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NTT技術ジャーナル 2015.544
背 景
東日本大震災以降で見直された新しいエネルギー基本計画では,業務 ・ 家庭部門において高い省エネルギー効果が期待されるのは,建築物 ・ 住宅の省エネルギー化であるとし,エネルギーを消費する機器についても高効率化が望まれています.一般財団法人省エネルギーセンターによる業務用ビルにおける用途別消費エネルギー割合を見てみると照明設備は全体の約20%を占めており,スマート社会を実現するためには照明設備の省エネルギー化は必須事項といえます.
中でもLED照明はトップランナー制度の対象機器として 追 加 さ れ2020年 ま で に 新 築 ・ 既 設 の 置 き 換 え で100%,2030年までに建物全体で100%の普及という目標を掲げています.近年LED照明は高効率化により省エネルギー性能が上がるとともに,価格は低減傾向であり,黎明期から普及期へと移ってきています.さらにLED照明は光出力の制御性,応答性が良いことから制御による
省エネルギー効果向上に加え,これまでは容易に実現できなかった調光 ・ 調色制御など性能面での高度化も加わり,より多彩な空間設計が可能になってきました.さまざまな企業が独自の技術により高度な照明制御システムを開発し,市場に導入していますが,その多くは照明器具と照明制御装置が同一メーカ製品であることが前提で,ユーザが安価な製品を選択することができません.
そこで,照明機器に対する期待にこたえるべく,NTTファシリティーズでは「安価」「全メーカ対応*1」「大幅な省エネ性能」を実現した無線個別調光照明制御システム
「FIT LC(フィットエルシー)」を開発し,2015年1月に提供を開始しました.
システム構成と特長
FIT LCのスタンダードなシステム構成を図 1,標準オ
*1 全メーカ対応:PWM制御対応調光機能付き照明器具に限ります.
ゲートウェイ
操作端末スマートフォン
操作端末スマートフォン
明るさ・人感センサDALI照明器具
DALI対応器具
設定用タブレット
操作端末PC
無線機能付LED照明器具
調光対応照明器具(LED/Hf)
照明器具はメーカーフリー
コントローラー子機
920 MHz帯コントローラ親機
図 1 システム構成(スタンダードタイプ)
from NTTファシリティーズ
オフィスにおける照明ソリューション—無線個別調光照明制御システム「FIT LC」と建物情報連携技術の開発ICTの革新はOA環境にとどまらず建物 ・設備へも影響を及ぼしています.利用者はPCやスマートフォンを使って自席から消費電力量を見ることができたり,照明や空調設備の操作ができるようになりました.このように建物 ・設備は基本性能の時代から付加価値の時代へ入ったということがうかがえます.ここでは,NTTファシリティーズが2015年1月に提供を開始した無線個別調光照明制御システム「FITLC」を紹介します.
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フィスへの導入イメージを図 ₂に示します.次に本システムの主な特長を紹介します.■1灯ごとの個別調光制御により省エネルギー性と快適性を両立多くの照明制御システムは1灯単位で照明器具を制御し
ようとすると構築コストが高くなるため,細かくても4灯単位で制御させるように構築することが一般的です.本システムでは構築コストが高くなることなく複数台のグループ単位から1灯単位まで,好みの照度に制御することができます.操作は壁スイッチからだけでなくタブレット,スマートフォンにも対応しているのでユーザは自席を離れることなく照明を操作することが可能です.さらに,手動による操作だけでなく,明るさセンサによる昼光利用制御や,人感センサによる在 ・ 不在検知制御など各種センサと連動する制御や時間帯スケジュールに応じて行う制御など,自動で省エネルギー効果を果たせる機能を持っています(図 ₃, ₄).
また,運用改善によって省エネルギー対策を施す取り組みも推進されています.照度を適正に保つように制御できれば大幅なエネルギーの削減が期待できます.潜在的な照明制御による省エネルギー効果は照明設備のLED化と合わせると消費エネルギー量を約80%削減できることが見込めます.本システム導入による制御だけでも最大70%*2,ビル全体でみれば約10%の削減を見込むことが可能です.
