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39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:山門亨一郎 1.肝腫瘍に対するラジオ波治療(RFA): 前処置・準備,手技・コツ,装置 三重大学 IVR 科 山門亨一郎 はじめに 肝腫瘍に対するラジオ波凝固療法(radiofrequency ablation,以下 RFA)は現在,肝腫瘍に対する有効な治 療として普及している。本稿では,第 39 回日本 IVR 学会で行われた技術教育セミナーのうち,筆者が担当 した“肝 RFA の前処置・準備,手技・コツ,装置”に ついて述べる。 RFA 前の画像診断 術前の画像診断は腫瘍の大きさや個数,門脈浸潤の RFA(肝臓) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 有無を判断する上で重要である。一般的な適応は腫瘍 背景と肝機能から決定される。肝癌診療ガイドライン によると,肝障害度が A または B で,3 個で 3 ㎝以内な らば RFA を中心とする局所療法が推奨されている 1当施設では腹部超音波検査と造影 CT は術前に必ず 行っている (図 1a) 。最近は,なるべく EOB-MRI も行 うようにしている。術前術後の治療効果の評価は同じ modality で行うことが望ましい (図 1a, b) 腫瘍の大きさ,個数が画像診断で確認できれば,腫 瘍周囲の解剖を十分に把握し,安全な穿刺経路を検討 することが重要である。エタノール注入療法であれば, 33173 図1 a : ラジオ波凝固療法前の造影 CT。前区域に肝細胞癌の腫 瘍濃染を認める(矢印)。2 ㎝単発の腫瘍で,肝機能は Child-Pugh Ab : ラジオ波凝固療法後の造影 CT。肝動脈塞栓術後にラ ジオ波凝固療法を行ったた め,腫瘍内にリピオドール の停滞をみる。腫瘍背側で safety-margin が不十分であ る(矢印)。 c : 腫瘍背側にラジオ波凝固療 法を追加した。CT 透視下 にラジオ波電極が留置され ている。 d : ラジオ波凝固療法追加後 の造影 CT。十分な safety- margin が確保された。 c d a b

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Page 1: 1.肝腫瘍に対するラジオ波治療(RFA): 前処置・ …AJR Am J Roentgenol 180: 1561-1562, 2003. 3) Yamakado K, Nakatsuka A, Takaki H, et al: Sub-phrenic versus nonsubphrenic

第39回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:山門亨一郎

1 . 肝腫瘍に対するラジオ波治療(RFA):前処置・準備,手技・コツ,装置

三重大学 IVR科山門亨一郎

はじめに

 肝腫瘍に対するラジオ波凝固療法(radiofrequency ablation,以下RFA)は現在,肝腫瘍に対する有効な治療として普及している。本稿では,第39回日本 IVR学会で行われた技術教育セミナーのうち,筆者が担当した“肝RFAの前処置・準備,手技・コツ,装置”について述べる。

RFA前の画像診断

 術前の画像診断は腫瘍の大きさや個数,門脈浸潤の

RFA(肝臓)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第39回日本IVR学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

有無を判断する上で重要である。一般的な適応は腫瘍背景と肝機能から決定される。肝癌診療ガイドラインによると,肝障害度がAまたはBで,3個で3㎝以内ならばRFAを中心とする局所療法が推奨されている 1)。 当施設では腹部超音波検査と造影CTは術前に必ず行っている(図1a)。最近は,なるべくEOB-MRIも行うようにしている。術前術後の治療効果の評価は同じmodalityで行うことが望ましい(図1a, b)。 腫瘍の大きさ,個数が画像診断で確認できれば,腫瘍周囲の解剖を十分に把握し,安全な穿刺経路を検討することが重要である。エタノール注入療法であれば,

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図1a : ラジオ波凝固療法前の造影

CT。前区域に肝細胞癌の腫瘍濃染を認める(矢印)。2㎝単発の腫瘍で,肝機能はChild-Pugh A。

b : ラジオ波凝固療法後の造影CT。肝動脈塞栓術後にラジオ波凝固療法を行ったため,腫瘍内にリピオドールの停滞をみる。腫瘍背側でsafety-marginが不十分である(矢印)。

c : 腫瘍背側にラジオ波凝固療法を追加した。CT透視下にラジオ波電極が留置されている。

d : ラジオ波凝固療法追加後の造影CT。十分な safety-marginが確保された。

c da b

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技術教育セミナー / RFA(肝臓)

