平成18年度 素形材取引ベストプラクティス調査事業...

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平成 18 年度 素形材取引ベストプラクティス調査事業 報告書 中小企業庁 事業環境部 取引課 委託先 株式会社 日本総合研究所 平成 18 年 12 月

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Page 1: 平成18年度 素形材取引ベストプラクティス調査事業 報告書素形材取引ベストプラクティス調査 1 第1 章 本調査の背景と目的 第1節 本調査の目的

平成 18 年度

素形材取引ベストプラクティス調査事業

報告書

中小企業庁 事業環境部 取引課

委託先 株式会社 日本総合研究所

平成 18 年 12 月

Page 2: 平成18年度 素形材取引ベストプラクティス調査事業 報告書素形材取引ベストプラクティス調査 1 第1 章 本調査の背景と目的 第1節 本調査の目的

目 次

第 1章 本調査の背景と目的 ............................................... 1 第 1節 本調査の目的 ................................................... 1 第 2節 本調査の背景 ................................................... 1 第 3節 本調査の調査手法 ............................................... 3

第 2章 素形材産業における取引 ........................................... 4 第 1節 素形材企業及びユーザー ......................................... 4 第 2節 素形材取引の現状 ............................................... 4

第 3章 ベストプラクティスとは .......................................... 12 第 1節 ベストプラクティスの定義、基準 ................................ 12 第 2節 ベストプラクティスの分類 ...................................... 13 第 3節 ベストプラクティスの収集・分析手順 ............................ 13 第 4節 ベストプラクティスに対する考え方 .............................. 14 第 5節 ベストプラクティスの事例(既存報告書より) .................... 15

第 4章 ベストプラクティス事例 .......................................... 23 第 1節 ユーザー企業のベストプラクティス事例 .......................... 23 第 2節 素形材企業のベストプラクティス事例 ............................ 29

第 5章 ベストプラクティスの要因 ........................................ 58 第 1節 素形材企業の要因 .............................................. 58 第 2節 ユーザー企業の要因 ............................................ 60 第 3節 外部環境要因 .................................................. 61

第 6章 まとめ .......................................................... 63 第 7章 素形材取引ベストプラクティス調査委員会等 ........................ 64 第 1節 委員会開催・ヒアリングの趣旨 .................................. 64 第 2節 議事・ヒアリング概要 .......................................... 64

第 8章 委員会参加企業等アンケート ..................................... 118 第 1節 アンケート質問項目 ........................................... 118 第 2節 アンケートの回答結果 ......................................... 120

第 9章 参考文献一覧 ................................................... 134

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素形材取引ベストプラクティス調査

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第 1 章 本調査の背景と目的

第 1 節 本調査の目的

本調査は、平成 18 年度経済産業省の重点施策となっているサポーティング・インダ

ストリー支援の一環として、素形材産業ビジョン策定委員会によって、平成 18 年 5 月

25 日策定された「素形材産業ビジョン」を受けて実行されるものである。

素形材産業ビジョンは、素形材メーカーが、製品そのものではなく、技術・技能によ

って利益をあげるという視点から攻めの経営を展開し、収益を得てさらなる競争力を獲

得していくことを目指している。この実現のためには、素形材メーカーとユーザー企業

との間で、技術・技能を評価した取引はもちろんのこと、素形材企業のコスト負担を適

正に反映した取引が行われる必要がある。こうした望ましい取引形態(以下ベストプラ

クティス)は実際に見られるものの、現状では一部の企業間に限定されている。本調査

は、全国の素形材取引ベストプラクティス事例を整理した報告書を作成し、素形材産業

ビジョンアップデート版(平成 18年 11 月発行)及び素形材産業取引ガイドライン策定

委員会報告書(平成 18年 11 月策定)とともに、ベストプラクティスの浸透を促してい

くことを目的とする。

第 2 節 本調査の背景

本調査の前提である、素形材ビジョン策定の背景は以下のとおりである。

1.サポーティング・インダストリーについて

(1)サポーティング・インダストリーの支援方針及び支援対象 経済産業省では、「新産業創造戦略 2005」の方針を受けて、我が国製造業の国際競争

力の強化と新たな事業の創出のために、中小企業のモノ作り基盤技術の高度化を図るこ

とを目的として、鋳造、鍛造、金属プレス加工、メッキ、切削等モノ作りの基盤(サポ

ーティング・インダストリー)となる技術を有する中小企業に対し、法的措置をはじめ

として、研究開発、金融など、総合的な支援を講じることとしている。

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上記支援方針に基づく、具体的な支援内容は以下の通りである。

①中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律制定

②モノ作り基盤技術の研究開発支援

③川上・川下間のネットワークの構築支援

④高専等を核とした中小企業人材育成システムの構築

⑤計量標準による技術の精度・信頼性の客観的な証明

⑥基盤技術の承継の円滑化

⑦中小企業の知的財産権の保護・活用支援

⑧金融措置関連

⑨下請代金支払遅延等防止法の運用強化等

⑩技術開発を抑制する取引慣行の改善提示

(2)中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律 上記「①中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律制定」として、平成

18 年 6 月 13 日に「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律(平成 18 年

法律第 33号)」が施行された。

そして、同法第 2 条第 2 項に基づき、「特定ものづくり基盤技術」が定められた。こ

れは、「ものづくり基盤技術振興基本法(平成 11 年法律第 2号)第 2条 1項に規定する

ものづくり基盤技術のうち、当該技術を用いて行う事業活動の相当部分が中小企業者に

よって行われるものであって、中小企業者がその高度化を図ることが我が国製造業の国

際競争力の強化又は新たな事業の創出に特に資するもの」であり、経済産業大臣によっ

て、17 分野(組み込みソフトウェア、金型、電子部品・デバイスの実装、プラスチッ

ク成型加工、鍛造、動力伝達、部材の結合、鋳造、金属プレス加工、位置決め、切削加

工、織染加工、高機能化学合成、熱処理、めっき、発酵、真空の維持)が指定された。

また、同法第 3条第 1項に基づき、中小企業の特定ものづくり基盤技術の高度化に関

する指針が定められた。この指針は、①特定ものづくり基盤技術の高度化全般にわたる

基本的な事項、②個々の特定ものづくり基盤技術ごとに、達成すべき高度化目標、③個々

の特定ものづくり基盤技術ごとに、高度化目標の達成に資する特定研究開発等の実施方

法、及び④個々の特定ものづくり基盤技術ごとに、特定研究開発等を実施するに当たっ

て配慮すべき事項を定めたものである。

また、同法 10条では、「国は、中小企業の特定ものづくり基盤技術の高度化を促進す

るため、中小企業者と大学、高等専門学校等との連携による人材の育成、知的財産の適

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切な保護及び活用、研究開発の成果の取扱いに係る取引慣行の改善その他必要な施策を

総合的に推進するよう努めるものとする」と定められており、取引慣行の改善について

ふれている。

2.素形材産業ビジョン

(1)素形材産業ビジョンの位置づけ 「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」の作成と並行して、経済産

業省では、「素形材産業ビジョン策定委員会」を組織した。この委員会は、素形材メー

カー、ユーザー、研究機関、行政等の関係者の間で、素形材産業の課題及び目指すべき

方向性についての認識を共有し、個々の素形材メーカーの果敢な挑戦を促すことを目的

として開催されたものである。平成 17 年 12 月から平成 18 年 5 月にかけて議論が重ね

られた結果、「素形材産業ビジョン」が取りまとめられた。

(2)取引慣行の改善 素形材産業ビジョンでは、取引慣行に関する項で、取引慣行をめぐる課題を「技術・

コストの適正な評価が阻害される取引慣行」「知的財産の扱いに関する取引慣行」「代

金支払いに関する取引慣行」の三つに類型化して例示している。そして、その対応とし

て「法令違反行為への厳格な対処」「創意工夫の意欲を削ぐ取引慣行の改善のための業

種毎のルール整備」「素形材メーカーの能力を引き出すベストプラクティスの浸透」の

三つの方向性を示している。

本調査は、「ベストプラクティスの浸透」を目的として実施されるものである。

第 3 節 本調査の調査手法

本調査の方法は、以下の 2つとする。

①有識者、素形材企業経営者又はユーザー等素形材産業関係者による全国 8箇所(北海

道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州)の委員会開催またはヒアリングを

通じた事例収集

②既存文献、調査報告書等の情報収集

以上の方法を通じて事例を収集し、報告書を取りまとめる。

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第 2 章 素形材産業における取引

第 1 節 素形材企業及びユーザー

1. 素形材企業

サポーティング・インダストリーとしては特定ものづくり基盤技術 17 分野が指定さ

れたが、本報告書では、その中にも含まれている素形材企業を対象とする。中でも、鋳

造、鍛造、金型、金属プレス、熱処理に加え、鋳造の一分野で一般的な鋳造とは異なっ

た性質を持つダイカストを含めた 6業界の素形材企業を主要な対象とする。

2.素形材産業のユーザー

素形材産業のユーザーは、自動車業界とその他業界に分類できる。自動車業界は、以

下のとおり、その他業界と異なった取引形態を有している。

・ 若干崩れつつも系列的取引形態を維持している。取引がピラミッド構造となって

おり、ユーザーと素形材企業は概ね継続的な取引関係がある。

・ 多品種少量傾向が強まりつつも、量産体制を維持している。

・ 徹底した原価計算を行っており、コスト意識が厳格で、年々コストダウン要請が

ある。

自動車業界以外のその他ユーザー業界としては、産業機械、農業機械、電気電子、建

設機械、土木、エネルギーなどがある。特に電機電子業界では、製造コスト低減のため

全体的に海外生産シフトが進んでおり、素形材企業への発注がなくなったり大幅減少し

たりした地域がある。

第 2 節 素形材取引の現状

1.取引慣行をめぐる課題

素形材産業ビジョンによると、取引慣行をめぐる課題は(1)技術・コストの適正な

評価が阻害される取引慣行、(2)知的財産の扱いに関する取引慣行、(3)代金支払方法

に関する取引慣行の 3類型にまとめられている。この分類に基づいて、実際に過去の調

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査などで把握されている取引慣行上の主な課題を整理する。なお、(1)~(3)に含ま

れない課題は、「(4)その他」とする。

(1)技術・コストの適正な評価が阻害される取引慣行 ①重量取引慣行 ②量産終了後の型保管問題 ③補給品の支給 ④コストアップの製品価格への転嫁 ⑤その他

(2)知的財産の扱いに関わる取引慣行 ①知財・ノウハウ流出 (3)代金支払方法に関する取引慣行 ①手形取引 ②受領及び検収 ③金型メーカーに対する金型代の支払

a) 支払条件 b) 金型の受領及び検収

④型使用メーカーに対する型費支払 ⑤熱処理メーカーに対する有償支給材料の早期支給 (4)その他 ①契約条件のあいまいさ ②その他

以下、各課題について、簡単に説明する。

(1)技術・コストの適正な評価が阻害される取引慣行 ①重量取引慣行 重量取引慣行は、特に鋳造業界で問題視されているほか、一部の鍛造・熱処理業界で

も見受けられる。

ここで重量取引慣行とは、単に重量をベースに取引されているという意味ではなく、

重量ベースの取引が技術・コストの適正な評価を阻害している現象を指す。例えば、鋳

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造業界で見られるのは、自動車軽量化等のユーザーの要請に対応するため、研究開発投

資を負担し材質転換など様々な技術開発を経て薄肉化・軽量化を実現した場合に、従来

品より単価が上昇してしかるべきところが、重量取引では従来品よりも値段が下がって

しまうケースである。また、鍛造業界では穴開け加工を付加した製品が重量ベースで単

価が下がるケースや、熱処理業界では、処理する材質の重さで単価が上下したり、軽量

品の方が厳格な品質管理を要し難加工でコストがかかるにも関わらず単価が安かった

りするケースが見られる。

こうした重量取引慣行は、素形材企業の収益を圧迫するのみならず、研究開発意欲を

削ぎ、ユーザーに対する不信感を募らせるという悪影響がある。

重量取引慣行への対応としては、素形材企業が工程を積み上げて適正なコスト計算を

行い、ユーザーに対してかかったコストを明示してユーザーの理解を得るとともに、a)

重量ベースの取引でも、製品の適正な評価が得られるようにする、b)重量取引を廃止し

て適正な評価が得られるようにする、という二つの方向性がある。平成 18 年 11 月に公

表された「素形材産業取引ガイドライン策定委員会報告書」では、「企業の研究開発の

成果を正当に評価し、研究開発意欲を阻害しない取引慣行を形成することが必要であり、

重量取引は一般的には行うべきではない」としている。

②量産終了後の型保管問題 量産終了後の型保管は、鋳造業界、型鍛造の鍛造業界、プレス業界、ダイカスト業界

で問題視されている。型は、鋳物業界では木型及び金型で、それ以外の業界では金型で

ある。量産時の型に係るコストは原則製品売価で回収できるが、量産終了後のコストは

発注が間遠になるため製品売価では回収できず、かといって別途保管料が支払われるこ

とはほとんどないため、素形材企業の負担となっている。保管期間が契約上定められて

いる場合もあるが、そうでないケースが多く、長い場合には 20 年超の保管例もある。

量産終了後の型保管コストとしては、外部倉庫賃借料や自社工場の生産スペースの圧

迫等、空間的なコストが共通してかかる。その他、場合によって火災保険料やメンテナ

ンス費用、外部倉庫から製造現場まで移動する運送費など、試算困難な様々なコストが

かかっている。更に、劣化して製造に耐えられなくなった型の作り直しが必要となった

場合、作り直し費用は業界によっては数千万円以上に上るが、これがユーザーから支払

われないケースもある。

型保管問題の対応としては、保管すべき型について、ユーザーと期間やコストについ

ての適切な取り決めを行うことが望ましい。また、事前の契約がないものや契約上の保

管期間を経過している型については、棚卸を行いユーザーに処分許可を要請することが

考えられる。型の処分許可要請は行っている素形材企業もあるが、保管料の支払につい

てはほとんど要請を行っていない模様である。

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③補給品の支給 補給品の支給負担は、量産終了後の型保管問題と同様に、鋳造業界、鍛造業界、プレ

ス業界、ダイカスト業界で問題視されている。補給品には支給期間と支給条件の二つの

問題があるが、支給期間は型保管問題の保管期間と関わりが深いため、ここでは支給条

件について述べる。

補給品は経常的な出荷ではないため、ラインの立ち上がり費用等で量産原価よりもコ

ストがかさむ傾向があるが、補給品対価は量産品対価の 1~1.2 倍が多く、素形材企業

は量産品よりも低採算、場合によっては原価割れで補給品を出荷している。

補給品支給については必ずしも書面で支給期間や支給条件等を取り決められておら

ず、もしも取り決めがあっても、それと関わりなく柔軟な対応を求められる例もある。

また、補給品の支給について予測できる情報がユーザーから提供されていないため、過

剰な在庫を抱えることにも繋がっている。

補給品支給については、型を使用する場合は型保管問題と合わせて、支給期間やコス

ト、品目や納期等に関し、実態に即した取り決めを行うことが望ましい。

④コストアップの製品価格への転嫁 昨今の著しい原材料価格高騰で、主要原材料費アップは製品価格への転嫁が認められ

る傾向が強まった。ただし、型費や燃料費、環境対応費用(鋳造業界における廃棄物処

理費用など)といったその他費用のコストアップについては、製品価格への転嫁がなか

なか認められにくい状態にある。こうしたコストアップに関しては、原価計算を行い売

価への影響を定量的に明示するデータを作成し、ユーザーに要請を行っていくことが望

まれる。

⑤その他 以上が主要な課題であるが、それ以外に次のような個別課題がある。

a) 短納期化等ユーザー事情による在庫増負担・配送費増 b) 設計変更の無料サービス c) 技術評価基準のデジタル化・単純化により、それに合致しない技術が単価に反映されない d) 経常的、もしくは理由のないコストダウン要請 e) 素形材企業に責任がない、もしくは責任判定できない不良品の補償費負担 f) 不必要に厳格な品質・精度の要請

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(2)知的財産の扱いに関わる取引慣行 ①知財・ノウハウ流出 知的財産の扱いは、図面や金型そのもの、つまり金型構造の流出等により金型業界で

問題視されてきた。これに対応して、平成 14 年 7 月に経済産業省から「金型図面や金

型加工データの意図せざる流出の防止に関する指針」が出されている。これは、ユーザ

ー及び金型メーカーを対象とした、金型図面等の取引や金型技術の管理保護に関する指

針である。

また、昨今では生産上のノウハウの面などから、熱処理業界を始めとしてその他の業

界でも問題視されてきている。

金型については、ユーザーが見積り時に複数の金型メーカーから金型構造図を集め、

最も安いメーカーへ発注するケースなどが見られるが、構造図作成は金型メーカーのノ

ウハウであり、知的財産の無料流出であると言える。また、金型 1号型を国内金型メー

カーに発注し開発させ、2 号型、3 号型を海外など安い金型メーカーへ転注する傾向も

見られる。

こうした知的財産の扱いに関する対応としては、金型業界団体で特許類似的な法的保

護の手当について検討が進められており、見積りの有料化も検討すべきと認識されてい

る。

(3)代金支払方法に関する取引慣行 ①手形取引 手形取引はわが国特有の金融システムであるが、取引先倒産による手形不渡発生リス

クや、支払と資金回収のタイムラグ長期化による資金逼迫、手形割引料負担等で、中小

企業に共通する問題である。

手形取引の改善方法としては、実際に不渡手形のために倒産リスクにさらされた企業

が実施した方法であるが、取引先に現金取引を要望することが挙げられる。

②受領及び検収 受領及び検収の関係では、分割納品の場合に全ての納品が終了しなければ検収があが

らず支払がなされないケースや、値決めが遅れるなどで検収がなされず支払が遅れるケ

ースが見られる。また、担当者の休暇などユーザーの事情により断りなく受領や検収が

遅れて、支払が遅れるケース等が問題視されている。

こうした問題の対応としては、事前の取り決めや交渉で、分割検収や仮価格による検

収の実施等が望まれる。

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③金型メーカーに対する金型代の支払 a) 支払条件 わが国では金型代は、一般的に金型の納品・検収時に現金又は手形により支払がなさ

れる。金型は短納期化が進んだとはいえ設計から完成まで時間がかかり、納品・検収時

支払では、その間の材料費、人件費、金利等の負担が生じ、こうした資金負担が金型の

コストアップにも繋がっている。

これに対して、海外では分割支払が一般的である。「契約調印時 30%、最終設計承認

時 30%、顧客の買取時(つまり納品時)に 30%、顧客工場での承認時(つまり検収完

了時)に 10%」などのように、金型メーカーに金型製造にかかる資金的負担を負わせ

ないようなスケジュールでユーザーから支払がなされている。

金型決済条件の改善策としては、ユーザーに個別に要請することが望まれる。

b) 金型の検収 金型は設計した型の成形後の微調整にノウハウが必要であり、完成したかどうかの客

観的な判断基準が明確ではなく、技術的な判断が難しいため、検収が長引く傾向がある。

検収が長引くと支払いが遅れ、金型メーカーの資金繰り悪化要因となるが、検収基準が

わかりずらいこともあり、ユーザーが支払を引き伸ばしたいため OK を出さないのでは

ないかとの疑念が生じる例がある。

検収の基準を明確化することが望まれるが、それが困難であれば、前項の金型の支払

条件について、納品・検収時 100%から分割支払いなどに変更することで、検収が長引

くことによる資金負担増の緩和にも繋がる。

④型使用メーカーに対する型費支払 型使用メーカーに対する型費の支払条件は、製品単価に上乗せされるか、量産開始時

に一括で支払われることが多い。

製品単価に型費を上乗せする支払形態は、型費の投資資金負担を素形材企業に負わせ

ている点で問題である。特に、型費が高額である場合や素形材企業に資金的余裕が乏し

い場合は、資金的な負担が大きい。更に、製品単価に上乗せされる方式で、実際の生産

数量が当初量産予定数量に満たず型費の投資回収ができなかった場合、不足型費が支払

われないケースがある。予定数量に達しなかった原因はユーザーにあるにもかかわらず、

型使用メーカーにその損失を負わせるのは不合理である。

平成18年11月に公表された「素形材産業取引ガイドライン策定委員会報告書」では、

「型等の当該製品の生産のためだけに製造・購入されるような設備等にかかる費用に関

しては、製品単価に上乗せする支払形態ではなく、当該設備等にかかる費用を別途全額

支払うようにすることが望ましい」としている。

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⑤熱処理メーカーに対する有償支給材料の早期支給 熱処理業界では、熱処理加工対象物(材料)について、有償で決済される場合と無償

で支給される場合がある。有償支給される場合に、材料が必要以上に早期支給されると、

材料に対する支払いが早まり、熱処理メーカーに資金負担が生じる点が熱処理業界とし

て問題視されている。

この対応としては、ユーザーと交渉して、毎月何日までに支給された材料は当月相殺

するが、それ以降は翌月相殺する、などの事前の取り決めが望まれる。この場合に、支

給材料はもともと小型で大量部品が多く熱処理メーカーにとって受入数量管理が困難

であるが、支給するユーザー任せにせず数量管理を行うことが必要と考えられる。

(4)その他 以上、素形材産業ビジョンで類型化された課題について述べたが、それ以外の個別課

題について「その他」としてまとめる。

①契約条件のあいまいさ これは、上記の取引慣行上の課題の原因となっていることもあるが、それ以外にも、

発注書に数量等取引条件が一部空欄のまま取引が開始され、受け渡し時や決済時に齟齬

が生じるケースなどがある。また、見積りで提示された数量よりも実際の発注数量が少

なく、ボリュームディスカウントされた価格で取引されるケースもある。

2.課題発生の要因

こうした取引慣行をめぐる課題の発生にはさまざまな要因が考えられるが、素形材業

界に共通する主要な要因としては、以下が想定される。

(1)ユーザーの要因 ①ユーザーとの力関係 ユーザーとの力関係は、取引慣行をめぐる課題発生の主要因である。例えば、ユーザ

ーから素形材企業にとってデメリットがあるような条件の取引を要請され、素形材企業

が断った場合には、ユーザーから取引を打ち切って他へ発注すると示唆されたり、実際

に転注がなされたりする。特に 1ユーザーの転注が倒産につながりかねない小規模の素

形材企業にとっては、取引慣行の改善要求はほぼ不可能であると言ってよい。

こうした状況が生じる背景としては、1対多数の取引であること、つまり、ユーザー

にとって素形材企業が発注先として代替性があることが挙げられる。もっとも、営利目

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的の追求が企業使命である以上、ユーザーが、より付加価値が高く適正な価格の製品を

供与し得る取引先を選別するのは当然のことである。この点から、どこからどこまでが

ユーザーの自由裁量の範囲内で、ユーザーが力関係で押し付けた取引には当たらないか

の判断が困難な場合もある。

ただし、前述した取引慣行をめぐる課題が存在する状況は、概ね合理性が低く、素形

材企業に不利益を与えている状態であると言える。

(2)素形材企業の要因 ①阿吽の呼吸による不明確な取引慣習の継続 旧来日本的な「阿吽の呼吸」から、取引開始時点で条件を確定しなかったり、条件を

書面化しなかったりといった、不明確な取引慣習を継続している状況が見られる。外部

環境がますます厳しくなっている昨今、口約束や書面化されていない長年の慣習に基づ

く取引条件では、将来的に何らかの不利益を被るリスクを回避することができない。こ

うした不明確な取引慣習については、新規の顧客や新規取引の場合には新たに条件の明

確化を要請しやすいが、古くからの顧客や従来から継続している取引に関しては、意識

的に変更を要請することが必要である。

②不十分な社内管理体制 自社のコストを正確に把握できず、ユーザーに詳細な見積内訳の提示がなされていな

いケースがある。市場環境が厳しくなっている状況下でユーザーに適正な対価を要求す

るには、原価計算は必須であると言える。

③取引慣行であるという意識 不合理と認識しているにもかかわらず、取引慣行であるという意識から、素形材企業

が改善・変更要請を全く行っていないケースがある。個々の企業事情の違いはあるにせ

よ、ユーザーに要請し改善されたという実例があれば、その数が増えることで慣行を変

えることにつながる可能性がある。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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第 3 章 ベストプラクティスとは

第 1 節 ベストプラクティスの定義、基準

本調査において「ベストプラクティス」は、素形材ビジョンで指摘されたような「取

引慣行をめぐる課題」が存在しない状態を意味し、それを成し遂げるための前提条件や

方策、過程に特にスポットを当てる。

ベストプラクティスの基準は、以下の 6つを想定している。

1.技術・技能が適正に評価される

2.コストが適正に反映される

3.量産後の型保管や追加発注等のケースについて対応が適正である

4.知的財産の扱いが適正である

5.支払い条件が適正である

6.法令(独禁法、改正下請法等)が遵守されている

本調査では「ベストプラクティス」の浸透に資するため、この 6つの基準を満たす取

引の実例をまとめ、類型化して、改善すべき取引慣行が存在しない状態が成立している

条件を抽出する。

また、上記ベストプラクティスは、本来あるべき取引がある状態にあることを指して

いるが、これ以外に、単に課題が存在しないのではなく、「我が国素形材企業が更に競

争力を強化することができるような付加価値があると認められる取引(以下目標事例)」

も参考事例として収集するものとする。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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第 2 節 ベストプラクティスの分類

ベストプラクティスの分類としては、1.取引慣行をめぐる課題別の分類、2.ベスト

プラクティスの状況ごとの分類((1)一般的には課題が存在しているが、当初から課題

が生じていなかった、または問題視されていないケース、(2)存在していた課題を改善

したケース、(3)その他のケース)、3.ベストプラクティスの存立要因ごとの分類((1)

素形材企業の要因、(2)ユーザー企業の要因、(4)公的支援の要因、④その他外部要因)

が挙げられる。本報告書では、利用者により理解しやすいよう、「1.取引慣行をめぐる

課題別の分類」をベースとする。

第 3 節 ベストプラクティスの収集・分析手順

ベストプラクティスの収集・分析は、図 1-1 の手順で行った。

「マイナスがない 0の状態」は、取引慣行上の課題がない状態や、過去存在していた

取引慣行上の課題が解決された状態を意味する。更に、現在課題があると認識してその

解消に努めているケースや、素形材企業の努力により課題から派生する不利益を回避し

た、もしくは減少させたケースも、補足事例として収集した。

また、「プラスの状態」は、単に課題がない、マイナスがないという状態ではなく、

我が国素形材企業が更に競争力を強化することができるような付加価値があると認め

られる状態である。

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素形材取引ベストプラクティス調査

14

【マイナスがない0の状態】

・課題があったが改善された

例、他で発生した課題が生じ

ていない例、課題はあるが代

替手段等で回避した例、補足

事例(改善努力中の例、マイ

ナスが減少した例)、など

【プラスの状態】

・目指すべき目標事例、

付加価値がある事例

事例収集

・ベストプラクティス事例収集

2 事例分類

・ユーザーと素形材企業の分類

・素形材企業事例の課題別分類

【ユーザーの事例】

(サンプルが少ないため、プラ

ス・マイナス区分及び課題別

分類なし)

【素形材企業の事例】

・マイナスがない0の状態

⇒課題別分類

・プラスの状態

3 分析

・ベストプラクティス事例の

発生要因抽出

【ユーザーの要因】

【素形材企業の要因】

【外部環境要因】

※要因は複合的であるため、事例分類にかかわらず共通的に抽出

【マイナスがない0の状態】

・課題があったが改善された

例、他で発生した課題が生じ

ていない例、課題はあるが代

替手段等で回避した例、補足

事例(改善努力中の例、マイ

ナスが減少した例)、など

【プラスの状態】

・目指すべき目標事例、

付加価値がある事例

事例収集

・ベストプラクティス事例収集

【マイナスがない0の状態】

・課題があったが改善された

例、他で発生した課題が生じ

ていない例、課題はあるが代

替手段等で回避した例、補足

事例(改善努力中の例、マイ

ナスが減少した例)、など

【プラスの状態】

・目指すべき目標事例、

付加価値がある事例

事例収集

・ベストプラクティス事例収集

2 事例分類

・ユーザーと素形材企業の分類

・素形材企業事例の課題別分類

【ユーザーの事例】

(サンプルが少ないため、プラ

ス・マイナス区分及び課題別

分類なし)

【素形材企業の事例】

・マイナスがない0の状態

⇒課題別分類

・プラスの状態

2 事例分類

・ユーザーと素形材企業の分類

・素形材企業事例の課題別分類

【ユーザーの事例】

(サンプルが少ないため、プラ

ス・マイナス区分及び課題別

分類なし)

【素形材企業の事例】

・マイナスがない0の状態

⇒課題別分類

・プラスの状態

【素形材企業の事例】

・マイナスがない0の状態

⇒課題別分類

・プラスの状態

3 分析

・ベストプラクティス事例の

発生要因抽出

【ユーザーの要因】

【素形材企業の要因】

【外部環境要因】

※要因は複合的であるため、事例分類にかかわらず共通的に抽出

3 分析

・ベストプラクティス事例の

発生要因抽出

【ユーザーの要因】

【素形材企業の要因】

【外部環境要因】

【ユーザーの要因】

【素形材企業の要因】

【外部環境要因】

※要因は複合的であるため、事例分類にかかわらず共通的に抽出

図表 1-1 ベストプラクティスの収集・分析手順

第 4 節 ベストプラクティスに対する考え方

以下、ベストプラクティス事例を、既存文献・調査からの事例、本調査を通じて収集

したユーザー事例、本調査を通じて収集した素形材企業の事例に分けてまとめる。

なお、本調査は、平成 18 年 3 月に実施された素形材取引慣行調査を踏まえて、改善

すべき取引慣行の事例収集は為されたことを前提に実施された。しかし、ご協力いただ

いた素形材企業からは、ベストプラクティス事例のみならず、改善すべき取引慣行につ

いての意見が多く収集された(第 7章第 2節「議事・ヒアリング概要」第 8章第 2節「ア

ンケートの回答結果」参照)。注目すべきベストプラクティスがあるのは、ごくわずか

な優良企業で、一般的な企業は取引慣行に苦しんでいる、という声も多かった。本調査

において、委員会に参加もしくはヒアリングを実施した企業は、素形材企業の中でも比

較的良好な状況にある企業群であることからしても、取引慣行上の課題の改善は進みつ

つはあるものの、いまだ途上にあり、取引慣行上の課題に苦しめられている素形材企業

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素形材取引ベストプラクティス調査

15

がまだまだ多く存在しているのが実態である。

よって、以下のベストプラクティスは、現状が全体的に改善していることを意味する

ものではない。ましてや、「素形材企業は取引慣行に苦しめられていないので、今後な

にも改善努力をする必要はない」「改善されていないのはごく一部の企業である」など

といったことを示すものでは全くない。限られた企業ではベストプラクティスも見られ

ること、こうしたベストプラクティスはどういった状況下で発生しているかを示し、今

後素形材産業の取引慣行が改善していくための参考材料となるべきものと認識してい

る。

また、個々の企業により状況は異なるので、全ての企業について以下のベストプラク

ティスの改善方法・実現方法がそのまま当てはまるわけではもちろんないが、一般化で

きる要因も一部あり、共通する考え方も見られたので、それらは事例紹介ののち、第 5

章にてまとめるものとする。

第 5 節 ベストプラクティスの事例(既存報告書より)

