027-046 01 大賞論文 - nikkan30 大賞論文 入れ30...

6
大賞論文

Upload: others

Post on 06-Nov-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 027-046 01 大賞論文 - Nikkan30 大賞論文 入れ30 で丸1日培養させた後、花粉管の長さを光学顕微鏡で観察した (図2)。なお、寒天培地は寒天1%、CaC12・H3BO3・K3PO4それぞれ0.02

大賞論文

Page 2: 027-046 01 大賞論文 - Nikkan30 大賞論文 入れ30 で丸1日培養させた後、花粉管の長さを光学顕微鏡で観察した (図2)。なお、寒天培地は寒天1%、CaC12・H3BO3・K3PO4それぞれ0.02

●大賞論文

28 大賞論文

テッポウユリの雌しべ内部の驚くべき変化(原題:テッポウユリの雌しべにおける糖の役割)

名古屋市立向陽高等学校 SSクラス309テッポウユリ研究グループ岡部 桃子 正岡 春乃 森 ことの

先輩の研究成果を礎に

 植物にとって、糖はエネルギー源として、また細胞の浸透圧の調整をするための物質として大変重要である。 私たちの先輩は、2008 年度向陽高校課題研究「花粉管伸長のしくみ」1)

において、ツバキの花粉管が寒天培地上で、糖(スクロース)を分解・吸収してエネルギー源や花粉管の材料として利用しているという研究結果を報告している。 この研究をもとに、私たちは雌しべ自体に花粉管の伸長に必要な糖が蓄えられているのではないかと考えた。そこで、雌しべにおける糖の分布・働きをテッポウユリ(学名=Lilium longiflorum)を用いて明らかにすることを目的とし、研究を行った。

なぜテッポウユリなのか

 テッポウユリは、図 1のように雌しべが長く、つぼみの成長が進むにつれ著しく伸長する2)。さらに内部が中空となっており、花粉管はこの中空

Page 3: 027-046 01 大賞論文 - Nikkan30 大賞論文 入れ30 で丸1日培養させた後、花粉管の長さを光学顕微鏡で観察した (図2)。なお、寒天培地は寒天1%、CaC12・H3BO3・K3PO4それぞれ0.02

テッポウユリの雌しべ内部の驚くべき変化 29

部の内表面に沿って胚珠に向かって伸びていく。 これらの特徴から雌しべの実験・観察に適していると考え、材料とした。

テッポウユリの花粉管と雌しべを探究する

 はじめに、先輩方が 2008 年の論文で明らかにした寒天培地上でのツバキの花粉管伸長に伴うスクロースの分解が、テッポウユリの花粉管においても起こるのかという確認実験【実験 1、2】を行った。

【実験 1:寒天培地上での花粉管伸長】方 法 0、5、10、15、20、25%とスクロース濃度を変えた寒天培地をスライドガラス上につくり、テッポウユリの花粉を散布し、湿室とした密閉容器に

図 1 テッポウユリ(学名= Lilium longifl orum)左上:花 右上:著しく伸長する花柱左下:花柱横断面 右下:花柱縦断面と花粉管

Page 4: 027-046 01 大賞論文 - Nikkan30 大賞論文 入れ30 で丸1日培養させた後、花粉管の長さを光学顕微鏡で観察した (図2)。なお、寒天培地は寒天1%、CaC12・H3BO3・K3PO4それぞれ0.02

30 大賞論文

入れ 30℃で丸 1日培養させた後、花粉管の長さを光学顕微鏡で観察した(図 2)。なお、寒天培地は寒天 1%、CaC12・H3BO3・K3PO4 それぞれ 0.02%を含むように作成した。 この結果、図 3に示したように、スクロース濃度 0~ 20%の寒天培地ではすべて花粉管伸長が見られたが、特にスクロース濃度 10%の寒天培地で花粉管が最も伸長した。考 察 花粉管は、外液の浸透圧が低く花粉管内との浸透圧の差が大きいほど、水を取り込み伸長するはずだが、スクロース濃度 0%より 10%の方が倍近く伸長した。このことから、テッポウユリでもツバキ同様、花粉管伸長にはスクロースが必要であると考えられる。そして、10%より濃度が高くなると徐々に伸長が抑えられるのは、花粉管外の浸透圧が大きくなり、吸水しにくくなるためだと考えられる。

