麻布の丘に 第17号(1)　2014（平成26）年10月15日

　麻布学園は、創立以来、そこに

集う生徒たちが夢や希望をもって

勉学に励み、豊かな交友関係のも

と、知力・体力・人間力を充実し、

将来彼らが向き合うであろう複雑

で困難な時代をたくましく切り開

き、ゆくゆくは人類および社会に

多大な貢献をする人物となること

を希求しています。

　そのような中、いま、麻布学園

は「

再

構

築

」

（restructuring

）

の最中にありま

す。リストラク

チャリング、即

ちリストラとい

う言葉は、これ

ま

で

専

ら

ネ

ガ

ティブな表現と

して、不況期な

ど企業が収益悪

化を食い止める

ために行う、事

業縮小や人員削

減の代名詞とし

て用いられてき

ました。しかし、

私がここで用い

た意味は、その本来の意味である

re

（再）stru

cturing

（構築）です。

格好良く言えばルネサンス（再

生）でしょうか。

　現在、本校では来年の学園創立

一二〇周年に向けてさまざまな取

り組みがなされています。ＯＢに

よる連続教養講座の開催、新体育

館建築とそのための募金活動の実

施、学園史補遺や紀要、卒業生名

簿の制作、国際交流シンポジウム

や祝賀会の開催などです。

一九九五年の創立一〇〇周年の際

もそうでしたが、学園の来し方を

振り返り、行く末を考えての事業

です。

　昨年一〇月に始まった新体育館

の建築は、来年三月の竣工に向け

順調に推移しています。一昨年か

らスタートしたＯＢへの募金活動

も、これまでに三〇〇〇人ちかく

のご協賛により、募集期間一年半

を残して目標額を達成いたしまし

た。ご協力をいただいた方々に、

ここにあつく御礼申し上げる次第

です。

　さて、この新体育館はグランド

の北端、一〇〇周年記念館とプー

ルとの間に位置し、工事車両の出

入りのため、グランドの三分の二

は使用できなくなっています。そ

れでも学校は日々体育の授業やク

ラブの活動を保証しなくてはなり

ません。既存の施設をフル稼働し

たり、校外のグランドを借りたり

するなどのやり繰りをしていま

す。新体育館竣工の暁には、五三

年間活躍してくれた旧体育館は取

り壊しとなります。まさに再構築

の現場がここにあります。

　建物以上に教育の根幹を支える

人的な面での再構築について触れ

たいと思います。本校の専任教員

は定年制施行後、一九九五―

二〇〇九年の一五年間に二五人が

退職し、二九人が着任しました。

本校ではカリキュラムに大きな変

更がない限り、専任の欠員は専任

の採用で埋めるという方針をとっ

ています。教科指導ばかりではな

く、より細かく生徒指導を行って

いくためには、責任をもって指導

を任せられる専任の比率は高いほ

ど良いと考えているからです。こ

の間の着任数が退職数を上回って

いるのは、二〇〇〇年に全学年一

斉に六クラスから七クラス化した

ことが影響しています。

　驚くべきことに、直近の

二〇一〇―二〇一四年の五年間を

見ると、三〇人が退職し、三〇人

が着任しました。それ以前の一五

年間のペースを三倍も上回る率で

人員が入れ替わったのです。七学

級化以降、専任教員の数は校長や

司書教諭、養護教諭も含め九二人

の体制を保ってきているので、こ

の五年間にスタッフの、実に三分

の一が入れ替わるという凄まじい

変化が起きたことになります。

　これは四〇年前の学園紛争の後

に多くの若手教員が採用され、そ

の世代の方々がこの数年間に一斉

に退職期を迎えたためです。彼ら

が現在に続く麻布のさまざまな制

度やあり方を築いてきたことを思

うと、活気と清新の気あふれる若

い世代に学園のこれからを大いに

期待したいところです。

　いま、たいへんな勢いで進む日

本の少子化の問題は、教育の現場

が直面する問題となっています。

公立校では学校が統廃合され、伝

統ある私立校でもひとたび魅力を

失うと、生徒減から経営が行き詰

まり、閉校したり、他の学校に吸

収されたりするような事態が起き

ています。学校、とりわけ私立学

校においては、建学の精神の継承、

校風や伝統の継続ということが大

切な核心であります。自由闊達な

麻布の良き伝統を、若い世代の教

員たちが守り育て、そして時代に

即して革新し、この麻布学園をま

すます魅力ある学校にしていって

