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その他の確率過程
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http://www.slideshare.net/ShinjiNakaoka
授業レクチャーノート
授業1つ前に事前公開予定、授業後、追加スライド挿⼊、誤植など訂正分を再アップロード
(Moran, Yule, Dirichlet 過程,セルオートマトン、エージェントシミュレーション)
Moran過程
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有限集団における淘汰を調べるための最も単純な確率モデル
個体の種類は A と B の2種類で、個体は同じ速度で繁殖 (選択に関して中⽴な変異体) 全ての単位時間ステップにおいて、1 個体がランダムに選択されて繁殖し、かつ 1 個体がランダムに選択されて除去されるとする。ここでは復元抽出 (同⼀個体が繁殖と死亡に選ばれることも起こり得る) 、かつ繁殖は突然変異することなく起こると仮定する (A は A、B は B を⽣産する)。
この確率過程は、オーストラリアの集団遺伝学者 P.A.P. Moran に 1958 年に考案された。Moran 過程と呼ばれている。
各時間ステップで常に 1 個体の出⽣と1個体の死亡が起こるため、集団サイズは必ず⼀定にあることが保証されている。確率変数は個体 A の個体数のみであり,ここでは i と表そう。なお、個体 B の個体数は N-i である。
進化のダイナミクス M.A. Nowak 著 共⽴出版 6 章
Moran過程
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定義状態空間 i=0,1,…,N で定義される。個体 A を (出⽣または死亡で) 選択する確率は i/N。⼀⽅、個体 B を選択する確率は (N-i)/N。各ステップでは、次の4つの事象が起こる可能性がある。
(i) A の1個体が繁殖と死亡の両⽅に選択される。この事象の確率は(i/N)2 であるが、この事象が起こった後の A の個体数は変化しない。
(ii) B の1個体が繁殖と死亡の両⽅に選択される。この事象の確率は(N-i/N)2 であるが、この事象が起こった後の B の個体数は変化しない。
(iii) A の1個体が繁殖に、B の 1 個体が死亡に選択される。この事象の確率は (i(N-i)/N)2 であり、この事象が起こった後の A の個体は i からi+1 へと変化する。(iv) B の1個体が繁殖に、A の 1 個体が死亡に選択される。この事象の確率は (i(N-i)/N)2 であり、この事象が起こった後の A の個体は i からi-1 へと変化する。
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Moran過程
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任意のある状態 i から別の状態 j へと移る確率 (遷移⾏列): P={pij}遷移確率⾏列の具体型は
他のすべての成分は 0 (三重対⾓⾏列)。
Moran 過程のような出⽣死亡過程の場合
状態 i=0 と i=N は吸収状態 (⼀度この状態になればとどまり続ける)、⼀⽅、i=1,…,N-1 は⼀時的とよばれる。最終的に1種のみとなり、2種の共存はない
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特殊な場合の解析
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問. A が i 個体与えられたとき,最終的に集団全体が個体 A で構成される確率はどうなるのか?
状態 i から始まったとき,最終的に状態 N となる確率を xi
このとき
確率 xi は、(i) 状態 i から状態 i-1 へ遷移する確率と状態 i-1 に吸収される確率との積、(ii) 状態 i にとどまっている確率と i に吸収される確率との積、および (iii) 状態 i から 状態 i+1 へ遷移する確率と i+1 に吸収される確率との積の和で表される漸化式の解として求まる。
なので、解は
全て個体は均⼀なので、集団を専有する確率は等しく 1/N であり、初期状態で A が i 個体存在するため、i/N となる。
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⼀般の場合の解析
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状態 i から状態 i+1 へ遷移する確率を 𝛼i 状態 i から状態 i-1 へ遷移する確率を 𝛽i とする。ここで 𝛼i+𝛽i ≤1。
遷移⾏列は
状態 i から始まったとき,最終的に状態 N となる確率 xi は
⾏列・ベクトル表記するとP は確率⾏列なので、最⼤固有値 1 をもち、吸収確率は最⼤固有値に属する右固有ベクトルによって与えられる(Perron-Frobenius の定理)
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固定確率
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(続き) したがって
を得る。
A が 1 個体と B が N-1 個体からなる集団で、A が集団全体を占める確率はA の固定確率と呼ばれる。全て B の集団から、突然変異によって A が 1個体⽣まれてた後、突然変異の⼦孫が集団全体を占めることを意味している。A, B の固定確率はそれぞれ右で与えられる
固定確率の⽐は
固定確率の⽐は 𝛾i の⽐の積で与えられることがわかる。
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淘汰圧を考慮
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B の適応度 1 に対して A の適応度を r と仮定する。r>1 ならば A が有利、r=1 であれば中⽴的浮動になる。このとき、A が繁殖に選ばれる確率はri/(ri+N-i) で与えられ,B が繁殖に選ばれる確率は (N-i)/(ri+N-i) で与えられる。A が除去に選ばれる確率は i/N であり、B が除去に選ばれる確率は(N-i)/N である。
i=1 i=Ni=0
𝜌1-𝜌
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淘汰圧を考慮
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固定確率 xi は以下で与えられる:
固定確率 xi (状態 i からはじめて状態 N に到達する確率) を計算する。
とおく。
遷移⾏列の成分は
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解釈
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有利な A が 1 個体 (r>1) が⼤きな集団 (N>>1) に侵⼊した場合、以下の近似が得られる:
たとえ有利な変異であっても、集団を専有する保証がないことを⽰している。
したがって、A が 1 個体である場合の固定確率は
A が N-1 個体である場合の B の固定確率は
したがって、固定確率の⽐は
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進化速度
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繁殖を⾏なうサイズ N の個体 A の集団を考えよう。繁殖時に稀な確率で突然変異 B が⽣じると仮定する (突然変異率 u)。突然変異 B が⽣じるまで、⼀体どのくらいかかるを考察する。 集団に突然変異 B が⽣じる速度は Nu であり、平均 1/Nu の指数分布に従うと仮定する。
変異 B の A に対する相対適応度を r とすると、固定確率は
集団全体が A から B に置き換えられる速度 (進化速度) R は
進化速度は、突然変異が⽣じる率 Nu と、それが定着する確率 𝜌 の積となる。もし進化が中⽴である場合 𝜌=1/N であるから、進化速度は
R=u (⽊村資⽣の進化の中⽴説)
中⽴な進化は分⼦時計の元となっている (分⼦系統樹、クジラとカバは近縁)
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