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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
作成日: 2009/1/16
調査部: 伊原 賢
腐食対策: ジミだけど、油・ガス田開発に必要な技術の現状
(R&D 推進部、ISO、石油技術協会、住友金属、腐食防食協会資料ほか)
石油開発において、腐食および腐食対策の重要性は 1940 年代から認識されていた。1978 年に発見
された片貝深層ガス田と、それに続く南長岡ガス田は高濃度の CO2(6mol%)を含有する高温・高圧のガ
ス田である。また、阿賀沖油・ガス田や磐城沖ガス田の開発では、海洋構造物の腐食対策が課題となっ
た。一方、海外のプロジェクトにおいても、アブダビやエジプトほかでサワーな(H2S を含む)油田に遭遇
した。これらの油・ガス田の開発に際して、生産施設の腐食対策は、安全操業と経済性の観点から、生産
に先立って検討されるべき項目で、遭遇する腐食を理解し、その対策として適切な防食技術を適用する
ことが重要である。
本稿では、油・ガス井環境における腐食(CO2/スイート腐食、H2S/サワー腐食、微生物腐食)の認識と
防食技術(CRA/耐食性合金鋼、インヒビター、電気防食)の現状について、我が国における例を中心に
概説する。
なお、本稿の一部の図・写真と見解は、JOGMEC R&D 推進部が 2008 年12 月10 日に主催した「腐食
防食フォーラム」の成果に基づいていることを申し添える。
1. 腐食と防食の原理
腐食とは、金属が置かれた環境によって、化学的ないし電気化学的に侵食されることである。油・ガ
ス田で見られる腐食の大部分は電気化学的腐食であり、これは金属と電解質が接触する所で「腐食電
池」が形成される場合に起こる。腐食電池は、①陽極(アノード)、②陰極(カソード)、③電解質、④金属
による陽極と陰極の電気的接続の 4 要素で構成され、これらの内、1 要素でもなければ腐食電池は形成
されず、腐食も生じない。これが防食の基本的な考え方だ。
腐食電池には、異種電極電池、塩濃淡電池、酸素濃淡電池ほかがあり、各々、異種金属の接触、電
解質の塩濃度の濃淡、電解質の溶存酸素濃度の濃淡により形成される。濃淡電池は、パイプのねじ部な
どの隙間で形成されやすく、しばしば激しい腐食の原因となる。
鉄鋼の腐食は、次式で表され、その腐食の速度は通常、陰極反応の速度で支配される。
Fe -> Fe2++ 2e- (陽極反応、鉄の酸化)
2H+ -> H2 - 2e- (陰極反応)
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
溶存酸素が存在する場合には、次の反応により、陰極反応速度が大きくなり、腐食速度が増大する。
2H+ + 0.5 O2 -> H2 O - 2e- (復極反応)
2. 腐食の原因と種類
油・ガス田で見られる腐食は、主に酸素(O2)、炭酸ガス(CO2)、硫化水素(H2S)が原因となる。地層
水を取り扱う採油・ガス施設ではCO2 とH2Sによる腐食、海水や河川水などの地表水を取り扱う施設では
O2による腐食が問題となる場合が多い。
一般的な油井管の構成を図1 に示す。
油井管は、生産流体に触れる管(チュービング、Flow wetted)や仕上げ
流体に触れる管(ケーシング、Non Flow wetted)と流体に触れない管(ケー
シング、Dry Section)に分類される。
油・ガス田の生産流体には O2が含まれず、あっても既に酸化物に形態
を変えているのが一般的であり、腐食環境としては地表施設よりマイルドで
あると言える。腐食の程度を支配する 3 因子は、流体、応力、材質が挙げら
れる。次のような環境に遭遇すると、腐食は進むと言われる。
流体: 高H2S, 高CO2, 高Cl-(塩素イオン), 低pH
応力: 高温, 高張力
材質: 合金や熱処理の制御なし
図1 油井管の構成
出所: JOGMEC 調査部資料より作成
次に油井管で見られる主な腐食を図 2 に示す。なお、本稿では腐食磨耗(Erosion, Erosion
