペンタンと n-ヘキサンに対するビチューメンの溶解性はほとんど同じであった。これらの結果を基に、

n-ヘキサンをビチューメンの超臨界水改質のための抽出溶媒として決定した。その理由と

して n-ヘキサンは特殊用途の溶媒そして油抽出剤として多くの用途があることが知られて

いることが挙げられる。また種々の純度の n-ヘキサンの中でも高純度の n-ヘキサンは化学

実験室で広範囲の炭化水素及び非極性有機物のための抽出剤として使用される。さらに n-ヘキサンはクルード油の副成分であり天然ガスと n-ペンタンより高い沸点かつ n-ヘプタン

より低い沸点を持つことが挙げられる。

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トルエンを溶剤として使用した場合、アスファルテンは完全に溶解した。超音波照射を

適用したが、ビチューメン中にコークスは含まれなかった。

0.00

5.00

10.00

15.00

20.00

1 2 3 4

0 min5 min10 min15 min

n-pentane n-hexane n-heptane n-dodecaneSolvent used

Asp

halte

ne[%

wt]

0.00

5.00

10.00

15.00

20.00

1 2 3 4

0 min5 min10 min15 min

n-pentane n-hexane n-heptane n-dodecane0.00

5.00

10.00

15.00

20.00

1 2 3 4

0 min5 min10 min15 min

n-pentane n-hexane n-heptane n-dodecaneSolvent used

Asp

halte

ne[%

wt]

Fig.2.1 Comparison results of asphaltene determination. 2.1.4 亜臨界・超臨界水を用いた実験

実験は Hastelloy C-276 チューブ反応器(AKICO Co., Ltd., 東京, 日本; 内容積 8.8 cm3)

を用いて実施した。前処理無しに 0.3 g のビチューメンと 0.10~0.40 g/cm3 の密度に対応す

るだけの純水を加えた。圧力は蒸気圧表より推算した。アルゴンガスは反応器を密閉する

前に系中の空気を除去する目的で封入した。反応器は電気炉(ISUZU Co. Ltd., モデル NMF-13AD)に設置しそして直ちに 673 K まで急速昇温を行った。反応中は反応器を振と

うさせた。反応器が室温から目的の温度に到達するまでに必要な時間は 4 分であり、その

後は反応器の温度は電気炉の温度と等しくなるため、昇温のための約 4 分間を含み規定時

間(5, 15, 30, 60 そして 120 分)を反応時間とした。所定時間経過後、反応器を電気炉から

取り出し、直ちに水槽中で冷却することで、大気圧まで減圧した。冷却後、液体と固体は

回収されそして反応器の内側を純粋なヘキサン(15 cm3)を使って洗浄した。回収した生

成物溶液は遠心分離機と真空蒸発器を用いて分離を行った。各実験の標準偏差をとるため

に実験を 2~3 度実施した。本研究に於いて反応器の構造上、気体成分については回収を行

わず、ガス生成物は収率の計算から控除した。 2.2 分析方法

2.2.1 GC-MS、GC-FID 生成物は GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分光分析、HP モデル 6890 シリーズ GCシステム及び 5973 マスセレクティブ検出器、HP1-MS キャオピラリーカラム)で同定を

行った。生成物はまた GC-FID(水素炎イオン化検出器、Shimadzu Co. Ltd., モデル GC-2014)で生成物を比較するために同種のカラム(DB-1)を用いて分析を行った。高純度のヘリウ

ムガスをキャリヤーガスとして用いた。GC-FID では、水素ガスを空気と混ぜたものを構

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成ガスとして使用した。昇温プログラムは以下の通りである。 Initial temperature : 313 K Final temperature : 593 K Temperature rate : 283 K Inlet temperature : 553 K Detector temperature : 563 K Split ratio : 10 : 1 Helium flow rate : 2 cm3/min 2.2.2 マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI-TOF-MS)

MALDI-TOF-MS はリニアまたはリフレクトロンモードのデュアルマイクロチャンネル

プレート検出器付属の Bruker Tektronix TDS 504D GmbH Reflex III (Germany)、Voyager-TM RP 機器(Perspective Biosystem)を使用した。加速電圧は+25 kV でイオンはリフレクトロ

ンモードで計測した。337 nm の窒素レーザーを 3 ns パルス幅で使用した。適用したレーザ

ーのエネルギーを 200 μm×50 μm スポットサイズ上に照射した。レーザーエネルギーは光

学機器の後に設置しており、ソースより前に設置されている最後のミラーの前のレーザー

プローブ Rm-3700 Universal Radiometer (Laser Probe, Inc. Utica, NY)によって計測した。各々

のポリマーサンプルを計測した際に使われたレーザーエネルギーの強度範囲はポリマーの

計測可能な質量信号から得られたものによって定義した。MALDI 分析に使用されたサン

プルは次の通りに準備した。マトリックスは DHB を用いた。10 μL の液体生成物は 30 μLの DHB 溶液(10 mg/cm3-メタノール中)と混合された。それから 1 μL のこの混合液を

MALDI のサンプルホルダーにスポットし、徐々に乾燥し結晶化させた。 3.研究開発の結果

石油は均一の材料ではない。さまざまな過程を行なうことによって、石油をより貴重な

製品に変換することが可能である。673 K 未満で沸騰させた材料は、常圧蒸留によって回

収し、898 K 以上まで沸騰させた材料は真空蒸留で回収される。一般に、石油残渣は、高

濃度で高分子量の有機化合物を含んでいる。事実上、化学的で物理的な(断片的な)構成は、

その油田の位置と時代だけでなく、その深さでも変わってくる。石油は、少量の有機化合

物が硫黄、酸素、および窒素を含んでいて、金属成分は、特にバナジウム、ニッケル、鉄、

および銅を含んでいる。つまり石油は種々の物質から構成される複雑な混合物である。炭

化水素の含有量は軽パラフィンクルード油が 97 %、重クルード油が約 50 %、ビチューメ

ンが 30 %未満である。ビチューメンは非常に複雑な構造であるが故、蒸留操作から直接的

にその構造を理解することは困難であることが知られている。揮発度から分析技術を使用

することにより、その成分を分離し、同定することはできない。すなわち化学構造を特定

するための他の手法が用いられなければならない。その特定法は炭化水素の骨格構造とヘ

テロ原子の機能を推測するための手法と同様の多くの分別方法を含んでいる。 超臨界水を用いたビチューメンの改質法はビチューメンから熱揮発性分を得るための本

質を理解するための一種の熱的処理法である。この熱的手法は低いまたは小さい脂肪族化

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合物もしくは芳香族系に対して強く証明した。この目的のために、GC-MS にて n-ヘキサ

ン可溶性物質の分析を行った。GC-MS は脂肪族化合物や芳香族化合物を特定する強力な方

法であることがよく知られていた。検出方法として用いた質量分析法では、フラグメント

にイオン化し、それぞれの化合物のピークにより分子量を得ることができる。一方、GC-FIDもまた、結果を比較するために分析を行った。分析結果を Fig.3.1 に示した。化合物の同定

は、信頼できる GC-MS のコンピュータライブラリーの中の質量スペクトルの適合率によ

り決定した。分析結果から構成成分は単環の揮発性の芳香族化合物で、ベンゼン、トルエ

ン、エチルベンゼン、およびキシレンであった。またアルカン(ペンタン、ヘプタン、ドデ

カン)とアルケン(ペンテン、イソペンテン)のような脂肪族化合物も検出された。しかしエ

イコ酸、ベンゾピレン、ピセン、コロネン、およびピラントレン等は、高沸点であるため

GC-MS/FID によって検出されなかった。また、NIST(National Institute of Standards and Technology)の質量スペクトルライブラリを、液相の化合物の同定に使用した。芳香族化

合物は、液相に溶解した状態でビチューメンの分解生成物として存在した。したがって、

これらの生成物は、ビチューメンのエステル鎖とエーテルの切断によって得られると仮定

することが妥当である。

C1-C7 C8-C11

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

16.0

18.0

20.0

22.0

24.0

30 min

60 min

120 min

C1-C7 C8-C11

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

16.0

18.0

20.0

22.0

24.00.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

16.0

18.0

20.0

22.0

24.0

30 min

60 min

120 min

Fig.3.1 GC-FID chromatogram for bitumen after treatment at 673 K; 1.76 g of water and 30, 60, 120 min reaction time.

一般に熱分解技術から得られる生成物は気体、液体生成物、固体残渣に分離される。しか

しながら気体生成物は回収することができなかった。液体成分中に含まれるビチューメン

の熱分解生成物の大部分は芳香族化合物に分類される。Fig.3.2 は n-ヘキサン可溶性のビチ

ューメン由来の化合物の分子量を、高分子の分子量に関して高い信頼性を有するデータを

与えてくれる MALDI-TOF-MS を用いて分析した結果を示した。MALDA-TOF-MS 法の独

自の効果は、基質の効果を打ち消す為の高速レーザー加熱によって作り出される熱エネル

ギーにある。それ故に、高分子は殆ど分解せずに気化し、簡単に検出することができる。

それぞれの配置のピークは単量体単位の質量によって分離する。ピーク強度の相違点は n-ヘキサン中に溶解したビチューメン誘導体化合物の量に定性的に一致する。それにもかか

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わらず、ターゲットスポット上のサンプルの非同次スプレットは定量的な正確な分析をす

ることができない。それ故に、分子量の分布は明確に観測できる。これらの図は、超臨界

状態ビチューメンの分解がほぼ完了し、低分子量(200~700 amu)の種を形成することを示

している。定量的に、水の密度がより低い、または反応時間が短いときに分解して得られ

たビチューメンのピーク強度は、水の密度がより高いまたは反応時間がより長いときより

も高かった。これらの結果から判断すると、水の密度が高い、またはより反応時間が長い

と、高分子化合物は減少し、低分子化合物は増加するといえる。 固体残渣の元素分析も CHN 分析器(Yanaco, COEDER, MT-6)を用いた。これは化合物

の元素量(通常は重量パーセント)によって分析した。最も一般的な元素分析は炭素、水

素、窒素である(CHN 分析)。これは(炭素�炭素結合を含む)有機化合物に対して特に

有効な分析方法である。炭素濃度は反応時間が増加するにつれ徐々に減少していった。固

体残渣内の水素の損失は水素含有量の減少に反映させている。これらの結果より、この条

件では熱分解の課程で脱水素化が起こっているといえる。 化合物の熱分解は水の密度の増加により促進する。このことは、律速段階の水の状態が、

対応する反応物と比べて安定しているということである。Fig.3.3 は 673 K における水の各

密度でのビチューメン分解の時間変化を示したグラフである。これらのグラフにより、水

の密度の増加に伴い徐々にビチューメン分解が促進されていることがわかる。この現象は

溶媒の誘電率の点から、静電効果を考えることにより説明することができる。もし水の状

態が反応物より極性が高ければ、液化が進行するとともに誘電率は増加する。しかしなが

ら、反応時間ごとのビチューメン分解の傾向は全く異なる結果となった。より水の密度が

低い場合、ビチューメン分解の度合いは、反応時間とともに徐々に増加した。水の密度が

高い場合は予測できなかった。その範囲内では、臨界点近傍であるため、 水の性質は超臨

界領域とは異なり、操作条件により細かく変化させることができる。これにより、値の幅

が大きい実験結果を得ることができた。一般的に、ビチューメンの液化は分解温度ととも

に促進されることが明らかとなった。

200 400 600 800 1000 1200 1400Mass (m/z)

Without water

1.76 of water

3.52 of water

200 400 600 800 1000 1200 1400Mass (m/z)

200 400 600 800 1000 1200 1400Mass (m/z)

Without water

1.76 of water

3.52 of water

Fig.3.2 MALDI-TOF MS for bitumen after treatment at 673 K without water and with 1.76 and 3.52 g of water and 60 min reaction time

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10

13

16

19

22

0 25 50 75 100 125

Time [min]

Asp

halten

e [

wt%

]0 g

0.88 g

1.72 g

3.52 g

water

10

13

16

19

22

0 25 50 75 100 125

Time [min]

Asp

halten

e [

wt%

]0 g

0.88 g

1.72 g

3.52 g

water

Fig.3.3 The asphaltene content in bitumen after treatment by supercritical water at 673 K.

4.まとめ

本年度は超臨界水処理法を利用して超重質油を軽量化によって油の性能向上を可能とす

るための処理条件策定に関わる基礎研究を進めた。特に、無触媒下でコーク形成が生じな

い反応場及び操作条件の選定に関して、諸操作因子の検討(温度:673 K、仕込み水・油比

=1 または 2、反応時間 1~2 時間)を回分式反応装置(内容積 5 cm3)により実施した。 その結果、アスファルテン収率は比較的高く、またコーク収率も高かった。反応時間の

増大にともない、コーク収率は増大した。また。回収液中にピリジン等の水素供給源たる

化合物の生成を確認した。 今後の予定として、超重質油の分解の温度、圧力、処理時間、仕込み水/油比の依存性

評価、超臨界水中における分解メカニズムの解明、コーク形成抑制に与える水物性及び水

挙動の効果の解明、そしてバナジウム回収に関する研究を予定している。

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超臨界水を利用した重質油の水熱分解・改質技術の開発

(基盤技術研究グループ)東北大学 猪股 宏

1.研究開発の目的

超重質油資源を利用する技術については、水を添加し流動性を付与させることで、取扱

い易くする技術(エマルジョン化技術)があるが、この方法では、超重質油中の硫黄分は

低減されておらず、多量の水分も含有されているため、用途としてはごく限られたものに

なることから、本質的な有効活用技術として『高温高圧水による低分子量化』が着目され

ており、本研究プロジェクトでの目標もそのための基盤データの構築にある。

ところで、超重質油と水との反応においては、反応機構の解明、制御が必須であるが、

反応条件での相状態あるいは相平衡の知見が皆無であり、種々の仮定のもとに解析が実施

されているのが現状である。

そこで、本分担課題では、重質油のような Undefined Mixture 連続留分を、比重、TBP、

Mwなど、重質油としての最小限のデータから、相挙動推算に使用する状態方程式(EOS)

中のパラメータを計算できるようにする。その際の近似として、擬似多成分系とするが、

その分画手法も相挙動ならびに目的に合致した手法とすることを目的とする。状態式とし

ては、Peng-Robinson 式あるいは SRK 式という汎用式を利用するが、その際には擬似成分

と超臨界水との相互作用パラメータの見積もりが最重要となり、これを現存する測定値を

駆使して、実用に耐えるような予測手法にて計算できる方法論の提案を目的としている。

2.研究開発の内容

2.1.水の特徴的物性

超臨界水と溶質との混合系の圧力-体積-温度の関係は、超臨界水の応用技術を検討す

る場合には必須であるが、高温高圧なる理由からか測定例は殆どないのが現状である。超

臨界水純物質についての P-V-T は、国際水・蒸気性質協会(IAPWS)にて国際標準が設定さ

れ、作表化されている 1)。

表2.1 水の臨界物性値

Tc [K] Pc [MPa] ρc[kg/m3] η[μPa s] ε[ - ]

647.096 22.064 322 53.085 5.3606

ところで表2.1に示すように、水はその分子量から考えると異常に高い臨界温度と臨

界圧力を有している。水は、25℃における蒸発潜熱が、他の物質、例えばヘキサン(365.48

kJ/kg)や二酸化炭素(119.65 kJ/kg)と比較して極めて大きな値(2441.9 kJ/kg)を示す.そ

れが、250℃になると比較的高い蒸気圧を示し、また誘電率は 25℃の場合の約 1/3 になる。

気液飽和状態でのイオン積は、この温度で最大値をとる。

超臨界水の溶解力・溶解性については、しばしば有機物、無機物の溶解度の挙動を密度、

誘電率、イオン積などを用いて議論されている。超臨界水の溶解力を表現する指標として

しばしば使用されるものに、溶解度パラメータがある。水は臨界領域では、380 oC で 30 MPa

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では 25 MPa1/2 、これを 22MPa にすると 10 MPa1/2となるが、これは溶質分子にとっては、

液体溶媒概念では溶媒を交換したのに匹敵することになる。 この他の溶解性を反映した

物性値としては(比)誘電率がある。室温で水は、高い誘電率 78 を示すが、臨界温度に近

づくにつれ急激な減少傾向を示し、電解質などのイオン性物質を溶媒和(水和)する能力

が低下する。結果として、超臨界水への金属や電解質の溶解度が臨界点近傍において急激

に低下することになり、ひいては超臨界水溶液中での荷電物質の存在形態にも影響するこ

とになる。

2.2.高圧相平衡の分類

2.2.1 二成分水溶液系の相平衡(P-X 線図)

の特長(臨界軌跡)

