1000 ピーマン栽培面積 チリカブリダニ 800 ククメリスカブリダニ · 2011. 8....

8
日本の天敵利用 Past, Present and Future 2011/8/25 1 日本における天敵利用~これまでとこれから~ 宮崎大学農学部植物生産環境科学科 応用昆虫学分野:准教授 大野 和朗 鹿児島県IPM(総合的病害虫・雑草管理)シンポジウム~食の安心・安全先進県を目指して~ 近代農業の問題点 持続可能な農業:食料生産と生物多様性保全を担う農業 Food Production and Biodiversity Conservation towards Sustainable Agriculture 害虫が増えやすい、天 敵が働きにくい環境 過度の農薬への依存 自然制御(多様な天敵の働き強化) Enhancement of diversified natural enemies for natural regulation モノカルチャー(単植栽培:一 種類の作物のみを植える) 生態系サービス Ecosystem services 生態系に生息する天敵(良い虫)を害虫防除に活用 Integrated Pest Management with native natural enemies 天敵が働かない、天敵の働きが不十分なのは、 天敵が働けない環境を作っているからなんだ! 今、農業の役割が大きく変わろうとしているよ! Watch a changing role of agriculture 2 0 5 10 15 20 25 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 kg/ha 使 フランス ドイツ アメリカ 農地あたり農薬使用量の推移(OECD;経済協力開発機構調べ) 3 これまで 1.天敵先進国に学ぶことから始まった天敵利用 1)閉鎖型ハウスと開放型ハウス 2)天敵利用の経済性 これから 2.生物的防除を基幹としたIPM BC-based IPM)の展開 3.土着天敵を活用した害虫管理 (CBC, IBC) 4.生態系サービス(自然制御)を取り入れた農業へ 宮崎大学農学部 植物生産環境科学科 応用昆虫学研究室 Laboratory of Applied Entomology, UOM 4 これまで 1.天敵先進国に学ぶことから始まった天敵利用 1)閉鎖型ハウスと開放型ハウス 宮崎大学農学部 植物生産環境科学科 応用昆虫学研究室 Laboratory of Applied Entomology, UOM 5 オランダは天敵利用技術の開発により、農薬の 大幅削減を達成 オランダにおける天敵利用面積の推移 6 0 200 400 600 800 1000 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1991 1992 チリカブリダニ ククメリスカブリダニ アブラバチ他 栽培面積(10ha) ヒメハナカメムシ の一種 パプリカ栽培面積 注)日本ではこれだけの天敵が利用可能となった2000年代前半でも 利用面積は爆発的に増加していない

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Page 1: 1000 ピーマン栽培面積 チリカブリダニ 800 ククメリスカブリダニ · 2011. 8. 23. · 2.生物的防除を基幹としたIPM (BC-based IPM)の展開 宮崎大学農学部

日本の天敵利用 Past, Present and Future 2011/8/25

1

日本における天敵利用~これまでとこれから~

宮崎大学農学部植物生産環境科学科 応用昆虫学分野:准教授

大野 和朗

鹿児島県IPM(総合的病害虫・雑草管理)シンポジウム~食の安心・安全先進県を目指して~

近代農業の問題点

持続可能な農業:食料生産と生物多様性保全を担う農業

Food Production and Biodiversity Conservation towards Sustainable Agriculture

害虫が増えやすい、天敵が働きにくい環境

過度の農薬への依存

自然制御(多様な天敵の働き強化)

Enhancement of diversified natural enemies

for natural regulation

モノカルチャー(単植栽培:一種類の作物のみを植える)

生態系サービス Ecosystem services

生態系に生息する天敵(良い虫)を害虫防除に活用

Integrated Pest Management with native natural enemies

天敵が働かない、天敵の働きが不十分なのは、天敵が働けない環境を作っているからなんだ!

