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19
1 序論 1,1-ジフルオロ-1-アルケンは、ビニル炭素がフッ素で置換されたことにより、 通常のアルケンとは異なる反応性を示すことが知られている。通常のアルケン は、電子豊富であるために求電子剤である臭素や酸と反応するのに対し、1,1- ジフルオロ-1-アルケンは求核剤の攻撃を受けやすい。たとえば、ジフルオロア ルケンにフェニルマグネシウムブロミドを作用させると、フェニルアニオンが フッ素のα炭素を位置選択的に攻撃する(1)。続いて、フッ化物イオンが脱離 することにより、ビニル位のフッ素置換基をフェニル基で置換した生成物が得 られる。また、同様の置換反応は硫黄求核種でも進行し、フッ素置換基をすべ て置換することでより複雑な骨格を構築することができる(2)PhMgBr reflux Et 2 O Cl Cl F Ph Cl Cl F F 85 % Cl Cl F F Ph – FMgBr MgBr (1) S S F F SLi SLi rt DMF S S S S 70 % (2) この事実は次のように説明することができる。すなわち、フッ素は全元素中 で最も高い電気陰性度を有しており、強い電子求引性の誘起効果を示す(I 効果)このため、ジフルオロアルケンの二重結合部位は電子不足となっている。さら に、フッ素上の非共有電子対とアルケンのπ電子との電子反発により(+I π 効果) アルケン部位は大きく分極し、フッ素のα炭素は電子不足に、またβ炭素は逆 に電子豊富となっている(Figure 1, 2)。そのため、位置選択的な求核置換反応が 進行する (1, 2)–I Effect +I ! Effect F F F F Figure 1

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Page 1: 1,1- -1- 1,1-...CuI, cat. Pd0 R THF – HMPA Ar 1 2 3 ArX F 3CSiMe 2Ph NuM THF F FSiMe2Ph Nu (5) 4 5 RCHO F F Nu R OH 6 (Et 2N) 3S+Me 3F 2Si– 一方、当研究室では最近、1,1-ジフルオロアレンの反応性とビルディングブロ

1

序論

1,1-ジフルオロ-1-アルケンは、ビニル炭素がフッ素で置換されたことにより、通常のアルケンとは異なる反応性を示すことが知られている。通常のアルケン

は、電子豊富であるために求電子剤である臭素や酸と反応するのに対し、1,1-ジフルオロ-1-アルケンは求核剤の攻撃を受けやすい。たとえば、ジフルオロアルケンにフェニルマグネシウムブロミドを作用させると、フェニルアニオンが

フッ素のα炭素を位置選択的に攻撃する(式 1)。続いて、フッ化物イオンが脱離することにより、ビニル位のフッ素置換基をフェニル基で置換した生成物が得

られる。また、同様の置換反応は硫黄求核種でも進行し、フッ素置換基をすべ

て置換することでより複雑な骨格を構築することができる(式 2)。

PhMgBr

refluxEt2O

Cl

ClF

PhCl

ClF

F

85 %

Cl

ClF

F

Ph– FMgBr

MgBr (1)

S

SF

F

SLi

SLi

rt

DMF

S

S

S

S

70 %

(2)

この事実は次のように説明することができる。すなわち、フッ素は全元素中

で最も高い電気陰性度を有しており、強い電子求引性の誘起効果を示す(-I効果)。

このため、ジフルオロアルケンの二重結合部位は電子不足となっている。さら

に、フッ素上の非共有電子対とアルケンのπ電子との電子反発により(+Iπ効果)アルケン部位は大きく分極し、フッ素のα炭素は電子不足に、またβ炭素は逆

に電子豊富となっている(Figure 1, 2)。そのため、位置選択的な求核置換反応が進行する (式 1, 2)。

–I Effect +I! Effect

F

F

F

F

Figure 1

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2

H

H H

H F

F H

H

–0.29 +0.58 –0.45–0.29

Figure 2. Electrostatic Charges (B3LYP/6-31G*) このようにジフルオロアルケンは、フッ素置換基の電子的効果に由来する独

特の反応性を備えている。従って、こうした特異な性質を利用することにより、

1,1-ジフルオロ-1-アルケンには有用な合成中間体としての利用が期待できる。 また、1,1-ジフルオロ-1-アルケンから誘導されるフルオロアルケン類には、生

理活性を持つものが多く知られている。たとえば、Figure 31)に示すフルオロウラ

シル誘導体は制がん作用を有し、抗がん剤として広く利用されている。また、

神経伝達物質のビニル位水素をフッ素で置換することにより、レセプターとの

相互作用が増すという報告がある(Figure 41))。さらに、フルオロアルケンをアミドのイソスターとして用いることにより、より活性の高い医薬品の開発を目指

す研究も盛んに行われている(Figure 51))。

このように、1,1-ジフルオロ-1-アルケンは有機合成化学の観点から、また医薬品開発の観点から重要な化合物群である。

HN

NH

F

O

O

5-fluorouracil

(5-FU)

HN

N

F

O

O

tegafur

N

N

NH2

O

OF

F

OHHO

gemicitabine

Figure 3

O

Y

Leu-Met-NH2

O

NH

Ph

Pyro-Glu-Phe-

IC50

Y = F 0.8 nM

Y = H > 10 nM

Figure 4

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3

X

Ph

HN

O

Leu-Met-NH2Arg-Pro-Lys-Pro-Gln-Gln-Phe-

O

N

H

F

H

X = 1.3 nM

2 nMX =

O–

N

H IC50

Figure 5

1,1-ジフルオロ-1-アルケンの合成に関しては、これまでアルデヒドのジフルオロメチレン化による Wittig 型反応が多く利用されてきた(式 3)。しかしながら、

この反応に用いられるジフルオロメチレンイリドは求核性に乏しく、ケトンと

は反応し難いため、二置換 1,1-ジフルオロ-1-アルケンの合成には制約があった。 このような背景から、当研究室ではこれまで 1,1-ジフルオロ-1-アルケンの効

