1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯...リネゾリド 1.5...

9
リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page1 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 1.5.1 起原又は発見の経緯 1.5.1.1 リネゾリド(ザイボックス ® リネゾリド(ザイボックス ® PNU-100766/PNU-100766SS1ファイザー ファルマシア Kalamazoo されたオキサゾリジノン 格を する しいクラス ある。 1 リネゾリド(ザイボックス (S)-N-3- アリル-5- アセトアミドメチル-2- オキサゾリジノン 1987 E. I. duPont de Nemours and Co., Inc.によって 5-ヒドロキシメチル-2-オキサゾリジノンが めて されたが, かった。そ により,より DuP 105(s)-[3-(4-(methylsulfinyl)phyenyl)-2-oxo-5-oxazolidinyl]methyl acetamide)および DuP 721(s)- [3-(4-acetylphenyl)-2-oxo-5-oxazolidinyl]methyl acetamide)が られたが, かっ た。 ファルマシア 5-ヒドロキシメチル-2-オキサゾリジノン して し,1990 より各 オキサゾリジノン した。 eperezolidPNU-100592)およびリネゾリド(linezolidPNU-100766)を して した。第 1 においてこれら 2 および 態を し,eperezolid ,安 および れるこ から,リネゾリドを して した。 in vitro ,リネゾリド り, リボゾーム 50S サブユニット による 70S により, するこ が確 された 1) , 2) , 3) 2)。こ ようにリネゾリド し, すこ ,および他 により するこ から, に耐 に対して するこ が確 された。

Upload: others

Post on 25-Feb-2021

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯...リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page2 図 2 リネゾリドの作用機序(既提出資料概要図イ-1

リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page1

1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5.1 起原又は発見の経緯

1.5.1.1 リネゾリド(ザイボックス®)

リネゾリド(ザイボックス®,PNU-100766/PNU-100766SS,図 1)は米国ファイザー社(旧米

国ファルマシア社)Kalamazoo 研究所で創出されたオキサゾリジノン骨格を有する新しいクラス

の合成抗菌薬である。

図 1 リネゾリド(ザイボックス )

(S)-N-3-アリル-5-アセトアミドメチル-2-オキサゾリジノン類は 1987 年に E. I. duPont de

Nemours and Co., Inc.によって 5-ヒドロキシメチル-2-オキサゾリジノンが初めて発見されたが,

その抗菌活性は非常に弱かった。その後,構造活性の最適化により,より抗菌活性の高い DuP

105((s)-[3-(4-(methylsulfinyl)phyenyl)-2-oxo-5-oxazolidinyl]methyl acetamide)および DuP 721((s)-

[3-(4-acetylphenyl)-2-oxo-5-oxazolidinyl]methyl acetamide)が得られたが,臨床導入には至らなかっ

た。旧米国ファルマシア社は 5-ヒドロキシメチル-2-オキサゾリジノン類の抗菌薬としての将来

性は高いと判断し,1990 年代前半より各種オキサゾリジノン誘導体の探索化学研究を開始した。

その結果,最終的には eperezolid(PNU-100592)およびリネゾリド(linezolid,PNU-100766)を

開発候補化合物として選択した。第 1相試験においてこれら 2化合物の安全性および薬物動態を

評価し,eperezolid に比べ,安全性および薬物動態の特性に優れることから,リネゾリドを最終

開発化合物として選定した。

各種 in vitro試験の結果,リネゾリドは他の抗菌薬の作用機序とは異なり,細菌リボゾーム 50S

サブユニットとの特異的結合による機能性 70S 開始複合体形成の阻害により,細胞の蛋白合成を

阻害することが確認された参考文献1), 2), 3)(図 2)。このようにリネゾリドは,細菌の蛋白合成の初

期段階を阻害し,抗菌活性を示すこと,および他の抗菌薬群とは異なる作用機序により効果を発

現することから,既存薬に耐性を示す細菌に対しても抗菌活性を発揮することが確認された。

Page 2: 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯...リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page2 図 2 リネゾリドの作用機序(既提出資料概要図イ-1

リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page2

図 2 リネゾリドの作用機序(既提出資料概要図イ-1を再掲)参考文献4)