ほしいと願っています。私もその

ために微力を尽くしたいと思って

います。

広報誌

第 17 号2014年10月15日

発行

麻布学園

〒106-0046東京都港区元麻布

2-3-29Tel�03-3446-6541Fax 03-3444-2337HP:URLhttp://www.azabu-jh.ed.jp/

麻布の再構築

校長　平　秀明

麻布の丘に 第17号　(2)2014（平成26）年10月15日

　中学入試において、「麻布の算

数」を評する（ありがたい）文言

として「本質をついた問題」「閃

きやセンスが問われる」といった

ものを目にします。いわゆる典型

問題のパターンだけをなぞるよう

な学習が好ましくないことは、数

学のみならず、全ての教科に共通

する考え方であろうかと思いま

す。一方で「閃き」や「センス」

という言葉は、ともすれば「生ま

れつきの才能」「偶発的な気付き」

として語られますが、少なくとも

麻布の数学科が目指すものとそれ

らは少し異なります。

　数学という学問は、自然科学を

記述するツールとして発展してき

た歴史を持っており、体系化され

たひとつの言語であると言えま

す。言語とはその性質上、生まれ

ながらに何も訓練せず扱えるもの

では決してありません。膨大な実

例や学習を繰り返し積み重ね、長

い時間をかけて体得されるもので

す。数学における「閃き」や「セ

ンス」とは、実はそのように身体

化された知識の表出を指す表現に

他なりません。何か数学的対象に

ついて、抽象化された一般論と具

体的な実例を当たり前に結びつけ

て認識・運用できているとき、人

はそれを「よく理解している」と

感じます。生徒たちにそのような

カタチで数学を理解してもらうこ

とが。麻布数学科にとっての目標

の一つです。

　入学して間もない中学一年生で

は、「代数」と「幾何」という二

種類の授業が行われます。代数で

は正負の計算や文字式の扱い方な

どを学び、最終的には連立方程式

なども学習します。幾何ではまず、

小学校で自然に扱っていた平面図

形について、数学的な定義を言葉

で表現することを学びます。夏休

みの宿題として出される「好きな

立体を作ってくる」という課題で

は、毎年のように目にも鮮やかな、

凝った作品を提出する生徒がい

て、晩夏の風物詩となっていま

す。

　中学二年生では、引き続き「代

数」と「幾何」を学びます。基本

的に中学の課程はこの学年で終わ

り、代数では二次方程式や二次関

数などの高度な内容も扱います。

幾何では中一の途中から証明問題

が登場し、「仮定」や「結論」を

明確にして数学的な文章を書くこ

とを繰り返し練習していきます。

　中学三年生になると、授業の名

前も「数学α」「数学β」に変わり、

内容も本格的に高校範囲を扱うこ

とになります。この学年は生徒の

発達段階として、言語活用能力が

子供のそれから大人の水準に近づ

いてくる時期でもあります。整数

や多項式など、代数に現れる抽象

的な対象について厳密な議論を

し、証明や解答を書くことを始め

るのがこの学年です。

　高校一年生では、「数学α」で

主に関数や解析に関する分野を扱

い、「数学β」で代数的な幾何学

を学習します。高一の最後に全教

科にまたがるカリキュラムの説明

を受け、高二からは一部の授業が

選択制になっていきます。

　高校二年生では、「数学α１」「数

学β１」または「数学α２」「数

学β２」というセットで授業を選

択することになります。基本的に

は前者が理系、後者が文系の内容

ですが、特に制限を設けてはいな

いので、意欲的な文系の生徒が前

者を選択することも時折ありま

す。

　高校三年生では、完全に理系と

文系に分かれ、「数学α（１また

は２）」「数学β」「数学γ」から各々

が選択し、大学受験に向けた演習

が増えていきます。

　また、通常カリキュラムとは別

に、「教養総合」では通常の高校

範囲にとらわれないオリジナルな

内容が扱われ、「数学Ｃ」という

プログラミングを行う授業や、「組

合せ論入門」「行列講義」「数学の

小噺」「数の性質を探る」「力学と

微分方程式」などが開講されてい

ます。中には大学生の学ぶ専門的

な内容に踏み込む授業もあります

が、数学好きな生徒が臆せず、果

敢にそれらに向かっていく姿は非

常に頼もしい限りです。

麻布の数学授業