今、農業の役割が大きく変わろうとしているよ! Watch a changing role of agriculture

2

0

5

10

15

20

25

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003

kg/ha

農薬使用量

日本

韓国

オランダ

イギリス

フランス

ドイツ

アメリカ

農地あたり農薬使用量の推移(OECD;経済協力開発機構調べ)

3

これまで

1.天敵先進国に学ぶことから始まった天敵利用

1)閉鎖型ハウスと開放型ハウス

2)天敵利用の経済性

これから

2.生物的防除を基幹としたIPM (BC-based IPM)の展開

3.土着天敵を活用した害虫管理 (CBC, IBC)

4.生態系サービス(自然制御)を取り入れた農業へ

宮崎大学農学部 植物生産環境科学科 応用昆虫学研究室

Laboratory of Applied Entomology, UOM

4

これまで

1.天敵先進国に学ぶことから始まった天敵利用

1)閉鎖型ハウスと開放型ハウス

宮崎大学農学部 植物生産環境科学科 応用昆虫学研究室

Laboratory of Applied Entomology, UOM

5

オランダは天敵利用技術の開発により、農薬の 大幅削減を達成

オランダにおける天敵利用面積の推移

6

0

200

400

600

800

1000

1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1991 1992

ピーマン栽培面積

チリカブリダニ

ククメリスカブリダニ

アブラバチ他

タイリクヒメハナ

栽培面積(10ha)

ヒメハナカメムシの一種

パプリカ栽培面積

注)日本ではこれだけの天敵が利用可能となった2000年代前半でも利用面積は爆発的に増加していない

Page 2: 1000 ピーマン栽培面積 チリカブリダニ 800 ククメリスカブリダニ · 2011. 8. 23. · 2.生物的防除を基幹としたIPM (BC-based IPM)の展開 宮崎大学農学部

日本の天敵利用 Past, Present and Future 2011/8/25

2

オランダの閉鎖型ハウスをモデルに!

オランダ型ハウス

閉鎖性の高い温室~害虫の侵入少ない、環境制御が容易。

外気温も低く、施設周辺での害虫密度は低い

発想転換!

外からは、土着天敵も

入ってくる

開放型ハウス・・・スペインでの天敵利用の展開

ビニールハウスのような開放型は天敵利用に不向き?

ハウス外からの害虫の侵入

土着天敵の有効活用

8

オランダとスペイン、どちらの農業が日本に近い?

意見:日本のビニールハウスを考えると、スペイン式つまり土着天敵活用型が適している。

オランダは樺太と同じくらいの緯度

スペインが日本と同じくらいの緯度

表1 果菜類等の施設栽培で利用可能な主な天敵と対象害虫

天敵名 対象害虫 セールスポイント

チリカブリダニ ハダニ類 大食い、飢餓耐性弱い

タイリクヒメハナカメムシ 主にスリップス類* 捕食量と移動力は買い!

ミヤコカブリダニ ハダニ類 飢餓耐性強い

コレマンアブラバチ アブラムシ類(ヒゲナガ除く) バンカープラントで利用

スワルスキーカブリダニ コナジラミ類、スリップス類 コナジラミ類に効果高い!

10

ピーマン施設

A

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

B

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

C

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

6/3 6/10 6/17 6/24 7/1

D

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

E

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

6/3 6/10 6/17 6/24 7/1

アザミウマ成虫

アザミウマ幼虫

コナジラミ成虫

コナジラミ幼虫

スワルスキー

アザミウマ成虫

アザミウマ幼虫

コナジラミ成虫

コナジラミ幼虫

葉当たり個体数

葉当たり個体数

葉当たり個体数

(天敵放飼区) (無防除区)

2010年の結果(山本希枝、未発表)