臨床分離株を用いた in vitro 感受性試験の結果,リネゾリドは各種グラム陽性球菌(メチシリ

ン耐性黄色ブドウ球菌:MRSA 注),メチシリン耐性表皮ブドウ球菌:MRSE 注),バンコマイシン

耐性腸球菌:VRE 注)およびペニシリン中等度耐性株:PISP 注),ペニシリン耐性株:PRSP 注)を

含む)に対し,4 µg/mL 以下で抗菌活性を示した(表 1参考文献5))。またグラム陽性菌による全身

感染症モデルを含む各種感染モデルに対し,感染防御作用を示した。一方,リネゾリドはグラム

陰性菌に対しては効果を示さなかった。

注)MRSA: Methicillin-resistant Staphylococcus aureus

MRSE: Methicillin-resistant Staphylococcus epidermidis VRE: Vancomycin-resistant Enterococcus faecium PISP: Penicillin-intermediate Streptococcus pneumoniae PRSP: Penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae

Page 3: 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯...リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page2 図 2 リネゾリドの作用機序(既提出資料概要図イ-1

リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page3

表 1 各種グラム陽性菌に対するリネゾリドの抗菌活性

MIC(µg/mL) MIC50 MIC90

メチシリン感受性 0.5 – 2 0.5 – 2 Staphylococcs aureus メチシリン耐性 1 – 2 1 – 2 メチシリン感受性 1 1 Staphycoccus epidermidis メチシリン耐性 1 – 2 2 – 4 バンコマイシン感受性 1 – 2 1 – 2 Enterococcus faecalis バンコマイシン耐性 ≤0.5 – 4 ≤0.5 – 4 バンコマイシン感受性 1 – 2 1 – 2

Enterococcus faecium バンコマイシン耐性 1 – 2 1 – 2 ペニシリン感受性 0.5 – 2 1 – 2 ペニシリン中等度感受性 1 – 2 2 Streptococcus pneumoniae ペニシリン耐性 1 1 – 2

Streptococcus agalactiae 1 – 2 1 – 2 Streptococcus pyogens 1 – 2 1 – 2 参考文献 5 表 1を一部改変した。 国内第 3相試験で得られた MRSAに対する抗菌活性を 2.7.3.5.3図 21臨床分離 MRSA株に対するリネゾリドおよびバンコマイシンの MIC分布に示す。

1.5.1.2 MRSA感染症

ペニシリンは 1929年に A. Flemingにより発見され,1941年に臨床的に実用化され,黄色ブド

ウ球菌,連鎖球菌,肺炎球菌などに対し臨床適用されてきた。以来,β-ラクタム系(ペニシリン

系,セフェム系,モノバクタム系,カルバペネム系),アミノグリコシド系,マクロライド系,

キノロン系などさまざまな骨格を有する抗菌薬が数多く開発され,種々の感染症を克服してきた。

一方,これら抗菌薬の使用頻度の増加とともに,耐性菌が報告されるようになり,近年では,世

界各国において,MRSA,MRSE,VRE,PRSP など種々のグラム陽性球菌耐性株の検出が増加し

ている(図 3)。

図 3 米国における耐性グラム陽性球菌発現率の変遷

1: National Nosocomial Infection Surveillance (NNIS),2: TRUST2 project 3: MMWR, (1997),4, 5, 7: NNISS (2003), 6: McCormick AW et al. (2003), 8: Chang S et al. (2003) 9: MMWR, (2004)

100

80

60

40

20

019801975 1985 1990 1995 2000

1997

GISAGISA33

VRE1

PRSP22

MRSA11

MRSE1

耐性化

率(%

//

GISA8

MRSE4

MRSA5

PRSP6

VRE7

VRSA9

//

//

//

//11 //

100

80

60

40

20

019801975 1985 1990 1995 2000

1997

GISAGISA33

VRE1

PRSP22

MRSA11

MRSE1

耐性化

率(%

//

GISA8

MRSE4

MRSA5

PRSP6

VRE7

VRSA9

//

//

//

//11 //

Page 4: 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯...リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page2 図 2 リネゾリドの作用機序(既提出資料概要図イ-1

リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page4

MRSA はメチシリンのみならず,ペニシリン系,セフェム系(第 1~第 4 世代),モノバクタ

ム系,カルバペネム系といった現在市販されているすべてのβ-ラクタム薬に加え,アミノグリコ

シド系薬,マクロライド系薬に対しても耐性を示しており,今日では最も耐性化が進んだ細菌で

ある。全国の病院を対象とした抗生物質感受性状況調査結果(2000)によると,1999 年下期に

分離された黄色ブドウ球菌のうち約 65%がメチシリン・セフェム耐性であることが報告されてい

る参考文献6)。

本邦では 1980 年代半ばから重症の院内 MRSA 感染症例が報告されるようになってきた。厚生

労働省の院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)として実施されている全入院患者サーベイ

ランスによると,MRSA 感染症は薬剤耐性菌感染症の 92.6%を占めており(2001 年)参考文献7),

その報告件数は 2003年では 1定点施設あたり約 3.8 件/月であり,年々報告数は増加している参

考文献8)(図 4)。このように,MRSA 感染症は依然として薬剤耐性菌感染症対策の中心に位置付け

られる。

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

1999 2000 2001 2002 2003

MR

SA感染症報告総数

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

3.50

4.00

MR

SA感染症の月あたり一定点当たり

報告数

報告総数

月あたり定点あたり

図 4 院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)における MRSA感染症報告の年次推移

JANISにおいて報告されたMRSA感染症の月次総数および定点当たりの月次報告数をそれぞれ集計した。

MRSA の病原性は,MSSA 注)(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)と比較して強いわけでなく,