麻布の丘に 第17号(3)　2014（平成26）年10月15日

　現在の数学科の構成は、専任教

員が一四名、講師が四名です。こ

こ数年、大きな代替わりの時期を

迎えており、一四名の専任教員の

内、実に九名が四〇歳未満です

（二〇一四年度現在）。メンバーが

更新されていく一方で、これまで

培われてきた数学科の理念を絶や

さず、より良い数学教育を実現す

るために、科全体で取り組もうと

いう機運が高まっています。具体

的には，カリキュラムや授業内容

の扱いについて各人の意見を共有

することや、長期休み中に若手主

催で勉強会を開くなど、多くの試

みがなされています。年度末には，

専任教員全員での一泊の合宿も行

われており、その年の授業につい

ての総括や意見交換をしていま

す。これも他の科には見られない

特徴です。�

（太田）

　今年度は、長年麻布学園の数学

教育を支えて下さった、新垣先

生・滝口先生の二名が退職されま

す。ＯＢの方の中には、在学時代

に御二人の授業を受けた記憶のあ

る方も多いのではないでしょう

か。御二人から、一言ずつ御言葉

を頂きました。

　高校二年生で、自由選択科目「数

Ｃ」を設け、「コンピューターを

用いた数学演習（プログラミン

グ）」を実施してきました。六〇

人から八〇人程の生徒が放課後に

もかかわらず、熱心に受講してき

ました。指導要領の改定により、

教科「情報」が導入され、コン

ピューターは数学科の手を離れて

いきます。「数Ｃ」を教養総合の

一つの科目として捉え直し実施し

ています。今後は、若手の数学科

の教員により「〈新〉コンピュー

ターを用いた数学」を作っていき

ます。�

新垣　眞樹　

　数学科では今年退職する二名の

分も入れると、数年間で一〇名の

教員が入れ替わることになりま

す。麻布全体でも言えることです

が、数学科では特に顕著に若返り

が進んだことになります。雰囲気

は、前にもましてアカデミックに

なりました。若い人の優秀な専門

性が授業にも活かされ、生徒に

とってより魅力的な授業になるこ

とを期待しています。私は今年度

で退職しますが、今後とも麻布を

どうぞよろしくお願い致します。

滝口　正晴

﨑山　理史

新垣　眞樹

滝口　正晴

佐藤　巨崇

髙橋　知明

長尾　有晃

重田　大輔

野田　忠

太田　隼

今田　光彦

井村　俊也

柳生　一

松尾　光芳

小林　澄夫

数学カリキュラムについて各教員からの意見書

麻布の丘に 第17号　(4)2014（平成26）年10月15日

―まずはどういうお仕事をな

さっているのか教えていただ

けますか。

　障害者や高齢者などの、社会

的に弱い立場の方々を、福祉関

係を中心とする諸機関と連携し

て、法的に援助していくという

活動をしています。例えば、彼

らは、振り込め詐欺や、送りつ

け商法などの被害に遭っても、

その自覚もなければ、ましてや

誰かに訴えることも出来ません。

また、年金や財産を親族が管理し

ていて、いつの間にか一文無しに

なっていたというケースもありま

す。これらはなかなか表面化しま

せんし、また、したとしても、あ

まり一般の法律事務所で扱うこと

はありません。そのような事案を

福祉事務所や地域包括支援セン

ターはもちろん、消費者センター

や警察、役所などとも連携して、

解決に向けて支援しています。こ

れを司法ソーシャルワークといっ

ています。

―大変なお仕事ですが、学生時代

から興味を持たれていたのです

か。

　いいえ、麻布時代は、美術に興

味があり、文実美術部門長を努め

ていて、美大の建築科を受けよう

と考えていました。また、オリ部

に属していて、山に行ってばかり

いましたし、運実にも参加してい

ました。従って、法律や社会科学

にはあまり興味がありませんでし

た。ただ、麻布の授業は大変面白

く、個性的な先生も多かったよう

に思います。その先生の存在自体

が、一種「得体の知れない」混沌

とした魅力でした。前校長の氷上

先生の授業などはその最たるもの

でした。それに影響されて、一時

は文学部に行こうとも考えました

が、文系科目が苦手なもので、や

むなく理転し、美大もあきらめて、

東大の理科二類を受験しました。

しかし、再び、進振りで文転し、

文学部の心理学専修に進学しまし

た。心理学専修というのは、ほと

んど理系の分野で、卒論は「遺伝

