1 のベンチにこしかけて 坐在公园长椅上...の部屋 へや に案内 あんない...

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1 1 12 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 1 こう えん のベンチにこしかけて 坐在公园长椅上 真子 まさこ は何かを言 いかけたが、うつむき口を閉 ざした。 「なんだよ」 修二 しゅうじ はイライラしながら言 った。 「……」 「俺 おれ 、おまえのそういうところ嫌い」 「ごめんなさい」 真子 まさこ はおとなしい 性 格 せいかく だった。自分 じぶん の意見 いけん をはっきり言 えなかった。 小学生 しょうがくせい の時 とき からそれが 原 因 げんいん でいじめられ、高二 こうに の今 いま も真子 まさこ はいじめられていた。 修二 しゅうじ は小学六年 しょうがくろくねん のとき、クラス くらす が同 おな じになってから真子 まさこ を知 った。 いじめられている真子 まさこ のことをほうっておけなかった。なにかにつけて 修 二 しゅうじ は真子 まさこ のそばにいた。 周 まわ りにはからかわれていたが、そんなこと気 にならなかった。 「おまえ、 小 学 生 しょうがくせい のときから全 然 進 歩 ぜんぜんしんぽ ねーよな」 「修二君 しゅうじくん も」 「なに言 ってんだよ」 修二 しゅうじ は真子 まさこ の頭 あたま を軽 かる くたたいた。 公園 こうえん の ベンチ べんち に座 すわ って二人 ふたり で話 はな す。 小 学 生 しょうがくせい のときからの変 わらないこの しゅうかん 1 1

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Page 1: 1 のベンチにこしかけて 坐在公园长椅上...の部屋 へや に案内 あんない してやった。 しかし、彼女 かのじょ はまたそこから出 で て来