門脈,肝静脈や肺,胆嚢等の血管や臓器の穿刺を避けることが安全な穿刺経路であると考えられる。しかし,RFAの場合,エタノール注入療法に比べ1回の治療範囲が広く,更に肝実質を超えて熱損傷が起こる可能性がある。 このため上記構造を避けて穿刺することは当然であるが,腫瘍を焼灼する際,熱が周囲臓器に伝わり,周囲臓器損傷,いわゆるcollateral damageを起こす可能性があることは知っていなければならない。肝RFA後の死亡原因の一つに腸管損傷があげられる。胃や十二指腸,更には上行結腸が腫瘍に接していないか術前に十分検討する必要がある。また,体位や呼吸によっても消化管と肝臓の関係は変化するので,RFA直前や治療中にも十分な注意が必要である。

前投薬

 鎮静,鎮痛剤をRFA前に投与する施設が多い。 我々の施設での投与例をあげる。

1) ヒドロキジン:アタラックスPⓇ(鎮静剤25㎎)2) アトロピン硫酸塩化化合物:硫酸アトロピン(副交感神経遮断薬0.5㎎)

3) ジクロフェナクナトリウム:ボルタレンⓇ(鎮痛剤25~50㎎)

4) クエン酸フェンタニル:フェンタニルⓇ(鎮痛剤0.1~0.2㎖)

5) 抗生物質

 鎮痛剤として我々は上記の如くフェンタニルを使用している。この薬剤は鎮痛作用が強いが,呼吸抑制が少なく非常に使いやすい。

RFシステム

 表1に現在本邦で市販されているRFシステム3種類の特徴を示す。RITA社製のRFシステムとBoston Scientific社製のRFシステムは針先端から釣り針のようにより細い針が展開する展開型である(図2a, b)。他の1つはいわゆる1本針型のCovidien社製のRFシステムである(図2c)。表の如く本邦ではCovidien社製のRFシステムのシェアが最も高い。RITA社製のRFシステムでは,RFA治療中にリアルタイムに温度測定を行う。Covidien社製のRFシステムは治療後に温度測定が可能である。Boston Scientific社製のRFシステムでは温度測定はできない。現在の所,3者の間で治療効果や合併症に差があるという報告はない。しかし,横隔膜下の病変では展開型の電極を用いると,横隔膜損傷のリスクが高いという報告もみられるので 2),そのような症例では,RFシステムの選択に注意を要する。

使用器具

 RF電極の穿刺には超音波(US)またはCTが用いられる。RFシステムは上記3社のものが本邦では使用可能である。いずれのRFシステムも対極板が必要で,患者の大腿に貼ることが推奨されている。局所麻酔

図2 a : RITA社製ラジオ波電極先端 b : Boston Scientific社製ラジオ波電極先端 c : Covidien社製ラジオ波電極先端

ca b

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技術教育セミナー / RFA(肝臓)

製造会社 RITA Boston Scientific Covidien

RF周波数 460 KHz 460 KHz 480 KHz最大出力 150W 180W 120W電極径 15G 15 or 17G 17G

電極の形状 展開型(7 or 9本) 展開型(10本) 1本針術中モニターと終了 温度 インピーダンス インピーダンスまたは時間

保険適応 2004年4月 2005年4月 2006年1月ジェネレーターの値段 800万円 350万円 580万円

電極の値段 15または21万円 9万円 11.8万円診療報酬 15,000点 15,000点 15,000点

本邦でのシェア 2〜10% 15〜20% 70〜90%治療時間 やや長い 8〜10分 12分液体注入 可能 一部可能 できず温度測定 Real-time できず RFA後