一成分が超臨界成分となると混合系の臨界点が存

在するようになる。気液臨界軌跡は、1相と2相の

相境界を示すものであり、相平衡・相分離の条件に

関する知見を与え、分離、反応、材料製造プロセス

の操作条件決定に極めて基本的かつ重要な情報であ

る。気液臨界軌跡についての総説はいくつか報告さ

れており 15、17)、2成分系混合物については6つのタ

イプ(I-VI)に分類されている(図2.1)。

水を含む2成分系(水溶液)については、一般には

タイプ III の相挙動、すなわち気液臨界曲線が中断

された2つの部分に分けられるタイプを示すとされ

ている.低沸点成分の純成分臨界点から出発した

臨界軌跡は気液液3相平衡の終点でもある上部臨

界終点で分断される。一方、高沸点成分の臨界点

から出発した臨界軌跡は終点を示さずそのまま液

液平衡の臨界軌跡に連続する。図2.2、図2.3

には、これらのいくつかの例を、水の臨界点を出発

点とする臨界軌跡として示した 18、19)。

図2.2は、水と軽質ガス、アンモニアとの2成分系の臨界軌跡を圧力-温度(P-T)線

図への投影図として示したものである。組成についての軸はないが、臨界軌跡に沿って変

化している。すなわち、水の臨界点(374℃、22MPa)からスタートして、徐々に軽質成分

の分率が増加しているわけである。P-T 線図上の臨界軌跡を示す線よりも高温側(図では

右側)が1相領域になるが、適切な温度・圧力の選定によりこれらの軽質ガスが水に完全

溶解状態になることがわかる。酸素+水素+水を考えると、超臨界水条件では、酸素およ

び水素が水に完全溶解するため、超臨界水中では条件により酸化・還元場の両者の発現が

可能であることがわかる。

気・液液・液

蒸気圧気・液・液

臨界軌跡 相平衡曲線

気・液液・液

蒸気圧気・液・液

臨界軌跡 相平衡曲線

図2.1 2成分系の高圧相平衡の

6つのパターン

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図2.3には、種々の炭化水素+水 2 成分系の臨界軌跡を示した。図2.2と同様に、

水の臨界点からスタートした臨界軌跡が図示されている。「水と油」と言われるように例示

した炭化水素は常温常圧においては水と相分離して2相を形成するものばかりであるが、

温度上昇とともに相互溶解性が増大し、図に見られるように1相領域、すなわち相互溶解

領域が出現する。これらの混合系での特徴としては、水の臨界点からスタートした臨界軌

跡が炭化水素の分率増加とともに一度、低温側に向かい、水の臨界温度以下の温度条件で

液液平衡の臨界軌跡に連続することである。これは、亜臨界温度条件でも1相領域が存在

すること、また必ずしも高圧側が1相領域ではないことを示唆するものである。すなわち、

亜臨界温度で圧力を増大させていくと、気液-1 相-液液相分離と変化することになる。

もちろん、この P-T 線図には組成の情報が隠されているので、対象とする組成についても

考慮して、目的とする相状態を再現する操作条件(T、P)を選定する必要がある。

2.2.2 高温高圧領域での水+炭化水素系の高圧相平衡データに関する調査結果

重質油+水系の高温高圧領域での相挙動の知見については、その実測データは皆無で

あり、またその実測装置も方法も非常に難しいというのが現状である。そこで、既存のデ

ータをできるだけ集め、その情報から外挿適用になるが、予想する手順を取らざるを得な

い。そこで、まず、水+炭化水素混合系、高温(概ね300℃以上)という条件をつけて、

文献など入手できる情報の収集を調査した。その結果、九州大学では、300℃程度の温

度条件したでの高圧相平衡の測定ならびに相関についての研究が実施されていたので、担

当の下山助教に関係するデータの調査と提供を依頼した。

表2.2は、報告結果をまとめたものである。

250

200

150

100

50

100 200 300 400

一相

温度 [ oC]

圧力

[MPa

]

CO2

NH3

N2Xe

Ar

H2O

H2二相

250

200

150

100

50

100 200 300 400

一相

温度 [ oC]

圧力

[MPa

]

CO2

NH3

N2Xe

Ar

H2O

H2二相

図 5.11 軽質ガス-水2成分系の気液臨界軌跡

二相

圧力

[MPa

]

温度 [ oC]

H2O

一相

300

200

100

0 300 320 340 360 380 400 420

n-C4H10

CH3CH3

C2H6

CH3二相

圧力

[MPa

]

温度 [ oC]

H2O

一相

300

200

100

0 300 320 340 360 380 400 420

n-C4H10

CH3CH3

CH3CH3

C2H6

CH3CH3

図 5.12 有機物質-水2成分系の気液臨界軌跡図2.2 軽質ガス‐水2成分系の気液臨界軌 図2.3 有機物質‐水2成分系の気液臨界軌

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表2.2 高温域での水+炭化水素系の相挙動関係の論文

Hydrocarbon Max temp [C] p [MPa]1-Hexene 310.93 ~ 496.27 223.27 0.2068-5.3781-Octene 310.93 ~ 539.22 266.22 0.124-9.2601-Decene 374.15 ~ 568.99 295.99 0.121-11.238Ethane 473.2 ~ 623.3 350.3 20-350Propane 586.5 ~ 663.3 390.3 17.37-187.17Butane 411 ~ 511.1 238.1 0.4137-68.95Pentane 573 ~ 626 353 15.2-70.9Hexane 313.15 ~ 473.16 200.16 0.04537-3.516Heptane 568 ~ 629 356 15.2-70.92-Methylpentane 573 ~ 629 356 14.2-70.9Octane 310.9 ~ 552.9 279.9 0.0103-8.86Decane 374.15 ~ 576.16 303.16 0.121-11.238Decane 573.2 ~ 613.3 340.3 1.3-23.1Dodecane 603.6 ~ 633.1 360.1 0.88-24.9Cyclohexane 313.15 ~ 482.22 209.22 0.03151-2.965Ethylcyclohexane 310.9 ~ 561.5 288.5 0.0099-9.93Butylcyclohexane 310.93 ~ 584.33 311.33 0.5068-11.845cis- Decalin 374.15 ~ 599.1 326.1 0.110 – 14.438Benzene 423 ~ 549 276 1.1-17.2Benzene 533-573 ~ 574 301 10.1-81.1Benzene 453-663 ~ 664 391 1.98-21.4Toluene 423-583 ~ 584 311 0.9-17.2Toluene 553-583 ~ 584 311 14.7-60.8Ethylbenzene 310.9 ~ 568.2 295.2 0.0091-10.68m -Diethylbenzene 310.93 ~ 582.55 309.55 0.5081 – 11.714p -Diisopropylbenzene 310.93 ~ 589.99 316.99 0.4757 – 12.445Tetralin 573 ~ 673 400 0.59 – 18.1Tetralin 374.15 ~ 595.93 322.93 0.1124 – 13.1621-Methylnaphthalene 573 ~ 673 400 0.29 – 17.72-Methylnaphthalene 310.93 ~ 589.44 316.44 4.895 – 11.2731-Ethylnaphthalene 310.93 ~ 594.44 321.44 0.4668 – 12.238Hexane+Hexadecane 573 ~ 573 300 20Benzene+Hexadecane 573 ~ 573 300 20Toluene+Hexadecane 573 ~ 573 300 20Benzene and Heptane 560.9 ~ 605.5 332.5 24.8, 33.1

 T 範囲[K]

色マークは、300℃以上で、C6 以上の炭化水素、しかも組成データがある論文。

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3.研究開発の結果

3.1 重質油連続成分の近似法

重質油は、複雑な類似成分からなる複雑な混合

物であり、その相挙動を予測するためには、これ

らの多成分複雑混合物を、仮想的な擬似混合系に

近似して取り扱う。今回のターゲットとした、ビ

チュメン(試料⑨BIT)についても、同様とするが、

まずは原料がどのような成分となっているかの把

握が必須である。この課題は、他の研究グループ

が主体的に実施しているが、本課題でも成分分布

を把握する意味で、TLC などにより、原料ならび

に渡邉グループでの分画サンプルの分析を行って

みた。

その結果を図3.1に示した。TLC-FID では、

成分の種別の分離・識別ができており、Asphltene,

Resin, Saturate、Aromatics とに大別できること

が示されている。また TOFMS では、Maltene が低

分子量成分に富むことが明確に示唆されている。

つまり、両者から原料と溶剤分別をすることで、

分子量分布ならびに成分分布が変わることが理解

できる。

したがって、連続留分を擬似成分に分割する

場合には、これらの分画による変化を考慮でき

るようにすることが認識できる。

3.1.1 TBP からの連続留分の分画法

ターゲットのサンプル⑨BIT の分析デー

タを関連資料から抜粋してみると、図3.

2のようになる。本来はこの TBP 曲線を成

分分画してキャラクタリゼーションを行う

わけであるが、まず、H19 年度はまず方法

論の検討を行い、分画については次年度課

題とする。

図3.2 サンプルの TBP 曲線

0 0 0 1 0 2 0 3 0 4 0 5

0

1

2

3

0 0 0 1 0 2 0 3 0 4 0 5

0

1

2

3

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

0

1

2

3

Retention time [min]

(a) Raw oil (bitumen)

(b) Maltene

(c) asphaltene

2 TLC-FID charts for (a) raw oil (b) n-hexane soluble (maltene)

Saturates Aromatics

Resins Asphaltene

Saturates

Aromatics

Resins

Asphaltene

Resins

0 0 0 1 0 2 0 3 0 4 0 5

0

1

2

3

0 0 0 1 0 2 0 3 0 4 0 5

0

1

2

3

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

0

1

2

3

Retention time [min]

(a) Raw oil (bitumen)

(b) Maltene

(c) asphaltene

2 TLC-FID charts for (a) raw oil (b) n-hexane soluble (maltene)

0 0 0 1 0 2 0 3 0 4 0 5

0

1

2

3

0 0 0 1 0 2 0 3 0 4 0 5

0

1

2

3

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

0

1

2

3

Retention time [min]

(a) Raw oil (bitumen)

(b) Maltene

(c) asphaltene

2 TLC-FID charts for (a) raw oil (b) n-hexane soluble (maltene)

Saturates Aromatics

Resins Asphaltene

Saturates

Aromatics

Resins

Asphaltene

Resins

図3.1 LC-FID クロマトグラムの分析結果

(a)Raw Oil, (b) Maltene (n-hexane soluble),

(c)Asphaltene (Tolune soluble)

TBP BIT#9

0

200

400

600

800

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

vol fraction

T

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3.1.2 重質留分(成分)の代表値の推定法

留分の物性値で比較的測定できるものは、沸点(Tb)、比重(SG)であるので、これらか

ら、相平衡計算に必要とされる臨界温度、臨界圧力、偏心係数(ω)などを算出する相関

式がこれまでかなり提案されている。但し、それぞれに特徴があり、対象物に応じて使い

分ける必要があると考えられる。なお、PRO/II のような市販のシミュレーターには、石油

系で実績のある汎用式がパッケージ内に準備されている。

ここでは、試料 BIT に対して適切な式の候補として、既存の手法を纏める。

臨界物性(Tc、Pc,ω)および平均分子量(Mw)相関式

T1) Katz-Nokay's correlation (Spencer & Daubert )11.12)

T2) Cavett’s correlation13)

T3) Watson’s correlation14)

T4) Lee-Kesler Correlation15,16)

T5) Mathur’s correlation17)

T6) Penn State Eq.18)

T7) Chen-Hu Correlation19)

T8) ASPEN 20)

T9) Twu’s correlation21)

T10) Brule’s Correlation (modified Lee-Kesler )22)

T11) Riazi & Al-Sahhaf correlatios:23)

以上の主な手法について、191物質とデータが利用できる Coal-Tar 成分について、物性

推算の精度を比較してみた。その結果を表3.1に示す。

表3.1 Tc, Pc, Mw に関する推算精度の比較

Method Tc

%AAD

Pc

%AAD

Mw

%AAD

Brule 1.28 9.40

Cavett 1.11 6.23

Lee-Kesler 0.99 5.28 7.37

Mathur 18.52 48.99

ASPEN 5.10 9.89 11.27

Nokay 0.97 7.30

Penn State 1.17 5.70 7.23

Twu 0.67 3.75 3.42

この結果から判断すれば、Twu の手法がすべての物性値に対して優れていることが理解で

きる。なお、いずれの手法でも Tb、SG が情報として非常に重要であり、これらと Mw との

関係の予測性能について、Twu と類似の摂動法に基づく Riazi 法について比較検討してみ

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た。

ここで、対象は基本となるデータが揃っている物質として、Twu,Riazi の両法ともに基

準項としている Parafines(Alkanes)の C6~C18 とし、Mw, Tb, SG, Tc,の重要な物性値

全体とした。なお、結果については図示もしたが、Mw については、両法ともに良好である

こと、ならびに同種の物質であれば種々の物性が Mw 依存性として表現できることから Mw

についての推算値を比較した。

300

350

400

450

500

550

600

650

700

0 100 200 300

MW

Tb

(K)

Tbexp

Tbo-Twu

Tb-Twu

Tb-Riazi

3.2 高温高圧水+重質油モデル2成分系の相平衡相関

ここでは、Peng-Robinson 式と vdW一流体モデル混合則を用いた相関を行う。その目的

は、水+炭化水素混合系は、明らかに非理想性の大きな系であるので、その非理想性の尺

度である異種分子間パラメータ(kij 推定の基礎データの蓄積である。

( )

PcRTcb

TcT

PcRTcTa

bVbbVVTa

bVRTP

0778.0

*0.26992 - *1.54226 + 0.37464 =,1145724.0)(

)()()(

22

=

⎪⎭

⎪⎬⎫

⎪⎩

⎪⎨⎧

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛−+=

−++−

−=

ωωαα

( )

∑∑

=

= =

=

−=

1

1 1)()(1

iiim

i jjiijjim

bxb

TaTakxxa

具体的には、表3.1にて収集した 300℃以上の高温域での2成分系相平衡の相関を

図3.1 Tb に関する計算値と実測値との比較 図3.2 Tc に関する計算値と実測値との比較

400

450

500

550

600

650

700

750

800

0 100 200 300

MW

Tc (

K)

Tcexp

Tco-Twu

Tc-Twu

Tc-Riazi

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Water - Decane

0

5

10

15

20

25

30

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0

X(water)

P /

MP

a

EXP (LLE 300 C)

P-R EOS (LLE) Kij=0.3

P-R Eos (LLE) Kij=0.5

行った。その結果を図3.3に、実験結果とともに示す。

・ 対象としたデータ

Benzene+Water 300℃ VLE+LLE

Tolunen+Water 310℃ VLE+LLE

Heptane+Water 355℃ VLE+LLE

Decane+Water 300℃ VLE+LLE 340℃ VLE+LLE

Dodecane+Water 330℃ VLE+LLE 360℃ VLE+LLE

Tetralin+Water 399.7℃ VLE

0

10

20

30

40

50

60

70

80

0 0.1 0.2 0.3

X(Benzene)

P /

MP

a

Benzene-Water EXP Data T=300CP-R Eos kij=0.10P-R Eos Kij=0.07

0

10

20

30

40

50

60

70

80

0 0.1 0.2 0.3

X(heptane)

P /

MP

a

Heptane-Water EXP 355 C P-R Eos Kij=0.06P-R EoS Kij=0.15

図3.3 Hydrocarbon+Water 系の相平衡の相関結果

(左上 Benzene VLE+LLE 300℃)(右上 HeptaneVLE+LLE 355℃)

(左下 Decane VLE 300℃) (右下 Decane LLE 300℃)

Water-Decane

0

2

4

6

8

10

12

14

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

X(water)

P /

MP

a

EXP data 300 C

P-R EoS Kij=0.3

P-R EoS kij=0.5 .

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結果の図からわかるように、kij は 0.1~0.6 とかなり変化すること、また気液平衡と液

液平衡の両者を一つの kij 値で良好に相関することは、非常に困難であることがわかる。

また、300℃程度の相平衡の相関は、高温 360℃~400℃の範囲よりは難しいことが判明し

Kij (VLE)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

250 300 350 400 450

T / C

Kij-

valu

e

Benzene

Tolene

Tetralin

C7

C10

C12

Kij (LLE)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

250 300 350 400 450

T / C

Kij-

val

ue

Benzene

Tolene

Tetralin

C7

C10

C12

図3.4 炭化水素+Water 系の相平衡相関における Kij 値の温度依存性

図3.4には、上記の相関で比較的実測値を良好に相関できた kij 値を、気液平衡、液

液平衡に分け、温度に対してプロットした。明確な関係を抽出することは難しいが、液液

平衡では温度とともに kij が増大する傾向にあること、脂肪族の方が大きな kij 値をとる

傾向があることがわかる。いずれにせよ、計算対象とする温度範囲を明確にし、kij に温

度依存性を与え、かつ留分の沸点範囲で脂肪族や芳香族の識別ができれば、それを反映さ

せたキャラクタリゼーションと kij 相関式の開発が望ましいと考える。

4.まとめ

本年度は、シミュレーションまで到達することができなかったことが、第一番の課題と

いえる。その過程で、連続留分についてのキャラクタリセーション・近似法については、

かなり推奨できる手法として Twu あるいは Riazi の手法が明確になったことは、次年度以

降の検討方向性を絞り込めたと考えている。また、成分については、Alkanee, Araomas の

ような種別識別を反映させる必要が認識できた。これは、2成分系の相関結果からも、異

種分子間パラメータに大きな乖離があるので、非常に重要な点と言える。その手法につい

ては、累積組成と Mw,Tb などとの分布により、種別毎の組成の影響が反映できないかと考

えており、その候補の選定を行っている。

なお、シミュレータへの検討結果の導入については、個別の課題を解決した次のステッ

プとして計画している。

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参考文献

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www.iapws.org).

2. 佐藤誠、 植松公彦、 水および蒸気の物性値の国際基準について、化学工学物性定数、

Vol.20、(化学工業社) p.3 (1998)

3. IAPWS Web Site (www.iapws.org) ; IAPWS "Release on the Ion Product of Water

Substance," May 1980, based on Marshall. W L and Franck. E U ;J. Phys. Chem. Ref.