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1 月

12 月

2 月

3 月

4 月

5 月

6 月

7 月

8 月

9 月

10 月

11 月

1 月

公こう

園えん

のベンチにこしかけて 坐在公园长椅上

真子まさこ

は何かを言い

いかけたが、うつむき口を閉と

ざした。

「なんだよ」

修 二しゅうじ

はイライラしながら言い

った。

「……」

「俺おれ

、おまえのそういうところ嫌い」

「ごめんなさい」

真子まさこ

はおとなしい性 格せいかく

だった。自分じぶん

の意見いけん

をはっきり言い

えなかった。

小 学 生しょうがくせい

の時とき

からそれが原 因げんいん

でいじめられ、高二こうに

の今いま

も真子まさこ

はいじめられていた。

修 二しゅうじ

は小 学 六 年しょうがくろくねん

のとき、クラスく ら す

が同おな

じになってから真子まさこ

を知し

った。

いじめられている真子まさこ

のことをほうっておけなかった。なにかにつけて修 二しゅうじ

は真子まさこ

のそばにいた。周まわ

りにはからかわれていたが、そんなこと気き

にならなかった。

「おまえ、小 学 生しょうがくせい

のときから全然進歩ぜんぜんしんぽ

ねーよな」

「修 二 君しゅうじくん

も」

「なに言い

ってんだよ」

修 二しゅうじ

は真子まさこ

の 頭あたま

を軽かる

くたたいた。

公 園こうえん

のベンチべ ん ち

に座すわ

って二人ふたり

で 話はな

す。 小 学 生しょうがくせい

のときからの変か

わらないこの

習 慣しゅうかん

第 1 周

1 月

Page 2: 1 のベンチにこしかけて 坐在公园长椅上...の部屋 へや に案内 あんない してやった。 しかし、彼女 かのじょ はまたそこから出 で て来

2

每天听个日文好故事 小故事大道理

12 月

1 月

2 月

3 月

4 月

5 月

6 月

7 月

8 月

9 月

10 月

11 月

真子まさこ

にとって何なに

より大 切たいせつ

で、何なに

より楽たの

しい時間じかん

だった。

公 園こうえん

のそばにあるコンビニエンスストアこ ん び に え ん す す と あ

で、二人ふたり

の 姿すがた

をじっと見み

ている恭 子きょうこ

取と

り巻ま

きの杏子あんず

と紗枝さ え

の 姿すがた

があった。

恭 子きょうこ

は真子まさこ

が嫌きら

いだった。 小 学 生しょうがくせい

のあの出来事できごと

があった日以来ひいらい

ずっと嫌きら

い続つづ

けていた。

エスえ す

カか

レれ

ーー

トと

式しき

の学 校がっこう

へ通かよ

う真子まさこ

と修 二しゅうじ

と恭 子きょうこ

は 小 六しょうろく

のときからクラスく ら す

一 緒いっしょ

だった。

恭 子きょうこ

は真子まさこ

を見み

ているだけでイライラい ら い ら

して抑おさ

えようがなかった。その憂う

さ晴ば

らしの

ために、クラスく ら す

を扇 動せんどう

して真子まさこ

をいじめてきた。

だが 単 純たんじゅん

に、真子まさこ

のことが嫌きら

いだからいじめてきたわけじゃなかった。

恭 子きょうこ

は修 二しゅうじ

が好す

きだった。だからよりいっそう修 二しゅうじ

と一 緒いっしょ

にいる真子まさこ

が憎にく

かった。

恭 子きょうこ

は自分じぶん

の容姿ようし

には自信じしん

があったし、それは周 囲しゅうい

も認みと

めた事実じじつ

だった。

「あんな暗くら

くて、全まった

く可愛かわい

くない真子まさこ

のドコど こ

がいいのよ」

この言葉ことば

は恭 子きょうこ

の口 癖くちぐせ

になっていた。

杏子あんず

と紗枝さ え

はそんな恭 子きょうこ

に対たい

し「そうだよ。

恭 子きょうこ

のほうが絶 対ぜったい

にいいのに」と言い

うことが常つね

だった。

精神科せ い し ん か

での出来事で き ご と

精神病科的活动

「あの、違ちが

うんですか!」

目め

をまん丸まる

くして、ウサギう さ ぎ

のぬいぐるみを持も

ったまま、曲ま

がった背中せなか

のまま、真ま

っ白しろ

な髪かみ

毛け

の彼女かのじょ

は言い

った。

「じゃあ 私わたし

の部屋へ や

はどこなんです!!!」

「こっちですよ。」

出来事:活动

姿:样子,姿势

扇 動せんどう

する:扇动,转动

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1 月

12 月

2 月

3 月

4 月

5 月

6 月

7 月

8 月

9 月

10 月

11 月

と、 私わたし

は彼女かのじょ

を彼女かのじょ

の部屋へ や

に案 内あんない

してやった。

しかし、彼女かのじょ

はまたそこから出で

て来き

て、閉鎖病棟内へいさびょうとうない

を歩ある

いていた。

すると、夜勤担当やきんたんとう

の看護婦か ん ご ふ

がやってきて、

「あーーー◯◯さん!!また出で

て来き

て!!!!

