10 章...
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10章 沿岸漂砂による汀線変動とその数値的予測 10.1 沿岸漂砂の実例
図-10.1 高波浪時の砕波帯(沿岸漂砂帯)
図-10.2 海岸線に斜めに入射する台風のうねり列
図-10.3 沿岸漂砂の卓越方向
図-10.4 沿岸方向方向に動く砂(流れによる底質移動)
図-10.5 サンゴ礁海浜における流れによる底質移動
図-10.6 インレット前後における不連続汀線(中央は導流提)(NY)
図-10.7 インレット前後の不連続汀線(コロラド)
図-10.8 沿岸漂砂の捕捉(上手堆積;下手侵食)
図-10.9 離岸提と沿岸漂砂(遮蔽域堆積;隣接海浜侵食) 図-10.10 沿岸漂砂のベルト(帯)
図-10.11 沿岸漂砂制御構造物(I字;T字;L字突堤)(クラウス博士提供)
図-10.12 突堤構造物の種類
図-10.13 インレット(流軸)による沿岸漂砂系の分断(オランダ北海海岸) 図-10.14 インレット周辺での沿岸漂砂の蛇行(中央部侵食;下手堆積)
図-10.15 沿岸漂砂帯の蛇行(オランダ北海海岸) 図-10.16インレット(河口)周辺での沿岸漂砂の下手側への漏れ(クラウス博士提供)
10.2 沿岸漂砂のモデリング
波が汀線に対し直角入射すると、沿岸方向の波エネルギ- フラックスは一様となり、汀線に直
角方向の砂移動(岸沖漂砂)が支配的になる。波が汀線に対し斜め入射する場合、沿岸流が卓越
するようになり、汀線方向の砂移動(沿岸漂砂)が生じる。沿岸漂砂は、沿岸流と砕波後の波の
持つ流れ成分に支配される。ところが一つの砂粒子に着目すると、その運動は必ずしも汀線に平
行に運動するのではなく、遡上波と戻り流れによりジグザグに移動する。台風や季節風に伴う短
期間の海浜変形には、漂砂移動の激しい岸沖漂砂が支配的で、数カ月以上数十年にわたる長期間
の海浜変形は、沿岸漂砂が支配的であるといわれている。
海岸工学的な事業が行われている海浜で長期間の汀線変動をシミュレ- ションするのには、通
常 1- ラインモデルを使用する。ここではその代表的なモデルとして、海岸構造物による汀線変
化を予測するために開発された GENESIS(ジェネシス)と呼ばれる数値モデルのモデルの概要を
示し、1-ラインモデルの紹介とする。なお、本モデルでモデル化される典型的な領域は1~100km
の空間領域で、シミュレ- ション時間は 1~100 ヶ月程度である。
本 GENESIS は、沿岸漂砂の時間的・空間的変動により生じる汀線変動をシミュレ- ションする
1 次元の汀線変動モデルである。養浜や河口からの土砂供給により生じる汀線変動も表すことが
できるこのモデルの主な利用目的は、沿岸域に設置された構造物による汀線の応答をシミュレ-
ションする事である。ただし、暴浪や海象の季節変動に関連する岸沖漂砂により生じる汀線変動
はシミュレ- ションされない。その理由は、このような岸沖漂砂による地形変化は、十分に長い
シミュレ- ション期間内では平滑化されてしまうためである。
本数値モデルは、多様の波浪条件、初期海浜形状、海岸構造物、そして、養浜を取り込みシミ
ュレ- ションが実行できる。このジェネシスの先行モデル(Kraus, 1988)自体は、堀川教授によ
り日本で実施された沿岸環境センタ-事業の中で開発されたものである。その後、一般化された
ジェネシスモデルが Hanson により開発された。このモデルを使用する上でまず必要なことは、
汀線の座標系を設定することである。使用する典型的な空間格子サイズは、25,50,100mである。
加えて、本モデルの実行に必要な最低限のデ- タは、以下の通りである。
(i) 汀線位置
(ii) 波浪
(iii) 構造物の形状ならびに配置、そして、その他の工学的事業(養浜など)
(iv) 海浜断面図
(v) 境界条件
また、本モデルを作動させる上での、標準的な仮定は以下のようになっている。
(i) 沿岸方向に海浜断面形状が一定である。
(ii) 海浜断面の海側と陸側の境界条件は、バ- ム高さと地形変化の限界水深
により決まる。
(iii) 底質は砕波により沿岸方向に移動する。
(iv) 沿岸流の詳細な構造は省略される。
(v) 汀線変動に長期的なトレンドがある。