率的な合成法の開発に取り組んできた。すなわち、ホウ素上の置換基の転位を

伴いながら 1,1-ジフルオロビニルボラン 2を調製し、これを鈴木-宮浦型のクロスカップリング反応などに利用する手法(式 42))や、ケイ素置換基を有するトリ

フルオロプロピレン誘導体 4 の SN2’型反応を利用する手法(式 53))をすでに報告している。 筆者は卒業研究において、式 4や式 5の手法に加え、一般性の高い 1,1-ジフル

オロ-1-アルケンの合成法を新たに開発したいと考えた。

CF2H

R(3)O

H

R (Et2N)3P CF2

CF3CH2OTs

1) 2 nBuLi

THF

F

F BR2

R2) BR3(4)

CuI, cat. Pd0 F

F

R

ArTHF – HMPA

1 2 3

ArX

F3C SiMe2Ph

NuM

THF

F

F SiMe2Ph

Nu

(5)

4 5

RCHOF

F

Nu

R

OH

6

(Et2N)3S+Me3F2Si

一方、当研究室では最近、1,1-ジフルオロアレンの反応性とビルディングブロックとしての有用性に着目し、種々の反応剤との反応を検討している。筆者は、

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4

このジフルオロアレンの 3 位へ求核攻撃が進行すれば、3 位に置換基を有する

1,1-ジフルオロ-1-アルケンを合成できると考えた。さらに、中間に生じると考えられるビニル銅中間体 8に求電子剤を作用させれば 2位にも置換基が導入でき、対応する 1,1-ジフルオロ-1-アルケン 9 が得られることになる。すなわち、求核剤と求電子剤に由来する 2 つの置換基をそれぞれ 2 位および 3 位に導入しながら、ワンポットで 9 を合成できるものと考えた。この手法では、隣り合う炭素上に極性の異なる置換基を導入することができるため、種々の置換基に対応可

能な一般性の高い合成法になると期待できる。 ただし、ここで問題となるのは、1,1-ジフルオロアレンに求核剤を作用させたときに起こりうる副反応である。これには、アレニル水素の脱プロトンと、式 2

で述べた CF2 炭素上での求核置換が予想される。しかし、反応させる有機金属

反応剤を選択することにより、アレンの内部アルケン部位への付加反応を選択

的に進行させることも可能であろう。

F

F R2

7

F

F

Cu

R1

F

F

E

R2R1

8 9

ER1 12

3(6)

Organocopper

(R )R2R R

以上の考えに基づき、筆者は卒業研究で式 6 の反応について各種検討をおこなった。その結果、3位置換 1,1-ジフルオロ-1-アルケンと 2,3位二置換 1,1-ジフルオロ-1-アルケンの合成手法を確立することができたので、以下にその詳細を

述べる。

第一章

第一節 3位に置換基を有する一置換 1.1-ジフルオロ-1-アルケンの合成法

序論で述べた考えにもとづき、ジフルオロアレン 10と各種求核剤との反応を検討した(式 7, Table 1)。

F

F

1-Naph

10

F

F

H

Et

1-Naph

11

H 12

3THF, –60 ºC, T h

Nucleophile H3O+

(7)F

Et

1-Naph

12

H

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5

Entry Nucleophile (eq) T (h)

MeLi

PhLi

EtMgBr

2.8

2.8

2.8

3.0

3.0

3.0

1

2

3

4 EtCua 2.0

5 Et2CuMgBra 1.0

a : CuBr•SMe2 was used as a copper source.

11 12 10

– – –

– – –

––

45 %

3.0 30 % 35 % 18 %

3.0 trace – quant.

Table 1

まず、求核剤としてメチルリチウムやフェニルリチウム、エチルマグネシウ

ムブロミドを用いたが、いずれも場合も目的の反応は進行しなかった(Entries 1–3)。これらの反応混合物の 19F NMR を測定したところ、特に目立ったシグナ

ルは見られなかった。このことから、これらの求核力の強い反応剤では、主と

してフッ素の置換が起こっているものと推定されるが、詳細は不明である。 α,β-不飽和カルボニル化合物などの電子不足アルケンへの付加反応には、銅

(I)塩とグリニャール反応剤を組み合わせて用いることが多い。そこで 1,1-ジフルオロアレン 10に、臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体とエチルマグネシウムブロミドから調製したエチル銅 (Entry 4)、ジエチル銅アート錯体(Entry 5)を作用させ

た。エチル銅では、原料 10 が定量的に回収され、ジフルオロアルケン 11 を痕跡量与えるのみであった。一方ジエチル銅アート錯体では、危惧した CF2 炭素

上での求核置換生成物であるモノフルオロアレン 12が主生成物として生成するものの、目的の 3位にエチル基を導入したジフルオロアルケン 11を収率 30%で得ることができた。 本反応において銅(I)塩が有効であることが分かったので、銅(I)塩とエチルマ

グネシウムブロミドとの量比を種々検討した。

EntryCu source (eq) EtMgBr (eq)

11 12 10

5

1

CuI

3.4 2.8

2.0 1.7 trace 50 % < 23 %

80 % – –

2

CuCN 3.4 2.8 trace

T (h)

Table 2

– –

2.5

2.5

4.5

CuBr• SMe2

Nuclephile

4

1.0 67 % < 1 % –

3

1.0 – 34 % 53 %1.0

1.7

CuBr• SMe2

CuBr• SMe2

0.1

2.0

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6

触媒量の銅(I)塩を用いた場合には、モノフルオロアレン 12が選択的に得られた(Entry 1)。臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体を 2.0倍モル量、エチルマグネシウムブロミドを 1.7倍モル量用いたところ、2.0倍モル量のエチル銅では反応がほとんど進行しなかったのに対し(Table 1, Entry 4)、ジフルオロアルケン 11の収率が 67%まで飛躍的に上昇した(Entry 2)。有機銅反応剤を用いたことにより選択的に 3位への求核付加反応が進行した理由については、次節で考察する。 銅(I)塩とエチルマグネシウムブロミドとのモル比を 2.0 : 1.7に保ち、他の銅(I)