【実験 2:寒天培地の糖を調べる】① ベネジクト反応 スクロース(二糖類)は還元性をもたないが、分解されるとグルコース(単糖類)とフルクトース(単糖類)になり、これらは還元性を示す。ベネジクト試薬は還元糖と反応して褐色の沈殿物を生じるのだが、このことを利用し、寒天培地のベネジクト反応を調べることで、花粉管伸長によってスクロースが分解されていることを確認できる(図 4)。

図 2 寒天培地上で伸長する花粉管

00 5 10 15 20 25

2.5

2

1.5

1

0.5

mm

スクロース濃度 %

スクロース濃度と花粉管伸長

図 3 【実験 1】の結果

Page 5: 027-046 01 大賞論文 - Nikkan30 大賞論文 入れ30 で丸1日培養させた後、花粉管の長さを光学顕微鏡で観察した (図2)。なお、寒天培地は寒天1%、CaC12・H3BO3・K3PO4それぞれ0.02

テッポウユリの雌しべ内部の驚くべき変化 31

方 法 【実験 1】の寒天培地を 5mm角に切ったものと水 1mLを試験管に入れ、ベネジクト液 0.3mL を加えて湯煎で加熱し、ベネジクト反応による色の変化を見た。結 果 スクロース 0%寒天培地では、花粉管が伸びたにもかかわらず、ベネジクト反応は見られなかったが、花粉管が 2mm前後にまで伸びたスクロース 5~ 15%の寒天培地においてはベネジクト反応が顕著に見られ、還元糖が多く生じていた。② 薄層クロマトグラフィ方 法 ①のベネジクト反応では還元糖の有無しか確認できなかったが、薄層クロマトグラフィ法ではスポットした試料から、スクロース(S)・グルコース(G)・フルクトース(F)・マルトース(M)という糖それぞれを分離して特定できる。さらに薄層クロマトグラフィ法はベネジクト反応より感度が高いという利点があるので、花粉管伸長後のスクロース寒天培地と花粉を撒かないスクロース寒天培地を用いて薄層クロマトグラフィを行った。 試料は a:花粉を撒いていないスクロース 10%寒天培地

図 4 【実験 2】①の結果右からスクロース 0、5、10、15、20%

うすいオレンジ色 濃いオレンジ色 無色

Page 6: 027-046 01 大賞論文 - Nikkan30 大賞論文 入れ30 で丸1日培養させた後、花粉管の長さを光学顕微鏡で観察した (図2)。なお、寒天培地は寒天1%、CaC12・H3BO3・K3PO4それぞれ0.02

32 大賞論文

 b:花粉を撒き、花粉管伸長させた後の 10%培地 c:花粉を撒いていないスクロース 0%寒天培地 d:花粉を撒き、花粉管伸長させた後の 0%培地とした。 これらをそれぞれ加熱して溶かし、水で 10 倍に薄めたものをガラスTLCシートにスポットし、展開を行った。また、展開は文献 3)の方法に従い、酢酸エチル:イソプロパノール=7:3 の展開液で 1時間展開した後、酢酸エチル:イソプロパノール:水=13:9:3 の展開液で 40 分間行った。そして、エタノール:硫酸:アニスアルデヒド=18:1:1 の混合液を用いて加熱・乾燥後、呈色させた。 なお、事前に糖の同定のために 4種類の糖を 1%ずつ混合したものと、4種類の糖 1%溶液それぞれを薄層クロマトグラフィで展開する確認実験(図5)を行い、それぞれの糖の移動度を明らかにした後、寒天培地試料の結果と比較した。結 果 スクロース 0%寒天培地では、花粉の有無にかかわらず、スクロースも還元糖であるグルコースとフルクトースのいずれも検出されなかった。 花粉を伸長させた後のスクロース濃度 10%寒天培地では、培地に含まれるスクロース以外に還元糖であるグルコース、フルクトースが生じていた(図 6)。

図 5 【実験 2】② 確認実験の結果左から混合・S・M・F・G。移動度はマルトース、スクロース、グルコース、フルクトースの順に大きいことがわかる。

F

G

SM

S:スクロースM:マルトースF:フルクトースG:グルコース