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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
Corrosion)に係る説明は割愛する。
図2 油井管で見られる主な腐食
出所: JOGMEC R&D 推進部資料より作成
油・ガス田で見られる腐食の種類は、管の減肉と割れに大別できる。
減肉: General corrosion/均一腐食、Pitting corrosion/孔食
割れ: Hydrogen Induced cracking/水素脆化、SSC/硫化物応力腐食割れ、Crevice corrosion/す
きま腐食、SCC/応力腐食割れ
減肉を引き起こす腐食の特徴は、次にまとめられる。
General/Uniform corrosion: 耐食性材質、被覆、インヒビターにより、腐食の程度を減じることが
可能。
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Pitting/Localized corrosion: 温度が上昇すると腐食の程度は大きくなる。不働態(酸化)膜の保
護性が低下した箇所に Pit/孔が発生する。孔内部の Cl-濃度は高い(低 pH)。塩化物、硫化物、
単体S の共存により腐食は進む。
各々の腐食メカニズムと腐食対策については、後述する。
さらに腐食を管の材質から見ると、以下に分類できる。
汎用品である炭素鋼、低合金鋼にみられる腐食: Hydrogen Induced cracking, SSC, General
corrosion, SOHIC(Stress Oriented Hydrogen Induced Cracking)
ハイエンド品である耐食性合金鋼にみられる腐食: SSC, Pitting corrosion, Crevice corrosion,
SCC, Galvanic corrosion/異種金属接触腐食
ここで、Galvanic corrosion とは電解質内に置かれた異種金属間の電位差から生じる腐食のことを言
う。
硫酸塩還元バクテリア(Sulphate-Reducing Bacteria: SRB)、鉄バクテリアなどのバクテリアも腐食に関
与する。特にSRBは、SO42-をS2-に還元し、復極反応の復極剤として腐食速度の増大に作用すると共に、
繁殖活動により H2S を生成するため、腐食の観点からは注視しなければならないバクテリアである。
2-1. CO2/スイート腐食
この腐食は 1980 年代半ばより認識が深まった。CO2 は水に溶け炭酸という弱酸を生成する。常温で
は、この水和反応の速度は遅く、腐食反応の律速段階となる。
CO2 + H2O <-> H2 CO3 (CO2の水和反応)
炭酸による鉄の腐食反応は次式となる。
Fe + 2H2 CO3 -> Fe2+ + 2HCO3- + H2 ↑ (鉄の腐食反応)
この式から、HCO3-のビルドアップにより鋼と溶液界面の pH が上昇することが判る。また、次式に示
すように、高温になると pH の上昇により FeCO3が沈殿する。この反応は 1000C前後でもっとも活発とな
る。
Fe2+ + 2HCO3- -> FeCO3 ↓ + H2O + CO2 (炭酸鉄の沈殿反応)
1500Cを超えるような高温域では、FeCO3 を含むスケールが鋼表面を平滑に覆い、鋼表面の CO2 腐
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食は抑制される。しかし、このスケールはパイプ配管内の流速や乱流による損傷を受けやすく、スケー
ルがはく離した鋼表面では、非常に速い速度で腐食が進行することが知られている(Flow Induced
corrosion)。400C未満では鋼表面に保護性のスケールは生成しにくく、腐食の形態は均一腐食となる。
400Cから 1500Cにかけては遷移域で、スケールの保護性は不安定となる。1000C前後では沈殿した
FeCO3が鋼表面を覆うことはなく、CO2腐食特有のメサ腐食(虫食い状態)が発生しやすい。従い CO2分
圧と温度により腐食の進行速度が推定できる(De Waard and Milliams の式)。この CO2腐食の温度依存
性を図3 に示す。
ここで分圧とは、ガス井の場合、腐食環境系の全圧にその成分のモル%を乗じたもの。油井の場合、