塩の検討をおこなった。ヨウ化銅(I)を用いた場合は、求核置換反応が優先して進行し、目的の 1,1-ジフルオロ-1-アルケン 11はほとんど得られなかった。また、シアン化銅(I)を用いた場合も、目的の 1,1-ジフルオロ-1-アルケン 11はほとんど得られなかった。続いて臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体を用いて、反応剤の量の最適化をおこなった。その結果、臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体を 3.4倍モル量、エチルマグネシウムブロミドを 2.8倍モル量に増やすと、収率がさらに

80 %まで向上することを見出した(Entry 5)。 次に、Table 2, Entry 5の条件を最適条件として、本反応におけるグリニャール反応剤の一般性について検討をおこなった(式 8, Table 3)。

F

RF

R

F

11

F

F

10

THF, !60"°C, X h

13

RMgX (2.8 eq) H3O+

1–Naph1–Naph

1–Naph

HH

CuBr•SMe2 (3.4 eq)

(8)

Entry RMgX 11 13X (h)

Table 3

EtMgBr

MeMgBr

PhMgBr

i–PrMgCl

1

2

3

4

2.5 80 % –

51 % 45 %5.0

3.0

3.0

30 % 22 %

45 % –

R = Me, 11a

R = Ph, 11d

R = i-Pr, 11c

R = Et, 11b

13a

13b

メチルマグネシウムブロミド、イソプロピルマグネシウムクロリド、フェニ

ルマグネシウムブロミドを用いたところ、いずれの場合も中程度の収率で 3 位に置換基を有する 1,1-ジフルオロ-1-アルケン 11a–d を合成することができた。メチルマグネシウムブロミドを用いる反応で、求核置換生成物 13a を多く与えた理由については次節で考察する。 以上の検討により、臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体とグリニャール反応剤

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7

(モル比 2.0 : 1.7)から成る有機銅反応剤を 1,1-ジフルオロアレン 10 に作用させると、アレンの内部アルケン部位に位置選択的に付加反応が進行すること、ま

たこれによって得られるビニル銅中間体をプロトン化することにより 1,1-ジフルオロ-1-アルケンが収率良く得られることを明らかにした。なお本節では、1,1-

ジフルオロ-1-アルケンが選択的に得られる条件を検討したが、銅(I)塩の種類やグリニャール反応剤との比を選べば、フッ素置換のみを進行させてモノフルオ

ロアレンの選択的合成が達成できることもわかった。

第二節 有機金属反応剤の 1,1-ジフルオロアレンへの求核反応における 位置選択性に関する考察

前節で筆者は次の点を明らかにした。すなわち、①1,1-ジフルオロアレンに対して、有機リチウム反応剤や有機マグネシウム反応剤を作用させると、CF2炭素

上への求核攻撃が進行する。②1,1-ジフルオロアレンに対して有機銅反応剤を作用させると、望みの内部アルケンへの付加が進行する。③メチルマグネシウム

ブロミドと臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体から調製した有機銅反応剤を用い

ると、同じアルキル銅でありながら、CF2炭素上での求核置換反応も併せて進行

する。これらの結果を説明するため、ジフルオロアレンについて密度汎関数法

による分子軌道計算をおこなった(B3LYP/6-31G*)。

具体的にはまず、モデル化合物として無置換の 1,1-ジフルオロアレン(Fig. 6(a))、3位にメチル基が置換した 1,1-ジフルオロアレン(Fig. 6-(b))、3位に 2つのメチル基が置換した 1,1-ジフルオロアレン(Fig. 6-(c))を選び、3 つのアレン炭素の電荷

分布と LUMOの係数を計算した(Figure 6)。

FF

H H

FF

Me H

FF

Me Me

0.355

0.234

– 0.481

0.333

0.204

– 0.262

0.301

0.159

0.003

Figure 6 Electrostatic Charges of 1,1-Difluoroalkene (B3LYP/6-31G*)

(a) (b) (c)

その結果、いずれのモデル化合物においても、1位の炭素が最も電気的に陽性

であり、3位の炭素が最も陰性であるという結果が得られた。また、各アレン炭素の LUMO の係数を比較すると(Figure 7)、いずれの場合も 3 位の炭素上で

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8

LUMOの係数が最も大きいことがわかった。

Figure 7 Coefficient of LUMO of 1,1-Difluoroalkene (B3LYP/6-31G*)

FF

H H

FF

Me H

FF

Me Me

0.078

0.339

0.481

0.086

0.308

0.438

0.090

0.274

0.432

(a) (b) (c)

上の結果は、1,1-ジフルオロアレンの内部アルケンへの付加反応が、電荷支配ではなく軌道支配で進行していることを示している。すなわち、有機リチウム

反応剤や有機マグネシウム反応剤の場合、電荷支配により反応が進行するため

に 1 位への求核攻撃が起こるのに対し、有機銅反応剤は一般に軌道支配で反応が進行するため、3位への求核攻撃が起こったものと理解できる。なお、実際に

用いた 1,1-ジフルオロアレン 10では、1位の sp2炭素が 2つのフッ素で置換されているのに対し、3 位の sp2炭素はアルキル基のみの一置換であり、比較すると

立体的には 3 位への求核攻撃が起こり易いと思われる。このように考えると、

メチル銅のように嵩の小さい求核剤のときだけ 1 位への求核攻撃も競争的に進行し、1,1-ジフルオロアルケン 11aだけでなくモノフルオロアレン 13aを同程度(11a : 51 %, 13a : 45 %)与えたことが理解できる。

第三節 2,3位二置換 1,1-ジフルオロ-1-アルケンの合成法

第一節では、1,1-ジフルオロアレンに有機銅反応剤を付加させて得られるジフルオロビニル銅 8 をプロトン化することにより、3 位に置換基を有する一置換1,1-ジフルオロ-1-アルケンを収率良く合成することができた。本節では、ジフル

