06 進出に向けて advance ·...

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Copyright © 2018 JETRO All rights reserved 072 INDIA STYLE 日本に対するイメージ インドにおける日本に対するイメージは、総じてとても良い。 日本はテクノロジーが発展しており、車や家電が高品質というイ メージがある。しかし、そうした国のイメージに比して、具体的 なブランドや製品レベルでの浸透度が弱いことが課題である。 1 .日本とブランド名の結びつきが弱い… パナソニックやソニーといった日本を代表するブランドでさ え、日本のブランドだと理解していない消費者が多い。逆にサ ムスンや LG を日本ブランドだと把握している消費者も少なく ない。この傾向は、高学歴・高所得者でも同じである。お宅訪 問をしたインド人の中には、アメリカへの留学経験があり、 IBM やアクセンチュアといった外資のグローバル企業に勤務 する人もいたが、ブランドとその国名の結びつきが弱い傾向は 同じであった。 2 .車や電化製品以外のイメージが弱い 日本の自動車や電化製品については、高品質なイメージがある ものの、食品や化粧品など日用品に対する認識は極めて弱い。 そもそも日本製品の流通量が少ないため、消費者の目に触れる ことがなく、使用経験が少ないことも一因であるが、東アジア や東南アジアで見られるような、日本製品=高品質というイ メージは、インドでは自動車と電化製品に限られているのが現 状である。インドの消費者に購入したいと思うブランドの国名 を回答してもらうと、自動車こそ各国の中で日本がトップであ るが、日本の加工食品や化粧品の購入意向は極めて低い。同様 の調査を東アジア・東南アジアで行った場合、製品カテゴリー を問わず日本製品の回答率が非常に高くなる傾向がある。 購入してみたい国のブランド 自動車 加工食品 化粧品 インド 96% 98% 98% 日本 36% 3% 6% 中国 5% 7% 12% 韓国 3% 1% 1% アメリカ 24% 3% 16% ドイツ 14% 0% 11% 出所:インテージ 「Asia Insight Research 2015(調査対象者:デリー居住の富裕層・中 間層300人)」 注:多くのインド人がブランドと国のつながりを知らないことから、「インド」の数字が高く なっていると推察される。 競合相手 ■韓国・中国企業の存在感 現在インドに進出する日系企業の大半 が、自動車および電気・電子製品をは じめとする製造業であるが、最終製品 では中国勢と韓国勢の存在感が増して いる。 自動車では、マルチスズキがインド国 内シェアの40-50%を占め最大のシェ アを誇っているが、テレビ、冷蔵庫、 洗濯機では、サムスン・LG の後塵を 拝している。また、近年これらの製品カテゴリーでは、中国ブラ ンドが存在感を増している。インドの主要都市以外では、日本 ではあまりなじみがないブランドを見かけることも多いが、そう したブランドについて調べると、中国企業であることが多い。 その最たるものがスマートフォンである。過去数年間にわたり サムスンがシェアトップの座をキープしてきたが、年々中国 ブランドとの差が縮まっている。直近のマーケットシェアで はシャオミが追いついたという調査結果もある。なお、農村 部では初めて耳にするようなブランドを数多く目にした。 コルカタのハイパーマーケッ トのテレビ売り場は、韓国・ 中国メーカーが席巻 49.6 12.3 7.5 5.9 5.5 4.3 3.5 11.3 マルチスズキ ヒュンダイ マヒンドラ& マヒンドラ タタ ホンダ 出所:TheFinancialExpress(2018年 1 月) 自動車マーケットシェア (2017年) 23.5 23.5 9.0 8.5 7.9 27.6 サムスン シャオミ レノボ VIVO OPPO その他 出所:IDC 調査データより作成 スマートフォンマーケット シェア(2017年第 3 四半期) IPL のスポンサー インドで大人気のクリケットは、テレビ中継で高い視聴率 を集めることで知られており、広告媒体として非常に魅力 的である。そのプロリーグである IPL(インディアン・プ レミア・リーグ)の、2018年から2022年までのメインスポ ンサーが中国のスマホブランド Vivo となることが決まっ た。その契約金額は、 5 年間で219億9,000万ルピーと桁外 れの金額になっており、中国ブランドの勢いとインド市場 への注目度の高さを端的に示す事例と言える。 進出に向けて ADVANCE 06

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Page 1: 06 進出に向けて ADVANCE · え、日本のブランドだと理解していない消費者が多い。逆にサ ムスンやlgを日本ブランドだと把握している消費者も少なく

