1.1. 先渡契約と先物取引 -...
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デリバティブ再入門
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1.デリバティブ(派生資産)
ある金融商品の経済的価値(価格)が,他の資産(原資産)の値に依存して
決められるとき,この商品をデリバティブ(派生資産)と呼ぶ。
原資産としては,日経平均株価などの株価指数,債券,金利から気温(天候
デリバティブ)といったものまで極めて多岐にわたり,取引形態は取引所で集
中的に執行される取引所取引と,金融機関など相対で行われる店頭取引(OTC;
Over-the-Counter)に大別される。一方,デリバティブの種類も先物,オプショ
ン,スワップをはじめ,これらの多種多様なバリエーションがある。
1.1. 先渡契約と先物取引
先渡契約
(forward contract)
将来のある時点(満期時)において,あらかじめ定められ
た価格(先渡価格)で原資産を買う,または売る契約。
通常,金融機関同士あるいは金融機関と顧客との間で店頭
取引される。
契約時を t,満期時を T とする先渡契約を考える。
契約時点 t における原資産価格を St,先渡価格を Ftとする。
満期時の原資産価格を ST,損益をTとする。
1) ロング・ポジション(買建て)
原資産 1 単位に対する先渡契約の買
いポジションをとった場合,満期時(受
渡日)の損益Tは以下のようになる。
tTT FS
したがって,満期時 T の原資産価格
STが契約時 t の先渡価格 Ftを上回って
いれば利益,下回っていれば損失とな
る。グラフで表すと右のようになる。
T
O ST
Ft
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2) ショート・ポジション(売建て)
原資産 1 単位に対する先渡契約の売
りポジションをとった場合,満期時(受
渡日)の損益Tは以下のようになる。
TtT SF
したがって,満期時 T の原資産価格
STが契約時 t の先渡価格 Ftを下回って
いれば利益,上回っていれば損失とな
る。グラフで表すと右のようになる。
T
O ST
Ft
先物取引
(futures)
先渡契約と同様,将来のある時点(満期時)において,あらかじ
め定められた価格(先物価格)で原資産を買う,または売る契約。
先渡契約と異なり,通常,取引所で大量かつ集中的に取引される。
先渡契約と先物取引は非常に類似しており,基本的には同じものだが,通常
みられる相違点は,主に取引方法と決済方法にある。
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先渡契約と先物取引の相違点
取引方法 決済方法
先渡契約
相対取引
・ いったん契約を締結すると,
それを第三者に譲渡するのが
困難。
・ 将来,受渡が実行されるかど
うかは,契約当事者の支払能
力(信用力)に依存する。
満期時において原資産を受け渡
す現物決済であることが多い。
先物取引
取引所取引
・ 取引をいつでも譲渡したり手
仕舞ったりできるように,対
象となる資産や受渡日を標準
化して取引所に上場して売買
する。
・ 将来,決済が確実に履行され
るように,取引に際しては原
資産価格の一定割合を(当初)
証拠金として積ませる。
・ 原資産価格の変動に伴う先物
ポジションの変化を,毎日値
洗いによって把握し,損失が
(維持)証拠金を越えて拡大
した場合には,追加証拠金を
納めさせる。
満期時が到来する前に,当初のポ
ジションの反対売買を行い,原資
産を動かすことなく,売買金額の
差額を精算するのが一般的(差金
決済)。
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1.2. オプション取引
1.2.1. オプション取引
所定の期日(期間内)に特定の資産を特定の価格で買う権利..
,または売る権利..
① ② ③ ④ ⑤ ⑥
① 権利行使日(満期日:T)
② 権利行使期間(残存期間)
③ 原資産(S)
④ 権利行使価格(K)
⑤ コール・オプション(C)
⑥ プット・オプション(P)
オプション取引とは,上記のような権利の売買.....