必要な場所に最適な照度できめ細やかに制御することにより省エネルギーと快適性の両立とともに,建物のライフサイクルコストを大幅に低減することができます.■オープンな制御技術の採用によるメーカフリーの実現
照明制御に用いている通信プロトコルは国際標準規格(IEC62386)であるDALI(Digital Addressable Lighting Interface)*3に対応しています.さらに,国内メーカで多くの照明器具に調光制御方式として採用されているPWM(Pulse Width Modulation)*4制御にも対応しています.DALIまたはPWM制御による調光対応照明器具であれば,どのメーカの照明器具でも制御可能なのでメーカ選択の幅が広がります.■制御配線の無線化による工事費の抑制
LED照明の寿命は約4万時間といわれ,器具交換の目安は8~10年といわれています.その間,オフィスビルであれば,レイアウトや明るさの基準など,運用後の環境変更が想定されます.照明制御線が配線されている建物では,環境変更の都度,照明器具の制御配線を改修する必要があるので,その分の工事費用が発生します.そのため,運用
*2 当社調べによる従来の制御をしない場合との比較です.LED照明を利用した場合はさらに1₀%の削減が可能です.
*3 DALI:国際オープンの照明制御通信プロトコル規格.IEC₆₂3₈₆によりデジタル調光照明インタフェースとして規格化.
*4 PWM:変調方法の1つであり,パルス波のデューティ比を変化させて変調すること.PWM信号により照明器具の調光制御や空調の風量制御などが可能.
※事務室や会議室の入り口等に必要に応じて設ける
照明器具+無線機(96台)
14.4 m
21.6 m
設定用タブレット
操作設定機
※約100 mごとに 1台
事務室(311 ㎡)
既存壁スイッチ(元電源ON/OFF)
リフレッシュコーナ
会議室
会議室
集中ブース
EPS
※照明器具50基ごとに 1台
コントローラ( 2台)
共用部
ゲートウェイ( 1台)
明るさセンサ( 3台)
※柱 1スパンに 1台程度
壁スイッチ( 3台)無線型 有線型
図 ₂ 標準オフィスへの導入イメージ
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後の変更は容易に行えるものではありません.本システムは制御配線を無線化しているので,制御配線改修工事が不要です.利用方法の変更やリニューアル時には改修工事が発生することがなく,ソフトウェアの設定変更のみで対応が可能になります.無線通信の帯域には到達距離や回り込み特性に優れ,干渉が少なく,消費電力が少ない920 MHz帯を採用しており,電波干渉を受けにくくなっています.すでにWi-Fiでの無線LAN環境を構築されている建物でも干渉の心配なくご利用いただけます.■無線機能付LED照明器具で安価なシステムの構成が可能本システムは照明器具に無線を受信するモジュールを接
続することでさまざまなメーカの照明器具に対応することができますが,無線受信機能をあらかじめ搭載した無線機能付LED照明器具(アイリスオーヤマ株式会社製品)を
開発しラインアップしています.ニーズに応じてシステム構成を選択でき,各種センサに対応した自動制御機能を省き,スマートフォンなどによる無線制御に特化すれば,ゲートウェイなどを用いない安価なシステムを構築することもできます.■情報連携技術による拡張性の高さ
照明の制御だけでなく,ビルエネルギー管理システム(BEMS: Building and Energy Management System)*5
と連携することにより空調設備の制御や消費電力量の見える化などの機能拡張が可能です.本システムはゲートウェイ部分に,標準でBEMSに接続できる機能(BACnet/IP ・ Modbus他通信機能)を有しており,BEMSに接続するために専用のインタフェース装置が不要です.また,後
*5 BEMS:ビルの空調設備 ・ 電気設備などを監視 ・ 制御する装置.