最大凝固域(短径) 5㎝ 4㎝ 3㎝

表1 ラジオ波システムの比較

(0.5%キシロカイン)やメス,鉗子に加え,いざという時の救急薬品や挿管セットも整えておくべきである。

RFA手技とコツ

 穿刺位置は腫瘍径と形状によるが,腫瘍のみならず,腫瘍周囲の肝実質にも焼灼範囲が及ぶように穿刺位置を決定し,safety-marginを確保することが再発防止のために極めて重要である。このためには,用いる電極の種類により焼灼のされ方が異なるので焼灼範囲がどのように拡がっていくか,十分理解しておくことが肝要である。展開型電極では展開された電極周囲からbubbleが発生し始め,やがて癒合する。 一本針型電極では通電後,絶縁部の両側からbubbleが出始めやがて全体に癒合する。癒合する際,“ポン”という爆発音(popping)が聞かれることも稀ではない。 RF電極留置にはUSを用いることが多いが,腫瘍がUSで確認できない場合,人工腹水・胸水下でRFAを行うこともある。我々は,人工腹水・胸水は煩雑であるため,CT透視下でのRFAを専ら行っている3)(図1c)。 CT下でのRFAは肺も死角とならず,腫瘍と電極との位置関係が容易にかつ客観的に判定されうるため,焼灼範囲の推定に有用である。また,RFA最中に発生するbubbleも治療の妨げとならない点もCT下RFAの有利な点である。 前述の如く周囲臓器のcollateral damageを予防することは極めて重要である。腸管が接する場合には,体位変換や人工腹水が有効な場合もある。上級者には腫瘍と腸管の間にバルーンを挿入するという手もある4)。色々な手を尽くしても腸管損傷など重篤な collateral damageが避けられない場合には,経皮的手技にこだわらず,開腹手技や腹腔鏡を用いることも考えるべき

である。 RFA終了直後のCT画像では腫瘍内部にbubble for-mationのみられることが多い。腫瘍周囲に低吸収がみられ十分な焼灼が判定できる場合もあるが,正確な評価は造影CTと造影MRIに委ねられる(図1b, d)。 前述の如く,safety-marginは極めて重要で,術後の画像診断で safety-marginが十分でなければ,肝機能,解剖学的に許せば,再度RFAを行い十分なsafety-marginをとるようにすることもRFAを行う上で重要なコツである(図1c, d)。もちろん,肝機能を考慮して治療の追加時期や範囲を決定すべきである。

【参考文献】1) 肝癌診療ガイドライン2005年度版.科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン作成に関する研究班編.金原出版, 東京, 2005.

2) Koda M, Ueki M, Maeda N, et al: Diaphragmatic perforation and hernia after hepatic radiofrequency ablation. AJR Am J Roentgenol 180: 1561 - 1562, 2003.

3) Yamakado K, Nakatsuka A, Takaki H, et al: Sub-phrenic versus nonsubphrenic hepatocellular carci-noma: combined therapy with chemoembolization and radiofrequency ablation. AJR Am J Roentgenol 194: 530 - 535, 2010.

4) Yamakado K, Nakatsuka A, Akeboshi M, et al: Percutaneous radiofrequency ablation of liver neo-plasms adjacent to the gastrointestinal tract after balloon catheter interposition. J Vasc Interv Radiol 14: 1183 - 1186, 2003.

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第39回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:山上卓士

2 . 治療効果,合併症と予防・対策京都府立医科大学大学院医学研究科 放射線診断治療学教室

山上卓士

はじめに

 ラジオ波焼灼療法(RFA)は,肝癌に対する有効な低侵襲的治療法として広く知られている。肝細胞癌に対する肝移植の適応基準として提唱されているMilan基準の範囲内,即ち,3㎝以下3個以内または5㎝以下単発の肝細胞癌に対しては,RFAは外科的切除術に匹敵する治療成績を示したという報告もある1)。今回のセミナーでは,肝癌に対するRFA治療の治療効果,合併症と予防・対策について講演した。

治療効果

 肝細胞癌に対するRFAの治療成績については多数の論文が報告されている(表1)。これらの報告によると,初期治療成績は65~96%,1年生存率は89~100%,5年生存率は33~84%程度である。腫瘍内血流が豊富な腫瘍あるいは腫瘍が大血管近傍にある場合は,血流の冷却効果により腫瘍の温度が十分に上昇せず,RFAを行っても十分な凝固壊死が得られないことがある。これはcooling effectと呼ばれ,RFAの弱点のひとつと

RFA(肝臓)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第39回日本IVR学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