子欠損マウスの行動異常」という

タイトルです。

―それが、またなぜ福祉の道に進

もうとなさったのですか。

　卒業して社会でやっていく自信

がなかったからです。大学院に進

学しようとも考えたのですが、学

者にも向いていないと自覚し、た

だ、このまま狭い世界に引きこ

もっていてはいけないと考え、大

学四年で就職活動を始め、心理学

を専攻していた縁で、何とか都に

拾っていただいたというわけで

す。そこで福祉関係の部署に配属

されて、障害者施設に派遣され、

そこでの仕事が結構面白く、すっ

かりはまってしまいました。学歴

は全く意味をなさず、また、一人

の人間だけでは何にも出来ないと

いうことを思い知らされ、様々な

職種の人たちとチームで仕事をす

ることの重要さを痛感しました。

障害者の方達も個性的で、色々学

ぶことが多かったように思いま

す。

―その時の経験が、現在の弁護士

という仕事にも生かされている

のですね。

　実を言いますと、大学の四年時

では司法試験浪人になることも一

つの選択肢でありました。しかし

前述のとおり、自信がない、とい

うことで、就職ははっきり言って

しまえば仮面就職だったのです。

しかし、この時の経験が現在の大

きな糧になっています。通信教育

で司法試験に合格した後に、民

間の法律事務所ではなく、公設

の「東京パブリック事務所」を

選ぶ契機となり、そこでの各方

面の機関と連携するという経験

を通じて、弱者救済などという、

上からの目線ではなく、他者か

ら常に学び、互いに助け合って

物事を解決するように、たたき

こまれました。

―最後に麻布生に何かメッセー

ジをお願いいたします。

　フラフラしてきたので偉そう

な事は何も言えません。今でも

私は自分に自信がなく、コンプ

レックスの塊です。常に、自分

の方向性に関して、これで良い

のかと自問してきました。今の

仕事も、弁護士十一年目にして

やっと続けていく自信らしきも

のを抱いたという有様です。た

だ、「自分は何も知らない、視

野が狭い」と思っていたことが、

何か「得体の知れない」混沌と

した、様々な未知の世界に対す

る興味につながっているのかも

しれません。中高生であれば、

まだまだたくさんの「得体の知

れない」ものに授かるチャンス

があると思います。純粋にうら

やましいです。

―本日はどうもありがとうござ

いました。�

（杉山）

おおた　あきひろ　さん

一九九三年（平成五年）　麻布

高校卒。同年東京大学理科二類

入学。

一九九七年　同大学文学部心理

学専修卒業。東京都に心理職と

して採用。三年間知的障害者施

設で活動援助係として働く。

二〇〇二年　司法試験合格。

二〇〇四年　弁護士登録。「東

京パブリック法律事務所」所属。

二〇〇六年　岐阜県法テラス可

児法律事務所に赴任。

二〇一一年　社会福祉士登録。

二〇一二年より現職。

社会福祉士・弁護士

法テラス東京法律事務所勤務

太田　晃弘　さん

インタビュー

麻布

聞き手　杉山・彦坂

「得体の知れない」混沌とした魅力

麻布の丘に 第17号(5)　2014（平成26）年10月15日

安藤記念教会

　この建物編も四回目になりまし

た。教会建築物には、前回までも、

ささやかながら触れてまいりまし

た。例えば、明治学院礼拝堂、高

輪教会などです。麻布近辺には、

キリスト教系の教会堂が多く、

ひっそりと佇んでいます。学園近

隣を散歩していてもなかなか気付

かないと思います。今回ご紹介さ

せていただく教会も、そのような

建物の一つです。有栖川公園沿い

の他を圧するが如く聳える末日聖

徒イエス・キリスト教会はむしろ

例外です。

　安藤記念教会の位置を、学園側

から案内紹介いたします。仙台坂

に向かうと、やや複雑な五叉路に

なっている仙台坂上交差点に至り

ます。この交差点を北方向に左折

すれば、すぐ右側にステンドグラ

スがはめ込まれ、蔦にからまれた

教会があります。左手向こうにあ

る氷川神社に行ってしまえば見逃

してしまいます。所番地は、元麻

布二―一四―一六（旧町名

：

麻布

区本村町二二番地）。学園も旧本

村町ですから、いかに至近距離で

あるかがわかると思います。

　創立者は安藤太郎です。経歴と

経緯を紹介いたします。

　一八四六年、鳥羽藩稲垣津島守

の家臣、医師安藤文鐸の長男とし

て江戸四谷北町で誕生。父の勧め