であり,オプションの価格を
とくにプレミアムという。
ヨーロピアン・オプション : 権利行使が満期日に限定
アメリカン・オプション : 権利行使が満期日までの任意の時点で可能
権利行使期間 ヨーロピアン
↓
契約時(t) 満期日(T)
プレミアム if ST > K コール:権利行使する
買い手 売り手 プット:権利行使しない
権利
if ST < K コール:権利行使しない
プット:権利行使する
アメリカン
ヨーロピアンタイプを前提として…
満期時を T,原資産を S とするオプションの価値を考える。
ある時点 t における原資産価格を St,コール・オプションの価値を Ct,プッ
ト・オプションの価値 Ptをする。
満期時における原資産価格を ST,コール・オプションの価値を CT,プット・
オプションの価値を PTとする。
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1.2.2. 満期時におけるオプションの価値
1) コール・オプション
この資産 1 単位を原資産として,権利行使価格を K とするコール・オプショ
ンの満期時 T における価値 CTは,
満期時の原資産価格が権利行使価
格を上回っている場合(ST > K),権利
行使することによって ST-K が得ら
れる。
満期時の原資産価格が権利行使価
格以下である場合(ST ≤ K),権利行使
しないので無価値 0 である。
したがって,満期時におけるコー
ル・オプションの価値は,以下のよ
うになる。
0,KSmaxC TT
CT
O ST
K
2) プット・オプション
この資産 1 単位を原資産として,権利行使価格を K とするプット・オプショ
ンの満期時 T における価値 PTは,
満期時の原資産価格が権利行使価
格を下回っている場合(ST < K),権利
行使することによって K-ST が得ら
れる。
満期時の原資産価格が権利行使価
格以上である場合(ST ≥ K),権利行使
しないので無価値 0 である。
したがって,満期時におけるプッ
ト・オプションの価値は,以下のよ
うになる。
0,SKmaxP TT
PT
O ST
K
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1.2.3. 本質的価値と時間価値
満期前(権利行使期間中)のある時点 t におけるオプション価値(プレミアム)
は,本質的価値(intrinsic value)と時間価値(time value)で構成される。
本質的価値は,即座に権利行使した場合のオプションがもつ価値とゼロのう
ち大きい方である。
コール・オプションの本質的価値: 0,KSmaxC t
プット・オプションの本質的価値: 0,SKmaxP t
用語
ITM(in the money) もし権利行使をした場合に利益となる状態。
コールであれば St>K,プットであれば St<K。
ATM(at the money) もし権利行使をした場合の損益がゼロの状態。
コール,プットとも St=K。
OTM(out of the money) もし権利行使をした場合に損失となる状態。
コールであれば St<K,プットであれば St>K。
ATM,OTM のオプションであれば,権利行使されないので本質的価値はゼロで
ある。しかし,満期までの残存期間中に,原資産価格が変化することにより,
権利行使時点で ITM となる可能性があるため,オプション価値(プレミアム)
はゼロ以下になることはない。したがって,満期前のある時点 t におけるオプシ
ョン価値(プレミアム)は,本質的価値と時間価値で構成され,通常,時間価
値は時間の経過とともに減衰し,満期時においてゼロとなる(タイム・ディケ
イ)。
オプション価値(プレミアム) = 本質的価値 + 時間価値
0,KSmaxC t
0,SKmaxP t
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2.無裁定条件とデリバティブの価格評価
2.1. 無裁定条件
デリバティブ(派生資産)の価格評価は,複製(replication)と裁定(arbitrage)
という考え方に基づいている。これは,「ある資産が将来のある時点でもたらす
キャッシュ・フローを,別の資産からなるポートフォリオで複製できるならば,
両者の価値(購入コスト)はまったく同一のはずである」という考え方である。
もし,将来のある同一時点において,まったく同一のキャッシュ・フローをも
たらすにもかかわらず,価格が異なっていれば,割安な方を買い,割高な方を
売ることにより,無リスクで利益を得ることが出来る。こうした取引を裁定取
引といい,ここから得られる利益を裁定利益という。しかし,競争的な市場に
おいては,裁定取引を通じて割高・割安といった価格の歪みが直ちに是正され
るため,裁定機会はほとんど存在しないはずである。ファイナンスの世界では,
裁定機会のない環境(無裁定条件),言い換えれば「一物一価の法則」のもとで
価格評価を行う。
キャッシュ・フローの複製と(無)裁定の考え方は,ファイナンスにおいて
最も重要なコンセプトのひとつであり,証券アナリスト 2 次試験でもかなりの