(a) 突堤の効果の数値計算例 (b) 離岸堤と河口土砂供給による汀線変動
図-10.17 モデルによる汀線変動の数値計算例
10.3 支配方程式
海浜縦断面形状が図-10.18 に示されるように汀線変動前後で一定であると仮定できれば、時
間刻みδt内の体積変化量は∆ V=∆ x∆ y(DB+Dc)になる。また、本解析で使用する座標系を、図
-10.18 のように設定する。
図-10.18 沿岸漂砂量と汀線変動概念図
図-10.19 数値モデルで使用する座標系
図-10.18 に基づき漂砂量の収支関係を考えれば、底質の連続式が以下のように誘導される。
0)()(
1=−
∂∂
++
∂∂ q
xQ
DDty
CB
(10.1)
式(1)に基づき汀線変動量∂y を求めるためには、初期汀線位置、境界条件、そして、沿岸漂砂量
Q、岸沖漂砂量 q、バ- ム高さ(前浜高さ)DB、地形変化の限界水深 Dcの諸量が既知でなければな
らない。但し、通常は岸沖漂砂量は零とおいて解析を行う。
10.4 沿岸漂砂量
式(1)を数値的に解いて汀線変動量を求めるには、まず沿岸漂砂量Qを算定しなければならな
い。本数値モデル(ジェネシス)は、以下に示す経験的な沿岸漂砂量公式を用いる。
bbsbsbg xHaaCHQ )2cos2sin()( 21
2
∂∂θθ −= (10.2)
ここで、
H=波高
Cg=線形波理論より与えられる群速度
b=砕波条件を表す添え字
θbs=局所汀線に対する砕波角である。
上式の無次元パラメ- タ a1と a2は、以下のように与えられる。
2/51
1 )416.1)(1)(1/(16 pKa
s −−=
ρρ (10.3)
7/22
2 )416.1(tan)1)(1/(8 βρρ pK
as −−
= (10.4)
ここで、
K1,K2=沿岸漂砂量の経験的係数
ρs=砂の密度(石英砂に対して 2.65x103kg/m3)
ρ=水の密度(1.03x103kg/m3)
p=砂の空隙率(0.4)
tanβ = 汀線と動的沿岸漂砂帯沖側水深までの平均勾配である。
係数 1.416 はジェネシスで用いる統計波である有義波高を、自乗平均波高 Hrmsに変換するため
に用いられる。なお、式(2)の第 1 項は“海岸工学研究センタ- ”公式であり、斜め入射砕波に
よる沿岸漂砂量を意味する。K1の値は当初 Komar and Inman (1970)により K1=0.77 とされたが、
Kraus et al.(1982)により 0.77 から 0.58 が推奨されている。
式(2)の第2項は、砕波波高の沿岸方向勾配∂Hb/∂xに起因するものである。この項は、小笹and
Brampton(1980)により導入されたものである。一般に、開かれた海浜に対しては、この項の寄与
は斜め入射波によるものに比べて小さい。しかしながら、回折が砕波波高の変化を引き起こすよ
うな構造物付近においては、この第 2 項の包含がモデルの計算結果を改善する。K2の値は、典型
的には K1の 0.5 から 1.0 倍である。ただし、K2をより大きく取ることは計算の数値不安定性を増
す元凶になるので推奨できない。
結論として、係数K1とK2は数値モデルの中でより精度の高い汀線変動予測を行うためにキャリ
ブレ- ション因子として取り扱われる。これらの値は、計測された汀線変化、沿岸漂砂量の大き
さと方向を最適化するように決定される。
10.5 沿岸漂砂の有効水深
沿岸漂砂量を記述した式(2)を視察すれば、沿岸漂砂量 Q が砕波波高と砕波角に顕著に依存し
ていることが分かる。
bsbHQ θ2sin)( 2/5∝ (10.5)
外洋に面し開いた海岸は、静穏な波から暴浪条件に至る幅広い条件の波の入射を受ける。沿岸
漂砂量は波高により大きく増幅されるだけでなく、またそれより効果が小さいとはいえ、波角も
漂砂量を変動させる。よって、漂砂量計算に用いる入射波条件の時系列中から、微少な沿岸漂砂
量を生じるもの、あるいは汀線変動にほとんど貢献しない入射波浪成分を除去するために、有意
な沿岸漂砂の発生限界値(波高)を設定することが合理的である。そのために、Kraus and
Dean(1987)により報告された沿岸漂砂の発生限界値を本モデルでは採用している。
Kraus and Dean (1987)により報告された沿岸漂砂の発生限界値は、中程度の粒径の砂浜で行わ