本調査の実施前に、既存調査報告書等から判明しているベストプラクティス事例には、

以下のようなものがある。

なお、業種が明示されていないものは、個別業種に限らない共通的な事例、もしくは

業種が不明の事例である。

1.取引慣行が改善された例

(1)技術・技能が適正に評価される ①重量取引慣行について ・ 重量取引から時間当たり取引に変更した(熱処理)。

・ 一部、重量取引でも軽量化コストの上乗せが承認された(鋳造)。

・ 重量取引については、値段がわかりやすいという面もあるが、軽量化した手間がか

かるものが安く計算されてしまう。この点は、素形材企業がユーザーに対して要求

して一部認められるようになってきた。ただ、やはり基本的には重さベースである

(鋳造)。

②その他 a) 不必要に厳格な品質・精度の要請について ・ 不必要な品質基準の改定を行った。素形材企業の要請により、耐熱範囲が指定され

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素形材取引ベストプラクティス調査

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ていたものについて、上限温度基準を撤廃した(熱処理)。

・ 過度の品質基準の改定がなされた。従来はわずかなひずみでも認められなかったが、

5%以内のひずみは OKと変更された(熱処理)。

(2)コストが適正に反映される ①コストアップの製品価格への転嫁について ・ 昨今の原材料費高騰時に、従来製品価格へ転嫁が認められていなかった熱源(コー

クス)が、自動車トップメーカーの方針転換を契機に、自動車業界全体としてスラ

イド制への移行が認められた例がある。このように、トップユーザーメーカーの方

針が業界慣習の改善に大きな影響力を持っている。

・ 原材料価格高騰の製品価格への転嫁が承認された。

・ 原材料価格の高騰は大体価格に反映され、大手企業ではほぼ転嫁したが、反映され

るまでに半年程度のタイムラグがあった。タイムラグ分は自社で負担した(プレス)。

・ 昨年は鉄関係の材料価格が高騰した。何度か値上げ要請を行い、1回目は OK が出た

が、2 回目は上げてほしい、と要請するだけでは承認されず、原価明細の提出を要

請された。時間のカウントなども行い、キログラムベースの単価の値上げを要請し、

話し合いの結果だいぶ改善されてきた。取引の改善には、1に努力、2に努力しかな

いと思っている。要請が認められるかどうかは、必ずしも取引上の力関係だけでは

ない。収益性のいい仕事とのトレードなど抱き合わせで要請される部分は仕方がな

い、などといった事情はあるものの、基本的には、値上げを断られたら受注を断ろ

うという姿勢で要請した(鋳造)。

(3)量産後の型保管や追加発注等のケースについて対応が適正である ・ 型保管について少しずつ改善している。ある年数を経過したものは、部品メーカー

から要請が出れば検討の上、廃棄またはある程度打って廃棄することができるケー

スが見られる(鍛造)。

(4)支払い条件が適正である ①手形取引について ・ 自動車業界では、一次メーカーの支払は手形から現金支払化が進んでいる。ただし、

二次・三次メーカーまでは必ずしも浸透していない。

・ 業界全体として、手形での支払いが多いのがネックだった。ここのところの好況で、

値上げ同時に現金比率のアップの点で、若干改善された(鋳造)。

・ 手形決済制度は大変な問題である。大手との問題もあるが、同業の間でも、特に現

在進んでいる他地域との連携などにおいて問題化すると思う。自社の支払は銀行に

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素形材取引ベストプラクティス調査

17

相談して現金化した。支払先にメリットがあり、自社も信用上メリットがあり、多

少はコストダウンを支払先に要求できる。また、手形は資金リスクでもあり、精神

的負担も軽減された。受取手形も交渉により 30%まで減らした。

・ 取引開始時点で、条件に関する交渉をマメに行わなければならないと思う。過去に

多額の不渡り手形が発生して経営危機に瀕した経験から、取引開始時点に事情を説

明の上現金決済を強く要請している。

2.取引慣行から蒙るコストを抑えた、もしくは回避できた例、及び改善策を

実施中の例

(1)技術・技能が適正に評価される ①重量取引慣行について ・ 重量価格の問い合わせを拒否している(熱処理)。

・ 重量取引慣行の部分的な緩和として、ユーザーによっては、部品ジャンルごとにキ

ログラムベースの相場表を作成し、それに基づいて価格交渉するケースがある(鋳

造)。

(2)コストが適正に反映される ①コストアップの製品価格への転嫁について ・ 付加価値のウェイトが高い製品メーカーに比べてダイカスト、鋳物、プレスなどは

材料費比率が高いので材料高騰時には製品価格転嫁を主張していかねば成り立たな

い業界である。

・ 自動車関連は原燃料価格アップの製品価格転嫁は、主材料についてスライド制とな

っているが、スライドの時期が遅くタイムラグが長い。契約というほどしっかりし

たものではなく慣行であり、カーメーカーの慣行を部品メーカーに広げたという経

緯がある(鋳造)。

・ 昨年は原材料が異常に高騰したが、製品価格に転嫁を認めてもらったところもある

が、まだOKをもらっていないところもある。自動車関係は、ラグはずいぶんあっ

たが上げてもらった。自動車関連では半期半期コストダウンの要請がある。転嫁と

バーターにしたいのだが、認められないケースが多い(鍛造)。

②その他 a) 短納期化等ユーザー事情による在庫増負担・配送費増について

・ 短納期の防止のため、注文情報(注文書)の受け渡しスピード化を行っている(鍛

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素形材取引ベストプラクティス調査

18

造)。

b) その他 ・ 見積時からの発注個数やロットが異なっていたり、休日出勤での対応が必要だった

りする場合には、別途追加料金を受領する(熱処理)。

・ 自動車メーカーは特に世界競争のため、コストダウン要請が厳しい。コストダウン、

VA、VE、技術開発を社内で行っているが、価格引下げに吸収されてしまう。コスト

ダウン要請の中で、技術開発を行いながら付加価値を維持し、それをどのように認

めてもらうかが課題である(鍛造)。

(3)量産後の型保管や追加発注等のケースについて対応が適正である ・ 量産終了後、かつ保管型廃棄後の補給品発注に対して、安価な材料で型を新たに製

作して対応した(鋳造)。

・ 量産終了後の補給品対応について、小さい金型ならば廃棄して補給品発注が生じた

ときに金型から製作してその分単価上乗せで売ることもできるが、大きい物ではそ

れができないため、いくつか補給品として製造して在庫として抱え、金型の破棄を

行った(鍛造)。

・ 型保管について、当初の契約で確認項目を設定していた(金型の所有権をユーザー

であると明示していた)ことで、スムーズに問題が解決され保管料を獲得できた(プ

レス)。

・ 型廃棄費用を顧客と分担することになった(鋳造)。

・ 木型廃棄には 4トン車当たり 5万円など費用がかかるが、コスト負担割合は顧客と

の交渉の上、折半するなどと決まる(鋳造)。

・ 金型保管については、後付で付加された追加契約となっている。それまでは慣行で

お互いが納得するまで保管していた。少しずつ改善はされている。現在はある年数

を経過したものは、部品メーカーから要請が出れば検討の上、廃棄またはある程度

打って廃棄などの対応も見られる。

・ 旧型については、旧型だけ集めて生産することができるか、2 年前から検討してい

るが、今のコストだと実現困難である。価格の決定も、量産単価ではない決め方で

量産単価よりは高く設定されているが、それでは部品メーカーにとって全く採算が

合わない。トップメーカーではそうした集約化の動きが見られる。

・ 補給品の値段は、現在は少し改善されたが、従来は量産品価格と同じだった。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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(4)支払い条件が適正である ①検収について ・ 検収遅延防止のため、分納伝票の返却を廃止している(鍛造)。

②熱処理メーカーに対する有償支給材料の早期支給 ・ カンバンシステム上在庫は数日分しかないはずだが、補給品、長期滞留品は大量に

ある。年に1回出荷する品物の在庫も大量にあり、これらは有償支給材扱いである。

例えば 2ヶ月大口流動が止まったら一旦精算できないか、という要望を出している。

3.取引慣行をめぐる課題が当初から生じていなかった、又は問題視されて

いない事例

(1)コストが適正に反映される ・ 海外価格を押し付けられることはなく、国内値段で受注している。海外進出を要請

される企業の中には、売上規模に比較して投資額が巨額にのぼる場合があるが、対

応せざるを得ない(プレス)。

(2)量産後の型保管や追加発注等のケースについて対応が適正である ・ 開発・量産・サービス品で、価格の設定は分かれており、出荷パーツも、何年まで

は量産の何倍、それ以降は何倍、と決まっている(鋳造)。

4.付加価値があると認められる取引事例(目標事例)

(1)VE・VA 等素形材企業の改善提案に対するユーザーの評価 ①利益還元 ・ ユーザーがVE提案によるコストダウンを素形材企業に還元している、または報奨

している。

・ 得意先との共同 VE 提案活動による成果(コストダウン額)は、期限を切って、約 3

~5割の利益還元が行われている(鋳造)。

・ 初年度 100%還元、次年度 90%還元、3年度以降 70%還元のメーカーもある(金型)。

・ VA、VE 提案は 3~5割利益還元される(プレス)。

・ 事務機等を生産しているユーザーで、外注先からの材料や加工方法等の変更による

VE 提案を随時受け付けており、それぞれの提案について関係部門で検討を行い、実

現した場合には、そのコストダウン分の半額を外注先に還元している。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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②報償・奨励金 ・ 計測機器等を生産しているユーザーでは、従業員の提案制度に関する社内規定を基

準とし、外注・下請先にも適用した提案制度を設けている。同制度は、品質とコス

トダウンに関することを対象として、それぞれの提案について 1級から 5級で評価

し、奨励金を支払うものである。

・ 一部得意先に報償制度がある(プレス)。

③発注量拡大、優先発注、取引関係強化 ・ ユーザーにより、提案成功評価として受注拡大、もしくは優先発注が行われる(プ

レス)。

・ 製鉄機械等を生産しているユーザーで、優れた VA・VE 提案を提出してもらった取引

先に対して優先的に発注する優先発注権設定制度を設けている。この制度は、「VA

推進要領」の中で規定しているもので、社外から調達している資材品全てを対象と

して、取引を希望する企業からの提案を受け付け、採用となった場合には優先的に

発注する仕組みとなっている。

・ 設計段階で部品図面形状等に提案すれば、得意先の設計者から調達部門に通知され

調達部門が提案を認識し対応する(プレス)。

④その他 ・ 開発段階から参加し、自社の生産工程が不必要に複雑化しすぎないような提案を行

う。

・ 新しい工法開発、工程開発の VE などは、カーメーカーはある程度認めてくれる(鍛

造)。

(2)その他 ・ 小さいメーカーで、自分で仕事をとってくるのではなく、共同受注して得意な分野

をまわしあうというように、得意分野を有し技術がある企業が、二次下請的な動き

をして頑張っている例がある。ただし、その代わり社内で営業部門がなくなった、などと

聞いている(鍛造)。

・ 組織的に営業を行い、相互に仕事のやりとりをしている。当社が組んで手掛けてい

る分野は 5 分野で、2 社で図面と型を共有しており、どちらでも納品できる体制を

作っている。連携相手先の選択基準は、エリア棲み分けよりも相手の人間性である。

共同受注に近づきつつあり、枠のサイズも情報共有している(鋳造)。

・ 早く大量に打てるプレス機械が必ずしも万能ではなく、発注量によって、自社の技

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素形材取引ベストプラクティス調査

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術と機械で、ある量が最も安いコストでできる、非常に得意、という企業がある。

会社の特徴と技術の絞込みによって、技術の伝承などがうまくやっていけるのでは

ないかと思う。こうした地域の同業他社や素形材企業との仲間との付き合いは重要だと

思う。ある自動車メーカーでは、素形材をベースに技術集約して、新しい部品を作った例

などがあると聞いたが、そうした動きで仲間同士の連携で、強い生産技術で存続できるの

ではないかと思う(鍛造)。

・ 川上から川下まで連携して、最適生産が可能な工程の検討を行う。

・ (見積査定・価格評価基準等の開示)理科学機器等を生産しているユーザーで、難

易度の高い部品については工程図を作成し、これをもとに下請取引先用見積書の中

に、工程を示す記号や基礎工数を記入し、取引先に加工工程と工数(スタンダード

ルーチン情報)を伝えている。これによって、取引先は受注製品がどのような機械

を使って、どのような工程で、どのくらい時間をかけて作られるかを知ることがで

きるようになり、この工数を目安にして、見積金額を算出できるようになった。

・ (協定価格方式)電機機器等を製造しているユーザーで、購入部品の価格を外注・

下請企業との協議によって設定する価格査定方式の協定化という形を採っている。

これは、同社と外注・下請企業が各部品の工程・加工方法などを共に確認し、その

作業を通じてコストテーブルを作成する。そして、このコストテーブルをベースに

双方の共通理解を導き、両者合意の協定価格を設定していくというものである。

・ (公開入札方式)ユーザーである総合電機メーカーでは、EC(電子商取引)調達シ

ステムによる公開入札制度を導入している。このシステムは、誰でもアクセス可能

な Web サーバ上に入札の公開情報を掲示し、応札希望の取引先に対して、詳細情報

へのアクセス ID・パスワード等を発行し、見積技術情報を参照してもらった上で、

Web 上で応札してもらうというものである。

・ (材料価格変動への対応)油圧機器等を生産しているユーザーでは、取引先での材

料費のコストアップ要因を軽減することを狙いとして、同社が取引している材料メ

ーカーと単価を決定した上で外注・下請先に販売するように材料価格を管理する「管

理購買方式」を導入している。これは、小規模な外注・下請企業では、必要な材料

を商社等を経由して購入する場合、量が少ないことからどうしても単価的に割高と

なるため、発注時に外注・下請先での材料調達コストを聞いた上で、自社調達する

よりも管理購買方式が適切と判断したものについて適用している。

・ (生産量変動への対応)熱交換器等を製造しているユーザーでは、発注品目の単価

の見直しを月単位で実施している。これは、短期の受注変動によって、外注・下請

企業への発注量が大きく変動するため、短いスパンでの単価の見直しを日常的に実

施していくというものである。

・ (仕様変更への対応)発電機等を生産しているユーザーでは、設計変更に伴う見積

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素形材取引ベストプラクティス調査

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書を下請け業者から出してもらい、新しい値段を決める「フィードバック機能」を

組織として持つことにした。この取り組みによって、技術部、購買部、外注先の三

者が一体となり、開発から値決めまで関わることで、効率性が向上し、コストダウ

ンにつながった。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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第 4 章 ベストプラクティス事例

第 1 節 ユーザー企業のベストプラクティス事例

本調査を通じて収集したベストプラクティス事例を、以下、ユーザー企業の事例と素

形材企業に分けてまとめる。

1.ユーザーが主体的に取引慣行の改善を勧めている例(事例 A-11;電

子・電気業界)

(1)内容 ①手段 ・年 2回、素形材企業 30 社の有力協力会社と意見交換会を開催

・素形材産業協力会社に対して、取引に関する改善提案を募集

②目的(メリット) 新製品開発期間短縮及び設計検証強化

③運営体制 運用は、ユーザー企業の各部門の社内メンバーで行われている。

④効果 a) 目的の達成について 改善効果は徐々に出てきているとのことである。開始当初から、すぐに効果が目に見

えるものではなかった。

b) 取引慣行の改善効果 ア) 金型発注の遅れによる機会ロス

ユーザー企業から金型の発注予告があり、金型メーカーで金型の枠取りをしていたに

もかかわらず、発注が遅れ機会損失が生じていることについて指摘を受けた。これにつ

いて、金型発注に関する全社的な情報を集約しスケジュール化し、極力金型メーカーへ

の機械損失を避けるよう対応した。

1 事例番号は、Aがユーザー企業の事例、Bが素形材企業の事例を示すものとする。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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イ) 発注書の遅れ

口頭での発注や、発注書の発行遅れが指摘された。原因を追究すると、ユーザー企業

の社内承認に日数が必要であるために遅れが生じていたことが判明した。これについて

は、内示書を発注決定権限者ではなくその下の課長名で出すことで対応した。原則、こ

うした内示書に基づき発注するが、もしも発注決定権限者が承認せず、実際の発注がな

されなかった場合には、それまでの代金は支払うこととしている。

ウ) 金型検収の遅れ

協力会社から金型検収の遅れが指摘された。これに対して、あらかじめ検査項目を決

定してそれをチェックする方式とすること、及び、金型検収終了の条件である量産開始

のために必要な 3 つの書類(検査基準書、QC 工程表、梱包指示書)を本社側で準備す

ること(工場側に準備を任せたことが遅れの一要因だったため)を行った。

⑤運営上の工夫 a) 改善提案の記載面

・ 素形材企業に、極力 5W1Hを明確にするとともに、現象、原因、対策案などを具体

的に記入してもらう。

・ 1 つの課題に対して 1つずつ回答ができるよう、1つの文章では 1つの課題のみ指摘

するよう依頼している。

・ ユーザー企業から提示している改善提案のフォーマットに良好な取引関係の構築が

目的であること、ただし、担当同士では改善が進まず、協力会社からむやみに改善

要請しても担当者同士の関係が悪化するリスクがあるので、こうした取引に関する

改善活動を行っていることを、明文で記載している。

・ 改善提案のフォーマットには、協力会社が記入しやすいよう、かなり厳しい指摘を

している具体例を例示している。その効果か、実際にかなり厳しい意見も記入され

ている。

b) 運営主体内部

・ 当初は一つの課限定で開始し、その様子を見てしばらくしてから全社展開された。

当初から全社展開が計画されていたが、一挙に展開して余計な反発が生じるのを回

避するためである。

・ 改善内容は、ユーザー企業内及び協力会社で誰でも見ることができるよう、回答企

業を匿名として分析し、アウトプットとして提示している。

・ インプットがあれば、必ずアウトプットを提供することが重要との認識のもと、1

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素形材取引ベストプラクティス調査

25

つの課題についてそれぞれ対処する担当者を決め、担当者名を明記している。

・ 改善提案された場合にはメールで返信して対応が終わるのではなく、ユーザー企業

の社内メンバーが素形材企業を訪問し、説明・協議している。

・ 開始から一定期間が経過したため、素形材企業に対してこの取り組みの運用に関す

るアンケートを実施した。各項目について改善されたかどうかを 5 段階評価しても

らい、各項目の改善度合いを数値化し、その要因を分析している。

(2)コメント この活動の契機は、発起担当者が他部門から購買部門に異動し、納期短縮及びコスト

改善のためのプロジェクトに着手する中で、「問題点がわからなかった」ために開始さ

れたことである。「わからないこと」を可視化(オープン化)し、悪い部分は「悪い」

と認識し、ユーザー企業自らが「修正する」ことが重要であるとの認識がある。発起人

の担当者から、入社時に購買部門に配属されていたらこうした取り組みを実施していな

いかもしれない、とのコメントを得た。

2.ユーザーグループとしての取引慣行改善への取り組み(事例 A-2;自動

車業界)

(1)内容 量産終了後金型とその補給品について、ユーザー取引先グループとして改善に取り組

んでいる。本来は補給品の供給義務期限は 10 年で、10年経てば旧型は処分できるはず

であるが、全国ディーラーや CKD(海外における現地組立車)との関係もあり、10年以

降も発注が続いており、協力企業各社、特にプレスメーカーは大変な負担となっていた。

ユーザーもこの問題について認識しており、2 年前からルールの明確化を図ってきた。

打ち切るものは打ち切るという方針で、数社をモデルとして、2~3 年たって発注がな

いものは話し合いながら打ち切ることにした。この際、ユーザーとプレスメーカーだけ

でなく、ディーラーも巻き込んで話し合いをしている。この方法である程度メドがつい

てきたので、来年度には全プレスメーカーに適用していく予定である。

(2)コメント ユーザーがグループとして、ディーラーを巻き込んで改善を進めている点に特徴があ

る。補給品を必要とするのは最終消費者であり、自動車販売ルート上最終消費者との接

点であるディーラーを抜きにして補給品支給をルール化しても、有名無実化する可能性

がある。改善施策の実効性を高めるためにディーラーを巻き込んでいるが、これは、ユ

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素形材取引ベストプラクティス調査

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ーザーが音頭を取らなければ実現が困難であったと考えられる。

3. ユーザーが素形材企業に対して適正な見積りの再提示を求めた事例

(事例 A-3;自動車業界)

(1)内容 新規で取引を開始する際に、ユーザーの購買部門から、素形材企業がコスト割れの単

価で見積りしているだろうから、赤字が出ないよう実態に即して見積りを提示し直すよ

うに、という指摘が為された。もちろん、もともとユーザーが購買している価格よりは

低い価格でなければ転注は認められなかったが、ユーザーの要請により見積りを再提示

して、当初見積りよりも素形材企業の原価に近い値段で受注することができた。

(2)コメント 一般的にユーザーのコストダウン要請に苦しむ素形材企業が多い中で、ユーザーが逆

の動きを見せた例である。これは、ユーザーが当該地域で協力企業を育成しようという

姿勢があることと、継続的な取引ができるよう、協力企業に適正な利益を確保できるよ

うにするという配慮があったためのようである。

4. ユーザーが素形材企業に対して適正な見積りの再提示を求めた事例

(事例 A-4;自動車業界)

あるユーザーからは、見積りについて、最終金額の高い安いについて云々するのでは

なく、見積り根拠を詳細に確認される。

あるユーザーの鍛造と機械加工を手がけるにあったって、機械加工の見積りを提出し

たところ、そのユーザーから「この見積りは低すぎて適正ではない」という指摘を受け、

高い見積りで出し直したケースがある。もともとユーザーが自社内で加工していた機械

を購入したので、その機械のメンテナンス費用をユーザーが高く見積もったことと、自

社内の加工費と比較して安かったことが、そうした指摘につながったものと思われる。

その後工程改善を行ったが、その効果は全て同社に帰属することが認められた。ユーザ

ーからは高い評価を得たが、効果の還元は要請されなかった。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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5.ユーザーから原燃料価格の上乗せ容認通知があった事例(事例 A-5;

自動車業界)

(1)内容 キログラム当たりの材料費アップ分としてこの金額は製品の見積単価に上乗せして

もよい、という連絡が、素形材企業が要請する前にユーザーから来るケースがある。

(2)コメント 原材料価格アップの製品価格への転嫁は、スライド方式を採用している場合などを除

き、素形材企業の要請により初めて認められるケースが一般的で、一部原燃料について

は認められないケースもある。そうした中で、ユーザーから転嫁容認の通知が来た事例

である。これも、ユーザーが継続的な取引を行えるよう、素形材企業の収益に配慮した

ためと考えられる。

6.後付価格を防止するためにシステム対応した事例(事例 A-6;自動車

業界)

(1)内容 後付価格の防止のために、ユーザー企業において、価格変更を過去に遡って入力する

とエラーが出るシステムに変更し、翌月以降の価格しか入力できないような対応が実施

された。

(2)コメント 予防的な措置がシステム上施された事例である。

7.災害発生時におけるユーザーの臨機応変な対応(事例 A-7;自動車業

界)

(1)内容 ユーザーで災害のためラインが止まった際に、協力企業からの納品も止まったにもか

かわらず、協力企業に対しては、ユーザーから確認の上要請があれば、計画通り納品し

たものとして通常通り支払いがなされた。こうした対応により、素形材企業としても、

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素形材取引ベストプラクティス調査

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自社が取引している仕入先に対して同様の対応が可能だった。

なお、これは突発的な事例で、今後もそうした対応がなされるようルール化されてい

るわけではない。

(2)コメント 突発的な事態が発生した際に、ユーザーが素形材企業の資金面に配慮し、支払い条件

を一時的に緩和した例である。ユーザーの配慮から素形材企業の仕入先に対しても同様

の動きが見られた。こうした対応が為された背景には、ユーザーが緩やかながら系列的

取引を維持していることがあると考えられる。

8.巡回集荷への切り替え(事例 A-8;自動車業界、建設機械業界)

(1)内容 ユーザーからの納品回数の頻度アップ要請で素形材企業にとって運送費が負担にな

った際に、ユーザーがミルクラン(巡回集荷)に切り替え、輸送を負担するように切り

替えた。

(2)コメント ユーザーも物流効率化によるメリットが得られ、素形材企業も輸送費アップによる損

益圧迫がなくなった。通常受注単価に運賃は含まれ、支払運賃が上昇しても、期中はユ

ーザーに要請しても単価引き上げは認められないためである。ユーザーが効率的かつメ

リットのある仕組みを考案した例である。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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第 2 節 素形材企業のベストプラクティス事例

素形材企業の事例について、事例番号ごとに取引慣行の課題別に整理を行うと、図表

1-2 の通りである。

図表 1-2 素形材企業の事例分類

取引慣行上の課題による分類 事例番号

1.技術・技能が適正に評価される

重量取引慣行への対応 事例 B-1~事例 B-6

2.コストが適正に反映される

価格決定・見積り 事例 B-7~事例 B-11

設計変更・数量変更 事例 B-12~事例 B-15

コストアップの製品価格への転嫁 事例 B-16~事例 B-23

不良発生への対応 事例 B-24~事例 B-30

経常的、もしくは理由のないコストダウン要請への

対応

事例 B-31~事例 B-34

その他サービス・コストへの対応 事例 B-35~事例 B-37

3.量産後の型保管や追加発注等のケースについて対

応が適正である

補給品支給・補給品単価 事例 B-38~事例 B-41

型保管・廃棄 事例 B-42~事例 B-50

4.知的財産の扱いが適正である

金型関係 事例 B-51~事例 B-57

その他 事例 B-58~事例 B-61

5.支払い条件が適正である

手形取引 事例 B-62~事例 B-67

検収 事例 B-68

金型メーカーに対する金型代の支払(支払条件・金

型の検収・キャンセル等受注変動への対応)

事例 B-69~事例 B-76

型使用メーカーに対する型費支払 事例 B-77~事例 B-78

熱処理メーカーに対する有償支給材料の早期支給 事例 B-79

6.付加価値があると認められる取引事例(目標事例)

ユーザーへの技術人員の派遣 事例 B-80~事例 B-83

開発段階からの提案 事例 B-84~事例 B-93

提携、共同受注 事例 B-94~事例 B-96

その他 事例 B-97~事例 B-102

以下、取引慣行の課題別に事例の内容を記載する。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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1.技術・技能が適正に評価される

(1)重量取引慣行への対応 重量取引慣行については、一般的に問題視されている鋳造業界と、製品などによって、

一部の企業で問題が生じている鍛造・熱処理などその他業界があるため、分けて整理す

る。

①鋳造業界 a) 内容

重量の小さいものに適した工場ではないため、数年前にある一定の重量以下のものは

手がけないと決定した。従来受注していた軽量品は外注するとユーザーに伝え、外注化

するので従来の単価よりも上がることを前提に、複数の同業者をユーザーに紹介し、そ

の中から外注先を決定してもらった。あまり多くの種類のものを扱うと、材料の管理費

がかかりロスも増えるので、扱うものと扱わないものの線引きをしている(事例 B-1;

鋳造)。

ユーザーによっていろいろ対応が違う状況である。依然重量ベースの取引はあるが、

重量取引でも問題がない製品もある。また、ユーザーの業界によって、受注生産で量産

しない工作機械業界などは重量ベースが多く、自動車部品などの量産品ならば一個いく

ら、という値決めになっている(事例 B-2;鋳造)。

過去のユーザーとの取引では重量基準が多かったが、現在は、見積りの方程式を説明

すれば理解は得られる。ただし、最後にはキログラムでいくら、という話になる。自社

の原価が客観的にわかる業界標準的な仕組みが、エクセルのような簡単もので構わない

ので作成されればよいと思う(事例 B-3;鋳造)。

重量取引を続けていたのではいずれ共倒れになってしまう。正しいコストを売価に反

映させるには、まず正確な原価を把握しそれをもってユーザーを説得しなければならな

い。そのため業界として、原価計算モデル作成委員会を作り、原価計算の費目を統一し

たものを作ろうとしている。大学の先生にも参加してもらい、年内にモデルを構築し、

業界に普及させよる予定である。鋳物にはいろいろな種類があり、コスト計算の仕方も

違うので、単品もの、量産ものに分類して原価計算モデルを作成する予定である(事例

B-4;鋳造)。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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b) コメント 鋳物業界において、ベストプラクティスとして、見積時の根拠が重量ベースだけでは

なくなってきているという話は複数企業からヒアリングできた。とは言うものの、一方

で、工数積み上げで見積しても最終的に重量ベースに換算されて判断される傾向が全く

ないわけではない、との声も根強くある。重量以外に価格を判断するための根拠が希薄

であるという指摘もよく耳にした。これに対応して、鋳造業界として見積根拠を作成す

る動きがある。また、設備上採算の確保できる重量範囲に加工する製品を限定していた

例もあった。

②その他業界

a) 内容

熱処理企業であるが、取引はキログラム売りで重量ベースである。熱処理も容積で加

工するため、表面積が多ければ加工は難しいが、重量ベース取引だと薄型で複雑な形状

のものが逆に単価が安くなってしまう。大手の協定価格は昔から決まっているので、そ

れに少しでもはずれた新規のものの引き合いが来たら、協定価格に順ずるのではなく、

それはあくまで参考値として、新規に見積りを出している(事例 B-5;熱処理)。

熱処理企業であるが、キログラム単価で取引されており、重量取引慣行がある。しか

し、薄い加工で特殊技術によりひずみを矯正しなければならないなどキログラムでは表

せない特殊技術が必要になったり、占有面積が広くキログラム単価では見合わなかった

りすることがある。

このため、自社の営業部員に熱処理技能検定を取得した技術営業ができる人員を配備

し、熱処理加工対象物の集配を担当させている。そして、重量取引単価では見合わない

技術的に高度なもの、加工上トラブルが発生しそうなものについては、いったん見積り

した価格ではなく、上乗せした価格で見積りが出しなおせるような体制が構築できてい

る。営業人員が技術を理解していなければ、品物を回収し戻ってきてから加工が大変で

あると気づくことになってしまうので、回収する際にその場で具体的に説明できるよう

にしている。集配時によく話し合いを行い、再見積りが承認されるケースもある。

(事例 B-6;熱処理)。

b) コメント 事例はいずれも熱処理企業である。新規取引分について重量ベースではない見積りを

提示している例と、営業部門に技術人員を配置し、熱処理加工対象物の受け取り時に、

その物の加工難度に対応した適正価格の受領を交渉している例である。

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2.コストが適正に反映される

(1)価格決定・見積り ①内容

自社で材料費や、実績値を参考とした工数を入力すると、見積単価が算出できるシス

テムを開発し、見積り作業が容易になった。実績値をバックデータとして抱えているの

で、ある程度正確な原価の見積りは可能である。ただし、このシステム上は加工難度が

高いものや技術的な部分は原価計上が難しい(事例 B-7;鋳造)。

量産品から補給品になってもユーザーから提示される単価が全く変わらないケース

もあるが、自動車関連ユーザーでは、工程によって複数の価格体系がある。すなわち、

金型は一括で別計算されるが、1)試作、2)量産試作の立ち上がりを含むところまで、

3)量産、4)10 年間の補給品、の 4 分類ごとに、それぞれ価格が設定されている。量

産試作は、立ち上げまでの開発期間が 1年などとレンジが長い場合もある。

こうした価格体系は数十年前、取引開始時点からユーザーからの提示により開始され

た。おそらく、ユーザーの部門ごとに縦割り予算になっているのだと思われる(事例

B-8;鍛造)。

価格はユーザーとのネゴシエーションにより決定されるが、一部ユーザーからの指定

価格もあるものの、ほぼ同社が提示した見積価格が了承される。これは、量産品を手掛

けておらず、少量特殊品の受注生産体制をとっているためである。ユーザーは複数仕入

先から購買しており、コスト面で見合わなければユーザーと交渉し妥協点を見いだすよ

うな関係が構築できている(事例 B-9;切削)。

数年前に海外へ移転したものが、国内へ戻ってきている状態が見られる。高くついて

も国内で調達、という方針なので、こうしたケースでは、鋳物企業が提示した価格見積

りが比較的承認されやすい。なお、輸送費を見積価格に乗せており、通常は距離面のハ

ンディがありそれを理由に発注できないと言われることもあるが、一度海外にシフトし

ていた遠方のユーザーからも引き合いが来て取引が開始する場合もある。(事例 B-10;

鋳造)。

主要取引先とは当該取引先の海外工場への納品が多いので、月 1度定期的に、本社購

買部門と生産計画を含めた打ち合わせを行っている。海外からの情報はうまく入手でき

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素形材取引ベストプラクティス調査

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ないので、受注予測はその打ち合わせからの情報を独自のシミュレーションにかけて行

っている。生産計画は 3ヶ月先まで予測が出るところが多いが、ブレもある(事例 B-11;

プレス・金型)。

②コメント 事例 B-7 は、価格交渉で正確な見積りを迅速に算出するために、システムを自社開発

したケースである。この企業は鋳物業であるが、鋳物は生産工程の準備段階である鋳物

方案の作成に熟練技術が必要で、体系化や完全な機械化は困難であると言われている。

こうしたこともあり、昔ながらのどんぶり勘定で、原価計算機能が比較的弱いと感じて

いる鋳物メーカーもある中で、自社で見積りシステムを開発した点が特徴的である。

事例 B-8 は、自動車ユーザーにおいて、試作、立ち上がり、量産、補給品ごとに異な

る価格が定められている例である。自動車ユーザーでは補給品価格が量産品価格の一定

倍率に定められているケースが多い。定められている補給品価格が必ずしも適正利潤が

確保できる水準であるとは限らないが、量産価格のままで補給品支給を要求される例も

見られる中で、ユーザーサイドが、量産品と補給品とでは原価が異なることをあらかじ

め定めている点が評価できる。

事例 B-9 は受注生産体制なので量産体制の企業とは状況が異なるが、採算に合わない

価格を提示された場合にはユーザーと交渉する。そして、交渉した上で不採算品は断る

方針で、断った後も同じユーザーから新規受注の引き合いが来るような関係が構築でき

ている。こうした例は量産体制を取っている企業でも見られた。

事例 B-10 のように、一度海外へ進出したユーザーが、主に品質面の問題から国内回

帰し、国内需給が逼迫している中で、高めの価格を提示して発注している例は、他でも

耳にした。事例 B-10 の企業は若干地理的なハンディがあるが、遠隔地のユーザーから

も発注が来ており、既存取引先よりも見積りが通りやすくなっている。

事例 B-11 は、予定生産数量のブレを少なくするために、ユーザーからの情報を入手

する会議を定期的に持っている例である。生産計画のブレは、当初見積もった価格での

予定利益が確保できなくなったり、在庫増やイレギュラーな材料調達、人員確保などの

コスト増となったりなど、素形材企業の採算を悪化させる要因となるため、そのリスク

を低減させる手段を確保している。

(2)設計変更、数量変更 ①内容

金型の設計変更費用はユーザーから支払われる(事例 B-12;金型)。

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木型は同社が製作しており、木型の設計変更についてはユーザーから代金を受領して

いる。製品の製造開始後の変更は、製造した製品分の代金も受領している(事例 B-13;