威力を発揮する。デリバティブのみならず,債券,コーポレート・ファイナン
スといった分野からの出題では,必ずこの考え方が一枚噛んでいると言っても
過言ではない。
定義 : 裁定(arbitrage)
すべての時点・状態でキャッシュ・フローが負にならず,かつ,少なくともあ
る時点のある状態においては,キャッシュ・フローが正になる取引を裁定取引
といい,このような取引が可能な場合,裁定機会(arbitrage opportunity)が存在す
るという。
仮定 : 無裁定条件(no arbitrage condition)
市場には裁定機会が存在しない。
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2.2. デリバティブの評価
キャッシュ・フローの複製の考え方を使って,先渡契約の理論価格とプット・
コール・パリティについて確認する。
2.2.1. 先渡契約(先物)の理論価格
原資産について,配当(あるいはクーポン)の支払いがない場合,先渡契約(先
物)の理論価格は,以下のようになる。
先渡契約(先物)の理論価格
tT
tt rSF
1 (eq.1)
ただし,
Ft: 現時点(t)の先渡価格(先物価格)
St: 現時点(t)の現物価格
r : リスクフリー金利(年率)
T : 満期日
※ 連続複利を想定して以下のように書く場合もある。 tTr
tt eSF
e : 自然対数の底(2.71828…)
(eq.2)
1)「ある資産」 現物 S の購入
2)「ある資産」の複製ポートフォリオ ①先渡契約のロング(買建て)
+
②割引債の購入(貸付)
額面: 現時点(t)における先渡価格 Ft
償還: 先渡契約の満期日
1) ある資産(現物 S)を現時点(t)で購入し,先渡契約の満期日に売却する場
合のキャッシュ・フローは以下の通り。
現時点(t) 満期日(T)
現物買い -St +ST
合計 -St +ST
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2) 複製ポートフォリオ(①先渡契約のロング+②割引債の購入)のキャッシュ・
フローは以下の通り。
現時点(t) 満期日(T)
先渡契約(買建て) 0 +ST-Ft
割引債買い tT
t
r
F
1 +Ft
合計 tT
t
r
F
1 +ST
1),2)いずれのポジションも,将来の同一時点(満期日 T)においてもたらすキ
ャッシュ・フローは,+ST でまったく同じである。したがって,無裁定条件か
ら両者の現時点(t)における価値(購入コスト)は等しいはずである。
tT
tttT
tt rSF
r
FS
1
1
もし, tT
tt
r
FS
1
であれば,1)現物 S が割高,2)複製ポートフォリオが割安。
したがって,1)現物 S を空売り(ショート)し,2)複製ポートフォリオを保有すれ
ば,現時点(t)において正のキャッシュ・フローが得られる。満期日(T)において
は,2)複製ポートフォリオから得られるキャッシュ・フロー+ST を 1)現物 S の
買い戻しに充てればよい。満期時におけるキャッシュ・フローはゼロである。
もし, tT
tt
r
FS
1
であれば,1)現物 S が割安,2)複製ポートフォリオが割高。
したがって,1)現物 S を買い,2)複製ポートフォリオを売却(すなわち,先渡契
約を売建て,割引債を発行)すれば,現時点(t)において正のキャッシュ・フロー
が得られる。満期日(T)においては,1)現物 S から得られるキャッシュ・フロー
+ST を 2)複製ポートフォリオの精算に充てればよい。満期時におけるキャッシ
ュ・フローはゼロである。
無裁定条件のもとでは,こうした裁定機会が存在しないので,先渡契約(先物)
の理論価格は,
tT
tt rSF
1
となる。
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例題
TOPIX 現物指数が 950 のとき,満期日まで 46 日を残す TOPIX 先物の理論価
格を計算してください。なお,この期間に対応する短期金利は年率 2%,配当は
無視できるものとします。
先物理論価格 F は(eq.1)より,
394952
365
460201950
0201950
1
365
46
.
.
.
rSFtT
952.39
※) 金利は通常,年率で与えられるため,先渡契約(先物)の理論価格
tT
tt rSF
1 あるいは, tTr
tt eSF
は,1 年 365 日とすると,より正確には,
3651tT
tt rSF
あるいは, 365
tTr
tt eSF
です。
しかし,こういった複雑な指数計算は通常の電卓ではできないため,ア
ナリスト試験では,
3651
tTrSF tt
で計算したり,満期まで n ヶ月という設定で,
ヶ月
ヶ月
121
nrSF tt
と計算する場合が多いようです。
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2.2.2. プット・コール・パリティ
権利行使日までに配当の支払いがない原資産について,権利行使日,権利行
使価格が同一のヨーロピアン・コールとヨーロピアン・プットの間には,プッ