Data, 10, 295 (1981)

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London. (1982).

5. Sadus, R. J. High Pressure Phase Behaviour of Multicomponent Fluid Mixtures, Elsevier,

Amsterdam. (1992).

6. Schneider, G. M.. Z. Phys. Chem. NF., 37, 333-352. (1963)

7. スミス・リチャード・リー、 猪股 宏、 王 涛、 2成分および多成分系の臨界軌

跡 化学工学物性定数, Vol.20, (化学工業社), p.45(1998)

8. Alwani.Z. and Schneider.G.M. : Ber. Bunsenges.Phys.Chem., 71.633(1967)

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11. Nokay,R., Chem.Eng.66, 147(1959)

12. Spencer,C.F. and Daubert, T.E., AIChE J., 19, 482 (1972)

13. Cavett,R.H., Proc. Of 27th Midyear Meeting of API Div. Ref., May(1962)

14. Watson, K.M., Ind.Eng.Chem., 28, 605(1936)

15. Lee, B.I. and KeslermG.M., AIChE J., 21, 510(1975)

16. Kesler,G.M. and Lee,B.I., Hydrocarbon Process., 55(3), 153(1976)

17. Mathur,B.C., Ibrahim,S.H. and Kulcor,N.R., Chem.Eng., 76(6),182(1969)

18. Ann.Penn State Report # API-3-78, April (1978)

19. Chen,M.-C., Hu,D.-B., Chinese Chem Soc., 10, 208(1943)

20. The ASPEN Project, Second Ann Report, June(1977) US-DOE- EX-76-C-01-2095-009

21. Twu, C.H., Fluid Phase Equilibria, 16, 137-150, (1984)

22. Brule, M.R., Lin,C.T., Lee, L.L. and Starling, K.E., AIChE J., 28, 616(1982)

23. Riazi, M.R. and Al-Sahhaf, T.A., Fluid Phase Equilibria, 117, 217-224(1996)

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超臨界水を利用した重質油の水熱分解・改質技術の開発

(基盤技術研究グループ)産業技術総合研究所 鷹觜 利公、佐藤 信也、麓 恵里

1.研究開発の目的

超臨界水を利用してオイルサンド等の超重質油を 90%以上分解するためには、次の 3 つ

の研究課題を解明する必要がある。 ① オイルサンド等超重質油の特徴は何か? ② 超臨界水等を用いた反応条件の下、超重質油内で起こる反応は何か? ③ ①、②を理解した上で、複雑な反応場を設計し、また制御する最適条件は何か? ①については、従来の報告から、超重質油は芳香族成分を多量に含み、その多環芳香族

クラスター間のπ−π相互作用により強固な凝集構造を形成していると考えられる。また、

芳香族性の他にも、硫黄、窒素、ナフテン酸等の極性官能基、V、Ni 等の金属が多く含ま

れる場合もあり、それらが凝集体の核となりコーキング反応に影響することも考えられる。

そうした化学的な性質をもとに強固な凝集体を形成するために、比重が高く、粘度が極め

て高いという物理的な特徴にも関係している。しかしながら、そうした重質性の特徴は、

超重質油の起源、産地等により異なることが知られ、先ずは目的とする超重質油そのもの

の分子構造と凝集構造の本質を明らかにする必要がある。 ②の超臨界条件での反応については、これまで重質油、石炭等の重質炭化水素類で報告

されているが、反応条件によりいろいろな説が報告されており、また原料および反応生成

物も複雑な混合物であることから、軽質成分の得率という観点からの報告が多く見られる。

従って、超重質油原料とその超臨界水反応生成物の構造解析を詳細に行い、超臨界水場で

の反応機構を明らかにする必要がある。その際、温度条件により、熱分解も関与してくる

ので、条件に応じた理解が必要である。また、その機構解析において、原料を予め溶剤等

で分別した試料で調べることで、各試料の特徴と分解反応性を関連付けて評価することも

可能である。 ③については、コーク生成を可能な限り抑制して分解率を上げるためには、効率的に水

素あるいはラジカルキャッピング剤を付加する必要がある。そのような反応を超臨界状態

で行うことが良いのか、あるいは事前の水熱改質処理として行うことが良いのか、水素源

等の選択も含めて検討を行う必要がある。また、コーキングに起因する成分を事前処理で

除去するか、あるいは反応性の高い成分(90%以上)だけを溶剤処理等で抽出して用いる

ことが可能かどうか等の検討も必要であろう。 本研究では、以上の3つの研究課題を分子構造解析、凝集構造評価、分子シミュレーシ

ョン、生成物のキャラクタリゼーション、水蒸気改質の手法を用いて総合的に研究を進め、

原料そのものの本質の理解、反応機構の解明をもとに、効率的に水素移行が起こる最適反

応条件を見出し、近い将来の技術開発に向けた基盤研究という位置付けで、超重質油の分

解技術においてブレークスルーとなり得る技術シーズを探索する。 具体的な研究開発目標としては、実験室レベルの装置を用いて、オイルサンド等超重質

油を 90%以上分解する反応場を、そこで起こる構造変化と反応機構を理解した上で提案す

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ることを目的とする。 2.研究開発の内容

平成 19 年度は上述の課題のうち、原料の分子構造解析と水蒸気改質について検討した。 原料の分子構造解析:従来の原油と比較したオイルサンドビチュメンの構造特性を明らか

にし、構造モデリング解析により、各ビチュメン中のアスファルテンとマルテンのモデル

構造を決定した。 水蒸気改質:酸化鉄系触媒を用いたオイルサンドビチュメンの水蒸気接触分解反応を行い、

ガソリン、灯油、軽油等の軽質燃料油の収率やコーク生成量を検討した。 3.研究開発の結果

3.1 分子構造解析 重質油の処理において、アスファルテンは種々の問題を引き起こす物質であるが、少量

多種の炭化水素の混合物であることから、工業的な一般性状以外の分析・解析はほとんど

行われてこなかった。平均分子構造解析法はこのような複雑な混合物を縮合環の構造とい

う観点から、平均構造ではあるが、その性状や反応性についてガイドラインを与える方法

として有効である。 オイルサンドは従来利用されてこなかった資源であり、抽出油やアスファルテンの詳細

な分析があまり行われておらず、中東系の原油に代表される従来利用されてきた原油から

の重質油との比較も十分には行われていない。このような現状から、オイルサンドの処理

における反応性の特徴を明らかにするため、オイルサンドの原料および反応生成物の特に

アスファルテン留分の平均分子構造解析を行う。今年度は平均分子構造解析を用いて原料

の特徴を明らかにする。 3.1.1 分子構造解析手法 構造解析を行うためには、図3.1のように溶剤分別、分析、平均分子構造解析という

手順を踏む必要ある。以下にその方法を述べる。 (1)溶剤分別 原油は複雑な混合物であるため、個々の成分の同定は不可能である。そこで、溶剤分別

などの方法でマルテンとアスファルテンに分画し、各々を別個に分析することがよく行わ

れている。本研究では重質油中に含まれる融点 70℃前後のマイクロワックスの影響を除く

ため、IP 法(IP143)1)を用いて、アスファルテンを溶剤分別した。さらにアスファルテン

の一部である、ペンタン不溶-ヘプタン可溶分を、原料のヘプタン可溶分の中から回収し

た。ヘプタン不溶分を C7AS、ペンタン不溶-ヘプタン可溶分を C5AS、マルテンを MAとする。

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ヘプタン不溶分C7AS

ペンタン不溶-ヘプタン可溶分C5AS

1. 溶剤分別

ヘプタン ペンタン

2. 分析元素分析(C,H,N,S)、  GPC(Mn)、NMR(H分布、 fa、芳香環架橋炭素)

3. 平均分子構造解析

S

OH

S

SO

N

S

N

S

S

SS

COOH

S

N

SS

O

S

COOH

ビチュメンマルテン

MA

図3.1 構造解析手法 (2)分析 元素分析:元素分析は、CHNS アナライザー (EA 1110, Finnigan Mat)で行った。酸素は

C, H, N, S の差で求めた。また、原料、MA、C7AS については日鉄環境エンジニアリング

株式会社に外注分析を依頼し、全硫黄と酸素の定量を行った。分析法は全硫黄については

燃焼-イオンクロマトグラフ法、酸素については JIS M8813 を適用した。 GPC 分析:アスファルテンの分子量分布は、アジレント社の 1100 シリーズ LC システム

およびエバポレート光散乱検出器 (ELSD, Varex MK III ELSD, Alltech Associates) を用いて

GPC 法によって測定した。GPC カラムは、Shodex 社製 K403HQ (内径 4.6mm、長さ 250mm、

排除限界 40,000amu)を用いた。マルテンは約 0.1wt%、アスファルテンは約 0.2wt%の THF溶液とし、オートイジェクターで 20 μl を注入した。溶離液は THF(0.2ml/min)、カラム

温度は 30℃とした。分子量の検量線は、ポリスチレン(分子量: 19600、9500、 5400、2800、580)で作成した。低分子量領域ではポリスチレンの検量線では誤差が大きいので、デカシ

クレン(MW: 451)と 2,9,16,23-テトラ-t-ブチル-29H,31H-フタロシアニン(MW: 739)を用いて

分子量補正した。 NMR:1Hおよび 13C-NMR分析は JEOL Lambda 500型超電導NMR分析計で行った。1H-NMRでは 10mg の試料を 0.3%の TMS を含む 0.7ml の CDCl3 に溶かし、16 回の積算で行った。13C-NMR では約 100mg の試料を 0.7 ml の CDCl3に溶かして調製した。13C-NMR では試料

の量に応じて緩和剤を用いた。緩和剤を用いた場合はアセチル酢酸クロム(III)約 5mg を

試料に溶かした。標準的な測定条件はゲーテドデカップリング法で 30 ゚パルスを用い、緩

和剤を含む場合はパルス間隔 8sec、積算回数 10,000 回、緩和剤を含まない場合は、パルス

間隔を 25sec とした。4 級の芳香族炭素を定量するため、この試料で、DEPT 法による測定

を併せて行った。その条件は、緩和剤を含む場合は 135° パルス、パルス間隔 3sec、積算

回数 10,000 回で、緩和剤を含まない場合はパルス間隔 6sec で行った。この条件での芳香

族炭素の再現性は 99%以上である。

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(3)平均分子構造解析 平均分子構造解析は機器分析で得られる炭素、水素のタイプ別原子数から芳香環系を中

心に整合性のある分子構造を組み立てていく方法であり、Brown-Ladner 法 2)が基本である。

本研究では Excel 上で動くプログラム 3)を使用し、元素分析、GPC、NMR の結果から平均

分子構造解析を行った。 3.1.2 性状と組成分析 (1)溶剤分別による回収率 試料の溶剤分別を行った結果、ビチュメンの MA、C5AS、C7AS はそれぞれ 84.5、4.0、11.4wt%(Petro Canada 社)と 81.5、5.0、13.4wt%(Syncrude 社)であった。Syncrude 社の

ビチュメンのアスファルテンがやや多く、より重質であると予想された。これは、Syncrude社のビチュメンは露天掘りであり、ほぼすべてのビチュメンが回収されるのに対し、SAGD法(Petro Canada 社)では最も重質な部分が回収されていない可能性を示唆する。 (2)機器分析による物性値 機器分析の結果を表3.1に示す。参考として代表的な中東原油である Arabian Light 原油から回収した減圧残油(AL-VR)を同様に分析した結果を示す。表中の mol%は wt%を

その数平均分子量で除し、MA、C5AS、C7AS の合計を 100%として計算した量である。 元素分析では、C5AS 以外の試料については酸素分析も行った。そのため Others には

C5AS の場合のみ酸素も含む。原料および MA では、その量は1%以下であった。Petro Canada 社の C7AS では 1.3%で、AL-VR と等しかった。しかし、Syncrude 社の C7AS では

6.6%にもなり、多量の灰分が含まれていた。この試料を空気気流下、500℃までの熱重量

分析を行ったところ、残渣分が 7.6%となった。この大部分は無機物と考えられる。露天掘

りの C7AS で無機物の存在量の大きな差は露天掘りと SAGD 法でいう回収法の差に由来す

ると思われる。

表3.1 オイルサンドビチュメンの分析結果 表 果

Petro Canada Syncrude Arabian LightFeed Ma C5AS C7AS Feed Ma C5AS C7AS Feed Ma C5AS C7AS

wt% 100.0 84.5 4.0 11.4 100.0 81.6 5.0 13.4 100.0 82.1 6.3 10.8mol% 100.0 91.8 1.7 6.6 100.0 89.7 2.1 8.2 100.0 80.4 6.1 13.5C, wt% 83.5 83.0 80.7 80.1 82.4 82.9 80.6 74.9 84.2 84.0 83.1 82.9H, wt% 10.6 11.0 8.4 7.9 10.3 10.8 8.5 7.4 10.4 11.0 8.1 7.2N, wt% 0.47 0.36 1.09 1.25 0.49 0.33 1.05 1.14 0.38 0.27 0.78 0.97S, wt% 4.17 3.67 8.10 7.59 4.52 4.33 8.15 7.17 4.78 4.17 6.95 7.58O, wt% 1.00 0.90 nd 1.80 1.10 0.80 nd 2.80Others, wt% 0.30 1.15 1.70 1.30 1.15 0.79 1.73 6.61 0.24 0.56 1.07 1.35GPC, Mn,THF 918 873 2304 1653 961 899 2341 1620 1141 1162 1165 9071H-NMR,%

Ha 6.0 5.1 8.3 8.2 6.7 5.8 8.2 8.9 6.1 5.5 10.5 10.8Hα 14.4 12.6 19.5 20.0 13.1 14.0 18.8 20.9 12.5 9.2 19.5 20.0Hβ 54.9 55.4 54.7 52.9 56.3 55.5 55.6 51.9 64.0 63.7 54.1 51.4Hγ 24.8 26.8 17.5 18.9 23.9 24.8 17.5 18.4 17.4 21.5 16.0 17.8fa% 28.2 25.5 42.3 48.0 30.0 26.5 44.3 52.4 33.8 28.6 50.3 54.1

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各成分の数平均分子量では、AL-VR と比べて MA は比較的小さな分子量を示しているが、

C5AS と C7AS は、かなり大きな値を示した。通常既存の原油では AL-VR の例のように、

マルテンの方がアスファルテンよりも大きな分子を示す。しかしながら、ビチュメンでは

アスファルテンは MA に比べてかなり大きな分子量を示した。 炭素芳香族性(fa)は C5AS では 42-44%、C7AS で 48-52%と、AL-VR の 50.3 及び 54.1に比べて小さな値となった。一般的に分子量の大きいアスファルテンは芳香族性が低いが、

ビチュメンでもこの傾向は当てはまっていた。 (3)分子量分布 ビチュメンの GPC クロマトグラムを図3.2に示す。ただしクロマトグラムの面積は実

際の使用中の存在量とは関係無い。両試料ともアスファルテンは MA や原料と明らかに区

別できる。AL-VR のクロマトグラムと比較すると、ビチュメンのクロマトグラムは、MAは軽く C5AS と C7AS はより重くなっていることがわかる。従って、ビチュメンは AL-VRに比べかなり重質と言える。 3.1.3 構造パラメータ 表3.1のデータを用いて、構造パラメータを計算した。表3.2に、構造パラメータ

の実数解を示す。Petro Canada 社のビチュメンの MA は、1 分子中に 1.6 個のユニットを含

み、Syncrude 社のものは 2 個のユニットを含んでいた。MA 中の縮合環はユニット 1 個当た

り 2~3 個の芳香環と 1~2 個のナフテン環を含んでいると推定された。C5AS はどちらの試

料も、1 分子中に約 3.5 個のユニットを含み、比較的小さなユニットが多数つながっている

というペンダントモデルに近い形をしていた。C5AS は、分子量が大きいことから、1 分子

内に、15~20 個の芳香環を含むが、1 ユニット当たりでは概ね5個であった。MA と C5ASでは Petoro Canada 社と Syncrude 社の構造パラメータにあまり大きな違いは見られなかった。 一方、C7AS は 1 分子中のユニット数が 1.5~2 であり、縮合環の全環数は両ビチュメンと

もに類似していたが、芳香環数は Petoro Canada 社のビチュメンでは 7~8 環、Syncrude 社の

ものでは 11 環程度と異なり、後者ではナフテン環がほとんど存在しないという結果になっ

た。Syncrude 社のものは灰分を 7%含むことと併せ、大きな縮合環が精製上の大きな妨害と

なると予想された。 3.1.4 平均モデル構造 表3.2のデータに基づいて平均モデル構造を構築した。各試料の MA、C5AS、C7ASの平均分子モデル構造を図3.3に示す。MA では 1~2 環の芳香環に 1~2 環のナフテン

環がカタ型に結合したモデルとなった。これらの構造より精製上の問題は少ないと言える。 C5AS は 4~6環の芳香環を核としたモデルで、一部ピレン型に縮合した構造が含まれた。

AL-VR のモデルと比較して、ビチュメンの C5AS では個々のユニットの構造は類似してい

るものの、1分子中のユニット数が大きく異なることが示されている。この結果より、C5ASは側鎖を切断して個々のユニットを開放することにより、精製可能な留分になることが示

