014 019 交流モータ制御 - toyo denki seizo...transition in all states including the voltage...

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14 開発レポート 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御 AC motor control by pulse pattern of harmonic current reduction With the development of power electronics, electric railway vehicles are driven by motors powered by VVVF inverters. Asynchronous mode is selected for the carrier frequency of the VVVF inverter in the region where the output frequency is low, and in the high frequency region, the synchronous mode is generally selected. In the over modulation range of the synchronous mode, this paper proposes a switching pattern in which the total loss due to the loss due to the harmonic component of the motor current and the switching loss of the VVVF inverter decreases. If cross-coupled current control is used for synchronous motor, operation in voltage saturation state cannot be realized. Therefore, in this paper, a control method has been proposed that can perform torque control without transition in all states including the voltage saturation state in both the induction motor and the synchronous motor. 中島 悠貴 Yuki Nakashima 大森 洋一 Yoichi Ohmori 1.まえがき パワーエレクトロニクスの発展により,電気鉄道車両にお いてVVVFインバータによる誘導モータ駆動が実現してお り,鉄道車両の省エネルギー化・省メンテナンス化・高性能 化に大きく貢献している。 VVVFインバータの制御方法の一例として,三角波キャリ ア比較があり,非同期制御モードでモータを始動させた後, 同期制御モードに移行するという制御を行っている。同期制 御モードの一例として,三角波キャリアの周波数を該キャリ アと比較する比較値(以下,変調波)の周波数の9倍とする9パ ルスモードで制御した後,速度が上がるにつれて変調波の波 高値を上昇させ,過変調にすることにより,1パルスモード に移行するという方法がある [1] 。1パルスモードは,インバー タが出力する正弦波を一つのパルスで生成するため,出力電 圧の高調波成分が大きくなり,モータに流れる電流の高調波 成分による損失が大きくなるという問題がある。そのため本 稿では,過変調領域での高調波損失低減を行うことを目的と したパルスパターンを提案する。 さらに,上記VVVFインバータの制御の電流制御の一例と して,たすき掛け制御方法が用いられている [2] 。たすき掛け 制御では,誘導モータで電圧飽和状態を含むすべての状態で 切り替えレスでのトルク制御が実現できている。しかし,近 年導入されているPMモータに対して,たすき掛け制御をそ のまま適用しただけでは完全な電圧飽和状態での運転が実現 できない。そこで本稿では,誘導モータやPMモータのどち らに対しても電圧飽和状態を含むすべての状態で切り替えレ スでのトルク制御を行える制御方法を提案する。 上記のように本稿では,高調波電流を低減するパルスパ ターンを算出し,そのパルスパターンを適応したPMモータ の制御方法を提案する。そして,PMモータのトルク制御に よる加減速実験を行った結果,電圧が飽和する高速領域にお いて,自動的に磁束軸であるd軸電流が負に増加しながらト ルク電流相当のq軸電流が指令に追従することを確認した。 以下にその詳細を報告する。 2.高調波電流を低減したパルスパターン 本章では,9パルスモードから1パルスモードの間に新たな パルスパターンを導入し,モータ電流の高調波成分を最小と するようなパルスパターンを算出する。また,非同期モード や9パルスモードと同様に,そのパルスパターンは三角波キャ リア比較の手段で実現される。 2.1 最適なパルスパターンの算出方法 各パルスモードとそのパルスパターンを以下の手順で求め る。 ① 導入する各パルスモードの電圧波形から,リアクトル負 荷時の相電流の高調波成分の実効値を算出し,それが最 小となるパルスパターンを見つける。 ② ①の結果から高調波損失を算出し,それに各パルスモー ドでのスイッチング損失を加算した損失が変調率に応じ て最小となるパルスモードとパルスパターンを得る。 ③ 1パルス時の出力と同じ出力を各変調率で得るための基 本波電流による損失(銅損+導通損+スイッチング損)を ②のパルスパターンで求め,その最小ポイントの変調率 を最大制限変調率とする。 つまり,モータの電流制御で得られた変調率(③で得られ た最大制限変調率に制限されたもの)より,②で得られたパ ルスモードとそのパルスパターンを参照することで,モータ および変換器の総合損失を最小としたモータ駆動が達成され る。なお,ここで言う変調率は,1パルス時を変調率1とする。 14 14 東洋電機技報 第139号 2019年

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Page 1: 014 019 交流モータ制御 - Toyo Denki Seizo...transition in all states including the voltage saturation state in both the induction motor and the synchronous motor. 中島 悠貴

開発レポート� 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御

14

開発レポート� 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御

高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御AC motor control by pulse pattern of harmonic current reduction

 With the development of power electronics, electric railway vehicles are driven by motors powered by VVVF inverters. Asynchronous mode is selected for the carrier frequency of the VVVF inverter in the region where the output frequency is low, and in the high frequency region, the synchronous mode is generally selected. In the over modulation range of the synchronous mode, this paper proposes a switching pattern in which the total loss due to the loss due to the harmonic component of the motor current and the switching loss of the VVVF inverter decreases. If cross-coupled current control is used for synchronous motor, operation in voltage saturation state cannot be realized. Therefore, in this paper, a control method has been proposed that can perform torque control without transition in all states including the voltage saturation state in both the induction motor and the synchronous motor.

中島 悠貴Yuki Nakashima

大森 洋一Yoichi Ohmori

1.まえがき

パワーエレクトロニクスの発展により,電気鉄道車両においてVVVFインバータによる誘導モータ駆動が実現しており,鉄道車両の省エネルギー化・省メンテナンス化・高性能化に大きく貢献している。VVVFインバータの制御方法の一例として,三角波キャリア比較があり,非同期制御モードでモータを始動させた後,同期制御モードに移行するという制御を行っている。同期制御モードの一例として,三角波キャリアの周波数を該キャリアと比較する比較値(以下,変調波)の周波数の9倍とする9パルスモードで制御した後,速度が上がるにつれて変調波の波高値を上昇させ,過変調にすることにより,1パルスモードに移行するという方法がある[1]。1パルスモードは,インバータが出力する正弦波を一つのパルスで生成するため,出力電圧の高調波成分が大きくなり,モータに流れる電流の高調波成分による損失が大きくなるという問題がある。そのため本稿では,過変調領域での高調波損失低減を行うことを目的としたパルスパターンを提案する。さらに,上記VVVFインバータの制御の電流制御の一例として,たすき掛け制御方法が用いられている[2]。たすき掛け制御では,誘導モータで電圧飽和状態を含むすべての状態で切り替えレスでのトルク制御が実現できている。しかし,近年導入されているPMモータに対して,たすき掛け制御をそのまま適用しただけでは完全な電圧飽和状態での運転が実現できない。そこで本稿では,誘導モータやPMモータのどちらに対しても電圧飽和状態を含むすべての状態で切り替えレスでのトルク制御を行える制御方法を提案する。上記のように本稿では,高調波電流を低減するパルスパターンを算出し,そのパルスパターンを適応したPMモータの制御方法を提案する。そして,PMモータのトルク制御に

よる加減速実験を行った結果,電圧が飽和する高速領域において,自動的に磁束軸であるd軸電流が負に増加しながらトルク電流相当のq軸電流が指令に追従することを確認した。以下にその詳細を報告する。