により幼時より漢学、のち一六歳

から一九歳まで蘭学・英学を学

び、海軍操練所に入所、陸軍伝習

所でも騎兵学を修め、その間、幕

府より扶持を受けて、横浜の宣教

師バラにも英語を学ぶ。戊辰戦争

では、榎本武揚に従い五稜郭に立

てこもる。降伏後、一年間の禁固

刑ののち赦免。語学力を買われ新

政府官吏に採用。大蔵省を皮切り

に外務省に移り、岩倉具視特命全

権大使の使節団に随行し、欧米を

視察（一八七二年）。香港副領事

（一八七四年）を経て、ハワイ総

領事として赴任（一八八六年）。

　この時期、日本政府は不平等条

約改正に苦慮する一方、海外への

日本人移民問題も抱えていたが、

安藤が直面したのは、日本人ハワ

イ移民に関する問題処理であっ

た。特に苦労したのは移民が起こ

す様々な不祥事の始末である。こ

のような困難時に遭遇した人物

が、サンフランシスコからやって

きた日本人キリスト教牧師美山貫

一である。安藤は元来宗教に無関

心で、当初キリスト教に対し反感

さえ抱いていたが、美山の移住民

たちとの接し方、指導法に感化さ

れるようになる。妻の文子や、女

中頭のお順が受洗した後、安藤も

受洗し、結局領事館員全員が受洗

することになる。このような変化

状況の中で、移民たちの生活も改

められて順調に展開していったの

である。この体験経験を踏まえた

後、帰国後も外交公務とキリスト

教福音伝道事業に励むことになる

が、五一歳で公務を辞し、信仰と

伝道に専念。文子夫人と前々から

の合意のもとに、全私有財産を「財

団法人安藤教会」に寄付するとい

う遺言書が作成されており、夫人

の死去を機にこの教会堂が建設さ

れた。

　竣工

：

一九一七年、設計

：

吉武

長一建築事務所、施工

：

請負師柏

木菊吉、建築面積

：

四○坪（うち

一部二階五坪）、様式構造

：

ゴチッ

ク風大谷（おおや）石造、天然ス

レート葺（現在銅葺）。二○○四

年に東京都歴史的建物六五号とし

て選定される。

　吉武長一は、米国ペンシルヴァ

ニア・テクニカル・カレッジで学

んだ設計家で、京都旧村井銀行本

支店などが現存しています。ちな

みに、旧帝国ホテルはフランク・

ロイド・ライトの設計で、その大

谷石造りが、竣工と同時に発生し

た関東大震災に耐えて一躍有名に

なり、宇都宮採掘場の隆盛を招き

ました。以来、関東一円には石垣、

石段、石壁、倉庫など至る所に見

られるようになったといわれま

す。現牧師、佐野英二さんによる

と、ライトは帝国ホテルの設計前、

吉武の案内でこの教会堂見学に訪

れ、材を大谷石に決定したとのこ

とです。大谷石は凝灰岩の一種で

青緑色、亀裂が少なく、軟らかく

加工が容易、耐火性にも優れてい

ますが、欠点は風化しやすいこと

で、そのため当教会には一部小松

石が使われています。

　内装のステンドグラスは小川三

知（さんち）の作。三知は日本画

家橋本雅邦（がほう）にも学び、

米国でも修業した日本初のステン

ドグラス作家といわれています。

講壇両脇の百合の意匠は純潔・マ

リアを象徴し、中央の十字架を温

かく包むような印象を受けます。

外の通りからも見える礼拝堂後方

の大きなステンドグラスは、ハワ

イ在住信者の献金に依るもので、

由来が下方に漢英両語で記されて

います。

　教会系列は日本メソジスト教会

に属します。もとは銀座教会の講

義所として発足しましたが、その

後独立して設立されました

（一九一八年）。なお、銀座教会の

二代目牧師は、前述の美山貫一で

す。

　ところで、銀座教会の前身は築

地教会ですが、調べているうちに

私は思い当たりました。江原素六

先生は一八八八年に築地教会で演

説をしているのです。共通点、接

点をさらにいくつも発見しまし

た。江原先生は岩倉使節団の前年

に欧米視察をしていますし、安藤

教会の献堂式には江原先生が同じ

メソジストとして祝辞を献じても

いるのです。お二人の出自、戊辰

戦争、キリスト教、教育・・・、

切りがありません・・・、勉強に

なりました。

　今回は安藤記念教会の佐野英二

牧師には大変お世話になりまし

た。ありがとうございました。末

筆ながらここに感謝の気持ちを申

し上げます。�

（増永）

　麻布風土記

建物編（第四回）　

祭壇両脇の百合意匠ステンドグラス

礼拝堂後方二階より祭壇をのぞむ