唆された。

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ビチュメンの C7AS は1ユニット当たり芳香環が7~8環含まれており、縮合度も C5ASよりも大きくなっていた。ユニットの構造は AL-VR の C7AS と類似のものであったが、若

干側鎖が長く、それが fa の差として表れていると思われる。一方、酸素や硫黄元素を多く

含み、AL-VR よりは極性がより高いと予想された。

8 10 12 14 16 18 20

Retention Time

Bitumen(Syncrude)

原料

MA

C5AS

C7AS

8 10 12 14 16 18 20

Retention Time

Vacuum Residue(Arabian Light)

C5AS

原料

MA

C7AS

Retention Time

Bitumen(PetroCanada)

原料

MA

C5AS

C7AS

8 10 12 14 16 18 20

図3.2 ビチュメンと Arabian Light VR の GPC クロマトグラム

表3.2 構造パラメータ

Bitumen/VR Petro Canada Syncrude Arabian LightSAMPLE Feed MA C5AS C7AS Feed MA C5AS C7AS MA C5AS C7AS

Total Carbon 65.4 61.6 162.5 115.8 67.8 63.5 164.9 113.5 82.1 83.9 65.4Total Hydrogen 97.8 96.2 200.6 135.4 99.9 98.1 205.0 132.8 119.4 97.1 68.0Aromatic carbon 19.5 16.6 73.2 58.4 21.5 17.9 77.3 57.9 29.1 43.8 36.7Aromatic H 7.6 6.4 24.8 16.8 8.7 7.4 25.0 17.4 9.6 13.6 10.3Hα 14.6 12.6 39.6 27.3 13.5 14.2 38.9 28.0 15.4 19.2 13.7Hβ 51.8 51.7 102.5 66.8 54.3 52.6 106.6 64.0 74.0 49.4 32.4Hγ 23.8 25.5 33.7 24.5 23.4 23.9 34.5 23.4 20.4 14.9 11.6Unit 1.7 1.6 3.5 2.0 2.0 2.0 3.5 1.5 1.2 1.4 1.0Total rings 7.8 6.2 26.6 19.9 8.1 6.5 24.8 17.1 8.8 14.5 14.1Aromatic rings 4.0 3.4 16.6 14.7 4.4 3.5 18.4 16.7 6.7 11.7 10.6Naphtenic rings 3.7 2.9 10.1 5.2 3.7 3.0 6.4 0.4 2.2 2.8 3.5Total rings/unit 4.6 3.9 7.6 10.0 4.1 3.3 7.1 11.4 7.3 10.4 14.1Aromatic rings/unit 2.4 2.1 4.7 7.3 2.2 1.7 5.3 11.1 5.6 8.4 10.6Naphtenic rings/unit 2.2 1.8 2.9 2.6 1.9 1.5 1.8 0.3 1.8 2.0 3.5

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S

OH

S

OH

S

OH

S

OH

MA

PetroCanada

SHO

SHO

Syncrude

SS S

S

S

S

Arabian Light

4:6 混合物

5:5 混合物

PetroCanada

Syncrude

Arabian Light

C5AS

S

SO

N

S

N

S

S

SS

COOH

S

SO

N

S

N

S

S

SS

COOH

N

S

N

S

S

SS

COOH

N

S

N

S

S

SS

COOH 5:5 混合物

S

S

S

N N

S

S

HOOCS

S

S

N N

S

S

HOOC

S

S

S

N N

S

S

HOOC

SS

O

S

S

S

N N

S

S

HOOC

S

S

S

S

N N

S

S

HOOC

SS

O

5:5 混合物

NS

S

S

HON

SS

S

HO

S

N

SS

O

S

COOH

S

N

SS

O

S

COOH

Arabian Light

PetroCanada

Syncrude

C7AS

N

S

S

O

S

HO

N

S

S

O

S

HO

SS

O N N

S

S

O

S

HOS

S

O N N

S

S

O

S

HO

OHS S

HO

S S

HO

S S

HO

N

SS S

HO

N

S

5:5 混合物

6:4 混合物

図3.3 平均分子モデル構造

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3.2 水蒸気改質 オイルサンドなどの重質油をコークレスで軽質化するためには、水素を添加する水素化

分解プロセスが有用である。しかし、水素は高価であるため安価な水を水素源として用い

るプロセスが望ましい。そこで本研究では、重質油に含まれる不純物に耐久性があり、水

存在下で活性を示す触媒として安価な酸化鉄系触媒を用いて、水存在下での重質油の軽質

化について検討した。コークレスで重質油からガソリン、灯油、軽油などの軽質燃料油へ

転換することを目的として、酸化鉄系触媒によるオイルサンドビチュメンの分解実験を行

った。また、オイルサンドビチュメンの代わりに、比較的取り扱いやすい常圧残油を用い

て接触分解条件を検討した。 3.2.1 方法 ジルコニアとアルミナを含む酸化鉄系触媒は共沈法で調製した。触媒の水分解活性は、

Thermal desorption spectroscopy(TDS)分析で評価した。TDS 分析では、室温で触媒に水を

吸着させ、真空にして昇温した際に脱離する水素量を質量分析によって測定した。 オイルサンドビチュメンの分解反応実験は固定層型流通式反応器を用いて、反応温度

450-500℃、大気圧下、水蒸気雰囲気下で行った。原料としてペトロカナダのオイルサン

ドビチュメンを用いた。オイルサンドビチュメンは粘度が高いため、トルエンで 10 倍に希

釈してシリンジポンプで反応器に供給した。なお、予備実験により本触媒のトルエン分解

活性は無視できるほど小さいことを確認した。タイムファクターW/F(W:触媒重量 [kg]、F:原料供給速度 [kg/h])=1.4 h とした。反応条件を検討するため、常圧残油を用いた実

験を同様の方法で行った。液体生成物は蒸留ガスクロマトグラフィーで分析した。分析結

果から蒸留曲線を作成し、ガソリン+灯油(沸点:250℃以下)、軽油(250-350℃)、重質

油(350℃以上)に分類した。ガス生成物はガスクロマトグラフィーで分析した。また、使

用後の触媒は熱天秤で焼成し、コーク生成量を測定した。 3.2.2 結果 水存在下で酸化鉄系触媒の重質油分解活性を検討するため、比較的取り扱いやすい常圧

残油の接触分解反応実験を行った。図3.4は反応温度 450-500℃の水存在下で酸化鉄系

触媒を用いて常圧残油を分解した際の生成物収率を示す。比較のため、原料である常圧残

油の組成と無触媒の結果も図に示した。触媒を用いずに常圧残油の分解実験を行った場合、

重質油はほとんど分解されず、コークが生成した。一方、酸化鉄系触媒を用いると重質油

の割合が大きく減少し、ガソリン、灯油、軽油が多量に生成した。また、二酸化炭素を主

成分とするガスが生成し、コークは生成しなかった。このことから、水存在下で酸化鉄系

触媒によって、重質油は酸化分解されたと考えられる。TDS 分析により、触媒に吸着した

水から水素活性種が生成し、また同時に酸素活性種も生成する。この酸素活性種と反応し

て重質油が酸化分解されるため、コークを生成せずにガソリン、灯油、軽油などの軽質油

が生成した。水素活性種は分解生成物に組み込まれると考えられる。 図3.4より、反応温度が高くなると重質油の割合が減少し、軽質化が進行した。これ

は、反応温度が高いほど重質油が熱的に分解されやすいためと考えられる。特に 475℃以

上では、多量の活性種が生成し、重質油が熱的に分解しやすいため、コークを生成せずに

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重質油成分の割合が約半分に減少した。一方、450℃では、熱的に重質油が分解しにくく、

活性種との反応が起こりにくいため、軽質油や二酸化炭素の生成量がやや少なかったと思

われる。以上の結果から、特に 475℃以上で常圧残油は有効に分解され、コークを生成せ

ずに多量のガソリン、灯油、軽油が生成した。 次にオイルサンドビチュメンの分解について検討した。常圧残油を用いて反応条件を検

討した結果から、反応温度 475℃でビチュメンの分解反応実験を行った。図3.5は水存

在下で酸化鉄系触媒によってビチュメンを分解した際の生成物収率を示す。酸化鉄系触媒

によってビチュメンは有効に分解され、常圧残油の結果とほぼ同量のガソリン、灯油、軽

油が生成した。また、二酸化炭素が生成していることから、酸化鉄系触媒によって水から

の活性種とビチュメンが反応して軽質化したと考えられる。しかし、ビチュメン分解では

コークが生成した。これは、ビチュメにはコーク生成の要因となるアスファルテン成分が

多く含まれているためと考えられる。ビチュメンの重質成分は水からの活性酸素種と反応

して軽質化するが、充分な量の活性酸素種が存在しないとき、コークが生成すると思われ

る。従って、活性酸素種の生成を促進し、活性酸素種とビチュメンとが有効に反応するよ

うな条件を検討する必要がある。

500℃

475℃

450℃

無触媒

原料組成

0 20 40 60 80 100

酸化鉄系触媒

コーク+付着分

(500℃)

ガソリン +灯油

軽油

ガス

重質油

収率 [wt%] 図3.4 常圧残油の分解生成物収率

分解生成物

原料組成

0 20 40 60 80 100

(酸化鉄系触媒)(475℃)

コーク+付着分ガソリン+灯油

軽油ガス

重質油

収率 [wt%]

図3.5 ビチュメンの分解生成物収率

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4.まとめ

今年度はプロジェクトの標準試料である Petro Canada 社、及び Syncrude 社から入手した

オイルサンドビチュメンの構造解析を実施するとともに、475℃で酸化鉄系触媒を用いたオ

イルサンドビチュメンの水蒸気接触分解反応を行った。その成果として以下のような知見

が得られた。 ビチュメン原料の構造解析では、試料を予めヘプタンおよびペンタンを用いてマルテン

(MA)、ヘプタンアスファルテン(C5AS)、ペンタンアスファルテン(C7AS)に溶剤分別

し、それらの分別試料に対して元素分析、1H および 13C-NMR 分析、GPC 分析を行い、物

性値を比較した。比較の対照として、AL-VR 減圧留分から回収したアスファルテンの性状

も用いた。 MA はすべての試料で類似の物性値を示し、2 環の芳香環を核とするユニットが 1~2個

で構成されていたが、C5AS は AL-VR の C5AS に比べ、小さな fa と大きな MW を示した。

平均分子構造解析の結果、C5AS は平均で5環程度の芳香環を含む縮合環を核とするユニ

ットが4~5個結合した、ペンダントモデルに近い構造を有すると推定された。C7AS は

1ユニット当たり芳香環が7~8環含まれており、縮合度も C5AS よりも大きくなってい

た。ユニットの構造は AL-VR の C7AS と類似のものであったが、酸素や硫黄元素を多く含

み、AL-VR よりは極性がより高いという結果が得られた。 475℃での水蒸気改質試験では、常圧残油を試料とした場合と同程度のガソリン、灯油、

軽油等の軽質燃料油が得られた。しかしながら、常圧残油の分解では、生成が確認されな

かったコークが、ビチュメンを試料とした場合には見られた。これは、コーク生成の原因

となるアスファルテン成分がビチュメンには多量に含まれており、水からの活性酸素種が

不足して活性酸素種とビチュメンの重質成分との反応が起こりにくかったためと考えられ

る。 今後の課題として、各溶剤分別試料に対して、異なる反応条件下で得られる生成物の構

造解析を実施し、条件に応じた反応性の比較を行うとともに、その反応機構を解析する。 また、触媒を用いた水熱改質試験では、水からの活性酸素種生成を促進するための最適条

件を検討し、コークを 10%以下に低減する条件を見出す。 参考文献 1) 石油学会第5部会アスファルト分科会アスファルテン定量方法専門委員会, 石油誌, 11,

190 (1968)

2) Brown, J. K., Ladner, W. R., Fuel, 39, 87 (1960).

3) 佐藤 信也、日エネ誌、86, 792 (2007).

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超臨界水を利用した重質油の水熱分解・改質技術の開発

(基盤技術研究グループ)北海道大学 増田 隆夫、多湖 輝興

1.研究開発の目的

重質油およびビチューメンの軽質化を、常圧から加圧下の加熱水蒸気中での条件、およ

び水の亜臨界から超臨界での条件で軽質化の促進を実現する触媒開発を行い、触媒反応に

よる反応原料中の重質留分の灯軽油留分への転化率 60%以上を最終目標として研究を実

施する。

研究実施者は、FeOX系触媒を用いた反応として、廃プラスチックの分解 1,2)、パーム固形

廃棄物の熱分解油の改質 3)、下水汚泥由来黒水の改質 4)、および重質油分解 5)について研

究を実施してきた。これらの知見を基に触媒の高活性化、長寿命化、および加圧加熱水蒸

気雰囲気、と水の超臨界の状態で反応場と触媒反応を併せることにより、上記の目標の達

成をはかる。

具体的には、超臨界水を主反応場として用いることから、重質油を軽質化する際に水を

水素源として捉える。この場合、水分解により生成する酸素を炭素鎖と反応させて CO2 と

する部分酸化分解的な分解を促進する。この酸素は、同時に触媒上への炭素質残渣の副生

を抑制することができる可能性がある。そこで、FeOx 系触媒の格子酸素を用いて重質な分

子の炭素鎖を酸化的に分解する。消費した格子酸素を補給するために、水分子を分解して

活性酸素と活性水素を生成する触媒能を有する金属を FeOx 触媒と組み合わせる。

この考えの基、平成19年度は図1.1に示すように、まず最適な FeOx と上記金属の組

合せをスクリーニングした。ついで、触媒活性の向上のために、触媒調製法を検討すると

ともに、触媒劣

化機構を明らか

にした。これら

一連の研究は反

応原料として主

に、常圧残油を

用いて実施した

が、減圧残油お

よびオリサンド

ビチューメンな

どの重質な油を

反応原料としの

検討も加えた。

図1.1 研究開発の進め方の方針

・触媒反応機構解析

常圧残油

・触媒活性の向上・劣化機構解析

FeOx触媒系

のスクリーニング

FeOx系触媒の調製法

のスクリーニング

FeOx系触媒の調製法の改良

FeOx系触媒の調製法の改良

常圧残油

常圧残油減圧残油オリノコタール

ビチューメン

常圧。水蒸気雰囲気

・触媒活性の向上・劣化機構解析・安定性の向上

・反応条件最適化

加圧。加熱蒸気雰囲気

水の亜臨界雰囲気

水の超臨界雰囲気

常圧残油ビチューメン

常圧残油ビチューメン

常圧残油ビチューメン

・触媒活性の向上・劣化機構解析・触媒安定性

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2.研究開発の内容

2.1 Zr/FeOx 触媒の開発

α-FeOOH を水蒸気処理後、 Zr を含浸担持して Zr/FeOx 触媒を調製した。

調製した触媒の Zr 担持量はプラズマ発光分析装置を用いて分析した。形態観察は TEM (JEOL JEM1010)により、構造解析は XRD(JEOL JDX-8020 XRD)で、Fe の電子

状態についてはメスバウア分光法により実施した。 水分子の分解特性は TDS 分析(電子科学(ESCO)、 EMD-WA1000S)により測定した。

触媒表面に吸着した H2O を高真空下、昇温速度 30 K min-1 で 1000 K まで昇温脱着させ、

脱離ガス(H2)を Q-MS によって分析した。尚、H2のスペクトルの生データから水の寄与

分を差し引いて H2スペクトルの分析データとした。細孔径分布は、窒素吸着法((株)日本

ベル BELSORP-mini)により吸着・脱着過程で測定した窒素の吸脱着曲線より求めた。 平成19年度は触媒のスクリーニングを主目的としたため、常圧系で触媒活性の評価を

行った。反応器は流通式触媒反応((株)日本ベル BEL-REA)器を用いた。フィードとし

て常圧残油 10wt%のベンゼン溶液を用い(ベンゼンは不活性であることを確認した)、窒

素をキャリヤガスとして、水蒸気を同伴させて反応を実施した。time factor W/F は 12 ~15h (W:触媒重量、F:正味の常圧残油の供給速度)、反応温度は 500 ℃である。生成物ガ

スはガスクロマトグラフィー(GC-12A、島津製作所製)を用い、有機成分には FID 検出

器および PORAPAK-Q カラムを、無機ガス成分は TCD 検出器と ACTIVATE CARBONカラムを使用した。液状成分は HPLC を用いた GPC で分析した。

2.2 Zr/Al-FeOx 触媒の開発

触媒の安定性の向上のため、FeOx に Al2O3 を導入した Zr/Al-FeOx 触媒について研究を

実施した。FeCl3aq と Al2(SO4)3 の混合液から Al と Fe の水酸化物の沈殿物を得た後、乾

燥機、水蒸気処理を行った。ついで、ZrOCl2aq を用いて Zr を担持後、再度水蒸気処理を

行って Zr/Al-FeOx 触媒を得た。

触媒の化学分析、形態観察は2.1節の Zr/FeOx 触媒と同様の方法により実施した。ま

た、触媒活性は2.1節の実施内容に加えて、減圧残油 10wt%+ベンゼン 90wt%の溶液

についても反応を実施した。

2.3 Zr-Al-FeOx 触媒の開発

Zr/Al-FeOx 触媒の安定性を更に高めるため、ZrO2 を高分散化させた Zr-Fe-AlOx 触媒

を調製して研究を実施した。

FeCl3 aq、Al2(SO4)3 aq と ZrOCl2aq の混合液から共沈によって ZrO2-FeOx-Al2O3 はを

得た。触媒の特性評価、触媒活性は2.2節と同様の方法により実施した。

2.4 Zr-Al-FeOx 触媒の改良

オイルサンドビチューメンの水蒸気分解するために、更に触媒活性を向上させるため

Zr-Fe-AlOx 触媒を改良した。触媒の特性評価は2.2節と同様の方法により実施し、触媒

活性の評価については、2種類のオイルサンドビチューメン(bitumen1 と petrocanada)10wt%、ベンゼン 90wt%の溶液についても反応を実施した。