鋳造)。

取引先から、ある部品の生産打ち切りとの情報伝達が遅れて、予定通りの出荷がなさ

れず在庫がたまってしまった場合などは、交渉次第で材料代程度はユーザーに負担して

もらえるケースもある(事例 B-14;鍛造)。

欧米のユーザーは、見積書の条件設定もきちんと確認しており、条件が変われば価格

も変わるとの認識がある。

国内メーカーは条件を度外視して値段だけ確認していることが多い。

海外ユーザーとの取引で、新製品を作るとき、ユーザーでの設計変更があり、金型の

納期が大幅に遅れる、金型の改造費用が計画よりもかさむ場合でも、何の問題もなく追

加料金の支払いがなされる。国内ユーザーは支払いが即時になされず調整が入る傾向が

ある(事例 B-15;ダイカスト)。

②コメント 事例 B-11 は、ユーザーの事情による設計変更が生産開始後あった場合には、ユーザ

ーが生産済の部分の原価を補償している点で評価できる。事例 A-1 の発注書の遅れに関

するユーザーの対処でも同様の対応が見られる。事例 B-12 も状況が類似しており、生

産打ち切りの連絡が遅れた場合などに、交渉次第で一部原価をユーザーが負担している

例である。

事例 B-13 は、欧米のユーザーは、見積書の条件が変わると価格も変わる、つまり、

価格は見積書の生産条件に紐付けされており、部品と価格が紐付けされているわけでは

ない、ということを認識しており、見積り条件が変更された場合には価格もスムーズに

変更されるという例である。特に固定費が高い部品では、生産数量によって採算が大き

く異なってくるが、見積書から実際の発注数量が減ったにもかかわらず同じ価格での供

給を求められて苦しんでいるという声はいまだに多い。

(3)コストアップの製品価格への転嫁

①内容

昨今の原材料高騰を受け、従来は半年に 1度価格会議を行っていたが、ユーザーとの

話し合いの上、現在は一定範囲の原材料変動があった場合には、四半期に一度価格提示

の機会が持てるよう変更した。なお、この会議は原材料費のアップを交渉するのみなら

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素形材取引ベストプラクティス調査

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ず、コストダウン努力を含めた値決め提案の場である。

昨年 10 月も材料価格が上がったが、それをユーザーが負担するという意識が業界内

で浸透していなかった。現在は、大口取引先でも、材料の上がった分はある程度負担し

なければならないというエンドユーザーの意識が浸透してきており、提示価格を承認し

てもらえる割合が上昇してきた。

あるユーザーとは、一部材料については建値スライド制をとっており、毎月値決めを

している(事例 B-16;プレス・金型)。

一部原材料が約 6 倍に高騰し、その材料を使用する製品は採算悪化で苦しんでいた

が、遡って値上げが認められた例がある(事例 B-17;鋳造)。

価格交渉を行う際は、必要と思われる以上の資料は提出しない。矛盾を指摘される可

能性が高まるからである。また、現在は価格変動が激しく時点情報となってしまうので、

その点も指摘される可能性がある。取引先との信頼関係を構築し、日頃のコミュニケー

ションで現状を訴え顧客を啓蒙しておき、交渉時には概算数字で交渉を行っている(事

例 B-18;熱処理)。

口頭により単価の 10%引き上げを要請している。年 2 回半期前に単価会議があり、

ここ数年は単価上昇が承諾された。材料費上昇を吸収でき若干プラスがある程度の上昇

率だが、人件費アップまでは吸収できていない。スクラップや副資材含め全ての単価リ

ストをユーザーに提出しているが、要求した単価引き上げの全ては認められておらず、

話し合いの結果決定されている。現場の状況を知ってもらい、何度も請求することが必

要である(事例 B-19;鋳造)。

材料は極端に上がった部分はほとんどのユーザーが理解を示し、世間一般で認められ

ている程度の製品価格の値上げが認められた。しかし、金型価格のアップは認められに

くい。金型製造費用がキログラム当たり約 50%アップし、特に鍛造の金型代が高騰し

ている上、鍛造では金型代が原価に占める割合が大きい。全国的に鍛造メーカーが型代

アップに基づく値上げ交渉を行っているようだが、なかなか受け入れられず、一部受け

入れの兆しが見える地域もあるが、まだ価格アップにはつながっていない。型費上昇分

を全てユーザーに転嫁するつもりはなく、半分以上は自社の企業努力で、加工費で吸収

する予定であるが、認められにくい状況である。

ある自動車メーカーには、一部(交渉割合の約 1/5)の値上げが認められた。交渉の

方法は全ユーザー共通だが、値上げが認められたのはそのユーザーの環境によるものと

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素形材取引ベストプラクティス調査

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理解している。そのユーザーから、値上げが認められなかった部分は企業努力で対応す

るよう言われた。

金型以外の材料価格アップの中で、材料の大手メーカーに対して、ユーザーから価格

交渉がなされ、材料メーカーが承認したことがあった。つまり、素形材企業だけではな

くユーザー自らの交渉によって価格交渉が認められた(事例 B-20;鍛造)。

原材料価格のアップは、交渉すれば製品へ転嫁される。鋳鉄は配合があるので、一律

な値段はユーザーにはわからないので、交渉して上げてもらっている。

現在は材料費の上昇があるので、継続的なコストダウンは免れている(事例 B-21;

鋳造)。

海外ユーザーとの取引では原材料の価格スライド制を採用していたが、LME(国際マ

ーケット=ロンドン相場)にプラスアルファした価格が基準として定められていた(事

例 B-22;ダイカスト)。

コストアップの製品価格転嫁は、メインユーザーでは、主要材料については認められ

ている。副資材関係の価格が上昇しているが、それがどこまで認められるかは課題であ

る(事例 B-23;鋳造)。

②コメント 事例 B-14~B-21 は、昨今の原材料価格高騰に伴うコスト増の製品価格への転嫁の事

例である。当初は転嫁が認められていなかったが、高騰の水準が著しく一般社会でもガ

ソリン料金値上がりなどで原材料価格アップが広く認知され、ユーザーも転嫁を認める

事例が増えている。ただし、値上がり幅の一部のみ認められた例や、一部の原材料では

認められていないという声もいまだに多い。

建値スライド制で価格を連動させているケース、価格改定会議の頻度を増やしたケー

ス、あまりにも上昇度合いの大きいものは遡って価格転嫁が認められたケースなどを例

示した。原材料費高騰については、機会があるごとに、素形材企業の事情をユーザーに

説明して理解を得る努力をしているという声が多かった。

(4)不良発生への対応

①内容

熱処理において、処理後の部材の曲がりや割れは、一般的には回避することのできな

い事象である。同社では、これらの事象を数値化し、ある一定の基準を確立することに

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より、基準の範囲内での保証について、ユーザーと取り決めを交わした。これは、過度

の品質基準を回避すると同時に、同社の技術レベルを最大限取引に活用した事例の一つ

である(事例 B-24;熱処理)。

自社の責任で壊れた場合は取り替えるが、それが原因で生じた不良については、補償

義務はないとしており、補償していない(事例 B-25;金型)。

市場クレームについては、自社内の品質管理部で担当者がチェックし、明らかに弊社

以外の要因が原因となっているものはクレーム費用について交渉している。これはだい

たい承認されている。

また、鋳物は不良率が高いと言われているが、同社よりも不良率の低い近隣の同業他

社から品質管理について指導を受けている。また、工業技術センターからも指導を受け

ている。地元の大学には、材質の共同開発に名前を連ねてアイディアを入手するなどの

指導も受けている(事例 B-26;鋳造)。

鋳物は品質不良が比較的発生しやすく、後工程のユーザーの機械加工費まで求償され

るケースもある。製品の難易度によっては免除される範囲もある。

あるユーザーとは話し合いで、品質不良として免除される範囲を確定した。更にその

ユーザーとは次期の不良率目標値を定め、改善運動を行って不良発生率低減に努めてい

る。例えば、現在 5%の不良率を今年度末には 1%に改善するよう目標を立て、今年度

中は 1%までは不良が発生しても費用請求しない、というような取り決めがなされる。

また、あるユーザーでは調達先が何社かあるが、安定調達できるよう不良率の目標を

定めて、不良について調達先と改善状況の研究会を実施している。

このように、単に不良発生の結果、補償を求められるのではなく、共同して改善の取

り組みを行っていこうという姿勢が見られるのは、鋳物技術をわかっているユーザーで

ある(事例 B-27;鋳造)。

不良発生時に、1個不良が生じると当日に遠方まで選別に来るよう要求するユーザー

もあるが、自社の技術を評価してくれるユーザーには、ラインに投入する時期がいつだ

からそれまでに代替品を送るように、と配慮をもって要請がなされる会社もある。

よい関係が構築できているユーザーでは、ユーザーが原価計算積み上げの時点で不良

率を加味しているはずなので、不良率の設定は何%か、そのうち素材不良は何%を確認

し、その範囲内の不良発生費用は還元してもらい、材料も戻してもらうよう要請し、受

け入れられているケースがある(事例 B-28;ダイカスト)。

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熱処理は場合によっては 1000 度以上の温度をかけるため、不良の発生がもともとの

形状や素材による部分もあり、それらは熱処理加工を施してみなければ結果が出ないの

で、自社のコントロール範囲外の不良発生リスクを負担しなければならないことがあ

る。

製品の開発時に不良が発生したが、補償要求されず、そればかりか、開発の継続を要

請された例がある。これは、他社で対応できなかったため、ユーザーが技術的に困難で

あることを十分に認識していた例であるが、打ち合わせ段階でユーザーとよく話し合

い、こうしたリスクについて事前に説明して了承が得られている。数値的な許容基準は

定めていないが、ユーザーから柔軟な対応をされている(事例 B-29;熱処理)。

何月何日の何番目のチャージがわかるよう刻印を打っており、不良が発生した場合も

追跡調査が可能である(事例 B-30;熱処理)。

②コメント 素形材加工は熱処理を除いて前工程が多く、素形材加工費と比較して素形材加工以降

の加工費が非常に大きい。素形材加工で不良が生じた場合に、後工程の加工費の補償も

求められ、大変な金額の負担になった、というケースがある。発生する頻度はそれほど

多くないが、発生した場合の影響度は大きい問題である。

補償する不良の範囲をあらかじめ定めているケース、市場クレームのうち自社の要因

によるかどうかを自社内でチェックしているケース、ユーザーと不良発生率目標を定め

補償費を目標と連動させているケース、ユーザーとの良好な関係構築や事前説明で不良

発生時に柔軟な対応が認められるケース、トレーサビリティが可能なように部品に刻印

しているケースを示している。

補償する不良の範囲をあらかじめ定めたり、不良発生時に柔軟な対応が認められたり

するケースでは、ユーザーに対して事前に品質に関する説明を十分に行う必要がある。

ユーザーが素形材技術を理解している場合には、こうした説明に対して理解が得られる

傾向があるとのことである。

(5)経常的、もしくは理由のないコストダウン要請への対応

①内容

ユーザーからコストダウン要請があった際、熱源・生産工程改善など自助努力ででき

るだけ対応するとともに、受注量の増加がコストダウンに寄与すると試算し、ユーザー

に発注量の増大を要請した。その上で、自社で対応できるコストダウンの範囲を確定し、

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それ以上の単価引き下げは新規設備投資を抑制するとの説明をユーザーに示した。これ

によって、提示した試算に基づくコストダウンまでの単価引き下げとし、それ以上は単

価を引き下げないことがユーザーに認められた。同社のコスト削減に向けた適正なデー

タの提示により、適正な価格が実現された事例である(事例 B-31;熱処理)。

現状では、受注量でカバーできるものなどはぎりぎりまでは対応するが、赤字が見込

まれるものは極力受けないようにしている。同社でしかできないものもあり、赤字で受

けざるを得ないものもあるが、その場合は、期限を決めて価格を上げてもらうか、一定

の量を決めておいて、それよりも発注数量が減ったら価格を上げてもらうことなどを取

り決めておくようにしている。

また、ユーザーが低価格設定で拡販する方針を採用する戦略商品については、当初か

ら価格設定上採算が厳しい。プレスは、生産スピードや生産量で相当採算が変わってく

る。ユーザーに拡販のため販売価格を抑えたいという要望があれば、例えば月産 100 万

個と月産 3,000 万個では同じものでも原価構成がまったく違うので、月 3,000 万個売れ

るものならば当初は価格を抑えて納品することもある。その場合には、低めの単価設定

には対応するがその分発注量を通常よりも増やすよう交渉する。こうした量的な提案、

生産性改善の提案(使用金型個数や公差アップ等)をして、ユーザーに承認されなけれ

ば、ユーザーの定期的な年 1~2 度の価格ダウン要請にはなかなか対応できない(事例

B-32;熱処理)。

取引条件の逆提案は常に行っている。大手取引先は年 2回価格改定がありコストダウ

ン要請が来るので、そのたびにスペック変更や社内の生産手法変更による生産性向上等

について提案を行う。新規製品を受注し、半年~1年経過後加工方法を工夫して提案す

るが、年々コストダウン要請が来るので、そのせめぎあいとなる。こうしたコストダウ

ン要請は、景気には関係ない。こうした価格改機を捉え、値上げ交渉を行っている。そ

のための準備に 1ヶ月半から 2ヶ月かけている(事例 B-33;熱処理)。

ユーザーの担当者ベースで価格ダウン要請があり、常に悩まされている。もともと旧

来的な金型企業はどんぶり勘定の傾向があるためか、値引き要請をされると即座に何

十%も値引きする金型企業もある。こうした対応では、ユーザーが見積り根拠に不信感

を抱く懸念があると考え、同社では値引きしないようにしている。なお、値引き要請を

断る場合、担当者が上司に説明しやすいような資料を提出するようにし、ユーザーの担

当者と関係に配慮している。

実際、金型は企業の状況により原価が異なり、ユーザーにはわかりにくい部分がある

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素形材取引ベストプラクティス調査

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と思う。工場を自前で持ち、人を雇い、機械を入れ償却して事業を行っている企業と、

十数人の規模で十年以上設備投資を行っていない企業とでは、原価が変わってくるのは

当たり前である。

こうした状況下で、金型企業は他分野企業と比べられると値引く傾向があり、金型メ

ーカーは見積りに対して説明責任を果たしていないことが多いと感じる。材料がいく

ら、設備がいくら、こういう設計思想なので全部でいくら、と、きちんとユーザーに伝

えるべきである(事例 B-34;金型)。

②コメント 第 8章第 2節「アンケート結果」でも示されているが、ユーザーからのコストダウン

要請は多くの企業が問題視している。対応できなければ転注をほのめかされるというケ

ースも多く耳にする。

事例 B-29~31 は、コストダウン要請に対して、自助努力でコスト低減するとともに、

ユーザーに対しても発注量増加や生産性が改善されるような提案を行い、認められた例

である。事例 B-32 は金型メーカーであるが、見積りに対して説明責任があることを自

覚して大幅な値引き要請は断る方針を維持しつつ、断る場合も担当者が社内で説明しや

すいような資料を提出するなどの配慮を行っているものである。

ユーザーに対して対応できる範囲と対応できない範囲を十分に説明している点と、ユ

ーザーに対しても単価を低減のために発注数量や内容の変更を求めている点が注目さ

れる。

(6)その他サービス・コストへの対応 ①内容

従来、市場投入後の製品の寸法変化や組織変化などの調査を無償で依頼されていた

が、現在は見積りを提示すれば、調査依頼書として料金が支払われる状態である(事例

B-35;鋳造)。

場合によってはユーザーが素材証明書の提出を求めるケースがあるが、工業試験場で

検査するなど費用がかかるので、今後は請求する予定である(事例 B-36;鋳造)。

以前採算が合わないからと受注を断り他社へ放出されたものについて、ユーザーの要

請で 1個納品してくれと注文が来た場合の輸送コスト等は、転注される前の元の発注先

では認められなかったが、現在は支払われている(事例 B-37;鋳造)。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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②コメント 従来無料で対応していた付加的サービスについて、有料とするよう請求した、もしく

は今後する例と、転注された場合に従来支払われていなかった付加的サービス料が支払

われるようになった例である。

以前は、付加的サービス込みで比較的緩やかに価格が提示されていたが、現在はユー

ザーが積み上げたコストを厳密にチェックする傾向が強くなったため、従来は対応でき

ていた付加的サービスをそのまま提供していると採算が全く合わなくなっている、とい

う話を耳にしている。ユーザーが無料だと認識しているサービスについては、請求して

も料金が支払われないこともあるが、上記の例は請求すれば料金が支払われるケースで

ある。

3.量産後の型保管や追加発注等のケースについて対応が適正である

(1)補給品支給・補給品単価

①内容

補給品について、ユーザーとの間で価格改定交渉の機会を持つことが出来る。たとえ

ば、月産受注量が大幅に減少したときなど、価格改定を要請するチャンスはある(事例

B-38;鍛造)。

補給品については、量産単価とは別に見積りを出し直して承認された例もある。いつ

もとは限らないが特に、一度海外へ移転され国内へ回帰したものについては、現在需給

が逼迫していることもあり、新たな見積りが通りやすい環境にある(事例 B-39;鋳造)。

量産からサービスパーツになったときに、量産価格から条件変更して再見積りしよう

という動きがある(事例 B-40;鍛造)。

鋳物メーカーはここ数年転廃業が見られ、その部品の移管を受けることがあるが、同

時に保有品を数多く受けることになる。部品は数点でも、リスト上非常にたくさんの補

給品がついてくることが多いためである。その際、もともとの型がそのままでは使えず、

次の造形機に合わせて作り直す必要等があり費用が発生するので、型を起こすかどうか

の線引きを行った。すなわち、ある数まで出るものは型を作り、今後受注がなさそうな

ものについては打ち切りとし、グレーゾーンについては在庫を持つ、と分類して対応し

た。実際の納品実績に基づいて、こうした対処方法をほぼルール化している(事例 B-41;

鋳造)。

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②コメント 補給品価格について再見積りが交渉できるケースを事例 B-36~38 までベストプラク

ティスとして挙げた。また、事例 B-39 は、補給品を引き継ぐ場合の対応方法を社内ル

ール化している事例である。

(2)型保管・廃棄

①内容

長期保存の型については、廃棄の確認を行っており、部品が出なければ廃棄許可が出

る。

数年作っていない部品の発注が 1個来る例もあるが、その場合は 1個では見合わない

ので数個まとめて納品するといった対応をしている。

基本的には、自社保有金型であれば注文が来なければ廃棄し、その後注文が来たらユ

ーザーから新規に金型を起こす許可を得ている。

型保管場所は、現在はたまたま設備投資予定がないため空きスペースがあるが、本来

ならば置き場はなく困る状態である(事例 B-42;鍛造)。

数年前ユーザーからの要請に基づき、保管型について台帳を作成し、受注のない型、

不要な型については申告し、1年に 2回棚卸を実施している。廃棄許可はユーザーから

文書が来ている。生産台数が予定より少なく型費が回収できていなかったものについ

て、申請して認められたものは型費が支払われた(事例 B-43;鋳造)。

保管金型については、半年に 1度、5段階評価(生産に寄与している、○ヶ月に 1度

使っている、○ヶ月以上受注がない、壊れている、など)を施し、受注がないもの、壊

れているものに加えて、1年間使用していない金型は除却申請し、承認を得て除却して

いる。申請は概ね承認が得られ、除却費用はユーザーが負担する。また、廃番は顧客か

ら連絡がある(事例 B-44;プレス・金型)。

木型はユーザー持ちで支給されている。木型は外部倉庫を借り屋内保管している。取

引先との合意を書面化し、あるユーザーとは 4年間未使用の木型(計画がない場合は 3

年半も含む)の廃棄リストを提出し、処分費、運送費をユーザー持ちで廃棄している。

廃棄した木型番号とトラック積みした写真を証拠として提出している。数年前からリス

トに上げた木型の廃棄は全て承認されるようになった。

こうした対応は、ユーザーに自社工場の視察に来てもらい型の保管状況を見せて、か

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つ自社の資材部のリーダーに対してユーザーからの受注が止まっていることを確認し

たことをきっかけに徐々に実現した。当社からの納品を確保することを重視しているた

めか、ユーザーからクレームはない。木型はもはや受注のための人質ではないので、こ

うした対応を行っている。

自社内に鋳造部門があるユーザーには、3年間未使用のものは返却している。廃棄要

請があることもあるが、廃棄費・運送費は先方負担、もしくはトラックでいつでも引き

取り可という依頼をしている。

一般的に言って、場所があると保管木型数が多くても気にしない傾向があると考えら

れる。同社は場所が狭いのでこうした管理をしており、工場内にはその日に使う木型し

か置かれていない。1年以上使わないものは遠隔地で保管している。

現在木型は数ヶ月で更新している。この磨耗による廃棄費も先方持ちである。

なお、型に関する費用の請求については、同社はシェアが大きい取引先があるのでわ

かりやすいが、シェア 10%ずつで 10 社だと管理が困難かもしれない(事例 B-45;鋳造)。

補給品の対応は、1)型を保有したまま倍率価格で対応する、2)例えば 10 年分打っ

てユーザーが在庫としてもち、型は破棄してよいという許可がでる、3)例えば 10年分

打って当社で在庫として抱える、などいろいろな対処方法がある。近年では型は自社所

有方式を取っているが、長期的な取引のユーザーが多く、補給品発注が生じたときに型

がない場合にも配慮してもらえ、話し合いで適切な対応方法を決定することができる関

係にある。1型製造するのに千万円単位の資金がかかる上、設計・製造など工程がかか

るので、話し合いの上、簡易型を作る、削り出しでユーザーが作る、などいろいろな方

法で対処している。これは日頃のコミュニケーションがよく取れているかどうか、信頼

関係が構築されているかによると思う。

また、不況時に他社が廃棄してしまった設備を自社が保有しており、他にはない技術

を有しているとともに、材料もすぐに確保することができず、転注に数ヶ月かかってし

まい、容易に他社へ発注できない、ということもある。ユーザーとしては部品供給が止

まり、生産ラインがストップすることが致命的なので、そういったことが発生しないよ

う、あまりにも無理な要請はしないという配慮が見られる(事例 B-46;鍛造)。

型保管数を減らすために、型がないとできないもの(三次元形状の絞りなど)以外は

廃棄するなどの対応を行っている。

型保管料を減少させるために、他地方の遠隔地で保管している。本社工場に比べ坪単

価が 1/10 以下で、保管に係るトータルコストが安い。ただし、効率の悪い遠隔地での

保管が、本社工場での保管よりもコストが安いのはおかしいと考えている。また、どこ

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でも行っている対応だと思うが、金型保管自動機や材料保管自動機を導入し、物流費を

削減している(事例 B-47;プレス)。

鋳造業界として、健全な取引慣行で共存共栄を図るため、木型に関わる取引慣行の改

善を図っている。まず、保管料はいくらかかるか、廃棄料はいくらかかるか、会員に調

査を行い、地域差はあるにしろ、適正金額の水準を指標として出そうと計画している。

また、保管料については、鋳造協会が覚書の雛形を作成しているが、文面を弁護士など

に照会していないので、その点も確認しつつ、書類や文言もあわせて整える予定である。

あるユーザーに廃棄費用と保管料の支払いを同時に交渉していたが、保管料の支払い

は認められなかった。これは、廃棄費用が法令違反としてわかりやすく話がしやすいこ

と、廃棄費用は全国レベルでほぼ同じような金額となるが、保管料は都心と郊外の地価

の違いなどもあり、標準的な額が一律では提示できないことなどが要因であると考え

る。保管料も法令違反なので交渉は継続しているが、ユーザーも横並びで対応するため

に、適正金額はいくらなのか資料を出すよう要請を受けている。ユーザーにこうした料

金支払いを要望すると常に「よそはどうなっているのか」と横並び的な話が出る。この

ため、鋳物協会などで討議を行い情報共有化すれば、交渉が容易になると考えている。

また、ユーザーとしても、コンプライアンスの観点から、受け入れやすい内容だと考

える(事例 B-48;鋳造)。

現在、木型保管に関するモデルを業界として作成中である。共通の交渉材料として、

考え方を整理して木型保管料の適正水準を出し、それを共有化して、交渉手段である文

案を作成しようとしている。つまり、理論武装を行い、交渉のマニュアル作りをし、業

界全体で木型保管について取り組もうとしている。

業界団体自体はもともと中小企業の集まりだったが、経済産業省の指導でまとまった

部分がある。近年、大手トップメーカーも業界団体に加盟しており、同業企業ごとの環

境は大きく異なってきている(事例 B-49;鋳造)。

木型の廃棄料が支払われるようになったユーザーがある。このユーザー内部でコンプ

ライアンスを監視する組織ができたので、木型の廃棄は、産業廃棄物として道路や山奥

に廃棄するとユーザーまで遡って責任が問われるので法令違反リスクがあると交渉し、

廃棄費用の支払いが了承された。数十社の取引先のうち、廃棄費用が支払われるように

なったのは 1社のみで、今後も継続的に支払われる見通しである。

廃棄費用の算出根拠としては、トラックで運搬できる重量をベースとしている。同じ

車両でも小さい木型ならばたくさん載せられ大きいものは隙間ができそれほどたくさ

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ん載せられない、といった違いはあるが、平均的に、「廃棄型数/車両 1台に載せられる

数(=車両搭載可能立米数/木型 1 型の立米数)×車両 1 台当たり廃棄コスト」で算出

した金額について、ユーザーと廃棄費用として合意した。

廃棄方法は、産廃業者に引き渡して産廃業者が処理するか、自社で廃却設備を設ける

やり方や、リサイクル処理などいろいろあるが、いずれにしても手間がかかるので、中

間処理費用分をユーザーが負担し、実際の処理方法は素形材企業が決定すればよいと考

えている(事例 B-50;鋳造)。

②コメント 旧型の保管・廃棄についてユーザーとルール化したり、話し合いを行ったりしている

例、自助努力で旧型保管料を低減している例、業界として旧型の保管・廃棄についてモ

デル化しつつある例、ユーザーの内部環境変化で木型廃棄料が支払われるようになった

例を挙げた。

4.知的財産の扱いが適正である

(1)金型関係

①内容

以前はユーザーの要請に基づき、金型図面の提出をしていたが、数年前から経済産業

省の指針を理由として断るようにしている。海外で金型をコピーして作っているところ

もあるようだが、形は作れても肝心のショット数、金型寿命がもたないようである(事

例 B-51;プレス・金型)。

現在は、組み図は出しているが、図面は出していない。ノウハウにも技術と技能があ

ると思うが、同社は技能の部分に強みを持っている。マシニングで CAD/CAM を活用して

図面を引くのは学生でもできるが、同社のノウハウは研磨が主であり、蓄積がないと対

応できない部分である。図面に関する経済産業省の指針が出る前から、図面は出さない

と断って取引をするようにしていた(事例 B-52;金型)。

以前はメンテナンスするからという理由で図面を要求され、転注先の 2、3 号型に使

われ抗議したこともある。現在は図面を出していないのでそういった問題は生じていな

い(事例 B-53;金型)。

顧客から金型データ提出の要請がある。CAD/CAM データについては、メンテナンスの

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ために渡さなくてはならない。ただし、加工の方法については提出しなくて良い、と金

型工業会で共通認識を持っている(事例 B-54;金型)。

以前は、自社で作成した図面がまわりまわって海外から戻ってきたことがあったが、

現在は指針が出ており、ユーザーにかなり認知されている。金型を作る目的である場合

には、図面は提示していない。外観保証はつけている(事例 B-55;金型)。

図面提出については、経済産業省の指針が出た後、改善傾向にある(事例 B-56;金

型)。

金型図面は顧客に提出している。概ね、顧客と基本取引契約書を結び、金型を納める

ときには、図面及びデータを納めるという契約になっている。この点、契約書の雛形が

あれば改善の方向に向かうかと思われる。

ただし、その最新のノウハウが入った図面にするように顧客から要望があった場合な

どは、指針の違反ではないか、と反論すれば断ることができる。その金型の納品であれ

ば図面を出すが、コピー型を製造したり、他社で使ったりする目的ならば、提出を断る

ことができる(事例 B-57;プレス・金型)。

②コメント 金型メーカーにおいて、金型図面の流出が改善している例、図面は契約上の取り決め

があり提出しているが、付加的なノウハウを求められた場合には拒否している例を挙げ

た。図面流出防止については、経済産業省の指針の効果を挙げる声も多かった。なお、

指針が出たからといってユーザーが図面を要求しなくなったというよりは、指針を理由

に図面提出の要請を断るとユーザーが納得する、というケースが多いようである。また、

いまだに図面の流出が続いている、なんらかの名目で図面を要求される、という声もあ

った。

(2)その他 ①内容

ノウハウはできるだけ開示していない。ヒートチャートは提示しておらず、口頭での

説明としている。

また、ある部品をユーザーと共同開発した際、研究開発部門では承認されていた開発

費用が支払われず、購買部門ベースの製品の「売買単価」のみの支払いだったため、ユ

ーザーに工程を一切開示していないという例がある(事例 B-58;熱処理)。

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極力、ノウハウである鋳造方案は提示しない方針である(事例 B-59;鋳造)。

ISO を取っているのでそれを信頼性のある工場である証明としており、ノウハウに関

わる生産条件設定については開示しない方針である。

ユーザーによっては、共同開発を持ちかけてきて、全部ノウハウを吸い上げ、しかし

発注はしない、というケースもある。こういったノウハウ流出の防止のため、工場内の

視察は断る方針をとっている。ヨーロッパでは、会社見学をするとサインをし、もしも

特許侵害をしたら訴えられる、という防御策がある(事例 B-60;熱処理)。

ある製品の開発に当たって、新技術の基本的部分をユーザーが考案し、それを基に同

社がテストして開発し、ユーザーがパテントを取得して、その製品が同社に発注されて

いた。しかし、当初予定より発注数量が減り、予定年数の半分で発注が終了して設備投

資の回収ができない、という状況に陥った。この際、ユーザーとの交渉の結果、条件付

きながらパテントの使用許可が出て、その投資の償却をほかの顧客の発注に振り向ける

ことができた。開発段階で、本来ユーザーが負担すべきテスト費用などをユーザーの要

請で同社が負担した部分もあったので、そういったことも含めて交渉した(事例 B-61;

熱処理)。

②コメント 金型メーカー以外の素形材企業で、ノウハウの公開を拒否している例、共同開発した

ノウハウを使用する部品について当初予定よりも生産量が伸びなかったため、ユーザー

へ要請して転用が認められた例を挙げた。

なお、上記 4例のうち、3例は熱処理企業である。

5.支払い条件が適正である

(1)手形取引

①内容

大企業ユーザーではキャッシュでの支払いが増え、ファクタリングシステムへ移行し

ている。ファクタリングシステムは、銀行へ証明書を提示すれば手形と同様に資金化で

きる。手形と異なり収入印紙がかからないので、その分ユーザーのコストは安い(事例

B-62;金型)。

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手形決済から売掛債権のファクタリングへの変更がすすみ、運転資金的には以前に比

べかなり改善されている。ファクタリングの手数料は手形割引料よりも安く、手形の管

理も不要となった(事例 B-63;切削)。

手形については、特に同社で行動を起こしたわけではなく、成り行きベースで現金化

が進んでいる。ユーザーの方針だと思われる(事例 B-64;プレス)。

ユーザーからの提案で現金決済比率がアップした。景況が改善しておりユーザーもキ

ャッシュに余裕が出てきたための措置と思われ、余裕資金で同社に設備投資をするよう

にとの配慮だと考えられる(事例 B-65;鍛造)。

数年前まで 7~9 ヶ月手形があり、検収からカウントすると 9~11 ヶ月の支払いサイ

トとなっていた取引先があった。2年間毎月、手形受領時に経理担当者に改善要求を行

い、その後社長に直接交渉し、1年かけて 4ヶ月のサイトに短縮を成し遂げることがで

きた(事例 B-66;熱処理)。

採算が悪化しキャッシュフロー上厳しかった時期に、あるユーザーに対して現金支払

比率のアップを依頼したところ、全面的な現金比率アップは認められなかったが、受注

金額があるレンジを超えた場合には同社の仕入増による運転資金の逼迫を防止するた

めに、現金比率を上昇させるという対応がなされた。

また、あるユーザーに対して、手形から現金支払への切り替えを依頼したところ、あ

るレンジまでは現金支払いで、そのレンジを越えた部分のみユーザーの資金繰りが逼迫

するため手形で対応する、というように、決済条件が改善された。

こうした取り決めの根拠資料は、同社の要望書と議事録であり、契約書は取り交わし

ていない(事例 B-67;鍛造)。

②コメント ファクタリング比率が上昇している例、ユーザーから現金取引比率を上昇させた例、

長期の手形サイトが素形材企業の要請で短縮された例、経営悪化時に取引金額に応じて

決済方式を一部変更する取り決めを行った例を挙げた。

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(2)受領及び検収 ①内容

現在は注文書の個数変更を可能としている。例えば、「10 月 2 日に 10 個納品」との

注文書が来て、9月に 4個、10月に 6個と分割納品した場合には、分納した 4個分の発

注書をもらい、10 月の 6個分よりも先に売上代金を回収している。

取引先の大半が大手ユーザーなので書面発注である。残りの数%の同業他社などから

も発注書を受領している。受注管理上、注文書がなければ現場に発注できない仕組みを、

10 年前から全社的に構築している。それ以前は先に仕様書が出ており、製品の納品後

に発注書が出ていた。鋳造の工程管理も行っており、製造のどの段階にあるかが把握で

きている。納期が決まっており遅れるとユーザーのライン停止にかかわるので、こうし

た厳格な管理が必要である(事例 B-68;鋳造)。

②コメント 分納による納品部分の決済が認められている例を挙げた。

(3)金型メーカーに対する金型代の支払い

①内容

電話一本で発注予告が取り消される場合もあり、キャンセル料という概念がなく、発

注側に有利な状況になっている。金型の場合はそもそも、キャンセルではなくて延期が

多いので余計に機会ロスの期間が伸びることが多い。発注ロスについては、複数の仕事

を受けて、機会ロスが生じないようにしている。このためには会社の規模拡大が必要な

ので、人員を増やし人材を育成中である。また、後工程の量産も手がけている。更に、

受注に波があるので、受注量を多めに確保して仕事がこなしきれない場合に外注できる

協力先を数社確保している。自社の金型製造のやり方を同業他社と共有化し、外注して

も問題なく仕事をこなせるよう、出向者を数人受け入れている。古くからの金型企業は

一匹狼気質があり、「経営者」ではなく「技術屋」が多い傾向があるが、ノウハウを提

供して協力していく方針を採っている。ノウハウを提供する際の、ノウハウ流出の懸念

については、自社がどんどん新たなノウハウを蓄積して技術的に先んじるよう努めれば

よいと考えている。自社の金型には中国でも高く売れるものもある(事例 B-69;金型)。

金型発注予告のキャンセルによる機会ロス防止のためには、開発段階から参加し、ユ

ーザーの情報を入手する手段もある(事例 B-70;金型)。

機会ロス防止策としては、生産能力以上の受注計画を立てている。実際、発注されて

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素形材取引ベストプラクティス調査

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いても、より単価が安いところがあれば、ユーザーは、対象部品がなくなった、などの