ト・コール・パリティ(put-call-parity)と呼ばれる,以下のような関係が成立する。
プット・コール・パリティ
tTtttr
KSPC
1
(eq.3)
ただし,
Ct: 現時点(t)のコール価値(プレミアム)
Pt: 現時点(t)のプット価値(プレミアム)
St: 現時点(t)の原資産価格
K: 権利行使価格
r : リスクフリー金利(年率)
T : 権利行使日
※ 連続複利を想定して以下のように書く場合もある。 tTr
ttt KeSPC
e : 自然対数の底(2.71828…)
(eq.4)
1)「ある資産」 コール・オプション Ctを 1 単位購入
2)「ある資産」の複製ポートフォリオ ①プット・オプション Ptを 1 単位購入
+
②原資産 Stを 1 単位購入
+
③割引債の発行(借り入れ)
額面: オプションの権利行使価格 K
償還: オプションの権利行使日
1) コール・オプション Ctを 1 単位購入した場合のキャッシュ・フローは以下の
通り。
現時点(t)
権利行使日(T)
ST K K < ST
コール買い -Ct 0 +ST-K
合計 -Ct 0 +ST-K
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2) 複製ポートフォリオ(①プット・オプション Ptを 1 単位購入+②原資産 Stを 1
単位購入+③割引債の発行)のキャッシュ・フローは以下の通り。
現時点(t)
権利行使日(T)
ST K K < ST
①プット買い -Pt K-ST 0
②原資産買い -St +ST +ST
③割引債発行 tT
r
K
1 -K -K
合計 tTtt
r
KSP
1
0 +ST-K
1),2)いずれのポジションも,将来の同一時点(権利行使日 T)においてもたらす
キャッシュ・フローは,まったく同じである。したがって,無裁定条件から両
者の現時点(t)における価値(購入コスト)は等しいはずである。
tTtttr
KSPC
1
もし, tTttt
r
KSPC
1
であれば,1)コール Ctが割高,2)複製ポートフォ
リオが割安。したがって,1)コール Ct を売り,2)複製ポートフォリオを保有す
れば,現時点(t)において正のキャッシュ・フローが得られる。権利行使日(T)に
おいて原資産価格が行使価格を下回っていれば(St ≤K),いずれのポジションもキ
ャッシュ・フローはゼロ。原資産価格が行使価格を上回っていれば(K< St),複製
ポートフォリオから得られるキャッシュ・フロー(+ST-K)をコールの損失に充
てればよい。いずれにせよ,満期時におけるキャッシュ・フローはゼロである。
もし, tTttt
r
KSPC
1
であれば,1) コール Ct が割安,2)複製ポートフ
ォリオが割高。したがって,1) コール Ctを買い,2)複製ポートフォリオを売却
(すなわち,プット売り,原資産売り,割引債購入)すれば,現時点(t)において
正のキャッシュ・フローが得られる。権利行使日(T)において原資産価格が行使
価格を下回っていれば(St ≤K),いずれのポジションもキャッシュ・フローはゼロ。
原資産価格が行使価格を上回っていれば(K< St),1)コールの買いから得られるキ
ャッシュ・フロー(+ST-K)を複製ポートフォリオの精算に充てればよい。いず
れにせよ,満期時におけるキャッシュ・フローはゼロである。
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例題
権利行使日まで 1 ヶ月(30 日)のオプションに関するデータは以下の通りです。
プット・オプションのプレミアムを計算してください。
原資産価格 120.00 円
配当 なし
リスクフリー金利 6% (年率)
権利行使価格 100.00 円
コール・オプション 26.94 円
プット・オプション ???円
ただし, 99510365
30060
.e.
とします。
プット・コール・パリティ(eq.4)より,
456
995101001209426
.
..
KeSCP
KeSPC
tTr
ttt
tTr
ttt
6.45 円
※) tTre は連続複利でのディスカウント・ファクター(割引係数)で,おおよ
そ,
tT
tTr
re
1
1と考えて結構でしょう。アナリスト試験でも,しばし
ばこの形で出題されることがあります。やはり,通常の電卓では計算でき
ないので,これまでのパターンだと,本問のように数値が与えられていま
す。
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2.3. 二項分布によるオプション評価モデル
キャッシュ・フローの複製と裁定の考え方を使って,オプション価格を評価
する。次期の原資産価格が 2 つの値しか取り得ない,二項モデル(binomial model)
で考える。
2.3.1. 1 期間モデル
満期まで 1 期間のみを残すヨーロピアン・コールの価値を評価する。
数値例)
現在の株価(原資産価格) 10,000 円
1 期間後の株価 (上昇)12,000 円
(下落) 9,000 円
権利行使価格 10,500 円
権利行使日 1 期後
リスクフリー金利 5%
現在のヨーロピアン・コール・オプション C0 (???)