麻布の丘に 第17号　(6)2014（平成26）年10月15日

　サークル連合に加盟しているク

ラブの昨年秋から今年夏休みまで

の活動状況をお知らせします。な

お、学園ホームページのクラブ関

連サイトもご覧ください。（

佐久間）

《運動部系》

［アーチェリー部］

12年都中学生大会30ｍ４位甲斐。

18ｍ６位生浪島。

14年６月高１桃北（都代表選手選

出）関東大会ベスト16。都大会団

体３位（高２池田・石塚・福山・

高１桃北）。

［剣道部］

14年３月静岡県河津にて春合宿。

７月長野県白馬にて夏合宿。

［硬式テニス部］

14年中３河村関東大会ベスト32。

［硬式テニス同好会］

14年７月軽井沢にて夏合宿。アル

タカップ優勝高２池田。

［硬式野球部］

第96回全国高等学校野球選手権大

会東東京大会１回戦対都立戸山４

対０。２回戦敗退。

［ゴルフ部］

13年都ゴルフ選手権秋季大会81。

12月関東高等学校ゴルフ選手権冬

季大会出場。

［サッカー部］

14年都春季大会ベスト32。

［柔道部］

14年都選手権大会60㎏球５位中３

金丸（強化選手選出）

［水泳部］

13年伊豆にて春合宿。

14年学校で２回の合宿。中３野村

全国中学生大会50ｍ自由形出場。

200ｍ個人メドレ18位。

［ソフトテニス部］

13年都新人戦港区予選準優勝中２

古橋・安松。港区森下杯優勝中１

北村・小倉。準優勝中１島田・梶

川。私立中新人選手権ベスト32中

２安松・小宮。私立中新人選手権

団体都ベスト16中２麻布Ａ（中２

古橋・安松・小宮・赤星、中１梶

川・島田）。私学研修リーグ優勝

中３中野・村瀬、準優勝中３鈴木。

村瀬）

14年第１ブロック港区予選優勝中

３古橋、小宮。私立中選手権ベス

ト32中３古橋・小宮、団体ベスト

16麻布Ａ（中３安松・赤星・古橋・

小宮、中２梶川・神田）

［卓球部］

14年都中学校春季大会団体港区準

優勝。都中学校選手権大会団体港

区準優勝。

［タッチフラッグフットボール部］

13年ＮＦＬ日本大会全国３位。

［バドミントン部］

14年都中学選手権大会ダブルス出

場（中３新井・浦野ペア）。

［バスケットボール部］

14年都私立中学校新人戦３位。中

３貞方日本バスケットボールジュ

ニア強化選手（東京代表）に選出。

［バレーボール部］

14年群馬県片品村にて夏合宿。

［陸上競技部］

14年千葉県富津市にて春合宿。新

潟県柏崎市にて夏合宿。

都高校新人支部大会４×100ｍリレ

ー５位、200ｍ８位400ｍ６位高２岩

政。すべて都大会進出。

［ワンダーフォーゲル部］

13年冬六甲山。

14年春潮岬。夏利尻・礼文。

《文化部系》

［囲碁部］

14年文部科学大臣杯小中学校囲碁

団体戦全国優勝（中２赤星・橋本、

中13保田）。

［演劇部］

13年11月高校演劇連盟東京都中央

発表会出場。演目「ルート３」（作

高２二宮）舞台美術賞受賞。

14年９月中学生公演（ダンス部と

コラボレーション）。

１月冬公演（オムニバス公演）。

２月東京都中央地区バレンタイン

公演参加。４月新入生歓迎公演。

６月文化祭公演。８月野辺山高原

にて夏合宿。

［オセロ部］

14年横浜新人王戦高２宮地優勝。

臨海チャレンジカップインターミ

ディエイト部門中３左右田優勝。

流山オープン中３浦野３位。

［音楽部］

14年１月ニューイヤーコンサー

ト。６月文化祭で「音屋」。７月

サマーコンサート。以上の演奏会

で日ごろの鍛錬の成果を披露。

［化学部］

13年「高校生の環境リスクに関す

る自主研究」支援事業で「多摩川

の水質調査」について調査・発表。

14年文化祭にて研究展示大賞。長

野件桜清水コテージで夏合宿。

［管弦楽部部］

13年第62回定期演奏会ドヴォルザ

ーク交響曲第８番、スラブ迂曲第

１番など。

14年３月春合宿。４月入学式で校

歌演奏。第63回定期演奏会グリエ

ール交響曲第１番、グリンか「ル

スランとリュドミラ」序曲など。

６月文化祭で演奏会。８月夏合宿。

［将棋部］

14年第50回全国高等学校将棋選手

権大会男子個人戦優勝高２日高。

第29回全国オール学生将棋選手権

戦団体戦４位（高２日高・一柳・

清宮・高１江崎・秋山・津田）。

［書道部］

14年文化祭で書道展「憲」として

参加。作品約20点を展示。うちわ

販売も好評。

［生物部］

14年８月新潟県糸魚川市蓮華温泉