名目でキャンセルして切り替えている。このことが、納期遅れの問題にもつながってい

る(事例 B-71;プレス・金型)。

金型売上の回収は、決済時期が遅く手形受領もあり、支払いが先行するので、余裕資

金が必要である。特殊な同業他社には、開発費の支援があったり、金型代を前払いで受

領したりしている企業もある。しかし、そういった金型企業はほとんどない。

海外では着手時 3割、中間時 3割、検収時 4割という分割支払いが一般的であるが、

日本は良品を納品しなければ支払われず、回収までに時間がかかる(事例 B-72;金型)。

一時海外ユーザーと取引を行っていたが、着手時に手付け金を 3~4割受領していた。

手付け制度は、キャンセル時の機会損失の穴埋めにもなるが、そもそも海外は検収時一

括支払い方式では(特に中国系ユーザーなどは)回収リスクが高いため、手付け受領方

式でなければ仕事が受けられないということも言える。国内上場企業については、与信

情報を取ることもできるが、海外では与信管理が困難である。

商社ならば商品に流通性があるからよいが、金型には流通性がないので、同社は約

20 年前に支払い方式を手形から現金払いに切り替えた(事例 B-73;金型)。

海外では、金型代金について前払金方式の支払い条件もある(事例 B-74;金型)。

検収については、ネットワークを構築して情報収集するとともに、ミスはなるべく事

前に解消するようにし、事前にユーザーと十分打ち合わせ時間を持つことで問題発生を

防いでいる(事例 B-75;金型)。

金型の検収については、日頃の信頼関係から、検収条件を全てクリアしていなくても

検収を上げてもらえることもある。また、ユーザー事情で遅れている場合には、検収を

あげるよう対応してもらっている。

検収条件を明確化している。検収の可不可についてのユーザーからの返答期限を、納

入後1週間以内としており、不可の場合には理由も明示してもらう。同社の取り扱い製

品は、外観のバリなどの不具合や寸法公差が条件となっているが、金型の種類によって

はより微妙な基準を満たす必要があるものもある。

以前は検収についても問題があったため、10 年前に顕微鏡を購入し自社で検収の合

否判断をできるようにした。

図面をもらってそのまま作るのではなく、作成着手前の最初の打ち合わせで、問題と

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素形材取引ベストプラクティス調査

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なりそうなことは予測して討議するようにしている。

量産を開始してうまく打てない原因としては、量産の条件、材料、もともとの顧客の

製品設計などの要因がある。顧客はうまく打てなければ金型企業か量産企業に改善を依

頼していたが、その両者間で改善に対するアプローチの違いからうまく調整できないこ

とが多かった。つまり、金型企業は形状などの問題と捉え理論に基づいて改善案を提示

していたのに対して、成形企業(特に古くからの企業)では勘の部分が大きいため話が

かみあわず、改善討議が難航しがちだった。こうしたこともあったので、数年前に量産

用機械を導入し、自社で良否を判断して良品を作って顧客に提示できるようにした。

当時は試作的に行っていたが、量産を手がけるようになったときはエンジニアを採用

した。量産はものづくりというよりは品質管理で金型製作とは性質が違うので、人材の

採用が必要と判断した。現在は量産機械を数台保有している。量産ラインを社内に保有

していると、量産の条件、材料などを加味して、量産条件をこう変更すればうまく打て

る、などと顧客に詳しく説明することができる。また、同業者に対してもこの条件で量

産化したらこういった問題が生じる、こうした説明では量産企業の立場からすると見づ

らい、など、量産企業の立場からの技術的な指摘が可能である(事例 B-76;金型)。

②コメント 金型発注キャンセルによる機会ロス対策の例、海外ユーザーの金型代前払い制及び一

部金型メーカーに対する前払い制の例、金型の検収に関する事前取り決めと、検収をク

リアするために一部の量産を内製している例を挙げた。

(4)型使用メーカーに対する型費支払 ①内容

型費の支払いは償却方式で、以前は 3~4 年で回収だったが、現在は 2 年に改善され

たユーザーが多い(事例 B-77;鋳物)。

先方の部品変更があって、工程が増えて機械投資が必要な場合には、即時支払いはな

されず部品単価で回収される。ただし、数年で償却する機械だとすると、話し合いの結

果、償却年限で投資金額を回収する価格設定では同社が損益的に厳しいだろうから、そ

れよりも短い期間で回収できる価格設定とする、などの形で落ち着く傾向がある。

数年前、同社の損益状況が非常に厳しかったとき、技能があるから、よそで出来ない

独自技術があるからということで、こうした支払い条件等に配慮してもらえた例がある

(事例 B-78;鍛造)。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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②コメント 型費支払期間が短縮された例、話し合いにより型費の回収期間を定める例を挙げた。

なお、型費は量産開始時に一括で支払われることを望む声があった。

(5)熱処理メーカーに対する有償支給材料の早期支給

①内容

業界で問題化している有償支給材料の早期決済について、当社は取引開始時点で防止

策を講じている。当社では無償支給が主であるが、有償支給の場合材料代を早期支払い

しても口銭はもらえないので、材料費の支払いは 2ヶ月後に支払う、熱処理加工日数プ

ラス数日の余裕をみて、当月○日までの材料支給分を支払う、納品した分のみ支払う、

といった取り決めを、30 年以上前から実施している。材料費がコストに占める割合が

高いので、熱処理加工費とのバランスを考えると対策を講じなければ大変なことになっ

てしまう。基本契約は共通なので、こうした取引条件は見積書と注文書の最初に謳うこ

とで対応している。自動更新なのでこういった対応で問題は生じていない(事例 B-79;

熱処理)。

②コメント 熱処理メーカーに対する有償支給材料の早期支給について、資金的な負担が生じるこ

とを事前に回避する取り決めを行っている例を挙げた。

6.付加価値があると認められる事(目標事例)

(1)ユーザーへの技術人員の派遣

①内容

価格交渉するたびに、鍛造がよくわからない、内容(金型の耐用年数、一型いくらな

のか等)がよく理解できない、と言われるユーザーがあった。この改善のために数年前

から、ユーザーから同社への人員を数名受け入れ、数ヶ月研修して、鍛造をよく理解し

てもらうようにしている。また、ユーザーの開発・設計段階でなにが求められているか

把握し、それに迅速に対応できるよう、鍛造メーカーの技術人員も数名ユーザーに派遣

しており、よい効果が出ている。開発期間をどう短くするか、どうやって早く立ち上げ

るかにも着眼点を置いている(事例 B-80;鍛造)。

自社内に鋳造部門があるユーザーは鋳造技術を理解している。鋳造部門を持たないユ

ーザーは、ここ数年、年に 2回設計者が同社に研修に来た。現場で実際にモノを作って

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素形材取引ベストプラクティス調査

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もらい、鋳造技術を理解したうえでの設計をしてもらっている(事例 B-81;鋳造)。

設計者が素形材技術を理解して設計を行うのが最も生産上望ましいので、技術者をユ

ーザーに派遣している。素形材加工がやりやすい形状の提案を行っている。なお、技術

者を派遣する場合はそれほど人材に余裕がないため、受注確率が高いものに限ってい

る。

人員を派遣した場合にはユーザー内の開発情報等が入手できるのもメリットである。

信頼関係ができれば、技術協力が継続する場合、ユーザーに技術人員が常駐しなくても、

自社で開発を行い成果報告のみ訪問する方式が許可されるケースもある。

また、未加工の状態で出荷するならば厳格な公差が要求されるものを、後加工を自社

内に取り込んで施し、公差を緩和する努力なども行っている(事例 B-82;鍛造)。

デザインインにより、開発段階から参加し、金型メーカーとしての要望を製品に織り

込んでもらっている。当初はユーザーで技術屋が足らないための人員派遣依頼と思って

いたが、派遣してみるといろいろなメリットが発生している。人件費はユーザー負担で、

ユーザー情報が早めに得られ、製品化した場合に受注が得られやすい。コストダウン提

案なども含め要望は積極的に取り上げられている(事例 B-83;プレス・金型)。

②コメント ユーザー内のリストラや世代交代などにより、素形材技術を理解する人員を有するユ

ーザーが減ってきている、という声を耳にする。素形材の内製部門を保有している場合

は当てはまらないが、素形材技術に対するユーザーの理解を深めるため、ユーザー人員

を自社内に受け入れたり、技術人員を派遣したりしている例を挙げた。

(2)開発段階からの提案

①内容

品質上のトラブル防止のため、整形しにくい製品については、公差を緩和する話し合

いを試作段階で行っている(事例 B-84;鍛造)。

最近は、ユーザーに原価低減の意向がある場合には、開発段階から同社の営業が参画

し、技術的な協力、生産しやすいような改善提案を行っている。また、金型についても、

従来は提示された図面に基づいて金型を製造していたが、最近は提示された図面につい

て改善提案を行っている(事例 B-85;プレス・金型)。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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生産準備の段階で後の作業が全部決まるので、開発の段階から下請け企業が参加でき

るかどうかで、その後の設計変更の回数を減らしたりできるかどうかが変わってくる。

ロスが生じるとどんどん蓄積され下工程にしわ寄せが生じる。ある例では海外での立ち

上げを予定していたが現地メーカーが対応できなくなり、通常半年かかるものを 1ヶ月

で製造するよう依頼が来たこともある(事例 B-86;プレス)。

デザインインなどで、前工程の開発段階に参加するようになり、設計変更の無料サー

ビス、技術評価の単純化などの取引慣行は改善されている。

そもそもユーザーの開発に参画した経緯は、ユーザーが急成長してユーザー内で人材

が少なかったときに、自社の人材を一緒に育ててもらう形から始まった。

そして、次の段階では、ユーザーから開発領域を任せられるような協力企業を育てた

いという要望があった。ユーザーと、その分野の開発で先行していたユーザーの競合先

である同業他社の関連企業と、自社で、3社合弁会社を設立した。合弁会社に競合先関

連企業から人材の派遣があり、派遣された人材から自社に対して指導を受けた、という

珍しいパターンで開発力をつけることができた(事例 B-87;プレス・金型)。

図面が出され、自社の技術・製造方法に合うように改善提案するが、技術がわかって

いるユーザーは図面の改善提案を承認される傾向がある。技術がわからないユーザーは

承認されにくい(事例 B-88;金型)。

ユーザーの設計段階から参加し、「こうすれば製造しやすい」等、試作の段階から指

摘している。数十年前はもらった図面でどう作るか考えていたが、現在はもらった図面

に対して改善提案している(事例 B-89;鋳造)。

熱処理企業とユーザーとの共同開発を行っている。図面が出て、自社の加工にあうよ

うな改善提案をしても、技術がわかっているユーザーであれば認めてもらえるが、技術

がわからない場合には了承されない。既にユーザーの図面で進行しているので変更がき

かないケースもある(事例 B-90;熱処理)。

数十年前から、主力製品で蓄積した技術を生かしてユーザーの設計や実験部門と共同

で開発を行っている(事例 B-91;鋳造)。

重要保安部品を手がけているため、改善提案を行っても、変更には莫大なテスト費用

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素形材取引ベストプラクティス調査

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がかかる。モデルチェンジが少ない部品については、なかなか採用されにくい。しかし、

モデルチェンジが頻繁に行われる製品では、モデルチェンジに合わせて VA、VE 提案を

採用し、変更品の採用のためのテスト費用がかからない形式をとっているユーザーもあ

る(事例 B-92;鍛造)。

同社では、取引先で生じていた不良品の不良原因を検査し、原因を分析することで、

その解決策・改善手法を取引先企業に対して提示する提案型取引を行っている。これに

より、自社の取引拡大と、品質向上による取引先企業のメリットを同時に実現している。

例えば、高価格材料を用いている割に想定より硬度が上がっていないケースの場合、よ

り安価な材料を用い、材質、用途等を吟味し、熱処理工程を最適化させることで、製造

コスト全体が圧縮できることを提案している(事例 B-93;熱処理)。

②コメント 品質上のトラブル防止や原価低減のため、ユーザーの設計段階から参加したり、提案

を行ったりしている例を挙げた。

なお、こうした提案については、ユーザーで素形材技術がわかる人材がいれば、提案

が受け入れられやすい傾向がある。

(3)提携、共同受注

①内容

素形材企業数社でネットワークを構築している。ポスターを作成して参加企業と業務

を PR し、ユーザーに対してネットワーク受注によりさまざまな技術・加工の対応が可

能であるとアピールしている。

こうしたネットワークは、異業種交流会や地域的な任意会合、公的な催しでの出会い、

紹介、ふさわしい技術を持つ企業を探して依頼する、などの手段で広がった。自社が注

力したい技術・加工に特化してコア技術を高めつつ、それ以外はネットワーク内へ外注

し、ユーザーに対しては一貫加工体制を売りにすることができる。新販路拡大にも寄与

している(事例 B-94;切削)。

同業数社で、コンソーシアムとまではいかないが共同受注を行っている。品質レベル

の同一化のため、あるユーザーの仕事を受注した場合、過去問題になった事例について

統一して勉強会を開催し、後々トラブルが発生しないような努力を行っている。共同受

注のきっかけは、海外ユーザーとの取引を開始したときに、契約面などで翻訳のコスト

が発生するのでそういった管理コストをまとめて一社で負担すれば重複コストが省け

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素形材取引ベストプラクティス調査

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るメリットがあったことから開始された。

この際、もっとも問題が発生しやすいのは納期である。よほど参加するメンバーの認

識が高くなければ、自社で単独受注したものの製造を優先し、共同受注やメンバー内で

外注されたものは後回しにしてしまう(事例 B-95;プレス・金型)。

同業数社と提携を行っている。設備競争を回避し、自社の得意分野で仕事を融通し合

うなど市場確保、新分野開拓のメリットがある。過去裏切られたり抜け駆けされたりし

たこともあるが、稼働率確保が重要な熱処理業界にとってはシェアの確保が優先事項で

あり、提携メリットを追求している。ユーザー交渉の成功例の共有化なども行っている。

これら外注先とは特別な提携契約はなく、紳士協定である。また、当社の差別化手法で

ある付加的サービスの提供は、提携先同業社でも実施している(事例 B-96;熱処理)。

②コメント 素形材企業や同業数社と提携している例、共同受注している例を挙げている。

(4)その他 ①内容

業界団体で高額の資金を負担して、全国レベルのシンポジウムを東京で開催し、ユー

ザーを招待して業界のさまざまな問題(重量取引、型保管、環境対策費の上昇)につい

て PR を行った。数百人が集まった。こうした催しに、官公庁から参加して、これらの

ことを問題視している趣旨の発言をしていただくことが、取引慣行改善へのサポートに

なる。

また、昨今「素形材」という用語が公的に使われその重要性とともに認知されつつあ

るが、こうしたことも改善に向けての効果のひとつだと考える(事例 B-97;鋳造)。

ユーザーに仕入先改善グループがあり、ユーザーから我々に対して、我々が気づかな

い点に関するアドバイスがある。それに基づいて、改善に取り組んでいる(事例 B-98;

鋳造)。

ある取引先からは、取引開始前に 1年以上経営関係のデータを提出したりといったや

り取りがあり、月 1度指導に来ていた例がある(事例 B-99;鋳造)。

協力企業として ISO9000 及び 14000 の取得指導があり、4年前に取得して現在体質改

善の手法に大変役立っている。鍛造専業として人材育成及び品質改善に良い効果が出て

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素形材取引ベストプラクティス調査

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いる(事例 B-100;鍛造)。

現在大変問題視されているのが、品質問題である。主要ユーザーは数年前からISO9001

の認証取得を促進していた。こうした要請が素形材企業にとって人的・コスト的にも負

担増だったのは事実だったが、結果的には、それ以降無駄な経費支出が避けられたと言

える。熱処理で品質問題がもしも発生したら大問題となるので、ユーザーからの指導が

入ったり、ユーザーから発注先横並びで品質向上の競争を促進させたりしたことで、の

ちのち無駄なコストが削減でき、素形材企業の経営上効果があった

現在、主要ユーザーとの取引は、ISO14000 も必須となっている(事例 B-101;熱処理)。

現在主要ユーザーでは共同改善活動が実施されている。これは、全協力企業に体力を

つけるために生産性向上を目指すもので、個別テーマは 100 くらいあり、モデル職場を

作って協力企業数社が共同で一つの生産ラインでどうやって生産性を上げるか、などの

活動を実施するものである。古くは 30年前にもユーザーで生産性向上運動が実施され、

そうしたユーザーの指導もあって、生産性が上がり世界一との評価を受け、受注拡大に

つながった。また、ユーザーから支援を受け共同で活動することが、コストダウンにつ

ながった。ただし、ユーザーから要請されるコストダウンが、それですべて解消される

わけではない。コストダウン要請が、改善活動でカバーできるようなレベルになればい

いと考えている(事例 B-102;プレス・金型)。

②コメント 業界としてシンポジュウムを開催し、ユーザーに対して問題点を説明するなどの PR

を行った例、ユーザーから指導を受けておりそれが経営に役立っている例を挙げた。ユ

ーザーから指導を受けている例は全て、自動車業界ユーザーの事例である。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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第 5 章 ベストプラクティスの要因

第 3 章の既存報告書・調査におけるベストプラクティスおよび第 4章で整理した本調

査を通じて収集されたベストプラクティスを前提として、ベストプラクティスが生じた

要因・背景について以下まとめる。

第 1 節 素形材企業の要因

(1)ユーザー企業との交渉力 第一に挙げられるのは、ユーザーに対する素形材企業の交渉力が大きければ、取引慣

行上の課題は生じにくく、課題が生じた場合にも改善が進みやすい、ということである。

交渉力を有する要因としては、以下のようなものが挙げられる。

①独自性があること、代替他社がない・少ないこと ・ 同業他社が保有していない設備がある(たまたま古くから手掛けていた製品が特殊

な設備が必要だった、他社がコア事業に選択と集中を行った際にそれを実施せずバ

ラエティに富んだ設備が残っていた、など)

・ 同業他社が保有していない技術がある(他社が保有していない設備の生産技術があ

る、積極的に研究開発投資を行って技術力を醸成してきた、など)

・ 独自製品を生産している

・ 一貫生産体制や協力企業ネットワークを構築している

・ 独特の付加的なサービスを提供している

・ 真の顧客満足の充足を目標としている(No と即答せず対応を検討する、納期を厳守

する、など)

②取引先を 1 社 1 グループ・小数社小数グループに依存せず、分散していること ・ 事業拡大に応じて取引先を分散させてきた

・ 主要企業の海外移転や主要製品の減産を機に、取引先を拡大した

・ ユーザーから安定的に取引が行いたいので、自社のみに依存せず他社へ販売ルート

を拡大するよう要請があり、取引先の分散、新規受注獲得努力を行ってきた

③製品特性や素形材企業の技術蓄積などから転注に時間・コストがかかる ・ 重要保安部品を手掛けており、転注には多くのテスト費用と時間がかかり、容易に

転注できない

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素形材取引ベストプラクティス調査

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・ 原材料確保のルート構築に時間がかかる

・ 過去にユーザーからの指導を受けて生産体制を改善・合理化している

・ 転注防止策として、そもそも改善提案の時点で自社でしか生産できない技術を組み

込む

④ユーザーからの発注に対して提案できる体制がある ・ 提案できる人員がいる

・ 提案できる技術力がある

(2)素形材企業の自らへの理解度 取引先と交渉を行う場合に、素形材企業が自社のことを理解していなければ、そもそ

も適切な交渉ができない。

①自社への理解及びその説明能力 ・ 自社のコストや技術を理解するとともに、適時に適切にユーザーに説明することの

できる人材がいること

・ 自社で技術的、能力的に対応できる範囲を認識し、ユーザーにも理解を得ること

②業界団体としての動き ユーザーに要請する際に、他社の状況を横並びで尋ねられる傾向がある。

・ 業界団体内で標準化する

・ 業界団体内で情報交換する

(3)社内体制の整備 ・ 原価計算体制が整備されている

・ ISO を取得している

・ 社内のシステム・仕組みが作られている(受注書なければ生産が開始されない、変

更があった場合には書面で入手する、など)

(4)ユーザー企業とのコミュニケーション ・ 日頃のコミュニケーション(社長がユーザー担当者の名前を覚える、ユーザー担

当者と密な人間関係を構築する、など)

・ 定期的な会合

・ ユーザーに対して理解を得ようとする努力(取引の改善を何度でも訴える、現状

(材料費の高騰など)を常日頃からユーザーに説明して理解を得ようとする、一

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素形材取引ベストプラクティス調査

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般に認知されていない材料費の高騰などは日経新聞の特集記事を活用して訴える、

など)

・ 上位者、決定権限者とのコミュニケーション(改善提案書の宛先を担当者ではな

く担当部長宛にする、企業トップと担当者の意識が違うという認識の下トップ同

士で交渉する、社長が自ら改善要望を行う、など)

・ 理解しやすい交渉(製品の現物を持参する、専門家でなくても理解できる表現の

工夫、など)

(5)事前に合意する努力、新規取引の条件確定 事前合意の重要性を強調する企業は多かった。いったん取引が始まってしまうと、特

に大手ユーザーが相手の場合や、量産品の場合には、なかなか条件が変更できなかった

り、ユーザーの意向が通ったりする傾向が強いため、事前にさまざまな事象やリスクを

想定して、それに対してできるだけユーザーに説明し合意しようという努力がうかがえ

た。

また、一般的に既存取引の条件変更は難しいが、新規部品受注、新規取引先との取引

開始では、条件設定ができるケースが多いと耳にする。新規取引には、海外や他社に転

注したものが戻ってきた場合も含まれる。

・ 新規受注の際の条件設定

・ 取引基本契約書の締結

第 2 節 ユーザー企業の要因

(1)ユーザーの方針変更 ①海外移転の一部国内回帰 本調査においては、海外へ移転したユーザーが一部、主に品質上の問題から国内回帰

しているという声が複数聞かれた。こうしたケースではユーザーは価格よりも品質を重

視する傾向が強いため、素形材企業が提示した価格を、もしもそれが以前取引していた

価格よりも高くても、受け入れる傾向がある。

②系列の解体・再生 ユーザーが安定的な取引を求めて、その他のユーザーの仕事を請け負うことに対して

プラスの評価をしている例が見られる。

現在、自動車産業以外の業界では、ほぼ系列が解体していると言える。自動車産業で

も、1990 年代末からトップメーカー以外の自動車メーカーでは系列解体の動きが見ら

れ、トップメーカーでも系列再編成が進んで系列化企業の自立が焦点となった。しかし、

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素形材取引ベストプラクティス調査

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特に 2004 年末からは、グローバル調達によるコスト削減の限界や購買先絞込みの弊害

表面化、研究開発力の確保目的などから、協力企業との関係強化方針が打ち出されたり、

一部取引先企業の資本が増強されたり、系列組織2が再編成されたりするなど、系列の

利点を見直し、環境変化に対応した新しい「ケイレツ」を模索する動きが見られている。

こうした環境変化の下、自動車トップ企業との取引実績が、量的・質的に対応できた

ということから、他の自動車メーカーとの取引の際に有利に作用しているとのことであ

る。

系列の解体・再生自体は取引慣行の改善やベストプラクティスに直接結びつくもので

はないが、旧来の「系列」つまり系列外取引がなくユーザーが系列外取引を好まない状

態は、ユーザーへの依存度を高めたり、情報が制限されたりすることで、素形材企業の

交渉力の低下につながる可能性がある。

③コンプライアンスの重視、環境意識の高まりなど さまざまな事件の発生や法令整備などにより、企業のコンプライアンスに対する意識

が高まっている。こうしたユーザー意識の変革により、取引慣行上の課題が問題視され、

改善につながっているケースがある。

(2)ユーザー内のキーパーソン ユーザー事例 A-1 で挙げたケースは、ユーザー企業が自ら取引慣行改善活動を行って

いる例で、非常に特徴的な事例である。これは、購買担当経験のない人材が購買部門に

配属され、従来の購買取引の慣行に疑問を抱いたことがそもそも最初のきっかけとなっ

ている。このように、ユーザー企業内の一人の意識が、大きな動きへつながるケースも

見られる。

(3)ユーザーの素形材技術に対する理解 素形材企業が説明することを、ユーザーが理解できるかどうかが、取引慣行の改善に

つながったり、付加価値事例が生み出されたりすることに、大きく関わっている。

第 3 節 外部環境要因

(1)一般社会通念 一般社会通念上、常識とされることが、取引慣行の改善につながる例がある。例えば、

昨今の燃料価格上昇は、ガソリン料金の上昇などで世間一般に認識されている事項であ

2 トヨタ自動車の協豊会など

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素形材取引ベストプラクティス調査

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る。こうした事項については、一般消費者にも理解を得られやすいことから、素形材企

業の要請に対してユーザー内でも対応しやすく、ユーザー自ら対応すべきという動きも

生じやすい。

(2)需給逼迫 昨今の景気回復による需給逼迫は、取引慣行の改善を後押ししている。

(3)公的指針 本調査においても、平成 13 年 7 月に経済産業省から出された、「金型図面や金型加工

データの意図せざる流出の防止に関する指針」(ユーザー及び金型メーカーを対象とし

た、金型図面等の取引や金型技術の管理保護に関する指針)が、図面流出の防止に一定

の効果があったと評価されていたことがうかがえた。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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第 6 章 まとめ

経済産業省では、「素形材産業ビジョン」(平成 18 年 5 月策定)で指摘された取引慣

行の改善を図るため、「素形材産業取引ガイドライン策定委員会」(座長:渡辺慶應義塾

大学経済学部教授)を開催し、学識者・ユーザー業界・素形材業界からなる委員により

検討が行われた。この結果として「素形材産業取引ガイドライン策定委員会報告書」が

取りまとめられ、平成 18 年 11 月に公表された。ここでは、取引慣行上の課題となって

いる具体例を挙げるとともに、その望ましい取引例を示し、それに関連するベストプラ

クティス事例を挙げている。

また、同年 11 月には、素形材産業ビジョンアップデート版も公表された。

こうした動きと並行して、本調査においては素形材産業取引ベストプラクティスを収

集したが、前述した通り、素形材企業においては、ベストプラクティスは一部の限られ

た優良企業にのみ存在するもので、まだまだ自社は取引慣行上の課題に苦しんでいる、

という認識が非常に強い。しかしながら、ヒアリングを進めていくと、個々の企業でさ

まざまな創意工夫や努力が為されており、業界団体として討議が行われるなど、取引慣

行改善に向けての動きは見られ、徐々に広がりつつあると言える。また、実際に本年 3

月の「素形材取引慣行調査」から約半年間の間に、改善が見られた課題(原材料価格高

騰の製品価格への転嫁状況など)もあった。

本調査報告書では、改善が達成された例のみならず、まさに改善に向けて努力が行わ

れている事例や、個別企業の小さな改善努力なども掲載している。これらの事例をも参

考にしていただき、今後、取引慣行上の課題が更に改善されるべきである。

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第 7 章 素形材取引ベストプラクティス調査委員会等

第 1 節 委員会開催・ヒアリングの趣旨

本調査における主要パートとして、素形材産業関係者、有識者の意見聴取を行った。

この手段としては、北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州の 8 局にて、

それぞれ 1回「素形材取引ベストプラクティス委員会」を開催するか、もしくは、該当

局内企業に対するヒアリングを実施する方式を採用した。委員会またはヒアリングは、

浸透を促進すべきベストプラクティスについて一般の理解を得やすくするために、報告

書に掲載する具体的な事例を収集することを目的として行われた。

第 2 節 議事・ヒアリング概要

1.北海道地区

(1)熱処理企業 ①コストダウン要請への対応 ユーザーからコストダウン要請があった際、熱源・生産工程改善など自助努力ででき

るだけ対応するとともに、受注量の増加がコストダウンに寄与すると試算し、ユーザー

に発注量の増大を要請した。その上で、自社で対応できるコストダウンの範囲を確定し、

それ以上の単価引き下げは新規設備投資を抑制するとの説明をユーザーに示した。これ

によって、提示した試算に基づくコストダウンまでの単価引き下げとし、それ以上は単

価を引き下げないことがユーザーに認められた。同社のコスト削減に向けた適正なデー

タの提示により、適正な価格が実現された事例である。

②不良への対応 熱処理において、処理後の部材の曲がりや割れは、一般的には回避することのできな

い事象である。同社では、これらの事象を数値化し、ある一定の基準を確立することに

より、基準の範囲内での保証について、ユーザーと取り決めを交わした。これは、過度

の品質基準を回避すると同時に、同社の技術レベルを最大限取引に活用した事例の一つ

である。

③ユーザーへの提案 同社では、取引先で生じていた不良品の不良原因を検査し、原因を分析することで、

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素形材取引ベストプラクティス調査

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その解決策・改善手法を取引先企業に対して提示する提案型取引を行っている。これに

より、同社の取引拡大と、品質向上による取引先企業のメリットを同時に実現している。

例えば、高価格材料を用いている割に想定より硬度が上がっていないケースの場合、よ

り安価な材料を用い、材質、用途等を吟味し、熱処理工程を最適化させることで、製造

コスト全体が圧縮できることを提案している。

(2)金型企業 ①業況 金型は日本の基幹産業と言われながら、商取引は非常にレベルが低い。欧州などでは

金型業界のステータスが高いが、日本では儲からない業種とされている。顧客は金型が

ほしいわけではなく、製品がほしいため、金型の管理をプレスや成形メーカーに任せて

製品を受領する形をとるようになった。1品当たり製品単価を下げるためにはなるべく

金型代を抑える必要があり、そういったことから金型代がどんどん下がっていった。

金型企業は 1万超あるが、その 8割が 20 名以下の中小企業である。技術が認められ、

それに見合った単価で評価される環境づくりができれば、若い人材も集められるだろう

が、現在は利益が確保できず設備投資もできず、若い人材が集まらず高齢化が進んでい

る。これは、ものづくりの疲弊につながるものである。

通常金型企業はユーザー業種を限定しているが、同社ではどんな業種にも対応できる

技術を保有することで独自性を発揮している。設備投資が必要であり、後続企業がいな

い状態である。

また、夜間に人を張りつけて夜間労働コストをかけて加工機械の稼動を継続させるの

ではなく、ロボットに投資して長時間稼動を可能にして、そのバランスで利益を確保し

ている。

通信回線によるデータのやり取りは一般化している。IT 化したデータ処理方法に対

応しなければならない、新しい分野が金型の中に出てきて、それと融合しなければなら

ないなど、環境が変化し続けている。

②検収 検収については、ネットワークを構築して情報収集するとともに、ミスはなるべく事

前に解消するようにし、事前にユーザーと十分打ち合わせ時間を持つことで問題発生を

防いでいる。

③支払い条件 金型売上の回収は、決済時期が遅く手形受領もあり、支払いが先行するので、余裕資

金が必要である。特殊な同業他社には、開発費の支援があったり、金型代を前払いで受

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素形材取引ベストプラクティス調査

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領したりしている企業もある。しかし、そういった金型企業はほとんどない。