1) コール・オプション Ct
コール・オプション 1 単位の価値の推移
0 1
時間(t)
5001050010000121 ,,,,maxC
C0
005001000091 ,,,maxC
2) 複製ポートフォリオ Vt
株式 x0単位,リスクフリー金利に y0円投資。
複製ポートフォリオの価値(Vt)の推移
0 1
時間(t)
001 050100012 y.x,V
000 00010 yx,V
001 05010009 y.x,V
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このポートフォリオ Vtは,コール・オプション Ctの 1 期後のキャッシュ・フ
ロー複製しようとしているので,1 期後に株価が 12,000 円になった場合も 9,000
円になった場合も,V1=C1が成立すればよい。
286450
00510009
500105100012
00
00
00
,y,.x
y.x,
,y.x,
したがって,株式 0.5 単位の購入とリスクフリー金利で 4,286 円の借り入れに
より,1 期後のコール・オプション 1 単位のペイオフが複製される。
無裁定条件により,1)コール・オプション 1 単位と,2)複製ポートフォリオの
価値(購入コスト)は等しいので,コールの価値は以下のように計算される。
714
28645000010
00010 0000
,.,
yx,VC
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一般化)
現在の株価(原資産価格) S0円
1 期間後の株価 (上昇)uS0円
(下落)dS0円
権利行使価格 K 円
権利行使日 1 期後
リスクフリー金利 r (ただし,d <1+r < u)
現在のコール・オプション C0 (???) (ヨーロピアン・タイプ)
1) コール・オプション Ct
コール・オプション 1 単位の価値の推移
0 1
時間(t)
C0 00
1
,KuSmax
CC u
00
1
,KdSmax
CC d
2) 複製ポートフォリオ Vt
株式 x0単位,リスクフリー金利に y0円投資。
複製ポートフォリオの価値の推移
0 1
時間(t)
0001 1 yruSxV
0000 ySxV
0001 1 yrdSxV
このポートフォリオ Vtは,コール・オプション Ctの 1 期後のキャッシュ・フ
ロー複製しようとしているので,1 期後に株価が uS0円になった場合も dS0円に
なった場合も,V1=C1が成立すればよい。
du
uCdC
ry,
Sdu
CCx
CyrdSx
CyruSx
dudu
d
u
1
1
1
1
0
0
0
000
000
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無裁定条件により,1)コール・オプション 1 単位と,2)複製ポートフォリオの
価値(購入コスト)は等しいので,
du
du
dudu
Cdu
ruC
du
dr
r
du
CurCdr
r
du
uCdC
rdu
CC
ySxVC
11
1
1
11
1
1
1
1
00000
となる。
ここで,
du
drq
1
と定義すると,
du
ru
du
drq
1
111
であり,コール・オプションの価格 C0は以下の式で求められる。
r
CqqCC du
1
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二項モデルによるオプション価格(1期間モデル)
r
CqqCC du
1
10 (eq.5)
ただし,
du
drq
1: リスクニュートラル確率
r : 1 期間のリスクフリー金利
u : 1+原資産価格の上昇率
d : 1+原資産価格の下落率
Cu : 原資産価格上昇時の1期後のコール価値
Cd : 原資産価格下落時の1期後のコール価値
1° ここで定義した q は,仮定(d < 1+r < u)から 0~1 の間の値をとり,確率として
の数学的性質をもつ。この q はリスク中立確率(risk neutral probability)と呼ばれ
る。ただし,これは真の株価上昇確率ではない。
2°
リスク中立確率を使うことにより,リスクプレミアムを計算することなく,
リスクフリー金利を割引率として現在価値にディスカウントすることができ
る。このことが,オプション価値の算定をきわめて容易にしており,こうし
た評価方法をリスク中立評価法(risk neutral valuation)という。
3° リスク中立確率 q の式からコール・オプションの価値に影響を与えているの
は,上昇時の倍率 u と下落時の倍率 d の差と,粗利子率 1+r と下落時の倍率 d
の差の比率であり,上昇時の倍率 u と下落時の倍率 d の平均値は何ら影響を
与えていない。つまり,オプション価値に影響を与えるのは,原資産価格の
変化率のばらつき(ボラティリティ)であり,リスク選好から独立である。
デリバティブ再入門
21
p.16 で扱った,満期まで 1 期間のみを残すコール・オプションの価値を,リ
スク中立確率を使って評価する。
再掲)
現在の株価(原資産価格) 10,000 円
1 期間後の株価 (上昇)12,000 円
(下落) 9,000 円
権利行使価格 10,500 円
権利行使日 1 期後
リスクフリー金利 5%
現在のヨーロピアン・コール・オプション C0 (???)
Step1. 原資産価格 S0とリスクフリー金利 r から,リスク中立確率 q を求める。
50
0501
100090001200010
1
1 00
0
.q
.
q,q,,
r
dSqquSS
あるいは,
50
9021
900501
1
.