Copyright © 2018 JETRO All rights reserved072 INDIA STYLE

日本に対するイメージ

インドにおける日本に対するイメージは、総じてとても良い。日本はテクノロジーが発展しており、車や家電が高品質というイメージがある。しかし、そうした国のイメージに比して、具体的なブランドや製品レベルでの浸透度が弱いことが課題である。

1 .日本とブランド名の結びつきが弱い…パナソニックやソニーといった日本を代表するブランドでさえ、日本のブランドだと理解していない消費者が多い。逆にサムスンや LG を日本ブランドだと把握している消費者も少なくない。この傾向は、高学歴・高所得者でも同じである。お宅訪問をしたインド人の中には、アメリカへの留学経験があり、IBM やアクセンチュアといった外資のグローバル企業に勤務する人もいたが、ブランドとその国名の結びつきが弱い傾向は同じであった。

2 .車や電化製品以外のイメージが弱い日本の自動車や電化製品については、高品質なイメージがあるものの、食品や化粧品など日用品に対する認識は極めて弱い。そもそも日本製品の流通量が少ないため、消費者の目に触れることがなく、使用経験が少ないことも一因であるが、東アジアや東南アジアで見られるような、日本製品=高品質というイメージは、インドでは自動車と電化製品に限られているのが現状である。インドの消費者に購入したいと思うブランドの国名を回答してもらうと、自動車こそ各国の中で日本がトップであるが、日本の加工食品や化粧品の購入意向は極めて低い。同様の調査を東アジア・東南アジアで行った場合、製品カテゴリーを問わず日本製品の回答率が非常に高くなる傾向がある。

購入してみたい国のブランド自動車 加工食品 化粧品

インド 96% 98% 98%日本 36% 3% 6%中国 5% 7% 12%韓国 3% 1% 1%

アメリカ 24% 3% 16%ドイツ 14% 0% 11%

出所:インテージ 「Asia Insight Research 2015(調査対象者:デリー居住の富裕層・中間層300人)」注: 多くのインド人がブランドと国のつながりを知らないことから、「インド」の数字が高く

なっていると推察される。

競合相手■韓国・中国企業の存在感現在インドに進出する日系企業の大半が、自動車および電気・電子製品をはじめとする製造業であるが、最終製品では中国勢と韓国勢の存在感が増している。自動車では、マルチスズキがインド国内シェアの40-50%を占め最大のシェアを誇っているが、テレビ、冷蔵庫、洗濯機では、サムスン・LG の後塵を拝している。また、近年これらの製品カテゴリーでは、中国ブランドが存在感を増している。インドの主要都市以外では、日本ではあまりなじみがないブランドを見かけることも多いが、そうしたブランドについて調べると、中国企業であることが多い。その最たるものがスマートフォンである。過去数年間にわたりサムスンがシェアトップの座をキープしてきたが、年々中国ブランドとの差が縮まっている。直近のマーケットシェアではシャオミが追いついたという調査結果もある。なお、農村部では初めて耳にするようなブランドを数多く目にした。

コルカタのハイパーマーケットのテレビ売り場は、韓国・中国メーカーが席巻

49.6

12.3 7.5

5.9 5.5 4.3

3.5 11.3

マルチスズキ

ヒュンダイ

マヒンドラ&マヒンドラタタホンダ

出所:TheFinancialExpress(2018年 1 月)

自動車マーケットシェア(2017年)

23.5

23.5 9.0 8.5

7.9

27.6

サムスンシャオミレノボVIVOOPPOその他

出所:IDC 調査データより作成

スマートフォンマーケットシェア(2017年第 3四半期)

IPL のスポンサーインドで大人気のクリケットは、テレビ中継で高い視聴率を集めることで知られており、広告媒体として非常に魅力的である。そのプロリーグである IPL(インディアン・プレミア・リーグ)の、2018年から2022年までのメインスポンサーが中国のスマホブランド Vivo となることが決まった。その契約金額は、 5 年間で219億9,000万ルピーと桁外れの金額になっており、中国ブランドの勢いとインド市場への注目度の高さを端的に示す事例と言える。

進出に向けて ADVANCE06

Page 2: 06 進出に向けて ADVANCE · え、日本のブランドだと理解していない消費者が多い。逆にサ ムスンやlgを日本ブランドだと把握している消費者も少なく