海外では着手時 3 割、中間時 3 割、検収時 4 割という分割支払いが一般的であるが、

日本は良品を納品しなければ支払われず、回収までに時間がかかる。

大企業ユーザーではキャッシュでの支払いが増え、ファクタリングシステムへ移行し

ている。ファクタリングシステムは、銀行へ証明書を提示すれば手形と同様に資金化で

きる。手形と異なり収入印紙がかからないので、その分ユーザーのコストは安い。

しかし、手形決済はまだまだ残っている。

自社からの支払いは、協力会社の資材関係以外は現金決済である。

④図面 図面流出はあまり業界では問題になっていない。

金型は図面ではなく、製品図が来るが、そこから金型設計図に落とす。素材の種類や

向け先業種によって、適切な金型と金型部品が決まる。そういったノウハウを備えて金

型部品を製造することで、スピードを落とさず金型が製造できる。

⑤追加サービスの対応 金型の補修をした場合は、補修代は出る。

⑥取引慣行上の問題 a) 価格設定 ユーザーから金型一型の値段が設定されるが、金型部品に展開した場合の価格設定を

適切に行えるユーザーが少ない。単価設定があいまいである。

時間工数をベースに見積書を作成しユーザーに提出するが、ユーザーからはほぼ値切

り要請がある。しかし、そうした価格設定が適切かどうかは不明で、グローバルスタン

ダードの環境の下、根拠が不明の中国価格を引き合いに出されるが、そういうユーザー

は技術がわかっていない傾向がある。

ただし、そうした状況は改善に向かっており、自社でも値引き要請を拒否できる環境

になってきている。日本のものづくりが正常化の方向に向かっていると思われる。しか

し、コストダウン要請は続いている。

また、見積りのみ提出要請があり、他社への発注価格の参考にされるような事例もあ

る。

金型のすべての材料費が上がっているが、ユーザーに製品価格への転嫁を認めてもら

えず、企業努力で利益を確保するよう言われている。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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(3)鋳造企業 ①見積り 新規ユーザーに見積りを提示した際に、同社のコストを割る低い価格で見積りしてい

るだろうから、赤字が出ないよう同社の現実のコストに基づいて見積りを提示し直すよ

うに、という指摘をユーザーの購買部門から受けた。これは、ユーザーが当該地域で協

力企業を育成しようという姿勢があることと、継続的な取引ができるよう、協力企業に

適正な利益を確保できるようにするという配慮があったためである。もちろん、現在ユ

ーザーが購買している価格よりは低い価格でなければ転注が認められなかったが、ユー

ザーの要請により見積りを再提示して、当初見積りよりも同社のコストに近い単価で受

注することができた。

世界的に見ても、海外へシフトした鋳物が、品質、納期といった不具合から国内に戻

ってくるなど、状況が変わってきているようである。同社でも、単価面で合意せずに海

外へ発注したユーザーが国内へ戻ってきており、当時提示した価格よりも(材料費高騰

などのため)高い見積りで再提示した価格で合意して、取引を開始する例がある。海外

で不良が大量に発生するなど、品質・納期面で問題が発生したユーザーが、価格よりも

品質・納期を重視して、国内供給先を確保しようとする動きが見られる。

②原材料高騰の製品価格への転嫁 ユーザーによっては、キログラム当たりの材料費アップ分としてこの金額は見積単価

に上乗せしてもよい、という連絡が、同社が要請する前にユーザーから来るケースがあ

る。

③取引先との関係 ある取引先からは、そのユーザーに取引を限定せず他社とも取引して売上を拡大し取

引リスクを分散することで事業を安定化させ、長期的な取引が継続できるのが望ましい

と言われている。

また、ある取引先からは、取引開始前に 1年以上経営関係のデータを提出したりとい

ったやり取りがあり、月 1度指導に来ていた例がある。

④取引慣行上の問題 a) 重量取引 重量取引慣行は続いている。従来はユーザーに原価がわかる人材、鋳物の知識を持っ

た人がいたが、現在は購買部門が原価を計算して出しているのが現実である。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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b) 木型保管 いらなくなった木型を、顧客に確認の上廃棄もしくは返却したいという要望があるが、

ユーザーが積極的に話し合いの場についてくれない。木型は数千点保管しており、廃

棄・返却しないのであれば、保管料の支払いが適切である。北海道は、地価は安いもの

の、本州ならばテントハウスで保管できるが北海道は積雪のためテントでは保管できず、

社内倉庫で保管しており管理費もかかっている。

(4)プレス企業 ①業況 過去、設立時に基幹事業だった製品の需要が縮小して、下請け的な製品を拡大せざる

を得なかった。その後、他地域から進出するある製品について部品を納品していたが、

輸送コストと競争激化からその製品について当該地域で同社に一貫生産をするよう依

頼が来て、一貫生産体制を取るようになった。

中国部品に変わりつつあったが、品質が安定せずトラブルが発生するため、現在は半

分日本製、半分中国製という形をとっている。

②材料価格高騰の製品価格への転嫁 原材料費が当初予定より上昇している。従来は注文すれば仕入れができたが、現在は

確保にも時間がかかっている。

工程管理により各工程に分解したレートで受注しているが、材料費のアップをコスト

削減で吸収できない。今年はユーザーに製品価格への転嫁を認めてもらっている。

③発注の変更 小ロット化が進んでいるとともに、発注が遅くなっているので材料の確保に苦慮して

いる。

受注票が来ている場合には、生産着手した部分は支払われるが、計画数量の提示の段

階では、キャンセルされても支払いはなされない。

他社で、大規模発注の内示をもらい 5,000 万円の機械投資を行ったらキャンセルにな

ったという例がある。

④開発段階からの参加 競争激化で既存製品の単価が下がっているので、新製品の開発では、試作の段階から

参加し、作りやすさを徹底的に検討して、不良率の悪いものを分析して徹底的に改良し、

全体のコストを低減させた。量産数量も、加工方法を改良した結果、増加させることが

できた。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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溶接塗装組み立てまで手掛けているが、利益となる加工賃部分の割合が小さくコスト

削減の余地が少ないため、コストダウン要請になかなか対応できない。値上げを認めて

もらわざるを得ない状況だった。材料費と加工賃を分けてもらい、工程を減らすなど生

産改善でコストダウンはできるが、時間がかかる。値上げ要請しなければ会社がなくな

るという認識のもとで価格交渉した。

⑤共同開発 新規製品を開発し、地域の商社と共同して新規受注先を開拓している。

2.東北地区

(1)ユーザー企業 1 ①取引上の課題の改善方法 新製品開発期間短縮及び設計検証強化を目的として、年 2 回、素形材企業 30 社の有

力協力会社と意見交換会を開催している。また、協力会社に対して、取引に関する改善

提案を募っている。改善提案は、問題と感じられる事項について、素形材企業に、現象、

原因、対策案などを具体的に記入してもらう。極力 5W1Hを明確にするとともに、1つ

の課題に対して 1つずつ回答ができるよう、1つの文章では 1つの課題のみ指摘するよ

う依頼している。ユーザー企業から提示している改善提案のフォーマットに良好な取引

関係の構築が目的であること、ただし、担当同士では改善が進まず、協力会社からむや

みに改善要請しても担当者同士の関係が悪化するリスクがあるので、こうした取引に関

する改善活動を行っていることを、明文で記載している。改善提案のフォーマットには、

協力会社が記入しやすいよう、かなり厳しい指摘をしている具体例を例示している。そ

の効果か、実際にかなり厳しい意見も記入されている。

運用は、ユーザー企業の各部門の社内メンバーで行われている。

当初は一つの課限定で開始し、その様子を見てしばらくしてから全社展開された。当

初から全社展開は計画されていたが、一挙に展開して余計な反発が生じるのを回避する

ためである。

改善効果は徐々に出てきているとのことである。開始当初から、すぐに効果が目に見

えるものではなかった。

改善内容は、ユーザー企業内及び協力会社で誰でも見ることができるよう、回答企業

を匿名として分析し、アウトプットとして提示している。インプットがあれば、必ずア

ウトプットを提供することが重要との認識のもと、1つの課題についてそれぞれ対処す

る担当者を決め、担当者名を明記している。

改善提案された場合にはメールで返信して対応が終わるのではなく、ユーザー企業の

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素形材取引ベストプラクティス調査

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社内メンバーが素形材企業を訪問し、説明・協議している。ユーザー企業内でも協力が

得られやすいよう、日頃からコミュニケーションを図っているとのことである。このよ

うな取組により、外部との信頼関係が構築できるものと考えているとのことである。

この活動の契機は、発起担当者が他部門から購買部門に異動し、納期短縮及びコスト

改善のためのプロジェクトに着手する中で、「問題点がわからなかった」ために開始さ

れたことである。「わからないこと」を可視化(オープン化)し、悪い部分は「悪い」

と認識し、ユーザー企業自らが「修正する」ことが重要であるとの認識がある。発起人

の担当者は、入社時に購買部門に配属されていたらこうした取り組みを実施していない

かもしれない、とコメントされていた。

開始から期間が経過しているため、今年、素形材企業に対してこの取り組みの運用に

関するアンケートを実施した。各項目について改善されたかどうかを 5段階評価しても

らい、各項目の改善度合いを数値化し、その要因を分析している。

②改善提案に対する個別項目の対応状況 a)金型発注の遅れによる機会ロス ユーザー企業から金型の発注予告があり、金型メーカーで金型の枠取りをしていたに

もかかわらず、発注が遅れ機会損失が生じていることについて指摘を受けた。これにつ

いて、金型発注に関する全社的な情報を集約しスケジュール化し、極力金型メーカーへ

の機械損失を避けるよう対応した。

b)発注書の遅れ 口頭での発注や、発注書の発行遅れが指摘された。原因を追究すると、ユーザー企業

の社内承認に日数が必要であるために遅れが生じていたことが判明した。これについて

は、内示書を発注決定権限者ではなくその下の課長名で出すことで対応した。原則、こ

うした内示書に基づき発注するが、もしも発注決定権限者が承認せず、実際の発注がな

されなかった場合には、それまでの代金は支払うこととしている。

c)金型検収の遅れ 金型検収の遅れが指摘された。これについて、あらかじめ検査項目を決定してそれを

チェックする方式とすること、及び、金型検収終了の条件である量産開始のために必要

な 3 つの書類(検査基準書、QC 工程表、梱包指示書)を本社側で準備すること(工場

側に準備を任せたことが遅れの一要因だったため)を行った。

(2)ユーザー企業 2 10 数年前、ユーザー企業において、価格変更を過去に遡って入力するとエラーが出

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るシステムに変更し、翌月以降の価格しか入力できないような対応を実施した。

(3)鍛造企業 ①業界環境、経営環境 人件費、設備費などの固定費が重く、価格よりは生産数量の方が、損益に与えるイン

パクトが大きい。月々の受注数量が不安定で、受注計画のばらつきが大きいと損益上厳

しい。

歩留まりや金型の寿命などが損益に影響を与える。そうした要因や、機械設備、会社

規模等から、自社のコストが把握できており、他社と比べ技術的な面も含めて自社の競

争力があるのはどういった部品でどのレベルの生産数量であるかほぼ把握できている。

こうした認識に基づき、発注のばらつきの大きいユーザー・部品への依存度を低め、競

争力が発揮しやすいユーザー・部品の取引拡大を図っている。

②価格体系 自動車関連ユーザーでは、工程によって複数の価格体系がある。すなわち、金型は一

括で別計算されるが、1)試作、2)量産試作の立ち上がりを含むところまで、3)量産、

4)10 年間の補給品、の 4 分類ごとに、それぞれ価格が設定されている。量産試作は、

立ち上げまでの開発期間が 1年などとレンジが長い場合もある。

こうした価格体系は数十年前、取引開始時点からユーザーからの提示により開始され

た。おそらく、ユーザーの部門ごとに縦割り予算になっているのだと思われる。

これらの価格体系のうち、損益が厳しいものもあるが、試作時点で赤字でも量産で稼

いで取り返す、というようなものは受注しないようにしている。試作のみ、補給のみ、

立ち上げの金型設計とテストピースのみを手がけるような鍛造メーカーもあるが、企業

規模が小さい。量産は重量ベースだが、開発はコストベースで価格を認めてもらえるケ

ースもあり、スポットでは試作の方が、採算がよい場合もある。

③補給品、型保管 鍛造はある仕事に対する限定性がそれほど大きくないときもあり、他の仕事にライン

転用できる場合があるので、補給品となった場合に必ずしもラインが空いてしまうわけ

ではない。

なお、量産と補給品の線引きが難しいという問題点がある。例えば、量産数量が減っ

てきたとき、補給品ならば倍率で量産品よりも高めの価格となるが、少量量産品の場合

には倍率が適用されず、量産価格のままである。量が減っても継続的に発注されるもの

については少量部品であるとされ、量産品単価が適用される傾向がある。

ユーザーとの間で価格改定交渉の機会を持つことが出来る。たとえば、月産受注量が

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大幅に減少したときなど、価格改定を要請するチャンスはある。一方で、予定生産数量

を超える場合は、概ねすぐユーザーから単価ダウン要請が来る。固定費が大きいため受

注数量増は損益にプラス効果があり、また、連続して安定的に出荷する方が望ましい。

また、補給品の対応は、1)型を保有したまま倍率価格で対応する、2)例えば 10 年

分打ってユーザーが在庫としてもち、型は破棄してよいという許可がでる、3)例えば

10 年分打って当社で在庫として抱える、などいろいろな対処方法がある。近年では型

は自社所有方式を取っているが、長期的な取引のユーザーが多く、補給品発注が生じた

ときに型がない場合にも配慮してもらえ、話し合いで適切な対応方法を決定することが

できる関係にある。1型製造するのに千万円単位の資金がかかる上、設計・製造など工

程がかかるので、話し合いの上、簡易型を作る、削り出しでユーザーが作る、などいろ

いろな方法で対処している。これは日頃のコミュニケーションがよく取れているかどう

か、信頼関係が構築されているかによると思う。

また、同社は、不況時に他社が廃棄してしまった設備を保有しており、他にはない技

術を有しているとともに、材料もすぐに確保することができず、転注に数ヶ月かかって

しまい、容易に他社へ発注できない、ということもある。ユーザーとしては同社からの

供給が止まり、生産ラインがストップするのが致命的なので、そういったことが発生し

ないよう、同社に対してあまりにも無理な要請はしないという配慮が見られる。

④量産終了後の型保管 長期保存の型については、廃棄の確認を行っており、部品が出なければ廃棄許可が出

る。

数年作っていない部品の発注が 1個来る例もあるが、その場合は 1個では見合わない

ので数個まとめて納品するといった対応をしている。

基本的には、自社保有金型であれば注文が来なければ廃棄し、その後注文が来たらユ

ーザーから新規に金型を起こす許可を得ている。

型保管場所は、現在はたまたま設備投資予定がないため空きスペースがあるが、本来

ならば置き場はなく困る状態である。

⑤設備投資の回収 先方の部品変更があって、工程が増えて機械投資が必要な場合には、即時支払いはな

されず部品単価で回収される。ただし、数年で償却する機械だとすると、話し合いの結

果、償却年限で投資金額を回収する価格設定では同社が損益的に厳しいだろうから、そ

れよりも短い期間で回収できる価格設定とする、などの形で落ち着く傾向がある。

数年前、同社の損益状況が非常に厳しかったとき、技能があるから、よそで出来ない

独自技術があるからということで、こうした支払い条件等に配慮してもらえた例がある。

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⑥型費支払条件 近年では金型は素形材企業が保有しており、製品単価に上乗せして型費を回収する。

例えば、生産計画が 1 万個で、4,000 個のみ発注され、6,000 個の発注がなく型費が回

収されていないとすると、自動車ユーザーでは、補給がなくなれば未回収年数分の型費

が支払われる。なお、かなり昔は型費が一括支払いされており、型はユーザーからの支

給品で、ユーザーが棚卸に来ていた。その方が素形材企業にとっては資金的に望ましい。

⑦支払条件 支払い条件はそれほど悪くないと認識している。

採算が悪化しキャッシュフロー上厳しかった時期に、あるユーザーに対して現金支払

比率のアップを依頼したところ、全面的な現金比率アップは認められなかったが、受注

金額があるレンジを超えた場合には同社の仕入増による運転資金の逼迫を防止するた

めに、現金比率を上昇させるという対応がなされた。

また、あるユーザーに対して、手形から現金支払への切り替えを依頼したところ、あ

るレンジまでは現金支払いで、そのレンジを越えた部分のみユーザーの資金繰りが逼迫

するため手形で対応する、というように、決済条件が改善された。

こうした取り決めの根拠資料は、同社の要望書と議事録であり、契約書は取り交わし

ていない。

⑧開発段階の対応 VE、VA は、契約上ユーザーと同社が 5:5 の利益配分でも、実態は 6:4 になったり

する場合もある。

重要保安部品を手がけているため、改善提案を行っても、変更には莫大なテスト費用

がかかる。モデルチェンジが少ない部品については、なかなか採用されにくい。しかし、

モデルチェンジが頻繁に行われる製品では、モデルチェンジに合わせて VA、VE 提案を

採用し、変更品の採用のためのテスト費用がかからない形式をとっているユーザーもあ

る。

自動車関連ユーザーでは、継続的に品物を供給する体制を崩さない契約が基本にある。

品質上のトラブル防止のため、整形しにくい製品については、公差を緩和する話し合い

を試作段階で行っている。

⑨ユーザーによる見積りの対応 あるユーザーからは、見積りについて、最終金額の高い安いについて云々するのでは

なく、見積り根拠を詳細に確認される。

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あるユーザーの鍛造と機械加工を手がけるにあったって、機械加工の見積りを提出し

たところ、そのユーザーから「この見積りは低すぎて適正ではない」という指摘を受け、

高い見積りで出し直したケースがある。もともとユーザーが自社内で加工していた機械

を購入したので、その機械のメンテナンス費用をユーザーが高く見積もったことと、自

社内の加工費と比較して安かったことが、そうした指摘につながったものと思われる。

その後工程改善を行ったが、その効果は全て同社に帰属することが認められた。ユーザ

ーからは高い評価を得たが、効果の還元は要請されなかった。

⑩付加価値事例 設計者が素形材技術を理解して設計を行うのが最も生産上望ましいので、技術者をユ

ーザーに派遣している。素形材加工がやりやすい形状の提案を行っている。なお、技術

者を派遣する場合はそれほど人材に余裕がないため、受注確率が高いものに限っている。

人員を派遣した場合にはユーザー内の開発情報等が入手できるのもメリットである。

信頼関係ができれば、技術協力が継続する場合、ユーザーに技術人員が常駐しなくても、

自社で開発を行い成果報告のみ訪問する方式が許可されるケースもある。

また、未加工の状態で出荷するならば厳格な公差が要求されるものを、後加工を自社

内に取り込んで施し、公差を緩和する努力なども行っている。

⑪取引慣行上の問題点 a) 重量取引慣行 鍛造は重量取引がベースだが、技術・技能が適正に評価されているかについては、あ

る意味では評価されていないと言わざるを得ない。基本的に価格は市場で決まり、こち

らが出した見積りに基づいて交渉を行い最終的に価格決定される。見積りの際に、金型

代がいくら、これをこう作って何時間でいくら、という計算だけならばわかりやすいが、

技能・技術はその方式では単価に反映できない。継続的に仕事が来ていることが、技術

を評価されている、と言えるとも思う。

自動車トップメーカーはおそらく、キログラムいくらでは買っていないと主張すると

思われる。しかし、受注競争になると、他社と比べキログラム単位で比較される。購買

サイドは合理的にはその方法でしか判断できない傾向があると思う。

ピアシングという穴あけ工法があり、これは後加工が容易になるなどコストダウン効

果もあるが、穴を開けた分重量は減るため、適正な価格で評価されていない、という例

もある。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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(4)切削企業 ①価格決定 価格はユーザーとのネゴシエーションにより決定されるが、一部ユーザーからの指定

価格もあるものの、ほぼ同社が提示した見積価格が了承される。これは、量産品を手掛

けておらず、少量特殊品の受注生産体制をとっているためである。

ユーザーは複数仕入先から購買しており、コスト面で見合わなければユーザーと交渉

し妥協点を見いだすような関係が構築できている。

現在は量産品を手がけていないこともあり、ユーザーからのコストダウン要請はない。

むしろ、最終的にコストが足りない場合には、見積金額を上乗せすることが認められる

場合もあるが基本的にはコストダウン要請は避けて通れない潮流である。

なお、受注の波は大きく、以前ユーザーから、安定的に供給してほしいのでユーザー

一社に依存するよりも受注先を拡大するようアドバイスがあり、事業リスク低減のため

受注先社数を増加させ、受注先の業種も多様化させた。

②支払い条件 手形決済から売掛債権のファクタリングへの変更がすすみ、運転資金的には以前に比

べかなり改善されている。ファクタリングの手数料は手形割引料よりも安く、手形の管

理も不要となった。

③ネットワーク構築 素形材企業数社でネットワークを構築している。ポスターを作成して参加企業と業務

を PR し、ユーザーに対してネットワーク受注によりさまざまな技術・加工の対応が可

能であるとアピールしている。

こうしたネットワークは、異業種交流会や地域的な任意会合、公的な催しでの出会い、

紹介、ふさわしい技術を持つ企業を探して依頼する、などの手段で広がった。自社が注

力したい技術・加工に特化してコア技術を高めつつ、それ以外はネットワーク内へ外注

し、ユーザーに対しては一貫加工体制を売りにすることができる。新販路拡大にも寄与

している。

(5)プレス・金型企業 ①取引先との関係 もともと、系列傘下にあったが分離独立した。旧系列企業以外との取引の拡大を図っ

ている。

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②価格 a) 決定方法 単価決定含め発言すべき内容については、100%発言が可能な環境にある。取引先と

の話し合いは、データをそろえ、説明し、妥協点を見出しあう方法で進めている。主要

取引先とは当該取引先の海外工場への納品が多いので、月 1度定期的に、本社購買部門

と生産計画を含めた打ち合わせを行っている。海外からの情報はうまく入手できないの

で、受注予測はその打ち合わせからの情報を独自のシミュレーションにかけて行ってい

る。生産計画は 3ヶ月先まで予測が出るところが多いが、ブレもある。

単価は、一品ずつ原価計算してユーザーに提示し、話し合いを元に決定するが、提示

価格で了承される場合もあればそうでない場合もあり、ほぼ指値に近い場合もある。

新規製品はある程度原価が回収できる単価が通るが、既存品は従来よりも単価が低く

なければ受注できない傾向がある。

b) 原材料価格高騰の対応 昨今の原材料高騰を受け、従来は半年に 1度価格会議を行っていたが、ユーザーとの

話し合いの上、現在は一定範囲の原材料変動があった場合には、四半期に一度価格提示

の機会が持てるよう変更した。なお、この会議は原材料費のアップを交渉するのみなら

ず、コストダウン努力を含めた値決め提案の場である。

昨年 10 月も材料価格が上がったが、それをユーザーが負担するという意識が業界内

で浸透していなかった。現在は、大口取引先でも、材料の上がった分はある程度負担し

なければならないというエンドユーザーの意識が浸透してきており、提示価格を承認し

てもらえる割合が上昇してきた。

あるユーザーとは、一部材料については建値スライド制をとっており、毎月値決めを

している。

c) ユーザーのコストダウン要請、低価格要請への対応 現状では、受注量でカバーできるものなどはぎりぎりまでは対応するが、赤字が見込

まれるものは極力受けないようにしている。自社でしかできないものもあり、赤字で受

けざるを得ないものもあるが、その場合は、期限を決めて価格を上げてもらうか、一定

の量を決めておいて、それよりも発注数量が減ったら価格を上げてもらうことなどを取

り決めておくようにしている。

また、ユーザーが低価格設定で拡販する方針を採用する戦略商品については、当初か

ら価格設定上採算が厳しい。プレスは、生産スピードや生産量で相当採算が変わってく

る。ユーザーに拡販のため販売価格を抑えたいという要望があれば、例えば月産 100 万

個と月産 3,000 万個では同じものでも原価構成がまったく違うので、月 3,000 万個売れ

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素形材取引ベストプラクティス調査

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るものならば当初は価格を抑えて納品することもある。その場合には、低めの単価設定

には対応するがその分発注量を通常よりも増やすよう交渉する。こうした量的な提案、

生産性改善の提案(使用金型個数や公差アップ等)をして、ユーザーに承認されなけれ

ば、ユーザーの定期的な年 1~2度の価格ダウン要請にはなかなか対応できない。

③金型 a) 製造管理 社内で金型を製造している。PC 上生産実績を管理しており、半年に一度設備投資計

画を各部門が作成して取りまとめており、更新金型の製造時期はそれで判断できる。金

型製造の外注先を数社抱えている。

金型は打てるショット数を保障しており、ショット数を増やしたり打ちやすい金型に

変更したりすることで、生産性の改善を図っている。

b) 金型費の支払い及び保管 主要取引先については、更新型は同社の負担で製造する。これは、10 数年前から契

約書で定められている。更新型のコストは原価の構成項目にはなっていない。

生産計画よりも増産になった場合には、計画以上の金型代は追加的にユーザーから支

払われる。

生産計画よりも減産になった場合には、当面同社で金型を保管する。保管費用は受領

していない。保管金型については、半年に 1度、5段階評価(生産に寄与している、○

ヶ月に 1度使っている、○ヶ月以上受注がない、壊れている、など)を施し、受注がな

いもの、壊れているものに加えて、1年間使用していない金型は除却申請し、承認を得

て除却している。申請は概ね承認が得られ、除却費用はユーザーが負担する。また、廃

番は顧客から連絡がある。

また、金型更新料は 100%顧客もちのケースもある。この場合も保管料は受領してい

ない。

c) 知的財産管理 以前はユーザーの要請に基づき、金型図面の提出をしていたが、数年前から経済産業

省の指針を理由として断るようにしている。海外で金型をコピーして作っているところ

もあるようだが、形は作れても肝心のショット数、金型寿命がもたないようである。

④開発段階からの参加 最近は、ユーザーに原価低減の意向がある場合には、開発段階から同社の営業が参画

し、技術的な協力、生産しやすいような改善提案を行っている。また、金型についても、

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従来は提示された図面に基づいて金型を製造していたが、最近は提示された図面につい

て改善提案を行っている。

(6)鋳物企業 ①業況 過去、もともとの主力製品が鋳物以外の製法に切り替わった経験がある。今後も、現

在の主力製品が鋳物以外に切り替わる可能性がゼロではないが、主力製品の製造で蓄積

した得意技能を活かした方向性を保つ。

なお、数年前に海外へ移転したものが、国内へ戻ってきている状態が見られる。高く

ついても国内で調達、という方針なので、こうしたケースでは、鋳物企業が提示した価

格見積りが比較的承認されやすい。なお、輸送費を見積価格に乗せており、通常は距離

面のハンディがありそれを理由に発注できないと言われることもあるが、一度海外にシ

フトしていた遠方のユーザーからも引き合いが来て取引が開始する場合もある。

今は仕事量が多く見積りを辞退するような状態であるが、提示した見積りが通るかど

うかは別問題である。採算割れ部品は受注しないようにしている。

②生産数量予測 取引先から、ある部品の生産打ち切りとの情報伝達が遅れて、予定通りの出荷がなさ

れず在庫がたまってしまった場合などは、交渉次第で材料代程度はユーザーに負担して

もらえるケースもある。

③価格 a) 見積り方法 自社で材料費や、実績値を参考とした工数を入力すると、見積単価が算出できるシス

テムを開発し、見積り作業が容易になった。実績値をバックデータとして抱えているの

で、ある程度正確な原価の見積りは可能である。ただし、このシステム上は加工難度が

高いものや技術的な部分は原価計上が難しい。ユーザーの指定したフォームで見積りを

行うが、他社の相見積りとの比較しやすいためか、利益率まで記入するフォームもある。

b) 補給品 補給品については、量産単価とは別に見積りを出し直して承認された例もある。一度

海外へ移転され国内へ回帰したものについては、現在需給が逼迫していることもあり、

新たな見積りが通りやすい環境にある。

なお、ユーザーのマスターシステムに登録してあるから、という理由などで、量産単

価や従来の低い単価で注文が来る場合もある。特に乗用車は予定価格があるためその傾

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向がある。

c) 原材料価格高騰の対応 一部原材料が約 6倍に高騰し、その材料を使用する製品は採算悪化で苦しんでいたが、

遡って値上げが認められた例がある。

また、半期に 1度コストダウン要請が来るが、現在は原材料費高騰でとても対応でき

ずユーザーもその事情はある程度は理解しているので、コストダウンは受け入れていな

い。

④型費支払い及び旧型保管について 型費の支払いは償却方式で、以前は 3~4 年で回収だったが、現在は 2 年に改善され

たユーザーが多い。

数年前ユーザーからの要請に基づき、保管型について台帳を作成し、受注のない型、

不要な型については申告し、1年に 2回棚卸を実施している。廃棄許可はユーザーから

文書が来ている。生産台数が予定より少なく型費が回収できていなかったものについて、

申請して認められたものは型費が支払われた。

現場に型を保管する場所がなくなり、毎日運搬車で運んでくる工数がかかるようにな

っているような状態である。どこの鋳物屋も共通の悩みである。

⑤不必要な精度要求への対応 鋳物は JIS などである程度の公差は許されているが、現在は CAD/CAM で形状データが

提示されるケースが増えおり、時として、寸法公差が狭く作りにくい製品が求められた

りすることがある。JIS の許容公差や、ユーザーの標準公差を示し、実現不可能な精度

であることを説明して納得してもらうようにしている。他の素形材企業でもこういった

話は耳にする。

⑥無償サービスへの対応 従来、市場投入後の製品の寸法変化や組織変化などの調査を無償で依頼されていたが、

現在は見積りを提示すれば、調査依頼書として料金が支払われる状態である。

⑦クレーム対応 市場クレームについては、自社内の品質管理部で担当者がチェックし、明らかに弊社

以外の要因が原因となっているものはクレーム費用について交渉している。これはだい

たい承認されている。

また、鋳物は不良率が高いと言われているが、同社よりも不良率の低い近隣の同業他

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社から品質管理について指導を受けている。また、工業技術センターからも指導を受け

ている。地元の大学には、材質の共同開発に名前を連ねてアイディアを入手するなどの

指導も受けている。

⑧開発段階からの参加 数十年前から、主力製品で蓄積した技術を生かしてユーザーの設計や実験部門と共同

で開発を行っている。

⑨その他問題点 重量取引については、ユーザーからキログラム単価は鋳物企業が使い始めたと言われ

ることもあり、その評価法を止めるなどの対応は難しい。また、薄肉軽量化については、

ある大学の先生が、日本では現在は薄肉化技術を評価する環境が整っていないというコ

メントをしていたこともある。実際、薄肉化は不良も発生しやすくコストがかかるが、

薄肉化して見積単価を上げると発注できないといわれたこともある(軽くなるから安く

なるのでしょうといわれたこともある)。

3.関東地区

(1)熱処理企業 ①取引条件の変更 取引条件の変更のためには、常に交渉を行うことが重要である。また、常に交渉を行

うための土台作りとして、日頃密な人間関係を構築しておくことが最も基本的で重要な

ことである。

取引条件の逆提案は常に行っている。大手取引先は年 2回価格改定がありコストダウ

ン要請が来るので、そのたびにスペック変更や社内の生産手法変更による生産性向上等

について提案を行う。新規製品を受注し、半年~1年経過後加工方法を工夫して提案す

るが、年々コストダウン要請が来るので、そのせめぎあいとなる。こうしたコストダウ

ン要請は、景気には関係ない。こうした価格改機を捉え、値上げ交渉を行っている。そ

のための準備に 1ヶ月半から 2ヶ月かけている。

取引慣行の改善提案を行う場合、同社はなんらかのサービスとセットで行うことが多

い。例えば、熱処理業者がカゴに雑然と入れて納品するのは現在でも見られるが、それ

を指定パレットに整列させ、ユーザーがすぐにロボット自動ラインの工程に投入できる

ようにしたり、防錆塗装をしたり、ビニールをかぶせたり、といった付加的なサービス

を提供している。ユーザーにとっては複数の業者を経由したり社内で防錆塗装する必要

がなくなったりなど、手離れがよくなりメリットがある。

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付加的な加工を施すと在庫が増えスペースが必要になるため、一般的な熱処理業者で