して知られている。Cooling effectへの対策として様々な方法が提案されてきた。すなわち,肝動脈血流を減らして冷却を少なくする目的で,RFAにTAE(肝動脈塞栓術)を併用する方法や肝動脈をバルーンカテーテルで閉塞する方法がある。また,肝動脈だけでなく門脈血流も減らしてより強力に cooling effectを少なくする目的で,開腹下に肝動脈及び門脈をクランプしてRFAを行う方法や肝動脈・肝静脈をバルーンカテーテルで閉塞しつつRFAを行う方法がある。これらの中で最も一般的に行われる方法がRFAとTAEの併用療法である。 Yamakadoら2)は,3㎝以下3個以内または5㎝以下単発の肝細胞癌症例に対し,RFAとTAEの併用療法が施行された104例と肝切除術が施行された62例を比較した。1,3,5年生存率は前者ではそれぞれ98,94,75%,後者ではそれぞれ97,93,81%で有意差はなかった。また1,3,5年無増悪生存率についても,前者でそれぞれ92,64,27%,後者でそれぞれ89,69,26%となり有意差はなかった。この結果,RFAとTAEの併用療法と外科的肝切除術の肝細胞癌に対する治療効果は同等と

著者 年 針 患者数(人)

腫瘍個数

(個)

最大腫瘍径(㎝)

初期治療効果(完全壊死,%)

平均観察期間

(mo)

局所腫瘍進展率(%)

生存率(%)

1年 2年 3年 4年 5年

Livaghi et al13) 1999 C 42 52 ≦3 90

Buscarini et al14) 2001 C&R 88 101 ≦3.5 93 34 11.8 89 62 33

Llovet et al9) 2001 C 32 32 ≦5 65 10 6

Shibata et al15) 2002 L 36 48 ≦4 96 18 8

Komorizono et al16) 2003 56 65 ≦3 16 18

Lencioni et al17) 2005 R 187 240 ≦5 92 24 5 97 89 71 57 48

Shibata et al4) 2006 C&L 74 83 ≦3 94% 27 21

Ymakado et al18) 2002 54 97

柴田ら19) 2006 189 ≦4.5 95 81 72 57 41

Tateishi et al20) 2005 C 87 2 27.6 100 93 91 91 84

Takaki et al21) 2007 C 173 255 ≦5 23 7 93 82 61 TACE後

Yamakado et al2) 2008 C&L 104 ≦5 98 94 75 TACE後

C: cool tip R: RITA L: LeVeen

表1 肝細胞癌に対するRFA治療成績 (参考文献(22)から一部改変して掲載)

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技術教育セミナー / RFA(肝臓)

考えられた。 一方,Shibataら3)は3㎝以下の肝細胞癌に対してRFAとTAEの併用療法を行った46例49病変とRFA単独で治療した43例44病変を比較検討した。両者の1,2,3,4年局所腫瘍進展率は,それぞれ14.4%,17.6%,17.6%,17.6%vs 14.4%,17.6%,17.6%,17.6%,1,2,3,4年全生存率は100%,100%,84.8%,74.0%vs 100%,88.8%,84.5%,74.0%,1,2,3,4年局所無増悪生存率は84.6%,81.1%,69.7%,55.8%vs 88.4%,74.1%,74.1%,61.7%,1,2,3,4年無イベント生存率は71.3%,59.9%,48.8%,36.6%vs 74.3%,52.4%,29.7%,29.7%でいずれも有意差はなかった。この研究からは3㎝以下の肝細胞癌に対するRFAとTAEの併用療法とRFA単独療法との比較では,両者の有効性に差は見られなかった。この結果から,RFAの際,TAEの併用の必要性についてはまだ結論が出ていないと言える。 また 3㎝以下の肝細胞癌に対するRFAにおいて,Cool tip針と展開針の成績を比較したShibataら4)の検討では,1年,2年,3年局所腫瘍進展率はそれぞれ12%,20%,20%と17%,22%,22%,1年,2年,3年生存率はそれぞれ100%,94%,94%と94%,92%,77%となりいずれも統計学的に差はなかった。Major complicationの発生率についてもCool tip針で0%,展開針で2.8%となり有意差はなかった。 現時点までの報告をまとめると,3㎝以下3個以内または5㎝以下単発の肝細胞癌に対する治療法としてRFAは有力な選択肢となる。いずれの針を用いても治療効果に差はないが,治療対象の病変が,血流が豊富である場合や大血管近傍にある場合など,cooling effectが予想される時には,TAEとの併用も考慮すべきということになろう。