飽和圧力における気相中に含まれる成分のモル%に飽和圧力を乗じたものを指す。
図3 CO2腐食の温度依存性
出所: JOGMEC 調査部資料より作成
CO2腐食の発生防止にはCr(クロム)の添加が有効である。クロムの添加によって鋼表面に熱に強い
クロム酸化物の保護膜ができ、FeCO3を含むスケールが鋼表面を平滑に覆いやすくなるためだと言われ
る。
9%クロム鋼は 1000C以下で良好な耐食性を示す。13%クロム鋼では約 1300Cまでは腐食速度の上
昇を抑えられる。22%クロム・25%クロムを含む二相ステンレス鋼は、2500Cで高 Cl-(数 10 万 ppm)という
厳しい環境下でも良好な耐食性を示す。
均一腐食と CO2腐食特有のメサ腐食(虫食い状態)を写真1 および 2 に示す。
タイプ 1 タイプ 2 タイプ 3
Fe イオンの溶解
メサ腐食(虫食い状態) 腐食の抑制 均一腐食
FeCO3の生成 FeCO3の生成
FeCO3の沈殿・
成長 Feイオンの溶解が活発化
し、ついには FeCO3を含
むスケールが鋼表面を平
滑に覆う Fe イオンの溶解
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写真 1 酸による均一腐食
出所: 住友金属資料より作成
写真 2 CO2による局部腐食(虫食い状態)
出所: 住友金属資料より作成
ここで、南長岡ガス田における 13%クロム鋼の使用経験を 2 例紹介しよう。同ガス田の腐食環境を表
1 に示す。
表1 国際石油開発帝石の腐食環境
インドネシア、オーストラリア 南長岡
油層深度(m) 4,000 – 4,800
坑底温度(oC) 150 180
CO2分圧(MPa) 4 3
H2S 分圧(MPa) 0.0002 – 0.0011
低分圧H2S+CO2の腐食環境、国内外に類似性
南長岡: CO2濃度 6mol%(2-3MPa)、坑口温度110oC、H2S 2-5ppm、Cl- 100-200ppm
出所: 国際石油開発帝石資料より作成
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坑井内上部の局部腐食: 13%クロム鋼は、硬さや耐摩耗性を重視した焼き入れ硬化性のあるマル
テンサイト系・ステンレス構造を持つが、当初予想外の坑井内上部に、1mm/年程度の減肉となる局部腐
食を生じた(写真 3)。ほかにも坑井内下部に軽微な均一腐食が見られた。局部腐食のメカニズムは次の
ように推察されている。
生産休止 → チュービング内の温度低下 → 水に対する CO2 溶解度の増加 → pH 低下
3.4 → 有機酸/酢酸の共存 数100ppm → pH更に低下3.2 → 13%クロム鋼表面の不働態
(酸化)膜の保護性低下(保護性を失う pH は 3.1) → 坑井内上部にワイヤーラインによる機械
的損傷 → 不働態膜が自己補修されず → 局部腐食の進行
写真 3 13%クロム鋼のネジ部内面に見られる局部腐食
出所: 国際石油開発帝石資料より作成
集ガスラインの局部腐食: 乱流状態におけるライン内面の 12 時方向に水滴が凝縮し、その中に
CO2 や有機酸が溶け込み、腐食環境が形成され、局部腐食の一種である Flow Induced Localized
Corrosion (FILC)が発生。渦巻き流の影響と考えられている。
表 1 に示すように、南長岡ガス田のオペレーターである国際石油開発帝石が国外で開発を検討中
のガス田は、南長岡ガス田と類似の腐食環境(低分圧 H2S+CO2)を呈している。ガス田開発には、南長
岡ガス田での腐食対策の経験が活かされるであろう。
2-2. H2S/サワー腐食
H2S は空気中に 500ppm 以上あると、人を死に陥れる毒性ガスだが、石油開発では数 ppm 存在する
と腐食対策を講じる必要がある。
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図 4 に国際基準 ISO15156 による H2S 腐食環境区分を示す。非サワー環境とサワー環境の区分は
H2S 分圧によって規定され、その値は 0.05psi(0.3kPa)である。H2S 濃度としては 3ppm に相当する。H2S
