1 炭疽菌dspace.lib.niigata-u.ac.jp/dspace/bitstream/10191/2697/1/...division ofbacteriology...

6
炭疽菌Bioterrorism 1 山本達男 新潟大学大歯 学総合 国際 染 医学講 細菌学分野 (細菌学教 ) Bacillus anthracis Tatsuo YAMAMOTO ' v i sJ ' on o fB ac t en l o l o B y , De p ar tm en tO fld ec t i ous D) ' sease Con t TO lan dI L) t e m a t 7 ' on a lM ed L ' cl ' n e , Nl ' 1 ' g a t a UnhneTSl ' Gra dua t e Sc hoo lo fM ed ) ' ca laL] d D en t a lS c) ' en ces わが国 炭痘 , 存在 して ( 1 ) . 6 年( 199 4 年) , 東京 城県で1 , 2 発生 して . 内東 死亡 . 1995 炭痕 発生 して . 感染 , トで より 告さ てお , 減傾向を示 らも 3 ( 1991 年) . 8 報告 えて たが , 9 年後 12 年( 2000 年) 崎県で2 発生 . 炭痘菌 感染 サイク 炭痘 菌 (栄養 ) はグラ 陽性 梓菌 , 長さ およそ 4 / m , およそ 0.5 m - 1 / m ( 2 ) . 平板養す ると , 長く ような形を した 連鋳がみら . 87 菌体内 ( 1 m ) 成され . 炭痘 耐久, 強く , 壌中 など 自然界 く生 存す とがで . 炭痘 自然界 宿(- ) ヒツ , ウシ , ギなど 草食. この よう 草食受性 , 牧草 など たた 感染す言われ . オオ カミ 野生 肉食動物 感染 . 体内 に入ると , して 栄養菌(秤 菌) わり , , 増殖 を始 める . ような生 した , 連鎮 , 2 - 3 連銭菌 のこ とが . , 生体 では ( 垂炭 ) , 炭痘 英膜をも よう . 宿免疫 して 増殖す ための 構造 あり , 痘菌 液中 殺菌 され , も活 発 増殖 す. 膜をも 炭痕 . Re p r i ntre q ues t s to:Ta t su o YA M AM OTO Di v i s i o n o fB ac t e r i o l o gy De p a r tm e n to f I n f ec t i ous Di sease Co n t r o lan dI nt erna t i on a lM edi c i ne N ii g a t a Un i v ers i t y Gra du a t eSchoo lo f M edi ca lan d D en t a lS c i ences 1-757 A sa bi m ac bi - dor i , N ii g a t a 951 -8510 J a p an 別刷: 951 -8510 新潟町通 1-757 潟大学大学院医歯学総合国際感染医学講細菌学 分野

Upload: trinhquynh

Post on 24-Apr-2019

215 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

炭疽菌Bioterrorism

1   炭 疽 菌

山本達男

新潟大学大学院医歯学総合研究科 国際感染医学講座

細菌学分野 (細菌学教室)

Bacillus anthracis

T a t s u o Y A M A M O T O

'

vi sJ'

o n of B a ct e nl

ol oB y ,D e p a rt m e n t Of l d e cti o u s D )

'

s e a s e

C o n t T Ol a n d IL)t e m at7'

o n al M e dL'

cl'

n e,N l

'

1'

g at a U n h n e T Sl'

G r ad u a te S ch o ol of M e d )'

c al aL]d D e n t al S c)'

e n c e s

わが国の炭痘

炭痕 は動物由来感染症で, わが国に も存在して

い た ( 図 1) .ヒ ト の 感染が 最後 に報告 され た の

は平成 6 年 (1 994 年) で, 東京都と宮城県で 1 名

ずつ, 合計 2 名の患者が発生 して い る . そ の 内東

京都 の 患者は死亡 . 1 995 年以降は炭痕は発生 して

い ない.

ウ シ で の 感染は,

ヒ トで の 感染より多く報告 さ

れ て お り , 激減 傾 向 を示 し な が ら も平成 3 年

(1 99 1 年) まで続い た . そ の後 8 年間は報告が途

絶 えて い た が,

9 年後の 平成 12 年 (2 0 0 0 年) に

宮崎県で 2 例の 発生 があ っ た .