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3.研究開発の結果

3.1 Zr/FeOx 触媒の開発

3.1.1 Zr/FeOx 触媒の試作

触媒の調製時に用いる ZrOCl2aq の量を変化

させることで、ZrO2 含有量を 2.0、4.3、7.7、13.7wt%の Zr/FeOx 触媒を調製した。図3.1

は調製した触媒の水蒸気処理前後の写真を示す。

後述の通り、水蒸気処理後に FeOx 相はヘマタ

イトになっていた。

3.1.2 Zr/FeOx 触媒の特性評

価 TEM 観察と表面積の値より、ZrO2

が FeOx 上に直径がおよそ 1 nm の粒

子として担持されていることがわっ

た。その粒子径は ZrO2 担持量に依存

せず、担持量の増加に従い粒子数が

増加した。また、13.7wt%まで ZrO2

担持量を増やすと、主反応場である

FeOx 表面を完全に覆うようになっ

た (TEM 観察による)。そこで、こ

れら触媒の水分解能を調べるため、

水の TDS 分析を行った。その結果、

ZrO2 無担持の FeOx は 550 K 以上で

H2 を生成するが、ZrO2 を担持した触

媒は350 Kの低温からH2を生成し始

め、その量も無担持に比べると飛躍

的に増加した。この結果より、ZrO2

上で吸着した水分子は分解して、活

性酸素種を ZrO2 上に生成する。その

活性酸素種は FeOx 上に spillover して、酸化分解を促進することが期待された。活性酸素

種と同時に活性な水素原子も生成し、分解生成物に水素が付与されると考えられる。また、

水素発生量は ZrO2 担持量が 7.7wt%で最大値となり、13.7wt%で減少した。

3.1.3 Zr/FeOx 触媒の触媒活性 図3は常圧残油の軽質化反応の生成液の炭素数分布の一例を示す。図より炭素数が 30以上(C30+)の重質成分が Zr/FeOx 触媒を用いることで軽質化されていることが分かる。

また、副生するガスの主成分は CO2 であった。FeOx 触媒について XRD 分析を行った結

果、反応前にヘマタイト構造であった FeOx 相は反応気にマグネタイトになっていた。こ

図3.1 Zr/FeOx の乾燥後(右)と水

蒸気処理後(左)の写真

図3.2 Zr/FeOx 触媒による常圧残油分解生成油の

炭素数分布

FeOOH

Zr(2.0)/Fe

Zr(4.3)/Fe

Zr(7.7)/Fe

Zr(13.7)/Fe

ZrO2O2

5 10 15 20 25 30+

炭素数

オイル全体に占める割合

  [w

t%]

0

10

30

20

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れは、格子酸素が次式の反応に使われて常圧残油を酸化し、触媒自身は還元されるからと

考えられる。 3Fe2O3 + 常圧残油 → 2Fe3O4 + CO2+(その他の含酸素化合物)

一方、Zr/FeOx 触媒は反応後の FeOx 相は完全な Fe3O4にはならず、一部 Fe2O3が残存し

ていた。これは、H2O が ZrO2 要素の上で解離吸着するとき、一部の活性酸素は FeOx の

上にスピルオーバーして欠損格子酸素を補償するためと思われる。そこで、触媒の鉄の電

子状態を調べるため、メスバウアー分析を行った。その結果、Zr/FeOX 触媒の酸化鉄は反

応後、主にマグネタイト構造を有するが、ヘマタイトから得られる通常のマグネタイトと

比べて、酸化鉄の格子には過剰の O 原子が含まれていることが分かった。これらの過剰の

O 原子は、触媒上で H2O が分解して生成した活性酸素種によって補われたと考えられる。

このことは、ZrO2 担持量の増加で触媒活性が増加するという実験結果と一致する。よって、

ZrO2 粒子上で H2O から生成された活性酸素・水素種は FeOX 表面でスピルオーバーし、

常圧残油の酸化分解が進行したと考えられる。 次に、ZrO2 担持量と触媒活性の関係を調べた結果、TDS 分析の水素発生量から予想さ

れる通り ZrO2 担持量が 7.7wt%で最大活性が得られた。そこで、Zr(7.7)/FeOx 触媒につい

て、W/F を変化させて反応実験を行ったところ、W/F の値が大きくなるに従って分解が進

行し軽質分が増加するとともに、残渣が副生しなくなった。 そこで、触媒安定性を調べるために Zr(7.7)/FeOx 触媒について反応→再生を繰り返した。

その一例を図3.3に示す。図より、FeOx 触媒は再利用しても収率に変化はないが、

Zr/FeOx 触媒は再利用すると、軽質化されにくくなった。また、生成ガス組成からも、再

利用した際の CO2 と H2 の生成量は減少した。そこで、反応→再生の操作を3回繰り返し

た時の Zr(7.7)/FeOx の TEM 観察を行った。FeOx 相の大きな構造変化が観察され、格子

酸素の消費により FeOx がヘマタイトからマグネタイトに変化することが分かった。この

構造変化により担持された ZrO2 粒子の剥離が進行したことが、触媒活性の低下に結びつ

いた。実際に TDS 分析により水の分解能を測定したところ、水素発生量が大きく低下し

図3.3 Zr(7.7)/FeOx 触媒の反応→再生操作の繰り返しによる生成物収率の変化

0 20 40 60 80 100

前処理温度

500℃

600℃

700℃

600℃

無触媒

常圧残油

1回 反応後

1回 反応後

1回 反応後

1回 反応後

2回 反応後

2回 反応後

3回 反応後

3回 反応後

2回 反応後Fe

Zr/Fe

触媒名

収率 / wt%

gas

residue

C30+

C19-C29

gasoline+kerosene

FeOx

Zr(7.7)/FeOx

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ていた。そこで、この形態変化の影響を

低減するために FeOx に Al を導入した

Zr/Al-FeOx 触媒を調製して、その安定性

を調べた結果を次節に記述する。

3.2 Zr/Al-FeOx 触媒の開発

3.2.1 触媒の安定性

Zr/Al-FeOX 触媒について、常圧残油分

解反応→再生を繰り返した時の構造変化

を TEM により観察した結果、形態変化

は無視できるほど小さいことが分かった。

このことから、担持された ZrO2の剥離が

抑制されることが期待された。そこで、

TDS 分析による水分解能を測定したとこ

ろ水分解による水素発生量は反応→再生

を繰り返しても低下は無視小であった。

図3.4は反応→再生を繰り返したと

きの反応速度定数の変化を示す。図中の温度表記(Tpre)は水蒸気雰囲気下での触媒前処

理温度を示す。予想通り、活性低下は見られず、微細孔の生成による僅かな活性の向上が

見られた。また、この活性の変化が残油由来の金属が付着したことによることを確認する

ために、ICP により触媒への V と Ni の付着量の分析を行った結果を表3.1に示す。

表3.1 触媒への V と Ni の付着量

表より、Zr/FeOX 触媒と Zr/Al-FeOX 触媒の活性と常圧残油に含まれる V と Ni との間に関

係がなく、FeOx 相の表面積、および ZrO2 の水分解能に重質成分の分解活性は依存する

ことが分かる。

3.2.2 減圧残油の水蒸気分解

常圧残油よりもより重質な残油である減圧残油の軽質化を検討するため、Zr/Al-FeOX 触

媒による減圧残油の水蒸気分解を 773 K で行った。

図3.5は減圧残油について、反応→再生を繰り返した後の生成物収率と生成ガス組成

を示す。無触媒の実験結果と減圧残油の組成も比較のため、図に示した。減圧残油の約 90 wt%が重質成分(C30+)である。重質成分は効率よく軽質化されていることが分かる。ま

た、減圧残油分解の生成ガスの主成分は CO2 である。減圧残油接触分解で生成する H2は

図3.4 Zr/Al-FeOx の反応→再生の繰り返し

にともなう分解反応速度定数の変化

Zr/FeOX Zr/Al-FeOX Prior to reaction After 3rd

sequence

Prior to reaction After 4th

sequence

V [wt%] 0.76 0.95 0.49 0.79 Ni [wt%] 0 0 0 0

0 1 2 3 40

0.1

0.2

0.3

Zr/Al-FeOX (873K)No regeneration

Zr/Al-FeOX (973K)

Zr/Al-FeOX (773K)

Zr/Al-FeOX (Tpre=873K)

Number of sequence / -

Reac

tion r

ate co

nstan

t / h-1

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常圧残油接触分解よりも少なかった。

H2O から生成した活性酸素・水素種

は常圧残油と減圧残油の接触分解で

消費され、過剰の活性種が CO2 と

H2 として生成する。減圧残油の接触

分解では、重質成分が多いため、活

性水素種の多くは減圧残油分解で消

費されたと考えられる。 表面積を測定したところ、常圧残

油分解反応に用いた場合と同様に、

減圧残油分解反応と再生を繰り返し

た後の Zr/Al-FeOX 触媒の小さな細

孔が発達して表面積が増加する。そ

れが活性の向上に繋がっていること

がわかった。 3.3 Zr-Al-FeOx 触媒の開発

これまでの結果から、ZrO2 担持 FeOX 触

媒に Al2O3を導入した Zr/Al-FeOX 触媒は、

重質油の分解反応と再生を繰り返した際の

FeOX のヘマタイト→マグネタイトの形態

変化による ZrO2 の剥離が抑制されるとと

もに、反応→再生の繰り返しで微細孔の増

加により活性が向上することがわかった。

しかし、重質油の分解反応で FeOX の格子

酸素が消費されて Zr/Al-FeOX 触媒はマグ

ネタイトへ変化するため、再生操作を行わ

ないと、活性が低下した。この FeOx の形

態変化を抑制するために共沈法によって

ZrO2 を高分散化させた Zr-Al-FeOX 触媒を

調製した。

3.3.1 Al2O3の最適含有量

Al2O3 の含有量を変化させて得られた触

媒について常圧残油の水蒸気分解反応を行

い、触媒の反応前後の FeOx の相変化と反

応活性の面からアルミナの最適含有量を求

めた。 いずれの Al 含有量の触媒についても、

部分酸化的分解反応が進行した。また、

図3.5 Zr/Al-FeOx による減圧残油の水蒸気分

解活性 (a)生成物収率、(b)生成ガス組成

図3.6 Al 含有量の異なる Zr-Al-FeOxによる常圧残油の分解反応の生成ガス組

成(反応→再生の繰り返しにともなう変化)

After 2nd sequence

After 1st sequence

No catalyst

VR

0 20 40 60 80 100

(a)

Zr/Al-FeOX

Residue

C30+

C19-C29

Gasoline+ Kerosene

Gas

Yield / wt%

1 0 02 0 8 06 04 00

1回 目2回 目3回 目

1回 目2回 目3回 目

1回 目2回 目3回 目

1回 目2回 目3回 目

1回 目2回 目3回 目

1回 目

1 0 02 0 8 06 04 00

生 成 ガ ス 組 成 /m o l%

Z r- A l(0 )- F e O x

無 触 媒

Z r- A l(5 .0 )- F e O x

Z r- A l(7 .0 )- F e O x

Z r- A l(9 .1 )- F e O x

Z r- A l(1 3 .0 ) - F e O x

C O 2

C H 4

H 2

a lk a n e a lk e n e

o t h e r s

Z r- A l(1 6 .6 )- F e O x

1回 目2回 目3回 目

1 0 02 0 8 06 04 00

1回 目2回 目3回 目

1回 目2回 目3回 目

1回 目2回 目3回 目

1回 目2回 目3回 目

1回 目2回 目3回 目

1回 目2回 目3回 目

1回 目2回 目3回 目

1回 目2回 目3回 目

1回 目2回 目3回 目

1回 目2回 目3回 目

1回 目

1 0 02 0 8 06 04 00

生 成 ガ ス 組 成 /m o l%

Z r- A l(0 )- F e O x

無 触 媒

Z r- A l(5 .0 )- F e O x

Z r- A l(7 .0 )- F e O x

Z r- A l(9 .1 )- F e O x

Z r- A l(1 3 .0 ) - F e O x

C O 2

C H 4

H 2

a lk a n e a lk e n e

o t h e r s

Z r- A l(1 6 .6 )- F e O x

1回 目2回 目3回 目

1回 目2回 目3回 目

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Al2O3 の含有率が変化してもガス組成

(図3.6、ガスの炭素基準の収率は 2~5mol%)に大きな変化は見られないが、

含有率が増加するとガスや軽質分の割合

が増加して活性が向上した。これは

Al2O3 上の酸点でクラッキングが起こっ

ているためだと考えられる。また、Al2O3

が 5wt%以上入っている場合は 3 回反応 後もヘマタイト構造を維持していた。 図3.7は一例として Zr-Al(9.1)-FeOx触媒の反応前後のXRDパターンを示す。

図より反応→再生を繰り返しても FeOx相はヘマタイト構造を維持しており安定

性が向上したことがわかる。これは Zrを高分散化したことで水分解活性が高く

なり、その結果、水由来の活性酸素から

の FeOx 格子酸素の供給能が向上したこ

とによると考えられる。しかし、Al を増やしすぎると触媒にコークが付着していた。これ

は ZrO2が作り出す酸素活性種は Al2O3 上のコークを処理しているが、Al2O3 の量が増えす

ぎたために処理しきれなくなったことが原因だと考えられる。

3.3.2 ZrO2の最適含有量

上述の(1)で決定した Al 含有量を用いて、ZrO2 の含有率を変化させて触媒を調製し

た。ZrO2が存在するいずれの

触媒も活性であり、反応→再

生を繰り返しても FeOx 相は

ヘマタイト構造を維持した。

FeOx 相の相変化が生じると

細孔表面積が変化する。そこ

で、調製した触媒の反応→再

生の繰り返しにともなう細孔

表面積を図3.8に示す。図

中の ZrO2 を含まない触媒は

2回目以降は酸化的分解活性

は見られなかった。また、

ZrO2 含有量が多い触媒は相

分離を起こした。これら二種

類の触媒以外に関しては、活

性を維持すると共に、図に示

されるように細孔表面積は一

図3.7 常圧残油の分解反応→再生の繰り

返しにともなう Zr-Al-FeOx の XRD パターン

図3.8 異なるジルコニア含有量の Zr-Al-FeOx による

常圧残油の反応→再生にともなう細孔表面積の変化

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定であった。調製した触媒で水蒸気分

解反応を行った結果を以下に示す。

3.3.3 水蒸気量の最適化

水蒸気分解プロセスにおいては、エ

ネルギーの問題からできるだけ水蒸気

の量を少なくすることが望ましい。し

かし水蒸気の量を少なくしすぎると、

FeOx への酸素活性種の供給量が少な

くなるため、反応速度の低下、および

触媒劣化を引き起こす。そこで、最適

な水蒸気量の検討を行った。 図3.9は水蒸気/原料比(H2O/feed)

を変化したときの生成ガス組成を、図

3.10は H2O/feed と反応速度定数

の関係を示す。 生成ガス組成の変化から、H2O/feed

が増加するほど低級炭化水素が減少し、

CO2が増加することがわかる。これは、

水蒸気を増やすほど触媒上での水の分

解が進むためであると考えられる。ま

た、H2O/feed =1 以上では水素が発生

している。水の分解により発生した活

性水素種は、部分酸化分解された炭素

鎖の末端に結合する。H2O/feed =0.5までは、発生した活性水素種のほぼ全

てが生成した分子の炭素鎖の末端に結

合しているが、H2O/feed =1 以上では

ZrO2 上の水の分解により生じた多く

の活性水素種の一部が水素分子として

出てきたため、H2O/feed =1 以上で水素が発生したと考えられる。また、図3.10より、

反応速度定数は H2O/feed =1.5 で最大値を取ることがわかる。これは、水蒸気量が増加す

るにつれ酸化鉄への酸素活性種の供給量が増えるため、反応速度は増大する。しかし、

H2O/feed =1.5 以上では feed の濃度が低下等の影響により反応速度が低下するためと考え

られる。

3.3.4 減圧残油とオリノコタールの軽質化への応用 前述の常圧残油を用いた研究により、Zr-Al-FeOx 系の触媒について水蒸気分解に最適な

触媒組成を見いだした。そこで、この触媒を用いて減圧残油(VR)とオリマルジョン(オリノ

コタールに水と界面活性剤を加えたもの)の水蒸気分解反応を行った。

図3.10 Zr-Al-FeOx による常圧残油の水蒸気

分解反応の反応速度定数に与える H2O/feed(水

蒸気供給速度/原料供給速度)比の影響

図3.9 常圧残油の水蒸気分解反応の生成物収

率と生成ガス組成に与える(水蒸気供給速度/原料

供給速度)の影響

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 1 2 3 4

H2O/feed

速度定数

k/h

0 20 40 60 80 100

4

2.5

1.5

1

0.5

0

無触媒

H2O/feed

生成ガス組成/mol%

H2

CH4 alkane alkene

CO2

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減圧残油ではコークが副生したが、両重質油とも水由来の活性酸素による酸化分解で軽