2.高調波電流を低減したパルスパターン

本章では,9パルスモードから1パルスモードの間に新たなパルスパターンを導入し,モータ電流の高調波成分を最小とするようなパルスパターンを算出する。また,非同期モードや9パルスモードと同様に,そのパルスパターンは三角波キャリア比較の手段で実現される。

2.1 最適なパルスパターンの算出方法

各パルスモードとそのパルスパターンを以下の手順で求める。① 導入する各パルスモードの電圧波形から,リアクトル負荷時の相電流の高調波成分の実効値を算出し,それが最小となるパルスパターンを見つける。

② ①の結果から高調波損失を算出し,それに各パルスモードでのスイッチング損失を加算した損失が変調率に応じて最小となるパルスモードとパルスパターンを得る。

③ 1パルス時の出力と同じ出力を各変調率で得るための基本波電流による損失(銅損+導通損+スイッチング損)を②のパルスパターンで求め,その最小ポイントの変調率を最大制限変調率とする。

つまり,モータの電流制御で得られた変調率(③で得られた最大制限変調率に制限されたもの)より,②で得られたパルスモードとそのパルスパターンを参照することで,モータおよび変換器の総合損失を最小としたモータ駆動が達成される。なお,ここで言う変調率は,1パルス時を変調率1とする。

1414 東洋電機技報 第139号 2019年

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開発レポート� 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御 開発レポート� 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御開発レポート� 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御

9パルスモードと1パルスモードの間に導入が考えられるパルスモードとしては3,5,7の3種類が考えられ,さらに,電圧を出力しない期間(0ベクトル)の有無でさらに2種類ずつあり,計6種類のパルスパモードが考えられる。ここで,0ベクトルの入った3,5,7パルスモードをそれぞれP3,P5,P7とし,0ベクトルが入らないものをN3,N5,N7とする。

図1はP7での電源の負極からの出力端子電圧のPWM波形の一例である。図中の赤矢印で示されている2カ所が0ベクトルの挿入位置であり,その0ベクトルの挿入がないものがN5となる。そして,図1をU相波形vuとした場合,120°ずらしたV相波形vvと,240°ずらしたW相波形vwとから相電圧波形を式(1)で得る。その相電圧波形の一例が図2である。

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図1中の矢印で示されている各パルス幅を変化させ,図2

の波形の高調波解析により変調率と高調波電流を得る。高調波電流は,図2の電圧波形をFFT解析し,それを各次数で除したものの第5次高調波以上の二乗和平方根で求めており,1パルスモード時の高調波電流を1として規格化している。上記を各パルスモードのさまざまなパルスパターンで実施し,同じ変調率での高調波電流最小のパルスパターンを選択することで,各パルスモードでの変調率に応じた高調波電流値の最小値特性を得ることができる。

■ 図1 パルスモードP7における直流電源の負極からの出力端子電圧波形の一例

Fig.1 An example of the voltage waveform of P7

開発レポート 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御

- 東洋電機技報 第139号 2019年

ルスモードとそのパルスパターンを参照することで,モータ

および変換器の総合損失を最小としたモータ駆動が達成され

る。なお,ここで言う変調率は,1 パルス時を変調率 1 と

する。

9 パルスモードと1 パルスモードの間に導入が考えられ

るパルスモードとしては 3 , 5 , 7 の 3 種類が考えられ,さ

らに,電圧を出力しない期間( 0 ベクトル)の有無でさら

に2種類ずつあり,計 6 種類のパルスパモードが考えられる。

ここで,0 ベクトルの入った 3 , 5 , 7 パルスモードをそれぞ

れ P3 , P5 , P7とし,0 ベクトルが入らないものを N3 , N5,

N7とする。

図1 は P7 での電源の負極からの出力端子電圧の PWM

波形の一例である。図中の赤矢印で示されている2カ所が 0

ベクトルの挿入位置であり,その 0 ベクトルの挿入がない

ものが N5 となる。そして,図1 を U 相波形 vu とした場

合,120°ずらした V 相波形 vv と,240°ずらした W 相波

形 vw とから相電圧波形を式 ( 1 ) で得る。その相電圧波形

の一例が図2である。

2232 wv

uvvvv ・・・・・・・・・・ ( 1 )

図1 中の矢印で示されている各パルス幅を変化させ,図

2の波形の高調波解析により変調率と高調波電流を得る。

高調波電流は,図2 の電圧波形を FFT 解析し,それを各次

数で除したものの第 5 次高調波以上の二乗和平方根で求め

ており,1 パルスモード時の高調波電流を1 として規格化し

ている。

上記を各パルスモードのさまざまなパルスパターンで実

施し,同じ変調率での高調波電流最小のパルスパターンを選

択することで,各パルスモードでの変調率に応じた高調波電

流値の最小値特性を得ることができる。

■図1 パルスモード における直流電源の負極からの

出力端子電圧波形の一例

Fig.1 An example of the voltage waveform of P7

■図2 三相合成波 の一例

Fig.2 An example of synthetic waves (P7)

2.2 最適なパルスパターンの算出結果

図3 は前節の手法による結果を示した高調波電流と,9

パルス時の高調波電流を表している。ここで 9 パルスモー

ドでの変調波は 3 倍調波注入方式を用いている。青線は 9

パルスモードの高調波電流である。なお,P3 は 9 パルス

より高調波電流が高かったため,省略している。

図3 において,高調波電流を最小とするように変調率に

応じてパルスモードを切り替えることで,変調率に応じた高

調波電流最小となるパルスパターンを得ることができる。そ

うすると,変調率が高くなる順に9 パルス→ P7 →N7 →

N5 → N3 → 1 パルスとパルスモードを切り替えれば良い

ことが分かる。

しかし,N7 は三角波比較による実現が困難であることか

ら,実験では図3 中の矢印のように変調率が高くなる順に

9 パルス→ P7 → N5 → N3 と切り替えることとした。表

1は各パルスモードが出力する変調率の範囲を表したもの

である。なお,前節では図3 から高調波損失を求めてス

イッチング損失を加算した総合損失を求めて,それが最小と

なるようにパルスモードを切り替えることが示されているが,

ここではスイッチング損失は加味していない。

■図3 各パルスモードの変調率と高調波電流の関係

Fig.3 Relation between modulation rate and harmonic current of each pulse mode

deg

0

0

deg

変調率

N3 N5 N7 P5

P7

9パルス

高調波電流

■ 図2 三相合成波 (P7) の一例Fig.2 An example of synthetic waves (P7)