オロビニル銅 8に対して求電子剤を作用させることにより、3位だけでなく 2位にも置換基を導入することを検討した。1,1-ジフルオロアレンへの有機銅反応剤の付加段階には、第一節で得られた最適条件(Table 2, Entry 5)を用いた。

F

Et

F

14

F

F

10

THF, !60 °C, 2–3 h

EtMgBr (2.8 eq) Electrophile (3 eq)1-Naph

1-Naph

E

THF, !60 °C, T h

CuBr• SMe2 (3.4 eq) F

F

Cu

Et

1-Naph

8

(9)

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9

Table 4

Entry

1

2

3

T (h)

7.5

4.0

2.5

Electrophile

I2

N

O

O

Br

N

O

O

Cl

14

F

Et

F

1-Naph

I

F

Et

F

1-Naph

Br

F

Et

F

1-Naph

Cl

72 %

63 %

78 %

14a

14b

14c

すなわち、1,1-ジフルオロアレン 10に対して THF中、–60 ºCで求核剤を作用させ、系中でジフルオロビニル銅 8 を調製したのち、ヨウ素(I2)を作用させた。その結果、収率 72%で 2位にヨウ素置換基を導入した 2,3-二置換 1,1-ジフルオロ

アルケン 14a を合成することができた。また、ヨウ素の代わりに N-ブロモスクシンイミド、N-クロロスクシンイミドを作用させたところ、いずれの場合も良い収率で対応する 2-ハロ置換 1,1-ジフルオロ-1-アルケン 14b, 14cが得られた。

次に、この反応を炭素求電子剤で行うことにより、新たな C–C結合を生成したいと考えた。そこで、1,1-ジフルオロアレンに対して求核剤を作用させ、系中でジフルオロビニル銅 8を生成させたのち、種々の炭素求電子剤を添加した(式

10, Table 5)。

F

Et

F

15

F

F

10

THF, !60 °C, 2-3.5 h

EtMgBr (2.8 eq) Electrophile (X eq)1-Naph

1-Naph

E

THF, !60 °C, T h

CuBr• SMe2 (3.4 eq) F

F

Cu

Et

1-Naph

8

(10)

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10

Table 5

Entry

1

2

Electrophile (eq)

3

T (h) 15

4

PhCHO (2.2) 24

5

PhCHO (3.3) BF3•OEt2 (3.7)

Ac2O (3.4) 16

16

AcCl (2.8) 4.0

AcCl (3.0) (1.0)

!"77.7, 74.9

(d, J = 41 Hz)11b

(44 %)

(33 %) (33 %)

4.0

9 %(45 %)

45 %–

*Yields in the parenthesis are 19F NMR yield vs PhCF3.

16 %

(13 %)

Additive (eq)

none

none

none

F

Et

F

1–Naph

F

Et

F

1–Naph

Ph

OH

O

15a

15bC CLin-C4H9

炭素求電子剤としてベンズアルデヒド(Entry 1)、無水酢酸(Entry 3)、塩化アセ

チル(Entry 4)を用いたが、いずれの場合も目的とする 1,1-ジフルオロ-1-アルケン15a, 15bを得ることはできなかった。このことから、フッ素の電子求引性の誘起効果により、中間体であるジフルオロビニル銅 8 が安定化を受け、その反応性が十分でないと考えた。そこで、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(Entry 2)による炭素求電子剤のカルボニル基活性化や、リチウムアセチリドによるジフ

ルオロビニル銅 8の銅アート錯体化(Entry 5)により反応性の改善を期待したが、

目的とする反応は進行しなかった。また、Entries 1–3では共通の構造未知化合物が生成しているが、詳細は不明である。 本節において、2位にハロゲン置換基を有する 2,3位二置換 1,1-ジフルオロ-1-

アルケンの合成を達成した。この生成物は、クロスカップリングに利用するこ

とでアリール基などの置換基を導入することができ、合成中間体としての有用

性が期待できる。今後は、さらに炭素求電子剤との直接反応を検討し、新しい C

-C結合生成への足がかりをつかみたい。

総括

第一章において、種々の置換基を有する 1,1-ジフルオロ-1-アルケンの合成について検討した結果を述べた。

第一節では、有機銅反応剤を用いることにより、1,1-ジフルオロアレンの 3位の炭素への求核攻撃が選択的に起こる条件を見いだすことができた。すなわち、

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11

臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体とグリニャール反応剤の比を 2.0 : 1.7 にする

ことで目的の付加反応が進行することを見いだした。ただし、メチルマグネシ

ウムブロミドを用いた場合には、付加生成物である 1,1-ジフルオロ-1-アルケンの他にフッ素の置換生成物が同程度副生した。

第二節では、モデル化合物を用いて密度汎関数法による分子軌道計算を行い、

1,1-ジフルオロアレンの 3つのアレン炭素の電荷分布と LUMOの係数を調べた。これにより、有機リチウム反応剤や有機マグネシウム反応剤では、電荷支配に

より反応が進行するために 1 位への求核攻撃が起こるのに対し、有機銅反応剤では軌道支配で反応が進行するため、3位への求核攻撃が起こったものと説明できる。また、メチル銅のように嵩の小さい求核剤を用いると、立体的要因から 1

位への求核攻撃も競争的に進行し、求核置換生成物が副生したと理解できる。 第三節では、第一節で見出した臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体とエチルマグネシウムブロミドの 2.0 : 1.7混合物を用いて、中間体のジフルオロビニル銅を

系中で生成させたのち、種々の求電子剤を作用させることで 2 位にも置換基を導入し、2,3 位二置換 1,1-ジフルオロ-1-アルケンの合成を検討した。その結果、ヨウ素、臭素、塩素の各ハロゲン置換基を収率良く 2 位へ導入することができ

た。この手法では、極性の異なる置換基を 2 位と 3 位の隣り合う炭素上に導入することができた。また、得られた 1,1-ジフルオロ-2-ハロ-1-アルケンは合成中間体としての有用性が期待できる。一方、中間体のジフルオロビニル銅と炭素