質化された。XRD パターンからも反応後ヘマタイト構造を維持しており劣化していないこ

とがわかった。

3.4 Zr-Al-FeOx 触媒の改良

前節で Zr-Al-FeOx が安定な活性を示し、減圧残油お

よびオリノコタールの分解を促進することが分かった。

そこで、その活性を更に向上させるため調製法を改良

し、共通試料である2種類のオイルサンドビチューメ

ンの軽質化を試みた。

共通試料である2種類のオイルサンドビチューメン

( bitumen(petrocanada) 、 bitumen1 ) に つ い て

Zr-M-Al-FeOx を用いて H2O/feed=1.5、500 ℃、ベ

ンゼン 10wt%希釈、W/Fbitumen=1.0 h、常圧の条件で

反応を実施した。 図3.11は反応原料(ベンゼンで 10wt%希釈)と

生成液の写真を示す。軽質化により色が黒から淡黄色になっている。触媒の XRD パターン

を測定した結果、反応後は、微小なマグネタイトのピークも見られるが、FeOx 相の殆どは

ヘマタイト構造を維持しており安定であることが分かった。

反応原料の炭素数 30 以上の重質成分は、bitucmen1 と petrocanada はほぼ同じ 70%mol%

であった。反応生成物は、重質成分は bitucmen1 では 15mol%、petrocanada はほぼ無視小

となり、後者の反応性が高い。ガスはほぼ同じ 8mol%程度であり、残渣は無視小であった。

この結果より改良 Zr-Al-FeOx は高活性であることが分かった。

図3.11 反応原料(bitumen1

のベンゼン 10wt%希釈駅)と生成

液の写真

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4.まとめ

・FeOx の格子酸素が重質分子の部分酸化的軽質化の活性種となりえることを見出した。

・ZrO2が水分子を分解して活性酸素種と活性水素種を生成する反応に触媒能を有すること

を明らかにした。

・ZrO2を FeOx に担持する事(Zr/FeOx 触媒)で、消費した FeOx の格子酸素を水分子から

活性酸素として補充することができることを明らかにした。

・Zr/FeOx 触媒に Al を挿入することで、FeOx の形態変化を低減して触媒劣化を抑制した

Zr/Al-FeOx 触媒を調製することに成功した。

・Zr を高分散化した Zr-Al-FeOx 触媒を開発した。本触媒は水分子の分解による活性酸素

種の生成速度が高いため、反応中の FeOx のヘマタイトからマグネタイトへの相転移を

抑制できる。

・Zr-Al-FeOx 触媒について反応原料に同伴する水蒸気量の最適値を明らかにした。その値

は H2O/feed=1.0~1.5 であることを見出した。

・Zr-Al-FeOx 触媒により減圧残油とオリノコタールが水蒸気雰囲気で効率的に軽質化する

ことに成功した。

・改良 Zr-Al-FeOx 触媒は共通試料である2種類のオイルサンドビチューメンの軽質化に活

性であることを見出した。

参考文献

1) T.Masuda, et al., Polymer Degradation and Stability, 61, 217-224(1998).

2) T. Masuda , et al., Chemical Engineering Journal, 82, 173-181(2001).

3) T. Masuda, et al., Chemical Engineering Science, 56, 897-906(2001).

4) E. Fumoto, et al., Applied Catalysis B: Environmental, 68,154-159(2006).

5) E. Fumoto, et al., Energy & Fuels, 18, 1770-1775(2004).

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超臨界水を利用した重質油の水熱分解・改質技術の開発

(基盤技術研究グループ)宇都宮大学 佐藤 剛史

1.研究開発の目的

1.1 研究背景

水と炭素成分が存在する系に酸素ガスが共存すると、炭素分の部分酸化反応が生じてC

Oが生成し、COが水と反応してバルクあるいは触媒上にて活性な水素を生成する現象が

知られている。この現象を利用すると、重質油と水に酸素を共存させることで重質油に水

由来の水素を添加させ、軽質化することが可能となる。この一連の反応は、高価な水素を

導入することなく改質が可能であることから、劣質な重質油の改質法として有力なもので

あると考える。本反応は、超臨界水中で炭化水素に酸素を共存させて行う部分酸化反応が、

気相酸化反応と比較して部分酸化が促進される傾向にあることと、反応場に大量に存在す

る水により水性ガスシフト反応の平衡を水素生成側に移すことができるという原理を活用

している。

上記反応による重質油中の分解過程を示したものが図1.1である。重質油が、系内に

存在する酸素あるいは水の寄与により分解し、分解物(反応中間体)とCOを生成する。

ここで生成したCOが水と水性ガスシフト反応を起こすことで、活性な水素が生成し、こ

の水素が反応活性種のキャッピングや脱硫に寄与することで、重質油の低分子化や脱硫反

応が促進される。本反応が、重質油の水素化に対してどの程度有効か、どの程度の分子量

の化合物の水素化に寄与するかについて検討を進める必要がある。

1.2 研究目標

本研究の目標は、重質油をできるだけマルテン(ヘキサン可溶)成分へと低分子化させ、

高品質化することである。そのために、部分酸化・水素化反応を重質油に対して適用した

場合の挙動を解析し、改質へ利用する方法を検討する。今年度は、特に部分酸化にてCO

が生成したこと、もしくはCOと水から反応活性種が発生したことを想定し、水素化反応

に関する検討を進める。

重質油中の

炭化水素+ O2

CO + 超臨界水

水性ガスシフト反応:CO + H2O ? (HCOOH) ? CO2 + H2

部分酸化CnHm+ O2 ? CO

(H2)水素化改質

図1.1 超臨界水中での部分酸化・水素化反応を利用した重質油の改質反応の概略

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そのため、重質油モデル物質(多環含硫黄芳香族類)の、一酸化炭素やぎ酸存在下での

水素化反応の反応進行度、特にその温度依存性の評価と、水密度の影響も把握することと

した。そして、各々の反応系における最適反応温度と水密度についての知見を得、無触媒

反応における反応進行度を明らかとする。

また、実際の重質油に一酸化炭素、ぎ酸等を加えた超臨界水処理を施し、本手法の有用

性を確認するとともに、反応過程に関する知見を得ることとする。

2.研究開発の内容

2.1 超臨界水中での重質油モデル化合物の無触媒水素化反応

重質油モデル化合物として、図2.1に示す3種類の化合物を用いた。これらの硫黄構

造は、重質油中によく含まれていることが知られていて、芳香環の数が増すほど、すなわ

ちチオフェン(Thiophene) < ベンゾチオフェン(Benzothiophene) < ジベンゾチオフェン

(Dibenzothiophene)の順で一般に安定性が増大し、脱硫しにくいと指摘されている。

回分式反応装置を用い、アルゴン中での気相熱分解、水密度 0.1 g/cm3 での超臨界水分

解、水密度 0.1 g/cm3とした超臨界水+CO系での分解、水密度 0.1 g/cm3での超臨界水+

ぎ酸系での分解、水密度 0.2 g/cm3 での超臨界水+ぎ酸系での分解の5つの反応場に関し

て、温度 400~500 ℃の範囲で反応特性を試験した。

この実験から各条件における反応物の安定性を評価し、無触媒条件下における水性ガス

シフト反応の効果を把握した。

2.2 超臨界水中での重質油の無触媒水素化反応

重質油として共通試料であるビチューメン BIT(Petro-Canada)を用いた。回分式

反応装置を用い、アルゴン中での気相熱分解、水密度 0.1 g/cm3 での超臨界水分解、水密

度 0.1 g/cm3での超臨界水+CO系での分解、水密度 0.1 g/cm3での超臨界水+ぎ酸系での

分解の4つの反応場に関して、温度 450 ℃の範囲で反応特性を試験した。得られた生成物

をヘキサン可溶分(マルテン)、ヘキサン可溶―トルエン不溶分(アスファルテン)、トル

エン不溶分(コーク)に溶媒分別し、それぞれの液体分、固体分に関してGC、UV、T

OC、TG、MALDI-TOF-MS、IR分析を行った。この実験から各条件におけ

る重質油の分解形態を評価し、無触媒条件下における水性ガスシフト反応の効果を把握し

た。

S

Thiophene Benzothiophene

S S

Dibenzothiophene 図2.1 本研究で用いた重質油モデル化合物の構造

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3.研究開発の結果

3.1 重質油モデル化合物の反応実験

3.1.1 実験方法

試料としてチオフェン(Thiophene)、ベンゾチオフェン(Benzothiophene)、ジベンゾチ

オフェン(Dibenzothiophene)を用いた。また、反応器として高圧ストップバルブ付のス

テンレス製回分式反応器(6 cc)またはチタン合金製回分式反応器(10 cc)を用いた。反応器

内に試料 0.1 g、水やぎ酸を所定量導入し、反応器内をアルゴンで置換した。場合により

アルゴン置換の代わりに 2 MPa のCOにて加圧した。その後、反応器を密閉した。

反応器を反応温度に設定した流動砂浴(エイクラフト製)に投入し、反応を開始させた。

450 ℃までの昇温時間は 6 cc 反応器で 7分以下、500 ℃までの昇温時間は 10cc 反応器で

9 分以下であった。反応時間にはこれらの時間も含んでいる。所定時間後、反応器を水浴

に投入することで急冷し、反応を停止させた。

実験の反応雰囲気は、熱分解(Ar中)、超臨界水分解(水密度 0.1 g/cm3)、超臨界水

―CO系(水密度 0.1 g/cm3+COを 2 MPa で加圧)、超臨界水―ぎ酸系および超臨界水 2

倍-ぎ酸系(水密度 0.1 g/cm3または 0.2 g/cm3相当の水+水密度 0.1 g/cm3相当のぎ酸)

であり、温度 400-500 ℃とした。

反応終了後、気体生成物を回収し、反応管内を約40 gのアセトンで洗浄することにより、

液体生成物を全量回収した。なお、本実験では固体生成物は確認されなかった。気体生成

物はGC-TCDにて、液体生成物はGC-MSにより定性、GC-FIDにより定量し

た。反応物残存率と生成物収率は、炭素モル数基準の収率にて評価した。

3.1.2 結果

(1)ジベンゾチオフェン分解実験

反応生成物として、ビフェニルとトルエンのピークを確認した。しかし、生成物のピー

クは小さかった。マスバランスは概ね

80%以上であり、中にはそれより低いも

のもあった。図3.1に、各条件におけ

るDBT残存率と反応温度の関係を示す。

全体的に反応はそれほど進行していなか

った。最も反応温度が高い 500 ℃におい

て、超臨界水 2倍-ぎ酸以外の条件でD

BTがほとんど残存していることから、

基本的にDBTの反応性は低い。超臨界

水+COのデータはばらついているが、

やはり反応温度 500 ℃にてほとんど反

応していないことから、超臨界水+CO

系の反応性は低いと考える。超臨界水2

倍+ぎ酸は、温度上昇にともない徐々に

残存率が低下する傾向を示している。高

400 450 5000

50

100

Temperature [℃]

Yie

ld [%

]

熱分解超臨界水分解超臨界水+CO超臨界水+ぎ酸超臨界水2倍+ぎ酸

図3.1 ジベンゾチオフェン残存率と

反応温度の関係

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水密度域でぎ酸が存在すると、DBTが分

解する可能性がある。

(2)ベンゾチオフェン分解実験

反応生成物としてトルエンのピークを確

認した。しかし、生成物のピークは小さく、

マスバランスは十分でない。FIDで検出

できない生成物が存在している可能性があ

る。図3.2に、各条件におけるベンゾチ

オフェン残存率と反応温度の関係を示す。

体的にDBTよりも反応は若干進行してい

る。熱分解時には、温度上昇にともない徐々

にベンゾチオフェン残存率が減少しており、

500 ℃では 64.5 %になっている。一方、超

臨界水分解では温度 500 ℃でも残存率が

94.7%程度であり、水の存在によりむしろ

安定に存在できるようになっている傾向が

ある。超臨界水+CO系は、温度上昇とと

もにベンゾチオフェン残存率が減少してい

る。超臨界水+ぎ酸系も超臨界水+CO系

と同様の傾向にあり、このいずれも温度上

昇にともない残存率が減少している。超臨

界水 2倍+ぎ酸系は、ベンゾチオフェン残

存率が常に 70wt%を下回っており、他と比

較して最も分解が進行している。水密度の

増大にともない、反応場の雰囲気はイオン

的になり、イオンとして存在する水素イオ

ンやぎ酸の割合が増えると考える。これら

のイオンが反応に関与することで、ベンゾ

チオフェンの分解反応性が増大した可能性

がある。

(3)チオフェン分解実験

チオフェン分解反応は、反応温度 450 ℃以下にて行った。本実験ではストップバルブに

相当量のチオフェンが凝縮していた。これらはおそらく昇温過程にて凝縮したものであり、

凝縮したチオフェンは反応に関与していないものとして扱った。そのため、チオフェン分

解反応における反応解析の精度は高くないものと考えている。図3.3に各条件における

チオフェン残存率と反応温度の関係を示す。チオフェンは既に 400 ℃から分解しており、

450 ℃にてさらに残存率が減少している。全体的にベンゾチオフェンよりも反応性は高い。

本反応では主生成物としてトルエンのピークを確認したが、全収率が 100%に満たない点

400 450 5000

50

100

Temperature [℃]

Yie

ld [%

]

熱分解超臨界水分解超臨界水+CO超臨界水+ぎ酸超臨界水2倍+ぎ酸

図3.2 ベンゾチオフェン残存率と

反応温度の関係

400 450 5000

50

100

Temperature [℃]

Yie

ld [%

]

熱分解超臨界水分解超臨界水+CO超臨界水+ぎ酸超臨界水2倍+ぎ酸

図3.3 チオフェン残存率と反応温度の

関係

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が多く、GC-FIDで検出できない生成物が存在している可能性がある。アルカリ存在

下の超臨界水中にて、チオフェンからGC―FIDでの分析が困難な有機酸が生成すると

の報告もある。全体のマスバランスが特に低い 450 ℃の実験については、ガス分析も行っ

た。いずれの場合にもガスが回収でき、メタンやエタンは生成しておらず、COを導入し

た場合にはCO、ぎ酸を導入した場合には水素、一酸化炭素、二酸化炭素のピークが出現

している。このことからも、反応管は密閉されており、分解したチオフェンはGC-FI

Dで検出できない成分となっていると考える。次に、各条件での分解傾向を比較する。熱

分解では反応温度の上昇により残存率が減少し、450 ℃にて 33.9%となった。超臨界水分

解では、反応温度 400~450℃で残存率が 50~70%程度の間にある。超臨界水+CO系では

温度上昇により残存率が徐々に減少している。ぎ酸が存在する場合は、残存率の減少が顕

著であり、超臨界水+ぎ酸系では、450 ℃でほぼ完全分解している。さらに、超臨界水 2

倍+ぎ酸系では 400℃からほぼ完全分解している。これらの結果は、チオフェンは比較的

分解しやすく、400℃でも分解が始まっており、ぎ酸存在下で分解が著しく促進されている

こと、特に高水密度域ではぎ酸が水素イオンやぎ酸イオンとして存在するため、これらイ

オンが分解に関与することで反応性が著しく増大することを示している。

3.2 重質油の水素化反応実験

3.2.1 実験方法

重質油として、ビチューメン BIT(Petro-Canada)を使用した。本重質油は、ヘキ

サン可溶分であるマルテンを 86.7wt%,ヘキサン不溶-トルエン可溶のアスファルテン

13.3wt%からなる。反応器として高圧ストップバルブ付のステンレス製回分式反応器(6 cc)

を用いた。反応器内に試料、水、ぎ酸を反応管内に仕込み系内をアルゴンで置換した。場

合によりCOを 2MPa にて仕込んだ。その後、反応器を反応温度の 450℃に設定した流動砂

浴に投入し、反応を開始させた。所定時間後、反応器を水浴に投入することで急冷し、反

応を停止させた。

反応終了後の回収、分析方法を図3.4に示す。気体生成物回収後、反応管内を約 40 g

の水と約 40 gのヘキサンで洗浄回収することにより、反応管内の固体及び液体生成物を

全量回収した。ここでの液体生成物は水相とヘキサン相(マルテン)として回収した。こ

こでの固体分(アスファルテン+コーク)をトルエン抽出し、トルエン可溶分(アスファ

ルテン)とトルエン不溶分(コーク)に分離した。アスファルテン重量はコーク重量との

差し引きにより求めた。

なお、水相についてはTOC,GC-MS、GC-FID、UV-vis 分析を、ヘキサ

ン相(マルテン)とトルエン相についてはGC-MS、GC-FID、UV-vis 分析を

行った。固体として回収したアスファルテン+コークおよびコークに関しては、秤量し、

TG分析、MALDI-TOF-MS分析、IR分析を行った。GC-MS,GC-FI

D分析にはHP-1MSカラムを用い、TG分析はアルゴン 50cc/min の気流下にて、室温

から 10 K/min にて昇温し、500 ℃で 10 min 保持する条件とした。

3.2.2 結果

表3.1に、未反応重質油および各反応条件におけるアスファルテンおよびコーク収率

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を示す。全体の傾向として、いずれの場合でも、反応によりアスファルテン収率が減少し、