開発レポート 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御

- 東洋電機技報 第139号 2019年

ルスモードとそのパルスパターンを参照することで,モータ

および変換器の総合損失を最小としたモータ駆動が達成され

る。なお,ここで言う変調率は,1 パルス時を変調率 1 と

する。

9 パルスモードと1 パルスモードの間に導入が考えられ

るパルスモードとしては 3 , 5 , 7 の 3 種類が考えられ,さ

らに,電圧を出力しない期間( 0 ベクトル)の有無でさら

に2種類ずつあり,計 6 種類のパルスパモードが考えられる。

ここで,0 ベクトルの入った 3 , 5 , 7 パルスモードをそれぞ

れ P3 , P5 , P7とし,0 ベクトルが入らないものを N3 , N5,

N7とする。

図1 は P7 での電源の負極からの出力端子電圧の PWM

波形の一例である。図中の赤矢印で示されている2カ所が 0

ベクトルの挿入位置であり,その 0 ベクトルの挿入がない

ものが N5 となる。そして,図1 を U 相波形 vu とした場

合,120°ずらした V 相波形 vv と,240°ずらした W 相波

形 vw とから相電圧波形を式 ( 1 ) で得る。その相電圧波形

の一例が図2である。

2232 wv

uvvvv ・・・・・・・・・・ ( 1 )

図1 中の矢印で示されている各パルス幅を変化させ,図

2の波形の高調波解析により変調率と高調波電流を得る。

高調波電流は,図2 の電圧波形を FFT 解析し,それを各次

数で除したものの第 5 次高調波以上の二乗和平方根で求め

ており,1 パルスモード時の高調波電流を1 として規格化し

ている。

上記を各パルスモードのさまざまなパルスパターンで実

施し,同じ変調率での高調波電流最小のパルスパターンを選

択することで,各パルスモードでの変調率に応じた高調波電

流値の最小値特性を得ることができる。

■図1 パルスモード における直流電源の負極からの

出力端子電圧波形の一例

Fig.1 An example of the voltage waveform of P7

■図2 三相合成波 の一例

Fig.2 An example of synthetic waves (P7)

2.2 最適なパルスパターンの算出結果

図3 は前節の手法による結果を示した高調波電流と,9

パルス時の高調波電流を表している。ここで 9 パルスモー

ドでの変調波は 3 倍調波注入方式を用いている。青線は 9

パルスモードの高調波電流である。なお,P3 は 9 パルス

より高調波電流が高かったため,省略している。

図3 において,高調波電流を最小とするように変調率に

応じてパルスモードを切り替えることで,変調率に応じた高

調波電流最小となるパルスパターンを得ることができる。そ

うすると,変調率が高くなる順に9 パルス→ P7 →N7 →

N5 → N3 → 1 パルスとパルスモードを切り替えれば良い

ことが分かる。

しかし,N7 は三角波比較による実現が困難であることか

ら,実験では図3 中の矢印のように変調率が高くなる順に

9 パルス→ P7 → N5 → N3 と切り替えることとした。表

1は各パルスモードが出力する変調率の範囲を表したもの

である。なお,前節では図3 から高調波損失を求めてス

イッチング損失を加算した総合損失を求めて,それが最小と

なるようにパルスモードを切り替えることが示されているが,

ここではスイッチング損失は加味していない。

■図3 各パルスモードの変調率と高調波電流の関係

Fig.3 Relation between modulation rate and harmonic current of each pulse mode

deg

0

0

deg

変調率

N3 N5 N7 P5

P7

9パルス

高調波電流

2.2 最適なパルスパターンの算出結果

図3は前節の手法による結果を示した高調波電流と,9パルス時の高調波電流を表している。ここで9パルスモードでの変調波は3倍調波注入方式を用いている。青線は9パルスモードの高調波電流である。なお,P3は9パルスより高調波電流が高かったため,省略している。

図3において,高調波電流を最小とするように変調率に応じてパルスモードを切り替えることで,変調率に応じた高調波電流最小となるパルスパターンを得ることができる。そうすると,変調率が高くなる順に9パルス→P7→N7→N5→N3→1パルスとパルスモードを切り替えれば良いことが分かる。しかし,N7は三角波比較による実現が困難であることか

ら,実験では図3中の矢印のように変調率が高くなる順に9パルス→P7→N5→N3と切り替えることとした。表1は各パルスモードが出力する変調率の範囲を表したものである。なお,前節では図3から高調波損失を求めてスイッチング損失を加算した総合損失を求めて,それが最小となるようにパルスモードを切り替えることが示されているが,ここではスイッチング損失は加味していない。

■ 図3 各パルスモードの変調率と高調波電流の関係Fig.3 Relation between modulation rate and harmonic current

of each pulse mode

開発レポート 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御

- 東洋電機技報 第139号 2019年

ルスモードとそのパルスパターンを参照することで,モータ

および変換器の総合損失を最小としたモータ駆動が達成され

る。なお,ここで言う変調率は,1 パルス時を変調率 1 と

する。

9 パルスモードと1 パルスモードの間に導入が考えられ

るパルスモードとしては 3 , 5 , 7 の 3 種類が考えられ,さ

らに,電圧を出力しない期間( 0 ベクトル)の有無でさら

に2種類ずつあり,計 6 種類のパルスパモードが考えられる。

ここで,0 ベクトルの入った 3 , 5 , 7 パルスモードをそれぞ

れ P3 , P5 , P7とし,0 ベクトルが入らないものを N3 , N5,

N7とする。

図1 は P7 での電源の負極からの出力端子電圧の PWM

波形の一例である。図中の赤矢印で示されている2カ所が 0

ベクトルの挿入位置であり,その 0 ベクトルの挿入がない

ものが N5 となる。そして,図1 を U 相波形 vu とした場

合,120°ずらした V 相波形 vv と,240°ずらした W 相波

形 vw とから相電圧波形を式 ( 1 ) で得る。その相電圧波形

の一例が図2である。

2232 wv

uvvvv ・・・・・・・・・・ ( 1 )

図1 中の矢印で示されている各パルス幅を変化させ,図

2の波形の高調波解析により変調率と高調波電流を得る。

高調波電流は,図2 の電圧波形を FFT 解析し,それを各次

数で除したものの第 5 次高調波以上の二乗和平方根で求め

ており,1 パルスモード時の高調波電流を1 として規格化し

ている。

上記を各パルスモードのさまざまなパルスパターンで実

施し,同じ変調率での高調波電流最小のパルスパターンを選

択することで,各パルスモードでの変調率に応じた高調波電

流値の最小値特性を得ることができる。

■図1 パルスモード における直流電源の負極からの

出力端子電圧波形の一例

Fig.1 An example of the voltage waveform of P7

■図2 三相合成波 の一例

Fig.2 An example of synthetic waves (P7)

2.2 最適なパルスパターンの算出結果

図3 は前節の手法による結果を示した高調波電流と,9

パルス時の高調波電流を表している。ここで 9 パルスモー

ドでの変調波は 3 倍調波注入方式を用いている。青線は 9

パルスモードの高調波電流である。なお,P3 は 9 パルス

より高調波電流が高かったため,省略している。

図3 において,高調波電流を最小とするように変調率に

応じてパルスモードを切り替えることで,変調率に応じた高

調波電流最小となるパルスパターンを得ることができる。そ

うすると,変調率が高くなる順に9 パルス→ P7 →N7 →

N5 → N3 → 1 パルスとパルスモードを切り替えれば良い

ことが分かる。

しかし,N7 は三角波比較による実現が困難であることか

ら,実験では図3 中の矢印のように変調率が高くなる順に

9 パルス→ P7 → N5 → N3 と切り替えることとした。表

1は各パルスモードが出力する変調率の範囲を表したもの

である。なお,前節では図3 から高調波損失を求めてス

イッチング損失を加算した総合損失を求めて,それが最小と

なるようにパルスモードを切り替えることが示されているが,

ここではスイッチング損失は加味していない。

■図3 各パルスモードの変調率と高調波電流の関係

Fig.3 Relation between modulation rate and harmonic current of each pulse mode

deg

0

0

deg

変調率

N3 N5 N7 P5

P7

9パルス

高調波電流

15東洋電機技報 第139号 2019年

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開発レポート� 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御