分圧と生産流体の pH によって、サワー環境の程度も区分される。
前述したが、分圧とは、ガス井の場合、腐食環境系の全圧にその成分のモル%を乗じたもの。油井
の場合、飽和圧力における気相中に含まれる成分のモル%に飽和圧力を乗じたものを指す。
図4 ISO15156 による H2S 腐食環境区分
出所: ISO15156 資料より作成
それでは、H2S/サワー腐食について、述べていこう。腐食メカニズムとしては、水と硫化水素の存在
下での電気分解反応がきっかけとなる。腐食を誘導する陰極反応では水素が作られ、鋼表面における
局部腐食が始まる。
H2S <-> 2H+ + S2- (電気分解反応)
H2S 分圧
軽度サワー環境
非サワー環境
厳サワー環境
中度
サワー環境
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2H+ -> H2 - 2e- (陰極反応)
Fe -> Fe2++ 2e- (陽極反応、鉄の酸化)
単体の硫黄(S)が存在する場合には、次の反応により、陰極反応速度が速くなり、腐食速度が増大
する。
S + 2H+ -> H2S - 2e- (復極反応)
常温において、水と硫化水素の存在下では、炭酸よりも腐食性が高いが、副生物の硫化鉄が鋼表面
に保護膜を作るため、CO2/スイート腐食より腐食速度は遅いとされる。
その後、多くの水素原子が鋼内面に入り込み、特に 3 軸引っ張り応力の高い鋼の組織をもろくして
(延性を低下させて)割れを拡大させる腐食がサワー腐食の特徴だ。図 5 に、サワー腐食の典型である
硫化物応力腐食割れ(SSC)のメカニズムを表現した。
図5 SSC のメカニズム
出所: JOGMEC 調査部資料より作成
硫化水素は多くの水素原子を供給すると共に、水素原子の再結合を妨げる働きがあるので、水素原
子が腐食された鋼表面から鋼内部へ侵入する機会を増やすのだ。硫化水素の存在下では、海水や常
温・常圧下に比べ、百倍以上もの水素原子が鋼内部で侵入し、微粒子単位で割れを作り、応力集中によ
り鋼内部にまで割れが侵攻し、組織をもろくさせることが知られている。従って、腐食としては、減肉よりも
応力割れが関心事となる。
局部腐食 局部腐食した鋼表面への
水素イオン侵入 割れの発生、つながり
負荷 応力集中 負荷
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以下に、各サワー腐食の特徴を列記する。
SSC/SSCC: 写真4 および 5
Sulphide Stress Corrosion Cracking/硫化物応力腐食割れ
水と硫化水素の存在下において、鋼表面が減肉し局部腐食が発生。局部腐食箇所より水素原
子が侵入し、鋼の延性を減ずる。脆くなった鋼内部へ水素原子がさらに吸収され、応力も集中し
鋼内部の割れへとつながる。
陽極融解と水素により脆くなった合金鋼の割れも報告。
塩化物と硫化水素の相互作用が腐食を加速化。
掘削時キックやチュービングリークに伴う生産流体中の硫化水素との接触により、ケーシングに
も発生。従って、硫化水素の存在下での掘管には、この SSC への防食対策も必要となる。
常温で起きる。温度が上昇すると、この腐食の程度は減じる。
写真 4 SSC
出所: Bodycote 社および住友金属資料より作成
写真 5 SSC(高強度ケーシング P-110 の割れ)
出所: 国際石油開発帝石資料より作成
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SCC: 写真6
Stress Corrosion Cracking/応力腐食割れ
SSC に比べ高温にて発生する。Environmental Cracking とも呼ばれる。
高温の 1600C 以上で S は固体から溶融体へとなり金属表面に吸着し、陽極(2H+)との反応で高
H2S を引き起こし、局部腐食と SCC を加速。塩化物と酸化剤もこの腐食の程度を加速する。
写真6 SCC
出所: 住友金属資料より作成
HIC: 写真7
Hydrogen Induced cracking/水素脆化
腐食の過程で H+発生し、H+が金属内部へ拡散・侵入する。H+が不連続に結合し、金属の内部
圧を上昇させ、割れが発生する。温度が上昇すると腐食の程度は減じる。