定着性高い!農家の言葉「放飼した直後から容易に天敵を確認できる」

11

捕食性天敵スワルスキーカブリダニのピーマン施設での効果

これまで

1.天敵先進国に学ぶことから始まった天敵利用

2)天敵利用の経済性

宮崎大学農学部 植物生産環境科学科 応用昆虫学研究室

Laboratory of Applied Entomology, UOM

12

Page 3: 1000 ピーマン栽培面積 チリカブリダニ 800 ククメリスカブリダニ · 2011. 8. 23. · 2.生物的防除を基幹としたIPM (BC-based IPM)の展開 宮崎大学農学部

日本の天敵利用 Past, Present and Future 2011/8/25

3

表2 コナジラミ類防除費用の比較

化学

防除

生物的

防除(蘭)

生物的

防除(日本)

1回あたり防除資材価格 5 25注) 75

1回あたり労賃 15 0 0

1回当たり処理費用(A) 20 25 75

1作当たり処理回数(B) 10 4 4

総防除費用 (AXB) 200 100 300

単位)US$ van Lenteren (1990)を改変

13

注)天敵の価格25ドルを円換算すると、1990年代の平均為替ルート145円で3,625円となる。日本でこんなに天敵が安かった?

なぜ、天敵(生物的防除資材)の価格は高い?

今のままでは農家が複数種の天敵を利用することは難しい

ヨーロッパなどから輸送するためのコスト?

市場が小さいから?

先進国で日本だけ!の登録制度が高くしていないか?

登録制度のため、他の国に比べ、天敵が販売可能となるまでの期間が長すぎる!!

★解決法)

地域資源としての土着天敵を生産現場で活用する。

14

これから

2.生物的防除を基幹としたIPM (BC-based IPM)の展開

宮崎大学農学部 植物生産環境科学科 応用昆虫学研究室

Laboratory of Applied Entomology, UOM

15

慣行IPM vs 天敵IPM conventional IPM vs Biointensive IPM

•慣行IPMでは、

化学合成農薬を優先的に使用する。

本来のIPMの概念では、各種防除手段を併用し、農薬利用は最終的な解決手段とされている。

•生物的防除を基盤としたIPMでは、

天敵の働きを補完するため、必要な場合に選択性農薬を中心に防除を実施。

16

IPMのバージョン・アップ それとも IPMの進化?

IPMに対する批判

化学的防除中心のIPM

化学的防除中心のIPM(chemically-based IPM) 総合的農薬管理(Integrated Pesticide Management) 生態学に基盤を置いたIPM (Ecologically-based IPM) 生物的防除を基幹としたIPM (BC-IPM)

総合的作物管理(ICM)

環境(生態系)へのリスク

持続性・生物多様性の向上

17

IPM修正版

高知県での天敵利用の取組:雑然さの中の秩序?

18

剪定後の葉を圃場に残す。天敵が好む雑草を圃場内に残す。他の作物を植えておく(餌となる害虫の発生)

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日本の天敵利用 Past, Present and Future 2011/8/25

4

0.0

0.2

0.4

0.6

カブリダニ

アザミ成虫

アザミ幼虫

コナ成虫

コナ幼虫

アブラ無翅

アブラ有翅

0.0

0.2

0.4

0.6

カブリダニ

アザミ成虫

アザミ幼虫

コナ成虫

コナ幼虫

アブラ無翅

アブラ有翅

苗の花 苗の葉

抑制栽培キュウリから半促成栽培ナス ナスポット苗への天敵移動 (2011年)

(藤・吉村,未発表データ)

一般的な指導は、

「前作の残渣は圃場外に持ち出し、圃場内やその周辺に残渣を残さない」

BC-IPMの最終ゴールは • 天敵が活動、繁殖できる空間(植生管理や栽培作業の修正により)を確保することで、害虫の発生に備えるシステムを作る・・・

例えが悪いかもしれませんが、常に多様な天敵群集(軍団?)により、害虫に対する早期警戒体制や出撃体制を維持、確立すること

20

個人的意見:BC-IPMでは、従来のIPMに比べ、発生予察や発生モニタリング、EILなどの生態学的(しかし、適用の難しい)ツールに依存する度合いは低くなるのでは・・?