■ 表1 各パルスモードに対応する変調率Table1 Modulation rate for each pulse mode

パルスモード 変調率

9 パルスモード ~ 0.8

P7 0.8 ~ 0.963

N5 0.963 ~ 0.994

N3 0.994 ~ 0.999

表1にしたがって選択されたパルスモードの,変調率に応じたパルスパターンはテーブル化され,変調率に応じたテーブル参照値を変調波とした,三角波キャリア比較でパルスパターンを実現する。

2.3 誘導モータを用いた高調波低減の効果確認

高調波電流が,図3のように低減できることを確認するために,誘導モータを用いて実験を行った。

図4は,U相電流をFFT解析し,5次以降の高調波の二乗和平方根を変調率0.999時の値を1として規格化したものである。なお,図3と同じにするために基本波周波数を乗じている。また図4には,従来の9パルスモードのみの結果も示されている。

図4の実験結果は,図3のシミュレーション結果と同様な特性で高調波電流が下がっていることが確認できる。また従来の9パルスモードと比較すると大幅に高調波電流を小さくできていることが分かる。

■ 図4 9パルスモードと高調波電流最小パルスパターンの比較Fig.4 Comparison between 9 pulse mode and proposed pulse

pattern

開発レポート 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御

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■表1 各パルスモードに対応する変調率

Table 1 Modulation rate for each pulse mode

パルスモード 変調率

パルスモード ~

表1 にしたがって選択されたパルスモードの,変調率に

応じたパルスパターンはテーブル化され,変調率に応じた

テーブル参照値を変調波とした,三角波キャリア比較でパル

スパターンを実現する。

2.3 誘導モータを用いた高調波低減の効果確認

高調波電流が,図3 のように低減できることを確認する

ために,誘導モータを用いて実験を行った。

図4 は,U 相電流を FFT 解析し,5 次以降の高調波の二

乗和平方根を変調率 0.999 時の値を 1 として規格化したも

のである。なお,図3 と同じにするために基本波周波数を

乗じている。また図4 には,従来の 9 パルスモードのみ

の結果も示されている。

図4 の実験結果は,図3 のシミュレーション結果と同

様な特性で高調波電流が下がっていることが確認できる。ま

た従来の9 パルスモードと比較すると大幅に高調波電流を小

さくできていることが分かる。

■図4 9パルスモードと高調波電流最小パルスパターンの

比較Fig.4 Comparison between 9 pulse mode and

proposed pulse pattern

3. PMモータの制御方法

現在,当社の誘導モータの制御は,たすき掛け制御を用

いており,電圧飽和状態を含むすべての状態で切り替えレス

でのトルク制御を実施している。

しかし,たすき掛け制御を単純に同期モータに適応する

だけでは完全な電圧飽和状態での運転が実現できていない。

そのため,誘導モータと PM モータの両方で,電圧飽和状態

を含むすべての状態での切り替えレスでのトルク制御を行え

る積分回転を提案する。

3.1 たすき掛けによる制御方法

図5 は,たすき掛け制御の一例を示した図である。低速

域においては角周波数に比例する直交成分の積分器入力が小

さいため,各軸独立のフィードバック制御と同等とみなせる

が,速度の上昇に伴いゲイン Kid2 による d 軸電流偏差補償

が可能となるため,図5 のスイッチ Sw を開放しても2 軸

の電流制御は維持できる。誘導モータの場合,高速域では電

圧ベクトルはほぼ q 軸方向を向いているので,スイッチ Sw

は開放した状態で電圧が飽和すると,q 軸の積分器のリミッ

トが自動的に飽和することにより d 軸の追従は放棄され,

Vd*による q 軸電流のみの制御となる。このように電圧飽和

となっても切り替えレスで d 軸電流は自動的に小さくなって

弱め界磁状態となり,q 軸電流制御が維持できるのでトルク

制御を継続できる。

Kpd

∫dt

∫dt

Kpq

Kiq

Kid

ω i・Kid2

ω i・Kid2

iq*

iq

id*

id

vd*

vq*

Swvdi

vqi

iqe

ide

■図5 たすき掛け電流制御

Fig.5 Cross-coupled current control scheme

3.2 積分回転による制御方法

図6 は,離散時間 Ts による積分回転制御を適用したブ

ロック図である。図中の破線で囲まれた Kid , Kiq から Vid ,

Viq までが積分回転部となる。ここで Kid , Kiq は,積分ゲイ

ンと Ts との積で,出力に加算して新たな出力としているこ

とから積分器と等価であることが分かる。この構成により,

d 軸電流偏差を積分したもの Vx は,d 軸から位相差 θ の方

向にある軸 以下法線軸 方向の成分となり,q 軸電流偏差

を積分したもの Vy は,法線軸と直交した接線軸の成分とな

る。Vid , Viq と Kpd , Kpq による比例制御部に非干渉項を加え

て電圧指令 Vd* , Vq

* を求めている。この電圧指令から前章

のパルスパターンによる三角波キャリア比較で電力変換器の

スイッチング信号を得ている。

回転角 θ は式 ( 4 ) で算出されるものであり,式 ( 4 ) の

高調波電流

変調率

9パルスモード

導入したパルスパターン

3.PMモータの制御方法

現在,当社の誘導モータの制御は,たすき掛け制御を用いており,電圧飽和状態を含むすべての状態で切り替えレスでのトルク制御を実施している。しかし,たすき掛け制御を単純に同期モータに適応するだけでは完全な電圧飽和状態での運転が実現できていない。そのため,誘導モータとPMモータの両方で,電圧飽和状態を含むすべての状態での切り替えレスでのトルク制御を行える積分回転を提案する。

3.1 たすき掛けによる制御方法(2)

図5は,たすき掛け制御の一例を示した図である。低速域においては角周波数に比例する直交成分の積分器入力が小さいため,各軸独立のフィードバック制御と同等とみなせるが,速度の上昇に伴いゲインKid2によるd軸電流偏差補償が可能となるため,図5のスイッチSwを開放しても2軸の電流制御は維持できる。誘導モータの場合,高速域では電圧ベクトルはほぼq軸方向を向いているので,スイッチSwは開放した状態で電圧が飽和すると,q軸の積分器のリミットが自動的に飽和することによりd軸の追従は放棄され,Vd

*によるq軸電流のみの制御となる。このように電圧飽和となっても切り替えレスでd軸電流は自動的に小さくなって弱め界磁状態となり,q軸電流制御が維持できるのでトルク制御を継続できる。