Stepwise Cracking(SWC)、Blister Cracking とも呼ぶ。
写真 7 HIC
出所: Shell Canada 社資料より作成
SOHIC: 写真8
Stress Oriented Hydrogen Induced Cracking
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内部応力、小さな割れの繋がり、脆くなった水素による割れの進行が特徴。
本腐食メカニズムは研究中。
写真 8 SOHIC
(ラインパイプのらせん状溶接部の割れ)
出所: Shell Canada 社資料より作成
チュービング外面の腐食:
Cl-やBr-を含むパッカー/仕上げ流体がCO2、H2S、O2により汚染され腐食した事例(SSC、SCC)
あり。腐食対策には、O2が完全に除去された流体を用いる必要があり、高温でH2Sを生成するよ
うなインヒビターの使用は避けなければならない。
2-3. 微生物腐食
水攻法の水処理に関連した腐食・防食において、硫酸塩還元バクテリア(SRB)への対処は重要。こ
の嫌気性バクテリアは SO42-を S2-に還元し、代謝エネルギーを得るからだ。腐食メカニズムを図 6 に示
す。
図6 SRB による腐食メカニズム
出所: JOGMEC R&D 推進部資料より作成
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事例紹介: 写真9
水溶性ガス田のヨウ素回収後の水圧入系でPitting/孔食が発生。SRBによるS2-の発生がFeSの
生成につながる。
嫌気環境下にあるSRBの働きを抑制することが肝要である。対策としてpH調整用酸溶液を硫酸
から塩酸に変更することで、炭素鋼へのバイオフィルム付着量を減少させ、腐食速度の低下へ
結びつけた。
写真 9 水溶性ガス田のヨウ素回収後の水圧入井内部の微生物腐食(揚管後)
出所: 国際石油開発帝石資料より作成
従来、圧入水中の SRB の計数というと API-RP(Recommendation Practice)38 に従い、サンプル水を
培養ボトルに取り、培養する方法が一般的であった。この方法では圧入水中を流れている「フローティン
グ- SRB」をモニタリングしているに過ぎない。 近では、SRB 汚染の元凶は管壁のスライム中に巣を作
っているSRB、即ち、「セサイル- SRB」であり、このセサイル- SRBを計数しなければいけないとされるが、
SRB 抑制という見地からは、フローティング- SRB は殺菌剤が適用できるものの、セサイル- SRB は殺菌
剤が浸入せず、抑制は難しいとのこと。
3. 防食技術
防食技術は、①耐食性合金、②環境遮断、③環境処理(インヒビター)、④電気防食の 4 種に大別さ
れる。
3-1. CRA/耐食性合金
ステンレス鋼などの耐食性合金や耐食性金属は、油・ガス田で汎用されている炭素鋼と比べてかなり
高価であったため、僅かな腐食が故障や機能低下に結びつきやすいポンプ、制御計測機器などに限
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定して使用することが多かった。
20 年ほど前より、海洋の腐食性ガス井を中心に CRA(Corrosion Resistant Alloy)の採用が始まり、陸
上でも使用されるようになった。我が国でも、片貝深層ガス田や南長岡ガス田で 13%クロム鋼のチュー
ビングが使用されている。片貝の場合は、炭素鋼への内面コーティングも試みられたが、耐食性が不十
分と判断され、13%クロム鋼に切り替えられた。
CRA の選定は CO2や H2S の分圧、および温度によるのが一般的である(詳細は図7 参照)。
「2. CO2/スイート腐食」にて前述したように、13%クロム鋼では 1200C~1300Cまでの CO2 腐食に、
22%クロム・25%クロムを含む二相ステンレス鋼は 2500Cまでの高温CO2腐食に対して有効である。
CO2と H2S が共存する も厳しい系に対しては、オーステナイト系の高ニッケル合金鋼が推奨される。
13%クロム鋼と二相ステンレス鋼は、高ニッケル合金鋼に比べ H2S に弱く、その採用には H2S 分圧の将