炭痘菌と感染サイク ル

炭痘菌 (栄養型) は グ ラ ム 陽性の 梓菌で, 長 さ

が およそ 4 /∠ m , 幅がおよそ 0 .5 〃 m- 1 / ∠ m で あ

る ( 図 2 上) . 寒天平板上で培養すると, 長く つ な

が っ て 竹 の よ うな形 を した連鋳梓 菌がみ られ る .

8 7

培養が進むと菌体内に丸 い 芽胞 ( サイ ズ約 1 〃 m )

が形成 される . 芽胞 は炭痘菌の 耐久型構造で, 乾

燥や 熱に強く, 土壌中など の 自然界 で長く生存す

る こ とが でき る .

炭痘菌の 自然界 で の 宿主 ( リザ - バ ー ) は ヒ ツ

ジ,

ウ シ,

ヤギなど の 草食動物で あ る. こ の よう

な草食動物の 感受性は高く, 牧草などに付い て い

た た っ た 数個の 芽胞 で 感染する と言 われて い る .

オオ カミ や野生 の イ ヌ などの 肉食動物は感染しな

い .

芽胞が生体内に 入 る と, 発芽 して栄養型菌 (秤

菌) に変わり, 活発に分裂し, 増殖を始 め る .

の ような生体に感染 した炭痕菌は, 連鎮は少し短

く て,

2 - 3 個が つ なが っ た連銭菌の こ と が多い .

ま た,

生体内で は炭酸ガ ス ( 垂炭酸イ オ ン) の 存

在によ っ て , 炭痘菌は英膜をも つ ように なる . 莱

膜 は宿主の 免疫に抗 して 炭痕菌が増殖するた め の

構造で あり, 炭 痘菌は血液中で も殺菌されず, 牌

臓で も活発 に増殖する . 英膜 をも っ た炭痕菌は強

毒型菌で ある .

R e p ri n t r e q u e st s t o : T at s u o Y A M A M O T O

D ivi si o n of B a c t e ri ol o g y

D e p a rt m e n t of I nf e cti o u s D is e a s e

C o nt r ol a n d I n t e r n atio n al M e dici n e

N iig at a U niv e r sit y G r ad u at e S c h o ol of

M e di c al a n d D e n t al S ci e n c e s

1 - 7 5 7 A s ab i m a cb i - d o ri,

N iig at a 9 5 1 - 8 5 10 J a p a n

別 刷請求先 : 〒95 1 - 8 5 1 0 新潟市旭町通り 1 - 7 5 7

新潟大学大学院医歯学総合研究科国際感染医学講座

細菌学分野 山 本 達 男

8 8

Z 5

2 0

1 5

1 0

0

7 0

6 0

5 0

ヰ0

3 0

2 0

1 0

0

新潟医学会雑誌 第 1 1 8 巻 第 2 号 平成 1 6 年 (2 0 04) 2 月

ヒ ト

ロ 患者数

小 党 亡者教

1 9 6 5 1 9 7 O 1 9 7 S 1 9 8 O 1 9 8 5 1 9 9 0 1 9 9 5 2 0 0 0

ウ シ

露 分群数

1 9 6 5 1 9 7 0 1 9 7 5 1 9 8 0 1 9 8 5 1 9 9 0 1 9 9 5 2 0 0 0

図 l 我 が国に おけ る炭痘 の 発生状況

感染 した動物 ( ヒ ト) が死 ぬと, 体内の炭痕菌

は酸素に触れ, 芽胞 を作る よう になる .

炭痘菌の 芽胞は , 安定で, 小さく, 空気感染す

る こ と か ら細菌兵器 と して 使用され る .