は対応が難しいが、同社にはスペースがあり、簡単な機械加工、塗装などの付帯作業を

行うための場所が確保できている。こうした付加的作業については、単価が安いことも

あり、コストダウン要請の対象からは外れることが多い。熱処理設備は高額投資である

が、こうした付加的サービスのための投資は熱処理設備よりは小額であることもあり、

継続的に実施している。

顧客満足充足がよく謳われているが、言葉だけで実行が伴っていないことが多い。い

かに顧客に使われやすくするかをいつも考えるよう従業員に言っている。納期厳守など

当たり前で目立たないことを大事にしている。

ユーザーに対して常に現状を訴えることも価格引下げ要請の防止手段である。熱源は

あらゆる分野で影響があり日常生活にも関わりがあるので認識度が相当高いが、特殊材

料などはそれを使用するメーカーにしか関わりがなく、認識度が低い。新聞の特集記事

などがあった場合にはそれを活用して、ユーザーの購買担当窓口に対して、日頃から啓

蒙を行う努力が必要であると考えている。

基本契約書中に、法律専門家には分かるが素人には分かりにくい文面があったので、

具体的な文章を付加するよう、今年変更を行った。このように、常日頃から書類・文書

の扱いを慎重に行うことが重要だと考える。

②原燃料価格上昇の製品価格転嫁について 新規の見積りは現在の原価で出すことができその価格で通りやすいが、もともと取引

があり継続しているものはなかなか値上げが通らない。バイヤーも発注先を広く保持し

ており、安値で受注する企業は探せばだいたい出てくる。昨今は受注量が多く、需給バ

ランスは改善しているが、それと価格交渉の成否は別である。

価格交渉を行う際は、必要と思われる以上の資料は提出しない。矛盾を指摘される可

能性が高まるからである。また、現在は価格変動が激しく時点情報となってしまうので、

その点も指摘される可能性がある。取引先との信頼関係を構築し、日頃のコミュニケー

ションで現状を訴え顧客を啓蒙しておき、交渉時には概算数字で交渉を行っている。

③重量取引について 取引はキログラム売りで重量ベースである。熱処理も容積で加工するため、表面積が

多ければ加工は難しいが、重量ベース取引だと薄型で複雑な形状のものが逆に単価が安

くなってしまう。

大手の協定価格は昔から決まっているので、それに少しでもはずれた新規のものの引

き合いが来たら、協定価格に順ずるのではなく、それはあくまで参考値として、新規に

見積りを出している。

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④有償支給材料の早期決済について 業界で問題化している有償支給材料の早期決済について、当社は取引開始時点で防止

策を講じている。当社では無償支給が主であるが、有償支給の場合材料代を早期支払い

しても口銭はもらえないので、材料費の支払いは 2ヶ月後に支払う、熱処理加工日数プ

ラス数日の余裕をみて、当月○日までの材料支給分を支払う、納品した分のみ支払う、

といった取り決めを、30 年以上前から実施している。材料費がコストに占める割合が

高いので、熱処理加工費とのバランスを考えると対策を講じなければ大変なことになっ

てしまう。基本契約は共通なので、こうした取引条件は見積書と注文書の最初に謳うこ

とで対応している。自動更新なのでこういった対応で問題は生じていない。

⑤提携 同業数社と提携を行っている。設備競争を回避し、自社の得意分野で仕事を融通し合

うなど市場確保、新分野開拓のメリットがある。過去裏切られたり抜け駆けされたりし

たこともあるが、稼働率確保が重要な熱処理業界にとってはシェアの確保が優先事項で

あり、提携メリットを追求している。ユーザー交渉の成功例の共有化なども行っている。

これら外注先とは特別な提携契約はなく、紳士協定である。また、前述の付加的サービ

スは、提携先同業社でも実施している。

⑥手形取引 数年前まで 7~9 ヶ月手形があり、検収からカウントすると 9~11 ヶ月の支払いサイ

トとなっていた取引先があった。2年間毎月、手形受領時に経理担当者に改善要求を行

い、その後社長に直接交渉し、1年かけて 4ヶ月のサイトに短縮を成し遂げることがで

きた。

(2)プレス企業 ①決済条件 手形については、特に同社で行動を起こしたわけではなく、成り行きベースで現金化

が進んでいる。ユーザーの方針だと思われる。

②事前合意の重要性 試作、金型設計、金型製作、量産などイニシャルからランニングまでプロセスが多く、

実際に製造開始してからなにかが起きるのがものづくりであり、事前に全てを想定して

全て合意交渉することはできない。しかし、こうした最終の製品出荷までの段階で何か

が起きると、交渉してもパワーバランスで負けることが多いのが現状である。事前に発

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注時点でどれだけ定められるか、合意できるレベルの条件をクリアできるかが鍵となる。

なるべく合意できる事項は合意し、旧来の日本的経営から契約社会的に変わっていかな

ければならないと考えている。

③開発段階からの参加 生産準備の段階で後の作業が全部決まるので、開発の段階から下請け企業が参加でき

るかどうかで、その後の設計変更の回数を減らしたりできるかどうかが変わってくる。

ロスが生じるとどんどん蓄積され下工程にしわ寄せが生じる。ある例では海外での立ち

上げを予定していたが現地メーカーが対応できなくなり、通常半年かかるものを 1ヶ月

で製造するよう依頼が来たこともある。

④企業の実力の向上 半期ごとに価格引下げ要請がある。形式上は顧客からの依頼の形を取っているが、中

身は強制である。これを乗り越えるためには、外部から見て客観的な企業の強さを持っ

ていることが必要である。それがなければ最終製品が成り立たないなど、実力を上げ、

他の会社でできない加工をたくさん持つ、特許の中でも「製品」特許を申請することな

どが挙げられる。

⑤取引先の分散 10 年前まではユーザー1社依存で、ユーザーの成長に応じて規模は拡大したがそれ以

上は成長しなかった。数年前にそのユーザーが海外へ生産拠点を移転し、受注が半減す

る事態に直面した。当初は営業に力を入れていたが、営業人員を採用しても当社の技術

を理解していないため、図面をもらい形を見たときに、金型をどのように作り、いくら

かかるのか、といった技術営業ができず、うまくいかなかった。このため、地域有力メ

ーカー勤務で、幅広いネットワークや取引関係等の情報を有した営業マンと交流を深め

情報を収集し、1社依存体制から脱して現在は複数の取引先を有している。

⑥改善提案 トップが苦情を申し立てて問題提起し、ひとつずつ解決していかないと物事は進まな

い。実務担当者レベルでは解決しない。改善提案文書の宛先を実務担当者ではなく担当

部長クラス等上司宛にする、などの配慮をしている。

成功例として、自社でしかできない加工技術を織り交ぜつつトータルでコストダウン

になるような提案を行い、大きな受注を確保できたことがある。転注防止策としても、

自社しかできないような加工方法を提案するなどの手段を講じている。

細かい提案を重ねている。企画書だけでなく現物を持っていくと採用率が違う。技術

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がわからない相手に対しても、技術的な説明をわかりやすく行い、例えば改善提案 1は

現在と単価が同じで強度が上がる、改善提案 2は現在と強度はそれほど変わらず価格が

下がる、と効果を数値化して認知しやすい企画を提示している。

⑦量産終了後の金型の保管に関する対応 商用車向けの売上比率が高い。乗用車ならば 10 年たてばほぼ補給品は出ないが、商

用車は 20 年国内で供給後、海外で売り出されその後も補給品が出るような状態で、一

回の供給が数個レベルの場合もある。補給品の価格は 20 年前のままである。金型倉庫

を数箇所賃借しており、各工場にも金型を保管している。商用車は種類が多く、1アイ

テムに複数の金型が必要なので、金型数は多数となる。契約は部品ベースで行っている

が、素形材企業には部品の供給責任があり、型廃棄は自己責任とされている。同社でも

金型を廃棄後、製造が復活した部品があり、損失を被った例がある。

型保管数を減らすために、型がないとできないもの(三次元形状の絞りなど)以外は

廃棄するなどの対応を行っている。

型保管料を減少させるために、他地方の遠隔地で保管している。本社工場に比べ坪単

価が 1/10 以下で、保管に係るトータルコストが安い。ただし、効率の悪い遠隔地での

保管が、本社工場での保管よりもコストが安いのはおかしいと考えている。また、どこ

でも行っている対応だと思うが、金型保管自動機や材料保管自動機を導入し、物流費を

削減している。

(3)金型企業 ①発注予告キャンセル、延期に対する対応 電話一本で発注予告が取り消される場合もあり、キャンセル料という概念がなく、発

注側に有利な状況になっている。金型の場合はそもそも、キャンセルではなくて延期が

多いので余計に機会ロスの期間が伸びることが多い。発注ロスについては、複数の仕事

を受けて、機会ロスが生じないようにしている。このためには会社の規模拡大が必要な

ので、人員を増やし人材を育成中である。また、後工程の量産も手がけている。更に、

受注に波があるので、受注量を多めに確保して仕事がこなしきれない場合に外注できる

協力先を数社確保している。同社の金型製造のやり方を同業他社と共有化し、外注して

も問題なく仕事をこなせるよう、出向者を数人受け入れている。古くからの金型企業は

一匹狼気質があり、「経営者」ではなく「技術屋」が多い傾向があるが、同社では、ノ

ウハウを提供して協力していく方向を採っている。ノウハウを提供する際の、ノウハウ

流出の懸念については、自社がどんどん新たなノウハウを蓄積して技術的に先んじるよ

う努めればよいと考えている。同社の金型には中国でも高く売れるものもある。

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②契約条件確定努力他 業界としては、契約書のフォーマットを統一する動きがある。ただし、いろいろな種

類の金型があり標準化できない部分がある。

同社では上場企業をターゲットとしており、10 年前から新規顧客に対しては、基本

取引契約書を取り交わすようにしている。大手取引先の場合は契約期間が開始した後は

条件変更が難しいので、極力、最初に条件を話し合い定めるようにしている。

数年前の不景気時に、採算の悪い発注を獲得することを控え、ISO を取得したが、現

在それが大手ユーザーとの取引に有利に働いている。

③コストダウン要請への対応 ユーザーの担当者ベースで価格ダウン要請があり、常に悩まされている。もともと旧

来的な金型企業はどんぶり勘定の傾向があるためか、値引き要請をされると即座に何

十%も値引きする金型企業もある。こうした対応では、ユーザーが見積り根拠に不信感

を抱く懸念があると考え、同社では値引きしないようにしている。なお、値引き要請を

断る場合、担当者が上司に説明しやすいような資料を提出するようにし、ユーザーの担

当者と関係に配慮している。

実際、金型は企業の状況により原価が異なり、ユーザーにはわかりにくい部分がある

と思う。工場を自前で持ち、人を雇い、機械を入れ償却して事業を行っている企業と、

十数人の規模で十年以上設備投資を行っていない企業とでは、原価が変わってくるのは

当たり前である。

こうした状況下で、金型企業は他分野企業と比べられると値引く傾向があり、金型メ

ーカーは見積りに対して説明責任を果たしていないことが多いと感じる。材料がいくら、

設備がいくら、こういう設計思想なので全部でいくら、と、きちんとユーザーに伝える

べきである。

④支払条件 一時海外ユーザーと取引を行っていたが、着手時に手付け金を 3~4割受領していた。

国内ではそういった支払条件のユーザーはなく、検収時に一括売上計上で、翌月現金振

込みである。国内メーカーが海外に進出した場合には、海外企業との取引では手付け金

を支払う決済条件を採用しているが、日本国内では適用していない。手付け制度は、キ

ャンセル時の機会損失の穴埋めにもなるが、そもそも海外は検収時一括支払い方式では

(特に中国系ユーザーなどは)回収リスクが高いため、手付け受領方式でなければ仕事

が受けられないということも言える。国内上場企業については、与信情報を取ることも

できるが、海外では与信管理が困難である。

2~3 年前、国内の全取引先に手付け制度をベースとした分割支払い方式への変更を

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要請したが、受諾されなかった。そもそも大手ユーザーからは、分割支払の仕組みがな

いと回答された。

商社ならば商品に流通性があるからよいが、金型には流通性がないので、同社は約

20 年前に支払い方式を手形から現金払いに切り替えた。

⑤ノウハウの流出について 現在は、組み図は出しているが、図面は出していない。ノウハウにも技術と技能があ

ると思うが、同社は技能の部分に強みを持っている。マシニングで CAD/CAM を活用して

図面を引くのは学生でもできるが、同社のノウハウは研磨が主であり、蓄積がないと対

応できない部分である。図面に関する経済産業省の指針が出る前から、図面は出さない

と断って取引をするようにしていた。

⑥検収について 金型の検収については、日頃の信頼関係から、検収条件を全てクリアしていなくても

検収を上げてもらえることもある。また、ユーザー事情で遅れている場合には、検収を

あげるよう対応してもらっている。

検収条件を明確化している。検収の可不可についてのユーザーからの返答期限を、納

入後1週間以内としており、不可の場合には理由も明示してもらう。同社の取り扱い製

品は、外観のバリなどの不具合や寸法公差が条件となっているが、金型の種類によって

はより微妙な基準を満たす必要があるものもある。

以前は検収についても問題があったため、10 年前に顕微鏡を購入し自社で検収の合

否判断をできるようにした。

図面をもらってそのまま作るのではなく、作成着手前の最初の打ち合わせで、問題と

なりそうなことは予測して討議するようにしている。

量産を開始してうまく打てない原因としては、量産の条件、材料、もともとの顧客の

製品設計などの要因がある。顧客はうまく打てなければ金型企業か量産企業に改善を依

頼していたが、その両者間で改善に対するアプローチの違いからうまく調整できないこ

とが多かった。つまり、金型企業は形状などの問題と捉え理論に基づいて改善案を提示

していたのに対して、成形企業(特に古くからの企業)では勘の部分が大きいため話が

かみあわず、改善討議が難航しがちだった。こうしたこともあったので、数年前に量産

用機械を導入し、自社で良否を判断して良品を作って顧客に提示できるようにした。

当時は試作的に行っていたが、量産を手がけるようになったときはエンジニアを採用

した。量産はものづくりというよりは品質管理で金型製作とは性質が違うので、人材の

採用が必要と判断した。現在は量産機械を数台保有している。量産ラインを社内に保有

していると、量産の条件、材料などを加味して、量産条件をこう変更すればうまく打て

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る、などと顧客に詳しく説明することができる。また、同業者に対してもこの条件で量

産化したらこういった問題が生じる、こうした説明では量産企業の立場からすると見づ

らい、など量産企業の立場からの技術的な指摘が可能である。

⑦2 号、3 号型の転注について 2 号型以降は、設計分は差し引いて値付けしている。

以前はメンテナンスするからという理由で図面を要求され、転注先の 2、3 号型に使

われ抗議したこともある。現在は図面を出していないのでそういった問題は生じていな

い。

(4)鋳造企業 ①取引先との関係 多品種少量生産を行っているが、企業としては系列的で、大手ユーザー1社が全取引

の大半を占めている。

作ることができるものの限界をユーザーに理解してもらっている。限界を超えて無理

をするとロス発生リスクがあるので、多品種少量といいつつ無理な対応はしない方針で

ある。

数年前の不況時には、生産数量と比較して人員数に余剰感があった時期もあったので、

高齢者に休業依頼した時期もある。当時、得意先から木型保管費の名目で、運転資金の

援助を受けたこともあった。なお、現在は、木型保管費は一切受領していない。

②重量取引に関係する対応 重量の小さいものに適した工場ではないため、数年前にある一定の重量以下のものは

手がけないと決定した。従来受注していた軽量品は外注するとユーザーに伝え、外注化

するので従来の単価よりも上がることを前提に、複数の同業者をユーザーに紹介し、そ

の中から外注先を決定してもらった。あまり多くの種類のものを扱うと、材料の管理費

がかかりロスも増えるので、扱うものと扱わないものの線引きをしている。

③改善提案 ユーザーの設計段階から参加し、「こうすれば製造しやすい」等、試作の段階から指

摘している。数十年前はもらった図面でどう作るか考えていたが、現在はもらった図面

に対して改善提案している。

④独自性 同業他社があまり保有していない設備を有しており、その点独自性がある。

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製造から数日で納品しており、ユーザーは在庫を持っていない。海外調達も難しい製

品で、競争相手がいない。当社が操業停止すると得意先も操業停止になる状態で、ユー

ザーのラインが同社の休みにあわせて止まるような状況にある。

⑤木型保管 木型はユーザー持ちで支給されている。木型は外部倉庫を借り屋内保管している。取

引先との合意を書面化し、あるユーザーとは 4年間未使用の木型(計画がない場合は 3

年半も含む)の廃棄リストを提出し、処分費、運送費をユーザー持ちで廃棄している。

廃棄した木型番号とトラック積みした写真を証拠として提出している。数年前からリス

トに上げた木型の廃棄は全て承認されるようになった。

こうした対応は、ユーザーに自社工場の視察に来てもらい型の保管状況を見せて、か

つ自社の資材部のリーダーに対してユーザーからの受注が止まっていることを確認し

たことをきっかけに徐々に実現した。当社からの納品を確保することを重視しているた

めか、ユーザーからクレームはない。木型はもはや受注のための人質ではないので、こ

うした対応を行っている。

自社内に鋳造部門があるユーザーには、3年間未使用のものは返却している。廃棄要

請があることもあるが、廃棄費・運送費は先方負担、もしくはトラックでいつでも引き

取り可という依頼をしている。

一般的に言って、場所があると保管木型数が多くても気にしない傾向があると考えら

れる。同社は場所が狭いのでこうした管理をしており、工場内にはその日に使う木型し

か置かれていない。1年以上使わないものは遠隔地で保管している。

現在木型は数ヶ月で更新している。この磨耗による廃棄費も先方持ちである。

なお、型に関する費用の請求については、同社はシェアが大きい取引先があるのでわ

かりやすいが、シェア 10%ずつで 10 社だと管理が困難かもしれない。

⑥原材料アップの製品価格転嫁 保管料の名目で、口頭により単価を 10%引き上げ要請している。年 2 回半期前に単

価会議があり、ここ数年は単価上昇が承諾された。材料費上昇を吸収でき若干プラスが

ある程度の上昇率だが、人件費アップまでは吸収できていない。スクラップや副資材含

め全ての単価リストをユーザーに提出しているが、要求した単価引き上げの全ては認め

られておらず、話し合いの結果決定されている。現場の状況を知ってもらい、何度も請

求することが必要である。

⑦型の変更 木型は同社が製作しており、木型の設計変更についてはユーザーから代金を受領して

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いる。製品の製造開始後の変更は、製造した製品分の代金も受領している。

⑧ユーザーの鋳造技術に対する理解 自社内に鋳造部門があるユーザーは鋳造技術を理解している。鋳造部門を持たないユ

ーザーは、ここ数年、年に 2回設計者が同社に研修に来た。現場で実際にモノを作って

もらい、鋳造技術を理解したうえでの設計をしてもらっている。

⑨発注 現在は注文書の個数変更を可能としている。例えば、「10 月 2 日に 10 個納品」との

注文書が来て、9月に 4個、10月に 6個と分割納品した場合には、分納した 4個分の発

注書をもらい、10 月の 6個分よりも先に売上代金を回収している。

取引先の大半が大手ユーザーなので書面発注である。残りの数%の同業他社などから

も発注書を受領している。受注管理上、注文書がなければ現場に発注できない仕組みを、

10 年前から全社的に構築している。それ以前は先に仕様書が出ており、製品の納品後

に発注書が出ていた。鋳造の工程管理も行っており、製造のどの段階にあるかが把握で

きている。納期が決まっており、遅れるとユーザーのライン停止にかかわるので、こう

した厳格な管理が必要である。

⑩環境対応コスト 数年前に処理装置を入れ替えた。通常の再生装置は砕く方式だが研磨方式の機械を入

れたため、砂の購入量が半減し、材料添加量の減少で材料費も削減することができた。

4.中部地区

(1)熱処理企業 ①ユーザーの海外支出 海外へ生産移転したユーザーが、熱処理工程において材料に起因する品質上のばらつ

きが生じるために、現地企業へ発注できないというケースがある。現在は一部の海外で

は材料の質が一定せず、一度良い材料が入ったからといってもその後それが継続するか

わからない状況である。その結果一部の需要は国内回帰が見られる。ただし、海外でう

まく対応できたものは戻ってきておらず、再度海外移転をチャレンジするユーザーもあ

るだろう。そうしたリスクから、設備投資をしたくても手控えている状況である。

海外への移転を要請されることもあるが、一企業として採算が合わず、リスクも高い

状況である。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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②重量取引慣行 工程ごとに単価は一個単価で算出して提示しており、取引慣行上それほど問題はない。

ユーザーがコンピュータ化したことでキログラムベースの入力ができなくなり、個数単

位の入力になった。ただし、加工対象の材料が一定しない場合などは、重量ベースで値

付けした方が適正と思われるケースもある。

③知的財産の扱い ノウハウはできるだけ開示していない。ヒートチャートは提示しておらず、口頭での

説明としている。

また、ある部品をユーザーと共同開発した際、研究開発部門では承認されていた開発

費用が支払われず、購買部門ベースの製品の「売買単価」のみの支払いだったため、ユ

ーザーに工程を一切開示していないという例がある。

④取引慣行上の問題 a) ユーザーの生産計画 同じ輸送機器でも、四輪自動車は生産計画に対して実際の生産量がそれほど変動しな

いが、二輪は生産量が大きく変動するので、3 日前~1 週間前の発注数量が最も信頼性

が高く、その対応に苦慮している。

b) コストダウン要請 定例的・継続的な、根拠のないコストダウンが経営上圧迫要因である。工数低減すれ

ばコスト低減は可能だが、工程変更になり、この承認がおりず、コストが下げられない、

というジレンマがある。ベンチマークテスト、市場化テストを行い、軽微な変更でも 1

年半程度の期間を要しコストもかかる。その間に他の機能が出てくれば、そういったテ

ストも意味がなくなる。試作と量産が立ち上がるまでに仕様変更が入るが、価格ありき

で話が進むため熱処理企業が提案する変更は認められにくい。

コストダウンについては、経営改善効果があらかじめ加味された価格となっている。

以前は、3年間程度の開発によるコスト低減を猶予するなどの対応があったが、現在は、

コスト低減効果分はすぐに製品単価に反映され、改善効果が素形材企業に帰属するのは

半年そこそこである。

c) IT 化 電子取引化が進んでいるが、統一フォーマットがなく、ユーザーごとに対応しなけれ

ばならず、取引管理コストが上昇している。将来的に、コンピュータ投資とそれに貼り

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付ける人の問題がある。

こうしたコストは製品価格に反映することが認められない。

d) 品質管理 ユーザーに社内的な規格があるので、許容される範囲を外したり変更したりすること

は難しい。ユーザーが技術を理解せず単純に数学的な仕様を要求されるため、ユーザー

の内部規格や JIS 規格を提示して同社が変更を求めるケースが増加している。

(2)鍛造企業 ①重量取引 同社では重量取引はほとんどない。技術的な問題などあるので、重量だけで価格が決

定できない。

②補給品支給 量産からサービスパーツになったときに、量産価格から条件変更して再見積りしよう

という動きがある。

③今後の方向性 リスク分散のため、一部の取引先の依存度を下げており、鍛造でできる加工に関して

の技術開発を進めている。

大企業グループの子会社は、最終的に大企業の支援があるのでコストダウンしても赤

字にならないが、補填されない独立系中小企業は苦境にある。下請け的な立場を脱却す

るために、自社製品を持ちたいと考えている。そのためには人材確保、人材育成も重要

である。

海外に進出して利益が確保できた同業者は少ない。日系企業ユーザーから系列的な枠

を超えて受注すればよいと言われても、実現は難しい。今後は、海外ではできない技術

開発をしなければならない。

また、単価の交渉は、鍛造技術を理解してもらうために、自社工場の一ラインをユー

ザーに貸すので実際に生産してみてから、適正な単価で発注してもらうなど PR してい

かなければならない。素形材に利益確保ができなければユーザーも技術力が低下すると

いう認識を持ってもらう必要がある。

④取引慣行上の問題 a) 型保管 量産からサービスパーツになったときに、金型を永久に保管するよう要請するユーザ

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ーもある。保管コストがかかり、税法上も償却後 5%の残存価格が帳簿上残る。

また、金型保管料は、コストダウンと相殺になって認められていない。コストダウン

は、総コストで下げるのか、個別項目で下げるのかの違いはあるが、いずれにしても要

請がある。

b) コストの適正な製品価格への反映 昨今の原材料費アップについて、支給材は問題がないが、自給材は製品価格への転嫁

が認めてもらえない。材料と加工費を分けずに総単価が決定される。

原材料費アップで、副資材価格が連動して上がっている。設備投資額も上昇し、環境

問題もあり、間接コストが上昇傾向にあるが、間接費アップに対するユーザーの理解が

薄い。

ユーザーには素形材企業の適正利潤を認めてほしい。購買部門だけではなく、ユーザ

ーの技術・品質管理部門が一緒になって適正な製品コストを考えてほしいと思う。設計

段階から参加して、その上で見積り提示するのが望ましい。

なお、再見積りは、小口ならば了承されることもあるが、量産品についてはコンピュ

ータで単価登録されているので、値引きはできるが個別に価格上乗せは難しい。

(3)鋳物企業 ①原材料費高騰の製品価格への転嫁 コストアップの製品価格転嫁は、メインユーザーでは、主要材料については認められ

ている。副資材関係の価格が上昇しているが、それがどこまで認められるかは課題であ

る。

②重量取引慣行 ユーザーによっていろいろ対応が違う状況である。依然重量ベースの取引はあるが、

重量取引でも問題がない製品もある。また、ユーザーの業界によって、受注生産で量産

しない工作機械業界などは重量ベースが多く、自動車部品などの量産品ならば一個いく

ら、という値決めになっている。

③製品価格決定について 継続受注品の値上げ要請は認められないが、転注して戻ってきたものの値上げ(再見

積り)は承認される傾向がある。現在は需給が逼迫しているので、実際に採算が悪いも

のは断っている。

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④原価計算モデルの整備 重量取引を続けていたのではいずれ共倒れになってしまう。正しいコストを売価に反

映させるには、まず正確な原価を把握しそれをもってユーザーを説得しなければならな

い。そのため業界として、原価計算モデル作成委員会を作り、原価計算の費目を統一し

たものを作ろうとしている。大学の先生にも参加してもらい、年内にモデルを構築し、

業界に普及させよる予定である。鋳物にはいろいろな種類があり、コスト計算の仕方も

違うので、単品もの、量産ものに分類して原価計算モデルを作成する予定である。

⑤型関係

a) 廃棄費用 不要な型の廃棄費用を、負担してもらえる企業と、負担してもらえない企業がある。

負担してもらえるのは、そのユーザーに不要な型の保管場所があるかどうか、ユーザー

の環境意識はどうか、などからではないかと考えている。

b) 保管料 型の保管料は支払われたことがない。

⑥その他のサービス、コスト a) 運送費 ユーザーが運送会社を手配するので、短納期対応は特に問題となっていない。

⑦取引先からの改善指導 ユーザーに仕入先改善グループがあり、ユーザーから我々に対して、我々が気づかな

い点に関するアドバイスがある。それに基づいて、改善に取り組んでいる。

⑧取引慣行上の問題

a) 補給品 補給品になっても、単価が変わることはほぼない。

b) コストダウン要請 継続的なコストダウン要請が半期ごとにある。改善効果が継続して出せればよいが、

それも限界がある。

c) 素形材企業の責任ではない不良補償 素形材企業の責任ではない不良補償はない。後工程で削って不良が発生すると、その

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加工賃など仕損費は、従来は 3割素形材企業の負担であったが、それが7割になり、現

在では 100%負担するようになっている。補償を求めてこないユーザー業界もある。

d) 型費の支払い条件 型費は、素形材企業から型メーカーへ金額にかかわらず一括で支払うのに対して、ユ

ーザーからの型費の支払いは、従来は一括で支払われていたが、現在では 2年間で支払

われるケースが多い。業界によって対応が違い、一括で支払われる場合もあるが、自動

車業界ユーザーでは 2年払いが多い。

(4)プレス企業 ①取引慣行上の問題

a) 原材料価格高騰等コストの製品価格への反映 コストダウン要請は相変わらず継続している。

現在の素材関係の動きを見ると、材料費はインフレで製品価格はデフレとなっており、

付加価値が減る状況である。主要材料で、今後の見通しが立たない値段の上がり方にな

っているものもあり、特に支給ではない自家調達材料については苦慮している。

b) 補給品支給及び型保管問題 型は、例えば家電業界ユーザーならば、7年間発注がなければ廃棄許可されるが、も

しも 6年目に発注があれば、それから更に 7年間支給の保証が要求される。また、メー

カーで 20 前以上に作ったもので問題が発生しているが、ああいったケースの場合、金

型は破棄しているので対応ができない。

c) 型費の支払い条件 型費支払は、自動車業界ユーザーは 24 ヶ月の分割支払いで、それ例外の業界のユー

ザーは一括支払いである。自動車業界ユーザーでは、生産台数が当初計画よりもマイナ

スの場合には、未回収型費は一括で支払われている。最終的には回収されるが、素形材

企業には先行投資負担が生じる。

d) 知的財産の扱い ユーザーが金型図面の提出を要請するのは、経済産業省の指針もあって自粛されてい

るが、「共同開発」の名目があれば、ユーザーは図面を受領できる状態である。さまざ

まな手段でユーザーが図面を入手しているケースがある。

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e) ユーザー内の部門間の情報共有不足 ユーザー内の部署が違うので発注判断できないということがある。コストがかかるこ

とは特定の部門が判断するので、例えば、設計・品質部門からなんらかの改善要請があ

ったとしても、コストがかかることであればその支払の判断は購買部門が担当し、設

計・品質部門との情報共有がなされていない。大企業で品質、購買、設計が一体化して

いる企業は見たことがない。

②取引慣行改善の方向性 ユーザーは素形材企業を「工場」と捉えており、どこに発注しても同じで、育成しよ

うという意識は見られないように感じる。プレスは次世代になれば合併などが進み素形

材も交渉力がつくのではないかと考えている。

(5)金型企業 ①業況 金型企業は、従業員数 20 名以下が 8 割超を占めている。小規模企業の集まりの業界

であり、金型専業メーカーは利益を確保できていないところが多い。業界内でプレスな

ど部品供給も手掛けている企業が好況であるという温度差がある。また、後継者問題な

どで以前に比べて型メーカーが 3割減少している。

金型の性質上、受注の波が比較的激しい。

10 年後を見据えて、業界でどうしたらいいか話し合いを行っている。

大手ユーザーの海外進出の問題がある。得意先の海外進出が小ロット化し、海外で分

散している。この影響で、国内の金型コストが「高い」と認識されてしまう。

②知的財産の扱い 顧客から金型データ提出の要請がある。CAD/CAM データについては、メンテナンスの

ために渡さなくてはならない。ただし、加工の方法については提出しなくて良い、と金

型工業会で共通認識を持っている。

③発注予告キャンセルの防止 金型発注予告のキャンセルによる機会ロス防止のためには、開発段階から参加し、ユ

ーザーの情報を入手する手段もある。

④取引慣行上の問題 a) 型保管 PL 保険に入っているなどコストがかかっている。

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b) 人員派遣上の問題 ユーザーに人員の応援を出していたが、そのユーザーの社員として引き抜かれてしま

った例がある。

c) ユーザーの仕入先管理上の問題 ユーザーが、自社工場のように素形材企業の発注先を管理している。株主関係がない

のに決算書の提出を要請したり、ユーザーのフォーマットで経営情報の提示を要求され

たりしている。

d) その他 ユーザーは、担当者レベルと経営者の情報レベルが異なっているため、意識が異なっ

ているケースがまま見られる。

大手企業が子会社を設立し、中小企業向けの支援金を利用している点は問題視してい

る。

また、数年前までは信頼がおけたユーザーが、購買担当者が若手に変わってから状況

が変わってきているケースもある。

(6)共通事項 ①品質保証 長期の品質保証が、いつまで責任があるのかが大変な負担がある。実態としては、例

えば保証した距離数走行した時点で壊れるのがもっとも望ましいが、そういうわけにも

いかず、また、人命に関わることであれば保証せざるを得ない。

5.近畿地区

(1)鋳造企業 ①業況 銑鉄鋳造は 6割が自動車であるが、現在好況で、その他のユーザーの建設業界、工作

機械も伸びている状況である。

同社の取引先としては、以前は自動車業界がメインだったが、取引を縮小していった。

自動車のマスプロの取引形態に同社がそぐわなかったためである。具体的には、型費が

一括で支払われず一個ずつ製品単価に割り振りされる、型は資産台帳にずっと載ったま

までリスクが鋳物企業にある、購買担当者の方針次第で値段が市況とは別に決まる、な

どである。

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②型保管 多品種少量化が進んでおり、型の保管はネックとなっている。長期間受注がないため

廃棄すると、その後で発注があれば、賠償しなければならない。ユーザーが鋳物を理解

していればあまり無茶な要請は来ないが、鋳物をわかっていないユーザーほど要求が厳

しい。

また、型費の支払いは発生しても、検収がなかなかあがらないケースがある。

③重量取引 過去のユーザーとの取引では重量基準が多かったが、現在は、見積りの方程式を説明

すれば理解は得られる。ただし、最後にはキログラムでいくら、という話になる。自社

の原価が客観的にわかる業界標準的な仕組みが、エクセルのような簡単もので構わない

ので作成されればよいと思う。

取引が始まる最初の段階で見積りをする際に、重量も重要なファクターのひとつであ

るが、ユーザーからの文書で重量当たりいくらと記載されている場合もあれば、鋳物企

業としても自社の原価がわからずに、他社の重量価格と比較して考えることもある。

重量が大きなファクターであるが、見積り時点での基準になる重量が不明であり、鋳

物企業が独自で重量計算など工数を掛けて見積りを作成する。一方鋳物企業の中には、

単にキログラムの値段だけの提出もあり標準的なフォーマットが必要である。

④原材料価格アップの製品価格への転嫁及びコストダウン要請 原材料価格のアップは、交渉すれば製品へ転嫁される。鋳鉄は配合があるので、一律

な値段はユーザーにはわからないので、交渉して上げてもらっている。

現在は材料費の上昇があるので、継続的なコストダウンは免れている。

⑤不良への対応 鋳物は品質不良が比較的発生しやすく、後工程のユーザーの機械加工費まで求償され

るケースもある。製品の難易度によっては免除される範囲もある。

あるユーザーとは話し合いで、品質不良として免除される範囲を確定した。更にその

ユーザーとは次期の不良率目標値を定め、改善運動を行って不良発生率低減に努めてい

る。例えば、現在 5%の不良率を今年度末には 1%に改善するよう目標を立て、今年度

中は 1%までは不良が発生しても費用請求しない、というような取り決めがなされる。

また、あるユーザーでは調達先が何社かあるが、安定調達できるよう不良率の目標を

定めて、不良について調達先と改善状況の研究会を実施している。

このように、単に不良発生の結果、補償を求められるのではなく、共同して改善の取

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り組みを行っていこうという姿勢が見られるのは、鋳物技術をわかっているユーザーで