あなた、もうここの部屋へ や

に入はい

っていなさい。」

そういって、看護婦か ん ご ふ

は、オマルお ま る

を彼女かのじょ

の部屋へ や

に入い

れて、ドアど あ

の鍵かぎ

を外そと

からかけてしまった。

すると、ドンドンドンど ん ど ん ど ん

と部屋へ や

から音おと

がしていたが、気き

に留と

めないようにして、寝床ねどこ

についたが、目め

をまん丸まる

くして、

いた◯◯さんが、かわいくも思おも

えたが、閉と

じ込こ

められてちょっとかわいそうだった。

裏庭うらにわ

での悲惨ひ さ ん

ないじめ 后院里的欺辱

大賀学園高等部二年三組おおかがくえんこうとうぶにねんさんくみ

が真子まさこ

のいるクラスく ら す

だ。修 二しゅうじ

が 男 友 達おとこともだち

と笑わら

いあっ

ている 間あいだ

に、杏子あんず

が真子まさこ

の側そば

にきて小声こごえ

で 呟つぶや

いた。

「真子まさこ

、ちょっと 話はなし

があんだけど。」

六 年 以 上ろくねんいじょう

も変か

わらないいじめられる合図あいず

の言葉ことば

。真子まさこ

の 体からだ

は震ふる

えだした。

「ついてきな」

杏子あんず

は冷つめ

たく言い

い放はな

ち 教 室きょうしつ

をでた。

真子まさこ

はおびえながらも後あと

についていくしかなかった。

学 園がくえん

の中 庭なかにわ

は 体からだ

を動うご

かしたり、話はな

したり、それぞれの時間じかん

の過す

ごし方かた

で楽たの

む人ひと

がいて活気かっき

にあふれていた。その反 面はんめん

、裏 庭うらにわ

はひっそり静けさが漂っていた。

裏 庭うらにわ

は真子まさこ

をいじめる最 適さいてき

の場所ばしょ

だった。

裏 庭うらにわ

には既すで

に恭 子きょうこ

と紗枝さ え

、クラスく ら す

の女子数人じょしすうにん

が集あつ

まっていた。

恭 子きょうこ

は優 等 生ゆうとうせい

だったし、医者いしゃ

と弁護士べんごし

の 両 親りょうしん

の 大 量たいりょう

の寄付き ふ

のおかげで多 少たしょう

真ま

っ白しろ

な:纯白色的

看護婦:护士

夜勤:夜班

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每天听个日文好故事 小故事大道理

12 月

1 月

2 月

3 月

4 月

5 月

6 月

7 月

8 月

9 月

10 月

11 月

のことならと教 師きょうし

たちは目め

をつぶっていた。いじめに気き

づいた教 師きょうし

たちもいたが我わ

身み

のかわいさに知し

らないフリふ り

を続つづ

けた。

真子まさこ

は下した

を向む

き、顔かお

をあげようとはしなかった。

「おまえのそういうイジイジい じ い じ

したところが気き

に食く

わないんだよ」

杏子あんず

は思おも

い切き

り校 舎こうしゃ

の薄 汚うすよご

れた壁かべ

に真子まさこ

を容 赦ようしゃ

なくたたきつけた。

真子まさこ

の制 服せいふく

はたたきつけられた壁かべ

によって汚よご

れ、バランスば ら ん す

をくずし土つち

の上うえ

にしゃ

がみ込こ

んだ。

「きったねー。お前まえ

にはそういう汚よご

れが似合に あ

てるよ」

杏子あんず

は皮肉ひにく

な笑え

みを浮う

かべ、紗枝さ え

たちは笑わら

い声ごえ

をあげた。

紗枝さ え

はしゃがんで土つち

を手て

で握にぎ

りしめ、真子まさこ

に向む

かって投な

げつけた。

それを開始かいし

の合図あいず

に周まわ

りの女子生徒じょしせいと

が同おな

じように土つち

を真子まさこ

に投げつけた。

「お願ねが

い。やめて。」

真子まさこ

の必死ひっし

の懇 願こんがん

も杏 子きょうこ

たちに拍 車はくしゃ

をかけるだけだった。

真子まさこ

は震ふる

えがとまらなくなった。紗枝さ え

は真子まさこ

の髪かみ

を強つよ

く握にぎ

り、思おも

い切き

り土つち

の上うえ

倒たお

し顔かお

を土つち

に擦りつけた。

「あんたが少すこ