20100 6535%減
約70%減80%削減!
約70%削減!
●昼光利用制御 ●適正照度制御 ●スケジュール制御 ●個別調光制御
Hf(調光機能なし)
LED化(調光機能付き)
制御
LED化 制御約2065 52 29.6 26.7 20.3
20%減 43%減 10%減 24%減 ≒
図 3 制御による省エネルギー効果例
消灯
昼光を利用して明るさを自動制御
個別にきめ細かく照明を調光
消灯 消灯
明るさセンサ
小 小 中 中 大 大
大 消灯 消灯 消灯 中 中 消灯
図 4 制御イメージ
NTTファシリティーズfrom
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述するビル内における情報連携技術を用いることによってより高い拡張性を有しています.
ビル内における情報連携
基本性能である明かりの提供だけにとどまらず,照明のソリューションとしてストレスフリーな付加価値を提供するために,実証実験型オフィスNTTファシリティーズ新大橋ビルにおいてシステムの実証を行っています.ビル内における情報連携とはビル内のさまざまなシステムを連携させることにより,高度でストレスフリーなビルセキュリティ,効率的なエネルギー運用などのビルサービスを実現するシステムのことです.
入退出を管理するセキュリティシステム,照明や空調など設備機器を管理するBEMS,内線 ・ 外線電話などの情報システムのほか,最近では無線LANやシンクライアントなど,ビル内には“安全”で“快適”な生活を実現するためのさまざまなシステムやアプリケーションが存在しています.
通常これらのシステムは個別に存在しているため,操作がそれぞれ異なり,同じ情報を複数回入力したり,違う形式で再入力したりする必要があります.また,認証(ユーザ名,パスワードなど)がバラバラで,セキュリティレベルも異なっています.
ビル内における情報連携技術を用いればセキュリティシステム,BEMS,FM(Facility Management)システムなど個々のシステムどうしを連携させることができます.例えば,ビル内に設置された各種センサからの情報を基にした行動予測,エネルギー負荷予測などを行い,ユーザのワークスタイルや利用状況にダイナミックに対応しながら,エネルギー消費量の削減やセキュリティの向上,ワー
クスタイルの改善や生産性の向上などビル全体のポテンシャルを最大限活用できる先進的な取り組みを行っています.中でもFIT LCとの連携では位置検知システムとの連動制御技術を開発しています.
ビル内に複数個設置したBluetooth Low Energyに対応したビーコンからの電波,入退室用カードリーダの認証情報,およびスマートフォンのセンサ情報から,在館者の位置検知が行えます.約3.6 m×3.6 mグリッドのエリアごとに,約80%の精度で数秒ごとの位置を推定することができ,位置情報と連動した照明制御やスマートフォン操作画面連動などが可能です.人感センサの代替え技術として従来よりも低コストで設備システムが構築可能なほか,特定の人を対象にした設備制御も可能になります(図 ₅).
今後の展開
冒頭に建物 ・ 設備は基本性能の時代から付加価値の時代へ入ったとお伝えしました.しかし,システムの高度化に伴ってシステム自体が複雑になり継続的に利用し難いものとなってしまっては効果を発揮させることはできません.NTTファシリティーズでは,省エネルギーでストレスフリーなシステムの実現に向けて開発を進めていきます.
◆問い合わせ先NTTファシリティーズ 研究開発本部
TEL ₀3-₅₆₆₉-₀₈₉4FAX ₀3-₅₆₆₉-1₆₅₂E-mail kawano3₅ ntt-f.co.jp
スマートフォン表示画面例
スマートフォンなどからも操作可能DALIまたはPWM制御に対応920 MHz,IEEE802.15.4規格対応⇒低消費電力で到達距離が長く干渉が少ない
Bluetoothビーコンによる位置検知※オプション
on/off調光制御
フロアマップでの照明選択
図 ₅ NTTファシリティーズ新大橋ビルにおけるシステムイメージ