炭痘菌の細胞感染の電子顕微鏡角牢析

炭痘菌は, 細胞侵入性の 細菌で ある . 培養細胞

に炭痕菌を感染させ ると特異 な感染構造が観察さ

れ る . 感染部位の 細胞膜に は ト ン ネル 状の 穴 が 開

普, 炭痘菌がそ こ に めり込ん で い る ( 図 2 下) . そ

の ト ンネ ル 構造に は, 炭 痘菌の 線毛 ( T F P l) 柄

造が多数観察され る . 炭痘菌は T F P l 線毛を使い,

標的と なる細胞 の_細胞膜 に強 い刺激を与え, 酵素

図 2 炭痘菌 の 走査型電子顕微鏡像

上 : 寒天平板上 の 炭痘菌 ( 連鐘状梓菌 で あ

る. )

下 : 細胞表面 に 感染 し た 炭痘菌 ( 炭痘菌は

細胞 に感染すると,

特異な線毛 を発現

し,細胞表面 に ト ン ネ ル 状 の 穴をあけて

い く . )

反応 に よ っ て 巨大な穴を作 っ て, 細胞 (膜) に侵

入すると考えられ る . 線毛 ( T F P l) は, 新 し い コ

ンポ ー ネ ン ト型 の炭 痘 ワ クチ ン候補で ある .

炭痘菌の病原性 因子

図3 は炭痕菌の 病原性因子 と遺伝子をまと め た

もの で ある1)

. 炭痕菌の 全ゲ ノ ム 配列 は未だ報告

は されて い ない が, 病原性発現で重要な2 つ の プ

ラ ス ミ ド ( p X O l と p X O 2) に つ い て は全 塩基配

炭痘菌 B i ot e rr o ri s m

防潮童琵擾

致死際予 浮腰弼予

染色体

a

A

藩療寮鞠

F、豊臣盛 ?

#ISヱ豊≧ヱ

?

e s c a p el'

遺伝 子

Ie f

% # % &

千幽

a A

a

東 x A

p東O l

1 8 1,6 5 4 b p

Q 睦

二義怒十繁藤

AIS 斗6之7

訴帝遺伝子

*

p X O 芝

&&C a e

墓地

紬p

図 3 炭痘菌が も つ 病原性遺伝子

炭痘菌 の 主要な病原性遺伝子 は プ ラ ス ミ ド に存在 して い る . 2 つ の

病原性プ ラ ス ミ ド p X O l と p X O 2 に つ い て は,

全塩基配列が 決定 され

て い る .

列 が解析済み で あり, 病原性遺伝子 とそ の産物を

把握する こ とが でき る .

p X O l は長 さ 1 8 1 k b p で, ホ ロ 毒素の 構成成分

であ る防御抗原 (p r ot e cti v e a n tig e n,P A) , 致死因

チ (1 e th al f a ct o r , L F) そ して 浮腫因子 ( e d e m a

f a ct o r,E F) を コ ー

ドする遺伝子をも つ . また,

の よう な毒素遺伝子群 は ま と ま っ て 存在 して い

て, まとま っ た遺伝子構造を病原性遺伝子島(p a 也-

o g e n i cit y i sl a n d,

PI) と呼ん で い る . 炭痕菌は進

化 の 過程で こ の 病原性遺伝子 島を獲得 して 病原菌

に変化した と考 えられ る .

もう一

つ の プ ラ ス ミ ド p X O 2 は 長 さが 9 6 k b p

で , 英膜を産生するた め の遺伝子群をも っ て い る .

炭痘菌の D N A 診断と堪別

炭痘 が起き た場合の 診断 に は,

P C R を用 い る .

8 9

標的遺伝子 は, 英膜遺伝子 と毒素 (防御抗原, 致

死因子 , 浮腫 因子) 遺伝子で ある .P C R によ っ て

,

炭痕菌で あるか どう か,

そ して その 炭痘菌が強毒

株で ある の か弱毒株で ある の か を鑑別する こ と が

で きる . 米国や わがB] で 問題 に な っ て い る 「白い

粉+ で も数時間以 内に結果を出す こ と がで き る .

リ ア ル タイ ム P C R 法 を用 い る と判定時間が さら

に短縮され る .

米国で は, 複数 の 患者が 出た場合に は分子疫学

解析 と呼ばれ る調査 が行 われ る . 患者か ら試料

(炭痘菌) を分離 ・ 培養し,

D N A を抽出する .こ

の D N A を制限酵素で切断 し, 例えば リボタイ ピ

ン グ法によ っ て その 切断 パ タ ー ン を解析 して , 複

数 の 炭痕菌が 同一

菌か どうか を判定す るもの で あ

る .こ の他に,

パ ル ス フ ィー ル ドゲル電気泳動法

と呼ばれ る方法が ある . い ずれの 方法で も判定に

4,5 日を要する .