これから

3.土着天敵を活用した害虫管理 (CBC, IBC)

宮崎大学農学部 植物生産環境科学科 応用昆虫学研究室

Laboratory of Applied Entomology, UOM

21 Eilenberg et al., (2001)を一部改変

総合的害虫管理 (IPM)

機械的・ 物理的防除

耐虫性・ 組み替え

遺伝的防除

不妊虫放飼 生物農薬(自然物由来)

生物的

防除 化学農薬

大量放飼 接種的放飼 伝統的(永続的) 生物的防除

保全的生物的防除 (CBC)

露地野菜

果樹園 水田

果樹園

森林 街路樹 河川

施設野菜

施設果樹 施設野菜

露地野菜

総合的生物的防除(IBC)

施設野菜

施設果樹

土着天敵の保護、施設への放飼、導入

土着天敵の保護、強化

22

生物的防除 Wikipedia から

長所

• 化学的防除に比べ残留毒性が低い(ない)

• 薬剤耐性がつきにくいが(抵抗性が発達しない)

• 効果に持続性がある(現段階では実現していない)

短所

• 病害虫を全滅させることができない(IPMは対象害虫の全滅を目的としていない、“害虫管理”)

• 天敵生物の維持が難しい

• 効果が現れるのが遅い

• 生態系のバランスを崩す危険性がある

後述する植生管理手法を通して実現可能

伝統的生物的防除に比べ、接種的放飼法ではこのリスクは一般的に低い。

伝統的生物的防除であれば、持続性あり

23 24

畑や果樹園で、土着天敵など見たことない! 土着天敵の働きなど当てにならない! 土着天敵が働かないから害虫が増える!

という方へ、

• 天敵がいないのではなく、天敵の力が不十分なのではなく、

• 天敵がその能力を発揮できる環境が作られていない。

• 現代農業は天敵が働ける環境となっていない!

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日本の天敵利用 Past, Present and Future 2011/8/25

5

施設栽培での天敵利用への示唆 私達は、農家は、天敵のパフォーマンス(働きや能力)を最大限に引き出しているのか?

植生管理、農薬の使い方、栽培作業などについて、農家の取り組みやすさ、天敵利用の安定性という観点から検討が必要。

25

高知県安芸にて

韓国論山にて

施設での

植物保護戦略

農薬の代替

としての

天敵利用

難防除害虫対策

としての導入天敵

微生物農薬と

選択性農薬

導入天敵の

持続性や

安定性の向上

土着天敵の

保護・導入

(IBC)

26

多様な天敵を維持するための植生管理(バンカープンラント、インセクタリープラント)。選択性農薬の再評価と最小限利用。複数種の土着天敵利用でコスト低減が可能。

最小限の天敵利用、農薬による補完。導入天敵に選択性の高い農薬中心。土着天敵の関与は低い。現状では、複数種の導入天敵利用は経済的に無理。

導入天敵と土着

天敵活用

これまで これから

26

高知県での天敵利用の取り組み:天敵温存ハウスの共同設置

27

混植栽培ハウスでの土着天敵増殖(IBC)

表3 果菜類等の施設栽培で利用可能な主な土着天敵と対象害虫

天敵名 セールスポイントと注意点

タイリクヒメハナカメムシ クローバー(春)やマルバツユクサ(秋)で大量に採集可能

タバコカスミカメ 秋にゴマで大量発生。 侵入害虫トマトキバガに有効。

クロヒョウタンカスミカメ マルバツユクサ(秋)に発生。アリにそっくり

ヒメカメノコテントウ アブラムシ以外にカイガラムシやコナジラミも捕食

ハモグリバエ類の寄生蜂 エンドウを植えておくと、3~4月に大量発生。

28

エンドウ畑:冬季に栽培される

エンドウの葉でナモグリバエ幼虫が増える

冬季に、日本在来のナモグリバエ成虫が活動

農薬に強いハモグリバエ類の防除

マメハモグリバエ、トマトハモグリバエ(えかき虫)幼虫

野菜ハウスに設置したエンドウ葉からたくさんの天敵(寄生蜂)が羽化。

天敵が害虫ハモグリバエを攻撃

このナモグリバエ幼虫で土着天敵が大量に増殖。

天敵保護、施設への導入(総合的生物的防除)