れた現地実験の結果に基づいている。この実験とデ- タに関する詳細な記述は、海岸工学研究セ
ンタ-の技術報告でなされている。また、その沿岸漂砂量実測値の解析段階で、体積表示した沿
岸漂砂量 Q と、“沿岸流量パラメ- タ- ”と呼ばれる指標 R との間に高い相関があることを示し
た。この沿岸流量パラメ- タ Rは、以下のように示される。
bb XVHR = (10.6)
ここで、
V=沿岸流の平均速度
Hb=有義砕波波高
Xb=砕波帯の幅である。
次いで、漂砂の水中重量 I と沿岸流量パラメ- タ R の間に線形の従属関係があると仮定すると、
以下の回帰式が得られる。
)(7.2 cRRI −= (10.7)
上式の中で、切片 2.7Rc =3.9m3/sec は、有意な沿岸漂砂を生じる限界値として解釈できる。そ
して、I の単位は N/m で、R は m3/sec である。この量 Rcは、通常、計算に用いる波浪デ- タの時
系列を検索することで、それより小さいRを生じる波浪成分の計算を除去できる。
式(7)は、m 単位系に対して有効である。ジェネシスでは、砕波帯幅を求めたり、海浜の平均
勾配を求めるために、動的沿岸漂砂水深 DLT が使用される。これは、海岸構造物の漂砂上手側に
おけるの 1/10 最大波の砕波水深に等しく置かれる。また、標準的な仮定を用いれば、この水深
が有義波の砕波波高と以下のような関係で結ばれる。
bLT HD )( 3/127.1γ= (10.8)
あるいは、DLTは次のように計算される。
0
00 )9.103.2(
LH
HDLT −= (10.9)
ここで、
H0/L0=深海波の波形勾配
H0=深海域での有義波高
L0=深海での波長である。
もし、波浪のスペクトル情報が与えられれば、T は波のスペクトルピ- ク周期を用い、そうで
なければ有義波に関連したものを用いる。式(9)は、非常に大きな波浪作用下での沿岸漂砂帯の
年平均沖側境界を算定するために Hellermeier(1983)が導入したものである。
10.6 平均海浜断面形状と勾配
沿岸方向の砕波位置を決定し、沿岸漂砂量式中で用いられる平均海底勾配を計算するために、
次式で示す平衡海浜断面形状があらかじめ設定されなければならない。
3/2AyD = (10.10)
ここで、断面形状係数 Aは以下のように計算される。
5011.0
50
5028.0
50
5032.0
50
5094.0
50
0.40,)(46.0
0.400.10,)(23.0
0.104.0,)(23.0
4.0,)(41.0
ddA
ddA
ddA
ddA
≤=
<≤=
<≤=
<=
(10.11)
式中の(d50)は mm 単位で与えられ、Aの単位は m1/3である。上述の関係から平均勾配が以下のよう
に誘導される。
2/1
0
)(tanLTDA
=β (10.12)
10.7 波浪計算
波浪デ- タは一般的には 6時間から 24 時間の範囲の一定時間間隔でモデルに入力されるが、我
が国では 2 時間おきの波浪デ-タを用いるべきであろう。波高計設置位置における波高と波向き
は、沿岸方向に等間隔に設定されたモデル内の格子状の砕波点まで波浪変形計算を行わなければ
ならない。規則波の変形計算モデルでは、波の周期は一定と見なされる。
このジェネシスモデルは 2 つの主要なサブモデルから構成されている。その一つは沿岸漂砂量
と汀線変動を計算するものである。もう一つのサブモデルは、簡単化された条件の下で、沖側基
準点において与えられた波情報から砕波波高と砕波角を計算するためのモデルである。
砕波の計算には回折を省けば、波高、波向き、そして、砕波水深の 3 つの未知数がある。まず
式(13)は、屈折と浅水変形により波浪変形した波の砕波波高を計算するのに用いられる
refsr HKKH =2 (10.13)
ここで、
H2=任意の地形における砕波波高
Kr=屈折係数
Ks=浅水変形係数
Kref=沖側の基準水深での波高、あるいは、沿岸基準等深線での波高
屈折係数Krは、波向き線のスタ- ト角と、砕波水深により決定される位置P2における波の進入
角の関数である。この Krは、以下のように与えられる。
2/1
2
1 )coscos(
θθ
=rK (10.14)
ここで、θ2は P2における砕波角である。