9 0 新潟医学会雑誌 第 1 1 8 巻 第 2 号 平成 1 6 年 (2 00 4) 2 月

リ ン パ管閉塞 イ卜 - 出血性縦隔炎 → 敗血症~ 1 0

8/ m I

1 1肺水腫 髄膜炎

図 4 肺炭痘 : 感染と発症 の メ カ ニ ズ ム

空気感染 し た 炭痘菌 の 芽胞 は 肺胞 に達し, 肺胞 マ ク ロ フ ァ

ー ジ に 取

り込まれ る . 発芽後,

炭痘菌は マ ク ロ フ ァー ジ内で増加 し

,

部 は 脱

出する . さ ら に,

リ ン パ 管 を通 っ て リ ン パ 節 に到達 し た 炭痘菌 ,あ る

い は 芽胞 は一

連 の 深部感染症 の 原因となる.

主な症状 : 軽度 の 発熱,疲労感, 頭痛, 筋肉痛

,胸部の 軽度の痔痛

D N A 診断と 同時に, 検体 ( 菌株) の 生物性状

検査を行う . まず, レ シ チナ - ゼ活性を検査する .

卵黄培地 ( レ シ チ ン を含ん だ培地) に炭痘菌を培

養すると, 炭痘菌は菌体の外に レ シチナ - ゼ を産

生するた め に, 集落の周 りに白い沈殿 ( レ シ チ ン

が分 解され て 生 じた 不溶性の リ ン脂 質) を生 じ

る . また,

マ ン ニ ッ トを分解しな い の で, ( ア ミ ノ

酸を分解 して ア ン モ ニ ア を産生 して) 培地 を赤く

B B

変色 さ せ る . 卵黄反応 は枯草菌と の鑑別 に有用 で

あ る . 赤血球溶解反応 は,

セ レ ウ ス 菌 ( 食中毒の

原因菌) との鑑別 に用い られ る . ヒ ツ ジ血液寒天

培地 で培養すると,

セ レ ウ ス 菌集落は溶血性を示

すが, 炭痘菌集落は溶血性を示さ ない

. また , 両

者を運動性で鑑別する こ ともで き る . SI M 軟寒天

培地 に針で 穿刺 し, 培養する と,

セ レ ウ ス 菌は遊

走 して培地全体に広が る . 炭痕菌は鞭毛を作らな

炭痘菌 Bi o t e r r o ri s m 9 1

い た め に運動性 が無く, 穿刺した場所だけに菌 が

増殖 する .

発症 メカ ニ ズム

肺炭痘 :

約 1 F L m と小さな構造で ある芽胞を吸 い 込む と,

芽胞 は肺胞 にま で到達して しまう ( 図 4) 2) 3). 肺

胞 に は肺 胞 マ ク ロ フ ァー ジが 多数存在 して い る .

炭痕菌芽胞 はその 肺胞 マ ク ロ フ ァー ジ に侵入 , 内

部 の フ ァ ゴ ソ- ム に取り込まれ ると

,リ ソ ソ ー ム

と融合する . こ の 段階で, リ ソ ソ ー ム 内の殺菌物

質によ っ て 芽胞 が刺激され, 発芽が促進される .

一 般細菌で は こ の 融合 によ っ て ( リ ソ ソ ー ム 内の

加水分解酵素や活性酸素が作用 して) 殺菌されて

しまう . ま た, 結核菌の 場合には, 炭痕菌と 同様

に肺胞 マ ク ロ フ ァー ジ内に侵入 し, そ こ で増殖す

るが, リ ソ ソ ー ム に対して は融合を阻止する .

発芽 して 栄養型 に な っ た炭痘菌は フ ァ ゴリ ソ ソ

ー ム を脱出して細胞質内に移行 し, 細胞質内で増

殖す る. その一

部は細胞膜を破 り, 細胞外に出る .