しでも綺麗きれい

になるように化 粧けしょう

してやってんだよ。このブスぶ す

。」

恭 子きょうこ

は一歩下いちほさ

がって真子まさこ

がいじめられる

光 景こうけい

を見み

つめていた。

恭子自身きょうこじしん

は決けっ

して真子まさこ

には手て

を出だ

さなかっ

た。真子まさこ

をののしることはあっても。

――恭 子きょうこ

ちゃん。 私わたし

ね。

いじめ:欺侮,凌虐

皮肉な:讽刺的

綺麗に:漂亮的,好看的

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1 月

12 月

2 月

3 月

4 月

5 月

6 月

7 月

8 月

9 月

10 月

11 月

質問しつもん

问题

真夜中ま よ な か

の山 道やまみち

で、 男おとこ

は一人ひ と り

せっせと手て

に持も

ったスコップす こ っ ぷ

で穴あな

を掘ほ

り、そして・・数時間後す うじかんご

出来上で き あ

がった穴あな

の上うえ

に 布ぬの

を引ひ

き、更さら

にその上うえ

に薄うす

く土つち

を盛も

ると 男おとこ

は満足まんぞく

そうに笑え

みを浮う

べ、明あか

るくなりかけた山 道やまみち

を下お

りて行い

きました。

そして次つぎ

の日ひ

の真ま

夜よ

中なか

、 男おとこ

が落お

とし穴あな

の場所ば し ょ

に言い

ってみると、そこには一 匹いっぴき

の犬いぬ

が、

犬いぬ

は自分じぶん

を見上み あ

げる 男おとこ

に気き

がつくと、うれしそうにシッポし っ ぽ

を左右さ ゆ う

にフリフリふ り ふ り

「やぁ・・ここから出で

たいかい?」

男おとこ

は、犬いぬ

にそう聞き

きましたが、犬いぬ

には 男おとこ

の言葉こ と ば

が分わ

かるわけもなく。

「ワン、ワン」

すると 男おとこ

は手て

に持も

ったスコップす こ っ ぷ

で穴あな

ごと犬いぬ

を生い

き埋う

めにしてしまいました。

そして、次つぎ

の日ひ

も、次つぎ

の日ひ

も、 男おとこ

は繰く

り返かえ

し穴あな

を掘ほ

り、そこに落お

ちた者もの

に質 問しつもん

しましたが、

結局、誰だれ

も 男おとこ

の問と

いに答こた

えてはくれません。

なぜなら彼かれ

らは皆みな

、 男おとこ

の言葉こ と ば

が理解り か い

できない。

彼かれ

らは 獣けもの

、人 間にんげん

ではなかったから・・。

しかし、次つぎ

に穴あな

に落お

ちていたのは、小ちい

さな赤あか

ちゃんを抱だ

いた綺麗きれい

な女性じょせい

でした。

男おとこ

は女性じょせい

にこう聞き

きました。

「ここから出で

たいかい?」

女性じょせい

は震ふる

える声こえ

で、

「はい・・」

すると 男おとこ

はこう言い

いました。

「お前まえ

も出で

たいかい?」

男おとこ

は、女性じょせい

が抱だ

く赤あか

ちゃんにそう聞き

きましたが、まだ言葉こ と ば

を 覚おぼ

えていない赤あか

ちゃんはた

だただ、母 親ははおや

の腕うで

の中なか

でスヤスヤす や す や

と寝ね

ています。

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每天听个日文好故事 小故事大道理

12 月

1 月

2 月

3 月

4 月

5 月

6 月

7 月

8 月

9 月

10 月

11 月

真夜中ま よ な か

:深夜

赤あか

ちゃん:婴孩,婴儿

腕うで

の中なか

:怀中,怀里

男おとこ

は 残 念ざんねん

そうにため 息いき

をつくと手て

に持も

った

スコップす こ っ ぷ

で二人ふ た り

を生う

めてしまいました。

「こんな簡 単かんたん

な質 問しつもん

にも答こた

えられないとは・・」

男おとこ

はそう嘆なげ

くと、一人山道ひとりやまみち

を下お

りていきました。

ここで待ま

ってる 在这里等着

様 々さまざま

な花 々はなばな

が咲き乱みだ

れる丘おか

の上うえ

に、二人ふたり

