1 序論...1 序論 1.1 例 1.1.1 熱の伝導...
TRANSCRIPT
1 序論
1.1 例
1.1.1 熱の伝導
針金の熱の伝導について、その満たす方程式を考える。針金の温度をuとすると、uは針金の位置 xと時間 tの関数 u(x, t)になる。いま、位置の座標 x1から x2まで、時刻 t1から t2までの温度の変化を
考える。針金の断面積を S、針金の密度を ρとすると、xから x + △xまでの質
量△V は△V = ρS △ xであり、また、時刻 t1から t2までの温度の変化△uは、
△u = u(x, t2) − u(x, t1)...(1)
と表される。従って、この間の△V の部分の熱量の増加量△Qは,σを比熱として、
△Q = σ △ u △ V = σ △ u(ρS △ x) = σρS △ u △ x
= σρS{u(x, t2) − u(x, t1)} △ x = σρS
∫ t2
t1
∂u
∂s(x, s)ds △ x...(2)
である。従って、区間 x1 ≤ x ≤ x2での時間 t1から t2迄の間の熱の増加量Qは、
Q = σρS
∫ x2
x1
∫ t2
t1
∂u
∂s(x, s)dsdx...(3)
となる。一方、針金の両端からの熱の流入は、熱伝導率を kとして、
kS∂u
∂x(x2, t) − kS
∂u
∂x(x1, t)...(4)
だから、この間の熱の流入量Q′は
Q′ =
∫ t2
t1
{kS∂u
∂x(x2, s)−kS
∂u
∂x(x1, s)}ds = kS
∫ t2
t1
∫ x2
x1
∂
∂x(∂u
∂x(x, s))dxds...(5)
となる。
1
関係式 (2), (5)とQ = Q′から、
σρS
∫ x2
x1
(
∫ t2
t1
∂u
∂s(x, s)dsdx = kS
∫ t2
t1
∫ x2
x1
∂
∂x(∂u
∂x(x, s))dxds...(6)
即ち、 ∫ t2
t1
∫ x2
x1
{∂u
∂s− k
σρ
∂2u
∂x2}dxdt = 0...(7)
が全ての、t1, t2, x1, x2に対して成り立つ。このことから、
∂u
∂t−c∂2u
∂x2= 0...(8)
(c =k
σρ)
が成り立つことがわかる。J
1.1.2 最小エネルギーの問題
平面(または、空間)の中のある領域、例えば、円(または、球)をG
とし、Gの境界 Sをとする。いま、集合 F を次のように決める。
F = {v ∈ C1(G); v|S = f},
集合(関数の集まり、関数族という)F は G = G ∪ S上で連続的に微分が可能で、境界 Sの上では、指定された関数 f と等しい関数全体の集まりである。
F に属する関数 vに対して、
E(v) =
∫G
|∇v|2dv =
∫G
{v2x + v2
y + v2z}dv,∇v = (vx, vy, vz)
とおき、「E(v)を最小にする関数 uを求める」
ことを考えよう。但し、平面の場合は、∇v = (vx, vy), |∇v|2 = v2x + v2
yである。いま、仮に uが E(v)を最小にしているとする。関数 φを境界上で 0
になり何回でも微分できる関数とする。また tを勝手な実数とする。こ
2
のときに、関数 u + tφは集合 F に入っていることに注意しよう。いま、F (t) = E(u + tφ)とおき変数 tの関数と考えると、この関数は t = 0で最小値を取る。従って、
dF
dt |t=0= 0...(1)
ところが、
F (t) =
∫G
|∇(u + tφ)|2dv
=
∫G
(|∇u|2 + 2t∇u · ∇φ + t2|∇φ|2)dv...(2)
だから、(1), (2)より ∫G
∇u · ∇φdv = 0...(3)
よって、ガウスの定理から、”関数uが二階微分可能”ならば *、∫G
φ △ udv = 0...(4)
(ここで、△u = uxx + uyy + uzz(平面の場合は、△ u = uxx + uyy))が境界上 0でになり、何回でも微分できる任意の関数 φに対して成り立つ。従って、
△u = 0...(5)
がGで成り立つ。(注意)関数 uは関数族 F に入れば良いので、関数 uの正則性(滑ら
かさ)はC1−連続性を仮定して出発した。しかし、ここでガウスの定理を用いる為にはC2−連続性が必要になって少しギャップがある。この間の事情については、ここでは、細かい議論は避け、詳しくは第4章楕円型偏微分方程式で検討しよう。ここで、(3)から (4)を導くのに用いたガウスの定理を説明しておこう。
まず、φ △ u + ∇φ · ∇u = ∇ · (φ∇u)...(6)
が成り立っているから、
3
∫G
(φ △ u + ∇φ · ∇u)dv =
∫G
∇ · (φ∇u)dv...(7)
ここで、ガウスの定理∫G
div(a)dv =
∫S
n · ads...(8)
を用いると ∫G
(φ △ u + ∇φ · ∇u)dv =
∫S
n · φ∇uds...(9)
よって、φ|S = 0と (3)により、∫G
φ △ udv = 0
がでる。J(注意)複素関数論で学ぶように、正則関数 w = w(x, y) = u(x, y) +
iv(x, y)の実部 u(x, y)、虚部 v(x, y)は何れも調和関数である.
(注意)これ以外に、次に挙げるように、偏微分方程式は工学、自然科学の様々な分野で表れる。1.振動方程式(1)弦の振動:utt = cuxx
(2)膜の振動: utt = c △ u, (△u = uxx + uyy)
(3)地震:utt = c △ u, (△u = uxx + uyy + uzz)
2.時間によらない電磁場:△u = c
3.量子力学に現れる方程式(1)シュレヂンガー方程式:−
2m△ u + V u = Eu,
h = 2π ;プランク定数 , V = V (x, y, z);ポテンシャル ,m;質量 , E;エネルギー固有値(2)バーガーズ方程式:ut + uxu = υuxx
(3)KdV方程式 : ut + uxu = −µuxxx
4.流体の方程式:
(E)ρ( ∂∂t
+ v · grad)v = ρK − gradp, v = (v1,v2, v3),
K = (K1,K2, K3);外力, ρ;密度(C)∂ρ
∂t+ div(ρv) = 0
(S)∂s∂t
+ (v · grad)s = 0, s;エントロピー(p)p = p(ρ, s)
4
(注意)二階の偏微分方程式は、大きく (i)楕円型、(ii)放物型、(iii)双曲型の3種類に分類され、それぞれの最も代表的な方程式は、(i)uxx+uyy = 0
(2次元)、(ii)ut = kuxx(空間1次元)、(iii)utt = c2uxx(空間1次元)である。
1.2 偏微分方程式の解
1次元の波動方程式utt = c2uxx...(1)
の解を変数変換で求め、偏微分方程式の解の様子について概観しよう。
ξ = x + ct, η = x − ct
と変数変換を行うと、
ut = cuξ − cuη, ux = uξ + uη
utt = c2(uξξ − uξη − (uηξ − uηη)) = c2(uξξ − 2uξη + uηη),
uxx = (uξξ + uξη + uηξ + uηη) = (uξξ + 2uξη + uηη),
だから、もとの方程式に代入すると、
c2(uξξ − 2uξη + uηη) = c2(uξξ + 2uξη + uηη)
従って、ξ, ηに関しては方程式が
uξη = 0...(2)
となる。方程式 (2)を
(uξ)η = 0...(3)
と書き直して、uξは ξだけの関数になり、
uξ = h(ξ)...(4)
とおける。
h(ξ)の原始関数を f(ξ)とおくと、(4)から
(u(ξ, η) − f(ξ))ξ = 0
5
となり、u(ξ, η) − f(ξ) = g(η)
従って、u(ξ, η) = f(ξ) + g(η)
となって解はu(x, t) = f(x + ct) + g(x − ct)...(5)
と書ける。Jここで、(5)では、2つの関数 f, gは殆んど任意に取ることができることに注意しよう。通常の2階の常微分方程式の解は、2つの任意定数を含みそれらの任意定数は、多くの場合は初期条件によって一意に決まる。それに対して、上の例は、解が任意の関数を含むことがわかる。この場合にも、任意の関数を決定するのは、やはり「初期条件」であることを見よう。方程式が (1)の場合初期条件は次のようになる。それは、時刻 t = 0で
の、各点 xにおける弦の張り具合と、各点で弦に懸かる力(初速度)である。式で書こう。
u(x, 0) = φ0(x),−∞ < x < ∞, ...(6)
ut(x, 0) = φ1(x),−∞ < x < ∞...(7)
(5), (6)から
f(x) + g(x) = φ0(x),−∞ < x < ∞...(8)
を得る。次に (5), (7)から
cf ′(x) − cg′(x) = φ1(x),−∞ < x < ∞
積分して、
f(x) − g(x) =1
c
∫ x
0
φ1(s)ds + C,−∞ < x < ∞...(9)
(8), (9)から、
6
f(x) =1
2{φ0(x) +
1
c
∫ x+ct
0
φ1(s)ds + C}
g(x) =1
2{φ0(x) − 1
c
∫ x−ct
0
φ1(s)ds − C}
よって、(5)により、
u(x, t) = f(x + ct) + g(x − ct)
=1
2{φ0(x + ct) +
1
c
∫ x+ct
0
φ1(s)ds + C} +1
2{φ0(x − ct) − 1
c
∫ x−ct
0
φ1(s)ds − C}
=1
2{φ0(x + ct) + φ0(x − ct)} +
1
2c
∫ x+ct
x−ct
φ1(s)ds...(10)
J
波 動 方 程 式の 解 の 有 限 伝 幡 性 (10)の解の表現から、以下の
ことがわかる。(1)φ1(x) = 0の場合は、位置 x = x0で時刻 t = t0に観察する波は
初期条件 φ0の点 (x = x0 − ct0, t = 0)における振動(前進波)と,初期条件 φ0の点 (x = x0 + ct0, t = 0)における振動(後進波)の 2つだけである。2点 (x = x0 − ct0, t = 0)と (x = x0 + ct0, t = 0)を点 (x = x0, t = t0)
の決定領域という。このことは、言い換えれば、点 x = X0における時刻 t = 0での振動は
x − t平面で、点 (x = X0, t = 0)を通る傾き 1cと−1
cの二本の直線に沿っ
て伝わる。この直線上の点を点 (x = X0, t = 0)の影響領域という。(2)φ0(x) = 0の場合は、位置 x = x0で時刻 t = t0に影響を与える
波は初期条件 φ1の区間点 x0 − ct0 ≤ x ≤ x0 + ct0, t = 0における値である。このことは、言い換えれば、点 x = X0における時刻 t = 0での φ1の値は x− t平面で、点 (x = X0, t = 0)を通る傾き 1
cと−1
cの二本の直線で
囲まれた領域(角領域)に影響する。これらの事実を、波動方程式の解の有限伝幡性という。
7
2 双曲型偏微分方程式 (I)
2.1 解法(1次元の場合)
ここでは、有限の長さ lを持つ弦の振動の方程式を、フーリエ級数の手法を用いて解く。問題は以下のようである。点 x、時刻 tにおける弦の振動の高さ uをとすると、u = u(x, t)である。uの満たす方程式は
utt = c2uxx, 0 < x < l, 0 < t...(1)
であり、弦の両端が固定されているとすると、uは 2つの条件
u(0, t) = u(l, t) = 0, 0 < t...(2)
を満たすことになる。これを、境界条件という。次に時刻 t = 0での弦の状態と弦の各点での力(初速度)を与える。
u(x, 0) = f(x), ut(x, 0) = g(x), 0 < t...(3)
これを初期条件という。以下は、条件 (2), (3)のもとで方程式 (1)を考える。この問題を変数分離の方法で解こう。その為に
u(x, t) = U(x)T (t)...(4)
とおいて、(1)に代入すると、
X(x)T ′′(t) = c2X ′′(x)T (t)
これから、
T ′′
c2T=
X ′′