こ の段階で は英膜や毒素は不要であ る .

細胞外の 炭痘菌ある い は肺胞マ ク ロ フ ァー

ジに

こ取り込 まれ た状態 の炭 痘菌 ( 芽胞) は傍気管支 リ

ン パ 節に移動 し, さら に胸郭リ ン パ 節に移動 して

そ こ で増殖し, 毒素を産生 して 出血性の リ ン パ 節

炎を惹起する . 毒素の作用によりリ ン パ 節 ・

リ ン

パ 管を閉塞させ , 浮腫を起 こす. さらに, 菌血症

や 敗血症 を起 こす. 血中の 炭痘菌濃度 が菌血症 と

して は最高 レ ベ ル の 10 8/ m l に達する こ と が ある .

こ の状態 の 炭痘菌は血液脳 開門 の細胞 をも突破 し

て髄液中に入 り, 深刻な髄膜炎を起 こす.

腸炭痘 :

炭痘菌はサ ル モ ネ ラ や赤痢菌と同様に,パ イ エ

ル 板の M 細胞か ら侵入 する可能性 があ る . 侵人

後, 炭痘菌は増殖 して 毒素を産生 し, 腸管粘膜 に

浮腫を起 こ した り, 壊死 を起 こ した り して腸管に

穿孔を形成する. 稀に, 炭痘菌が リ ン パ 節 ・

リ ン

パ管を経て静脈中に侵入 し, 敗血症を惹起する.

皮膚炭痕 :

炭痘菌が皮膚の 傷か ら侵入 し, 増殖 して毒素を

産生す る . 毒素の 作用 の 1 つ と して サイ トカイ ン

を誘導 し, リ ン パ 球の浸潤や , 発疹, 水痘 を形成

し,さらに潰癌と壊死を起 こす.

炭痕毒素 :

炭痘毒素とは, 防御抗原 と敦死 因子か ら なる敦

死毒素 (1 e 也 al t o x i n) と, 防御抗原と浮腫 因子 か

ら な る浮腫毒素 ( e d e m a t o xi n) の 2 種類か ら な

る複合毒素である . 敦死毒素と浮腫毒素は A B 型

毒素で ある . 防御抗原は,

感染防御抗原と して炭

痕を防御する こ と がで きる因子と考えられて い た

が, 実際に は病原性因子で ある . 毒素の Ⅹ線構造

が 明ら か に な っ た .

防御抗原は単量体で,

N 末端側に P A 20 と呼ぶ

ド メ イ ン が,

C 末端側に P A 6 3 と 呼ぶ ド メ イ ン が

位置する . 防御抗原が細胞表面 の レ セ プタ ー を認

識 して結合する と, 細胞表面 の プ ロ テ ア ー ゼ ( プ

リ ン) に よ っ て 切断され, N 末端側 の Pj u O が切

り離されて , C 末端側の P A6 3 だけが残る . P A 6 3

は細胞表面で 7 量体を形成 し, 中心 に穴が空 い た

構造を取る .こ の 7 量体 に致死因子や 浮腫 因子 が

結合する .こ の 状態で毒素が フ ァ ゴ ソ - ム に取り

込まれ,さ らに防御抗原の 働きで致死因子と浮腫

因子が細胞質内に注入され る .

敦死 因子 は メ タ ロ ( 亜鉛) プ ロ テ ア ー ゼ で あ

る .マ イ ト ジ ュ ン活性化プ ロ テ イ ン キナ

- ゼ キナ

- ゼ ( M A P K K) を分解する . M A P K K は,

マ ク ロ

フ ァー ジ内におい て は マ イ トジ ュ ン活性化プ ロ テ

イ ン キナ - ゼ ( M A P K) をリ ン酸化 して マ ク ロ フ

ァー ジを活性化させ る . 炭痕菌は致死因子に よ っ

て マ ク ロ フ ァー ジ の機能を低下させ

,マ ク ロ フ ァ

ー ジ内で生存し続ける . ま た, M A P K K の 切断に

よ っ て T N F -

α,IL - 1β等の サ イ トカイ ン が細胞

か ら大量 に放出され,シ ョ ッ クを惹起する.