キャンプ場にて夏合宿。白馬大池・

風吹大池で生物観察、調査実施。

［地歴部］

14年３月高松・松山にて春合宿。

文化祭展示「第一次世界大戦」で

校長賞。熊本・福岡にて夏合宿。

［討論部］

14年５月乃木坂46と「理想のパー

トナー」をめぐり高２・高１有志

が討論。６月文化祭で模擬討論、

紙展を催行。７月「ディベート甲

子園」関東甲信越予選大会２回目

で６位。９月京都にて合宿。

［物理部無線班］

14年８月長野県野尻湖にて夏合宿。

［文芸・漫画研究部］

14年文化祭に於いて部誌「盈月」

発行。ＰＴＡ新聞に４コマ漫画掲

載。

《注目の部活》

［山岳部］

麻布学園山岳部は戦後まもなく発

足し、60年以上の歴史を持つ部活

です。現在は中１から高２まで、

約30名の生徒が所属しています。

学期中は週に２回、放課後の部活

でランニングとサッカーなどで体

力をつけ、月に１度のペースで「月

例山行」という、日帰りでの実地

訓練を行っています。これら普段

の活動の集大成として、春・夏・

冬の長期休暇には、学年や体力を

考慮して部員全体をＡ班とＢ班に

分け、それぞれの力量に合わせた

行先や日程で合宿を行っていま

す。直近では、冬は赤城山（Ｂ班）

と北八ヶ岳（Ａ班）、春は雲取山（Ｂ

班）と会津駒ヶ岳（Ａ班）、夏は

全員で大雪山系（天候不良により

トムラウシ縦走は断念）に行きま

した。合宿中はただ決められた

麻布の丘に 第17号(7)　2014（平成26）年10月15日

山々を歩くだけではなく、テント

の設営から食事の用意まで、山で

の生活の全てを部員達の手で行う

のが山岳部の大切な伝統です。山

中での円滑な設営や、安全な登山

コースの選定など、計画を立てる

段階から全てが生徒主導で行われ

ています。教員は現在、正顧問が

４名、準顧問が２名の体制です。

計画立案に際しては無理のない行

程になるように助言をし、実際の

山行では生徒に同行して活動を見

守っています。ＯＢの方々の協力

も手厚く、「サポート委員会」と

いう組織が中心となって、山行に

関する現役生への助言や合宿への

帯同をしていただいています。今

年の５月には、ＯＢ・現役生合同

で、秩父の破風山での親睦山行も

行われました。

追悼　鳥越

泰彦

先生

国語科　杉山　雅彦

　鳥越さんが急逝されて、約半

年が経とうとしていますが、ま

だその実感は湧いてきません。

この二年の間に、国語科では、

山内先生、本田先生、根岸先生

の訃報に接してきました。一昨

年の『麻布の丘』にて本田先生

の追悼文をしたためた記憶がま

だ新しいうちに、再び追悼文を

したためる運命になるとは夢に

も思いませんでした。しかも先

輩の方々ではなく、歳下の同僚

となれば尚更です。その強い衝

撃と深い喪失感から未だ恢復せ

ぬまま、彼との思い出に向き

合っています。

　私は一九九○年に麻布学園に

奉職しましたが、鳥越さんは、

その時の同期です。現東京学芸

大学教授の大井田さん、理科の

森本さん、英語の鈴木清さん、

講師では国語の中島さんが一緒

でした。始業式の新人紹介での

「俺が鳥越だ！」という発言は有

名ですが、授業においても、自信

過剰とも思える口吻から、当初は

生徒達との衝突が絶えなかったと

聞きます。同期の中で最年少だっ

た彼に対して、我々も少々危なっ

かしい思いを抱いていたのも事実

です。しかし、あの態度は、自信

のなさの裏返しであるということ

も分かっておりましたし、彼もそ

れを自覚し、それを埋めるべく努

力を重ねるうちに、その持ち前の

情熱と行動力を生徒達も理解する

ようになり、やがて、公私ととも

に信頼される教員としての存在を

獲得していきました。その後は、

麻布の教員として、授業や校務分

掌に全力を傾け、また西洋史や歴

史教育の研究者として、いくつか

の大学の講師を努め、さまざまな

メディアで執筆するなど、その活

躍は枚挙に暇はありません。家庭

では家族と酒を愛するよき夫であ

り、父であり、その意味でまさに

理想的な存在でもありました。

　彼との個人的な思い出はほとん

ど酒がらみです。同期で一緒にス

キーに行ったり、校務分掌やクラ

ブ顧問その他で一緒に仕事をした

りして、よく飲み、語り合ったも

のです。詳しい時期は忘れました

が、まだ二、三年目のころに、「言

葉」について些細な議論をしたこ