X= −λ...(5)
を得る。
最初に
8
X ′′ + λX = 0...(6)
を解こう。これは、定数係数斉次常微分方程式だから、以下に示すように解くことができる。特性方程式は
ρ2 + λ = 0
だから、次の3つの場合に分けて考えよう。(i)λ = 0の場合 (6)から
X = Ax + B
で境界条件X(0) = X(l) = 0
に注意すると、
A = B = 0
となり、X ≡ 0
が解になる。(ii)λ < 0の場合ρ = ±√−λは実数になって、基本解は指数関数 e
√−λx, e−√−λxになる。
よって、X = Ae
√−λx + Be−√−λx
とおいて、再び境界条件
X(0) = X(l) = 0
から、A,Bは連立方程式{A + B = 0
Ae√−λl + Be−
√−λl = 0
を満たす。ところが、この連立微分方程式の解は係数行列の行列式の値が∣∣∣∣∣ 1 1
e√−λl e−
√−λl
∣∣∣∣∣ = e−√
(−λ)l − e√
(−λ)l = 0
9
だから、A = B = 0
となり、X ≡ 0
となる。最後に(iii)λ > 0の場合ρ = ±√−λ = ±√
λiは純虚数になって、基本解は三角関数cos√
λx, sin√
λx
となる。よって、
X = A cos√
λx + B sin√
λx
とおいて、再び境界条件
X(0) = X(l) = 0
から、 {A = 0
A cos√
λl + B sin√
λl = 0...(7)
ここで、もし、B = 0ならば、X = 0となり、このときには、u(x, t) =
X(x)T (t) = 0となる解しか得られない。それ以外の解をこの方法で得る為には、B = 0でなければならない。その為には、(7)から、
sin√
λl = 0
が必要である。よって、 √
λl = nπ, (n = 0, 1, ..., )
となる。従って、
λ = (nπ
l)2, (n = 0, 1, ..., )...(8)
でX = B sin
nπ
lx, (n = 0, 1, ..., )
が解になる。
10
以後、Xn = Bn sin
nπ
lx, (n = 0, 1, ..., )...(9)
と書く。(8)を固有値、(9)を固有関数という。(8)を (5)に代入すると、T (t)の満たす方程式は
T ′′(t) + (cnπ
l)2T (t) = 0
となる。この方程式の特性方程式は
ρ2 + (cnπ
l)2 = 0
であり、特性解はρ =
cnπ
li
だから、一般解は
Tn(t) = Cn coscnπ
lt + Dn sin
cnπ
lt, (n = 0, 1, ..., )...(10)
と書ける。(9), (10)から解 uは
u = un = Bn sinnπ
lx(Cn cos
cnπ
lt + Dn sin
cnπ
lt), (n = 0, 1, ..., )...(11)
となる。次に、初期条件を考慮して、解 uを unの無限和で
u =∞∑
n=o
sinnπ
lx(an cos
cnπ
lt + bn sin
cnπ
lt)...(12)
と書く。ここで、改めて初期条件より、u(x, 0) = f(x)だから (12)で t = 0とお
いて、
f(x) =∞∑
n=o
an sinnπ
lx...(13)
となる。
11
ここで、関数 f(x)を全空間に拡張しておこう。まず、区間 [−l, 0]には、関数が奇関数になるように拡張する。つまり、
f(x) = −f(−x),−l ≤ x ≤ 0
とする。(注意)この為には、予め関数 f(x)に条件「f(0) = 0」を課しておく
必要がある。この条件は一方の境界条件から自然に要請されるべき条件(これを整合条件という)である。次に、周期 2lで−∞ < x < ∞の範囲に拡張しておこう。このように、拡張しておけば、関係式 (13)が成り立つためには、定数 anを
an =1
l
∫ l
−l
f(x) sinnπ
lxdx, (n = 1, .., )...(14)
とすればフーリエ級数の理論から (13)が成立する。つぎに、初期条件によって、ut(x, 0) = g(x)だから (12)で両辺を tで微
分して、t = 0とおいて、
ut =∞∑
n=o
sinnπ
lx(−an(
cnπ
l) sin
cnπ
lt + bn(
cnπ
l) cos
cnπ
lt)
g(x) =∞∑
n=o
bn(cnπ
l) sin
nπ
lx = −c
∞∑n=o
bn(cosnπ
lx)′
従って、 ∫ x
0
g(s)ds = −c∞∑
n=o
bn cosnπ
lx...(15)
が成立するように係数 bnが取れれば良い。その為には、G(x) =∫ x
0g(s)ds
とおいて、関数G(x)を全空間に拡張しておこう。まず、区間 [−l, 0]には、関数が偶関数になるように拡張する。つまり、
G(x) = G(−x),−l ≤ x ≤ 0
とする。次に、周期 2lで−∞ < x < ∞の範囲に拡張しておこう。このように、拡張しておけば、関係式 (15)が成り立つためには、定数 bnを{
b0 = 1−2cl
∫ l
−lG(x)dx
bn = 1−cl
∫ l
−lG(x) cos nπ
lxdx, (n = 1, ..., )
...(16)
12
とすればフーリエ級数の理論から (15)が成立する。(14)と (16)で決めた anと bnを (12)に代入して、解 uが決まった。解
の形を見易くするために、三角関数の積を和に直す公式を用いると
u =∞∑
n=o
sinnπ
lx(an cos
cnπ
lt + bn sin
cnπ
lt)
=∞∑
n=o
(an sinnπ
lx cos
cnπ
lt + bn sin
nπ
lsin
cnπ
lt)
=∞∑
n=o
(an1
2{sin nπ
l(x+ct)+sin
nπ
l(x−ct)}−bn
1
2{cos
nπ
l(x+ct)−cos
nπ
l(x−ct)})
=1
2{f(x + ct) + f(x − ct)} +
1
2c{G(x + ct) − G(x − ct)}
=1
2{f(x + ct) + f(x − ct)} +
1
2c
∫ x+ct
x−ct
g(s)ds...(17)
最後の解の形で、これが方程式、境界条件及び初期条件を満たすことは、簡単に点検出来るだろう。J(注意)上の解法は、問題の境界条件として弦の両端 x = 0, x = lが共に固定されている場合 u(0, t) = 0, u(l, t) = 0を扱っている。境界に与える条件としては、他に例えば、端が自由に動く(上下に)ような場合は、そこでの条件は ux = 0として与えられる。(問題1)1.上の問題で、端での条件をこれらに換えた場合どのような解が得られるのか考察してみよ。2.(17)の形のu = u(x, t)が、境界条件(2)、初期条件(3)を満たす方程
式(1)の解であることを確かめよ。
2.2 解のデータに対する連続性
前節の例について、最後の解の形を見れば、初期条件に対して解が連続的に変化することは(詳しくいえば、初期値が少し変化したときに、解は少ししか変化しないことは)容易にわかる。一般に初期条件や境界条件は観測された値なので、それは誤差を含んでいると考えられる。初期
13
値や境界値の少しの変化で解が大きく変化する場合は、実際の現象を解明する場合に不適当であろう。次に挙げる例は、そのような例の 1つである。例.関数 u = u(x, t)を範囲 (t > 0,−∞ < x < ∞)で考える。uは方程式
utt + uxx = 0...(1)
と初期条件
u(x, 0) = 0, ut(x, 0) =1
nksin nx...(2)
を満たすとする。この時に、
u(x, t) =1
nk+1(ent − e−nt
2) sin nx...(3)
は解になる。理由は
ut(x, t) =1
nk+1(nent + ne−nt
2) sin nx =
1
nk
(1
2ent +
1
2e−nt
)sin nx...(4)
だから、
utt(x, t) =1
nk−1
(1
2ent − 1
2e−nt
)sin nx
また、
ux(x, t) =1
nk+1(ent − e−nt
2)n cos nx =
1
nk
(1
2ent − 1
2e−nt
)cos nx
だから、
uxx(x, t) = − 1
nk
(1
2ent − 1
2e−nt
)n sin nx = − 1
nk−1
(1
2ent − 1
2e−nt
)sin nx
よって、(1)が成り立つ。また、(3)から
u(x, 0) = 0
また、(4)から
ut(x, 0) =1
nksin nx
よって初期条件をみたす。
14
この時に、
|ut(x, 0)| =1
nk| sin nx| ≤ 1
nk→ 0, (n → ∞)...(5)
が成り立っているが、
u(π
2n, t) =
1
nk+1(ent − e−nt
2) sin
π
2=
1
nk+1(ent − e−nt
2) → ∞, (n → ∞), t > 0...(6)
である。(5), (6)から、この方程式の解は、初期条件が nと共に 0に近づいてい
るにも拘わらず、点 ( π2n
, t)では、解が限りなく大きくなっている。従って、解はデータについて連続的に変化しない。J
2.3 解の一意性について(1次元の場合)
次に問題になるのは、得られた解が本当に現象を記述しているのかどうかを調べることである。言い換えれば、得られた解以外に他の解があるのかそうでないのかともいえる。このことを、解の一意性という。以下では、前々節で得られた解の一意性に関して調べよう。次の定理が成り立つ。
定理 1 次の初期条件 (2)及び境界条件 (3)を満たす方程式 (1)の解は、只1つである。
utt = c2uxx, 0 < x < l, 0 < t...(1)
u(0, t) = u(l, t) = 0, 0 < t...(2)
u(x, 0) = f(x), ut(x, 0) = g(x), 0 < x < l...(3)
(証明)初期条件 (2)及び境界条件 (3)を満たす方程式 (1)の解を u1, u2
として、u = u1 − u2とおく。uは
utt = c2uxx, 0 < x < l, 0 < t...(1)
u(0, t) = u(l, t) = 0, 0 < t...(2)
u(x, 0) = 0, ut(x, 0) = 0, 0 < x < l...(3)′
15
の解になる。いま、
E[u](t) =1
2
∫ l
0
(u2t + c2u2
x)dx
とおこう。
dE[u]
dt(t) =
∫ l
0
(ututt + c2uxuxt)dx
=
∫ l
0
(ututt + c2(uxut)x − c2utuxx)dx
= c2
∫ l
0
(uxut)xdx
= c2[uxut]x=lx=0
= c2{ux(l, t)ut(l, t) − ux(0, t)ut(0, t)}
ここで、x = 0での境界条件 u(0, t) = 0から、tで微分して、ut(0, t) = 0.
同様に、u(l, t) = 0から ut(l, t) = 0.
よって、dE[u]
dt(t) = 0
従って、E[u](t) = c
ところが、初期条件 u(x, 0) = 0から xで微分して ux(x, 0) = 0,また、初期条件 ut(x, 0) = 0なので、
E[u](0) = 0
だから、c = 0
故に
E[u](t) = 0
従って、全ての (x, t)に対して
ut(x, t) = ux(x, t) = 0
だから、
16
u(x, t) = C(定数)
ところが、初期条件からu(x, 0) = 0
だから、C = 0
故に,
u(x, t) = 0
が成り立ち定理が証明された。J(注意)境界条件を 2.1.の最後の注意にあるように変えても上の証明
はそのまま正しい。従って、境界条件をそのように変えても解の一意性が成り立つ。
2.4 3次元の場合の解の表示とその性質
ここでは、空間(3次元)の振動方程式を考える。全空間R3 = {(x, y, z);−∞ <
x, y, z < ∞}で考え、方程式と境界条件は以下のようである。utt = c2 △ u,R3, 0 < t
u(x, y, z, 0) = φ1, R3
ut(x, y, z, 0) = φ2, R3
...(I)
但し、△u = uxx + uyy + uzz.