通常の感染防御能がある場合,たとえ保菌者であっても,除菌する必要はない。しかし,複数の

病気を有する高齢者,悪性腫瘍に感染症が合併した患者,術後経過の順調でない患者,気管内や

静脈内に挿管されている患者など,いわゆる compromised host にβ-ラクタム系抗菌薬などが投与

されると,感受性菌の消失に伴い,非感受性の MRSA が残ることになり,その結果,抗菌薬治

療が困難な重症感染症が発現する。特に集中治療室で治療されている患者に MRSA 感染症が発

現すると,予後不良にいたる場合が多い。MRSA 感染症のうち,最も発現頻度の高い MRSA 肺

炎患者では,死亡率は 50%以上であり,特に感染発症後 48 時間の死亡率は 25%に達することが

報告されている参考文献9)。適切な抗菌薬による治療が施されている場合,患者の予後を改善するこ

注)MSSA:Methicillin-susceptible Staphylococcus aureus

Page 5: 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯...リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page2 図 2 リネゾリドの作用機序(既提出資料概要図イ-1
Page 6: 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯...リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page2 図 2 リネゾリドの作用機序(既提出資料概要図イ-1
Page 7: 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯...リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page2 図 2 リネゾリドの作用機序(既提出資料概要図イ-1

リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page7

色ブドウ球菌(VISA 注1))参考文献21), 22)が,2002 年にはバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌

(VRSA 注2))の感染例参考文献23)が報告された。これまでに VRSA 感染症例は米国で 3 例報告され

ている参考文献24), 25)。本邦では 2004年現在,VRSA感染例の報告はないが,欧米諸国と同様,バン

コマイシンの使用頻度は高く,バンコマイシン耐性菌(VRSA, VRE)の拡大防止の必要性からも,

既存治療薬と交叉耐性がない新規抗菌薬の必要性は高い。

これらを踏まえ,リネゾリドを新規 MRSA 感染症治療薬として提供すべく,臨床開発を進め

た。なお,リネゾリドのバイオアベイラビリティはほぼ 100%であるため,他の MRSA 抗菌薬に

はない経口剤を提供できることから,静脈内投与製剤(注射液)だけでなく,経口製剤(錠剤,

経口懸濁液:日本未承認)も製剤開発した。

1.5.2 開発の経緯

1.5.2.1 非臨床試験

各種非臨床試験の結果,以下の点が明らかとなった。

薬理学的試験

• 各種耐性菌を含むグラム陽性球菌に対する抗菌活性

• 既存薬とは交叉耐性を示さない

• リネゾリドの抗菌活性は Time above MICにより発現する

• MRSAに対するMICブレイクポイントは 4 µg/mLである

薬物動態試験

• 投与経路に依存しない薬物動態(経口投与時のバイオアベイラビリティはほぼ 100%)

• 低い蛋白結合率(31%)と良好な組織移行性

• チトクローム P450 の基質および阻害剤とはならず,また臨床的に問題となる誘導作用を

示さない

毒性試験成績

• モノアミン酸化酵素(MAO)に対する弱い可逆的阻害作用

• 肝機能検査値の一過性の上昇

• 軽度かつ一過性の造血系の抑制

これら非臨床試験成績から,リネゾリドはグラム陽性球菌に対する抗菌活性を有し,既存

MRSA 感染症治療薬に比べ,優れた薬物動態特性を示すことから,新規 MRSA 感染症治療薬と

注1) VISA:Vancomycin-intermediate Staphylococcus aureus 注2) VRSA:Vancomycin-resistant Staphylococcus aureus

これまでに分離された VRSA 3株はいずれも mecAおよび vanA遺伝子を有していた。これら 3株のバンコマイシンに対する感受性はそれぞれ>128 µg/mL,64 µg/mL, 64 µg/mLであり,リネゾリドにはいずれも感受性であった。

Page 8: 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯...リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page2 図 2 リネゾリドの作用機序(既提出資料概要図イ-1
Page 9: 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯...リネゾリド 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 Page2 図 2 リネゾリドの作用機序(既提出資料概要図イ-1