■ 図5 たすき掛け電流制御Fig.5 Cross-coupled current control scheme

開発レポート 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御

- 東洋電機技報 第139号 2019年

■表1 各パルスモードに対応する変調率

Table 1 Modulation rate for each pulse mode

パルスモード 変調率

パルスモード ~

表1 にしたがって選択されたパルスモードの,変調率に

応じたパルスパターンはテーブル化され,変調率に応じた

テーブル参照値を変調波とした,三角波キャリア比較でパル

スパターンを実現する。

2.3 誘導モータを用いた高調波低減の効果確認

高調波電流が,図3 のように低減できることを確認する

ために,誘導モータを用いて実験を行った。

図4 は,U 相電流を FFT 解析し,5 次以降の高調波の二

乗和平方根を変調率 0.999 時の値を 1 として規格化したも

のである。なお,図3 と同じにするために基本波周波数を

乗じている。また図4 には,従来の 9 パルスモードのみ

の結果も示されている。

図4 の実験結果は,図3 のシミュレーション結果と同

様な特性で高調波電流が下がっていることが確認できる。ま

た従来の9 パルスモードと比較すると大幅に高調波電流を小

さくできていることが分かる。

■図4 9パルスモードと高調波電流最小パルスパターンの

比較Fig.4 Comparison between 9 pulse mode and

proposed pulse pattern

3. PMモータの制御方法

現在,当社の誘導モータの制御は,たすき掛け制御を用

いており,電圧飽和状態を含むすべての状態で切り替えレス

でのトルク制御を実施している。

しかし,たすき掛け制御を単純に同期モータに適応する

だけでは完全な電圧飽和状態での運転が実現できていない。

そのため,誘導モータと PM モータの両方で,電圧飽和状態

を含むすべての状態での切り替えレスでのトルク制御を行え

る積分回転を提案する。

3.1 たすき掛けによる制御方法

図5 は,たすき掛け制御の一例を示した図である。低速

域においては角周波数に比例する直交成分の積分器入力が小

さいため,各軸独立のフィードバック制御と同等とみなせる

が,速度の上昇に伴いゲイン Kid2 による d 軸電流偏差補償

が可能となるため,図5 のスイッチ Sw を開放しても2 軸

の電流制御は維持できる。誘導モータの場合,高速域では電

圧ベクトルはほぼ q 軸方向を向いているので,スイッチ Sw

は開放した状態で電圧が飽和すると,q 軸の積分器のリミッ

トが自動的に飽和することにより d 軸の追従は放棄され,

Vd*による q 軸電流のみの制御となる。このように電圧飽和

となっても切り替えレスで d 軸電流は自動的に小さくなって

弱め界磁状態となり,q 軸電流制御が維持できるのでトルク

制御を継続できる。

Kpd

∫dt

∫dt

Kpq

Kiq

Kid

ω i・Kid2

ω i・Kid2

iq*

iq

id*

id

vd*

vq*

Swvdi

vqi

iqe

ide

■図5 たすき掛け電流制御

Fig.5 Cross-coupled current control scheme

3.2 積分回転による制御方法

図6 は,離散時間 Ts による積分回転制御を適用したブ

ロック図である。図中の破線で囲まれた Kid , Kiq から Vid ,

Viq までが積分回転部となる。ここで Kid , Kiq は,積分ゲイ

ンと Ts との積で,出力に加算して新たな出力としているこ

とから積分器と等価であることが分かる。この構成により,

d 軸電流偏差を積分したもの Vx は,d 軸から位相差 θ の方

向にある軸 以下法線軸 方向の成分となり,q 軸電流偏差

を積分したもの Vy は,法線軸と直交した接線軸の成分とな

る。Vid , Viq と Kpd , Kpq による比例制御部に非干渉項を加え

て電圧指令 Vd* , Vq

* を求めている。この電圧指令から前章

のパルスパターンによる三角波キャリア比較で電力変換器の

スイッチング信号を得ている。

回転角 θ は式 ( 4 ) で算出されるものであり,式 ( 4 ) の

高調波電流

変調率

9パルスモード

導入したパルスパターン3.2 積分回転による制御方法

図6は,離散時間Tsによる積分回転制御を適用したブロック図である。図中の破線で囲まれたKid,KiqからVid,Viqまでが積分回転部となる。ここでKid,Kiqは,積分ゲインとTsとの積で,出力に加算して新たな出力としていることから積分器と等価であることが分かる。この構成により,d軸電流偏差を積分したものVxは,d軸から位相差θの方向にある軸(以下法線軸)方向の成分となり,q軸電流偏差を積分したものVyは,法線軸と直交した接線軸の成分となる。Vid,ViqとKpd,Kpqによる比例制御部に非干渉項を加えて電圧指令Vd

*,Vq*�を求めている。この電圧指令から前章のパルスパターン

による三角波キャリア比較で電力変換器のスイッチング信号を得ている。回転角θは式(4)で算出されるものであり,式(4)のθrは

式(5)に示されるように,式(2),(3)を用いて算出されるvd,vqを成分とする電圧ベクトルのd軸から位相角である。また,Gは電圧指令Vd

*,Vq*から求めた変調率に応じて0~ 1の範

囲で変化させる変数で,変調率が1付近で1となる。変調率が低い場合は,G = 0とするのでθ= 0となり,

1616 東洋電機技報 第139号 2019年

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Vdi = Vx,Vqi = Vyとなり,各軸独立のPI制御と等価となる。電圧飽和となる変調率が1付近ではG = 1とするのでθ=θrとなり,θrは出力電圧ベクトルの位相とほぼ一致するのでd軸電流偏差を積分したVxは出力電圧ベクトルの法線方向の成分となり,q軸電流偏差を積分したVyは出力電圧ベクトルの接線方向成分となる。図7はそれを表したベクトル図である。図中のVkは,式(2),(3)の電圧を成分に持つ電圧ベクトルである。ΔVは,viaとviqを成分とする電圧ベクトルであり,Vrはvd*とvq*を成分とする電圧ベクトルで比例制御の項を無視するとVkとΔVの和となる。またΔVは,Vkの法線方向成分Vxと接線方向成分Vyでも表すこともできる。以上により,d軸積分の出力VxではVrの大きさを制御することができるが,電圧飽和状態では実際にモータに印加される電圧の大きさは電圧出力限界に制限された状態となるためd軸偏差ideを定常的に0とすることはできなくなる。一方,q軸積分器出力VyによってVrの位相θvを制御することができる。式(6)は,モータ印加電圧は電圧出力限界値Em一定での定常状態において,電圧位相θvによるq軸電流iqの偏微分を表している。この式よりθvが所定範囲内であればθvでiqを制御できることがわかる。つまり,電圧飽和状態でもq軸積分器出力Vyでiqを制御できることとなる。

図6の非干渉項と式(2),(3)を誘導モータの特性式に対応したものに変更することで誘導モータに適応可能である。

� ��������������(2)

������������������(3)

��������������������(4)

�����������������(5)

� �������(6)