この時に、幾つかの段階に分けて解を求めよう。その為に、問題 (I)に関連した次の問題を考えそれらの解の間に成り立つ以下の主張を準備する。
utt = c2 △ u,R3, 0 < t
u(x, y, z, 0) = 0, R3
ut(x, y, z, 0) = φ2, R3
...(II)
utt = c2 △ u, R3, 0 < t
u(x, y, z, 0) = φ1, R3
ut(x, y, z, 0) = 0, R3
...(III)
17
主張 2 (i)(II)の解 u1、(III)の解 u2に対して u = u1 + u2は (I)の解になる。
(ii)(II)の解 u1を u1 = u[φ2]と表すことにして、u2 = ∂∂t
(u[φ1])とおくと u2は (III)の解になる。
うえの主張のうちで、(i)は殆ど明らかであろう。以下で (ii)の証明を与えよう。(証明)まず、u[φ1]は (II)で、φ2をφ1で変えるから、次の方程式、初期条件を満たす。
(u[φ1])tt = c2 △ u[φ1]...(1)
u[φ1](x, y, z, 0) = 0...(2)
(u[φ1])t(x, y, z, 0) = φ1...(3)
(1)の両辺を tで微分して、
((u[φ1])t)tt = c2 △ (u[φ1])t
となり、(u2)tt = c2 △ u2
が成り立つ。つまり、u2は方程式の解である。次に、(3)によって u2は次の初期条件を満たす
u2(x, y, z, 0) = φ1
最後に、(1)から(u2)t = (u[φ1])tt = c2 △ u[φ1]
なので、この式で t = 0とおいて、(2)によって、
(u2)t(x, y, z, 0) = c2 △ u[φ1](x, y, z, 0) = 0
が得られて u2即ち ∂∂t
(u[φ1])が (III)の解であることがわかった。J以上のことから、我々は (II)を解けば良いことになった。以下の主張
で、その解の形を具体的に与えよう。
主張 3 utt = c2 △ u,R3, 0 < t...(1)
u(x, y, z, 0) = 0, R3...(2)
ut(x, y, z, 0) = φ,R3...(3)
...(II)
18
の解は、
u(x, y, z, t) =1
4πc
∫Sct
φ(ξ, η, ς)
ctdS
と与えられる。ここで、Sctは,中心が (x, y, z)で、半径が ctの球面を表す。即ち、
Sct = {(ξ, η, ς); |x − ξ|2 + |y − η|2 + |z − ς|2 = (ct)2}。
また、積分∫
Sct...dSはその曲面上の面積分を表す。
(証明)
u(x, y, z, t) =1
4πc
∫Sct
φ(ξ, η, ς)
ctdS...(4)
が,(1), (2), (3)を満たすことを順に示す。最初に (2)の証明。
|u(x, y, z, t)| = | 1
4πc
∫Sct
φ(ξ, η, ς)
ctdS|
≤ 1
4πc
∫Sct
|φ(ξ, η, ς)|ct
dS
≤ M
4πc
4π(ct)2
ct= Mt → 0, (t → 0)
ここで、M = MaxS1|φ(ξ, η, ς)|と置いた。次に (3)の証明その為に次の変数変換を行う。
ξ = x + αct
η = y + βct
ς = z + γct
...(5)
以後、ξ = (ξ, η, ς), x(x, y, z), α = (α, β, γ)と書くことにする。ここで、αは単位球の球面上σを動く。つまり、|α| = 1が成り立つ。また、dS = (ct)2dσ
に注意しておこう。但し、dσは単位球面上の面積要素である。この変換で、
u(x, y, z, t) =1
4πc
∫σ
φ(x + αct, y + βct, z + γct)
ct(ct)2dσ
=t
4π
∫σ
φ(x + αct, y + βct, z + γct)dσ...(6)
19
となることに注意しておく。(6)を tで微分して、
ut(x, y, z, t)
=1
4π
∫σ
φ(x + αct, y + βct, z + γct)dσ
+ct
4π
∫σ
(αφx(x + αct, y + βct, z + γct) + βφy + γφz)dσ
= I1 + I2...(7)
とおいて、各項について次のように評価する。まず、
|I1 − φ(x, y, z)| =1
4π|∫
σ
{φ(x + αct, y + βct, z + γct) − φ(x, y, z)}dσ|
≤ 1
4π
∫σ
|{φ(x + αct, y + βct, z + γct) − φ(x, y, z)}|dσ
≤ Mct
4π
∫σ
dσ = Mct → 0, (t → 0)...(8)
ここでは、Mct = Max|x′|=ct|φ(x + x′) − φ(x)| と置いた。但し、x =
(x, y, z), x′ = (x′, y′, z′) = (αct, βct, γct)と簡単に書いた。次に、
|I2| ≤ ct
4π
∫σ
|αφx(x + αct, y + βct, z + γct) + βφy + γφz|dσ
≤ ct
4π
∫σ
|∇φ||α|dσ
=ct
4π
∫σ
|∇φ|dσ
≤ ctM
4π
∫σ
dσ = ctM → 0, (t → 0)...(9)
ここでは、∇φ = (φx, φy, φz), |∇φ|2 =√
φ2x + φ2
y + φ2zであり、M = Maxσ|∇φ|
とした。途中で、|α| = 1と不等式
|n∑
j=1
ajbj|2 ≤n∑
j=1
a2j
n∑j=1
b2j(シ ュ ワ ル ツ の不 等 式 )
20
を用いた。(7), (8), (9)から、(3)が示された。最後に、(1)の証明をする。まず、(4), (5)によって、
△u =1
4πc2t
∫Sct
(φxx + φyy + φzz)dS...(10)
また、(6), (7)から、
ut =u
t+
ct
4π(ct)2
∫Sct
(αφx + βφy + γφz)dS
=u
t+
ct
4π(ct)2
∫Sct
n · ∇φdS, n = (α, β, γ),∇φ = (φx, φy, φz)
=u
t+
ct
4π(ct)2
∫Vct
div(∇φ)dV
=u
t+
1
4πct
∫Vct
(φxx + φyy + φzz)dV...(11), div(∇φ) = φxx + φyy + φzz
ここでは、ガウスの公式を用いた。但し、Vctは球の内部である。
しばらく、
I(t) =
∫Vct
(φxx + φyy + φzz)dV
とおこう。更に、(11)を tで微分して、
utt = − u
t2+
ut
t− 1
4πct2I(t) +
1
4πct
dI(t)
dt
= − u
t2+
1
t(u
t+
1
4πctI(t)) − 1
4πct2I(t) +
1
4πct
dI(t)
dt
=1
4πct
dI(t)
dt...(12)
ところが、
I(t) =
∫Vct
(φxx + φyy + φzz)dV
=
∫ ct
0
∫Sρ
(φxx + φyy + φzz)dSdρ
21
だから、
dI(t)
dt= c
∫Sct
(φxx + φyy + φzz)dS
= c4πc2t △ u
= c24πct △ u...(13)
ここでは、(10)を用いた。よって、(12), (13)から、
utt =1
4πct
dI(t)
dt
=1
4πct(c24πct △ u)
= c2 △ u
となって、(1)が示された。J(注意)以上の結果によって、(I)の解 uは
u =1
4πc{∫
Sct
φ1
ctdS +
∂
∂t(
∫Sct
φ2
ctdS)}
=t
4πc2t2
∫Sct
φ1dS +∂
∂t(
t
4πc2t2
∫Sct
φ2dS)
= tMct[φ1] +∂
∂t(tMct[φ2])
と書くことが出来る。この式のことをキリヒホフの公式と呼ぶ。ここで、
Mct[φ]は関数φの”中心が (x, y, z)、半径が ctの球面 Sct”上の平均
を表す。
ここで、
K = {(ξ, η, ς); φ1(ξ, η, ς) = 0,またはφ2(ξ, η, ς) = 0}
と置くとき、点 x = (x, y, z)にいる観測者は、時刻 t1から時刻 t2までの間地震の揺れを観測することになることがわかる。ここで、t1 = 1
cmink∈K dis(k, x), t2 =
1cmaxk∈K dis(k, x)である。このことを、ホイゲンスの原理という。
22
(問題2)上の証明で用いたシュワルツの不等式
|n∑
j=1
ajbj|2 ≤n∑
j=1
a2j
n∑j=1
b2j
の証明をせよ。
二次元の場合の注意 ここでは、二次元の振動方程式の解について、上で得られた三次元の場合の結果を用いて調べよう。最初に方程式と初期条件は以下のようである。
u = u(x, y, t),−∞ < x, y < ∞, 0 < t,
utt = c2 △ u,
u(x, y, 0) = φ1,
ut(x, y, 0) = φ2
...(1)
但し、△u = uxx + uyyである。この問題の解u = u(x, y, t)は、形式的に変数 zを付け加えることによっ
て、三次元の波動方程式の初期値問題(I)の解になっている。従って、上の結果から、キリヒホフの公式が成り立つので、
u(x, y, t) = tMct[φ1] +∂
∂t(tMct[φ2])
=t
4πc2t2
∫Sct
φ1dS +∂
∂t(
t
4πc2t2
∫Sct
φ2dS)
となる。ここで、曲面 Sct上の面積分は関数 φ1及び φ2が変数 zを含まないことから、x− y平面上の二重積分に変えることが出来る。最初に曲面Sct上の面積要素 dSと x − y平面上の面積要素 dDとの間には、関係式
dS = | cos γ|dD
が成り立つことに注意しよう。ここで、γは曲面 Sct上の単位法線ベクトル nが z軸の正の方向となす角であり、今の場合は、曲面の方程式が
(x − ξ)2 + (y − η)2 + (z − ζ)2 = c2t2
であるので、
F = (x − ξ)2 + (y − η)2 + (z − ζ)2 − c2t2
23
として、Fx = 2(x − ξ), Fy = 2(y − η), Fz = 2(z − ζ),
から、
cos γ =Fz√
F 2x + F 2
y + F 2z
=z − ζ√
(x − ξ)2 + (y − η)2 + (z − ζ)2
=z − ζ
ct
=
√c2t2 − (x − ξ)2 − (y − η)2
ct
と計算される。このことを、上の公式に代入すれば、解の表現は
u(x, y, t)
=t
4πc2t2
∫Dct
2ctφ1(ξ, η)√c2t2 − (x − ξ)2 − (y − η)2
dD
+∂
∂t(
t
4πc2t2
∫Dct
2ctφ2(ξ, η)√c2t2 − (x − ξ)2 − (y − η)2
dD)
=1
2πc{∫
Dct
φ1(ξ, η)√c2t2 − (x − ξ)2 − (y − η)2
dD
+∂
∂t(
∫Dct
φ2(ξ, η)√c2t2 − (x − ξ)2 − (y − η)2
dD)}...(2)
となる。ここで、Dctはx−y平面上の中心が (x, y)、半径が ctの円を表す。
最後の解の表現から、三次元の場合と同じように、K = {(ξ, η); φ1(ξ, η) =0,またはφ2(ξ, η) = 0}と置くとき、点 x = (x, y)にいる観測者は、最初に時刻 t1で地震の揺れを観測すると、それ以降揺れを感じ続けることになることがわかる。ここで、t1 = 1
cminK dis(K, x)である。
(注意)このように2次元の場合は、ホイゲンスの原理が成り立たないことがわかる。
24
3 放物型方程式 (I)
3.1 解法(1次元の場合)
長さが有限、例えば1の針金の熱の伝導を記述する熱方程式、または拡散方程式を前節と同様の方法(フーリエ級数の方法)で解こう。熱(温度)uは、観測する位置(空間座標、今は1次元なので x, 0 < x < 1)と時間 t(t > ∞)によって決まるので、u = u(x, t)と書ける。最初に方程式は、
ut = uxx, 0 < x < 1, t > ∞...(1)
であり、初期条件(時刻 t = 0での温度の分布)は
u(x, 0) = u0(x), 0 < x < 1...(2)
である。針金の両端で温度が 0に保たれているとする(この場合に端の点を吸
収壁という)と境界条件は
u(0, t) = 0, u(1, t) = 0, t > ∞...(3)
となる。(注意)針金の端(例えば、x = 0)で熱の出入りが無い場合は境界での条件は
ux(0, t) = 0, t > ∞となり、これを反射壁とよぶ。端の点 (x = 1)も反射壁の場合は、境界条件は、
ux(0, t) = 0, ux(1, t) = 0, t > ∞...(3)′
になる。以下は、境界条件 (3)のもとで解を求めるが、条件を (3)′に変えた場合も殆んど同じ計算で解を求め、その解が同じ性質を持つことが証明できる。(解法)前と同様に変数分離法で解く。未知関数uをu(x, t) = X(x)T (t)
とおいて、最初に方程式 (1)に代入すると、
T ′(t)X(x) = T (t)X ′′(x)
25
だから、T ′
T=
X ′′
X= −λ(定数)...(4)
よって、T ′ + λT = 0...(5)
及び、X ′′ + λX = 0...(6)
となる。この時に、境界条件 (3)から、
X(0) = 0, X(1) = 0...(7)
となる。最初に、λ > 0となることを示そう。(6), (7)と部分積分によって、
−λ
∫ 1
0
X2(x)dx =
∫ 1
0
X(x)X ′′(x)dx
= [X(x)X ′(x)]x=1x=0 −
∫ 1
0
(X ′)2(x)dx
= −∫ 1
0
(X ′)2(x)dx ≤ 0
となるからである。従って、(6)の解は
X(x) = A sin√
λx + B cos√
λx
となる。ここで、条件 (7)によって、
B = 0, A sin√
λ + B cos√
λ = 0
であるが、X = 0以外の解を持つためには、
sin√
λ = 0
26
従って、√
λ = nπ, (n = 1, ..., )
λ = (nπ)2, (n = 1, ..., )...(8)
となる。この時に、
X(x) = A sin nπx, (n = 1, ..., )
が境界条件 (7)を考慮した (6)の解である。以下では、
Xn(x) = An sin nπx, (n = 1, ..., )...(9)
と書こう。この時に、(5)と (8)から方程式は
T ′(t) + (nπ)2T (t) = 0
となり、この方程式の解は
Tn(t) = Cne−(nπ)2t, (n = 1, ..., )...(10)
である。(9), (10)から求める解は
un(x, t) = cne−(nπ)2t sin nπx, (n = 1, ..., )...(11)
であるが、ここでこれらの関数の無限和を考える。即ち、
u(x, t) =∞∑
n=0