コーク収率が増大した。特に、熱分解、超臨界水、超臨界水+CO系で、ガス+マルテン

収率も減少していた。これは、アスファルテンの分解物とマルテン成分が関与することで、

アスファルテンより重質成分であるコークが生成したことを示唆している。また、超臨界

水+ぎ酸系については、ガス+マルテンとコークが共に増大しており、アスファルテンの

ガス+マルテンへの低分子化とコークへの高分子化の両方が進行している。

ここで、ガス+マルテン収率、アスファルテン収率とコーク収率の関係について説明す

る。熱分解ではアスファルテン収率が 7.3wt%であったのに対し、超臨界水分解、超臨界水

+CO系、超臨界水+ぎ酸系ではアスファルテン収率が 5.4%以下とさらに減少しており、

水の存在によりアスファルテンの分解が促進されていた。このとき、熱分解ではガス+マ

ルテンが79.5wt%, コーク13.2wt%であったのに対し、超臨界水分解ではそれぞれ82.3wt%,

14.0wt%と、アスファルテンの軽質化と重質化の双方が促進されている。超臨界水+CO系

Products

ガス Liquid + Solid

ろ過(通常の濾紙)

固体分(Asphaltene+Coke)

(GC‐TCD)

+ toluene

Toluene相

(GC‐MS, FID, UV‐vis)(TOC, GC‐MS, FID, UV‐vis)

(重量測定, TG, MALDI‐TOF‐MS, IR)n‐Hexane 相(Maltene)

水相

ろ過(通常の濾紙)

固体分(Coke)

+water + n‐Hexane

分画(分液漏斗)

(GC‐MS, FID, UV‐vis)

乾燥(60℃、1day)

乾燥(60℃、1day)

(重量測定, TG, MALDI‐TOF‐MS, IR) 図3.4 生成物回収・分析方法の概略

表3.1 未反応重質油および各反応条件における溶媒分別結果 反応 ガス+マルテン

[wt%]

アスファルテ

ン[wt%]

コ ー ク

[wt%]

未反応重質油 86.7 13.3 0

熱分解 79.5 7.3 13.2

超臨界水分解 82.3 3.7 14.0

超臨界水+CO系 84.5 4.4 11.1

超臨界水+ぎ酸系 87.8 5.4 6.8

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ではコーク収率が 11.1%と熱分解時よりも若干減少した。超臨界水+CO系では、重質油

の反応分解物が反応していく過程に、反応場に存在するCOと水が取り込まれ、反応活性

部位が水素化、あるいは水性ガスシフト反応により生じた水素が反応に関与するなどし、

反応活性部位が水素化されて、重合による重質化が抑制されたことを示唆している。超臨

界水+ぎ酸系ではコーク収率が 6.8wt%と熱分解時よりも大幅に減少している。ぎ酸が分解

して本来H2, CO2,COとなる過程で生じる活性中間体、おそらく水素原子が分解過程

に作用して、アスファルテンからコークへの重合を抑制していると考える。この抑制効果

は超臨界水+CO系よりもかなり大きかった。

次に、回収液成分について説明する。水可溶分のTOC分析では、水可溶分中には有機

物がほとんど存在していないことがわかった。また、水可溶分、ヘキサン可溶分、トルエ

ン可溶分のUV-vis分析では、有用な知見は得られなかった。

回収液成分のGC-FID分析では、各溶液中にて生成物が確認されたが、主にヘキサン

可溶分(マルテン)中にて生成物が多く存在していた。図3.5に超臨界水+ぎ酸系にお

けるマルテンのGC-FIDチャートを示す。図中にはGC-MSで定性した化合物も示

した。Retention time 0~10 分の範囲では、Retention time の短い方に溶媒のヘキサン

由来のピークが存在している。その他のピークは主に脂肪族炭化水素もあり、それに芳香

族炭化水素が混ざっている状態である。溶媒由来のピークの後に、トルエン、分岐 C8H18、

直鎖の C8H18, xylene, 直鎖の C9H20 のピークを確認した。さらに、Retention time 10~

20 分の範囲では、Retention time の早い方に trimethylbenzene 類、直鎖の C10H22,

trimethylbenzene 類, 六員環と五員環にメチル基が 1 個結合した C10H12, 直鎖の C11H24,

C10H12, 六員環と五員環にメチル基が2個結合したC11H14, 芳香環に側鎖がついたC11H14, 直

鎖の C12H26,ナフタレン環にメチル基が 1 個結合した C11H10, 直鎖の C13H28, ベンゾチオフェ

ン類の C10H10S, ナフタレン環にメチル基が 2 個結合した C12H12を確認した。これより長い

0 10 20Retention time [min]

C6H14 branch(in solvent)

Cyclohexane(solvent)

in solvent)

C6H12(in solvent)

C7H16

Toluene

C8H18

Xylene

C9H20

Trimetylbenzene

C10H22

C11H24

C8H18branch

C12H26

S

C13H28

図3.5 超臨界水+ぎ酸系におけるマルテンのFIDチャート

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Retention time のピークは、ほとんどが脂肪族系炭化水素由来のフラグメントのものであ

ったが、高分子量側のマススペクトルが小さく炭素数についての正確な解析が出来なかっ

た。他の反応条件のピークについても、基本的な成分は変わらない。超臨界水+ぎ酸系の

ヘキサン可溶分は他の反応条件系のヘキサン可溶分に比べてピークの大きさが明らかに大

きく、GC検出可能な低分子成分が多く生成していた。

次に、未反応重質油のアスファルテン、反応後の回収固体分のアスファルテン+コーク

およびコークの分析結果について説明する。IRスペクトルの分析結果により、反応後の

アスファルテン+コークおよびコークは、原料重質油のアスファルテンよりも芳香族性が

高まっていることがわかった。 図3.6に未反応重質油のアスファルテン、反応後のアスファルテン+コークおよびコ

ークのTG分析結果を示す。超臨界水分解のアスファルテン+コークのデータは、取得可

能なサンプル量が特に少なく、分析が困

難であった。アスファルテン+コークに

関しては、未反応重質油のアスファルテ

ンは 400 ℃程度まで 90wt%程度まで緩や

かに重量減少する。そして、400 ℃以上

にて急激に重量減少し、500 ℃では

42wt%に到達した。一方、反応後の試料は

温度上昇によりいずれも単調に重量減少

しており、温度 400℃以下では未反応重

質油よりも重量減少量が多い。これは、

反応によりアスファルテンの一部が低分

子化していることを示している。反応後

のサンプルは、いずれも温度 400℃以上

にて単調な重量減少を示しており、未反

応重質油ほど重量減少していない。

500 ℃以上になった時点において、重量

が 70wt%以上を保っており、かなりの成

分が最初のアスファルテンに比べて重質

化していることを示している。また、反

応雰囲気による相違に着目すると、超臨

界水+CO系<熱分解<超臨界水+ぎ酸

系の順に減少量が大きくなった。分解に

よりアスファルテン+コークが重質化す

るものの、ぎ酸の存在下では重質化の度

合いが小さくなっている。

反応後のコークについては、いずれの

サンプルも、温度上昇にともないほぼ単

調に重量が減少しており、高温で減少量

が若干大きくなった。熱分解時のサンプ

0 100 200 300 400 50040

50

60

70

80

90

100

Temperature [℃]

Raw oil

pyrolysis

sc-H2O + CO

sc-H2O + HCOOH

Weig

ht ch

ange

[wt%

]

100 200 300 400 500

80

90

100

Temperature [℃]

Wei

ght c

hang

e [w

t%]

pyrolysis

sc-H2O

sc-H2O + CO

sc-H2O + HCOOH

図3.6 固体分のTG分析結果(上:ア

スファルテン+コーク、下:コーク)

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ルは 500 ℃以上で 80wt%残存しており、他のサンプルはもっと残存量が大きい。全てのサ

ンプルにおいて、アスファルテン+コークの場合よりも最終残存量が大きいことから、コ

ークはアスファルテン+コークよりも明らかに重質化している。温度 450℃以上では、熱

分解<超臨界水+CO系<超臨界水分解<超臨界水+ぎ酸系の順に大きく、超臨界水分解

は熱分解よりもコークが重質化しており、超臨界水+ぎ酸系のコークは超臨界水分解のコ

ークよりもさらに重質化している。このことは、超臨界水+ぎ酸系にて抽出可能な成分が

ほとんど抽出されつくしていることを示している。

未反応重質油のアスファルテン、反応後のアスファルテン+コーク、コークに関して、

MALDI-TOF-MS分析を行った。未反応重質油のアスファルテン中には、小さな

無数のピークがあるが、分子量 505.92, 396.999, 381.049, 359.033 の大きな 4つのピー

クをはじめ、いくつかの特徴的なピークが存在した。これは、未反応重質油のアスファル

テン分に、芳香環 4~6個程度の特徴的なユニットが多く含まれているためと考える。図3.

7に各反応条件でのアスファルテン+コークのMALDI-TOF-MSスペクトルを示

す。ピークは分子量 300~500 程度に頂点を有する山のような形をしており、様々な生成物

が生成していることがわかった。さらに、熱分解時と超臨界水(SCW)分解では原料由来のピ

ークが見られたのに対し、超臨界水+CO系と超臨界水+ぎ酸系では分子量 500 程度の原

料由来のピークが消失していた。これは、分子量がこの付近に相当する生成物が多数存在

したためである。コークのMALDI-TOF-MSスペクトルは、各反応条件とも非常

にブロードなピークであるものの、いずれも原料由来の分子量 500 程度のピークが確認さ

れた。反応後に得られたコークに共通していることは、未反応重質油由来、特に分子量 506

付近のピークが存在していることであり、これに由来する構造が核となりコークが形成さ

れている可能性がある。ぎ酸やCOの添加は、反応初期において核となる構造への活性分

子の攻撃を促進し、コーク形成を抑制している可能性がある。

Mw=

熱分解

SCW分解

SCW +CO系

SCW +HCOOH系

Mw=240 500 1000

Mw=240 500 1000

Mw=240 500 1000

Mw=240 500 1000

原料由来のピーク

原料由来のピーク

生成物が多く、原料由来のピーク消失

生成物が多く、原料由来のピーク消失

図3.7 アスファルテン+コークのMALDI-TOF-MS分析結果

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4.まとめ

400 ℃~500 ℃の範囲の無触媒条件下にて、不活性ガス中での熱分解、水密度 0.1 g/cm3

の超臨界水中、水密度 0.1 g/cm3の超臨界水-CO混合系中、水密度 0.1 g/cm3の超臨界水

-ぎ酸混合系中、水密度 2倍の超臨界水-ぎ酸混合系において、ジベンゾチオフェン、ベ

ンゾチオフェン、チオフェンの反応性を評価した。いずれの場合も、主生成物は不明であ

った。

ジベンゾチオフェンは、本条件下でかなり安定な物質であった。ベンゾチオフェンは、

水密度 0.1 g/cm3の超臨界水中で安定であった。熱分解、超臨界水-CO系、超臨界水 0.1

g/cm3-ぎ酸系では温度上昇により反応性が増大した。超臨界水 0.2 g/cm3-ぎ酸系の反応

性が最も高く、残存率が常に 70 wt%以下であり、500 ℃にてほぼ完全に分解した。チオフ

ェンは、超臨界水分解の場合に、反応温度 400~450℃で残存率が 50~70%程度となり最も

安定であった。熱分解と超臨界水+CO系では、反応温度の上昇により残存率が減少した。

ぎ酸が存在する場合は残存率の減少が顕著であり、超臨界水+ぎ酸系では、450 ℃で、超

臨界水 0.2 g/cm3-ぎ酸系では 400 ℃からほぼ完全分解していた。

いずれの場合でも、超臨界水 0.2 g/cm3-ぎ酸系の反応性が最も高い。水密度の増大に

よりぎ酸の反応性が大きくなるのはこれまでにない知見である。水密度が高くなると、イ

オンとして解離するぎ酸の割合が増すものと推測でき、このイオンが反応に関与すること

で反応性が著しく大きくなったと考える。

重質油の分解を、450 ℃にて熱分解、超臨界水分解、超臨界水+CO系、超臨界水+H

COOH系で行い、その反応特性を比較した。その結果、生成したコーク量は、熱分解≒

>超臨界水分解>超臨界水+CO系>>超臨界水+ぎ酸系となり、COもしくはぎ酸を添

加した場合に、大幅にコーク生成が抑制可能であることがわかった。部分酸化にてCOも

しくはCOから反応活性種であるぎ酸が生成すれば、部分酸化による水素化が有効である

ことが確認できた。

超臨界水+ぎ酸系は、他の系に比べてマルテンのGC-FIDピークが大きくアスファ

ルテンが低分子化されていた。MALDI-TOF-MS分析から、超臨界水+CO系と

超臨界水+ぎ酸系には、アスファルテン中に低分子量化合物が多数含まれていることが示

唆された。また、どの系のコークからも、原料由来の成分と思われるピークがあったこと

から、これがコーク前駆体となり重合反応が進行していることが示唆された。

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超臨界水を利用した重質油の水熱分解・改質技術の開発

(基盤技術研究グループ)静岡大学 佐古 猛、立元 雄治、武石 薫、岡島 いづみ

1.研究開発の目的

本研究の目的は,超臨界水熱分解改質技術により,超重質油(ビチューメン)を効率よ

く連続的に軽質化・改質する接触プロセスを開発することである。そのために,ビチュー

メンを超臨界水中に分散し,超臨界水や触媒との接触効率を高めて高速分解する技術を開

発する。 ここでは前処理によるビチューメンの水中への乳化分散,軽質化に適した触媒の選定,

スプレーノズルによる超臨界水中への分散注入について検討したので報告する。 2.研究開発の内容 2.1 前処理法の検討

ビチューメンを水中に分散するために,ビチューメン,蒸留水,界面活性剤を混合し,

さらに攪拌を行うが,この攪拌の方式により乳化分散の可否が大きく左右される。ここで

は攪拌の方法として,超音波ホモジナイザを使用する方法および高速攪拌による方法を用

いた。その結果,良好な結果が得られた高速攪拌方法によるビチューメンの乳化分散につ

いて報告する。

実験装置の概略を図 2.1 に示す。マントルヒーター(500 mL ビーカー用)内に 500 mLビーカーを設置し,温水を入れた。この中に試料を入れた 100 mL トールビーカーを設置

した。高速攪拌装置としては,IKA 製 URTRA-TURRAX, T25 digital を使用し,シャフトジ

ェネレータには S25N-18G 型を使用した。 マントルヒーター内に設置した 500 mL ビーカー中の水を 80℃に加熱し,100 mL トール

ビーカー内の試料の温度が 80℃で安定するまで緩やかに攪拌した。その後,高速攪拌機を

挿入し,回転速度 10000 rpm で 10 分間攪拌した。この時,高速攪拌機を上下に動かし,十

分に乳化分散が行われるようにした。攪拌後,光学顕微鏡にて試料を観察し,油滴径(フ

ェレー径)を測定した。また温度を変えながら回転粘度計により粘度を測定した。 試料にはビチューメン,蒸留水,界面活性剤を所定の割合で混合したものを使用した。

界面活性剤にはポリオキシエチレン(50)オレイルエーテル(HLB=17.9)を使用した。表

2.1 に本実験で使用した試料中の各成分の質量割合を示す。

表 2.1 試料中の各成分の質量割合 質量割合 [wt%]

超重質油 50 50 60 70 80

蒸留水 49 50 39 29 19

界面活性剤 1 0 1 1 1

界面活性剤:ポリオキシエチレン(50)オレイルエーテル(C9H18=C9H17-O-(C2H4O)nH)

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2.2 触媒に関する検討

本来は,ビチューメンが懸濁または高分散した水溶液の中に触媒を分散させ,ビチュー

メンの分解を試みるべきと考える。しかしビチューメンの量に限りがあるので,予備実験

としてサンプル物質に n-ヘキサデカン(C16H34)を選び,C16H34の分解性に関して,触媒を用

いない高温高圧処理,そして触媒を用いた場合との比較検討を行った。C16H34の分解反応に

よって生成した全物質の定量分析法が確立できなかったといった問題点があったが,用い

た触媒(アルカリ触媒,酸触媒,粉末固体触媒)の活性の違いや生成物の違いなどを確認

することができた。

分解実験には加熱源として流動式サンドバス(Techne FB-08 Fluidised Bath),反応管

には外径 12.7mm,肉厚 2.0mm,長さ 150mm の SUS316 製のステンレス管(体積 8.7 cm3)を使

用した。図 2.2 に分解反応装置を示す。反応管に 0.45g の n-ヘキサデカン,水(0.4g。た

だし反応中に反応圧力(10MPa)の減少が生じた場合は 10MPa になるように追加した),場

合によっては触媒を入れ,反応管内をアルゴンスガスで数回パージして空気を置換した。

そしてあらかじめ反応温度に加温しておいたサンドバスに反応管を入れ分解反応を開始し,

反応管を入れた時刻を反応開始時刻とした。所定の反応時間経過後,反応管をサンドバス

から取り出し,氷水につけて急冷し反応を止めた。冷却後,ガス状の成分に関してはガス

サンプリングパック(テドラーバッグ)に取り,ガスクロ(GC)にて分析した。水素,ア

ルゴン,メタン,一酸化炭素に関しては島津製ガスクロ GC-6AM(熱伝導度検出器(TCD)