浅水係数 Ksは、波の周期、P1の水深、そして砕波水深により以下のように求められる。
2/1
2
1 )(g
gs C
CK = (10.15)
ここで、Cg1と Cg2は P1と最初の砕波点における群速度である。波長は以下のように分散式から計
算される。
)2tan(0 LDLL π
= (10.16)
計算機の実行時間を減らすために、0.1%程度の精度を持つ合理的な方法が、超越方程式(16)を
解くのに用いられる。そして、砕波限界は以下の式のように与えられる。
bb DH γ= (10.17)
ここで、Db, haは砕波点の水深、砕波指標γは深海波波形勾配と平均海浜勾配の関係である。
0
0
LH
ab −=γ (10.18)
ここで、a=5.0[1-exp(-43tanB)]、そして b=1.12/[1+exp(-60tanB)]である。
最終的に、砕波点における波角(波向き)はスネルの法則を用いて、以下のように解かれる。
1
1sinsinLLb
bs θθ= (10.19)
ここで、θbと Lbは砕波点における波向きと波長であり、θ1と L1は沖合の地点におけるそれぞれの
量である。
上述した方程式群を数値的に解くことで、砕波波高、砕波角、沿岸漂砂量が順次具体的に求ま
る。本解析に使用した数値モデルでは、いったん沿岸漂砂量の空間勾配が計算されれば、その時
間刻み内の汀線変動量が求まるようになっている。
10.8 実海岸での沿岸漂砂 -鹿児島湾内の神之川河口周辺の海浜変形-
10.8.1 概要
最近、海砂採取が海岸・海域環境に及ぼす影響が各地で問題となっている。海砂採取が海岸線
近傍で行われれば海岸侵食の助長原因となり、また浅海域漁場に大きな影響をもたらすことも考
えられる。一方、河川での砂利採取が禁止されている現在、良好な骨材資源を得るために、条件
が許せば海砂採取を行いたい場合もある(櫨田ら、1991 参照)。実際にはこれら両者が調和した
場合のみ海砂採取を行う必要があるが、合理的な判断ができない場合も多い。鹿児島湾内の大隅
半島に位置する神之川の河口沖では、沖合の河口テラス上で海砂採取が行われており、テラス周
辺の海底地形にかなり著しい変化が見られる。このため、掘削穴形成前後での屈折変化に伴う汀
線変化や、海底勾配が急な採取孔の岸側海浜からの土砂の落ち込みなどが起こる可能性がある(宇
多ら、1985 参照)。さらに、他の多くの現地海岸と同様、この海岸には海岸保全のための離岸堤
群が建設されており、これらの人工構造物の影響が重合した複雑な現象が見られ、漂砂現象の理
解を妨げている。そこで、本研究では神之川海岸を実例として、このように輻輳した問題につい
て検討し、現象の理解を深めるものである。
10.8.2 神之川河口周辺の地形と汀線変化
神之川海岸は、鹿児島湾に面した大隅半島南部の大根占町に位置し、図-10.20 に示すように神
之川河口を中心とする両端を岬状の岩礁により区切られた延長約 2.4km のポケットビ-チである。
海岸の沖合には神之川起源と考えられる河口沖テラスが発達しているが、現在海岸から 800m ほど
沖合の水深 10m 付近では海砂採取が継続されている。この海岸では 1988 年 12 月時点で、河口の
北側に 3基、南側に 5基の離岸堤が設置されている。
図-10.20 神之川海岸等深線図
この海岸では河口を挟むようにして離岸堤群が設置されたために沿岸漂砂が生じ、離岸堤背後
では汀線が前進し、逆に漂砂の供給源となった河口部では汀線が後退している。この汀線変化は、
他の多くの海岸でも見られる波の遮蔽構造物(離岸堤)の設置に伴う遮蔽域での堆砂と、隣接海
浜での侵食の典型例である。航空写真より H.W.L.に対応する汀線形状を読み取り比較したのが図
-10.21 である。図示する約 7年間の汀線変化によれば、河口南側の離岸堤遮蔽域では延長約 1080m
で汀線が最大 21.7m 前進し、北側の離岸堤背後でも延長約 395m で最大 46m 前進している。これと
対照的に、河口を中心に延長約 774m で最大 65m 汀線が後退している。離岸堤により波が遮蔽され
ていない河口部の測線 No.5,6,7 において侵食が生じ、特に河口南側の海浜の汀線後退が顕著であ
る。河口周辺での汀線形状が南北非対称で、河口北側の汀線が直線的なのに対し、南側ではフッ