un(x, t) =∞∑
n=0
cne−(nπ)2t sin nπx
と置こう。この時に、初期条件 u(x, 0) = u0(x)から、
u0(x) =∞∑
n=0
cn sin nπx...(12)
が成り立てば良い。その為には、係数 cnを関数 u0(x)のフーリエ係数に取れば良い。
27
即ち、
cn = 2
∫ 1
0
u0(x) sin nπxdx, (n = 1, ..., )...(13)
と取ろう。その時には、フーリエ級数の理論から (12)が成り立つ。ここで、前と同様に関数 u0(x)は全区間に次のように予め拡張してお
く。最初に、区間 (−1, 1)で奇関数にする。つまり、
u0(x) = −u0(−x),−1 < x < 0
とする。次に、この関数を周期 2で全区間−∞ < x < ∞に拡張するのである。解の吟味このようにして、cnを決めれば、境界条件は満たされるが、次の問題が新たに発生した。即ち、各 nについて関数 un(x, t)は方程式の解であるが、それらの
無限和 u(x, t) =∞∑
n=0
un(x, t)が果たして解であるのか
という問題である。前節では、最後の解の形が見易い形に変形出来たので、実はこの問題は表に出なかったのである。ここでは、これ以上解の形が変形されないので、上の疑問に直接答える必要がでた訳である。問題を整理すると、”各関数が方程式の解である時に、その無限和も解であるか”という問題になる。この答えについては、後期の級数の節で触れる。そこでの結果によれば、一般にはこの問題の答えは否定的であるが、ある条件の基では、肯定的な答えが得られる。話を簡単にするために、1変数関数で考えよう。
主張 4∑∞
n=0 fn(x) = f(x)(収束),∑∞
n=0 f(k)n (x) = fk(x)(一様収束)な
らば、f (k)(x) = fk(x),ここで, f (k)は関数 f の k階導関数を表す。
また、級数の収束の判定条件に関しては、いまは次のことを使う。
主張 5 |fn(x)| ≤ Mn(xに無関係に),∑∞
n=0 Mn(収束)ならば、∑∞
n=0 fn(x)は絶対収束でしかも一様収束である。
さて、問題をいま取り扱っている熱方程式の解に戻して、上の主張を使って調べよう。
28
最初に、フーリエ係数に関する性質から、(13)で決めた各係数 cnについて、
|cn| = |2∫ 1
0
u0(x) sin nπxdx| ≤ 2
∫ 1
0
|u0(x)|dx ≤ K
(n = 1, ..., )
と評価が出来て、上の定数K は nに依存しない。(nに関して一様に取れる)このことを使うと、
|cne−(nπ)2t sin nπx| ≤ Ke−(nπ)2t, (n = 1, ..., )
と評価が出来て、しかも、この右辺の無限和
∞∑n=0
Ke−(nπ)2t, (0 < t0 ≤ t)...(14)
は収束する。故に、主張5によって級数
u(x, t) =∞∑
n=0
cne−(nπ)2t sin nπx, (−∞ < x < ∞, 0 < t0 ≤ t)
の収束は一様で、しかも絶対である。次に、無限和を形式的に tで項別微分して得られる級数
∞∑n=0
−cn(nπ)2e−(nπ)2t sin nπx...(15)
について調べよう。この時に、各項は
| − cn(nπ)2e−(nπ)2t sin nπx| ≤ K(nπ)2e−(nπ)2t, (n = 1, ..., )
と評価され、右辺の無限和
∞∑n=0
K(nπ)2e−(nπ)2t, (0 < t0 ≤ t)...(16)
は収束する。すると、主張5によって級数 (15)の収束は一様で、しかも絶対である。
29
上の 2つから tについて項別微分が許されることが主張4からわかる。同様の議論は、xについての微分に関してもいえて、しかも tと xの
どちらに関する何回の微分についても上の議論は繰り返すことが可能である。従って、無限和 u(x, t) =
∑∞n=0 cne
−(nπ)2t sin nπxは方程式の解であることが保証された。更に、解は tと xのどちらに関しても何回でも微分出来ることもわかった。解がこの性質を持つときに、方程式は smoothing
effectを持つという。前節で扱った振動方程式はこの性質を持たない。上の級数 (14)または (16)の収束に関しては、第n項を cnとおくときに、
cn+1
cn
=Ke−(n+1)2π2t
Ke−(nπ)2t= e−(2n+1)π2t, (n = 1, ..., )
または
cn+1
cn
=K(n+1)2π2e−(n+1)2π2t
K(nπ)2e−(nπ)2t= (
n + 1
n)2e−(2n+1)π2t, (n = 1, ..., )
となり、0 < t0 ≤ tの範囲で、どちらも
limn→∞
cn+1
cn
= 0
となって、級数の収束条件を満たすからである。J
円環(リング)の熱の伝導の方程式 平面上の円環の熱の伝導の問題を考えよう。円の中心を原点 (0, 0)、半径を 1として、ここでの熱の伝導を考える。円周C上の点は、直交座標 (x, y)では、x2 + y2 = 1と書けるが、極座標 (r, θ)を用いれば、(1, θ), 0 ≤ θ ≤ 2π,と書ける。ここで、変数 θをxと換える。その時に、円周上の点P (1, x)での熱の大きさ(温度)uは、点の座標(位置)xと時刻 tに関係して決まるから、u = u(x, t)である。方程式は前と同じように
ut = uxx...(1)
となり、時刻 t = 0における温度の円周上の分布 f(x)が初期条件であるから、初期条件は
u(x, 0) = f(x)...(2)
30
である。境界条件に相当するのは、座標 (1, 0)と (1, 2π)とが表す点は、実際は同一の点であるから、
u(0, t) = u(2π, t), ux(0, t) = ux(2π, t)...(3)
が条件になる。方程式 (1)を初期条件 (2)と境界条件 (3)のもとで、解くことになる。この問題は、上と同様に変数分離の方法で解くことが出来る。途中の計算を簡単に振り返ると、X(x)に関する条件が
X(0) = X(2π), X ′(0) = X ′(2π)...(4)
に変るので、X(x) = A sin√
λx + B cos√
λxとした時の、係数AとBとの関係が
B = A sin√
λ2π + B cos√
λ2π,
√λA =
√λA cos
√λ2π −
√λB sin
√λ2π
となる。このAとBとに関する関係式(連立方程式)が (A,B) = (0, 0)
以外の解を持つためには、係数行列の行列式の値∣∣∣∣∣ sin√
λ2π cos√
λ2π − 1
cos√
λ2π − 1 − sin√
λ2π
∣∣∣∣∣= − sin2 2
√λπ − cos2 2
√λπ + 2 cos 2
√λπ − 1
= −2 + 2 cos 2√
λπ
が 0になることだから、
−2 + 2 cos 2√
λπ = 0, cos 2√
λπ = 1
より、実数 λの条件は、
λ = n2, (n = 0, 1, ..., )...(5)
となる。この時に、Xnは
Xn(x) = An sin nx + Bn cos nx, (n = 0, 1, ..., )...(6)
31
と書ける。以下、T に関する方程式は、上と同様なので
Tn(t) = Cne−n2t...(7)
、だから、上の定理の証明中の (11)に変って、
un(x, t) = e−n2t(an sin nx + bn cos nx), (n = 0, 1, ..., )...(8)
となり、
u(x, t) =∞∑
n=0
e−n2t(an sin nx + bn cos nx)...(9)
が解になる。この時に、係数 an, bnは,初期条件 u(x, 0) = f(x)から、
∞∑n=0
(an sin nx + bn cos nx) = f(x)...(10)
となるので、関数 f(x)のフーリエ係数と取ればよい。a0 = 1
2π
∫ 2π
0f(ω)dω
an = 1π
∫ 2π
0f(ω) cos ωdω, (n = 1, ..., )
bn = 1π
∫ 2π
0f(ω) sin ωdω, (n = 1, ..., )
...(11)
このように係数を決めたときに、(9)が求める解になる。J
3.1.1 2次元以上の場合
平面、または空間の中の領域(例えば、円または球など)をDとして、Dの境界を Sとする。この時に、D内での熱の分布を考える。温度を u
とすると、uは観測する位置 x = (x, y, z),または x = (x, y)と時刻 tとの関数になるから u = u(x, t)である。この場合、uの満たす方程式は
ut = △u...(1)
但し、△u = uxx + uyy + uzz,または△u = uxx + uyyである。
初期条件は、u(x, 0) = u0(x)...(2)
32
であり、境界 S上での条件は最も一般的にして
αu + (1 − α)∂u
∂n= 0...(3)
となる。ここで、∂u∂nは境界 Sの上での単位外向き法線ベクトル n方向へ
の方向微分である。αは境界上の関数 α = α(x)で、0 ≤ α ≤ 1であるとする。境界条件 (3)はRobin条件と呼ばれる。もし、α = 1ならば、境界条件は
u = 0
となりこの時には、Dirichlet条件という。また、α = 0の時には
∂u
∂n= 0
となるがこれをNeumann条件という。一次元の場合と同じように変数分離法で解く。解を u = X(x)T (t)とお
いて、方程式に代入すると、
T ′(t)T (t)
=△X(x)
X(x)= −λ
つまり、
△X + λX = 0...(4)
T ′ + λT = 0...(5)
となる。この時に、境界条件は
αX + (1 − α)∂X
∂n= 0
となる。従って、Xは以下の楕円形方程式の境界値問題の解になる。{
△X + λX = 0
αX + (1 − α)∂X∂n
= 0...(6)
33
最初に、ガウスの定理を使えば、
λ > 0
がわかる。即ち、
−λ
∫D
X2dD =
∫D
X △ XdD = −∫
D
|∇X|2dD +
∫S
X∂X
∂ndC < 0
だからである。ここで、関係式
X △ X = Xn∑
j=1
Xxjxj
=n∑
j=1
(XXxj)xj
−n∑
j=1
(Xxj)2
= div(gradX) −n∑
j=1
(Xxj)2, n = 2 or 3
ガウスの定理及び境界条件 (3)′を使った。以下、この方法が一次元の場合と同じように進められるのは、問題 (6)
が無限個の λn(個有値という)と、それに随伴した無限個の関数 φn(個有関数という)があって、各 nに対して、{
△φn + λnφn = 0
αφn + (1 − α)∂φn
∂n= 0
...(7), (n = 1, ...)
であり、また、いわゆる直交関係∫D
φnφmdx = 0, (n = m)
が成り立つことが必要である。その場合には、方程式 (5)が
T = cne−λnt...(8), (n = 1, ...)
と解けるから無限個の解 un = XnTn = cne−λntφnを重ね合わせて
u =∞∑
n=1
cne−λntφn
34
とおいて、初期条件 u0 =∑∞
n=1 cnφnを満たすように、未知の定数 cnを決める訳である。平面では、領域が円または長方形ならばこのような議論が展開できることが知られている。J
3.2 解の一意性について
得られた解の一意性について考察しよう。計算は殆ど同じなので、3次元の場合を考える。問題は以下のようである。空間内の領域をD、その境界を Sとする。我々の主張は以下の定理である。
定理 6 次の初期値、境界値問題の解は一意である。ut = △u...(1), D, 0 < t
u(x, 0) = u0(x)...(2), D
αu + (1 − α)∂u∂n
= f...(3), S, 0 < t
...(I)
(証明)問題 (I)の解を u1, u2として、u = u1 − u2とおき、u = 0を示せば良い。uは次の問題の解である。
ut = △u...(1), D, 0 < t
u(x, 0) = 0...(2)′, D
αu + (1 − α)∂u∂n
= 0...(3)′, S, 0 < t
...(II)
さて、uに対して
J(t) =1
2
∫D
u2(x, t)dV
とおこう。いま、J(t)を tで微分すると、
dJ(t)
dt=
∫D
u(x, t)ut(x, t)dV =
∫D
u(x, t) △ u(x, t)dV
= −∫
D
|∇u(x, t)|2dV +
∫S
u∂u
∂ndS ≤ 0
35
ここでも 3.1.1のように関係式
u △ u = u
n∑j=1
uxjxj
=n∑
j=1
(uuxj)xj
−n∑
j=1
(uxj)2
= div(gradu) −n∑
j=1
(uxj)2, n = 2 or 3
とガウスの定理、及び境界条件 (3)′を使った。よって、
J(t) ≤ J(0)
ところが、(2)′から、
J(0) =1
2
∫D
u2(x, 0)dV = 0
だから、J(t) = 0
故に、
u(x, t) = 0
が全ての点 (x, t)で成り立つ。J
3.3 最大値の原理(1次元の場合)
熱方程式の解は次の最大値の原理を満たす。定理の主張は空間または平面でも成り立つが、証明を簡単に行う為に1次元で考える。
定理 7 D = {(x, t); 0 ≤ x ≤ l, 0 ≤ t ≤ T}で連続な次の初期値、境界値問題の解は、最大値・最小値を共に Γ = {(x, t); x = 0,または x = l,または t = 0}の上で取る。
ut = uxx, 0 < x < l, 0 < t < T...(1)
u(x, 0) = u0(x), 0 < x < l...(2)
u(0, t) = f(t), u(l, t) = g(t), 0 < t < T...(3)
ここで、T は任意の正数である。
36
(証明)解 uの Dでの最大値をM、Γでの最大値をmとして、いま仮にm < M と仮定する。M を取る点を P0(x0, t0)としよう。すると、
0 < x0 < l, 0 < t0 ≤ T
である。いま、新しい関数 vを
v = u +M − m
4l2(x − x0)
2...(4)
とする。この時に、
v(x0, t0) = u(x0, t0) = M
であり、また Γの上では、
v ≤ m +M − m
4l2l2 = m +
M − m
4=
3m
4+ M < M
だから、関数 vも Γの上では最大値を取らない。いま、vが最大値を取る点を P ∗(x∗, t∗)とすると、
0 < x∗ < l, 0 < t∗ ≤ T
点 P ∗(x∗, t∗)では、不等式
∂2v
∂x2≤ 0...(5),
∂v
∂t≥ 0 (t∗ < T なら
∂v
∂t= 0で, t∗ = T なら
∂v
∂t≥ 0)...(6)
が成り立つ。従って、
∂v
∂t− ∂2v
∂x2≥ 0...(7)
が成り立つ。一方で、
∂v
∂t− ∂2v
∂x2=
∂u
∂t− ∂2u
∂x2− M − m
2l2= −M − m
2l2< 0...(8)
37