ある。

⑥周辺コストの支払い 以前採算が合わないからと受注を断り他社へ放出されたものについて、ユーザーの要

請で 1個納品してくれと注文が来た場合の輸送コスト等は、転注される前の元の発注先

では認められなかったが、現在は支払われている。

⑦知的財産の扱い 極力、ノウハウである鋳造方案は提示しない方針である。

⑧提案型営業 現在は、特化した技術をコア技術として、ユーザーから相談が来たら提案型営業がで

きるように事業を育成している。

(2)金型企業 ①業況 金型は量産の基であり、顧客にとって金型を使うことで付加価値を上げる、投資と見

てもらえるか、コストと見られるかでかなり扱いが異なる。製品のライフサイクル上、

立ち上がり、成長期は、型屋はユーザーから品質向上を要請されるなど、よい立場で取

引ができるが、成熟期、衰退期には型に極力コストをかけたくはなく、値段重視となる。

よって、製品の立ち上がりにいかに関わることができるかが、生き残りの道となる。

技術が乏しかった時期には、ユーザーとの関係は親子もしくはよくても兄弟で、対等

の関係は維持できなかった。技術の質が向上し、高度な基盤技術を有していれば関係は

変わってくる。高度な基盤技術をいかに継続的に開発していくかが鍵である。この際に

中小企業にとってネックとなるのは、ヒト、情報よりも、第一にはカネ(資金)である。

②知的財産の扱い 以前は、自社で作成した図面がまわりまわって海外から戻ってきたことがあったが、

現在は指針が出ており、ユーザーにかなり認知されている。金型を作る目的である場合

には、図面は提示していない。外観保証はつけている。

③支払い条件 海外では、前払金方式の支払い条件もある。

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④ユーザーへの提案 図面が出され、自社の技術・製造方法に合うように改善提案するが、技術がわかって

いるユーザーは図面の改善提案を承認される傾向がある。技術がわからないユーザーは

承認されにくい。

また、もともと付き合いのあったユーザーに対して、開発した技術をもとにコラボレ

ーションしよう、と提案を持ちかけている。

商材開発、研究開発ができ、業界内で最初に市場投入できるようなユーザーと付き合

いがあったときには、値引き要請もなく、金型企業からも他から得たノウハウを提供し

つつ、対等なパートナーの関係が維持できていた。このように、中堅ユーザーで技術力

があり、自社の金型を欲する企業と密接な関係を築きたいと考えており、こうした企業

との関係をどう構築するかが課題である。

(3)ダイカスト企業 ①業況 業界全体として、バブル崩壊後 10 年間苦境に陥っていたが、現在は自動車業界の好

調に支えられている。経済産業省の統計上は、アルミダイカストは年間生産量 100 万ト

ンを超えており、20年間毎年 10%以上伸びている極めて恵まれた業界と言われている。

ただし、従業員 100 名以下の中小のダイカストメーカーは、15 年前と比較して半減し

ている。つまり、大手、上場企業、およびカーメーカー・部品メーカーの内製ダイカス

ト生産が増えていると言える。生産能力としては、中小企業が概ね 500 トン以下の設備

を有しているのに対して、大手は 1,000 トン以上の機械を保有している。中小企業はそ

れほど恵まれた状況ではない。

②取引慣行上の問題点 a) 金型保管 金型保管は大きな問題である。数年前から業界をあげて、複数のダイカスト業界団体

が共同して金型の返却や保管料支払要請をしているが、改善の見通しがない。

自動車を中心として、補給部品は 10 年の補給義務があり、例えばめったに使わない

金型なので、保管はするが倉庫料の支払いを交渉しても、ほとんど断られる。

b) 量産時の型費 製品償却で、短期間に型費が回収される予定ならば、資金負担上は一巡すれば問題は

生じないが、金型寿命ショット数で更新型を持たなければならない場合は、先行して資

金負担が生じる。こうした更新型の資金負担はユーザーからは配慮されない。

また、金型メーカーへの支払いは通常通りなされても、ユーザーの検収がどれくらい

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かかるかわからない状態にあり、忙しいから検収があがらない、検査できない、という

理由や、その製品が廃止になりそうなので検収待ちの要請が来る場合もある。

また、金型メーカーへの支払いは通常通りなされても、ユーザーの検収がどれくらい

かかるかわからない状態にあり、忙しいから検収があがらない、検査できない、という

理由や、その製品が廃止になりそうなので検収待ちの要請が来る場合もある。

c) 知的財産 製品単価は低いが金型代が高額である。金型代を製品償却しない場合は金型が完成す

ると金型代をユーザーに請求し、ユーザーの資産となる。このため資金負担はないが、

なにか不都合があると金型を引き上げられ、拒否できない。なんらかの事情で引き上げ

られた場合、金型の方案や製造法などの知的財産が金型にそっくり含まれている。その

所有権がどこにあるのか、どう評価して処理するかが問題である。現在は、金型製作に

かかる工数コストしか認められず、ノウハウ料は基本的には認められていない。

また、将来の製品の開発を行う場合、ユーザーの開発部は予算を持っているため開発

費は支払われるが、機密保持契約の内容はユーザーに有利な傾向が多い。ユーザーには

法務部があり、これに対抗するには、弁護士費用がかり、対応できない。

CAD が普及してから、コンピュータ上は図面が描けるが、現場の経験がないユーザー

担当者が増えており、図学のことから先方の設計者に教えなければならないようなケー

スもある。

大手ユーザーの内製部門に、自社の生産現場を見られるとノウハウの流出になる。ユ

ーザーに質問されると答えないわけにはいかないが、他ユーザーと共同開発しているも

のは見学や質問を断っている。

③不良発生時の対応 ユーザーの品質要求が不必要なレベルで厳格になっている傾向があり、良品は上限と

下限の間になければならないが、生産管理がうまくいっていなければその範囲に入らな

い。また、出てきた品物を見て後追いで調整するので、絶えず機械の調整を行っている。

金型だけできていてもそれだけでは製品ができないほどの品質が要求される。そういっ

た管理を要求されないものは、単価競争のみになっている。こうした管理コストがかさ

み、製造間接費が上昇しているが、特に自動車業界のユーザーは、エンドユーザー価格

から逆算したトータルコストからはじいたダイカストコストを要求してくるので、状況

が厳しい。

不良発生時に、1個不良が生じると当日に遠方まで選別に来るよう要求するユーザー

もあるが、自社の技術を評価してくれるユーザーには、ラインに投入する時期がいつだ

からそれまでに代替品を送るように、と配慮をもって要請がなされる会社もある。

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よい関係が構築できているユーザーでは、ユーザーが原価計算積み上げの時点で不良

率を加味しているはずなので、不良率の設定は何%か、そのうち素材不良は何%を確認

し、その範囲の不良発生費用は還元してもらい、材料も戻してもらうよう要請し、受け

入れられているケースがある。

④設計変更費用、追加・付加サービスの支払い 海外ユーザーとの取引で、新製品を作るとき、ユーザーでの設計変更があり、金型の

納期が大幅に遅れる、金型の改造費用が計画よりもかさむ場合でも、何の問題もなく追

加料金の支払いがなされる。国内ユーザーは支払いが即時になされず調整が入る傾向が

ある。

また、海外ユーザーからの受注で、同社の海外工場で設計、金型製造を行い、日本で

試作し量産を海外工場へ戻す、という計画だったが、日本でしばらく先行生産して空輸

で金型を海外へ郵送したとき、その郵送費は即時に支払われた。

海外ユーザーからの受注で、設計が適切でなかったので指摘したところ、海外本社に

招かれ、購買担当者やエンジニアに説明したが理解されず、最終的に専門家の博士に説

明して自社の指摘が正しいと認められた。その際の交通宿泊費は全てユーザーが負担し

た。

⑤原材料費高騰の製品価格への転嫁 国内ユーザーでは、原材料アップは早いもので数ヶ月、遅ければ半年遅れで製品単価

に反映されている。運賃も上乗せできない状況である。契約書や見積書には、材料費は

スライド制と明示してある。

海外ユーザーとの取引では原材料の価格スライド制を採用していたが、LME(国際マ

ーケット=ロンドン相場)にプラスアルファした価格が基準として定められていた。

⑥契約書の整備 ユーザーの大半が自動車業界向けで大手なので、基本契約書は必ず結ばれる。個別部

品の発注は注文書である。6 ヶ月先までの内示が来て、3 ヶ月先、月次の情報が来て、

来月分の情報が来てカンバンを受領するが、量が変わって修正が入る。その際の正式な

注文書は後から来ることが多い。

⑦見積り 欧米のユーザーは、見積書の条件設定もきちんと確認しており、条件が変われば価格

も変わるとの認識がある。

国内メーカーは条件を度外視して値段だけ確認していることが多い。

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⑧共同開発など 設計段階からの開発参加については、自動車の場合現在の詳細な情報は 2年以上先の

製品の情報であるが、それが漏れると車のモデルがわかってしまうなどいろいろな問題

がある。

ダイカスト業界には、現在特許切れになっており、当時開発しきれず製品化がなされ

なかった技術がある。それを掘り出してきてユーザーと共同で開発を行い、世界初の画

期的な量産技術加工が可能となり受注が増加した。その技術自体は共同開発したユーザ

ーに限定されているが、その技術を横展開して、ユーザーのトータルコストの低減が実

現でき、交渉力が増加した。このように、ユーザーにもコストダウンというベネフィッ

トを付与しつつ、価格的に自社に有利な取引を行うことができる取引が実現できた。

(4)熱処理企業 ①業況 自動車や建設機械の需要増でフォローの風が吹いている。

賃加工商売である。ユーザーからの発注が小ロット化しているが、固定費が重いため、

24 時間操業体制を取っているものの、いかに稼働率を上げるかが鍵になる。

大手ユーザーの内製も多かったが、技術の向上などで専門に任せた方がよいとの意識

もあり、近年外注が増えている。

バラエティに富んでおり、付加価値が高い加工もある。海外へかなりシフトしていた

が、海外で鍛造されたものが海外で熱処理ができないということで、鍛造も含めて国内

へ回帰した例もある。熱により組織を変更するので見た目だけでは熱加工がうまく施さ

れているかわからないこともあり、信頼のできる発注先が求められている。特に自動車

の重要部品などでは、熱処理技術の高いものが求められ、海外の管理体制では応えきれ

ないものもある。

加工の後工程なので、めっきとともに、前工程の遅れが蓄積されるため、納期的に非

常に厳しい場合がある。

②ユーザーの技術理解促進 ユーザーが自社で規定している規格を理解しておらず、JIS 規格などを提示して許容

される例がある。自社内で素形材技術を理解している人材がいる場合は、そういったこ

とはきちんと認識されている。

③共同開発 ユーザーとの共同開発も行っている。図面が出て、自社の加工にあうような改善提案

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素形材取引ベストプラクティス調査

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をしても、技術がわかっているユーザーであれば認めてもらえるが、技術がわからない

場合には了承されない。既にユーザーの図面で進行しているので変更がきかないケース

もある。

6.中国地区

(1)鋳造企業 ①木型について

a) 木型廃棄料 木型の廃棄料が支払われるようになったユーザーがある。このユーザー内部でコンプ

ライアンスを監視する組織ができたので、木型の廃棄は、産業廃棄物として道路や山奥

に廃棄するとユーザーまで遡って責任が問われるので法令違反リスクがあると交渉し、

廃棄費用の支払いが了承された。数十社の取引先のうち、廃棄費用が支払われるように

なったのは 1社のみで、今後も継続的に支払われる見通しである。

廃棄費用の算出根拠としては、トラックで運搬できる重量をベースとしている。同じ

車両でも、小さい木型ならばたくさん載せられ、大きいものは隙間ができそれほどたく

さん載せられない、といった違いはあるが、平均的に、「廃棄型数/車両 1台に載せられ

る数(=車両搭載可能立米数/木型 1 型の立米数)×車両 1 台当たり廃棄コスト」で算

出した金額について、ユーザーと廃棄費用として合意した。

廃棄方法は、産廃業者に引き渡して産廃業者が処理するか、自社で廃却設備を設ける

やり方や、リサイクル処理などいろいろあるが、いずれにしても手間がかかるので、中

間処理費用分をユーザーが負担し、実際の処理方法は素形材企業が決定すればよいと考

えている。

なお、現在、鋳物業界の産業廃棄物の「鉱さい」は、厚生労働省が「管理型」に埋め

立てをする様に指導されている。産業廃棄物の「鉱さい」を路盤材として再利用する時

は、有害物質の湧出物が無いことを確認して鉄片を分離し、大きさを整えれば路盤材と

してそのまま使用できると国土交通省は指導している。この様に再利用を行える物は再

利用し、それ以上の物は国土交通省の定める有害物質が無いことを確認して、「安定型」

廃棄処分場の埋め立てるのが普通と考えられる。このように省庁間により考え方が異な

る場合、どこかで調整していただきたい。

b) 木型保管料の対応 鋳造業界として、健全な取引慣行で共存共栄を図るため、木型に関わる取引慣行の改

善を図っている。まず、保管料はいくらかかるか、廃棄料はいくらかかるか、会員に調

査を行い、地域差はあるにしろ、適正金額の水準を指標として出そうと計画している。

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また、保管料については、鋳造協会が覚書の雛形を作成しているが、文面を弁護士など

に照会していないので、その点も確認しつつ、書類や文言もあわせて整える予定である。

上記の事例で廃棄費用とともに保管料も交渉していたが、保管料支払いは認められな

かった。これは、廃棄費用が法令違反としてわかりやすく話がしやすいこと、廃棄費用

は全国レベルでほぼ同じような金額となるが、保管料は都心と郊外の地価の違いなども

あり、標準的な額が一律では提示できないことなどが要因であると考える。保管料も法

令違反なので交渉は継続しているが、ユーザーも横並びで対応するために、適正金額は

いくらなのか資料を出すよう要請を受けている。ユーザーにこうした料金支払いを要望

すると常に「よそはどうなっているのか」と横並び的な話が出る。このため、鋳物協会

などで討議を行い情報共有化すれば、交渉が容易になると考えている。

ユーザーとしても、コンプライアンスの観点から、受け入れやすい内容だと考える。

c) 木型変更費用 木型の変更費用は、ほとんどの企業から受領できている。

②補給品対応 鋳物メーカーはここ数年転廃業が見られ、その部品の移管を受けることがあるが、同

時に保有品を数多く受けることになる。部品は数点でも、リスト上非常にたくさんの補

給品がついてくることが多いためである。その際、もともとの型がそのままでは使えず、

次の造形機に合わせて作り直す必要等があり費用が発生するので、型を起こすかどうか

の線引きを行った。すなわち、ある数まで出るものは型を作り、今後受注がなさそうな

ものについては打ち切りとし、グレーゾーンについては在庫を持つ、と分類して対応し

た。実際の納品実績に基づいて、こうした対処方法をほぼルール化している。

(2)鍛造企業 ①技術の理解促進 価格交渉するたびに、鍛造がよくわからない、内容(金型の耐用年数、一型いくらな

のか等)がよく理解できない、と言われるユーザーがあった。この改善のために数年前

から、ユーザーから同社への人員を数名受け入れ、数ヶ月研修して、鍛造をよく理解し

てもらうようにしている。また、ユーザーの開発・設計段階でなにが求められているか

把握し、それに迅速に対応できるよう、鍛造メーカーの技術人員も数名ユーザーに派遣

しており、よい効果が出ている。開発期間をどう短くするか、どうやって早く立ち上げ

るかにも着眼点を置いている。

地場協力企業として ISO9000 及び 14000 の取得指導があり、4年前に取得して現在体

質改善の手法に大変役立っている。鍛造専業として人材育成及び品質改善に良い効果が

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素形材取引ベストプラクティス調査

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出ている。

②原材料価格アップの製品価格への転嫁の状況 材料は極端に上がった部分はほとんどのユーザーが理解を示し、世間一般で認められ

ている程度の製品価格の値上げが認められた。しかし、金型価格のアップは認められに

くい。金型製造費用がキログラム当たり約 50%アップし、特に鍛造の金型代が高騰し

ている上、鍛造では金型代が原価に占める割合が大きい。全国的に鍛造メーカーが型代

アップに基づく値上げ交渉を行っているようだが、なかなか受け入れられず、一部受け

入れの兆しが見える地域もあるが、まだ価格アップにはつながっていない。型費上昇分

を全てユーザーに転嫁するつもりはなく、半分以上は自社の企業努力で、加工費で吸収

する予定であるが、認められにくい状況である。

ある自動車メーカーには、一部(交渉割合の約 1/5)の値上げが認められた。交渉の

方法は全ユーザー共通だが、値上げが認められたのはそのユーザーの環境によるものと

理解している。そのユーザーから、値上げが認められなかった部分は企業努力で対応す

るよう言われた。

金型以外の材料価格アップの中で、材料の大手メーカーに対して、ユーザーから価格

交渉がなされ、材料メーカーが承認したことがあった。つまり、素形材企業だけではな

くユーザー自らの交渉によって価格交渉が認められた。

(3)熱処理企業 ①品質管理 現在大変問題視されているのが、品質問題である。主要ユーザーは数年前からISO9001

の認証取得を促進していた。こうした要請が素形材企業にとって人的・コスト的にも負

担増だったのは事実だったが、結果的には、それ以降無駄な経費支出が避けられたと言

える。熱処理で品質問題がもしも発生したら大問題となるので、ユーザーからの指導が

入ったり、ユーザーから発注先に横並びで品質向上の競争を促進させたりしたことで、

のちのち無駄なコストが削減でき、素形材企業の経営上効果があった。

現在、主要ユーザーとの取引は、ISO14000 も必須となっている。

②知的財産について ある製品の開発に当たって、新技術の基本的部分をユーザーが考案し、それを基に同

社がテストして開発し、ユーザーがパテントを取得して、その製品が同社に発注されて

いた。しかし、当初予定より発注数量が減り、予定年数の半分で発注が終了して設備投

資の回収ができない、という状況に陥った。この際、ユーザーとの交渉の結果、条件付

きながらパテントの使用許可が出て、その投資の償却をほかの顧客の発注に振り向ける

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ことができた。開発段階で、本来ユーザーが負担すべきテスト費用などをユーザーの要

請で同社が負担した部分もあったので、そういったことも含めて交渉した。

③原材料価格アップの製品価格転嫁状況 熱源価格アップの製品価格転嫁は、スライド方式ではなく個別依頼方式である。値上

げ依頼はしているが、了承されていない。装置産業なので、受注の絶対量が増加してい

る現在はそれほど損益に大きな影響はないが、受注量が減れば損益圧迫要因となる。な

お、市場価格に連動する方式を採用すると下がる場合もあり、スライド方式と個別交渉

のどちらが望ましいかは判断が難しい。

(4)プレス・金型企業 ①補給品支給 家電や工作機械等さまざまな製品の供給期間が限定されており、打ち切りが決まれば

供給されないのに対して、自動車はエンドユーザーとの供給責任に打ち切りがない。こ

れは、エンドユーザーと自動車メーカーとの取引慣行であると言えると思う。量産後

10 年以降も部品を欲しがるのは特別な人で、趣味的な分野に入ると思われる。試作レ

ベルで部品を作ることは可能であり、供給はゼロにはならない。現在同社は旧型を2,000

型弱保有しており、大変な負担となっている。もしも半減すれば、かなり状況が改善す

る。

年間数個しか出ないものがあり、古くは支給金型方式だったが現在はほとんど自給金

型なので、ユーザーに対して保管料の請求はできない。注文があるとどこに置いてある

かわからないものを探し出して、使用できる状態にメンテナンスしてから製品を打つよ

うな状況である。

また、補給品価格は、量産単価の何倍という値段が決まっているが、実際はそのコス

トでは作れない。10年以上のものは量産品の 3倍基準(15 年以上が 10 倍)となってい

るが、5、6倍でも値段が追いつかないものもある。

②開発段階からの参加 デザインインなどで、前工程の開発段階に参加するようになり、設計変更の無料サー

ビス、技術評価の単純化などの取引慣行は改善されている。

そもそもユーザーの開発に参画した経緯は、ユーザーが急成長してユーザー内で人材

が少なかったときに、自社の人材を一緒に育ててもらう形から始まった。

そして、次の段階では、ユーザーから開発領域を任せられるような協力企業を育てた

いという要望があった。ユーザーと、その分野の開発で先行していたユーザーの競合先

である同業他社の関連企業と、自社で、3社合弁会社を設立した。合弁会社に競合先関

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連企業から人材の派遣があり、派遣された人材から自社に対して指導を受けた、という

珍しいパターンで開発力をつけることができた。

③ユーザーとの共同改善活動 現在主要ユーザーでは共同改善活動が実施されている。これは、全協力企業に体力を

つけるために生産性向上を目指すもので、個別テーマは 100 くらいあり、モデル職場を

作って協力企業数社が共同で一つの生産ラインでどうやって生産性を上げるか、などの

活動を実施するものである。古くは 30年前にもユーザーで生産性向上運動が実施され、

そうしたユーザーの指導もあって、生産性が上がり世界一との評価を受け、受注拡大に

つながった。また、ユーザーから支援を受け共同で活動することが、コストダウンにつ

ながった。ただし、ユーザーから要請されるコストダウンが、それですべて解消される

わけではない。コストダウン要請が、改善活動でカバーできるようなレベルになればい

いと考えている。

④型費の支払い条件 型費支払い条件についての取引慣行は、完全には改善されていないと思う。金型を買

い上げ貸与する形式が最も望ましいと思う。これまでの歴史的な型費の支払条件の推移

は、古くは買い上げ方式だったが、ある時点から生産台数での単価上乗せの回収方式と

なった。予定通りの台数が出れば順調に回収でき、また、長期的には不足分が最終的に

買い上げられるならば結果的には回収できるが、回収期間が長期で資金負担がある。現

在法定償却年数が 2年だが、実際の回収期間は現在 3年の予定である。大きい金型なら

ば先行投資で、半年前から製作に着手するものもあり、金利だけでも金額がかさむ。買

い上げ方式ならば金利もかからない。

⑤原材料価格アップの製品価格転嫁 コストアップの製品価格転嫁は、メイン材料は支給材なので、自社には材料アップの

損益影響はない。ただし、支給方式だと、どういう材料がよいかといった、情報面で弱

くなる傾向がある。あるメーカーでは、市況に応じて変動する方式をとっているらしく、

そうした方式ならば情報の欠如は生じないと思う。

金型については、かかった費用にかかわりなく、言い値で値段が決まる状況である。

⑥原材料価格アップの製品価格転嫁 金型については、自給ならば図面の所有権は自社にある。しかし、ユーザーから要請

があれば、ユーザーが図面を必要な理由を聞いた上で、対価を支払ってもらい図面を提

供している。

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(5)ユーザーの取り組み、ユーザーグループとしての共同取り組み ①災害発生時の対応 ユーザーで災害のためラインが止まり、協力企業からの納品が止まったにもかかわら

ず、協力企業に対しては、ユーザーから確認の上要請があれば、計画通り納品したもの

として通常通り支払いがなされた。こうした対応により、素形材企業としても、自社が

取引している仕入先に対して同様の対応が可能だった。なお、これは突発的な事例で、

今後もそうした対応がなされるようルール化されているわけではない。

②量産終了後金型の保管について 量産終了後金型とその補給品について、ユーザー取引先グループとして改善に取り組

んでいる。本来は補給品の供給義務期限は 10 年で、10年経てば旧型は処分できるはず

であるが、全国ディーラーや CKD との関係もあり、10 年以降も発注が続いており、協

力企業各社、特にプレスメーカーは大変な負担となっていた。ユーザーもこの問題につ

いて認識しており、2年前からルールの明確化を図ってきた。打ち切るものは打ち切る

という方針で、数社をモデルとして、2~3 年たって発注がないものは話し合いながら

打ち切ることにした。この際、ユーザーとプレスメーカーだけでなく、ディーラーも巻

き込んで話し合いをしている。この方法である程度メドがついてきたので、来年度には

全プレスメーカーに適用していく予定である。

③原材料価格アップの製品価格への転嫁 現在主要ユーザーはアルミ、銅、樹脂については市場価格に連動する方式をとってい

る。副資材関係はスライド制ではないが、樹脂については、自動車メーカーも購入して

いるので、多少遅れながらであるが市場価格に連動させている。

メインの使用材料については、材料費がいくら、金型償却いくら、とユーザーと素形

材企業が合意したレートがある場合もあり、何を指標にとるかが決まれば、市場価格に

連動する方式は採用できる。これには原単位がはっきりしているかどうかが鍵である。

鉄板のスクラップなどは、原単位がはっきりしている。

(6)全般、その他 ①取引慣行の改善について 需給が逼迫すると、ユーザーが物を納入してほしいがため、取引に対する理解が改善

してくる傾向がある。

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②輸送費 輸送費は、単価の中に輸送費の項目があり、ユーザーに請求できる。トラックにいく

つ乗る、トラックは何トンで、時間がどのくらいかかる、といった積み上げ計算で原単

位が決まる。なお、自動車メーカーでは輸送費用をユーザーが負担する方式を採用しつ

つあり、そうなると、輸送費部分は自動車メーカーに戻す形となる。

川下メーカーは自動車メーカーに直接納品しないが、部品メーカーに対する納品は、

生産場所を変えたからと遠い工場(近い工場へ変更の場合もある)への納品に変更され

ても、当初の値段設定は変わらず、上がりもせず下がりもしない。引取りと納品を両方

行うユーザーもあるが、納品のみユーザーというように、輸送の利便性で個別相談に応

じるユーザーもある。

③労働環境 現在、人材派遣会社にすら人材がいなくなって廃業が見られる状況である。需要はあ

るが人を集められない模様である。

製造コスト中労務費比率が高いが、好景気で各社人材不足のため、残業などで人件費

が上昇している。ユーザーには労務費アップによる単価アップは了承されないので、賃

金単価の安い海外労働者の増加支援など、公的な対策が望まれる。

7.四国地区

(1)熱処理企業 ①業況 同業他社はスケールが小さく、処理能力も大きくないところが多い。東京大阪の近郊

であれば土地の値段も高く、商品を置くスペースが非常に狭い。新卒社員も確保しにく

い。熱や油を扱うので労働環境も厳しい。騒音等の問題で生産拠点が住宅に追いやられ

ようとしている状況である。

ユーザーのニーズとしては、外注先管理の手間や、納期・品質管理面からも、複数企

業に分散して発注しているものを、1社でまとめて納入してほしい、という傾向が強ま

っている。納品する際の品質基準は定められていても、温度の上限と下限のどの範囲で

外注先が処理しているかユーザーにはわからない、最終研磨回数が外注先企業によって

異なる、など違いがある。場合によっては工程に投入する際にセット替えしなければな

らない。こうした背景から、自社への発注ロット数は大きくなっている。

また、納期対応型で納期を短くすることがお金になっている。このように、現在は、

価格よりは品質と納期の問題となっている。こうした、ユーザーの集中購買ニーズや納

期のニーズを捉えて、受注量を増やしている。

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なお、ユーザーが熱処理部門を外注化するか内製化するかは、その会社会社の方針に

よって異なっている。

②知的財産の扱い ISO を取っているのでそれを信頼性のある工場である証明としており、ノウハウに関

わる生産条件設定については開示しない方針である。

ユーザーによっては、共同開発を持ちかけてきて、全部ノウハウを吸い上げ、しかし

発注はしない、というケースもある。こういったノウハウ流出の防止のため、工場内の

視察は断る方針をとっている。ヨーロッパでは、会社見学をするとサインをし、もしも

特許侵害をしたら訴えられる、という防御策がある。

③不良品の補償について 品質保証については、ユーザーが受け入れ検査をしないケースもある。小さな部品は、

製品に近づくほど内部に位置しており分解するのに手間もかかり、不良補償上のコスト

負担が大きい。

同社では、何月何日の何番目のチャージがわかるよう刻印を打っており、不良が発生

した場合も追跡調査が可能である。

(2)鍛造企業 ①取引先との対応 現在は仕事量が非常に多く、採算の悪いものは転注願いという形で断っている。また、

格段に納期が厳しくなっており、補償問題やペナルティにつながるので、対応できない

仕事は断る方針である。ただし、転注依頼するとロットの大きいものから他社へ流れる

傾向はある。

②支払条件 ユーザーからの提案で現金決済比率がアップした。景況が改善しておりユーザーもキ

ャッシュに余裕が出てきたための措置と思われ、余裕資金で同社に設備投資をするよう

にとの配慮だと考えられる。

③付加価値事例 ユーザーからの納品回数の頻度アップ要請で運送費が負担になった際に、ユーザーが

ミルクラン(巡回集荷)に切り替え、輸送を負担してもらえるようになった。ユーザー

も物流効率化によるメリットが得られ、素形材企業も輸送費アップによる損益圧迫がな

くなった。通常受注単価に運賃は含まれ、支払運賃が上昇しても、その年度内はユーザ

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ーに要請しても単価引き上げは認められないので、こうした変更は素形材企業にとって

メリットである。ユーザーが効率的かつメリットのある仕組みを考案した例である。こ

の場合、受注単価から従来は見積もっていた物流費を外す対応をとる。

(3)プレス・金型企業 ①業況 板金プレスは、全国的に業況はそれほどよくない。

ユーザーは、技術人員が海外に出て行って手薄なせいもあるのか、発注先を集約する

動きがある。アッセンブリで発注し、管理コストを低減させている。

②付加価値事例(共同受注) 同業数社で、コンソーシアムとまではいかないが共同受注を行っている。品質レベル

の同一化のため、あるユーザーの仕事を受注した場合、過去問題になった事例について

統一して勉強会を開催し、後々トラブルが発生しないような努力を行っている。共同受

注のきっかけは、海外ユーザーとの取引を開始したときに、契約面などで翻訳のコスト

が発生するのでそういった管理コストをまとめて一社で負担すれば重複コストが省け

るメリットがあったことから開始された。

この際、もっとも問題が発生しやすいのは納期である。よほど参加するメンバーの認

識が高くなければ、自社で単独受注したものの製造を優先し、共同受注やメンバー内で

外注されたものは後回しにしてしまう。

③付加価値事例(技術人員派遣) デザインインにより、開発段階から参加し、金型メーカーとしての要望を製品に織り

込んでもらっている。当初はユーザーで技術屋が足らないための人員派遣依頼と思って

いたが、派遣してみるといろいろなメリットが発生している。人件費はユーザー負担で、

ユーザー情報が早めに得られ、製品化した場合に受注が得られやすい。コストダウン提

案なども含め要望は積極的に取り上げられている。

④知的財産の扱い 金型図面は顧客に提出している。概ね、顧客と基本取引契約書を結び、金型を納める

ときには、図面及びデータを納めるという契約になっている。この点、契約書の雛形が

あれば改善の方向に向かうかと思われる。

ただし、最新のノウハウが入った図面にするように顧客から要望があった場合などは、

指針の違反ではないか、と反論すれば断ることができる。金型の納品であれば図面を出

すが、コピー型を製造したり、他社で使ったりする目的ならば、提出を断ることができ

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素形材取引ベストプラクティス調査

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る。

⑤金型発注予告キャンセルの機会ロス防止、納期管理の対応 機会ロス防止策としては、生産能力以上の受注計画を立てている。実際、発注されて

いても、より単価が安いところがあれば、ユーザーは、対象部品がなくなった、などの

名目でキャンセルして切り替えている。このことが、納期遅れの問題にもつながってい

る。

設計変更が出やすいユーザーについて、納期遅れを防止するために、設計変更が出る

のを待つのではなく、変更が出ないであろう部分から先行して製造着手している。実際

に設計変更が固まっても、ほとんどは、全面的な変更ではなく部分的な調整で対応でき

ている。鋳造などは現在需要が多く発注先を確保するのにも時間がかかるので、こうい

った対応が必要である。設計変更費用はユーザーから支払われる。

8.九州地区

(1)熱処理企業 ①業況 常に新しい技術を取り入れようと努力している。特許取得に積極的で、他社ではでき

ない加工を技術開発により成し遂げることによって、まとまった発注が得られたり新製

品の開発依頼をされたりなど、顧客からの信頼が得られている。

②重量取引慣行 キログラム単価で取引されており、重量取引慣行がある。しかし、薄い加工で特殊技

術によりひずみを矯正しなければならないなどキログラムでは表せない特殊技術が必

要になったり、占有面積が広くキログラム単価では見合わなかったりすることがある。

このため、自社の営業部員に熱処理技能検定を取得した技術営業ができる人員を配備

し、熱処理加工対象物の集配を担当させている。そして、重量取引単価では見合わない

技術的に高度なもの、加工上トラブルが発生しそうなものについては、いったん見積り

した価格ではなく、上乗せした価格で見積りが出しなおせるような体制が構築できてい

る。営業人員が技術を理解していなければ、品物を回収し戻ってきてから加工が大変で

あると気づくことになってしまうので、回収する際にその場で具体的に説明できるよう

にしている。集配時によく話し合いを行い、再見積りが承認されるケースもある。

③不良発生 熱処理は場合によっては 1000 度以上の温度をかける。不良の発生がもともとの形状

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や素材による部分が大きく、それらは熱処理加工を施してみなければ結果が出ないので、