とがあります。要は「言葉」を信

頼しているか否かということで、

彼は言葉に対する信頼があるか

らこそ、言葉を用いて思いを他

者に伝えようとし、私は逆に言

葉に対する不信から、言葉を用

いつつも、言葉で表せない思い

の存在を伝えようとする、とい

う議論とも思われない、一種の

蒟蒻問答で、まあ、酒の席での

座興でありました。しかし、私

は今でもその考えは変わってい

ません。芭蕉の言う「謂いおほ

せてなにかある」（『去来抄』）。

言葉で全て表現してしまうこと

に何の意味がある。言葉で表現

できない思いの存在があるから

こそ、それに対して何とか言葉

を紡ぐ。これは私に限らず、「文

学」に携わっている者の共通の

思いであるでしょう。その意味

において、この文章はその極み

にあります。この拙い文章で何

を伝えたいのか、自分でも分か

らなくなってきました。ただ、

鳥越さんに対する名状できない

思いを言葉にしようとする営為

を通じて、鳥越さんに対して何

かが伝わり、そしてそれが少し

でも彼の鎮魂になれば、と願っ

ていることは確かです。と同時

に、今の自分自身に対するせめ

てもの慰めでもあります。

　思いはまだまだ尽きませんが、

改めて、「言葉」にいたします。

　鳥越さん、ありがとう、そし

て安らかに。

麻布の丘に 第17号　(8)2014（平成26）年10月15日

　昨年一〇月より着工しました新

体育館建設工事は、二〇一五年三

月末の完成に向けて順調に進み、

全工程の四五％を終え、グラウン

ド北側に偉容を示し始めました。

（彦坂）

地下一階

柔道場・剣道場・ロッカー室・

多目的教室３・給湯室・男子ト

イレ

一階ア

リーナ・器具庫・男子トイ

レ・女子トイレ・女子シャワー

室・ハンディキャップトイレ

二階運

動部部室・倉庫・男子トイ

レ・男子シャワー室・防災備蓄

庫・グラウンド用倉庫

三階ラ

ンニングコース・体育教員室

四階（屋上）

テニスコート２・（ハンドボー

ルコートＳサイズ）・物置

学園事務室から

募金ご協力の御礼

　二〇一三年一〇月以降、募金に

ご協力下さった卒業生と学園関係

者の皆様を左記のとおりご報告致

します。ご協力ありがとうござい

ました。（敬称略）

○教育施設維持

　　　　改善の為の寄付金

都筑　吉彦（昭28卒）

　なお、在校生保護者の皆様につ

きましては、ＰＴＡ新聞折込で別

途報告いたします。

○麻布学園奨学金

齋藤　祐治（昭32卒）

昭和四五年卒同期会

麻布学園ＰＴＡ　

（二〇一三年度）

麻布学園ＰＴＡ

（行事部門リサイクル）

麻布学園二〇一三年度

高三学年会

麻布学園二〇一三年度

高二学年会

〔麻布学園寄付金口座〕

○麻布学園教育施設維持

改善の為の寄付金口

ゆうちょ銀行

（専用振込取扱票をご用意

しております。）

00120-5-186313

三菱東京ＵＦＪ銀行

六本木支店

　普通預金　0

653228

○麻布学園奨学貸付金口

三菱東京ＵＦＪ銀行

六本木支店

　普通預金　1

522117

○麻布学園新校舎建築積立金

三菱東京ＵＦＪ銀行

六本木支店

　普通預金　1

476863

この他に「賛助制度」と「新体

育館建設資金」に係わる寄付を

受けつけております。詳しくは

事務室宛にお問合せ下さい。

引き続き宜しくお願いいたしま

す。

　「麻布の丘に」広報委員会

彦坂昌宏（工芸・理事）・太

田隼（数学）・佐久間道則（理

科）・杉山雅彦（国語）・増永

英夫（英語）・山田昭（事務

長）・宮崎健司（事務）

　題字・星野新次郎（書道）

◇「麻布の丘に」第一七号を

お届けします。編集委員で

あった国語科の廣瀬武久先生

が退職され、今号より数学科

若手の太田隼先生が編集委員

に加わりました。発行の理念

である「過去・現在・未来の

麻布を結ぶ」広報誌として、

卒業生、在校生及び保護者、

そして麻布への入学を希望す

る方々にお届けいたします。

　大変残念なことに、社会科

教員で「麻布の丘に」の編集

委員でもあった鳥越先生が、

生徒引率中の韓国で、心停止

のためにお亡くなり、追悼文

を掲載することになりまし

た。鳥越先生が学園の教育の

ために尽力くださったことに

深く感謝すると共に、心より

ご冥福をお祈りしたいと思い

ます。�

（彦坂）

新体育館建設工事の進捗状況

地下一階の柔道場、剣道場、多目的室の躯体工事