■ 図6 提案する電流制御構成Fig.6 Proposed current control scheme

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- 東洋電機技報 第139号 2019年

θrは式 ( 5 ) に示されるように,式 ( 2 ) , ( 3 ) を用いて算出

される vd , vq を成分とする電圧ベクトルの d 軸から位相角

である。また,G は電圧指令 Vd* , Vq

*から求めた変調率に応

じて0 ~ 1の範囲で変化させる変数で,変調率が 1 付近で 1

となる。

変調率が低い場合は,G = 0 とするので θ = 0 となり,Vdi

= Vx , Vqi = Vy となり,各軸独立の PI 制御と等価となる。

電圧飽和となる変調率が1付近では G = 1とするので θ = θr

となり,θr は出力電圧ベクトルの位相とほぼ一致するので

d 軸電流偏差を積分した Vx は出力電圧ベクトルの法線方向

の成分となり,q 軸電流偏差を積分した Vy は出力電圧ベク

トルの接線方向成分となる。図7 はそれを表したベクトル

図である。図中の Vk は,式 ( 2 ) , ( 3 ) の電圧を成分に持つ

電圧ベクトルである。ΔV は,via と viq を成分とする電圧ベ

クトルであり,Vr は vd*と vq

*を成分とする電圧ベクトルで

比例制御の項を無視すると Vk と ΔV の和となる。また ΔV

は,Vk の法線方向成分 Vx と接線方向成分 Vy でも表すこと

もできる。以上により,d 軸積分の出力 Vx では Vr の大きさ

を制御することができるが,電圧飽和状態では実際にモータ

に印加される電圧の大きさは電圧出力限界に制限された状態

となるため d 軸偏差 ideを定常的に0とすることはできなくな

る。一方,q 軸積分器出力 Vy によって Vr の位相 θv を制御

することができる。式 ( 6 ) は,モータ印加電圧は電圧出力

限界値 Em 一定での定常状態において,電圧位相 θv による

q 軸電流 iq の偏微分を表している。この式より θv が所定範

囲内であれば θv で iq を制御できることがわかる。つまり,

電圧飽和状態でも q 軸積分器出力 Vy で iqを制御できること

となる。

図6 の非干渉項と式 ( 2 ) , ( 3 ) を誘導モータの特性式に

対応したものに変更することで誘導モータに適応可能である。

ddq iLv ・・・・・・・・・・ ( 2 )

qqd iLv ・・・・・・・・・・ ( 3 )

r G ・・・・・・・・・・ ( 4 )

d

qr v

v1tan ・・・・・・・・・・ ( 5 )

qd

vdvm

v

q

LLRLRE

i22

sincos

・・・・・・・・・・ ( 6 )

Kid

Kiq

ejθ

e-jθZ-1

Z-1

Kpqiq

*

iq

vq*

Kpd

id*

id

vd*

Vy

Vx

iqe

ide

vid

viq

ω (Ld・id+φ )

-ω ・Lq・iq

■図6 提案する電流制御構成

Fig.6 Proposed current control scheme

d

q

0

電圧出力

限界

Vr

Vk

Δ VVx

Vy

X

Y θ r

θ v

■図7 ベクトル図

Fig.7 Vector diagram

4 PMモータによる駆動実験

前章で提案した積分回転制御による制御方法の有効性を

確認するために,PM モータの駆動実験を行い,性能の確認

を行う。駆動実験を行うに当たり,7.5 kW のインバータを

使用し,7.5 kW の PM モータを使用する。PM モータの仕様

を表2 に示す。

■表2 PMモータの諸元

Table 2 Specification of the PM motor

項目 仕様

定格出力

定格電圧

定格電流

定格回転数

極数 極

■ 図7 ベクトル図Fig.7 Vector diagram

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- 東洋電機技報 第139号 2019年

θrは式 ( 5 ) に示されるように,式 ( 2 ) , ( 3 ) を用いて算出

される vd , vq を成分とする電圧ベクトルの d 軸から位相角

である。また,G は電圧指令 Vd* , Vq

*から求めた変調率に応

じて0 ~ 1の範囲で変化させる変数で,変調率が 1 付近で 1

となる。

変調率が低い場合は,G = 0 とするので θ = 0 となり,Vdi

= Vx , Vqi = Vy となり,各軸独立の PI 制御と等価となる。

電圧飽和となる変調率が1付近では G = 1とするので θ = θr

となり,θr は出力電圧ベクトルの位相とほぼ一致するので

d 軸電流偏差を積分した Vx は出力電圧ベクトルの法線方向

の成分となり,q 軸電流偏差を積分した Vy は出力電圧ベク

トルの接線方向成分となる。図7 はそれを表したベクトル

図である。図中の Vk は,式 ( 2 ) , ( 3 ) の電圧を成分に持つ

電圧ベクトルである。ΔV は,via と viq を成分とする電圧ベ

クトルであり,Vr は vd*と vq

*を成分とする電圧ベクトルで

比例制御の項を無視すると Vk と ΔV の和となる。また ΔV

は,Vk の法線方向成分 Vx と接線方向成分 Vy でも表すこと

もできる。以上により,d 軸積分の出力 Vx では Vr の大きさ

を制御することができるが,電圧飽和状態では実際にモータ

に印加される電圧の大きさは電圧出力限界に制限された状態

となるため d 軸偏差 ideを定常的に0とすることはできなくな

る。一方,q 軸積分器出力 Vy によって Vr の位相 θv を制御

することができる。式 ( 6 ) は,モータ印加電圧は電圧出力

限界値 Em 一定での定常状態において,電圧位相 θv による

q 軸電流 iq の偏微分を表している。この式より θv が所定範

囲内であれば θv で iq を制御できることがわかる。つまり,

電圧飽和状態でも q 軸積分器出力 Vy で iqを制御できること

となる。

図6 の非干渉項と式 ( 2 ) , ( 3 ) を誘導モータの特性式に

対応したものに変更することで誘導モータに適応可能である。

ddq iLv ・・・・・・・・・・ ( 2 )

qqd iLv ・・・・・・・・・・ ( 3 )

r G ・・・・・・・・・・ ( 4 )

d

qr v

v1tan ・・・・・・・・・・ ( 5 )

qd

vdvm

v

q

LLRLRE

i22

sincos

・・・・・・・・・・ ( 6 )

Kid

Kiq

ejθ

e-jθZ-1

Z-1

Kpqiq

*

iq

vq*

Kpd

id*

id

vd*

Vy

Vx

iqe

ide

vid

viq

ω (Ld・id+φ )

-ω ・Lq・iq

■図6 提案する電流制御構成

Fig.6 Proposed current control scheme

d

q

0

電圧出力

限界

Vr

Vk

Δ VVx

Vy

X

Y θ r

θ v

■図7 ベクトル図

Fig.7 Vector diagram

4 PMモータによる駆動実験

前章で提案した積分回転制御による制御方法の有効性を

確認するために,PM モータの駆動実験を行い,性能の確認

を行う。駆動実験を行うに当たり,7.5 kW のインバータを

使用し,7.5 kW の PM モータを使用する。PM モータの仕様

を表2 に示す。

■表2 PMモータの諸元

Table 2 Specification of the PM motor

項目 仕様

定格出力

定格電圧

定格電流

定格回転数

極数 極

4.PMモータによる駆動実験

前章で提案した積分回転制御による制御方法の有効性を確認するために,PMモータの駆動実験を行い,性能の確認を行う。駆動実験を行うにあたり,7.5kWのインバータを使用し,7.5kWのPMモータを使用する。PMモータの仕様を表2