の若 者わかもの

が立た

っていた。

両りょう

の手て

をつなぎ、 瞳ひとみ

をあわせる。

「俺おれ

は明日あした

のこの刻こく

に、ここで待ま

ってるから」

彼かれ

はそう言い

い、彼 女かのじょ

に背せ

を向む

けると、振ふ

り向む

かずに歩ある

いていった。

彼 女かのじょ

は、彼かれ

にもらった胸むね

に 輝かがや

くペンダントぺ ん だ ん と

を握にぎ

り締し

め、明日あした

の婚儀こんぎ

に思おも

いをは

せた。

己おのれ

の役 割やくわり

を全うせねばという運 命うんめい

に身み

ゆだね、下した

を向む

き 唇くちびる

を噛か

みしめた。

瞳ひとみ

から流なが

れる 涙なみだ

が 感 情かんじょう

を物 語ものがた

っている。

そして、小声こごえ

で 呟つぶや

くのだった。

「あなたのもとには行い

けないわ」

たまご 鸡蛋

男おとこ

の子こ

は 卵たまご

をあたためていた。

台 所だいどころ

からこっそり持も

ってきた 卵たまご

を大事だいじ

に大事だいじ

に。

「もう朝あさ

よ、起お

きなさい」

若 者わかもの

:年轻人,青年

様 々さまざま

な:各种各样的

瞳ひとみ

:眼睛,眼眸

第 2 周

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7

1 月

12 月

2 月

3 月

4 月

5 月

6 月

7 月

8 月

9 月

10 月

11 月

言い

われても 男おとこ

の子こ

は布団ふとん

に潜もぐ

ったまま、 卵たまご

をあたためていた。

ひなが生う

まれたら何なん

て名前なまえ

にしようかな

ごはんは何なに

をあげたらいいのかな

猫ねこ

に見み

つからないように気き

をつけなくちゃ

そんなことを 考かんが

えながら。

こないだのは、冷蔵庫れいぞうこ

に入はい

ってた 卵たまご

だったからダメだ め

だったんだ

綿わた

で包つつ

んだりお日様ひ さま

が当あ

たるとこにおくだけじゃダメだ め

なんだ

やっぱりこうしてお腹であっためてあげなくちゃ

そんなことを 考かんが

えながら。

「もう幼稚園ようちえん

に行い

く時間じかん

よ、起お

きなさい」

言い

われて 男おとこ

の子こ

は、しぶしぶ布団ふとん

から抜ぬ

け出だ

した。

卵たまご

は布団ふとん

の中なか

にそっと置お

いたまま。

幼稚園ようちえん

から帰かえ

ると、 男おとこ

の子こ

はおやつも食た

べずに

布団ふとん

にもぐりこんだ。

でもそこには 卵たまご

がない。

男おとこ

の子こ

は泣な

いた。

晦みそ

日か

除夕

ドキドキど き ど き

と、心 臓しんぞう

が悲鳴ひめい

を上あ

げる。

締し

め付つ

けられるような痛いた

みは、どこか心地ここち

よい苦くる

しみだった。

もうすぐ、今年ことし

が終わる。

去 年きょねん

までは、憂ゆう

うつだった大晦日おおみそか

どんどん大人おとな

に近付ちかづ

いてゆく気き

がして、それなのにちっとも大人おとな

になれなくて。

年とし

なんて明あ

けなければいい、と思おも

ってた。

布団ふとん

:被褥,棉被

冷蔵庫:冰箱

幼稚園:幼儿园

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每天听个日文好故事 小故事大道理

12 月

1 月

2 月

3 月

4 月

5 月

6 月

7 月

8 月

9 月

10 月

11 月

「 初 詣はつもうで

、か」

じっと小指こゆび

を見み

つめると、自然しぜん

と顔かお

が熱あつ

くなる。

耐た

えかねた 私わたし

は、じたばたと足あし

をばたつかせた。

元 旦がんたん

を二人ふたり

で過ごすことの重 要 性じゅうようせい

を、彼かれ

はわかっているのだろうか。

もしかすると、夢ゆめ

だったのではないか。

あまりにもあっさりと成な

された約 束やくそく

だったので、そんなことすら 考かんが

えてしまう。

『(

約 束やくそく

な』)