合併症と予防・対策

 肝癌に対するRFAに起因する合併症による死亡率は0.3%と報告されている5)。直接死因は,腸管穿孔,腹膜炎,大量出血,胆管狭窄などである。死亡以外のmajor complicationは2.2%で見られ,出血,播種,肝膿瘍,腸管穿孔,血胸,肝不全等が含まれる。Minor complicationは4.7%に見られる。その中で疼痛,熱発,胸水貯留は高頻度で生じる。死亡またはmajor compli-cationのリスクファクターについての検討では,針の種類や腫瘍の大きさとは有意な関連性を認めなかったが,治療回数が多いほど有意に死亡またはmajor com-plicationが生じる頻度が高かった。 最も頻度が高い合併症である疼痛に関して,Leeら6)

は,RFAの術中,術後疼痛のVisual analog scaleは平均5.5点であったと述べている。彼らの研究結果では,疼痛との関連性の高いリスクファクターとして,1)初回治療である,2)臓側腹膜に隣接している,3)複数回治療されている,4)腫瘍が大きい,5)臓側腹膜から近い,6)焼灼時間が長いことが挙げられる。このような

ファクターを持つ症例に対してRFAを行う際には,疼痛コントロールを厳重に行う必要がある。一方,年齢,性別,肝機能障害の程度,隣接臓器が横隔膜・門脈・小腸・十二指腸・胃・胆嚢・腎臓・大腸,人工腹水の有無,横隔膜からの距離とは有意な関連性は認められなかった。 Choiら7)は,肝RFAを施行した751例中,13例(1.7%)で肝膿瘍が生じたと述べている。肝膿瘍のリスクファクターとしては,胆道再建術,乳頭切開術,胆道ドレナージ術後など上行性感染しやすいbiliary abnormal-ity,肝動脈化学塞栓療法の際のLipiodolが貯留していることを挙げている。また彼らは,Cool tip針を使用した場合,膿瘍の頻度が高かったと報告している。Bili-ary abnormalityとの関連については,Shibataら8)も胆管空腸吻合術の既往例で肝膿瘍の頻度が高いと報告しており,胆管系の手術後症例に対するRFAの際は,肝膿瘍に十分気をつける必要がある。これは,胆管系の手術後の症例にRFAを行うと,腸内細菌による上行性感染があった場合,壊死組織に感染が併発され膿瘍が形成され,時に重篤な結果となるものと説明がつく(図)。肝膿瘍に対する治療法としては,抗生剤投与,ドレナージ術施行などがある。 肝梗塞は,RFAにより肝動脈と門脈が閉塞し広範囲の肝細胞壊死が生じることにより起こる。肝梗塞が生じるとGOT,GPTの上昇や38.5℃以上の高熱を認めるようになる。治療領域に門脈がある症例やTAE後の症例など,RFAにより肝動脈や門脈が閉塞する可能性があり,肝梗塞が生じるリスクが高いと考えられる場合には,RFAの際に出力を落とし気味にするなどの工夫が必要と思われる。また各電極針の出力が小さい展開針の方が梗塞にはなりにくいとの報告もある。肝梗塞が起こった場合,感染予防のため抗生剤投与を行うことがある。 隣接する臓器への熱損傷により起こりうる合併症としては,胆管損傷・biloma,腸管穿孔(胃,十二指腸,

胆管空腸吻合後内視鏡的乳頭切開術後

RFA

腸内細菌

胆道からの上行性感染

壊死組織に感染

肝膿瘍のリスクが極めて高い

図 肝膿瘍・原因

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技術教育セミナー / RFA(肝臓)