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日本人子女の教育環境現在インド国内で日本人学校があるのは、デリーとムンバイの2 都市である。ベンガルールには多くの日本人が滞在しているが、日本人学校がない。そのため、多くの日本人子女は現地のインターナショナル・スクールに通学しているが、現地校のみでは不足しがちな国語(日本語)その他の学習をするサタデー・スクールとして、日本人補習校が運営されている。コルカタには、日本人学校も補習校もない。

デリー日本人学校概要設立 1964年

所在地 Sector-A, Pocket B&C, Vasant Kunj, New Delhi生徒数 小学部:192名  中学部:55名  *2017年 4 月現在

ムンバイ日本人学校概要設立 1971年

所在地 Hiranandani Knowledge Park, Technology Street, Powai, Mumbai

生徒数 小学部:25名  中学部: 3 名  *2017年 4 月現在

ベンガルール日本人補習校設立 2005年(前身勉強会は2000年)

所在地 Inside Canadian International School Yelahanka, Bangalore, Karnataka

生徒数 小学生:76人  中学生:13人  *2017年 7 月現在

治安外務省海外安全ホームページでは、デリー、ベンガルール、コルカタを含むインドの広範囲に危険度レベル 1 (十分注意してください)が発令されているが、近年インドの社会情勢は全般的に安定している。日常生活において海外に居住しているという危機管理意識を持つことは重要であるが、日常的に治安の不安を感じることは多くはない。これは、国内では一般的に治安が悪いといわれるデリーを中心とした北部でも同様である。た

日本人の生活環境

■インドならではのブランドインドと言えばヨガを連想する人も少なくないが、ヨガの指導者として著名なババ・ラムデブ師が率いるパタンジャリ・アーユルベード(Patanjali Ayurved)が、近年消費財市場において存在感を増している。2012年度には45億ルピーにすぎなかった売上が、2017年度は20倍以上の約1,056億ルピーとなった。業界最王手で、インドで80年以上もビジネスを展開するヒンドゥスタン・ユニリーバの売上が約3,449億ルピーであることを考えると、驚異的ともいえる成長である。

同社は2006年に創業し、食品や美容・パーソナルケアなどの製品を中心に900種類の商品を取り扱っている。また、現在もビジネス領域を拡大し続けており、近い将来アパレル分野にも進出するといわれている。同社によると、パタンジャリの製品はすべてアーユルヴェーダの考え方に基づき、天然成分から製造されているとのことであるが、価格は低く抑えられている。そして同社がユニークなのは、利益をすべて慈善事業に寄付している点である。ブランドの成り立ち、マーケティング活動が日本のそれとは大きく異なり、極めてインド的なブランドといえる。

街のいたるところで、ババ・ラムデブ師の写真が目印の取扱い店を見つけることができる。

独自のEコマースサイトも立ち上げている

だし、危険度レベル 2 以上の場所に渡航する場合は十分な情報収集と事前準備が必要である。

大気汚染近年インドに居住する外国人にとって大きな心配事の一つが大気汚染である。特にデリーでは、状況は年々悪化している。数年前までは一般のインド人はあまり関心が高くない印象を受けたが、この 2 ~ 3 年で変化が見られる。2016年には車のナンバープレートを奇数と偶数のグループに分け、日によって片方の走行を禁止する車両の通行規制が実施されたり、2017年には公立の学校が数日間閉鎖されるなど、生活に支障をきたすような状況が発生するようになってきており、一般的にも関心が高まりつつある。。政府はさまざまな対策を実施しているが、今のところ大きな効果を上げているとはいえない。

新聞で AQI(Air Quality Index)の予想が掲載され始めている。

冬場のデリーは特に空気が悪い

05 暮らし LIVING

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10年前のインドでは、日系のレストランは数える程しかなかったと聞くが、ここ数年で北部ハリヤナ州グルガオンを中心に進出が進み、またその他の日本人による食ビジネスも出現してきている。以下、最近の動きを紹介する。

デリーに隣接する町、グルガオンには、日本人が3,000人以上は居住していると言われるが、その居住先として最も有名なのは高級マンション「パークプレイス」だろう。日本人が200世帯はここに居住していると言われる。その近隣を中心に、ここ数年だけでも数軒の日本食レストランがオープンし、現在では数多くの日本食レストランがしのぎを削る地域となっている。このエリアをはじめとし、デリー、グルガオン地域には既に数多くの日本食レストランが存在する(表1 )。