浮腫因子も致死 因子 と同様の メ カ ニ ズ ム で細胞

質内に取り込まれる . そ こ で 浮腫因子 は カ ル モ ジ

ュ リ ン依存性ア デ ニ レ ー

ト シ ク ラー ゼ を活性化す

る . 活性化された カ ル モ ジ ュ リ ン依存性ア デ ニ レ

ー ト シ ク ラ ー ゼ は A T P か ら サイ ク リ ッ ク A M P

( C A M P) を生成する . 細胞内で c A M P 濃度が上

昇する と, 水の 透過性が変化 して浮腫 が惹起 され

る . ポ ー

リ ン や Cl ‾チ ャ ネル 等の 水透過 に関与す

9 2 新潟医学会雑誌 第 1 1 8 巻 第 2 号 平成 1 6 年 ( 20 0 4) 2 月

るチ ャ ネ ル を活性化さ せ ると考え られて い る .

納豆菌との関連

炭 痘菌の 英腰 は γ- ポリ グ ル タ ミ ン酸で 構成さ

れて い る . 日本で よく食 べ られて い る納豆 の"

バ ネバ”

,つ まり納 豆菌 ( B a cill u s s u b t7

'

11'

s) が つ く

る粘着質の 構造 も同じく γ- ポ リグ ル タ ミ ン 酸で

で きて い る . 両者の γ- ポリ グ ル タ ミ ン酸 の 合成

遺伝子 (4 つ の 遺伝子) に も相同性がある.

た だ し, 違い もある . 炭痘菌の γ

- ポリグ ル タ ミ

ン酸 ( 英膜) は D 型で あり, 菌表層結合型で ある .

一 方, 納豆菌の γ- ポリ グ ル タ ミ ン 酸は D 型と L

型の 混 ざりで, 菌体から分泌 される物質で ある .

納豆菌はその粘着性 ("

ネバ ネ バ”

) によ っ て納

豆に付着するが , 炭痘菌の場合も, 英膜は組織に

結合するた め の 構造で ある可能性があ る . ある い

は , 納豆 の"

ネバ ネ バ”

で炭痘が防御で き る の で

あろうか .

お わ り に

炭痘菌テ ロ 対策と して, 市民用 の ワ クチ ン 開発,

そ して交差耐性を引き起 こ さな い新 し い概念 の 抗

菌薬 ( 抗炭痘菌薬) の 開発が 必要で ある.

文 献

1 ) M o c k M a n d F o u et A : A n th r a x . A n n u R e v

M i c r o bi o1 5 5: 6 4 7 - 6 7 1 2 0 0 1 .

2 ) I n g l e s b y T V,

H e n d e r s o n D A,

B a rtl ett J G ,

A s c h e r M S,

Eit z e n E,

F ri e dl a n d e r A M,

H a u e r∫,

M c D a d e ∫, O st e rh ol m M T , OIT o ol e T , P a rk e r

G , P e rl T M,

R u s s ell P K a n d T o n at K : A nth r a x a s

a bi ol o g i c al w e a p o n : m e di c al a n d p u bli c h e alt h

m a n a g e m e n t . W o r ki n g G r o u p o n Ci v ili a n

Bi o d ef e n s e . J A M 2 8 1: 1 7 3 5 - 1 7 4 5 1 9 9 9 .

3 ) D i x o n T C,

M e s el s o n M,

G uill e m i n ∫a n d H a n n a

P C : A n 也r a x . N E n gl J M e d 3 4 1 : 8 1 5 - 8 2 6 1 9 9 9 .

2 私の経験 した炭痘

川名 林治

岩手医科大学名誉教授

A n th r a x t h a t I E x p e ri e n c e d

R i nji E A W A N A

P T O 丘s s o L・

E m e n'

t u s,IT 和 t e M e d )

'

c aI U n J'

v e r:S L'

R e p ri n t r e q u e s t s t o : Ri nji K A W A N A

1 - l l - 6 T s u k ig a o k a,

M o ri o k a 0 2 0 - 0 12 1 J a p a n

別刷請求先 : 〒 02 0 - 0 1 2 1 盛岡市月が 丘 1 - l l - 6

川 名 林 治