大好だいす

きなあの声こえ

を思おも

い出だ

せば、嬉うれ

しくて、自おの

ずとにやけてしまって。

一 年いちねん

で唯 一ゆいいつ

、夜更よ ふ

かしが許ゆる

されるこの日ひ

明日あした

のために、今年ことし

だけは早く寝ね

よう、なんて。

緊 張きんちょう

で眠ねむ

れぬ夜よる

が来く

ることも念 頭ねんとう

に置お

いていなかった 私わたし

は、暢気のんき

にも考えて

いた。

ひまわり 向日葵

家庭用かていよう

シし

ュゅ

レれ

ッっ

ダだ

ーが唸うな

りを上あ

げて、溜た

まりに溜た

まった帳簿ちょうぼ

を貪欲どんよく

に食た

べ続つづ

けている。

妻つま

は黙々もくもく

と帳簿ちょうぼ

のホッチキスほ っ ち き す

や金属きんぞく

ファスナふ ぁ す な

ーを 外はず

し、

シし

ュゅ

レれ

ッっ

ダだ

ーの食事しょくじ

を途絶と だ

えさせないよう、ペぺ

ーパぱ

ーだけにして

夫おっと

の脇わき

に積つ

み上あ

げている。

35 年 間 続ねんかんつづ

けてきた会 社かいしゃ

を、結局破産けっきょくはさん

させねばならなく

なった無念むねん

さが、総 勘 定 元 帳そうかんじょうもとちょう

のそれぞれのペぺ

ージじ

から湧わ

き上あ

がってくる。

破産処理申請はさんしょりしんせい

の夜よる

に、唯 一 会 社ゆいいつがいしゃ

から失 敬しっけい

した品物しなもの

が、この家庭用かていよう

シし

ュゅ

レれ

ッっ

ダだ

ーだ。

20 何 種類なんしゅるい

もの 新 規 分 別 収 集しんきぶんべつしゅうしゅう

とかで、 紙かみ

もうっかり捨す

てられなくなった事こと

を、去年きょねん

自治会役員じちかいやくいん

経 験けいけん

で熟知じゅくち

していた妻つま

の入い

れ知恵ぢ え

だ。

憂ゆう

うつ:郁闷,忧郁,抑郁

約 束やくそく

:约定

眠ねむ

れぬ:睡不着

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9

1 月

12 月

2 月

3 月

4 月

5 月

6 月

7 月

8 月

9 月

10 月

11 月

5年以上前ねんいじょうまえ

の倒産会社とうさんかいしゃ

の帳簿ちょうぼ

とはいえ、そのまま「 紙かみ

ゴミご み

」として出だ

すのは、はばかられる

ご時世じせい

だ。

手て

で 破やぶ

いただけだと「一 般いっぱん

ゴミご み

」 扱あつか

いとなり、それでなくてもボリュぼ り ゅ

ームむ

に気き

を 使つか

う「一 般いっぱん

ゴミご み

」を、我家わがや

だけで 何 袋なんぶくろ

も出だ

すのは「ひんしゅく」だという理由り ゆ う

だった。

「35 年 間ねんかん

がんばった 証あかし

として 頂いただ

いても 罰ばち

は当あ

たらないだろう」と勝手かって

なロジックろ じ っ く

で持も

帰かえ

っていた機械きかい

が、威力いりょく

を発揮はっき

している。

シし

ュゅ

レれ

ッっ

ダだ

ーに掛か

けると「資源しげん

ごみ」 扱あつか

いになって大 量たいりょう

でもクレく れ

ームむ

はない。

「35年間頑張ねんかんがんば

って結 局 何けっきょくなに

も残のこ

らなかったようだけど、 娘むすめ

という 宝たから

が残のこ

ったからいいか」

シュレッタし ゅ れ っ た

‐ー

への給仕きゅうじ

を続つづ

けながら、 夫おっと

がボぼ

ソそ

ッと言い

った。

妻つま

が、いつも何なに

か 冗 談じょうだん

を思おも

いついた時とき

に見み

る満 面まんめん

の笑え

みで、 夫おっと

の 顔かお

を覗のぞ

き込こ

んだ。

「 娘むすめ

だけじゃないわよ。シし

ュゅ

レれ

ッっ

ダだ

ーも残のこ