、(7), (8)は矛盾であり、最初の仮定m < Mがいけない。つまり、m = M
となって定理の主張が言えた。最小値に関しても殆ど同じように示せる。J
(注意)1.一般に n次元の場合には、上の証明で (5)が
∂2v
∂x2j
≤ 0, (j = 1, ..., n)...(5)′
となり、(7)が
∂v
∂t−△v ≥ 0...(7)′
となる。それは、(8)を
∂v
∂t−△v < 0...(8)′
で変えた不等式とやはり矛盾する。2.上の定理から、Γ上で uが 0の時には、uはD全体で 0になり、解
の一意性もこの定理から出る。3.定理の初期条件u0、境界条件f, gをそれぞれ、u01,f1, g1及びu02, f2, g2
にした場合の解をそれぞれ u1, u2とおくと、次の等式が成り立つ。
MaxΓ{|u01 − u02|, |f1 − f2|, |g1 − g2|} = MaxD|u1 − u2|これは、解のデータに対する連続性を示している。
4 楕円型偏微分方程式
4.1 調和関数(平面の場合)
4.1.1 グリーンの公式
ベクトル解析で学ぶグリーンの公式について述べよう。Dを平面内のある領域(例えば、円など)として、Dの境界を Sと書
く。また、Dの中に部分領域D′を考え、その境界を S ′としよう。まず、関数 uと vとが Dで二回微分可能ならば、計算によって、
38
v △ u + ∇v · ∇u = v(uxx + uyy) + vxux + vyuy
= (vux)x + (vuy)y = div(vgradu)
が得られる。但し、a = (a, b)に対して、diva = ax + byであり、gradf =
(fx, fy)である。この式の両辺をD′で積分して、グリーンの公式を用いると、
∫D′
(v △ u + ∇v · ∇u)dD =
∫D′
div(vgradu)dD
=
∫S′
n · (vgradu)dC
=
∫S′
v∂u
∂ndC..(1)
が得られる。ここでは、n = (n1, n2)は S ′上の各点における単位法線ベクトルであり、 ∂
∂nは、n方向の方向微分である。
上の式で uと vとを交換した式∫D′
(u △ v + ∇u · ∇v)dD =
∫S′
u∂v
∂ndC
から、もとの式を引いて∫D′
(u △ v − v △ u)dD =
∫S′
u∂v
∂n− v
∂u
∂ndC...(2)
を得る。
4.1.2 調和関数と算術平均の性質
△u = 0となる関数を調和関数と呼ぶことにする。最初に次ぎの定理が成り立つ。
定理 8 D内で調和な関数 uは、次の等式を満たす。
u(x, y) =1
πr2
∫Sr
u(ξ, η)dD...(3)
ここで、(x, y)はD内の任意の点であり、Srは (x, y)を中心、半径 rの円でDに入るものとする。
39
(注意)この式が成り立つ時に、関数は算術平均の性質を持つという。(証明)前節の式 (2)で v = 1, D′をDに入る半径 rの円、S ′をその周囲とおけば、
0 =
∫S′
∂u
∂ndC
が成り立つ。C = ρθ, 0 < θ < 2π
と変数変換すると、
dC = ρdθ,∂u
∂n=
∂u
∂ρ
よって、
0 =
∫ 2π
0
∂u
∂ρ(ξ, η)ρdθ = ρ
∂
∂ρ(
∫ 2π
0
u(x + ρ cos θ, y + ρ sin θ)dθ)
従って、
∂
∂ρ(
∫ 2π
0
u(x + ρ cos θ, y + ρ sin θ)dθ) = 0
故に、
∫ 2π
0
u(x + ρ cos θ, y + ρ sin θ)dθ =
∫ 2π
0
u(x, y)dθ = 2πu(x, y)
即ち、
u(x, y) =1
2π
∫ 2π
0
u(x + ρ cos θ, y + ρ sin θ)dθ
この式の両辺に ρを掛けて、ρについて 0 → rまで積分すると、∫ r
0
u(x, y)ρdρ =1
2π
∫ r
0
∫ 2π
0
u(x + ρ cos θ, y + ρ sin θ)dθρdρ
=1
2π
∫ r
0
∫ 2π
0
u(x + ρ cos θ, y + ρ sin θ)ρdθdρ
だから、
40
r2
2u(x, y) =
1
2π
∫ r
0
∫ 2π
0
u(x + ρ cos θ, y + ρ sin θ)ρdθdρ
よって、
u(x, y) =1
πr2
∫ r
0
∫ 2π
0
u(x + ρ cos θ, y + ρ sin θ)ρdθdρ =1
πr2
∫Sr
u(ξ, η)dD
J(注意)この定理は、複素関数論の正則関数についてのコーシーの定理から証明することも出来る。それは、調和関数u(x, y)は正則関数w(x, y)の実部と書ける、詳しくいえば、適当に調和な関数 v(x, y)を選んで、w(x, y) =
u(x, y) + iv(x, y)が正則関数になるように出来る。この正則関数 w(x, y)
に対して、コーシーの積分定理を適用して証明するのである。次に、上の定理の逆が成り立つことを示そう。
定理 9 D内で算術平均の性質を持つ関数uは、D内で調和である。更に、この関数はDで何回でも微分できる。
この定理の証明には、以下の事実を繰り返し用いる。
主張 10 連続な関数 f(x)と、微分可能な関数 φ(x), ψ(x)とに対して、
F (x) =
∫ φ(x)
ψ(x)
f(s)ds
とおくと、F (x)は微分可能で、
dF (x)
dx= f(φ(x))
dφ(x)
dx− f(ψ(x))
dψ(x)
dx
が成り立つ。
この主張の証明は積分と微分の定義に戻って行えば、容易なので、省略する。(定理の証明)関数 uは (3)を満たしているので、
u(x, y) =1
πr2
∫Sr
u(ξ, η)dD
=1
πr2
∫(x−ξ)2+(y−η)2≤r2
u(ξ, η)dξdη
=1
πr2
∫ y+r
y−r
(
∫ x+√
r2−(y−η)2
x−√
r2−(y−η)2u(ξ, η)dξ)dη
41
と書ける。ここで、上の主張を使うと、u(x, y)は xに関して微分可能で
ux(x, y) =1
πr2
∫ y+r
y−r
(u(x +√
r2 − (y − η)2, η) − u(x −√
r2 − (y − η)2, η))dη
=1
πr2
∫ y+r
y−r
(
∫ x+√
r2−(y−η)2
x−√
r2−(y−η)2ux(ξ, η)dξ)dη
=1
πr2
∫Sr
ux(ξ, η)dD
となる。これは、uが xについて一階偏微分微分可能であること、及びその偏導関数 uxも算術平均の性質を持つことを示している。以下これと同じ議論を繰り返せば何回でも微分できることが示せる。次に、関数 uがDで調和であることを示そう。D内の任意の点を P =
P (a, b)とする。いま、Pを中心とする円でDに含まれる半径 rの円Dr(P )
を考えて、Dr(P )内で境界値問題{△v = 0 in Dr(P )
v = u on ∂Dr(P )
を考えその解を vとする。但し、ここで ∂Dr(P )は円Dr(P )の周囲である。(このような境界値問題の解が存在することは、4.2の単位円内の調和関数の節を参照せよ。)この関数 vは、前述の定理8によって算術平均の性質を持つ。よって、仮定によりw = v − uと置くと関数wも算術平均の性質を持つ。後に述べる定理13によれば、算術平均の性質を持つ関数wはDr(P )での最大値・最小値を共に境界 ∂Dr(P )上で取る。ところが、境界 ∂Dr(P )の上では v = u であるから w = 0であり、Dr(P )
での最大値・最小値は共に 0である。従って、v = u がDr(P )全体で成り立ち、△u = △v = 0である。従って、D内で△u = 0が成り立つ。J(注意)上の 2つの定理によれば、熱方程式の場合と同様に、方程式
△u = 0は smoothing effect を持つ。即ち、方程式△u = 0の解 uは、何回でも微分できる。
4.1.3 Dirichletの原理
最初に関数の集まりC(f,D)(関数族という)を定義しよう。
C(f, D) = {v ∈ C1(D); v|S = f}, D = D ∪ S
42
言葉でいえば、D及びその境界 Sで一回連続的微分可能(一階の導関数が連続)で、境界 S上で予め与えられた関数 f と同じ値を取るような関数全体をC(f,D)と置いた。この関数族C(f,D)に属する関数 vに対して、D(v)を以下のように定義する。
D(v) =
∫D
(v2x + v2
y)dD
最初に、調和関数の性質として、次が成り立つ。
定理 11 もし、△u = 0, u|S = f ならば、不等式D(u) ≤ D(v)が関数族C(f,D)に属する全ての関数 vにたいして成り立つ。
(証明)いま、g = v − uとおくと、g|S = 0が成り立っている。関数 uが調和であることからガウスの定理を用いると、
D(v) = D(u + g) =
∫D
((u + g)2x + (u + g)2
y)dD
=
∫D
{(u2x + u2
y) + (g2x + g2
y)}dD + 2
∫D
(uxgx + uygy)dD
= D(u) + D(g) − 2
∫D
g △ udD + 2
∫S
g∂u
∂ndS
= D(u) + D(g)
≥ D(u)
から、定理が示された。J我々の以下の議論で大切なのは、この定理の逆が成り立つことである。即ち、
定理 12 関数族 C(f, D)に属するある関数 uが関数族に属する全ての関数 vに対して、D(u) ≤ D(v)となるならば、関数 uはDで調和になる。
(証明)いま、関数 φを境界 S上で 0になる一階連続的微分可能な関数とすると、任意の実数 tに対して、関数 u + tφは関数族C(f,D)に入る。従って、不等式
D(u) ≤ D(u + tφ) = D(u) + t
∫D
∇u · ∇φdD + t2D(φ)
が恒に成り立つ。
43
ここで、任意の実数 tに対して、この不等式が成り立つ為には、
D(u) + t
∫D
∇u · ∇φdD + t2D(φ) = F (t)
と置いて ,dF (t)
dt |t=0= 0
が成り立つことが必要である。つまり、関係式∫D
∇u · ∇φdD = 0...(4)
が、境界 S上で 0になる一階連続的微分可能な任意の関数 φに対して成り立つ。この式から、もしも関数 uが二階微分可能ならば、ガウスの公式によって uが調和であることは簡単に示すことが出来るが、関数 uはいまのところ一階微分可能な関数であることしか仮定していないので、その論証は不十分である。以下は関係式 (4)で、関数 φを旨く選んで、上の式から関数 uが算術平均の性質を持つことを示す。その時には、前節の定理から、uは何回でも微分できて、しかも調和である。
「(4) → uが算術平均の性質を持つこと」の証明(ξ, η)をD内の勝手な点として、r =
√(x − ξ)2 + (y − η)2と書く。記
号Kτ = {(x, y);√
(x − ξ)2 + (y − η)2 < τ}を導入しよう。その時に、関数 φ = φ(x, y)を次のように決める。
φ(x, y) =
0, ρ < r
12π{log( r
ρ) + 1
2r2( 1
r2 − 1ρ2 )}, ε < r ≤ ρ
12π{log( ε
ρ) + 1
2r2( 1
ε2 − 1ρ2 )}, r ≤ ε
但しKρはKρ ⊂ Dとなる ρ(ρ > 0)である。また、εは任意の正数である。まず、次の幾つかの等式が成り立つことに注意しておこう。ε < r ≤ ρ
では、
∂φ
∂r=
∂
∂r[
1
2π{log(
r
ρ) +
1
2r2(
1
r2− 1
ρ2)] =
1
2π(1
r− r
ρ2)
から、
∂φ
∂r |r=ρ= 0...(5)
44
また、
△φ =1
π(
1
ε2− 1
ρ2), r ≤ ε...(6)
△φ = − 1
πρ2, ε < r ≤ ρ...(7)
一方、この関数に対しても (4)が成り立っているから、∫Kρ
∇u · ∇φdD = 0...(8)
が成り立つ。(8)式を変形して、∫Kρ\Kε
∇u · ∇φdD +
∫Kε
∇u · ∇φdD = 0...(9)
となる。左辺の各項にグリーンの定理を使うと、それぞれ∫Kε
∇u · ∇φdD =
∫r=ε
u∂φ
∂rdC −
∫Kε
u △ φdD...(10)
∫Kρ\Kε
∇u · ∇φdD =
∫r=ρ
u∂φ
∂rdC −
∫r=ε
u∂φ
∂rdC −
∫Kρ\Kε
u△φdD...(11)
が成り立つ。これをもとの式 (9)に代入して、
0 = −∫
Kε
u △ φdD −∫
Kρ\Kε
u △ φdD +
∫r=ρ
u∂φ
∂rdC...(12)
上の関係式の各項に (5), (6), (7)をそれぞれ代入すれば、
0 = − 1
π(
1
ε2− 1
ρ2)
∫Kε
udD +1
πρ2
∫Kρ\Kε
udD
= − 1
πε2
∫Kε
udD +1
πρ2
∫Kε
udD +1
πρ2
∫Kρ\Kε
udD...(13)
が得られる。
45
ここで、εは任意の正数だから、ε → 0の極限を取ると、
limε→0
1
πε2
∫Kε
udD = u(ξ, η)...(14)
limε→0
1
πρ2
∫Kε
udD = 0...(15)
limε→0
1
πρ2
∫Kρ\Kε
udD =1
πρ2
∫Kρ
udD...(16)
だから、(13)~(16)より
u(ξ, η) =1
πρ2
∫Kρ
udD
が得られる。これは、関数が算術平均の性質を持つことを示している。J(問題3)証明の途中の関係式(6), (7)を証明せよ。(Hint:極座標に変数変換して、関係式△ = ∂2
∂r2 + 1r
∂∂r
+ 1r2
∂2
∂θ2 を使え。)
定理 13 (最大値・最小値の原理)領域D内で定数でない調和な関数で、D = D ∪ S(SはDの境界)で連続な関数 uは、最大値・最小値のどちらもDの内部で取らない。従って、Dでの最大値・最小値は、その境界S上で取る。
(証明)いま、関数uが仮にD内の点P で Dでの最大値Mを取るとする。P 以外のD内の任意の点をQとする。P とQとを曲線Cで結ぶ。いま、d = dis(C, S)と置く。但し、dis(C, S) = minx∈C,y∈S |x − y|。Dd(P )
を中心 P、半径 dの円(これは dの決め方からD内に含まれる)とすると、この円Dd(P )に関して算術平均の性質が成り立つことから、円内全ての点で関数の値はM に等しいことがわかる。円Dd(P )と曲線 Cとの交点を P1とし、いまと同じ議論を繰り返せば、円Dd(P1)内の全ての点で関数の値はM に等しい。以下、帰納的にこの議論を繰り返す。有限回の繰り返しで点Qでの値がM に等しいことがわかり、関数 u = M(定数)になる。これは仮定に反する。最小値に関しても同じ議論で証明が出来る。J
(注意)1.熱方程式の場合と同様にこの定理から、平面上の領域をD、その境界を Sとするときに、Dで方程式△u = 0を満たし、境界 S上で境界条件 u|S = fを満たす解 uに関して、解の一意性、解のデータ fに対する連続性が示せる。2.一連の定理によれば、Dirichlet積分を最小にする関数が調和関数
の特徴付けであることになる。