求電子剤との反応は進行せず、C-C結合の生成が今後の課題である。 本研究により、3位に置換基を有する一置換の 1,1-ジフルオロ-1-アルケンおよび 2,3位二置換 1,1-ジフルオロ-1-アルケンの合成法を確立した(Scheme 1)。

F

F

RRMgX (2.8 eq)

F

F

Cu

Et

R

F

F

H

R

RH3O+

H

123

CuBr• SMe2 (3.4 eq)

THF, –60 ºC

F

F

E

R

RE+ 123

Scheme 1. Syntheses of mono- and disubstituted 1,1-difluoro-1-alkenes

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12

実験項

分析機器 赤外吸収スペクトル(IR)は、日本分光製 FT/IR-230を用いて測定した。1H核

核磁気共鳴スペクトルは Bruker社製 Avance 500 (500 MHz)で測定し、テトラメチルシラン(0.00 ppm)を内部標準として使用した。13C核核磁気共鳴スペクトルはBruker社製Avance 500 (125 MHz)で測定し、溶媒を内部標準とした(77.0 ppm)。19F核核磁気共鳴スペクトルは Bruker社製 Avance 500 (470 MHz)で測定し、ヘキサフルオロベンゼンを内部標準とした(0.00 ppm)。

溶媒と反応試薬 溶媒に関しては、特に断らない限り Glass Contour製溶媒精製装置により精製したものをそのまま用いた。反応試薬に関しては、特に断らない限り市販品を

そのまま用いた。合成した反応試薬は下記の手法で精製したものを用いた。

原料合成

F

F

ガラス製真空ラインでのアルゴン気流下、50 mL三口ナスフラスコを–110 ºC

に冷却し、ジブロモジフルオロエテン (464.3 mg, 2.09 mmol)とジエチルエーテル (16 mL)を加えた。これとは別に、5 mLナシフラスコにジエチルエーテル(2 mL)とブチルリチウム (1.65 M, ヘキサン溶液, 1.33 mL, 2.19 mmol)を入れ、–110 ºC

に冷却した。このブチルリチウム-ジエチルエーテル溶液をキャヌラーにより三

口ナスフラスコへ 3分程度かけて滴下し、–110 ºCで 15分間撹拌した。3-(1-ナフチル)プロパナール (358 mg, 2.09 mmol)を加えて–110 ºCでさらに 15分間撹拌

したのち、0 ºCに昇温してから無水酢酸 (0.240 mL, 2.54 mmol)を加え、2時間撹拌した。塩化アンモニウム水溶液を加えて、有機層を分離し、水層を酢酸エチ

ルで(10 mL×3回)抽出した。あわせた有機層を食塩水(10 mL)で洗浄したのち、

無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラム

ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー (Hexane : AcOEt = 20 : 1) に よ り 精 製 し 、

Page 13: 1,1- -1- 1,1-...CuI, cat. Pd0 R THF – HMPA Ar 1 2 3 ArX F 3CSiMe 2Ph NuM THF F FSiMe2Ph Nu (5) 4 5 RCHO F F Nu R OH 6 (Et 2N) 3S+Me 3F 2Si– 一方、当研究室では最近、1,1-ジフルオロアレンの反応性とビルディングブロ

13

2-Bromo-1,1-difluoro-5-(1-napthyl)pent-1-en-3-yl acetateを得た(609.6 mg, 1.65 mmol,

79%, colorless liquid)。 続いて、得られた 2-Bromo-1,1-difluoro-5-(1-napthyl)pent-1-en-3-yl acetate (76.0 mg, 0.206 mmol)をアルゴン置換して 0 ºCに冷却した 50 mL二口ナスフラスコに

入れ、ヘキサン 3.0 mLを加えた。ブチルリチウム(1.65 M, ヘキサン溶液, 0.19 mL, 0.31 mmol)を 1秒以内で素早く加え、1分間撹拌したのち、0 ºCのままリン酸緩衝液で反応を停止した。有機層を分離し、水層をヘキサン(10 mL×4 回)で抽出

した。あわせた有機層を食塩水で洗浄したのち、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、

減圧下濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hexane)により精製した。溶出液を濃縮し、再度シリカゲルカラムクロマトグラフィー(乾燥

した hexane)により精製し、溶出液を 1 M程度になるように濃縮した。これをアルゴン中で保管したものを本反応の原料として用いた。なお、溶液をマイクロ

シリンジを用いて正確に 100μLとり、濃縮して質量を求め、これを 3回繰り返

し、平均値を求めることで溶液の濃度を決定した。 1,1-Difluoro-5-(1-naphthyl)pent-1,2-diene (10): 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ =

2.67–2.74 (m, 2H), 3.27 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 6.55 (tt, J = 5.7 Hz, JHF = 2.4 Hz, 1H), 7.34 (d, J = 6.6 Hz, 1H), 7.41 (dd, J = 8.1, 7.1 Hz, 1H), 7.47–7.56 (m, 2H), 7.74 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 7.87 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.00 (d, J = 7.5 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ = 30.9, 33.1, 121.6 (t, JCF = 5.5 Hz), 123.4, 125.5, 125.6, 126.0, 126.2, 127.1,

128.9, 131.6, 133.9, 136.6, 152.9 (t, JCF = 259 Hz), 170.0 (t, JCF = 36.1 Hz). 19F NMR (470 MHz, CDCl3): δ = 60.2 (dt, JFH = 2.4, 5.3 Hz, 2F). IR (CHCl3): ν˜ = 3064, 2939,

1743, 1215, 1119, 750 cm–1. Colorless liquid.