自社のコントロール範囲外の不良発生リスクを負担しなければならないことがある。

製品の開発時に不良が発生したが、補償要求されず、そればかりか、開発の継続を要

請された例がある。これは、他社で対応できなかったため、ユーザーが技術的に困難で

あることを十分に認識していた例であるが、打ち合わせ段階でユーザーとよく話し合い、

こうしたリスクについて事前に説明して了承が得られている。数値的な許容基準は定め

ていないが、ユーザーから柔軟な対応をされている。

(2)鋳造企業 ①業況、各種問題点など 業界内では良い事例もよく耳にするが、結局は取引上の力関係によるものである。現

在は仕事量が増えており、交渉力が増している。顧客から仕事を頼みに来る状態で、景

気が良いのが一番の好材料である。しかし、今後もしも景気が悪くなれば、相対的な交

渉力が下がってしまう。

なお、木型の値段は、材料費のアップに伴い上昇している。

鋳造技術に関して、技術者がメーカーにいなくなって、用語が理解してもらえない状

態である。こうした技術だから高いのだ、という値段と質のバランスを考えた比較がで

きない。

不良については鋳物企業に補償責任がある。鋳物の欠陥で、後工程のユーザーの加工

費の求償をされるケースがある。この比率は、場合によっては鋳物企業の加工賃とユー

ザーの加工費が 1:30 というような例もある。不良発生時の対処については取り決めが

ないため、その時々の交渉によることになる。

対国内ユーザーでは、契約書がない。日本的風土に合わない部分もあるが、今後は鋳

物企業主体で文案など整えていく必要を感じる。ただし、法的に争いになった場合に不

備のないようチェックしなければならない、法律専門家のチェックなどの必要があり契

約書作成費用により製品の見積りがどんどん跳ね上がってしまう、などの問題もある。

②木型保管 鋳物を作るのには木型保管のスペースが必要であるが、量産するかどうかわからない

状態でも木型は鋳物企業が保管しており、ユーザーから保管料が支払われない状況が続

いている。

業界団体の会合で、型保管料を受領しているという事例を耳にした(ただし、競争力

が高く交渉力を有している特殊例だと思われる)。倉庫を借りて保管しているのでその

分の保管料を受領しているとのことだった。また、他事例として、物理的に木型保管ス

ペースがないので、鋳型を取ったらユーザーへ返却しているという例、ユーザーの倉庫

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素形材取引ベストプラクティス調査

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に置いているといった例も耳にしている。

現在、木型保管に関するモデルを業界として作成中である。共通の交渉材料として、

考え方を整理して木型保管料の適正水準を出し、それを共有化して、交渉手段である文

案を作成しようとしている。つまり、理論武装を行い、交渉のマニュアル作りをし、業

界全体で木型保管について取り組もうとしている。

業界団体自体はもともと中小企業の集まりだったが、経済産業省の指導でまとまった

部分がある。近年、大手トップメーカーも業界団体に加盟しており、同業企業ごとの環

境は大きく異なってきている。

③ユーザーへのアピール 業界団体で高額の資金を負担して、全国レベルのシンポジウムを東京で開催し、ユー

ザーを招待して業界のさまざまな問題(重量取引、型保管、環境対策費の上昇)につい

て PR を行った。数百人が集まった。こうした催しに、官公庁から参加して、これらの

ことを問題視している趣旨の発言をしていただくことが、取引慣行改善へのサポートに

なる。

また、昨今「素形材」という用語が公的に使われその重要性とともに認知されつつあ

るが、こうしたことも改善に向けての効果のひとつだと考える。

④開発段階からの参加 鋳物製作時に形が変わることもあり、ユーザーに対する提案は頻繁に行っている。こ

のため、ユーザーから IT 投資を要請されることもあるが、高額でもあり採算が見合う

かどうか決断が難しい。

⑤追加サービスの対応 場合によってはユーザーが素材証明書の提出を求めるケースがあるが、工業試験場で

検査するなど費用がかかるので、今後は請求する予定である。

(3)金型企業 ①業況 金型は技術競争力の市場で、敗れれば退場を余儀なくされる状態にある。競争力をア

ップし、価格を戻すことに努力をしている。

海外含む同業他社の追い上げもある中で、生産性の向上を図り、他社と同じ図面で作

っても、生産能力が数倍で、金型寿命も延びるといった開発を行っている。自社の製品

を納品しなければ、顧客の仕事ができない、というくらいの姿勢で取り組まなければな

らない。

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素形材取引ベストプラクティス調査

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昨今は、例えば大手ユーザーの購買部門で技術のわからない人材が増えて、こうした

ら安くなるという話しかできず、値段で比較するだけのところが増えた。

また、海外へ進出するのに必要な調整を頼まれ、その部分の追加費用を再見積りした

が認められなかったケースがある。

1 社で購入するには高額な解析機械を業界団体として購入しており、利用料を支払え

ば利用できる状態にある。1社で投資するよりも安く利用することができている。

②受領及び検収 ユーザーの担当者に技術がわからなければ、検収していいかどうかわからず、要求さ

れている品質を満たしていることを説明してもなかなか理解してもらえないことがあ

る。測定値を提出して説明することで対処した事例がある。しかし、こうした技術的な

説得をするだけでも、その説明資料作成に費用がかかってしまう状態である。

③知的財産の扱い 図面提出については、経済産業省の指針が出た後、改善傾向にある。

④支払条件 なるべく現金決済を依頼している。なお、前受金方式を取っているユーザーは国内で

はない。

ユーザーの関連会社にファイナンス企業を有しているグループなどでは、いくらかの

金利は取られるが現金で決済されている。こうした事例が生じると、そのユーザー業界

で右倣えをする状態が見られる。手形支払いでなければ、手形管理費用・手形管理労力

の削減につながる。

⑤不良発生時の対応 自社の責任で壊れた場合は取り替えるが、それが原因で生じた不良については、補償

義務はないとしており、補償していない。

⑥見積り ユーザーに対しては、提出した見積りについて高いならば受注しない、出した見積り

以上は値引きしないという方針である。

(4)プレス企業 ①業況、各種問題点など 現地生産化が進行しており、薄利多売で厳しい状況が続いている。取引慣行の改善の

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交渉も困難な状況にある。現在のプレスでは生き残りが難しく、今後どうするべきか考

える必要がある。

プレス技術について、ユーザーに技術がなく、なぜ高いかが検討できない状態になっ

ている。

また、業界団体としては、ユーザー業界が多種多様で専門が分散しており、同業同士

で共通テーマでの研究や話し合いが難しい状態にある。

②原材料高騰の製品価格への転嫁 材料値上げに対して、単価上昇がなんとか認められてきた。しかし、あまりにも材料

が上がりすぎたので、ユーザーは製品価格への転嫁は認めるが、どの範囲まで認められ

るかが難しい。全て単価への反映はできないので一部反映され、残りはプレス企業が負

担する例が多い。

上昇率が低い一部材料は、全てのユーザーで製品価格アップが認められた。

③金型保管 金型保管については、取引開始当初は意識していなかったが、現在は倉庫に保管でき

ず屋外に置いているような状態である。保管料は支払われていない。改善に向けてユー

ザーと話し合いを行っており、資料をそろえて説明して、話自体は聞いてもらえた。い

つまで保障期間とするのか、10 年保管でよいのか、などの話をしている。しかし、金

型保管の取り扱い変更を決断する人物がユーザー内でおらず、保留の状態となっている。

なお、プレス業は、ユーザーの業界が異なると全く環境が違ったり、専門性が分かれ

ていたりするなど、業界としてまとまりにくく、鋳造のような業界全体の動きは見られ

ない。創業者ではなく 2世 3世の時代となっているが、会社によって規模や環境が大き

く異なっており、共同しにくい。

④見積り 自動車以外は見積りの交渉余地があるが、自動車ユーザーは指定値に近い状態で、交

渉の余地はない。ユーザーに想定価格があり、その値段でプレス企業が利益確保できる

ならば発注する、という姿勢である。

(5)共通事項 ①行政のかかわり 行政から支払遅延法などの指導がされており、それで「こういうことはしてはいけな

い」という禁止行為が自ずと認識されている部分がある。こういう動きを素形材企業の

ユーザーに対しても行ってもらえばよいと思う。

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素形材取引ベストプラクティス調査

117

②見積書の作成 見積りを出すときに、例えば、木型がいくら、金型がいくら、鋳物がいくら、という

ように、その製品に必要な項目については見積り項目として必須とするくらいまでしな

ければ、適正な単価は確保できないだろう。

③契約書 契約書については、既に定められている事項を変更するのは難しいが、規定されてい

ないことについて、素形材企業にデメリットが生じないように規定しよう、という内容

ならばユーザーに対しても提案しやすいかもしれない。これも、景気が悪いときには交

渉できないので、現在の好景気のうちに試みるべきだろう。

④その他 あらかじめ、定めるべきことは定めてから取引を行うのが望ましい。あらかじめ決め

ていないことは、なにか問題があったときに、力関係で不利になるケースが多い。

一般に、ユーザー企業トップと現場の考えは違う傾向がある。

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素形材取引ベストプラクティス調査

118

第 8 章 委員会参加企業等アンケート

第 1 節 アンケート質問項目

委員会参加企業及び協力いただいた素形材企業に対して、以下のアンケートを実施し

た。回答社数は 37 社(ただし、質問によって回答状況にばらつきあり)である。

問 1. 以下の項目は、「取引慣行をめぐる課題」として認識されているものです。

貴社でこういった取引が現在、①発生しており問題視している、②発生しているが問題視し

ていない、③業種特性・企業特性などからそもそも発生せず問題とならない、④発生していな

い(=ベストプラクティス)、のいずれかに○をおつけください。

また、「④発生していない」に○をつけた場合に、過去は発生していた場合には、「※④に○を

つけたとき 過去発生」欄に○をおつけください。

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

重量取引慣行

(※A)

量産終了後の型保

補給品(※B)支給

(※C)

コストアップの製品

価格転嫁

短納期化等ユーザ

ー事情による在庫

増・配送費増

設計変更の無料サ

ービス

技術評価の単純化

(※D)

継続的なコストダウ

ン要請

素形材企業責任で

はない不良補償

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素形材取引ベストプラクティス調査

119

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

不必要に厳格な品

質・精度要請

知財・ノウハウ流出

手形取引

検収上の問題

金型代決済条件(金

型業種のみ)

金型の検収(金型業

種のみ)

型費支払条件(型使

用業種のみ)

有償支給材の早期

支給(熱処理のみ)

契約条件のあいま

いさ(※E)

その他・・・内容を詳

しく

※A:単に重量ベースの価格に基づいて取引を行うことではなく、重量ベースの取引が不合

理である(例えば、研究開発投資の結果、薄肉化を実現したが、従来品よりも単価が安くな

る)状態を指します。

※B:量産終了後の、不定期的な出荷品を意味します。

※C:例えば、量産品よりもラインの立ち上がりや材料手当て等で、補給品は原価がかさむが、

補給品の対価として量産品並みの価格しか支払われない、等

※D:技術評価基準がデジタル化・単純化されたことで、それに合致しない技術が単価に反映

しない、等

※E:見積り時より発注数量が減ったにもかかわらず、ボリュームダウン価格で取引がなされ

る、等

問 2.素形材企業との取引において、単に課題が存在しないのではなく、我が国素形材企業

が更に競争力を強化することができるような、付加価値があると認められる取引事例(課題が

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素形材取引ベストプラクティス調査

120

存在する状態がマイナス、課題が存在しない状態が 0 であるとすれば、プラスの状態にある事

例)があれば、以下の枠内に概要をご記入ください。

第 2 節 アンケートの回答結果

1.個別の取引慣行上の課題について(選択式)

以下、全社及び業種別にアンケートの「問 1」の回答結果を集計したものを示す。

(1)全社合計(回答社数:37 社) ①集計数

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

重量取引慣行 8 6 5 14 2

量産終了後の型保

管 15 8 5 7 1

補給品支給 9 8 6 10 1

コストアップの製品

価格転嫁 21 8 4

短納期化等ユーザ

ー事情による在庫

増・配送費増

14 12 3 6 1

設計変更の無料サ

ービス 7 9 1 14 2

技術評価の単純化 6 9 7 8

継続的なコストダウ

ン要請 22 8 1 3

素形材企業責任で

はない不良補償 6 7 4 15 2

不必要に厳格な品

質・精度要請 17 9 1 6 2

知財・ノウハウ流出 17 8 2 5 2

手形取引 7 19 2 6 1

検収上の問題 9 14 10

金型代決済条件(金

型業種のみ) 5 5 1 7

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素形材取引ベストプラクティス調査

121

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

金型の検収(金型業

種のみ) 8 5 1 5

型費支払条件(型使

用業種のみ) 9 9 1 4

有償支給材の早期

支給(熱処理のみ) 6 4 2

契約条件のあいま

いさ 8 7 4 10 1

②割合 ①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

き3

過去発生

重量取引慣行 21.6% 16.2% 13.5% 37.8% 14.3%

量産終了後の型保

管 40.5% 21.6% 13.5% 18.9% 14.3%

補給品支給 24.3% 21.6% 16.2% 27.0% 10.0%

コストアップの製品

価格転嫁 56.8% 21.6% - 10.8% -

短納期化等ユーザ

ー事情による在庫

増・配送費増

37.8% 32.4% 8.1% 16.2% 16.7%

設計変更の無料サ

ービス 18.9% 24.3% 2.7% 37.8% 14.3%

技術評価の単純化 16.2% 24.3% 18.9% 21.6% -

継続的なコストダウ

ン要請 59.5% 21.6% 2.7% 8.1% -

素形材企業責任で

はない不良補償 16.2% 18.9% 10.8% 40.5% 13.3%

不必要に厳格な品

質・精度要請 45.9% 24.3% 2.7% 16.2% 33.3%

知財・ノウハウ流出 45.9% 21.6% 5.4% 13.5% 40.0%

手形取引 18.9% 51.4% 5.4% 16.2% 16.7%

検収上の問題 24.3% 37.8% - 27.0% -

3 ④「発生していない(=ベストプラクティス)」を 100 としたときの割合を示している。

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素形材取引ベストプラクティス調査

122

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

金型代決済条件(金

型業種のみ) 13.5% 13.5% 2.7% 18.9% -

金型の検収(金型業

種のみ) 21.6% 13.5% 2.7% 13.5% -

型費支払条件(型使

用業種のみ) 24.3% 24.3% 2.7% 10.8% -

有償支給材の早期

支給(熱処理のみ) - 16.2% 10.8% 5.4% -

契約条件のあいま

いさ 21.6% 18.9% 10.8% 27.0% 10.0%

③コメント 全社のうち、業種別の回答社数割合は、「鋳造・ダイカスト」が 7社(18.9%)、鍛造

が 5 社(13.5%)、「金型・プレス」が 21 社(56.8%)、「熱処理」が 4 社(10.8%)で

ある。業界団体の協力もあったため「金型・プレス」の占める割合が高い。

アンケートのサンプル数が少ないので統計的な分析はできないが、集計結果からする

と、「①発生しており問題視している」取引慣行上の課題は、「継続的なコストダウン要

請」がもっとも多く、次いで「コストアップの製品価格転嫁」で、「不必要に厳格な品

質・精度要請」「知財・ノウハウ流出」である。

(2)鋳造・ダイカスト(回答社数:7 社) ①集計数

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

重量取引慣行 5 2 1

量産終了後の型保

管 6 1

補給品支給 4 1 2

コストアップの製品

価格転嫁 5 2

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素形材取引ベストプラクティス調査

123

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

短納期化等ユーザ

ー事情による在庫

増・配送費増

3 4

設計変更の無料サ

ービス 2 3 1

技術評価の単純化 2 2 1

継続的なコストダウ

ン要請 4 1 1

素形材企業責任で

はない不良補償 3 1 1 1 1

不必要に厳格な品

質・精度要請 5 2

知財・ノウハウ流出 5 1 1

手形取引 7

検収上の問題 1 4 1

金型代決済条件(金

型業種のみ)

金型の検収(金型業

種のみ)

型費支払条件(型使

用業種のみ) 3 2

有償支給材の早期

支給(熱処理のみ)

契約条件のあいま

いさ 2 2 1 1 1

②割合

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

重量取引慣行 71.4% - - 28.6% 50.0%

量産終了後の型保

管 85.7% - 14.3% - -

補給品支給 57.1% 14.3% 28.6% - -

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素形材取引ベストプラクティス調査

124

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

コストアップの製品

価格転嫁 71.4% 28.6% - - -

短納期化等ユーザ

ー事情による在庫

増・配送費増

42.9% 57.1% - - -

設計変更の無料サ

ービス 28.6% 42.9% - 14.3% -

技術評価の単純化 28.6% 28.6% - 14.3% -

継続的なコストダウ

ン要請 57.1% 14.3% - 14.3% -

素形材企業責任で

はない不良補償 42.9% 14.3% 14.3% 14.3% 100.0%

不必要に厳格な品

質・精度要請 71.4% 28.6% - - -

知財・ノウハウ流出 71.4% 14.3% - 14.3% -

手形取引 - 100.0% - - -

検収上の問題 14.3% 57.1% - 14.3% -

金型代決済条件(金

型業種のみ) - - - - -

金型の検収(金型業

種のみ) - - - - -

型費支払条件(型使

用業種のみ) 42.9% 28.6% - - -

有償支給材の早期

支給(熱処理のみ) - - - - -

契約条件のあいま

いさ 28.6% 28.6% 14.3% 14.3% 100.0%

③コメント 鋳造・ダイカストの回答社数は 7 社で統計的な分析はできないが、「①発生しており

問題視している」取引慣行上の課題としては、「量産終了後の型保管」が最も多く、次

いで「重量取引慣行」「不必要に厳格な品質・精度要請」「知材・ノウハウ流出」が同数

だった。また、「重量取引慣行」については、「過去発生していたが現在は発生していな

い」と回答した企業も 1社あった。その他「過去発生していたが現在は発生していない」

に回答があった項目は「素形材企業責任ではない不良補償」及び「契約条件のあいまい

さ」である。

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素形材取引ベストプラクティス調査

125

(3)鍛造(回答社数:5 社) ①集計数

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

重量取引慣行 2 2 1

量産終了後の型保

管 2 3

補給品支給 2 2 1

コストアップの製品

価格転嫁 5

短納期化等ユーザ

ー事情による在庫

増・配送費増

4 11

(配送費増)

1

(配送費

増)

設計変更の無料サ

ービス 1 3 1

技術評価の単純化 3 1 1

継続的なコストダウ

ン要請 4 1

素形材企業責任で

はない不良補償 1 2 1 1

不必要に厳格な品

質・精度要請 2 2 1

知財・ノウハウ流出 2 2 1

手形取引 3 1 1

検収上の問題 1 3 1

金型代決済条件(金

型業種のみ) 1

金型の検収(金型業

種のみ) 1

型費支払条件(型使

用業種のみ) 2 2 1

有償支給材の早期

支給(熱処理のみ)

契約条件のあいま

いさ 3 1 1

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素形材取引ベストプラクティス調査

126

②割合

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

重量取引慣行 40.0% 40.0% - 20.0% -

量産終了後の型保

管 40.0% 60.0% - - -

補給品支給 40.0% 40.0% - 20.0% -

コストアップの製品

価格転嫁 100.0% - - - -

短納期化等ユーザ

ー事情による在庫

増・配送費増

80.0% 20.0% - 20.0% 100.0%

設計変更の無料サ

ービス 20.0% 60.0% - 20.0% -

技術評価の単純化 - 60.0% 20.0% 20.0% -

継続的なコストダウ

ン要請 80.0% 20.0% - - -

素形材企業責任で

はない不良補償 20.0% 40.0% 20.0% 20.0% -

不必要に厳格な品

質・精度要請 40.0% 40.0% - 20.0% -

知財・ノウハウ流出 40.0% 40.0% - 20.0% -

手形取引 0.0% 60.0% 20.0% 20.0% -

検収上の問題 20.0% 60.0% - 20.0% -

金型代決済条件(金

型業種のみ) - - - 20.0% -

金型の検収(金型業

種のみ) - - - 20.0% -

型費支払条件(型使

用業種のみ) 40.0% 40.0% - 20.0% -

有償支給材の早期

支給(熱処理のみ) - - - - -

契約条件のあいま

いさ 60.0% 20.0% - 20.0% -

③コメント 鋳造・ダイカストの回答社数は 5 社で統計的な分析はできないが、「①発生しており

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素形材取引ベストプラクティス調査

127

問題視している」取引慣行上の課題としては、「コストアップの製品価格転嫁」が最も

多く、次いで「短納期化等ユーザー事情による在庫増・配送費増」「継続的なコストダ

ウン要請」である。また、「過去発生していたが現在は発生していない」に回答があっ

た項目は「短納期化等ユーザー事情による在庫増・配送費増」である。

(4)金型・プレス(回答社数:21 社) ①集計数

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

重量取引慣行 3 5 10 1

量産終了後の型保

管 6 4 3 6 1

補給品支給 3 4 3 9 1

コストアップの製品

価格転嫁 10 4 4

短納期化等ユーザ

ー事情による在庫

増・配送費増

6 6 2 5

設計変更の無料サ

ービス 3 3 11 2

技術評価の単純化 4 3 5 6

継続的なコストダウ

ン要請 12 4 1 2

素形材企業責任で

はない不良補償 1 3 2 12 1

不必要に厳格な品

質・精度要請 8 4 1 5 2

知財・ノウハウ流出 8 4 2 3 2

手形取引 6 8 1 4

検収上の問題 7 5 7

金型代決済条件(金

型業種のみ) 5 5 1 6

金型の検収(金型業

種のみ) 8 5 1 4

型費支払条件(型使

用業種のみ) 4 5 1 3

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素形材取引ベストプラクティス調査

128

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

有償支給材の早期

支給(熱処理のみ) 3 3 2

契約条件のあいま

いさ 2 4 3 6

②割合 ①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

重量取引慣行 - 14.3% 23.8% 47.6% 10.0%

量産終了後の型保

管 28.6% 19.0% 14.3% 28.6% 16.7%

補給品支給 14.3% 19.0% 14.3% 42.9% 11.1%

コストアップの製品

価格転嫁 47.6% 19.0% - 19.0% -

短納期化等ユーザ

ー事情による在庫

増・配送費増

28.6% 28.6% 9.5% 23.8% -

設計変更の無料サ

ービス 14.3% 14.3% - 52.4% 18.2%

技術評価の単純化 19.0% 14.3% 23.8% 28.6% -

継続的なコストダウ

ン要請 57.1% 19.0% 4.8% 9.5% -

素形材企業責任で

はない不良補償 4.8% 14.3% 9.5% 57.1% 8.3%

不必要に厳格な品

質・精度要請 38.1% 19.0% 4.8% 23.8% 40.0%

知財・ノウハウ流出 38.1% 19.0% 9.5% 14.3% 66.7%

手形取引 28.6% 38.1% 4.8% 19.0% -

検収上の問題 33.3% 23.8% - 33.3% -

金型代決済条件(金

型業種のみ) 23.8% 23.8% 4.8% 28.6% -

金型の検収(金型業

種のみ) 38.1% 23.8% 4.8% 19.0% -

型費支払条件(型使

用業種のみ) 19.0% 23.8% 4.8% 14.3% -

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素形材取引ベストプラクティス調査

129

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

有償支給材の早期

支給(熱処理のみ) - 14.3% 14.3% 9.5% -

契約条件のあいま

いさ 9.5% 19.0% 14.3% 28.6% -

③コメント 金型・プレスの回答社数は 21 社で統計的な分析はできないが、「①発生しており問題

視している」取引慣行上の課題としては、「継続的なコストダウン要請」が最も多く、

次いで「コストアップの製品価格転嫁」だった。また、「過去発生していたが現在は発

生していない」に回答があったのは「設計変更の無料サービス」「不必要に厳格な品質・

精度要請」「知財・ノウハウ流出」が 9.5%で 2 社、「重量取引慣行」「量産終了後の型

保管」「補給品支給」「素形材企業責任ではない不良補償」が 4.8%で 1社だった。

(5)熱処理(回答社数:4 社) ①集計数 ①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

重量取引慣行 1 1 1

量産終了後の型保

管 1 1 1 1

補給品支給 1 1

コストアップの製品

価格転嫁 1 2

短納期化等ユーザ

ー事情による在庫

増・配送費増

1 1 1

設計変更の無料サ

ービス 1 1 1

技術評価の単純化 1 1

継続的なコストダウ

ン要請 2 2

素形材企業責任で

はない不良補償 1 1 1

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素形材取引ベストプラクティス調査

130

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

不必要に厳格な品

質・精度要請 2 1

知財・ノウハウ流出 2 1

手形取引 1 1 1 1

検収上の問題 2 1

金型代決済条件(金

型業種のみ)

金型の検収(金型業

種のみ)

型費支払条件(型使

用業種のみ)

有償支給材の早期

支給(熱処理のみ) 3 1

契約条件のあいま

いさ 1 2

②割合 ①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

重量取引慣行 25.0% 25.0% - 25.0% -

量産終了後の型保

管 25.0% 25.0% 25.0% 25.0% -

補給品支給 - 25.0% 25.0% - -

コストアップの製品

価格転嫁 25.0% 50.0% - - -

短納期化等ユーザ

ー事情による在庫

増・配送費増

25.0% 25.0% 25.0% - -

設計変更の無料サ

ービス 25.0% - 25.0% 25.0% -

技術評価の単純化 - 25.0% 25.0% - -

継続的なコストダウ

ン要請 50.0% 50.0% - - -

素形材企業責任で

はない不良補償 25.0% 25.0% - 25.0% -

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素形材取引ベストプラクティス調査

131

①発生して

おり問題視

している

②発生して

いるが問題

視していな

③業種特性

等からそも

そも発生せ

④発生してい

ない(=ベス

トプラクティ

ス)

※④に○

をつけたと

過去発生

不必要に厳格な品

質・精度要請 50.0% 25.0% - - -

知財・ノウハウ流出 50.0% 25.0% - - -

手形取引 25.0% 25.0% - 25.0% 100.0%

検収上の問題 - 50.0% - 25.0% -

金型代決済条件(金

型業種のみ) - - - - -

金型の検収(金型業

種のみ) - - - - -

型費支払条件(型使

用業種のみ) - - - - -

有償支給材の早期

支給(熱処理のみ) - 75.0% 25.0% - -

契約条件のあいま

いさ 25.0% - - 50.0% -

③コメント 熱処理の回答社数は 4 社で統計的な分析はできないが、「①発生しており問題視して

いる」取引慣行上の課題としては、「継続的なコストダウン要請」「不必要に厳格な品

質・精度要請」「知財・ノウハウ流出」を半数の 2社が挙げている。また、「過去発生し

ていたが現在は発生していない」に回答があったのは「手形取引」だった。

2.付加価値があると認められる取引について

問 2の質問項目の回答は以下の通りである。

・ ユーザーの仕入先改善グループと協同で、自社の改善活動(品質の向上、原価の

低減)にとりくんでいます。

・ 鋳造用模型製作において、当社で作成したデータが金型製作用に転用されること

があり、データの売却ができることがあります。(顧客の要望を追加で織り込む)

・ 当社は設計部門がなく、支給図面・データにより顧客要求通りの製品作りとなり

ます。従いまして、重量取引慣行のような事例は発生しません。コストダウンに

つきましては、都度の話し合いとなっており、継続的な要請はありません。その

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素形材取引ベストプラクティス調査

132

他につきましては、常識的・良識的なお取り引きとなっており、お互いの信頼関

係ではないかと思います。

・ 現状においてはまだコスト優先の市場環境にあるが、06 年に入って大手企業の業

績の好調と、一方では原油高、環境規制の対応に迫られ、軽量化に対する技術、

燃費改善、機能性、商品性の高い技術には開発段階でコストアップを認めようと

する傾向が見られるようになったが、購買で業務上されているこれらの適正な評

価が定着し、ベストプラクティスとなるように世界に共通するコストの確立と国

内での基準が設けられ素形材企業が世界市場で競争力を強化することが望まれ

る。

・ 当業界にとって、良質な人材の確保・育成(技術伝承も含め)が課題であります。

国際競争力をつける為にも、また高品質、高効率的生産の為の、技術開発・設備

投資が必要になり、あわせて環境問題も抱えており、その為のコストもかかり適

正利潤に対する相互理解が必要と思います。

3.その他(自由意見)

問 2の回答欄に、自由意見として記載された内容を以下に掲載する。

型産業の現況と立場のご説明

1. 完全な受注産業・・見込み生産は不可能・・・量産効果無し

年度、月により仕事量のバラツキと短納期化・初期計画の崩れと技術不足データ

不良

安定受注が大きい問題点・・型メーカーは大きくなれない。成長出来ない。

弱小企業、投資設備費が高く、投資効果・回収が困難

労働分配率の割合が高い。65%(平均)・・・ドイツ→チェコ等 10%賃金国に移

高コストの機械・コンピューターソフト保守料の使用・・量産工場は安い機械

一品生産の為、更新効果・量産効果が部品メーカーに比べ出ない。

販売コスト・計画コストからの逆算にて型コストの決定。採算度外視の金額

コストダウン要求による体力の低下にて新規の高価な機械の購入が不可能

(後進国はソフトもコピー・加工データも客先より不法取得→メンテナンス対応名

目)

9 人以下が 79%、10~19 人が 11%、20~29 人が 5%、50~99 人が 2%

2. 海外進出問題

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素形材取引ベストプラクティス調査

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得意先の海外進出・空洞化にて過当競争⇒目先の競争にて価格破壊の型屋

(海外分散化により各国での生産量が減り、型コストが高く見える)

東洋独特の長考思想・・・東洋独特の考え方・・・狩猟民族と農耕民族の考え。

若い調達マンの考え方・・短期決算・株主配当率と経営者退職金にて短期発想。

NC化によりある程度の模倣が可能・マスコミ報道問題・・中国の品質低下と残

留機械

摸具(中国等の型・・データーの流出)⇒日本にて摺り合わせ部分の修理

海外発注→国内受注にて飛行機・船にて輸出→海外現地調達→調達率の現地化

原産地は海外にて現地調達率の向上。

海外各国の支払いは先払い・・利息立替

M&A・嫌気・倒産の前にマンション化⇒社内秘密が重要・・・一緒になる問題

海外では重要産業・・韓国・アメリカ・中国・徴兵制度・賃金の違い

熟練作業者が必要・・中国の型工賃金:14 万~17 万円/月給・・大物は 25 万円

メンテナンスフリー・ドイツの基本的考え。日本はメンテナンスを器用に行う。

安易な海外移転を行うとドイツのベンツと同じように品質低下問題が発生。

3. 後継者問題・・・無理をさせて跡継ぎをさせる仕事で無い

税の問題・・大企業が子会社化して中小企業の下請け支援金を利用・相続問題の

改正

結び:安易な金儲けは猿の毛を抜く⇒Monky から k を抜くと MONY

CHANGE 改革 G から T トラサルデーを抜くと CHANCE

固有技術の開発をしばしば、仕入先の評価対象とされる場合があるが、その適用に

ついては内容の詳細な開示を求められ、結果としてそのまま内製か他の業者による加

工とされる場合があった。まず価格で、見積り検討をされる状況になってから、試作

が始まり、品質基準、加工内容の変更等が多く出されるが、その変更によるコストア

ップの価格の変更は認められない。

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素形材取引ベストプラクティス調査

134

第 9 章 参考文献一覧

・ 「素形材産業取引慣行調査報告書」独立行政法人中小企業基盤整備機構・委託

先株式会社日本総合研究所(平成 18 年 3月)

・ 「我が国重要産業の国際競争力強化に向けた鋳造技術の高度化の方向性等に係

る基礎調査」中小企業庁・委託先みずほ情報総研株式会社(平成 18 年 3月)

・ 「鋳造・金型産業の取引慣行の国際比較(中国/タイ/日本)-アジア地域への

展開及び国内取引慣行の改善に向けて-」財団法人機械振興協会経済研究所・

委託先財団法人素形材センター(平成 18年 3 月)

・ 「平成 16年度起業家育成・経営人材プログラム導入促進事業(事業再生人材育

成プログラム導入促進事業)系列取引に関する調査報告書」経済産業省(平成

17 年 3 月)

・ 「平成 12 年度ものづくり人材支援基盤整備事業 業界の商慣行と企業技術力

等に関する調査報告書」中小企業総合事業団 情報・技術部(平成 13年 8 月)