来予測が重要だ。例えば、海水による水攻法を行う場合には、SRB 汚染により H2S 分圧が増加する可能
性があるので、注意が必要だ。13%クロム鋼と二相ステンレス鋼では、耐食性と共に価格差も大きいた
め、両者の間を埋めるべく、「スーパー13%クロム鋼」が開発された。ニッケルやモリブデンを数%添加
することで、H2S 酸化や 1300C以上の CO2腐食に対応している。
CRA の耐食性については、実験室の結果と実フィールドの結果が一致しないことがある。実験室で
は材料をCO2やH2Sの分圧、塩素イオン濃度および温度で評価するのが一般的で、生産停止や立ち上
げに伴う坑井内流速の変化や共存する有機酸/酢酸による坑井流体の pH の上下が腐食速度へ及ぼす
影響が十分に解明されていないからだと考えられている。2000 年以降、鋭意、腐食評価試験の改良や
選定基準の整備が図られている。
参考までに、①油井管(OCTG / Oil Country Tubular Goods)の推奨基準、②油井管材質の適用限
界、③油井管の材質選定プログラム J-Tube Mate、④局部腐食への対策、⑤硫化水素環境下での材質
選定に係る国際基準ISO15156 のポイントを次頁以降に紹介する。
15/20 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
① 油井管(OCTG)の推奨基準: 図7
図7 油井管(OCTG)の推奨基準
出所: 住友金属資料より作成
② 油井管材質の適用限界:
炭素鋼(L-80): 125oC CO2分圧0.1MPa H2S 分圧 0.007MPa 程度
13%クロム鋼: 150oC CO2分圧10MPa H2S 分圧 0.0005MPa
スーパー13%クロム鋼: 175oC CO2分圧10MPa H2S 分圧0.005MPa
22%クロム二相ステンレス鋼: 250oC CO2分圧1,000MPa H2S 分圧0.01MPa
適用限界は、基準NACE MR 0175 と ISO15156 の枠組みの中で検討された。
材質の適用限界を詳細に調べるには、温度、CO2 分圧、H2S 分圧に加え、塩化物、有機酸、
仕上げ流体、酸処理流体との相性も吟味される。
生産機器の使用者(石油会社)と機器製作者・販売納入業者の情報交換が重要である(例え
ば、学会NACE の Maintenance Panel and Oversight Committee を通じて)。
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れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
③ 油井管の材質選定プログラム J-Tube Mate: 図8
JOGMEC-TRC が開発した腐食環境下における油井管の材質選定プログラム
腐食環境条件から坑井流体の pH を計算し、各材質の腐食速度を推定する。
図8 J-Tube Mate による腐食速度の推定フローシート
出所: JOGMEC R&D 推進部資料より作成
④ 局部腐食への対策:
南長岡ガス田の腐食環境 180oC CO2分圧3MPa H2S 分圧 0.0003MPa
13%クロム鋼(溶接性が悪い/選択腐食)+インヒビター、22%クロム二相ステンレス鋼(オーバー
スペック) の問題点解決法として、南長岡ガス田でのスーパー13%クロム鋼の使用を検討。
減圧装置下流の温度の上限は 1200C → 外面腐食対策が必要 → 外面塗覆装と電気防
食が必要となるが、塗覆装として高温仕様のポリプロピレンが入手可能かどうかは疑問が残る
ところ。
スーパー13%クロム鋼やスーパー15%クロム鋼の高温耐食性に期待。微量 H2S 環境
(2-5ppm)においても 5%ニッケル、2%モリブデンによる保護性の硫化物がクロム酸化物の
上に生成する。但しクロムは保護性の硫化物を生成しない。
自己補修能力に期待。2%モリブデン、低pH の元でクロム酸化物の上のモリブデン硫化物が
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
生成される。このモリブデン硫化物は溶解しにくい特徴がある。
鉄はある程度高濃度の H2S 環境(30ppm 以上)において保護性の硫化物を生成する(室温~
80oC まで安定)。