..
..
du
drq
Step2. コール・オプションの価値 C0を求める。
29714
0501
0501500150
1
10
.
.
.,.
r
CqqCC du
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2.3.2. 2 期間モデル
前節の 1 期間モデルを 2 期間に拡張する。
数値例)
現在の株価(原資産価格) 10,000 円
各期間の株価の変化率 (上昇)+20%
(下落)-10%
権利行使価格 10,500 円
権利行使日 2 期後
各期間のリスクフリー金利 5%
現在のヨーロピアン・コール・オプション C0 (???)
複製ポートフォリオを作って,満期まで 2 期間を残すヨーロピアン・コール
の価値を計算する。
1) 原資産の価値(株価 St)の推移
0 1 2
時間(t)
400142 ,S uu
000121 ,S u
S0=10,000 8001022 ,SS duud
00091 ,S d
10082 ,S dd
2) コール・オプション(Ct)1 単位の価値の推移
0 1 2
時間(t)
9003050010400142 ,,,,maxC uu
uC1
C0 3000500108001022 ,,,maxCC duud
dC1
005001010082 ,,,maxC dd
デリバティブ再入門
23
3) 複製ポートフォリオ
t 時点(=0,1)において,株式 xt単位,リスクフリー金利に yt円投資。
複製ポートフォリオの価値 Vt(t=0,1,2)の推移。
0 1 2
時間(t)
uuuu y.x,V 112 05140014
uu
u
yx,
y.x,V
11
001
00012
05100012
uuud y.x,V 112 05180010 dddu y.x,V 112 05180010
000 00010 yx,V
dd
d
yx,
y.x,V
11
001
0009
0510009
dddd y.x,V 112 0511008
Step1. t=1 時点のポジション:C1の複製
(1) S1=12,000 の場合,t=2 時点で株価が 14,400 円になった場合も 10,800 円に
なった場合も,V2=C2が成立すればよい。
0001001
30005180010
900305140014
11
11
11
,y,.x
y.x,
,y.x,
uu
uu
uu
したがって,株式 1.0 単位の購入とリスクフリー金利で 10,000 円の借入れに
より,t=1 時点のコール・オプション 1 単位のペイオフが複製される。
無裁定条件により,1)コール・オプション 1 単位と,2)複製ポートフォリオの
価値(購入コスト)は等しいので,t=1 時点のコールの価値: uC1 は以下のように計
算される。
0002
000100100012
00012 11
11
,
,.,
yx,
VC
uu
uu
2017年目標 証券アナリスト 2次入門講座
24
(2) S1=9,000 の場合,t=2 時点で株価が 10,800 円になった場合も 8,100 円にな
った場合も,V2=C2が成立すればよい。
8579
1
00511008
30005180010
11
11
11
dd
dd
dd
y,x
y.x,
y.x,
したがって,株式 1/9単位の購入とリスクフリー金利で 857円の借入れにより,
t=1 時点のコール・オプション 1 単位のペイオフが複製される。
無裁定条件により,1)コール・オプション 1 単位と,2)複製ポートフォリオの
価値(購入コスト)は等しいので,t=1 時点のコールの価値: dC1 は以下のように計
算される。
143
8579
10009
0009 11
11
,
yx,
VC
dd
dd
Step2. t=0 時点のポジション:C0の複製
t=1 時点で株価が 12,000 円になった場合も 9,000 円になった場合も,V1=C1が
成立すればよい。
17056190
1430510009
000205100012
00
100
100
,y,.x
Cy.x,
,Cy.x,
d
u
無裁定条件により,1)コール・オプション 1 単位と,2)複製ポートフォリオの
価値(購入コスト)は等しいので,t=0 時点のコールの価値:C0 は以下のように計
算される。
0201
1705619000010
00010 00
00
,
,.,
yx,
VC
デリバティブ再入門
25
ここでは,株式(原資産)の保有とリスクフリー資産(借入れ)によりポートフ
ォリオを作り,コール・オプションを複製したが,t 時点(t=0,1,2)における株価(原
資産価格):S,コール・オプション(複製ポートフォリオ)の価値:C=V,および株
式(原資産)購入単位:を整理すると以下のようになる。
0 1 2
時間(t)
S=14,400
S=12,000 C=V=3,900
C=V=2,000
S=10,000
C=V=1,020
=0.619