4.生態系サービス(自然制御)を取り入れた農業へ

宮崎大学農学部 植物生産環境科学科 応用昆虫学研究室

Laboratory of Applied Entomology, UOM

30

有機栽培コーヒー園 Organic, sustainable, fair trade インドネシア アグロポリス

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日本の天敵利用 Past, Present and Future 2011/8/25

6

2ヶ年の成果を踏まえた3年目の実証試験の基本型(テンプレート) ソルゴー+オクラ+マリーゴールド

地域、農家の特性、圃場の立地条件などに合わせて、オプションを用意

ハーブ類での捕食性天敵の働き強化と誘引

ソバは諸刃の剣:天敵群集の多様性を高める最適の植物。しかし、害虫カスミカメの発生源

クローバーや雑草は天敵の生息場所&リザーバー マリーゴールド:ヒメハナカメムシ

類の生息場所&リフュージ

オクラ:捕食性天敵の生息場所&リフュージ

ソルゴー障壁:風傷対策、害虫侵入阻止、アブラムシ類の捕食者群集の繁殖場所

宮崎大学が中心に進めているプロジェクト:地域の生物多様性を利用した環境保全型農業

31 32

花粉や花蜜が豊富な花やハーブ類は、天敵成虫の餌供給源: トウモロコシ、ニンジン、ソバ、オクラ、ハゼリソウなど

県内往復500kmの露地ナス生物多様性調査・・・学生、農家、大野も勉強?

露地ナスでのクモ類および昆虫類の総種数(2010年)

34

0

2

4

6

8

10

慣行 減農薬 無農薬

7月下旬

8月中旬

8月下旬

0

2

4

6

8

10

慣行 減農薬 無農薬

* *

0

2

4

6

8

10

慣行 減農薬 無農薬

** **

0

2

4

6

慣行 減農薬 無農薬

捕食者種数(7月下旬)

0

2

4

6

慣行 減農薬 無農薬

捕食者種数(8月中旬)

0

2

4

6

慣行 減農薬 無農薬

捕食者種数(8月下旬)

35

ドヨウオニグモ チュウガタシロカネグモ

コゲチャオニグモ

クサカゲロウの1種

クサカゲロウの卵

ヨトウ卵塊上で産卵中のクロタマゴバチの1種

ヒメカメノコテントウ幼虫

クロヒョウタンカスミカメ 寄生されたハモグリバエ

ヒメハナカメムシ類の餌メニュー

36

害虫ニジュウヤホシテントウの卵 アブラムシ幼虫

ヒメヨコバイ成虫

メイガ卵塊

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日本の天敵利用 Past, Present and Future 2011/8/25

7

露地ナスでの生物多様性調査 (2009~2011)から

★特定の地域でのみタバココナジラミ大発生!・・“効かない農薬”を一所懸命散布している農家

★★現在あまり使われていない有機リン系殺虫剤や合成ピレスロイド系殺虫剤を散布。ハダニやスリップスの多発生(リサージェンス)に悩む農家 ★★★IPMって機能してる??