本反応

F

F

Et

H

アルゴン置換した 30 mL二口ナスフラスコに、臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体(138 mg, 0.671 mmol)、テトラヒドロフラン(2.0 mL)を加えたのち、–60 ºC

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14

に冷却した。続いてエチルマグネシウムブロミド(0.98 M テトラヒドロフラン溶

液, 0.56 mL, 0.55 mmol)を 2分間かけてゆっくり滴下し、-60 ºCで 30分間撹拌することにより黄色懸濁液を得た。これに、10 (0.494 M, ヘキサン溶液, 0.40 mL, 0.20 mmol)を 2分間かけてゆっくり滴下した。-60 ºCで 2.5時間撹拌したのち、

反応溶液を室温下、飽和塩化アンモニウム水溶液(10 mL)に注いだ。有機層を分離し、水層は酢酸エチル(10 mL×3)で抽出した。あわせた有機層を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下濃縮した。粗生成物をシリカゲル

カ ラ ム ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー (Hexane) に よ り 精 製 し 、

3-Ethyl-1,1-difluoro-5-(1-naphthyl)pent-1-ene (41.3 mg, 0.159 mmol, 80 %, colorless

liquid)を得た。 3-Ethyl-1,1-difluoro-5-(1-naphthyl)pent-1-ene (11b): 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ =

0.90 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 1.25–1.34 (m, 1H), 1.49–1.58 (m, 1H), 1.59–1.68 (m, 1H), 1.84–1.92 (m, 1H), 2.23–2.32 (m, 1H), 2.97 (ddd, J = 14.0, 10.9, 5.9 Hz, 1H), 3.14 (ddd,

J = 14.0, 10.9, 5.0 Hz, 1H), 4.04 (ddd, JHF = 25.6 Hz, J = 10.5 Hz, 3.0 Hz, 1H), 7.31 (d, J = 6.6 Hz, 1H), 7.39 (dd, J = 7.1, 7.1 Hz, 1H), 7.45–7.54 (m, 2H), 7.71 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.85 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.00 (d, J = 8.5 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ = 11.5, 28.5 (t, J = 2.1 Hz), 30.8, 35.8 (d, JCF = 3.8 Hz), 36.6 (t, J = 1.9 Hz), 81.9 (dd,

J = 20.4 Hz, 19.0 Hz), 123.6, 125.4, 125.6, 125.7, 125.8, 126.6, 128.8, 131.7, 133.9, 138.4, 157.0 (t, JCF = 284 Hz). 19F NMR (470 MHz, CDCl3): δ = 70.8 (dd, J = 49.1 Hz,

JFH = 25.6 Hz, 1F), 73.3 (d, J = 49.4 Hz, 1F). IR (CHCl3): ν˜ = 3064, 2931, 1739, 1300, 1200, 775 cm–1. EA: Found. C 78.35%, H 7.08%; Calcd. for C17H18F2: C 78.4 %, H 6.97%. Colorless liquid.

Et

F

アルゴン置換した 30 mL二口ナスフラスコに、臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体(41 mg, 0.20 mmol)、テトラヒドロフラン(2.0 mL)を加え、–60 ºCに冷却した。続いてエチルマグネシウムブロミド(0.98 M, テトラヒドロフラン溶液, 0.40

mL, 0.39 mmol)を 2分間かけてゆっくり滴下し、-60 ºCで 30分間撹拌した。その後、10 (0.494 M, ヘキサン溶液, 0.40 mL, 0.20 mmol)を 2分間かけてゆっくり滴

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15

下した。-60 ºC で 3 時間撹拌したのち、反応溶液を室温下、飽和塩化アンモニ

ウム水溶液(10 mL)に注いだ。有機層を分離し、水層は酢酸エチル(10 mL×3)で抽出した。あわせた有機層を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、

減圧下濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hexane)によ

り精製し 3-Fluoro-7-(1-naphthyl)hept-3,4-diene (16.4 mg, 0.068 mmol, 35 %, colorless liquid)を得た。 3-Fluoro-7-(1-naphthyl)hept-3,4-diene (12): 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ = 0.98 (t, J

= 7.5 Hz, 3H), 2.29 (dq, J = 6.8 Hz, 3.4 Hz, 1H), 2.31 (dq, J = 6.8 Hz, 3.4 Hz, 1H), 2.55–2.62 (m, 2H), 3.23 (m, 2H), 6.04 (td, J = 6.2 Hz, JHF = 3.0 Hz, 1H), 7.34 (d, J = 6.8 Hz, 1H), 7.40 (dd, J = 7.9, 7.2 Hz, 1H), 7.46–7.45 (m, 2H), 7.72 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.86 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.01 (d, J = 8.5 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ =

10.4 (d, JCF = 3.2 Hz), 23.6, 23.9, 31.6 (d, JCF = 3.4 Hz), 31.8, 108.8 (d, JCF = 11.5 Hz), 123.6, 125.5, 125.5, 125.9, 126.1, 126.8, 128.8, 131.8, 133.9, 137.3, 142.4 (t, JCF = 236 Hz). 19F NMR (470 MHz, CDCl3): δ = 29.2–29.3 (m, 1F). IR (CHCl3): ν˜ = 3068,

2937, 1982, 1219, 775 cm–1. EA: Found. C 84.95%, H 7.22%; Calcd. For C17H17F: C 84.96%, H 7.13%. Colorless liquid.

F

F

Me

H

11bと同様の手法により、収率 51%で標題化合物を得た。 1,1-Difluoro-3-methyl-5-(1-naphthyl)pent-1-ene (11a): 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ

= 1.09 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 1.63–1.71 (m, 1H), 1.78–1.86 (m, 1H), 2.45–2.54 (m, 1H), 3.00 (ddd, J = 13.9, 10.7, 6.0 Hz, 1H), 3.11 (ddd, J = 13.9, 10.7, 5.2 Hz, 1H), 4.11 (ddd, JHF = 24.1 Hz, J = 9.8, 2.9 Hz, 1H), 7.30 (d, J = 6.9 Hz, 1H), 7.39 (t, J = 7.0 Hz, 1H),

7.45-7.53 (m, 2H), 7.71 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.85 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 7.99 (d, J = 8.4 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ = 21.4, 28.6 (d, JCF = 4.1 Hz), 30.9, 38.5, 83.6 (t,