46
4.2 単位円内の調和関数
4.2.1 解法
平面上の中心が原点、半径 rの円をDとおき、円周を Sと置く。つまり、D = {(x, y); x2 + y2 < 1}, S = {(x, y); x2 + y2 = 1}である。ここで、次の境界値問題を考ええよう。{
△u = 0, D...(1)
u = f, S...(2)
問題を極座標 x = r cos θ, y = r sin θに変数変換して考える。この時に、
△u = urr +1
rur +
1
r2uθθ
が成り立つので、方程式と境界条件は、次に変る。{urr + 1
rur + 1
r2 uθθ = 0, 0 < r < 1, 0 ≤ θ ≤ 2π...(1)′
u(1, θ) = f(θ), 0 ≤ θ ≤ 2π...(2)′
この時に、新たに条件
u(r, 0) = u(r, 2π), uθ(r, 0) = uθ(r, 0), 0 < r < 1...(3)′
が加わる。以下では、この問題を変数分離の方法で解く。u = R(r)H(θ)と置くと、(1)′方程式から、
R′′H +1
rR′H +
1
r2RH ′′ = 0...(4)
が得られる。(4)から、
r2R′′ + rR′
R= −H ′′
H= λ
H ′′ + λH = 0...(5),
r2R′′ + rR′ − λR = 0...(6)
となり、
47
最初にHについての方程式
H ′′ + λH = 0...(5)
を境界条件H(0) = H(2π), H ′(0) = H ′(2π)...(7)
のもとで解く。(i)λ < 0の場合。特性方程式 ρ2 + λ = 0は,実数解 ρ = ±√−λを持つので、一般解Hは
H = Ce√−λθ + De−
√−λθ
である。境界条件 (7)より、
C+D = Ce2√−λπ+De−2
√−λπ,√−λ(C−D) =
√−λ(Ce2√−λπ−De−2
√−λπ)
よって、
C + D = Ce2√−λπ + De−2
√−λπ
C − D = Ce2√−λπ − De−2
√−λπ
上の連立方程式の解は、
C = D = 0
だから、
H = 0
(ii)λ = 0の場合
H = Cθ + D
境界条件よりC = 0。よって、
H = D(定数)
(iii)0 < λの場合特性方程式 ρ2 +λ = 0は,純虚数解 ρ = ±√
λiを持つので、一般解Hは
48
H = C cos√
λθ + D sin√
λθ
である。境界条件より、
C = C cos 2π√
λ + D sin 2π√
λ,C(cos 2π√
λ − 1) + D sin 2π√
λ = 0...(8)
√λD = −C
√λ sin 2π
√λ+D
√λ cos 2π
√λ,−C sin 2π
√λ+D(cos 2π
√λ−1) = 0...(9)
この 2つの式をCとDとに関する連立方程式とみて、これが、(C, D) =
(0, 0)以外の解を持つためには、係数行列の行列式の値∣∣∣∣∣ cos 2π√
λ − 1 sin 2π√
λ
− sin 2π√
λ cos 2π√
λ − 1
∣∣∣∣∣= cos2 2π
√λ − 2 cos 2π
√λ + 1 + sin2 2π
√λ
= −2 cos 2π√
λ + 2
が= 0となればよい。従って、
−2 cos 2π√
λ + 2 = 0
だから、
cos 2π√
λ = 1
故に、
√λ = n, (n = 0, 1, ...),
λ = n2, (n = 0, 1, ...)...(10)
この時、H = C cos√
λθ + D sin√
λθから
H = C cos nθ + D sin nθ, (n = 0, 1, ...)
となる。以後、
49
Hn = Cn cos nθ + Dn sin nθ, (n = 0, 1, ...)...(11)
と書こう。(10)を (6)に代入して、
r2R′′ + rR′ − n2R = 0...(12)
以下では、(12)を解こう。(i)n = 0の場合
r2R′′ + rR′ = 0
から、
(rR′)′ = 0
よって、
rR′ = C,
R′ =C
r
だから、
R = C log r + D
この解が原点 (r = 0)でも意味を持つためには、C = 0となる。この時
には、R = D(定数)
(ii)1 ≤ nの場合(11)の解をR = rkの形で kを求める。
R′ = krk−1, R′′ = k(k − 1)rk−2
を代入して、k(k − 1)rk−2r2 + krk−1r − n2rk = 0
従って、kは次の方程式の解である。
50
k(k − 1) + k − n2 = 0
つまり、
k2 = n2, k = ±n...(13)
だから、
R = Crn + Dr−n
この解が原点でも意味を持つためには、D = 0となる。この時には、
R = Crn, (n = 1, ..., )
以下Rn = cnr
n, (n = 1, ..., )...(14)
と書こう。(11), (14)から、次の無限個の解を得る。
un = rn(cn cos nθ + dn sin nθ), (n = 0, 1, ...)
境界条件を考慮して、これらの解の無限和を uとしよう。
u =∞∑
n=0
(cn cos nθ + dn sin nθ)rn...(15)
境界条件 u(1, θ) = f(θ)から、
∞∑n=0
(cn cos nθ + dn sin nθ) = f(θ)...(16)
この等式が成立する為には、未知の係数 cn, dnを
cn =1
π
∫ 2π
0
f(ω) cos nωdω, (n = 1, ..., ),
dn =1
π
∫ 2π
0
f(ω) sin nωdω, (n = 1, ...),
c0 =1
2π
∫ 2π
0
f(ω)dω...(17)
51
とすれば良い。J(注意)(17)で、係数 cn, dnを決めると、フーリエ級数の理論から、もしも f(θ)が連続ならば、(16)の収束は区間 0 ≤ θ ≤ 2πで θに関して一様である。その時には、(15)の級数は、Weierstraussの定理によって区間0 ≤ θ ≤ 2π, 0 < r ≤ 1で θと rに関して一様に収束する。更に、θ及び r
に関して二階まで項別微分して得られる級数は、同じ区間で一様に収束することもわかる。従って (15)の解は調和関数であることがわかる。また、この議論は、何階の微分に関しても適用出来るので、この解は無限回微分可能できることもわかる。
4.2.2 ポアソン核とその性質
前節の解の表示式 (15)に (17)を代入すれば、
u =1
2π
∫ 2π
0
f(ω)dω +1
π
∞∑n=1
(cos nθ
∫ 2π
0
f(ω) cos nωdω + sin nθ
∫ 2π
0
f(ω) sin nωdω)rn
=1
2π
∫ 2π
0
f(ω){1 + 2∞∑
n=1
rn(cos nθ cos nω + sin nθ sin nω)}dω
=1
2π
∫ 2π
0
f(ω)1 − r2
1 − 2r cos(θ − ω) + r2dω
ここで、関係式
1 + 2∞∑
n=1
rn(cos nθ cos nω + sin nθ sin nω) =1 − r2
1 − 2r cos(θ − ω) + r2...(17)
を用いた。以下では、
P (r, θ) =1 − r2
2π(1 − 2r cos θ + r2), 0 ≤ θ ≤ 2π, 0 < r ≤ 1
と書いて P (r, θ)をポアソン核という。この時に、解は
u =
∫ 2π
0
f(ω)P (r, θ − ω)dω
と表現出来る。
52
以下、ポアソン核の性質を挙げる。
(i) limr→1
P (r, θ) = 0, 0 < δ ≤ |θ| < 2π − δ
(ii)
∫ 2π
0
P (r, θ)dθ = 1
(iii)Prr +1
rPr +
1
r2Pθθ = 0, 0 ≤ θ ≤ 2π, 0 < r ≤ 1
これらの性質を使って、次が示せる。
(iv)urr +1
rur +
1
r2uθθ = 0, 0 ≤ θ ≤ 2π, 0 < r ≤ 1
(v) limr→1
u(r, θ) = f(θ)
J
(問題4)1.関係式(17)を示せ。2.ポアソン核の性質(i)~(iii)を示せ。3.上の表示によるuが解であること((iv)、(v))を示せ。
4.2.3 解の一意性
この問題の解の一意性について次の定理が成り立つ。
定理 14 平面上の単位円Dを、その境界を Sとする。次の境界値問題の解はただ 1つ存在する。
(I)
{△u = f, D...(1)
u = g, S...(2)
(証明)問題 (I)の解を u1及び u2として、u1 = u2であることを証明する。u = u1 − u2と置けば、uは次の問題の解である。
(II)
{△u = 0, D...(1)′
u = 0, S...(2)′
53
ここでは関数 u = u(x, y)を極座標 x = r cos θ, y = r sin θで考えて、関数 uに対して、
J(u) =
∫ 1
0
∫ 2π
0
(u2r +
1
r2u2
θ)rdθdr
と置こう。ここで、次の関係式が成り立つことに注意しておこう。
u2r +
1
r2u2
θ = u2x + u2
y
関係式 uθ(r, 0) = uθ(r, 2π), u(r, 0) = u(r, 2π)と境界条件 u(1, θ) = 0を使い、部分積分を用いると、J(u) = 0がわかる。
J(u) =
∫ 1
0
∫ 2π
0
(rurur +1
ruθuθ)dθdr
=
∫ 2π
0
{[ruru]r=1r=0−
∫ 1
0
(rur)rudr}dθ+
∫ 1
0
{[1ruθu]θ=2π
θ=0 −∫ 2π
0
(1
ruθ)θu)dθ}dr
= −∫ 1
0
∫ 2π
0
{(rurr + ur)u +1
ruθθu}
= −∫ 1
0
∫ 2π
0
ru(urr +1
rur +
1
r2uθθ)dθdr
= −∫ 1
0
∫ 2π
0
ru △ udθdr = 0
従って、
ur = uθ = 0,
よって、
u = c(定数)
ところが、u|S = 0
だから、c = 0であり、u = 0
となり、解の一意性が示された。J
54
4.3 ポアソン方程式(一般次元の場合)
最初に、次の関数を定義しよう。
E(x) =
{12π
log |x|, n = 2
− 1(n−2)ωn|x|n−2 , n = 2
...(1) , |x| = (x21 + ... + x2
n)12
但し、ここでは、ωnは n次元の単位球の表面積を表している。まず、計算によって、上の関数は
△E = 0, (x = 0)...(2)
を満たしていることがわかる。(問題5)上の式(2)を証明せよ。次の定理を準備しよう。
定理 15 (i)関数 φ(x)が、関数族C10 に入れば、
φ(x) =
∫Rn
∇E(x − y) · ∇φ(y)dy...(3)
が成り立つ。ここで、関数族C10 は、一階微分可能で、十分に大きな球の
外部では 0になっている関数全体の集まりである。(ii)更に、関数 ψ(x)が、関数族C2
0 に入れば、
ψ(x) =
∫Rn
E(x − y) △ ψ(y)dy...(4)
が成り立つ。ここで、関数族C20 は、二階微分可能で、十分に大きな球の
外部では 0になっている関数全体の集まりである。
(証明)いま、K = {x; φ(x) = 0}または、K = {x; ψ(x) = 0}とし、R
を十分に大きく取ってK ⊂ BR(0)が成り立つようにしておく。但し、ここで、BR(0)は中心が原点で半径がRの球である。BR(0)内の勝手な点を P = P (x)とし、P を中心として、半径 ϵ(十分小さな正数)の球で、BR(0)に含まれるものをBϵ(P )とし、DϵをBR(0)からBϵ(P )を引いたものとする。このDϵに対してガウスの定理を適用しよう。まず、もしも、関数 φ(x)が関数族C1
0 に入れば、ガウスの定理から
55
∫Dϵ
(△yE(x − y)φ(y) + ∇yE(x − y) · ∇φ(y))dD =
∫∂Dϵ
φ∂E
∂ndS...(5)
が成り立つ。次に、もしも、関数 ψ(x)が、数族C2
0 に入れば、ガウスの定理から
∫Dϵ
(ψ(y)△y E(x−y)−△ψ(y)E(x−y))dD =
∫∂Dϵ
(ψ∂E
∂n−E
∂ψ
∂n)dS...(6)
が成り立つ。最初に、(6)の場合で右辺を考えよう。
∂Dϵ = Sϵ(P ) ∪ SR(0)
と置いて、SR(0)上では,
ψ =∂ψ
∂n= 0...(7)
であり、また、Sϵ(P )上では、
∂E
∂n= −∂E
∂r=
∂
∂r(
1
(n − 2)ωnrn−2) = − 1
ωnϵn−1
|Sϵ(P )| = ωnϵn−1
ここで、|Sϵ(P )|は Sϵ(P )の面積を表す。だから、 ∫
Sϵ(P )
ψ∂E
∂ndS → −ψ(x), ϵ → 0...(8)
となる。また、
|E(x − y)| ≤{
cn
ϵn−2 , (n = 2)
c2| log ϵ|, (n = 2)
よって、
|∫
Sϵ(P )
E∂ψ
∂ndS| ≤
{c′nϵ, (n = 2),
c′2ϵ| log ϵ|, (n = 2), ϵ → 0...(9)
56
だから、(7), (8), (9)から、ϵ → 0時に、右辺は
−ψ(x)...(10)
に近づく。(5)についても同様である。次に、(5)の場合の左辺を見よう。最初にDϵでは、△yE(x − y) = 0だから、ϵ → 0として、左辺は
∫K
∇yE(x − y) · ∇φ(y)dD = −∫
Rn
∇xE(x − y) · ∇φ(y)dD...(11)
に近づく。また、(6)の場合も同様に、△yE(x − y) = 0となって、左辺は
−∫
K
E(x − y) △ ψ(y)dD = −∫
Rn
E(x − y) △ ψ(y)dD...(12)
に近づく。従って、(10), (11)(または、(12))から (3)(または、(4))が成り立つ。
J
定理 16
u(x) =
∫Rn
E(x − y)f(y)dy...(13)
とおくと、Rn \ Kで△u = 0
が成り立つ。但し、K = {x; f(x) = 0}。
(証明)
u(x) =
∫Rn
E(x − y)f(y)dy =
∫K
E(x − y)f(y)dy
で、もしも x ∈ Rn \ Kならば、x = yだから、E(x − y)は何回でも微分
できて、
△xE(x − y) = 0,
57
よって、
△u(x) =
∫K
△xE(x − y)f(y)dy = 0
が成立する。J
定理 17 (13)で定義して関数 uに対して、
∂u
∂xj
=
∫Rn
∂E
∂xj
(x − y)f(y)dy...(14)
が成り立つ。
(証明)
E(x)
{= an|x|2−n, an = − 1
(n−2)ωn, (n = 2),
= a2 log |x|, a2 = 12π
, (n = 2),
から、
∂E
∂xj
{= an(2 − n)|x|−nxj, (n = 2),
= a2xj
|x|2 , (n = 2)
よって、
| ∂E
∂xj
| ≤ cn
|x|n−1, (n = 1, ...)