=1.0
S=10,800
C=V=300
S=9,000
C=V=143
=1/90.111 S=8,100
C=0
この複製ポートフォリオは,株式とリスクフリー資産の組み合わせにより,
対象コール・オプションのペイオフを完全に複製できるという点で,ヘッジさ
れたポートフォリオであるが,t=0 時点と t=1 時点とでは複製ポジション(株式
購入単位)が異なり,t=1 時点においても,この時点の株価次第で複製ポジショ
ンは異なる。
また,この複製ポートフォリオの株式購入単位は,株価(原資産価格)が 1 単
位変動した場合,複製ポートフォリオおよび対象コール・オプションがどれだ
け変化するかを意味する。すなわち,原資産価格の変化に対するオプション価
値の感応度であり,ヘッジ・レシオあるいはデルタ()と呼ばれる。
このように複製ポートフォリオの作成は,原資産価格の変化に応じてポート
フォリオを動的(ダイナミック)に組替えることによって行われ,とくにダイナ
ミック・デルタ・ヘッジなどと呼ばれる。
2017年目標 証券アナリスト 2次入門講座
26
4) リスク中立評価法
リスク中立確率による方法でも同様の計算結果が導けることを確認しておく。
Step1. 満期日(権利行使日;2期後)における原資産価格 S2(株価)の分布を求める。
1 期後上昇+2 期後上昇 uuS2 40014212100010 ,..,Suu
1 期後上昇+2 期後下落 udS2 80010902100010 ,..,SS duud
1 期後下落+2 期後上昇 duS2
1 期後下落+2 期後下落 ddS2 1008909000010 ,..,Sdd
Step2. 原資産価格 S0とリスクフリー金利 r から,リスク中立確率 q を求める。
50
0501
100090001200010
1
1 00
0
.q
.
q,q,,
r
dSqquSS
あるいは,
50
9021
900501
1
.
..
..
du
drq
Step3. 満期(権利行使日;2 期後)におけるコール・オプションの価値 C2を求める。
1 期後上昇+2 期後上昇 uuC2 9003050010400142 ,,,,maxCuu
1 期後上昇+2 期後下落 udC2 3000500108001022 ,,,maxCC duud
1 期後下落+2 期後上昇 duC2
1 期後下落+2 期後下落 ddC2 005001010082 ,,,maxC dd
Step4. リスク中立確率 q,2 期後のオプション価値 C2,リスクフリー金利 r を使
って 1 期後におけるオプションの価値 C1を求める。
1 期後上昇 uC1
00020501
300501900350
1
1 221 ,
.
.,.
r
CqqCC
uduuu
1 期後下落 dC1
861420501
050130050
1
1 221 .
.
..
r
CqqCC
dddud
デリバティブ再入門
27
Step5. リスク中立確率 q,1 期後のオプション価値 C1,リスクフリー金利 r を使
って現在のオプション価値 C0を求める。
410201
0501
86142501000250
1
1 110
.,
.
..,.
r
CqqCC
du
2017年目標 証券アナリスト 2次入門講座
28
一般化)
現在の株価(原資産価格) S0円
T 期間後の株価(t=1,2) (上昇)u
tS0円
(下落)d tS0円
権利行使価格 K 円
権利行使日 2 期後
リスクフリー金利 r (ただし,d <1+r < u)
現在のコール・オプション C0 (???) (ヨーロピアン・タイプ)
1) 原資産の価値(株価 St)の推移
0 1 2
時間(t)
0
2
2 SuS uu 01 uSS u
S0
01 dSS d
022 udSSS duud
0
2
2 SdS dd
2) コール・オプション(Ct)1 単位の価値の推移
0 1 2
時間(t)
00
2
2 ,KSumaxC uu
uC1
C0 0022 ,KudSmaxCC duud
dC1
00
2
2 ,KSdmaxC dd
デリバティブ再入門
29
3) 複製ポートフォリオ
t 時点(=0,1)において,株式 xt単位,リスクフリー金利に yt円投資。
複製ポートフォリオの価値 Vt(t=0,1,2)の推移。
0 1 2
時間(t)
uuuu yrSuxV 10
2
12 1
uu
u
yuSx
yruSxV
101
0001 1
uuud yrudSxV 1012 1
dddu yrduSxV 1012 1
0000 ySxV
dd
d
ydSx
yrdSxV
101
0001 1
dddd yrSdxV 10
2
12 1
Step1. t=1 時点のポジション:C1の複製
(1) S1=uS0 の場合,t=2 時点で株価が u2S0 になった場合も udS0 になった場合
も,V2=C2が成立すればよい。
du
dCuC
ry,
Sduu
CCx
CyrudSx
CyrSux
uuudu