JCF = 19.5 Hz), 123.6, 125.4, 125.6, 125.8, 125.8, 126.6, 128.8, 131.7, 133.9, 138.3, 156.2 (t, JCF = 284 Hz). 19F NMR (470 MHz, CDCl3): δ = 71.0 (dd, J = 49.4 Hz, JFH = 24.1 Hz, 1F), 72.2 (d, J = 49.4 Hz, 1F). IR (CHCl3): ν˜ = 3064, 2931, 1741, 1219, 775

Page 16: 1,1- -1- 1,1-...CuI, cat. Pd0 R THF – HMPA Ar 1 2 3 ArX F 3CSiMe 2Ph NuM THF F FSiMe2Ph Nu (5) 4 5 RCHO F F Nu R OH 6 (Et 2N) 3S+Me 3F 2Si– 一方、当研究室では最近、1,1-ジフルオロアレンの反応性とビルディングブロ

16

cm–1. EA: Found. C 78.27%, H 6.70%; Calcd. For C16H16F2: C 78.02%, H 6.55%.

Colorless liquid.

F

F

i–Pr

H

11bと同様の手法により、収率 45%で標題化合物を得た。 1,1-Difluoro-3-(2-methylethyl)-5-(1-naphtyl)pent-1-ene (11c): 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ = 0.84 (d, J = 6.8 Hz, 3H), 0.90 (d, J = 6.8 Hz, 3H), 1.59–1.72 (m, 2H),

1.85–1.94 (m, 1H), 2.19–2.27 (m, 1H), 2.93 (ddd, J = 13.9, 10.9, 5.9 Hz, 1H), 3.13 (ddd, J = 13.9, 10.9, 4.9 Hz, 1H), 4.09 (ddd, JHF = 28.1 Hz, J = 10.9, 3.2 Hz, 1H), 7.31 (d, J =

6.8 Hz, 1H), 7.40 (dd, J = 8.2, 7.0 Hz, 1H), 7.45–7.54 (m, 2H), 7.71 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.86 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 7.99 (d, J = 8.5 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ =

18.2, 20.7, 29.7, 31.2, 32.2, 34.4, 40.4 (d, JCF = 3.1 Hz), 79.6 (t, JCF = 19.8 Hz), 123.6,

125.4, 125.6, 125.8, 125.8, 126.6, 128.8, 131.7, 133.9, 138.5, 157.0 (t, JCF = 284 Hz). 19F NMR (470 MHz, CDCl3): δ = 71.0 (dd, J = 48.4 Hz, JFH = 28.1 Hz, 1F), 74.1 (d, J = 48.4 Hz, 1F). IR (CHCl3): ν˜ = 3066, 2958, 1739, 1277, 894, 775 cm–1. Colorless

liquid.

F

F

Ph

H

11bと同様の手法により、収率 30%で標題化合物を得た。 1,1-Difluoro-5-(1-naphthyl)-3-phenylpent-1-ene (11d): 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ

= 2.06–2.22 (m, 2H), 2.98 (ddd, J = 14.0, 10.5, 5.7 Hz, 1H), 3.11 (ddd, J = 14.0, 10.5, 5.4 Hz, 1H), 3.60 (dt, J = 8.5, 8.5 Hz, 1H), 4.48 (ddd, JHF = 23.3 Hz, J = 10.3, 2.6 Hz,

1H), 7.23–7.25 (m, 3H), 7.29 (d, J = 6.9 Hz, 1H), 7.34 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 7.38 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.44–7.50 (m, 2H), 7.71 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.83–7.86 (m, 1H), 7.87–7.90 (m, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ = 30.9, 37.8, 39.8 (d, JCF = 4.4 Hz), 82.5 (t,

JCF = 20.1 Hz), 123.6, 125.4, 125.5, 125.8, 125.9, 126.7, 126.7, 127.1, 128.7 (CH×2), 128.8, 131.7, 133.9, 137.8, 143.7, 156.1 (t, JCF = 286 Hz). 19F NMR (470 MHz,

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17

CDCl3): δ = 72.3 (dd, J = 45.1 Hz, JFH = 23.3 Hz, 1F), 73.2 (d, J = 45.1 Hz, 1F). IR

(CHCl3): ν˜ = 3062, 2929, 1739, 1454, 1294, 777 cm–1. Colorless liquid.

F

F

Et

I

アルゴン置換した 30 mL二口ナスフラスコに、臭化銅(I)ジメチルスルフィド錯体(80 mg, 0.389 mmol)、テトラヒドロフラン(2.0 mL)を加えたのち、–60 ºCに

冷却した。続いてエチルマグネシウムブロミド(0.98 M, テトラヒドロフラン溶液, 0.34 mL, 0.33 mmol)を 2分間かけてゆっくり滴下し、-60 ºCで 30分間撹拌することにより黄色懸濁液を得た。これに、10 (0.276 M, ヘキサン溶液, 0.42 mL,

0.12 mmol)を 2分間かけてゆっくり滴下した。-60 ºCで 2.5時間撹拌したのち、ヨウ素のテトラヒドロフラン溶液(89.9 mg, 0.354 mmol, 3 mL)を加え、–60 ºCのまま 7.5時間撹拌した。リン酸緩衝液を加え、有機層を分離し、水層は酢酸エチル

(10 mL×3)で抽出した。あわせた有機層は 1 Mチオ硫酸ナトリウム水溶液、食塩水で順に洗浄した。得られた溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下

濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hexane)により精製

し 3-Ethyl-1,1-difluoro-2-iodo-5-(1-naphthyl)pent-1-ene (32.1 mg, 0.083 mmol, 72 %, colorless liquid)を得た。 3-Ethyl-1,1-difluoro-2-iodo-5-(1-naphthyl)pent-1-ene (14a): 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ = 0.83 (t, J = 7.2 Hz, 3H), 1.21–1.30 (m, 1H), 1.36–1.44 (m, 1H), 1.65–1.82