に示す。

■ 表2 PMモータの諸元Table2 Specification of the PM motor

項目 仕様

定格出力 7.5 kW

定格電圧 190 V

定格電流 25.7 A

定格回転数 1800 min-1

極数 6 極

実験結果の図8~ 11において,各色線の内容は表3に示されている。d軸およびq軸電流は時定数3msのフィルタ出力である。また水色のパルスモードの値の意味は表4に示されている。

17東洋電機技報 第139号 2019年

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■ 表3 実験結果波形の対応表Table3 Correspondence table of waveform of experiment

result

指標 図中の色 縦軸

d軸電流 緑 11 A/div

d軸電流指令 茶色 11 A/div

q軸電流 青 11 A/div

q軸電流指令 ピンク 11 A/div

変調率 赤 0.2 /div

モータ回転数 薄紫 525 min-1/div

積分回転角 黒 176°/div

パルスモード 水色 10 /div

■ 表4 パルスモードの対応表Table4 Correspondence table of pulse mode

パルスモード 値

非同期 0

9 パルス 2

P7 5

N5 6 ~ 8

N3 9

4.1 正トルク負荷時の動作

図8は正トルク100%負荷時指令で,時刻t0直前でインバータの駆動を開始し,2100min-1まで加速し,その後減速しt7でインバータをOFFするまでのdq軸電流指令とdq軸電流の波形である。時刻t3から時刻t4の期間が2100min-1で駆動している期間である。時刻t1からt6の間がθ≠0の区間であり,変調率が最大(t2)

となったところでd軸電流が指令に追従しなくなっている。しかし,q軸電流は動作中すべて指令に追従していることが分かる。なおq軸電流指令がt2 ~ t5において下がっているのは,d軸電流が負に増加することによるリラクタンストルクが増加しても出力トルクを一定にするためである。なおd軸電流指令は,正方向の偏差が所定値を超えないようにd軸電流に応じて修正するようにしている。

■ 図8 加減速動作の波形(100%トルク指令)Fig.8 Waveform of acceleration and deceleration (100%

torque directive)

開発レポート 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御

- 東洋電機技報 第139号 2019年

実験結果の図8~11において,各色線の内容は表3に

示されている。d 軸および q 軸電流は時定数 3 ms のフィル

タ出力である。また水色のパルスモードの値の意味は表4

に示されている。

■表3 実験結果波形の対応表

Table 3 Correspondence table of waveform of experiment result

指標 図中の色 縦軸

軸電流 緑

軸電流指令 茶色

軸電流 青

軸電流指令 ピンク

変調率 赤

モータ回転数 薄紫

積分回転角 黒 °

パルスモード 水色

■表4 パルスモードの対応表

Table 4 Correspondence table of pulse mode

パルスモード 値

非同期

パルス

4.1 正トルク負荷時の動作

図8 は正トルク100 %負荷時指令で,時刻 t0 直前でイン

バータの駆動を開始し,2100 min-1 まで加速し,その後減速

し t7 でインバータを OFF するまでの dq 軸電流指令と dq 軸

電流の波形である。時刻 t3 から時刻 t4 の期間が 2100 min-1

で駆動している期間である。

時刻 t1 から t6 の間が θ ≠0 の区間であり,変調率が最大

( t2 ) となったところで d 軸電流が指令に追従しなくなって

いる。しかし,q 軸電流は動作中すべて指令に追従している

ことが分かる。なお q 軸電流指令が t2 ~ t5 において下がっ

ているのは,d 軸電流が負に増加することによるリラクタン

ストルクが増加しても出力トルクを一定にするためである。

なお d 軸電流指令は,正方向の偏差が所定値を超えない

ように d 軸電流に応じて修正するようにしている。

■図8 加減速動作の波形( %トルク指令)

Fig.8 Waveform of acceleration and deceleration ( 100 % torque directive)

4.2 回生トルク負荷時の動作

図9は回生トルク100 %負荷時指令で,時刻 t0 直前でイン

バータの駆動を開始し,2100 min-1 まで加速した後に減速し

t7でインバータを OFF するまでの dq 軸電流指令と dq 軸電流

の波形である。時刻 t3 から時刻 t4 の期間が2100 min-1 で駆

動している期間である。

正トルク時同様に,時刻 t1 から t6 の間にて θ ≠0となっ

ており,変調率が最大 ( t2 ) となったところで d 軸電流が指

令に追従しなくなっているが,q 軸電流は動作中すべて指令

に追従していることが分かる。

■図9 加減速動作( トルク指令)

Fig.9 Waveform of acceleration and deceleration ( -100 % torque directive)

4.2 回生トルク負荷時の動作

図9は回生トルク100%負荷時指令で,時刻t0直前でインバータの駆動を開始し,2100min-1まで加速した後に減速しt7でインバータをOFFするまでのdq軸電流指令とdq軸電流の波形である。時刻t3から時刻t4の期間が2100min-1で駆動している期間である。正トルク時同様に,時刻t1からt6の間にてθ≠0となってお

り,変調率が最大(t2)となったところでd軸電流が指令に追従しなくなっているが,q軸電流は動作中すべて指令に追従していることが分かる。

■ 図9 加減速動作(-100 %トルク指令)Fig.9 Waveform of acceleration and deceleration

(-100 % torque directive)

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実験結果の図8~11において,各色線の内容は表3に

示されている。d 軸および q 軸電流は時定数 3 ms のフィル

タ出力である。また水色のパルスモードの値の意味は表4

に示されている。

■表3 実験結果波形の対応表

Table 3 Correspondence table of waveform of experiment result

指標 図中の色 縦軸

軸電流 緑

軸電流指令 茶色

軸電流 青

軸電流指令 ピンク

変調率 赤

モータ回転数 薄紫

積分回転角 黒 °

パルスモード 水色

■表4 パルスモードの対応表

Table 4 Correspondence table of pulse mode

パルスモード 値

非同期

パルス

4.1 正トルク負荷時の動作

図8 は正トルク100 %負荷時指令で,時刻 t0 直前でイン

バータの駆動を開始し,2100 min-1 まで加速し,その後減速

し t7 でインバータを OFF するまでの dq 軸電流指令と dq 軸

電流の波形である。時刻 t3 から時刻 t4 の期間が 2100 min-1

で駆動している期間である。

時刻 t1 から t6 の間が θ ≠0 の区間であり,変調率が最大

( t2 ) となったところで d 軸電流が指令に追従しなくなって

いる。しかし,q 軸電流は動作中すべて指令に追従している

ことが分かる。なお q 軸電流指令が t2 ~ t5 において下がっ

ているのは,d 軸電流が負に増加することによるリラクタン

ストルクが増加しても出力トルクを一定にするためである。

なお d 軸電流指令は,正方向の偏差が所定値を超えない

ように d 軸電流に応じて修正するようにしている。

■図8 加減速動作の波形( %トルク指令)

Fig.8 Waveform of acceleration and deceleration ( 100 % torque directive)