13%クロム鋼よりも局部腐食に対して高い防食性があり、水の存在下においても有効。13%ク
ロム鋼に比べ、高Cl-濃度(数10 万ppm)や SSC に対しても防食効果が高い。
従って、スーパー13%クロム鋼の使用が望ましい。
⑤ 硫化水素環境下での材質選定に係る国際基準ISO15156:
硫化水素環境下での石油・天然ガス生産に用いるラインパイプと油井管の材質選定に係る国際
基準ISO15156
ISO15156 の対象は、生産井、フローライン、天然ガス処理施設。
背景、基準、技術仕様を中心に記載。
背景: 北米基準 NACE MR 0175(メーカー)と欧州基準 EFC16&17(石油会社)の合体@
2003 年12 月。5 年に一度の見直し(次回2009 年2 月)。
基準: 用語集、炭素鋼、合金鋼、材質仕様の評価について記載。他にも硫化水素環境下で
の材質選定のガイドラインは存在するも、将来的には ISO15156 に収れんの方向にある。
技術仕様: 硫化水素環境下での腐食と耐食性材料が紹介。
3-2. 環境遮断
防食すべき金属を被覆して、電解質と遮断することにより腐食を防止する方法である。被覆法には、
メッキなどの金属被覆、プラスチック系塗覆装、モルタルライニング、防食テープ巻きなどがある。プラス
チック系塗覆装(ポリエチレンやタールエポキシ樹脂など)は、埋設パイプライン外面の防食に広汎に使
用されている。モルタルライニングは、海水管の内面などに施されている。環境遮断の欠点は、被覆の一
部が損傷すると、その部分が集中的に腐食されることである。そのため、しばしば、後述する「3-3. 環境
処理」や「3-4. 電気防食」と併用される。
3-3. 環境処理(インヒビター)
環境処理による防食法には、脱気装置や薬品による溶存ガス(O2、CO2、H2S)の除去や pH 調整など
の電解質の組成を変える方法、腐食抑制剤(インヒビター)の添加、バクテリア腐食を防止するための殺
菌処理などがある。電解質の組成を変える方法は、主として水攻法用の圧入水や水蒸気発生器の給水
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
などの水処理に適用されている。
近年CRA は広く使用されるようになったが、現在でも陸上の油田を中心に炭素鋼パイプにインヒビタ
ーを注入する防食が広く行われている。インヒビターは、水、水を含む原油、水分を含むガスのいずれに
対しても適用されるが、特に水を取り扱う施設の防食、坑井を含むガス採収施設のCO2やH2Sによる腐食
の防止に広く使われている。インヒビターは、バッチ注入処理(定期的に坑井を密閉して坑口より注入す
る方法)で十分な効果が得られない場合には、連続処理も採られる。
例えば、シェル社のミシシッピ州のサワーガス井(H2S 濃度 30-45mol%)は、インヒビターにて防食処
理されている過酷な腐食環境例の一つである(坑底温度2000C、坑底圧23,0000C、CO2濃度2-9 mol%、
プロパン以上の多成分系含まず、元素硫黄/S の析出あり)。インヒビターの効果を得るには、坑底条件で
インヒビターと炭化水素溶剤の相挙動を気化しない状態に保つ必要があり、かつ析出した元素硫黄を溶
解する必要もあり、インヒビターの仕様決定には十分な検討が必要だったとのこと。
従来、油・ガス井用のインヒビターの主成分は有機窒素化合物(第4アンモニウム塩、イミダゾリン、酸
アミド、ピリジン類)。有機硫黄化合物と有機リン化合物の混合物も使われる。
油・ガス井環境では、H2SがあればFeS、高温CO2環境では、FeCO3を含むスケールが形成されるた
め、スケールで覆われた鋼表面に有効なインヒビターの選定も重要となる。また、スラッジの除去も、濃淡
電池の形成を緩和するため、防食に貢献する。一般にインヒビターの適用上限温度は 1500Cと言われ
る。
次にインヒビターの使用に係る指針を数例紹介する。
13%クロム鋼の溶接部の選択腐食: 写真10
Preferential Corrosion of Weldment (PCW) ガルバニック腐食は見られず。
クロムは CO2 腐食の低減に有効とされるが、2%クロム-1%モリブデンを含む程度の溶接材で
は、インヒビターとの併用が選択腐食の抑制に必要と判明。インヒビターが効くには液体炭化水