ったわ」

もう一ひと

つ、真夏まなつ

のひまわりのような 宝 物たからもの

を云い

忘わす

れた自分じぶん

を、 夫おっと

は胸むね

の中なか

で小ちい

さく後悔こうかい

した。

猫ねこ

仰向あおむ

けになりその腹はら

に子猫こ ね こ

を群むら

がらせる様さま

は、まるで身 体しんたい

を与あた

え喰く

わせるかのよう。乳ちち

与あた

える母 猫ははねこ

は何なに

を思おも

っているのだろう。

しばらく物もの

の出だ

し入い

れが無な

かった物 置ものおき

にいつのまにやら野良猫の ら ね こ

が住す

み着つ

き子こ

を産う

んでいた。

夕日ゆうひ

が物 置ものおき

の入い

り口ぐち

からも入い

り込こ

んで柿 色かきいろ

の 光ひかり

の 帯おび

が広ひろ

がる。

母 猫ははねこ

は所 々 毛ところどころけ

が抜ぬ

けていたり、はっきりとわかる傷きず

後あと

があったり、ずいぶんとみすぼらし

い外 見がいけん

をしている。

反 対はんたい

に子猫こ ね こ

たちは生う

まれたばかりの身 体しんたい

を母 猫ははねこ

に綺麗きれい

に舐な

めとられていて、ふわふわと

した毛並け な

みが乳ちち

を吸す

い、腹はら

がふくれコロコロこ ろ こ ろ

としていて可愛かわい

らしい。

倒産とうさん

:倒闭,破产

一 般いっぱん

ゴミご み

:普通垃圾

真夏まなつ

:盛夏

Page 10: 1 のベンチにこしかけて 坐在公园长椅上...の部屋 へや に案内 あんない してやった。 しかし、彼女 かのじょ はまたそこから出 で て来

10

每天听个日文好故事 小故事大道理

12 月

1 月

2 月

3 月

4 月

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8 月

9 月

10 月

11 月

その愛あい

らしさについ子猫こ ね こ

に手て

を伸の

ばしたら、母 猫ははねこ

に威嚇い か く

され手て

を引ひ

いた。横よこ

になっていた

身 体しんたい

が起お

き上あ

がるとますますこの母 猫ははねこ

の生い

きてきた跡あと

が垣間見え、そしてずいぶんと痩や

せてい

るのがわかった。

少すこ

し後うし

ろに下くだ

ってからしゃがみ込こ

んでみたが、

母 猫ははねこ

は此方こ ち ら

がもう危害きがい

を与あた

えないと理解り か い

しているのか、

威嚇い か く

する気力きりょく

も無な

いほどに 衰 弱すいじゃく

しているのか分わ

から

なかったが、ただただ子猫こ ね こ

に乳ちち

を与あた

えていた。

いってきます 去去就回

さびれた駅えき

のホほ

ームむ

缶かん

コこ

ーヒひ

ーで手て

を 温あたた

めながら他愛たわい

のない 話はなし

をしているうちに、電 車でんしゃ

が来き

てしま

った。

発 車はっしゃ

のベルべ る

を聞き

いて、 涙なみだ

を堪た

え切き

れなくなった彼 女かのじょ

の 頭あたま

をなでる。

「いつでも帰かえ

っておいで」

そう言い

って笑わら

おう。

その、つもりだったのに。

「なーに泣な

いてるの」

背伸せ の

びをした笑わら

った彼 女かのじょ

に、乱 暴らんぼう

に 頭あたま

をなでられた。

いつもからかわれていた猫ねこ

っ毛け

が、彼 女かのじょ

の小ちい

さな手て

にからむ。

ひっこめようと思おも

っても、 涙なみだ

は次つぎ

から次つぎ

へと溢あふ

れてくる。

言い

い訳わけ

をしようとしても、嗚咽おえつ

でまともにしゃべれない。

理想りそう

とは程 遠ほどとお

い現 実げんじつ

に、我われ

ながらげんなりする。

なんて情なさ

けない。

「でも」

野良猫の ら ね こ

:流浪猫

跡あと

:痕迹

ただ:仅仅,只是