(m, 2H), 1.92–1.90 (m, 1H), 2.85 (ddd, J = 13.9, 10.7, 6.0 Hz, 1H), 3.07 (ddd, J = 13.9, 10.7, 5.2 Hz, 1H), 7.31 (d, J = 6.8 Hz, 1H), 7.40 (dd, J = 8.0, 7.1 Hz, 1Hz), 7.46–7.54

(m, 2H), 7.72 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 7.86 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 8.06 (d, J = 8.5 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ = 11.4, 28.0, 30.7, 36.3, 41.2, 60.8 (dd, JCF = 30.3 Hz,

20.0 Hz), 123.8, 125.2, 125.5, 125.6, 125.8, 126.0, 126.7, 128.8, 131.7, 133.9, 137.9, 153.7 (dd, JCF = 289 Hz, 280 Hz). 19F NMR (470 MHz, CDCl3): δ = 80.0 (d, J = 38.1 Hz, 1F), 88.1 (d, J = 38.1 Hz, 1F). IR (CHCl3): ν˜ = 3064, 2960, 1716, 1251, 775 cm–1.

Colorless liquid.

Page 18: 1,1- -1- 1,1-...CuI, cat. Pd0 R THF – HMPA Ar 1 2 3 ArX F 3CSiMe 2Ph NuM THF F FSiMe2Ph Nu (5) 4 5 RCHO F F Nu R OH 6 (Et 2N) 3S+Me 3F 2Si– 一方、当研究室では最近、1,1-ジフルオロアレンの反応性とビルディングブロ

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F

F

Et

Br

14aと同様の手法により、収率 63%で標題化合物を得た。 2-Bromo-3-ethyl-1,1-difluoro-5-(1-naphthyl)pent-1-ene (14b): 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ = 0.90 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 1.42–1.46 (m, 2H), 1.83–1.89(m, 1H), 2.40–2.48

(m, 1H), 2.88 (ddd, J = 13.9, 10.5, 6.2 Hz, 1H), 3.12 (ddd, J = 13.9, 10.5, 5.2 Hz, 1H),

7.31 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 7.39 (dd, J = 8.1, 7.1 Hz, 1H), 7.64–7.54 (m, 2H), 7.72 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 7.86 (d, J = 8.0 Hz, 1H) 8.04 (d, J = 8.0 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ = 11.5, 26.4, 30.7, 34.5, 40.9, 85.7 (dd, JCF = 38.2 Hz, 16.4 Hz), 123.7, 125.5,

125.6, 125.8, 126.0, 126.8, 131.7, 133.9, 137.8, 154.2 (t, JCF = 284 Hz). 19F NMR (470 MHz, CDCl3): δ = 72.3 (d, J = 44.6 Hz, 1F), 79.2 (d, J = 44.6 Hz, 1F). IR (CHCl3): ν˜

= 3064, 2962, 1731, 1265, 937, 775 cm–1. Colorless liquid.

F

F

Et

Cl

14aと同様の手法により、収率 78%で標題化合物を得た。 2-chloro-3-ethyl-1,1-difluoro-5-(1-naphthyl)-pent-1-ene (14c): 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ = 0.87 (t, J = 7.2 Hz, 3H), 1.44–1.52 (m, 1H), 1.78–1.87 (m, 1H), 1.89–1.98

(m, 1H), 2.52–2.60 (m, 1H), 2.90 (ddd, J = 13.8, 10.7, 6.0 Hz, 1H), 3.13 (ddd, J = 13.8, 10.7, 5.1 Hz, 1H), 7.30 (d, J = 6.9 Hz, 1H), 7.39 (t, J = 8.1 Hz, 1H), 7.45–7.54 (m, 2H),

7.72 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.86 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 8.02 (d, J = 8.5 Hz, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ = 11.5, 25.5, 30.7, 33.5, 40.6, 94.9 (dd, JCF = 42.1 Hz, 15.2 Hz),

123.6, 125.4, 125.5, 125.8, 125.9, 126.7, 128.8, 131.7, 133.8, 137.8, 154.9 (dd, JCF = 286 Hz, 282 Hz). 19F NMR (470 MHz, CDCl3): δ = 66.9 (d, J = 47.5 Hz, 1F), 73.6 (d, J = 47.5 Hz, 1F). IR (CHCl3): ν˜ = 3066, 2962, 1741, 1275, 985, 775 cm–1. Colorless

liquid

Page 19: 1,1- -1- 1,1-...CuI, cat. Pd0 R THF – HMPA Ar 1 2 3 ArX F 3CSiMe 2Ph NuM THF F FSiMe2Ph Nu (5) 4 5 RCHO F F Nu R OH 6 (Et 2N) 3S+Me 3F 2Si– 一方、当研究室では最近、1,1-ジフルオロアレンの反応性とビルディングブロ

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引用文献 1) Uneyama, K. (2006) Organofluorine Chemistry, Blackwell Publ. 2) Junji Ichikawa, Journal of Fluorine Chemistry, 2000, 105, 257.

3) Junji Ichikawa et al., Tetrahedron Letters, 2003, 44, 707.

謝辞 本研究を進めるにあたり御指導ご鞭撻を賜りました、本学教授市川淳士先生

に心から感謝の意を表します。 また、本研究を進めるにあたり直接指導を賜りました本学講師渕辺耕平博士

に深く感謝致します。 実験を進める上で数々の有益なご助言を頂きました埼玉大学教授三浦勝清博

士に心からお礼申し上げます。 丁寧に指導して下さり、常に励まして下さった市川研究室の諸先輩方に心か

ら感謝致します。 また、研究の楽しさを分かちあい、励まし合った同期の皆さんに心から感謝

致します。 さらに、ともに学び成長し合った自然学類化学主専攻の皆さんと、自然学類 6

クラスの皆さんに深く感謝致します。 最後に、大学四年間筆者を温かく見守り励ましてくれた、父昇、母洋子、兄

賢一、妹弘子、弟光司をはじめとして、親戚の方々に心から感謝致します。