素の共存が必要で 500ppm 程のインヒビターがあれば腐食を抑制できることが判った。
写真 10 13%クロム鋼の溶接部の選択腐食
(腐食で溶接材のみ消失)
出所: 国際石油開発帝石資料より作成
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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
海洋油ガス田における腐食用インヒビター:
魚やエビに対する毒性(Bio-degradability)も HSE の見地から考慮する必要があり、「グリーン・イ
ンヒビター」なるものの採用が検討されている。
酸処理流体:
炭酸塩岩には塩酸ベース、砂岩にはフッ酸ベースの流体を用いる。掘削泥水が貯留層に与え
たダメージをまず取り除き、酸処理も行う塩酸とフッ酸を含む流体もある。流体が坑内機器へ及
ぼす腐食対策には、機器の材質、インヒビターとの相性は事前に実験室レベルで評価するのが
望ましい。
3-4. 電気防食
油・ガス田が枯渇するまでの寿命が長い場合には、生産施設の保守を強化し、施設の延命を図る必
要がある。坑井内のケーシングの電気防食による外面腐食防止も、その 1 例だ。これは、防食すべき金
属の表面に外部から電流を流すことにより防食する方法であり、適正に行えば、ほぼ完全な防食効果が
得られるとされる。
電気防食法には、外部電源法と流電(犠牲)陽極法の 2 方法がある。外部電源法では、直流電源(ま
たは交流電源と整流器)と補助電極となる陽極が必要となり、直流電源の正の端子を補助電極に、負の
端子を防食すべき金属に接続し、電流を補助電極から電解質となる水や土壌を介して金属へ流し、防食
を試みる。一方、流電陽極法では、防食すべき金属とそれより低電位の金属となる陽極を接続することで、
電池を形成する。外部電源は不要となる。
電気防食法は、パイプライン、タンク、海洋構造物などに適用される。必要な電力量と陽極の消耗を
抑えるため、腐食環境を遮断する「被覆法」(3-2.参照)と併用されることが多い。
我が国でも新潟の中条ガス田や千葉・成東の水溶性ガス田にて、外部電源法による電気防食が実
施されている。また、ケーシングの電気防食の効果はモニタリングされている。
中条ガス田では、深度600~700メートルにかけてのケーシング外面に腐食損傷が発見されたため、
1989 年に 700 メートルの深度まで 20 年間防食される様に設計されたとの報告がある。
成東の水溶性ガス田では、ケーシングのクロスオーバー部とアンカー上部のケーシングに、腐食が
発生。電気防食を施し、効果をモニタリングした所、深度 1,300 メートルまでは防食電流が到達するも、
1,300 メートル以深では、良好なセメンチングがなされていないせいか、防食電流の流出入が見られ、電
気防食がうまくいかなかった事例報告もある。
20/20 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
4. まとめ
腐食メカニズムの解明とそれへの防食技術の適用は、これまでに公表されていない腐食現象に遭遇
し、日進月歩、対策を試行していくことと考えられる。
「防食技術はテーラーメード」と言われることが多く、油・ガス井の環境にもそのまま当てはまる。油・
ガス井環境の腐食では、液相の水の存在が発生の前提条件である。坑内における水の凝縮、油・ガス・
水から成る多相流の複雑なフローパターン、坑井流体の pH や性状の変化、不純物(CO2、H2S、微生物
ほか)などにより、坑井毎に、更には坑井の深度毎に、腐食・防食環境が異なることが知られているからだ。
石油会社としては、鋼材を提供する鉄鋼メーカーやインヒビターの供給者と共に腐食環境を整理・分析し、
経済的で適切な防食技術を適用させる義務があり、それにはジミだが着実な努力が要求される。
以上
<参考資料>
・ 石油技術協会「 近の我が国の石油開発 石油技術協会創立60 周年記念」、1993 年5 月
・ 腐食防食協会「腐食・防食ハンドブック」、2000 年2 月
・ SUMITOMO METALS 「OCTG Materials & Corrosion in Oil & Gas Production」、2008 年4 月