uduuu
uduu
uuuu
221
0
221
2101
210
2
1
1
11
1
1
リスク中立確率をdu
drq
1で定義すれば,
r
CqqC
du
CruCdr
r
du
dCuC
ruS
Sduu
CC
yuSxVC
uduu
uduu
uuud
uduu
uuuu
1
1
11
1
1
1
11
22
22
0
0
22
10111
2017年目標 証券アナリスト 2次入門講座
30
(2) S1=dS0の場合,t=2 時点で株価が duS0になった場合も d 2S0になった場合
も,V2=C2が成立すればよい。
du
dCuC
ry,
Sdud
CCx
CyrSdx
CyrduSx
udddd
dddud
dddu
dudd
221
0
221
210
2
1
2101
1
11
1
1
リスク中立確率をdu
drq
1で定義すれば,
r
CqqC
du
CruCdr
r
du
dCuC
rdS
Sdud
CC
ydSxVC
dddu
dddu
dudd
dddu
dddd
1
1
11
1
1
1
11
22
22
0
0
22
10111
Step2. t=0 時点のポジション:C0の複製
t=1 時点で株価が uS0になった場合も dS0になった場合も,V1=C1が成立すれば
よい。
du
dCuC
ry,
Sdu
CCx
CyrdSx
CyruSx
uddu
d
u
110
0
110
1000
1000
1
11
1
1
無裁定条件により,
r
CqqC
du
CruCdr
r
du
dCuC
rS
Sdu
CC
ySx
VC
du
du
uddu
1
1
11
1
1
1
11
11
11
110
0
11
000
00
デリバティブ再入門
31
Step1.で計算された du C,C 11 を代入し,
2
22
2
2
2
222
2
2222
110
1
112
1
111
1
1
11
1
1
1
1
r
CqCqqCq
r
CqCqqCqqCq
r
r
CqqCq
r
CqqCq
r
CqqCC
dduduu
ddduuduu
ddduuduu
du
満期まで 2 期間を残すヨーロピアン・コールの価値は以下の式で求められる。
二項モデルによるオプション価格(2期間モデル)
2
22
01
112
r
CqCqqCqC dduduu
(eq.6)
ただし,
du
drq
1: リスクニュートラル確率
r : 1 期間のリスクフリー金利
u : 1+原資産価格の上昇率(上昇時の倍率)
d : 1+原資産価格の下落率(下落時の倍率)
Cuu : 原資産価格が 2 期とも上昇した時の 2 期後のコール価値
Cud : 原資産価格が 1 期上昇 1 期下落した時の 2 期後のコール価値
Cdd : 原資産価格が 2 期とも下落した時の 2 期後のコール価値
これを使って p.22 の例を計算すると,以下のようになる。
410201
0501
05013005015029003502
22
0
.,
.
...,.C
複製ポートフォリオでは,原資産とリスクフリー資産のダイナミックなポジ
ション組替えによる複製戦略を前提に,コール・オプション価格を計算した。
しかし,結果的にはリスク中立確率を使うことにより,満期日(t=2 時点)におけ
るコール・オプションの価値のみをみて,コール・オプションの価格評価が可
能である。こうした計算が可能なのは,満期日前の原資産価格の変動経路に影
響を受けないヨーロピアン・タイプのためである。
2017年目標 証券アナリスト 2次入門講座
32
練習問題
満期まで 2 期間を残すのヨーロピアン・コール・オプションに関するデータ
は以下の通りです。このコール・オプションのプレミアムを計算してください。
現在の株価(原資産価格) 1,000 円
各期間の株価の変化率 (上昇)+20%
(下落)-20%
権利行使価格 1,000 円
権利行使日 2 期後
各期間のリスクフリー金利 5%
現在のヨーロピアン・コール・オプション C (???)円
Step1. 満期日(2 期後)における原資産価格,コール・オプションの分布を求める。
原資産価格 コール・オプション
現在 1 期後 2 期後 現在 1 期後 2 期後
1440 Cuu =440
1200 Cu
1000 960 C Cud =Cdu =0
800 Cd
640 Cdd =0
Step2. リスク中立確率 q を求める。
6250
0501
180020010001
1
1 00
0
.q
.
qq,,
r
dSqquSS
あるいは,
6250
8021
800501
1
.
..
..
du
drq
Step2. コール・プレミアム(C)を求める。
円90155
895155
0501
062501062501625024406250
1
112
2
22
2
22
.
....
.
....
r
CqCqqCqC dduduu
デリバティブ再入門
33
≪MEMO≫
2017年目標 証券アナリスト 2次入門講座
34
≪MEMO≫