および水素炎イオン化検出器(FID)を直列に設置。カラム充填剤は MS-5A)で分析した。C1-C5

攪拌機(10000 rpm)

温度調節器(80℃)

マントルヒーター ビーカー(500 mL)

ビーカー(100 mL)

ビチューメン+蒸留水+界面活性剤

図 2.1 ビチューメンの乳化実験装置の概略

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の炭化水素類,二酸化炭素,水などに関しては,島津製 GC-14B(TCD および FID を直列に

設置。カラム充填剤は Porapack-T)で分析した。反応管内の残りを THF で溶解し,吸引ろ

過して 100ml のメスフラスコにメスアップし,島津製 GC-17A(FID。Agilent Technologies

社キャピラリーカラム HP-5)によって分析を行った。

また触媒として次の3つを用いた。1) アルカリ触媒(炭酸カリウム(K2CO3,和光純薬工

業株式会社,和光特級 99.5%)を用い,0.1 mol/L の水溶液を調製し,0.3 g を反応に使用),

2) 酸触媒(硝酸(HNO3,和光純薬工業株式会社,和光特級 69-70%)を用い,0.1 mol/L

の水溶液を調製し,0.2 g を反応に使用),3) 固体粉体触媒(市販のγ-アルミナ(住友化学

株式会社製,KDH-12)を粒子径 150μm まで粉砕し,0.1 g を反応に使用)。

2.3 流通式反応装置による分解・軽質化

ビチューメンのモデル物質として n-ヘキサデカン(C16H34)を用いて,流通式超臨界水中

分解装置に噴霧ノズルを取り付けることにより,ヘキサデカン+水の分散混合物を連続供

給することができるか,また実際の超臨界水反応場でヘキサデカンの分解率が高い連続分

解処理は可能なのかを踏まえた試運転を行った。

図 2.3 に流通式分解反応・軽質化装置のフロー図を示す。装置として,耐圧硝子工業㈱

製 TSC-WC-1 型亜臨界水分解装置を使用した。本装置では,分解対象物と水の供給口とし

て 2 つの高圧送液ポンプを有しているが,今回はヘキサデカンを乳化剤によって蒸留水に

分散させていることから,ヘキサデカン+水の混合液として反応器へ供給することができる

ため,高圧送液ポンプは一つのみ使用した。またヘキサデカン+水の混合液を反応容器内に

噴霧するノズルとして,5mmΦの孔を 7 個有するノズルを用いた。

実験方法としては,まず始めに反応器と予熱器及びその間の配管を反応温度まで昇温し,

その後,高圧送液ポンプを用いて蒸留水を容器に送り込み,背圧弁を調整することにより

図 2.2 バッチ式超臨界水分解反応装置

T

2

1

1:反応管

2:サンドバス

T:温度計

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反応圧力まで昇圧した。昇温・昇圧終了後,蒸留水をヘキサデカン+水+界面活性剤混合

液に切り替えて 1.0cm3/min で供給を開始した。反応容器内にヘキサデカン+水+界面活性

剤混合液が噴霧され,超臨界水中で分解した後,分解生成物は反応器下部から外部へ流れ

出て,室温付近まで冷却した後に背圧弁で大気圧まで減圧し,気液分離器で液体成分と気

体成分に分離した。供給開始から 100 分後にキサデカン+水+界面活性剤混合液の供給を

止めることで実験を終了した。

分解実験中に装置から排出された液体成分は 2 相に分離していたため,ジエチルエーテ

ルで液液抽出を行って油層成分と水層成分に分離してから,それぞれ分析を行った。ここ

では, 2.2 で用いた液体成分の分析と同様に,島津製作所製 GC-17A(検出器:FID,カラ

ム:Agilent Technologies 社キャピラリーカラム HP-5,キャリアガス:He)を用いて,

液体成分中に残存したヘキサデカンを定量分析した。

T

P

高圧ポンプ

水+ヘキサデカン

+界面活性剤

高圧ポンプ

T

T

冷却器

予熱器

背圧弁

T

T

P P

図 2.3 流通式分解反応・軽質化装置のフロー図

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3.研究開発の結果

3.1 前処理法の検討

3.1.1 ビチューメン 50 wt%の結果

図 3.1 にビチューメン:蒸留水:界面活性剤の質量比を 50:49:1 とした時の顕微鏡写

真を示す。図から油滴が明確に観察でき,ビチューメンが蒸留水中に分散していることが

わかる。光学顕微鏡により撮影した約 100 個の油滴について,その径を測定した結果を図

3.2 に示す。分布は広いものの個数平均油滴径は 24.7 μm であり,目標である数十マイクロ

メートル以下を満たした。また 10 μm 程度の油滴が多く観察された。 以上のことから,ビチューメン:蒸留水:界面活性剤 = 50:49:1 という条件で,目標

の油滴径の達成が可能であることがわかる。また別の実験から,界面活性剤がビチューメ

ンの分散に重要な役割を果たしており,界面活性剤を添加しない状態では,高速攪拌によ

ってもビチューメンはほとんど分散しないことが明らかとなった。 3.1.2 ビチューメンの質量割合を変えた結果

目標であるビチューメンの質量割合 50 wt%を達成できたが,さらにビチューメンの質量

割合が高い状態で乳化分散が行われることが望ましい。そこでビチューメンの質量割合を

増加させた時の乳化分散特性を検討した。 図 3.3 にビチューメンの質量割合を変えた場合の粘度の測定結果を示す。ビチューメン

そのものの粘度は,40℃で 20500 cSt と報告されており(JPEC;カナダオイルサンド油の

分析評価報告書,H19 年 3 月),ビチューメンの密度がほぼ 1 と考えると約 20000 mPa・sである。温度が低くなるにつれて粘度が高くなる傾向にあり,粘度の上昇度合いはビチュ

ーメンの質量割合が高いほど高くなった。またビチューメンの質量割合が高いほど粘度そ

のものも高くなる。特に 80 wt%では,ほとんど流動性が見られなくなり,低い温度での粘

度測定が不可能であった。50 wt%および 60 wt%では,低い粘度の値を示しており,十分に

乳化分散したものとして超臨界水中熱分解反応器に供給できる。一方,70 wt%では,30℃で粘度が 1000 mPa・s を超えており,前処理原料として使用できるかどうかは,反応器の特

性に左右されるものと考えられる。

図 3.1 水中に分散したビチューメンの顕微鏡写真

(ビチューメン:蒸留水:界面活性剤 = 50:49:1)

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3.2 触媒に関する検討

3.2.1 無触媒での n-ヘキサデカンの分解

触媒を加えず,反応器に水と n-ヘキサデカンを入れ,10MPa の加圧下,400-500℃の反応

温度において 25℃ごとにそれぞれ1時間の分解実験を行い,分解率や生成物の選択率など

を解析した。ただし液相分析において C5,C6に関してはカラムの選定,分析法の検討が不

充分だったために定量できなかった。今回の選択率に関しては,分析できた生成物の合計

量に対する特定の炭素数を持つ生成物の割合により算出する手法をとり,C6成分に関して

は考慮しなかった。今後の分析法や GC カラムの選定に関しては,C5,C6成分が分析できる

ようにさらなる検討の必要性がある。生成物としては,炭化水素に関しては,C1 から C15

0 10 30 20 50 40 70 90 100 80 60

5.0

10

25

15

20

油滴径 [μm]

個数

割合

[%

]

ビチューメン:蒸留水:界面活性剤 = 50:49:1 (質量割合)

平均油滴径:24.7 μm 標準偏差 :22.1 μm

図 3.2 水中に分散したビチューメンの油滴径分布

20 温度 [℃]

粘度

[m

Pa・s

]

界面活性剤:1 wt%

0 60 80 100 40

100000

10000

1000

100

10

ビチューメン:80 wt%

70 wt%

60 wt%

50 wt%

図 3.3 水中に分散したビチューメンの粘度の温度依存性

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までほとんど総ての炭化水素が生成

した。また水素や一酸化炭素なども

生成したが,二酸化炭素の生成は無

かった。分解反応の前後において,

物質収支は完全には 100%とはなら

なかった。分析できなかった C5,C6

成分,その他に定量できなかった C3

-C15の異性体などがあり,今後分析

法の更なる検討が必要である。n-ヘ

キサデカンの分解率は,反応温度が

上がるにしたがって上昇した(図

3.4 参照)。生成物の分布も反応温度

が高くなるほど軽質化が進み,475℃

および 500℃での反応にいたっては,

生成物のほとんどがエタンやプ

ロパンなどのガス成分であった

(図 3.5 参照)。

出来るだけ高い分解率で C7,

C8などの液体成分の生成を目的

とするのに適した反応温度を

425℃として,触媒の添加の効果

を試た。

3.2.2 触媒の添加による

n-ヘキサデカンの分解

水溶性のアルカリ触媒として

0.1 mol/L K2CO3 水溶液 0.3 g,

水溶性の酸触媒として 0.1 mol

/L HNO3 水溶液 0.2 g,固体粉体

触媒として γ-アルミナ(粒子径

150μm 以下) 0.1 g をそれぞれ

反応物に加え,触媒を添加しな

い場合と同じように 425℃での

分解反応を行った。分解率の比

較を表 3.1 に示す。水のみに比べて n-ヘキサデカンの分解率の向上が見られた反応は,酸

触媒( 0.1 mol /L HNO3 水溶液)を用いた場合のみで,その他の触媒では分解率は減少し

た。また今まで行ってきた無触媒の分解反応では生成されなかった二酸化炭素が生成され

た。硝酸の酸性度による反応性の向上というよりも,酸触媒の酸化力により反応が進行し

たのではないかと推測している。しかし,C2, C3, C4 などの生成が減少する一方,C7, C8

などの生成に関しては,分解率の向上に見合う生成量の増加が見られた。(図 3.6 参照)。

0

20

40

60

80

100

400 425 450 475 500

温度 / ℃分

解率

/ %

図 3.4 n-ヘキサデカンの分解率の反応温

度依存性 (10MPa,60min,水のみ)

反応温度[℃] 分

解率

[%]

0

5

10

15

20

25

30

35

40

生成物

選択

率 /

C. %

400℃ 425℃

450℃ 475℃

500℃

選択

率[C-%]

生成物の分布

CO

CH4

C15

C14

C13

C12

C11

C10

C9

C8

C7

C6 b)

C5 a)

C4

C3

C2H6

C2H4

CO2

図 3.5 各生成物の選択率の反応温度依存性

(10MPa,60min,無触媒)

a), b) 液相の C5,C6成分に関しては分析できなかった。

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次に 0.1 mol/L K2CO3 水溶液の場合,分解率の向上はなかったが,水素の生成量が大幅

に増える現象が見られた(表 3.1 参照)。この生成水素を利用した水素化分解反応を起こ

させるために充分に

反応時間を取る,そ

の生成した水素を活

性化させるための活

性金属(Ni,Fe,Ru

など)を添加する,

更にはアルカリ触媒

の添加濃度を増加す

るなどの改良を行え

ば,分解率の向上が

期待できると推察す

る。

γ-アルミナ触媒

に関しても,分解率

は減少したが,気体

成分の選択率は減少

し,C7-C10 などの液

体成分の選択率が上

昇している(図 3.6

参照)。触媒量の 適

化,反応物中におけ

る分散性の向上などを改良すれば,分解率の向上につながると推測される。

表 3.1 触媒の違いによる分解率および水素生成量の違い

(分解対象物:n-ヘキサデカン)

触媒 分解率 [%] 水素生成量 [μmol]

水のみ(無触媒) 50.0 34

アルカリ触媒(0.1 mol/L K2CO3 水溶液) 17.9 143

酸触媒(0.1 mol/L HNO3 水溶液) 69.0 75

粉末固体触媒(γ-A2O3) 27.9 40

3.3 流通式反応装置による分解・軽質化反応

図 2.3 に示す流通式反応装置を用いて n-ヘキサデカンを分解・軽質化するにあたり,ま

ず初めに 500℃,10MPa,無触媒の条件で,100 分間の連続供給による試運転を行った。こ

こでは水と n-ヘキサデカンと界面活性剤の質量比は 89:10:1 であり,原料の供給速度は

1.0ml/min とした。同様の反応条件でのバッチ式反応装置による n-ヘキサデカンの分解実

験結果との比較を表 3.2 に示す。ただし滞留時間については,流通式で 5 分,バッチ式で

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

生成物

選択

率 /

C. %

無触媒 K2CO3

HNO3 Al2O3

図 3.6 触媒の添加による各生成物の選択率の違い

a), b) 液相の C5,C6に関しては分析できなかった。

選択

率[C-%]

生成物の分布

CO

CH4

CO2

C15

C14

C13

C12

C11

C10

C9

C8

C7

C6 b)

C5 a)

C4

C3

C2H6

C2H4

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60 分と大幅に異なっている。流通式反応装置を用いた場合の n-ヘキサデカンの分解率は

77%と,バッチ式反応装置での 100%に比べて低い値となった。その理由の一つは滞留時

間の差異であろう。更に流通式反応について見ると,5 分という短い滞留時間でも 77%ま

で n-ヘキサデカンを分解することが出来たと言える。これらのことから,今回の流通式反

応の利点を大雑把にまとめると,(1)前処理により n-ヘキサデカンを水中に分散させるこ

とにより,その分散した状態を維持して反応器へ連続的に供給することが可能であった,

(2)短い滞留時間で n-ヘキサデカンを連続分解・軽質化処理できる可能性があること等が

確認できた。

表 3.2 流通式及びバッチ式反応装置による n-ヘキサデカンの分解・軽質化

分解率 分解条件

流通式反応装置 77% 500℃、10MPa、滞留時間 5 分

無触媒

バッチ式反応装置 100% 500℃、10MPa、反応時間 60 分

無触媒

n-ヘキサデカンを超臨界水中で連続分解・軽質化した場合,分解生成物としてガス成分

と液体成分が生成するが、今回は液体成分の組成分析のみを行った。図 3.7 に液相中の生

成物の選択率を示す。ただし生成物は含まれる炭素数により分類した。またここで使用し

ている液相成分は,実験時間 100 分で得られた液相全てを合わせたものの組成である。液

体生成物は炭素数 9~10 に極大値を有する分布となっており,元の炭素数 16 に比べて軽質

化が起こっていることが確認できた。

0

5

10

15

20

C7 C8 C9 C10 C11 C12 C13 C14 C15

選択

率[C

-%]

生成物の分布

図3.7 ヘキサデカンの超臨界水分解における液相中の生成物の選択率

(500℃,10MPa,水:C16:界面活性剤=89:10:1)

C7 C8 C9 C10 C11 C12 C13 C14 C15

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4.まとめ 4.1 前処理法の検討

反応器に供給する原料の前処理として,ビチューメン,蒸留水,界面活性剤を混合して

高速攪拌し,分散乳化させることを検討した結果,以下のような成果が得られた。 1. ビチューメンと蒸留水と界面活性剤の質量割合が 50:49:1 の時,高速攪拌によりビ

チューメンを乳化分散することが可能だった。またこの時の油滴径は目標値の数十

マイクロメートル以下よりも小さい 24.7 μm(個数平均値)であった。 2. 界面活性剤の効果は顕著であり,界面活性剤なしでのビチューメンの分散は不可能

であった。また界面活性剤の改良による分散性の向上が期待できる。 3. ビチューメンの質量割合として 60 wt%まで増加させても水中に分散可能であるが,

70 wt%前後で分散が困難となり,このあたりに質量割合増加の限界が見られた。た

だし操作条件や界面活性剤の改良により,この値は更に大きくなるものと考えられ

る。 今後は,水中へのビチューメンの乳化分散を更に促進するという点と,実際の超臨界水

熱分解改質反応実験の結果からフィードバックして前処理方法を改善するという 2 点につ

いて研究開発を進める。 4.2 触媒に関する検討

予備実験のサンプル物質として n-ヘキサデカン(n-C16H34)を選び,その分解特性を調

べた。水溶性である硝酸触媒を用いると分解率が向上し, C7, C8などの液体成分の生成量

の増加が見られた。一方,CO, CO2といったガス成分も生じた。またアルカリ触媒を用いた

反応では,分解率は上昇しなかったが,水素の生成量が大きく増加した。一方,γ-Al2O3を

用いた場合では分解率の上昇はなかったが,C7, C8などの選択率が上昇した。以上のよう

に,触媒を用いることによってそれぞれ特徴のある分解結果が得られた。

今後,触媒による反応器の腐食を考慮した上で 適な触媒を決定するとともに,それら

のデータを基に,ビチューメンでの反応を試みる。

4.3 流通式反応装置による分解・軽質化

n-ヘキサデカン+水+界面活性剤の分散混合物をモデル物質として用い,流通式超臨界

水反応装置にノズルを取り付け,連続的な流通反応が可能か試運転を行った。その結果,

(1)前処理の時に界面活性剤を用いて n-ヘキサデカンを水中に分散させることによって,

分散した状態を維持して反応器に連続供給できることが明らかになった。

(2)n-ヘキサデカン+水+界面活性剤の分散混合物を触媒を加えずに流通式反応装置で分

解すると,500℃,10MPa,滞留時間 5 分の条件で分解率は 77%であった。同様な条件で

バッチ式反応装置を用いた場合,反応時間が 60 分と 12 倍近い長さでようやく 100%の

分解率が得られていること,液体成分を分析した結果,軽質化の進行が確認できたこと

から,今回の流通式反応装置は有効であるといえる。