表 1)デリー、グルガオン地域の日本食レストラン屋号名 ジャンル 展開地域

いち膳 総合日本食 グルガオン

伊豆 総合日本食 グルガオン

恵比寿 総合日本食 グルガオン

En 総合日本食 デリー

くふ楽 焼き鳥・居酒屋 グルガオン、ニムラナ、デリー

Guppy フュージョン日本食 デリー、ムンバイ

Kofuku 総合日本食 デリー、ムンバイ

小町 総合日本食 グルガオン

Sakura 総合日本食 デリー

大吉 総合日本食 グルガオン

Tokyo Table ラーメン、カレー デリー

Nagai 総合日本食 グルガオン

富士 総合日本食 デリー、チェンナイ

祭 総合日本食 デリー

愛美 総合日本食 デリー、グルガオン

Megu 総合日本食 デリー

麺屋くふ楽 ラーメン グルガオン

来富 総合日本食 グルガオン

Wasabi byMorimoto 総合日本食 デリー

注 1 ) 日本食メインのレストランのみ記載。総合アジア料理レストランで一部日本食メニューがあるレストランなどは、屋号が日本語であっても除外。

その他、レストランに加えて、グルガオン地域では主に日本人を対象とした新しい食ビジネスが生まれてきている。

「いろは」は、もともとグルガオン、デリーを中心に日本式パンの製造、販売を行っていたが、最近ではグルガオンの店舗を拡張し、そこに他の企業が数社入居する形態で惣菜、オーガニック野菜の販売、刺身および水産加工品の販売なども行っている。いわゆる「道の駅」的な場所となることで日

本人に対する集客力を高めようという戦略だ。「ヒロハマ・インディア」は、表 1 の「くふ楽」、「麺屋くふ楽」、「TokyoTable」をインドで運営しているが、これらはいずれも、焼き鳥、ラーメン、カレーをメインのメニューに据えた専門食レストランである。総合日本料理レストランがまだまだ多いインドにおいて、専門食レストランを展開することで、差別化を図ろうとしているように見える。その他、刺身を食べる文化が無いインドでは、魚を良い状態で保存する技術はこれまであまり普及していなかったが、南インドで獲った魚を鮮度の良い状態で保存、輸送し、グルガオンおよび近隣で日本人在住者に販売したり、日本食レストランに卸したりするビジネスも出現している。現在、数社が参入しており、最近では、デリー、グルガオンの日本食レストランにおいて、マグロの解体ショーなども行われるようになってきている。また、ウッタラカンド州などインド北部で生産された有機野菜をデリー、グルガオンまで輸送し、主に日本人向けに販売するビジネスも増えてきている。 5 年前は 1 社だったが、ここ数年で複数社が参入した。インドで生産されていない野菜をネパールなどで生産し、デリー、グルガオンで販売しようという動きも見られる。

一方、上記の客や販売対象を見ると、日本人および北東アジアの人たちがほとんどであるように見える。日本にゆかりの無いインド人はと言うと、日本食と言えば、インド人等経営の日本食フュージョンレストランで食べるのが一般的なようだ。こういう店では、日本食だけでなく中国料理をはじめとした他のアジア料理もメニューに並んでいることが多く、インド人客に聞いても、どれが日本料理でどれが中国料理か区別できていなかったりする。また、こういう店の客層を見ると、日本人はあまり見かけない。

インド人の味覚や好みを見ると、一般的な日本人のそれと大きく異なることが多い。今後、グルガオンの上記日本食レストラン、食ビジネスが、日本人だけでなくインド人客も大きく取り込めるかを考えた時、インド人の味覚や好みを踏まえ、メニューや味、盛り付け等の変更も検討対象となる可能性があるだろう。実際、グルガオンの日系のレストランで既存店舗の客の多くが日本人であるところでも、新たにフードコートなどに新ブランドのレストランを出店し、メニューや盛り付け、価格等を変え、主にインド人をメインターゲットとしているところもある。日本人客とインド人客別に対応することで、新たにインド人マーケットの開拓にも取り組んでいる例である。 (中山幸英)

グルガオンを中心に展開が進む日系のレストラン、食ビジネス

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Bengaluru

Delhi

Kolkata

発行日:2018 年 3月発行者:日本貿易振興機構(ジェトロ) 〒107-6006東京都港区赤坂1丁目12-32 アーク森ビル(総合案内 6階) TEL.03-3582-5511 https://www.jetro.go.jp/indexj.html制 作:ジェトロ・ニューデリー事務所協 力:インド政府商工省JapanPlus    中山幸英編集・撮影:INTAGEINDIAPvt.Ltd.デザイン:電算印刷株式会社

インドスタイル2018 年 3月発行

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