ク状になりつつあること、また汀線の後退状況が非対称であり、南側で著しく汀線が後退してい
る点は、この海岸における卓越波の入射方向が河口中心線の方向からではなく、時計回りの方向
に傾いていることを意味している。そして、沖向きに突出した河口に対して北側の汀線がほぼ直
線的に伸びていることから、汀線付近での波の入射方向はこの汀線とほぼ直角方向の北西である
と言える。
10.8.3 縦断形の変化:
図-10.21 に示した 200m 間隔の測線から代表的な測線を選び、その海浜縦断形の変化を図-10.23
に示す。離岸堤による波の遮蔽域に入る測線 No.1 では、離岸堤の背後域で土砂が堆積しており、
ほぼ標高 4m から-2m の間で地形変化が生じている。また、-2m 以深は平坦面が広がっている。地
形変化がこの平坦面より上部で起きていることから、この水深はこの区域における波による地形
変化の限界水深にほぼ相当すると考えられる。この区域における堆積とは対照的に、離岸堤によ
り遮蔽されていない、河口部の測線 No.5,6,7 においては侵食が進んでおり、とくに No.5 では縦
断形の平行移動が見られる。この場合の波による地形変化の限界水深もまた-2m にある。河口北
側の No.8 では、土砂の堆積により縦断形がほぼ平行移動しつつ前進している。また、侵食域と堆
積域での平均的なバ-ム高さは 4.5m で、波による地形変化の限界水深は-2m である。以上のよう
に、測線位置によらず、波による地形変化の限界水深は約 T.P.=-2m にある。
図-10.21 汀線変動
図-10.22 代表測線での縦断形状変化
さらに、算定精度を高めるために、10 測線の縦断形状から TP=2.0m と 0.0m の平均的な岸沖変
動量を求めた。そして、河口付近の前浜の侵食面積を求め、これに、上述のバ-ム高さと地形変
化の限界水深の和としての漂砂の移動高を乗じると、1981 年から 1997 年までの侵食土砂量は約
140,500m3 で、年平均では 8,781m3/yr となる。また、河口の隣接区域から南側の離岸堤背後へと
移動した沿岸漂砂量は約 55,600m3で年平均で 3,475m3/yr、かつ平均汀線変動量は年平均で 0.70m
となる。そして、北側の遮蔽域では、約 56,500m3の堆積土砂量があり、年平均で 3,531m3/yr とな
るので、河口域からは南北方向にほぼ同量の沿岸漂砂があることになる。
10.8.4 砂採取部の地形変化:
神之川河口沖のテラス上においては、1987 年より海砂採取が行われてきており、10 年間の採取
量は約 2.92x106m3であった。年ごとの平均では約 2.9x105m3/yr の採取量である。図-10.22 に示し
たように、神之川河口沖での土砂の堆積は、河口中心線に対しほぼ左右対称形に起きている。そ
こで土砂採取域の地形を調べるために、砂採取が始まった 1981 年 3 月の海浜縦断形を図-10.23
に示す。この時期、既に砂採取跡が若干見られる。測線 No.6,7,8 は河口周辺部に位置するが、こ
れらの測線では沖合でのテラスの発達が著しい。そして No.6 と No.8、No.5 と No.9、No.4 と No.10
が左右対称位置にあると言える。水深が約 5m(離岸距離約 600m)から浚渫が始まり、現在ではテ
ラスの沖側斜面の近傍まで砂採取が進んでいる。掘削前のテラスの水深は約 5m であった。この水
深は、図-10.22 から得られた波による地形変化の限界水深と比較すると深い。このことは、観察
された汀線変化が、主に離岸堤による波の遮蔽域形成に起因し、その上に掘削に伴う波向線の変
化による汀線変化が重合していると推定される。したがって汀線付近の海浜砂が掘削穴へ直接落
ち込む可能性は現状では低いと判断される。
図-10.23 河口テラスの縦断形状
参考文献: 宇多高明・上森千秋・中條徳翁(1985):海底掘削にともなう海浜変形、第 32 回海岸工学講演会論文集、pp.410-414 櫨田 操・松永信博・宗方鉄生・小松利光(1991):九州における海砂採取の現状と沿岸環境におよぼす影響調査、
海岸工学論文集第 38 巻、pp.916-920
補遺
図-10.24 汀線変動量と地形変化量の推定
図-10.25 沿岸漂砂量の推定