3年前、ハダニ、アザミウマ、コナジラミで悩んでいた農家。今年は大量の天敵(ヒメハナカメムシ類)が発生。ヨトウ、ニジュウヤホシに選択性農薬を散布したおかげ?・・・いえいえそれだけでは不十分

選択性農薬、混植(ポリカルチャー)

露地ナス多様性調査で明らかになったこと

選択性農薬の使用頻度、時期

梅雨明け後の防除が重要

天敵増殖場所としての他作物の役割

栽培管理(追肥時期、剪定など)

非選択性農薬の使い方、時期

39

施設栽培では、天敵の安定的な維持を目的とした、バンカープラント、インセクタリープラントが必要になる。

トウモロコシ オクラ ダイズなど

梅雨までの使用なら非選択性農薬の影響を緩和できる。

特定の選択性農薬の連続使用は餌群集、天敵群集に影響

元肥過剰施肥に注意。

殺菌剤散布は必須。その際に混用する殺虫剤に注意。

40

選択性農薬の再評価と使い方の工夫

• 施設栽培では特定の天敵の保護だけを考えれば良い。しかし露地栽培では多様な天敵が関係する。

• 天敵の生存率のみで評価された“選択性農薬の基準”では、天敵への影響は過小評価されているかもしれない。

• 農薬の間接的な影響:餌種がいなくなることで、天敵が餌を求めてほ場から移動、ほ場での増殖率も低下。

• 結論と提案:新しい観点から選択性農薬を評価、同時に農薬散布時にその影響を天敵個体群の一部が回避できるようなリフュージ(植生管理)を考える必要がある。

• プレオフロアブルは天敵群集に対する影響は非常に小さい。

13種H’=3.32

ヒメハナ 2頭

16種H’=3.52

ヒメハナ 1頭

12種H’=3.09

ヒメハナ 0頭

0

1

2

3

4

8/24 8/31 9/10

無農薬

北郷2

H’

北郷1

0

1

2

3

4

8/24 8/31 9/10

4/20の定植後アドマイヤ粒剤,DDVP

プレオ,ダコニール プレオ

H’

13種H’=2.52

ヒメハナ 41頭

14種H’=2.24

ヒメハナ 65頭

11種H’=2.49

ヒメハナ 27頭

DDVP プレオプレオ

図10

日之影1:減農薬圃場

0

1

2

3

4

7/24 8/11 8/28

オルトラン粒剤とアファーム,ベンレート

アファーム アファーム

H’

13種H’=3.45

ヒメハナ 1頭

2種H’=1.00

ヒメハナ 0頭

5種H’=0.99

ヒメハナ 0頭

アファームアファーム アファーム

捕食性天敵群集の多様性および種数の推移と、農薬散布の関係

Shannon-Wiener関数(H’)による表示,少なくとも5目23科67種を同定。

41

もしヨトウ防除ならトルネードやフェニックス、アザミウマ防除ならプレオ、アブラムシ防除ならチェス、ウララ。

まとめると、 天敵利用取り組みの方向性

•選択性農薬による天敵保護(但し、選択性農薬の再評価が不可欠)

•植生管理(天敵を誘引、天敵の繁殖場所となるような植物の設置)

3 •景観管理(地域での取り組み、互いの畑が天敵供給源)

•施設栽培と露地栽培の互恵的なつながり(天敵供給という点で、互いにプラスの存在になる)

42

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日本の天敵利用 Past, Present and Future 2011/8/25

8

ハゼリソウの花粉を摂食中のホソヒメヒラタアブ

もうひとつの問題点;天敵の保護、強化を考えるとき、私達は植生管理と関連付けて、どこまで天敵の生態を把握できている?

朝はおなかペコペコ。毎朝十分に餌(花粉)をとらなきゃ、アブラムシも探せないし、卵も産めない?

徳島の露地ナス農家での実証試験

ホーリーバジル

オクラ

バジルの香りに、天敵だけではなく、おばあちゃんとおじいちゃんも頑張る。

Biocontrol and IPM for Environmentally Safer and Biodiversity Friendly Agriculture

ご清聴ありがとうございました

本日の講演内容やアイデアは研究室学生達の頑張り、鹿児島農試や奈良農試、広島農試、徳島農試など実用化プロの取組の議論から生まれたものです。多謝多謝。