大腸),横隔膜損傷などがある。予防策として,体位変換する,胃管を挿入し胃を収縮させるなどの簡易な方法のほか,人工腹水を入れる,気腹を行う,バルーンカテーテルを腫瘍と隣接臓器の間に挿入するなどの種々の方法により,隣接する臓器を針先から離したのちRFAを行うことが挙げられる。またこれらの方法を試みても針先から臓器が離れない場合はRFAを行わないことも選択肢のひとつとなる。臓器損傷が起こった場合,まずはドレナージ,ステントなどが適応となる。しかし,例えば消化管の穿孔では自然閉鎖に約3ヵ月要することから,状況次第では,迅速な開腹術,内視鏡的縫合などの処置が必要となる。 2001年,Llovetら9)は,肝細胞癌に対する肝RFA後,12.5%で播種を認めたと報告し,その頻度の高さから物議をかもした。しかし,その後の報告では,播種の頻度はそれほど高くなく,0.5~3.2%程度とされている5)。播種のリスクファクターとしては,治療回数,複数の穿刺箇所,針の種類,被膜下に位置する,病理学的悪性度の高い病変などがある。播種の原因は,穿刺経路を通じて腫瘍細胞が腹腔内に流出することによると考えられるため,予防策としては,肝表の腫瘍に対するRFAの場合直接穿刺を避ける,術前生検を避ける,RFA後 track ablationで凝固する,腫瘍内圧の急激な上昇を避けるなどの方法がある。最後に述べた腫瘍内圧の急激な上昇を避けるための具体策としては,出力の上昇を段階的に上げる(10W刻みにするなど),poppingを避けるなどの方法がある。腫瘍内圧の急激な上昇はcool tip針のほうが起こりやすいとの報告もあり,cool tip針と播種との関連性が指摘されている。また播種は緩除に起こることもあるため,長期間の経過観察が必要である。播種が起こったときの対策としては,播種病変の切除やRFA治療などがある 10)。 RFA後に急速に腫瘍が増悪することがある。Ruzze-nenteら11)は,130例中3.1%(4例)に急速な増悪を認めたと報告している。予防策としては,先に述べた腫瘍内圧の急激な上昇を避ける工夫が必要と考えられる。 放射線科医はCTガイド下に肝RFAを行う機会が多い。その場合経胸アプローチとなることも多く,気胸

への対策が必要となる。我々の検討では,経胸アプローチで肝RFAを行った場合,気胸の発生頻度は67%で,CTガイド下肺生検よりも高頻度であった12)。しかし,脱気用チューブ留置が必要な症例は5.3%と比較的少なく,致死的なものはなかった。気胸の頻度は高いものの,多くは経過観察で軽快し,重篤化することは少ないといえる。また,種々のリスクファクターのうち,肺野貫通距離のみが気胸の発生頻度と有意に関連していた(表2)。この結果から,気胸の合併を減らすためには,肺野を通過する距離がなるべく短いアプローチルートを選択する必要があると考えられる。

おわりに

 RFAは肝癌に対する主要な治療法となっているが,肝動脈化学塞栓療法など他の治療法との組み合わせ方などについてはまだ議論の余地がある。合併症は時として重篤であるが,予防・対処可能なものが大部分である。治療効果および合併症と予防・対策を十分理解した上でRFA治療を行うことが重要である。

【参考文献】1) 木村 達:RFA適応と禁忌,動画でわかる肝癌ラジオ波凝固療法の実践テクニック,大崎住夫編.中山書店,東京,2008,p8 - 11.

2) Yamakado K, Nakatsuka A, Takaki H, et al: Early-stage hepatocellular carcinoma: radiofrequency ablation combined with chemoembolization versus hepatectomy. Radiology 247: 260 - 266, 2008.

3) Shibata T, Isoda H, Hirokawa Y, et al: Small hepa-tocellular carcinoma: is radiofrequency ablation combined with transcatheter arterial chemoemboli-zation more effective than radiofrequency ablation alone for treatment? Radiology 252: 905 - 913, 2009.

4) Shibata T, Shibata T, Maetani Y, et al: Radiofrequency ablation for small hepatocellular carcinoma: pro-spective comparison of internally cooled electrode and expandable electrode. Radiology 238: 346 - 353, 2006.

5) Livragni T, Solbiati L, Meloni MF, et al: Treatment of focal liver tumors with percutaneous radio-frequency ablation: complications encountered in a multicenter study. Radiology 226: 441 - 451, 2003.

6) Lee S, Rhim H, Kim YS, et al: Percutaneous radio-frequency ablation of hepatocellular carcinomas: factors related to intraprocedural and postprocedural pain. AJR Am J Roentgenol 192: 1064 - 1070, 2009.

7) Choi D, Lim HK, Kim MJ, et al: Liver abscess after percutaneous radiofrequency ablation for hepatocel-lular carcinomas: frequency and risk factors. AJR Am J Roentgenol 184: 1860 - 1867, 2004.

有意差なし 有意差あり

性  別年  齢

焼灼範囲が横隔膜に接する肝内の穿刺距離腫 瘍 の 位 置R F A 出 力最終組織温度

ブレークの回数手 技 時 間肺気腫の有無

肺野貫通距離

表2 経肺的肝RFAにおける気胸のリスクファクター

78(336)

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技術教育セミナー / RFA(肝臓)

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