従って、
|∫
Rn
∂E
∂xj
(x − y)dy| ≤ C < ∞...(15)
次に、十分に小さな |t|に対して、ej =j
(0, 0, ...0, 1, 0, ..., 0)と置いて、
u(x + tej) − u(x)
t=
∫Rn
E(x + tej − y) − E(x − y)
tf(y)dy
=
∫Rn
(
∫ 1
0
∂E
∂xj
(x + tθej − y)dθ)f(y)dy
=
∫ 1
0
(
∫Rn
∂E
∂xj
(x − y′)f(y′ − tθej)dy′)dθ
=
∫Rn
∂E
∂xj
(x − y)(
∫ 1
0
f(y − tθej)dθ)dy
58
だから、(15)を使うと、
|u(x + tej) − u(x)
t−
∫Rn
∂E
∂xj
(x − y)f(y)dy|
= |∫
Rn
∂E
∂xj
(x − y)(
∫ 1
0
f(y − tθej)dθ)dy −∫
Rn
∂E
∂xj
(x − y)f(y)dy|
= |∫
Rn
∂E
∂xj
(x − y)(
∫ 1
0
(f(y − tθej) − f(y))dθ)dy|
≤∫
Rn
| ∂E
∂xj
(x − y)|(∫ 1
0
|f(y − tθej) − f(y)|dθ)dy
≤∫
Rn
| ∂E
∂xj
(x − y)|ϵ(t)dy ≤ Cϵ(t) → 0, t → 0...(16)
ここで、ϵ(t) = max|y−y′|≤|t| |f(y)− f(y′)|と置いた。(16)から定理の主張が言えた。J
最後に、次の定理を示そう。
定理 18 関数 f(x)が関数族C10に属するとき、u(x) =
∫Rn E(x−y)f(y)dy
と置くと、関数 uは方程式△u = f の解になる。
(証明)変数変換を行って、
u(x) =
∫Rn
E(x − y)f(y)dy =
∫Rn
E(y′)f(x − y′)dy′
よって、再び変数変換すると、
∂u
∂xj
=
∫Rn
E(y)∂f
∂xj
(x − y)dy =
∫Rn
E(x − y)∂f
∂xj
(y)dy
ここで、上の定理17によって、
∂2u
∂x2j
=
∫Rn
∂E
∂xj
(x − y)∂f
∂xj
f(y)dy
だから、定理15を使うと、
△u =n∑
j=1
∫Rn
∂E
∂xj
(x − y)∂f
∂xj
f(y)dy = f(x)
となる。J
59
5 熱方程式 (1次元無限区間の場合)
5.1 フーリエ変換を用いた解法
前には、有限な長さを持つ針金の熱の伝導を記述する方程式をフーリエ級数の方法を用いて解いた。ここでは、無限の長さを持つ針金の熱の伝導について考えよう。考える区間を−∞ < x < ∞とすると、熱 uは観測点 x、時刻 tの関数
だから、u = u(x, t)となり、まず最初に方程式は前と同様で、
ut = uxx,−∞ < x < ∞, 0 < t...(1)
であり、初期条件は
u(x, 0) = f(x)...(2)
である。今回は針金に境界(端)が無いので、境界条件に当たるものは考えない。以下、上の方程式 (1)を条件 (2)のもとで考える。未知関数u(x, t)
の空間変数 xに関するフーリエ変換 u(ξ, t)を考えよう。
u(ξ, t) =1√2π
∫ ∞
−∞u(x, t)e−ixξdx
この時に、u(ξ, t)の満たす方程式は、
u(ξ, t)t + ξ2u(ξ, t) = 0...(3)
であり、境界条件は
u(ξ, 0) = f(ξ)...(4)
となる。ここでは、関係式
1√2π
∫ ∞
−∞uxx(x, t)e−ixξdx = (iξ)2 1√
2π
∫ ∞
−∞u(x, t)e−ixξdx
を用いた。その時に、
60
limx→±∞u(x,t)=limx→±∞ux(x,t)=0
を用いるので、関数 uはこの条件を満たすと仮定する。この式 (3), (4)を変数 ξをパラメターと見て、関数 u(ξ, t)の tに関する
一階の初期値問題と考えると、簡単に解けて解は、
u(ξ, t) = e−ξ2tu(ξ, 0) = e−ξ2tf(ξ)...(5)
である。さて、関数 u(x, t)を求める為に、u(ξ, t)を逆フーリエ変換して、
u(x, t) =1√2π
∫ ∞
−∞u(ξ, t)eixξdξ
=1√2π
∫ ∞
−∞e−ξ2tf(ξ)eixξdξ
=1√2π
∫ ∞
−∞e−ξ2t(
1√2π
∫ ∞
−∞f(y)e−iyξdy)eixξdξ
=1
2π
∫ ∞
−∞(
∫ ∞
−∞e−ξ2tei(x−y)ξdξ)f(y)dy...(6)
を得る。以下
K(x, t) =1
2π
∫ ∞
−∞e−ξ2teixξdξ...(7)
とおいて、K(x, t)を簡単な形にしよう。
K(x, t) =1
2π
∫ ∞
−∞e−(ξ− x
2ti)2t−x2
4t dξ
=1
2πe−
x2
4t
∫ ∞
−∞e−(ξ− x
2ti)2tdξ
=1
2πe−
x2
4t
∫ ∞−i x2√
t
−∞−i x2√
t
e−ξ2 1√tdξ
=e−
x2
4t
2π√
t
∫ ∞
−∞e−ξ2
dξ
=e−
x2
4t
2π√
t
√π =
e−x2
4t√4πt
...(8)
61
ここでは、等式 ∫ ∞−i x2√
t
−∞−i x2√
t
e−ξ2
dξ =
∫ ∞
−∞e−ξ2
dξ...(9)
及び、 ∫ ∞
−∞e−ξ2
dξ =√
π...(10)
を用いた。(6), (8)から次を得る。
u(x, t) =
∫ ∞
−∞K(x − y, t)f(y)dy =
∫ ∞
−∞
e−(x−y)2
4t√4πt
f(y)dy...(11)
この式で、K(x, t)を熱核と呼ぶ。J
(9)の証明 複素積分を用いて、等式を (9)証明しよう。まず、Rを十分に
大きな実数とし、複素平面上の矩形Kを次ぎの4つの直線C1, C2, C3, C4
で囲まれたものとする。C1 = {z; Im z = 0,−R < Re z < R},C2 = {z; Im z = − x
2√
t,−R < Re z < R},
C3 = {z; Re z = R,− x2√
t< Im z < 0},
C4 = {z; Re z = −R,− x2√
t< Im z < 0},
z = α + iβ.