4.2 回生トルク負荷時の動作

図9は回生トルク100 %負荷時指令で,時刻 t0 直前でイン

バータの駆動を開始し,2100 min-1 まで加速した後に減速し

t7でインバータを OFF するまでの dq 軸電流指令と dq 軸電流

の波形である。時刻 t3 から時刻 t4 の期間が2100 min-1 で駆

動している期間である。

正トルク時同様に,時刻 t1 から t6 の間にて θ ≠0となっ

ており,変調率が最大 ( t2 ) となったところで d 軸電流が指

令に追従しなくなっているが,q 軸電流は動作中すべて指令

に追従していることが分かる。

■図9 加減速動作( トルク指令)

Fig.9 Waveform of acceleration and deceleration ( -100 % torque directive)

1818 東洋電機技報 第139号 2019年

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開発レポート� 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御 開発レポート� 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御

4.3 ステップ応答時の動作

図10は1900min-1一定状態において,トルク指令100%へのステップ応答時のdq軸電流指令とdq軸電流値の波形である。図中のt0にてトルク指令を0%から100%に切り替えを行っている。同様に図11は,1900min-1一定状態において,トルク指令-100%へのステップ応答時のdq軸電流指令とdq軸電流値の波形である。図中のt0にてトルク指令を0%から-100%に切り替えを行っている。どちらもq軸電流は,時定数約10ms応答している。また,d軸は電圧飽和状態なので,定常状態でも一致することはない。このように,電圧飽和状態でも安定で高速な電流応答つまりトルク応答が得られている。

■ 図10 電圧飽和領域でのステップ応答(100%トルク指令)Fig.10 Step response in voltage saturation region (100%

torque directive)

開発レポート 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御

- 東洋電機技報 第139号 2019年

大森 洋一

年入社。現在,研究所に所属。

主に電力変換器の研究開発に従事。

電気学会会員。

4.3 ステップ応答時の動作

図10は1900 min-1 一定状態において,トルク指令100 %

へのステップ応答時の dq 軸電流指令と dq 軸電流値の波形で

ある。図中の t0 にてトルク指令を0 %から100 %に切り替え

を行っている。同様に図11は,1900 min-1 一定状態におい

て,トルク指令 -100 % へのステップ応答時の dq 軸電流指

令と dq 軸電流値の波形である。図中の t0 にてトルク指令を

0 % から -100 % に切り替えを行っている。どちらも q 軸電

流は,時定数約10 ms 応答している。また,d 軸は電圧飽和

状態なので,定常状態でも一致することはない。

このように,電圧飽和状態でも安定で高速な電流応答つ

まりトルク応答が得られている。

■図10 電圧飽和領域でのステップ応答

( トルク指令)Fig.10 Step response in voltage saturation region

( 100 % torque directive)

■図11 電圧飽和領域でのステップ応答

( トルク指令)

Fig.11 Step response in voltage saturation region ( -100 % torque directive)

5.むすび

高調波電流低減を目的としたパルスパターンを導入するこ

とにより,過変調領域での高調波電流を低減することができ

た。

また,積分回転制御を提案し,7.5 kW の PM モータの駆

動実験を行った。その結果,加減速動作では q 軸電流は動作

中一様に q 軸指令に追従し,q 軸優先制御が実現されたこと

を確認した。また,ステップ応答に関しても時定数 10 ms

で q 軸電流は指令に追従することが確認できた。

参考文献

[1]水谷 良治:「新型プリウスのモータシステム」モー

タ技術シンポジウム セッション C-5,2004年,pp.1-

9

[2]牧島 信吾,上園 恵一,永井 正夫:「電圧飽和状

態における電動機制御応答性の検証および考察」電学

論 D,130巻5号(2010年),pp663-670

執筆者略歴

中島 悠貴

年入社。現在,交通事業部開発部

に所属。主に鉄道用電力変換器の開発

設計に従事。

電気学会会員。

■ 図11 電圧飽和領域でのステップ応答(-100 %トルク指令)Fig.11 Step response in voltage saturation region

(-100% torque directive)

開発レポート 高調波電流低減のパルスパターンによる交流モータ制御

- 東洋電機技報 第139号 2019年

大森 洋一

年入社。現在,研究所に所属。

主に電力変換器の研究開発に従事。

電気学会会員。

4.3 ステップ応答時の動作

図10は1900 min-1 一定状態において,トルク指令100 %

へのステップ応答時の dq 軸電流指令と dq 軸電流値の波形で

ある。図中の t0 にてトルク指令を0 %から100 %に切り替え

を行っている。同様に図11は,1900 min-1 一定状態におい

て,トルク指令 -100 % へのステップ応答時の dq 軸電流指

令と dq 軸電流値の波形である。図中の t0 にてトルク指令を

0 % から -100 % に切り替えを行っている。どちらも q 軸電

流は,時定数約10 ms 応答している。また,d 軸は電圧飽和

状態なので,定常状態でも一致することはない。

このように,電圧飽和状態でも安定で高速な電流応答つ

まりトルク応答が得られている。

■図10 電圧飽和領域でのステップ応答

( トルク指令)Fig.10 Step response in voltage saturation region

( 100 % torque directive)

■図11 電圧飽和領域でのステップ応答

( トルク指令)

Fig.11 Step response in voltage saturation region ( -100 % torque directive)

5.むすび

高調波電流低減を目的としたパルスパターンを導入するこ

とにより,過変調領域での高調波電流を低減することができ

た。

また,積分回転制御を提案し,7.5 kW の PM モータの駆

動実験を行った。その結果,加減速動作では q 軸電流は動作

中一様に q 軸指令に追従し,q 軸優先制御が実現されたこと

を確認した。また,ステップ応答に関しても時定数 10 ms

で q 軸電流は指令に追従することが確認できた。

参考文献

[1]水谷 良治:「新型プリウスのモータシステム」モー

タ技術シンポジウム セッション C-5,2004年,pp.1-

9

[2]牧島 信吾,上園 恵一,永井 正夫:「電圧飽和状

態における電動機制御応答性の検証および考察」電学

論 D,130巻5号(2010年),pp663-670

執筆者略歴

中島 悠貴

年入社。現在,交通事業部開発部

に所属。主に鉄道用電力変換器の開発

設計に従事。

電気学会会員。

5.むすび

高調波電流低減を目的としたパルスパターンを導入することにより,過変調領域での高調波電流を低減することができた。また,積分回転制御を提案し,7.5kWのPMモータの駆動

実験を行った。その結果,加減速動作ではq軸電流は動作中一様にq軸指令に追従し,q軸優先制御が実現されたことを確認した。また,ステップ応答に関しても時定数10msでq軸電流は指令に追従することが確認できた。

参考文献

[1]水谷良治:「新型プリウスのモータシステム」モータ技術シンポジウム セッションC-5,2004年,pp.1-9

[2]牧島信吾,上園恵一,永井正夫:「電圧飽和状態における電動機制御応答性の検証および考察」電学論D,130巻5号(2010年),pp663-670

執筆者略歴

中島 悠貴 大森 洋一

2016年入社。現在,交通事業部開発部に所属。主に鉄道用電力変換器の開発設計に従事。電気学会会員。

1987年入社。現在,研究所に所属。主に電力変換器の研究開発に従事。電気学会会員。

19東洋電機技報 第139号 2019年