全平面上で正則な関数 e−z2をK の廻り C で積分すれば、コーシーの
積分定理から、 ∫C
e−z2
dz = 0
であるが、この積分を各Cj, j = 1, ..., 4,上の積分の和に直して、各Cj上の積分について考えよう。最初にC1上では、z = α(実数)であり
∫C1
e−z2
dz =
∫ R
−R
e−α2
dα
62
と変形出来る。ここで、R → ∞の極限を考えると、(10)によって、
∫ R
−R
e−α2
dα → √π,R → ∞
となる。次に、C2上の積分は,z = α − x
2√
tiであり
∫C2
e−z2
dz =
∫ −R−i x2√
t
R−i x2√
t
e−ξ2
dξ
に等しいが、R → ∞の極限を取れば、
∫ −R−i x2√
t
R−i x2√
t
e−ξ2
dξ → −∫ ∞−i x
2√
t
−∞−i x2√
t
e−ξ2
dξ
である。最後に、C3, C4上では、z = ±R + iβ, (− x2√
t< β < 0)であり、
被積分関数が
|e−z2 | = |e−(±R+iβ)2 | = |e−R2+β2
e∓2Rβi| = |e−R2+β2 | ≤ e−R2+ x2
4t
のように評価されて、
|∫
Cj
e−z2
dz| ≤ e−R2+ x2
4tx
2√
t→ 0, R → ∞, (j = 3, 4)
となる。
以上の結果によって、
√π −
∫ ∞−i x2√
t
−∞−i x2√
t
e−α2
dα = 0
が得られ証明が終わる。J(注意)等式 (10)は重積分の計算問題として挙げておくので、各自で試して欲しい
63
5.2 熱核K(x, t)の性質と解の性質
上で得られた熱核の性質を挙げよう。
定理 19 熱核K(x, t)は次の性質を持つ。1.Kt = Kxx,−∞ < x < ∞, 0 < t
2. limt→+0 K(x, t) = 0, x = 0,
3.∫ ∞−∞ K(x, t)dx = 1
4. limt→+0
∫ δ
−δK(x, t)dx = 1, δ > 0
5. limt→+0
∫|x|>δ
K(x, t)dx = 0, δ > 0
上の定理の証明は、問題として残しておくので、各自で試みること。J
(問題6)定理19の熱核の性質を示せ。(注意)ここで、電気の様々な分野で登場するいわゆる δ関数(デラック関数)について簡単に触れよう。いま、関数K(x, t)の t → +0のときの極限関数 δ(x)を考える。即ち、
δ(x) = limt→+0
K(x, t)
と置く。すると、この関数は定理の性質から次に挙げる性質を満足する。
1)δ(x) = 0, x = 0,
2)
∫ ∞
−∞δ(x)dx = 1
3)
∫ ∞
−∞φ(y)δ(x − y)dy = φ(x)
これらの性質は、次のようにして簡単に示すことが出来る。関数K(x, t)
の性質 2から性質 1)は明らかである。また、関数K(x, t)の性質 3から性質 2)も明らかであろう。最後に、性質 3)の簡単な証明を与える。
3)の証明変数変換によって、∫ ∞
−∞φ(y)δ(x − y)dy =
∫ ∞
−∞φ(x − y)δ(y)dy
64
となる。次に、性質 2).より、
φ(x) =
∫ ∞
−∞φ(x)δ(y)dy
が成り立つことに注意して、
|φ(x) −∫ ∞
−∞φ(y)δ(x − y)dy| = |
∫ ∞
−∞φ(x)δ(y)dy −
∫ ∞
−∞φ(x − y)δ(y)dy|
= |∫ ∞
−∞(φ(x) − φ(x − y))δ(y)dy|
≤∫ ∞
−∞|φ(x) − φ(x − y)|δ(y)dy
=
∫|y|>ϵ
|φ(x) − φ(x − y)|δ(y)dy +
∫|y|<ϵ
|φ(x) − φ(x − y)|δ(y)dy
ここで、上の積分の各項はそれぞれ以下のように評価される。第1項は、性質 1).によって、
∫|y|>ϵ
|φ(x) − φ(x − y)|δ(y)dy = 0
第2項は、mϵ(φ, x) = max|y|<ϵ |φ(x) − φ(x − y)|と置いて、性質 2).を使うと、
∫|y|<ϵ
|φ(x) − φ(x − y)|δ(y)dy ≤ mϵ(φ, x)
∫|y|<ϵ
δ(y)dy ≤ mϵ(φ, x)
だから、
|φ(x) −∫ ∞
−∞φ(y)δ(x − y)dy| ≤ mϵ(φ, x) → 0, ϵ → 0
よって、性質 3).が示された。ところが、上の性質の 1).と 2).は普通の関数では、両立しない性質で
あり、この意味で δ関数は、普通の関数ではない。数学では、このような関数を超関数と呼んでいる。J
65
次に、上の定理に述べた熱核の性質を用いて、
u(x, t) =
∫ ∞
−∞K(x − y, t)f(y)dy
としたときに、次の性質が成り立つ。
定理 20 (1)ut = uxx,−∞ < x < ∞, 0 < t
(2) limt→+0 u(x, t) = f(x),
(3)|u(x, t)|,√t|ux(x, t)| ≤ M
(4)∫ ∞−∞ u(x, t)dx =
∫ ∞−∞ f(x)dx
(証明)性質 (1)は関数K(x, t)の性質 1から容易に出る。性質 (4)の証明は簡単に出来るので、その証明から行う。
(4)の証明。∫ ∞
−∞u(x, t)dx =
∫ ∞
−∞(
∫ ∞
−∞K(x − y, t)f(y)dy)dx
=
∫ ∞
−∞(
∫ ∞
−∞K(x − y, t)dx)f(y)dy
=
∫ ∞
−∞f(y)dy
関数Kの性質 1から、∫ ∞−∞ K(x, t)dx = 1だからである。この性質を熱量
保存の法則という。(2)の証明。最初に変数変換を行って、
u(x, t) =
∫ ∞
−∞K(x − y, t)f(y)dy =
∫ ∞
−∞K(y, t)f(x − y)dy
=
∫|y|<ϵ
K(y, t)f(x − y)dy +
∫|y|>ϵ
K(y, t)f(x − y)dy
= u1 + u2...(1)
と置こう。一方、関数K(x, t)の性質から、
66
f(x) =
∫ ∞
−∞K(y, t)f(x)dy
=
∫|y|<ϵ
K(y, t)f(x)dy +
∫|y|>ϵ
K(y, t)f(x)dy
= f1 + f2...(2)
と置く。
ここで、u2と f2は関数K(x, t)の性質を用いるとそれぞれ次のように評価される。
|u2| = |∫|y|>ϵ
K(y, t)f(x − y)dy|
≤ M
∫|y|>ϵ
K(y, t)dy → 0, t → 0...(3)
|f2| = |∫|y|>ϵ
K(y, t)f(x)dy|
≤ M
∫|y|>ϵ
K(y, t)dy → 0, t → 0...(4)
ここで、M = max−∞<x<∞ |f(x)|と置いた。次に、
|u1 − f1| = |∫|y|<ϵ
K(y, t)f(x − y)dy −∫|y|<ϵ
K(y, t)f(x)dy|
≤∫|y|<ϵ
K(y, t)|f(x − y) − f(x)|dy
≤ mϵ(f)
∫|y|<ϵ
K(y, t)dy ≤ mϵ(f) → 0, ϵ → 0...(5)
ここで、mϵ(f) = max−∞<x<∞,|y|<ϵ |f(x − y) − f(x)|と置いた。(1)~(5)によって、性質 (2)は示された。(3)の証明。
67
|u(x, t)| = |∫ ∞
−∞K(x − y, t)f(y)dy|
≤ M
∫ ∞
−∞
e−(x−y)2
4t√4πt
dy
=M√π
∫ ∞
−∞e−s2
ds, (s =y − x√
4t)
= M
ここでは、M = max−∞<x<∞ |f(x)|である。次に、
|ux(x, t)| = |∫ ∞
−∞Kx(x − y, t)f(y)dy|
≤ M
∫ ∞
−∞
e−(x−y)2
4t√4πt
2|x − y|4t
dy
=M
4
∫ ∞
−∞
e−(x−y)2
4t√πt
|x − y|t
dy
=M
4√
πt
∫ ∞
−∞
4t
t|z|e−z2
dz, (z =y − x√
4t, dy = 2
√tdz)
=M√πt
∫ ∞
0
ze−z2
dz
=−M
2√
πt[e−z2
]z=∞z=0
=C√t
J(注意)1.上の定理の証明のようにすると、|uxx(x, t)| ≤ C1
t, |ut(x, t)| ≤
C2
tなどの評価が出来る。これらは、更に何回でも繰り返すことが出来て、
関数 u(x, t)は無限回微分可能な関数であることがわかる。この時に、微分方程式は smoothing effectを持つという。2.上の定理で扱ったのは、1次元(針金)の熱の伝導を記述する方程式であるが、一般に、n次元の熱伝導を記述するのは、次に述べる形になる。
68
最初に考える空間は、−∞ < xj < ∞, j = 1, ..., n, t > 0であり、そこでの方程式は
ut = △u,−∞ < xj < ∞, j = 1, ..., n, t > 0, ...(1)
となる。ここで、△u =∑n
j=1 uxjxjである。
初期条件は、
u(x, 0) = f(x), x = (x1, ..., xn),−∞ < xj < ∞, j = 1, ..., n...(2)
となり、方程式 (1)を条件 (2)のもとで考えることになる。解法は1次元の場合と同様であり、解の表現も
u(x, t) =
∫Rn
K(x − y)f(y)dy...(3)
K(x, t) =1
(4πt)n2
e−|x|24t , |x| = (
n∑j=1
x2j)
12
となり、熱核K(x, t)及び解の性質も全く同様に成り立つ。(問題7)上の注意2を確かめよ。
6 波動方程式(1次元無限区間の場合)ここでは、長さが無限の弦の振動を記述する方程式を取り上げる。最初に考える空間は、−∞ < x < ∞であり、弦の高さ uは観測点 x、時刻tの関数だから、u = u(x, t)となり、まず最初に方程式は前と同様で、
utt = c2uxx,−∞ < x < ∞, 0 < t...(1)
であり、初期条件は、
u(x, 0) = f(x), ut(x, 0) = g(x)...(2)
である。
69
6.1 解法
以下、上の方程式 (1)を条件 (2)のもとで考える。未知関数 u(x, t)の空間変数 xに関するフーリエ変換 u(ξ, t)を考えよう。
u(ξ, t) =1√2π
∫ ∞
−∞u(x, t)e−ixξdx
この時に、u(ξ, t)の満たす方程式は、
u(ξ, t)tt + c2ξ2u(ξ, t) = 0...(3)
となる。ここでは、関係式
1√2π
∫ ∞
−∞uxx(x, t)e−ixξdx = (iξ)2 1√
2π
∫ ∞
−∞u(x, t)e−ixξdx
を用いた。その時に、
limx→±∞
u(x, t) = limx→±∞
ux(x, t) = 0
を用いるので、関数 uはこの条件を満たすと仮定する。方程式 (3)を、ξをパラメターとみて、u(ξ, t)の tについての二階の定
数係数常微分方程式と考える。この時に、特性方程式は
ρ2 + c2ξ2 = 0
であり、特性解はρ = ±icξ
だから、(3)の一般解 u(ξ, t)は ξの任意の関数F (ξ)とG(ξ)とを用いて、
u(ξ, t) = F (ξ)eicξt + G(ξ)e−icξt...(4)
と表される。ここで、フーリエの反転公式を用いると
70
u(x, t) =1√2π
∫ ∞
−∞u(ξ, t)eixξdξ
=1√2π
∫ ∞
−∞(F (ξ)eicξt + G(ξ)e−icξt)eixξdξ
=1√2π
∫ ∞
−∞(F (ξ)ei(x+ct)ξ + G(ξ)ei(x−ct)ξ)dξ...(5)
となる。ここで、初期条件のうち u(x, 0) = f(x)を使うと、(5)で t = 0と置
いて、
f(x) =1√2π
∫ ∞
−∞(F (ξ) + G(ξ))eixξdξ
を得る。従って、フーリエの反転公式から、
F (ξ) + G(ξ) =1√2π
∫ ∞
−∞f(x)e−ixξdξ = f(ξ, t)...(6)
が得られる。次に、初期条件 ut(x, 0) = g(x)を考える。(5)の両辺を tで微分して
t = 0と置くと、
ut(x, t) =1√2π
∫ ∞
−∞(icξF (ξ)ei(x+ct)ξ − icξG(ξ)ei(x−ct)ξ)dξ
から、
g(x) =1√2π
∫ ∞
−∞(icξ)(F (ξ) − G(ξ))eixξdξ...(7)
を得る。(7)の両辺を xについて a → bまで積分して、
∫ b
a
g(x)dx =
∫ b
a
{ 1√2π
∫ ∞
−∞(icξ)(F (ξ) − G(ξ))eixξdξ}dx
=c√2π
∫ ∞
−∞(
∫ b
a
(iξ)eixξdx)(F (ξ) − G(ξ))dξ
=c√2π
∫ ∞
−∞[eixξ]x=b
x=a(F (ξ) − G(ξ))dξ
=c√2π
∫ ∞
−∞eibξ(F (ξ) − G(ξ))dξ − c√
2π
∫ ∞
−∞eiaξ(F (ξ) − G(ξ))dξ...(8)
71
が得られる。上の式で、第2項について、
c√2π
∫ ∞−∞ eiaξ(F (ξ) − G(ξ))dξ → 0, a → −∞...(∗)
が成立することに注意しよう。このことは、リーマンの定理と呼ばれる次の事実から証明が出来る。
リーマンの定理. ある条件を満たす関数 hに対して、
limλ→∞
∫ ∞
−∞h(s) sin λsds = lim
λ→∞
∫ ∞
−∞h(s) cos λsds = 0
が成り立つ。
(注意)この定理の証明は省略する。そうすると、(8)で a → −∞として、∫ b
−∞g(x)dx ==
c√2π
∫ ∞
−∞eibξ(F (ξ) − G(ξ))dξ
が得られる。ここで、改めて b = xと置き換え Γ(x) = 1
c
∫ x
−∞ g(s)dsとすれば、
Γ(x) =1√2π
∫ ∞
−∞eixξ(F (ξ) − G(ξ))dξ...(9)
であるが、上の式 (9)とフーリエの反転公式によって、
F (ξ) − G(ξ) =1√2π
∫ ∞
−∞e−ixξΓ(x)dx = Γ(ξ, t)...(10)
となる。(6), (10)から、次が容易に得られる。
F (ξ) =1
2(f(ξ, t) + Γ(ξ, t))...(11)
G(ξ) =1
2(f(ξ, t) − Γ(ξ, t))...(12)
(5)に (11), (12)を代入して、再びフーリエの反転公式を使えば、
72
u(x, t) =1
2√
2π
∫ ∞
−∞((f(ξ, t) + Γ(ξ, t))ei(x+ct)ξ + (f(ξ, t) − Γ(ξ, t))ei(x−ct)ξ)dξ
=1
2{f(x + ct) + Γ(x + ct)} +
1
2{f(x − ct) − Γ(x − ct)}
=1
2{f(x + ct) + f(x − ct)} +
1
2{Γ(x + ct) − Γ(x − ct)}
=1
2{f(x + ct) + f(x − ct)} +
1
2c
∫ x+ct
x−ct
g(s)ds...(13)
が得られる。J(注意)解の表現 (13)から、1.2と同じように、解の有限伝幡性などが示せる。
参考文献 1.「熱・波動と微分方程式」、俣野博・神保道夫著、(岩波書店)
2.理工学者が書いた「偏微分方程式」、神部勉著、(講談社)3.新数学シリーズ「物理数学」、高橋健人著、(培風館)4.大学演習「応用数学 I」、加藤敏夫・吉田耕作著、(裳華房)
5.「物理数学の方程式」1,2、ソボレフ著、(共立全書)6.「数理物理学の方法」1~4、クーラン・ヒルベルト著、(東京図書)7.「偏微分方程式」、スタンリー・フォーロウ著、(ワイリージャパン)8. 、加藤義夫著、(サイエンス社)9.「偏微分方程式論」、ペトロフスキー著、(東京図書)その他に、沢山の内外の参考書がある。
73